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食道静脈瘤の治療一内視鏡的硬化療法一

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食道静脈瘤の治療一内視鏡的硬化療法一
日消外会誌 2 7 ( 1 ) 1 1 5 9 ∼ 1 6 2 , 1 9 9 4 年
卒後 教育セ ミナ ー 3
食道静脈瘤 の治療 一 内視鏡的硬化療法 一
東海大学外科
幕
内
博
康
内視鏡的硬化療法 は1 9 7 8 年高瀬 に よ り本邦 に導 入 され て以来急速 に普及 して, 食 道 胃静脈瘤 の第 1
選択 の治療法 とな るに至 った。
内視鏡的硬化療法 の原理, 再 発 ・再 出血 しない硬化療 法 の手技 につ き解説 した。 また , 巨 木型静脈
瘤 や 胃底部 静脈 瘤 な ど血 流量 の 多 い 静脈瘤 に対 して は, 濃 度 の高 い無水 エ タ ノール や c y a n o a r y l a t e
を用 い る こ と. 肝 機能不 良例 には全 身的影響 の少 な い e s o p h a g e a l v a r i c e s l i g a t i o n ( E VcLy)aや
noa、
crylateを
用 い ること. 肝癌合併4 2 1 に
対す る硬化療法 の適応 や 胃静脈瘤 に対す る硬化療法 の注意点 な ど
につ き述 べ た 。
Key words:
endoscopicsclerotherapy for esophagealvarices, endoscopicsclerotherapy for gastric
varices
は じめ に
は中途半端 な硬化療法 はか えって 出血 を きた しや す い
食 道静脈 瘤 に対す る治 療 は1 8 8 7 年E c k l ) の実験 的研
究 に始 ま り, 種 々の保存的治療, 外 科的治療, 内 視鏡
とい うこ とにあ る。種 々の方法 が施行 されて きた硬化
的硬化療法 が施行 されて きたが, 現 在 で もなお統 一 さ
れ る こ とな く種 々の治療法 が行われ てい る。
その治療法 の大 きな流れ をみ る と, 1 9 4 0 ∼ 1 9 5 0 年代
に, 各 種 の シ ャン ト手術 が行われて第 1 の 波 を形成 し
療法 も, 再 発 の病態 の解 明 とともに, 良 好 な予後 が期
待 で きる手技 へ と収束 され, 統 一 されて きた。
( 1 ) 硬 化療法 の原理 と目的
内視鏡的硬化療 法 の原理 は静脈瘤 に急速 に血栓性 静
脈 炎 を発生 させ て消失 に導 くことで あ るが, そ の静脈
た。 1 9 6 0 年代 か ら, 肝 性脳症 な どの問題 か ら直 達術 が
台頭 して次第 に ピー クを迎 え, 第 2 の 波 を作 るに至 っ
瘤 の 消失 とともに, 静 脈瘤 の再発防止 に も大 きな 目的
た。 1 9 7 8 年高瀬 らりに よ り導 入 された 内視鏡 的硬 化 療
法 は1 9 8 0 年代 か ら急速 に普及 し, 手 技 の改善 ・統 一 が
① 静脈瘤 に血 栓性静脈 炎 を急速 に完成 させ る。
進 んで食道静脈 の第 1 選 択 の治療法 とな って大 きな第
3 の 波 を形成 してい る3 ) , 現在, 硬 化療法 の他 には, 直
達術 としては経 腹的食道離 断術, シ ャン ト術 としては
細胞 を破壊 し, これ に血 小板 な どが付 着 して血 栓性静
選 択 的 シ ャン ト術 が 行 わ れ, 塞 栓 術 と して b a l l o o n ‐
occluded retrograde transvenous obliteration (B‐
R T O ) , t r a n s j u g i a r o b l i t e r a t i o n ( T J O ),がまた,
transjuglar intrahepatic portsystemic shunt(TIPS)
も行われ つつ あ る。
1 . 内 視鏡 的硬化療 法 の統 一
硬化療法 も血 管 内注入 か血 管外注入 か, 硬 化剤 は何
が よいか, な ど種 々の議論 が な され て きた。 また, 硬
化療法 の評価 は人 に よ り異 っていたが, そ の理 由の 1
米第23回 ・食道静脈瘤 の治療
<1993年 11月 1日 受理>別 刷請求先 1幕 内 博 康
〒25911 伊 勢原市望星台 東 海大学医学部第 2外 科
の 1 つ で あ る。
食道静脈瘤 内 に硬化剤 をと入 し, 静 脈瘤 の血 管 内皮
脈 炎 を発生 させ る. 炎 症 の収束 とともに静脈瘤 の消失
をみ る。
② 下部食道 の粘膜 固有層 の細 静脈 の破壊 と, 粘膜 固
有層, 粘 膜下層 の線維化 を起 こす。
静脈瘤 を消失 させ て も高 い門脈圧 は そ の まま食道粘
膜 にかか り, 粘 膜 固有層 の細静脈 の怒張 を きたす こ と
にな る。これ は r e d c o l o r s i g n同様
と で 出血 しやす い.
1 /°。
Aethoxyskler01を
中心 とす る硬化剤 を下部食 道 の
粘膜 内 お よび粘膜下層 に注入 して再生上 皮化 と線維 化
を起 こ し, 再 発 ・再 出血 の 防止を図 るわ けであ る。
( 2 ) 再 発 ・再 出血 しない硬化療法 の手技 '
1 ) ま ず, 硬化剤 の静脈瘤 内注入 で 静脈瘤 を完全 に消
失 させ る。
① 内視鏡 に装着 バ ル ー ンを つ け, 食 道 内 に挿 入す
160(160)
Fig. l Endoscopic injection sclerotherapy
食道静脈瘤 の治療
using
oral side ba1loon attaching tO endoscopy
日消外会誌 27巻
Fig, 2 The technique of endoscopicsclerotherapy
for excellent results
a:
る。
② 食道 胃静脈磨 の観察 を行 う.
③ 胃内 の液体や空気 を吸引後 , 食道静脈瘤 の穿刺部
1号
InJ6ction
polnta
at
a€cond aclerotherapy
aVariceal in3.
③ inけ
O ParaVariceal ln」
● previou3 1njeCted
.
を選択す る。 出血 例 では出血 点 の あ る静脈瘤 の, 予 防
例 で は最 も太 い 静脈瘤 の食道 胃接 合部 か ら3 ∼4 c m の
穿刺 しや す い部位 を選 ぶ.
④ 内祝鏡装着 バ ル ー ンを膨張 させ, 静脈瘤 の血 流 を
停滞 させ る。Iopamidol lJtt ethanolanline oleate(以
下,
E O ) を 用 い る場 合 は2 1 G , A e t h o x y s k l e r o l ( 以 下,
b: Injection poinし 3 at the third SolerotheraPy
A S ) 十 無水 エ タノール を用 い る場合 は2 3 G の 静脈瘤 穿
刺針 を鉗 子孔 か ら挿 入 し, ゆ っ く りと静脈瘤 を穿刺す
る。 血 液 の逆流 を確認 し, 硬 化剤 を注入す る。 胃静脈
瘤 を合併 して い る症 例 や術 者 が 経 験 を積 む まで は X
く.
2 ) 静 脈瘤 消失後, さらに, 再 発 を防止す るため に,
線透視下 に注入す る こ とを勧 め る。硬化剤 が血 液供給
路 へ逆流 し, 門 脈 に流入す る直前 まで注入 して停滞 さ
下部食道 の粘膜 固有層 お よび粘膜下層 に全周性散在性
せ る.
① 第 3 回 目の硬化療法 はすべ て粘膜内, 粘膜下層ヘ
の1 % A S 2 ∼ 3 m l の 注入 となる. 下部食道 は浅 い潰瘍 ・
ビランが散在 し, 食 道 胃接合部 か ら5 c m 位 上方 まで全
⑤ 硬化剤注入後 1 ∼ 2 分 待 って抜針す る。さらに 1
分ほ ど待 って, ゆ っくりと装着 バル ーンを脱気す る。
静脈瘤内膜 の内皮細胞損傷効果を確実にす る ことに有
効であるばか りでな く, 合 併症予防 とい う意味で も,
硬化剤を停滞 させ ることが必要であ り, ま た, ゆ っく
りと装着 バル ーンを脱気 して小量ずつ硬化剤を流す必
要があるわけである。硬化剤 はアル ブ ミン と結合 して
不活化す るか らである。
⑥ l 回 目の硬化療法では 1 箇 所 のみの注入 に とど
める。術後 は肝庇護 に努める。 とくに緊急出血例では
注意 が必要である。 4 ∼ 7 日 後 に第 2 回 目の硬化療法
を施行す る。
に硬化剤 の注入を行 う。
周性に線維化を起 こす ように注入す る.
② 第 4 回 日あるいは第 5 回 目には残存す る正 常粘
膜 に対 し, 1 % A S 2 ∼ 3 m l の注入を行 う。
3 ) 硬 化療法 1 ク ール終了後, 1 ∼ 2 か 月で内視鏡検
査を行 い, 細 静脈 の怒張が出現 した部位や線維化 され
ていない正常粘膜残存部へ硬化療法を追加 してお く.
4 ) 6 か 月 ごとに内視鏡 による経過観察を行 う。
細静
脈 の怒張を認めた ら硬化療法を追加する。
2 . 血 流量 の多 い静脈瘤 に対す る硬化療法
f ) などは血流 の多
巨木型静脈瘤や 冒底部静脈瘤 ( L g ‐
い静脈瘤 である。
② 2 回 目の硬化療法 の際 には, 残存 している可能性
が あ る と思われ る静脈瘤 に対 して血 管内注入 を試 み
る。食道静脈瘤 が残存 して静脈瘤内注入 となった場合
は 1 回 日と向様 に, 静 脈瘤 が消失 していて血管外注入
① 巨木型静脈では可能 なかぎ り血流を停滞 させ, 濃
度 の高 い硬化剤 ( 無水 ユ タノールなど) を 必要十分な
だけ注入 し, 停 滞時間 も充分 とる。
となった場合 には 1 % A S 2 ∼ 3 m l の 注入 を行 ってお
② 血流を停滞 させ られない胃底部静脈瘤では, 濃度
1 9 9 4 年1 月
161(161)
の 高 い硬 化 剤 や 作 用 速 度 の 速 い硬 化 剤 ( c y a n o a
ンの 助 け を か りて硬 化 剤 を 胃静脈 瘤 へ 逆 流 させ る。
c r y l a t e ) を用 い る。
② 直接穿刺法 t 内 祝鏡 を反転 し胃静脈瘤 を直接穿
刺 して硬化剤を注入す る。
3 . 肝 機能不 良1 / J に
対す る硬化 療法
内視鏡 的硬化療法 は最 も低侵襲 の治療法 として, 初
期 には主 に肝機能不 良例 に施 行 されて きた。そ の硬化
療 法 にす ら耐 え得 ない よ うな肝機能不 良例 もあ る。 こ
れ らに対 しては, 硬 化剤 を血管 内 にと入す る必要 の な
い, 全 身的影響 の な い硬化剤 ・硬 化療 法 を選択す る必
要 が あ る。 それ には次 の 2 つ の方法 が あ る。
① 静脈瘤結繁術 (EVL)'を 行 う。
② 硬化剤 として cyanoacttlateい
を用 いる.再 発防
止のために1%ASの 粘膜内 ・粘膜下注入を追加す るこ
( 3 ) 胃 静脈瘤 に対す る硬化療法 の注意点
① 食道 胃接合部直下 の噴門静脈瘤( とくに小彎側の
"で
“
もの) は 逆流法
対処 で きる。食道 胃接合部 か ら
"を
“
の
離れた も や 胃底部静脈瘤 は 直接穿刺法
用 いる。
エ
② 血 流 の遅 い ものでは5 % E O や 無水 タノール を
用 いての硬化療法 が可能 である。
をいた方
③ 血流 の速 い ものでは c y a n o a c r y l a t e用
が ょ 、、
.
とを忘れてはならない.
4.肝 癌合併1/1に
対す る硬化療法
④ 食道静脈瘤 と同様に, 胃静脈瘤の完全消失 と噴門
部 から胃底部 にかけて線維化を図ることが大切であ
る。
静脈瘤 の存在部位 と程度,肝 癌 の状況 と切除術適応
の可否,肝 予備能 の程度,の 3項 目によ り治療方針が
食 道 静脈 瘤 の 治療 は 原 疾 患 に 対 す る治 療 で は な く門
脈 圧 元進 症 の 一 部 分 症 に対 す る対 症 療 法 に す ぎな い 。
異なるわけである。問題 となるのは肝癌 の治療を先に
す るか静脈瘤 の治療を先 にす るか, どの治療法を選択
原 疾 患 に対 す る治 療 や 予 防 法 が 確 立 す る まで , 侵 襲 の
す るかである。それぞれの条件で異なるが,原 則的 に
は静脈瘤 の 出血あ危険性が高ければ硬化療法を先行 し
て,そ の後 に肝癌 の治療を行 う。静脈瘤 が軽度 であれ
ば肝癌 の治療を先行 して,静 脈瘤 が増大すれば硬化療
f)で肝機能 が保 たれてい
法を行 う。 胃底部静脈瘤 (Lg‐
れば肝切除 と同時 に Hassabつの手術 を行 うこともで
きる。
肝癌末期例 で肝動脈門脈短絡や門脈腫瘍栓 の著 しい
症例では予防的硬化療法の適応はない,肝 癌治療 が有
効であれ ば静脈瘤 も軽減す ることが多 い。
5.胃 静脈瘤 に対す る硬化療法
胃静脈瘤 に対 して も,内 視鏡的硬化療法で十分対処
で きるゆ.
(1)食 道静脈瘤 との相違点
① 血流が速 く血流量 の多い ものが多 い。
② 血流を停滞 させ ることがで きない。
このよ うな相違点はあるが,基 本的 には食道静脈瘤
と同様 に,先ず静脈瘤内注入を行 って静脈瘤を消去 し,
粘膜内 ・粘膜下と入を行 って線維化を起 こして再発を
防止す る必要がある。
(2)胃 静脈瘤に対す る硬化療法 の種類
次 の 2つ の方法 がある.食 道静脈瘤治療 の際 にも逆
流法を併用 して, 胃静脈瘤 も同時に治療す る,あ るい
は,食 道静脈嬉治療後 の 胃静脈瘤 出現を防止す る心構
えが必要である。
① 逆流法 i食 道静脈層を穿刺 し,内視鏡装着 バル ー
最 も少 な い 方 法 で 患 者 の q u a l i t y o f l i f e予後
や の改 善
を 図 るべ きで あ ろ う. 将 来 , 食 道 胃静脈 瘤 に対 す る治
療 は 消 え去 る ときが くる もの と信 じて い る。
文
献
1)Eck NV: K VoprOsu o perevyazkie vOrOtnois
veni Predvariteinoye soobshtsttenye(Ligature
of the portal vein) ′
ヽ
Oen Med J(St Petersbu‐
rg)1301 1--2, 1877(English transiation prO‐
vided by Child CG III Surg Gyneco1 0bstet 96!
375-376,1953)
2 ) 高 橋靖広, 岩崎洋治, 南風原英生 ほか ! 内 視鏡的食
道静脈瘤治療 一 とくに手技 について一. P r o g D i g
EndOsc 12 i 105-108, 1978
3 ) 幕 内博康 ; 食 道静脈瘤. 内 視鏡的硬化療法 の位置
づ け, 問 題点, 展 望 につい て. カ レン トテ ラピー
4 ! 18--23, 1986
4 ) 幕 内博康, 三 富利夫 t 緊 急出血 例 に対す る硬化療
法. 幕 内博康, 吉 田 操 編. 食 道静脈瘤硬化療法.
文光堂, 東 京, 1 9 9 2 , p 1 3 4 - 1 4 7
5 ) 山 本 学 , 鈴木博昭, 青木 哲 ほか i 内 視鏡的静脈
瘤結紫術。消内視鏡 2 1 2 6 9 - 2 7 5 , 1 9 9 0
6 ) 鈴 木博昭, 山本 学 , 千葉井基康 ほか I H i s t O a c r y l
を用 いた 胃静脈 瘤 硬 化 療 法. P r O g D i g E n d O s c
33:83--86, 1988
7)Hassab HA: GastrOesophageal decogestiOn
and splenectomyl A method oF prevention and
treatment of bleeding from esophageal varices
associated M′
ith bilharzial hepatic ibrOsis:
Proll■
linary report J Intern College Surg 41:
232--248, 1964
8 ) 幕 内博康, 町村貴郎, 三富利夫 ほか 1 食 道静脈瘤硬
化療法. 外 科治療 6 8 ! 1 1 0 3 - 1 1 0 7 , 1 9 9 3
162(162)
食道静脈瘤の治療
Endoscopic Sderomerapy for Esophago‐
日
消外会誌 2 7 巻 1 号
Cas的占c形 減 ces
HiroyasuMakuuchi
Departmentof Surgery,Tokai University Schoolof Medicine
Endoscopicsclerotherapyhas beendevelopedto be the first choiceof treatment for esophageal
varicessince
introducedinJapan by Takasein 1978.The principles and techniquesof endoscopicsclerotherapyfor excellent
results would beexplainedin detail. Furthermore,I wouldexplain the treatmentfor socalled"big treevarices" and
fornix variceshaving high bloodflow, in which pure ethanolor cyanoacrylateis very useful as sclerosants.
Esophagealvariceal ligation (EW) or cyanoacrylateis suitable for the treatment of esophagealvariceswith poor
liver function.I wouldalsomakeinterpretationaboutour treatmentstrategyof esophageal
variceswith hepatoma
andthe methodsof sclerotherapy
for gastricvarices.
Reprint requests:
HiroyasuMakuuchi Departmentof Surgery,Tokai University Schoolof Medicine
Baseidai,Isehara,259-11
JAPAN
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