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平成2年長審第74号 漁船第17八坂丸漁船友紀丸衝突事件 言渡年月日

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平成2年長審第74号 漁船第17八坂丸漁船友紀丸衝突事件 言渡年月日
平成2年長審第74号
漁船第17八坂丸漁船友紀丸衝突事件
言渡年月日
平成3年2月20日
審
判
庁 長崎地方海難審判庁(伊藤實、永松義人、安部雅生)
理
事
官 酒井美明
損
害
八坂丸-球状船首に擦過傷
友紀丸-右舷後部外板に破口、機関室に浸水
原
因
八坂丸-見張不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
友紀丸-見張不十分、船員の常務(衝突を避けるための措置)不遵守(一因)
主
文
本件衝突は、第17八坂丸が、見張り不十分で、漂泊中の友紀丸を避けなかったことに因って発生し
たが、友紀丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすもの
である。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
理
由
(事実)
船 種 船 名
漁船第17八坂丸
総 ト ン 数
19トン
機関の種類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
160
受
人
A
名
船長
職
審
海 技 免 状
一級小型船舶操縦士免状
船 種 船 名
漁船友紀丸
総 ト ン 数
2トン
機関の種類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
60
受
審
職
人
B
名
船長
海 技 免 状
一級小型船舶操縦士免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成元年10月25日午後9時
長崎港
第17八坂丸(以下「八坂丸」という。)は、中型旋網漁業に従事する第18八坂丸船団所属の漁獲
物運搬船で、長崎県長崎港第4区長崎市平瀬町の船だまりに入航して漁獲物を水揚げしたのち、受審人
Aほか2人が乗り組み、船首0.60メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、成規の航海灯を
掲げ、平成元年10月25日午後8時40分同船だまりを発し、同港南東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、操舵室中央に置いた折畳み椅子に腰を掛け、単独で手動操舵にあたり、船だまりを出た
ところで機関を半速力前進とし、当時、同椅子に腰を掛けると船首方左右各15度ばかりが死角となっ
て見えにくかったので、船首を左右に少し振ったり、立ち上がったり、上体を左右に傾けたりしなから
前方の見張りにあたって進行し、同8時48分半ごろ長崎港C社蔭ノ尾岸壁灯柱から南70度東(磁針
方位、以下同じ。)600メートルばかりの地点で、腰掛けた位置のやや左斜め前方55センチメート
ルばかりに備えられている半周型スキャニング・ソナー(以下「ソナー」という。)及びやや左斜め後
方80センチメートルばかりに置かれている魚群探知器の各スイッチを入れ、魚群探索を始めた。
同8時54分半少し過ぎA受審人は、長崎港口防波提灯台(以下「防波堤灯台」という。)から南7
3度東1,000メートルばかりの地点に達したとき、香焼島と沖之島との間の大中瀬戸を通って、横
島沖合で操業中の船団に向かおうと、針路を南75度西に定め、機関を全速力前進にかけ、約12.5
ノットの速力とし、魚群探知器とソナーの映像を交互に監視しながら進行した。
同8時57分ごろA受審人は、防波堤灯台から南14度東550メートルばかりの地点に至ったとき、
正船首1,150メートルばかりの地点で漂泊中の友紀丸が掲げる白色全周灯1個、黄色回転灯1個及
び作業灯4個を十分に認められる状況で、しだいに接近していたが、魚群探索に専念し、船首を左右に
振ったり椅子から立ち上がったり上体を左右に傾けたりして船首死角を補わなかったので、船首方の見
張りが不十分となり、これに気付かず、同船を避けることなく続航し、同時58分半ごろレーダー見張
りをしようとソナーの下にあるカラーレーダーの起動用スイッチを入れ、同レーダーを利用するいとま
もないうち、同9時防波堤灯台から南50度西1,300メートルばかりの地点において、突然、船首
に衝撃を受け、原針路のままの八坂丸の船首が、友紀丸の右舷側後部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、友紀丸は、後部に操舵室のあるFRP製漁船であるが、刺網漁業の目的で、受審人B1人が乗
り組み、船首0.20メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、成規の航海灯を掲げ、同日午後
8時30分長崎港第5区西彼杵郡香焼町の船だまりを発し、近くのカンダイ島北西方の漁場に向かった。
同8時35分ごろB受審人は、防波堤灯台から南35度西1,300メートルばかりの漁場に着き、
機関を中立運転としたまま、操舵室屋上のマストに掲げたマスト灯、両色灯及び船尾灯をすべて消灯し、
同マストに備えた白色全周灯1個及び黄色回転灯1個(いずれも30ワット)と、前部甲板上約1.9
メートルの高さで、前部マストから操舵室屋上のマストに架けた電線コードに取り付けた裸電球の作業
灯2個(30ワット1個、100ワット1個)及びその下方にあたる同甲板上約1.2メートルの高さ
で、前部マストから操舵室前の船室上部に架け渡したステンレスパイプに取り付けた傘付き電球の作業
灯2個(いずれも60ワット)をそれぞれ点灯して船首に赴き、左舷側の揚網用ローラーを使用し、周
囲をときどき見ながら、水深約40メートルの海中に投入していた長さ約300メートルの底刺網を1
分間約15メートルの速さで、北西方に向かってまき揚げ始めた。
同8時55分ごろB受審人は、漁網を揚げ終え、船首を北15度西に向けて漂泊し、周囲を一べつし
たところ、自船の明るい灯火で周りが良く見えなかったこともあって、接近する航行船はいないものと
思い、前部甲板中央の活魚倉のさぶたの上で、船首よりやや左方を向いた姿勢で中腰となり、左舷側に
積み上げた綿から漁獲物を取り外す作業にかかった。
同8時57分ごろB受審人は、前示衝突地点において、八坂丸が右舷正横1,150メートルばかり
の地点から自船に向けて来航し、同船が掲げる白、紅及び緑3灯を十分に認められる状況であったが、
柵から漁獲物を外す作業に専念していて周囲の見張りが不十分で、これに気付かず、機関を使用するな
どして同船との衝突を避けるための措置をとることなく作業を続けているうち、同9時少し前、八坂丸
の機関音を聞き、ふと顔を上げたところ右舷正横至近に迫った同船を初めて視認し、あわてて大声で叫
んだが及ばず、危険を感じて海中に飛び込み、船首を北15度西に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突後、B受審人は、泳いでいるところを八坂丸に無事救助された。
衝突の結果、八坂丸は、球状船首に擦過傷を生じたのみであったが、友紀丸は、右舷後部外板の水線
付近に破口を生じて機関室に浸水し、主機関に濡損を生じ、八坂丸により横抱きされて同港深堀町の船
だまりに引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、第17八坂丸が、夜間、長崎港内において、船首死角のある状態で魚群探索を行いなが
ら出航中、見張り不十分で、前路で漂泊中の友紀丸を避けなかったことに因って発生したが、友紀丸が、
漁網を揚げ終えて漂泊し、網から漁獲物を取り外す作業中、見張り不十分で、衝突を避けるための措置
をとらなかったこともその一因をなすものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、夜間、長崎港内において、船首死角のある状態で魚群探索を行いながら出航する場合、
前路で漂泊中の友紀丸の灯火を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして死角を補い、船首
方の見張りを厳重に行うべき注意義務があったのに、これを怠り、魚群探知器などの映像監視に専念し
て、見張りを行わなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条
第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
受審人Bが、夜間、長崎港内において、漁網を揚げ終えて漂泊し、網から漁獲物を取り外す作業を行
う場合、右舷方から接近する第17八坂丸の灯火を見落とすことのないよう、周囲の見張りを厳重に行
うべき注意義務があったのに、これを怠り、網から漁獲物を取り外す作業に専念して、見張りを行わな
かったことは職務上の過失である。B受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、
同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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