...

食道静脈瘤の病態と治療

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

食道静脈瘤の病態と治療
日消外会議 20(9)i2063∼ 2071,1987年
会長講演
食道静脈瘤 の病態 と治療
愛知医科大学第 1外科
山 本
貞
博
ON THE PATHOGENESIS AND TREATMttNT OF BLEEDING
ESOPHAGEAL VARICDS
Sadahiro YAMAMOTO
Departrnent of Surgery,Aichi Medical I」
niversity
食道静脈瘤 の外科的治療 として,過 去30余年間に 自験 した術式 の変遷 についてその根拠 と成績を中
心に報告 した。
端側門脈下大静脈吻合術 154例の経験 は,術後肝性脳症 の防止,生存率向上のため,胃 上部切除術130
例をは じめ とす る盲 目的直達手術 への転換を生 じ,一 応 の成果を上げた。
さらに手術による静脈瘤 の消滅を客観的 に実証す るため術中内視鏡使用で直視下直達手術 に進み,
80症例を重ね,そ の70%で 長期安定 した成績を確保 した。
再発静脈瘤 は硬化療法併施 で好結果が維持 され るべ きで,ま た手術不適応例 では改善 した塞栓療法
と硬化療法併施を妥当 とす る.
索引用語 !門脈圧元進症,食 道静脈瘤,直 視下直達手術,胃 上部切除術,門 脈下大静脈吻合術
I. は じめに
消化器外科学 の領域 において,古 来 の研究業績を基
盤 にした最近 の診断法,治 療法 の進歩 は極 めて急速 で
あ り,技 術的な観点 に立てば,ほ とん ど不可能はない
程 の水準 に達 した。
食道静脈瘤 について も,古 典的な症候学 か ら Banti
症候群へ,さらに門脈圧元進症へ と発展 した病態観 は,
瘤や,手 術適応外 の症例 には側 副血 行基栓法,内 視鏡
下 の硬化療法 な どを総合的 に適用す るに至 った.
ここには,現 在 の発展 を支 える歴 史的背景 の一 部 に
触れ る とともに,私 ども自身が経 験 して きた 食道 静脈
瘤 の外科的治療法 の,変 遷 と決 断 の過程 を,臨 床成績
に も とず いて概 説 し,現況 と展望 につ いて論 を進 め る。
EI.歴 史的背景
外科的治療 の対象を,腹 水か ら陣腫貧血へ, さらに食
道静脈瘤 出血へ と変換 して きたが, これ らの過程 には
先人 による膨大な業績 と,す ぐれた予見 が残 こされて
三 大主徴 は,症候学的 に最 も容易 に視診 され る腹水 が,
いる。
DrurIImond,Morrison(1896)が試 み,Talma(1898)
私 どもは,肝硬変 の腹水 には大網固定術を,Bantiの
障腫貧血 には陣摘除術を適用 した古典期か ら,門 脈圧
が成功 した大網 固定術 の理 念 には,大網血 行を介 して,
門脈床 の うつ滞 血 を大循環系 に短絡す る 目的 が あ り,
元進症 に対す る血管吻合減圧手術を経過 した後,食 道
静脈瘤 に対す る直達手術 に転換 し,現 在 では さらに直
当時す で に Cilbert(1899)は腹水圧 の実測 か ら portal
hypertension syndromeの概 念 を 展 開 して い た (図
違手術 の直視下手術化を実現す るとともに,再 発静脈
ホ第29回日消外会総会
<1987年 6月 6日 受理>別 刷請求先 :山本 貞 博
〒48011 愛 知県愛知郡長久手町大字岩作字雁又21
愛知医科大学第 1外 科
AI門 脈圧元進症 にお け る腹 水,薦腫,食道静脈瘤 の
極 め て 古 く か ら 検 討 さ れ た と 云 って よ い 。
1 ) .
1 9 0 3 年V i d a l I ) は
が じめて臨床例 において端側 門脈
下大静脈吻合術を実施 したが, 古 文献を要約す ると,
3 4 歳, 男 , ア ル ヨール硬変で腹水 があ り, そ の治療中
に消化管 出血を生 じた。 これ に T a l m a 手 術を行 うベ
2(2064)
食道静脈瘤 の病態 と治療
日消外会誌 20巻 9号
図 2 病 態観 と治療法の変遷 (II)
1950
55
60
65
70
75
00
古
典
期
│
85
3
EiS
-38
陣摘手術後 に食道静脈瘤 出血 を生 じた16歳少女例 に,
Quinine,Uretanの 少 量頻 回 の 静脈 瘤 内注入 を食 道 鏡
く開腹 したが,大 網 の退縮 のため手術不能。そ こで実
験的 にイ ヌにおいて Eck(1877)力 瀬J側吻合法を創案
下 に反復 し静脈瘤消失 に至 った こ とを記 録 したのは重
要 で あ り,ま た前後 して Westphal(1930)は Gottstein
し,Tansini(1902)が 端側吻合法で実施 した門脈下大
静脈吻合 の方法を導入, ゴ ム管を装着 した鉗子を用 い
管,Rowntree(1940)は
て門脈幹を切断 し,下 大静脈 の前壁 に吻合 した。手術
時間 1時 間15分で,術 後 にはすでに Pavlov(1893)が
な影響 を残 した。
指摘 していた Eck痩 犬 の肉中毒,現 在 の術後肝性脳症
を防 ぐために食事蛋 白を制 限 して,こ の腹 水硬 変,
Child Cの症例を約 4カ 月間腹水 と消化管出血 な しに
生存 させ る とともに,こ の手術 は腹 水 よ りもむ しろ
うっ血性の消化管出血 すなわち食道静脈瘤 出血の治療
に意義 があろ うと指摘 した ことが記録 されている。
M也 1ler,Abott管を用 いて 出
血 静rR瘤 の圧迫 止血 に成功 し,後 の進歩 と工夫 に大 き
Cilbertら に は じ ま る portal hypertensionの 概 念
は,そ の後 の検 討 を経 て Mcindoe(1928)に よ りは じ
めて体系化 され る とともに,そ の一 括 治療 には血 管 吻
合減 圧 手術 を妥 当 とす る こ とが 提 唱 され た。 しか し
Vidalの 故事 を知 る Mayo(1924)は 肝硬変症例 に解 摘
と大 網 固定 の併 用 を賞 用 し,そ の 後 の 実 証 と展 開 は
Whipple一 門 の Columbia大 学 に移 った。
触診診断を要す る牌腫については,貧 血 との関連は
Cretzel(1866)の記録 にさかのぼるが, この病態を追
求 した Bantiは陣性貧血の精査 か ら,厳 選 した 自験50
症例 を集績 して,独 立疾患 としての Banti病 を提案
牌 静脈 圧実測 に よる門脈 圧元進 状態 の確保 ,門 脈 圧
元進症 の病型 分類,Vitallium tubeによる無縫合門脈
(1910),牌腫貧血期,移 行期,腹 水期 と三期 の経過 を
梅毒 のごと くた どる進行性病変 とした。Banti病の独
き,先 の硬化療法や Phemister(1947)には じまる直 達
"any procedure of a surgical
手術 の意義 を覆 いか くし
立性が否定 され,同 名症候群 に変遷す る過程 で,Banti
nature that does not pemanently reduce portal
下大静脈 吻合法 の成績発表 と手縫 吻合,血 管鉗子導 入
な どの主 導 的 な活 動 は比 の領 域 の 外 科 に新 領 域 を開
が極 めて綿密 に網羅 した臨床症状 の記述 は,そ のまま
hypertension can only be considered a telnporaly
門脈圧元進状態下 の諸症状を正確 に とらえていたた
め,長 期 にわた り,Banti症 候群 と,門 脈圧元進症 とが
measure"A,O.Whippleと す る了 解 が広 く浸透 した の
は周知 の ところで あ る。
B:ひ るが え って,私 ども名古屋 グル ー プの歴史 は,
図 2の ご とく,Bantiの 腺腫 には陣摘,肝硬変 の腹水 に
同義語 のごとく混同,誤 認 されるところ となった。
食 道 静脈 瘤 の 認 識 は,体 壁 で 容 易 に観 察 で きた
caput medusaeの 記録 に くらべ は なはだ遅れてお り,
は大網固定 を行 っていた古典 期 は,1955年 第 1号 の端
音J検記録では Power(1840)の 記述には じめて現われ,
側 門脈下大静脈 吻合術 の実施 以後 は,門 脈圧元進症 の
Preble(1900)の 肝硬変屍検討で系統的な記録 に移 っ
た。一方その臨床観察 は Roentgen線 の発見(1895)と,
Waldenberg(1868)に は じまる内視鏡観察 で可能 に
なったが,Killian(1900),Jackson(1925)の 食道鏡
病態観 と血 管 吻合減圧手術 に よる治療 の時期 に転 換 し
改良 は,Crafoord(1939)の 硬化療法を誘導 した。当
時 の新知識,新 技術開発 の気運 の中で,Crafoordら は
た 。 しか し症例 を重 ね るに及 び,後 肝炎性肝硬変 を背
景 にす る 自験症例 において,古 くVidalが指 摘 した肝
性脳症 が高率 に重篤化 しその対応 に苦慮す る頃,私 は
南 カ リフオル ニア大学 Liver Unitへ
派遣 され,日 米肝
病変 の臨床を比較体験 した。そ こに見た肝硬変 の成因
3(2065)
1987年 9月
表 1 門 脈下大静脈吻合術 の症例構成
と病態 の差 は余 りに も大 き く,重 篤 な術後肝性脳症 の
合併 を防止す るには,血 管 吻合減 圧法 か らの徹退 の他
はない こ とを知 り, こ れが第64回 日本 外科学会 にお け
る今永 力教授 の会長講演 で の,門 脈 圧元進 症 に対 す る
減圧手術 の放棄 と,食 道静脈瘤 に対す る直達手術 へ の
大転換 を生 じたのであ る。
高圧 の 問脈循環 を,病 的肝 の循環 と機能 に必 要 な条
病 型
傷 J名)
症
手輛 呼
生令
例
冶1 4 8 T s
f
治1 13 Tt r
消滅 状態,遺 残 と再 発状態 には盲 目的手術 のため に,
治1 21 Rh f
治1
転 帰
活死
経
生存
出血 死
出血 死
4・ 6
4・ ―
一 ・9
6 0 1
行後 死
::膜″ 8酎
大 きな疑 間を残 して きた。手術 に よる静脈瘤 の消滅 を
治 109,Ml
予 1142 Fh
視観察 を開始 し,静 脈瘤 の遺残 を根絶す るに至 り,そ
予1
15・ 1
●P C A ●
S―
SRA
O9 〕
VaS
7。 一
治1 161RS
5
日切後出血 ●PCA OS― SRA―DeVaS
27
将 1351 rm
め に,1978年 以降 は手術 中 の食道鏡 に よる静脈瘤 の直
の術後追 求 では,何 時,何 に よって, ど の よ うに静脈
過
●PCA●S―
SRA ●CHte OP8X 9ta
予 打411 Ss
率 の 向上 に成果 をお さめて きたので あ るが,静 脈瘤 の
実証 し, よ り長期 の安定 した静脈瘤消失 を維持す るた
11/25
表 2 吻 合孔機能不全,除 外例の経過
日
在
.
師生
型 の あ る胃上部切除術 を定型化 し,脳 症 の防止 と生存
10/36/30
14/69/71
計
した 。
しか し, Phemisterに は じま り, Hunt(1956)ヤ こ原
生 存
4/33/41
堅
生
‖
!
螢
1岸
撃
);:帯
断言 に対す る反逆 を意味
環外例
江死 亡
/閉 塞
栗/待 /予
帥 1撫
冊品
件 として減圧 をはか ることな く,外 科的手技 に よって
静脈瘤 の 持続的消失 をはか るのは,明 らかに矛盾 へ の
出発 で あ り,ま た Whippleの
時 期
手 術例
46
S t
予1 141Rm
1・ 5
1・ 3
― ・3
肝不全死
事故 死
肝不 全死
●PCA口 S―SRA
●PCA口 S―Devas
ttn
●PEA BS
術後 死
術後 死
肝不全現
瘤 が再発 し うるか。 またその対策 は何 か と検 討 して き
た。 さらに,自 動 吻合器 の導入 は供 血血 行 の郭清後 に
の 5例 のみ には上腸間膜 静脈 の縫縮 な どの付加手技 で
おけ る胃上部 の切 除吻合手技 を簡 明化 し,ま た硬化療
法 の導入 は手術適応外 の重症例や,術 後症例 の一 部で
改変 が試み られて きた 。
避 け難 い再発静脈瘤 の処理 に道 を開 いてい る.
待期)手 術 83,予 防手術 71であ り,初 期例 には腹水硬
III。手術療 法 の成績
PCAの 症例構成 は表 1に 示す ごと く,治 療 (緊急 ・
変 も手術 を適用 され ていた。
病態観 の変遷 はまた 治療手術 の変遷 で あ り私 どもの
吻合孔 の開存率 は84%で ,25例 には狭窄,閉 塞 を生
記 録 に も極 め て 多 岐 にわ た る術 式 の模 索 を残 して き
じ,そ の うち術死 を免 がれて後 日他 の手術療法 を追加,
別枠 に移 して除外 した11例があ った 。PCAと して追求
た 。し か し基 本的 には門脈下大静脈 吻合術,胃 上部切
除術,直 視下直達手術 の三 者 が主 体 で あ り,そ れぞれ
に手術理 念 に差が あ リー 律 な比較 は困難 で あ るが, こ
こにはそれぞれ の長期成績 と事実 につ いて要約す る.
A:端
の143例は非硬変性肝 内型,IPO(intrahepatic portal
vein obstruction)が
73例で,既 死亡65,生 存 中 8が あ
り,一 方肝硬 変性 の IHO(intrahepatic hepatic vein
obst.)の70例はすで にす べ て死亡 してい る。
側 門脈下大静脈吻合術 の成績
門脈圧元進症 の病態観 には,高 圧 にな った 門脈 の静
吻合孔 が機能 せ ず,追 加手術 を加 えて除外 した11症
脈圧 がす べ ての関連症状 の原 因であ り,血 管 吻合減圧
例 は表 2の ご とき経 過 で あ り,追 加手術後 10年を こえ
術 が腹水,障 腫,食 道静脈瘤 のいず れ に も効果的 には
た ら くはず だ とす る基本的 了解 が あ る。理想的 な血管
る生 存 4例 (内 1例 生存 中)が あ り, 4年 以上 3, 1
年 以上 2, 1年 末満 2で あ った。 これ ら症例 で は反復
移植,肝移植 な どに よる治療 がなお望 み えぬ時点で は,
性 の術後肝性脳症 が な く,代 りに静脈瘤 出血や終末像
自然発生的 な門脈 副血 行路 を手術 に よって模倣 し良好
としての肝不全 が死 因 に重要 な役割 を果 していた点が
な結果 を期待 す るのが当然であ り,血 管吻合減圧法 が
注 目され る。
誘発す る重 篤 な合併症 につ いて は未経験,未 知 の まま
を示す もので,術死 または早期死亡 は肝硬変群 に多 く,
適 用 の時 を迎 えた。
私 ど も の 端 側 門 脈 下 大 静 脈 吻 合 術 (PCA)は
図 3は PCA吻 合孔 開存 追 求 143例の長 期 生 存 期 間
,
1955∼ 1963年 の 9年 間 に154例 中149例 が集中 し,以 後
また肝硬 変群 の生 存期 間 は 朔 らかに短 か く,生 存例 も
残 して い な い。術後転換 のため ,非 硬変群 中 8生 存例
4(2066)
食道静脈癒の病態 と治療
図 3 端 側門脈下大静脈吻合術 の長期成績
日消外会議 20巻
9号
表 3 死 因 と脳症合併 (除外例 ,術 死を除 く)
非硬 変辞 73例
8生存,85死亡
( 吻合 閉と 5 除 外 )
表 4 長 期生存例の特徴 と状態
予 1
28
折
治 133‖
Hm 1
m
予i54Hm
HOE I:!P873例
―
性
手術 時
年令
5一
例
〇
1 一
4
0
0
図 1
門脈下大静脈吻合術後の長期生存率
左
lo三
29・ ―
27・一
f
予 1 79 XR
f
Sa f
予1149'│
肝,時 機 能障害 ,Caroli病
町血圧 ,脳 出血 .晴 陣 替
百 血圧 1泊 化 性減 お
】
‖F∼PBI 腎障 害,自 己免疫 皮 ふ疾 B
腎障 害 ,軽 度 PSE
高 血圧
11二
f
経 過 ・現 況
肝所見
肝・
腎使 能障 害 ,軽 度 PSE
3一
予 i780h
治1147
29・ 9
26・ 4
予 i63 Rl
E:‖870傷
衛 後
生 ・月
22・ 5
聴 尿病
期 か ら重篤化 し,消化性漬瘍 や腎不全 な ども重 視 され,
一 方 IPOで は
,主 体 の肝不全 は発現時期 がか な り延長
遅延 した他,心 肺病変脳 出血 な どが消化性 漬瘍 ,腎 不
の期 間 はす べ て20年を こえ30年未満 に分布 した 。
非 硬 変 群 で は 生 存 期 間20年 以上25,10年 以 上 で は
42(57%)で あ ったのに くらべ ,肝 硬変群 の20年以上
全 を上 まわ った。
に
注 目す べ き点 は癌死症例 が あ りなが ら,肝 癌死 を認
め なか った こ とで あ り,門 脈 血 の肝流通 を断てば,肝
す ぎなか った。 これ らを精査す る と肝 硬変例 ではいづ
再生や発癌機構 に変化 を生 じ うる事実 を示 していた。
れ も特異 な背景 が あ って進行性 に乏 し く機能保持 の 良
合併症 としての術後肝性脳症 は,IHOで 早期 か ら重
篤化 したが,IPoに おいて も,程 度 は軽 く,発 現時期
は 1例 のみで,10年 以上 ではわ ず かに 5(7%)例
か った こ とが知 られ,特 に20年を こえた 1421は急性 の
肝 静脈 血 栓 由来 の Budd‐Chiari症候 を呈 し PCAに
も遅 いのは事実 で あ るが,経 過 とともに確 実 に重篤化
し,IHOと IPOの 両者 の差 は,形 腺 的 に手術時 におい
図 4は この結果 を生存 率 に改 めた もので,20年 まで
の成績 はすで に確定 した,肝 硬変群 では,手 術 関連死
度 に差 を示す とはいえ,原 因機構 としては,後 肝炎性
病変 として 同一 の ものが大多数 で あ った事実 と良 く符
合 した 。
よ
る肝 うっ血解 除 が,著 明な状態改善 にはた らいた こ と
が知 られてい る。
亡 は30%に 近 く, 1年 生存 は50%以 下 で,例 外的症例
の他 は10年以内 に死亡 し,欧 米 の諸成績 よ りも明 らか
に重篤 な病 態 を示唆 した。 一 方非硬 変性 の症例 の結果
は 欧 米 成績 よ りす ぐれ て いた とは云 え,IPOを IHO
と鑑別 す る接 点 に問題 が残 され ,術 前 の予測判 断 は極
めて 困難 な こ とが知 られて い る。
表 3は PCA後 の直接 死 因 を検討 す る とともに,術
後 肝 性脳 症 の合併状態 を硬 変群 IHOと 非 硬 変 群 IPO
で対比 した もので あ る。
術死 を除 くと,IHOで は肝不全 が 主体 にな り術後早
て肝硬変 と非硬変性肝線維症 として,輪 状結節化 の程
表 4は 長期 生存 中 の 8症 例 を示 し,そ の特徴 を検討
した もので あ るが,先 ず手術 時 の年齢 が共 通 して小児
または若年 で あ ったのは 当然 として,肝 形態変化 が極
めて特 異であ った 。す なわ ち,手 術 時 にはほぼ正 常肝
に 近 い 線 維 症 と しか知 られ て い な か った Ferronや
Kerr(1961)以 来 の病態 Congenital hepatic fibrosis
(CHF)先 天性肝線維症 や,Caroli(1964)病 ,あ るい
″
よasymptomatic prinary biliary ciIThosis不顕性
P B C な どと一 連 の, 極 めて特異 な, 進 行性 の乏 しい非
5(2067)
1987年9月
硬 変性肝線維症 が主 因 にな っていたので あ る。 門脈 枝
と肝 内 を並 走 す る胆 道 系 に生 じた von Meyenburg
らよ り恒久化す る余地 を無 しとしないはずで あ る。
肝 内型 の問脈圧克進症例 を主対象 に して,食 道静脈
complexを 典型 とす る異 常 が原 因で,門 脈鞘 に限局す
瘤 の血 行 を精査す る と,ま ず供 血 経路 としては,胃 上
る線維化 を生 じ,sinusoid前 の 門脈 血 流抵抗 とな って
部 の小弯側 に左 胃静脈 が あ り,大 弯側 には数本 の短 胃
まず 門脈圧元進症状 としての陣腫や,食 道静脈瘤 の 副
血 行路形 成 を顕性化 し,手 術治療 に至 った症frlで
あっ
静脈枝 が陣 門 と通 じてお り, さ らに後壁 では無名 また
は後 胃 とも呼ぶ べ き不 規則 な副血 行路 が膵体尾部 の牌
た。肝障害度 は軽 く安定 した ままで,胆 道系 の異常 を
静脈 に通 じ, この領域 の血 流方 向を変 え,逆 転す ら生
顕性化 しないまま,若 年 時 のため手術 に よる門脈 血 流
じて い る(図 5),胃 上部粘膜下 には, 自在 の交流 とし
変換 に良 く耐 え,ま た順 応 した と判 断 され, また 合併
す る 胃の異常,高 血 圧 な どの病態 に も対応 し廷 命 して
て R o u s s e l o t が才
旨摘 した F u n d i c v e n o u s p l e x u s が
あ
い る こ とが知 られた。
り, うつ滞 血 の供給 に よ り拡大拡張す る。
局所 血 行 は,下 部食道 胃上部 の組織連続性 が そ の ま
この よ うな延命例 の事実 はあ って も,後 肝炎性 の肝
ま血行連続性 とな り,横隔 の食道裂孔 を通過す る際 に,
線維症,肝 硬変 が主体 とな るわが国の肝 内型 門脈 圧克
血 流 は粘膜下 に集中 して上 行す る こ とにな る。漿膜側
進症 では,術 前 にお け る例 外的症例 の鑑別 が 困難 な こ
お よび筋層間 な どに も静脈 網 が発達 し,交 通枝 に よっ
ともあ って,再 び血 管 吻合減圧手術 が 治療法 とな る余
て相互間 の交流 が 自由 にな ってい る。
地 はほ とん どない と云 うこ とがで きる。
静脈瘤 の排 出側 は,通 常 は奇 静脈 か ら上大静脈 に通
B:胃 上部切 除術 の根拠 と成績
じるが,症 例 に よ り奇 静脈 排 出が制 限 され る と頭部 静
1)静 脈瘤 血 行 と直達 手術
脈 か ら上大静脈 を発達 させ る ものが あ り,ま た ほ とん
門脈減圧手術 PCAで は,腹 水 の軽減,陣 腫 の縮小,
ど奇静脈 に流 出で きず専 ら頸部 静脈 に排 出す る症例 も
静脈瘤 出血 の防止 が可能 になる。 しか しその反面 で肝
多 い。 これ ら排 出側血 路 の特徴 は,粘 膜下静脈瘤 の存
病変 の程 度 に応 じて遅 かれ 早 かれ,重 篤 な肝性脳症 の
在範 囲 と密接 に関連す る他 ,直 達手術後 の血 行再開,
静脈瘤再発 の頻 度 とも関係 の あ る こ とが知 られ るよ う
合併 を避 け難 い。
直達手術 の選択 は,高 圧 の問脈 血 流 を病的肝 の機能
維 持 に必要 な順応条件 として とらえて これを減圧す る
にな って い る.
さて この よ うな静脈瘤 の血 行 を,門 脈圧 を下 降 させ
こ とな く,直 接的 な手術操作 を静脈瘤血行 の局所 に加
る ことな く。長期 にわた り直達手術 で管理す るには,
え, これ を遮 断消失 を はか る ことに な る。 当然非減圧
手 術 で あ る以上 Whippleが 指 摘 した 一 時効 果 にす ぎ
まず供血側の血行を十分に郭清 し,再 開の道を閉す こ
とであ る。本来 はご く細小な静脈回路 が,門脈血の うっ
な いのが基本効果 にな るが,重 篤 な肝性脳症 の合併 を
滞 のため粗大な副血 行路を作 るのであ り,そ の発生母
体組織を含め,綿 密広範 な切除処理が必要 な ことは明
防 ぎえれ ばその意義 は大 き く,ま た方法 の模索 に よっ
ては,静 脈瘤消滅 の頻 度 を高め,そ の効果 を一 時的 か
図 5 供 血側血行模式図
平
早
播
錦 繹t鸞 │
1瀕訓 結 亀
らかである。次には,組 織連続性を血行連続性 に変 え
た局所 の血行 の処理法 としては,区 域切除あるいは完
全な切断を上流寄 り胃上部に加 えて後再建 し, ここに
生 じる赦痕織の抵抗で血流再開を防止すべ きで あ り,
不完全 な離断,部 位選択 の誤 で,再 発や遺残を招いて
はな らない。 さらに排出血路 は温存 して必要充分であ
り,あ えて損傷すれば奇静脈排 出回路 が断たれ,静 脈
瘤再発を容易 にす るのみで無益であ る。
目上部切除術は供血側血行処理を陣摘除 と胃上部周
囲血行郭清 によって充分 に行 い,次 いで局所血 行処理
を下部食道 胃上部 において幅4cm程 の区域切 除 で確
実 に行 う術式 であ り,改 変の余地 は 胃上部 の全周全層
の切除 について,最 小限 の組織切除 に当る完全横断 と
再建 に改め うる。 しか し血行郭清 は綿密広範 が必須で
あ り,簡 易化を望みえないので ある.
6(2068)
食道静脈瘤の病態 と治療
表 5 門 脈圧元進症 の病型 と血流抵抗 の局在
大分 類
組 分 類 r 襲
閉
a !碑
II肝
前性
静脈
b i障 静脈 ・門脈
II肝
肝 内性
絵性
alジ
ヌソイ ド前
01ジ
ヌツイ ド前 ・後
Ciジ
ヌ ツ イ ド後
a !肝
静脈
1 肝 静 脈 ・下 大 静 脈
C I下
大静採
左側 門 元症
I:EPO,肝 外(前)F弓
脈
閉塞 ,Bant(欧米)
W印
I
9号
3)胃 上部 切除術 の成績
胃上部切除術 を典型 とす る直達手術で静脈瘤 を治療
別 称
守変
P
H
H輸 I
硬
︰⋮ 肝
H
側P り 性
一騨
I巨
c 十 円脈
日消外会誌 20巻
肛-1):│‖ 0,腹 水硬変
B口
88-Ch侑付(狭)
V:E出 0,Bud8-ChiaH(広)
(心肺病 変 を含 む)
2)直 達手術 と病型 分類
す る場 合 は,血 管 吻合法 とことな って,血 管 閉塞 の部
位 ,範 囲な どは適応 の障害 とな らず ,病 型差 は肝障害
度や郭清す べ き血 行 の特徴 を知 って対応す るための必
要知識 で あ る。次項 の直視下直達手術 へ の転換 までの
約 15年間 130例の 胃上部切除術 の 中 には,肝前型 と肝後
型 の症例 もか な り包 括 されていた。
変 法 術 式 と して の 胃上 部 完 全横断 術 も比 較 適 用 さ
れ, また陣摘 胃上部血 行郭清術 も肝障害高度例や静脈
瘤軽度症例 に適用 され て きた。
血 管 吻合減圧手術 が重視 された頃 には,肝 内型 門脈
圧元進症例 が主 対象 にな り,ま たその 中 では,肝 硬 変
図 6は 手術 の基本理念 が全 くこ とな り,単 純 な比較
は困難 で あ るが,既 出の門脈 下大静脈 吻合術 (PCA)
の有無 が肝 性脳 症 と関 連 し,IHOと IPOの 鑑別 が極
めて重視 されて きた。し か し直達 手術 へ の転換 は肝 内
と胃上部切除術 (X)の 両術式 につ いて,術 後生存率 を
目標 に して,肝 硬変性肝 内型 IHO(II b)と 非硬変性
型 の二 病型鑑別 の 困難 か ら脱す る とともに,肝 外型症
例 に も適用 の道 を開 き,そ の後 の各種 診断法 の進歩 も
肝 内型 IPO(II a)の結果 を対比 した。術後 10年までの
あ って, よ り平 明な病型 分類 を招来 した。
表 5は ,直 達手術 以来 の もので ,ま ず全体 を血流抵
抗 の存在部位 に よ り,肝 前 ・肝 内 ・肝後 に三 大別す る.
生存 率 の比 較 で は,肝 硬変群 の手術 で も,PCAに くら
べ X後 生存率 は 向上 して非硬変群 PCA後 に近接 し,
非硬変群 X後 の成績 も甚 だ好転 した 。
重要 な変化 は術後 合 併症 に 現 わ れ,PCAで
重篤で
次 にそれ ぞれを各三型 に細 分す る もので,I,a,b,c,II,
あ った肝性脳 症 は X術 後 には合併 しな くな った。しか
a,b,c,HI,a,b,cの それぞれは合併病型や ,病 型変化
し逆 に PCAが 開存 す る限 り問題 に な らなか った静脈
瘤 が X術 後 には遺残,再 発 し一 部 で は再 出血 や 出血死
も記号で表 現す るこ ともで きる。
現在 の 画像診 断法 の進歩 の もとでは, この病型 と肝
を招 いていた。
変化,血 流抵抗 の性質 と範 囲, さ らに静脈瘤 血 行 との
関係 が よ り正確 に把握 され るに至 ってお り,そ の知見
れ,特 に肝硬 変 にお いて止むを えな い末期的肝不全以
に も とづ いた的確 な治療方法 も可能 にな った,特 に III
外 で は,PCA後
a肝 静脈 のみ の閉塞 に よる Budd‐Chiari症候群 の ご と
きは, ご く最近 の超音波診断法 では じめて生前診断が
可能 にな った もので,I,a,b,cの 鑑別 を含め ,正 確 な
病型 分類 は治療法選択 の基礎 として必 要性 を高めてい
る。
さ らに両術 式 術 後 の 死 因比 較 に も特 徴 が と らえ ら
問題 に なった消化 性潰瘍 は X術 後 に
は な くな り,逆 に PCA後 には全 くな か った 肝癌 死 が
X術 後 症 例 で 重要 な もの と して 出現 した こ とが 注 目
され る。
C:直 視下直達手術 の意義 と成 績
1)直 視下直達手術 の意義
門脈圧 を下降 させ ない直 違手術 では血 行再建 に よる
図 6 胃 上部切除の成績
端側門脈下大静脈吻合術 との比較
静脈瘤 再発 をな しとせ ず, さらに在来 の盲 目的手術 で
は血 行郭清 の後,局 所組織 の離 断,切 除後 には,離 断
線 よ り上方 の静脈瘤 の消滅 を期待 はで きて も消滅 を実
証 したわ けで は な く,静 脈瘤 の遺残 もあ りえたはず で
あ る。外科的 な見地 では,手 術 に よ り出血死 が 削減 さ
れれ ば一 応 の効果 と判定 し,静 脈瘤 の軽減 も効果 とと
らえた い。 しか し内科的見地 か らは,手 術す る以上 出
血 原 因 になる静脈瘤 の消滅 が望 まれ る ところで,術 後
に静脈瘤 が残存 し,再 発 しては効果 は な く,ま た再 出
血 を生 じる よ うで は 手術 は無 用 と判 断す るは ず で あ
る。
1987年9月
7(2069)
表 6 直 視下直達手術80例の構成
時 期
例
,F硬変
予 防
3
治 療
6
予 防
4
数
X
肝硬変
I
T
111
I
A
0
t+
術 式別 ( 消失 : 再 発 )
病 型
図 7 非 硬 変群 と硬 変予 防手 術群 の経 過
r H* l F
*
3
5年
非 硬 変
9例
1 : 一
8
1 : ―
1:1
1:1
2
硬 変予防手
4例
2
(2)'fl
治 療
計
17: 3
(2)'51
(3)・ 67
図 8 静 脈瘤消失持続例の経過 (肝硬変,治 療手術46
例)
年 8
直達手術 に よる生存 率 の 改善 が得 られた以上 ,次 の
E コ 消失
― 廓 発
口■ 復 旧
日標 は手術 に よる静脈瘤消失 を客観 的 に実証す る こと
が必要 とな り,内 視鏡 の進歩 は,術 中 の静脈瘤観察 を
容易 に し,直 達手術 の 目的達成 の道 を開 いた。
直視下直達手術 は1978年に開始 し,当 初 はかな り長
時間持続観察 を加 えた。 そ の知見蓄積 の結果 は,静 脈
瘤所 見 は まず 手術 で障摘除 を加 え,短 胃静脈系 か らの
供血 を遮 断 した 際 に術前 とほ とん ど変化 しない。 次 い
で 胃上部 周囲にお いて広範 な血行郭清 を加 え,左 胃静
脈 ,後 胃静脈系 か らの供血 を遮 断 した後 に も余 り変化
な く,終 りに 胃上部 に切断線 を選 んで これに錨 子圧挫
れ も肝硬変群に属 し,内 3例 は肝不全, 1例 は併存肝
癌 が死因 となった。
を加 え,組 織連続性 を介す る血 行 を遮 断す る と,は じ
めて静脈瘤 は一 挙 に虚脱 消失 に至 る事実 を とらえた。
この事実 は逆 に,不 十分 な血行郭清 あ るいは潜在 副血
手術治療をめ ぐる生存率はすでに問題 はな く,直 視
下直達 手術 の評価 は術後 の静脈瘤 の動 向で 決定 され
る。私 どもは手術 自体 の評価 には個 々の症421ご
とに,
行路 に よる静脈瘤遺残 を防止 し,適 切充分 な血 行郭清
静脈瘤所見を,術 前,眸 摘除血行郭清後,胃 上部遮断
後,術 後 4週 を規準に内視鏡像を対比 し,以 後 は定期
的反復観察を続けて きたが,在 来 の盲 目的手術 とこと
手技 の確立 に役立 った他 に,直 視下直達手術 として内
視鏡観察 と確認が必須 な時点 を,牌 摘除,血 行郭清後
で ,胃 上部切 断線 の圧迫遮 断 の直前 と直 後 の短 時間 に
集約 しえるこ とを示 した。
直視下直達手術 の意義 は,手 術す る以上 は,出 血 の
素地 にな る静脈瘤 を遺残 させ る ことな く確実 に虚脱消
なって,術 中 には遺残 のない客観的な虚脱消失を実証
し,以 後 の再発所見については,静 脈瘤 の程度 のいか
んにかかわ らず.軽 度 の もの も再発 と半J断し,記 録追
求す るとともに,そ の対策を検討 して きたのである.
失 を実証 し うる ことに あ り,手 術効果半J定を極 めて正
その結果,非 減圧 の直達手術 の宿命 として,術 式別 に
確,容 易 な もの とした他 に,非 減圧 手術 の宿命 として
避 け る こ とが 出来 ない再 発静脈瘤 に対 して,そ の再発
多少 の差 は生 じなが ら現時点 で30%の 症例 に血 行再
機構 を追求 し,対 策 を確立 して よ り長期 の静脈瘤 消失
維 持を検討す る道 を開 いた こ とであ る.
2)直 視下直達手術 の成績
直視下直達手 術80症例 の成績 はす で に本誌 に詳 述め
したので,重 複 を さけて概括す る と,そ の症4/1構
成は
表 6の ごと く,非 硬変 9例 お よび肝硬変群 は予防手術
4を 含 む71例であ った,適 用術式 は在来 か らの 胃上部
切 除術 (X)25,胃 上部 横 断術 (T)26お よび 自動吻合
器使用 に よる 胃上部切 除術 (A)29で あ り,術 後在院 の
まま死亡 した ものは手術関連死 2を 含む 4例 で,い づ
建,再 発を生 じ,追 加処置を要す る事実を とらえるに
至 った。
図 7は 例外的な非硬変 9例 と肝硬変 で も末出血 の静
脈瘤 に予防手術 した 4例 の経過を示 した。非硬変群 の
経過 は妥当 として も,肝 硬変予防手術 の半数 に静脈瘤
が再現 した点が注 目され,出 血は生 じない と云 え,肝
硬変症例 における病態 の進行,再 発静脈瘤へ の対策 が
極 めて重要 な問題 となる。適切 な時点で静脈瘤 の内視
鏡的硬化療法を加 え,す でに陣摘除,供 血経路郭清の
後 で もあ り,再 度消失状態を作 って追 求 しえるはず で
ある。
8(2070)
食
道静脈瘤 の病態 と治療
図 9 術 後静脈瘤再発の時期 (21例)
生存期間順
5 3
0年
日消外会誌 2 0 巻 9 号
I V . 考察
再発時期順
門脈圧元進症,食 道 静脈瘤 をめ ぐる診断法 の進歩 は
3
病態観 を変換 させ ,ま た 治療法 に も著 しい変遷 を生 じ
て来 た。
“
Itis as naturalto man to die as to be bornt''Lord
Francis Bacon,1612,Of Death.は
変 らぬ事実 で あ る
が,医 療環境 をめ ぐる進歩 の もとで は, 自然 として受
Eコ 消 失
― 軽再発
口■ 復 旧
。 再 出血
十死 亡
図 8 は 肝硬 変群 で静脈瘤 出血 の既住 が あ り, 治 療的
に手術 した6 7 例の 中 で, 静 脈瘤 が再発 しなか った4 6 例
の経過 で, 手 術 目的 に適合 した結果 を示 した。す でに
容で きる範 囲に変化 と縮 小を招来 す る。
腹水,牌腫 に対す る古典 的 な病 態観 と治療 の試 みは,
食道静脈瘤 も包括す る門脈圧元進 症 の概 念 と血 管吻合
減圧手術 の時 を経 た後,食 道静脈瘤 とこれ に対す る直
達手術 に転換 を生 じ, さ らに現在 で は直視下直達手術
と非手術 的対策 の併用 の時 に至 って い る。
死亡 した1 3 例では, 死 亡 として肝癌 が 注 目され , ま た
食道静脈瘤 か らの 出血 が招来す る死 を 自然 として受
容 し難 い 以上,そ の非 自然的要 因 の除去,削 減 の求 め
末期的肝不全 は あ ったが, 術 後反復 性 の肝性脳症 はほ
ぼ根絶 され , 社 会復帰 の支障 とな らなか った こ とも注
られ るのは当然 で あ る。医学的,特 に外科的治療法 の
模索 の過程 において,Whippleの 断言 もまた避 け難 い
こ値す る。
目″
事実 を とらえて居 り,門 脈圧下降手術 が汎用 された の
も必然 の経過 と云わ ざるを えな い。
図 9 は 静脈瘤再発2 1 例の経過 で, 再 発 の 時期 を検討
し, ま たその程度や原 因機構 を示 した もので あ る。再
発 時期 は術後 2 年 以内が多か ったが, 生 存期間延長 に
ともない 5 年 後再発 も観察 され , 必 ず しも特定 で きな
い こ とが知 られ, ま た そ の 程 度 は 個 々の 症 例 で こ と
な った 時期 に一 度 に生 じ, 次 第 に増 強 してい くもので
は な い特徴 が知 られた. 術 後 の再 出血 は 2 例 で , 再 発
静脈瘤 出血4 2 1 は
硬化療法 の追施 で止血 延命 し, 吻 合部
の s t a p l e 潰瘍 出血 例 は 異 物 除去 で止血 した が肝 不 全
を生 じ死亡 した。
古典期 の静脈瘤硬化療法や直達 手術 の意義 を失わせ
た血管 吻合減圧 手術 には,す で に古 くPavlovが Eck
痩 犬 で観察 し,Vida11)が臨床例 で指摘 した術 後肝性脳
症 とい う重篤 な合 併症 の欠陥 が あ り,理 論的 には肝 門
脈 血 流抵 抗 を正 常化す る静脈 あ るいは肝 の移植手術 が
求 め られ て もなお実 視 の道 は遠 く,静 脈瘤直達手術 あ
るいは所 謂選択 的血 管 吻合術式 が模索 されたの も歴史
的必然 と云 えよ う。私 どもは 胃上部切 除術 を典型 とす
術後静脈瘤再発 を促す要 因 は, 門 脈圧 自体 の上 昇 と
る直 達手術 に転換 し, これ を定型化 して特 に肝性脳 症
の防除 に よって術後生存 率,社 会復 帰 において 明 らか
局所 血 行再開状態 が重視 され る と ころであ り, 形 態的
に も明 らか な肝硬 変 の進行, 肝 癌 の発生, 門 脈 血 栓形
な改善 を得た 。 しか し,盲 目的直達 手術 のた め,術 後
の静脈瘤再発 を見た場合 に これが手術 時見逃 された残
成 な どが前 者 の原 因 として知 られた反面で, 胃癌発生
例 や原 因を特定 し難 い症例 では後者 の要 因 と判 断 され
存状態 との鑑別 の道 が な く,評 価 規準 の な い まま,生
存 率,再 出血 率 な どに よって諸家 の報告 と同様 に,外
ブ
こ.
科的立場 に偏 った結果 の判定 を加 えぎるをえなか った
これ らの結果は,門 脈圧非減圧下 の直達手術では,
直視下直達手術で確実に手術時 の静脈瘤遺残を防止 し
ても,約 30%の 症711に
おいて術後追求中に,程 度 いか
ので あ る。
んを問わず,静 脈瘤 の再現を生 じ うる ことを示 した。
現在 までの追求中に再 出血頻度は低か ったのは事実で
あるが,今 後 は系統的 に再発静脈瘤を確認 した時点 で
硬化療法を追加 し,す でに広範に供血経路処理後 の症
例 であるため,血管内に少量注入による方法を とって,
よ り長期 にわた る静脈瘤消滅状態 の維持 に当るべ き こ
とを知 った。
内視鏡 の進 歩 ,そ の手術 時 の使用 の実現 は,直 視下
手術 へ の道 を開 き, これ に よって血 行郭清手技 の一 層
の 向上,切断線 の確定 に決定的 な資料 を得 る とともに,
内科的 な容観 的評価 に耐 え うる手術 目的 の達 成,す な
わ ち,手 術 に よる出血 原 因 た る静脈瘤 の虚腕 消失 を実
現 し,約 70%の 症例 でその消失状態 を長期 維 持す るの
を確実 に した 。 同時 に約30%の 症例 で避 け難 い静脈 瘤
の再発 につ いては,そ の原 因機構,時 期,程 度 を実証
す る とともに,そ の対策 につ いて指 針 を得 て きた ので
1987左
「9月
9(2071)
あ る!
回観 し,そ の 変遷 の過 程 ,治 療 術 式選 択 の 根拠 と臨床
再発 静脈瘤 に対す る非手術的対応 の方法 は 当然 内視
鏡的静脈瘤硬化療法 で あ る。この方法 も CrafOordら ,
成績 を報 告 した 。
す で に血 管 吻 合減 圧 手 術 ,盲 目的 直 達 手 術 は 過 去 の
Moerschら の 開拓期 の 成 功 は陣 摘 手 術先 行421であ っ
もの とな り,技 術 進 歩 に 対応 した 直 視 下 直達 手 術 が 手
た 事実 が想起 され る必要 が あ るわ けで,手 術 に よ り供
血 経路 の 削減 が先行 されていれ ば,少 量 の硬化剤使用
術 適 応 症 例 に適 用 され るべ き時 に至 った 。
下 に静脈瘤 治療 が 容易 にな る。在来経過観察下 にあ っ
確 保 す る と ともに ,一 部症 例 で 避 け難 い 再 発 静脈 瘤 に
た 再発pllを
系統 的 に追加治療 に移 るはずで あ り,一 部
症4/1の
実施成績 は よ り長期 の好結果維持 の可能性 を明
示 してい る。 一 方手術適応外の静脈瘤症例 では,先 ず
供 血 副血 行路主要枝 の選択的挿管 と塞栓 を行 い,後 に
硬 化 療 法 を追 施 して よ り好 結 が 維 持 され る べ き で あ
硬化療 法 が追施 され るべ きで あ ろ う。し か し塞栓法 は
現在 までの試 行方法 は極 めて不 確 か な もので あ り,手
術 的血 行郭清 との 隔差 を埋 め るため に さらに格段 の改
善 が必要 とされてい る。
同門 に育 った岩 月教授 は,肝 移植症例 中 に多数経験
した 静脈瘤併存例 の成績 で,在来 の血 管 吻合減圧手術 ,
直 視 下直 達 手 術 で 客 観 的評 価 に 耐 え る静 脈 瘤 消滅 を
る。 さ らに手 術 不 適 応 71jでは 基 栓 療 法 を改善 し硬 化 療
法 と併 施 す るの が ,現 在 の適 応 判 断 で あ る。
文 献
1)Vidal wli Cited by Donovan AJ,Covey PCi
Early history Of the portacaval shunt in
humans. Surg Gyneco1 0bstet 147 1 423-430,
1978
2)今 永 一 tわ が国 における門脈圧元進症 の特性.
日外会誌 65:1055-1060,1964
3)Reynolds TB,Donovan AJ,Mikkelsenヽ VP et
直達手術手術 と明 らかに こ とな った 根治的治療 の好結
al:
果 を報告 した。技術水準 は十分 に高 い とはいえ臓器提
portacaval shunt in patients with alcoholic liver
disease and bleeding esophageal varices. Cas‐
供 の得難 いわが 国 の実情 は比較 的評価 の余地 が ない。
したが って,食 道静脈瘤症例 に対す る治療方針 とし
Results of a 12‐
year randomized trial of
troenterology 80 1 1005--1011, 1981
4)Yamamoto S,Hidemura R,Sawada M et ali
て,手 術適応例 で は直視下直達手術 で可及的長期安定
The late resuits of terlninal esophago‐
proximal
した 静脈 瘤 消失 下 の社 会復 帰 が 目指 され るべ きで あ
gastrectomy(TEPG)with eXtensive devascular‐
ization and splenectomy for bleeding eso‐
り,一 部 の再発静脈瘤 には少量注入 の硬化療法追施で
は格段 の改
対応 され るべ く, さ らに手術不適応症711で
良を加 えた塞栓 療法 と硬化療法 が選択 され,個 々の症
4/1の
病態 に応 じた総合 的柔軟 な対策 が適用 され るべ き
で あ る。
phageal varices in ciIThosis. Surgery 80:
106--114, 1976
5)山 本貞博,竹重言人,荒川敏之 ほか :食 道静脈瘤 の
直視下直達手術後 の再発機構 につ いて.日 消外会
誌 20:143-149,1987
V 。ま と め
過去 3 0 年を こえる私 どもの食道静脈瘤 治療 の歴史 を
Fly UP