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魔法学園を自主退学しました

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魔法学園を自主退学しました
《フェードアウト!》成績が最下位で選択を迫られたの
で、魔法学園を自主退学しました【連載版】
薫る柚茶
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
︽フェードアウト!︾成績が最下位で選択を迫られたので、魔法
学園を自主退学しました︻連載版︼
︻Nコード︼
N7292CT
︻作者名︼
薫る柚茶
︻あらすじ︼
完結済み。そして︽成績が最下位で魔法学園は自主退学してきま
した︾を新たに連載してます。
以後此方は更新しない予定です
︻以下あらすじ︼教師は、まともな論文を書けない者は学園にいら
1
ないのだと一人の生徒に告げた。在学中は徹夜の研究のおかげで目
の下からクマが絶えた事がないが、一向に成果が上がらない。度重
なる論文の再提出に心身ともに疲弊していたアティアは、教師に引
き止められる事に僅かながら期待しながら渡されたカギ︵・・︶を
握りしめる。
荒野に降り立ったアティアだが、物語は学園物。残された学園教師
や関係者の忙しいような忙しくないような物語。
まぁ色々辻褄があわないのはコレが下書き用だからとでも思ってく
ださい。
︻作者の一言︼
なんで検索除外になってて閲覧者増えてるんだ⋮
2
甘い覚悟と落ちこぼれのカギ︵前書き︶
短編の説明が物足りないと多数の指摘を受けたので過程を追加しな
がら話を進めていく予定です
3
甘い覚悟と落ちこぼれのカギ
﹁では、本日の授業をおわる。生徒アティア、お前は提出物の事で
生徒指導室に呼び出しがかかっている。﹂
﹁⋮またですか﹂
鈍く輝くぶ厚いメガネ。
その下に、濃いクマをこしらえた生徒が反射的に声を上げる。
﹁また、とはなんだっ!返事をしろっ!!後で必ず顔を出すように
っ!﹂
﹁はい、わかりましたアレクセイ教師﹂
授業終了の合図と伝言を残した教師は﹁給食より先だぞ﹂と退出す
る。
ガックリとうなだれると赤茶の髪がザラザラと机に落ちた。
その下で瓶底のようなレンズがついた眼鏡を外し自らの頭を抱え込
む。
﹁⋮なんだ、またアイツ呼び出しくらったのか﹂
﹁提出物って論文の事だろ?どれだけおかしな事を書いたら呼び出
されるんだ﹂
﹁だから、真面目に書く気ないから怒られてるんだろ﹂
4
﹁やだやだ、さっさと行ってこいよ﹂
と突き返さ
クラスメートの、つまらなそうな反応。それが納得出来るほどの頻
特定の人物と内容が酷似している
度にはアティア自身が呆れてしまう。
提出物の内容が、
れ、期限ギリギリまで徹夜して、書き直した結果までこれだ。
呆れたくらいで内容がどうにかなるなら、アティアが苦労する必要
は何もない。
入学して以来、何一つとして上手く行ず、魔法研究そのものが、ど
うでもよくなる事が増えてきていた。
この世界には魔法が存在していて誰もが魔力を持って生まれてくる。
国が魔法使いと認める素質があるのは数百人に一人いるかいないか
程度。だけど、魔法を学ぶ学園や施設が存在し、魔法学が重要な学
問の一つであると認識されている。
◇以後アティア視点◇
私も市井出身ながら学園に入学出来る程度には魔力が使えた。
ただ、同じ年に入学した生徒達の何人かは間違いなく天才、それ以
外の生徒も、総じて優秀であると言われている中、私の評価は最も
下。
入学してから、生徒指導室への呼び出しが絶えず、学園始まって以
来の問題児と、笑い者にしてくれたらいっそ楽なんだろう。
5
だだ、魔法自体は得意ではないが、自分なりに魔法を考察する事は
嫌いではなかったから論文は真面目に書いた。
でも、実験が足りないと私の論文はいつも再提出を言い渡されてし
まう。
誰かが内容的には全く同じ内容でもっと内容の濃い論文を提出して
いるので、同じ事では認めてもらえないのはいつもの事だ。
天才と呼ばれる第三王子と侯爵子息達が私より先に提出している場
合がほとんどで、内容は私より突き詰められ洗練された完成品度が
高い。特定の誰か︵・︶と同じ研究しかできない現実に、最近は実
こういった物があれば、こんな実験が可能であるのではないか
験による論文というより、個人で実験できる範囲を超えてこうした
ら
といった空論を交え描くようになってしまった。
しかし、そんな物が確実性を求める学生の論文としては受理される
はずも無いようで、結果的に当たり障りのない普通の論文をいくつ
も書き下す。
最近では教師達は﹁この程度の物しか書けないのか﹂と呆れている。
どうせ、奇抜な論文を書いた所で先を越されているのだから、無駄
な金の消費を抑え、完成品を読ませてもらうに限ると、突然思いつ
いてから、それらの分野への研究対象としての興味を失った。
でも、最近は天才達の論文が展示される回数が減ってしまったから
残念だ。
﹁真面目に論文を書けないのか﹂
﹁真面目に書いたつもりです⋮﹂
6
﹁ふざけるなっ!こんなものが人前に出せると思っているのかっ?
!﹂
教師が私に投げつけたのは、昨日私が提出した論文だ。
内容としては奇抜さもなくありきたりな纏まり方が出来たのだが、
やはりお気に召さないらしい。
と言われて
﹁私は、以前書いていた魔法力学の纏めになる論文を書けば退学は
王子殿下が同じ研究を続けている
取り止めにしてやるといったんだ﹂
﹁ですが、それは
作り直しになりました。
私が研究したモノより洗練された論文が提出されると推察されるの
で、あれから考えるのをやめてしました。
あの論文以降、必要になる機材を買えるだけの資金もありませんし、
書けと言われても書けることがありません﹂
・・
研ぎ澄まし、なお究めるのが研究である。
昨日今日で、結果がでるような実験に興味はありません。
﹁⋮あれほど、細部まで研究した事を放棄する訳ないだろう?出し
惜しみ︵・・・・・︶をしてるつもりかもしれないが、魔力までも
が最低レベルまで落ち込んでいる取り柄のない君が、我が学園を卒
業したとなれば、担任はもちろん教頭である私や、学園長すら恥を
掻くのだと何度言えばわかるのだね?
今君がこうして私と話ができているのも我々の恩情で在学させてい
るが、今の君では途中退学も十分ありえる。
今ここ
破壊して生徒としての登録をなかった事にしたほうがいいとは
⋮我々としては、誇りある学園生の証であるその腕輪を、
で
7
思えないかね?﹂
そこで教師は私に向かって﹁君はどうしたらいいと思う?﹂とカギ
私に握らせ訪ねてくる。
このカギが私に渡されるのは、これで何回になるのだろうか。
学園から止めさせるのは簡単なのでしょうが、手をかけ尚見込みの
ない生徒に退学を勧めて︵・・・︶くれているのだ。
私の左手には、学園生徒の証であり、魔力を楽に制御する為のオリ
ハルコンと言う稀少で高価な素材で出来た腕輪がある。
この腕輪のお陰で、学園の結界からはじき出されないでいられる。
それは才能のない者にはそれとな
学園生徒として、衣食住が保証された、安全な暮らしの中で生きら
れているのだ。
担任にカギの事を話した時に、
魔法力学の過去の纏め
と、教えてくれた。
く渡し、後悔がのこらないよう自らに選択させて生徒としてのケジ
メをつけさせるためのカギだ
﹁そう例えばの話だが、実験をしなくとも
くらい書けると思えないかいね。もし、キミがそれを書いてみた
キミには間違い
と口を大にして皆を説得し、何があっても今後は
いと言うのであれば、教頭の私としては学園側に
なく素質がある
学園側から辞めさせようだなんて言わせないだろう。
⋮それとも、そのカギを差し込んで動かして自主退学してみるのか
ね?﹂
どうせ、私の考えなんて殿下方にはかないません。
8
﹁⋮﹂
魔方力学の論文を提出した所で、殿下の論文と比べて細部が不足し
ていると指摘され笑われて終わるだけ。
渡されたカギを腕輪に差し込み回す。
カチャリ。
覚悟の割に呆気なく腕輪はそのまま床に落ちる。
いや、その覚悟ももしかしたらこのカギが偽物で教師が私のを試し
ていたのだと、笑って話してくれることを期待していたのだから、
覚悟が甘かっただけかもしれない。
﹁⋮な、にを﹂
床に溶け消えた腕輪に教師が戦慄いている、もしかしたら、教師も
腕輪が消えてしまうとは思っていなかったのかもしれない。
自ら外し、消えてしまった腕輪に、私は未練がましく手を伸ばして
いた。
みっともない、後数秒もしない内に外へ弾き出される部外者でしか
ないのに。
そして、自ら腕輪を外した者は二度と戻ることは赦されない。
﹁いままで、ありがとうございました﹂
9
自らの気力を振り絞り教師に礼を告げる。
﹁バカなっ!正気か貴様っ!?﹂
教師の言葉が終わるより先に、私は部外者を強制排除する魔法に異
物として認識され、学園から姿をけした。
◇
次に目を開けた時、私は一人だけで荒野に立っていた。
﹁⋮終わっちゃったかぁ﹂
ペタンとその場に座り込む。
自主退学とはいえ、実質的には追放処分に近い状況だから、二度と
学園生には会えない寂しさはある。
ただ、巻き込まれたくないとクラスメートですら口を聞いていなか
ったので、学園に知人すらいないのだが⋮。
腕輪を通し結界に力を注いでいたから、学園の結界に阻まれずに敷
地に入れていたのだから近くにいくだけならともかく、いままでの
ように中へ入る事は叶わないだろう。
私は他より魔力がひくかったのか大半の魔力を腕輪に持ってかれて
いたが、落ちこぼれながら、中級を一発だけならば昏倒せずに魔法
を使える。
今からは、身を守るために魔法を使っていくしかない。中級でもダ
10
メな敵が来たなら、せめて痛くないように魔力を使い切って先に昏
倒してしまおう。
﹁とりあえず、川を目指そう。﹂
独白し南に足を向ける。
北には山、南は延々と視界のよい平原だけが続く。
山に向かえば食べ物が手にはいるかもしれないが、それより草原を
行ったほうが人に早くあえるかもしれない。
ぐるくるくきゅ∼
歩きだそうとした所で腹が空腹を訴えかけてきた。
﹁残念なお知らせです。給食を逃してしまったみたいです﹂
毎日その日の授業が終わった後に、学園内で給食が配られる。食堂
で食事ができるのは家位や成績が生徒だけだが、食堂の外ではメイ
ンを抜いたパンとスープが配膳がされているので成績が最下位であ
っても食いっぱぐれる事はないのに、それを食い逃してしまった。
そこらの草でも食べながら歩けばいいだろうが、学園の豪華な食事
を最後に食べ納めしたかったと後悔する。
懐に仕舞われた手銭もいつ使えるかわからない。
そうなると、食べれる草を見つけたらこまめに口にするしかない。
野生の何かを捕まえて焼いて食べるのは多分難しい。
11
﹁私は、生きて人里にたどり着けるんだろうか⋮﹂
その呟きは、草原の風の音に流され消える。
そして、アティアは迷う事なく山に向かって歩き出した。
12
一人たどるは
﹁おう、おつかれさん﹂
﹁あの、街に入りたいのですが⋮﹂
街についた私は、開け放たれた門の近くで、イスに座っていた兵隊
さんに話しかけられる。
中年か青年か微妙な感じの年齢の男の人だが、にこやかに出迎えて
︵・・・︶くれた。
﹁おう、通っていいぞ﹂
﹁え、身分証とか見なくても大丈夫ですか?﹂
提示する腕輪がないので、その身分証もないですけど。
﹁お前さん都会の出身か?この辺りじゃ魔物じゃなければどこ行く
にも自由なんだぞ﹂
﹁そうなんですか?﹂
この辺りので、市場があるような街はここだけなので、物流の妨げ
にならい方が町の利益になると、領主さまは通行税を取らない方針
なのだそうです。
因みに、身分証も村長やその家族くらいしか持っていないとの事。
13
﹁いやいや、それよかだいぶ前から見えてたけどな。そんな貧相な
装備で、よく草原を歩いてこれたもんだと逆に感心したわ﹂
貧相と言うより、何も持ってないと言った方が正しいですね。
山では、ロープのかわりになるツタと木の実しか手に入れられませ
んでしたし。
今着ている学園支給のローブの4つポケットの中には、山で拾った
木の実をはちきれんばかりに大量に詰め込んで歩いてきました。
それがなくては、この草原を歩き抜くのは難しかったでしょう。
﹁面白い格好で歩いてきたと思ってたけどポケットに何入れてんだ
?﹂
兵隊さんと話をしている今でも、大きなポケット二つから木の実が
こぼれ落ちないように抑えています。
﹁クラカオという木の実ですが食べますか?﹂
﹁お前、木の実なんて人に勧め⋮、ってクラカオってのはココアの
実の事か﹂
﹁主食でした﹂
14
兵隊さんに渡したのは、学園から実験用などの素材として、無料で
提供されていた、ドングリのような木の実。
殻を剥けば生で食べれて、いくつかの工程を超えて、やっと実験用
の素材になるのだ。
大量に加工し、幾つかが使いものになる程度の成功率なので、多少
誰かが食べてしまった所で、バレたりはしない。
私に取っては食べ慣れた夕飯で︵・︶お夜食。
﹁クラカオが貰えるなら、いくつか貰っていいか?﹂
﹁どうぞ﹂
﹁いや、ありがてぇ最近市場にないから、なかなか口にする機会な
くてよ﹂
﹁これ、苦いですけど美味しいですよね﹂
兵隊さんに渡した後、殻を剥いて私は自らの口に入れる。
﹁⋮普通はお湯で溶かして飲むんだぞ?﹂
こちらではクラカオではなく、乾燥させ粉末状にしてからお湯とで
溶かし砂糖を入れて飲んだりするらしいです。
私は常に生でしたから、今度試してみましょう。
︱そして、このココアとの出会いにより、私は度々その山に足を向
ける事になる。
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﹁んで、ボウズ︵・・・︶は、一体何しにこんな所まできたんだ?﹂
﹁へ?﹂﹁いや、遠くから来たんだろ?この辺りの人なら、だいた
い顔わかるからな。変わった服も着てるから、なんとなくそうじゃ
ないかと思ったんだが⋮﹂
﹁いえ、今ボウズって⋮﹂
﹁なんだ、いっちょ前にそんな事気にしてんのか?﹂
からかうように兵隊さんが笑っているが、私は断じてボウズではな
い。
﹁⋮私、女です﹂
﹁⋮⋮⋮嘘だろ?﹂
﹁本当に女なんです﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なにか昔に事件に巻き込まれて盗賊かカッパに玉を取ら
れ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁てません﹂
盗賊は玉どころか命ですし、カッパはシリコダマですよ?
﹁⋮⋮⋮﹂
そして、兵隊さんは﹁そうか﹂と言葉を残し詰め所の中に歩いてい
く。
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いえ、わかっています。
兵隊さんに罪はありません。私の見た目だけじゃわからない身体と
外見が悪いんです。
今思い起こせば、女らしく髪を伸ばしていたのに、教師達やクラス
メートですら男と思っていたような気もしました。
せめて、女らしく髪を伸ばしていたのに、キモイだとか不気味だか
お嬢さん
いい
笑顔で
、こちらの詰め所なる場所で話を伺っていい
ら髪を切れとか言われましたね。
﹁そこの
ですか?﹂
顔をあげると、先ほどの兵隊さんが、それはそれは
手招きしておられました。
なかった事にしたようです。そこはかとなく腹が立ちますね?
﹁生きてりゃ色々あるさ﹂
ボウズのまま黙っていた方がよかったかも知れませんね。
兵隊さんに連れられて中にはいると、兵隊さんより騎士さんと言っ
たイメージのおじ様が座っていました。
黒髪を短く切りそろえたダンディズムなお髭様です。
この騎士様を、そこらのおじさんと同列に扱えるほどに女を捨てて
ません。
でも、女を感じるかと問われれば否であると答えます。
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魔石の元になる魔素の粒子が、培養器具に物質として定着していく
様を見つめている時の方が、きっとドキドキしてしまうでしょう。
﹁そちらが?﹂
・・・
﹁そうです、草原を歩いてきた女の子です﹂
﹁アティアと言います﹂
おじ様に会釈をしながら自己紹介をする。
﹁そうか、私は責任者のルーベンスだ﹂
﹁おれは、ルイスです﹂
騎士さんの後に、さり気なく兵隊さんも自己紹介している。
﹁お嬢さんは、メガネを外したら見えないのか?﹂
お嬢さん
って呼ばれるのは恥ずかしい事な
﹁見えない訳ではないのですが、ボンヤリとして輪郭がハッキリし
ないので⋮﹂
呼ばれ慣れてないと
んですね。
﹁もしよかったらだが、そのメガネを一度外して貰ってもいいかい
?﹂
18
﹁クマが酷いのですが⋮﹂
メガネを外すのは構いませんが、学園でも見られた事はありません
し、素顔を見られるのは、何か恥ずかしいんですよね。
﹁では、どうぞ﹂
外した途端に詰め所の中に沈黙が落ちた。
﹁ありがとう、思った通りだ﹂
なぜか、騎士さんから感謝された。
﹁ルイス!呆けてるくらいなら、さっさと持ち場に戻れ!﹂
﹁了解です?!ってあんなんであれってアリなのか?!﹂
騎士さんの言葉に返事をし、なぜか混乱したまま詰め所から出て行
く兵隊さん。
﹁隊長っ!いくらなんでも手を出したらいけませんよっ!?﹂
﹁誰が出すか!﹂
声だけで、怒鳴るようにやり取りをしている二人。
﹁見苦しい所をすまないね﹂
﹁いえ、お構いなく﹂
19
私の目の下のクマに比べたら大概の事は、なんて事はありませんよ。
﹁それで、君のような女の子が草原を歩いてきた事情はなんだい?﹂
話したくなければ話さないでいいと言ってくれましたが、万が一学
園からなにか通達があったるするかもしれまへんし、誤魔化してお
いていいような話でもないので正直に打ち明けます。
﹁⋮なるほど、そう言った事情ならばウチ︵・・︶で君を預かろう﹂
騎士様は家族と暮らしているが部屋が余っているのだそうだ。お嫁
さんと、十三と九歳の息子二人。同じ敷地内にある小さな別棟で御
両親と祖父が暮らしているらしいが、宿屋とかではなく騎士さん宅
であれば、私と即座に連絡がつくからという理由らしいですけど、
手銭がない私からしたらまさしく騎士様が窮地に駆けつけた英雄の
ように神々しくみえました。生憎、イケメンではなく中年にさしか
かったゴツめな騎士様ですが、優しくされると惚れてしまいそうで
す。
︱ですが。
﹁お待ち下さい。それはそれで後々問題があると思います﹂
騎士様は士族や騎士爵ではなく、本当の貴族の騎士様なので、家に
泊まるだけでも私にかなりの負担がかかりそうです。
マナーとか服装とか食費とか食費の問題もありますから、慣れる前
に気疲れしてしまうのが想像できます。
20
魔法学園でも、食堂を利用していた貴族さま位しかマナーに気を使
っていませんでしたから、私のような者は給食なんか中庭で座って
すませていましたし、大問題だと思うのです。
その辺りを交えた話を、ルーベンス様としていきます。
﹁それじゃあ、警備隊で雇い、下宿先には幾つか心当たりがあるか
ら、我が家の滞在は下宿先が決定するまで堪えてもらえるかね?﹂
いえ、数日なら宿屋でももたないことはないんですが⋮
﹁⋮それとも私は信用できないかい?﹂
﹁そんな事はありません!﹂
私の煮え切らない態度に、ルーベンス様が悲しそうに言われたので
慌て否定します。
就職先まで確約してくれたルーベンス様。問題はそのお宅に数日間
だけとはいえ寝泊まりする事だけです。
﹁では、それで決定と言うことでこれから進めさせてもらっていい
ね?﹂
﹁はいっ!宜しくお願いします﹂
故郷を売られるように離れて以来の暖かい人間関係に涙がでてしま
いそうです。
魔法学園に入学する市井の者は、外との関わりを一度切られ学園に
21
・・
保護されることになります。
・・
村を出た時に、役人様が両親にこれまでの生活費と保証金を渡して
いましたから、私の家族との繋がりは無いものと見ていいでしょう。
学園からは不要と明言されて、自ら学園を退学してきた私が戻って
お父様
と呼んでく
も、向こうも私も困るだけだと思うので、私がどこで生きていても
不都合はないはずです。
﹁身元は私が保証するのだし、気が向いたら
れてもかまわないからね﹂
私の返答に、ルーベンス様がにこやかに仰られております。
﹁⋮おと﹂
さすがに、お父様と呼ぶのは如何なものかとは思いますし、これか
らお世話になる奥方様や子息さま達に申し訳いです。
血の繋がりのない貴族さまをお父様とお呼びするだなんて、他人か
年上
で諦
ら見たらきっと﹁なんて図々しい小娘だ﹂と思われますよね?
﹁大丈夫、家内も娘が欲しいと言っていたが、私より
めていたところだから、きっと彼女も喜んでくれるさ﹂
⋮人の優しさが本当に身にしみる今日この頃です。
22
失われし道︵裏話︶︵前書き︶
学園サイド、この後は当分出ない予定です。
23
失われし道︵裏話︶
昼を外食で済ませた恰幅のいい男性が自室に戻ると、自らの机は腕
輪に占拠されていた。
そう、学園長の机の上を腕輪が占拠していたのだ。
それも、今期の結界維持の要となっていた特別製で、もしこれを魔
力が少ない常人が触れてしまったとしたら、たちまち魔力が枯渇し
・・
てしまい、学園の中で最も魔力が高い学園長がソレを手に取る事を
躊躇するほどに危険な代物である。
この学園は常に結界に覆われている。
その結界を維持するには莫大な魔力が必要で、必要な魔力を集める
ため、生徒のみならず学園関係者全員に、腕輪という魔道具を渡し、
必要な魔力を魔法陣に常に集められていた。
一時的な結界魔法は、瞬間的に魔力を注ぎダメージや時間がくると
消えてしまう。
魔法陣による結界は、注がれる魔力が尽きるか魔法陣が破壊されな
い限り永続的に持続する。
生徒から集められる魔力は、魔力回復量のおよそ二割以下。
それが足りない年は魔石から漏れる魔力代用し年間で大くの量を消
費した記録もある。
その為、誰であっても結界内で使える最大魔力量が大幅に落ちてい
24
た。
そのため、以前は本人が思ったほどの魔力が使えずに成績が振るわ
ないまま卒業した生徒も多かったのだ。
しかし、今期は誰もが思うとおりとは行かないまでも、自由に魔力
を動かせた。
この腕輪の持ち主が、結界に必要な魔力の半分近くを一人で賄って
いたからこそ、他の生徒の負担が減り、魔法ギルドから今期の学園
生徒は優秀であるという評価がされていたのだ。
魔力のみならず、その生徒は天才すら超えて鬼才と呼ぶに相応しい
頭脳をしていた。
大規模な実験施設が必要になるであろう研究を細部まで考察し、莫
大な費用を用いてでも実験を行うだけの価値がありそうな論文、今
ではありきたりでわかりきっている研究を本ではなく、食費を削り、
一から基礎を実験して確認する呆れてしまうような知識欲。
だが、入学以来その人柄は奇抜ではなく至極穏やかであった。
その為、その生徒の力を存分に利用し国内での発言力を増してきた
学園。
この学園で作成された論文は、一つ残らず機密文書として国の研究
機関へ渡される。
その研究機関すら舌を巻くような内容を書き上げた者が消えた︵・・
・︶。
おかげで、結界の効力は弱体化し危険な状態が続いている。
25
﹁では、その者は生徒指導室に保管されていたカギを奪い取って自
ら腕輪を外したのですか﹂
﹁わ、私は必死に止めたのです。しかし、彼は私を引きずり倒し、
机の中のカギを奪い取って自ら⋮﹂
学園長に、当時の状況を説明しているのは生徒アティアの担任教師
である若い男。
﹁もういいでしょう学園長﹂
教師の弁明に口を挟んだのは、教頭でありアティアの学年の学年主
任である中年の男。
﹁話を聞く限り、生徒が暴走しただけで彼はあくまで被害者でしか
ありません﹂
﹁⋮生徒アティアを、呼び出していたのは貴方だと他の者から報告
されています。﹂
なぜ貴方ではなく教師が弁明しているのかも知りたい所だった。
﹁朝は︵・・︶確かに私でしたが、どうしても外せない用事が出来
ましたので変わって頂いたのですよ。生徒が居なくなったのは残念
ですが、侯爵が後押しする真面目な教師である彼に生徒が起こした
不祥事の責任を取れと学園として強く言えないと思えませんか?﹂
﹁彼は侯爵家からの紹介で雇う事になったのだったな、なら学園の
ためにも不問としておいた方がいいと教頭は考えいるか。﹂
26
﹁その通りです。今我々が論議するべき事は、結界に対してどう対
処するかが先決です。学長として、どうなさるおつもりですか?﹂
侯爵の後押しとは言い換えればコネの事だ。
生徒が奪い取れる場所にある生徒指導室のカギの保管のずさんさな
管理をしていた教頭にも責任があるのだが、そんな事はおくびにも
出さず、
逆に彼は現在の学園管理の不備の問題で学園長の責任を問う形で突
き返してきた。
・・
﹁わかりました。それなら今回の事は関係者の責任は不問といたし
ましょう。
この実験は破棄し、明日の朝の集会で生徒からの供給量を増やし結
界の緩みを補強しましょう﹂
﹁承知しました、では謝罪といってはなんですが、私と彼の二人調
整の呪文を作成させていただきたいと存じあげます﹂
それが本当に謝罪ならいいのだが、彼であれば有力貴族に連なる子
供の腕輪の負担は変更しないで通すつもりなのだろう。
﹁わかっていると思いますが身分成績を問わず全て︵・・︶の生徒
から回復量の二割です。それで足りなければ雑用に雇う︵・・︶人
員を増やして対応なさい﹂
嫌な話なのだが、教頭の指摘は確実にやらなければならない大事な
事だ。
27
なにより侯爵家は学園創設以来関わってきている大事な投資主で、
地下には足りない魔力を供給する為の奴隷を繋いでおく空間もある。
たかが実験のためにと歴代の学園が大事にし、私自らも懇意にして
きた侯爵との関係に皹を入れていい間柄ではない。
その理由を作る為に、教頭は責任を問われても致命的な事態になら
担任の失態
に作り上げたかはわからな
ない彼を、自らの人身御供に仕立てあげたのだろう。
どんな、事情を持ち出し
いが、生徒アティアを呼び出し実際に話をしていたのは教頭で間違
い無いのだ。
生徒アティアは、魔力の保有量は確かに多かったが、攻撃的ではな
いし魔法を苦手としていたのを知っている。
魔法より研究者向きなあの性格では、外で冒険者になった所で大成
はしないだろう。
腕輪の本人が居なくなったのならば実験のしようがない。生徒アテ
ィアが在学中の特例として認められた実験で、アティアが卒業して
しまえば通例通りの状態に戻す予定だった。それが早まっただけだ。
個人の魔力供給による結界維持と言うより、結界の負担が軽くなっ
た場合、生徒の成績の向上が見られるかを調べていた。
結果は否。
確かに実技は過去より大幅に向上したが、魔力供給が減ろうとも学
力には影響しなかった。
それがわかれば十分だ。
28
さて、優秀な魔法使いの卵が世に放逐されてしまった訳だが、王家
も魔法研究機関から王太子の論文を選出してる以上、あの生徒の存
在を明るみに出すことは望んではいないだろう。
腕輪が本人にしか外せない仕組みである以上、生徒が自ら外した事
に間違いないのだ。
だいたい、これ以上教頭の責任を追求する事は難しいなら、わざわ
ざ奴と顔を合わせている必要もない。
侯爵家のみならず王家にも独自に通じていると噂されるこの教頭が
いなければ、王太子卒業後の学園は、私が中︵権力︶を自由できる
というのに、全く持って忌々しい。
29
我が手は今でも
﹁とりあえず、ポケットの中の物はこれに移しておこうか﹂
﹁はい、ありがとうございます﹂
ええ、ルーベンス様と話してる間もポケットはパンパンのままなの
寝ても覚めても
この状態でしたね。
で、私はポケットからクラカオの実が飛び出さないように押さえつ
けていました。
いや、この4日間は
そのおかげで、それが当たり前になりつつあり自信の行動に疑問を
持っていませんでしたが、いざ人に指摘されると非常に恥ずかしい
です。
﹁いち、にい⋮﹂
片方につき30粒ほどで二つ合わせて七十粒のクラカオの実があり
ました。
⋮実だと数え方は個でしょうか?
でも、クラカオの実が一つあれば、ココアが三杯飲めるとルイスさ
んが言っていましたから、二百杯は飲める訳ですね。
クラカオのを移した袋を膝の上に乗せて一安心ですよ。
ポケットの内側はだいぶ薄くなってしまったようですが、学園の制
服のローブは礼服も兼ねているので今後もこのローブは大事に着て
30
いきたいと思います。
そんな私の様子に、ルーベンス様がなんとも言い難い表情をして﹁
⋮辛かったんだな﹂と呟いておりますが、草原での私を繋いだ唯一
のライフラインはコレだけでしたのでなんとなく手放せないのです。
実りある豊かな山に感謝してもしきれません。
そう言えば、4日間どころか、二年の在学期間中の後半は、毎晩こ
れだけでしたね。朝は牛乳とパンが配られて、昼は給食があったお
かげで体調不良になった事がないですね。
貴族さまが毎年のように今年はどこの地方が不作であると話をされ
ていましたし、村で暮らしていた子供時代は不作の年には、村全体
が飢えていた覚えもあります。
それを踏まえて考えてみると、5日前までの私はずいぶんと恵まれ
ていたようで羨ましいとさえ感じてしまいます。
﹁どちらにしても、同年代の若者と比べ君は痩せすぎているようだ、
嫌いな食べ物は在るかい?﹂
﹁︽パラー︾という川魚を発酵させた物が少し苦手ですが、他は多
分大事です﹂
魔法学園は内陸部にあるおかげで、寄生虫などもいましたし新鮮な
川魚は食べる機会がなかったのですが、その辺りの一般的に食べて
られいた発酵するまで塩漬けされた魚の瓶漬け︵かめづけ︶︽パラ
ー︾の味だけはどうしても抵抗が拭えませんでした。
その辺りの一般的に食べてられいた発酵するまで塩漬けされた魚の
31
瓶詰めの味だけはどうしても抵抗が拭えませんでした。
﹁パラーが苦手?﹂
﹁恥ずかしながら⋮﹂
学園ではサラダに和えられたりしていた当たり前の食品なんですけ
ど食べた後の口臭がたまらなく嫌でした。
﹁私も昔都会にある親戚のパーティーで口にしたことがあるが、あ
れを人の食べ物だと認定した時代が犯罪なんだろうね﹂
大瓶で漬けられたパラーを土産に渡されたが、処分が大変だったと
言う。
ルイスさんも壁の向こう側から﹁匂いは吐きそうだったけど、味だ
けなら悪くなかった﹂と話している。
罰ゲームで食べさせられたらしいですね。
学園周辺の冬はかなり寒くなる。寒いと臭気は抑えられるので、暖
かい地方の人間には口の中が辛くなる。
この辺りには、川魚は新鮮なものが手に入り、干し肉はまだしも、
生肉をわざわざ塩漬けにする文化はないそうなので食べ物に関して
は一安心といった所でしょうか?
﹁話もまとまった事だし今日はもう一緒にウチに帰ろうか?﹂
﹁はい?﹂
32
帰るって、まだルーベンス様はお仕事の最中なんじゃないですか?
﹁ルイス!﹂
﹁妙に張り切ってますが、どうかしましたか?﹂
﹁⋮茶化すんじゃない﹂
﹁わかってますよ。外壁周りはギルドから二組回されてますから、
スタンピートでも起こらない限りは隊長が居なくなっても十分対応
できます﹂
﹁なら、後は任せたぞ。﹂
﹁いえっさ。またねアティアさん﹂
・・
﹁はい、ルイス先輩ありがとうございました﹂
・・
﹁ルイス先輩、先輩か、先輩っていい︵・・︶響きだな﹂
ルーベンス様に手を引かれながらルイスさんとの別れをすまします。
警備隊に雇って貰えそうですしルイスさんは先輩になりますからそ
う呼んでみたのですが、ルイスさんは、私から見えなくなるまでず
っと噛み締めるように先輩の単語を反芻しておりました。
後々ルーベンス様から話を伺うと、先輩後輩の概念は学校のような
特殊な環境下に限られた空間でもないと発生しなく、警備隊の新入
りは実力が伴う男性ばかりで、新入りが入ると道具の扱いを教えた
りするうちに、師弟のような関係が構築されるのだそうだ。
33
だから、ルーベンス様は年下の少女から先輩と呼ばれた事が﹁おそ
らくルイスのツボにハマっただけだから気にする事はない﹂と歩き
ながら説明してくれたのですが、ルイスさんは上の空、ルーベンス
様は帰宅途中になってしまいました。
この街の警備はどうしてしまったのでしょうか。
﹁大丈夫大丈夫、警備隊は街の治安維持が目的だから、歩いて巡回
するのも大丈夫な仕事なんだよ﹂
門の近くに来た魔物以外は冒険者に任せているそうですが、普段は
冒険者も草原で狩りをしたり、近くに深いダンジョンが一つと、い
くつかの浅いダンジョンがあるらしく、冒険者達は定期的にダンジ
ョンに潜ったりしているそうですね。
学園では、的に向かって魔法を放つだけでしたし、今まで魔物と戦
うような事はありませんでしたから、ダンジョンと言われてもあま
りピンときません。
警備隊にはいるなら、平時に経験しておくのも大事な事だと、ルー
ベンス様が連れて行ってくれると約束してくれました。
討伐・斬撃・血湧き肉踊るダンジョンの参戦に、私はいきなり挫折
してしまいそうな予感がします。
﹁アティアは、魔法が使えるんだから後衛になるね﹂
そうですね、私の配置は自然とそうなりますね。
﹁警備隊から私が信頼出来る者だけを選出しておこう﹂
34
﹁そうなるとルイス先輩も⋮﹂
﹁いや、アイツは独身だから信用できん、愛妻家の冒険者か、私み
たいに妻の尻に敷かれた飲み仲間だけになるかな?﹂
ルーベンス様は尻に敷かれているのですか⋮。
年上の奥さんが居ると話してくれていましたが、そうなんですか。
﹁この辺りでは、街に居る経験豊富なベテランパーティーが若い冒
険者の教育をするのが普通だから文句はいわんさ﹂
﹁そうなんですか?﹂
﹁彼らとも、これから長い付き合いになるだろうから顔合わせも兼
ねてしまおうと思っているんだよ﹂
なるほど、ベテランさんと潜るのまた勉強ですか。
﹁浅いダンジョンなら私一人でも潜れるくらいだから汚らわしいゴ
ブリンもいないなら一人で連れて行ってあげるんだけどね﹂
ゴブリンはメスが足りなくなると、若い人間の女をさらって︽苗床
︾にすると云われていますから場合によっては危険である可能性も
あります。
でも、ダンジョンで発生したゴブリンは繁殖力がありません。
だから、負けてもゴブリンの糧になるだけ︵・・︶です。
35
生きるや死ぬの話は、私の想像では追いつきませんが気分がいい話
ではありませんね?
通常はゴブリンの巣は3:7や2/8でメスの出生率が高いらしい
ですから、通常の森などでみかけるゴブリンはアマゾネスらしいの
ですがね。
因みに、苗床や男女の営みについての意味は知っています。
魔力保有者同士による子作りの論文を模した卑猥本がありましたの
で事細かに行為の内容が記載されていました。
ちなみに私は、入学したばかりの頃に男性が私を男のつもりで夜這
いを仕掛けられ﹁おんななんて不潔よっ!﹂と言われたような⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ん?
いえ、何か大事な事を思い出しかけましたが、忘れてしまったよう
です。
36
高きを望む
なにわともあれ、ルーベンス様は勿論のこと、ルイス先輩にも感謝
です。
ルイス先輩がルーベンス様に会わせてくれなければ、宿はともかく
として、職探しをしなければならなかったのですからね。
でも、私なんかで警備隊員が勤まるのでしょうか?
私は、荒事には向いてませんし魔物退治も経験ありませんから、も
しかしたら内容的に厳しいかも知れませんね。
学園にいた
雇用をしてくれたのかもしれません。
ルーベンス様が、雇用するとは言ってくれましたが、
魔法使いだから
魔法は不得意分野ですから、歩いてる間に内容だけでもルーベンス
様に教えて頂く必要があります。
﹁ルーベンス様、警備隊と言うのはどんな仕事をするんですか?﹂
が多いかな。私やルイスみたいに
は少ないけど、酔っ払い同士のケンカの仲裁くらいしか
街の中の施設の管理
﹁外側にいる魔物なんかはギルドに任せてしまっているから、主な
仕事は
戦える者
やることはないからね﹂
﹁ケンカの仲裁は大変そうですね﹂
大人同士の取っ組み合いを止めなきゃならないんでしょうけど、私
じゃどう考えても難しく思えてしまいます。
37
﹁はは、ケンカの場合はその場に居合わせた冒険者が止めてくれて
る事が多いから大変って事はないかな?﹂
なるほど、酒場には荒くれ者ではなく、冒険者がいるんですね。
魔物を退治して稼ぐ人達じゃ、下手な犯罪者を相手にするよりおっ
かないですね。ルーベンス様達はケンカが終わった頃に駆けつける
ので、ケンカしていた人達を仲直りさせるのが主な役割だとか。
小さな町だから、ギスギスしたままでは後々大変なんだそうです。
﹁その冒険者のほとんどが、この街出身だから平和なもんだよ﹂
人口三千人程度、外側に点在する集落から出て来た人が市場で店を
の大半はまず起こる事がないそうですね。
開いているから街として機能しているんだそうで、都市で起こる
犯罪
冒険者にでもならなければ、魔法使いとしての能力を問われる事は
ないようなので少し安心しました。
外壁はレンガで作られているのですが、領主さまに雇われた土木系
の職人さんが、毎日レンガを追加しているので、高さと厚みは、年
々増しているのだとルーベンス様が説明してくれました。
壁の中にある基礎となった初期の壁は、魔法を使って作られている
のだそうです。
魔法で作られたとはいえ土ですから、雨風で削られてしまう前にレ
ンガで補強してしまおうといるうちに、今みたいな厚みのある頑丈
な壁を作る事になったらしいです。
38
何代も前の領主さまから続けられ、今日も少しずつ拡張していくん
ですね。
さて、入り口から大通りを直進して来てますけど、通りの突き当た
りはまた外壁になってます。
ただ、その壁の向こう側に、いくつかの尖塔らしき物が見えている
のが気になります。
壁の一部が鉄製の扉になっているみたいですし、外側に砦でもある
のでしょうか?
﹁このフェンスの向こうが私の自宅になっているんだ。﹂
﹁⋮フェンス?﹂
フェンスと言えば、わかりやすいのは鉄製の柵ですが、ルーベンス
様が指差しているのは外壁と同じ物です。
両端も真っ直ぐ外壁に行き当たっているように見受けられます。
・・・
﹁私の祖父が辺境泊をしていた頃は、まだ外壁が今ほど厚くなくて、
屋敷に周囲の村や街の人間すべてを受け入れて防衛戦が出来る砦の
ように設計されていてね。
外から尖塔が見えていただろう?あれは壁が高くなる前は物見塔と
して外側を見張る為に使われていたんだ﹂
ルーベンス様が﹁今では人数も増えてしまったし、街の中しか見え
ないから、飾りでしかないけどね﹂と話しながら開けてくれた扉の
39
・
内側には、城としか言いようがない建物が建っていました。
﹁お城が⋮﹂
﹁城だなんて大げさな。
物見塔と避難施設を兼ねてるからそんな形に見えるだけで、実際に
国への登録は塔という扱いになってるんだよ。﹂
建物は人が居ないとすぐ劣化してしまうとは聞いた事がありますけ
ど、人が行かなくなったらしい物見塔は内部が劣化してたりするん
でしょうか。
学園の最大の投資家であるラインハルト侯爵家が塔に住んでいると
の噂が出回っていた時期もありましたが、辺境の伯爵様が塔に住ん
でいるのには驚きです。
でも、どこをどうみても立派なお城にしか見えないので、お貴族様
の建物の基準は私にはとても難しいようです。
何度もしつこいようですが、私にはお城にしか見えませぬ。
40
及ばざるを知る
ルーベンス=ラインハルト辺境泊
それが、ルーベンス様のフルネームだそうです。
貴族様とは思っていたのは確かでしたが、私は伯爵一家の邸宅にお
世話になりに来てしまったみたいです。
﹁痛いっ!痛いよカティア﹂
にしたいなど許されると思ってるのですか!﹂
﹁痛いじゃありません、浮気で作ったでもない人様の子をかってに
我が子
﹁いや、だからそれは言葉のアヤで⋮﹂
いたたまれない。隣の部屋から聞こえてくる、ルーベンス様の悲鳴
に私は、伯爵夫婦の修羅場に巻き込まれています。
﹁なにより、先に役所で必要な手続きを進めて置くからこその貴族
でしょう!﹂
学園に入る市井の立場から、ヘタしたら今の私には国籍もナイ可能
性がある旨を伝えたので、カティア様が言う手続きは、街の住民票
登録の手続きの事だと思います。
ルーベンス様が﹁私の最愛で自慢な美人の奥さんのカティア様だよ﹂
41
と紹介し私自己紹介をすませた辺りまでは和やかな雰囲気だったの
ですが、ここに至るまでの事情を説明した後はこんな感じのまま今
に至ります。
あ、カティア様も私の素顔を見た後しばらくの間黙ってしまわれま
した。
それに、メガネが無くても見えるようにする方法もないわけじゃな
いんです。
視力は低下ではなく、魔力の流れや大気中に漂う魔素の反転を見る
為のレンズを使用している時に、マグネシウムを使った実験方向を
見てしまい、強い光でのせいで、瞳孔か網膜に魔法陣が焼き付いて
しまったからなんです。
結果として、目だけで視ると他の人より魔素が細部までハッキリみ
えるようになりました。
近眼にしておいた方が説明が楽だったし、メガネに魔素を見えなく
する魔法陣が入っているので当分はこのままでも不都合はありませ
ん。
研究から離れれば魔素を見る必要はありませんし、腕のいい治癒術
師に会えれば治療を頼んで見るのもいいかもしれませんね。
︱資金があればですが。
でも、こうまで同じ反応をされてしまうと、私としても思うところ
はありますし、今後は人に見せないようにしましょう。
なんか、隣の部屋から静かになった所で、執事らしきお爺さんが、
42
他の部屋に案内してくれました。
◇
家族
ラインハルト侯爵家
が揃った。
が全員そろった所で、改めて自己紹介をしようか﹂
ば ん じ き ゅ う す
﹁では、
広間のテーブルに
ええ、ラインハルト伯爵家ではなく、ラインハルト侯爵家だそうで
す。
この町近隣はルーベンス=ラインハルト伯爵の管轄ですが、この地
方は、ルーベンス様のお父上であるグルーデック=ラインハルト様
の領地。
つまりラインハルト侯爵の領地だそうです。
ルーベンス様は、侯爵様から一部の管理を任されているだけだと申
しておりました。
ルーベンス様の祖父の代では辺境泊だったらしいので大事に継承し
て行くらしいのですが、お父上の代は戦争があり、その多大な功績
を認められ国境まで延びる大きな領地を陛下から賜り侯爵になった
のだそうです。
ラインハルト伯爵家以外は敵国に寝返っていてその土地をぶんどっ
てやったなんて表現がありました。
43
ルーベンス様より立派なカイゼル髭と白髪の混りの黒髪をオールバ
ックにされているお陰でしょうか多分初老と称される年齢のはずな
のですが、威圧感が尋常ではありませんでした。
そして、頭主様である侯爵様は、ルーベンス様上座ではなく、席を
※元々欠食児童
私の隣に移動なさり﹁飴食べるかい﹂と飴をコッソリ渡してくれま
した。
あの、私そんなに子供に見えるんでしょうか?︵
の為15才にしては背も小さく痩せてます︶
侯爵夫人様は、教会の神官様をしておられるそうです。
ニ三日前から、近隣の村を渡る遠征をしてるそうなのですが、遠征
の内容ははなして下さいませんでした。
ルーベンス様は次期侯爵様で、侯爵を継承するまでは伯爵位を名乗
るのだそうです。
奥様のカティア様は、三つ年が上だそうですが、魔法学園時代に知
り合って、男爵家から嫁がれたそうです。
柔らかなウェーブがかかった金髪の美人さんで、四十はとうに過ぎ
てるのだそうなのですが、どうみても、三十前半の若奥様にしかみ
えません。
しかも、自分から年を教えて下さいましたし、魔法学園にいた方々
のように、年を気にしておられないのは、カティア様が本当に綺麗
な方だからでしょうか?
いつか、カティア様のように堂々とした女性になれるようあやかり
44
たい物です。
息子さんは、13歳の長男ロベルト様と9歳ロナウド様です。
ロベルト様は⋮黒髪でルーベンス様のように男らしく整った顔立ち
で、13歳なのに153センチの私より背が高いような気がします
から、将来はルーベンス様や侯爵さまと同じ180を越える身長に
なるんでしょうね。
侯爵さまから剣も習っていて、来年から王都に移り住み騎士学校に
行く事になるので、習い事がたくさんあるのだそうです。
ロナウド様は奥様ににているのでしょう。肩に掛かる金髪とルーベ
ンス様と同じ焦げ茶の瞳をしています。
年相応の少年といった感じなのですが、魔法の素質が高いので魔法
学園にいくのだそうですが、学園ではきっとたくさんの女性からお
モテてになりそうです。
の学校ですが、第三王子のような方でも魔法の素質が高
魔法学園と騎士学園、格式が高いのは騎士学園です。城に関わる
貴族専用
い者は、魔法学園に来ることがあるのだそうです。
今季は殿下貴族様の名誉の為に作られた、騎士学園の中の魔法学園
の特別クラスと、市井の為の教室二つで所在地が完全に別になって
いたので彼らを見た事もなかったのですがね。
因みに、騎士学園と魔法学園両方を卒業したことになるんだそうで
すが学ぶ事が多くて大変そうですよね。
私はダメだったんですが、魔法学園だけなら研究と論文で済むんで
45
すから、本当に大変だと思います。
46
私の思いとうらはらに
えーと、話がそれてしまいました。
私がお世話になるのが、ラインハルト侯爵家なのはオーケーです。
侯爵≒辺境伯らしいですが、侯爵は主に王都とのやりとりをしなけ
ればならないらしく、侯爵を拝命した時に、辺境伯がなくなるなら
侯爵にならなくていいとゴネたら爵位の譲渡を許され、辺境伯がル
ーベンス様の爵位であるそうです。
辺境伯は建国時からたくさんあるそうで、一番小さな領地は王都か
ら一番離れた村だけという方もいるそうです。
この辺りの土地名は建国時から変わらずラインハルト辺境伯領。侯
爵領地は国王様が、分かりやすくグルーデック領と呼ばれているそ
うです。
土地名はまた別にあるそうですが⋮。
辺境伯は基本的に国の政治には関わっていないそうですが、代わり
に独自の統治権が保証されています。
その地域の安定と国が指定している税さえ納めていれば問題ないの
だそうです。
土地からは税を取らず商いだけで、税金を賄う辺境伯もいるそうで
すし、辺境伯に関しては国の方が一歩引いていて、あまり干渉した
47
がらないでいるといった風潮があるそうです。
もともとは王都から離れていて無派閥であった辺境伯を、戦績から
放置するには惜しい有能な臣下であると判断し、王族派が城関係者
として取り込みたかったが為に誕生した異例の武闘派侯爵らしいで
す。
継承を許された辺境伯が統治を行い、実績により発言力がある侯爵
様が領地の外側を受け持っているらしいです。
でも、私からしたらどちらも雲の上の方なので、精神的圧力はバカ
になりません。
カティア様やルーベンス様から私の事や学園の事を聞かれて答えて
いるんです。
その際、学園での過ごし方を私なりに説明すると、侯爵様から発せ
られる威圧感が異様に増したりして、泊めて頂くよりも先に、心臓
の方が止まるんじゃないかという思いを抱いてたりします。
平民なので、どうか言葉と礼儀を知ないのをお許し下さい。
﹁そういえばアナタ、アティアさんの下宿先は決まりました?﹂
﹁そうだったよ。下宿先の話もしておかないとだね﹂
ルーベンス様が、執事さんから封筒を受け取りこちらに歩いて来ら
れました。
普通は立場が上の方々は封筒や書簡を執事に預けて渡したりするの
48
だと思いますけど、早いところ下宿先を紹介していただかなければ、
心労で倒れるかもしれません。
﹁⋮それでだね、知り合いの下宿先を訪ねてきたのだけど、今は独
身者ばかりだから、若い女性が一人だけだと下宿は難しいと断られ
てしまってね。﹂
そう言いながらルーベンス様は、椅子に座る私の目の高さに交わせ
てから、私に封筒を握らせました。
﹁⋮見てもらえるかな﹂
﹁はい﹂
受け取った封筒の中には書類らしき紙が一枚。
どうやら、住民票とか所在地がかかれているようです。
﹁クルカロ1ー1⋮一等地ですね﹂
﹁うん、悪くないと思うよ?﹂
私は﹁どこでしょうか?﹂という言葉を口にはしないで、書面に集
中する。クルカロは町の名前だそうですが、1の1となると都市で
あると町の中心地になりますね。
家族構成は当然1人なのですが、同居人の数20人⋮同居人が多す
ぎる。
学園では腕輪が住民票を兼ねていたので書面を見たことはなかった
49
のですが、学園敷地の寮に住んでいたみんなも同居人扱いだったと
したら100人を超える大家族で表記されるのでしょうか?
でも、カティア様とルーベンス様の視線がさっきより重たいような
気がしますが気のせいですよね?
﹁本当は、下宿先に紹介する予定の住所で取得して置いても良かっ
たとは私も思ったんだ。﹂
﹁はい﹂
﹁下宿先がまだ決まりそうにないし、警備隊に雇うのにも住人とし
て所在がハッキリしている方が都合が良いし、一時的な処置でも家
で同居しているとした方が役所にも伝わりやすかったから此処に住
んでいる事にしてきたんだよ﹂
﹁ではアナタ、アティアさんはこの家に住んでいる事になるわね?﹂
ウフフとカティア様が笑っておられます。
な
侯爵領の中心
の形でパカーンと開いたままです。
まさに開いた口が塞がらないとはこの事でしょうか?私の口はなん
でどうしての
所在を見た時に予想は出来てましたが、文字通りの
が私の所在地になったようです。
﹁ところで父上。﹂
微笑み合うお二人に長男のロベルト様が話しかけます。
50
﹁どうしたんだいロベルト﹂
﹁アティアさんが此処に住まわれるにしても、いくつか問題がある
と思うのですが?﹂
﹁問題かい?﹂
﹁はい﹂
ルーベンス様に話かけながらロベルト様は私をチラチラ見ておられ
ます。
見ず知らずの他人がいきなり同居してきたんでは、気になりますね。
ロベルト様の言う問題点なら、私でもいくつか心あたりがあります
し、当然の反応だと思うのですよ。
ルーベンス様が、いずれ下宿先に移り住む私の所在をココにしたの
私が侯爵様方と同居というのは問題があると思うの
は、なにより先に住民票の取得を急いでくれたからだと思うのです。
でも、市井の
ですよ。
﹁家で働いてくれている皆も同居人と扱われているからいいと思い
ますし、父上らしく迅速な判断だと思います﹂
先に書類
と言
ルーベンス様が﹁うん﹂と頷いきながらカティア様をチラ見してお
りますね。
そう言いえば、先ほどの夫婦喧嘩でカティア様に
われていたような気がしますが、住民票の取得なんて普通は何日も
51
かかったりするんですから、半日足らずで住民票取得してしまった
あたり、迅速を超えてしまっているような?
﹁⋮皆様と違い下働きではないですし、アティアさんをどうお呼び
したらいいのでしょう?﹂
﹁﹁﹁﹁!!﹂﹂﹂﹂
ロベルト様が気になさっておられたのは、まさかの呼び方でした。
ルーベンス様とカティア様が何やら衝撃を受けております。
隣の侯爵様が﹁娘は経験ないから困った事になった﹂なんて言って
ますが、気にする事ですか?!
﹁アティアさん、村や学校ではどう呼ばれてたんですか?﹂
ロベルト様が私に話しかけてくださいましたが⋮。
﹁村では、北の家の娘で、学校では⋮メガネとかたまに名前でした﹂
皆様が黙ってしまわれました。
メガネは特徴ではありますが、流石に呼びづらいですよね。
周り中男の子だらけでしたからね。
心は女性
の方
私から異性に話しかけるのは憚られましたし、友達どころか話しか
けられる事も少なかったんですよ。
そう言えば、論文を出した後には必ず訪ねて来る
がいましたね。
52
その方は、決して自分の名前を教えてはくれませんでしたがその方
は⋮。
﹁アティと、オカさん⋮オカマさんに呼ばれていました﹂
仕方なくオカさんと略称したら、苦笑されていましたが、オカマで
なければ警戒していたのでしょう。
オカマさん
の特徴を教えてもらえるかな?﹂
論文の内容を詳しく聞きたがり、
﹁⋮その
﹁オカさんは、私よりうんと背が高くて、サラサラの金髪を腰まで
伸ばして、細身で目の色は緑色で、学園指定のローブのしたにドレ
スを着てました﹂
そんな姿をすてい
と、話を聞いた事があるような気がするわ﹂
﹁アティアさん。私は、どこかの王子様の噂で
る
カティア様が困ったようなお顔をされておりますね。
侯爵様も﹁⋮シャルルの若造め﹂とか申してますが、私の学園生活
に第三王子様は全然関わってないですよ?
﹁因みにそのオカマさんとは、どんな関係だったんだい?﹂
ルーベンス様はオカさんと私の関係がどんな物だったか気になるみ
たいですね。
﹁そうですね、深夜に来て朝方まで話をしていたくらいでしょうか﹂
53
オカマさんですから、貞操の危機にはなりませんでしたし、気安い
関係だったような気がします。
何度か学園内で会えないかと探した事もありましたが、明るいうち
に会えた事はありませんでした。
オカさんにも、お別れを言えませんでしたが、もう二度と会えない
のですよね。
彼女との意見交換はとても有意義だったので、ちょっと後悔してい
ます。
そう言えば、私の興味で魔素の人工定着による魔石の作成をしてい
たんですが器具も放置しっぱなしで来てしまいたしたね。
魔石は、魔石の体内で魔素が集中している部位に精製されるんです
が、もしビーカーに魔力を集めていたら中で人工定着できるんじゃ
ないかと思ったんですが、あの時点ではビーカー内部にうっすらと
霜が降りた位でしたから、なんの為の器具かわからずに、そのまま
洗い流されるか処分されちゃうんじゃないですかね。
人工定着できたら画期的だと思ったたんですが、オカさんにも無理
だろうと言われてましたし、ダメでなんしょうね。
・・
﹁私の部屋に入った事があるのは彼女だけですし、私としてはかな
り親しくさせて貰ったつもりなんですが⋮﹂
﹁友人か﹂
﹁あり得なくはないけど⋮﹂
﹁ふむ、少し用があるので席を外させてもらうがいいかね?﹂
54
﹁父上、もしかして転送陣を?﹂
﹁うむ、早急に彼女との関係を問いたださねばならぬだろう﹂
﹁ですが、今は不味いのでは?﹂
﹁だがな、ワシの下にいるとわかればアティアくんの立場が悪くな
る事もあるまい﹂
グルーデック様とルーベンス様が私を見ながら話されておりますが
下げ
てくだされば助かります。
そんなに気を使ってもらうのであれば、貴族様らしく﹁もうよい、
下がれ﹂とか言って、私を
でも、転送陣があるんですか。
離れた場所まで一瞬で送れる魔法でしたよね。
魔法も高度な術式が使われていて一度の転送で魔石を大量に消費さ
れると聞いてます。
﹁ワシの手持ちは、行きの分しか集まっとらんから帰りの分は任せ
てもいいか?﹂
﹁わかりました、警備隊で集めて置きましょう﹂
︱魔石は買い集めるのではなく自給自足っぽいです。
55
頂は常に︵裏話︶︵前書き︶
意外な展開に作者困惑中
56
頂は常に︵裏話︶
とある、尊き方々の執務室。
・
﹁シャルル、彼の論文がないよね?﹂
﹁ありませんわね﹂
お兄様が、提出された論文のチェックをしながら不思議そうに首を
傾げている。
お兄様が探しているのは、奇抜ながら核心をつく魔法学園の鬼才の
論文。
・
私が手にしているのは、真逆の平凡でありきたりな纏まり方をして
いる彼女の論文だけど、お兄様の読んでいる論文の束の方にもいく
つも混じっている。
昨夜、この論文をネタに乗り込もうと思っていたのに、本人がいな
くて残念な思いをしてしまった。
彼女の調理器具や研究器具はそのままだったので、たまたま他で寝
泊まりしていたのかもしれないが、彼氏でも出来たのだろうか。
クマとメガネに隠された素顔は、同性からみても極上。健康的でな
く病的に痩せているから異性を感じる者はいないようだけど、これ
までの功績を含め数年もしない内に利用価値が兄の目に止まり、私
のような魔法使いの側室の王子が生まれても不思議ではない。
57
・
彼女は私の母が辿った末とよく似た道を歩いている。
今はすでに鬼籍にあるが、母は学園卒業者だ。
それもかなり優秀で美しかった。
才能を見込まれ側室となったとされているが、どんな形であれ、王
家に見初められるのであれば、それはとても名誉な事だ。
﹁⋮やはり、論文に提出者の名前がナイのは不便ではないか?﹂
﹁あら、外国に研究者個人を特定させないための処置ですもの、仕
方ありませんわ﹂
﹁だが、顔を知らないのは仕方ないとしても後々夜会で会った時の
事を考えるとだな⋮﹂
﹁研究所の研究者すら、自らの研究を名乗り出る事はありませんも
の、私たちは彼らの研究に全力であやかればいいのですよ?﹂
﹁⋮シャルル頼むから普通に話してくれないか?﹂
﹁兄上も一度女装して女心を学んだ方がいいですよ?﹂
﹁そのまま堂々と夜会に出て行くのは、どうかと思うのだがな。﹂
﹁女性が気になるブランドを着ていけば、気安く話しかけてくれま
すし、妙案だと思いますが?﹂
異性に対しては、警戒心を剥き出しにしていた私には、夜会での女
心を知るために始めた女装が役に立っている。
58
今では立派なライフワークといっても差し支えない。
﹁⋮で、お前はまた彼女の部屋とやらに忍び込むつもりか?﹂
﹁忍び込むだなんて人聞きの悪い、立派な逢い引きです﹂
﹁⋮女同士の関係だったんじゃないのか?﹂
﹁私が望めば、いつでもモノに出来るくらいの関係は出来てますし、
無理矢理でももみ消せばいいと思いませんか?﹂
﹁誰かこの犯罪者捕まえてくれっ!﹂
なんの、まだまだお兄様にはかないませんわ。
お兄様は、今月だけで何人のメイドさんを召し上がりになったとお
思いです?
59
太陽のように輝いて
﹁では、しらばらくは向こうに居ることになるかもしれないが、彼
女の事は任せたぞ﹂
﹁此方は大丈夫です。存分に話をしてきて下さい﹂
かくして、侯爵様は旅立ち︵?︶ました。
どこから転移したのかはわかりませんでしたが、どうせなら転移陣
を見せて貰いたかったですね。
﹁そういえば、アティは元気がないね。昼間はもっとハキハキして
いたように見えのだが?﹂
﹁そんな事は⋮﹂
ふくらはぎ
さて、日頃の運動不足がたったんでしょうか夕方になったあたりか
ら脹ら脛から内股あたりが痛くなってきてます。
草原を歩いてる間も、痛くなったりしてたんですけど、今みたいに
ズクズクとした鈍痛とは程遠かったでしたね。
待ち時間に、使用人さんのお風呂を借りる事ができたので、汗は流
せて身体は汚くはないと思うのですが、マッサージまでは気が回り
ませんでしたよ。
明日に響くと思いますし、寝る前に、足をよく揉んでおかないとな
りません。
学園の自室なら色々と薬草が揃ってたので、調合する事も可能だっ
60
たんですけど⋮。
﹁アティ、本当はどこか傷めてるのでは?﹂
足を気にしていたらロベルト様が気を使ってくれたようです。それ
から、呼称はアティで定着したようですね。
﹁大丈夫です﹂
﹁足?痛いのではありませんか?﹂
視線のせいで、ロベルト様にわかってしまったみたいですが、とて
も痛いです。
4日間の努力の勲章は、会話中に気にするくらいの痛みです。
﹁いいえ、肌がツルツルだと思って⋮すみません、スゴく痛いんで
す﹂
もし会話中に自分の足がツルツルだなんて事を気にしていたら、私
はとんだ失礼な人物ですよね。
﹁そう言えば、部屋から出ないような生活をしていたと言っていた
し、怪我をしていた訳じゃ無さそうだし気が抜けて疲れが表に出て
きたのではないかな?﹂
ルーベンス様のご明察に感服いたしました。正直、脹ら脛がスゴく
痛いです
情けなくて悲しいけど現実にいたいんです。
61
﹁⋮見た目通りに華奢なんですね﹂
﹁⋮もやしっこで申し訳ありません﹂
ついでに貧相な体をしているので、誰かに体を見たり触られるのは
勘弁して欲しいです。
おやすみなさい
して
﹁仕方ないね、今日はこれくらいにして明日また話をしようか﹂
イスから立ち上がり全員で、一礼しながら
から寝るんだって。
なんかスゴいです。
途中手洗いに寄り、部屋に戻ったら何故かメイドさんが待ち構えて
いた。
﹁就寝前にアティア様のマッサージをして差し上げろと仰せつかっ
ております﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮ひいっ!!﹂
﹁さ、横になって下さいな。筋肉痛になりかけてるみたいですね﹂
逃げるまもなく、私はベッドに運ばれてしまいました。
メイドさんがどうこうじゃなくて、単純に私の動き方が鈍いだけで
す。
62
﹁服はそのままでいいですから体の力を抜いていて下さい﹂
﹁⋮はい、よろしくお願いします﹂
服脱がなくていいんですか、無駄な抵抗はやめましょう。
﹁マッサージしておけば、明日は体が楽ですからね﹂
そう言って、メイドさんは私の足をグニグニ揉み始めてくれました。
学園に入ってからは、こんな風に人に触れられた覚えがないですね。
でも、女の人に馬乗りにされるのは初めてですが、重くて柔らかい
のに挟まれるのって落ち着くのですね。
﹁アティア様は、山から歩いてきたと聞きましたが、よく御無事で
したね。﹂
﹁それがですね、幸いにも遠くの魔物をみただけですんだのですが、
普通の生き物とはやはり違うみたいですね﹂
この4日間、魔物らしき生き物は、二度しか見ませんでしたね。後
は、鹿とか猪が群れで居ましたがしたが逆に警戒してどっか跳んで
っちゃいました。
魔法を使って狩猟したら良かったかも知れませんが、刃物なんかあ
りませんでしたし、群れの一頭に当てる自信なんかありませんでし
た。
︱食料を抑えながら歩いてきたから戦う余裕もなかったんですけど
63
ね。街まで、魔法で強化したりしながら来たので、移動は苦でなか
ったんですが、人里がないのが一番怖かったです。
学園では独りきりであっても、誰かしら人がいたんですから、孤独
と孤立の違いがよーくわかりました。
﹁魔物は何か違うので?﹂
﹁魔物は人と同じように呼吸して見えても、取り込むのが空気じゃ
なくて魔素でしたね。
大気中に魔素がある限りは息切れしそうにないから羨ましいです﹂
だから、魔物は人よりスタミナがあり、魔素が薄い所には魔物が近
寄らない訳ですね。
魔物が凶暴化が、大気中から取り込める魔素が足りておらず、それ
を補うために他の魔物や生き物を襲うようになるんではないかとい
う仮説がある理由ですけど、魔力や魔素は見えませんからね。
極稀に、魔物化する動物がいたりするようですが、直接的に体内に
取り込んだ魔力の暴走による発作です。
魔物としての器官がない以上は長じる事はありませんが、変質した
身体が元に戻る事もないのでそれらは魔獸として討伐されます。
あり得
つまり、魔素や魔法がない世界になれば魔獸の子孫はまだしも魔物
と怒鳴られましたね
だけは自然といなくなるのではないかと論文をだしたら、
ない事を書くな
実際、自然にできた環境ならともかく、魔法結界では構築に使用し
64
ている魔力や魔素が内部を飛び交っている状態ですから、検証は出
来ないんですよね。
まぁ、魔物の領域に行きさえしなければ被害は受けないと考えたら、
どうして好き好んでダンジョンなどの危険な場所に行かなければな
らないんですか。
警備隊の話を断ってどこか探して貰った方がいいんではないでかと
言う話をマッサージされながらメイドさんに話します。
メイドさんはライラさんと言うそうで、茶色い髪の毛にブルーアイ、
しかも、二児の母親だそうです。
﹁大丈夫ですよ?基本的に警備隊は街の中の仕事が主です。それに
ルーベンス様がダンジョンに連れて行ってくれるとおっしゃってい
たなら、危険な目に合うことはないと思います。﹂
ルーベンス様はメイドさんにも信頼されている方なのですね。それ
から、ライラさんは﹁旦那様も父親としていいところを見せたいの
では?﹂と、続けました。
いいえ、全くの他人ですし、ここは、戦力として使い物になるかど
うかを査定されると見ていいとおもいます。
ほとんど初級しか知らないのでは、無理そうですね。
﹁着替えはクローゼットにしまってあります。着替えた後はグッス
リおやすみ下さい﹂
65
え、着替えを手伝われなくていいんですか?
﹁旦那様が﹃彼女の着替えは、一人で着替えられる者を支度して上
げなさい﹄と言われましたから、一人で着替えられる物だけ揃えて
あります﹂
どうやら私のような娘の考えは、ルーベンス様にはお見通しのよう
です。
﹁では、おやすみなさいませ。お嬢様﹂
﹁ありがとうございました。おやすみなさい﹂
最後にお嬢様なんて冗談を言われてライラさんが部屋から出てゆか
れました。
お茶目なお母さんですね。
さてさて、身体はだいぶ楽になりました。
ベッドは部屋の真ん中にあるので、部屋の中をぐるりと見回すとベ
ッドを挟んで、出入り口の反対側にクローゼットらしき両開きの扉
があります。
豪華な装飾がされてますけど、他に扉がない以上、あれがクローゼ
ットなんでしょう。
扉を開いて中を見てみると、歩き回ればそうなほど広い空間に、袖
の長い白いワンピースが一枚だけ入っていました。
66
わかりやすくて有り難いです。
後は、着替えて就寝するだけです。
何から何までお世話になってしまい。ルーベンス様には頭が下がる
思いです。
就寝前に、感謝を口にしてから寝ると良いことがあると昔から言わ
れています。
学園時代は気にした事もなかったんですが、たまにはそれにならっ
て就寝しましょう。
﹁グルーデック様ルーベンス様カティア様ロベルト様ロナウド様ラ
イラさん、⋮後ルイスさん今日は本当にありがとうごさいました﹂
﹁ちょっとクサいからやったことなかったんですけど、普通に恥ず
かしいですね⋮﹂
仰向けに枕に顔をうずめてごまかしましたが、余計に目が覚めてし
まいますね。
寝る前にやるのはやめましょう。
67
私を誘︵いざな︶う
翌朝、ライラさんが部屋まで朝食を運んでくださりました。
ベーコンと目玉焼きが乗ったトーストに、コーンポタージュ。
お肉なんて今までめったに口にできなかったので、大事に大事に食
べ、朝からお百姓様が泣いて喜んでくれそうなくらい咀嚼をしてい
たら、ライラさんに﹁明日も食べれますから、もうそのくらいで⋮﹂
と言われました。
長々とたべてたんじゃ片付けが出来ないですし、急いで食べます。
︱そして、ごめんなさい。
元々食べるのが凄く遅いのです。
◇
ライラさんのマッサージのお陰で、朝は軽い筋肉痛で済みました。
やってなかったら酷い状態だったと思われますので、ライラさんに
もお礼を告げたら、﹁もう一度、メガネを外して言ってもらえます
か﹂と言われたので、その通りに⋮何でみんなメガネ外すと黙って
しまうんでしょう?
そんなこんなで、朝食の後も出歩かないで部屋を占拠させて頂いて
おりましたところ、昼頃にルーベンス様がやってきて、勤務先とし
ては図書館が一番有力なんだと話をしてくれました。街の為に、本
を寄贈した作った小さな図書館らしいですけど、そこに警備隊とし
て勤務出来るらしいです。
68
でも、ダンジョンに行く計画は着々と進んでいる模様。
メンバーには話を通してあるらしく、筋肉痛が治ったらダンジョン
に行くことになりそうです。
◇
翌日、説明された︵・・・・︶事が理解出来ないままダンジョンへ。
長々と文言を唱えた中級魔法はダンジョン入口に着弾。
熱風と爆炎が巻き起こり、地の底が崩れ落ちたかのような地響きの
後、ダンジョン入口から土ぼこりがもうもうと立ち上がる。
﹁⋮これは今日はダメだな﹂
煙が晴れて視界が開けるとダンジョンの入り口は真っ赤に灼けてい
ました。
﹁面目ないです﹂
ルーベンス様に﹃アティアが、使える一番強い攻撃でダンジョンの
入り口にいる魔物を攻撃しろ﹄と言われて、唯一詠唱を知っている
中級魔法︽火炎弾︾を手加減なしで放った後です。
﹁必要ないだろうが、一応中を見てくる﹂盾役として来てくれたド
ワーフのエルグさんが灼けたダンジョン内部を﹁こんくらいなら歩
けらぁ﹂と、歩いて見に行きました。
近付くのも危険に見えるんですがエルグさんは、マグマくらいなら
69
多分平気だそうです。
多分ってなんですか?!
因みに、エルグさんは鍛冶屋さんで熱さくらいなら慣れておられる
らしいです。
ドワーフって凄いですね。
他は二人、引退した冒険者のお爺さんルグランさんと、猟師のラル
フさんです。
二人も私のバカさ加減に腹を抱えて笑っておられます。
﹁実戦経験がないなんて言うから、もっとカワイイ攻撃をすると思
ってたんだがな⋮﹂
﹁ルーベンス、こりゃ余計な入れ知恵はいらんだろう﹂
﹁いや、逆に私は心配になってきたよ﹂
ルーベンス様に、当分今の魔法は使わないようにと釘をさされてし
まいました。
でも、当分どころか一生使わないようにしたいです。
︱そして、治るな筋肉痛。
治らない筋肉痛ってのもおかしな話ですけど、切実に治らないでほ
しかったと思いました。
70
﹁撤収だ、撤収ー。﹂
しばらくして、エルグさんが残念そうにしながら出てきて、ルーベ
ンス様と同じように釘をさされました。
﹁あんな事しても、ピンピンしてる位なんだから心配すんな﹂
﹁なら、なおさら連携のやり方を⋮﹂
﹁本人が一番ビビってるんだから、無理に戦わせなくてもいいだろ﹂
﹁だからって、このまま放置するのもいけないと思うんだが⋮﹂
結果的に、ルーベンス様に余計な気を使わせてしまっただけみたい
で申し訳ないです。
﹁敵が弱過ぎたのが悪かったんじゃないかの?﹂
ラルフさんが、笑うのをやめて真剣な顔で話を始めました。
﹁じゃあ、こんなスライムしかいないような小さなダンジョンじゃ
なくて、深いダンジョンに連れていけばいいのではないか?﹂
ルグランさんやめて下さい。
﹁そうだな。今からでは流石に無理だから日を開けてまた集まろう﹂
﹁アティア君もそれで構わないな?﹂
四人が新たな計画を立てておられますが、二度目は勘弁してくださ
い。
71
今回はスライムの姿すら見てませんが、ダンジョンは危険です!
でも、断れる雰囲気じゃないので頷いてしまいました。
それを聞いたラルフさんが、ニヤリと笑っているのがまた恐いです。
◇
﹁今日からここがキミの職場だ﹂
一歩外にでて、侯爵邸の目と鼻の先の建物をルーベンス様は指差し
ております。
中庭を挟んで壁側にある建物、塔と比べたら小さいですが街中にあ
れば立派なお屋敷ですね。
ちなみに、昨日いなかった元辺境伯のお爺さんは、侯爵さま達と塔
の裏にある離宮に住んでいるそうですが、お年を召しているそうで、
歩くのが大分大変なので辞退されたのだそうです。
﹁いらっしゃい﹂
中に入ると耳の尖ったエルフのお兄さんがカウンターで本を読んで
いました。
﹁ルーベンス、その子が新しく入った子かい?﹂
﹁隊長の許可なく決めてしまい、申し訳ありません﹂
﹁頭を上げなさい。その辺の采配は昔からキミに任せているのだか
ら頭を下げる必要はないと言っただろう﹂
72
ルーベンス様が頭を上げると、彼は私に笑いかけてくださいました。
﹁アティアちゃんはじめまして。ボクはオジール、皆からはオジー
の愛称で呼ばれているくらい長く、警備隊の警備隊の長を任させて
もらっているんだ﹂
﹁はじめましてオジー様。アティアと申します。﹂
エルフは若いまま長生きをすると聞いていますが、この方何歳なん
でしょう?
短い黒髪に黒い瞳。ルーベンス様にどことなく似ておりますが、青
年と言うには若く見えます。
思い出せば、ラルフさんはハーフらしく見た目はナイスミドルでし
た。
そういえば、ルーベンス様みたいに、この街の人は髪の毛はみんな
黒っぽかったですね。
学園都市は極彩色でしたけど。
ルーベンス様が、﹁そんな手があったのか﹂と小さく呟いています。
﹁手?﹂
オジー様は普通に腕が二本しか見あたりませんが、オジー様にはま
だ私には見えぬ手が存在するのですか?
﹁ふむ、魔法学校の生徒だと聞いていたが、なかなか普通の子供じ
ゃないか﹂
﹁そうですね。私も彼女はごく普通の少女だと思います﹂
73
それから﹁多少世間に疎いと思いますが﹂とルーベンス様が続ける
とオジー様も﹁違いない﹂と頷いています。
引きこもり同然の生活をしていたので、全く反論できません。
﹁⋮学園では研究しかしてなかったので、至らない部分があると思
いますが、これからよろしくお願いしますオジー様﹂
﹁なに、可愛い孫の為を思えばこの老骨も喜んで力になるよ。これ
から、ボクらが色々教えてやれだろうからアティも頑張ってね﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁オジイ様、どうかお手柔らかに⋮﹂
オジー様の心強いお言葉に、私が礼を告げるとルーベンス様が苦笑
しておられました。
オジー様は、優しそうな見た目と違い、あのニヒルなラルフさんと
同類なんでしょうか?
︱スパルタだけは御勘弁を。
﹁基本的に利用者は来ないから、本の上にたまる埃を払い落とすく
らいと、埃を払った後の床の掃除だね。女の子なら大丈夫でしょう﹂
すみません、基本的に掃除とかしてませんでした。
学園だと、掃除屋さんが勝手に掃除してくれていたので、申し訳あ
りませんが、一から教えて貰えませんか?
正直に話したらまたしても笑われてしまったが、こればかりは仕方
74
ありません。
私、世間知らず所か常識知らずですね。
﹁いいよ、先ずは掃除用具から説明してあげる﹂
オジー様は苦笑しながら私を内してくれましたが、今まで居た学園
での生活を話していたら勤務内容に軽い運動がもりこまれました。
75
踏み出す足は︻文追加︼︵前書き︶
文字数追加修正再投稿
76
踏み出す足は︻文追加︼
﹁ここの箱はさわらなくていいからね﹂
棚に入りきらず、箱積みにされたままの本にオジー様は布をかけた。
いわゆる卑猥本という物らしい。どうしてこんな物が図書館にある
のかと思わなくもないが、魔法学園では似たような物が棚の一角を
資料として埋めていたのだから、恥ずかしい物という認識が間違っ
ているのかもしれない。
﹁アティ、ここには魔法学園ほど貴重な本はないけど大事に扱って
頂戴ね﹂
﹁はい﹂
私は脚立に乗ってハタキをぱたぱたとはたく。
高いところから順番に埃を落としてゆくが良いらしい。
晴れた日には、何冊かの本を虫干しする。
水拭きは床だけで、水拭きの後は乾いたタオルで乾拭きをする。
窓の外側は敢えて掃除をしないのだとか。
オジー様が掃除する棚を指定してくれるので指定された棚の掃除が
終わったらカウンターで座って待機するのが仕事で、後は本を自由
に読んで構わないそうです。
魔法学の関連の本は、基礎的な本が数冊しかないので、そちらはあ
77
まり読みたい物がありませんが、薬草などの図鑑は場所が変わると、
見たことのない薬草が使われていたりしますから、図鑑だけは一通
り目を通しておきたいですね。
でも、そうなると気になるのは布をかけられた箱の中身なのですが
⋮。
翌日、オジー様によりどこぞへ運ばれて行ってしまいました。
◇
と、何とも情
と軽快な足音
侯爵家壁際のランニング二週目に入りましたが、体がまるで羽のよ
うに軽いです。
たったったっ
たたたたたたた⋮
先を走るルーベンス様とオジー様は
なんですけど、歩幅が短いので
けない足音がしてますね。
学園生活している時は、体力が落ちているように感じましたが、こ
こにきてから子供の頃に戻ったようです。
でも、筋肉はともかく足の裏がヒクつくのはやはり運動不足の証な
んでしょうね。
ルーベンス様は、私がまともに走れた事が意外だったようですが、
一応、組み手や運動の授業もありましたし一般レベルでなら走れな
くはないです。
もちろん、学生の中ではドン穴でした。
調子が良かったのは最初だけで、三周目の終盤に入る頃にはスタミ
ナが切れていました。
78
無理するとホントに足が吊りそうなのでさり気なくペースを落とし、
そのままゆっくり歩いてゴール。
ちょうど入り口から出てこられたロベルト様が﹁朝から散歩ですか
?﹂と聞かれたので﹁はい﹂と答え、そのままこの近辺の話をして
下さりました。
侯爵塔近辺は住宅だけなので、買い物をしたい時は、執事さんに話
せば馬車を出してくれるそうです。
外出するときには必ず誰かに話してから出かけるように
図書館は常時解放されているから自由に外出が出来るのですが、オ
ジー様に
と言われました。
下宿先となる場所は基本的に自炊自活しなければならないとおもう
ので、市場での買い物にも慣れていきたいですが、生憎持ち合わせ
があまりないので自重しましょう。
夜の明かりに使うカンテラの燃料になる魔法石を学園の購買で買う
つもりで金を持ち歩いていたので助かりました。
消灯時刻までは学園側で明かりを魔法で確保してくれるんですが、
消灯時刻が過ぎると真っ暗になってしまうです。
明かりをケチると文字が何も見えなくなってしまいますから、明か
り用の魔法石だけは買い忘れできませんでしたね。
安物ではすぐ効力が消えてしまう時があるので、三日前から並み以
上の魔法石が購買に並ぶのを待ってから所持金があったんですけど、
これは今月の支給金の残り全部=全財産だったりします。
79
魔法石の値段次第で、次の支給までクラカオと水だけの生活になる
所でしたね。
すっかりあの生活慣れてしまってたその話をすると、やはり皆いい
顔をしませんね。
わかっていても、論文が通らないんでは仕方がないんですよ。
結局自主退学してしまいましたが、研究用クラカオの味は生涯忘れ
られませんね。
でも、クラカオに手を加えたココアは美味すぎます。
クラカオたくさん拾ってきているので、クラカオの殻を剥いて中身
を窓際で干して置けば、夜に一杯飲めるんです。
もし、あの部屋に砂糖があれば、私もクラカオに砂糖着けたりくら
い⋮はしないでしょうね。
砂糖は高いですし、砂糖が手には入ってたら、下手したら砂糖だけ
舐めてたんじゃないでしょうか。
夜はクラカオしか食べてなくて平気な生活してたのですが、研究か
らは完全に離れてしまいましたから、これからは食べ物も普通の人
に合わせていかないといけませんね。
ミルク
は、体に合わなかったのか、お腹を壊してしま
そして、ルイスさんから﹁身長が伸びやすくなる﹂と聞いて手始め
に頼んだ
いました。
80
ただひたすらに
︵前回から続いてます︶
ミルクは飲み慣れてないとお腹を壊す人も多いと教えられました。
ライラさんに相談した所、温めたミルクなら大丈夫だろうという話
になり、寝る前に少量のホットミルクを頂くようになりました。
これで、私の大平原が人並みの山に成長してくれればいいのですが
⋮。
◇
所変わって図書館です。
一応外壁の外側に建物があるので、行きも帰りも誰か来てくれない
と中には入れないので、図書館に向かうときはだいたいライラさん
か執事さんが付き添ってくれてます。
オジー様は、団長と言うこともあり、普段は他の場所も回らないと
ならないらしいのですが、時間が開いた時などに様子を見に来てく
れます。ルーベンス様やルイス先輩も、見回りを兼ねて図書館に1
日一回は訪れてるんですが、利用者は今のところゼロです。
学園の図書館は調べものをする学生がたくさん居たので、自分以外
誰もいない図書館があるという事にとても驚きました。
オジー様は、昔からコウだから問題ないとの話ですが、せっかくあ
81
るんですから利用して欲しいですよね。
学園の図書館の本は、より専門的な内容で基礎知識がないと意味が
分からない物ばかりでした。
先生方はもちろんですが、学園の生徒は、入学する前に家庭教師や
弟子入りした人がほとんどなので、最低限の基礎知識がある事を前
提にした授業がおこなわれてるので、基礎知識を知らないで授業を
受けていた私は、どうしても理解が出来なく寮に帰ってから、辞書
と教科書をならべ基礎実験を繰り返してました。
割と高価な実験材料は無料で自室に持ち帰れるのですが、基礎レベ
ルの材料になると逆に在庫がないので学園の購買で買わなければな
らなかったので、実験するにもお金が必要でした。
他の人なら資金繰りに困らなかったんでしょうけど、私の場合は後
ろ盾もお金もなかったですから、学園の中にあった溝浚いや草刈り
など人気のないバイトでお金を稼いでました。
そうやって稼いだ金で実験したりしてなんとか授業についてゆける
ようになったんですが、今更な話でしょうね。
いや、無知で困った事のを思いだしてたはずなんてすが、私なんの
話をしてたんでしょう。
そんなだから、図書館があるのに使わないなんてもったいないです
よね。
千客万来とは行かなくても、多少は人が来るように努力するのも私
の役目でしょうか?
82
警備隊所属で図書館の掃除をするだけの人なんて警備隊である意味
ないですものね。
きっと、オジー様やルーベンス様は、この図書館を栄えさせて見せ
ろと思っているのかもしれません。
魔法書もありませんし大した知識もありませんけど、過去に書いた
論文や既存の教科書の知識を他の人も生かせるように手書きで本を
作ってみましょう。
まずはオジー様に紙の支度をしていただかなくてはっ!
◇
今日も可愛い孫が連れてきた子供が掃除をしている図書館にやって
きた。
同い年の若者とくらべ、一般常識が不足気味ではあるが、学園の中
で育った農民の子供ではこんなものだろう。
むしろ、彼の中に放り出されよくひねくれなかったとほめてやりた
い。
突飛な思考をしているが、性格も悪くない。孫の言うとおり、ウチ
で教養や常識を教えていけば、将来はどこに出しても恥ずかしくな
い立派なレディになるだろう。
そんな事を考えながら図書館の扉を開く。
﹁おはようっ?!﹂
見えたのは床に頭を投げ出すようにして座するアティ。
83
﹁⋮っ!おはようございますっ!!﹂
アティ
彼女は頭を下げたまま答える。
⋮なんで、この子は朝から入口で土下座してるんだ。
170年近く今まで生きてきたのだけど、これほど意味の分からな
い状況は⋮
︱初めてだ。
84
前を向いて足を進め
通常四年で学園を卒業出来るのですが、三年に満たない学園生活で
したが満足いく結果は得られないままでした。
目のお陰で人より変わった論文が書けるだけでしたが、魔法のに基
礎に関してだけなら誰にも負けない自信があります。
逸れを記し残すためにどうしても紙が必要なんです。
﹁羊皮紙が高いのは分かっています。それでもどうしても必要なん
です﹂
オジー様にすがりつくように頼み込みます。
﹁いや、残念だけどこの辺りの紙は羊皮紙じゃ無いから困ってるん
だよね。図書館の本は羊皮紙使われてるけど、王都から運んだもの
がほとんどだし。
この辺りで紙と言えば、藁から作ったチリチリ紙⋮藁半紙位しかな
いんだけど﹂
﹁文字を書ければ大丈夫なのでで、是非お願いします﹂
︱そして手に入れた藁半紙。その匂いがクセになりそうです。
そもそも、羊を飼ってる家がないので羊皮紙の入手は無理なのだそ
うです
王都じゃ、大量に羊が消費されていても羊皮紙を必要とする人が少
85
ないので羊皮紙が安く手には入るんですけど、貴族の方達は高価で
真っ白な紙を使用されてましたね。
藁半紙は藁や雑草で作った紙なのですが漂白の過程がないので羊皮
紙より作成コストがかからないのだそうです。
この紙で、鼻かんだり尻を拭いたりもするそうです。
私は生活魔法がありますからそのあたり気にした事なかったんです
が学園に入る前は、山にある大きめの葉っぱを利用して、桶の中の
ンコと混ざってそのまま肥料になってたんだと思います。
◇
まずは、図書館の魔法書にない生活魔法と呼ばれる基礎になってい
る魔法から書いて行きましょうか。
魔法は体内の魔力のみならず大気中に含まれる魔素を集めて魔法と
して使用されてるのですが、大気中を漂う魔素には属性がありませ
ん。体内の魔力で呼び集めた魔素に方向性を持たせるのが精霊語や
呪文です。
それらを空き時間に書いていきましょう。
最後に紐で閉じておけばちょっとした本の出来上がりです。
手のひらサイズの藁半紙十枚程度で書ける事もなくなりましたから
うっすい本です。
わざわざ書くような事でもないんですから、そんなもんなんでしょ
う。
86
でも、せっかくですから思い出せる私の論文をいくつか書いてひっ
そりと棚に潜ませて起きましょう。
87
急な坂道は諦める︵前書き︶
閑話
88
急な坂道は諦める
⋮これ、誰が理解できるんだろう。
藁半紙を紐で留めて作られた、メモ帳と論文っぽいメモ帳。
本と呼ぶには難しいが、書いた者が手書きの図を交えて詳しく伝え
ようとしているのは認めよう。
けど、魔素なんてもの普通は見えないんだから普通の人では理解で
きないだろうね。
本人満足してるみたいだけど、誰か翻訳しないと誰も理解できない
んじゃないか?
これじゃ、理解者が得られなくて落ちこぼれにされる訳だよ
そうでなきゃ、ただの異端者になるだろうからね。
息子ほど学園に関わって居るわけでもないから口を出そうとは思わ
ないが、学園が可能性の芽に優しくしてあげないのはどうなのだろ
うな。
そうだな、とりあえずメモ帳の写本を手紙と一緒に故郷の爺共に送
ってみるか⋮。
︱嫌がらせに。
89
◇
90
危ない橋は渡らない
悲しい職場に放り込まれた感じがいたします。この図書館は、ほん
とに人が来ないようです。
ルーベンスさまとオジー様の二人しか来ません。
仕事中は人恋しさに面通りに面した扉を開ける事もしばしば。
遠くに聞こえる街の喧騒は、尚更侘しさを演出してくれます。
︱静かです。そして、暇と寂しさ人を殺せると思います。
◇
さて、私にも警備隊の制服が支給されました。
ルーベンスやルイスさんが着ていた制服と違って、丈がひざ下位ま
で在りますから、万が一ズボンやスカートが無くても困らない優れ
た制服です。
そんな話をルーベンス様にしたら﹁もっと、短くしたほうが良かっ
た﹂と苦笑しておりました。
流石にズボンがナイ状態になる事はないと思うのでこのままで大丈
夫です。
それとも、丈の短い状態でズボンがない方が異性受けはいいのでし
ょうか?
91
でも、その状態で街を歩けばChijoとなりますか、たまに見か
けた娼館のお姉さん方ですら、そんな状態で人目に出ようとはしな
いでしょうし。
もともと、警備隊は私が入る前の状態でも十分機能していたんです
から、私はイラナイ子なんだと思いますけど、する事がないのは立
場的に非常に気まずい思いがします。
掃除を疎かにする訳ではないのですが、いよいよ呼び込みなどを試
して見る時が来てしまったのでしょうか?
﹁それで今度は看板を作る事にしたのかい?﹂
﹁はい、街の中心あたりから図書館に来るまでの三カ所に設置しよ
うかなと思いました﹂
少々小さめの三枚の立て看板に図書館と書いて設置しようかなと相
談した所オジー様には渋いお顔で﹁いや、この辺りだと文字読めな
い人の方が多いから文字だけだとなんの看板なのか判らないと思う
よ?﹂と言われました。
では、どうやってみんなお店を判断しているのかと聞いてみたら文
字は駄目ですが、絵や特定のマークで判断しているらしいのです。
図書館って本のイメージしかないんですが、都会で本マークはは本
屋さんが使用していましたから、勘違いさせて図書館の蔵書を買い
に来られては元も子もありませんよね⋮。
もし、それで何らかの騒ぎが起ころうものなら私の責任になります
し、オジー様にも迷惑がかかってしまいます。
92
そもそも、私に絵心がないので本を書いたつもりでいたらオジー様
本
ではなく
盾
に見えたのだそうです。
に﹁⋮図書館に防具はおいてないよ?﹂と言われてしまいました。
オジー様には
決まった図形や文字なら大丈夫なんですけど、どうしたものでしょ
うか。
オジー様が、﹁ルーベンス様の描いた絵画は皆から高い評価を得た
事があるから頼ってみたらいいよ﹂と笑っておられましたが、皆と
は貴族の方々ですよね?
流石に貴族の方々から見て高い評価を頂いたような方に、路地に配
置するだけの雨晒し野晒しになる立て看板を依頼するわけには行か
ないです。
︱こうなったら、自分でなんとか描くしかないです。
93
踏みとどまるも
学園には、前年度卒業者魔道書︻前卒の書︼という参考書が存在す
る。
卒業者が半年前から作成に入り、新しい年が来る度に全生徒に配ら
れ、卒業後に廃棄される本だ。
これを糧に研鑽を積め。
だが、ここ数百年あまり新しい発見は皆無に等しく、決まった内容
を詰めただけの参考書に等しい。
新しい発見など、誰もが望みながら誰もが諦めていた。
だが、偶然ながら余り期待されていなかった者が[身体の外部にあ
る魔素が連動性を持つ可能性]という新たな可能性を残し消えた。
古くは精霊と呼ばれた存在と魔素が同一ではないかと言う仮説を残
した。
見るものを写さない瞳は、全てを見通す。
若き賢者の決して︻芽吹かぬ種︼。
魔法を支えるのは神ではなく意志無き魔素である。
育てば、国教の教義により危険視され、表向きの理解者をえられる
はずもない孤立し存在を隔絶される定めであった者。
94
︱全ては此処から。
95
目印はそれらしく
この国の識字率が低い訳ではないですが、王都や学芸都市でもない
限り街の図書館は利用者がいる方が珍しいそうです。
でも、諦めませんよ?
◇
勤務先から歩いて数歩の帰宅。
﹁只今戻りました﹂
﹁お帰りなさいアティア様。﹂
扉の前にいた執事さんがいつものように出迎えてくれます。
勤務時間は九時から四時と短く感じますが、掃除という肉体労働は
結構疲れます。
母だって此処まで掃除していた記憶はありませんし、学園で掃除屋
さんと呼ばれていた事務員さんの体格が良かったのも今なら納得で
きますね。
以前は、毎日出迎えてしてくれてますが仕事大丈夫なのか気になっ
た事もありました。
客人を出迎えるのも家令の務めだそうです。
普段なら、玄関のロビーで待機しているそうですが、私の場合帰宅
時間がはっきりしているので外で待ってくれているのだそうです。
96
実をいいますと、私は初日に一時間ほど入口の前で立ち往生してい
ました。
村全体が家族みたいな田舎の農家でもない限り家に上がるのに誰か
しらいてくれないと、盗み目的で侵入した泥棒でもない限りは不安
になります。
家
が侯爵家の邸宅だなんて有り得ない状況ときたら、館の入
それと似たようなもので、一介の市民でしかない私。それが帰宅す
る
口でノックを躊躇っても仕方がない事だと思いません?
因みに、私が利用させて頂いている勝手口は術式の関係で人が居ま
せんが、門の入口は警備隊とは別口の︽侯爵家の門番︾がいて、建
物の各出入り口には必ず人が待機しているそうです。
外出すると誰か付き添うと言うので、出掛けた事はありませんが、
学園はわりと出入りは自由でしたから、それから考えると侯爵家の
警備半端ないです。
下宿先が見つかってからでないと出歩く事もないでしょうね。
部屋に戻る前に、お風呂で汗を流してから部屋着に着替えます。
お風呂に関しては、常に湯が流れているらしいので遠慮なく入らせ
て貰っています。
なんせ、いままできていた安い私服と違い、明らかに高そうな服な
ので汚れた体で生地に触れたりしたくないです。
シーツも同じ理由から出来るだけ身体を清潔に保たなければ、部屋
でくつろぐ事すら躊躇われますからね。
着替えて脱衣場をでると、メイドさんが待ってくれています。
97
メイドさんに案内されながら、部屋に戻るのですがチラチラと顔を
見ては何か言いたそうにしているので聞いてみると﹁やはり、アテ
ィア様のメガネも揃えるべきだと﹂メイドさんが、やや不満そうに
していたのはメガネのデザインみたいですね。
でも、このメガネは牛乳ビンの底をくり貫いて術式を組み込んで作
った特注品です。
私が裸眼でみる世界は魔素でキラキラ輝いているのでチカチカして
見られた物ではなく、授業は教科書の内容を先生方が口頭で説明し
てくださったので、聞き取りさえ出来れば問題なかったし、外すと
闇夜すら輝いているから学園でメガネを外す事はなく不自由した覚
えはないですから大丈夫です。
それに、魔素を見えなくする陣は私のオリジナルで説明も難しいで
す。
組み方も特殊なので、魔道具関係の人にでもいらいしないと意味が
ないですし、必要なら素材を集めて自分で作った方が安くあがりま
す。
一応、学園の牛乳ビンは素材扱いです。
粉にする過程が面倒でやめたのですが、魔力に反応する水晶が使わ
れているので、砕いて粉にして更に魔力を通すとフラスコに加工で
きたりしたらしいです。
私は瓶底のままで代用出来たのでそこまでやりませんでしたね。
98
続・頂は常に︵裏話︶
元々魔法力学の研究は大規模な魔法陣や器具が必要なお金のかかる
研究である。
魔法力学とは突き詰めてしまえば魔素の研究とも変わらないのだが、
魔素そのものからは魔法が生まれない。
魔素ばかり集まって生まれるのは魔物だけで、魔素を研究するにあ
たっては、対魔物結界や神殿の僧兵の所持する錫のような魔素を散
らし浄化するための道具が必要になる。
故にどちらも潤沢な資金無く研究出来る物ではない。
﹁⋮私にも彼のような目があればいいんだろうが﹂
兵士五人に掲げられた︻魔顕境︼魔素顕微鏡を覗き込んでいる兄が
呟いた。
魔顕鏡は城の地下を流れている大地に流れるエネルギー干渉を受け
やすいので城付近では台座を使うと狂ってしまうので︻防魔服︼と
いう防塵服のような服を着た人の手で支えるのだ。
﹁それはさぞかしキラキラお目をした王子様ができるわね﹂
﹁⋮なにがだ?﹂
﹁件の彼の瞳は星がいくつも散らされたようにキラキラしてるのよ﹂
女の子だから、特徴的でそれはそれでいいかもしれないけどね。
99
﹁普段は魔素に視界が邪魔されてしまうので、魔素を見えなくする
メガネが必要になりますから、兄上に夢見るご令嬢方の為に魔顕鏡
だけで我慢したほうがいいでしょうね﹂
﹁フィアンセがいるのだから構わないと思うが?﹂
﹁そもそも、同じ事をしてもし失敗したら失明しかありませんよ。
正妻でなくとも、王太子の所有物︵側室︶になりたいご令嬢はまだ
まだいますからやめてあげて下さい。﹂
﹁そんなものか⋮、済まないが少し下に下げてくれ。ああそれでい
い暫くこのままで頼む﹂
﹁そんなものです﹂
支える兵士に指示を出しながら調整している兄上。
﹁だがな、彼の研究の内容はどう考えても広範囲を視認性出来なき
ゃ理解できないぞ。移動してきた魔素など魔顕鏡では全く見分けら
れん⋮と。魔石切れで消えかけている、魔石を追加してくれ。﹂
空に近くなった魔石は取り除き、新しいの魔石を燃料ケースに追加
していく。
燃料になる魔石は、無色透明の高価な物だ。これを一回交換するだ
けで、一般人ひと月分の食費にはなるなだろう。
﹁最近は燃料になる石が高くてかなわん。研究の資金を切り詰めた
100
所で、国民が喜んでくれるとは思えんが⋮﹂
﹁そうでしょうね。研究以外に使い先のない無色透明の石ですし買
い取り先が買わなくなる方が彼らとしては痛いでしょうし﹂
属性のない魔石は無色透明で特殊な魔道具にしか使えない。
ただしくは、一般家庭の魔道具で属性の魔力を失った魔石が無色透
明になる。
そういった魔石を買い取り研究所に売りにくる業者には一大事であ
るし、一般家庭からでる無色透明の魔石の捨て場所にも困るから、
国でわざわざ無色透明の魔石が使える大掛かりな器具や施設を作り
魔石を空にしているとも言える。
﹁会いたいと言ったら起こるか?﹂
﹁⋮誰にですか﹂
﹁鬼才の彼だよ﹂
﹁それは無理でしょう﹂
研究所を兼ねた学園からは卒業まで出られないだろうから、確実に
合わせられない。
一部の貴族だけしか外出許可がとれないし、組織的な機密により国
王ですら生徒の顔を知らない。
魔法学園が政治に関わる事はないから、只単に興味がないとも言え
101
るが。
地方の貴族や侯爵家の有志で作らた学園なので、特に接点のない兄
上が研究内容を確認させられているのがおかしいのだ。
﹁他の仕事もありますし、研究など他に任せてしまってはいかがで
す?﹂
﹁今更他人に手放すのもな⋮﹂
﹁どうせ、残る研究ではないのですから、魔素なんて忘れてしまえ
ばいいんですよ﹂
﹁酷い事言うな。確かに片手間の研究で魔素を解き明かす事などで
きないだろうが⋮誰だ尻に力入れたのは不経済だぞ﹂
屁をこいた兵士がいたらしい。
﹁⋮私であります﹂
﹁素直でよろしい以後気をつけろ﹂
﹁⋮いえっさ!クッサ﹂
自業自得かもしれないが防護服の中は⋮異臭事件発生中
彼らとは軽口を言えるくらいに気安い関係らしい。
妙な関心をしていたらコンコンと研究室の扉が叩かれた。
﹁あら、どちら様ですか?﹂
102
扉を開いた先にいたのは︱
103
続・頂は常に︵裏話︶︵後書き︶
防護服の中は腐ったタマネギの匂い
104
終・頂は常に︵裏話︶
﹁研究中に失礼しますぞ﹂
扉を開けた先にはダンディーな髭、いやラインハルト侯爵が立って
いた。
辺境貴族の頭であり、若かりし日に国内最強の魔法剣士として勇名
を馳せた英雄。
侯爵は兄上が研究中であるから一言二言話をすると私に用があると
こちらに向き直る。
経過確認している最中なので魔顕鏡を覗き込んだまま兄上は﹁どー
ぞ∼﹂答えていた。
わたくし邪魔だったんですかお兄様?
﹁では王太子殿下、シャルル殿下をお借りしていきますぞ?﹂
﹁ああ、連れて行ってくれ﹂
お兄様、やっぱりお邪魔でしたか⋮。
﹁では参りましょう﹂
侯爵はとてもにこやかに私を手招きした。
◇
105
﹁では、これからあの子はそちらで世話になると⋮﹂
﹁まぁそうじゃな。あの星を散らしたように輝く瞳は網膜に焼き付
いた魔法陣の影響ではなくハイエルフの見る力が表面に現れるほど
濃い証なんじゃろう﹂
魔法=魔の法で、邪な力であるからかハイエルフなど聖に近い存在
にはその流れが見えるのだという。
鑑定の魔法を使うと目がうっすらと光るのもハイエルフ瞳にやどる
看破の見る力の一端を多種族が使えるように考案した結果、そうな
ったのだとか。
﹁しかし侯爵。今時平民の中からハイエルフが生まれてくるなんて
あり得ないでしょう?﹂
魔法に長けたエルフの血は薄まろうとも国によって管理されている
のが、ハイエルフを名乗れるほどの者が復活したなどという話は聞
いた事がない。
﹁おそらく大隔世遺伝という奴じゃろう。もともとその素養がある
からこそ平民の子供らを魔法学園に送り込むのだから、彼女は強い
光を見た時に本能か何か刺激されて発現したんじゃな﹂
﹁⋮それでは、彼女はもう戻ることはないという事ですか?﹂
私は立ち上がり、応接間に支度された書類棚から幾つかの書類を取
り出し再びイスにつく。
﹁そうじゃなぁ、本人も戻りたい様子はないみたいで伸び伸びとす
ごしておるからのぅ﹂
106
そう言って髭を撫でるラインハルト侯爵。
彼女は堅苦しい世界でなければ、どんな荒れた場所でも生きていけ
るからきっと大丈夫だろう。
何事も一生懸命取り組む性格なのはいいけど、生真面目で突拍子も
ない発現をしたりするし、育ち云々じゃなくて直感とか本能で生き
てるみたいだから政治と陰謀が渦巻いているのに礼節を重んじる王
宮の生活とか絶対無向いてないだろうからよかったな。
﹁⋮なんじゃ、もっと残念そうにするかと思うたからわざわざ話に
来てやったのにヤケにスッキリした顔しとるな?﹂
﹁あえない訳ではありませんし、もしどうしてもあの子に会いたく
なったらラインハルト領に視察にいきます﹂
カリカリと羽ペンを動かしながら私は侯爵の言葉に返事をしてゆく。
﹁侯爵様、ちょっと失礼いたします﹂
﹁ハドラー緊急の案件の書類だ急ぎ予定を作るように伝えよ!﹂
﹁畏まりましたシャルル殿下﹂
バタンと扉を閉めてフウッと一息。
﹁⋮今の書類の束は何だったんじゃ﹂
107
﹁ラインハルト領への無期限の視察︵漫遊︶の要請です﹂
﹁そうか、愛されとるな﹂
﹁えぇ、ほっとくと何をしでかすかわかりませんから﹂
ラインハルト侯爵は天井を仰ぎ﹁なんじゃそりゃぁ⋮﹂と小さく小
さく呟いた。
108
裏話・朝礼の調整
朝礼の傍らで結界魔法陣の修正作業が行われている。
魔力回復量の二割を搾取するのは本来とても危険な事だ。
生活にこそ支障はないが、魔法力が三割を切ると頭痛や立ち眩みな
ど体に不調をきたす。
魔素の満ちた大地では、人の体内に魔力の巡っているから生かされ
ているのだ。
体内魔力がないと大気中の魔素の圧力に押し潰されてペシャンコに
なってしまうのだ。
そんな訳で魔法力が零になると死んでしまうのだが、死ぬ前の刹那
の瞬間にもわずかながらも回復していくので、魔力不足で昏倒した
だけですみ、死なない事が多い。
だが、回復力の二割を奪われれば刹那の回復力が足りず死ぬ確率が
高くなる。
今まさにその調整作業に職員達が追われている。
欠伸をかみ殺した生徒が居る。もはや夢の世界に旅立った者もいる。
学園長である私も長い話し飽きが来ているが作業が終わるまで引き
延ばさねばならない。
ステージ脇のカーテンからカンペを抱えた連絡係が申し訳なさそう
に文字を書いている。
109
︱後10分
任せろと目配せをすると連絡係が安堵したように頷く。
﹁まだ時間が余っているようなので︱﹂
喋る
どうどもいい話から役にたつ話まで知恵を駆使
先任の学園長から指名された最大の理由にして現学園長たる私の最
強の特技は
し飽きさせたとしても口を止めないで居られる根性にある。
私はやり遂げてみせる。
魔法力より絶対の自信を持つこのチカラ。
いや、生徒達にはつまらん話ばかりで済まないね。
◇
110
メガネ解除
さて、私のメガネのレンズの話ですがもともと空の牛乳瓶に魔法液
を入れてから太陽の光を瓶底のレンズで集光して焼くとクラカオが
ココアではなく魔法用の粉になる仕掛けなんかもありますからレン
ズには違いないんです。
見えるから大丈夫とか思ってたんですが⋮。
昨日、オジー様から渡された腕輪により瓶底メガネ要らずになりま
した。
﹁あれから、どんな塩梅かな?﹂
﹁メガネがなくても物が見えてるので埃がしっかり見えて助かって
ます﹂
すみません。正直瓶底レンズは傷だらけで見えませんでしたから無
理してましたが、陣が書いてないとどの道見えなかったんでそれば
かりは仕方がなかったんです。
ひさしぶりに鏡で自分の顔を見た時に随分ガリガリに痩せたものだ
と思いましたよ。
クマがないから以前よりマシな顔にはなったんですが、よくオカさ
んはこの顔を見ながら十分可愛いなどと真顔で誉めれたモノだと思
います。所詮人の評価は社交辞令ばかりでアテにならないと言う事
なのでしょう。
可愛いだけはありえませんよ。血色も悪くてガリガリではクラスメ
111
ートの評価の方が正しく、学生時代に随分体に負担がかかってたん
ですねー。
これは髪が長くても女じゃありませんですよ。
侍女さんが毎朝持たせてくれるお弁当のお陰で、輪郭が柔らかくや
りましたが、余分な所にばかり肉が付こうとするのはなんでですか
ね。
痩せる研究を残そうとした記録はあったので、幾つか気になる物は
手にとって見た覚えはありますが、上手に太る研究とかは魔導学に
はありませんでした。
オジー様に煎れ立てのココアを渡して、自分のココアを煎れる。
﹁上手にココアを入れるようになったね︱﹂
﹁えぇ、最近夜は二杯以上飲ませてくれないので隠れて自分で作っ
て飲むようにしてたら美味い濃さがわかるようになりました﹂
﹁ふぅん、そんなものかい。でもココアは栄養価が高いから水代み
たいに飲んだりしてはいけないよ?﹂
﹁そうらしいですね﹂
とかオジー様と話しながら、二杯目の支度に着手する。
オジー様の言うことはごもっともですけど、二年ほど夜はクラカオ
の実を食べて生きてましたから今更手放せないですよ。
﹁う∼ん。クラカオ中毒なんて話があったかなぁ⋮﹂
112
真剣な顔でオジー様が呟いてますが一日二粒以上は消費してないか
ら多分まだまだ大丈夫ですよ。
113
メガネ解除︵後書き︶
人間不信に陥るフラグ?
114
SS爵位と侯爵と議会︵前書き︶
侯爵様の日常
115
SS爵位と侯爵と議会
﹀伯爵
﹀子爵
国として政治参加を促している爵位をえらい順にならべると公爵
﹀侯爵
となる。
逆に国が政治よりより安定した統治を求め与えるのが︽辺境爵︾辺
境伯爵﹀辺境子爵﹀辺境男爵。
彼らは王都から距離もあるので、税金は安く設定されているのだが
国からの騎士の派遣も時間がかかるので、国が定めた一定数の人員
を組織し国軍として保持しなければならない。
国へ収める税は安いが、軍の保持にはお金がかかるので、普段は兵
士扱いしていなくとも兵士登録だけさせて軍人の数を誤魔化す辺境
爵もある。
そう言った実践では農奴兵とあまりたいさない。
自由統治を認められている辺境爵の政治への発言力だが、現状では
自領の統治に忙殺され王都の政治や議会に参加していない。
故に近隣の伯爵や侯爵に意見を託し委託参加の様相を訂するのだが、
それらが侯爵や伯爵による︽派閥︾になる。
ラインハルト侯爵派は、参加者だけなら一二を争うほど大きな派閥
なのだが、王都からはなれた辺境爵が手紙だけでやり取りしている
ので実際に一堂に会した事がないと言う、国の騎士団に並ぶ兵力を
116
保持していると称される唯一無二の武力派派閥。
会議に参加するのはラインハルト侯爵のみで、派閥そのものが集ま
っている姿を見せた事がない。
ラインハルト侯爵自身が会議で口を出した事もなく、常に憮然とし
た表情で不気味に沈黙を保っている。
◇
﹁⋮こんな茶番はやく終わらんかの﹂
今日の議題は、治水工事派と公共事業派の予算の奪い合い。
予算が多い方が主導となり国内最大の川の治水工事に着手する筈な
のだが、どちら側も互いに主導を譲り合って終わらないのだ。
毎年決壊してる場所に土を盛る位しか予定が無いので旨味もなけれ
ば目立ちもしない。
﹁どっちがやっても同じじゃろうしな⋮﹂
下流域に人が住んでいないので壊れても誰が迷惑するわけでもない。
事業
らしいので国として
作るだけ予算の無駄なくても構わないのではないかとまことしやか
に噂されているが、初代国王から続く
はどうしてもやりたいらしい。
実のところ誰が見ても無駄の塊である。
﹁⋮そろそろ茶でも欲しいのぅ﹂
117
会議中は、飲食禁止なのだがハンカチに隠し持って来た小さな飴玉
を口に含みモゴモゴとなめ始める。
﹁ラインハルト侯爵はどちらが相応しいと思われますか!!﹂
知らんわ好きにせえや。
そう思いながら、無言でゆっくり手を振る。
﹁左様でございますか、貴重な意見ありがとうございます﹂
ワシ何も言うとらんし飴玉のせいで口も開けんわ。
ラインハルト侯爵はあと何時間意識を保ってらいられるかだけに気
を向ける事にしたのだが、そのうち人から離れた議席に移動し椅子
の下に隠したスルメを炙り始めた剛の者を見つけてしまった。
周りの者に目配せしながら仕方なくその者を注意しに行くことにし
た。
炙ったスルメを出されてしまっては何人かで確実に壁︿結界﹀をし
なくてはならないのだ。
﹁酒が欲しいのう﹂
﹁侯爵様お疲れでしたら、私のように目薬︵中身アルコール︶など
いかがですか?﹂
高い所から目に指す振りをして口にポチョンと落として見せる若い
伯爵。
118
﹁それは効きそうじゃの﹂
﹁量が少ない分キツメの奴を入れてあります﹂
伯爵から目薬を渡され使用する。
﹁か∼、コイツは効くのぅ﹂
一滴だけなのに胃にしみるかなり強い酒だった。
﹁ウォトカの一番キツい奴です。侯爵様も次回から如何ですか﹂
﹁ウチの領は地酒は弱いから任せてもいいかのぅ﹂
ワシがそう言うと集まってきた者達数人からも同様の声があがる。
﹁勿論ですとも、皆様にはいつもお世話になってますから次回の会
議が始まる前に必ずお渡しします﹂
﹁頼むぞぃ、スルメはどうかの﹂
﹁いい感じに焼けてきましたぞ侯爵様﹂
ヒソヒソと話しながら、壁役の議員からスルメを渡していく。
開始から8時間、トイレ休憩もなく会議はまだまだ終わりそうもな
かった。
119
SS爵位と侯爵と議会︵後書き︶
起こせよムーブメント
120
−;︶苦悩
最終話という⋮︵前書き︶
︵−
121
最終話という⋮
ア﹁作者の都合によりやり直しするそうです﹂
オカ﹁⋮はっちゃけ過ぎた裏話1話部分から訂正するつもりらしい
けど、どうなの?﹂
ア﹁先ずは二話目から作成するらしいで、草原からスタートしなき
ゃならないみたいです﹂
シャ﹁またカカオ探すのね?﹂
﹂
ア﹁いえ、町に向かわなくてもいい気がしてきましたし⋮﹂
シャ﹁⋮え
ア﹁山って生きるにはいい場所ですよね⋮﹂
シャ﹁⋮⋮⋮そう言う子だったね﹂
ア﹁人付き合いとか面倒です﹂
シャ﹁⋮とりあえず、捜索隊はだしましょう﹂
ア﹁やめましょうよ﹂
シャ﹁基本的に、色気も無いからサバイバル方向に転換するつもり
なの?﹂
ア﹁いえ、どこかわからないのでとりあえず山籠もりになるのです﹂
122
シャ﹁道がわからなくて、山にいるのは山籠もりとは言わない﹂
ア﹁⋮⋮とりあえず、コレはこのままにして、一話目をコピしてや
り直します﹂
シャ﹁どこ行くのか予想もつかないわ﹂
123
最終話という⋮︵後書き︶
そんなわけで︵ ̄人 ̄︶申し訳ないですが、此方は閉鎖いたします
124
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n7292ct/
《フェードアウト!》成績が最下位で選択を迫られたの
で、魔法学園を自主退学しました【連載版】
2016年7月14日23時11分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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