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中国を完全制覇した日系企業の壮絶経営

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中国を完全制覇した日系企業の壮絶経営
1P
すべてお見通し
2011・10・03 745号
中国を完全制覇した日系企業の壮絶経営
財部誠一 今週のひとりごと
財部誠一オフィシャルサイトで展開しているリレー対談『経営
者の輪』、時々、チェックしていただいているでしょうか?
http://www.takarabe-hrj.co.jp/ring/index.html
自画自賛で申し訳ありませんが、友達つながりで安心安全な対
談ゆえに、日頃聞くことのできない経営者の素顔を垣間見るこ
とができる貴重な媒体です。9月末に対談していただいた三陽
商会の杉浦昌彦社長のお話も興味深いものでした。「超円高の
今こそ国内生産にこだわる」と話しておられました。11月中旬
に掲載予定です。
ちなみに『経営者の輪』の最新版は松竹の迫本淳一社長との
対談です。何かと話題の多い歌舞伎界を牽引する松竹社長の
「型があっての型破り」談義も面白いです。迫本社長の次は損
保ジャパンの佐藤正敏社長です。休日にゆったりのんびり自転
車で東京都内を巡り、時には月島で一人もんじゃ焼きを食べる
という話にはびっくりでした。こちら対談は10月13日に掲載予
定です。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
日本にはニッチな分野で世界一の市場シェアを誇る
中堅、 中小の部品メーカーがあまたありますが、 岐
阜県本巣市に本社を置く森松工業は世界市場におい
て桁違いの存在感を発揮しています。 “森松工業” と
いう社名を聞いてピンとくる方は岐阜県在住の方でしょ
う。 未上場のため、 全国的にはけっして知名度の高
い会社ではありませんが、 高付加価値の特殊金属を
用いたタンク専門企業として、 世界の製造業から引く
手あまたの超優良企業です。
どんなタンクを製造しているかは後ほどご紹介すると
して、 まずは同社の主要取引先を列挙してみましょう。
外国企業ではGE、 デュポン、 ダウケミカル、 バイエル、
P&G、 ロレアル、 コルゲート、 グラクソ・スミスクライン、
ネスレ等々、 世界屈指の巨大メーカーが名を連ねてい
ます。 国内企業も錚々たる面々です。 旭化成、 大日
本インキ化学工業、 花王、 資生堂、 アステラス製薬、
第一三共ヘルスケア、 サントリー、 サッポロビール、
味の素、 日揮、 東洋エンジニアリング、 千代田化工
建設、 三菱化学エンジニアリング、 東レエンジニアリ
ング、 日立造船、 三井造船、 東芝 ・ ・ ・ 。
化学、 医療、 薬品、 資源、 環境分野の製造工程
から千代田化工建設などのプラント建設会社が設計、
施工する大規模プラントまで、 巨大かつ精緻な仕上が
りが求められる最高品質のタンクメーカーとして世界で
も頭抜けた存在。 それが岐阜の森松工業です。
岐阜県本巣市で15坪の工場から始まった森松工業
は、 2代目の松久信夫社長 (70歳) の時代に、 零
細企業から世界企業へと一気にかけあがりました。 従
業員はグループ全体で3650名。 この会社に私が注
目をした理由は2つありました。 ひとつは壮絶な苦闘
の末に中国で大成功を収め、 いまや中国では超一流
企業としてグローバル市場に打って出ていることです。
上場していないため詳細は不明ですが、 中国本社グ
ループは売上高は全社のおよそ9割を叩きだしている
のですが、 この10月にオープンする新工場の寄与を
考慮すると、 2013年には600億円に達すると予想さ
れています。
◆森松工業株式会社
資本金:2億8千万円
グループ総資本金:123億6千万円
代表取締役会長:松久 八千代
代表取締役社長:松久 信夫
代表取締役副社長:松久 晃基
専務取締役:松久 栄造
常務取締役:松久 浩幸
従業員数: 550名
(グループ総従業員数:3,650名)
営業品目:
・ステンレス製パネル水槽、同蓄
熱槽
・ステンレス製貯湯槽
・熱交換器(多管式、プレート式)
・その他圧力容器、貯油槽等製
缶類
・ステンレス製配水池
・プラント用各種槽類
◆国内事業所
<本社>
岐阜県本巣市
<支店>
東京、 名古屋、 岐阜、 大阪、
福岡
<営業所 ・ 出張所>
札 幌、 仙 台、 戸 田、 松 本、
静 岡、 金 沢、 広 島、 高 松、
宮崎、 鹿児島
<工場>
岐阜、 那珂、 本巣、 福岡、
熊本
2P
中国における日系企業のマネジメントは今
だに困難をきわめ、 人材流出や裏帳簿等々、
経営実態はお寒い限りですが、 森松工業の
中国ビジネスは品質管理、 安全管理から中
国人従業員のマネジメントに至るまで 「パー
フェクトだ」 と、 中国在住の邦銀や損害保険
会社の駐在員たちが舌を巻くほどの出来栄え
のようです。
それを実現している最大の仕掛けが水平方
向なら360度、 上下なら90度の範囲で自在
に動かすことのできるWebカメラの存在です。
同社では日本と中国合わせて8つの工場があ
りますが、 全部で270台のWebカメラが設置
されています。 松久社長はその著書 『出社
は月に3日でいい』 (東洋経済新報社) のな
かで、Webカメラの効果について次のように
語っています。
「Webカメラを使って、 これまで国内外の工
場で数々の問題を発見し、 経営改善や安全
指導など、 さまざまな業務改革につなげてき
ました」
その具体例として次の8点を挙げています。
① 社員への安全作業や技術指導
② トラブル発生時の緊急対応
③ 盗難防止
④ 工場建設時の手抜き工事の発見
⑤ 製品の品質検査
⑥ 優秀作業員の表彰
⑦ 工場内外の視察による製品受注 ・
売上や利益予測
⑧ 出張費など管理費の削減
これだけではなかなか実感がしにくいと思い
ますので、 具体例として同書のなかで紹介さ
れている部分を引用してみましょう。
「Webカメラのおかげで、 工場内で発生する
製品トラブルなどの第一発見者の9割が、 社
長のわたしです。 人間の目で見られる範囲に
は、 どうしても限界があります。 目線の先に
壁や、 大きな機械などがあれば、 その向こう
はどうしても見えません。 ところがWebカメラ
は、 高 い 所 か ら、 角 度 を 自 由 に 変 え ら れ、
四方八方を見られます。 おまけに倍率10倍も
のズーム機能もあり、 製品品質検査だってカ
メラを通してできてしまう。 ステンレス製タンク
の加工処理が上手か下手かさえ見わけられる
ほどです。 加工処理を見たわたしが、 その上
手さに感激して、 溶接担当の中国人社員を表
彰したこともありました」
もちろんWebカメラですべてがわかるわけで
はありません。
「反対に、Webカメラで見て、 どうしても気にな
る場合は、 それをデジタルカメラで撮影させ、
私に添付ファイルにしてメール送信させることも
あります。 その結果、 上海の工場では誰もわ
からなかった溶接面の不良を、 岐阜にいるわ
たしが、 喫茶店のカウンターから指摘しました。
わが社は、 製品によって欠陥の有無をレント
ゲンや超音波撮影などで厳密に調べています
が、 わたしの指摘の正しさが、 それらのハイ
テク撮影によって立証されたことも何度かあり
ます」
その他にもエピソードは事欠かず、 中国工
場に夜中忍び込んだ泥棒を最初に発見し、 現
行犯逮捕させたり、 新工場の基礎工事で手抜
きをした業者をこれまた現行犯で取り押さえた
りと、 松久社長のWebカメラの活用は想像を
絶します。
岐阜県内では 「日本一のグローバル企業」
の呼び声高い同社の松久社長は、 月に2、 3
日しか出社せず、 ほぼ毎日喫茶店通いをして
いることで有名です。 ほとんど会社に出社しな
いため、 社長室もなければ社長秘書もいませ
ん。 会社と自宅とのなかほどにある喫茶店に
毎朝出勤し、 一台のノートパソコンで社長業を
こなしているのです。 そして、 その最大の武
器がWebカメラというわけです。 もちろん携帯
電話やメールをフルに活用し、 1日19時間、
365日仕事づけだとも記されています。
◆森松工業 沿革と海外進出
欧州危機も味方に
1947 年 松久辰夫が岐阜市神室
町 4 丁目にて個人創業
今年6月8日付けの地元紙 『岐阜新聞』 に森
松工業がスウェーデンのファーマジュール社を
買収したという記事が掲載されました。 東京や
関西はおろか岐阜と隣合わせの名古屋 (愛知
県) でも全く話題になりませんでしたが、 その
買収劇の中身を知れば知るほど、 森松工業の
戦略性の高さに目を見張ります。
ファーマジュール社は製薬メーカーの生産設
備の設計を手掛ける世界屈指の企業です。 岐
阜新聞によれば 「今回の買収では (ファーマ
ジュール社の) 製造部門は引き受けず、 設計
部門や販売部拠点のみを継承、 元社員20人
も再雇用した」 といいます。
ファーマジュール社はストックホルム、 ゴーセ
ンバーグなどスウェーデン国内の他に、 米国、
スイス、 アイルランドなど製薬メーカーが集中す
る地域をグローバルにカバーしており、 ピークと
なった2007年には200億円の売上を計上しま
したが、 今年2月に破綻。 そのタイミングで世
界最高峰の設計技術を持った同社の設計部門
と営業部門のみを買収しました。 森松工業と取
引関係にある外国企業の幹部は、 松久社長に
ファーマジュール社の買収金額は 「100億円く
らいかかっただろう」 と尋ねたと言います。 しか
し実際に森松工業が支払った買収金額はなんと
1億円にすぎませんでした。 スウェーデンはユー
ロ加盟国ではありませんが、 欧州経済全体が
大混乱に陥ったこの時期に欧州きっての設計技
術を誇るファーマジュール社を買収した松久社
長の手腕は並大抵のものではありません。
10月4日に森松工業の取材に行ってきます。
社長ともじっくりお話しを伺えることになっていま
す。 次週の 「HARVEYROAD WEEKLY」 で
詳細をお伝えします。 (財部誠一)
1963 年 労働省第一種圧力容器
製造許可工場の認定を
受ける
1964 年 資本金 200 万円にて森
松工業株式会社設立、
松久信夫が代表取締役
就任
1975 年 資本金 800 万円に増資。
東京営業所開設。 糸貫
工場第一期工事完成、
操業開始
1980 年 本社を糸貫工場内に移
転、 圧力容器工場完成
1983 年 資本金 7,000 万円に増資
大阪営業所開設
1987 年 アムト株式会社設立
1989 年 香港に進出 (結添有限公司)
1990 年 上海に進出
(上海森松圧力容器有限公司)
1991 年 上海工場完成
1992 年 中小企業研究センター賞
受賞。 科学技術庁長官
賞受賞
1993 年 岐阜県発明考案功労賞
受賞
1994 年 株式会社森松総合研究所
設立 1997 年 松久信夫社長 黄綬褒章
受章
1998 年 ニュービジネス大賞受賞
1999 年 資本金を 2,8 億円に増資
2001 年 本格的に中国へ進出。
以降、 上海、 江蘇に 10
法人を設立
2003 年 ヨーロッパ圧力容器製造
許可取得
2008 年 モリマツ・ヒューストン・コー
ポレーション設立
2011 年 ファーマジュール モリマツ
AB 設立 (スウェーデン)
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