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ロシア世界第4 位の石油メジャー誕生
PEC 海外石油情報(ミニレポート) 平成 15 年 11 月 10 日 PISAP ミニレポート 2003-037 ロシアから世界第 4 位の石油メジャー誕生 <企業動向> ロシアの石油大手のユコス(Yukos)社とシブネフチ(Sibneft)社が合併し、石油生産量が エクソンモービル、BP、シェルに次いで世界で第 4 位となる新会社合併の手続きが 2003 年 10 月 3 日に完了した。 新会社名はユコスシブネフチ(YukosSibneft)で年間収入見込みは 150 億ドル、市場での資産価格は 350 億ドルを超える。(資料1) 新会社の概要は、表− 3 より 2002 年の両社の合算データで、原油生産量が 194 万 BPD、石油埋蔵量は 183 億バレ ル(29億 KL)、主要な製油所はロシア内に 6 ヶ所とリトアニアに 1 ヶ所を有する巨大石油 会社となる。 両社のホームページ及び最近のインターネット情報を基に 2 社が合併にい たるまでの経緯を追ってみたい。 1.ロシアの石油事情 2 社の合併に話を移す前に、ロシアの石油事情をまず概観する。表−1 は世界の中でロシ アの石油産業が占める位置を示す。原油埋蔵量で 7 位、原油生産量ではサウジ、米国に次 いで 3 位、石油消費量では 5 位、製油所処理能力では米国、中国に次ぎ 3 位の位置を占め る。いずれも世界ランキングの 7 位以内を占める石油大国である。 表−1 1位 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 9位 10位 原油確認埋蔵量 (10 億bbl) サウジ 261.8 イラク 112.5 UAE 97.8 クウェート 96.5 イラン 89.7 ベネズエラ 77.8 ロシア 60.0 米国 30.4 リビア 29.5 ナイジェリア 24.0 ロシア石油データ世界比較(2002 年) 原油生産量 (1000BPD) サウジ 8,680 米国 7,698 ロシア 7,698 メキシコ 3,585 中国 3,387 イラン 3,366 ノルウェー 3,330 ベネズエラ 2,942 カナダ 2,880 UAE 2,270 出所:BP 統計2002年から作成 石油消費量 (1000BPD) 米国 19,708 中国 5,362 日本 5,337 ドイツ 2,709 ロシア 2,469 韓国 2,288 インド 2,090 カナダ 1,988 フランス 1,967 イタリア 1,943 製油所能力 (1000BPD) 米国 16,761 中国 5,744 ロシア 5,553 日本 4,721 韓国 2,316 インド 2,289 イタリア 2,292 ドイツ 2,286 フランス 1,987 カナダ 1,923 PEC 海外石油情報(ミニレポート) 図−1は、1992 年以降のロシアの原油生産量の推移を示したものである。1991 年 1 月か らエリツィン大統領の下で開始された急進的な経済改革は、ハイパーインフレを招き経済 活動が大きく落ち込み、需要が減退し、投資不足による油井の老朽化が進み、新規油田開 発が遅れた。そのことが原油生産量減少に繋がった。インフレは 1995 年あたりから終息化 しはじめ、1997 年ごろには経済も回復基調をたどる。1999 年に国際原油価格が上昇を始め たことから原油生産も順次増産に転じた。2003 年には原油生産量が 800 万BPDを超える ことが確実視されており、過去 5 年間(‘98∼’02)の伸び率から推定して 2010 年には 1000 万BPDを超えると予測される。(資料 10) 図−1 ロシアの原油生産量の推移 1000BPD 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 10 出所:BP 統計 2002 年から作成(2003 年、2010 年は予測値) 2.石油会社の概要 1992 年 11 月大統領令により国営であった石油企業の再編、民営化が開始され、Lukoil、 Yukos、Surgutneftegazの 3 社が生産、精製、販売を統合して石油会社として設立される。 その後 1995 年までに 8 社が設立された。図−2 はロシア石油会社の上位 10 社の過去 5 年 間の原油生産量(BPD)の推移をグラフにしたものである。参考までにユコスとシブネ フチを合算したものも掲載する。 ユコス、シブネフチがロシアの石油産業の中で占める位置を確認してみる。ユコス及び PEC 海外石油情報(ミニレポート) シブネフチの過去 5 年間の位置は、それぞれ2位と7位であったが、両者を単純に併せた 生産量ではトップに踊り出ることになる。 図−2 ロシア石油会社別原油生産量推移 万 B PD 250.0 ルクオイル ユコス 200.0 ス ル グトネフ チェガス チュメニオイル 150.0 シブ ネフチ タトネフ チ シダン コ 100.0 スラブ ネフチ ロ スネフチ 50.0 バシ ュネフチ ユ コス+シブ ネフチ 0.0 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 出所:資料7及び資料 8 に掲載されたデータより作成 3.合併に向けて 表−2は石油メジャー各社とユコスシブネフチの合算したデータの比較である。メジャ ー各社のデータはOPEC年報より、またユコス、シブネフチ両社のデータはホームペー ジのデータより抜粋した。前提が異なるので厳密な比較にはやや問題があるが、概略合併 会社の輪郭が浮かび上がってくる。石油の確認埋蔵量では、第 1 位、原油生産量で第 4 位、 純益で第 5 位、売上と原油処理量では、他の 5 社に比較しかなり大きな隔たりがある。ま た両社の合算した主要データの推移を表−3 に掲載する。 ユコスシブネフチの合併は、両者による対等な合併でなく、実質的にはユコスによるシ ブネフチの吸収である。合併新会社の社長の椅子には、ユコスの社長であったユダヤ系ロ シア人の若干 40 歳のミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)氏がまた会長に は現シブネフチ社長のユージン・シュビドラー(Eugene Shvidler)氏が 11 月 28 日に開かれ PEC 海外石油情報(ミニレポート) る臨時株主総会で指名されることになっていたが、10 月 26 日に予想外の社長自身が逮捕 される事態で、今後の展開が不透明となってしまった。新会社の株式はロシア No1 の財産 家といわれるホドルコフスキー氏が 50%をまた英国の有名なサッカーチーム・チェルシー のオーナーとなったローマン・アブラモビッチ(Roman Abramovich)氏が 25%をコントロー ルし、残り 25%がその他という構成になっている。 (資料4) 表−2 ユコスシブネフチとメジャー各社との比較(2002 年) BP エクソンモービル RDシェル ユコス+シブネフチ シェブロン トタールフィナエルフ 石油 確認埋蔵量 100万バレル 7,762 11,823 10,133 18,309 8,668 7,232 生産量 千BPD 2,018 2,496 2,372 1,942 1,897 1,589 原油処理 千BPD 3,117 5,481 4,084 937 2,079 2,349 売上 純益 百万ドル 180,186 204,506 235,598 16,150 99,049 96,577 百万ドル 4,698 11,460 9,419 4,217 1,132 5,595 出所:OPEC Annual Statistical Bulletin, 2002.及びユコス、シブネフチホームページから作成 4.合併の与える影響 YukosSibneft は合併後、ロシアでトップの石油会社となる事で、石油業界での影響力が 増すことは間違いない。さらに現在エクソンモービルへ新会社の株を売却する話を進めて いる(資料 9)と報道されているが、実現すればロシア国内だけでなく、エクソンモービ ルの信用力を背景に国際的に影響力を強化できることになろう。ロシアは、現在西シベリ アに持つ油田やいずれは東シベリアで開発した原油等を移送するための太平洋パイプライ ンの計画を持っている。 これは中国または日本へ輸出するためのもので 2 つのルートが 計画されている。1 つはロシア東南部(バイカル湖近く)のアンガルスクから中国の大慶ま で約 2200km で建設コストが 29億ドル、もう一本はアンガルスクからナホトカまで約 4000km で 58 億ドルである。 (資料6) 当面の日本への影響という点で、このパイプラインのルートがどちらに決まるか重要な 関心事で、西シベリア油田の権益を持つユコスシブネフチは、日本の推すナホトカルート ではなく、アンガルスク−大慶ルートを推進している。今年の年末か来年早々には、どち らのルートとなるか判断が下される予定となっている。 この 10 月 26 日のテレビ、新聞各社は、新会社の CEO に予定されているホドルコフスキ ー氏が脱税等の疑いで西シベリアのノボシビルスクの空港で逮捕された事を報道。ソ連の 崩壊からロシアが経済力を回復しつつある現在までの10年と言う短期間でロシアNo1の財 産家にのぼりつめた同氏には政治的な野心もあるといわれており、今回の逮捕に無縁では ないようだ。われわれの伺い知れない政治的、金銭的な背景があるのかも知れない。さら PEC 海外石油情報(ミニレポート) に 11 月 3 日にホドルコススキー社長の退任とロシア生まれの米国人セミョン・クケス (Simon Kukes)氏が、新ユコス社の社長となった旨の報道があった。新社長は、1977 年に 米国に移住し、25 年間石油ビジネスに従事。これまでロシアで最大の投資案件である BP と TNK 社の合弁事業等を手がけている。この合併がどのような方向へ向かうのか予断を許 さないが、今後の動きに注目したい。 表−3 ユコスシブネフチ両社の合算主要データ 原油埋蔵量 ユコス シブネフチ 合計 1998年 9,068 4,130 13,198 1999年 11,412 4,599 16,011 2000年 11,769 4,644 16,413 (単位:百万バレル) 2001年 2002年 12,581 13,734 4,646 4,575 17,227 18,309 1998年 44.6 17.3 61.9 1,255 1999年 44.5 16.3 60.8 1,233 2000年 49.8 17.2 67 1,358 (単位:百万トン) 2001年 2002年 58.2 69.5 20.7 26.3 78.9 95.8 1,600 1,942 1998年 25.1 13.1 38.2 774 1999年 23.5 12.5 36 730 2000年 26.7 12.6 39.3 797 (単位:百万トン) 2001年 2002年 29 32.9 13.3 13.3 42.3 46.2 858 937 原油生産 ユコス シブネフチ 合計 (千BPD) 原油処理量 ユコス シブネフチ 合計 (千BPD) 出所:両社ホームページより作成 (NF) 参考資料 (1) http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/ap/20031003/ap_on_bi_ge/russia_yukos_4 (2) BP 統計、http://www.bp.com/centres/energy/index.asp (3) ユコス社 ホームページ http://www.yukos.com/ (4) シブネフチ社 ホームページ http://www.sibneft.com/ (5)OPEC Annual Statistical Bulletin 年, 2002 年 (6)シベリア・サハリンの石油開発と北東アジア;(財)エネルギー経済研究所 平成 15 年 9 月 18 日 http://eneken.ieej.or.jp/ (7)ロシア及びカスピ海周辺諸国の石油開発と国際市場;(財)エネルギー経済研究所 PEC 海外石油情報(ミニレポート) 小山堅 http://eneken.ieej.or.jp/ (8)ロシア主要石油会社の経営スタイルとその功罪について、ロシア東欧貿易会;坂口泉 (9)Moscow supports US investment in Yukos, Andrew Jack in Moscow; FT com site; Oct 07,2003 (10)Russian oil sector rebound under full swing, OG & J; June2, 2003 本資料は、(財)石油産業活性化センター石油情報プラザの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected] までお願いします。 Copyright 2003 Petroleum Energy Center all rights reserved