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北米再生可能エネルギー国際会議に参加して
調査報告 シカゴ ●北米再生可能エネルギー国際会議に参加して 景気が低迷する中、再生可能エネルギーに関する会議や展示会が相次いで開催されている。 その中で、全ての種類の再生可能エネルギーを包括する会議及び展示会としては世界最大規模 と言われる「北米再生可能エネルギー国際会議及び展示会」が 3 月にネバダ州ラスベガスにお いて開催された。前年の実績を大きく上回る 4 千人の参加者を集め、同分野に対する関心の高 さを窺わせた。 同会議のうち、個別の再生可能エネルギーとして藻類を用いたバイオ燃料や流体動力発電を 取り上げ、また、再生可能エネルギー共通の課題である統合、貯蔵や地域社会への展開などに ついて、概要を報告する。また、会議開催地近郊にあるエルドラド太陽エネルギープロジェク トの施設を訪問したので、併せて報告する。 1. 米国及びネバダ州における再生可能エネルギーの現状 (1)ネバダ州における再生可能エネルギーの現状 Roberto Denis エネルギー供給担当上級副社長(ネバダ・エネルギー社) ネバダ州選出のハリー・リード上院議員(上院院内総務)は、ネバダ州及び米国で再生可能 エネルギーの先導者的な役割を果たしてきており、ネバダ州議会では実に議員全員が再生可能 エネルギーを支援している。再生可能エネルギー国際会議は、北米において最大の再生可能エ ネルギー関連の大会である。 ネバダ・エネルギーは、ネバダ電力会社及びシエラ・パシフィック電力会社という子会社 2 社から成り立っている。ネバダ・エネルギーは最近一つのブランド名に統一することにし、ネ バダ・エネルギーという名称のみで営業している。ネバダ・エネルギーはネバダ州内の消費者 の 90%以上に電力を提供している。発電能力拡大のために、再生可能エネルギー及び天然ガ スプラントへの投資に集中させている。 ネバダ・エネルギーは、ネバダ州で更に 7 百万個の電球型蛍光ランプを顧客の家庭に配布し たが、これはネバダ州の1世帯あたり 7 個となる。住宅用再生可能エネルギーのリベートは、 2MW の顧客の再生可能エネルギーとなっている。2006 年以降、ネバダ・エネルギーは、州内の 発電能力を 2 倍以上にしている。昨年は、1.7GW のガス火力発電所が設置された。 ラスベガスのシティー・センターのプロジェクトは、それだけで 125MW の追加需要となるで あろう。これは米国の歴史の中で民間資金による最大の建設開発である。ラスベガスのストリ ップは砂漠の中にあるマンハッタンのようなもので、電力会社にとっては難しい環境である。 ネバダ・エネルギーは、15 件の地熱プロジェクト、4 箇所のソーラ設置、3 箇所のバイオマス 施設、5 箇所の小規模水力発電所を運営している。また、ネバダ・エネルギーは、RES アメリ カ社と共同で、アイダホ州に近い州北東部に 200MW の風力発電所を開発しようとしている。ネ バダ・エネルギーは先行き 5 年間で 20 億ドルを再生可能エネルギー・プロジェクトに投資す る予定である。 ネバダ州には、1.5 ~ 2GW の開発可能な地熱容量がある。ネバダ・エネルギーの 2009 年末ま での地熱容量は 480MW で、先行き 5 年間で倍になることが予想されている。地熱エネルギー・プ ロジェクトは、通常小型で 20 ~ 30MW 規模なので、この資源を十分に開発するには時間がかかる。 -5- 調査報告 シカゴ (2)米国再生可能エネルギーの現状 Denise Bode 最高経営責任者(米国風力エネルギー協会) Douglas A. Durante 最高経営責任者(クリーン燃料開発同盟) Karl Gawell 専務理事(地熱エネルギー協会) Linda Church-Ciocci 専務理事(全米水力発電協会) Julia Hamm 専務理事(太陽光発電協会) Rhone Resch 最高経営責任者(太陽エネルギー産業協会) Edwin F. Feo パートナー(Milbank Tweed Hadley & McCloy 社) Roberto Denis エネルギー供給担当上級副社長(ネバダ・エネルギー社) 風力発電能力の伸びは、2008 年時点において、米国エネルギー省の 2030 年までに 20%とい うレポートの目標より相当前倒しになっている。過去 3 年間で風力発電能力は 3 倍になってい る。昨年は、風力に関連した製造施設が 55 箇所新しくでき、35,000 人の新規雇用となり、現 在風力産業では 85,000 人が雇用されている。 風力は電力発電の主流として受け入れられている。25GW の発電能力が設置されている今、 風力はニッチのプレイヤーとは考えられてはいない。2008 年の信用危機で、新しいプロジェ クトへの資金は基本的に停止してしまった。ついにワシントンの政府が再生可能エネルギー、 特に太陽光の育成に指導的役割を取るようになった。太陽光税控除と電力公共事業への融資の 拡大を行った。 水力発電も伸びていて、 34GW に及ぶ新しいプロジェクトが連邦エネルギー規制委員会(FERC) に提出されている。97GW の潜在的水力発電がまだ残っている。水力発電施設は、米国のダム 全数のたった 3%に設置されているだけである。水力発電は、発電量、蓄電の調整がしやすい ので、拡大する風力や太陽光発電の変動及び間欠を補う電力源としても魅力がある。 潜在的能力として 5GW を持つ 126 の地熱プロジェクトが 13 州において開発中である。 バイオ燃料は、米国の車両用燃料の 10%を占めている。他の再生可能燃料とは違い、強力 なバイオ燃料政策が過去数年実施されてきている。しかしながら、トウモロコシを使ったエタ ノールは過剰になり過ぎ、今は減少している。米国には 3,000 社以上の電力会社がある。2008 年までの全電力会社の太陽光発電能力は、約 480MW であった。電力会社 10 社が、先行き 5 年 間で太陽光発電能力を 2,100 MW 分追加すると発表している。 天然ガスは、残念ながら変動の激しい商品であり、電力の消費者価格に影響をしている。再 生可能エネルギーの開発はそのリスクのヘッジとなり緩和剤となる。シェール岩から採集する 天然ガスが将来の開発の殆どとなる。 それは、従来の石油やガスのプロセスと異なり、依存出来、 なおかつ予想がつくものである。今、28 州において、再生可能エネルギーのポートフォリオ・ スタンダートという基準が出来ている。 先行き 15 年間に既存原子発電能力の 50%分に相当する設備が、寿命で使用停止となる。更 に今年内に全米 RPS 及び炭素キャップ&トレード法案が通れば、古い石炭を使った火力発電 所が非経済的になってしまうかもしれない。そうなると、米国における電力発電が約 25%程 度減ってしまうことになる。金融部門は、既に 1 月より改善されている。再生可能エネルギー 市場にもわずかながら新しい動きが再度始まっている。 ネバダ・エネルギーは、政府の排気ガス関連政策が決まるまでは、大型の石炭を燃料とする 火力発電所の建設は見合わせている。溶融塩は太陽熱プロジェクト用の蓄電材料として有望で ある。アベンゴアとソラナが、その施設をアリゾナ州フェニックスの近くに建設している。当 -6- 調査報告 シカゴ 初は、ピーク時後 4 時間の蓄電容量を作り、後に更に 4 時間分を開発することになっている。 水力発電ポンプ蓄電も可能性のある技術であるが、非常に高くつく。議会は、蓄電技術の投 資に対し税控除を考慮すべきかも知れない。4 年前は風力タービンのコンポーネントの 25%し か米国で製造されていなかったが、今は 50%となり、更に増えている。 2. 藻と炭素リサイクル (1)米国エネルギー問題の解決策としての藻 Gerald H. Groenewold 所長(ノースダコタ大学エネルギー環境研究センター) エネルギー環境研究センター(EERC)は、研究、開発、実証を行う商業化センターであり、 世界でも屈指のエネルギー環境の開発者として知られている。EERC の施設は、約 250,000 平 方フィートであり、EERC のパートナー基金は、EERC の研究により実用化された技術や知的財 産権をパッケージにして商業化することで、利益を生み、その利益は EERC の更なる研究に用 いられている。EERC は、1987 年以来米国 50 州及び 51 カ国に 1,000 以上の顧客をもっている、 その 75%は民間企業である。EERC は現在、科学者、エンジニア、サポートスタッフとして 320 人雇用しているが、雇用を増やしている。EERC は 2008 年には 434 の契約があり、そのう ち 87%は民間企業とのものであった。EERC が現在締結している契約の総額は 227 百万ドルで ある。 EERC のオイル採集用藻の選択に関するポリシーは、システム全体の経済性に焦点を当てる もので、藻の成長率の高さやオイルの含有量だけではない。近いうちに、天然の(遺伝子組み 換えではない)藻の種が要求される。EERC は GM の ( 遺伝子組み換えした ) 藻は、広く使うに は非現実的で無責任のものであると信じている。 藻は温室効果ガス (CO2) を直に消費するので非常に貴重である上に、食料や農地と競争する こともなく、他のバイオ燃料より幅広い種類の製品に利用できる高いエネルギー密度のオイル を生産することが出来る。例えば微細藻類は、従来農業で生産されるオイルとしては最も生産 率の良いパームオイルの 635 ガロンに比較し、年間1エーカー当たり 5,000 ~ 10,000 ガロン のオイルを生産が可能である。 表 1 各原材料から生産されるオイルの量 オイルの量 (ガロン/エーカー・年) 48 102 127 151 200 237 287 635 5,000 - 10,000 原材料 大豆 ヒマワリ 菜種 トウゴマの実 ジャトロファ ククイノキ ココナッツ パームオイル 微細藻類 出所:Gerald H. Groenewold 氏プレゼンテーション資料より作成 -7- 調査報告 シカゴ 油採取用農産物とは違い、藻は水もそれ程必要とせず、どんな水源にも柔軟な耐性を持って いる。藻は下水に近い水や、水力発電に使った水など各種の処理水を使うことも出来る。理想 的には、藻が CO2 及び同じ場所にある石炭を使った火力発電所の使用後の水を消費してくれる ことである。石炭のタイプや発電所のタイプが藻の生産性に大きく影響を与えるが、もし一定 した高品質の CO2 の供給があれば、藻は煙道ガス浄化システムとして、CO2 だけでなく NOx を も除去する役割を果たすことも出来る。カーボン ・ クレジットを創出する可能性もある。 図 1 米国エネルギー問題の一解決策としての藻の活用 出所:Gerald H. Groenewold 氏プレゼンテーション資料より作成 EERC は、米国運輸省により米国の CO2 排気をどのように管理していくかを決める先端的な団 体として選ばれた。EERC のプレインズ CO2 削減パートナーシップ (PCOR) は、大統領のグロー バル気候変動イニシアティブに関する作業をしている 7 つの主要団体の中でも最大の団体であ る。PCOR パートナーシップは、CO2 の回収及び隔離技術の商業化を進めるため 67 百万ドルの 補助金を獲得したが、これは EERC が今までに獲得した助成金で最高額である。PCOR には、米 国の 9 州、カナダの4州が含まれ、130 万平方マイルに及ぶ範囲をカバーしている。PCOR は、 ノースダコタ州の既存の石炭火力発電所と油田を使った地下への炭素隔離の潜在性を評価し ている。ウィルストン流域プロジェクトの目標は、工場から排出される CO2 を少なくとも年間 500,000 トンを捕獲して、パイプラインを使い、隔離する油田に運び、最終的にカーボン・ク レジットを得ようというものである。 EERC は、100%再生可能 JP-8 ジェット燃料を複数の植物油から作ることに成功し、藻油で も同様に出来るであろうとしている。EERC は、国防高等研究事業局(DARPA)の助成金を受け ている団体とパートナーを組み、藻油を JP-8(ジェット燃料)に転換する作業をしている。 EERC は、燃料生産テストをするために、複数の藻生産者と協力している。 EERC の生産工程は、作物又は藻油の各種に柔軟に対応でき、プロパンガス、ガソリン、デ ィーゼル及びジェット燃料のような仕様に合わせた燃料も作れる可能性を持っている。この行 程により、現在の原油を使った精油製品の 80%を代替できるようになる。現在は、DARPA を通 -8- 調査報告 シカゴ した米国軍隊用のジェット燃料に焦点を絞っている。サンプルは既に空軍に提出され、スケジ ュールを前倒しで、しかも競合相手より先駆けて JP-8 として資格を取っている。EERC はこの 技術を試作工場での生産及び試験に移行する準備が出来ている。 (2)藻とエネルギーの新たな展望 Carl O. Bauer 所長(国立エネルギー技術研究所 (NETL)) 国立エネルギー技術研究所 (NETL) は、米国エネルギー省傘下の国立研究所である。 藻は地球の酸素の 70 ~ 80%を生産し、そのプロセスで CO2 を吸収している。藻を使った炭 素捕獲には化石燃料から出た CO2 を、バイオ燃料を重要な副産物とするバイオマスの生産を増 やすために使う。この方法だと、炭素は、捕獲、再利用とリサイクルされ、化石燃料から排出 される炭素を減らすことができる。 微細藻類の繁殖力ある成長率により、毎日でも収穫でき、各種の状況に合わせて選べる何千 という自然の種類がある。 NETL は CO2 の捕獲を最適にするための研究として、軍の航空燃料を作り、藻の重金属(石炭 の燃焼排気から出る水銀等)の排除テスト、90%程度の捕獲率を持つ大型 CO2 捕獲行程の実証 等を行っている。このため NETL は、自然の藻のどの種が、発電所、エタノール工場、製油所、 産業施設等の CO2 源の状態や場所に最適かを研究している。NETL は更に、リアクターの設計 及びコスト効率を最高にするための技術等の生産プロセスを最適化するため、各製品について、 どのプロセスが最も良いかを決める作業をしている。 (3)サステイナブルなバイオ燃料を用いた飛行 Dave Daggett 技術リーダー(ボーイング社エネルギー・排気部) 航空業界には二つの大きな問題がある。燃料の価格と調達、及び、ライフサイクルでの温室 効果ガス排出削減である。植物を使った原料は、その植物の成長段階で空中に CO2 を除去する ので、排気ガスは再度吸収され、循環サイクルとなる。 サステイナビリティという点では、環境、経済及び社会的影響が考慮される。理想的な燃料 は、CO2 のライフサイクルが短く、食料生産と競争せず、木の伐採を奨励せず、同時に地元又 は地域の経済にソリューションを提供するものである。有効でサステイナブルな飼料の代替と しては、ジャトロファ、藻、塩生植物、非食用セルロース等がある。ボーイングは、生産量が 高く、サステイナブルで、近い将来に使えるバイオ燃料の選択肢に焦点を当てているが、藻は 跳びぬけて油の収穫量が多い。 商業的に使えるサステイナブルなバイオ燃料のサプライチェーンを作るためには、数多くの 要素が必要である。ベストプラクティスと監査を確立し、使える技術があり、燃料処理能力が あり、更に原料及び処理能力の開発業者が居なくてはならない。航空会社に大量にバイオ燃料 を使ってもらうためには、安定した信頼性のある、原料生産、バイオ燃料処理施設、配送イン フラが必要である。 現在のジャトロファを使ったバイオ燃料は、飛行燃料としてジェット A(JP-8) より良い性能 を出している上に、既存の航空インフラを変える必要が無い。また、従来の石油燃料と混ぜた り、代替にしたりも簡単にできる。バイオ燃料の認定は、処理工程より燃料のパーフォーマン スを中心にすべきである。需要という点からすると、パーフォーマンスの高いバイオ燃料が本 当にサステイナブルな燃料となる。 -9- 調査報告 シカゴ 2008 年 2 月にバージン・アトランティック航空が、GE エンジンを使ったボーイングの機体 を使い初のサステイナブルなバイオ燃料を商業飛行に使うテストを行った。燃料はココナッツ とババス油のブレンドであった。第二回目のサステイナブルなバイオ燃料を使った飛行テスト は、2008 年 12 月にニュージランド航空が、ボーイングの機体でロールス・ロイスのエンジン を搭載した飛行機で行われた。燃料はジェトロファ油のブレンドが使われた。更に 2009 年1 月には、北米初のサステイナブルなバイオ燃料飛行が、コンチネンタル航空により、ボーイ ングの機体と、GE とセネクマ(仏 SAFRAN グループ)の 50/50 の合弁会社である CFM のエンジ ンを使ってテストが行われた。使われた燃料は、藻油とジェトロファ油のブレンドであった。 アジアにおける最初のサステイナブルなバイオ燃料飛行テストは、2009 年 2 月に日本航空が、 ボーイングの機体にプラット・アンド・ウィットニーのエンジン搭載した飛行機を使って行わ れた。使われた燃料は、カメリナ、ジェトロファ、藻油のブレンドであった。 3. 流体動力発電の開発 Daniel R. Irvin 最高経営責任者(Free Flow Power 社) 温室効果ガスの削減と化石燃料への依存を減らすという目標を達成するために、これだけで 良いという発電形態は無いということを念頭におくのが重要である。風力、太陽光、地熱、バ イオマス、埋立地のガスは全て新しい発電インフラに貢献する重要なものである。しかしなが ら、水力発電は最も重要な再生可能エネルギー源である。 従来型の水力発電は、ダムや河川の水を分水して使い、米国及び世界において圧倒的に最大 の再生可能エネルギー源であった。そのピーク時においては、米国においては、全発電量の 40%を水力発電により賄われていた。水力発電が、全発電量に閉める割合は減っているが、全 再生可能発電容量の 75%を占めている。従来型の水力発電の伸びは、水力発電そのものとい うより、ダムや水を分水することによる各種の被害に関連した環境への考慮による反対により 伸びが制約されている。 従来型の水力発電による環境破壊に関連した問題の解決策として、近年フリー・フロー又は 流体動力を利用した発電が開発されている。流体動力発電は、従来型の水力発電と同程度に予 測可能で信頼性があり、ダムや水路を妨害する分水を必要としない。全水量と水床の数パーセ ントを使うのみで、水は自由に流れる。流体動力発電は、海の波、海流、潮の流れも利用でき るが、波を利用した発電機は上下の動きを使うが、フリー・フロー ・ タービンは、一方向また は二方向の水の流れを利用するものである。 図 2 Free Flow Power 社が開発したタービン発電機システム 出所:Daniel R. Irvin 氏作成資料 - 10 - 調査報告 シカゴ それにもかかわらず、従来型の水力発電でも ( 環境への ) 影響の少ないものにはまだ大きな 可能性がある。影響の少ない施設としては、自然の水の流れに 1%程度の分水をするような施 設である。もう一つの選択肢としては、既存のダムに水力発電を付け加えることである。米国 だけでも 50,000 箇所以上のダムがあるが、発電を行っているのは 2,000 箇所のみである。ほ とんどのダムは小さく、水力発電開発をするには、主として規制を打開しなければならない。 過去には多くのダムが水力発電に使われていたが、許可が切れ、環境への懸念により更新が難 しくなっている。 既存のダムに発電所を作り、又は古い発電所を再稼動させることへの反対は、連邦エネルギ ー規制委員会(FERC)により許可された発電免許があると、その免許が有効な期間、一般的に は 30 年から 50 年間はダムの取り壊しが出来ないということに対してである。ダムによっては、 それは事実であるが、その他のケースでは、下流の水利用又は上流の危険廃棄物の残留物等に よるダムの撤去はあまり可能性がないことである。影響の低い水力発電の開発にあたっては、 ケースバイケースで反対の潜在性を注意深く評価する必要がある。それに当たっては、FERC は影響の少ない水力発電のサポート及び規制上の障害を低くするための支援を始めている。 4. 再生可能エネルギーの統合と貯蔵 (1)エネルギー貯蔵による再生可能エネルギー発電の補完 John S. Andrepont 社長(The Cool Solutions 社) 大型の再生可能エネルギー発電をする場合、蓄電が大きな問題になる。ピーク時と平時の需 要のギャップが大きくなる空調需要が増え、蓄電の価値が大きくなった。再生可能エネルギー 発電が伸びると、蓄電の価値も伸びる。特に需要のピーク時とは無関係の太陽光や風力発電の ように間欠的であったり、変動性があったりする場合はその価値が更に高まる。 従来の商業スケールの電力会社の蓄電方法は、揚水発電であった。開発途上技術としては、 圧縮空気エネルギー貯蔵 (CAES)、電気化学的バッテリー、超伝導磁気エネルギー貯蔵 (SMES)、 フライホイール、熱エネルギー貯蔵 (TES) などがある。貯蔵技術を選ぶにあたり重要な条件 は、技術の開発状態、初期コスト、寿命及びライフサイクル ・ コスト、エネルギー効率、急速 及び延長放電、立地のし易さなどがある。これらの条件は、蓄電技術により相当な違いがある。 揚水発電は高くつくが、寿命は長い。当初資金コストは $2,000/kW 以上となるが、施設は 30 年間以上使える。エネルギー効率は約 70%と良い。急激な放電には向いていないが、延長 放電には向いている。立地条件は難しく、許可取得や建設も時間がかかる。 圧縮空気エネルギー蓄電 (CAES) の方が安く ( 約 $1,000/kW)、寿命も長い (20 年以上 )。放 電を延長させるのには向いているが、急速な放電には向かない。効率はほどほどであるが、立 地、許可、建設に時間がかかる。 バッテリーはテスト中である。これは非常に高くつく ( $1,000 ~ $5,000/kW の間 )。寿命 は 15 年程度であるが、急速及び延長放電に向いている。効率は 70%位と高い。立地、許可、 建設はそれ程難しくない。超伝導磁気エネルギー貯蔵 (SMES) は、まだ開発途中である。投資 コストは相当高くなるであろう。また、寿命は不明である。効率は中位である。秒単位の急速 放電も可能かも知れないが、延長放電は出来ない。立地、許可、建設はそれ程難しくないかも しれない。 フライホィールもテスト中である。投資コストは、$1,000/kW 以上といったところで、寿命 は 20 年以上ありそうである。急速放電は現実的であるが、15 分以上の延長放電はできない。 - 11 - 調査報告 シカゴ 立地、許可及び建設は難しくないはずである。 熱エネルギー貯蔵 (TES) は、商業化しているが、再生可能エネルギーの応用には使われてい ない。当初投資コストは非常に低く、$100 ~ $500/kW の間である。寿命は非常に長く 30 年以 上である。しかも効率は 100%に近い。長期の延長放電には向いているが、急速放電には向か ない。立地、許可、建設は難しくない。 冷却タイプの熱エネルギー貯蔵 (TES) には3つのタイプがある。オフピーク時に氷を作り、 ピークに解氷する氷 TES、断熱したタンクと巡回を用いる冷却水(CHW)TES、巡回液の熱レン ジを強化するために化学剤を使う低温度液(LTF)TES である。 (2)後悔の最も少ない送電計画 Chifong Thomas 再生可能エネルギー地域統合リーダー(パシフィック・ガス電力社(PG&E)) 北カリフォニア再生可能エネルギー地域統合(RIR)イニシアティブが焦点を当てているのは、 再生可能資源の所在地とは無関係に必要になりそうな大容量送電システムのアップグレードで ある。これは、再生可能エネルギー使用義務に対応して送電インフラを改善にする際、政府や 電力会社が「後悔が最も少ない」アプローチを取る助けとなる。その目標は、将来最も潜在性 の高い再生可能エネルギー生成の各地点を接続するために、送電ハイウエー建設に最も適切な 場所を探すことである。 プロジェクトの完成は 2010 年初の予定である。 図 3 カリフォルニア州の送電容量増加におけるルートの候補 Geo:地熱発電 Wind:風力発電 Biomass:バイオマス発電 Solar:太陽発電 Tidal:潮力発電 出所:Chifong Thomas 氏プレゼンテーション資料 - 12 - 調査報告 シカゴ RIR は、PG&E がリーダーシップを取っている官民のパートナーシップである。カリフォニア 州の RPS の要求する 2010 年に売上の 20%(2020 年には 33%)を達成するのに最も大きな障 害は送電である。再生可能発電の立地を探し建設することは、送電線を作るより相当早くでき るものである。 5. 分散型発電 (1)直流電力による再生可能エネルギー源のシームレスな統合 Ron Croce 最高執行責任者(Validus DC Systems 社) データセンター(コンピューター・サービス・ルーム)は、全米の電気系統の約 3%を使っ ている。大型のデータセンターは 60MW クラスのものである。AC(交流)電力は、再生可能エ ネルギーの真の潜在性を劣化させる。ほとんどの再生可能エネルギー源は、DC(直流)で発電 している。地域に高電圧 DC のマイクロ・グリッド(送電網)を作るほうがエネルギー効率も 高く、簡単である。 分散された地元の再生可能エネルギーの生成は、DC マイクロ・グリッドの中のデータセン ターと組み合わせると経済開発のチャンスとなる。各地域の再生可能エネルギー生成所とデー タセンター使用の間に DC インフラを作ることは、通常の AC システムの電流交換や電圧変換が 必要なくなり、15%から 50%のエネルギーの無駄を防げる上に、発熱量が少ないので、費用 がかかる冷却の必要性も少なくなる。全体として、年間の運転費用及び所有コストを半分にす ることが出来る。更に CO2 の排出も 50%、配線及び中間機器が減るので、銅の使用も 25%削 減できる。DC システムは、原子力発電所、路面電車、通信関係に多く使われている。サプラ イチェーン及び基準は既に準備が整っている。 (2)電力動向と今後の需要対応 Bud Vos 最高技術責任者兼戦略担当副社長(Comverge 社) 米国のエネルギー市場は、将来に影響する複数の強力な流れに直面している。先行き 20 年 間に予想される電力需要の伸びは 50%で、10 年以内に熟練した電気関係労働者が 50%引退す る。燃料費が高騰する中で二酸化炭素規制はより厳しくなることが予想されている。潜在的に 変動的で間欠的な再生可能エネルギーが全国的に義務付けられる一方で、電力の質や信頼性に 対する要求はもっと厳しくなることが予想される。 電力会社は、発電所を 50%増やせ、作業員を 50%増やせ、配電線を 50%増やせと、コスト をカバーするために料金を何回にもわたって上げるという市場の「完璧を求める嵐」に直面す ることになるかも知れない。しかしながら、需要対応技術を持ったスマート ・ グリッドにより 電力会社が直面するプレッシャーを相当減らすことが出来、システム全体のエネルギー効率を 改善することで顧客の潜在的な不便さも軽減することが出来る。 真のスマート ・ グリッドは、メインフレーム及びクライエントサーバーの両方の関係におい て、中央化及び分散化された知能の両方を持つことになるであろう。統合化された需要対応ス イートは次のような機能を備えることになるであろう。即ち、IT ソフトのスイート、共通の 大型電気機器の更なる自動化、インターネットを使ったカスタマー・アクセス、スマート ・ サ ーモスタットを使った家庭の HVAC(冷暖房空調設備)の自動化、総合使用量及びコストを追 跡する家庭用エネルギーの表示などである。Comverge 社は、既にこれらのユニットの出荷を 開始している。 - 13 - 調査報告 シカゴ 6. 地域社会における再生可能エネルギーの課題とビジネス機会 (1)コミュニティにおける風力発電 Jim Brannen 地域営業マネージャー(Northern Power Systems 社) 小型風力タービンは遅い風速に合わせて最適化しなければならない。ノースウィンド 100 は、 ギヤレスの 100kW のタービンである。 小型風力発電の奨励策としては、USDA REAP 補助金、低金利ローン (CREBS)、投資金税控除 (100kW 以下の能力の新しい設備に対して 30%の税額控除) 、生産税控除、州レベルの補助金、 及び、再生可能エネルギー控除 (RECs) も可能性がある。州及び国の再生可能エネルギー及び エネルギー効率に対するインセンティブに関しては、下記のウエブサイトが参考になる。 www.dsireusa.org 通常小規模の風力発電プロジェクトには 1 年間掛かると想定する必要がある。その内の半分 は許可取得期間となる。 (2)独立発電事業者としてのコミュニティ Sarah-Patricia Breen 氏(ニューファンドランド・メモリアル大学地理学部) コミュニティが独立した電力発電者となる。再生可能エネルギーの発電は、経済的に苦しん できた北米の農村部に取っては大きなチャンスとなり得る。小規模の水力発電は、特に今まで 手付かずに残されている資源で、価値あるコミュニティの資産となり得る。 小規模の水力発電の初期コストは高いが、典型的なプロジェクトは 50 ~ 75 年の寿命がある ことを鑑みると、小規模の水力発電は、再生可能エネルギー技術の中で全体的なコストとして は最も低いものである。小さな開発の障害は3つのカテゴリーに分類できる。資金、姿勢、そ して役所である。 再生可能エネルギー ・ プロジェクトには、コミュニティーのサポートを動員することが重要 であり、建設後もコミュニティーが注目を続けるように持っていくことが重要である。長期的 に続く経済的及び社会・環境上の利益を通じ、コミュニティで開発をすることで、サステイナ ブルになる。オンタリオ州は、おそらく 2014 年までに石炭を使った火力発電を全て廃止する と決めている。 (この期限は 2003 年当時に言われていた 2007 年まで、2005 年当時に言われて いた 2009 年までという期限が 2 回延期されている。) (3)ニューオーリンズにおけるグリーン改築(ホーリー ・ クロス ・ プロジェクト) Mark Crowdis 最高経営責任者(Think Energy 社) Think Energy は、地域の純エネルギー消費をゼロにしようとするグローバル ・ グリーン・ クロス・プロジェクトのエネルギー契約者である。Think Energy は、各種の再生可能エネル ギー技術に対してコンサルティングや実行可能性分析を行っている。究極的には、太陽光発電、 地熱ヒートポンプと高機能エネルギー・モニター ・ システムが選ばれたが、周辺の川を利用す る小型の水力タービンも可能なオプションである。Think Energy は 2000 年に設立され、クラ イエントとしては、アルコア、GE、レイセオン、ゼロックス等がある。 ホーリー ・ クロス ・ プロジェクトの全太陽光発電能力は約 65kW であり、住宅5軒、18 ユニ ットを持つマンション、コミュニティー・センターの全建物の屋根に配置されている。太陽 光発電システムは、24 基あり、世帯当たり 1 基及びコミュニティー・センター用である。ル イジアナ州の 50%州税控除というインセンティブを使い、可能になったプロジェクトである。 - 14 - 調査報告 シカゴ 連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、河川上のタービンに対する管轄権を持っている。河川 にタービンを設置する場合、認可コストが最大のコストとなっているので、FERC は河川用タ ービンに関するテスト認可プログラムを作っているところである。太陽熱を使った湯沸し器の ROI(収益率)は 1 年のものもある。これは太陽光発電より相当安い投資である。 7. エルドラド太陽エネルギープロジェクト(施設訪問) エルドラド太陽エネルギープロジェクトは、北米最大の薄膜太陽光発電プロジェクトであ る。 Sempra Generation により所有され、運営されている。2008 年 7 月に建設が開始され、 2008 年 12 月に稼動した。167,400 の薄膜ソーラー・モジュールから構成される 10 メガワット 施設である。 施設は、既存の送電線に近い再生可能エネルギー区と指定された 88 エーカーの土地にまた がっており、Sempra 社の 480 メガワットの複合サイクル天然ガス発電所の隣に位置している。 また、Acciona 社の 64 メガワットのソーラー・ワン集光型太陽発電(CSP)プロジェクトと通 りを挟んだ向かいである。ラスベガスから約 40 マイル南東に位置している。既存の複合サイ クル発電所が隣接しているように、再生可能エネルギー区のために利用可能な既存のインフラ のおかげで、新しい送電線や変電所が不要である。土地は、Boulder 市より借りている。 太陽モジュールは、オハイオ州ぺリスバーグのファースト・ソーラーにより製造された。フ ァースト・ソーラーは、世界を代表する薄型太陽電池メーカーである。同社はまた、エルドラ ド施設のモニターし、維持している。ファースト・ソーラーは、太陽モジュールの修理、リサ イクルを無料で行っている。太陽電池パネルは、南に向けられ、年間を通じた最適な角度で固 定されている。追跡システムよりも費用対効果が高い。それぞれのパネルは約 75 ワット発電 する。10 の電力変換所があり、それぞれが電圧や電流を調整しながら、1 メガワット分を直流 から送電網用に交流に変換している。インバーターは、Xantrex 製で、各電力変換所に 2 つの 500 キロワットのインバーターがある。 - 15 -