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Title 社会学の中心と辺境 : 家族社会学と教育社会学 Author 渡辺, 秀樹

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Title 社会学の中心と辺境 : 家族社会学と教育社会学 Author 渡辺, 秀樹
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社会学の中心と辺境 : 家族社会学と教育社会学
渡辺, 秀樹(Watanabe, Hideki)
三田社会学会
三田社会学 (Mita journal of sociology). No.1 (1996. ) ,p.14- 15
Journal Article
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AA11358103-199600000014
三 田 社 会 学 創 刊 号(1996)
社 会 学 の 中 心 と辺 境
一家族社会学 と教育社会学一
渡辺 秀樹
1.教
育 社会 学 の辺境性
特 集 のテ ーマ に一般的 に答 える準備 がな い の で、私 自身が関 わ って きた社会 学 の下位 領
域 で あ る教 育 社 会 学 と家 族 社 会 学 を 念 頭 に お き な が ら、 と く に 家 族 社 会 学 は い ま 、 何 を な
す べ き か 、 自 戒 お よ び 自己 反 省 を込 め て 、 述 べ さ せ て い た だ き た い 。
教 育 社 会 学 者 の 天 野 郁 夫 氏 は 、 教 育 社 会 学 紀 要 『教 育 社 会 学 研 究 』 第47集(1990)に
、
「
辺 境 性 と境 界 人 性 」 とい う短 文 を 寄 稿 して い る(こ れ は 、 最 近 刊 の 『日本 の 教 育 シ ス テ
ム 』 の あ とが き に 再 録 され た)。 彼 に よれ ば 、 教 育 社 会 学 は か つ て も、 そ して 今 も辺 境 に
あ る と い う。 教 育 社 会 学 は 、 教 育 学 の 辺 境 に あ り、 同 時 に 社 会 学 の 中心 か ら も遠 い 。 教 育
社 会 学 会 に お い て 、 教 育 社 会 学 とは 何 か を 問 い 、 そ の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 問 う作 業 が 頻 繁
に繰 り返 され た の も、 この 辺 境 性 に 起 因 して い る 。 上 述 の 短 文 も 、 『教 育 社 会 学 の 批 判 的
検 討 』 とい う特 集 に 載 った もの で あ る 。
天 野 氏 は 辺 境 に あ る境 界 人 の ポ ジテ ィ ブ な 面 に 注 目 す る 。 す な わ ち 、 辺 境 に あ る が ゆ え
に 持 つ ア ン ビ ヴ ァ レ ン スや コ ン プ レ ック ス を 抱 え つ つ 、 中 心 か らの 自由 が も た らす 革 新 性
や 創 造 性 を境 界 人 は持 ち うる、 とす る。 そ して、 教 育 学や 社 会 学の 中 心 に 向 け て フ ロ ンテ ィ
ア を創 出 して い く、 とい う戦 略 が 教 育 社 会 学 が 、 独 自 の 研 究 領 域 と して 確 立 す る た め に と
ら ざ る を え な か っ た 、 そ して と っ て き た も の で は な か った か 、 と述 べ て い る。
日本 の 教 育 社 会 学 が 、 他 の 社 会 学 の 領 域 と 較 べ て 、 近 年 、 活 気 に 満 ち 、 生 産 性 に 富 ん で
い る と評 価 す る の は 、 私 だ け で は な い だ ろ う。 そ の 魅 力 的 な 研 究 領 域 と して 発 展 して き た
理 由 の 大 き な 要 因 と して 、 この 辺 境 性 ・境 界 人 性 が あ っ た と考 え られ な い だ ろ うか 。 常 に
自 己 を 相 対 化 し、 反 省 す る しか な か った の で あ る 。
2.家
族社 会 学 の中心性
他 方 、 家 族 社 会 学 は 、 日本 の 社 会 学 の 常 に 中心 に あ っ た。 戦 前 か らの 重 厚 な 研 究 蓄 積 を
わ れ わ れ は す ぐに 思 い 浮 か べ る こ とが で き る 。 そ れ らは 、 家 族 社 会 学 の み な らず 、 社 会 学
全 体 の 発 展 に 貢 献 し、 そ の 発 展 の 様 相 を 規 定 しさ え した 。 この 中 心 性 が 、 家 族 社 会 学 の 現
在 の 問 題 と大 い に 関 わ っ て い る と考 え る こ と は で き な い だ ろ うか 、 とい うの が この 小 論 の
問 題 意 識 で あ る 。 家 族 に 関 す る 議 論 は 沸 騰 し て い る 。 しか し、 家 族 社 会 学 は(と
りあ え ず
私 自身 も参 加 して い る 家 族 社 会 学 会 に 限 定 す る)、 は た して 活 気 に 満 ち て い る だ ろ うか 。
残 念 な が ら、 自信 を 持 って 肯 定 す る研 究 者 は 多 く は な い だ ろ う。
14
特集・
社 会 学 は い ま、何 をな すべ き か
家 族 と は 何 か 、 とい う定 義 論 は繰 り返 し議 論 の 姐 上 に の ぼ る 。 と こ ろが 奇 妙 な こ と に 、
家 族 社 会 学 と は 何 か 、 とい う この 学 問 自体 に 対 す る 問 い か け が 家 族 社 会 学 会 の な か で 、 取
り上 げ られ る こ とは 少 な か っ た(91年
の学会 設立記 念 の大会 のみ が 関連テ ーマ を掲 げて い
る)。 こ の こ と は 、 家 族 社 会 学 が 学 会 とい うか た ち で 活 動 を は じめ て 、 まだ10年 に 満 た な
い 、 とい うこ と と も関 係 して い る 。 家 族 そ の もの が 揺 さぶ られ て い る と同 様 、 家 族 社 会 学
の ア イ デ ン テ ィ テ ィ も 、 激 し く揺 さぶ られ て い る こ と を 自覚 しな け れ ば な らな い は ず だ
。
〈 家 族 社 会 学 の 社 会 学 〉 が 必 要 な の だ が 、 学 会 が な けれ ば 、 そ れ ぞれ の 研 究 者 が 家 族 と い
う 自 明 の 前 提 に 立 っ て 個 別 的 な テ ー マ を 堀 り進 め る 以 外 に な い 。 社 会 学 の 下 位 領 域 の 学 会
と して ・ 学 問 の 領 域 と して 自 己 反 省 す る 場 が 無 か った の だ 。 あ る い は 、 そ の 必 要 性 を 感 じ
な か ったのだ 、 ともい える。
3.中
心 か ら境 界 へ
家 族 社 会 学 が 社 会 学 の 中心 領 域 と して 、 多 くの 業 績 を あ げ て き た こ と は 疑 い もな い こ と
だ が 、 しか し、 そ の こ との 潜 在 的 な 帰 結 と し て 、 学 問 的(知 識 社 会 学 的)反 省 を や や も す
れ ば 軽 ん ず る こ と は な か った で あ ろ うか 。 『家 族 』 の(あ
る い は 『パ ラダ イ ム 』 の)存
在
の 自 明性 の 上 に 学 問 的 営 み を積 み 重 ね て き た 、 と い う こ と は な か った だ ろ うか 。
中心 は ・ 確 固 と した 固 定 的 な ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 固 執 しや す い 。 しか し、 社 会 は 、 そ し
て 家 族 は 、 激 しい 変 動 の 渦 中 に あ り、 揺 れ 動 い て い る 。 中 心 が 空 洞 化 し、 辺 境 が 活 性 化 し
て い る 、 と も表 現 で き る 現 実 が あ る。 家 族 に つ い て の 興 味 深 い 議 論 が 、 家 族 社 会 学 会 の 外
=辺 境 で 見 られ る こ と も、 こ れ ま で 多 か っ た 。 現 実 の 家 族 の 揺 れ に敏 感 に 反 応 した の は
、
家 族 社 会 学 の ア イ デ ンテ ィ テ ィ や 家 族 社 会 学 の パ ラダ イ ム か ら 自由 な"非"家
族 社会 学 者
で あ っ た と して も不 思 議 で は な い 。 彼 らは 必 ず し も家 族 社 会 学 会 に 入 会 しな い の だ が 、 こ
の こ との 意 味 を 真 剣 に 考 え な け れ ば な らな いだ ろ う。
家 族 社 会 学 に 必 要 な こ とは 、 中心 的 な ア イ デ ンテ ィ テ ィ に 固 着 す る の で は な く、 新 た な
フ ロ ン テ ィ ア を 求 め て 境 界 に 向 か う こ と で あ ろ う。 家 族 社 会 学 自体 を 、 中心 で は な く境 界
領 域 に 置 く こ とで 、 学 と して の 自省 能 力 を 高 め る こ と。 マ ー ジ ナ ル ・マ ン と して の 緊 張 感
の な か で 、 引 き 裂 か れ た 自 己=引 き 裂 か れ た ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 耐 え 、 相 対 的 で 複 合 的 な
視 線 を 持 ち 、 変 化 に 対 応 的 な 革 新 性 と創 造 性 を 獲 得 して い く こ とで は な いだ ろ うか 。
1995年 秋 の 家 族 社 会 学 会 大 会 の シ ン ポ ジ ウ ム ・テ ー マ は 『家 族 社 会 学 の 新 しい 地 平 』 で
あ った 。 私 は そ の 司 会 を 担 当 した が(『 家 族 社 会 学 研 究 』 第8号 参 照) 、 シ ン ポ ジ ウム が
成 功 した か 否 か は と もか く、 学 会 と して 、 ア イ デ ン テ ィテ ィ を 模 索 しよ う とす る 機 運 が 高
まっ て き た の だ と捉 え た い 。 家 族 社 会学 が 重 要な 転 換 期 を む か え て い る の は確 か な こ とだ 。
(わたなべ ひでき 慶磨義塾大学文学部)
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