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(2005/2~4) <水素・燃料電池
PEC 海外石油情報(ミニレポート) 平成 17 年 5 月 20 日 PISAP ミニレポート 2005-004 燃料電池の開発状況(2005/2~4) <水素・燃料電池> 燃料電池の開発状況を定期的に紹介しているが、 今回は 2005 年 2 月から 4 月までの開発 状況をまとめる。特徴的なことは、燃料電池自動車の実用化に向けたテスト走行が進展し ていること、燃料電池発電システムの開発が具体化されていること、米国エネルギー省 (DOE)と企業間との共同開発契約が増加していることである。また、新たな燃料電池開発の ための基礎研究も行われている。 1.燃料電池自動車の開発状況 バラード社は燃料電池技術で商業化に必要な 3 つのブレークスルーを成し遂げた。それ は燃料電池の低温始動性、耐久性、コストの面で著しく進展したことである。50 回に及ぶ -20℃の低温繰り返し始動を実現し、2,200 時間の作動でも性能の低下やスタックへのダ メージは見られなかった。-20℃という温度は北米や欧州のほとんどの地域で繰り返し始 動が可能であることを意味しており、将来的には-30℃を目標としている。DOE のプログ ラムによるテスト走行車の半分以上はバラード社製燃料電池を用いており、2004 年のバラ ード社製燃料電池車全体の累積走行距離は 92.5 万 km 以上に及び他社を寄せつけない。バ ラード社の燃料電池の特徴は性能の低下がなく白金触媒量を 30%削減できたことで、これ がコスト削減に繋がっている。(資料 1) バラード社の燃料電池バス(ZEB;Zero Emission Bus)3 台の走行テストが、カリフォル ニア州のサンノゼの 2 つの交通機関(VTA, SamTrans)で 2 月末から始まった。CARB(カリフ ォルニア州大気資源局)の NOx、PM 規制をクリアできるかどうかをテストするために、1 日 当たり数千人の乗客を乗せて走行する 3 カ年プログラム(1,850 万ドル)である。Air Products and Chemicals 社から供給される液体水素を使用する。VTA では数年間でバス全 体の 15%を燃料電池バスに切り替えることを目標としている。(資料 2,3) 自動車会社では、最近 GM のニュースが多い。GM は北米大陸で多数の燃料電池開発プロ ジェクトを実施しているが、2010 年までにガソリン車に匹敵する出力コスト(50 ドル/kW) の燃料電池車を開発することを明らかにした。連続走行距離を約 480km、電池持続時間を 6,000 時間とし、2015 年までには販売開始する計画である。GM は 100 万台の燃料電池車を 販売する最初の自動車メーカーになるとインタビューで述べている。(資料 4) さらに GM は、米国陸軍に世界で初めて燃料電池トラックを納入した。この車両は国防総 省にリースされ、2006 年 7 月まで米国内の種々の気候・地形条件下でテストされる。性能 PEC 海外石油情報(ミニレポート) 評価のための 2 つの 94kW 級セルスタックを備え、3 基の 700 気圧水素貯蔵タンク(Quantum Technologies 社提供)を搭載し、走行距離 200km、0-96km/hr(0-60mph)加速時間 19 秒、最 高速度 150km/hr の性能を持つ。このテストトラックは荷物運搬車として使用される。 (資料 5,6) また、GM の燃料電池車 HydroGen3 Zafira は 4 月 2 日に開催された第 1 回モンテカルロ 燃料電池車・ハイブリッド車ラリーに出場し、燃料電池車部門で優勝した。全体では 3 位 (1 位、2 位はハイブリッド車)。このラリーは国際自動車連盟(FIA)とモナコ自動車クラブ (ACM)主催でスイス、イタリア、フランス、モナコの 410km を走破、途中 1 回の燃料補給が 許される。コースは海岸アルプス(Maritime Alps)を通るので世界一厳しいコースと言われ る。HydroGen3 Zafira の動力源は合計 200 個のセルからなる燃料電池による 60kW の三相 非同期モーターで、0-96km/hr 加速時間 16 秒、最高速度 160km/hr の性能を持つ。スター ト時の騒音もほとんどなかった。なお、同車はすでに 2004 年夏、ノルウェーからポルトガ ルに至る燃料電池車マラソンにおいて38日間で6,000マイル走破という世界新記録を樹立 している。(資料 7,8) DOE は水素燃料電池車の開発を支援するプログラムを開始した。最近では GM、クライス ラーと 5 カ年契約を締結している。GM の場合は 8,800 万ドルで、自社負担は 4,400 万ドル である。燃料電池車 40 台を試作してワシントン DC、ニューヨーク、カリフォルニア、ミ シガンに配置し、実証テストを行う予定である。Shell Hydrogen LLC 社が関連地域 5 カ所 に水素充填施設を開設して協力する。他のパートナーは米陸軍と Quantum Technologies 社である。ダイムラークライスラーの場合も 7,000 万ドル以上の水素燃料電池車開発の契 約を交わしている。 乗用車 Mercedes F-Cell、 バン Dodge Fuel Cell Sprinter、 バス Mercedes Citaro の開発を促進する。(資料 9,10,11) 他に英国のIntelligent Energy社はロンドンのデザインミュージアムでプロトタイプの 燃料電池駆動のモーターバイク(重量 80kg)を世界で初めて公開した。1kW の小型固体高分 子型燃料電池「Core」を使用、高圧水素シリンダー(4 時間連続走行可能分)を搭載し、最 高速度 80km/hr で 160km 走行できる。なお同社は、ボーイング社と共同で小型航空機用燃 料電池セルも開発している。(資料 12,13) 2.燃料電池発電設備の開発状況 燃料電池発電システムの開発が 2 件、共同開発契約が 2 件公表されている。 発電システムの開発関連の 1 件目は、英国のロールスロイスグループとシンガポール共 同企業体による燃料電池技術に基づく発電システムの開発で、投資額は 1 億ドルである。 2007~2008 年までに 1,000kW(200 世帯分)の燃料電池発電システムを確立したいとしてい る。ロールスロイスは 1992 年から燃料電池技術の研究を開始し、1998 年以来シンガポー ルで合計 2.12 億ドルの投資を行っている。2003 年には子会社 Rolls-Royce Fuel Cell Systems Ltd(RRFCS)を設立し、固体酸化物型燃料電池技術の開発を行っている。RRFCS の PEC 海外石油情報(ミニレポート) 燃料電池システムは他社と比べて、低コスト、高効率、耐久性良好という特徴を持ってい る。同社は、競争可能な燃料電池技術に仕上げるためには高度なエンジニアリングスキル が必要だとしている。(資料 14,15,16) 2 件目はバラード社の燃料電池コジェネシステムが世界初の商用機として日本の首相官 邸に導入されたことで、荏原バラード社が製作したユニット(1kW)を東京ガスが設置した。 天然ガスの改質(東京ガス技術)による水素を使用。同システムにより家庭電力は 20%、二 酸化炭素エミッションは 30%削減されるという。(資料 17) 共同開発契約の 1 件目はガス精製システム会社 QuestAir(QAR)と燃料電池発電会社 FuelCell Energy(FCEL)が燃料電池発電所の水素リサイクルで覚書を締結したことである。 内部改質型のダイレクト燃料電池を使用している FCEL 社の燃料電池発電プラントは、 改質 された水素の 20~30%が陽極側から排気されるため、この排気中の水素を QAR 社の水素精 製技術を用いて回収するものである。この水素リサイクルシステムが適用できれば電力効 率が上がる。FCEL の燃料電池発電所は世界の 36 カ所以上で設置されている。FCEL と QAR 両社は 2005 年第 4 四半期までに水素リサイクル技術の評価を行い、 その後さらに開発およ びテストを続行するかどうかを決めるという。(資料 18,19) 2件目は水素エネルギーシステムメーカーMillennium Cell社とダウケミカル社が一般用 および軍事用の携帯型燃料電池システムの開発で 3 年契約を締結したことである。 Millennium Cell 社の水素化ホウ素ナトリウムを用いる方法(Hydrogen on Demand)により 水素を製造し、ダウケミカル社が開発した固体高分子型燃料電池を用いて携帯型燃料電池 システムを作る。開発中の燃料電池システムは寿命が長く、軽量なためラップトップコン ピューターや携帯電話に適している。 2005 年中には商業化したいとしている。 (資料 20,21) 3.研究開発 新たな燃料電池の開発に向けて研究開発が進展している。1 件目は燃料電池会社 Franklin Fuel Cells 社が新規な固体酸化物型燃料電池(SOFC)を開発したことである。特 徴は水素以外にプロパン、ブタン、ナフサ、ディーゼルのような炭化水素系燃料が、陽極 で内部改質ではなく直接酸化(電気化学的酸化)されることである。開発された陽極触媒は 銅系固体酸化物(Cu/CeO2)であって、 内部改質(水蒸気改質)を起こさないため水の管理が不 要である。当該技術はペンシルベニア大学で開発されたもので、これが同社に独占的にラ イセンスされ今日に至っている。最近、市販の 93 オクタン価ガソリンを使用して 100 時間 テストに成功した。 発電効率は従来のSOFCより56%高く、 内燃エンジンより200%高かった。 (資料 22,23,24) 2 件目はイリノイ大学が燃料と酸化剤を隔てる固体隔膜を無くした燃料電池を開発した ことである。ほとんどの燃料電池は陽極側の燃料(水素)と陰極側の酸化剤(酸素)が混じら ないようにするため隔膜(高分子電解質膜)が用いられているが、同大学ではマイクロスケ ールでの 2 種類の流体の流れは、流体間に物理的障壁(隔膜等)がなくても混じり合わない PEC 海外石油情報(ミニレポート) で平行に流れるという層流(laminar flow)現象を利用して、固体隔膜が取り除かれた。プ ロトンだけが燃料と酸化剤の界面を拡散して対極に移動する。この燃料電池は固体高分子 型燃料電池に比べてパーツが少なく、設計も簡単という点で優れている。ただ、層流現象 はマイクロスケールのみで起こる現象なので、これ以上にスケールアップはできない。そ の場合はマイクロ燃料電池アレイを多数繋げることによって規模の拡大化を図る必要があ る。(資料 25,26) (TT) (参考資料) 1.http://www.aiada.org/article.asp?id=33506&cat=Hybrid 2.http://www.platinum.matthey.com/media_room/1109260804.html 3.http://www.renewableenergyaccess.com/rea/news/story?id=23349 4.http://www.freep.com/money/autonews/phelan-bar310e_20050310.htm 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