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ここ - 九大数理学研究院

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ここ - 九大数理学研究院
テイラーの定理について
植田 好道(うえだ よしみち)
大学院数理学研究院
5/29/2005
1.モチベーション. (テイラー)Taylor 公式とは多項式ではない関数をあたかも多項式のよ
√
うに扱うことを可能にする魔法です.例えば,皆さんは x (x > 0), ex , log x (x > 0), sin x,
cos x, etc. と様々な多項式以外の関数を知っていますが,これらの関数を取り扱うのは簡単で
はありません.実際,(sin x)′ = cos x を求める際に必要になる極限公式 limθ→0 sinθ θ = 1 な
どは直接計算して示される代物ではなくて,sin x の定義に立ち戻った考察が必要でした.他
方,多項式 p(x) = an xn + an−1 xn−1 + · · · + a1 x + a0 の微分積分は (xn )′ = nxn−1 の事
実だけを使って自由に計算することができました.しかも,(xn )′ = nxn−1 の事実は因数分解
(x + h)n − xn = (x + h − x)((x + h)n + (x + h)n−1 h + · · · + (x + h)hn−1 + hn ) の事実だけから
素直に計算できます.
そこで,多項式とは限らない関数を多項式でだいたい置き換えることができれば計算がかな
り楽になって,ある程度の誤差を許して扱うことのできる問題ならば新たな知見をもたらしてく
れることが予想できます.このアイディアを現実のものにするのがテイラーの公式なのです.
2.テイラーの定理の導き方について. 教科書とは異なる(講義とも異なる)導出を説明しま
しょう.教科書・講義とは異なって与えられた関数 f (x) が n 回微分できるだけでなく n 階導関
数 f (n) (x) が連続であることも仮定しましょう.微分積分の基本定理を使って
∫ x
f (x) = f (a) +
f (1) (t)dx
a
′
と表わされることに注意します.f (1) (t) = (−(x − t)) f (1) (t) に注意して部分積分をすると,
[
]x ∫ x
f (x) = f (a) + −(x − t)f (1) (t) +
(b − t)f (2) (t)dt
a
a
∫ x
(1)
(t − x)f (2) (t)dt
= f (a) + f (a)(x − a) +
a
(
)′
と計算されます.次に, − 21 (x − t)2 = (x − t) に注意して部分積分を更にすると,
[
]x ∫ x
1
1
2 (2)
f (x) = f (a) + f (a)(x − a) + − (x − t) f (t) +
(x − t)2 f (3) (t)dt
2
2
a
a
∫ x
1 (2)
1
(1)
2
= f (a) + f (a)(x − a) + f (a)(x − a) +
(x − t)2 f (3) (t)dt
2
a 2
(1)
1
となります.以下,同じ操作をくり返すのですが,
(
)′
1
1
− (x − t)3 = (x − t)2 ,
3!
2
)′
(
1
1
− (x − t)4 = (x − t)3 ,
4!
3!
(
−
···
)′
1
(x − t)n−1
(n − 1)!
=
1
(x − t)n−2
(n − 2)!
に注意すれば,
f (x) =
n−1
∑
k=0
b
∫
f (k) (a)
(x − a)k + R(x),
k!
1
(x − t)n−1 f (n) (t)dt
(n − 1)!
R(x) :=
a
となります.即ち,f (x) を「多項式+おつりの部分 R(x)」と表わすことができました.但し,
0! := 1 と定めてあります.
また,a = 0 として
f (x) =
n−1
∑
k=0
∫
x
R(x) :=
0
f (k) (0) k
x + R(x),
k!
1
(x − t)n−1 f (n) (t)dt
(n − 1)!
としたものをマクローリンの定理(マクローリンの公式)と呼ぶのが普通です.
3.おつりの部分 R(x) について. ちっとも明らかではありませんが,おつりの部分
∫
b
R(x) :=
a
1
(x − t)n−1 f (n) (t)dt
(n − 1)!
に関して次のようなことが f (n) (x) が連続であることだけを利用して示すことができます:
• x と a の間の数 c が
f (n) (c)
(x − a)n
n!
を満たすように取ることができる.より強く c ̸= a 且つ c ̸= x とできる.
R(x) =
• 極限公式:
lim
x→a
R(x)
=0
(x − a)n−1
が成り立つ.
2
特に,1 ≤ k ≤ n − 1 に対して,
lim
x→a
R(x)
R(x)
= lim (x − a)n−k−1 ·
k
x→a
(x − a)
(x − a)n−1
R(x)
= lim (x − a)n−k−1 × lim
x→a
x→a (x − a)n−1
=0×0=0
が成り立つことは重要なことです.
4.計算&応用例その1. (ex )′ = ex に注意すると,
ex =
n−1
∑
k=0
1 k eθx n
x +
x ,
k!
n!
0<θ<1
とマクローリン公式が容易く計算できます.さて,
n
∑ xk ¯
¯ x n−1
¯ = eθx |x|
0 ≤ ¯e −
k!
n!
k=0
|x|n
n!
(n → ∞)
≤ max{1, ex } ×
−→ 0
により
ex = lim
n→∞
n−1
∑
k=0
∞
∑ xk
xk
=
k!
k!
k=0
が得られます.このように「無限和版多項式」で与えられた関数を表示することを「テイラー展
開 or マクローリン展開する」といいます.上のものは ex のマクローリン展開です.特に,
e=
∞
∑
1
k!
k=0
です.これから,
∞
e=1+1+
∑ 1
1
1
+ + ··· 1 +
=3
2! 3!
2k−1
k=1
なので,2 e 3 が分かります.
√
「e は無理数だ」 高校で 2 が無理数であることを示したのと同様に背理法を使います.e =
(m は整数,n は自然数)と仮定して矛盾を導きます.マクローリン公式により
e=1+1+
1
1
1
eθ
+ + ··· +
+
,
2! 3!
n! (n + 1)!
3
0θ1
m
n
となります.e =
m
n
0
に注意して
eθ
eθ
= n! ×
n+1
n!
{
(
)}
1
1
1
= n! × e − 1 + 1 + + + · · · +
2! 3!
n!
{
(
)}
1
1
1
m
= n! ×
− 1 + 1 + + + ··· +
n
2! 3!
n!
= m(n − 1)! − n! − n! − (n · · · 3) − (n · · · 4) − · · · − n − 1
となって
まり
eθ
n+1
eθ
n+1
θ
e
が 0 より真に大きい整数であることが分かり,故に, n+1
は実は自然数です.つ
≥ 1 です.これから,0 θ 1 であるので
e eθ = (n + 1) ×
eθ
≥ (n + 1) × 1 = n + 1
n+1
となって,e 3 であることは分かっているので n + 1 3.つまり,n 2 です.n は自然数な
ので n = 1 となってしまいます.つまり,e = m となってしまいますが,既に,2 e 3 であ
ることが分かっているのでこれは矛盾です.
5.計算&応用例その2. テイラー公式は不定形 “ 00 ” の極限の計算に威力を発揮します.
(1) cos x のマクローリン公式を計算してみましょう:
cos x = 1 −
すると,
cos x − 1 +
lim
x→0
x4
x2
2
x2
x4
+
+ R(x),
2!
4!
= lim
x4
4!
x→0
lim
x→0
R(x)
= 0.
x4
+ R(x)
1
1
1
R(x)
=
+ lim
=
+0=
4
4
x→0
x
4!
x
4!
4!
と計算できます.
(2) ex のマクローリン公式
ex = 1 + x + R(x),
を使えば,不定形の極限 limx→0
ex −1
x
lim
x→0
R(x)
=0
x
が
x + R(x)
R(x)
ex − 1
= lim
= 1 + lim
=1+0=1
x→0
x→0
x→0
x
x
x
lim
と計算できます.
4
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