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米国のエネルギー事情について

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米国のエネルギー事情について
調 査 報 告
シカゴ
米国のエネルギー事情について
米国では、エネルギー価格の低迷が、米国内の製造産業に様々な影響を及ぼしている。
直接的には、新規エネルギー関連投資の減少、先延ばしが行われることにより、エネルギ
ー関連設備にかかる部材や機器の製造産業の生産は減少している。一方で、低迷するエネ
ルギー価格はガソリン価格の低位安定をもたらすことから、米国内の自動車販売の好調を
促進するなど、一部の分野では、設備投資や消費意欲の向上を後押している点も見受けら
れる。また、エネルギー分野における政策面では、オバマ政権による環境政策の推進によ
り環境規制が強化され、また、1975 年以来輸出が禁止されていた米国産原油の輸出の解禁
が始まるなど、エネルギー市場を左右する大きな環境の変化が進んでいる。
今回は、機械・機器産業にも影響をもたらす米国のエネルギーにかかる需給動向とエネ
ルギーに関連するパイプラインなどの設備投資の動向について報告したい。
1.米国のエネルギー需給動向
(1)米国の原油埋蔵量
米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA)により2015年11月発表された「U.S. oil
and natural gas reserves both increase in 2014」によると、2014年における米国の原油確
認埋蔵量は399億バレル(前年比 9%増)となっている。シェール革命により、シェー
ルオイルが新たに埋蔵量に加わったことから、確認埋蔵量は増加傾向である。米国の主
な原油の産地はロッキー山脈東部から南部のメキシコ湾岸にかけての地域と東海岸北西
部部に位置しており、ノースダコタ州のバッケン油田(Bakken)、テキサス州南部のイー
グルフォード(Eagle Ford)やペルミアン(Permian)などが有名である。
Bakken
Niobrara
Permian
Eagle Ford
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図1:米国の原油確認埋蔵量の推移とシェール層の分布(単位:10 億バレル)
― 8 ―
調査報告 シカゴ
(2)米国の原油生産
米国の原油生産は2015年4月月間平均である 969 バレル/日をピークに減少して
いる。EIA の短期見通しによると、2015年12月には 923 バレル/日となり、201
6年12月は 822 バレル/日、2017年12月は 811 バレル/日と今後減少していくと
予想されている。
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図2:米国原油生産量の推移と短期見通し(単位:バレル/日)
実際、米石油サービス会社 Baker Hughes が発表している米国の原油掘削のための稼動
リグ(油井を掘るための掘削機)数の推移を見ると、2014年10月10日の 1,609
をピークに急減し、2016年4月末には 332 となっている。今後もこの傾向が続くと
みられており、2016年も掘削リグ稼動のための投資は抑えられるものと見られてい
る。
Bakken
Niobrara
Permian
Eagle Ford
(出典:Baker Hughes)
図3:米稼動リグ数の推移
― 9 ―
(出典:EIA)
調査報告 シカゴ
(3)米国の原油輸入
一方、米国原油の輸入については、隣国のカナダやメキシコ、中東のサウジアラビア
及び南米のベネズエラからの輸入で6割を占めている。2016年に入り輸入総量は1
日あたり 770~810 バレルで横ばいで推移しており、カナダからの輸入は増加し、メキシ
コからの輸入は減少している。また、ナイジェリアの原油はシェールオイルと同質の軽
質原油であったため2011年~2014年で急減したが、2016年に入り微増傾向
となっている。
その他
ベネズエラ
メキシコ
サウジアラビア
カナダ
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図4:米原油輸入の推移(単位:バレル/日)
(4)米国のエネルギー需要
IEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関)が、2015年11月に発表し
た World Energy Outlook 2015 では、世界のエネルギー需要の見通しで各エネルギー源が占
める割合は2040年で石油が 27%、天然ガス 24%、石炭が 29%、原子力が 5%、再生
可能エネルギーが 15%となっている。主要なエネルギー源である、石油及び天然ガスの
比率は 51%と約半分を占めている。
一方、米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA)の「Energy Outlook 2015」によると、
米国のエネルギー需要は2013年の 97,100 兆 Btu から、2040年の 105,700 兆 Btu
へと 8.9%増の見通しであり、石油及び天然ガスが占める割合は2013年で 63%と世界
平均と比べ高い。
― 10 ―
調査報告 シカゴ
1000兆Btu
120
100
Primary energy consumption
(Reference Case, quadrillion Btu)
Renewables
天然ガス
80
再⽣可能エネルギー
60
原⼦⼒
Liquid biofuels
Nuclear
⽯炭
40
Natural gas
Coal
20
⽯油
Petroleum and
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040
other liquids
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA)「 Energy Annual Outlook 2015)」
)
図5:米国の 1 次エネルギー別需要の推移及び見通し
2040年は 62%の見込みとなっており、2013年からの劇的な差はないが、天然
ガスの占める割合が 27%から 29%へ、再生可能エネルギーの占める割合が 8%から 10%
へ増加している。
表6:2013 年の米国の 1 次エネルギー需要と 2040 年の見通し
項⽬
総1次エネルギー
に占める割合
2013年
2040年
⽯油
36%
33%(↓)
天然ガス
27%
29%(↑)
再⽣可能エネルギー
8%
10%(↑)
― 11 ―
調査報告 シカゴ
原⼦⼒
8%
再⽣可能エ
⽯油(バイオ
ネルギー
燃料を含む)
10%
35%
⽯炭
18%
天然ガス
29%
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA)「 Energy Annual Outlook 2015)」)
図7:2040 年の米国の 1 次エネルギー需要見通し
輸送用燃料の消費については、ガソリン価格の低位安定の影響もあり消費が伸びてい
る。一方、2015 年のガソリン消費量は 916 万バレル/日(対前年比 2.7%増)で増加して
いるものの、国内自動車の総走行距離の伸び(対前年比 3.7%増)に比べて、増加割合が
低くとどまっていくことから、自動車の燃費向上が消費に影響していると見られている。
これらの傾向は今後も継続していくものと思われ、2016年の総走行距離が対前年比
で 2.1%増の見込みの一方、ガソリン消費量は 925 万バレル/日(対前年比1%増)にと
どまると見られている。
(5)製油所稼働状況と在庫状況
米国の製油所の精製能力は漸増傾向であり、2000年に 1,660 万バレル/日であった
ものが、2016年4月には 1,831 バレル/日まで増加している。EU や日本などの先進国
が漸減傾向であるのとは対照的な動きとなっている。なお、米国の製油精製能力は PADD
と呼ばれる5つの地域に分けられて統計が取られているが、PADD3 と呼ばれるテキサス
を含むメキシコ湾岸地域が全体の半分を占めているのが特徴である。
― 12 ―
調査報告 シカゴ
1,000バレル/⽇
年
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図8:米 PADD 別の原油精製能力の推移
2010年以降、米国の製油所の精製能力は増加傾向であり、更に製油所の稼働率も
世界平均を上回る高い水準で推移している。2016年4月末の製油所の稼働率は 89.7%
であり、精製能力の増加と相まって石油製品の生産能力は上がっている。そのため、結
果的に石油製品の在庫が積みあがっている。
1,000バレル/⽇
年
(出典:BP 社 Statistical Review of World Energy 2015)
図9:主要国・地域の原油精製能力の推移
― 13 ―
調査報告 シカゴ
1000バレル
原油在庫
ガソリン在庫
中間留分
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図10:米原油・ガソリン在庫の推移
(参考1)PADD
PAD(Petroleum Administration for Defense)は、米国の石油・ガス行政機関。国防上
の観点から有事に備えた石油の生産業の実態把握と関連する規制を行っている。規制
は、米国 50 州を五つに分けた PAD District(PADD)ごとに行われており、この地域
区分は関連する統計でも使用される。PADD 第1区は東海岸のメイン州からフロリダ州
にかけての17州を含み、第2区は中西部の15州、第3区は南部の6州、第4区は
ロッキー山脈東部の5州、第5区は西海岸の5州およびアラスカ、ハワイの2州を含
む。
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局「Petroleum Administration for Defense Districts」)
図11:PADD の地域図
― 14 ―
調査報告 シカゴ
2.米国内のエネルギー政策・環境政策動向
2013年6月25日、オバマ大統領はジョージタウン大学の講演で気候行動計画
(Climate Action Plan)を発表した。2020年までに2005年比で17%程度の温室効
果ガスの排出量削減を目標とし、気候変動による影響への対応・対策を行うとともに、気
候変動問題にかかる国際的な取組みにおいて、米国のリーダーシップを取り戻すと掲げた。
米国国内での具体的な二酸化炭素(CO2)排出量削減については、大気浄化法(CAA, Clean.
Air Act)に基づき、国内発電所の CO2 排出基準を策定するよう米環境保護庁(EPA、
Environmental Protection Agency)に指示をするとともに、再生可能エネルギーの発電量の拡
大やエネルギー効率の向上などを行うとした。また、気候変動問題の解決に対し米国民の
協力を求めた。
ここでは、エネルギー関連の投資に影響すると思われる、発電所に対する環境規制の動
向や米国のエネルギー政策、原油輸出にかかる制度改正などについて見ていくこととする。
(1)発電所に対する CO2 排出規制
EPA は2012年4月に新設火力発電所からの CO2 排出量の削減する規制案「CPS
(Carbon Pollution Standards)」のドラフトを公表し、パブリックコメントの募集を開始し
た。2013年9月にはパブリックコメントを踏まえた修正案を発表され、2014年
6月には建替えを行う発電所への基準値を発表。2015年8月に最終案が公表された。
新設の電力販売向け 25MW 以上のガス火力発電所及び石炭火力発電所を対象とし、天
然ガス火力発電所は CO2 排出量制限を、850MMBtu/h 超については、1,000 lb CO2/MWh、
850MMBtu/h 以下については、1,100 lb CO2/MWh とした。これは既存の天然ガス火力発
電所の排出量を上回る値となっており、新設される発電所が制限を満たすことは可能で
ある。一方で、石炭火力発電所の排出量制限は 12 ヶ月以上操業で 1,100 lb CO2/MWh、 84
ヶ月以上操業で 1,000 lb CO2/MWh とされ、現行、実証段階にある最高水準の石炭火力発
電所で満たすことの出来ない高い水準となっている。CO2 を回収貯蔵する CCS(Carbon
Capture and Storage)などの技術を合わせることで制限値を超えないことは理論上可能で
あるが、実質的には、石炭火力発電所の新設は認めないということに等しい厳しい目標
数値である。
また、EPA は2014年6月に、EPA は既設の発電所に対する CO2 排出規制案「CPP
(Clean Power Plan)」のドラフトを発表。パブリックコメントのプロセスを経て、201
5年8月に CPP の最終案を発表した。CPP は、既設の火力発電所に対し、2030年ま
でに2005年比で CO2 排出量の32%削減するものとし、各州政府に計画策定と実行
を任せるものとした。実施は2022年とし、各州政府が実施のための計画策定と実施
を担うとされている。気候変動に対するオバマ大統領の決意が反映された案と見られて
いる。
― 15 ―
調査報告 シカゴ
(出典:Bloomberg)
図12:CPP 賛成州と反対州の地域図
発表された CPP に対し、カルフォルニア州やニューヨーク州などの18州が支持する
一方で、石炭関連産業を抱えるテキサス州、ルイジアナ州などを中心とした27州が反
対を表明している。CPP に反対する27州は CPP は違法であると主張し、CPP の差し止
めを求めて訴訟を起こした。2016年2月、米最高裁判所は、反対州の訴えを認め、
CPP を一時差し止めとするとの判決を 5 対4で下した。今後、CPP の合法性にかかる裁
判所の審議が行われるが、審議中が続く限りは CCP の実施は延期となる。裁判所の審議
は2016年10月から開始される予定となっている。ちょうど、本年は米大統領選で
あることから、CPP の実施は次期政権の判断に任されることになると見られている。
以下に、その他の主なエネルギー関連の環境規制について一覧表にまとめる。
― 16 ―
調査報告 シカゴ
項⽬
規制局
提案⽇
製油所有害⼤気汚染物質排出規制
EPA
2015/12/1
発電所に対するCO2 排出規制
EPA
2015/8/3
地表オゾン濃度基準の強化
EPA
2015/10/1 オゾン基準値を75ppbから70ppbに引き下げる規制を提案。
原油・天然ガス掘削井⼾におけるメタン規制
EPA
2015/8/18
再⽣可能燃料基準
EPA
加州低炭素燃料基準
CARB
内容
タンク類、フレア、コーカーなどを対象にVOC規制、
製油所境界線のベンゼンモニタリングを提案。
⽕⼒発電所に対し、CO2 排出量を2030年までに
2005年⽐で32%削減する規制を提案。
新規・改良する井⼾を対象に
2012年⽐2025年までに40〜45%メタン削減案を提案。
2015/11/30 2014-2016年のRFS規制(最終版)を提案。
2016/1/1
2016年から改定LCFS規制を導⼊。
連邦地の⽔圧破砕法(フラッキング)規制案
DOI
2015/3/20 地下⽔汚染防⽌の観点で連邦地のフラッキング規制を提案。
沖合原油・天然ガス掘削に関する規制
DOI
2015/4/13
アラスカ沖合での探索掘削規制
DOI
2015/2/20 アラスカ沖合での探索掘削に関する安全規制を提案。
連邦地の原油・天然ガス掘削井⼾のメタン規制
DOI
2016/1/22
原油鉄道輸送規制
DOT
2015/5/1
暴噴防⽌装置(BOP)の基準強化、掘削のモニタリングなどを
義務付ける規制を提案。
連邦地を対象に
2012年⽐2025年までに40〜45%メタン削減案を提案。
旧⾞両(DOT-111、CPC-1232)のフェーズアウトを盛り込む
原油を含む可燃性液体における鉄道輸送規制を提案。
DOT
2015/6/19 ⼤型トラックの燃費基準を提案。
EPA
EPA:Environmental Protection Agency(環境保護庁), DOI: Department of the Interior(内務省),
DOT: Department of Transportation(運輸省), CARB: California Air Resources Board(加州⼤気資源局)
⼤型トラックのGHG排出基準
(参考2)米国の石炭生産会社の経営破綻
米国内の主だった石炭生産会社は苦境に立たされている。折りしも、シェールガス
やシェールオイルの生産による米国産のエネルギー源の多様化が進むとともに、国際
的なエネルギー価格の低迷などの国際的なエネルギー需給環境の変化も相まって、石
炭需要の急激な低下を招いている中、米国の石油需要の多くを担う石炭火力発電所の
縮小は米国石炭産業にとって大打撃となっている。更に、CPA や CPP は米国石炭産業
への将来性に対して更なる追い討ちをかける構図となっている。
実際、米国の石炭生産企業は急速に経営を悪化させており、2015年8月には米
石炭会社3位のアルファ・ナチュラル・リソーシズが破綻、2016年1月には米石
炭会社2位のアーチ・コールが破綻し連邦破産法11条による債権回収にいたってい
る。2016年4月13日には、とうとう、石炭メジャーとして有名な米石炭最大手
のピーボディ・エナジー社までが会更生手続きの適用を申請。現在、裁判所の保護下
で自主再建の道を探っている状況である。
(2)エネルギー省のエネルギー政策
米エネルギー省(Department of Energy)は4年毎に QER(Quadrennial Technology Review)
と呼ばれるエネルギー計画を改定している。米国のエネルギー政策は米国の安全保障に
関連するため、米国防総省(Department of Defense)が 4 年毎に改定している防衛計画(QDR、
― 17 ―
調査報告 シカゴ
Quadrennial Defense Review)に合わせて QER も改定されている。QER は将来のエネルギ
ーの選択、持続可能性の長期見通しなどから米国のエネルギー戦略を策定するものであ
り、策定されたエネルギー政策と現在の状況とのズレを4年毎に見直している。
2015年4月に改定された QER では、エネルギー関連インフラの整備は安価なエネ
ルギー原料の供給等をとおして米国の競争優位性を生み米国の繁栄に寄与するものとさ
れ、エネルギー関連インフラの需要と投資コストの今後の決定が米国の将来に影響する
と述べている。また、今後、想定されるリスクに対するエネルギーインフラの脆弱性を
克服するためにインフラの近代化、強靭化を進め、弾力性のあるインフラを整備するこ
とが必要としており、課題として以下の点を上げている。
・インフラの強靭性、信頼性、安全性、設備施設の安全性の向上
・電力系統の近代化
・世界市場の変化に応じた米国エネルギーインフラの近代化
・共有化しているエネルギー輸送インフラの改善
・カナダ、メキシコを含む北米全体の市場統合化
以下に課題への対応として主な点を紹介したい。エネルギーインフラの強靭化、信頼
性及び安全性の向上については、リスクとして、メキシコ湾岸の台風被害、中西部にお
ける竜巻、西海岸の山火事、西海岸及びロッキー山脈地域での地震など自然災害やエネ
ルギー施設へのサイバー攻撃、天然ガスパイプラインの老朽化、特定パイプラインへの
依存などのリスクが挙げられている。特に災害時のエネルギー断絶の緩和が必要とされ、
今後、包括的な評価ツールの策定、天然ガスなどの輸送システムの改善が提案されてい
る。また、戦略的な石油備蓄のあり方については、原油の鉄道輸送の急増への対応、国
内原油増産とカナダ原油の輸入増によるパイプラインの逆送、拡張への対応、沿岸海上
交通の混雑緩和、メキシコ湾岸に偏在する戦略石油備蓄(SPR, Strategic
Petroleum
Reserve)の改善などが挙げられている。特に石油備蓄の放出時に混乱をきたさないよう
に、石油備蓄の最適化と関連インフラの確認を行うと提案されている。
(3)原油輸出の解禁
米国は、1973年のオイルショックを背景として1975年にエネルギー政策・保
存法(EPCA:Energy Policy and Conservation Act)を制定し、米国産原油や天然ガスの輸
出を原則禁止としていた(但し、カナダへの原油輸出は商務省産業安全保障局の認可に
より可能であった)。
2015年12月18日、2016年歳出法案に原油輸出解禁と再生可能エネルギー
の優遇措置を含むことで上院・下院が承認。オバマ大統領も再生可能エネルギー対策が
含まれていたことなどから承認し法案が成立。40年ぶりに米国産原油輸出が解禁とな
った。
― 18 ―
調査報告 シカゴ
現在までの間、米石油大手のコノコ・フィリップス社等による Vitol(スイス向け)、コ
スモ石油(日本向け)や PDCSA(ベネズエラ国営石油向け、エクソン・モービル社によ
るの自社製油所(欧州向け)等への輸出が行われている。
但し、米国原油には、現在 WTI 価格と Brent 価格のスプレッドが消失しており、輸出
における価格競争力がないことや、輸出にかかるインフラの未整備や輸出向けの品質の
安定化などが課題とされている。
(出典:米エネルギー庁エネルギー情報局(EIA))
図13:直近の米国の原油輸出の推移(月次)
3.エネルギー関連設備の設備投資動向
米国では、現在、様々なパイプラインの整備計画の検討が進められている。うち、主要
な原油パイプラインの計画としては、①カナダ原油を太平洋、メキシコ湾岸、カナダ東部
に輸送するパイプライン、②米国最大の原油ターミナルであるクッシングをめぐるパイプ
ライン、③シェール原油をメキシコ湾岸製油所に輸送するパイプラインがあるが、今回は
①の計画について簡単に紹介する。
また、パイプライン不足のため、鉄道を利用した原油の輸送も行われている。パイプラ
インの設置計画が遅延等が見込まれる中、今後も鉄道を利用したスポット輸送が行われる
ことが想定される。
― 19 ―
調査報告 シカゴ
②
③
(出典:CAPP「2015 CAPP Crude Oil Forecast, Markets & Transportation」)
図14:米国の主なパイプライン整備計画
(1)カナダ原油の輸送パイプライン
2008年、Trans Canada 社は、カナダ西部で産出されるオイルサンドをメキシコ湾
岸の精製施設に輸送することを目的に、キーストーン(Keystone) XL パイプラインの
設置認可を申請。カナダと米国の国境をまたぐパイプラインとなるため、認可には大
統領の承認が必要であった。キーストーン XL パイプラインの設置計画では、ネブラス
カ州のサンドヒルズ湿原地帯やオガララ帯水層などをパイプラインが通過するため、
ネブラスカ州の住民や環境団体などがパイプライン設置による環境問題が懸念が表明
され、認可の検討は長期化した。2014年1月に米国務省はキーストーン XL による
環境への悪影響は小さいとの報告書を発表。2015年2月11日、キーストーン XL
建設承認法案は上下院で可決された。ところが、2015年2月24日オバマ大統領
は拒否権を発動。最終的に、国務省の見解を得た後、2015年11月5日にキース
トーン XK のパイプラインには米国経済へ長期的な貢献に繋がるものではなく、エネル
ギー安全保障にも繋がらない。また、環境にも問題があるとして建設計画を拒否した。
(2)原油の鉄道輸送
― 20 ―
調査報告 シカゴ
米国北部から南部に繋がるパイプラインの不足が原因で主に PADD2から、大きな製油
所をかかえる PADD3向けの輸送に鉄道が使われてきた。一方、2014年には PADD2
から、PADD1への鉄道輸送が最大となった。2015年には原油安による生産量の減少
などにより、鉄道での輸送量は減少したが、パイプラインの整備の遅延、中止などの影
響から、引き続き鉄道による原油輸送は増えていくものと思われる。但し、原油搭載貨
車の脱線・火災事故などから、2015年5月に原油鉄道輸送規制が強化されている。
規制に対応した新たな原油搭載貨車の数は限られることから、急激な増加は見込まれな
いものと思われる。
図15:鉄道輸送される原油の推移
2011年
2014年
図16:2011 年と 2014 年の原油の鉄道輸送量の変化
以上
― 21 ―
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