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11.関数のテイラー展開
11.関数のテイラー展開 二つの全く異なる関数が、変数のある範囲で良く似ている、ということはしばしば起 こり得る。もし複雑な関数を、取り扱いの簡単な良く似た関数で置き換えることができれ ば、数学的な困難さがかなり軽減できるであろう。うまく行けば、厳密には解けない問題 でも、実質的に解けてしまう、という可能性も有り得る。このような「代用品の利用」は、 物理学では頻繁に行われる。 微分、積分などの数学的な操作の上で、最も取り扱いの簡単な初等的な関数は、おそ らく多項式であろう。多項式の係数を調節することによって、与えられた任意の関数に近 いものを作り出す方法の一つとして、Taylor 展開と呼ばれる方法がある。Taylor 展開の数 学的で厳密な解説については、解析学の専門書に譲り、ここでは直感的で「速分かり」な 説明を試みる。 11. 1 テ イラー 展開の 公式 与えられた任意の関数 f (x ) を、点 x = a の近傍において、多項式で近似的に表すことを考 える。多項式は、次数を上げれば上げるほど「曲がりくねって」くるので、次数のより高 い多項式を用いれば、より精度良く、複雑な変化をする関数を表すことができると期待さ れるが、これを次のような手順により、段階的に達成する: <ste p 1> x の値が a にかなり近いとき、関数 f (x ) が「素直な」関数であれば、 f (x ) も f (a ) に近い であろう。そこで、 f (x ) を f (a ) と、それからの「ずれ」を表す余剰項に分けて、次のよ うに書き表す: f ( x) = f ( a ) + R1 ( x ) " ( x ! a ) (11.1) 余剰項 これは単に、 R1 ( x ) " f ( x ) ! f (a ) x!a と言う関数を定義しただけで、何も新たなことが生まれたわけではない。 x ! a をあらかじ めくくり出して余剰項を定義したのは、 x = a の時に余剰項全体がゼロになるので、その方 が便利が良いと期待したからである。 70 <ste p 2> 上に定義した関数 R1 ( x ) に、step1 と同じ議論を当てはめる。すなわち R1 ( x ) を、 x = a に おける値 R1 ( a ) と余剰項に分割する: R1 ( x ) = R1 ( a ) + R2 ( x ) " ( x ! a ) ただし、 x = a における R1 ( x ) の値は、極限値 R1 ( a ) # lim x $a f ( x ) " f (a ) = f !( a ) x"a で定義されているものと考える。 これより(11.1)は f ( x ) $ f ( a ) + f #( a ) " ( x ! a ) + R2 ( x ) " ( x ! a ) 2 (11.2) と書かれる。最後の項を無視すれば、この形はすでに高等学校の数学でお馴染みであろう。 この式も、単に R2 ( x ) という関数を定義しただけであるので、何も近似は行っていない。 <ste p 3> (11.2)式に対して step 2 の議論を繰り返す。すなわち、 R2 ( x ) = R2 ( a ) + R3 ( x ) " ( x ! a ) と置いて(11.2)に代入する。ここで R2 ( a ) はロピタルの定理より、 1 { f ( x ) # f ( a ) # f !( a ) $ ( x # a )} ( x # a)2 f !( x ) # f !( a ) 1 = lim " f !!( a ) x %a 2( x # a ) 2 R2 ( a ) " lim x %a (11.3) であると解釈して、 f ( x ) $ f ( a ) + f #( a ) " ( x ! a ) + 1 f ##( a ) " ( x ! a ) 2 + R3 ( x ) " ( x ! a ) 3 2 M 同じことをさらにもう一回やれば、 f ( x ) $ f ( a ) + f #( a ) " ( x ! a ) + 1 1 f ##( a ) " ( x ! a ) 2 + f ###( a ) " ( x ! a ) 3 + R4 ( x ) " ( x ! a ) 3 2! 3! となることは、容易に確かめられるであろう(各自確認せよ!) 。 71 このような手順を次々に n + 1 回行うと、関数 f (x ) は n 次の多項式と余剰項の和の形に書 けることがわかる: n 1 (k ) f ( a ) " ( x ! a ) k + Rn +1 ( x ) " ( x ! a ) n +1 k = 0 k! f ( x) = # (11.4) 一般的に確かめたい諸君は、数学的帰納法を用いて確認すると良い。 x = a における余剰項 の値は Rn +1 ( a ) = 1 f ( n +1) ( a ) ( n + 1)! である。 このような手続きが際限なく実行できるためには、与えられた関数 f (x ) が x = a の近傍 で、何回でも微分できなければならない。ここでは、これを暗黙のうちに仮定してきた。 この仮定の下で、 Rn+1 ( x ) は連続な関数であるので、 x = a の近傍では、 Rn+1 ( a ) の値と同 程度の大きさである。 従って、高次の微係数 f ( n+1) ( a ) が特に n と共に大きくならなければ、 n を大きくすることにより、剰余項はいくらでも小さくなると期待できる。 n " ! の極限 で剰余項が消えることを期待して、上の操作を無限回繰り返せば、 f (x ) は多項式でなく、 ( x ! a ) の冪級数であらわされることになる。これを、 「点 x = a の周りのテイラー展開」と 呼ぶ: f ( x) = $ # n =0 1 (n) f (a ) " ( x ! a ) n n! (11.5) 特に a = 0 の場合、すなわち原点の周りでのテイラー展開を、マクローリン(Mclaugllin) 展開と呼ぶ。 f ( x) = # " n =0 f ( n ) ( 0) n !x n! (11.6) 注意1 実際には x が a からあまり離れると、 ( x ! a ) の高次の冪が大きな値になるため、テイラー 展開は発散級数となることが多い。収束する級数が得られる最大の | x ! a | の値を、収束半 径という。 注意2 テイラー展開の収束が良い場合には、展開を有限で打ち切っても、良い近似でもとの関数 と一致する。実際にテイラー展開が使われるのは、ほとんどこのような場合である。 72 11. 2 例題 1 テ イラー 展開の 応用 関数 f ( x ) = sin x を、 x = ! / 2 の周りで3次までテイラー展開せよ。また、展開 のそれぞれの次数で、結果のグラフを描き、比較せよ。 例題2 x 関数 f ( x ) = e cos x を、4次までマクローリン展開せよ。また、展開のそれぞれ の次数で、結果のグラフを描き、比較せよ。 73 関数 f ( x ) = 1 + x をマクローリン展開せよ。 例題3 <解答> f ( x ) = (1 + x )1 / 2 f "( x ) = 1 (1 + x ) !1 / 2 2 f ((( x ) = 1 ' 1$ !3 / 2 % ! "(1 + x ) 2 & 2# f ( 3) ( x ) = 1 ' 1 $' 3 $ !5 / 2 % ! "% ! "(1 + x ) 2 & 2 #& 2 # M 1 ( 1 %( 1 1 " 3 " 5L ( 2n ! 3) % (1 % f ( n ) ( x ) = & ! 1#& ! 2 # L & ! n + 1#(1 + x )1 / 2!n = ( !1) n !1 (1 + x )1 / 2!n n 2 ' 2 $' 2 2 $ '2 $ したがって、 f ( n ) (0) = ( "1) n ( 2n " 3)!! ( n ! 1) 2n # であるから、 f ( x ) = 1 + " ( !1) n n =1 、 f ( 0) = 1 ( 2n ! 3)!! n x 2 n n! ****************************************************************************** 一般に、任意の非整数の m に対して、 (1 + x ) m = 1 + mx + m( m ! 1) 2 m( m ! 1)( m ! 2) 3 x + x +L 2! 3! (11.7) は覚えておくと良い(2項定理と良く似ていて覚えやすい)。この他に、今までに覚えたマ クローリン展開として (1 ! x ) !1 、e x 、sin x 、cos x があるが、これに(11.7)を加えると、 ほとんどの関数のテイラー展開は、これらの組み合わせで得ることができる。 例:例題2の別解 ( * (1 + i ) n n % e x cos x = Re{e x e ix } = Re e (1+i ) x = Re ') x $ & n =0 n! # !2 3 !4 4 "1+ x + x + x 3! 4! 74 例題4 4 15 を小数点以下第4位まで求めよ。 <解答> 4 15 = 4 16 ! 1 = 2(1 ! 1 / 16)1 / 4 公式(11.7)を用いると (1 ! x )1 / 4 = 1 ! 1 1 / 4(1 / 4 ! 1) 2 1 / 4(1 / 4 ! 1)(1 / 4 ! 2) 3 x+ x ! x + L 4 2! 3! であるから、 4 1 3 7 1 1 & 1 1 1 3 1 1 # 15 = 2 ' %1 ) ' ) ( ( ' 2 + ( ( ( ' 3 + L" 4 4 4 6 16 $ 4 16 4 4 2 16 ! 問題 11. 1 次の数値を小数点第4位まで求めよ。 (1) 3 15 (2) 5 250 cos 44 o を少数第4位まで求めよ。 問題 11. 2 問題 11. 3* 関数 f ( x ) = cos x を、公式(12.5)を用いて x = ! / 2 の周りで4次までテイラ ー展開し、次数による段階別に結果のグラフを描け。 問題 11. 4* f ( x ) = tan !1 x をマクローリン展開することにより、次を証明せよ " 1 1 1 = 1 ! + ! L + ( !1) n + L 4 3 5 2n + 1 75