...

ドバイ取材レポート2

by user

on
Category: Documents
23

views

Report

Comments

Transcript

ドバイ取材レポート2
1P
シュンペーターも驚く農家のイノベーション
2008・03・03 570号 ドバイ取材レポート2
財部誠一 今週のひとりごと
3月5日、ひさしぶりに福岡へやってきました。産業振
興にかかわるいくつかの団体が合同で主催した講演会
にきました。講演終了後、会食会があり、そこで麻生知
事とお目にかかりました。麻生さんとは年に1.2度、お目
にかかりいろいろお話をさせていただいていますが、福
岡県は本当にすごい。サンプロの「ベトナム」特集放送
直後に、知事自身がベトナムを訪問し、ホーチミン市と
友好都市関係を構築してきたと話していましたが、麻生
さんという知事の傑出ぶりは、地方自治の長でありなが
ら、彼は常に「世界の中で福岡を考えている」ことです。
グローバルセンスにあふれた見事な地方自治を展開し
ています。1度、大々的に「福岡県」という切り口で取材
をしてみようと思っています。
(財部誠一) ※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
農業の専門誌『農業経営者』のよびかけに7人の農家
◆ヨセフ・アロイス・シュンペーター
が即座に手を挙げた。昨年、秋のことでした。編集長の
昆吉則氏は国の脱補助金にも、農協にも依存せずに、
ケインズ、 マルクスと同時代の経
済学者。 イノベーション、 起業者、
自立した農業経営を目指す。単なる雑誌というよりも、日
創造的破壊という概念を経済学で
本のプロダクトアウト農業に迫る危機を訴え、マーケット
初めて導入。 社会学的アプローチ
インの農業への転換をはかるための運動家のような人
を展開した。 1883 年 2 月 8 日オー
物です。運動家といってもイデオロギーはいっさいなし。
ストリア領モラビア地方で誕生。
1901 年ウィーン大学法学部進学。
彼の思想にもっとも近いものは、シュンペーターの「イノ
08 年 25 歳で処女作 「理論経済学
ベーション」でしょう。
の本質と主要内容」 発表。 29 歳
イノベーションは経済学者シュンペーターが唱えた概念
に出版した 「経済発展の理論」 で
イノベーション理論発表。 19 年 36
で、日本では「技術革新」と約されることが多いですが、
歳でオーストリア共和国の大蔵大
それは間違い。技術に特化した狭い概念ではありません。
臣に就任、 同年辞職 。 21 年ビー
シュンペーターは、経済発展は少しずつゆっくりと進むの
ダーマン銀行の頭取に就任する
も、 24 年同銀行が経営危機に陥っ
ではなく、企業家の創造的な活動により飛躍的に進むも
たため解任され、 巨額の借金を負
のだと考えています。そしてシュンペーターはその担い手
う。 24 年出版の 「資本主義 ・ 社
である企業家をイノベーターと呼び、たんなる組織上の
会主義 ・ 民主主義」 で 「資本主
管理者とは峻別しています。
義は成功ゆえに巨大企業を生み出
し、 それが官僚的になっていき活
ではイノベーターが巻き起こすイノベーションとはいかな
力を失い、 社会主義へ移行してい
るものか。シュンペーターは次の5つをあげています。
く」 という有名な理論を提示し、 創
①新製品によるイノベーション
②新しい生産手段によるイノベーション
③新しい販売方法・ルートの開拓によるイノベーション
④製品の原材料や部品の新しい調達先によるイノベーション
⑤新しい組織や産業の担い手の出現によるイノベーション
こうして並べてみると、じつにきれいに整理はされては
いるものの、ひとつひとつの概念は、現役の経営者から
みれば、特別目新しいものではないかもしれません。し
かし補助金と規制によって守られてきた農業の世界にお
いては「イノベーション」はまさに革命的な響きをもった概
念です。
2月15日、『農業経営者』が主催する勉強会が千葉県の
幕張で開かれ、私もシンポジウムのコーディネーターとし
て参加しましたが、この日の基調講演を行ったのは日本
におけるシュンペーター研究の第一人者、一橋大学イノ
ベーション研究センターの米倉誠一郎教授でした。
造的破壊を提言した。 32 年ハー
バード大学の教授に就任。 49 年
国際経済学会会長に選出 50 年 1
月 8 日アメリカで死去。 享年 68 歳。
2P
このシンポジウムには私と米倉教授のほか
に、5人の農業生産者が参加しましたが、彼ら
はまさにイノベーションの概念そのもののよう
な生産者たちでした。日本を飛び出してウクラ
イナで大豆栽培をしようという農家。「メード・イ
ン・ジャパン」ではなく、「メード・バイ・ジャパニ
ーズ」です。これは②の新しい生産手段による
イノベーションになるでしょうか。
千葉県の和郷園は若い生産者たちが集まっ
て作った農業生産法人ですが、市場を通さず
に直接消費者に販売したり、野菜の冷凍加工
工場を運営するなど、その昔、もっとも成功し
た農協といわれた北海道士幌農協のビジネス
モデルを、新たにつくりあげたような組織です。
①、③、⑤の要素を備えています。この和郷園
の代表である木内博一氏に、たずねてみまし
た。
「士幌農協とどこか違うのか?」
彼の答えはアッパレでした。
「士幌農協は生産者を見ていた。われわれは
消費者を見ている」
外形は似ていても、農家の利益の最大化を
目ざした士幌農協と、消費者ニーズを第一に
考えた結果できあがった和郷園とは、まったく
違うものでした。そのほか、たった一人で米を
生産し、楽天市場でネット販売をし、楽天で人
気ナンバーワンとなった米農家。畑を小さく分
割。農作業に興味をもつ個人相手に、生産指
導をしながら家庭菜園的に畑を利用してもらう
ビジネスをたちあげた農家。普通のお米農家
は、農協から買ってきた苗を植えることから米
作りを始めるが、乾いた土に種を直に播く「乾
田直播(かんでんじかまき)」という新しい生産
方法で美味い米を効率よく栽培している農家
など、イノベーションというテーマにふさわしい
「経営マインド」あふれる生産者たちがシンポ
ジウムに参加していました。こんな農家がいる
んだなあと、それはもう驚きであり、感激もしま
した。「景気が悪い」と泣き言ばかりいっている
中小企業経営者に見せてやりたいシンポジウ
ムでした。
ドバイ贅沢市場に売り込め
私たちがドバイを訪問した2月下旬、ドバイ
では年に一度の食品見本市「GULFOOD」が
開催されていました。欧米からアジア各国そし
て中東、アフリカ。文字通り、世界各国の食品
関連企業が大小のブースをかまえて食品や
食材を売り込みにくる一大イベントです。日本
の農水省も日本ブースを設け、出展を日本全
国によびかけました。『農業経営者』のよびか
けに応じた7人の生産者たちも「GULFOOD」
への展示候補として名乗りをあげましたが、
採用されたのは「国立ファーム」という農業生
産法人1社だけでした。採用されれば、「補助
金」がでます。誰でも気軽に出展できるという
わけです。
しかし落選した6人の農家の意思を無にする
わけにはいきません。『農業経営者』の専務、
浅川氏は、じつは中東のエキスパート。ソニ
ー・エジプトでの勤務経験もあり、卓越した語
学能力と日本人離れした押しの強さで、七つ
星ホテル「バージュ・アル・アラブ」やドバイ中
心街のエジプト料理店などで、落選した篤農
家が栽培した米やイチゴの試食会を開いても
らえるように仕組んだのです。あるいはドバイ
の青果市場では、見学はもちろん、市場の総
責任者と直接交渉をする場ももうけました。補
助金漬けの官製見本市ではなく、自力でドバ
イに日本の農産物を売り込むチャンスを切り
開いたのです。一連のプロセスを第3者として
みていた私の目には、それはもうアッパレ、と
映りました。
ドバイでも圧倒的な存在感を見せたのは「農
協は生産者を見ているが、われわれは消費
者を見ている」といってのけた木内氏でした。
まだ40才ですが、そのリーダーシップと突破
年後半から日本経済の体温上昇か
力は圧巻でした。
ドバイの青果市場を見学したときのことです。
予想以上に豊富な野菜や果物が市場には所
狭しとならんでいたものの、日本の農産物とく
らべると明らかにクオリティが落ちています。農
業のプロである彼らは、一目で青果市場に流
通している農産物のレベルがどの程度のもの
であるか、理解したはずです。その後、彼らは
表敬訪問をかねて青果市場の総責任者と面談
しました。売込みではなく、あくまでも「見学」と
して用意された旅程でしたが、ドバイ人の総責
任者が話していた時に、突然、木内氏が口を
挟みました。
「ドバイにはギフトの習慣はないのか?」
じつはイスラムの世界では「ラマダン」と呼ば
れる断食期間がありますが、この「ラマダン」の
時に、親戚や親しい知人たちのあいだで贈答
をするというのです。日本でいえばお中元、お
歳暮に相当するイメージでしょうか。
すると木内氏は日本の美味しいイチゴや野
菜などをギフト用の化粧箱に詰めて、ラマダン
の贈り物にできないかと、切り込んだのです。
しかも箱詰めまで日本でやるから、あとはそち
らで売ってくれるだけいいようにすると、具体的
なビジネスのイメージも添えました。青果市場
の総責任者は「それは面白い」とばかりに、木
内氏の提案に乗ったのです。本当に実現する
のか、最終的にどれだけビジネスとして成り立
つのか。そんなことはわかりません。しかしたっ
た一度のドバイツアーのなかで、みずからの意
思と力で、ドバイ市場を切り開いてみせるとい
う彼の姿はまことに気持ちのいいものでした。
日本人もすてたものではないなと、頬が緩みま
した。
農家がドバイで市場開拓する時代なのです。
どうかみなさんもグローバルセンスを磨き、常
に「世界の中で考える」という思考を身につけ
て欲しいものです。
(財部誠一)
福田康夫という政治家
◆和郷園
農事組合法人。 資本金 2080 万円。
本部所在地は千葉県香取市。 平
成 10 年 11 月 12 日に、 代表理事
である木内博一氏が地域の農家の
二世達を集めて設立された。 地域
の農家とチームを組み農作物を一
手に引き受け和郷園が出荷してい
る。 自然循環型農法を目指し何事
も生産者自らが主体的に考え実行
するというのが理念。 高品質、 安
全な農作物をつくるのは当然のこ
と、 自分たちの手で作ったものは、
自分たちで責任をもって消費者の手
に届けるということにこだわる。 優
良な販売店舗と長期で直接契約を
することで正当な価格での取引を可
能にしている。 したがって和郷園の
組合員である農家は、 年収 1 千万
円、 2 千万円は珍しくないという。
編集・発行
ハーベイロード・ジャパン
〒105-0001
港区虎ノ門5-11-1
オランダヒルズ森タワー805
TEL 03-5472-2088
FAX 03-5472-7225
無断転載はお断りいたします
◆2月7日 岩田下一政日銀副総裁
記者会見要旨
夜明け前
Fly UP