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解析学の基礎と高等学校数学 - 兵庫教育大学自然系教育講座
平成 19 年度 学位論文 解析学の基礎と高等学校数学 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科・領域教育専攻 自然系コース M06229G 島 田 敏 寿 目次 0章 序 1 1章 実数と極限 4 1.1 実数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 1.2 無限級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 1.3 実関数と連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 1.4 一様収束と一様連続 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29 1.5 リーマン積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35 1.6 微分可能な関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44 ベキ級数とテイラー級数 54 2.1 ベキ級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 2.2 テイラー級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59 指数関数 · 対数関数 65 3.1 ベキ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 3.2 指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 71 3.3 対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 77 3.4 自然数のベキ乗和 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 83 3.5 オイラー · マクローリンの和公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 88 三角関数 · 逆三角関数 96 4.1 三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 96 4.2 逆三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 104 4.3 双曲線関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 109 4.4 三角関数によるフーリエ級数展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 111 4.5 ジグザグ順列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 117 2章 3章 4章 1 5章 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 123 5.1 関数のベキ級数展開に対する筆者の考え . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123 5.2 高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義 . . . . . . . . . . . . . . 124 5.3 三角関数・指数関数のベキ級数展開の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 126 5.4 本教材で用いる証明 5.5 教材 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 129 5.6 まとめと今後の課題 5.7 備考 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 137 6章 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 127 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 137 オイラーの数 e の導入についての提案 145 6.1 高等学校における e の導入の現状 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 145 6.2 e の導入に数学史を取り入れることについて . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 146 6.3 数学史を取り入れた e の導入に関する教材 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 147 6.4 本教材を用いた際の効果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153 6.5 まとめと今後の課題 参考文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 154 155 0章 序 筆者は高等学校で 7 年間勤務してきた.その中で,数学に対する専門性を高めたい という気持ちが年々強まっていった.教科書に掲載されている表面的な内容は理解で きていても,その背景にあるものが見えていないこと,授業で紹介する数学史の内容 や発展的内容が単発的であり,系統性がないことなどがその理由である.この数学に 対する専門性を高めたいという気持ちが,大学院進学の大きな動機の 1 つであり,自 身の専門性の向上が研究の最大の目的である. 微分積分を頂点としてカリキュラムが構成されている高等学校数学を指導する立場 において,微分積分学の歴史的な背景,より高次の内容について知ることは非常に重 要である.そこで,高等学校数学を指導するという観点,および数学史を学ぶという 観点に基づいて研究を行った. 本論文は,高等学校数学科教員に必要な素地として,解析学の基礎についてまとめ たものである.また,研究内容に関連した高等学校における教材を提案した.特に,筆 者のような教育学部出身の高等学校数学科教員に読んで頂ければ幸いである. 以下,論文の構成について述べる. 1 章では,高等学校における微分積分の背景にあたる内容について述べる.また,こ の章は,2 章で述べるベキ級数とテイラー級数に関する諸定理を示すための基盤となる. §1.1 では,有理コーシー列の同値類を実数と定義し,実数のもつ 17 の最も基本的な性 質を述べる.その中で,実数の完備性について述べ,連続の公理を示す.また,コー シーの判定条件やボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理などの,収束に関する定理に ついて述べ,上に有界な単調増加列が実数の極限値をもつことも厳密に示す.§1.2 で は,まずライプニッツの判定条件など無限級数の収束判定について述べる.また,絶対 収束や 2 重級数に関する定義や定理等について述べる.そして,3 章および 4 章で指数 関数や三角関数のベキ級数展開を求める際に必要になる無限級数と極限操作の順序交 換についても述べる.§1.3 では,まず実関数の連続性について述べる.また,連続関数 に関する中間値の定理や最大値の存在についての定理を示す.§1.4 では,一様収束と 一様連続についての定義や定理を述べる.一様収束と一様連続は,連続関数のリーマ ン積分可能性や,連続関数列の極限関数の連続性を保証する重要な性質である.また, 1 0. 序 2 交代級数の一様収束に関連するアーベルの定理についても述べる.§1.5 では,まずリー マン積分の定義を行う.そして,リーマン積分論を確かなものにするためのデュ· ボア · レイモンとダルブーの定理を述べる.また,積分についての平均値の定理や,積分と 極限操作の順序交換等の定理についても述べる.§1.6 では,関数の導関数および原始 関数を定義し,解析学の重要な定理である微積分学の基本定理について述べる.そし て,極限が不定形になる場合を扱うロピタルの定理や,微分と極限操作の順序交換等 の定理についても述べる. 2 章では,解析学において重要な概念であるベキ級数について述べる.また,関数の テイラー級数展開についても述べる.この章で示す定理等は,3 章および 4 章にて用い る.§2.1 では,ベキ級数の定義を行い,ベキ級数が収束するような x の値の集合につい て考える.また,ベキ級数で表される関数の連続性や,その導関数 · 原始関数などにつ いて述べる.§2.2 では,まず関数の級数展開に対するテイラーの考えを紹介する.次 に剰余項のあるテイラー展開の公式について述べ,関数をテイラー級数展開するため の条件を示す. 3 章では,高等学校で扱う指数関数,対数関数について定義し,そのベキ級数展開に ついて述べる.また,自然数のベキ乗和およびオイラー · マクローリンの和公式につい ても述べる.§3.1 では,正数 a の有理数 r ベキ ar を定め,その性質を考える.そして ベキを実数へ拡張する.また,xλ (実数ベキ) の導関数についても述べる.§3.2 では,オ イラーの指数関数についての考えを紹介する.また,テイラー級数の公式により,指 数関数のベキ級数展開を示す.最後に,指数関数を複素数全体に拡張する.§3.3 では, まず対数関数について定義する.そして,オイラーが自然対数を定義するまでの過程 を述べ,e の幾何的意味を考える.またテイラー級数の公式により,対数関数のベキ級 数展開を示す.§3.4 では,ベルヌーイ数により,自然数のベキ乗和を表す.また,ベ ルヌーイ多項式や自然数のベキ乗和の性質について述べる.このベルヌーイ数やベル ヌーイ多項式は,次節のオイラー · マクローリンの和公式や,4 章の正接関数のベキ級 数展開等にて用いる.§3.5 では,オイラー · マクローリンの和公式について述べる.こ れを用いて,n! を近似するスターリングの公式を導く.また,調和級数に関連するオ イラー定数についても述べる. 4 章では,高等学校で扱う三角関数,その逆関数である逆三角関数について定義し, そのベキ級数展開を示す.また,双曲線三角関数についても述べる.最後に三角関数 のベキ級数展開と関連のあるジグザグ順列について述べる.§4.1 では,まず三角関数 について定義し,正弦 · 余弦関数のベキ級数展開を導く.テイラー級数の公式による証 明も行う.また,オイラーの公式についても述べる.そして,ベルヌーイ数を用いて 正接関数のベキ級数展開を導く.§4.2 では,逆三角関数について定義し,そのベキ級 0. 序 3 数展開を導く.また 1 章および 2 章で示した定理により,ベキ級数展開を示す.§4.3 で は,三角関数に関連のある双曲線三角関数について述べる.§4.4 では,三角関数によ るフーリエ級数展開について述べ,ベルヌーイ多項式の性質を示す.§4.5 では,三角 関数のベキ級数展開と関連のあるジグザグ順列について述べる.その中で,ジグザグ 順列の総数から作られるある数列の極限が,π になることを述べる. 5 章では,高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義として,既習の内容 について意味理解を深めることができるということを述べる.また,三角関数 · 指数関 数のベキ級数展開を証明する方法は幾通りかあるが,高校生が既習の範囲で理解でき る関数の「平均値」を利用する方法を示す.そして,実際に高等学校にて関数のベキ 級数展開を指導するための教材について考察する. 6 章では,高等学校におけるオイラーの数 e の導入についての提案を行う.e は現在 「数学 III」で導入されているが,筆者は,生徒の e についての理解が十分ではないと考 える.そこで,その改善のために e の導入に数学史を取り入れることを提案する.e の 導入に数学史を取り入れることで,e について深く理解することができるのではないか と考えたからである.また,数学史を取り入れた e の導入に関する教材の視点および 概要,本教材を用いた際に得られると考えられる効果について述べていく. なお,本論文の主たる参考文献は E. ハイラー / G. ヴァンナー 著,蟹江幸博 訳, 『解析教程 上, 下』である.ここで,その著者および訳者に敬意を表する. 最後に,2 年間懇切丁寧にご指導してくださいました兵庫教育大学大学院数学教室 渡辺 金治先生に心より厚く感謝の意を表します.また,様々な機会を通して示唆を与 えてくださった藤原 司先生,濱中 裕明先生をはじめとする数学教室の先生方に深く感 謝いたします.そして,本大学院での研修の機会を与えてくださった福井県教育委員 会,福井県立若狭高等学校長ならびに教職員の皆様に厚く御礼申し上げます. 1 章 実数と極限 本章では,高等学校における微分積分の背景にあたる内容について述べる. また,この章は,2 章で述べるベキ級数とテイラー級数に関する諸定理を示 すための基盤となる. §1.1 では,有理コーシー列の同値類を実数と定義し,実数のもつ 17 の最も 基本的な性質を述べる.その中で,実数の完備性について述べ,連続の公 理を示す.また,コーシーの判定条件やボルツァノ-ワイエルシュトラスの 定理などの,収束に関する定理について述べ,上に有界な単調増加列が実 数の極限値をもつことも厳密に示す. §1.2 では,まずライプニッツの判定条件など無限級数の収束判定について 述べる.また,絶対収束や 2 重級数に関する定義や定理等について述べる. そして,3 章および 4 章で指数関数や三角関数のベキ級数展開を求める際に 必要になる無限級数と極限操作の順序交換についても述べる. §1.3 では,まず実関数の連続性について述べる.また,連続関数に関する 中間値の定理や最大値の存在についての定理を示す. §1.4 では,一様収束と一様連続についての定義や定理を述べる.一様収束 と一様連続は,連続関数のリーマン積分可能性や,連続関数列の極限関数 の連続性を保証する重要な性質である.また,交代級数の一様収束に関連 するアーベルの定理についても述べる. §1.5 では,まずリーマン積分の定義を行う.そして,リーマン積分論を確 かなものにするためのデュ· ボア · レイモンとダルブーの定理を述べる.ま た,積分についての平均値の定理や,積分と極限操作の順序交換等の定理 についても述べる. §1.6 では,関数の導関数および原始関数を定義し,解析学の重要な定理で ある微積分学の基本定理について述べる.そして,極限が不定形になる場 合を扱うロピタルの定理や,微分と極限操作の順序交換等の定理について も述べる. 4 1. 実数と極限 1.1 5 実数 19 世紀後半には,数学者達の間で,無理数とは何かということが厳密に考 えられていた.メレー (1869),コサック (1872),カントール (1872),ハイ ネ (1872) らが同時期にその成果を発表しているが,いずれもコーシー列を 用いて無理数を定義するというアイディアに基づいたものであった.また, デデキント (1872) の切断に関する研究が発表されたのもこの時期であった. ( [6] 参照) 本節では,有理コーシー列の同値類を実数と定義し,実数のもつ 17 の最も 基本的な性質を述べる.その中で,実数の完備性について述べ,連続の公 理を示す.また,コーシーの判定条件やボルツァノ-ワイエルシュトラスの 定理などの,収束に関する定理について述べ,上に有界な単調増加列が実 数の極限値をもつことも厳密に示す. ・有理数に関する諸性質が成立つことを前提に,実数について述べていく. ・任意の正の整数 n に対して有理数 sn を対応させ,{sn }n=1 = {sn } と表す. 定義 1.1.1 有理数列 {sn } は, 「任意の有理数 ε > 0 に対してある N = 1 が存在し,n = N ,k = 1 であれば |sn − sn+k | < ε が成立つ」 とき,コーシー列という. コーシー列である有理数列を有理コーシー列とよぶ. 同値関係 2つの有理コーシー列 {sn },{vn } が同値であるとは, 「任意の ε > 0 に対してある N = 1 が 存在し,n > N であれば |sn − vn | < ε が成立つ」 ことをいい,{sn } ∼ {vn } と表す.∼ は, {sn } ∼ {sn } {sn } ∼ {vn } ⇒ {vn } ∼ {sn } {sn } ∼ {vn },{vn } ∼ {tn } ⇒ {sn } ∼ {tn } を満たすので,同値関係であり,有理コーシー列の集合を同値類 ¯ o £ ¤ n ¯ {sn } = {vn }¯{vn } は有理コーシー列で {vn } ∼ {sn } に分割できる. 1. 実数と極限 6 定義 1.1.2 有理コーシー列の同値類を実数と定義する.そして, R= n£ o ¤¯¯ {sn } ¯{sn } は有理コーシー列 を実数全体の集合とする. 有理数全体の集合を Q とあらわす.r ∈ Q に対して,項が一定の列 {r,r,r,· · · } は £ ¤ 有理コーシー列である.よって有理数 r を実数 {r,r,r,· · · } と同一視する.以下の演 算 · 順序によって ,Q は R の部分集合と考えられる. 実数は以下に述べる 17 の性質を,最も基本的な性質としてもつ.ここでは,その性 質を [1] 四則演算 [2] 順序 [3] 連続の公理 の3つに分類する. [1] 四則演算 £ ¤ £ ¤ a = {an } と b = {bn } の2つの実数を考える.このとき,その和と積は代表元に よらず, £ ¤ £ ¤ a + b := {an + bn } , ab := {an · bn } と定義される.また,加法に関する単位元を 0 = [{0}],乗法に関する単位元を 1 = [{1}] とし,任意の a,b,c ∈ R に対して 次の (R1) ∼ (R10) を満たす. (R1) a + b = b + a (R2) (a + b) + c = a + (b + c) (R3) すべての a ∈ R に対して a + 0 = a を満たす. (R4) 任意の a ∈ R に対して − a ∈ R が存在し, a + (−a) = 0 を満たす. (R5) ab = ba (R6) (ab)c = a(bc) (R7) a(b + c) = ab + ac, (a + b)c = ac + bc (R8) すべての a ∈ R に対して a · 1 = a を満たす. (R9) 0 でない任意の a ∈ R に対して a−1 ∈ R が存在し, a · a−1 = 1 を満たす. (R10) 1 6= 0 1. 実数と極限 7 [2] 順序 £ ¤ £ ¤ a = {an } と b = {bn } の 2 つの実数を考える.このとき, a<b :⇔ 「ある有理数ε0 > 0 とある M = 1 が存在し,l = M であれば,al 5 bl − ε0 が成立つ. 」 a5b :⇔ a < b または a = b (1.1) として順序を定義すれば,任意の a,b,c ∈ R に対して次の (R11) ∼ (R16) を満たす. (R11) a 5 a (R12) a 5 b,b 5 a ならば a = b (R13) a 5 b,b 5 c ならば a 5 c (R14) a 5 b または b 5 a の少なくとも一方が成立つ (全順序性) (R15) a = 0,b = 0 ならば,ab = 0 (R16) a 5 b ならば a + c 5 b + c ここで,(R14) が成立つことを示す. £ ¤ £ ¤ Proof a = {an } と b = {bn } の2つの異なる実数を考える. a 6= b より,ある ε > 0 が存在し,任意の N = 1 に対して |al − bl | = ε を満たすような l = N が存在する.ε = 3ε0 とおき,有理数 ε0 > 0 をとる と,{an } と {bn } はコーシー列であるので,任意の n = N1 ,k = 1 に対し て |an − an+k | < ε0 を満たす N1 が存在し,任意の n = N2 ,k = 1 に対し て |bn − bn+k | < ε0 を満たす N2 が存在する.|am − bm | = ε を満たすような m = max[N ,N1 ,N2 ] が存在するので, am − bm = ε または bm − am = ε ε´ ε ε ³ − bm + > または 3 3 3 ³ ´ ε ε ε > bm − − am + > であるので,(1.1) において M = m 3 3 3 が考えられる.am+k − bm+k > am − bm+k − am+k として成立ち,am − bm = ε の場合は a > b,bm − am = ε の場合は b > a と なる. 1. 実数と極限 8 (R14) より数 s の絶対値を,s = 0 のときは s,s < 0 のときは −s として定 £ ¤ 義することができる.この定義から s = {sn } のとき 絶対値 £ ¤ |s| = {|sn |} (1.2) であることが得られる.よって,三角不等式 |s + v| 5 |s| + |v| と,それから得られる すべての結論は実数においても成立つ. 上界および下界 実数 b ∈ R が R の部分集合 X の上界であるとは,任意の a ∈ X に 対して a 5 b が成立つことをいう.また,実数 c ∈ R が任意の a ∈ X に対して c 5 a を 満たすとき,c は X の下界という. 上限および下限 X を R の部分集合とする.実数 γ が X の最小上界 (上限) というの は,(1) 任意の x ∈ X に対して x 5 γ が成立ち,(2) 任意の ε > 0 に対してある x ∈ X が存在し,x > γ − ε を満たすときいう.このとき γ = sup X とあらわす.ただし,X の上界が存在しない場合は,sup X = ∞ とかく. 実数 γ が X の最大下界 (下限) というのは,(1) 任意の x ∈ X に対して x = γ が成立 ち,(2) 任意の ε > 0 に対してある x ∈ X が存在し,x < γ + ε を満たすときいう.こ のとき γ = inf X とあらわす.ただし,X の下界が存在しない場合は,inf X = −∞ と かく. [3] 連続の公理 [ワイエルシュトラス] (R17) X を R の,上に有界な空でない部分集合とすると,上限γ = sup X が存在 する. この連続の公理を証明するために,まずアルキメデスの原理および完備性を示す. 定理 1.1.3 アルキメデスの原理 £ ¤ £ ¤ a = {an } と b = {bn } の2つの正数を考える.このとき,ma > b となる自然数 m が存在する. ただし,アルキメデスの原理が有理数において成立つことを前提とする. Proof ある有理数 δ1 > 0,δ2 > 0 および自然数 N が存在し,任意の n = N に対して an > δ1 および δ2 > bn > 0 が成立つ.したがって man − bn > mδ1 − δ2 > 0 となる自然数 m が存在する. £ ¤ £ ¤ ゆえに,m {an } > {bn } が成立つ. 1. 実数と極限 9 定義 1.1.4 実数列 {sn } = {s1 ,s2 ,· · · } が収束するとは,ある実数 s が存在し, 「任意の ε > 0 に対してある N = 1 が存在し,n = N であれば |sn − s| < ε が成立つ」 ことをいう.s = lim sn または sn → s (n → ∞) と表す.また,収束しないとき n→∞ に,発散するという.+∞(−∞) に発散するとは, 「任意の c に対してある N が存在 し,n = N であれば sn > c (sn < c) が成立つ」ことをいい, lim sn = +∞(−∞) と n→∞ 表す. 注意 1 アルキメデスの原理は「a > 0 ならば lim na = +∞」と同値であり, n→∞ 1 「 lim n = +∞」および「 lim = 0」とも同値である.また,任意の自然数 n に対し n→∞ n→∞ n て,n 5 2n ,n−1 = 2−n であるから, lim 2n = +∞, lim 2−n = 0 n→∞ (1.3) n→∞ が得られる. 定理 1.1.5 {sn } は,収束すれば有界である.すなわち, 「n に無関係な定数 B が存在し,任意の n = 1 に対して |sn | 5 B を満たす」 Proof 収束の定義 1.1.4 において ε = 1 とすると,整数 N が存在し,任意 の n = N に対して |sn − s| < 1 となる.三角不等式より,n = N に対して |sn | 5 |sn − s| + |s| < 1 + |s| であるので,B = max{|s1 |,|s2 |,· · · ,|sN −1 | ,|s| + 1} とおけば定理が成立つ. 注意 2 数列が有界であっても,収束するとは限らない. 定理 1.1.6 2 つの収束列 sn → s,vn → v を考えると,その和,積,商を項ごとに とった数列もまた収束し, lim (sn + vn ) = s + v (1.4) lim (sn · vn ) = s · v µ ¶ s sn = (vn 6= 0,v 6= 0) lim n→∞ vn v (1.5) n→∞ n→∞ を満たす. (1.6) 1. 実数と極限 Proof a) 10 任意の ε0 > 0 とり,ε > 0 を 2ε = ε0 とおく.仮定より,2 つ の数列 {sn },{vn } は s,v に収束するので,N1 ,N2 が存在し,n = N1 のとき |sn − s| < ε であり,n = N2 のとき |vn − v| < ε となる. N = max(N1 ,N2 ) とするとき,数列 {sn + vn } に対して n = N であれば, |(sn + vn ) − (s + v)| = |sn − s + vn − v| 5 |sn − s| + |vn − v| < 2ε = ε0 となる.よって (1.4) が成立つ. b) 定理 1.1.5 より,n に無関係な定数 B が存在し,任意の n = 1 に対して |vn | 5 B を満たすので,a) と同様に, |sn vn − sv| = |sn vn − svn + svn − sv| 5 |vn ||sn − s| + |s||vn − v| < (B + |s|)ε = ε0 となる.よって (1.5) が成立つ. sn 1 = sn · と考えればよいので,すべての n に対して sn = s = 1 の vn vn |v| 場合を示す.収束の定義において ε = とおくと,十分大きな n に対して 2 |v| |v| |v| |vn − v| < となり,|vn | > |v| − |vn − v| > |v| − = > 0 となる. 2 2 2 よって,a) と同様に c) ¯ ¯ ¯1 ¯ ¯ − 1 ¯ = |v − vn | < 2|v − vn | < 2ε = ε0 ¯ vn v ¯ |vn | · |v| |v|2 |v|2 が得られる.よって,(1.6) が成立つ. 定理 1.1.7 {sn } が収束し,十分に大きなすべての n に対して sn 5 B とすれば,実 数の極限 s もまた s 5 B を満たす. Proof s > B と仮定する.ε = s − B > 0 とおいて定義 1.1.4 を用いると, 十分大きな n に対して s − sn 5 |sn − s| < ε = s − B となる.よって sn > B となるので,矛盾する. 注意 3 「すべての n に対して sn < B ならば,s < B となる」ことは間違いである. 1 1 反例として,B = 0 の場合に,sn = − や sn = − n などがあげられる. n 2 1. 実数と極限 11 定理 1.1.8 完備性 R において,任意の実コーシー列は収束する. Proof {si } を実コーシー列とし,各 si 自身が有理コーシー列の同値類つま £ ¤ り si = {si,n }n=1 となっている.このとき, 「任意の実数 ε > 0 に対してあ る N = 1 が存在し,n = N ,k = 1 であれば |si,n − si,n+k | <ε が成立つ」 1 ことになる.また,ε = をとり,有理コーシー列の定義を用いると, 「あ 2i 1 る Ni = 1 が存在し,n = Ni ,k = 1 であれば |si,n − si,n+k | < が成立つ」 2i ことになる.ここで vi := si,Ni とする ( 有理数 vi を実数 {si,Ni ,si,Ni ,si,Ni ,· · · } と同一視する ). (1) (1.2) により,|vi − si | は有理コーシー列 {|vi − si,m |}m=1 によって代表 1 1 1 される.すべての m = Ni に対して |vi − si,m | = |si,Ni − si,m | < = − 2i i 2i 1 1 0 となるので (1.1) において ε = とおけば,|vi − si | < である. 2i i (2) 十分に大きな i と k = 1 に対して |vi − vi+k | = |vi − si + si − si+k + si+k − vi+k | 1 1 +ε+ < 3ε (1.7) i i+k £ ¤ となり {vi } は有理コーシー列である.また,{vi } の同値類を s := {vn } と 5 |vi − si | + |si − si+k | + |si+k − vi+k | < 表すと (1.7) より十分大きな i に対して |vi − s| < 3ε なので vi → s となる. (3) (1),(2) と三角不等式より,i > 1 を満たす i に対して, ε |si − s| 5 |si − vi | + |vi − s| < 1 + 3ε < 4ε i が成立つ.よって si → s である. 以下,連続の公理が成立つことを示す. Proof X は空ではないので,上界でない α0 を見つけることができる (X の 元 x を選び,α0 を x よりも左にとる ).X が上に有界であるという仮定か ら,上界が存在する.それを1つ選び,β0 とし,中点 µ = α 0 + β0 を考え 2 1. 実数と極限 12 る.µ もまた X の上界であるとき α1 = α0 ,β1 = µ として,そうでないとき α1 = µ,β1 = β0 とおく.これを繰り返していくと,αn ∈ / U (X),βn ∈ U (X) となるような区間の列 [αn , βn ] が得られる.ここで,U (X) は X の上界の集 合である. β0 − α0 となる.このとき αn+k ,βn+k は区間 2n [αn , βn ] の中にある.よって, また,その長さは βn − αn = |αn − αn+k | 5 βn − αn = β0 − α0 β0 − α0 , |βn − βn+k | 5 βn − αn = n 2 2n という評価が得られ,{αn },{βn } はコーシー列であることがわかる.よっ β0 − αo →0 て,定理 1.1.8 により収束する.さらに,(1.3) より βn − αn = 2n となるので,同じ極限 γ をもつことになる. βn が上界なので,任意の x ∈ X に対して x 5 βn となる.よって x 5 γ より γ は上界である.また,ε > 0 を与えたとき,αn > γ − ε を満たす αn が存 在するが,αn は X の上界ではないので,γ − ε も上界になはなれない.よっ て γ は最小の上界である. 注意 4 同様に,X を R の下に有界な空でない部分集合とすると,下限γ = inf X が 存在する. 以上の 17 の性質から,実数の持つ多くの性質をすべて論理的に導くことができる. ・これ以降,本章および 2 章で扱う数列 {sn } はすべて実数列とする.また,すべて の正の整数 n に対して,実数 sn を対応させ,{sn }n=1 = {sn } と表す. ここから,実数に関する幾つかの定理を示していく. 定理 1.1.9 コーシーの判定条件 [コーシー (1821)] {sn } が実数の極限に収束するためには,コーシー列であることが必要十分条件で ある. Proof ⇒) {sn } が実数 s に収束するとすれば,任意の ε > 0 に対してあ る n = N ,k = 1 が存在し,|sn − sn+k | 5 |sn − s| + |s − sn+k | < 2ε が成立 つ.よって {sn } はコーシー列である. ⇐) 定理 1.1.8 で示した. 1. 実数と極限 13 定理 1.1.10 上に有界な単調増加列 {sn }( すべての n に対して sn 5 B かつ sn 5 sn+1 ) はある実数の極限に収束する. Proof 仮定より,集合 X = {s1 ,s2 ,s3 ,· · · } は空集合ではなく,上に有界 である.よって,連続の公理より γ = sup X が存在する.ε > 0 を与えれば, γ − ε という値は X の上界ではない.ゆえに,ある N が存在し,sN > γ − ε となる.X は γ により上から抑えられているので,γ − ε < sN 5 sN +1 5 sN +2 5 · · · 5 γ であり,すべての n = N に対して γ − ε < sn 5 γ ,つまり |sn − γ| < ε となるので,{sn } が γ に収束する. 注意 5 同様に,下に有界な単調減少列 {sn } も,ある実数の極限値に収束する. 集積点 数列 {s0n } が数列 {sn } の部分列であるとは,ある増加写像 ρ : N → N ¡ ¢ n < m ならばρ(n) < ρ(m) があって,s0n = sρ(n) を満たすときにいう. 点 s が数列 {sn } の集積点であるとは, 実数 s に収束する部分列が存在するときいう. 例 数列 ½ {sn } = 3 1 5 3 9 7 17 15 33 31 − , ,− , ,− , ,− , ,− , ,· · · 2 2 4 4 8 8 16 16 32 32 ¾ は収束しないが,1 つおきに項をとった場合, −1 か 1 に収束する.この 1 つおきにとった 数列が部分列の 1 つの例であり,− 1 と 1 はこの数列の集積点である. 定理 1.1.11 ボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理 [ワイエルシュトラス (1874)] 有界列 {sn } には少なくとも1つの集積点がある. ¯ Proof 集合 X = {x ¯ 無限個の n に対して sn > x} を考え,γ = sup X と置 いたとき,これが数列 {sn } の集積点となることを示す. 数列 {sn } は有界なので,X は空ではなく上に有界であり,上限をもつ.よっ て,次が成立つ.任意の正数 ε に対して, (1) γ + ε 5 sn を満たす n は有限個だけである.( 無限個存在すると仮定 ε すると,γ + は X の元となる.任意の x ∈ X に対して x 5 γ であるので, 2 ε γ + 5 γ となる.このとき ε 5 0 となるので矛盾する.) 2 (2) γ − ε < sn を満たす n は無限個ある.( 有限個のみ存在すると仮定す ると,γ − ε は X の元ではないので,γ < γ − ε となる.このとき ε < 0 と なり矛盾する.) 1. 実数と極限 14 よって,無限個の項 sn が区間 [γ − ε, γ + ε] の中に入っている. 次に,[γ − 1, γ + 1] に入っている数列の元を任意に選んで sρ(1) = s01 と表す. h 1 1 i また, γ − , γ+ の中にある数列の元で,ρ(1) < · · · < ρ(k − 1) k−1 k−1 h 1 1i となるように元 sρ(k−1) = s0k−1 を選ぶことができるとする. γ − , γ+ k k は無限個の n に対して sn を含むので,n > ρ(k − 1) となる n が存在する. 1 この n を ρ(k) とすれば sρ(k) = s0k が選べる.このとき,|s0n − γ| 5 とな n り,こうして得られた部分列が γ に収束する. 注意 6 この証明では,最大の集積点を提示している.これを数列の上極限といい, γ = lim sup sn = sup{x ∈ R | 無限個の n に対して sn > x} (1.8) n→∞ と表す.また,最小の集積点については, γ = lim inf sn = inf{x ∈ R | 無限個の n に対して sn < x} n→∞ (1.9) と表す. 例 数列 o 3 1 5 1 9 1 17 1 33 ,− , ,− , ,− , ,− , ,− ,· · · 2 2 4 4 8 8 16 16 32 32 1 3 に対して lim sup sn = 0,lim inf sn = −1,sup {sn } = ,inf {sn } = − となる. n→∞ 2 2 n→∞ {sn } = n1 上極限,下極限の性質 数列 {cn } に対して, γn = sup{cn ,cn+1 ,· · · } 5 ∞,ξn = inf{cn ,cn+1 ,· · · } = −∞ とすると, γ1 = · · · = γn = γn+1 = ξn+1 = ξn · · · = ξ1 となる. lim γn = lim sup cn および n→∞ n→∞ lim inf cn = lim ξn であり,∞ > lim sup cn = lim inf cn > −∞であれば {cn } は n→∞ n→∞ n→∞ n→∞ 収束する.このとき, lim cn = lim sup cn = lim inf cn となる. n→∞ 1.2 n→∞ n→∞ 無限級数 現在も用いられている無限級数の収束の定義は,コーシー (1821) によるも のである.また,無限級数の絶対収束という概念も,コーシーによって考 えられた. 1. 実数と極限 15 本節では,まずライプニッツの判定条件など無限級数の収束判定について 述べる.また,絶対収束や 2 重級数に関する定義や定理等について述べる. そして,3 章および 4 章で指数関数や三角関数のベキ級数展開を求める際に 必要になる,無限級数と極限操作の順序交換についても述べる. 定義 1.2.1 部分和 s0 = a0 , s1 = a0 + a1 ,· · · , sn = n X ai , (1.10) i=0 の作る数列 {sn } が収束するとき,無限級数 a0 + a1 + a2 + a3 + · · · ∞ X は収束するといい,その収束値を ai X または i=0 (1.11) ai とかく. i=0 収束の判定条件 sn+k − sn = an+1 + an+2 + · · · + an+k であるから,コーシーの判定条件 (定理 1.1.9) より,次の補題が得られる. 補題 1.2.2 無限級数 (1.11) がある実数に収束するためには, 「任意の ε > 0 に対してある N = 0 が存在し,n = N ,k = 1 であれば |an+1 + an+2 + · · · + an+k | < ε が成立つ」 ことが必要十分条件となる. この判定条件で k = 1 とおけば, lim ai = 0 (1.12) i→∞ が (1.11) の収束のための必要条件であることがわかる. 注意 7 (1.12) は,(1.11) の収束にとっての十分条件ではない.反例として次のよう な場合があげられる. 1+ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 + + + + + + + + + + ··· 2 2 4 4 4 4 8 8 8 8 → ∞ 1. 実数と極限 16 定理 1.2.3 ライプニッツの判定条件 [ライプニッツ (1682)] 交代級数 a0 − a1 + a2 − a3 + · · · = X (−1)i ai (1.13) i=0 の全ての項 ai が,ai > 0,ai+1 5 ai , lim ai = 0 を満たすとき,(1.13) はある s に n→∞ 収束し, |s − sn | 5 an+1 (1.14) という評価をもつ.つまり,n 次の部分和と無限和との誤差は省略する項のうち,最 初のもの以下である. Proof (1.13) の n 次の部分和を sn とする.仮定より ai は単調減少なので, s2k+1 = s2k−1 +a2k −a2k+1 = s2k−1 であり,s2k+2 = s2k −a2k+1 +a2k+2 5 s2k となる.また,a2k+1 > 0 であるので,s2k+1 < s2k となる.これらの不等式 を組み合わせると,すべての n に対して s2n−1 5 s2n+1 5 s2n 5 s2n−2 が成 立つ.よって,すべての k に対して,sn+k は sn と sn+1 の間にあり, |sn+k − sn | 5 |sn+1 − sn | = an+1 (1.15) となる.n → ∞ のとき an+1 → 0 であるので,定理 1.1.9 により {sn } は収束 する.最後に,(1.14) の評価は,定理 1.1.7 により,(1.15) において k → ∞ の極限を考えれば得られる. 優級数と劣級数 正項級数に対しては,次の判定条件が極めて役立つ. 定理 1.2.4 すべての十分大きな i に対して 0 5 ai 5 bi とする.このとき, ∞ X n=0 ∞ X bi : 収束 ai : 発散 n=0 ⇒ ⇒ ∞ X n=0 ∞ X ai : 収束 bi : 発散 n=0 となる. Proof sn = ∞ X n=0 ai ,vn = ∞ X bi とする.{sn } が単調増加 (sn 5 sn+1 ) で, n=0 十分大きなすべての n に対して sn 5 vn であるとき, 1. 実数と極限 17 {vn } : 収束 ⇒ {sn } : 収束 {sn } : 発散 ⇒ {vn } : 発散 を示せばよいことになる. {vn } が収束すれば,定理 1.1.5 より {vn } は有界なので,{sn } も有界となる. また {sn } は単調増加なので,定理 1.1.10 より収束する.2 つめのの命題は 1 つめの命題の対偶なので,成立つ. 補題 1.2.5 級数 1 1 1 1 + p + p + ··· + p + ··· p 1 2 3 n (1.16) は p > 1 のとき収束し,p 5 1 のとき発散する. Proof (1) p = 1 のとき (調和級数のとき) X 1 1 1 + + 2 µ 3 4 X 1 1 ai = 1 + + + 2 4 P bi = 1 + + ··· ¶ µ ¶ µ ¶ 1 1 1 1 1 1 1 + + + + + ··· + + · · · + n−1 · · · 4 8 8 8 8 2n−1 2 ai が発散し,0 < ai 5 bi なので,定理 1.2.4 より P bi も発散する. (2) p < 1 のとき 個々の値はさらに大きくなるので,定理 1.2.4 より発散する. (3) p > 1 のとき k+1 1 = 1 + について考える. k k ライプニッツの判定条件 (定理 1.2.3) によって収束する級数 k(= 1) を整数として, p = X 1 1 1 1 √ √ 1− √ (−1)i+1 √ + − + · · · = k k k k 2 3 4 i i=1 を考え,この続きの 2 項の和 √ k なることを示す. 1 1 まず, √ −√ = k k 2i − 1 2i X 1 1 1 −√ の級数が k+1 の優級数に k 2i − 1 k 2i i i=1 √ √ k 2i − k 2i − 1 √ である. √ k 2i k 2i − 1 1. 実数と極限 18 ak − bk = (a − b)(ak−1 + ak−2 b + · · · + bk−1 ) において a = √ k 2i,b = √ k 2i − 1 とおくと,ak − bk = 2i − (2i − 1) = 1 となるので, √ k 2i − √ k 2i − 1 = 1 (2i) k−1 k + · · · + (2i − 1) k−1 k = 1 k · (2i) k−1 k 1 1 1 √ を得る.この不等式と √ = √ = √ 2 より, k k k k 2i 2i − 1 2i 2i (2i) k 1 1 √ −√ = k k 2i − 1 2i となる.ここで, Ck = 1 k·2 k+1 k √ √ k 1 2i − k 2i − 1 √ = Ck · k+1 √ k k 2i 2i − 1 i k は i によらない定数である. k+1 に対して収束する. k k+1 最後に,任意の p > 1 に対して p > を満たす k が存在することから, k 定理 1.2.4 をもう一度使えば,すべての p > 1 に対して収束する. よって,定理 1.2.4 より級数 (1.16) は,p = 絶対収束 定義 1.2.6 級数 (1.11) は,|a0 | + |a1 | + |a2 | + |a3 | + · · · が収束するとき,絶対収束 するという. ∞ X 並べ換え 級数 i=0 a0i が級数 ∞ X ∞ ∞ X X ai の並び換えであるとは, ai のすべての項が a0i i=0 i=0 i=0 の中にちょうど1回現れ,逆も成立っているときをいう. 定理 1.2.7 [ディリクレ (1837)] ∞ X 級数 ai が絶対収束するなら,そのすべての並べ換えの級数もまた,同じ極限に i=0 収束する. Proof 定理 1.1.9 より,絶対収束するならば, 「任意の ε > 0 に対してある N = 0 が存在し,n = N ,k = 1 であれば |an+1 | + |an+2 | + · · · + |an+k | < ε が成立つ」ことになる.与えられた ε > 0 とそれに対応する N = 0 に対して M X a0i の a0 ,a1 ,a2 ,· · · ,aN の項のすべてが並べ換えの M 次の部分和 s0M = i=0 1. 実数と極限 19 中に出てくるように,整数 M を選ぶ.すると,m = M に対して 差 sm − s0m の中から a0 ,a1 ,a2 ,· · · ,aN の項はすべてなくなり, |sm − s0m | 5 |aN +1 | + · · · + |aN +k | < ∞ X |aN +k | < ε k=1 となる.よって,sm − s0m → 0 となり,並べ換えた数列も元の数列と同じ 極限に収束することがわかる. 注意 8 |an+1 + an+2 + · · · + an+k | < |an+1 | + |an+2 | + · · · + |an+k | であるから,絶対 収束級数は収束することがわかる. 次に無限級数の絶対収束に対する 2 つの判定条件を示す. 定理 1.2.8 ダランベールの比判定法 [コーシー (1821)] 級数 (1.11) の項 an が ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯<1 ¯ lim sup ¯ (1.17) ¯ a n→∞ n ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ > 1 であれば発散する. を満たすなら,この級数は絶対収束する.lim inf ¯¯ n→∞ an ¯ ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ < r < 1 を満たすように選ぶ.数 r より大き Proof 数 r を,lim sup ¯¯ an ¯ n→∞ ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ は有限個しかないので, い商 ¯¯ 「ある N = 0 が存在し,n = N であれ an ¯ |an+1 | ば 5 r が成立つ」ことになる. |an | よって,順に |aN +1 | 5 r|aN |,|aN +2 | 5 r2 |aN |,|aN +3 | 5 r3 |aN | となり, X X |aN +k | 5 rk |aN | となる.0 < r < 1 より,この等比級数は収束する k=0 k=0 X |ai | もまた収束する. ので,級数 i=0 ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ > 1 であれば,数列 {|an |} は十分大きな n に対して単 また,lim inf ¯¯ n→∞ an ¯ 調増加となるので,必要条件 (1.12) を満たさない. ¯ ¯ µ ¶α ¯ an+1 ¯ n ¯= しかし,級数 (1.16) に対しては,¯¯ → 1 となり,この判定法は使 an ¯ n+1 えない. 1. 実数と極限 20 定理 1.2.9 コーシーの根判定法 [コーシー (1821)] 級数 (1.11) の項 an が lim sup n→∞ p n |an | < 1 を満たすなら,この級数は絶対収束する.lim sup n→∞ (1.18) p n |an | > 1 であれば発散する. p Proof 1 > r > lim sup n |an | を選ぶ.すると, 「ある N = 0 が存在し, n→∞ p n = N であれば n |an | 5 r が成立つ」ことになる. よって,n = N に対して |an | 5 rn となり,等比級数を比べることにより ∞ X p ai が絶対収束することがわかる.また,lim sup n |an | > 1 であれば,必 n→∞ i=0 要条件 (1.12) は満たされず,級数は収束しない. 2 重級数 a00 + a01 + a02 + a03 + . . . + + + + + a10 + a11 + a12 + a13 + . . . + + + + + + = s2 + + a30 + a31 + a32 + a33 + . . . + .. . + .. . + .. . + .. . = = = = = + ∞ X 級数 v1 + v2 + v3 +... (1.19) = s3 + .. . v0 線形な並べ換え = s1 + a20 + a21 + a22 + a23 + . . . + = s0 = bk が 2 重級数 (1.19) の線形な並べ換えであるとは, k=0 bk = aρ(k) となるような全単射写像 ρ : N0 → N0 × N0 が存在するときいう. ここで,N0 = {0,1,2,3,4 · · · },N0 × N0 = {(i, j)| i ∈ N0 , j ∈ N0 } であり,例えば, ρ(0) = (0, 0), ρ(1) = (1, 0), ρ(2) = (0, 1), ρ(3) = (2, 0) · · · である. 1. 実数と極限 21 定理 1.2.10 2 重級数 (1.19) において 「定数 B = 0 が存在し,任意の m = 0 に対して m X m X |aij | 5 B が成立つ」 i=0 j=0 とき, s0 + s1 + · · · = Ã∞ ∞ X X i=0 ! aij = j=0 Ã∞ ∞ X X j=0 ! aij = v0 + v1 + · · · (1.20) i=0 のすべての級数は収束し,(1.20) の等式は成立つ.さらに,この 2 重級数のどんな 線形の並べ換えも同じ値に収束する. Proof b0!+ b1 + b2 + · · · を 2 重級数 (1.19) の線形な並べ換えとする.数列 à n ∞ X X |bi | は n について単調増加で,仮定より有界であるから, |bi | は i=0 i=0 ∞ ∞ ∞ X X X 収束し, bi も収束する.同様に,si = aij ならびに vj = aij も収束 i=0 j=0 i=0 ∞ X する. |bi | にコーシーの判定条件 (定理 1.1.9) を用いると, 「任意の ε > 0 i=0 に対してある N > 0 が存在し,n = N ,k = 1 であれば |bn+1 |+|bn+2 |+· · ·+ |bn+k | < ε が成立つ」ことになる.与えられた ε > 0 と対応する N = 0 に対 して整数 M を選んで,すべての元 b0 ,b1 ,· · · ,bN が 0 5 i 5 M ,0 5 j 5 M に入るようにする.このように選べば,b0 ,b1 ,· · · ,bN は aij (i 5 M ,j 5 M ) のいずれかに一致する.よって,l = N ,m = M ,n = M に対して ¯ m n ¯ l ¯X X ¯ X ¯ ¯ ¯ aij − bi ¯ 5 |bN +1 | + · · · + |bN +k | < ε ¯ ¯ i=0 j=0 となる.s = (1.21) i=0 ∞ X bi とおいて極限 l → ∞ をとり,(1.21) で n → ∞ をとる ¯ ¯ m n ¯ ¯X X ¯ ¯ si − s¯ 5 ε が得られる. と, aij = si であり,定理 1.1.7 により ¯ ¯ ¯ i=0 j=0 à m n ! n X m XX X (1.21) で有限和を交換し ↔ ,極限 l → ∞ と m → ∞ を i=0 j=0 j=0 i=0 ¯ ¯ n ∞ ∞ ¯ ¯X X X ¯ ¯ si と vj は同じ vj − s¯ 5 ε が得られる.よって, とれば,同様に ¯ ¯ ¯ i=0 j=0 極限 s に収束する. i=0 j=0 1. 実数と極限 22 2 つの級数のコーシー積 a0 b0 a0 b1 a0 b2 a0 b3 . . . a1 b0 a1 b1 a1 b2 a1 b3 . . . (1.22) a2 b0 a2 b1 a2 b2 a2 b3 . . . a3 b0 a3 b1 a3 b2 a3 b3 . . . .. .. .. .. . . . . 定義 1.2.11 2 つの級数 à n ∞ X X 級数 n=0 ai と i=0 ! an−j bj ∞ X ∞ X bj のコーシー積とは, j=0 = a0 b0 + (a0 b1 + a1 b0 ) + (a0 b2 + a1 b1 + a2 b0 ) + · · · j=0 のことである. 定理 1.2.12 2 つの級数 ∞ X i=0 束し, ai と ∞ X bi が絶対収束するならば,そのコーシー積も収 i=0 Ã∞ ! Ã∞ ! à n ! ∞ X X X X ai · bj = an−j bj i=0 j=0 n=0 (1.23) j=0 となる. Proof 仮定より ∞ X ∞ X |ai | 5 B1 , |bi | 5 B2 となるので,2次元の行列 i=0 i=0 (1.22) において,すべての m = 0 に対して m X m X |ai ||bj | 5 B1 B2 となり, i=0 j=0 定理 1.2.10 を使うことができる.第 i 行の和は si = ai · ∞ X bj となり,その j=0 ∞ X 和は i=0 Ã∞ ! Ã∞ ! X X si = ai · bj となる.定理 1.2.10 より (1.22) の線形な i=0 j=0 並べ換えであるコーシー積もまたこの値に収束する. yn xn ,bn = とおく.このとき,定理 1.2.12 より, n! n! Ã∞ ! à ∞ ! ! à n ∞ ∞ X xn X ym X X X xn−m y m (x + y)n · = = n! m! (n − m)! m! n! n=0 m=0 n=0 n=0 m=0 例 an = (1.24) 1. 実数と極限 23 が得られる. ∞ ∞ X X an , bn の収束性については,後述する定理 3.2.2 の証明を参照のこと. n=0 n=0 無限級数と極限操作の順序交換 定理 1.2.13 数列 {s0j ,s1j ,s2j · · · } の元の符号がすべて同じで,すべての n,j に対 して |sn+1,j | = |sn,j | であるとする.定数 B が存在し,すべての n, m = 0 に対して, m X |snj | 5 B となるならば, j=0 à lim n→∞ ∞ X ! snj = ∞ ³ X j=0 ´ lim snj (1.25) n→∞ j=0 となる. Proof a0j = s0j ,aij = sij − si−1,j すなわち n X aij = snj とおく.仮定より i=0 {s0j ,s1j ,s2j ,· · · } の元が同符号で,|sn+1,j | = |snj | なので,{a0j ,a1j ,· · · } も同符号になる. n m X n m X X X よって, |aij | = |snj | より |aij | = |snj | 5 B であるので, i=0 j=0 i=0 定理 1.2.10 より n X i=0 ∞ X j=0 à m X lim m→∞ = lim = lim m→∞ ! aij a0j + j=0 à n m X X j=0 i=0 i=0 = lim m→∞ j=0 à m X m→∞ lim n→∞ n X m X j=0 ! j=0 n X ∞ X aij = lim n→∞ à m X ! i=0 j=0 a0j + lim m→∞ j=0 a1j + · · · + m X ! anj j=0 aij であるので,lim n→∞ aij が成立つ.定理 1.1.6 より, à m X a1j +· · ·+ lim j=0 = lim m→∞ à n ∞ X X j=0 ! m→∞ à m n X X i=0 ! aij i=0 = j=0 ∞ X j=0 ! à m X ! anj j=0 aij à lim n→∞ n X ! aij i=0 となる. n X したがって aij = snj より (1.25) が得られる. i=0 また,無限級数と極限操作の順序交換については,次のような定理もある. 1. 実数と極限 24 定理 1.2.14 数列 {an,m },{bm } が |an,m | 5 bm , ∞ X bm < ∞, lim an,m : 収束 n→∞ m=0 を満たすとき, lim n→∞ ∞ X an,m = m=0 ∞ X m=0 lim an,m n→∞ が成立つ. Proof lim an,m = am とすると,任意の ε > 0 に対して n→∞ X bm < ε とな m>Mε る Mε が存在し, |an,m − am | < ε 1 + Mε (n > Nε ただし m = 0, 1, 2, · · · , Mε ) が成立つ.したがって, ¯ ∞ ¯ ¯M ¯ ¯ ¯ ∞ ε ³ ¯X ¯ ¯X ´¯ ¯ X ³ ´¯ X ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ an,m − am ¯ 5 ¯ an,m − am ¯ + ¯ an,m − am ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ m=0 m=0 m=0 m>Mε ´ X ³ X =ε+ |an,m | + |am | 5 ε + 2bm < 3ε m>Mε m>Mε となる.よって,定理が得られる. ・複素数列の収束性については,実数の絶対値を複素数の絶対値におきかえて定義 される.このことから,本節で示した多くの定理 (例えば,定理 1.2.8, 定理 1.2.14) は,複素数列に対しても成立つ. 1.3 実関数と連続性 『実変数 x の実関数 y = f (x) は,デカルト以来幾何的な曲線を研究する際 の,またガリレイとニュートン以来力学や天文学の計算をする際の普遍的 な道具になりました. 「関数」の原語であるラテン語の 0 f unctio0 は,ライプ ニッツとヨハン · ベルヌーイが提案したもので,関数の記号 y = f (x) はオ イラー (1734) が導入したものです. 』(E. ハイラー / G. ヴァンナー,1997, 下 39). 1. 実数と極限 25 コーシー (1821) は,ラグランジュの考え方を基に,連続性の定義を行った. また,同時期にボルツァーノ (1817) も,コーシーと同義の定義を行っている. 本節では,まず実関数の連続性について述べる.また,連続関数に関する 中間値の定理や最大値の存在についての定理を示す. ・これ以降,本論文では,有界閉区間を [a,b],有界開区間を (a,b) と表す. 関数 f : A → B とは,2 つの集合,定義域 A と値域 B および各元 x ∈ A に対して, ただ 1 つの元 y ∈ B を与える規則からなるものである.この対応を y = f (x) または x 7→ f (x) と表して,y を x の像,x を y の原像という. 連続関数 定義 1.3.1 A を R の部分集合で,x0 ∈ A とする.関数 f : A → R が x0 で連続であ るとは, 「任意の ε > 0 に対してある δ > 0 が存在し,x ∈ A,|x − x0 | < δ であれば |f (x) − f (x0 )| < ε が成立つ」 ときをいう.関数 f (x) が A 上で連続であるとは,すべての x0 ∈ A で連続のときを いう. 定理 1.3.2 関数 f : A → R が x0 ∈ A で連続であるためには,x0 に収束するすべて の数列 {xn } (xn ∈ A) に対して lim f (xn ) = f (x0 ) n→∞ (1.26) であることが必要十分条件である. Proof ⇒) ε > 0 が与えられたとき,定義 1.3.1 のように δ > 0 を選ぶ. xn → x0 であるから,ある N が存在し,n = N であれば |xn − x0 | < δ とな る.x0 での連続性から,n = N であれば |f (xn ) − f (x0 )| < ε となり (1.26) が成立つ. ⇐) 次に,(1.26) は成立つが,f (x) は x0 で不連続であるとする.x0 での連 続性を否定すると, 「ある ε > 0 が存在し,任意の δ > 0 に対して |x − x0 | < δ および |f (x) − f (x0 )| = ε が成立つような x ∈ A が存在する」ことになる. 1. 実数と極限 26 1 とし,δ によって得られる x を xn とおく,この時,A の元の列 {xn } n 1 で |xn − x0 | < を満たし,同時に |f (xn ) − f (x0 )| = ε であるものががとれ n たことになる.よって,(1.26) に矛盾する. δ= 定理 1.3.3 f : A → R と g : A → R が x0 ∈ A で連続であり,λ を実数とする.この とき,関数 f + g, λ · f , f · g, f g ¡ g(x0 ) 6= 0 ¢ もまた,x0 で連続である. Proof x0 に収束する A の数列 {xn } をとる.f と g の連続性より,n → ∞ のとき f (xn ) → f (x0 ) かつ g(xn ) → g(x0 ) である.すると,定理 1.1.6 より, 数列に対する極限操作と四則演算が順序交換可能である.よって定理 1.3.2 からどの関数についても連続であることがいえる,例えば, f (xn ) + g(xn ) → f (x0 ) + g(x0 ) となり,関数 f + g は x0 で連続となる. 例 定数関数 f (x) = a が連続なのは明らかである.定義 1.3.1 において δ = ε とす れば,f (x) = x が連続であることもわかる.また,定理 1.3.3 より,すべての多項式 P (x) P (x) = a0 + a1 x + · · · + an xn は連続で,Q(x) も多項式であれば R(x) = は Q(x) Q(x0 ) 6= 0 であるようなすべての点 x0 で連続である. 定理 1.3.4 中間値の定理 [ボルツァーノ (1817)] f : [a,b] → R を連続関数とする.f (a) < c かつ f (b) > c であれば,ある γ ∈ (a,b) が存在し,f (γ) = c となる. Proof c = 0 の場合を示し,一般の場合は f (x) の代わりに f (x) − c を考 える. 集合 X = {x ∈ [a,b] ; f (x) < 0} は空集合でなく,b を上界としている. よって,連続の公理により上限 γ = sup X が存在する.(γ ∈ [a,b] だが, γ ∈ X とは限らない. ) そこで,f (γ) = 0 であることを示す.f (γ) = K > 0 と仮定する.ε = K と 2 1. 実数と極限 27 して,f (x) の γ での連続性を使えば,ある δ > 0 が存在し,|x − γ| < δ で K あれば |f (x) − K| < が成立つことになる.このことから γ − δ < x 5 γ 2 K に対して f (x) > > 0 となるが,γ が X の上限であることに矛盾する. 2 f (γ) = K < 0 の場合も同様である. 定理 1.3.5 最大値の定理 [カントール (1870)] f : [a,b] → R が連続関数ならば [a,b] において有界で,最大値と最小値をとる.す なわち,u ∈ [a,b] と U ∈ [a,b] が存在し, f (u) 5 f (x) 5 f (U ) (x ∈ [a,b]) (1.27) である. Proof [a,b] 上で f (x) が有界であることを背理法を用いて示す. 「任意の n = 1 に対して xn ∈ [a,b] が存在し,|f (xn )| > n となる」 (1.28) とする.定理 1.1.11 によって,数列 {x1 ,x2 ,x3 · · · } は収束する部分列をも つ.その部分列を {xnk }k=1 と表し, 「 lim xnk = γ である」とする. k→∞ 定理 1.1.7 より γ ∈ [a, b] であり,f は γ で連続だから,定理 1.3.2 によって lim f (xnk ) = f (γ) となるが,これは (1.28) に矛盾する.よって,f (x) の k→∞ 有界性が示せた. 次に,(1.27) を満たす U ∈ [a, b] の存在を示すために,集合 Y = {y ; y = f (x) ,a 5 x 5 b} を考える.この集合は空ではなく有界であり,連続の公理よ り上限 M = sup Y が存在する.上限の定義により,任意の ε > 0 に対して 1 M − ε という値は Y の上界ではない.そこで ε = とおけば, k M− 1 < f (xn ) 5 M k (1.29) を満たす元の列 xn ∈ [a,b] が得られる.定理 1.1.11 を用いると,部分列 {xnk }k=1 が存在し,その極限を U = lim xnk と書く.f (x) は U で連続だか ら f (U ) = M となる. k→∞ 最小値の存在も同様に示すことができる. 1. 実数と極限 28 関数の極限 点 x0 が,集合 A の集積点であるとは, 「任意の δ > 0 に対してある x ∈ A が 集積点 存在し,0 < |x − x0 | < δ が成立つ」ときをいう.有界の区間であれば,その区間の点 と 2 つの端点が集積点になる. 数列の集積点 (定理 1.1.11 参照) とは,集合 A = {sn | n = 1, 2, 3 · · · } の集積点のこと である. 定義 1.3.6 関数 f : A → R と A の集積点 x0 を考える. 「任意のε > 0 に対してあるδ > 0 が存在し, x ∈ A, 0 < |x − x0 | < δ であれば |f (x) − y0 | < ε が成立つ」 (1.30) とき,x0 での f (x) の極限が y0 であるといい, lim f (x) = y0 x→x0 とかく. x0 が集積点であるという仮定から,0 < |x − x0 | < δ を満たす点 x ∈ A の集合が空で ないことが保証される. 注意 9 定義 1.3.6 を用いれば,定義 1.3.1 における x0 での f (x) の連続性を lim f (x) が存在して x→x0 lim f (x) = f (x0 ) x→x0 と表すことができる. 片側極限 (1.30) が x < x0 (または x0 < x) という制限のもとで成立つとき,f (x) の x0 での左 (または右) 極限が存在するという.この極限を,それぞれ lim f (x) = y0 x→x0 −0 または lim f (x) = y0 x→x0 +0 とかく. 次の定理はコーシーの判定条件 (定理 1.1.9) の類似である. 1. 実数と極限 29 定理 1.3.7 [デデキント (1872)] 関数 f : A → R と A の集積点 x0 を考える.極限 lim f (x) が存在するためには, x→x0 「任意のε > 0 に対してあるδ > 0 が存在し, x,x0 ∈ A および 0 < |x − x0 | < δ ,0 < |x0 − x0 | < δ であれば |f (x) − f (x0 )| < εが成立つ」 (1.31) ことが必要十分条件である. Proof ⇒) 極限 lim f (x) が存在するので, x→x0 |f (x) − f (x0 )| 5 |f (x) − y0 | + |y0 − f (x0 )| < 2ε となり,成立つ. ⇐) x0 に収束する数列 {xi } (xi ∈ A) をとる.(1.31) から,{yi : yi = f (xi )} はコーシー列で,定理 1.1.9 によって収束するので,極限を y0 とする. 0 < |x − x0 | < δ を満たす x に対して,また (1.31) より十分大きな i に対し て,|f (x) − y0 | 5 |f (x) − f (xi )| + |f (xi ) − y0 | < 2ε となる. 1.4 一様収束と一様連続 19 世紀前半には,連続関数列の極限関数が連続かどうかということや,連 続関数が積分可能かどうかということが問題とされていた.しかし,19 世 紀後半になるとワイエルシュトラスらによって,これらのことは明確にさ れていった. 本節では,一様収束と一様連続についての定義や定理を述べる.一様収束 と一様連続は,連続関数のリーマン積分可能性や,連続関数列の極限関数 の連続性を保証する重要な性質である.また,交代級数の一様収束に関連 するアーベルの定理についても述べる. 各点収束 関数列 fn : A → R,n = 1, 2, 3, · · · を考える.点 x ∈ A をとれば, 値 f1 (x),f2 (x),f3 (x),· · · は数列になる.すべての x ∈ A に対して極限 lim fn (x) = f (x) n→∞ が存在すれば,関数列 fn (x) は A 上で関数 f (x) に各点収束するという. (1.32) 1. 実数と極限 注意 10 30 関数列 fn (x) が A 上で関数 f (x) に各点収束し,すべての fn (x) が連続であっ ても,f (x) が連続でない場合もある. A = [0,1] として, ( fn (x) = xn , lim fn (x) = n→∞ 0 (0 5 x < 1) 1 (x = 1) 一様収束 定義 1.4.1 [ワイエルシュトラス (1841)] 関数列 fn : A → R が A 上で関数 f : A → R に一様収束するとは, 「任意の ε > 0 に対してある N = 1 が存在し,n = N ,x ∈ A であれば |fn (x) − f (x)| < ε が成立つ」 ときをいう. この定義で重要なのは, N が ε だけによっており,点 x ∈ A によらないことである. また,定義 1.1.1 のように定義 1.4.1 の f (x) を fn (x) の後続の関数すべてに代えると, 定理 1.1.8 の系として次が得られる. 系 1.4.2 一様収束に関するコーシーの判定条件 「任意の ε > 0 に対してある N = 1 が存在し,n = N ,k = 1,x ∈ A であれば |fn (x) − fn+k (x)| < ε が成立つ」 とき,関数列 fn : A → R が A 上で一様収束する. Proof 関数列 fn が各点収束することは,定理 1.1.8 より明らかである.ま た,|fn (x) − fn+k (x)| < ε において k → ∞ とすると,N は ε にのみよるの で,収束が一様に成立つことがいえる. 定理 1.4.3 [ワイエルシュトラス (1861)] 関数列 fn : A → R が連続で,fn (x) が A 上で f (x) に一様収束すれば,関数 f : A → R は連続である. Proof ε > 0 が与えられたとき,定義 1.4.1 を満たすように N を選ぶ.関 数 fN (x) が連続であるので,ある δ > 0 が存在し,|x − x0 | < δ であれば |fN (x) − fN (x0 )| < ε となる.|x − x0 | < δ に対して,|f (x) − f (x0 )| 5 |f (x) − fN (x)| + |fN (x) − fN (x0 )| + |fN (x0 ) − f (x0 )| < 3ε となるので,f (x) は連続である. 1. 実数と極限 31 定義 1.4.4 関数 sn (x) が,実関数 fi : A → R の部分和 sn (x) = n X fi (x) (1.33) i=0 であるとする.(1.33) の関数列 {sn (x)} が A 上で一様収束するとき,級数 ∞ X fi (x) (1.34) i=0 は A 上で一様収束するという. 定理 1.4.5 一様収束に対するワイエルシュトラスの判定条件 関数列 fn : A → R が,すべての x ∈ A に対して |fn (x)| 5 cn (1.35) ∞ X であり, cn が収束級数であるとすると,(1.34) は A 上で一様に収束する. n=0 Proof 級数 ∞ X cn が収束するので,任意の ε > 0 に対して N > 0 が存在 n=0 し,n = N ,k = 1 であれば, |sn+k (x) − sn (x)| = |fn+k (x) + · · · + fn+1 (x)| 5 |fn+k (x)| + · · · + |fn+1(x) | 5 cn+k + · · · + cn+1 < ε が成立つ.よって,コーシーの判定条件 (系 1.4.2) より定理が成立つ. 一様連続 定義 1.4.6 関数 f : A → R が 「任意の ε > 0 に対してある δ > 0 が存在し,x, x0 ∈ A および,|x − x0 | < δ であれば |f (x) − f (x0 )| < ε が成立つ」 とき A 上で一様連続であるという. 1. 実数と極限 32 この定義でも重要なのは, δ が ε だけによっており,点 x, x0 ∈ A によらないことで ある. 定理 1.4.7 [ハイネ (1872)] A を [a,b] とし,関数 f : A → R が A 上で連続だとすれば,f は A で一様連続である. Proof 一様連続でないと仮定する. 1 n = 1, 2, . . . に対して δ = を選ぶと, 「あるε > 0 が存在し,任意の n > 0 に n 1 対して |f (xn )−f (x0,n )| = ε であり |xn −x0,n | < となるような xn , x0,n ∈ A n が存在する」ことになる. {xn } から収束する部分列を取り出し,{xnk } とする.極限を lim xnk = x k→∞ 1 であるので, lim x0,nk = x となる.定理 1.1.7 とすれば,|xnk − x0,nk | < k→∞ nk より x ∈ [a, b] であり,f は連続であるので,定理 1.3.2 より lim f (xnk ) = k→∞ f (x) = lim f (x0,nk ) となるが,これは |f (xn ) − f (x0,n )| = ε に矛盾する. k→∞ アーベルの定理 交代級数の一様収束に関連するアーベルの定理について述べる. 定理 1.4.8 級数 X an と数列 {pn } が次の (1)(2) を満たすとする. n=0 (1) 部分和 sn = n X am は有界,すなわち C = 0 が存在し,|sn | 5 C が任意の n に m=0 対して成立つ. (2) p0 = p1 = · · · pn = · · · = 0 さらに,次の a) または b) のいずれかが満たされると仮定する. P a) pn → 0 (n → ∞) b) an は収束する X pn an は収束し,和 s は このとき級数 n=0 |s| 5 Cp0 を満たす. (1.36) 1. 実数と極限 33 Proof 任意の自然数 n 5 m に対して s(n,m) = pn an + pn+1 an+1 + · · · + pm am とおき,次のように書き換える. s(n,m) = (sn − sn−1 )pn + (sn+1 − sn )pn+1 + · · · + (sm − sm−1 )pm = sn (pn − pn+1 ) + · · · + sm−1 (pm−1 − pm ) − sn−1 pn + sm pm (1.37) 仮定 (1)(2) より |s(n,m)| 5 C {(pn − pn+1 ) + · · · + (pm−1 − pm ) + pn + pm } = 2Cpn X となる.特に (1.38) pn an の部分和 sm = s(0,m) に対しては,上の s(n,m) の n=0 一般式のうち −sn−1 pn の項がない状態なので, |sm | 5 Cp0 (1.39) が成立つ. (1.38) により a) が満たされるときは,級数 X pn an はコーシーの判定条件 n=0 (系 1.4.2) を満たすので収束する. 次に b) が満たされる場合,単調減少列 {pn } の極限を p とすると, X n=0 pn an = X (pn − p)an + p n=0 X an (1.40) n=0 と変形できる.(右辺) 第 1 項の級数において,pn − p = qn とおけば,qn は 単調減少で qn → 0(n → ∞) なので,仮定 a) を満たし収束する.(右辺) 第 X pn an も収束する. 2 項の級数は仮定 b) により収束する.従って n=0 いずれの場合も不等式 (1.39) で m → +∞ とし,(1.36) を得る. 定理 1.4.8 において an = (−1)n とすれば,定理 1.2.3 と同様の次の系が得られる. 1. 実数と極限 34 系 1.4.9 {pn } が単調減少列で, lim pn = 0 のとき,交代級数 n→∞ ∞ X (−1)n pn は収束 n=0 する. 注意 11 0 5 s2n − s = p2n+1 − (p2n+2 − p2n+3 ) − · · · 5 p2n+1 である.また, 0 5 s − s2n+1 = p2n+ − (p2n+1 − p2n+2 ) − · · · 5 p2n であるので,任意の自然数 n に対して |s − sn | 5 pn+1 が成立つ.よって,和 s の代わりに部分和 sn をとったときの誤差は pn+1 を越えない. 定理 1.4.10 区間 [a,b] 上で定義された関数列 {an (x)},{bn (x)} が次の (1)(2) を満 たすと仮定する. (1) 次を満たす定数 C が存在する. ¯ ¯ ¯n+m ¯ X ¯ ¯ すべての n, m および x ∈ [a,b] に対して ¯ ak (x)¯ 5 C ¯ ¯ k=n (2) すべての n および x ∈ [a,b] に対して,bn (x) = bn+1 (x) > 0 であり,{bn (x)} は 区間 [a,b] 上で 0 に一様収束する. ∞ X このとき, an (x) bn (x) は区間 [a,b] 上で一様収束する. n=1 Proof pn = sup bn (x) とおけば定理 1.4.8 および {bn } の一様収束性より, x∈[a,b] ¯ ¯ ¯n+m ¯ X ¯ ¯ ak (x)bk (x)¯ 5 Cbn (x) 5 Cpn → 0 ¯ ¯ ¯ k=n n X である.すなわち ak (x)bk (x) はコーシー列であり,収束する.その極限 k=1 値を c(x) とし,上式において m → ∞ とすれば, ¯ ¯ ¯ ¯∞ n−1 ¯ ¯ ¯ ¯X X ¯ ¯ ¯ ¯ ak (x)bk (x)¯ 5 Cbn (x) 5 Cpn → 0 ak (x)bk (x)¯ = ¯c(x) − ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ k=n k=1 となる.これは一様収束を意味している. 1. 実数と極限 1.5 35 リーマン積分 積分法は,微分法よりも古くから考えられてきたものであり,面積,体積 等の計算がアルキメデス,ケプラー,カヴァリエリ,フェルマーなど多くの 数学者たちによって行われてきた.そして 17 世紀にはニュートン,ライプ ニッツがそれぞれ独立に,積分が微分の逆演算であることを発見したので ある. 『積分記号はライプニッツ (1686) が作り, 「積分」という用語はヨハン · ベルヌーイが作り,· · · 』(E. ハイラー / G. ヴァンナー,1997, 上 128).コー シー (1823) は,原始関数としてではなく,特定の連続関数の積分をある和 の極限として定義した.リーマン (1854) は,それを一般化し,有界区間上 の有界な関数の積分可能性を考察した. 本節では,まずリーマン積分の定義を行う.そして,リーマン積分論を確 かなものにするためのデュ· ボア · レイモンとダルブーの定理を述べる.ま た,積分についての平均値の定理や積分と極限操作の順序交換等の定理に ついても述べる. ・本節では,有界な区間 [a,b] = {x | a 5 x 5 b} 上の有界な関数 f : [a,b] → R を対 象に考える. また,以下の語句を次のように定義する. ・部分区間への分割:D = {x0 ,x1 ,· · · ,xn } (a = x0 < x1 < · · · < xn = b) ・部分区間の長さ:δi = xi − xi−1 n X ・下ダルブー和 : s(D) = fi δi , fi = ・上ダルブー和 : S(D) = i=1 n X Fi δi , Fi = i=1 inf xi−1 5x5xi f (x) sup f (x) xi−1 5x5xi ・D0 が D の細分:[a,b] の分割 D0 が D の点をすべて含んでいる場合 (D0 ⊃ D) 積分可能性と判定条件 補題 1.5.1 D0 が D の細分ならば s(D) 5 s(D0 ) 5 S(D0 ) 5 S(D) である. 1. 実数と極限 36 Proof s(D0 ) 5 S(D0 ) については明らかである. 分点 y を xj−1 < y < xj のように決め,D に y を加えた分割を D0 とする. つまり,D0 = {x0 ,x1 ,· · · ,xj−1 ,y ,xj ,· · · } とすると, s(D0 ) = X i6=j = X ¡ ¢ fi δi + inf f (x) : xj−1 5 x 5 y (y − xj−1 ) ¡ ¢ + inf f (x) : y 5 x 5 xj (xj − y) ¡ ¢ fi δi + inf f (x) : xj−1 5 x 5 xj δi = s(D) i6=j となる.S(D0 ) 5 S(D) についても同様に示すことができる. 補題 1.5.2 任意の分割 D0 = D1 ∪ D2 に対して s(D1 ) 5 s(D0 ) 5 S(D0 ) 5 S(D2 ) である. Proof 分割 D0 = D1 ∪ D2 をとれば,これは分割 D1 ,D2 のすべての点を含 む.D0 は D1 ,D2 双方の細分なので,この補題は補題 1.5.1 から得られる. 補題 1.5.2 より,関数 f : [a, b] → R を与えると,下ダルブー和の集合は,すべての上 ダルブー和によって上から抑えられる. 定義 1.5.3 有界な区間 [a,b] = {x | a 5 x 5 b} 上の有界な関数 f : [a,b] → R は, Z a 上積分 および Z f (x)dx = inf S(D) (1.41) f (x)dx = sup s(D) (1.42) D b a 下積分 b D Z a f (x)dx が等しいとき,積分可能であるといい,リーマン積分とよぶ.また,これを b と表す. 1. 実数と極限 37 このリーマン積分は,関数 f (> 0) と x 軸との間の面積を表している.f (< 0) のとき Z a は,− f (x)dx が面積を表す. b 定理 1.5.4 関数 f : [a,b] → R が積分可能であるためには, e が存在し,S(D) e − s(D) e < ε を満たす」 「任意の ε > 0 に対してある分割 D ことが必要十分条件である. Proof ⇒ ¢ Z b 任意の ε > 0 に対して, f (x)dx + ε > S(D1 ) を満たす D1 a Z b が存在し,任意の ε > 0 に対して, f (x)dx − ε > s(D2 ) を満たす D2 が a e とおく. 存在するとき,D1 ∪ D2 = D すると,積分可能であれば (上積分) = (下積分) であるので, Z b Z b e e S(D) − s(D) 5 S(D1 ) − s(D2 ) < f (x)dx + ε − f (x)dx + ε < 2ε a a となる. ¢ e が存在し,D ⊃ D e であるとき, 任意の ε > 0 に対してある分割 D e − s(D) e < ε より,inf S(D) 5 S(D) e < s(D) e + ε 5 sup s(D) + ε とな S(D) ⇐ D る.よって,0 5 inf S(D) − sup s(D) 5 ε である. D D D したがって,inf S(D) = sup s(D) となり積分可能である. 例 区間 [a,b] (0 < a < b) 上の関数 f (x) = x2 を考える. ½ µ ¶ ¾ b − a ¯¯ n 等分割 Dn = xi = a + i ¯ i = 0, 1, 2, · · · , n に対して, n ¶¾2 µ n−1 ½ b−a b−aX b−a · = s(Dn ) = a+i n n i=0 n i=0 ¶ µ b−a (b − a)2 2 2 = (n − 1)(2n − 1) a + a (n − 1) + a(b − a)(n − 1) + n 6n ¶ µ n X b−a (b − a)2 2 b−a 2 xi · S(Dn ) = = (n + 1)(2n + 1) a n + a(b − a)n + n n 6n i=1 n−1 X x2i ¢ b(b − a)2 b − a¡ となる.この式は十分 a(b − a) + (b − a)2 = n n 大きな n に対して,どんな ε > 0 よりも小さくなる.よって,この関数は積分可能で b3 a 3 あり,積分の結果は − となる. 3 3 となり,S(D) − s(D) = 1. 実数と極限 注意 12 38 積分可能ではない関数の例をあげる. ディリクレ (1829) の関数 f : [0, 1] → R は ( f (x) = 1 (x は有理数) 0 (x は無理数) で定義されるが,これはリーマン積分可能ではない.なぜなら,どんな部分区間にも 有理数と無理数があり,すべての i に対して fi = 0,Fi = 1 となる.そのためどんな分 割に対しても s(D) = 0,S(D) = 1 となるからである. 定理 1.5.5 デュ· ボア · レイモンとダルブーの定理 [ デュ· ボア · レイモン (1875), ダルブー (1875)] 有界な区間 [a,b] = {x | a 5 x 5 b} 上の有界な関数 f (x) が積分可能であるためには, 「任意の ε > 0 に対してある δ > 0 が存在し,すべての D ∈ Dδ が S(D) − s(D) < ε を満たす」 ことが必要十分条件である.ここで,Dδ は maxi δi 5 δ を満たすすべての分割の集 合である. fε ) − s(D fε ) < ε を満たす分割を D fε Proof ⇒) 任意の ε > 0 に対して S(D とし,その分点の個数を nε とする.また,任意の分割 D ∈ Dδ をとる. fε ) − s(D ∪ D fε ) < ε である.また,D fε を含 まず,補題 1.5.1 より,S(D ∪ D む区間は最大でも nε 個しかないので,|f (x)| 5 M とすれば, e − s(D ∪ D) e + nε · 2M δ S(D) − s(D) < S(D ∪ D) が成立つ.したがって S(D) − s(D) < ε + nε · 2M δ < 2ε となるように, ε 0<δ< を満たすような δ > 0 をとればよいことになる. 2M nε ⇐) 任意の ε > 0 を与えると,仮定より,ある δ > 0 が存在し,すべての e ∈ Dδ を満たす D e をとれば, D ∈ Dδ が S(D) − s(D) < ε を満たすので,D 定理 1.5.4 の条件を満たし,f は積分可能となる. リーマン和 分割:D = {x0 ,x1 ,· · · ,xn } (a = x0 < x1 < · · · < xn = b) を考え, γ1 , γ2 ,· · · , γn を x0 5 γ1 5 x1 5 γ2 5 x2 5 · · · 5 γn 5 xn であるようにとる.このとき, σ = n X i=1 f (γi ) · δi (1.43) 1. 実数と極限 39 をリーマン和とよぶ.ダルブー和の定義より fi 5 f (γi ) 5 Fi だから,s(D) 5 σ 5 S(D) となる.よって,f : [a,b] → R が積分可能な関数でありさえすれば,定理 1.5.5 から, n X Z b f (γi ) · δi → f (x)dx (max δi → 0) (1.44) a i=1 が得られる. 定理 1.5.6 f と g を [a,b] 上の 2 つの積分可能な関数で,λ を実数とする.このとき, 関数 f + g , λ · f , f · g , |f |, f ( |g(x)| = C > 0 のとき) g もまた積分可能である. Proof まず, sup |f (x) − f (y)| = Fi − fi (1.45) x,y∈[xi−1 ,xi ] つまり,Fi − fi が関数 f (x) の [xi−1 ,xi ] 上の変動の最小上界であることを 示す. f (x) 5 Fi および f (y) = fi より,f (x) − f (y) 5 Fi − fi である.また,x,y は任意なので,f (y)−f (x) 5 Fi −fi である.よって,|f (x)−f (y)| 5 Fi −fi が成立つ. 次に,ε > 0 を与えると,Fi と fi の定義から f (ξ) > Fi − ε,f (η) < fi + ε を満たすような,つまり f (ξ) − f (η) > Fi − fi − 2ε を満たす ξ , η ∈ [xi−1 ,xi ] が存在する.それゆえ,Fi − fi は |f (x) − f (y)| に対する上界であるだけで なく,最小の上界である. a) h(x) = f (x) + g(x) とし,[xi−1 ,xi ] 上の f ,g ,h の上限を Fi ,Gi ,Hi ,下 限を fi ,gi ,hi とかく.三角不等式および (1.45) を用いれば,x, y ∈ [xi−1 ,xi ] に対して, |h(x)−h(y)| 5 |f (x)−f (y)|+|g(x)−g(y)| 5 (Fi −fi )+(Gi −gi ) (1.46) となる.ここで関数 h に対して (1.45) を用いれば, (Hi − hi ) 5 (Fi − fi ) + (Gi − gi ) となる.よって,ダルブー和を考えれば, X X X (Hi − hi )δi 5 (Fi − fi )δi + (Gi − gi )δi (1.47) 1. 実数と極限 40 を満たす.次に,ε > 0 を与えたとき,(1.47) の右辺の各項の和が ε > 0 よ り小さくなるような分割 D を選ぶ.つまり,f (x) の分割を D1 ,g(x) の分割 P を D2 としたときに D = D1 ∩ D2 とする.そうすれば, (Hi − hi )δi < 2ε となり,定理 1.5.4 によって,関数 h(x) = f (x) + g(x) は積分可能であるこ とがわかる. b) h(x) = λ · f (x) に対して, |h(x) − h(y)| = |λ| · |f (x) − f (y)| 5 |λ| · (Fi − fi ) よって,(Hi − hi ) 5 |λ| · (Fi − fi ) が得られる.以下,a) と同様. c) h(x) = f (x) · g(x) に対して,f (x) · g(x) は有界なので,|f (x)| 5 M , |g(x)| 5 N として, |h(x) − h(y)| 5 |f (x)| · |g(x) − g(y)| + |g(y)| · |f (x) − f (y)| 5 M |g(x) − g(y)| + N |f (x) − f (y)| 5 M (Gi − gi ) + N (Fi − fi ) 以下,a) と同様. d) h(x) = |f (x)| に対して, ¯ ¯ |h(x) − h(y)| = ¯|f (x)| − |f (y)|¯ 5 |f (x) − f (y)| 5 (Fi − fi ) (|a| 5 |a − b| + |b| より |a| − |b| 5 |a − b| である. ) 以下,a) と同様. f (x) 1 1 = f (x) · と考えればよいので, が積分可能であること g(x) g(x) g(x) 1 を示せばよい.h(x) = に対して, g(x) e) |h(x) − h(y)| = g(y) − g(x) g(x) − g(y) Gi − gi 5 5 2 g(x) · g(y) C C2 以下,a) と同様. 定理 1.5.7 関数 f : [a,b] → R が連続であれば f は積分可能である. Proof f : [a,b] → R は連続なので,定理 1.4.7 より f : [a,b] → R は一 様連続である.したがって, 「任意の ε > 0 に対してある δ > 0 が存在し, 1. 実数と極限 41 x, y ∈ [xi−1 ,xi ] および |x − y| < δ であれば |f (x) − f (y)| < ε が成立つ」こ とになる.よって,(1.45) より,Fi − fi 5 ε となる.maxi δi < δ を満たす n n X X 分割 D をとると,S(D) − s(D) = (Fi − fi ) δi 5 ε δi = ε(b − a) とな i=1 i=1 り定理 1.5.4 によって f (x) は積分可能である. 注意 13 a < b < c とし,関数 f : [a,c] → R を [a,b],[b,c] に制限したものがそれぞ れ積分可能であるとする.このとき,f は [a,c] 上で積分可能であり, Z Z c Z b f (x)dx = c f (x)dx + a a f (x)dx (1.48) b となる.これは,[a,b] と [b,c] への制限に対するダルブー和を足せば,[a,c] に対する ダルブー和になることからわかる.a > b や a = b の場合は, Z Z b f (x)dx = − a Z a a f (x)dx, b f (x)dx = 0 a と定義すれば,(1.48) はどんな 3 組 (a,b,c) に対しても成立つ. 不等式と平均値の定理 定理 1.5.8 関数 f (x),g(x) が [a,b] 上で積分可能であり,すべての x ∈ [a,b] に対し Z b Z b て,f (x) 5 g(x) であれば f (x)dx 5 g(x)dx となる. a a Proof δi > 0 なので,リーマン和は n X f (γi ) δi 5 i=1 n X g(γi ) δi を満たす. i=1 ここで maxi δi → 0 とすれば,(1.44) と定理 1.1.7 より上の不等式が得られ る. 系 1.5.9 積分可能な関数に対して ¯Z ¯ ¯ ¯ が成立つ. a b ¯ Z b ¯ |f (x)|dx f (x)¯¯ 5 a 1. 実数と極限 42 Proof −|f (x)| 5 f (x) 5 |f (x)| に定理 1.5.8 を用いれば導びくことができ る. 定理 1.5.10 平均値の定理 [コーシー (1821)] 関数 f : [a,b] → R が連続関数ならば,γ ∈ [a,b] が存在し, Z b f (x)dx = f (γ)(b − a) a を満たす. Proof m と M を [a,b] 上の f (x) の最小値と最大値とであるとすると ( 定理 1.3.5 参照 ),すべての x ∈ [a,b] に対して m 5 f (x) 5 M となる. Z b 1 定理 1.5.8 を用いて (b − a) で割れば,m 5 · f (x)dx 5 M となる. b−a a Z b 1 · f (x)dx の値は m = f (u) と M = f (U ) の間にあるので,中間値 b−a a の定理 ( 定理 1.3.4) によってこの値が f (γ) に等しいような γ ∈ [a,b] が得ら れる.よって定理が成立つ. 定理 1.5.11 [コーシー (1821)] 関数 f : [a,b] → R が連続で,関数 g : [a,b] → R がどこでも正の (または,どこでも 負の) 積分可能な関数とすれば,γ ∈ [a,b] が存在し, Z Z b b f (x)g(x)dx = f (γ) a g(x)dx a となる. Proof すべての x に対して g(x) = 0 とする (そうでなければ g の代わり に − g とする).このとき, m · g(x) 5 f (x)g(x) 5 M · g(x) (x ∈ [a,b]) となる.ここで m と M は f (x) の最大値と最小値である.以下については, 定理 1.5.10 の証明と同様に考えることができる. 1. 実数と極限 43 積分と極限操作の順序交換 積分と極限操作の順序交換を行うことで,無限級数の項別積分が可能になる. 定理 1.5.12 積分可能な関数列 fn (x) が [a,b] 上で関数 f (x) に一様収束するならば, f : [a,b] → R は積分可能で, Z Z b lim b fn (x)dx = n→∞ f (x)dx a a となる. Proof 一様収束しているので, 「任意の ε > 0 に対して整数 N が存在し, ¯ ¯ n = N ,x ∈ [a,b] であれば ¯fn (x) − f (x)¯ < ε が成立つ」ことになる.よっ ¯ ¯ ¯ ¯ て,すべての x, y ∈ [a,b] に対して ¯f (x) − f (y)¯ 5 ¯fN (x) − fN (y)¯ + 2ε と なる.ここで,FN i = fN (x),fN i = sup xi−1 5x5xi inf xi−1 5x5xi fN (x) とすると,式 (1.45) より (Fi − fi ) 5 (FN i − fN i ) + 2ε となる. 関数 fN (x) は積分可能であるので,定理 1.5.4 より,ある区間 [a,b] の分割 P に対して上ダルブー和と下ダルブー和の差 i (FN i − fN i )δi は ε よりも小さ ¡ ¢ P くなる.したがって, i (Fi − fi )δi < ε 1 + 2(b − a) となり,f (x) が積分 可能となる. さらに,系 1.5.9 において f (x) を fn (x) − f (x) とおくと,n = N に対して ¯Z ¯ Z Z b ¯ b ¯ b¯ ¯ ¯ ¯ ¯fn (x) − f (x)¯dx 5 ε(b − a) fn (x)dx − f (x)dx¯ 5 ¯ ¯ a ¯ a a となる.よって定理が成立つ. 系 1.5.13 積分可能な関数列 fn (x) を考える.級数 ∞ Z X b fn (x)dx = するならば, n=0 Z bX ∞ a ∞ X fn (x) が [a,b] 上で一様収束 n=0 fn (x)dx となる. a n=0 Proof 定理 1.5.12 より Z fn (x)dx = lim n→∞ である.gm (x) = m X n=0 Z b a fn (x) とおくと, b lim fn (x)dx a n→∞ (1.49) 1. 実数と極限 Z 44 b gm (x)dx = a = Z bX m a n=0 m XZ b Z fn (x)dx = となる.よって, lim f1 (x)dx + b f2 (x)dx + · · · + a a fn (x)dx a fn (x)dx Z bX m m→∞ Z a n=0 ∞ bX fn (x)dx = lim m→∞ fn (x)dx = a n=0 1.6 Z b a n=0 ゆえに (1.49) より Z b ∞ Z X n=0 m Z X n=0 b fn (x)dx である. a b fn (x)dx が成立つ. a 微分可能な関数 17 世紀のヨーロッパでは,瞬間速度 [ガリレイ,ニュートン],接線 [フェル マー],関数の最大 · 最小 [ケプラー,フェルマー] などの問題がきっかけと なって,微分法が考えられるようになったといわれている. 『ライプニッツ (1684) は,∆x や ∆y が「無限に小さく」なることを想像して,それを dx や dy という記号で表しました. 』(E. ハイラー / G. ヴァンナー,1997, 上 98). dy に対して y 0 『ラグランジュ(1797) は,· · · 導関数という名前を導入し, dx または f 0 (x) という記号を使っています. 』(E. ハイラー / G. ヴァンナー,1997, 上 101).コーシー (1823) は,導関数を,連続性の定義と同様に極限を用い て定義した. 本節では,関数の導関数および原始関数を定義し,解析学の重要な定理で ある微積分学の基本定理について述べる.そして,極限が不定形になる場 合を扱うロピタルの定理や,微分と極限操作の順序交換等の定理について も述べる. 定義 1.6.1 [コーシー (1821)] I を開区間,x0 ∈ I をその点とする.関数 f : A → R は極限 f 0 (x0 ) = lim x→x0 f (x) − f (x0 ) x − x0 (1.50) が存在するとき,x0 で微分可能であるという.この極限値を f の x0 での微分係数と いい, f 0 (x0 ) と表す.また,関数 f がすべての I の点で微分可能であって,f 0 : I → R が連続のとき,f は連続微分可能であるという. 1. 実数と極限 45 f (x0 + h) − f (x0 ) となる.また,x0 を与えた h→0 h f (x) − f (x0 ) とき関数 r : I → R を r(x0 ) = 0 と,r(x) = − f 0 (x0 ) (x 6= x0 ) で定義す x − x0 ると, (1.50) は lim r(x) = 0 と同値になり,次の判定条件が得られる. x = x0 + h とあらわすと f 0 (x0 ) = lim x→x0 命題 1.6.2 ワイエルシュトラスの定式化 [ワイエルシュトラス (1861)] 関数 f (x) が,x0 で微分可能であるためには,数 A と,x0 で連続で r(x0 ) = 0 を満 たす関数 r(x) が存在し, f (x) = f (x0 ) + A(x − x0 ) + r(x)(x − x0 ) (1.51) を満たすことが必要十分条件である.そして,これが成立するとき,A = f 0 (x0 ) と なる. (1.51) 式において,h(x) = f 0 (x0 ) + r(x) とおくと次が得られる. 命題 1.6.3 カラテオドリの定式化 [カラテオドリ (1950)] 関数 f (x) が,x0 で微分可能であるためには,x0 で連続な関数 h(x) が存在し, f (x) = f (x0 ) + h(x)(x − x0 ) (1.52) を満たすことが必要十分条件である.r(x0 ) = 0 より,値 h(x0 ) が f の x0 における 微分係数 f 0 (x0 ) である. 注意 14 式 (1.52) から f (x) が x0 で微分可能ならば,x0 で連続であることがわかる.さ らに (1.52) より h(x) = f (x) − f (x0 ) x − x0 (x 6= x0 ) は x 6= x0 に対して一意的に決まるので,微分係数 f 0 (x0 ) はもし存在するならば一意的 に決まることがわかる. 定理 1.6.4 f : (a,b) → R が x0 ∈ (a,b) で微分可能で,f 0 (x0 ) > 0 であれば δ > 0 が 存在し, f (x) > f (x0 ) (x0 < x < x0 + δ) f (x) < f (x0 ) (x0 − δ < x < x0 ) となる.関数が x0 で最大 (または最小) であれば f 0 (x0 ) = 0 である. 1. 実数と極限 46 Proof f 0 (x0 ) > 0 より h(x0 ) > 0 であるので,連続性から x0 の近傍で h(x) > 0 となることがわかる.よって,式 (1.52) から不等式が得られる. また,関数が x0 で最大値をとるとすれば,x0 の両側で f (x) 5 f (x0 ) とな るが,これは f 0 (x0 ) = 0 以外ではあり得ない. 定理 1.6.5 f と g が x0 で微分可能であれば, f + g, f · g, ¢ f ¡ g(x0 ) 6= 0 g も x0 で微分可能であり, 0 0 0 (f + g) = f + g , 0 0 0 (f · g) = f · g + f · g , µ ¶0 f 0 · g − f · g0 f = g g2 となる. Proof (1.52) 式より, f (x) = f (x0 ) + h(x)(x − x0 ) ここで h(x0 ) = f 0 (x0 ) (1.53) g(x) = g(x0 ) + k(x)(x − x0 ) ここで k(x0 ) = g 0 (x0 ) (1.54) と表せる.(1.53) 式と (1.54) 式を加えると, ¡ ¢ f (x) + g(x) = f (x0 ) + g(x0 ) + h(x) + k(x) (x − x0 ) ¡ ¢ となる.関数 h(x) + k(x) は x0 で連続であるので,x0 での微分係数は f 0 (x0 ) + g 0 (x0 ) である. f f · g , についても同様に示すことができる. g 定理 1.6.6 y = f (x) が x0 で微分可能で,z = g(y) が y0 = f (x0 ) で微分可能ならば, ¡ ¢ その合成関数 (g ◦ f )(x) = g f (x) は x0 で微分可能であり, (g ◦ f )0 (x0 ) = g 0 (y0 ) · f 0 (x0 ) となる. 1. 実数と極限 47 Proof (1.52) 式より, f (x) − f (x0 ) = h(x)(x − x0 ) ここで h(x0 ) = f 0 (x0 ) (1.55) g(y) − g(y0 ) = k(y)(y − y0 ) ここで k(y0 ) = g 0 (y0 ) (1.56) と表せる.(1.56) 式に y = f (x),y0 = f (x0 ) を代入し,(1.55) 式を用いて変 形すると, ¡ ¢ ¡ ¢ ¡ ¢ g f (x) − g f (x0 ) = k f (x) h(x)(x − x0 ) ¡ ¢ となる.関数 k f (x) h(x) は x0 で連続であるので,x0 での微分係数は ¡ ¢ g 0 f (x0 ) f 0 (x0 ) である. 補題 1.6.7 関数 f : [a, b] → [c, d] が連続で全単射であれば,逆関数 f −1 : B → A も 連続である. Proof y0 に収束する任意の数列を {yn } (yn ∈ B) とする.定理 1.1.11 より 数列 {xn } = {f −1 (yn )} は収束する部分列をもつ.収束する任意の部分列を {xnk }k=1 とし, lim xnk = x0 とする.また,f (xnk ) = ynk とする.f (x) は k→∞ x0 で連続なので, f (x0 ) = lim f (xnk ) = lim ynk = y0 k→∞ k→∞ となる.よって,x0 = f −1 (y0 ) となる.したがって,f −1 (y0 ) は {f −1 (yn )} の唯一の集積点であるので, lim {f −1 (yn )} = f −1 (y0 ) となる. n→∞ 定理 1.6.8 I ,J を開区間とし,f : I → J を全単射,x0 のある近傍で連続,x0 ∈ I で微分可能,f 0 (x0 ) 6= 0 とする.このとき,逆関数 f −1 : J → I は y0 = f (x0 ) で微 分可能で ¡ ¢0 f −1 (y0 ) = 1 f 0 (x 0) となる. Proof 補題 1.6.7 より,y = y0 の近傍で関数 f −1 (y) は連続である.(1.52) 式より, 1. 実数と極限 48 f (x) − f (x0 ) = h(x)(x − x0 ) ここで h(x0 ) = f 0 (x0 ) と表せる.x = f −1 (y),x0 = f −1 (y0 ),f (x) = y ,f (x0 ) = y0 とすれば, ¡ ¢¡ ¢ y − y0 = h f −1 (y) f −1 (y) − f −1 (y0 ) ¡ ¢ ¡ ¢ となる.h f −1 (y0 ) 6= 0 であり,連続性より x0 の近傍でも h f −1 (y) 6= 0 となるので, 1 f −1 (y) − f −1 (y0 ) = ¡ −1 ¢ (y − y0 ) h f (y) 1 1 である.関数 ¡ −1 ¢ が y0 で連続であり,微分係数は 0 となる. f (x0 ) h f (y) 微積分学の基本定理 ここから,微積分学の基本定理について述べる.すべての連続関数 f (x) が原始関数 をもち,それが定数を除いて一意的であることを示す. 定理 1.6.9 関数 f : [a,b] → R を連続関数とすれば,定理 1.5.7 より f は積分可能で あるので,関数 Z x f (t)dt F (x) = (1.57) a が存在し,(a,b) 上で微分可能であり F 0 (x) = f (x) を満たす.ゆえに,これは f (x) の原始関数となる. Z x Proof (1.48) 式より F (x) − F (x0 ) = f (t)dt となり,定理 1.5.10 を使え x0 ば,F (x) − F (x0 ) = f (γ)(x − x0 ) を満たす γ = γ(x,x0 ) が x と x0 の間に 存在する.x → x0 とすれば γ(x,x0 ) の値も x0 に近づかなければならない ので,f の x0 での連続性から lim f (γ) = f (x0 ) となる.したがって,F (x) x→x0 0 は微分可能で,F (x0 ) = f (x0 ) となる (式(1.52) 参照 ). 定理 1.6.10 ロルの定理 [ロル (1690)] 関数 f : [a,b] → R を [a,b] 上で連続,(a,b) 上で微分可能,f (a) = f (b) であるとす れば,f 0 (γ) = 0 を満たす γ ∈ (a,b) が存在する. 1. 実数と極限 49 Proof 定理 1.3.5 により,すべての x ∈ [a,b] に対して f (u) 5 f (x) 5 f (U ) を満たすような u, U ∈ [a,b] が存在する. (1) f (u) = f (U ) ならば f (x) は定数になるので,その導関数はすべて 0 になる. (2) f (u) < f (U ) ならば,この2つの値の少なくとも一方 (f (U ) とする) は,f (a) = f (b) とは異なっている.そのとき a < U < b であり,定理 1.6.4 より f 0 (U ) = 0 である. 定理 1.6.11 ラグランジュの定理 [ラグランジュ (1797)] 関数 f : A → R を [a,b] 上で連続,(a,b) 上で微分可能とすれば, f (b) − f (a) = f 0 (γ)(b − a) (1.58) を満たす γ ∈ (a,b) が存在する. ¡ ¢ Proof f (x) 上の,2 点 a,f (a),(b,f (b) を結ぶ直線を表す式は, y= f (b) − f (a) (x − a) + f (a) である.よって, b−a µ ¶ f (b) − f (a) h(x) = f (x) − f (a) + (x − a) b−a (1.59) f (b) − f (a) となるの b−a で,ロルの定理 ( 定理 1.6.10) から h0 (γ) = 0 となり,(1.58) が成立つ. とすれば,h(a) = h(b) = 0 であり, h0 (x) = f 0 (x) − 系 1.6.12 関数 f ,g : [a,b] → R を [a,b] 上で連続,(a,b) 上で微分可能とすると,次 が成立つ. (1) すべての γ ∈ (a,b) に対して f 0 (γ) = 0 であれば,f (x) = C(定数) (2) すべての γ ∈ (a,b) に対して f 0 (γ) = g 0 (γ) であれば,f (x) = g(x) + C(定数) (3) すべての γ ∈ (a,b) に対して f 0 (γ) > 0 であれば,f (x) は単調増加である.す なわち a 5 x1 < x2 5 b であれば f (x1 ) < f (x2 ) (4) すべての γ ∈ (a,b) に対して |f 0 (γ)| 5 M であれば,すべての x1 ,x2 ∈ (a,b) に 対して |f (x1 ) − f (x2 )| 5 M |x1 − x2 | 1. 実数と極限 50 Proof 区間 [a,x] で (1.58) 式を用いれば,C = f (a) として (1) が成立つ. (2) は,h(x) = f (x) − g(x) を考えれば (1) より導くことができる.(3) およ び (4) は [x1 ,x2 ] で定理 1.6.11 を用いればよい. 定理 1.6.13 微積分学の基本定理 f (x) を [a,b] 上の連続関数とすれば,f (x) の任意の原始関数 F (x) に対して Z b f (x)dx = F (b) − F (a) (1.60) a となる. Proof 定理 1.6.9 より f (x) の原始関数は存在する.系 1.6.12(2) より,2 つ の原始関数の差は定数で表される.F (x) を f (x) の任意の原始関数とする Z x と,F (x) = f (t)dt + C となり,x = a とおけば C = F (a),x = b とお a けば (1.60) 式が得られる. ロピタルの定理 f (x) の極限について考える.x → 0 のとき関数 f (x) と g(x) が両方とも 0 に収束 g(x) 0 ∞ するか,∞ に発散するとすれば, または となってしまう.ロピタルの定理を用い 0 ∞ ることで,これらを扱うことができる. 商 まず,ラグランジュの定理 ( 定理 1.6.11) を一般化する. 定理 1.6.14 [コーシー (1821)] 関数 f : [a,b] → R,g : [a,b] → R を [a,b] 上で連続,(a,b) 上で微分可能とする. a < x < b に対して g 0 (x) 6= 0 であれば,g(b) 6= g(a) であり, f 0 (γ) f (b) − f (a) = 0 g(b) − g(a) g (γ) であるような γ ∈ (a,b) が存在する. (1.61) 1. 実数と極限 51 Proof すべての γ ∈ (a,b) に対して g 0 (γ) 6= 0 であるから,ロルの定理 ( 定理 1.6.10) によって,g(b) 6= g(a) となる.g(x) = x のときには,この結 果は定理 1.6.11 そのものなので,(1.59) 式の代わりに, µ ¡ ¢ f (b) − f (a) h(x) = f (x) − f (a) + g(x) − g(a) g(b) − g(a) ¶ (1.62) を考える.定理 1.6.10 の条件は満たされるので, h0 (γ) = 0 を満たす γ ∈ (a,b) が存在する.これは (1.61) と同値な式である. 次の定理で扱う片側極限 lim は,定義 1.3.6 を参照のこと. x→x0 −0 定理 1.6.15 ロピタルの定理 [ ヨハン · ベルヌーイ (1691),ド · ロピタル (1696)] 関数 f : (a,b) → R,g : (a,b) → R が (a,b) 上で微分可能で,a < x < b のとき, g 0 (x) 6= 0 と仮定する. lim f (x) = 0 かつ lim g(x) = 0 x→b−0 x→b−0 (1.63) f 0 (x) = λ が存在するならば,次が成立つ. x→b−0 g 0 (x) であり, lim f 0 (x) f (x) = lim 0 x→b−0 g (x) x→b−0 g(x) lim (1.64) f 0 (x) Proof x → b − 0 のとき, 0 の極限値 λ が存在するならば,任意の ε > 0 g (x) に対して, ¯ 0 ¯ ¯ f (γ) ¯ ¯ ¯ < ε (b − δ < γ < b) − λ ¯ g 0 (γ) ¯ を満たす δ > 0 が存在することになる.このとき,u, v ∈ (b − δ ,b) に対し て,定理 1.6.14 より ¯ ¯ 0 ¯ ¯ ¯ ¯ f (γ) ¯ ¯ f (u) − f (v) ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ g(u) − g(v) − λ¯ = ¯ g 0 (γ) − λ¯ < ε となる.この式で v → b − 0 のとき (1.63) を用いれば,b − δ < u < b のと ¯ ¯ ¯ f (u) ¯ ¯ き¯ − λ¯¯ 5 ε が得られる.よって (1.64) が得られる. g(u) 1. 実数と極限 注意 15 52 b = +∞ のときおよび x → a のときも,定理 1.6.15 と同様の定理が成立つ. また,定理 1.6.15 の仮定のもとで,(1.63) の代わりに lim f (x) = ∞ かつ lim g(x) = ∞ x→b−0 x→b−0 としたときにも (1.64) が成立つ. 例 商の極限が不定形になる例を紹介する. (1) 0 0 (sin x)0 = lim cos x = 1 であるので,ロピタルの定理 ( 定理 1.6.15) より, x→0 (x)0 x→0 lim sin x =1 x→0 x lim (1.65) となる. (2) ∞ ∞ eαx = ∞ を n に関する帰納法で示す. x→∞ xn α > 0,n : 自然数のとき, lim (eαx )0 n = 1 のとき, lim = αeαx = ∞ である. x→∞ (x)0 n = k のとき成立つと仮定する. eαx (eαx )0 eαx = lim = lim = ∞ である. x→∞ xk+1 x→∞ (xk+1 )0 x→∞ xk n = k + 1 のとき, lim 以上により, eαx =∞ x→∞ xn lim である.このことから,x → ∞ のとき,指数関数 eαx は任意の多項式よりも速く増加 することがわかる. (3) 0 · ∞ 1 µ a¶ 0 (log x) x log x a x = lim µ ¶0 = lim = lim − lim (x log x) = lim a 1 x→0+ x→0+ x→0+ x→0+ x→0+ a 1 − a a x x xa µ a¶ x である.また, lim − = 0 であるので, x→0+ a lim (xa log x) = 0 x→0+ µ ¶a 1 となる.このことから,x → 0+ のとき,任意の a > 0 に対して が,対数関数よ x りも速く増加することがわかる. 1. 実数と極限 53 微分と極限操作の順序交換 微分と極限操作の順序交換を行うことで,無限級数の項別微分が可能になる. 定理 1.6.16 fn : (a,b) → R を連続微分可能な関数列として,次を満たすとする. (1) 関数列 {fn (x)} が (a,b) 上で f (x) に各点収束する. (2) 関数列 {fn0 (x)} が (a,b) 上で p(x) に一様収束する. このとき,f (x) は (a,b) 上で連続微分可能であって,すべての x ∈ (a,b) に対して lim fn0 (x) = f 0 (x) (1.66) n→∞ となる. Proof x0 ∈ (a,b) をとる.{fn0 (x)} が (a,b) 上で一様に収束するので,積分 と極限操作の順序交換 ( 定理 1.5.12) を行うと,p(x) = lim fn0 (x) より, n→∞ Z Z x x p(t)dt = lim x0 n→∞ x0 ¡ ¢ fn0 (t)dt = lim fn (x) − fn (x0 ) = f (x) − f (x0 ) n→∞ が得られる.定理 1.6.9 より,微分すれば p(x) = f 0 (x) がわかり,(1.66) が 成立つ.f 0 (x) の連続性は定理 1.4.3 から得られる. 2 章 ベキ級数とテイラー級数 本章では,解析学において重要な概念であるベキ級数について述べる.ま た,関数のテイラー級数展開についても述べる.この章で示す定理等は,3 章および 4 章にて用いる. §2.1 では,ベキ級数の定義を行い,ベキ級数が収束するような x の値の集 合について考える.また,ベキ級数で表される関数の連続性や,その導関 数 · 原始関数などについて述べる. §2.2 では,まず関数の級数展開に対するテイラーの考えを紹介する.次に 剰余項のあるテイラー展開の公式について述べ,関数をテイラー級数展開 するための条件を示す. 2.1 ベキ級数 本節では,ベキ級数の定義を行い,ベキ級数が収束するような x の値の集 合について考える.また,ベキ級数で表される関数の連続性や,その導関 数 · 原始関数などについて述べる. 定義 2.1.1 c0 ,c1 ,c2 ,c3 ,· · · を実係数の列で,x を独立変数とするとき, ∞ X cn xn = c0 + c1 x + c2 x2 + c3 x3 + · · · (2.1) n=0 をベキ級数という. 補題 2.1.2 級数 (2.1) がある y に対して収束したとすると,|x| < |y| を満たすすべ ての x に対しても収束する.さらに,0 < α < |y| を満たす各 α に対して級数 (2.1) は,[−α, α] 上で絶対かつ一様に収束する. 54 2. ベキ級数とテイラー級数 Proof 級数 ∞ X 55 cn y n は収束するので,(1.12) 式および定理 1.1.5 より,数 n=0 列 {cn y n } は有界となる.つまり,定数 B = 0 が存在し,すべての N = 0 に対して |cn y n | 5 B となる.よって |x| 5 α に対して, ¯ ¯n µ ¶ ¯α¯ α n ¯ ¯ <1 |cn x | 5 |cn |α = |cn ||y| ¯ ¯ 5 Bq q = y |y| n n n となる.したがって,定理 1.2.4 から ∞ X cn xn が絶対収束する.また,定理 n=0 1.4.5 より一様収束する. 定義 2.1.3 ¯ ∞ ) ¯ X ¯ R = sup |x| ¯ cn xn が収束 ¯ ( (2.2) n=0 を級数 (2.1) の収束半径という.すべての実数 x に対して級数 (2.1) が収束するとき, R = ∞ とおく. 定理 2.1.4 級数 (2.1) は |x| < R を満たすすべての x に対して収束し,|x| > R を満 たすすべての x に対して発散する.さらに,0 < α < R であれば,[−α, α] 上で一様 収束する. Proof x を,|x| < R を満たす値とすると,|x| < |y| < R を満たす y があっ て,それに対して (2.1) が収束する.よって補題 2.1.2 より,すべての x に 対して収束し,[−α, α] 上で一様収束する.また,|x| > R のときは,定義 により収束しない. 収束半径の決定 定理 2.1.5 [コーシー (1821)] ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ が存在する (または ∞) ならば,収束半径は 級数 (2.1) に対して lim ¯¯ n→∞ cn+1 ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ R = lim ¯¯ n→∞ cn+1 ¯ で与えられる. (2.3) 2. ベキ級数とテイラー級数 56 ∞ X n Proof an = cn x として,級数 an に比判定法 (定理 1.2.8) を用いると, ¯ ¯ ¯ ¯ n=0 ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ cn+1 xn+1 ¯ ¯ cn+1 ¯ |x| ¯ = lim ¯ ¯ = |x| lim ¯ ¯= ¯ ¯ lim ¯¯ ¯ cn ¯ となるので, n→∞ n→∞ ¯ cn ¯ an ¯ n→∞ ¯ cn xn ¯ ¯ lim ¯ n→∞ ¯ cn+1 ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ cn ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ であれば 級数 (2.1) は |x| < lim ¯ であれば収束し,|x| > lim ¯ n→∞ cn+1 ¯ n→∞ cn+1 ¯ 発散する.よって,(2.3) が成立つ. (2.3) 式は,極限が存在しない場合は使えないが,次の定理はその制限なしで成立つ. 定理 2.1.6 [アダマール (1892)] 級数 (2.1) の収束半径は R= 1 lim sup p n n→∞ ¡ (2.4) |cn | ¢ で与えられる. (分母) = 0 のときは,R = +∞ となる. n Proof an = cn x として,級数 lim sup p n n→∞ |an | = |x|·lim sup であれば収束し,|x| > an に根判定法 ( 定理 1.2.9) を用いると, n=0 p n n→∞ ∞ X |cn | なので,級数 (2.1) は |x| < 1 lim sup 1 lim sup n→∞ p n |cn | n→∞ p n |cn | であれば発散する.よって,(2.4) が 成立つ. 連続性 D を,級数 (2.1) の収束域つまり, D = {x | 級数 (2.1) が収束する } (2.5) とすると,級数 (2.1) は関数 f : D → R f (x) = ∞ X cn xn (x ∈ D) (2.6) n=0 を定義する.定理 2.1.4 より,任意の 0 < α < R に対して [−α, α] 上で一様収束し,定 理 1.4.3 より f (x) は (−R,R) 上で連続となる. 2. ベキ級数とテイラー級数 57 次の定理では,(2.6) の収束区間の端点における連続性を扱う. 定理 2.1.7 [アーベル (1826)] 級数 (2.6) が x0 = R ( または x0 = −R) で収束すれば,関数 f (x) は x0 = R (または x0 = −R) で連続である. Proof R = 1,x0 = 1 と仮定する.そうでない場合は,x0 を ± x0 で置き換 R えて,収束区間を伸縮することにする. x0 = 1 で収束するので,補題 1.2.2 により n = N ,k = 1 に対して |cn+1 + cn+2 + · · · + cn+k | < ε が成立つ.x を [0,1] の中で任意にとると,fn (x) = (2.7) n X ci xi に対して i=0 fn+k (x) − fn (x) = cn+1 xn+1 + cn+2 xn+2 + · · · + cn+k xn+k (2.8) となる.すべての ci に対して ci = 0 であれば,(2.7) 式から明らかに |fn+k (x) − fn (x)| < ε である.そうでない場合は,(2.8) の (右辺) を cn+1 xn+1 + cn+2 xn+1 + cn+3 xn+1 + cn+4 xn+1 + cn+2 (xn+2 − xn+1 ) + cn+3 (xn+2 − xn+1 ) + cn+4 (xn+2 − xn+1 ) + cn+3 (xn+3 − xn+2 ) + cn+4 (xn+3 − xn+2 ) + cn+4 (xn+4 − xn+3 ) のようにわけて考える (ここでは k = 4). 各行で共通の正の因数 xn+1 ,xn+1 − xn+2 ,xn+2 − xn+3 を括りだすと,(2.7) 式と三角不等式によって,不等式 |fn+k (x) − fn (x)| 5 |cn+1 xn+1 + cn+2 xn+1 + · · · | + |cn+2 (xn+2 − xn+1 ) + · · · | + · · · = |xn+1 ||cn+1 + · · · + cn+k | + |xn+1 − xn+2 ||cn+2 + · · · + cn+k | + · · · = ε |xn+1 + (xn+1 − xn+2 ) + · · · + (xn+k−1 − xn+k )| < 2ε が [0,1] 上で一様に成立つ.よって,f (x) の x0 = 1 での連続性は定理 1.4.3 から得られる. 2. ベキ級数とテイラー級数 58 微分と積分 補題 2.1.8 項別に微分や積分を行ったベキ級数は,元の級数と同じ収束半径をもつ ことになる. Proof (1) 次を示す. 1 lim n n = 1 (2.9) n→∞ n(n − 1) 1 n n = 1 + an (an > 0) とおくと,n = (1 + an )n > (an )2 となる. 2 2 よって, > (an )2 となり,はさみうちの原理より,an → 0 を得る. n−1 したがって,(2.9) 式は成立つ. (2) 次を示す. lim sup n→∞ p n n |cn | = lim n→∞ √ n n · lim sup n→∞ p n |cn | (2.10) p © ª A = x | 無限個の n に対して n |cn | > x ,α = sup A および, p © ª B = x0 | 無限個の n に対して n n |cn | > x0 ,β = sup B とする. p 任意の x ∈ A に対して, n |cn | > x を満たす n が無限個存在する.ここで, p √ p (2.9) 式から, n n |cn | = n n · n |cn | > x となるので,x ∈ B である.よっ て,x 5 β であり,α 5 β となる. p また,任意の x0 ∈ B に対して, n n |cn | > x0 を満たす n が無限個存在 p x0 であり,(2.9) より ε (0 < ε < 1) に対して する.ここで, n |cn | > √ n n p n |cn | > (1 − ε)x0 を満たす n が無限個存在する.よって,(1 − ε)x0 ∈ A で あり,(1 − ε)x0 5 α となる.ゆえに,ε が任意であることから,β 5 α と なる. 以上により,(2.10) が成立つ. (2.10) 式および定理 2.1.6 から,命題が成立つ. 2. ベキ級数とテイラー級数 59 定理 2.1.9 級数 (2.1) の収束半径を R(> 0) とする.関数 f (x)= ∞ X cn xn は |x| < R n=0 に対して微分可能で, f 0 (x) = ∞ X n cn xn−1 (2.11) n=1 となる.また,(−R,R) 上で原始関数をもち, Z x f (t)dt = 0 ∞ X n=0 cn xn+1 n+1 (2.12) と表される. Proof 補題 2.1.8 より,各級数は 0 5 α < R に対して,[−α, α] 上で一様 収束する.定理 1.6.16 より f (x) は (−α, α) 上で微分可能であり,導関数は (2.11) 式で与えられる.同様に系 1.5.13 から (2.12) 式が与えられる. 注意 16 級数 (2.1) が,x = R で収束したとしても,微分した級数 (2.11) はそこで収 束するとは限らない.反例として,(1.16) 式において p = 2 とした場合が考えられる ( 補題 1.2.5 参照 ).しかし,級数 (2.1) が x = R で収束するなら,級数 (2.12) は x = R 1 で収束する.an (x) = cn xn+1 ,bn (x) = と考えれば,定理 1.4.10 を満たすので,定理 n 2.1.7 より,級数 (2.12) がすべての x ∈ D で成立つことがわかる. 2.2 テイラー級数 本節では,まず関数の級数展開に対するテイラーの考えを紹介する.次に 剰余項のあるテイラー展開の公式について述べ,関数をテイラー級数展開 するための条件を示す. テイラーのアプローチ 関数の級数展開に対するテイラーの考えを紹介する. 補間多項式 n + 1 個の点 (xi ,yi ) が与えられたとき,これらすべての点を通る n 次補 間多項式で,特に xi 相互の間隔が等しい場合について考える. また,数列 {yk }nk=0 に対して,yk+1 − yk =: ∆yk ,∆m yk+1 − ∆m yk = ∆m+1 yk とする. 2. ベキ級数とテイラー級数 60 定理 2.2.1 0 5 k 5 n に対して,(k, yk ) を通る n 次補間多項式は次式で与えられる. x x(x − 1) 2 x(x − 1) · · · (x − n + 1) n y = y0 + ∆y0 + ∆ y0 + · · · + ∆ y0 1 1·2 1·2···n (2.13) Proof n に関する帰納法を用いて示す. n = 0 のとき,明らかに成立つ.n − 1 のとき,成立つと仮定すると, yn = yn−1 + ∆yn−1 µ ¶ µ ¶ n−1 n−1 = y0 + ∆y0 + · · · + ∆n−1 y0 1 n−1 µ ¶ n−1 + ∆y0 + ∆2 y0 + · · · + ∆n y0 1 (µ (µ ¶ µ ¶) ¶ µ ¶) n−1 n−1 n−1 n−1 = y0 + + ∆y0 + ∆2 y0 + · · · + 1 0 2 1 (µ ¶ µ ¶) n−1 n−1 + + ∆n−1 y0 + ∆n y0 n−1 n−2 ¶ µ µ ¶ µ ¶ n n n 2 ∆n−1 y0 + ∆n y0 ∆ y0 + · · · + ∆y0 + = y0 + n−1 2 1 õ ¶ µ ! ¶ µ ¶ m m m+1 よって,定理が示せた. + = を利用した. j j+1 j+1 関数 f (x) に対して xk = x0 + k∆x (0 5 k 5 n) とそこでの値 yk = f (xk ) を考える. x − x0 ここで,これらの点を通る補間多項式を計算する.(2.13) の (右辺) の x を, と ∆x 置き換えたものを p(x) とすると,次のようになる. p(x) = y0 + x − x0 ∆y0 (x − x0 )(x − x1 ) ∆2 y0 + ··· + 1 ∆x 1·2 (∆x)2 (x − x0 )(x − x1 ) · · · (x − xn−1 ) ∆n y0 (2.14) + 1·2···n (∆x)n 補題 2.2.2 h : [a,b] → R を,[a,b] 上で連続,(a,b) 上で n 回微分可能であるとする. h(x) が [a,b] で n + 1 個 の零点を持つならば,h(n) (γ) = 0 となる点 γ ∈ (a,b) が存在 する. Proof [a,b] 上に n + 1 個の点 x0i があって,0 5 x01 < · · · < x0i < x0i+1 < · · · < x0n+1 5 b で,f (x0i ) = 0 であるとする.ロルの定理 ( 定理 1.6.10) に 2. ベキ級数とテイラー級数 61 よって,n 個の点 x1i (1 5 i 5 n) があり,x0i < x1i < x0i+1 で f 0 (x1i ) = 0 を満 たすものがある. 定理 1.6.10 を繰り返し用いれば,k (1 5 k 5 n) に関する帰納法により, n − k + 1 個の点 xki (1 5 i 5 n − k + 1) があって,xk−1 < xki < xk−1 i i+1 で, f (k) (xki ) = 0 を満たすものがあることがわかる.したがって,γ = xn1 とお けば,f (n) (γ) = 0 を満たす. 命題 2.2.3 等距離格子点で f (x) を補間する多項式 p(x) に対して,h(x) = f (x)−p(x) とおけば,n 回微分可能な関数 f (x) に対して ∆n y0 = f (n) (γ) n (∆x) となる. Proof 式 (2.14) より n X (x − x0 )(x − x1 ) · · · (x − xi−1 ) ∆i y0 p(x) = y0 + i! (∆x)i i=1 と表せる.h(x) = f (x) − p(x) とおけば,h(n) (x) = f (n) (x) − p(n) (x) = ∆n y0 f (n) (x) − となる.h(x) は補題 2.2.2 の条件を満たすので,得られる (∆x)n ∆n y0 点 γ に対して h(n) (γ) = 0 すなわち = f (n) (γ) を満たす. ∆xn ∆k y0 = f (k) (γk ),x0 < γk < xk となるγk が存在する.よって, (∆x)k ∆k y0 → f (k) (x0 ) が成立つ.また, γk = x0 + s∆x( s は定数) より,∆x → 0 のとき, (∆x)k ∆x → 0 のとき,xk → x0 となり,(x − xk ) → (x − x0 ) となる. 命題 2.2.3 より, (2.14) 式において,∆x → 0 という極限をとれば,n は任意の自然数なので,補間多 項式 p(x) が f (x) に近づいていくことが予想され, f (x) = f (x0 )+(x−x0 )f 0 (x0 )+ (x − x0 )2 00 (x − x0 )n (n) f (x0 )+· · ·+ f (x0 )+· · · (2.15) 2! n! という式が得られるであろうと,テイラーは考えたようである. 2. ベキ級数とテイラー級数 62 剰余項のあるテイラー展開の公式 18 世紀末,ラグランジュは関数のテイラー級数展開 f (x) = ∞ X (x − a)k k! k=0 f (k) (a) (2.16) によって,微分積分学全体を基礎づけようとした. 『あらゆる関数に対して,ベキ級数 による表現が可能だ · · · .無限小,流率,または極限に対する考察を何ら用いることな しに,すべての微分積分学の基本的な結果を,新たに導くことができると主張した. 』 (V.J.カッツ, 2005, 666).しかし,19 世紀前半には,すべての関数が (2.16) で表現でき 2 2) るわけではないことが,指摘されてしまった. 『コーシーは,関数 f (x) = e−x + e−(1/x のテイラー級数がその関数に収束しないことを発見した. 』(V.J.カッツ, 2005, 801). 個々の関数に対して (2.16) 式を確認するためには,テイラー級数の部分和を考えて, その誤差項を評価する必要がある. コーシーは,次のように部分積分を用いてテイラー展開の公式を得ている. Z µZ x f (x) = f (a) + ¶ b 0 f (x)dx = F (b) − F (a) より 1 · f (t)dt a a £ 0 Z ¤x x + (x − t)f 00 (t)dt Z xa = f (a) + (x − a)f 0 (a) + (x − t)f 00 (t)dt f (x) = f (a) − (x − t)f (t) a a また, (x − a)2 00 f (x) = f (a) + (x − a)f (a) + f (a) + 2! Z x 0 a (x − t)2 (3) f (t)dt 2! である.この手続きを繰り返していくと,次の定理が得られる. 定理 2.2.4 [コーシー (1821)] f (x) を [a,b] 上で連続,(a, b) 上で無限回微分可能であるとすると, f (x) = n X (x − a)k k=0 となる. k! Z f (k) x (a) + a (x − t)n (n+1) f (t)dt n! 2. ベキ級数とテイラー級数 63 Proof n についての帰納法により示す. (x − a)n (n) f (x) = f (a) + (x − a)f (a) + · · · + f (a) + n! Z x 0 a (x − t)n (n+1) f (t)dt n! を仮定すると, Z x a " #x Z x (x − t)n (n+1) (x − t)n+1 (n+1) (x − t)n+1 (n+2) f (t)dt = f (t) + f (t)dt n! (n + 1)! (n + 1)! a a Z x (x − a)n+1 (n+1) (x − t)n+1 (n+2) = f (a) + f (t)dt (n + 1)! (n + 1)! a となるので,定理が示された. 定理 2.2.5 積分を使わない剰余項の評価 [ラグランジュ (1797)] f (x) を [a,b] 上で連続,(a,b) 上で無限回微分可能であるとする.任意の x に対して, x に依存するある β (a < β < x) が存在し, f (x) = n X (x − a)k k=0 k! f (k) (a) + (x − a)n+1 (n+1) f (β) (n + 1)! を満たす. Proof ここでは,コーシー (1823) による証明を述べる. n X (x − a)k (k) (x − a)n+1 剰余項を Rn (x) = f (x)− f (a) と表し,関数 Sn (x) = k (n + 1)! k=0 (n) とおく.まず Rn (a) = 0,Rn0 (a) = 0,· · · ,Rn (a) = 0 と S (k) (a) = 0 (k = 0, 1, 2, · · · , n) がわかる.定理 1.6.14 を繰り返し使えば, Rn00 (β2 ) R0 (β1 ) − Rn0 (a) Rn (x) − Rn (a) R0 (β1 ) Rn (x) = = n0 = = 0n Sn (x) Sn (x) − Sn (a) Sn (β1 ) Sn (β1 ) − Sn0 (a) Sn00 (β2 ) (n+1) = Rn (βn+1 ) Rn00 (β2 ) − Rn0 (a) = · · · = (n+1) (2.17) 00 00 Sn (β2 ) − Sn (a) Sn (βn+1 ) となる.ここでは,β1 は x と a の間に β2 は β1 と a の間に,· · · ,βn+1 は βn (n+1) と a の間にある.Sn (n+1) (x) = 1 で Rn (x) = f (n+1) (x) であるので,(2.17) から Rn (x) = Sn (x) · f (n+1) (β) となる.ここで β = βn+1 である.以上によ り定理が示された. 注意 17 定理 2.2.4 の剰余項と定理 2.2.5 の剰余項の関係は定理 1.5.11 で与えられえる. 2. ベキ級数とテイラー級数 64 関数のテイラー級数展開 定義 2.2.6 テイラー級数の公式 区間 [a,b] を含むある開区間 (u,v) において,無限回微分可能な f (x) および開区間 (u,v) 内の任意の数 x に対して,ある c (a < c < x) が存在し, f (x) = n X (x − a)k k! k=0 f (k) (a)+Rn+1 (x), Rn+1 (x) = (x − a)n+1 (n+1) f (c) (a < c < x) (n + 1)! (2.18) が成立ち, lim Rn+1 (x) = 0 を満たすとき,f (x) は [a,x] 上において n→∞ f (x) = ∞ X (x − a)k k=0 k! f (k) (a) の形の級数で表される.これを関数 f (x) の a を中心とするテイラー級数展開という. 定理 2.2.7 定数 C ,M = 0 が存在し,区間 [a,b] を含むある開区間 (u,v) におい て,無限回微分可能な f (x) および開区間 (u,v) 内の任意の数 x に対して |f (n) (x)| 5 C · M n (n = 0, 1, 2, 3, · · · ) を満たすとき,f (x) は開区間 (u,v) 内の任意の数 x においてテイラー級数展開可能 である. Proof f (x) = n X (x − a)k k=0 k! f (k) (a) + Rn+1 (x), Rn+1 (x) = であり,|Rn+1 (x)| 5 C · M n+1 (x − a)n+1 (n+1) f (c) (n + 1)! |x − a|n+1 M n |x − a|n となる.ここで an = (n + 1)! n! とおくと, M |x − a| |an+1 | = lim =0<1 n→∞ n→∞ |an | n+1 X |x − a|n C · Mn である.ゆえに,定理 1.2.8 より級数 は収束し,その一 n! lim n=0 |x − a|n → 0 (n → ∞) を満たす. 般項は C · M n n! したがって, lim Rn+1 (x) = 0 であり,テイラー級数展開可能である. n→∞ 3 章 指数関数 · 対数関数 本章では,高等学校で扱う指数関数,対数関数について定義し,そのベキ 級数展開について述べる.また,自然数のベキ乗和およびオイラー · マク ローリンの和公式についても述べる. §3.1 では,正数 a の有理数 r ベキ ar を定め,その性質を考える.そしてベ キを実数へ拡張する.また,xλ (実数ベキ) の導関数についても述べる. §3.2 では,オイラーの指数関数についての考えを紹介する.また,テイラー 級数の公式により,指数関数のベキ級数展開を示す.最後に,指数関数を 複素数全体に拡張する. §3.3 では,まず対数関数について定義する.そして,オイラーが自然対数 を定義するまでの過程を述べ,e の幾何的意味を考える.またテイラー級数 の公式により,対数関数のベキ級数展開を示す. §3.4 では,ベルヌーイ数により,自然数のベキ乗和を表す.また,ベルヌー イ多項式や自然数のベキ乗和の性質について述べる.このベルヌーイ数や ベルヌーイ多項式は,次節のオイラー · マクローリンの和公式や,4 章の正 接関数のベキ級数展開等にて用いる. §3.5 では,オイラー · マクローリンの和公式について述べる.これを用い て,n! を近似するスターリングの公式を導く.また,調和級数に関連する オイラー定数についても述べる. 3.1 ベキ 本節では,正数 a の有理数 r ベキ ar を定め,その性質を考える.そしてベ キを実数へ拡張する.また,xλ (実数ベキ) の導関数についても述べる. 命題 3.1.1 自然数 m = 2 および正数 a > 0 に対して, xm = a 1 の正の根はただ一つ存在する.また,正の根を a m とかく. 65 3. 指数関数 · 対数関数 66 Proof f (x) = xm − a とおく.まず f (0) = −a < 0 である.また,a > 1 m のとき f (a) = am − a > 0 であり,a < 1 のとき f (a−1 ) = (a−1 ) − a > 0 である.f (x) は x の多項式であり,連続であるので,中間値の定理 ( 定理 ¡ ¢ 1.3.4) より,ある γ ∈ (0, a) または (0, a−1 ) が存在し,f (γ) = 0 となる. したがって,xm = a の正の根は存在する. 次に,x, y > 0,xm = y m = a とすると, 0 = xm − y m = (x − y)(xm−1 + xm−2 y + · · · + y m−1 ) より,x = y を得る. 補題 3.1.2 m,n,p,q を整数として,m, p > 0 とする.r = ¡ 1 am ¢n n q = のとき, m p ¡ 1 ¢q 1 = a p = (an ) m であり,この値を ar と定める. ¡ 1 ¢n ¡ 1 ¢q 1 Proof x = a m , y = a p , z = (an ) m とおく. xm = n¡ 1 am ¢n om = n¡ 1 ¢ on m am = an , y p = aq , z m = an であるので,0 = anp − amq = xmp − y mp = (x − y)(xmp−1 + · · · + y mp−1 ) となる.よって,x, y > 0 より x = y を得る.また,xm = z m ,z > 0 より x = z である. 命題 3.1.3 a, b > 0 として r, s ∈ Q とすると,次が成立つ. (1) 指数法則 ar · as = ar+s , (ar )s = ars , (ar ) · (br ) = (ab)r (2) 指数に関する単調性 r > s,a > 1 であれば ar > as (3) 底に関する単調性 r > 0,a > b であれば ar > br max(ar ,a−r ) (4) 連続性 |ar − 1| 5 |r| · |a − 1| · min(1,a) Proof ここでは,整数ベキの指数法則が成立つことを前提とする. n q m,n,p,q を整数として m, p > 0,r = ,s = とする. m p n¡ n ¢ op n¡ q ¢ om m p (1) (ar as )mp = a m · ap = anp · aqm = anp+qm であるので, 3. 指数関数 · 対数関数 np+qm 67 q n ar as = a mp = a m + p = ar+s を得る. © r s ªpm h© r q ªp im ¡ n ¢mq (a ) = (a ) p = (ar )qm = a m = anq であるので, nq n q (ar )s = a pm = a m · a p = ars を得る. n¡ n ¢ o n¡ n ¢ o m m r r m (a b ) = a m · bm = an bn = (ab)n . 1 (2) r > s であれば np > mq となる.a > 1 より a mp > 1 であるので, ¡ 1 ¢np ¡ 1 ¢mq ar = a mp > a mp = as を得る. ¡ 1 ¢m ¡ 1 ¢m = a > b = b m となる.よって,ar > br を (3) a > b であれば, a m 得る. (4) xN − 1 = (x − 1)(xN −1 + xN −2 + · · · + 1) を利用する.n > 0 のとき, a n m − 1 = (a 1 m − 1)(a n−1 m + · · · + 1) = (a − 1) · a n−1 m a m−1 m + ··· + 1 より, + ··· + 1 max(1,ar ) n · max(1,ar ) n |ar − 1| = |a m − 1| 5 |a − 1| · = |a − 1| · r · である. m · min(1,a) min(1,a) また,|a−r − 1| = a−r |ar − 1| 5 |a − 1| · r · max(1,a−r ) である,よって, min(1,a) max(ar ,a−r ) |a − 1| 5 |r| · |a − 1| · を得る. min(1,a) r 系 3.1.4 rn , r ∈ Q,an , a > 0 とする.n → ∞ のとき,rn → r,an → a であれば, 次が成立つ. (1) 底の連続性 (an )r → (a)r (2) 指数の連続性 (a)rn → (a)r Proof (1) 命題 3.1.3(4) より, n¡ ¢ ¡ ¢ o ¯a ¯ ¯ max aan r , aan −r ¯³ a ´r ¯ n ¯ ¯ ¯ n ¡ an ¢ − 1¯ 5 ar · |r| · ¯ − 1¯ · |(an )r − ar | = ar ¯ で a a min 1, a 1 an an → 1 より < < 2 がいえる.よって,上式の最後 ある.ここで, a 2 a の分数部分は,n に関係のない定数で表すことができる. ¯a ¯ ¯ n ¯ r r したがって,|(an ) − a | 5 C ¯ − 1¯ → 0 (C : 定数) である. a (2) 命題 3.1.3(4) より, |arn − ar | = ar |arn −r − 1| 5 ar · |rn − r| · |a − 1| · max(arn −r ,a−(rn −r) ) であ min(1,a) 3. 指数関数 · 対数関数 68 る.ここで rn − r → 0 より,−1 < rn − r < 1 である.命題 3.1.3(2)(3) の 単調性より,a > 0 のとき,a−1 < arn −r < a となり,上式の最後の分数部 分は,n に関係のない定数で表すことができる. したがって,|arn − ar | 5 C|rn − r| → 0 (C : 定数) である. 定義 3.1.5 無理数ベキ 実数 x に収束する有理数列 {rn },{sn } を次のようにとる. r1 < r2 < · · · < rn < rn+1 < x < sn+1 < sn < · · · < s2 < s1 このとき,{arn },{asn } は命題 3.1.3 および連続の公理より収束し, lim arn = lim asn n→∞ n→∞ である.この極限値は有理数列の選び方に依存せず,x のみに関係して定まる.こ の極限値を ax と定義する.さらに,命題 3.1.3 の各主張が,任意の実数ベキに対し ても成立つ. 注意 18 {xn },{yn } が単調列でなくても, lim xn = lim yn = x ならば, lim axn = n→∞ lim ayn = lim ax であることを示す. n→∞ n→∞ n→∞ n→∞ Proof axn − ayn = ayn (axn −yn − 1) より,xn − yn = tn とおくと, |atn − 1| 5 |tn | · |a − 1| · max(atn ,a−tn ) となる.このとき,tn → 0 より c を min(a,1) 有理数として,1 < a|tn | < ac という評価を得ることができる.つまり,a|tn | が定数でおさえられる.よって,|atn − 1| → 0 注意 19 命題 3.1.3 の各主張が,任意の実数ベキに対しても成立つことの証明の例を 挙げておく. Proof (1) ax · ay = ax+y の証明 {rn },{sn } を有理数列とし,x = lim rn , y = lim sn とすると, n→∞ ax · ay = を得る. £ n→∞ ¤ £ ¤ lim arn · lim asn = lim (arn · asn ) = lim arn +sn = ax+y n→∞ n→∞ n→∞ n→∞ 3. 指数関数 · 対数関数 69 (2) 指数の連続性の証明 指数法則から,ax → 1 (x → 0) を示せば十分である. rn ∈ R とし,rn → x (n → ∞) とする. max(arn ,a−rn ) である.rn → x より,c を有 まず,|arn − 1| 5 |rn | · |a − 1| · min(1,a) 理数として 1 < a|rn | < max{ac , a−c } という評価を得ることができる.よっ て,n → ∞ のとき,|ax − 1| 5 |x| · |a − 1| · max(ac ,a−c ) → 0 である. min(1,a) したがって,ax → 1 (x → 0) を得る. 補題 3.1.6 指数不等式 ( であれば xp = 1 + p(x − 1) x > 0,p > 1 x > 0,0 < p < 1 であれば xp 5 1 + p(x − 1) が成立つ. Proof まず,自然数 n, m (n < m) および x > 0 に対して n(xm − 1) > m(xn − 1) (3.1) が成立つことを示す. (左辺)−(右辺) = n(x−1)(1+· · ·+xn−1 +· · ·+xm−1 )−m(x−1)(1+· · ·+xn−1 ) ( m−1 ) n−1 X X = (x − 1) n xk − m xj k=0 j=0 = (x − 1) {n (xn + · · · + xm−1 ) − (m − n)(1 + · · · + xn−1 )} = (x − 1) m−1 n−1 XX (xk − xj ) > 0 (k > j より) k=n j=0 ¡ m ¢ 式 (3.1) において x = y とすれば,n y n − 1 − m(y − 1) = 0 である.こ m こで p = とおけば,y p − 1 − p(y − 1) = 0 を得る. n 1 1 1 また,0 < p < 1 のとき > 1 であるので,式 (3.1) より x p = 1 + (x − 1) p p 1 となる.ここで,x = y p とすれば,y = 1 + (y p − 1) である.p > 0 より p p p py = p + y − 1 であるので,y 5 1 + p(y − 1) を得る. 1 n 無理数の場合については,p に収束する有理数列を考えればよい. 3. 指数関数 · 対数関数 70 xλ の導関数 (1) λ = 1 : 単位分数のとき n © ª0 1 f (x) = x n とおくと,1 = (x)0 = f (x)n = n f (x)n−1 f 0 (x) であり, f 0 (x) = 1 1 −1 1 = xn n f (x)n−1 n を得る. (2) λ = m : 正の有理数のとき n © ª0 m g(x) = x n とおくと,m xm−1 = (xm )0 = g(x)n = n g(x)n−1 g 0 (x) であり, g 0 (x) = m xm−1 m m −1 = xn n−1 n g(x) n を得る.また,負の有理数のときは商の導関数の公式から導くことができる. (3) λ : 無理数のとき r ∈ Q,0 < x − |h| として,微積分学の基本定理 ( 定理 1.6.13) より Z r 1 r (x + h) − x = 0 d (x + th)r dt = hr dt Z 1 (x + th)r−1 dt 0 であり, ¯ ¯ ¯Z 1 ¯ ¯ (x + h)r − xr ¯ ¯ © ª ¯ r−1 ¯ r−1 r−1 ¯ ¯ − rx ¯ = ¯ r (x + th) −x dt¯¯ ¯ h 0 ¯ Z 1 ½Z 1 ¾ ¯ ¯ Z 1 ½Z ¯ ¯ ¯ d r−1 ¯ ¯ ¯ (x + sth) ds dt¯ = ¯r(r − 1)h = ¯r ds 0 0 0 1 r−2 t(x + sth) 0 ¾ ¯ ¯ ds dt¯¯ となる.0 < |x| − t|h| 5 |x + th| 5 |x| + t|h| より, Z 1 ¯r−2 ¯ ¯r−2 ©¯ t(x + sth)r−2 ds 5 max ¯(x + t|h|)¯ , ¯(x − t|h|)¯ } である.したがって, 0 ¯r−2 ¯ ¯r−2 ª ©¯ (第一式) 5 |r(r − 1)h| max ¯x + |h|¯ , ¯x − |h|¯ となる.ゆえに,実数 λ に収束する有理数列をとれば, ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ª ¯ ¯ (x + h)λ − xλ ©¯ λ−1 ¯ 5 |λ(λ − 1)h| max ¯x + |h|¯λ−2 , ¯x − |h|¯λ−2 ¯ − λx ¯ ¯ h 3. 指数関数 · 対数関数 71 である.したがって,h → 0 とすれば (xλ )0 = λxλ−1 を得る. 3.2 指数関数 オイラーは『無限解析入門』の中で二項定理を用いて,オイラーの数 e を 定義し,ex についての定理を導いている. 本節では,オイラーの指数関数についての考えを紹介する.また,テイラー 級数の公式により,指数関数のベキ級数展開を示す.最後に,指数関数を 複素数全体に拡張する. オイラーのアプローチ オイラーの指数関数についての考えを紹介する. 定理 3.2.1 ニュートンの一般二項定理 任意の有理数 a に対して,|x| < 1 の範囲で a a(a − 1) 2 a(a − 1)(a − 2) 3 (1 + x)a = 1 + x + x + x + ··· 1 1·2 1·2·3 (3.2) が成立つ. Proof ここではワイエルシュトラス (1861) による証明を述べる.ただし, この証明では a を実数として考える. f (x) = (1 + x)a とおいて,f 0 (x) = a(1 + x)a−1 ,f 00 (x) = a(a − 1)(1 + x)a−2 , · · · を考えれば,級数 (3.2) は f (x) = (1 + x)a のテイラー級数展開であるこ とがわかる.ここで,|x| < 1 のとき,(3.2) を証明するために,剰余項 Z x Rn (x) = 0 (x − t)n a(a − 1) · · · (a − n)(1 + t)a−n−1 dt n! が n → ∞ のとき 0 に収束することを示す. 定理 1.5.10 において,γ = θn x,0 < θn < 1 とおけば, (3.3) 3. 指数関数 · 対数関数 72 (x − θn x)n Rn (x) = a(a − 1) · · · (a − n)(1 + θn x)a−n−1 · x n! µ ¶n (a − 1)(a − 2) · · · (a − n) n 1 − θn = x (1 + θn x)a−1 · ax n! 1 + θn x が得られる.ax は定数で,(1 + θn x)a−1 は (1 + x)a−1 と 1 の間にあるので, 有界である.また |x| < 1 を満たす x に対して 0 < 1 − θn < 1 + θn x なので, ¶n µ (a − 1)(a − 2) · · · (a − n) 1 − θn は 1 で上から押さえられる.cn = と 1 + θn x n! ¯ ¯ ¯ cn ¯ n+1 ¯= おくと,定理 2.1.5 より,収束半径 R = lim ¯¯ =1と ¯ n→∞ c |a − (n + 1)| n+1 (a − 1)(a − 2) · · · (a − n) n x は収束級数の n! 一般項であり,式 (1.12) より 0 に収束する.したがって,n → ∞ のとき なる.よって,|x| < 1 のとき, Rn (x) → 0 となり,(3.2) は |x| < 1 のとき成立つ. µ 1 定理 3.2.1 を用いて, 1 + N オイラーの数 e µ 1 1+ N ¶N ¶N を計算すると, N N (N − 1) 1 N (N − 1)(N − 2) 1 + + + ··· 2 N 1·2 N 1·2·3 N3 µ ¶ µ ¶µ ¶ 1 1 1 1 1− 1 1− 1−2 N N N =1+1+ + + ··· 1·2 1·2·3 =1+ となる.オイラーは,ここで N → ∞ とすれば, µ 1 1+ N ¶N ∞ X 1 1 1 → 1+1+ + + ··· = 1·2 1·2·3 k! k=0 となると考えたようである.ここで,オイラーの数 e を µ ¶N 1 e = lim 1 + N →∞ N と定義する. ³ x ´N を計算し,N → ∞ とする.ここで x は e のベキ 定理 3.2.1 を用いて, 1 + N 固定されているとする.このとき, ³ 1+ x ´N x2 x3 →1+x+ + + ··· N 1·2 1·2·3 (3.4) 3. 指数関数 · 対数関数 73 N ,N = x · M とおいて,M が整数であるようにしながら, x N と M を無限大に近づけると, µ ¶M x õ ¶M !x ³ x ´N 1 1 1+ = 1+ = 1+ → ex (3.5) N M M が得られる.また,M = となる.(3.4),(3.5) を厳密に証明することにより,次の定理が得られる. 定理 3.2.2 [オイラー (1748)] ³ x e = lim N →∞ x ´ N X xk 1+ = N k! k=0 ∞ Proof (前半の証明) 定義 3.1.5 より,(3.5) は M が整数に限らず成立つ. (後半の証明) µ x sN j = j 1 1− N ¶µ 1 1−2 N j! ¶ µ 1 ··· 1 − j N ¶ とおく.ただし,j > N のときは sN j = 0 とする.x を固定すると, sN j の N を動かすとき,数列 {s0j ,s1j ,s2j · · · } の元はすべて同じ符号で, {|s0j |,|s1j |,|s2j | · · · } は単調に増加する.よって,|sN +1,j | = |sN j | である. ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ xn ¯ = |x| → 0 (n → ∞) となり,定理 次に,an = とおくと,¯¯ n! an ¯ n+1 ∞ X xj 1.2.8 より,級数 は絶対収束する.ゆえに, j! j=0 N X |sN j | 5 j=0 N X |x|j j=0 j! 5B となる定数 B が存在する.以上により,定理 1.2.13 から,無限級数と極限 操作の順序交換が可能になり, ³ lim N →∞ ! Ã∞ ∞ ³ ´ X X x2 x3 x ´N lim sN j = 1+x+ + +· · · 1+ = lim sN j = N →∞ N →∞ N 2! 3! j=0 j=0 が成立つ. 3. 指数関数 · 対数関数 74 ¯ ¯ ¯ cn ¯ 1 ¯ = lim (n + 1) = ∞ 収束半径 cn = とすると,定理 2.1.5 より,R = lim ¯¯ n→∞ cn+1 ¯ n→∞ n! となる.よって,ex はすべての x に対して収束する. 連続性 rn ,sn ,t1 ,t2 を有理数として,x1 < x2 とするとき, r1 < r2 < · · · < rn → x1 < t1 < t2 < x2 ← sn < · · · < s2 < s1 とすれば,命題 3.1.3 よ り,ex1 = lim ern 5 et1 < et2 5 lim esn = ex2 となるので,この関数は狭義単調増加 n→∞ である.また,命題 3.1.3 より n→∞ |ex2 − ex1 | = ex1 |ex2 −x1 − 1| 5 ex1 |x2 − x1 | · |e − 1| · max(ex2 −x1 ,1) min(1,e) 5 |x2 − x1 | · |e − 1| · max(ex2 ,ex1 ) である.ここで ex1 ,ex2 < t とすれば,|ex2 − ex1 | 5 |x2 − x1 | · |e − 1|et → 0 (x2 → x1 ) を得る.よって ex は連続である. e が無理数であることの証明 e が有理数であると仮定して,e = q (p,q は自然数) と p する.自然数 n = p に対して · ½ ¾¸ ∞ X 1 1 1 1 n! n! = n! n! e − 1 + + + · · · + = + + ··· 1! 2! n! k! (n + 1)! (n + 2)! k=n+1 | {z } 自然数 1 1 1 < + + · · · = e − (1 + ) < 1 2! 3! 1! である.よって,(左辺) が自然数であることに矛盾する. テイラー級数の公式による指数関数のベキ級数展開の証明 et − 1 es − 1 Proof (1) 実数 s, t (0 < s < t) に対して > を示す. t s 1 1 (3.1) より自然数 n, m (n < m) に対して (xm − 1) > (xn − 1) が成立つ. m n k n k m 1 x = y k (k : 自然数) とおくと, (y k − 1) > (y k − 1) となる.よって実 m n et − 1 es − 1 数 s, t (0 < s < t) に収束する有理数列をとれば, > が成立つ. t s h e −1 これにより, の単調性が示せた. h (2) (ex )0 = ex を示す. 3. 指数関数 · 対数関数 75 ex+h − ex ex (eh − 1) eh − 1 = より lim = 1 を示せばよい.また, h→0 h h h e−h − 1 e−h (eh − 1) eh − 1 0 < h < 1 のとき, = であるから, lim =1 h>0,h→0 −h h h を示せばよいことになる. 0 < h < 1 のとき,指数不等式 ( 補題 3.1.6) より 0 < eh − 1 5 h(e − 1) であ eh − 1 り,(1) より単調性が得られるので, lim が存在し,次が成立つ. h>0,h→0 h 1 eh − 1 lim = lim n(e n − 1) n→∞ h>0,h→0 h µ ¶n 1 < e より n(e − 1) = 1 + bn とおき, lim bn = 0 を示す. 1 + n→∞ n ¡ 1 ¢ 1 < n e n − 1 = 1 + bn が得られるので,0 < bn ,0 5 lim bn である. 1 n n→∞ よって, µ ¶n µ ¶n ¶n−1 µ 1 + bn 1 1 e= 1+ > 1+ + bn 1 + n n n において n → ∞ とすれば e = e + e lim bn より lim bn 5 0 である.ゆえ n→∞ n→∞ に,はさみうちの原理より bn → 0 となる.よって (ex )0 = ex が成立つ. (3) f (x) = ex とすると,f (x) は (−∞,+ ∞) において,無限回微分可能で あるので,任意の k に対して f (k) (x) = ex となる.よって,f (k) (0) = e0 = 1 である.したがって,(2.18) 式より,次が成立つ. x e = n X xk k=0 k! + Rn+1 (x), Rn+1 (x) = ec xn+1 (n + 1)! (0 < c < x) このとき,正の数 p をとり,区間 (−p,p) で考えると,この区間内の任意の x に対して 0 < f (n) (x) = ex < ep (n = 1, 2, 3 · · · ) となり,任意の x に対し て lim Rn+1 (x) = 0 であり,ex はテイラー級数展開できる.p は任意の正 n→∞ の数について成立つので,すべての実数 x に対してテイラー級数展開可能 である.よって,次が成立つ. ex = 1 + x + x2 xn + ··· + + ··· 2! n! (−∞ < x < ∞) 3. 指数関数 · 対数関数 76 命題 3.2.3 複素変数の指数関数 すべての複素数 z に対して, n lim n→∞ z on X z k 1+ = n k! k=0 ∞ が成立つ.また,このことより,指数関数を次のように複素数全体に拡張する. ez = lim n n→∞ z on X z k = n k! k=0 ∞ 1+ ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ zn ¯ ¯=0 Proof まず収束性について考える.an = とおくと, lim ¯ n→∞ n! an ¯ ∞ X zk であるから,定理 1.2.8 より,すべての複素数 z に対して は絶対収束 k! k=0 する.また, ³ z ´m z m µ n(n − 1) · · · (n − (m + 1)) ¶ n! = a(n,m; z) = · m!(n − m)! n m! n · n···n µ ¶ m zm Y k−1 = 1− m! k=1 n とおけば,|a(n,m; z)| 5 |z|m であるので,定理 1.2.14 よりすべての z に m! 対して, n lim n→∞ 1+ n M n o X X z on = lim a(n,m; z) = lim lim a(n,m; z)∆(n,m) n→∞ n→∞ M →∞ n m=0 m=0 = lim M →∞ M X m=0 M X n lim n→∞ o a(n,m; z)∆(n,m) ¶ m µ M X zm Y k−1 zm = lim lim 1− = lim n→∞ m! M →∞ M →∞ n m! m=0 m=0 k=1 ( ここで,∆(n,m) = 注意 20 1 (m 5 n) 0 (m > n) (1.24) 式より,任意の複素数 z, w に対して ez+w = ez · ew が成立つ. 3. 指数関数 · 対数関数 3.3 77 対数関数 本節では,まず対数関数について定義する.そして,オイラーが自然対数 を定義するまでの過程を述べ,e の幾何的意味を考える.またテイラー級数 の公式により,対数関数のベキ級数展開を示す. 定義 3.3.1 区間 (0,∞) 上で定義された恒等的に 0 でない連続関数 l(x) が,すべて の x, y > 0 に対して l(x · y) = l(x) + l(y) (3.6) を満たすとき,対数関数とよぶ. (3.6) において,y = ³z ´ z とすると,l(z) = l(x) + l となる.よって, x x ³z ´ l = l(x) − l(y) x (3.7) である.x = y = 1 とすると,l(1) + l(1) = l(1) となる.したがって, l(1) = 0 (3.8) を得る.また整数 n,m に対して次が成立つ. ¡ n¢ n l xm = · l(x) m (3.9) Proof まず l(xn ) = n · l(x) を自然数 n についての帰納法により示す. l(xn ) = l(xn−1 · x) = l(xn−1 ) + l(x) = (n − 1) · l(x) + l(x) = n · l(x) である. また,(3.7) より l(x−n ) = l(1) − l(xn ) = −n · l(x) となる. ³¡ 1 ¢ ´ ¡ 1¢ ¡ 1¢ 1 m 次に,l x m · l(x) となり, = m · l x m = l(x).よって l x m = m ³¡ 1 ¢ ´ ¡ 1¢ n n l xm = n · l xm = · l(x) が成立つ. m 仮定から,l(b) > 0 となる b > 0 が存在し,l(bn ) = n · l(b) > 1 となる自然数 n がある. さらに,l(1) = 0 であり,l(x) が連続であるので,l(a) = 1 を満たす a が存在する. ¡ m¢ m · 1 となる.つまり,l(ax ) = x となるので,対数関数 l(x) は したがって,l a n = n 指数関数 ax の逆関数であることがわかる.これを a を底とする対数関数とよび, y = loga x (x = ay ) 3. 指数関数 · 対数関数 78 とかく. 対数の黄金法則 [オイラー (1748)] x = ay において b を底とする対数をとり,(3.9) を用いれば,logb x = y logb a である.よって (3.3) により, y = loga x = logb x logb a となる.この公式により,ある 1 つの底の場合を考えておけば,任意の底の対数を考 えることができる. 自然対数 オイラーが自然対数を定義するまでの過程を,歴史的に順を追って述べる. 求積問題 a を与えたとき,曲線 y = xa と x 軸および x = B に囲まれた領域の面 積を求めよ. θ < 1 を 1 近くに選んで,等比数列 B , θB , θ2 B ,· · · で区切られる長方形を考える.す ると,問題の面積は a + 1 > 0 つまり a > −1 で, (長方形の和) = (B − Bθ)B a + (Bθ − Bθ2 )θa B a + (Bθ2 − Bθ3 )θ2a B a + · · · = B(1 − θ)B a + B(θ − θ2 )θa B a + B(θ2 − θ3 )θ2a B a + · · · = B a+1 (1 − θ)(1 + θa+1 + θ2a+2 + · · · ) = B a+1 1−θ 1 − θa+1 (3.10) という等比級数で近似できる.1 − θ = ε とおいて,定理 3.2.1 を用いる. θa+1 = (1 − ε)a+1 = 1 − (a + 1)ε + · · · より, ε 1 1−θ ≈ = a+1 1−θ (a + 1)ε a+1 (ε → 0) (3.11) となる.(3.10) は求める面積 S を上から近似している.長方形の高さを θa B a , θ2a B a · · · にとり換えれば S の下からの近似が得られる.θa は θ → 1 に従って 1 に近づくので, 近似は両方とも同じ値に近づく. 定理 3.3.2 [フェルマー (1636)] 曲線 y = xa と x 軸および x = B に囲まれた領域の面積は次で与えられる. S= B a+1 a+1 (a > −1) 3. 指数関数 · 対数関数 79 1 には適用できない.実際に計算を行うと,面積 x は (1 − θ)(1 + 1 + 1 + · · · ) となる.このことが動機となり次のことが発見された. フェルマーの方法は,双曲線 y = [グレゴリー (1647)] 1 双曲線 y = の下方の領域の面積は対数関数で表される. x y ln(a) y= O 1 a 1 x x 1 ,x = 1,x = a > 0 と x 軸で囲まれた面積を ln(x) とする.ただし,0 < a < 1 x 1 の場合は面積にマイナスの記号をつける.y = ,x = 1,x = b > 0 と x 軸で囲まれた点 x µ ¶ 1 1 (x,y) の集合を S1 ,y = ,x = a,x = ab と x 軸で囲まれた点 ax, y の集合を S2 と x a 1 すると,S2 は S1 を x 軸方向に a 倍,y 軸方向に 倍したものである.ゆえに,S1 = S2 a であり, y= ln(a) + ln(b) = ln(ab) が成立つ. Proof ここでは,リーマン積分による証明を行う.区間 [1, b] の n 等分割を 考えると, ln(b) = lim n→∞ = lim n→∞ n X b−1 k=1 n 1+ n X a(b − 1) k=1 n = ln(ab) − ln(a) となる. µ · 1 ¶ b−1 k n n X 1 1 ab − a µ µ ¶ = lim ¶ · · n→∞ a(b − 1) ab − a n k=1 a+ a+ k k n n 3. 指数関数 · 対数関数 メルカトールの級数 80 [N.メルカトール (1668)] 原点を 1 ずらすと,ln(1 + a) は 0 と a の間の 1 の下方の領域の面積になる.定 1+x 1 = 1 − x + x2 − x3 + · · · であるので,項別に 0 と a の間の面積に対 1+x する定理 3.3.2 用いて,a を x にとり換えると, 理 3.2.1 より, ∞ X (−1)k−1 x2 x3 x4 ln(1 + x) = x − + − + ··· = xk 2 3 4 k k=1 (3.12) が得られる (定理 1.5.12 参照). 定理 3.2.2 の公式および (3.9),(3.12) を用いると,N → ∞ のとき, ³ ³ x ´N x´ ln 1 + = N · ln 1 + =N· N N µ x x2 + ··· − N 2N 2 ¶ →x となる.したがって,次を得る. ln ex = x 定理 3.3.3 ln(x) は e を底とする対数である.また,ln(x) を自然対数とよび log x と 表す. Proof 収束半径 (3.12) の (右辺) において考える.cn = 理 2.1.5 より,収束半径 (−1)n−1 とすると,定 n ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯n + 1¯ ¯ = lim ¯ ¯=1 R = lim ¯¯ n→∞ cn+1 ¯ n→∞ ¯ n ¯ がわかる. 連続性 x = 1 のとき,ln(1) = 0 となる.x > 1 のとき,| ln(x)| < x − 1 よ り,a > b であれば,| ln(a) − ln(b)| = | ln(ab−1 )| < |ab−1 − 1| である.よっ て a → b のとき,| ln(a) − ln(b)| → 0 となる.以上により,ln(x) は連続関 数である. ¯ ∞ ¯ ¯ X (−1)n−2 xn−2 ¯ 1 ¯ ¯ 0 < x < で,| ln(1 + x) − x| = ¯x2 ¯ < Cx2 (C > 0) が ¯ ¯ 2 n n=2 x 成立つ.−Cx2 < ln(1 + x) − x < Cx2 であり,x に を代入し,各辺に N N ½ ½ ³ x ´2 ¾ ³ ³ x ´2 ¾ x x´ x をかけると,N −C · < N ln 1 + <N +C · N N N N N 3. 指数関数 · 対数関数 81 ³ x´ となる.したがって,N → ∞ のとき N ln 1 + → x である.ln(x) の N 連続性より, µ ¶ ½ ³ ¾ ³ x ´N x ´N x = lim ln 1 + =x ln(e ) = ln lim 1 + N →∞ N →∞ N N となる. e の幾何的説明 e は,双曲線 y = 1 となるような数 a である. 任意のベキ 1 ,x = 1,x = a > 0 と x 軸で囲まれた面積が x [ ヨハン · ベルヌーイ (1697)] 対数を用いれば,任意のベキを計算し,定義することができる.a = elog a より ab = (elog a )b = eb log a グレゴリーの級数 [グレゴリー (1668)] (3.12) において x に − x を代入すると, log(1 − x) = −x − x2 x3 − − ··· 2 3 (3.13) (3.12) から (3.13) を引くと, µ ¶ 1+x x3 x5 log =2 x+ + + ··· 1−x 3 5 X −1 1+x とおけば X = となり, X +1 1−x µ ¶ x3 x5 log X = 2 x + + + ··· 3 5 が得られる.ここで,任意の正数 X に対して x = が成立つ. テイラー級数の公式による対数関数のベキ級数展開の証明 Proof y = log x に対して x = ey である.両辺を x について微分すると, dy y dy 1 1 · e = 1 となる.よって, = y = である. dx dx e x 3. 指数関数 · 対数関数 82 1 −1 ,f 00 (x) = ,· · · , 1+x (1 + x)2 (−1)k−1 (k − 1)! f (k) (0) (−1)k−1 f (k) (x) = である.ゆえに, f (0) = 0 , = (1 + x)k k! k (1) f (x) = log(1 + x) とすると,f 0 (x) = (k = 1, 2, · · · ) である.(−1,+ ∞) において f (x) は微分可能である. (2) 0 5 x 5 1 のとき,(2.18) 式より, log(1+x) = n X (−1)k−1 k k=1 xk +Rn+1 (x), Rn+1 (x) = f (n+1) (c) n+1 x (n + 1)! (0 < c < x) が成立つ.このとき, n! xn+1 1 |Rn+1 (x)| = · = · (1 + c)n+1 (n + 1)! n+1 µ x 1+c ¶n+1 である.よって,0 5 x 5 1 および 1 5 1 + c より, |Rn+1 (x)| 5 xn+1 1 5 n+1 n+1 となる.したがって, lim |Rn+1 (x)| = 0 であり, lim Rn+1 (x) = 0 となる. n→∞ n→∞ (3) f (x) = n X f (k) (a) k=0 k! k (x − a) + Rn+1 , g(t) = f (x) − n X f (k) (t) k=0 k! (x − t)k f (n+1) (t) (x−t)n n! である.次に G(t) = g(t) − L(x − t) (L : 定数) とおき,G(a) = G(x) = 0 g(a) Rn+1 (x) となるように L の値を決める.L = = である.関数 G(x) は x−a x−a 定理 1.6.10 を満たすので,G0 (c̃) = 0,a < c̃ < x または x < c̃ < a を満たす とおく.このとき,g(a) = Rn+1 (x) である.また,g 0 (t) = − c̃ が存在する.よって,G0 (c̃) = g 0 (c̃) + L = − Rn+1 (x) f (n+1) (c̃) (x − c̃)n + n! x−a f (n+1) (c̃) (x − c̃)n (x − a) (a < c̃ < x または x < c̃ < a) n! となる.さらに c̃ = a + θ̃(x − a) (0 < θ̃ < 1) とおくと,x − c̃ = x − a − であり,Rn+1 (x) = θ̃(x − a) = (x − a)(1 − θ̃) であり,次を得る. f (n+1) (c̃) Rn+1 (x) = (x − a)n+1 (1 − θ̃)n n! (3.14) 3. 指数関数 · 対数関数 83 (4) −1 < x < 0 のとき,(3.14) 式において,a = 0 のとすると, µ n Rn+1 (x) = (−1) x 1 + θ̃x ¶n+1 (1 − θ̃)n (0 < θ̃ < 1) 1 − θ̃ となる.x = −u とおくと 0 < u < 1 である.1− θ̃ < 1− θ̃u より, <1 1 − θ̃u 1 1 u(1 − θ̃) < u である.また 1 − u < 1 − θ̃u より, < となり と 1−u 1 − θ̃u 1 − θ̃u u u < なり である.ゆえに, 1−u 1 − θ̃u µ Rn+1 (x) = u 1 − θ̃u ¶n+1 u (1 − θ̃)n = 1 − θ̃u ( u(1 − θ̃) 1 − θ̃u )n < u · un 1−u である.よって lim un = 0 より lim Rn+1 (x) = 0 を得る. n→∞ n→∞ したがって,(2)(4) より log(1 + x) = x − x2 x3 xn + + · · · + (−1)n−1 + · · · 2 3 n (−1 < x 5 1) を得る. 3.4 自然数のベキ乗和 本節では,ベルヌーイ数により,自然数のベキ乗和を表す.また,ベルヌー イ多項式や自然数のベキ乗和の性質について述べる.このベルヌーイ数や ベルヌーイ多項式は,次節のオイラー · マクローリンの和公式や,4 章の正 接関数のベキ級数展開等にて用いる. 定義 3.4.1 ベルヌーイ数 [オイラー (1755)] B0 = 1 , n−1 X n Ck · Bk = 0 , n = 2 k=0 で定まる数 Bk を,ベルヌーイ数という. Bk の値は,例えば次のようになる. 1 1 1 B1 = − , B2 = , B3 = 0 , B4 = − 2 6 30 3. 指数関数 · 対数関数 84 定理 3.4.2 自然数のベキ乗和の公式 Sm+1 (x) = [ ヤーコプ · ベルヌーイ (1713)] X 1 1 xm+1 + xm + m+1 2 m+1 C2k 252k5m B2k m+1−2k x m+1 とおく.このとき,すべての自然数 n に対して Sm+1 (n) = 1m + 2m + · · · + nm が成立つ. Proof Bn (x) = n X Bk · n Ck xn−k k=0 をベルヌーイ多項式という. Bn (x + 1) − Bn (x) = n−1 X Bk · n Ck {(x + 1)n−k − xn−k } k=0 = n−1 X k=0 = n−1 X l=0 Bk · n Ck (n−l−1 X k=0 (n−k−1 X ) n−k Cl = (n−l−1 X l=0 l=0 Bk xl n−1 X (n − l)! n! · k!(n − l − k)! l!(n − l)! ここで,l = n − 1 のとき 0 X ) n! (n − k)! Bk · xl k!(n − k)! l!(n − k − l)! k=0 ) (n−l−1 ) n−1 X X xl = Bk · n−l Ck n Cl xl l=0 k=0 B0 · 1 C0 = B0 ,定義より l = 0 ∼ n − 2 のとき k=0 n−1 X Bk · n Ck = 0 であるので,(第一式) = B0 · n Cn−1 xn−1 = n xn−1 となる. k=0 したがって,xn = Bn+1 (x + 1) − Bn (x) である.よって, n+1 Sm+1 (n) = 1m + 2m + · · · + nm = m Bm+1 (n + 1) − Bm+1 (1) m+1 1 X = Bk · m+1 Ck {(n + 1)m+1−k − 1} m + 1 k=0 (m+1−k ) m X 1 X l = Bk · m+1 Ck m+1−k Cl n m + 1 k=0 l=1 (m+1−l ) m+1 X X 1 = Bk · m+1−k Cl · m+1 Ck nl m + 1 l=1 k=0 3. 指数関数 · 対数関数 85 である.ここで (m + 1 − k)! (m + 1)! (m + 1 − l)! (m + 1)! · = · (m + 1 − k − l)! l! (m + 1 − k)! k! (m + 1 − k − l) !k! (m + 1 − l)! l! であるので, ( ) m+1 m+1−l 1 X X Bk · m+1−l Ck m+1 Cl nl Sm+1 (n) = m + 1 l=1 k=0 ( ) m−1 1 m+1 m X m+1 l = n + n + Bm+1−l · m+1 Cl n m+1 2 l=1 Ãm−l X となる. ! Bk · m+1−l Ck = 0 k=0 命題 3.4.3 Sm+1 (0) = Sm+1 (−1) = 0 (3.15) B2n+1 = 0 (3.16) であり,n = 1 のとき, である. Proof n = 2 のとき,Bn (0) = Bn (1) であるから, (m + 1)Sm+1 (x) = Bm+1 (x + 1) − Bm+1 (1) = Bm+1 (x + 1) − Bm+1 (0) とな る.ゆえに, Sm+1 (0) = Sm+1 (−1) = 0 を得る.次に,奇数 m = 5,B3 = · · · = Bm−2 = 0 を仮定して,Bm = 0 を 示す. ( 1 0 = Sm+1 (−1) = m+1 ( の辺々を引き,変形すれば, m−1 m+1 X 1+ + Bm+1−l · m+1 Cl 2 l=1 1 1 = Sm+1 (1) = m+1 m−1 ) m+1 X 1− + Bm+1−l · m+1 Cl (−1)l 2 l=1 ) 3. 指数関数 · 対数関数 0= 86 ³ ´ Bm+1−l · m+1 Cl 1 − (−1)l m−1 X l=1 X = 2(m + 1)Bm + 2Bm−2j · m+1 C2j+1 = 2(m + 1)Bm 352j+15m−1 ³ l となる. l : 偶数のとき 1 − (−1) = 0, l ´ l : 奇数のとき 1 − (−1) = 2 よって,Bm = 0 となる. ベルヌーイ多項式は次のベキ級数の係数として表される. ∞ ∞ X X t etx tn t tn = B (x) , 特に = B n n et − 1 n=0 n! et − 1 n=0 n! (3.17) 左辺の関数をベルヌーイ多項式の指数母関数という.このベキ級数の収束範囲は |t| < 2π である. 命題 3.4.4 次の関係式が成立つ. 0 Bn+1 (x) = (n + 1)Bn (x) ¶ ¶ µ µ 1 1 n Bn x + = (−1) Bn −x + 2 2 1 Sn+1 (x) = {Bn+1 (x) − Bn+1 } + xn n + 1 µ ¶ 1 S2l+1 − =0 2 Proof (3.17) より, t etx t2 tn = B (x) + B (x)t + B (x) + · · · + B (x) + ··· 0 1 2 n et − 1 2! n! なので,両辺を x で微分すれば, t· t etx t2 tn 0 0 0 = B (x)t + B (x) + · · · + B (x) + ··· 1 2 n et − 1 2! n! 両辺を t で割れば,(3.18) が得られる.また, 1 1 1 te(−x+ 2 )t te(−x+ 2 )t / − et (−t)e(x+ 2 )(−t) = = et − 1 et − 1/ − et −1 + e−t (3.18) (3.19) (3.20) (3.21) 3. 指数関数 · 対数関数 87 ¶ n X ¶ µ µ ∞ t (−t)n 1 1 · = · より Bn −x + Bn x + なので (3.19) を得る. 2 n! 2 n! n=0 n=0 µ ¶ µ ¶ 1 1 特に x = 0,n = 2l + 1 のとき,B2l+1 = (−1)B2l+1 となり, 2 2 µ ¶ 1 B2l+1 = 0 である. 2 ∞ X Bm+1 (n + 1) − Bm+1 (1) および Bn+1 (1) = Bn+1 より m+1 (3.20) が得られる.さらに, また,Sn+1 (x) = 2l−1 1 1 1 X S2l+1 (−x) = (−x)2l+1 + (−x)2l + B2l+1−m · 2l+1 Cm (−x)m 2l + 1 2 2l + 1 n=1 2l−1 1 1 1 X = (−1) · x2l+1 + x2l + B2l+1−m · 2l+1 Cm (−x)m 2l + 1 2 2l + 1 n=1 ここで,m が偶数のとき B2l+1−m = 0 であり,m は奇数となるので, 1 {B2l+1 (x) − B2l+1 } − x2l + x2l 2l + 1 1 B2l+1 (x) =− 2l + 1 µ ¶ µ ¶ 1 1 1 が得られる.したがって,S2l+1 − =− B2l+1 = 0 となる. 2 2l + 1 2 (第一式) = −S2l+1 (x) + x2l = − (3.15),(3.21) より S2n (x) = x2 (x + 1) · {2n − 3 次の多項式 } S2n+1 (x) = x(x + 1)(2x + 1) · {2n − 2 次の多項式 } がわかる. 注意 21 ∞ X Bn n=0 B0 + n! zn = ∞ X Bn n=1 n! ez z としたとき,Bn はベルヌーイ数である. −1 zn = ez z = −1 z 2 z+ 3 z z + + ··· 2! 3! 1 = 2 1+ z z3 + + ··· 2! 3! 3. 指数関数 · 対数関数 88 ここで z = 0 とすれば B0 = 1 が得られる.また,1 + B1 z + ∞ X Bn n=2 n! zn = ez z より, −1 µ B1 + ∞ X Bn n=2 n! z n−1 ¶ z2 z3 1 z z− z+ + + ··· − − + ··· 1 1 2 3! 2 3! µ ¶ = = z − = z2 z3 z z2 e −1 z z z+ + + ··· 1+ + + ··· 2 3! 2 3! 1 ここで z = 0 とすれば B1 = − が得られる. 2 à ∞ ! ∞ ∞ X X zm X B Bn n n 次に,(ez − 1) z n = z より, z = z となる.よって, n! m! n=0 n! n=0 m=1 ∞ X l=1 X m+n=l,m=1 1 Bn l z =z · m! n! である.両辺の係数を比較すると, 1 l! X m+n=l,m=1 l−1 X l! Bn · = 0 より, l Cn Bn = 0 m! n! n=0 が得られる.(m + n = l,m = 1 より m = l − n = 1.ゆえに 0 5 n 5 l − 1.) 3.5 オイラー · マクローリンの和公式 本節では,オイラー · マクローリンの和公式について述べる.これを用い て,n! を近似するスターリングの公式を導く.また,調和級数に関連する オイラー定数についても述べる. オイラーのアプローチ オイラーが考えた公式の導き方を紹介する. 問題 関数 f (x) が与えられたとき, S = f (1) + f (2) + · · · + f (n) = n X i=1 に対する公式を見つけよ. f (i) 3. 指数関数 · 対数関数 89 (1) まず s = f (0) + f (1) + · · · + f (n − 1) = n X f (i − 1) i=1 を考える.(2.15) 式において,x − x0 = −1, x0 = i とおくと f 0 (i) f 00 (i) f 000 (i) f (i − 1) = f (i) − + − + ··· 1! 2! 3! となるので, S − s = f (n) − f (0) = = n X 1 2! f 0 (i) − i=1 n X f (i) − i=1 n X f (i − 1) = i=1 f 00 (i) + i=1 n X 1 3! Z n X である.f (i) = F (i) とすると, F (i) = ¢ f (i) − f (i − 1) i=1 n X f (3) (i) − · · · i=1 n 0 0 i=1 n X ¡ n n 1 X 0 1 X 00 F (x)dx+ F (i)− F (i)+· · · 2! i=1 3! i=1 となり,ここで改めて,F (i) = f (i) とすれば, n X Z n f (i) = 0 i=1 n n 1 X 0 1 X 00 f (x)dx + f (i) − f (i) + · · · 2! i=1 3! i=1 (3.22) を得る. (2) (3.22) 式のように n X Z f (i) = 0 i=1 n X i=1 n 0 Z n 00 f (i) = n n 1 X (3) 1 X 00 f (x)dx + f (i) − f (i) + · · · 2! i=1 3! i=1 0 n f 00 (x)dx + 0 n 1 X (3) 1 X (4) f (i) − f (i) + · · · 2! i=1 3! i=1 · · · を作り,(3.22) 式にあてはめると, n X i=1 Z Z n f (i) = n f (x)dx − α 0 Z n 0 f (x)dx + β 0 Z n 00 f (x)dx − γ 0 f (3) (x)dx + · · · (3.23) 0 という式が得られる.(3.23) 式の f を f 0 ,f 00 · · · で置き換えたものを考える. 3. 指数関数 · 対数関数 90 Z ´ ³ ´ 0 0 f (i) = f (x)dx − α f (n) − f (0) + β f (n) − f (0) + · · · 0 ´ α³ ´ 1 X 0 1³ − f (i) = − f (n) − f (0) + f 0 (n) − f 0 (0) − · · · 2! 2! 2! ´ 1³ 0 1 X 00 f (i) = f (n) − f 0 (0) − · · · 3! 3! Z n を各辺ごとに加えれば,(3.22) より (左辺) = f (x)dx になるので, X n ³ 0 1 α 1 β α 1 = 0, β + + = 0, γ + + + = 0, 2! 2! 3! 2! 3! 4! α+ ··· (3.24) 1 1 1 よって, α = − , β = , γ = 0, δ = − ,· · · となり, 2 12 720 n X Z n f (i) = f (x)dx+ 0 i=1 ¢ 1¡ 0 ¢ ¢ 1¡ 1 ¡ (3) f (n)−f (0) + f (n)−f 0 (0) − f (n)−f (3) (0) +· · · 2 12 720 βi を得る.(3.24) において α, β, γ ,· · · をベルヌーイ数 βi (i = 0, 1, 2, · · · ) を用いて i! µ ¶ α β 例えば,B0 = 1,B1 = ,B2 = ,· · · と置き換えると, 1! 2! n X Z n f (i) = f (x)dx + 0 i=1 ¢ X B2k ¡ (2k−1) ¢ 1¡ f (n) − f (0) + f (n) − f (2k−1) (0) (3.25) 2 (2k)! k=1 が得られるであろうと,オイラーは考えたようである. しかし,ほとんどの関数 f に対して (3.25) の無限級数が収束しない.よって,公式 を有限個で打ち切り,剰余項を表示する必要がある. 定理 3.5.1 オイラー · マクローリンの和公式 関数 f (x) を無限回微分可能な関数とする.このとき, n X Z n f (i) = 0 i=1 k−1 R̃k = (−1) k! k ´ X ´ 1³ Bj ³ (j−1) f (x)dx + f (n) − f (0) + f (n) − f (j−1) (0) + R̃k , 2 j! j=2 Z n B̃k (x)f (k) (x)dx (3.26) 0 が成立つ.ここで,B̃k (x) は 0 5 x 5 1 では多項式 Bk (x).他では,周期 1 で周期的 に拡大したもの. 3. 指数関数 · 対数関数 91 Proof n = 1 のとき,k に関する帰納法により示す. Z 1 f (1) = 0 Rk = ´ XB ³ ´ 1³ j f (x)dx + f (1) − f (0) + f (j−1) (1) − f (j−1) (0) + Rk 2 j! j=2 k (−1)k−1 k! (3.27) Z 1 Bk (x)f (k) (x)dx (3.28) 0 1 1 となる.B1 (0) = − ,B1 (1) = より,部分積分によって, 2 2 ´ 1³ f (1) + f (0) = B1 (1)f (1) − B1 (0)f (0) 2 Z 1 h i1 Z 1 0 = B1 (x)f (x) − B1 (x)f (x)dx + B1 (x)f 0 (x)dx 0 0 0 Z 1 Z 1 = B10 (x)f (x)dx + B1 (x)f 0 (x)dx 0 0 ´ 1³ f (1) + f (0) = = 1 より 2 なので,k = 1 のとき (3.28) が示された. である.B10 (x) Z Z 1 1 f (x)dx + 0 B1 (x)f 0 (x)dx 0 また k = 2 のとき,Bk0 (x) = kBk−1 (x) を用いて部分積分を行うと, Z 1 0 · ¸1 Z 1 1 1 0 B1 (x)f (x)dx = B2 (x)f (x) − B2 (x)f 00 (x)dx 2 0 2 0 ³ ´ 1 Z 1 1 0 0 = B2 (1)f (1) − B2 (0)f (0) − B2 (x)f 00 (x)dx 2! 2! 0 0 である.よって,k = 2 のとき (3.28) が示された.さらに, (−1)k−1 k! Z 1 Bk (x)f (k) (x)dx 0 ) (· ¸1 Z 1 k−1 1 (−1) 1 Bk+1 (x)f (k) (x) − Bk+1 (x)f (k+1) (x)dx = k! k+1 k + 1 0 0 ´ (−1)k+1 Z 1 k+1 ³ (−1) (k) (k) = Bk+1 (1)f (1) − Bk+1 (0)f (0) − Bk+1 (x)f (k+1) (x)dx (k + 1)! (k + 1)! 0 となる.よって一般の k に対して成立つ. Z 1 Z (k) 関数 f (x+i−1) に (3.28) を適用すると, Bk f (x+i−1)dx = 0 i B̃k f (k) (x)dx i−1 であり,i = 1 から i = n まで足し合わせると定理 3.5.1 が得られる. 3. 指数関数 · 対数関数 92 スターリングの公式 補題 3.5.2 ウォリスの積 π 22 42 62 (2n)2 = lim · · ··· 2 n→∞ 1 · 3 3 · 5 5 · 7 (2n − 1)(2n + 1) (3.29) Proof まず,次を示す. Z Z π 2 π 2 n sin xdx = 0 ( n cos xdx = 0 π y = − x とすれば,In := 2 Z π 2 In+1 = 0 n Z π 2 1·3·5···(n−1) π ·2 2·4·6···n 2·4·6···(n−1) 1·3·5···n Z π 2 n sin xdx = 0 Z π 2 =n 3 5 n : 奇数 cosn ydy である. 0 h n (− cos x) sin xdx = − cos x sin x 0 n : 偶数 i π2 0 Z π 2 +n cos2 x sinn−1 xdx 0 (1 − sin2 x) sinn−1 xdx = nIn−1 − nIn+1 0 n In−1 となる. n+1 I2n I2n−1 2n + 1 In > In+1 であるから,1 < < = となり, I2n+1 I2n+1 2n であるので,In+1 = lim n→∞ を得る.次に In = I2n = I2n I2n+1 =1 (3.30) n−1 π In−2 および I0 = ,I1 = 1 より, n 2 2n − 1 2n − 1 2n − 3 (2n − 1)(2n − 3) · · · 3 · 1 I2n−2 = · I2n−4 = · · · = I0 2n 2n 2n − 2 2n(2n − 2) · · · 4 · 2 となる.また, I2n+1 = 2n 2n · · · 4 · 2 I2n−1 = · · · = I1 2n + 1 (2n + 1)(2n − 1) · · · 5 · 3 である.したがって, I2n+1 22 · 42 · · · (2n)2 = π I2n [1 · 3 · · · (2n − 1)][3 · 5 · · · (2n + 1)] · 2 となる.よって,(3.30),(3.31) より (3.29) が得られる. (3.31) 3. 指数関数 · 対数関数 93 定理 3.5.3 スターリングの公式 [スターリング (1730)] √ ³ 1 ´ 1 1 1 2πn nn · exp − + − + R̃ (3.32) 9 en 12n 360n3 1260n5 1680n7 0.0006605 が成立つ.ここで,|R̃9 | 5 である.これより,次の公式が得られる. n8 n! = √ n! · en lim √ 2π = n→∞ n · nn Z Proof log xdx = x log x − x, (3.33) dj (j − 1)! (log x) = (−1)j−1 である. j (dx) xj また,f (x) = log x とすると, n X f (i) = log 2 + log 3 + · · · + log n = log(n!) i=2 であり,オイラー · マクローリンの和公式 ( 定理 3.5.1) を,i = n + 1 から i = m までの和に対して用いると, m X f (i) = log m! − log n! i=n+1 1 = m log m − m − (n log n − n) + (log m − log n) 2 ¶ µ µ ¶ 1 1 1 1 1 1 + − − − + R̃5 (3.34) 12 m n 360 m3 n3 0.00123 となる.この評 n4 価は (3.26) と |B5 (x)| = 0.02446 (0 5 x 5 1),系 1.5.9 による.(3.34) 式の 1 log n!,n log n,n, log n は n → ∞ のとき,個別に発散する.ここで 2 µ ¶ 1 γn = log n! + n − n + log n (3.35) 2 となる.ここで,すべての m > n に対して |R̃5 | 5 とおく.すると (3.34) 式は 1 γn = γm + 12 µ 1 1 − n m ¶ 1 − 360 µ 1 1 − 3 3 n m ¶ − R̃5 (3.36) となる.|γn − γm | → 0 (n, m → ∞) となるので,{γn } はコーシー列であ り,収束する.そして,その極限値を γ とする. 3. 指数関数 · 対数関数 94 (3.36) 式で m → ∞ の極限をとれば, µ 1 log n! + n − n + 2 ¶ log n = γ + 1 1 − + R̂5 12n 360n3 0.00123 である.この表示の指数関数をとれば, n4 µ ¶ √ n · nn 1 1 γ n! = Dn · . ここで, Dn = e · exp + R̂5 (3.37) − en 12n 360n3 ここで,|R̂5 | 5 となる.Dn の極限を D とすると, √ √ Dn · Dn n! · n! · (2n)2n · e2n 2n 2 n! · n! · 22n = = ·√ 2n 2n D2n n · e · n · (2n)! (2n)! n √ 2 · 4 · 6 · 8 · · · (2n) 2 = ·√ 1 · 3 · 5 · 7 · · · (2n − 1) n となり,これは D に収束する.ウォリスの積 (3.29) より µ Dn · Dn D2n ¶2 = 2 · 2 · 4 · 4 · · · (2n) · (2n) 2(2n + 1) · 1 · 3 · 3 · · · (2n − 1) · (2n + 1) n は 2π に収束するので,D = √ 2π を得る. 定理の R̃9 に対する評価は (3.26) 式と |B9 (x)| 5 0.04756 から得られる. オイラー定数 1 1 1 1 とおき,1 + + + · · · + を考える. x 2 3 n (j) j −j−1 f (x) = (−1) · j! · x なので, 定理 3.5.1 において f (x) = ¶ µ ¶ µ Z m m X 1 1 1 1 1 1 1 1 − dx = − − − i 2 m n 12 m2 n2 n x i=n+1 ¶ ¶ ¶ µ µ µ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 + − − − + − + R̃9 120 m4 n4 252 m6 n6 240 m8 n8 (3.38) が得られる.ここで |B9 (x)| 5 0.04756 より |R̃9 | 5 と,(3.35) の代わりに γn = n X 1 i=1 i 0.00529 である.発散項をまとめる n9 − log n が得られ,これも収束する.こうして得られ 3. 指数関数 · 対数関数 た定数は, 1+ 95 1 1 1 + + · · · + − log n 2 3 n → γ = 0.577215664 · · · (3.39) で,これをオイラー定数とよぶ. (3.38) の両辺において,m → ∞ とすれば, n X 1 i=1 i = γ + log n + 1 1 1 1 1 − + − + + R̃9 2 4 6 2n 12n 120n 252n 240n8 (3.40) 0.00529 である.γ を求めるためには,(3.40) 式で n = 10 とお n9 けば,(3.39) の値が求まる. となる.ここで,|R̃9 | 5 オイラー定数は D.クヌース (1962) により高い精度で計算されているが,有理数か無 理数かさえわかっていない. 本節で用いた |Bk (x)| の最大値の値については,参考文献 [17] を参照のこと. 4 章 三角関数 · 逆三角関数 本章では,高等学校で扱う三角関数,その逆関数である逆三角関数につい て定義し,そのベキ級数展開を示す.また,双曲線三角関数についても述 べる.最後に三角関数のベキ級数展開と関連のあるジグザグ順列について 述べる. §4.1 では,まず三角関数について定義し,正弦 · 余弦関数のベキ級数展開を 導く.テイラー級数の公式による証明も行う.また,オイラーの公式につ いても述べる.そして,ベルヌーイ数を用いて正接関数のベキ級数展開を 導く. §4.2 では,逆三角関数について定義し,そのベキ級数展開を導く.また 1 章 および 2 章で示した定理により,ベキ級数展開を示す. §4.3 では,三角関数に関連のある双曲線三角関数について述べる. §4.4 では,三角関数によるフーリエ級数展開について述べ,ベルヌーイ多 項式の性質を示す. §4.5 では,三角関数のベキ級数展開と関連のあるジグザグ順列について述 べる.その中で,ジグザグ順列の総数から作られるある数列の極限が,π に なることを述べる. 4.1 三角関数 本節では,まず三角関数について定義し,正弦 · 余弦関数のベキ級数展開を 導く.テイラー級数の公式による証明も行う.また,オイラーの公式につ いても述べる.そして,ベルヌーイ数を用いて正接関数のベキ級数展開を 導く. xy 平面において,中心が原点 O(0,0),半径 1 の円周上の点 A(1,0),p(x,y) に対し て A から左回りに P までの弧の長さを測定して,その長さが θ であるとき, 96 4. 三角関数 · 逆三角関数 97 x = cos θ, y = sin θ, y = tan θ x (4.1) を余弦関数,正弦関数,正接関数と定義する.このとき,余弦関数,正弦関数はすべ ての実数に対して定義できる.また,以下に挙げる諸性質が成立つ.ここではラジア ンを単位とする. sin(−θ) = − sin θ, cos(−θ) = cos θ, sin(θ + π) = − sin θ, cos(θ + π) = − cos θ ³ ³ π´ π´ sin θ + = cos θ, cos θ + = − sin θ, sin2 θ + cos2 θ = 1 2 2 定理 4.1.1 加法定理 [プトレマイオス (150),レギオモンタヌス (1464)] すべての実数 x,y に対して次が成立つ. sin(x + y) = sin x cos y + cos x sin y (4.2) cos(x + y) = cos x cos y − sin x sin y (4.3) (証明は省略) 式 (4.2),(4.3) において y = nx とすると, sin(n + 1)x = sin x cos nx + cos x sin nx cos(n + 1)x = cos x cos nx − sin x sin nx となる.n = 2 とすれば, sin 3x = sin x cos 2x + cos x sin 2x = sin x cos2 x − sin3 x + 2 sin x cos2 x = 3 sin x cos2 x − sin3 x cos 3x = cos x cos 2x − sin x sin 2x = cos3 x − cos x sin2 x − 2 cos x sin2 x = cos3 x − 3 sin2 x cos x である.これを繰り返していくと, n(n − 1)(n − 2)(n − 3) 4 n(n − 1) 2 sin x cosn−2 x + sin x cosn−4 x + · · · 1·2 1·2·3·4 n(n − 1)(n − 2) 3 sin nx = n sin x cosn−1 x − sin x cosn−3 x + · · · (4.4) 1·2·3 cos nx = cosn x − が得られる. 4. 三角関数 · 逆三角関数 98 Proof (4.4) 式を示す.ド・モアヴルの定理より,整数 n に対して n cos nθ + i sin nθ = (cos θ + i sin θ) = X = µ (−1)m 052m5n n µ ¶ X n k cosn−k θ (i sin θ)k k=0 ¶ n cosn−2m θ sin2m θ 2m ¶ µ X n m cosn−(2m+1) θ sin2m+1 θ +i (−1) 2m + 1 152m+15n である. 連続性 |x| < π に対して | sin x| < |x| であり, 2 |1 − cos x| = |1 − cos2 x| 5 | sin2 x| 5 x2 |1 + cos x| であるから,次を得る. | cos(x + h) − cos x| = | cos x{cos h − 1} − sin x sin h| 5 | cos h − 1| + | sin h| → 0 (h → 0) | sin(x + h) − sin x| = | sin x{cos h − 1} + cos x sin h| 5 | cos h − 1| + | sin h| → 0 (h → 0) 微分可能性 (1.65) 式を用いて, sin(x + h) − sin x sin x cos h + cos x sin h − sin x = lim h→0 h→0 h h sin x(cos h − 1) + cos x sin h = lim h→0 h 2 cos x sin h sin x(cos h − 1) + lim = cos x = lim h→0 h→0 h(cos h + 1) h cos(x + h) − cos x cos x cos h − sin x sin h − cos x (cos x)0 = lim = lim h→0 h→0 h h cos x(cos h − 1) − sin x sin h = lim h→0 h 2 cos x(cos h − 1) − sin x sin h = lim + lim = − sin x h→0 h→0 h(cos h + 1) h (sin x)0 = lim 4. 三角関数 · 逆三角関数 99 正弦 · 余弦の級数展開 ヤーコプ・ベルヌーイ (1702) とオイラー (1748) は次のように sin x と cos x の級数展 開を考えた.x が 0 に近づくとき, 「垂直の弦」は弧に近づいていく.つまり x が 0 に近 づけば近づくほど sin x が x によって近似される度合いがよくなる.このことを, sin x ≈ x (x → 0) と表す.(4.4) 式において x = (4.5) y ,n = N とすると, N ³ y ´ N (N − 1) ³y´ ³y´ y = cosN − sin2 cosN −2 N N 1·2 N N N (N − 1)(N − 2)(N − 3) 4 ³ y ´ N −4 ³ y ´ + sin cos + ··· 1·2·3·4 N N ³y´ ³ y ´ N (N − 1)(N − 2) ³y´ ³y´ y N −1 3 N −3 sin N · = N sin cos − sin cos + ··· N N N 1·2·3 N N cos N · である.N → ∞ とすれば x → 0,sin x ≈ x,cos x ≈ 1 となるので,1 − (1 5 k 5 N − 1) となり, k → 1 N ∞ X (−1)m 2m x2 x4 x6 cos x = 1 − + − + ··· = x 2! 4! 6! (2m)! m=0 (4.6) ∞ X x3 x5 x7 (−1)m 2m+1 sin x = x − + − + ··· = x 3! 5! 7! (2m + 1)! m=0 (4.7) を得る.次に (4.6),(4.7) 式を厳密に示す. ³x´ x2 n→∞ n 2 0 00 とおくと,f (x) = − sin x + x,f (x) = − cos x + 1 > 0 (x > 0) であり, Proof (1) まず, lim cos n−2m = 1 を示す.f (x) = cos x − 1 + f 0 (x) = 0 より f 0 (x) > 0 である.また,f (0) = 0 なので f (x) > 0 が示せた. よって指数不等式 (3.1) も用いて, n 1 = cos が得られる. n ³x´ n µ = x2 1− 2 2n ¶n =1−n· x2 → 1 (n → ∞) 2n2 4. 三角関数 · 逆三角関数 100 (2) ド・モアヴルの定理より 1 cos x = 2 (à cos ³x´ n + i sin ³x´ !n à + n cos ³x´ n − i sin ³x´ !n ) n となる.展開したときの奇数項は 0 になるので, cos x = X 2m5n ³ ´ ³ ´ n! m n−2m x 2m x (−1) cos sin (2m)!(n − 2m)! n n M X m 2m ∆(n,2m)(−1) x n→∞ M →∞ (2m)! m=0 = lim lim ( 1 · ³x´ n! cosn−2m n2m (n − 2m)! n (n = 2m) sin ³ x ´ 2m x n n sin x 5 1 なので, x 0 (n < 2m) ¯ ³ x ´ 2m ¯¯ ¯ ¯ ¯ x2m ³ x ´ sin 2m n! ¯ n ¯¯ 5 |x| · 2m cosn−2m ¯ x ¯ (2m)! ¯ (2m)! n (n − 2m)! n ¯ ¯ n ここで ∆(n,2m) = である.また, となり,定理 1.2.14 より無限級数と極限操作の順序交換が可能で, lim M →∞ M X m=0 ³x´ m 2m lim n→∞ ∆(n,2m)(−1) x (2m)! · n! cosn−2m − 2m)! n sin n2m (n となる.そして (1) より ³x´ sin n! n = lim x n→∞ n2m (n − 2m)! n→∞ n lim = lim cosn−2m n→∞ ³x´ n M X (−1)m 2m であるので,cos x = lim x が得られる. M →∞ (2m)! m=0 sin x についても同様に示すことができる. 収束性および収束半径 an = (−1)n 2n x とすると, (2n)! ¯ ¯ ¯ ¯ 2 ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ x ¯ = lim ¯ ¯=0<1 lim ¯¯ n→∞ an ¯ n→∞ ¯ (2n + 1)(2n + 2) ¯ である.よって,定理 1.2.8 より,(4.6) の (右辺) は絶対収束する. =1 ³ x ´ 2m x n n 4. 三角関数 · 逆三角関数 101 ∞ X (−1)n n (−1)n また,x = z とおくと, z となる.cn = とすると,定理 2.1.5 よ (2n)! (2n)! n=0 り,収束半径 ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ (2n + 2)! ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ = lim ¯(2n + 1)(2n + 2)¯ = ∞ R = lim ¯ = lim n→∞ cn+1 ¯ n→∞ ¯ (2n)! ¯ n→∞ 2 となるので,cos x を表すベキ級数は,すべての x に対して収束する. 次に,an = (−1)n 2n+1 x とすると, (2n + 1)! ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ x2 ¯ ¯ ¯ ¯=0<1 = lim lim ¯ n→∞ an ¯ n→∞ ¯ (2n + 2)(2n + 3) ¯ である.よって,定理 1.2.8 より,(4.7) の (右辺) は絶対収束する. ∞ X (−1)n n 2 (4.7) の (右辺) を x で割って,x = z とすると, z となるので (2n + 1)! n=0 (−1)n cn = とすれば,定理 2.1.5 より,収束半径 (2n + 1)! ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ (2n + 3)! ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ = lim ¯(2n + 2)(2n + 3)¯ = ∞ ¯ R = lim ¯ = lim n→∞ cn+1 ¯ n→∞ ¯ (2n + 1)! ¯ n→∞ となる.よって,sin x を表すベキ級数は,すべての x に対して収束する. オイラーの公式 [オイラー (1743)] cos y + i sin y = lim n→∞ = lim n→∞ n ½ X (−1)m m=0 n X (2m)! y 2m (−1)m 2m+1 +i y (2m + 1)! ¾ 1 (iy)m = eiy m! m=0 さらにすべての複素数 z = x + iy に対して ex+iy = ex (cos y + i sin y) が成立つ.また,この式から cos y = が得られる. eiy + e−iy eiy − e−iy , sin y = 2 2i (4.8) 4. 三角関数 · 逆三角関数 102 テイラー級数の公式による正弦 · 余弦関数のベキ級数展開の証明 Proof ³ π´ (1) f (x) = sin x とする.cos x = sin x + を用いると, 2 µ ¶ ³ ³ π´ 2π π´ 0 00 ,f (x) = cos x + = sin x + ,· · · f (x) = cos x = sin x + 2 2 2 µ ¶ kπ kπ (k) f (x) = sin x + である.x = 0 とおくと,f (k) (0) = sin であり, 2 2 k = 4m のとき f (k) (0) = sin 2mπ = 0 ¢ ¡ k = 4m + 1 のとき f (k) (0) = sin 2mπ + π = 1 2 k = 4m + 2 のとき k = 4m + 3 のとき f (k) f (k) (0) = sin (2mπ + π) = 0 ¡ ¢ (0) = sin 2mπ + 3π = −1 2 したがって, kπ f (k) (0) = sin = 2 ( 0 (k = 2m) (−1)m (k = 2m + 1) µ である.また,f (2n+3) (2n + 3)π (θ) = sin θ + 2 ¶ (m = 0, 1, 2, · · · ) ³ π´ = sin θ + (n + 1)π + 2 ³ ´ = cos θ + (n + 1)π = (−1)n+1 cos θ であるので,(2.18) 式より, sin x = n X (−1)k x2k+1 k=0 (2k + 1)! +R2n+3 (x), R2n+3 (x) = (−1)n+1 cos θ 2n+3 x (2n + 3)! (0 < θ < x) ¯ µ ¶¯ ¯ (k) ¯ ¯ kπ ¯¯ ¯ ¯ ¯ となる. f (x) = ¯sin x + 5 1 より,すべての x に対して 2 ¯ lim R2n+3 (x) = 0 である.よって,次が成立つ. n→∞ sin x = x − x3 x5 (−1)k x2k+1 + − ··· + + ··· 3! 5! (2k + 1)! (−∞ < x < ∞) ³ π´ (2) g(x) = cos x とする.sin x = − cos x + を用いると, 2 µ ¶ ³ ³ π ´ 00 π´ 2π 0 g (x) = − sin x = cos x + ,g (x) = − sin x + = cos x + , 2 2 2 ¶ µ kπ である.x = 0 とおくと sin x と同様に · · · ,g (k) (x) = cos x + 2 4. 三角関数 · 逆三角関数 g (k) 103 kπ = (0) = cos 2 である.また,g (2n+2) ( 0 (k = 2m + 1) m (−1) (k = 2m) (m = 0, 1, 2, · · · ) µ ¶ ³ ´ (2n + 2)π (θ) = cos θ + = cos θ + (n + 1)π 2 = (−1)n+1 cos θ であるので,(2.18) 式より, cos x = n X (−1)k x2k k=0 (2k)! +R2n+2 (x), R2n+2 (x) = (−1)n+1 cos θ 2n+2 x (2n + 2)! (0 < θ < x) ¯ µ ¶¯ ¯ (k) ¯ ¯ kπ ¯¯ ¯ ¯ ¯ 5 1 より,すべての x に対して となる. g (x) = ¯cos x + 2 ¯ lim R2n+2 (x) = 0 である.よって,次が成立つ. n→∞ cos x = 1 − x2 x4 (−1)k x2k + − ··· + + ··· 2! 4! (2k)! (−∞ < x < ∞) 正接の級数展開 sin x = a1 x + a3 x3 + a5 x5 + · · · とおく.正弦 · 余弦の級数展開 (4.6),(4.7) cos x を用いると, µ ¶ x3 x5 x2 x4 3 5 x− + − · · · = (a1 x + a3 x + a5 x + · · · ) 1 − + − ··· 6 120 2 24 tan x = a1 1 a1 a3 1 = − + a3 , = − + a5 ,· · · 6 2 120 24 2 2 1 ,· · · となる.したがって, である.よって,a1 = 1,a3 = ,a5 = 3 15 となる.係数を比較すると,1 = a1 ,− 1 2 17 7 tan x = x + x3 + x5 + x + ··· 3 15 315 が得られる. tan x = ∞ X 22n (22n − 1)(−1)n−1 B2n n=1 (2n)! ここで,Bn はベルヌーイ数である. x2n−1 , |x| < π 2 (4.9) 4. 三角関数 · 逆三角関数 104 Proof ベルヌーイ数の母関数を用いれば,次が成立つ. ∞ X Bn n=0 z z 2 z z = z = · z = · n! e −1 2 e −1 2 µ n ¶ z z z ez + 1 z e 2 + e− 2 −1 = · z z − − z e −1 2 e2 − e 2 2 (4.8) において z = ix とすれば, ∞ X Bn n=0 n! (ix)n = ix 2 − ix 2 ix e + e · 2 e ix2 − e− ix2 x ix ix 2 − ix = x · 1 − ix − = · 2 2 2i sin x 2 2 tan x 2 2 2 2 cos 1 となる.さらに,B0 = 1,B1 = − ,B2l+1 = 0 (l = 1) を用いれば, 2 ∞ ∞ ∞ X ix X Bn x 1 ix ix X Bn (−1)n B2n 2n n n = · + (ix) = +1− + (ix) = 1+ x 2 tan x 2 n=0 n! 2 2 n=2 n! (2n)! n=1 2 (4.10) である.ここで, tan 2x = 2 tan x 2 1 − tan2 x 1 すなわち = = − tan x 2 1 − tan x tan 2x tan x tan x より, tan x = − 2 1 + tan 2x tan x (4.11) を得る.(4.10),(4.11) より, 1 tan x = − x ( 1+ ∞ X (−1)n B2n n=1 (2n)! ) 2n (4x) 1 + x ( 1+ ∞ X (−1)n B2n n=1 (2n)! ) 2n (2x) よって,結論が得られた (42n = 22n · 22n ). ∞ X Bn また, n=0 n! z n において,分母が ez − 1 であることから,e2πi = 1 より |z| < 2π となる.よって,最後の式において |4x| < 2π となるので,|x| < π 2 が得られる. 4.2 逆三角関数 本節では,逆三角関数について定義し,そのベキ級数展開を導く.また 1 章 および 2 章で示した定理により, ベキ級数展開を示す. 4. 三角関数 · 逆三角関数 105 三角関数とは弧 x が与えられたときに sin x,cos x,tan x の関数として定めるもので ある.これに対して逆三角関数は,弧 x を sin x,cos x,tan x の関数として定めるもの である. 三角関数が周期的であるために,逆三角関数は多価になる.そこで,次の不等式を 満たす主値と呼ばれる値をとることにする. ³ y = arcsin x ⇔ y = arccos x ⇔ y = arctan x ⇔ π π´ 5y5 2 2 x = cos y (−1 5 x 5 1,0 5 y 5 π) ³ π π´ x = tan y −∞ < x < ∞,− < y < 2 2 x = sin y −1 5 x 5 1,− 逆正接の級数展開 ここでは,ライプニッツ (1674) が arctan x のベキ級数展開を導いた方法を紹介する. C 弧 AD = 弧 DC = y AB = b B D y = arctan b y O b A 1 扇形 OADCO の面積 G = 2 · 1 1 · y · 12 = y ,四角形 OABCO の面積 F = 2 · · 1 · b = b. 2 2 C h B x + ∆x x x2 1 + x2 α α O 1 A O tan α = x とし,x の増分を ∆x とする. ∆x b x 4. 三角関数 · 逆三角関数 106 2 sin2 α 2 tan2 α 2x2 h = 1 − cos 2α = 2 sin α = = = である.よって, tan2 α + 1 x2 + 1 sin2 α + cos2 α ∆x · h x2 左上図の斜線部分 N は = ∆x で近似される.ゆえに,三日月形 ABCDA 2 1 + x2 x2 の面積 L は右上図のように関数 = x2 − x4 + x6 − · · · (定理 3.2.1 参照) のグラブの 1 + x2 b3 b5 b7 下方の面積で近似できる.定理 3.3.2 より L = − + − · · · なので, 3 5 7 2 y =G=F −L=b− b3 b5 b7 + − + ··· 3 5 7 である.したがって, x3 x5 x7 arctan x = x − + − + ··· 3 5 7 (|x| < 1) (4.12) を得る. (−1)n 2n+1 x とすると, 2n + 1 ¯ ¯ ¯ ¯ 2 ¯ an+1 ¯ ¯ x (2n + 3) ¯ ¯ = lim ¯ ¯ = |x2 | < 1 lim ¯ n→∞ ¯ an ¯ n→∞ ¯ 2n + 1 ¯ Proof |x| < 1 において an = となる.よって,定理 1.2.8 より (4.12) の (右辺) は,|x| < 1 において絶対 収束する. また,cn = (−1)n とすると,定理 2.1.5 より収束半径 2n + 1 ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ 2n + 3 ¯ ¯ = lim ¯ ¯=1 R = lim ¯¯ n→∞ cn+1 ¯ n→∞ ¯ 2n + 1 ¯ である.y = arctan x に対して, (arctan x)0 = であり, 1 dy 1 1 1 = = = = 2 1 dx dx 1 + tan y 1 + x2 cos2 y dy (|x| < 1) 1 = 1 − x2 + x4 − · · · + (−1)n x2n + · · · 1 + x2 となる.これを項別積分すると, arctan x = C + x − x3 x5 (−1)n 2n+1 + − ··· + x + ··· 3 5 2n + 1 4. 三角関数 · 逆三角関数 107 である.x = 0 のとき,arcsin 0 = 0 であるから C = 0 となって, ∞ X (−1)n 2n+1 arctan x = x 2n + 1 n=0 (4.13) を得る. 次に,x = ±1 のときを考える.ただし (4.13) は両辺とも奇関数なので, x = 1 のときのみを扱う. x2n+1 an = (−1)n ,bn (x) = とすれば,定理 1.4.10 を満たす.よって, 2n + 1 m X (−1)n x2n+1 は m → ∞ のとき,[0,1] において一様収束するので,定理 2n + 1 n=0 2.1.7 より連続である.f (x) = arctan x とすると,f (x) は [0,1] において連 続であるから, ∞ f (1) = arctan 1 = π X (−1)n = 4 2n + 1 n=0 となる. 逆正弦の級数展開 ここでは,ニュートン (1669) が arcsin x のベキ級数展開を導いた方法を紹介する. 1 √ 1− y = arcsin x より x = sin y y x ∆y x2 1 O x x + ∆x x が ∆x 増加すれば,y も ∆y 増加する.∆x が小さければ,弧 ∆y が x における接線 上の線分に近づくので,上図において斜線の引いてある 2 つの図形がおおよそ相似に ∆x 1 なり,弧 ∆y は √ に近づくと考えられる.これは,幅 ∆x で高さ √ の長 1 − x2 1 − x2 方形の面積を表す. 4. 三角関数 · 逆三角関数 108 1 の下方部分の 0 から x までの和となる. 1 − x2 1 1 1·3 4 1·3·5 6 √ = 1 + x2 + x + x + · · · (定理 3.2.1 参照) であるので,定理 2 2 2·4 2·4·6 1−x 3.3.2 より よって,arctan x の時と同様に,y は √ 1 x3 1 · 3 x5 1 · 3 · 5 x7 arcsin x = x + · + · + · + ··· 2 3 2·4 5 2·4·6 7 (4.14) を得る. Proof |x| < 1 において an = (2n)! 22n (n!)2 (2n + 1) x2n+1 とすると, ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ x2 (2n + 1)2 ¯ ¯ an+1 ¯ ¯ ¯ ¯ = |x2 | < 1 ¯ = lim ¯ lim n→∞ 2(n + 1)(2n + 3) ¯ n→∞ ¯ an ¯ である.よって,定理 1.2.8 より (4.14) の (右辺) は,|x| < 1 において絶対 収束する. (2n)! cn = 2n とすると,定理 2.1.5 より収束半径 2 (n!)2 (2n + 1) ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ cn ¯ ¯ 2(n + 1)(2n + 3) ¯ ¯ = lim ¯ ¯=1 R = lim ¯¯ ¯ n→∞ cn+1 ¯ n→∞ ¯ (2n + 1)2 である.y = arcsin x に対して, (arcsin x)0 = dy 1 1 1 = = =√ dx dx cos y 1 − x2 dy (|x| < 1) であり, √ 1 1 1 1·3 4 1 · 3 · 5 · · · (2n − 1) 2n = (1−x2 )− 2 = 1+ x2 + x +· · ·+ x +· · · 2 2 2·4 2 · 4 · 6 · · · · (2n) 1−x となる.これを項別積分すると, arcsin x = C + x + 1 3 1·3 5 x + x + ··· 2·3 2·4·5 である.x = 0 のとき,arcsin 0 = 0 だから C = 0 となって, arcsin x = ∞ X n=0 となる. (2n)! 22n (n!)2 (2n + 1) x2n+1 (4.15) 4. 三角関数 · 逆三角関数 109 次に,x = ±1 のときを考える.ただし (4.15) は両辺とも奇関数なので, x = 1 のときのみを扱う. (右辺の係数) > 0 より,任意の x ∈ (0,1) に対して,(右辺) の部分和 sn は 単調増加なので, π 2 π である.ここで x → 1 − 0 とすれば,sn (1) 5 を得る.よって,x = 1 の 2 とき (4.15) の (右辺) は有界であり,収束する.したがって,定理 2.1.7 より sn (x) 5 arcsin x < x = 1 においても連続である. 逆余弦の級数展開 ∞ π π X (2n)! arccos x = − arcsin x = − x2n+1 2n 2 2 2 n=0 2 (n!) (2n + 1) 4.3 双曲線関数 本節では,三角関数に関連のある双曲線三角関数について述べる. 双曲線 u2 − v 2 = 1 上の点で,左下図の斜線部分の面積が P (cosh x,sinh x) とする.このとき, cosh x = x になる点を 2 ex + e−x ex − e−x , sinh x = 2 2 となる. Proof 左下図の図形を x 軸に関して対称移動して,45◦ 回転した図形を表 したのが右下図である. x2 − y 2 = 1 上の点 (X ,Y ) を x 軸に関して対称移動し,45◦ 回転させた点を (x0 ,y 0 ) とすると, à !µ ( ¶ µ 0¶ x0 = 1 −1 1 X x =√ つまり −Y y0 2 1 1 y0 = となる.したがって,X 2 − Y 2 = 1 より x0 y 0 = √1 (X 2 √1 (X 2 +Y) −Y) 1 が得られる. 2 4. 三角関数 · 逆三角関数 110 v v u=v u2 − v 2 = 1 P (cosh x, sinh x) A P0 O O u B Q u= 1 2v u ¶ µ ¶ 1 1 cosh x + sinh x cosh x − sinh x √ √ √ , , ,A √ , ここで,P 2 2 2 2 µ ¶ µ ¶ 1 cosh x + sinh x √ B √ ,0 , Q ,0 である. 2 2 u · v の値が一定なので,4AOB = 4P 0 OQ である.よって,(AOP 0 A) = x (ABQP 0 A) となる.(ABQP 0 A) = なので,自然対数の定義を用いると, 2 µ ¶ x 1 cosh x + sinh x 1 √ = log − log √ であり, x = log(cosh x + sinh x) 2 2 2 2 µ 0 となる.さらに,cosh x + sinh x = ex および cosh2 x − sinh2 x = 1 より, cosh x = ex + e−x ex − e−x , sinh x = 2 2 が得られる. 双曲線関数の定義 任意の複素数 x に対して cosh x = ex + e−x ex − e−x , sinh x = 2 2 と定義する. cosh x を双曲線余弦関数,sinh x を双曲線正弦関数とよぶ.(4.8) より,余弦関数,正 弦関数とは次のような関係にあることがわかる. eix + e−ix eix − e−ix cos x = = cosh(ix), sin x = = −i sinh(ix) 2 2i (4.16) 4. 三角関数 · 逆三角関数 111 また,双曲線関数は三角関数と類似の以下のような性質をもつ.(証明は省略) cosh2 x − sinh2 x = 1 cosh(x + y) = cosh x cosh y + sinh x sinh y sinh(x + y) = sinh x cosh y + cosh x sinh y (cosh x + sinh x)λ = cosh λx + sinh λx (ここでλは実定数) (cosh x − sinh x)λ = cosh λx − sinh λx 4.4 三角関数によるフーリエ級数展開 本節では,三角関数によるフーリエ級数展開について述べ,ベルヌーイ多 項式の性質を示す. 補題 4.4.1 Z Z 1 cos 2mπx cos 2nπxdx = 0 (m 6= n) (4.17) cos 2mπx sin 2nπxdx = 0 (4.18) 0 1 0 Proof (4.17) m 6= n のとき Z 1 Z 1 ª 1© cos 2mπx cos 2nπx dx = cos 2(m + n)πx + cos 2(m − n)πx dx 0 0 2 · ¸1 1 1 1 = sin 2(m + n)πx + sin 2(m − n)πx = 0 2 2(m + n)π 2(m − n)π 0 Z 1 Z 1 ª 1© sin 2(m + n)πx − sin 2(m − n)πx dx (4.18) cos 2mπx sin 2nπx dx = 0 0 2 ¸1 · 1 1 1 cos 2(m + n)πx + cos 2(m − n)πx = − 2 2(m + n)π 2(m − n)π 0 ( 1 1 1 = − cos 2(m + n)π + cos 2(m − n)π 2 2(m + n)π 2(m − n)π µ ¶) 1 1 + =0 − − 2(m + n)π 2(m − n)π 4. 三角関数 · 逆三角関数 112 次のような三角関数によるフーリエ級数展開を考える. √ a0 [0,1] で f (x) = √ + 2(a1 cos 2πx + b1 sin 2πx + a2 cos 2 · 2πx + b2 sin 2 · 2πx + · · · ) 2 とする.両辺に cos 2nπx(n : 整数) をかけて [0,1] で積分すると,式 (4.17),(4.18) より Z 1 f (x) cos 2nπx dx = √ Z 1 2an 2 cos 2nπx dx = 0 0 √ Z 1 1 + cos 4nπx dx 2 0 " #1 an sin 4nπx an = √ x+ =√ 4nπ 2 2 0 2an である.よって, √ Z an = 2 1 f (x) cos 2nπxdx (n = 0, 1, 2 · · · ) (4.19) f (x) sin 2nπxdx (n = 0, 1, 2 · · · ) (4.20) 0 となり,同様に √ Z bn = 2 1 0 a0 となる.この √ ,an ,bn (n = 1) をフーリエ係数とよぶ. 2 以上により,関数 f (x) に対して, ∞ √ X a0 f (x) ∼ √ + 2 (an cos 2nπx + bn sin 2nπx) 2 n=1 (4.21) のような三角関数の無限和が考えられる. 定理 4.4.2 三角関数によるフーリエ級数展開 [0,1] 上で連続な,2 階導関数をもつ関数 f に対して an ,bn を (4.19),(4.20) で定める. このとき,すべての x ∈ (0,1) に対して ∞ √ X a0 f (x) = √ + 2 (an cos 2nπx + bn sin 2nπx) 2 n=1 (4.22) が成立ち,すべての ε > 0 に対して [ε,1 − ε] 上で,この無限級数は一様収束する. 4. 三角関数 · 逆三角関数 113 m √ X a0 Proof 部分和 fm (x) := √ + 2 (an cos 2nπx + bn sin 2nπx) 2 n=1 ) Z 1( m X = 1+2 (cos 2nπx cos 2nπy + sin 2nπy sin 2nπx) f (y) dy 0 Z 1 n=1 ( 1+2 = 0 m X ) cos 2nπ(x − y) f (y) dy n=1 ここで,sin πx + 2 sin πx (cos 2πx + cos 4πx + · · · + cos 2mπx) = sin πx ³ 1n (sin πx − sin 3πx) + (sin 3πx − sin 5πx) + · · · + sin(2m − 1)πx − −2 · 2 ´o sin(2m + 1)πx = sin(2m + 1)πx である.よって, 積分核 km (x) := 1 + 2 Z 1 ³ 1+2 km (x − y)dy = 0 cos 2nπx = n=1 Z 1 m X 0 Z 1 g(x; y) = m X sin(2m + 1)πx である.また, sin πx ´ £ ¤1 cos 2nπ(x − y) dy = y 0 = 1 である. n=1 · ³ ³ ´ ´ 0 f x+t(y−x) dt とすると,g(x; y) = f x + t(y − x) · 0 1 y−x ¸1 f (y) − f (x) = となる.したがって,f (y) − f (x) = (y − x) · g(x; y) である. y−x Z 1 km (x − y){f (x) − f (y)}dy 次に,f (x) − fm (x) = 0 Z 1 © 1 © ª sin (2m + 1)π(x − y) = Z ª km (x − y) (x − y)g(x; y)dy 0 (x − y) g(x; y)dy sin π(x − y) 0 · ¸ cos{(2m + 1)π(x − y)} x−y = · g(x; y) (2m + 1)π sin π(x − y) ¶0 µ Z 1 cos{(2m + 1)π(x − y)} x−y − g(x; y) dy (2m + 1)π sin π(x − y) 0 = であり,ε 5 x 5 1−ε に制限すれば,y ∈ [0,1] に対して ε−1 5 x−y 5 1−ε x−y であるので, は y の関数として,[0,1] において連続な関数を sin π(x − y) もつ. Z 1 ³ ´ dg 00 = f 00 x + t(y − x) t dt が存在す また,仮定より f が存在するので dy 0 る.よって g は変数 y に関して連続な導関数をもつことがわかる. 1 ゆえに,上式により |f (x) − fm (x)| は の定数倍で評価される. m 0 4. 三角関数 · 逆三角関数 114 命題 4.4.3 ベルヌーイ多項式の性質 0 < x < 1 に対して l−1 B2l (x) = (−1) 2{(2l)!} ∞ X cos(2nπx) (2nπ)2l n=1 l B2l−1 (x) = (−1) 2{(2l − 1)!} (4.23) ∞ X sin(2nπx) (4.24) (2nπ)2l−1 n=1 が成立つ.また ∞ X (2π)2l 1 = (−1)l−1 B2l 2l n 2{(2l)!} n=1 ∞ X n=1 (4.25) (2π)2l−1 (−1)n−1 = (−1)l B2l−1 (1/4) (2n − 1)2l−1 2{(2l − 1)!} (4.26) も得られる. Proof 式 (3.18),(3.19) より, Z 1 0 · B2l+1 (x) B2l (x)dx = 2l + 1 ¸1 µ = 0, Bn 0 1 x+ 2 ¶ µ n = (−1) Bn 1 x− 2 である.n = 1 として,次の値を求める. Z 1 B2l−1 (x) sin 2nπxdx Z0 1 Cm (n) = B2l (x) cos 2nπxdx (m = 2l − 1) (m = 2l) 0 µ ¶0 sin 2nπx C2l (n) = B2l (x) dx 2nπ 0 Z 1 sin 2nπx 2l =− 2lB2l−1 (x) dx = − C2l−1 (n) 2nπ 2nπ 0 Z 1 cos 2nπx 2l + 1 C2l+1 (n) = (2l + 1)B2l (x) dx = C2l (n) 2nπ 2nπ 0 Z また,C1 (n) = − 1 1 m ,|Cm (n)| = |Cm−1 (n)| より 2nπ 2nπ |Cm (n)| = m! · (2nπ)−m を得る.よって, ¶ 4. 三角関数 · 逆三角関数 115 (2l)! (−1)l−1 (2nπ)2l Cm (n) = (2l − 1)! (−1)l (2nπ)2l−1 (m = 2l) (m = 2l − 1) である.したがって,定理 4.4.2 より (4.23),(4.24) が得られた. l−1 (4.23) は,x = 0 のときも成立つ.B2l (0) = (−1) 2{(2l)!} ∞ X n=1 1 より (2nπ)2l ∞ X (2π)2l 1 = (−1)l−1 B2l 2l n 2{(2l)!} n=1 を得る.また (4.24) 式において,x = 1 のとき 4 B2l−1 (1/4) = (−1)l 2{(2l − 1)!} ∞ X n=1 より ∞ X n=1 sin ³ nπ ´ 2 n2l−1 (2π)2l−1 (−1)n−1 (2π)2l−1 = (−1)l B2l−1 (1/4) 2l−1 (2n − 1) 2{(2l − 1)!} を得る. · ¸ 1 1 また,定理 4.4.2 の an , bn において積分区間を − , にずらし,2nπx を nπx に変 2 2 1 換して, 倍したものを考える.このとき,f (x) が偶関数か奇関数かによって,次の 2 展開を考えることができる. フーリエ余弦展開,正弦展開 ∞ √ X a0 an cos nπx f (x) = √2 + 2 n=1 ∞ √ X f (x) = 2 bn sin nπx (偶関数のとき) (奇関数のとき) n=1 ここで √ Z an = 2 1 0 である. √ Z f (x) cos nπxdx, bn = 2 1 f (x) sin nπxdx 0 4. 三角関数 · 逆三角関数 例 f (x) = (πx)2 116 (|x| 5 1) とする. 偶関数なので,余弦展開を行うと,n 6= 0 で, Z √ 1 √ 2Z x cos nπx dx = − 2π 1 2 2π x sin nπx dx 0 0 nπ ! √ ÷ √ ¸1 Z 1 2 1 1 2 2π 2 = x cos nπx − cos nπx dx = (−1)n 2 n nπ n 0 nπ 0 √ Z 1 √ 2 2 a0 = 2π 2 x2 dx = π 3 0 an = 2 2 よって, π2 f (x) = − 4 3 µ cos πx cos 2πx cos 3πx cos nπx − + − · · · + (−1)n−1 + ··· 2 2 2 1 2 3 n2 ¶ (|x| 5 1) である.x = 1 とおくと ∞ X 1 π2 1 1 1 1 = 2 + 2 + 2 + 2 + ··· = 6 1 2 3 4 n2 n=1 となる.この式は,ゼータ関数 ζ(s) = 1 1 1 1 + s + s + s + ··· s 1 2 3 4 において,s = 2 としても得られる.また,(4.25) より ζ(2m) = (−1)m B2m (2π)2m 2[(2m)!] (m = 1, 2, 3 · · · ) (4.27) である. 例 f (x) = πx (|x| < 1) とすると, Z ½h cos nπx i1 + x sin nπx dx = 2π −x · bn = 2π nπ 0 0 ( √ · ¸1 ) √ sin nπx (−1)n+1 n+1 2 = (−1) = 2π + nπ (nπ)2 0 n √ 1 √ Z 1 0 cos nπx dx nπ ¾ である.よって,|x| < 1 において µ sin 2πx sin 3πx sin nπx f (x) = 2 sin πx − + + · · · + (−1)n−1 + ··· 2 3 n ¶ 4. 三角関数 · 逆三角関数 117 となる.よって,アーベル (1826) が考えたといわれる次の展開式を得る.( [6] 参照) 1 1 1 1 x = sin x − sin 2x + sin 3x − sin 4x + · · · 2 2 3 4 (|x| < π) π とすると, 2 また,この式において x = π 1 1 1 = 1 − + − + ··· 4 3 5 7 が得られる. 4.5 ジグザグ順列 本節では,三角関数のベキ級数展開と関連のあるジグザグ順列について述 べる.その中で,ジグザグ順列の総数から作られるある数列の極限が,π に なることを述べる.このジグザグ順列は,アンドレ (1879) が正接関数のベ キ級数展開を求める際に考案したといわれている.( [15] 参照) Bm (x),Bm (0) = Bm をベルヌーイ多項式 (§3.4 参照),数 Em をオイラー数とする. ∞ ∞ X Bn (x) X (−1)n E2n text 2 n = t , t = t2n t −t e − 1 n=0 n! e +e (2n)! n=0 補題 4.5.1 次が成立つ. ∞ ∞ X E2n X (−1)n−1 24n+2 B2n+1 (1/4) 1 = x2n = x2n cos x n=0 (2n)! (2n + 1)! n=0 (4.28) ∞ X (−1)n−1 (22n − 2) B2n 1 = x2n−1 sin x n=0 (2n)! (4.29) ∞ Proof (4.8) 式より, X E2n 2 t 1 2n = ix = x である. ix = と cos x e + e−ix (2n)! 4 n=0 おくと, 3 t 2ix 4ix t t(e 4 t − e 4 ) = ix = = t t cos x e + e−ix et − 1 e 4 + e− 4 ∞ ∞ ∞ X Bn (3/4) n X Bn (1/4) n X Bn (3/4) − Bn (1/4) = t − t = (4ix)n n! n! n! n=0 n=0 n=0 4. 三角関数 · 逆三角関数 118 ここで (3.19) より,奇数項だけが残り, ∞ X B2m+1 (3/4) − B2m+1 (1/4) (第一式) = (4ix)2m+1 (2m + 1)! m=0 ∞ X (−1)m−1 24m+3 B2m+1 (1/4) 2m+1 =i x (2m + 1)! m=0 である.よって (4.28) が得られる. 2 tan x 2 tan x つまり 1 = tan2 x + であるので, 2 1 − tan x tan 2x ∞ X 1 1 1 1 (−1)n B2n 22n 2n−1 = + となる.(4.10) より = x tan x sin 2x tan 2x tan x n=0 (2n)! 次に tan 2x = であるので, ∞ ∞ X 1 (−1)n B2n 22n 2n−1 X (−1)n B2n 22n ³ x ´2n−1 1 1 =− + =− x + sin x tan x tan x (2n)! (2n)! 2 n=0 n=0 2 ∞ X (−1)n−1 B2n (22n − 2) 2n−1 = x (2n)! n=0 となる. ジグザグ順列の定義 n 個の数 1,· · · ,n の順列 (c1 ,· · · ,cn ) がすべての j に対して, c1 < c2 > · · · < c2j−1 < c2j > c2j+1 < · · · > cn あるいは c1 > c2 < · · · > c2j−1 > c2j < c2j+1 > · · · < cn を満たすものを長さ n のジグザグ順列という. 例えば n = 2 のとき (1, 2),n = 3 のとき (1, 3, 2),(2, 3, 1),n = 4 のとき (1, 3, 2, 4), (1, 4, 2, 3),(2, 3, 1, 4),(2, 4, 1, 3),(3, 4, 1, 2) が c1 < c2 となるジグザグ順列のすべてである. ジグザグ順列の総数を A(n) とする.順列 (c1 ,· · · ,cn ) に対して (n + 1 − c1 ,· · · ,n + 1 − cn ) を考えれば,c1 < c2 から始まるジグザグ順列の総数と c1 > c2 から始まるジグ ザグ順列の総数とが等しいことがわかる. 4. 三角関数 · 逆三角関数 119 長さ (n + 1) のジグザグ順列の,(n + 1) の位置が (k + 1) 番目にあるジグザグ順列 © ª © の総数は n Ck × ジグザグ順列 (c1 ,· · · ,ck ),ただし ck−1 > ck の総数 × ジグザグ順 ª A(n) 列 (ck+2 ,· · · ,cn+1 ),ただし ck+2 < ck+3 の総数 であるから,a0 = a1 = 1,an = 2 として, n X 2an+1 = (n = 1) (4.30) n Ck ak an−k k=0 が成立つ.また bn = an n! とおく. 補題 4.5.2 次が成立つ. x´ 1 bn x = tan + = + tan x 4 2 cos x n=0 ∞ X Proof f (x) = ∞ X ³π n (4.31) bn xn とおく.まず (4.30) より n=0 2(n + 1)bn+1 = n X bk bn−k k=0 が成立する.さらに,|bn | 5 1 より,(右辺) の収束半径が正となるので, f 0 (x) = b1 + 2b2 x + · · · + nbn xn−1 + (n + 1)bn+1 xn + · · · ∞ ∞ X X n = (n + 1)bn+1 x = 1 + (n + 1)bn+1 xn n=0 =1+ n=1 ( n ∞ X X 1 2 n=1 n ) bk xk bn−k xn−k k=0 =1+ o2 f (x) − 1 2 1 を満たす.y = f (x) とし,置換積分を用いれば, = 2 Z f 0 (x) dx = 1 + f (x)2 Z ( n o2 1 = 1 + f (x) 2 f 0 (x) n o2 より 1 + f (x) 1 dy = arctan y = arctan f (x) 1 + y2 ´0 x 1 ³ である.よって = arctan f (x) , = arctan f (x) + C (C : 積分定数) 2 2 ³x ´ π となる.f (x) = tan − C であり,f (0) = 1 より C = − を得る. 2 4 ) 4. 三角関数 · 逆三角関数 120 ³π x´ したがって,f (x) = tan + である.また, 4 2 2 tan2 x2 π x x 1+ ³ π x ´ 1 + tan 1 + tan2 + 2 tan 1 + tan2 x2 2 2 2 + = tan = = x x 1 − tan2 x2 4 2 1 − tan 1 − tan2 2 2 1 + tan2 x2 1 + sin x 1 = = + tan x cos x cos x となる. 補題 4.5.3 ξ(m) = ∞ X n=1 ∞ X (−1)n−1 1 , η(m) = (2n − 1)m (2n − 1)m n=1 とするとき,次が成立つ. b2m−1 = 22m+2 22m+1 ξ(2m) , b = η(2m + 1) 2m π 2m π 2m+1 Proof 式 (4.31),(4.9) より,{bn } の奇数項は tan x を表すベキ級数の係数と なる.さらに (4.27) より (−1)m−1 B2m 22m (22m − 1) (2m)! m−1 2m 2m (−1) 2 (2 − 1) (−1)m−1 2[(2m)!] = · ζ(2m) (2m)! (2π)2m µ ¶ ∞ 22m+1 1 22m+1 X 1 = 2m 1 − 2m ζ(2m) = 2m π 2 π (2n − 1)2m n=1 b2m−1 = となる.同様に式 (4.31),(4.28)より,{bn } の偶数項は の係数となる.さらに (4.26) より b2m = (−1)m−1 24m+2 B2m+1 (1/4) (2m + 1)! ∞ = (−1)m−1 24m+2 (−1)m+1 2[(2m + 1)!] X (−1)n−1 (2m + 1)! (2π)2m+1 (2n − 1)2m+1 n=1 ∞ 22m+2 X (−1)n−1 = 2m+1 π (2n − 1)2m+1 n=1 となる. 1 を表すベキ級数 cos x 4. 三角関数 · 逆三角関数 121 補題 4.5.4 m = 1 に対して η(m) < η(m + 1) < ξ(m + 1) が成立つ. Proof η(m) の増減について考える.m − 2δ > 1,|h| < δ に対して ¯ ½µ ¶x ¾0 ¯ ½ ¾¯ ¯ ¯1 ¯ ¯ 1 1 1 1 k h − 1 ¯¯ log k C ¯ ¯ ¯ 5 m−δ 5 m−2δ (k = 2) 5¯ − m+h ¯ = ¯ m+h · ¯ m k h k k k h k k が成立つ定数 C が存在する.よって微分と極限操作の順序が入れ替えられ るので, η(m) = 1 − ∞ ½ X l=1 1 1 − m (4l − 1) (4l + 1)m ¾ において m > 1 のとき 0 η (m) = ∞ ½ X log(4l − 1) l=1 である.ここで (4l − 1)m log(4l + 1) − (4l + 1)m ¾ log(4l + 1) log(4l − 1) = になるときを考える. m (4l − 1) (4l + 1)m (4l + 1)m log(4l + 1) 4l + 1 5 = であるので,t = ,1 < t 5 m (4l − 1) log(4l − 1) 4l − 1 3 £ 2t ¤ µ ¶ log t−1 t+1 £ 2 ¤ とおくとき, つまり l = ,0 < l 5 1 および f (t) = tm − 4(t − 1) log t−1 £ 2 ¤ log t + log log t £ 2 ¤t−1 = tm − 1 − f (t) = tm − log 2 − log(t − 1) log t−1 log t > tm − 1 − := g(t) log 3 0 g (t) = mt 1 − = 0 のときを考えると,t = t log 3 m−1 µ 1 m log 3 ¶ m1 < 1で ある. · ¸ µ ¶ µ ¶m 5 0 5 1 5 1 5 したがって,g (t) 6= 0, − > − >0 g =m 3 3 3 log 3 3 log 3 0 であり g 0 (t) > 0,g(t) > g(1) = 0 となる.ゆえに f (t) > 0 であり,η(m) は 単調増加となる. 4. 三角関数 · 逆三角関数 122 以上により,m0 > m > 1 に対し η(m) < η(m0 ) となる.さらに,η(m) は m = 1 で連続であるから,m = 1 に対し η(m) < η(m + 1) である. また,後半の不等式は明らかである. 命題 4.5.5 b2n−2 b2n π b2n−1 b2n+1 < < < < b2n−1 b2n+1 2 b2n+2 b2n であり, lim bn n→∞ bn+1 = π 2 が成立つ Proof 補題 4.5.3 および補題 4.5.4 より, b2n−1 b2n b2n+1 b2n+2 b2n−2 b2n−1 b2n b2n+1 22n+1 ξ(2n) π 2n+1 π ξ(2n) π ξ(2n + 2) b2n+1 · = · > · = π 2n 22n+2 η(2n + 1) 2 η(2n + 1) 2 η(2n + 3) b2n+2 π ξ(2n + 2) π ξ(2n + 3) π = · > · > 2 η(2n + 3) 2 η(2n + 3) 2 2n 2n 2 η(2n − 1) π π η(2n − 1) π η(2n + 1) b2n = · 2n+1 = · < · = 2n−1 π 2 ξ(2n) 2 ξ(2n) 2 ξ(2n + 2) b2n+1 π η(2n + 1) π η(2n + 2) π = · < · < 2 ξ(2n + 2) 2 ξ(2n + 2) 2 = 最後に,ξ(m) は m > 1 において単調減少であるので,定理 1.2.14 より, ∞ ∞ X X 1 1 lim ξ(n) = lim lim n = 1 = n n→∞ n→∞ n→∞ k k k=1 k=1 および lim η(n) = lim n→∞ n→∞ となり,結論が得られる. ∞ X (−1)k−1 k=1 kn = ∞ X (−1)k−1 =1 n n→∞ k k=1 lim 5 章 高校教材として関数のベキ級数展 開を扱う意義とその方法 本章では,高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義として,既 習の内容について意味理解を深めることができるということを述べる.ま た,三角関数 · 指数関数のベキ級数展開を証明する方法は幾通りかあるが, 高校生が既習の範囲で理解できる関数の「平均値」を利用する方法を示す. そして,実際に高等学校にて関数のベキ級数展開を指導するための教材に ついて考察する. 5.1 関数のベキ級数展開に対する筆者の考え x3 x5 x7 x9 + − + − ··· 3! 5! 7! 9! x2 x4 x 6 x8 + − + − ··· cos x = 1 − 2! 4! 6! 8! x2 x3 x4 ex = 1 + x + + + + ··· 2! 3! 4! sin x = x − 上記の式は,三角関数 · 指数関数のベキ級数展開である.筆者はこれを初めて知った ときに,三角関数 · 指数関数が x の多項式で表すことができるという事実と,この式の 美しさに強い感動を覚えた.ベキ級数は,微分積分学において非常に重要な概念であ り,その有用性を知ることは高校生にとっても有益であると考え,関数のベキ級数展 開を高校生にも指導したいと考えていた. 関数のベキ級数展開は,大学の理工学部で教えられる内容であり,高等学校で指導 することの妥当性については,危惧が残る.しかし,高等学校学習指導要領解説 (文部 科学省,1999,p3) では『生徒の興味 · 関心,進路希望等に応じ,より深く高度に学んだ り,より幅広く学んだりする仕組みを整え,それぞれの能力を十分に伸ばすことので きる教育の展開を目指している. 』と述べられており,学習指導要領一部改正 (文部科 123 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 124 学省,2003) では,条件を満たした上で,学習指導要領に示していない内容を加えて指 導することができることが明記されている.これらのことから, 関数のベキ級数展開 を高等学校で扱うことができるのではないかと考えた. そこで,本章では,まず高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義を明 確にする.そして,実際に高校生に指導するための証明を考察し,関数のベキ級数展 開を扱う教材を高等学校数学科における教材として提案する. 5.2 高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義 c0 ,c1 ,c2 ,c3 ,· · · を実係数の列で,x を独立変数とするとき, ∞ X cn xn = c0 + c1 x + c2 x2 + c3 x3 + · · · n=0 をベキ級数という. このように x の累乗の項が無限個ある多項式のことをベキ級数といい,これは微分積 分学において,非常に重要な概念であると考えられている. 『ニュートンが最初に用いて 以来,今日までずっと,ベキ級数は数学における中心的な地位を保っています』(A.J. ハーン,2001,p161).高等学校で学習する三角関数 · 指数関数などは,ベキ級数で表す ことができ,これをベキ級数展開とよぶ. 筆者は,高校生が三角関数 · 指数関数のベキ級数展開を学ぶことで,既習の内容につ いて意味理解が深まると考える.その理由として,次の 3 つをあげる. 1. 三角関数 · 指数関数という特別な関数にはそれぞれ定義があるが,個々の関数 に対し別々の定義をすると,導関数を求めるときや積分を行うときに関数ごとに別々 な工夫をしなくてはならない.しかし,関数がベキ級数展開によって定義されており, Cxn (C : 定数) という形の関数の和で表され,項別に微分,積分することが可能であれ ば,微積分の操作が極めて易しくなるのである.次の三角関数 · 指数関数のベキ級数 展開 x3 x5 x7 x9 + − + − ··· 3! 5! 7! 9! x2 x4 x 6 x8 cos x = 1 − + − + − ··· 2! 4! 6! 8! x2 x3 x4 + + + ··· ex = 1 + x + 2! 3! 4! sin x = x − 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 125 を知っていれば,項別微分の結果, (sin x)0 = cos x, (cos x)0 = − sin x, (ex )0 = ex となることは一目瞭然である.このように「数学 III」で学習する三角関数 · 指数関数 の微積分が明確になると考える. 2. 三角関数 · 指数関数などの特定の値の近似値は,ベキ級数を用いて計算すること ができる.ベキ級数は四則演算と極限計算からなるので,和をとり続ければより正確 な値をとることができるのである.ベキ級数によって計算が可能なので,コンピュー ターの利用という視点でも重要な意味をもつ.教科書に掲載されている三角比の表も ベキ級数により計算されている. 「数学 I」の教科書には次のような問題がある. 三角比の表から,次の値を求めよ. (1) sin 24◦ (2) cos 83◦ (数研出版,2002,p106) 表から値を求めることは容易であるが,なぜその値になるかということは触れられ ていない.したがって,ベキ級数によって計算されていることを知ることは,三角比 の理解促進につながると考える. 3. 関数のベキ級数展開に関する内容が,教科書等にも出されている.例えば, 「数学 III」の教科書において,微分を用いた不等式の証明問題として次のようなものがある. x > 0 のとき,次の不等式が成立つことを証明せよ. ex > 1 + x + x2 2 (数研出版,2004,p124) 微分を用いてこの証明を理解することは難しいことではない.しかし,この不等式 がどんな意味をもつのかはわからない.ところが,ex のベキ級数展開を理解していれ ば,この不等式が成立つことは自明である.解法の定着に直接つながるわけではない が,既知の内容を別の角度から見ることで,このような問題の理解も促進できる. 以上のことから筆者は,既習の内容について意味理解を深めることができることが, 高等学校において関数のベキ級数展開を指導することの意義であると考える. 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 5.3 126 三角関数・指数関数のベキ級数展開の証明 本節では,三角関数 · 指数関数のベキ級数展開の証明について述べる.三角 関数のベキ級数展開の証明については,筆者の知る範囲では次の 4 通りの 方法がある.指数関数のベキ級数展開の証明については 3 通りの方法があ り,後述するテイラー級数展開を利用するものと,関数の平均値を利用す るものは三角関数と同様である. 1. 逆三角関数のベキ級数展開を利用する方法 ニュートンは arcsin x のベキ級数展開を先に発見しており,これを用いて sin x のベ キ級数展開を求めたと言われている. 1 3 5 7 arcsin x = x + x3 + x5 + x + ··· 6 40 112 (5.1) を利用して,sin x のベキ級数展開を求める.z = arcsin x より x = sin z であり,これ を式 (5.1) に代入すると, 1 3 z = z + a3 z 3 + a5 z 5 + · · · + (z + a3 z 3 + a5 z 5 + · · · )3 + (z + a3 z 3 + a5 z 5 + · · · )5 + · · · 6 40 1 1 3 1 3 5 = 0, a5 + · 3a3 + = 0, a7 + (3a5 + 3a23 ) + · 5a3 + = 0, 6 6 40 6 40 112 · · · これを解くと, よって,a3 + 1 1 1 1 a3 = − , a5 = , a7 = − , a9 = ,· · · 6 120 5040 362880 を得る. 2. ド・モアブルの公式を利用する方法 ) ( ³ x ´´n ³ ³ x ´ ³ x ´´n 1 ³ ³x´ cos x = cos + i sin + cos − i sin 2 n n n n ³x´ ³x´ X n! = (−1)m cosn−2m sin2m (2m)!(n − 2m)! n n 2m5n ³ x ´ 2m ³ ´ sin ∆(n,2m)(−1)m x2m n! n−2m x n cos x 2m (n − 2m)! n→∞ M →∞ (2m)! n n m=0 n = lim lim M X = ··· 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 127 この方法は後半に,2 つの極限操作の順序交換を行っており,これを高等学校で指導 するのは困難であると思われる. 3. テイラー級数展開の公式を利用する方法 f (x) = f (x0 ) + (x − x0 )f 0 (x0 ) + (x − x0 )2 00 (x − x0 )n (n) f (x0 ) + · · · + f (x0 ) + · · · 2! n! この公式において,f (x) = sin x(および cos x,ex ) とおけば,級数展開を導くことが できる. このテイラー級数展開の公式を証明するためにはいくつもの定理を示す必要があり, 大変複雑である. 4. 関数の平均値を利用する方法 これについては,次節で詳しく説明する. 5. 二項定理を利用する方法 ³ x ´N 二項定理を用いて 1 + を計算し,N → ∞ とする.ここで x は固定されてい N るとする.このとき, ³ x2 x3 x ´N →1+x+ + + ··· 1+ N 1·2 1·2·3 が得られる. この方法は多くの定理を証明しなくてはならず,膨大な証明になる. 5.4 本教材で用いる証明 前節で述べたように,関数の級数展開を証明する方法は幾通りかある.しかし,高 等学校数学の範囲を越える定理をいくつも示す必要があるものが多く,証明のために かなりの時間を要する.そこで,本教材では,sin x および cos x のベキ級数展開を「数 学 III」で学習する事柄を活用して導くことのできる「平均値」を利用する方法を用い る.それは導く過程に実際に触れることで,理解に実感をもたせることができ,時間 的にも授業で実施可能と考えたからである. 具体的には,次に述べる,区間 [0,a] における関数の「平均値」を定義し,それを用 いて三角関数のベキ級数展開を導いていく.この「平均値」を用いれば,既習の知識 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 128 範囲で,生徒が理解できるように式を導いていくことができる.同様に,指数関数お よび対数関数のベキ級数展開も導くことができる. 平均値の定義 ある区間における関数の平均値とは,その区間を n 等分する点における関数の値の 平均値において,n を無限大に大きくしたときの極限である.つまり,区間 [0,a] に おける関数 f (x) の平均値は n → ∞ としたときの次の M の極限値である. f M= ³a´ ³ a´ ³ a´ +f 2· + ··· + f n · n n n n ここでは, lim M を Ma0 f (x) で表す. n→∞ この「平均値」の考え方は実は区分求積法と同義であり,積分と密接な関係がある. 区分求積法 : lim n−1 X n→∞ Z f (xk )∆x = f (x)dx 0 k=0 µ a a ka ここで∆x = ,xk = n n ¶ y y = f (x) x o a n 2a 3a n n (n−1)a n a このことについては,生徒が自ら気づくことを期待する. また,この平均値を利用する証明法を用いた場合,関数のベキ級数展開を導いてい く活動の中で, 「数学 III」全般の復習をすることができる.既知の内容を基にし,新た な内容に発展させられることで,既習事項の有用性を実感し,それらに対する意味理 解も深まるものと考える.§5.5 で述べる補題等と「数学 III」の教科書 (数研出版,2004) の内容の関連をあげると次のようになる. 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 129 補題 1 → 不等式の証明 (第 4 章「微分法の応用」) 補題 2 → はさみうちの原理 (第 2 章「極限」) 補題 4 → 三角関数の和 → 積の公式 (第 5 章「積分法」) 補題 5 → 三角関数を含むはさみうちの原理 (第 2 章「極限」) 本章で述べた「平均値」の考え方 → 区分求積法 (第 5 章「積分法」) 5.5 教材 本節では,指導に際しての工夫,提案する教材の導入部分および概要につ いて述べる. 1. 指導に際して 授業の導入部分では,ニュートンの業績の一つとして「ベキ級数展開」を紹介する. どのような必要性があって考えられたものなのかを紹介し,生徒の興味を引くように する. また,導いたベキ級数展開を用いて sin 3◦ の近似値が 0.0523 であることを実際に計 算して確認し,教科書の参考資料に載せられている三角比の表についても触れること にする.三角比の表の値がただ与えられているのではなく,実際に確認することで,三 角比の理解が深まると同時に,ベキ級数展開の有用性にも触れることができる. この教材は授業 2 時間分を要すると考えている.導入から補題までを第 1 時,それ 以降を第 2 時とする.時間的制約があるため,導くのは三角関数のベキ級数展開のみ とし,指数関数のベキ級数展開については,結果のみを紹介するにとどめる.指数関 数の導き方については,参考資料として配布する. 2. 導入 ニュートンの話を授業の導入部分に用いることにし,生徒には次のように話をする. 世界の三大数学者と呼ばれる数学者の一人,ニュートンのことに少し触れてみる.り んごが落ちる様子から,万有引力の法則を発見したという話で有名なニュートンである. 微分積分学の基本定理を発見したことを含め,多くの業績を残しているが,その中 の 1 つである三角関数のベキ級数展開をこの授業で扱っていきたい. アイザック · ニュートン (1642-1727) はイギリス人である.この頃のヨーロッパの戦 争では,大砲が用いられており,その精度が戦争の明暗をわけていた.ちなみに,大 砲の飛距離 (射程距離) は 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 v02 v0 sin 2θ + R= 2g g r 130 v02 sin2 2θ + 2gy0 cos2 θ 4 で与えられていた (A.J.ハーン,2001,p176).ここで g は重力,v0 は砲弾の初速度,y0 は砲 口の地上高であるので,射角 (仰角)θ によって飛距離が調整されていたことがわかる. つまり三角比の値が sin 45◦ などの特別な値だけでなく,sin 3◦ のような値も正確に求 めなくてはいけなかったのである.教科書の参考資料に掲載されているような三角比 の表が必要だったわけである. 3. 概要 ここでは,実際に授業を行う場合の教材の概要を述べていく. 本題に入る前に,幾つかの準備が必要である.この準備を通して,既習の内容を復 習することができる. 補題 5.5.1 p は 1 より大きい自然数とする. x > 0,x 6= 1 ならば xp > 1 + p(x − 1) Proof f (x) = xp − 1 − p(x − 1) とする.x について微分すると, f 0 (x) = pxp−1 − p = p(xp−1 − 1) である.増減表を考えると, 0 1 f’ + − 0 + f + & 0 % となる.よって f (x) > 0 が成立つ. 補題 5.5.2 p は非負整数とする. 1p + 2p + · · · + np 1 = n→∞ np+1 p+1 lim Proof p = 0, 1 のとき は明らかである. k k+1 および (ただし,k > 0) p > 1 のとき,補題 5.5.1 において x に k k+1 µ ¶ µ ¶ (k + 1)p k+1 kp k を代入すると, > 1+p −1 , > 1+p −1 kp k (k + 1)p k+1 となる.それぞれの不等式に k p ,(k + 1)p をかけると,(k + 1)p > k p + pk p−1 , 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 131 k p > (k + 1)p − p(k + 1)p−1 となる.q = p − 1 とすれば,これらの不等式 より pk q < (k + 1)p − k p < p(k + 1)q (5.2) が得られる.p · 0q < 1p − 0p < p · 1q は明らかに成立ち,不等式 (5.2) の k において 1,2,· · · ,n − 1 を代入すると, p · 1q < 2p − 1p < p · 2q p · 2q < 3p − 2p < p · 3q .. . p · (n − 1)q < np − (n − 1)p < p · nq ここで,各不等式の辺々を加え 1q + 2q + · · · + nq = S とおくと, 1 S 1 1 p(S − nq ) < np < pS となる.よって < p < + が得られる. p n p n 1 n → ∞ のとき不等式の両端は となるので,はさみうちの原理より p 1q + 2q + · · · + nq 1 = q+1 n→∞ n q+1 lim が得られる. 平均値の定義 ここで,§5.4 で述べた平均値の定義を行う. 「平均値」の考え方が区分求積法と同義であることについては,生徒が自ら気づく ことを期待する. 補題 5.5.3 p は非負整数とする. Mx0 xp = xp p+1 Proof 区間 [0,x] 上における関数 xp の平均値は, ³ x ´p M= n ³ x ´p ³ x ´p + 2· + ··· + n · n n n としたときの lim M である.補題 5.5.2 より n→∞ 1p + 2p + · · · + np の極限値は np+1 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 132 1 1p + 2p + · · · + np xp x p であるので, M x = であり,M = xp · が 0 p+1 np+1 p+1 成立つ. 補題 5.5.4 nd 2 sin α + sin(α + d) + sin(α + 2d) + · · · + sin(α + (n − 1)d) = sin m · d sin 2 sin nd 2 cos α + cos(α + d) + cos(α + 2d) + · · · + cos(α + (n − 1)d) = cos m · d sin 2 n−1 ただし, m = α + d は α, α + d,· · · , α + (n − 1)d の n 個の角度の平均. 2 sin Proof 積 → 和の公式 : 2 sin A sin B = cos(A − B) − cos(A + B) より得ら µ ¶ µ ¶ d 2N − 1 2N + 1 れる 2 sin(α + N d) sin = cos α + d − cos α + d を利 2 2 2 用する. S = sin α + sin(α + d) + sin(α + 2d) + · · · + sin(α + (n − 1)d) として, d 両辺に 2 sin を掛ると, 2 ½ µ ¶ µ ¶¾ ½ µ ¶ d d d d 2S sin = cos α − − cos α + + cos α + − ··· 2 2 2 2 ½ µ ¶ µ ¶¾ µ ¶ µ ¶ 2n − 3 2n − 1 d 2n − 1 + cos α + d − cos α + d = cos α − −cos α + d 2 2 2 2 A−B A+B sin となる.ここで,和 → 積の公式 : − cos A + cos B = 2 sin 2 2 µ ¶ µ ¶ ¶ µ d n−1 nd 2n − 1 より cos α − d = 2 sin α + d sin であ − cos α + 2 2 2 2 nd 2 となる. る.よって,S = sin m · d sin 2 sin 同様に T = cos α + cos(α + d) + cos(α + 2d) + · · · + cos(α + (n − 1)d) とおいて両辺に 2 sin d を掛けると, 2 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 133 µ µ µ ¶ ¶ ¶ d 2n − 1 d n−1 nd 2T sin = 2 sin α + −sin α − = 2 cos α + d sin 2 2 2 2 2 nd sin 2 となる. となる.よって,T = cos m · d sin 2 補題 5.5.5 lim n sin n→∞ Proof 下図より 0 < ω < が成立つので, ω =ω n π であれば,面積を比較して sin ω < ω < tan ω 2 sin ω sin ω < 1,および cos ω < ω ω が得られる. ω sin ω ω 1 よって, cos tan ω ³ω ´ n sin < ³ω ´ ω n n <1 ³ω ´ となる.したがって,n → ∞ のとき cos n ω ちの原理より lim n sin = ω が導かれる. n→∞ n → 1 であるから,はさみう 本題 区間 [0,x] 上における関数 sin x の平均値は, sin M= ³x´ n としたときの lim M である. n→∞ + sin 2 · ³x´ n n + · · · + sin n · ³x´ n 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 134 x とおくと, n ³x´ ³x´ ³x´ x sin + sin 2 · + · · · + sin n · sin n n n = sin m · 2 x n n sin 2n 補題 5.5.4 において,α = d = x が成立つ.n → ∞ のとき補題 5.5.5 より,前式の右辺の分母は に収束する.また,m 2 x の極限も である.よって,次を得る. 2 Mx0 sin x = lim M = n→∞ 同様に,Mx0 cos x = sin x x · sin 2 2 = 1 − cos x x x 2 sin x である.次に,補題 5.5.3 および x f (x) 5 g(x) (x ∈ [a,b]) ⇒ Mx0 f (x) 5 Mx0 g(x) (x ∈ (a,b)) を利用し,sin x,cos x の近似多項式を求める. sin x 5 1 すなわち sin x 5 x 不等式 cos x 5 1 の両辺に [0,x] における平均値をとると, x 1 − cos x x である.さらに,この不等式の両辺に [0,x] における平均値をとると, 5 x 2 x2 すなわち cos x = 1 − である.またこの不等式の両辺に [0,x] における平均値をとる 2 2 sin x x x3 と, =1− すなわち sin x = x − となる.この操作を繰り返していくと, x 3! 3! cos x 5 1 sin x 5 x cos x = 1 − x2 2! sin x = x − x3 3! cos x 5 1 − x2 x4 + 2! 4! sin x 5 x − x3 x5 + 3! 5! cos x = 1 − x2 x4 x6 + − 2! 4! 6! sin x = x − x3 x5 x7 + − 3! 5! 7! .. . sin x,cos x の近似関数が得られ,それらの差が なので,次の展開が成立つ. .. . xa xa である.ここで → 0 (a → ∞) a! a! 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 sin x = x − 135 ∞ X x3 x5 x7 (−1)m 2m+1 + − + ··· = x 3! 5! 7! (2m + 1)! m=0 ∞ X x2 x4 x6 (−1)m 2m cos x = 1 − + − + ··· = x 2! 4! 6! (2m)! m=0 上図の 1,5,9,13,· · · という数字は,例えば 9 であれば,第 9 次の項までを加えた式の x3 x5 x7 x9 グラフ,つまり y = x − + − + を表している. 3! 5! 7! 9! 留意点 sin x と cos x についての不等式が任意の場合に成立つことの証明,および xa → 0 (a → ∞) であることの証明 (後述の §5.7 参照) は,授業では省略する. a! §5.2 で述べたように,項別に微分することで,(sin x)0 = cos x および (cos x)0 = − sin x となることを生徒に説明する. また,この 2 つの式を用いて,sin x と cos x の特定の値の近似値を求めることができ る.教科書の参考資料等に掲載されている三角比の表も,ベキ級数展開を利用するこ とよって作成されていることも生徒に説明する. 例 三角比の表にある sin 3◦ の近似値は 0.0523 とあるが,これを実際に確認してみる. π 3◦ は ラジアンであるから 60 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 π 1 − · 60 6 ( π 60 )3 < sin 3◦ < 136 π 60 である.π = 3.14159 · · · を利用し,これを計算すると, ( )3 (3.2)3 π 1 π π > 0.05235− = 0.05235 · · · , − · > 0.05235−0.00003 = 0.05232 60 60 6 60 12 · 105 となる.よって,次を得る. 0.05232 < sin 3◦ < 0.05236 指数関数のベキ級数展開 指数関数のベキ級数展開についても紹介する.ただし,時間の都合上,授業では導 く過程を大部分省略する. 三角関数のときと同じような方法を用いていくと,x > 0 のとき, 1+x+ x2 x3 xn x2 x3 xn−1 xn + + ··· + < ex < 1 + x + + + ··· + + ex 2! 3! n! 2! 3! (n − 1)! n! xn xn xn x2 x3 + · · ·+ との差は, (ex −1) より小さい. lim =0 n→∞ n! 2! 3! n! n! なので,n が無限に大きくなれば,差はなくなる.x < 0 のときも,上式のような不等 が得られる.ex と 1+x+ 式が成立つので,任意の実数に対して次が成立つ. ∞ X xn x2 x3 e =1+x+ + + ··· = 2! 3! n! n=0 x ここでも項別に微分すると,(ex )0 = ex となることを説明する. 例 上記の式において x = 1 とし,e の近似値を実際に求めてみる.第 6 項までを実際 に加えてみると, 1 + 1 + 0.5 + 0.16666 · · · + 0.041667 · · · + 0.00833 · · · = 2.71666 · · · となる.e の値は,e = 2.71828182845904523536 · · · であるので,たかだか第 6 項まで の計算でもある程度近い値が求められる. 「数学 III」の教科書 (数研出版,2004,p86) で 1 は h = 0.1 のとき (1 + h) h の値が 2.59374 · · · になることが書かれている.これは 1.1 を 10 回掛けて求まる値なので,上記のやり方の方が収束が速いことがわかる. 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 5.6 137 まとめと今後の課題 本章では,高等学校で関数のベキ級数展開を指導することの意義として,既習の内 容について意味理解を深めることができるということを述べた.また,三角関数 · 指数 関数のベキ級数展開を証明する方法は幾通りかあるが,高校生が既習の範囲で理解で きる関数の「平均値」を利用する方法を示した.そして,実際に高等学校にて関数の ベキ級数展開を指導するための教材について考察した. 今後は,この教材の具体的な指導案を作成し,実践にあたりたい.同時に,実際に どのような効果が得られるかも検証したいと考えている. また,本章では触れていないことであるが,高校生が関数のベキ級数展開を学ぶこ とで,数学に対する興味 · 関心が更に高まり,数学への学習意欲が向上するのではない かと考えている.このことについても今後,研究していきたいと考えている. 5.7 備考 本節では,授業後に生徒に配布する参考資料を紹介する.まず,本教材の 中で省略した証明を述べる.次に指数関数 · 三角関数のベキ級数展開からオ イラーの公式を導くことができることを紹介する.また,本教材では指数 関数についての証明は大部分を省略しているのでその詳細を述べる.また, 本教材の中では扱わないが,対数関数のベキ級数展開についても同様の方 法で示す. 1. 教材の中で省略した証明 命題 5.7.1 Cm (x) = m X (−1)n x2n n=0 とし,0 < x < (2n)! , Sm (x) = m X (−1)n x2n+1 n=0 (2n + 1)! π のとき,自然数 m に対して次の不等式が成立つ. 2 C2m (x) > cos x > C2m+1 (x), S2m (x) > sin x > S2m+1 (x) © ª0 Proof まず, Cm (x) = ( m X (−1)n x2n n=0 (2n)! )0 = m X (−1)n x2n−1 n=1 (2n − 1)! である. (5.3) 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 ここで,2n − 1 を 2k + 1 と,つまり n を k + 1 とおきかえると, X (−1)k+1 x2k+1 © ª0 m−1 Cm (x) = = −Sm−1 (x) (2k + 1)! k=0 © ª0 となる.また, Sm (x) = Cm (x) は明らかである. 不等式 (5.3) が成立つことを m に関する帰納法で示す. |Sm (x) − sin x| = fm (x),|Cm (x) − cos x| = gm (x) とおく. ³ ´0 C0 (x) = 1 > cos x は明らかで, S0 (x) − sin x = C0 (x) − cos x > 0 より, S0 (x)−sin x は単調増加である.また, f0 (0) = 0 なので,S0 (x)−sin x > 0 で ³ ´ ある.さらに, cos x − C1 (x) 0 = − sin x + S0 (x) > 0 であり,g1 (0) = 0 よ ³ ´0 り cos x − C1 (x) > 0 となる.また, sin x − S1 (x) = cos x − C1 (x) > 0 で,f1 (0) = 0 なので,sin x − S1 (x) > 0 である.以上により m = 0 のとき 成立つ. m = l − 1 のとき,C2l−2 (x) > cos x > C2l−1 (x) および S2l−2 (x) > sin x > S2l−1 (x) を仮定する. ³ ´0 C2l (x) − cos x = −S2l−1 (x) + sin x > 0 で,g2l (0) = 0 より,C2l (x) − cos x > 0 が成立つ. ³ ´0 S2l (x) − sin x = C2l (x) − cos x > 0 で,f2l (0) = 0 より,S2l (x) − sin x > 0 が成立つ. ³ ´0 cos x − C2l+1 (x) = − sin x + S2l (x) > 0 で,g2l+1 (0) = 0 より,cos x − C2l+1 (x) > 0 が成立つ. ³ ´0 sin x − S2l+1 (x) = cos x − C2l+1 (x) > 0 で,f2l+1 (0) = 0 より,sin x − S2l+1 (x) > 0 が成立つ. 以上により l の場合が示せた.よって,(5.3) が示せた. 命題 5.7.2 xa → 0 (a → ∞) a! Proof 2(n − 1),3(n − 2),· · · ,(n − 1) · 2 のどの積も 1 · n より大きい.なぜ ならば,2 5 k 5 n − 1 のとき, ³ ´ k · n − (k − 1) − n · 1 = −k 2 + nk + k − n = (k − 1)(−k + n) > 0 © ª2 となるからである.したがって, (n − 1)! > nn−2 となる. 138 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 139 © ª2 √ 両辺に n2 をかけると, n! > nn となり n! > nn である.これから, µ ¶n √ |x|n |x| < √ を得る. nが |2x| よりも 大きくなるような n の値を考え n! n µ ¶n µ ¶n |x|n |x| 1 xn ると, < √ < となるので, lim = 0 が得られる. n→∞ n! n! 2 n 2. オイラーの公式 指数関数 · 三角関数のベキ級数展開を用いて,オイラーの公式を導くことができる. x2 x3 x4 + + + ··· 2! 3! 4! x3 x5 x7 sin x = x − + − + ··· 3! 5! 7! x2 x4 x6 cos x = 1 − + − + ··· 2! 4! 6! ex = 1 + x + の 3 つの関数のベキ級数展開について考える.もし ex のベキが,複素数に拡張できれば, θ2 θ3 θ4 eiθ = 1 + iθ − −i + + ··· 2! 3! )4! ( ( ) 2 4 3 5 θ θ θ θ = 1− + + ··· + i θ − + + ··· 2! 4! 3! 5! = cos θ + i sin θ となる.このように,有名なオイラーの公式を導くことができる.さらに,θ = π とす れば, ei π + 1 = 0 という,π ,e,i を関係づける美しい公式を得ることができる. 3. 指数関数のベキ級数展開の証明 補題 5.7.3 u 6= 0 のとき eu > 1 + u Proof f (u) = eu − 1 − u とおくと,f 0 (u) = eu − 1 となる. 増減表を考えると, (5.4) 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 140 0 f’ − 0 + f & 0 % となる.よって f (u) > 0 が成立つ. 補題 5.7.4 任意の実数 v および V = v + a > v に対して ev < eV − ev < eV V −v (5.5) が成立つ. Proof 不等式 (5.4) において,u = a と u = −a を代入すると,ea > 1 + a, e−a > 1 − a を得る.それぞれに,ev と eV をかけると, eV > ev + aev , ev > eV − aeV である.これらの式から,(5.5) が得られる. 補題 5.7.5 2 つの正関数 u と v の積の平均値は,u の平均値とその区間における v の 最大値の積よりも小さい. n X Proof n X u(kδ) · v(kδ) k=1 5 n u(kδ) k=1 n · max(v) であるので, M (uv) 5 M (u) · max(v) となる. 本題 区間 [0,x] 上における関数 ex の平均値は, M= eδ + e2δ + · · · + enδ n としたときの lim M である. n→∞ ³ δ= x´ n 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 141 (1) x > 0 に対して M の値を考える. ¡ ¢ 不等式 (5.5) の (v ,V ) において (0, δ),(δ ,2δ),· · · ,(n − 1)δ ,nδ を代入すると, eδ − 1 < eδ δ e2δ − eδ < e2δ eδ < 2δ − δ .. . 1< e(n−1)δ < enδ − e(n−1)δ < enδ nδ − (n − 1)δ であり,各不等式の辺々を加えると, nM + 1 − ex < ex − 1 < nM δ となる.これを M について解くと, ex − 1 ex − 1 ex − 1 <M < + x x n (x > 0) (5.6) (2) x < 0 に対して M の値を考える.不等式 (5.5) の (V ,v) において (0, δ),(δ ,2δ),· · · , ¡ ¢ (n − 1)δ ,nδ を代入して,不等式の辺々を加える.さらに M について解けば, ex − 1 ex − 1 ex − 1 + <M < x n x (x < 0) (5.7) 不等式 (5.6),(5.7) において n を無限大に大きくすれば, lim M = Mx0 ex = n→∞ ex − 1 x (x 6= 0) x ex − 1 > 1 + となる. x 2! 2 x x e − 1 x x2 よって,ex > 1 + x + である.再び両辺の平均値を求めると, > 1+ + 2! x 2! 3! 3 2 x x + である.これを繰り返していくと, となり,ex > 1 + x + 2! 3! (3) x > 0 のとき,ex > 1 + x の両辺の平均値を求めると, ex > 1 + x + x2 x3 xn + ··· + 2! 3! n! が得られる.次に ex を上からおさえるための不等式を考える.e−x > 1 − x の両辺に ex をかけると 1 > ex − xex となる.よって, 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 142 ex < 1 + xex (5.8) が得られる. 補題 5.7.5 において u = x,v = ex と考え,(5.8) の両辺の平均値をとると, x x2 x2 ex − 1 < 1 + ex すなわち ex < 1 + x + ex となる.同様に,u = ,v = ex と考え x 2 2! 2 x 2 2 3 e −1 x x x x ると, < 1 + + ex すなわち ex < 1 + x + + ex となる.これを繰り返し x 2 3! 2! 3! ていくと, x2 x3 xn−1 xn ex < 1 + x + + + ··· + + ex 2! 3! (n − 1)! n! が得られる.よって,x > 0 のとき 1+x+ x2 x3 xn x2 x3 xn−1 xn + + ··· + < ex < 1 + x + + + ··· + + ex 2! 3! n! 2! 3! (n − 1)! n! ex − 1 x > 1 + となる.ここで x < 0 より x 2 2 x ex − 1 x x2 ex < 1 + x + である.さらに平均値を計算すると, <1+ + すなわち 2! x 2 3! x2 x3 x2 x2ν−1 x x e > 1+x+ + となる.これを繰り返していくと,e > 1+x+ +· · ·+ 2! 3! 2! (2ν − 1)! 2 2ν x x および ex < 1 + x + + ··· + が得られる.よって,x < 0 のとき 2! (2ν)! (4) x < 0 のとき,ex > 1 + x より, 1+x+ x2 x3 xn x2 x3 xn+1 + + ··· + < ex < 1 + x + + + ··· + 2! 3! n! 2! 3! (n + 1)! (n : 奇数) xn xn x2 x3 + +···+ との誤差は,x > 0 のときは (ex − 1) より小さ 2!¯ 3! ¯ n! n! ¯ xn+1 ¯ xn ¯ ¯ く,x < 0 のときは¯ よりも小さい.ここで,命題 5.7.2 より lim = 0 なの ¯ n→∞ n! ¯ (n + 1)! ¯ (5) ex と 1 + x + で,n が無限に大きくなれば,誤差はなくなる.よって任意の実数に対して次が成立つ. ∞ X xn x2 x3 e =1+x+ + + ··· = 2! 3! n! n=0 x 3. 対数関数のベキ級数展開の証明 まず,f (x) = 1 の平均値を利用する.(5.5) において,v と V をそれぞれ log u と log U 1+x 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 143 に置き換える.すると,それに対応して ev と eV を u と U に置き換えることになり, U −u u< < U となる.よって, log U − log u log U − log u 1 1 < < U U −u u (U > u > 0) 1 f (δ) + f (2δ) + · · · + f (nδ) の平均値は,M = 1+x n としたときの lim M である. が成立つ.ここで,f (x) = (5.9) ³ δ= x´ n n→∞ (1) x > 0 つまり δ > 0,U > u > 0 のとき, ¡ ¢ (5.9) の (U ,u) に (1 + δ ,1),(1 + 2δ ,1 + δ),· · · ,1 + nδ ,1 + (n − 1)δ を代入する. 1 log(1 + δ) < <1 1+δ 1+δ−1 1 log(1 + 2δ) − log(1 + δ) 1 < < 1 + 2δ 1 + 2δ − (1 + δ) 1+δ .. . ¡ ¢ log(1 + nδ) − log 1 + (n − 1)δ 1 1 ¡ ¢ < < 1 + nδ 1 + (n − 1)δ 1 + nδ − 1 + (n − 1)δ であり,辺々を加えると,nM < log(1 + x) 1 < nM + 1 − となる.よって, δ 1+x log(1 + x) 1 log(1 + x) − <M < x n(1 + x) x (5.10) が成立つ. (2) − 1 < x < 0 つまり δ < 0,U < u のとき, ¡ ¢ (5.9) の (u,U ) に (1 + δ ,1),(1 + 2δ ,1 + δ),· · · ,1 + nδ ,1 + (n − 1)δ を代入し,(1) と 同様に計算すると, log(1 + x) log(1 + x) 1 <M < − x x n(1 + x) が成立つ.(5.10) および (5.11) において,n → ∞ とすると, lim M = Mx0 n→∞ が得られる.次に, log(1 + x) 1 = 1+x x (5.11) 5. 高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法 f= 144 1 x =1− = 1 − xf = 1 − x(1 − xf ) = 1 − x + x2 f 1+x 1+x = 1 − x + x2 (1 − xf ) = 1 − x + x2 − x3 f であり,この手続きを繰り返すと, f = 1 − x + x2 − x3 + · · · + (−1)n−1 xn−1 + (−1)n xn f を得る.この式において両辺の平均値をとると, log(1 + x) x x2 x3 xn−1 =1− + − + · · · + (−1)n−1 + (−1)n · Mx0 (xn f ) x 2 3 4 n となる.区間 [0,x] ( または [x,0]) における f の最大値を F で表す.ただし,x > 0 の 1 である.補題 5.7.5 より,1 より小さい正数を A とす とき F = 1,x < 0 のとき F = 1+x n xn+1 x n x n ると,M0 (x f ) = A·F · と表すことができる.よって,R(x) = (−1) ·A·F · n+1 n+1 としたとき, x2 x3 xn log(1 + x) = x − + − · · · + (−1)n−1 + R(x) 2 3 n と表される.−1 < x 5 1 であれば, lim R(x) = 0 となる.以上により,次のメルカト n→∞ ル級数が得られる. ∞ X (−1)n−1 x2 x3 + − ··· = xn log(1 + x) = x − 2 3 n n=1 (−1 < x 5 1) (5.12) 1 log(1 + x) = Mx0 < Mx0 1 = 1 である.よって,x > log(1 + x) x 1+x log(1 + x) x 1 が成立つ.また, = Mx0 > Mx0 (1 − x) = 1 − である.ゆえに, x 1+x 2 2 2 x x log(1 + x) > x − が成立つ.以上により,x − < log(1 + x) < x が得られる. 2 2 例 x > 0 のとき, 6 章 オイラーの数 e の導入についての 提案 本章では,高等学校におけるオイラーの数 e の導入についての提案を行う. e は現在「数学 III」で導入されているが,筆者は,生徒の e についての理 解が十分ではないと考える.そこで,その改善のために e の導入に数学史 を取り入れることを提案する.e の導入に数学史を取り入れることで,e に ついて深く理解することができるのではないかと考えたからである.また, 数学史を取り入れた e の導入に関する教材の視点および概要,本教材を用 いた際に得られると考えられる効果について述べていく. 6.1 高等学校における e の導入の現状 現行の高等学校学習指導要領 (1999) では,オイラーの数 e は「数学 III」(2) 微分法で 指導することになっている.高等学校学習指導要領解説数学編 (文部科学省,1999,p73) では,指数関数 · 対数関数の導関数に関する内容の中で『自然対数の底 e を導入してお く必要がある.その導入の仕方としては,例えば,h の値が限りなく 0 に近づくとき, 1 』と述べら (1 + h) h の極限値が存在することを納得させ,それを e とする方法がある. れている. 1 1 loga (x + ∆x) − loga x = (中略) = lim loga (1 + h) h ∆x→0 ∆x x h→0 (loga x)0 = lim (中略) 1 h → 0 のとき (1 + h) h の極限値が存在し,その値を e で表す.すなわち 1 e = lim (1 + h) h h→0 e は無理数で,その値は 2.718281828459045· · · であることが知られている. (数研出版,2004,p86) 145 6. オイラーの数 e の導入についての提案 146 多くの教科書において,上記のように対数関数の導関数を求める過程で e を導入し ている. 「y = ax のグラフで,x = 0 における傾きがちょうど 1 になような a の値を e とする」というように e を導入している教科書もあるが,おそらく多くの高等学校で, 上記のように対数関数の導関数を求める過程で e を導入しているものと考えられる. しかし,筆者の経験では,e の定義や e が 2.7 程度の数であることなどの定着が悪い 生徒が多く,中には e をただのアルファベット文字だと思ってしまっている生徒もい た.その理由として,次のようなものが考えられる. 1. 先に学習する三角関数の導関数については,既知である加法定理等を用いれば導 関数が求められる.これに対して,対数関数の導関数については,求める過程で新し く e を定義しなくてはならない.そのため,唐突に e が導入される印象を受けるという こと. 2. 導関数を求める過程よりも結果に対する意識が高いことや,あくまで導関数がメ インになっていることから,e に対する印象が薄いということ. 1 3. (1 + h) h という式から,2.7 程度という数が想像し難いということ. このように,対数関数の導関数を求める過程での e の導入が,e についての理解が十 分でないことの要因の一つであると筆者は考える.河合 (2006) が『数学 III の難所の 一つ,唐突で天下り的な印象を受ける e の導入』と述べ,e の導入に関する研究発表を 行っているなど,e の導入は問題になっていると考えられる. また,e を底とする指数関数や自然対数は「数学 III」において中核となるものの 1 つ であり,e についての理解が十分でないことは,大変深刻である. そこで筆者は,e の導入を改善するために,数学史を取り入れることを提案する.ま た,数学史を取り入れた e の導入に関する教材の視点および概要,本教材を用いた際 に得られると考えられる効果についても述べる. 6.2 e の導入に数学史を取り入れることについて 塚原 (2002) は,数学史の活用は,各学校段階を問わずに実践できるものであり,特 に数学学習経験の長い高等学校の生徒に対して,より効果的であると述べている.そ して, 「数学 II」の微分積分において,授業実践を通した数学史活用の検証を行い,数 学史活用が有効であるという結果を得ている.このことから, 「数学 III」の内容である e の導入においても,数学史を取り入れることが有効ではないかと考えた. 塚原 (2002) は,数学の授業における数学史活用の有用性の 1 つとして『数学史を授 業に取り入れることによって,問題提起をし,数学的概念 · 原理 · 公式 · 記号法が成立 する根拠を明らかにすることができる.このことにより,学習者は数学的概念や原理 · 6. オイラーの数 e の導入についての提案 147 法則を関係的 · 構造的に理解することができる. 』ということを述べている.問題提起 があり,数学的な考えがあって,数学的知識を得るという一連の経緯に基づいた学習 指導がなされることで,学習者は数学的概念や原理 · 法則等のお互いの結びつき,なら びにそれらの全体的な構造を歴史的文脈のもとで理解できるということである. 数学史を授業に取り入れることで,生徒は,どのような問題があり,どのように問 題を解決していくのかを学んだ上で,数学的知識を獲得することができる.その結果, その数学的知識について深く理解することができるのではないかと筆者も考える.こ のことから,大数学者オイラーが e を定義するまでのプロセスを通して e を導入するこ とで,e について深く理解することができるのではないかと考えた.以上により,e の 導入に数学史を取り入れることを提案する. 6.3 数学史を取り入れた e の導入に関する教材 ここでは,数学史を取り入れた e の導入に関する教材の視点および概要を 述べる. µ 1. ド · ボーヌ問題と lim n→∞ 1 1+ n ¶n の値 µ まず,どのような必要性があって lim n→∞ 1 1+ n ¶n について考えることになっ たかを示すために,ド · ボーヌ問題を紹介する.次に,一般二項定理を紹介 µ ¶n 1 し (証明はしない), 1 + の展開を考える. n 17 世紀頃のヨーロッパでは,戦争に大砲が用いられ,その優劣が戦争の勝敗を決し ていた.ある瞬間に弾がどの方向に飛んでいるかなど,曲線の接線に関する研究がな されていた.F · ド · ボーヌ (1602 − 1652) はデカルト (1590 − 1650) に次のような問題 を提案した. ¡ ¢ 「xy 平面の曲線 y = f (x) 上の各点 a,f (a) における接線と x 軸との交点を (b,0) としたとき,a − b が a と無関係な一定の値 l になる f (x) は何か」 6. オイラーの数 e の導入についての提案 148 y (a, f (a)) y = f (x) O a b x この問題は,有名な数学者であるデカルトやフェルマー (1601−1665) でも解くことがで きず.50 年近くも未解決のままであった.このド · ボーヌ問題をオイラー (1707 − 1783) は次のように解決した. ³ x´ a を固定し,十分大きな自然数 n および x > 0 に対して,f a + の値が接線の n x a + における値とおおよそ一致するものと考えた.つまり, n ³ n x´ f (a) x xo f a+ ∼ f (a) + · = f (a) 1 + ということである. n l n ln y = f (x) ³ x´ f a+ n f (a) x n l x について,a と同様に考えれば, n ³ ³ n ³n x´ x´ 1 x x o2 xo x´ + ∼f a+ +f a+ · · ∼ f (a) 1 + f a+ n n n n l n ln ³ n x ´ x on この操作を n 回繰り返せば,f a + · n = f (a + x) ∼ f (a)f 1 + が得られる. n ln よって,極限操作 n → ∞ を行えば, 次に a + n f (a + x) = f (a) lim n→∞ として f (x) が求まると考えられる. 1+ x on ln (6.1) 6. オイラーの数 e の導入についての提案 149 このド · ボーヌ問題は,微分方程式を用いて解くことになる ( 後述する 4. ド · ボーヌ n x on 問題の解決で紹介する ).ここで注目したいのは式 (6.1) において lim 1 + が現 n→∞ ln µ ¶n 1 x れることである.この問題を解く際に, が特別な値をとった場合である lim 1 + n→∞ l n の値について考える必要性があったことがわかる. 二項定理は「数学 A」で学習しており,自然数 n に対して, 二項定理の一般化 (a + b)n = n C0 an + n C1 an−1 b + n C2 an−2 b2 + · · · + n Cr an−r br + · · · = an + nan−1 b + n(n − 1) n−2 2 n(n − 1) · · · (n − r + 1) n−r r a b + ··· + a b + ··· 2! r! である.この式は n が自然数でなくても無限和で成立つ.a = 1,b = µ 1 1+ n ¶n 1 とおけば, n n n(n − 1) 1 n(n − 1)(n − 2) 1 + + + ··· 2 n 1·2 n 1·2·3 n3 ¶ µ ¶µ ¶ µ 1 2 1 1 1− 1− 1 1− n n n + + ··· =1+1+ 1·2 1·2·3 =1+ が得られる.ここで n → ∞ とすれば, µ 1 1+ n ¶n →1+1+ 1 1 1 1 + + ··· = 1 + 1 + + + ··· 1·2 1·2·3 2! 3! となる.この式の右辺の第 6 項までを計算すると,2.71666· · · であり,計算を続ければ 2.7182818284590452· · · となる (収束性については,説明を省略する). 2. 求積問題と対数関数 1 の下方の領域 x の面積が対数関数で表されることが発見されたことを紹介する.この中で, ここでは,求積問題の解法を考えていく中で,双曲線 y = 区分求積法も扱う. 面積や体積を求めるという問題は,古代ギリシャから数学者の好奇心を刺激し続け てきた.17 世紀の始めには,任意の a に対して,曲線 y = xa の下方領域の面積が計算 されるようになった. 求積問題 a を与えたとき,曲線 y = xa と x 軸および x = B に囲まれた領域の面 積を求めよ. 6. オイラーの数 e の導入についての提案 150 ここでは,求積問題に対するフェルマーのアイディアを紹介する.θ < 1 を 1 近くに 選んで,等比数列 B , θB , θ2 B ,· · · で区切られる長方形を考える. y y = xa x O θ3 B θ2 B θB B すると問題の面積は a + 1 > 0 つまり a > −1 のとき, (長方形の和) = (B − Bθ)B a + (Bθ − Bθ2 )θa B a + (Bθ2 − Bθ3 )θ2a B a + · · · = B(1 − θ)B a + B(θ − θ2 )θa B + B(θ2 − θ3 )θ2a B a + · · · = B a+1 (1 − θ)(1 + θa+1 + θ2a+2 + · · · ) = B a+1 1−θ 1 − θa+1 (6.2) という等比級数で近似できる. ε = 1 − θ とおいて,二項定理を用いる.θa+1 = (1 − ε)a+1 = 1 − (a + 1)ε + · · · より, 1−θ ε 1 ≈ = a+1 1−θ (a + 1)ε a+1 (ε → 0) となる.(6.2) は求める面積 S を上から近似している.長方形の高さを θa B a , θ2a B a ,· · · にとり換えれば S の下からの近似が得られる.θa は θ → 1 に従って 1 に近づくので, 近似は両方とも同じ値に近づく. [フェルマー (1636)] 曲線 y = xa と x 軸および x = B に囲まれた領域の面積は次で与えられる. S= B a+1 a+1 このフェルマーの方法は,双曲線 y = (a > −1) 1 には適用できない.実際に計算を行うと, x 面積は (1 − θ)(1 + 1 + 1 + · · · ) となる. このことが動機となり次のことが発見された. 6. オイラーの数 e の導入についての提案 151 グレゴリー (1647) 1 双曲線 y = の下方の領域の面積は対数関数で表される. x y ln(a) y= O 1 a 1 x x 1 ,x = 1,x = a > 0 と x 軸で囲まれた面積を ln(x) とする.ただし,0 < a < 1 x 1 の場合は面積にマイナスの記号をつける.y = ,x = 1,x = b > 0 と x 軸で囲まれた点 x µ ¶ 1 1 (x,y) の集合を S1 ,y = ,x = a,x = ab と x 軸で囲まれた点 ax, y の集合を S2 と x a 1 すると,S2 は S1 を x 軸方向に a 倍,y 軸方向に したものである.ゆえに,S1 = S2 a であり, y= ln(a) + ln(b) = ln(ab) 1 の下方の領域の面積は対数関数で表される. x 例えば,面積 (1 → 2)=面積 (3 → 6) であるので,面積 (1 → 2)+面積 (1 → 3)=面積 が成立つ.したがって,双曲線 y = (1 → 6) となる.よって,ln(2) + ln(3) = ln(6) となる. 3. オイラー数eの定義 1 の下方の領域の面積が対数関数で表されること x を踏まえ,その面積が 1 になる特別な場合に e という記号を用いたという µ ¶n 1 ことを紹介する.また, lim 1 + = e であることを示す. n→∞ n オイラーは,双曲線 y = オイラーは次のように e を定義した. 1 ,x = 1,x = a > 0 と x 軸で囲まれた面積が 1 になるときの a の値のことを e x という記号で表す. y= 6. オイラーの数 e の導入についての提案 152 つまり,ln(e) = 1 となるように e を定義したのである.これにより ln が e を底とす る対数であることがわかり,改めて log e = 1 とかく.そして,この面積が 1 になるよ うな値を考えるという経緯から,底を e とする対数のことを自然対数と呼ぶようであ る.また,底は変換することができるので,この自然対数について考えれば,任意の 底の対数について考えることができる.e は Euler の頭文字をとったと考えられる. µ ¶n 1 log 1 + の値 n y µ 1 log 1 + n ¶ y= O µ 1 上図より,log 1 + n 大きい.よって, 1 1+ ¶ 1 n 1 x x は大きい長方形の面積より小さく,小さい長方形の面積よりも µ ¶ 1 1 1 · < log 1 + <1· 1 n n n 1+ n 1 が成立つ.各辺に n をかけて,n → ∞ とすれば,はさみうちの原理より µ ¶ µ ¶n 1 1 n · log 1 + = log 1 + →1 n n となる.したがって, µ ¶n 1 =e lim 1 + n→∞ n であることがわかる.これにより,e =2.7182818284590452· · · であることもいえる. 4. ド · ボーヌ問題の解決 最初に紹介したド · ボーヌ問題を解決する.現行の高等学校指導要領 (1999) では,微分方程式は指導しないことになっているが,ここで扱う程度の微 分方程式ならば,生徒は十分理解できると考える.また,微分方程式を用 いて問題を考察し,解決していくことの重要性も伝えたいと考える. 6. オイラーの数 e の導入についての提案 153 µ ¶ ¡ ¢ f (a) 0 a,f (a) における接線 y = f (a)(x − a) + f (a) と x 軸との交点は − 0 + a,0 f (a) であるから,すべての a に対して, f (a) =l f 0 (a) が成立する f (a) を求めればよい.ここで,簡単のため f (a) = y とする. y0 1 = とし y l て,両辺を x について積分すれば, log |y| = x x x 0 + C 0 なので, y = ± eC · e l = Ce l である. l ここで,C は任意定数である.よって求める関数は, x y = Ce l (C : 任意定数) である. 5. まとめ 1∼4 の内容をまとめると,次のようになる. ド · ボーヌ問題 求積問題 接線 µ lim n→∞ 1 1+ n 区分求積法 ¶n y= 1 の下方の面積と対数関数 x 二項定理 µ 微分方程式 オイラーの数 e = lim n→∞ 6.4 ド · ボーヌ問題の解決 1 1+ n ¶n = 2.718 · · · 本教材を用いた際の効果 数学史を取り入れる e の導入に関する教材を用いた際に,以下に述べるような 3 つ の効果があると考える. 6. オイラーの数 e の導入についての提案 154 1. 6.2 節で述べたように,e について深く理解することができること. 2. 既習 · 未習内容の理解促進につながること. a) 求積問題を解決する際に,区分求積法の考えを用いる.現行の高等学校学習指 導要領 (1999) では,積分は「数学 II」において微分の逆演算として定義される.区分 求積法については「数学 III」(3) 積分法で指導されるが,求積の考えから,積分という 概念が生まれたことを歴史的経緯の中で紹介できるのは大変有効であると考える.ま た,このことから「数学 II」で学んだ積分に対する理解も促進できると考える. 1 b) 双曲線 y = の下方の領域の面積が対数関数で表されることを紹介する.対数関 x 数は「数学 II」で指数関数の逆関数として定義される.しかし,実は l(ab) = l(a) + l(b) を満たす連続関数 l(x) を総称して対数関数とよぶことや,面積が対数関数で表される ということを知ることで,対数関数への理解につながるのではないかと考える.また, 1 後に, の不定積分が log x であることを学ぶ際の理解促進にもなると考える. x 3. 発展内容を自然な形で紹介できること. 最初に提示するド · ボーヌ問題を解決するための方法として,微分方程式を紹介す る.微分方程式は,現行の高等学校学習指導要領 (1999) では指導しないことになって いるが,ある「数学 III」の教科書 (数研出版,2004) では,最後に発展内容として紹介 している.数学の実用性という観点からも,ぜひ生徒に伝えたい内容である.また,微 分方程式を問題解決のためという自然な形で紹介できることは,大変有意義であると 考える. 6.5 まとめと今後の課題 オイラーの数 e は「数学 III」で導入されているが,筆者は,生徒の e についての理 解が十分ではないと考えた.そこで,その改善のために e の導入に数学史を取り入れ ることを提案した.e の導入に数学史を取り入れることで,e について深く理解するこ とができるのではないかと考えたからである.また,数学史を取り入れた e の導入に 関する教材の視点および概要,本教材を用いた際に得られると考えられる効果につい て述べた.e について深く理解することができること,既習 · 未習内容の理解促進につ ながること,発展内容を自然な形で紹介できることである. 今後はこの教材の具体的な指導案を作成し,実践にあたりたい.そしてその結果を 検証し,この提案が有効であることを示すことができるよう努めていきたい. また,片野 (1995) が『発見の歴史は生徒の数学への興味 · 関心を呼び起こす. 』と述 べているように,筆者も,数学史を授業に取り入れることで,数学への興味 · 関心も高 まるのではないかと考える.このことについても研究していきたい. 参考文献 [1] 大島利雄 他, 『数学 I』,数研出版,2002. [2] 大島利雄 他, 『数学 II』,数研出版,2003. [3] 大島利雄 他, 『数学 III』,数研出版,2004. [4] 大橋志津江,村田尚志,一楽重雄 他 4 名, 「高等学校の数学教育のあり方」『日本数学教 育学会誌』第 87 巻 5 号,2005,pp. 20-29. [5] 片野善一郎, 『数学史の利用』,共立出版,1995. [6] V.J. カッツ,上野健爾 / 三浦伸夫 監訳,中根美知代 他 訳, 『カッツ 数学の歴史』,共 立出版,2005. [7] 河合伸昭, 「e の導入 1/x の積分を探る」『日本数学教育学会誌』 第 88 巻 臨時増刊第 88 回総会特集号,2006,p. 391. [8] 島田敏寿, 「高校教材として関数のベキ級数展開を扱う意義とその方法」第 42 回 近畿数 学教育学会例会 発表資料,2007. [9] 杉浦光夫, 『解析入門 I』,東京大学出版会,1980. [10] 高城彰吾, 「第 89 回全国算数 · 数学教育研究 (高知) 大会基調発表:数学 III· 数学 C 」『日 本数学教育学会誌』第 89 巻 第 1 号,2007,pp. 53-54. [11] W. ダンハム,黒川信重 他 訳, 『オイラー入門』,シュプリンガー · フェアラーク東京, 2004. [12] 塚原久美子, 『数学史をどう教えるか』,東洋書店,2002. [13] 塚原久美子, 「微分積分法の指導における数学史の活用とその有効性について」『日本数学 教育学会誌』第 81 巻 5 号,1999,pp. 13-24. [14] 坪田毅, 『「無限」についての考察 - オイラーの無限級数論を通して - 』, 兵庫教育大学大 学院学位論文,2004. [15] H. デリー,根上生也 訳, 『数学 100 の勝利 vol.1 数と関数の問題』,シュプリンガー · フェ アラーク東京,1996. [16] 野崎亮太, 『道具としての微分方程式』,日本実業出版社,2004. [17] E. ハイラー / G. ヴァンナー,蟹江幸博 訳, 『解析教程 上, 下』,シュプリンガー · ジャ パン,1997. 155 参考文献 156 [18] A.J. ハーン,市村宗武 監訳,狩野覚 / 狩野秀子 訳, 『解析入門 part1 アルキメデスから ニュートン』,シュプリンガー · フェアラーク東京,2001. [19] 文部科学省, 『高等学校学習指導要領解説数学編 理数編』,実教出版,1999. [20] U. ボタチーニ,好田順治 訳, 『解析学の歴史 オイラーからワイアストラスへ』,現代数 学社,1990. [21] 松岡学, 「ベキ級数を用いた三角関数の指導」『日本数学教育学会誌』 第 85 巻 臨時増刊 第 85 回総会特集号,2003,p. 399. [22] 渡部隆一, 『テイラー展開』,共立出版,1977.