11 世紀ピレネーの都市儀礼

11 世紀ピレネーの都市儀礼
村上
司樹
大阪市立大学グローバル COE 研究員
[email protected]
概要：
近年、中世都市像の多様化と柔軟化は著しい。にもかかわらず、スペイン北部キリスト教圏
の都市となると、その規模や経済活動ゆえに等閑に附されることが少なくない。本発表はピレ
ネー山岳の都市ウルジェイを取り上げ、儀礼的な中心としての都市、この時代特有の教会と都
市の関係について、その具体相にアプローチする試みである。
キーワード：
1
11 世紀、カタルーニャ、遺言、都市、儀礼
司教座都市
はじめに
…9 世紀の司教座教会移転と、それを中心とし
たヴィクスの形成が、中世都市としての起点
中世スペイン都市
→実際、11 世紀以前に、商業・手工業活動の発
…古代以来の都市地帯がイスラーム世界に
展や、世俗的な都市文化などを具体的に跡付
組み込まれる
けるのは、ほとんど不可能
→キリスト教圏に関しては、12 世紀以前は
概して「都市不在」の時代
中世都市論の変容
…研究テーマの多様化とあいまって、都市概
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遺言宣誓と小教会堂
念そのものも柔軟化
→その一方、12 世紀以前の都市の社会史や
小都市の「都市性」を見出しがたいのも事実
小教会堂
…11 世紀における唯一の、
「目に見える」都市
的発展の指標
→注目すべきは、司教座教会を中心として新た
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ウルジェイ ―ピレネーの都市
小さな都市
…小規模な北スペイン都市のなかでも、ひとき
わ小さい
→バルセロナの発展史に帰されがちなカタル
ーニャ都市史論では、なおさら後景へ
に整備されたこれら小教会堂の、社会的機能
遺言宣誓 Conditionem sacramentorum
…一般に裁判官 judex と司祭 presbiter が主催
する、法行為にして宗教儀礼
→必ず特定聖人の祭壇にかけて宣誓を行うた
め、分析する側としては「場」の特定が可能
過半数が都市、さらに 3 分の 2 は小教会堂で
…これら教会堂が裁判の場として使用される
ことはない一方、裁判官＝聖職者とも限らな
かった
→要するに、裁判集会とも異質なら、教会の教
会による教会のための儀礼といったもので
もない
参加者はローカル・エリート、中間層
…「聖／俗」区分以上に注目されるのは、「有
力貴族／中間層」の溝
→ローカルな次元でのエリート層だけが集う、
半ば閉鎖的な儀礼が行われる場としての、都
市ウルジェイ
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まとめ
（1）地域の中心としての都市の機能が、ここでは専
らローカル・エリートの儀礼参加、儀礼の場への
参集という形であらわれている
（2）宗教儀礼にして法行為である遺言宣誓は、聖
俗が不可分なままに秩序を形成した、11 世紀以
前の社会状況に対応していると同時に、この時
代特有の「文化としての都市」（河原温）のあり方
を示している。
（3）それは都市空間の形成に教会が及ぼした影響
を可視的に伝えるものであり、またウルジェイの
場合、その規模や経済的機能などから考えて、
より純粋な形で体現したものと位置付けられる。
参考文献
[1] BATLLE, Carme, Els orígens medievales i
l’evolució urbana de la Seu d’Urgell,
Urgellia 2(1979), pp. 147-167.
[2] TAYLOR, Nathaniel L., The Will and
Society in Medieval Catalonia and
Languedoc, 800-1200, Ph.D. diss.,
Harvard, 1995.
[3] 河原温 『都市の創造力』＜ヨーロッパの中
世②＞ 岩波書店 2009 年。
図版出典
BOLÒS, Jordi, HURTADO, Víctor, Atles del
Comtat d’Urgell, Barcelona 2006.
RUF, Maria Àngels, VILLARÓ, Albert,
L’ésglesia romànica de Santa Eulàlia de
la Seu d’Urgell, Urgellia 11(1992-1993),
pp. 487-509.