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1 - Biglobe
数のイマージュ、形のパサージュ ― 数と戯れ、図形と遊ぶ ― 伊那 34. 闊歩 オイラーの公式の不思議 前回、ひとつの重要な公式―オイラーの公式 cos x + i sin x = を導いた。この式の左辺は、2 (=360°)を周期とする周期関数、つまり 角度が 2 (=360°)すすめば元にもどる: cos ( x+2 )+ i sin ( x+2 ) = cos x + i sin x すると右辺も周期関数でなければならない: = これから、ネイピア数を底とする指数関数は = =1 でなければならない。指数関数については、その掛け算は、指数の足し算とな るから ・ = = などの式が成り立つが、ここで y = -x とおくと ・ = = =1 (0 以外のどんな数でも 0 乗すると必ず 1 になる!)したがって = オイラーの公式で、i = -i cos x - i sin x あるいは、x -x と置き換えた式がえられ る。ここで、オイラーの公式を逆に解いてみると、次のような三角関数の複素 指数関数による表示が得られる: , cos x = sin x = こうして見るとなんと三角関数は(複素)指数関数(の組み合わせ)であった。 つまり、三角関数は指数関数の1種であるといえるのだ。直角三角形の辺の比 として素朴に定義されていたものが、驚いたことにその正体は指数関数、しか も複素関数にその起源を持つとは誰が予想しえたであろうか?それに、なぜネ イピア数がしゃしゃり出てくるのであろう。不思議というほかない! オイラーの公式: cos x + i sin x で x= と置いてみる。cos = = -1、sin -1、または、 = = 0 であるから、 +1 = 0 を得る。これは、作家、小川洋子の『博士の愛した数式』(後に映画化された) として有名になったが、昔から神秘的な数式としてよく引用されていたのだ。 数学でもっとも重要な 2 つの定数:円周率 とネイピア数 e 、それから数字 の加減算のゼロ元 0 、掛け算割り算の単位元 1 と虚数単位 i が無駄なくコン パクトな等式の中につめこまれていて、神秘的である。 この等式からさらに変な数式を出してみよう。両辺を = - i 乗すれば = 23.140692632779・・・ となる。左辺は計算出来ない数であるが、それを右辺の式で定義するのである。 この数は、ロシアの数学者ゲルフォントにちなんで、ゲルフォント定数とよば れている。面白いことに - = 19.99909997918947・・・ は数字 20 にものすごく近い数であるが、単なる偶然で数学的には何の意味もな いと思われる。また、オイラーの公式で x = / 2 とおけば、 i= となって、さらに – = = = 0.2078314・・・ こうして、あやしげな数式がぞくぞくでてくる。マイナス 1 の虚数乗が実数に なるのも疑わしいが、虚数の虚数乗がまた実数になるというのはいよいよ信じ がたいと思われないだろうか? これらの式は、オイラーがすべて導きだして いるのだ。しかしこのあたりの計算は複素関数の多価性についての深い知識を 必要とする。たとえば、単純に をとると = = の複素共役( i ) となるはずであるから、2 つ掛け合わせてみると =1= = 46.28・・・ となって矛盾におちいる。このあたりを不用意にふらつけば、地雷をふまされ ることになるのだ。 レオンハルト・オイラー( 1707-1783 )はバーゼルに生まれ、成人する 前すでに、その並々ならぬ数学の才能が広く知れわたっていたのであろう。19 歳の時、ロシアアカデミーに招聘され、ペテルスブルクに移り住み、同地で研 究生活を送った。1741 年、ベルリンアカデミーに招かれて、25 年間ベルリンに 滞在、その後ふたたびペテルスブルクに帰る。28 歳の時、右目を失明し、ペテ ルスブルクに帰った直後に左目の視力も失い、全盲となりながらも 76 歳で没す るまで精力的に研究を続けたといわれている。 その研究は、微分積分、複素関数、楕円関数、変分法、整数論、位相幾何、 力学、流体力学など非常に広範にわたる。書き続けた論文は生涯、1000 編に及 ぶといい、現在もなお全集が完結していないらしい。ただ、厳密性をあまり重 視しなかったようで、オイラーの公式を導く際に、極限値をとるなどというま だるっこしいことはせず、無限大数 N を想定して計算するのである。また、オ イラーのメモには 1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1・・・ = 1-2 + 3-4 + 5-6 + 7-・・・ = などの(ばかばかしいような)オイラーの公式が記されてあったという。 参考文献:高木 貞治「近世数学史談、数学雑談」(共立出版)