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線形代数学ノート
線形代数学ノート 目次 1 集合・写像 1 2 平面の 1 次変換によってそれ自身に写される直線について 3 3 行列式 6 6 3.1 行列式の帰納的定義 3.2 3.3 行列式の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 3.4 3.5 順列の反転数を用いた行列式の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 行列式の特徴付け . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 行列式の性質のまとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 4 空間の回転移動 22 5 対角化可能な行列の作り方 26 5.1 5.2 6 与えられた数を固有値にもつ対角化可能な行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 与えられた実数を固有値にもつエルミート行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31 直交行列の作り方 33 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39 6.1 6.2 3 次直交行列 4 次直交行列 6.3 成分がすべて有理数である 3 次直交行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44 7 2 次曲線・2 次曲面の分類 46 7.1 2 次曲線の分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49 7.2 2 次曲面の分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50 8 2 次形式 54 9 行列の積の交換可能性について 58 10 スターリング数とベルヌーイ数 59 集合・写像 1 定義 1.1 思考の対象として「明確な意味」をもつものを要素または元 (element) といい, 確定した範囲の要素を ひとつにまとめた「集り」を集合 (set) と呼ぶ. 定義 1.2 真か偽のいずれかである主張を命題という. また, 変数 x を含み, x に要素を代入したときに命題にな るものを, 命題関数という. 記号 1.3 (1) 要素 a が集合 A の要素であるとき, a ∈ A または A ∋ a で表し, a は A に属するという. また要 素 a が A の要素でないとき, a ̸∈ A または A ̸∋ a と表す. (2) 要素 a, b, c, . . . からなる集合を {a, b, c, . . . } で表し (外延的記法), 変数 x を含む命題関数 P (x) に対し, P (x) が真である x 全体の集合を {x| P (x)} で表す (内包的記法). また, 集合 A の要素 x で, 命題関数 P (x) が 真であるもの全体からなる集合を {x| x ∈ A かつ P (x)} のかわりに {x ∈ A| P (x)} で表すことが多い. 記号 1.4 自然数全体からなる集合 { {1, 2, 3, . . . , } を}N , 整数全体からなる集合 {. . . , −3, −2, −1, 0, 1, 2, 3, . . . , } を Z, 有理数全体からなる集合 pq p, q ∈ Z, q ̸= 0 を Q, 実数全体からなる集合を R, 複素数全体からなる集 合 {x + yi| x, y ∈ R} を C で表すことにする. 定義 1.5 (1) 2 つの集合 A, B はそれらの構成要素が全く同じであるとき (すなわち「x ∈ A ならば x ∈ B 」と 「x ∈ B ならば x ∈ A」が成り立つとき), 「A と B は等しい」といい, A = B で表す. (2) 集合 A の要素がすべて集合 B の要素であるとき, A は B の部分集合であるといい, A ⊂ B または B ⊃ A で表す. すなわち A ⊂ B は「x ∈ A ならば x ∈ B 」と同値である. (3) 要素をもたない集合を空集合と呼び, ∅ で表す. 定義 1.6 A, B を集合とする. (1) A, B の合併集合 (union) A ∪ B, 共通部分 (intersection) A ∩ B, 差集合 A − B を次のように定める. A ∪ B = {x| x ∈ A または x ∈ B}, A ∩ B = {x| x ∈ A かつ x ∈ B}, A − B = {x| x ∈ A かつ x ̸∈ B} (2) x ∈ A, y ∈ B に対し (x, y) を x と y の順序対という. x, z ∈ A, y, w ∈ B のとき, x = z かつ y = w であるときに限り, (x, y) = (z, w) と表すことにする. A の要素と B の要素の順序対全体からなる集合 {(x, y)| x ∈ A, y ∈ Y } を A と B の直積集合と呼んで, A × B で表す. 定義 1.7 a, b ∈ R (a ≦ b) に対し, 実数の部分集合 (a, b), (a, b], [a, b), [a, b], (a, ∞), [a, ∞), (−∞, b), (−∞, b] を (a, b) = {x ∈ R| a < x < b}, (a, b] = {x ∈ R| a < x ≦ b}, [a, b] = {x ∈ R| a ≦ x ≦ b}, (a, ∞) = {x ∈ R| x > a}, (−∞, b) = {x ∈ R| x < b}, [a, b) = {x ∈ R| a ≦ x < b}, [a, ∞) = {x ∈ R| x ≧ a}, (−∞, b] = {x ∈ R| x ≦ b} によって定める. これらの部分集合を総称して区間と呼び, (a, b), (a, ∞), (−∞, b) を開区間, [a, b], [a, ∞), (−∞, b] を閉区間という. 定義 1.8 (1) X, Y を集合として, X の各要素に対して Y の 1 つの要素を対応させるとき, この対応を X から f Y への写像と呼んで, f : X → Y や X −→ Y などで表す. このとき, X を f の定義域という. (2) 各 x ∈ X に対し, 写像 f : X → Y によって対応する Y の要素を f (x) で表し, これを x の f による像と 呼ぶ. (3) 2 つの写像 f : X → Y と g : Z → W が「等しい」とは, X = Z かつ Y = W であり, すべての x ∈ X に 対して f (x) = g(x) が成り立つことである. f と g が等しいことを f = g で表す. 1 定義 1.9 (1) X, Y , Z を集合, f : X → Y , g : Y → Z を写像とする. 各 x ∈ X に対して, g(f (x)) ∈ Z を対応 させる X から Z への写像を f と g の合成写像と呼んで g◦f で表す. (2) X の各要素 x を x 自身に対応させる写像を X の恒等写像と呼び, idX , IdX または 1X などで表す. (3) 写像 f : X → Y に対し, g◦f = idX , f ◦g = idY を満たす写像 g : Y → X を f の逆写像といい, g = f −1 で表す. (4) 写像 f : X → Y が, 条件「Y の各要素 c に対して, f (x) = c となる x ∈ X が存在する.」を満たすとき, f は全射 (または上への写像) であるという. (5) 写像 f : X → Y が, 条件「f (x) = f (y) (x, y ∈ X) ならば x = y.」を満たすとき, f は単射 (または 1 対 1 写像) であるという. (6) 全射かつ単射を全単射という. 注意 1.10 (1) 写像 f : X → Y , g : Y → Z, h : Z → W に対し, h◦(g◦f ) = (h◦g)◦f が成り立つ. また, idY ◦f = f ◦idX = f が成り立つ. (2) x ∈ X に対し, idX (x) = x だから, 写像 f : X → Y , g : Y → X に対し, g◦f = idX が成り立つためには, すべての x ∈ X に対して g(f (x)) = x が成り立つことが必要十分である. 従って g が f の逆写像であるために は,「すべての x ∈ X に対して g(f (x)) = x」かつ「すべての y ∈ Y に対して f (g(y)) = y 」が成り立つことが必 要十分である. 命題 1.11 写像 f : X → Y の逆写像が存在するためには, f が全単射であることが必要かつ十分であり f の逆 写像はただ一つに限る. 証明 写像 f : X → Y の逆写像 g が存在するとき, 任意の y ∈ Y に対して f (g(y)) = f ◦g(y) = idY (y) = y だか ら f は全射である. また x, z ∈ X が f (x) = f (z) を満たすとき, x = idX (x) = g◦f (x) = g(f (x)) = g(f (z)) = g◦f (z) = idX (z) = z より f は単射である. 逆に f が全単射ならば, 任意の y ∈ Y に対して f (x) = y を満たす x ∈ X がただ 1 つ存在するため y ∈ Y に対して f (x) = y を満たす x ∈ X を対応させる写像を g : X → Y とする. このとき任意の y ∈ Y に対し て f ◦g(y) = f (g(y)) = y = idY (y) だから f ◦g = idY が成り立つ. 任意の x ∈ Y に対して f (x) = y とおくと, g(y) = x だから g◦f (x) = g(f (x)) = g(y) = x = idX (x) となり, g◦f = idX が得られる. 故に g は f の逆写像で ある. g, h : Y → X を f の逆写像とすれば f ◦h = idY , g◦f = idX だから, 任意の y ∈ Y に対して g(y) = g(idY (y)) = g(f ◦h(y)) = g(f (h(y)) = g◦f (h(y)) = idX (h(y)) = h(y) が成り立つ. 従って h = g となるため, f の逆写像はた だ一つだけである. □ f : X → Y の逆写像が存在するとき, それを f −1 : Y → X で表す. 命題 1.12 写像 f : X → Y , g : Y → Z が与えられているとする. (1) f , g がともに全射ならば, 合成写像 g◦f : X → Z も全射である. (2) f , g がともに単射ならば, 合成写像 g◦f : X → Z も単射である. (3) 合成写像 g◦f : X → Z が全射ならば, g も全射である. (4) 合成写像 g◦f : X → Z が単射ならば, f も単射である. 証明 (1) g は全射だから, 任意の z ∈ Z に対して g(y) = z を満たす y ∈ Y がある. さらに f も全射だから, f (x) = y を満たす x ∈ X がある. このとき (g◦f )(x) = g(f (x)) = g(y) = z となるため g◦f は全射である. (2) x, w ∈ X が (g◦f )(x) = (g◦f )(w) を満たすとすると g(f (x)) = g(f (w)) である. 従って, g が単射であるこ とから, f (x) = f (w) が得られる. さらに f も単射だから x = w である. 故に g◦f も単射である. (3) g◦f は全射だから, 任意の z ∈ Z に対して g(f (x)) = (g◦f )(x) = z を満たす x ∈ X がある. そこで, y = f (x) とおけば g(y) = z だから, g は全射である. (4) x, w ∈ X が f (x) = f (w) を満たすならば (g◦f )(x) = g(f (x)) = g(f (w)) = (g◦f )(w) が成り立つ. g◦f は 単射だから, x = w が得られ, f も単射であることがわかる. □ 2 2 平面の 1 次変換によってそれ自身に写される直線について 定義 2.1 A を 2 次正方行列とする. 実数 λ と零ベクトルでない平面のベクトル x に対し, 等式 Ax = λx が成り 立つとき, λ を A の固有値といい, x を λ に対する A の固有ベクトルという. ( ) a b 定義 2.2 2 次正方行列 A = に対し, ad − bc を A の行列式と呼んで |A| または det A で表す. c d 命題 2.3 2 次正方行列 A に対し, Ax = 0 を満たす零でないベクトル x が存在するためには |A| = 0 であるこ とが必要十分である. ( ) ( ) ( ) a b x ax + by 証明 A = に対し, Ax = 0 を満たす零でないベクトル x = が存在するならば Ax = c d y cx + dy だから ax + by = 0 かつ cx + dy = 0 が成り立つ. 1 つめの式の両辺を d 倍したものから 2 つめの式の両辺を b 倍したもの辺々引いて y を消去すれば |A|x = 0 が得られ, 2 つめの式の両辺を a 倍したものから 1 つめの式の 両辺を c 倍したもの辺々引いて x を消去すれば |A|y = 0 が得られる. x, y の少なくとも一方は 0 でないため |A|x = |A|y = 0 から |A| = 0 が導かれる. ( ) ( ) b d 逆に |A| = 0 を仮定すると, A が零行列でない場合は v = ,w= とおくと v, w の少なくとも一 −a −c 方は零ベクトルではなく, Av = Aw = 0 が成り立つ. A が零行列の場合は, 主張は明らかである. □ ( ) ( ) a b 命題 2.4 平面の 2 つのベクトル a = ,b= に対し, 一方が他方の実数倍であるためには ad − bc = 0 で c d あることが必要十分である. 証明 b = ra を満たす実数 r が存在するならば b = ar, d = cr だから ad − bc = acr − arc = 0 である. a = sb を満たす実数 r が存在する場合も同様に ad − bc = 0 が示される. ( ) ( ) a b x A= とおけば, 命題 2.3 より Ax = 0 を満たす零でないベクトル x = が存在する. このとき, c d y ax + by = 0 かつ cx + dy = 0 が成り立つため, xa + yb = 0 が得られる. 従って xa = −yb であり, x, y の一方 は零でないため, この等式は a と b の一方が他方の実数倍であることを意味する. □ 命題 2.5 2 次正方行列 A, B に対し, |AB| = |A||B| が成り立つ. ( ) ( ) ( ) a b p q ap + br aq + bs 証明 A = , B = とすれば, AB = だから |AB| = (ap + br)(cq + ds) − c d r s cp + dr cq + ds (aq + bs)(cp + dr) = adps + bcqr − adqr − bcps = (ad − bc)(ps − qr) = |A||B| である. □ ( ) a b 定理 2.6 λ が A = の固有値であるためには, λ が 2 次方程式 t2 − (a + d)t + ad − bc = 0 の実数解であ c d ることが必要十分である. 証明 λ が A の固有値ならば x がある. ここで, Ax = λx は (A − λE)x = 0 ( Ax = λx を満たす零でないベクトル ) a−λ b と同値だから A − λE = に対して命題 2.3 を用いると |A − λE| = (a − λ)(d − λ) − bc = 0 が得 c d−λ られる. 従って λ2 − (a + d)λ + ad − bc = 0 となるため λ は t2 − (a + d)t + ad − bc = 0 の実数解である. 逆に λ が t2 − (a + d)t + ad − bc = 0 の実数解ならば, |A − λE| = (a − λ)(d − λ) − bc = 0 となるため, 命題 2.3 により (A − λE)x = 0 を満たす零でないベクトル x がある. このとき Ax = λx だから λ は A の固有値で ある. □ 補題 2.7 2 次正方行列 A は相異なる固有値 λ, µ をもつとする. v, w をそれぞれ λ, µ に対する A の固有ベク トルとすると, これらの一方は他方の実数倍ではない. 3 証明 w = kv を満たす実数 k が存在すると仮定して, この両辺に A をかければ, µw = kλv が得られる. この等 式に w = kv を代入すれば k(µ − λ)v = 0 が得られ, µ ̸= λ, v ̸= 0 より k = 0 である. 従って w = 0 となり, w が零ベクトルであることに矛盾するため, w は v の実数倍ではない. 同様に, v は w の実数倍ではない. □ 定理 2.8 A を 2 次正方行列とする. TA により, それ自身に写される原点を通る直線がちょうど 2 本だけ存在す るためには, A が 0 でない相異なる実数の固有値をもつことが必要十分である. 証明 TA により, それ自身に写される原点を通る直線がちょうど 2 本存在するとして, それらを l, m とし, 方向 ベクトルをそれぞれ v, w とする. TA によって, l, m はそれぞれ Av, Aw を方向ベクトルとする直線に写るた め, 仮定から Av = λv, Aw = µw を満たす実数 λ, µ がある. もし λ = 0 または µ = 0 ならば Av = 0 または Aw = 0 となるため, l または m 全体が原点に写されることになるので, λ ̸= 0 かつ µ ̸= 0 である. v と w は互 いに他の実数倍ではないため, 平面の任意のベクトル x は x = xv + yw と表すことができる. もし λ = µ ならば Ax = A(xv + yw) = xAv + yAw = xλv + yλw = λ(xv + yw) = λx となって, TA は原点を中心とした λ 倍の相 似拡大の写像である. このとき, 原点を通る任意の直線は, それ自身に写されるため仮定に反する. 従って λ ̸= µ であり, A は 0 でない相異なる実数の固有値をもつ. 逆に A が 0 でない相異なる実数の固有値 λ, µ をもつと仮定する. v, w をそれぞれ λ, µ に対する A に対する 固有ベクトルとすれば, 補題 2.7 より, v と w は互いに他の実数倍ではない. このとき, v, w を方向ベクトルとす る原点を通る直線を, それぞれ l, m とすれば, l, m は TA により, それ自身に写される相異なる直線である. l, m 以外に, TA によってそれ自身に写される原点を通る直線 n があると仮定して, その方向ベクトルを u とすると Au = νu を満たす実数 ν がある. v と w は互いに他の実数倍ではないため, u は u = av + bw と表すことができ る. このとき, Au = A(av + bw) = aAv + bAw = aλv + bµw であり, 一方 Au = νu = ν(av + bw) = aνv + bνw だから aλv + bµw = aνv + bνw が成り立つ. 従って a(λ − ν)v = b(ν − µ)w であり, v と w は互いに他の実数 倍ではないため a(λ − ν) = b(ν − µ) = 0 である. λ ̸= µ だから, λ − ν と ν − µ の少なくとも一方は 0 ではない. λ − ν ̸= 0 ならば a = 0 だから, n の方向ベクトル u は w の実数倍となるため, n は m に一致して, n は m と異 なるという仮定に反する. ν − µ ̸= 0 ならば b = 0 だから, n の方向ベクトル u は v の実数倍となるため, n は l に一致して, n は l と異なるという仮定に反する. 故に, l, m 以外に TA によってそれ自身に写される原点を通る 直線は存在しないため, A が 0 でない相異なる実数の固有値 λ, µ をもてば TA によってそれ自身に写される原点 □ を通る直線がちょうど 2 本だけ存在する. 定理 2.9 A を 2 次正方行列とする. 原点を通らない直線で, TA により, それ自身に写されるものが存在するため には, A が 1 を固有値にもち, 0 を固有値にもたないことが必要十分である. 証明 TA により, それ自身に写される原点を通らない直線を l とし, l のパラメータ表示を x = a + tv とする. TA によって l は x = Aa + tAv でパラメータ表示される直線に写される. この直線が l に一致するためには Av = λv をみたす 0 でない実数 λ と a = Aa + t0 Av をみたす実数 t が存在することが必要十分である. λ ̸= 1 t0 λ ならば w = a + v とおくと, Aa = a − t0 λv より, Aw = w が成り立つことがわかる. ℓ は原点を通らない λ−1 ため, w は零ベクトルではないので, A は固有値 1 をもち, w は 1 に対する A の固有ベクトルである. λ = 1 な らば Av = v より, この場合も A は固有値 1 をもつ. 故に, TA により, それ自身に写される原点を通らない直線 が存在すれば A は 1 を固有値にもつ. A が 0 を固有値にもつと仮定して 0 に対する A の固有ベクトルを z とする. 1 に対する A の固有ベクトルを u とすれば, 補題 2.7 より, u と z は互いに他の実数倍ではないため, 平面の任意のベクトル x は x = xu + yz と 表すことができる. このとき Au = u, Az = 0 より, TA (x) = Ax = A(xu + yz) = xAu + yAz = xu となり, 平 面上のすべての点は TA によって u を方向ベクトルとする原点を通る直線に写されるため, TA によってそれ自身 に写される原点を通らない直線は存在しない. 従って A は 0 を固有値にもたない. 逆に A が 1 を固有値にもち, 0 を固有値にもたないと仮定する. 定理 2.6 から A の固有値は実数係数の 2 次方 程式の解で, 1 はその 1 つの解だから他方の解も実数で, それを λ とすると, 仮定により λ ̸= 0 である. λ ̸= 1 の 場合, 固有値 1, λ に対する A の固有ベクトルをそれぞれ p, v として, x = p + tv でパラメータ表示される直線 4 を l とすると, 補題 2.7 によって p は v の実数倍ではないため, l は原点を通らないことがわかる. また Ap = p, Av = λv だから l は x = p + tλv でパラメータ表示される直線に写される. この直線の方向ベクトル λv は l の 方向ベクトルと平行で, この直線と l はともに a を位置ベクトルとする点を通るため, この直線と l は一致して, l は TA によって l 自身に写される. λ = 1 の場合, 1 に対する A の固有ベクトルを v として, p を v の実数倍ではないベクトルとする. このと き平面の任意のベクトルは xv(+ yp . ) ) の形に表すことができるため, Ap = αp +(βv を満たす実数 ) ( α, β がある ) ( ( ) a b u w aw + bz αw + βu A= ,v= ,p= とおいて, Ap = αp + βv を成分で表せば, = であ c d v z cw + dz αz + βv ( ) ( ) au + bv u る. また Av = v だから, この等式も成分で表せば, = が得られる. 従って, これらの等式を行 cu + dv v ( ) ( ) ( )( ) aw + bz au + bv αw + βu u a b w u 列を用いて一つにまとめると, = が得られ, この左辺は cw + dz cu + dy αz + βv v c d z v ( )( ) ( )( ) ( )( ) w u α 0 a b w u w u α 0 に等しく, 右辺は に等しいため = が成り立つ. この両辺 z v β 1 c d z v z v β 1 の行列式を考えて, 命題 2.5 を用いれば (ad − bc)(wv − uz) = (wv − uz)α が得られる. p と v の一方は他方の実 数倍ではないため, 命題 2.4 から wv − uz ̸= 0 だから, 上式の両辺を wv − uz で割って α = ad − bc を得る. 一方, A の固有値は 1 だけだから, 定理 2.6 によって, 2 次方程式 t2 − (a + d)t + ad − bc = 0 は 1 を重解にもつ. 故に ad − bc = 1 となるため α は 1 に等しいことがわかる. そこで, x = p + tv によってパラメータ表示される直線を l とすれば, p は v の実数倍ではないため, l は原点を通らない. TA による l の像は x = Ap + tAv によってパラ メータ表示される直線である. Ap = p + βv, Av = v だから, この直線のパラメータ表示は x = p + (t + β)v と なり, l と同じ直線を表す. よって l は TA によって l 自身に写されるため, 原点を通らない直線で, TA により, そ れ自身に写されるものが存在する. ( ) □ 2a + 3 a+1 とする. −a − 10 −a − 3 (1) TA によってそれ自身に写される原点を通る直線が 1 本だけ存在する a の値と, その直線の傾きを求めよ. (2) TA によってそれ自身に写される原点を通らない直線が存在する a の値と, その直線の方向ベクトルを求 例題 2.10 a を実数の定数とし, A = めよ. 解答 (1) A の固有値は 2 次方程式 x2 − ax − a2 + 2a + 1 = 0 の解だから, 定理 2.8 より, TA により, それ自身に 写される原点を通る直線がただ 1 つだけ存在するためには x2 − ax − a2 + 2a + 1 = 0 が 0 以外のただ 1 つの実 数解をもつことが必要十分である. すなわち, x2 − ax − a2 + 2a + 1 = 0 が 0 以外の重解をもつか, 0 と 0 でない 2 2 つの解をもつことが必要十分である. 前者の場合, 5a2 − 8a − 4 = 0 から a = − または a = 2 であり, 後者の 5 √ ( 1 ) 2 1 2 場合, −a + 2a + 1 = 0 より a = 1 ± 2 である. a = − のとき A の固有値は − , 固有ベクトルは −4 であ √5 ( 1 )5 り, a = 2 のとき A の固有値は 1, 固有ベクトルは −2 である. また, a = 1 + 2 のとき A の 0 でない固有値 ( ) √ √ √ は 1 + 2, 固有ベクトルは 3−1√2 であり, a = 1 − 2 のとき A の 0 でない固有値は 1 − 2, 固有ベクトルは ) ( 2 1√ である. 従って TA により, それ自身に写される原点を通る直線の傾きは a = − ならば −4, a = 2 な 3+ 2 5 √ √ √ √ らば −2, a = 1 + 2 ならば 3 − 2, a = 1 − 2 ならば 3 + 2 である. (2) 定理 2.9 より, A が 1 を固有値にもち, 0 を固有値にもたないような a の値を求めればよい. A の固有値は 2 次方程式 x2 − ax − a2 + 2a + 1 = 0 の解だから, これが 1 を解にもつためには, −a2 + a + 2 = 0 より, a = 2 ま たは a = −1 であることが必要十分である. a = 2 の場合, A の固有値は 1 のみであり, a = −1 の場合は A の固 有値は 1 と −2 だから, いずれの場合でも A は 0 を固有値にもたない. 従って, 求める A の値は a = 2 または ( 1 ) a = −1 である. a = 2 の場合, 1 に対する A の固有ベクトルは −2 であり, 定理 2.9 の証明から, このベクトル が TA によってそれ自身に写される原点を通らない直線の方向ベクトルである. a = −1 の場合, 定理 2.9 の証明 から, 1 以外の固有値 −2 に対する A の固有ベクトル ( 01 ) が TA によってそれ自身に写される原点を通らない直 □ 線の方向ベクトルになる. 5 行列式 3 3.1 行列式の帰納的定義 1 次方程式 ax = b がただ一つの解を持つためには, 未知数 x の係数 a が 0 でないことが必要十分である. この 方程式を未知数が 1 つ, 式が 1 つの「連立 1 次方程式」とみて, この係数行列を A とすれば, A は (1, 1) 成分が a である 1 次正方行列である. そこで, この 1 次正方行列 A = (a) の行列式 D1 (A) を D1 (A) = a (3.1) によって定めれば, D1 (A) は方程式 ax = b がただ一つの解を持つかどうかの「判別式」と考えられる. 未知数が 2 つ, 式が 2 つの連立 1 次方程式 a x + a x = b 11 1 12 2 1 a x + a x = b 21 1 22 2 2 (3.2) が与えられたとき, この係数行列を A とおく. 第 1 式の両辺を a22 倍したものから, 第 2 式の両辺を a12 倍したも のを引いた式と, 第 2 式の両辺を a11 倍したものから, 第 1 式の両辺を a21 倍したものを引いた式は (a a − a a )x = a b − a b 11 22 12 21 1 22 1 12 2 (a a − a a )x = a b − a b 11 22 12 21 2 11 2 (3.3) 21 1 となるため, 方程式 (3.2) がただ一組の解を持つためには,(係数行列 ) A の成分から定まる数 a11 a22 − a12 a21 が 0 a11 a12 の行列式 D2 (A) を でないことが必要十分である. そこで, 2 次正方行列 A = a21 a22 D2 (A) = a11 a22 − a12 a21 (3.4) によって定めれば, D2 (A) は方程式 (3.2) がただ一組の解を持つかどうかの「判別式」と考えられる. 未知数が 3 つ, 式が 3 つの連立 1 次方程式 a x + a12 x2 + a13 x3 = b1 11 1 a21 x1 + a22 x2 + a23 x3 = b2 a x + a x + a x = b 31 1 32 2 33 3 3 (3.5) が与えられたとき, この係数行列を A とおく. 上と同様にして, 第 1 式と第 2 式を用いて x3 を消去, 第 1 式と第 3 式を用いて x3 を消去, 第 2 式と第 3 式を用いて x3 を消去すれば, (a a − a13 a21 )x1 + (a12 a23 − a13 a22 )x2 = a23 b1 − a13 b2 11 23 (a11 a33 − a13 a31 )x1 + (a12 a33 − a13 a32 )x2 = a33 b1 − a13 b3 (a a − a a )x + (a a − a a )x = a b − a b 21 33 23 31 1 22 33 23 32 2 33 2 23 3 ( (3.6) ) ( ) a11 a33 − a13 a31 a12 a33 − a13 a32 a11 a23 − a13 a21 a12 a23 − a13 a22 が得られる. そこで, A1 = , A2 = , a21 a33 − a23 a31 a22 a33 − a23 a32 a21 a33 − a23 a31 a22 a33 − a23 a32 ( ) a11 a23 − a13 a21 a12 a23 − a13 a22 A3 = とおけば, 上の結果から (3.6) の第 1 式と第 2 式を満たす x1 , x2 がた a11 a33 − a13 a31 a12 a33 − a13 a32 だ一組存在するためには D2 (A3 ) ̸= 0 であることが必要十分, (3.6) の第 1 式と第 3 式を満たす x1 , x2 がただ一組 存在するためには D2 (A2 ) ̸= 0 であることが必要十分であり, (3.6) の第 2 式と第 3 式を満たす x1 , x2 がただ一組 6 存在するためには D2 (A1 ) ̸= 0 であることが必要十分である. 従って, D2 (A1 ), D2 (A2 ), D2 (A3 ) のいずれかが 0 でなければ, (3.6) を満たす x1 , x2 がもし存在すれば一組である. ここで, D2 (A1 ), D2 (A2 ), D2 (A3 ) は D2 (A1 ) = a33 (a11 a22 a33 − a11 a23 a32 + a12 a23 a31 − a12 a21 a33 + a13 a21 a32 − a13 a22 a31 ) D2 (A2 ) = a23 (a11 a22 a33 − a11 a23 a32 + a12 a23 a31 − a12 a21 a33 + a13 a21 a32 − a13 a22 a31 ) D2 (A3 ) = a13 (a11 a22 a33 − a11 a23 a32 + a12 a23 a31 − a12 a21 a33 + a13 a21 a32 − a13 a22 a31 ) で与えられるため, D2 (A1 ), D2 (A2 ), D2 (A3 ) のいずれかが 0 でないためには a11 a22 a33 − a11 a23 a32 + a12 a23 a31 − a12 a21 a33 + a13 a21 a32 − a13 a22 a31 が 0 でないことが必要である. 逆に上の値が 0 でないならば a13 , a23 , a33 は同時に 0 になることはないため, こ の値が 0 でないことが, D2 (A1 ), D2 (A2 ), D2 (A3 ) のいずれかが 0 でないための必要十分条件である. そこで, 3 a11 a12 a13 次正方行列 A = a21 a22 a23 の行列式 D3 (A) を a31 a32 a33 D3 (A) = a11 a22 a33 − a11 a23 a32 + a12 a23 a31 − a12 a21 a33 + a13 a21 a32 − a13 a22 a31 (3.7) によって定めれば, D3 (A) は方程式 (3.5) がただ一組の解を持つかどうかの「判別式」と考えられる. 一般の n 次正方行列 A に対して A の行列式 Dn (A) を定義するために, 次のような考察を行う. (3.7) は D3 (A) = a11 (a22 a33 − a23 a32 ) − a12 (a21 a33 − a23 a31 ) + a13 (a21 a32 − a22 a31 ) ( ) ( ) ( ) a22 a23 a21 a23 a21 a22 = a11 D2 − a12 D2 + a13 D2 a32 a33 a31 a33 a31 a32 と変形されるため, n 次正方行列 A に対し, Apq で A の第 p 行と第 q 列を除いて得られる n − 1 次正方行列を表 すことにすれば, 上式から D3 (A) = a11 D2 (A11 ) − a12 D2 (A12 ) + a13 D2 (A13 ) (3.8) が得られる. また, (3.4) に対しても上と同じ見方をすれば D2 (A) = a11 D1 (A11 ) − a12 D1 (A12 ) (3.9) が成り立っていたことがわかる. 等式 (3.9) と (3.8) から類推して, n 次正方行列 A の行列式 Dn (A) は Dn (A) = n ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (A1k ) (3.10) k=1 を満たすものであると考えるのが自然である (ちょっと強引). そこで, (3.1) から始めて, 帰納的に n − 1 次正方行 列 A の行列式 Dn−1 (A) が定義できたとして, n 次正方行列 A の行列式 Dn (A) を (3.10) によって定義する. こ のように定義した A の行列式 Dn (A) に関して, n = 1, 2 の場合には成立する次の定理が, 一般の n の場合に成立 することを証明できれば, この行列式の定義は正しかった (というか, 意味がある) ことになる. 定理 3.1 n 次正方行列 A を係数行列とする連立 1 次方程式が, ただ 1 組の解をもつためには, Dn (A) ̸= 0 である ことが必要十分である. 現時点では上の定理をいきなり証明するのは困難なので, まず (3.4) や (3.7) のように, 定義が具体的に与えられ ている D2 (A) と D3 (A) が持つ性質を以下で調べてみる. なお, 上の定理は次節の定理 3.10 のあとで証明する. 7 ( 2 次正方行列 A = a11 a21 a12 a22 ) に対し, (3.4) から ( D2 (A) = a22 −a12 ( ) ) a 11 a21 ( = a11 −a21 ( ) ) a 22 a12 ( が成り立つ. a1 , a2 をそれぞれ A の第 1 列, 第 2 列とすれば, A = a1 ) a2 だから, D2 (A) を 2 つの 2 次元数ベ クトル a1 , a2 の関数 D2 (a1 , a2 ) とみなすことができる. このとき, 上式から次の等式が得られる. D2 (a1 , a2 ) = T(a22 −a12 ) (a1 ) = T(a11 −a21 ) (a2 ) 等式 D2 (a1 , a2 ) = T(a22 −a12 ) (a1 ) は, a2 固定すれば, D2 (a1 , a2 ) が a1 に関して 1 次写像であることを意味し, 等式 D2 (a1 , a2 ) = T(a11 −a21 ) (a2 ) は, a1 固定すれば, D2 (a1 , a2 ) が a2 に関して 1 次写像であることを意味する. すなわち, 2 次元数ベクトル a1 , a′1 a2 , a′2 とスカラー r に対して次の等式が成り立つ. D2 (a1 + a′1 , a2 ) = D2 (a1 , a2 ) + D2 (a′1 , a2 ), D2 (a1 , a2 + a′2 ) = D2 (a1 , a2 ) + D2 (a1 , a′2 ) D2 (ra1 , a2 ) = D2 (a1 , ra2 ) = rD2 (a1 , a2 ) (3.11) (3.12) A の 2 つの列が一致しているとき, すなわち a1 = a2 の場合, a11 = a12 かつ a21 = a22 だから, (3.4) からただ ちに次の等式が成り立つことがわかる. D2 (a1 , a1 ) = 0 (3.13) A が単位行列 E2 であるとき, すなわち a1 = e1 かつ a2 = e2 の場合, a11 = a22 = 1 かつ a12 = a21 = 0 だか ら, (3.4) からただちに次の等式が成り立つことがわかる. D2 (e1 , e2 ) = 1 (3.14) A が n 次正方行列の場合に, A の第 j 列を aj として Dn (A) を n 個の n 次元数ベクトル a1 , a2 , . . . , an の関 数 Dn (a1 , a2 , . . . , an ) とみなす. そこで, 一般に m 個の n 次元数ベクトルの関数 F の性質として, 以下のような (3.11) から (3.14) の一般化が考えられる. 定義 3.2 m 個の K n のベクトルを変数として K に値をとる関数 F について以下の条件 (D1)∼(D4) を考える. (D1) F (x1, . . . ,xj−1,xj +x′j,xj+1 , . . . , xm )=F (x1, . . . ,xj−1,xj ,xj+1 , . . . , xm )+F (x1, . . . ,xj−1,x′j,xj+1, . . . , xm ) (D2) F (x1 , . . . , xj−1 , rxj , xj+1 , . . . , xm ) = rF (x1 , . . . , xj−1 , xj , xj+1 , . . . , xm ) (D3) xi = xj となる i < j があれば F (x1 , x2 , . . . , xm ) = 0 (D4) m = n の場合, F (e1 , e2 , . . . , em ) = 1 すべての j = 1, 2, . . . , m と xk , x′k ∈ K n (k = 1, 2, . . . , m), r ∈ K に対して F が上の条件の (D1) と (D2) を 満たすとき, F を m 重線形写像といい, さらに F が (D3) も満たすとき F を交代 m 重線形写像という. m = n = 3 の場合, F = D3 は上の (D1)∼(D4) を満たすことは, (3.7) を用いて確かめることができる. 帰納的 に, F = Dn−1 が (D1)∼(D4) を満たすことを仮定して F = Dn が (D1)∼(D4) を満たすことを以下で示す. n 次元数ベクトル a に対し , a の第 1 成分を除いて得られる n − 1 次元数ベクトルを ā で表すことにすれば, ( ) A = a1 a2 . . . an のとき, Dn (A) = Dn (a1 , a2 , . . . , an ) は (3.10) により, 次のように書き直せる. Dn (a1 , a2 , . . . , an ) = n ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=1 8 (3.15) 以下で Dn−1 は (D1)∼(D4) を満たすと仮定する. a′j の第 i 成分を a′ij とすれば Dn (a1 , . . . , aj + a′j , . . . , an ) = j−1 ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , āj + ā′j , . . . , ān ) k=1 +(−1)j−1 (a1j + a′1j )Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) n ∑ + (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āj + ā′j , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=j+1 = j−1 ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , āj , . . . , ān ) k=1 +(−1)j−1 a1j Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) n ∑ + (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āj , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=j+1 + j−1 ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ā′j , . . . , ān ) k=1 +(−1)j−1 a′1j Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) n ∑ + (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , ā′j , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=j+1 = Dn (a1 , . . . , raj , . . . , an ) = Dn (a1 , . . . , aj , . . . , an ) + Dn (a1 , . . . , a′j , . . . , an ) j−1 ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , rāj , . . . , ān ) k=1 +(−1)j−1 ra1j Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) n ∑ + (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , rāj , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=j+1 = r j−1 ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , āj , . . . , ān ) k=1 +(−1)j−1 ra1j Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) n ∑ +r (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āj , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=j+1 = rDn (a1 , . . . , aj , . . . , an ) だから Dn は (D1), (D2) を満たすことが確かめられた. Dn が (D3) を満たすことを示すために, 次の結果を示す. 命題 3.3 m 個の n 次元数ベクトルの関数 F が (D1) と (D3) を満たせば, F は次の条件 (D3′ ) を満たす. また, 逆に (D3′ ) が成り立てば, 定義 3.2 の (D3) が成り立つ. (D3′ ) i < j のとき F (x1 , . . . , xi , . . . , xj , . . . , xm ) = −F (x1 , . . . , xi−1 , xj , xi+1 , . . . , xj−1 , xi , xj+1 , . . . , xm ) j i ˇ xj , . . . , xi + ˇ xj , . . . , xm ) = 0 である. (D1), (D3) を用いると, 証明 F が (D3) を満たすならば F (x1 , . . . , xi + j i i j ˇ xj , . . . , xm ) + F (x1 , . . . , x̌j , . . . , xi + ˇ xj , . . . , xm ) = この左辺は F (x1 , . . . , x̌i , . . . , xi + i j j i j i F (x1 , . . . , x̌i , . . . , x̌i , . . . , xm ) + F (x1 , . . . , x̌i , . . . , x̌j , . . . , xm ) + F (x1 , . . . , x̌j , . . . , x̌i , . . . , xm )+ i j j i i j F (x1 , . . . , x̌j , . . . , x̌j , . . . , xm ) = F (x1 , . . . , x̌i , . . . , x̌j , . . . , xm ) + F (x1 , . . . , x̌j , . . . , x̌i , . . . , xm ) と変形される. i j j i 従って F (x1 , . . . , x̌i , . . . , x̌j , . . . , xm ) + F (x1 , . . . , x̌j , . . . , x̌i , . . . , xm ) = 0 が得られ, この等式の左辺の第 2 項を 右辺に移項すれば (D3′ ) が得られる. 9 逆に (D3′ ) が成り立つとする. xi = xj (i < j) ならば (D3′ ) より F (x1 , . . . , xi , . . . , xj , . . . , xm ) = −F (x1 , . . . , xj , . . . , xi , . . . , xm ) = −F (x1 , . . . , xi , . . . , xj , . . . , xm ) □ だから 2F (x1 , . . . , xm ) = 0. 従って (D3) が成立する. ai = aj となる i < j があるとする. āi = āj だから, Dn−1 が (D3) を満たすことから, k ̸= i, j ならば Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) = 0 である. また, (ā1 , . . . , āi−1 , āi+1 , . . . , ān ) の左から j − 1 番目の āj を左 隣のベクトルと順に入れ替えていくことにより, (ā1 , . . . , āi−1 , āi+1 , . . . , ān ) を (ā1 , . . . , āi−1 , āj , āi+1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) に並び換える. このとき, āj を左隣のベクトルと j − i − 1 回交換したことになる. Dn−1 は (D1), (D3) を満たす ため, (3.3) により Dn−1 は (D3′ ) も満たす. 従って, 変数のベクトルの 1 回の入れ換えで Dn−1 の符号が 1 回変 わるため, āj = āi であることに注意すれば Dn−1 (ā1 , . . . , āi−1 , āi+1 , . . . , ān ) = (−1)j−i−1 Dn−1 (ā1 , . . . , āi−1 , āj , āi+1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) = (−1)j−i−1 Dn−1 (ā1 , . . . , āj−1 , āj+1 , . . . , ān ) さらに a1i = a1j であることに注意すれば, Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) = 0 (k ̸= i, j) と, (3.15) より Dn (a1 , a2 , . . . , an ) = (−1)i−1 a1i Dn−1 (ā1 , . . . ,āi−1 , āi+1 , . . . ,ān ) + (−1)j−1 a1j Dn−1 (ā1 , . . . ,āj−1 , āj+1 , . . . ,ān ) = (−1)j−2 a1j Dn−1 (ā1 , . . . ,āj−1 , āj+1 , . . . ,ān )+(−1)j−1 a1j Dn−1 (ā1 , . . . ,āj−1 , āj+1 , . . . ,ān ) =0 である. 故に Dn は (D3) を満たす. 1 k = 1 k = 1, 2, . . . , n に対して ak = ek の場合, a1k = であり, k ≧ 2 ならば āk = ēk は n − 1 次元の基 0 k ̸= 1 本ベクトル ek−1 だから (3.15) と, Dn−1 が (D4) をみたすことから Dn (e1 , e2 , . . . , en ) = Dn−1 (ē2 , ē3 , . . . , ēn ) = Dn−1 (e1 , e2 , . . . , en−1 ) = 1 が得られ, Dn は (D4) を満たすことがわかる. 以上のことをまとめれば, 以下のようになる. 定理 3.4 n 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 Dn を以下のように帰納的に定義する. n = 1 のときは D1 ((a)) = a で D1 を定め, Dn−1 が定められたとする. n 次元数ベクトル a に対し, a の第 1 成分を除いて得ら れる n − 1 次元数ベクトルを ā で表すことにすれば, Dn を Dn (a1 , a2 , . . . , an ) = n ∑ (−1)k−1 a1k Dn−1 (ā1 , . . . , āk−1 , āk+1 , . . . , ān ) k=1 によって定義すれば, Dn は Dn (e1 , e2 , . . . , en ) = 1 を満たす n 重交代線形写像である. ここで, 改めて n 次正方行列 A の行列式の定義をしておく. 定義 3.5 A の行列式 Dn (A) を, (3.4) の関数 Dn を用いて Dn (A) = Dn (Ae1 , Ae2 , . . . , Aen ) により定義する. 注意 3.6 (1) Dn (A) は |A| や det A で表されることの方が多い. (2) 定理 3.4 により, 単位行列の行列式の値は |En | = Dn (e1 , e2 , . . . , en ) = 1 である. (3) (D2) で r = 0 とすることにより, A が零ベクトルである列ベクトルを含めば |A| = 0 である. 10 3.2 行列式の性質 命題 3.7 m 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 F は定義 3.2 の (D1)∼(D3) を満たすとする. 任意の n 次 元数ベクトル x1 , x2 , . . . , xm , スカラー r と, i ̸= j である n 以下の自然数 i, j に対し, 次の等式が成り立つ. F (x1 , . . . , xi−1 , xi + rxj , xi+1 , . . . , xm ) = F (x1 , . . . , xi−1 , xi , xi+1 , . . . , xm ) 証明 (D1), (D2) から, 示すべき等式の左辺は F (x1 , . . . , xi−1 , xi , xi+1 , . . . , xm ) + rF (x1 , . . . , xi−1 , xj , xi+1 , . . . , xm ) に等しいが, 2 項目の F (x1 , . . . , xi−1 , xj , xi+1 , . . . , xm ) の左から i 番目と j 番目の変数のベクトルは同じであるた め, (D3) により F (x1 , . . . , xi−1 , xj , xi+1 , . . . , xm ) = 0 である. 従って上式は示すべき等式の右辺に等しくなる.□ 命題 3.8 |APn (i, j; c)| = |A|, |AQn (i; c)| = c|A|, |ARn (i, j)| = −|A|. とくに A = En の場合, |Pn (i, j; c)| = 1, |Qn (i; c)| = c, |Rn (i, j)| = −1 が成り立つ. ( ) ( ) 証明 A = a1 a2 · · · an とすれば APn (i, j; c) = a1 · · · aj−1 aj + cai aj+1 · · · an だから命 題 3.7 より |APn (i, j; c)| = Dn (a1 , . . . , aj−1 , aj + cai , aj+1 , . . . , an ) = Dn (a1 , . . . , aj−1 , aj , aj+1 , . . . , an ) = |A|. AQn (i; c) は A の第 i 列を c 倍した行列だから, (D2) より |AQn (i; c)| = Dn (a1 , . . . , ai−1 , cai , ai+1 , . . . , an ) = cDn (a1 , . . . , ai−1 , ai , ai+1 , . . . , an ) = c|A|. ARn (i, j) は A の第 i 列と第 j 列を入れ替えた行列だから, (D3) と命題 3.3 から |ARn (i, j)| = Dn (a1 , . . . , ai−1 , aj , ai+1 , . . . , aj−1 , ai , aj+1 , . . . , an ) = −Dn (a1 , a2 , . . . , an ) = −|A|. □ 注意 3.9 (1) 上の命題の最初の等式から, 行の掃き出しを行っても行列式の値は変わらないことがわかる. (2) 上の命題の前半と後半の主張から, X が基本行列ならば |AX| = |A||X| が成り立ち, 後半の主張から |X| ̸= 0 である. (3) |tPn (i, j; c)| = |Pn (j, i; c)| = 1 = |Pn (i, j; c)|, tQn (i; c) = Qn (i; c), tRn (i, j) = Rn (i, j) だから X が基本行 列ならば |tX| = |X| である. 定理 3.10 正方行列 A が正則行列であるためには |A| ̸= 0 であることが必要十分である. 証明 A が n 次正則行列ならば, n 次基本行列 X1 , X2 , . . . , Xk で A = X1 X2 · · · Xk となるものがある. 注意 3.9 の (2) を繰り返し用いれば |A| = |X1 ||X2 | · · · |Xk | であり, 各 |Xi | は 0 でないため |A| ̸= 0 である. A が正則行列でないならば Ax = 0 を満たす, 零でない n 次元数ベクトル x がある. x の第 j 成分を xj すれ ば, x = x1 e1 + x2 e2 + · · · + xn en より Ax = x1 Ae1 + x2 Ae2 + · · · + xn Aen となるため, 仮定から x1 Ae1 + x2 Ae2 + · · · + xn Aen = 0 である. x ̸= 0 だから xj ̸= 0 となる j があるが, そのような j のうちで最大のものを k とし, 上式の両辺を xk xj で割って, rj = とおけば, rk = 1, rk+1 = rk+2 = · · · = rn = 0 だから, 上式より xk Aek + r1 Ae1 + r2 Ae2 + · · · + rk−1 Aek−1 = 0 (3.16) が得られる. 命題 3.7 を繰り返し用いれば |A| = Dn (Ae1 , . . . , Aek , . . . , Aen ) = Dn (Ae1 , . . . , Aek + r1 Ae1 , . . . , Aen ) = Dn (Ae1 , . . . , Aek + r1 Ae1 + r2 Ae2 , . . . , Aen ) = · · · = Dn (Ae1 , . . . , Aek + r1 Ae1 + · · · + rk−1 Aek−1 , . . . , Aen ) であるが, (3.16) と注意 3.6 の (3) より Dn (Ae1 , . . . , Aek + r1 Ae1 + · · · + rk−1 Aek−1 , . . . , Aen ) = 0 だから |A| = 0 である. 故に |A| ̸= 0 ならば A は正則行列である. □ 11 定理 3.1 の証明 A を係数行列とする連立 1 次方程式 Ax = b が与えられたとき, |A| ̸= 0 ならば定理 3.10 から A は正則行列であるため Ax = b の両辺に左から A−1 をかけて x = A−1 b となり, Ax = b はただ 1 つの解をもつ. Ax = b が解 x = x0 を持つと仮定する. もし |A| = 0 ならば定理 3.10 によって A は正則行列ではないため, Ax1 = 0 を満たす零でないベクトル x1 がある. この等式と Ax0 = b を辺々加えれば A(x0 + x1 ) = b が得られ るため, x0 + x1 も Ax = b の解であり, x1 ̸= 0 だから, これは x0 とは異なる解である. 故に Ax = b がただ1 つの解をもてば |A| ̸= 0 である. 従って定理 3.1 が示された. 定理 3.11 A, B を n 次正方行列とすれば, |AB| = |A||B| である. 証明 B が正則行列ならば, n 次基本行列 Y1 , Y2 , . . . , Yk で B = Y1 Y2 · · · Yk となるものがある. そこで, 注意 3.9 の (2) を繰り返し用いれば, |B| = |Y1 ||Y2 | · · · |Yk |, |AB| = |AY1 Y2 · · · Yk | = |A||Y1 ||Y2 | · · · |Yk | となるため, B が正則行列の場合は |AB| = |A||B| が成り立つ. B が正則行列ではない場合, Bx = 0 を満たす, 零でない n 次元数ベクトル x がある. このとき ABx = 0 であ るため, AB も正則行列ではない. 故に, 定理 3.10 より |B| = 0 かつ |AB| = 0 となるため |AB| = 0 = |A||B| が □ 成り立つ. 注意 3.12 上の定理と命題 3.7 から |Pn (i, j; c)A| = |A| だから, 列の掃き出しを行っても行列式の値は変わらない. 定理 3.13 A を正方行列とすれば, |tA| = |A| である. 証明 A が n 次正則行列ならば, n 次基本行列 X1 , X2 , . . . , Xk で A = X1 X2 · · · Xk となるものがある. このとき A = tXk tXk−1 · · · tX1 であり, X1 , X2 , . . . , Xk , tX1 , tX2 , . . . , tXk はすべて基本行列だから, 注意 3.9 の (2), (3) から t t t A = Xk Xk−1 · · · tX1 = |Xk ||Xk−1 | · · · |X1 | |A| = |X1 ||X2 | · · · |Xk |, t が得られる. 従って A が正則行列の場合は |tA| = |A| である. A が正則行列でない場合は, rank tA = rank A < n だから tA も正則行列ではない. 故に定理 3.10 により | A| = 0 = |A| である. □ t 系 3.14 n 次正方行列 A の第 i 行を ãi とするとき, 以下が成り立つ. ′ ′ (R1) j を 1 から n の整数のいずれか, ã′j を 1 × n 行列とし , A の第 j 行を ãj , ãj + ãj と入れ替えた行列をそ ã i ̸= j ã i ̸= j i i れぞれ A′ , A′′ とする. すなわち (A′ の第 i 行) = , (A′′ の第 i 行) = とすれ ′ ′ ã i = j ã + ã i = j j j j ば |A′′ | = |A| + |A′ | である. (R2) j を 1 から n の整数のいずれか , r をスカラーとし, A の第 j 行を rãj と入れ替えた行列を A′ とする. す ã i ̸= j i , とすれば |A′ | = r|A| である. なわち (A′ の第 i 行) = rã i = j j (R3) ãi = ãj となる i < j があれば |A| = 0 である. (R3′ ) j, k を 1 から n の相異なる整数とし, A の第 j 行と第 k 行を入れ替えた行列を A′ とすれば |A′ | = −|A| である. 証明 (R1) tA は t ãi を第 i 列とする行列で, (tA′ の第 i 列) = t ã i t ã′ j i ̸= j i=j , (tA′′ の第 i 列) = t ã i ̸= j t ã + t ã′ j j i=j i だから, 定理 3.13 と (D1) から ) ( |A′′ | = tA′′ = Dn t ã1 , · · · , t ãj + t ã′j , · · · , t ãn ( ) ( ) = Dn t ã1 , · · · , t ãj , · · · , t ãn + Dn t ã1 , · · · , t ã′j , · · · , t ãn = tA + tA′ = |A| + |A′ |. 12 (R2) (tA′ の第 i 列) = t ã i ̸= j i rt ã j だから, 定理 3.13 と (D2) から i=j ( ) ( ) |A′ | = tA′ = Dn t ã1 , · · · , rt ãj , · · · , t ãn = rDn t ã1 , · · · , t ãj , · · · , t ãn = r tA = r|A|. (R3) tA の第 i 列と第 j 列は一致するため, 定理 3.13 と (D3) から |A| = |tA| = 0 である. (R3′ ) tA′ は tA の第 i 列と第 j 列を入れ替えた行列だから, 定理 3.13 と命題 3.3 から |A′ | = |tA′ | = − |tA| = −|A| である. □ n 次正方行列 A の (i, j) 成分を aij とすれば, 行列式の定義の式 (3.10) より, |A| = n ∑ (−1)k−1 a1k |A1k | k=1 であるが, この等式より一般的に次の結果が成り立つ. 定理 3.15 p = 1, 2, . . . , n に対して, 次の等式が成り立つ. |A| = n ∑ (−1)k+p apk |Apk | = k=1 n ∑ (−1)k+p akp |Akp | k=1 証明 A の第 p 行を一つ上の行と順に入れ替えて, 第 1 行目に移動した行列を B とする. すなわち B の (i, j) 成 分を bij とすれば a pj bij = ai−1 j a i=1 2≦i≦p (3.17) p+1≦i≦n ij である. このとき B1j = Apj が j = 1, 2, . . . , n に対して成り立つため, (3.10) と (3.17) から |B| = n ∑ (−1)k−1 b1k |B1k | = k=1 n ∑ (−1)k−1 apk |Apk |. (3.18) k=1 一方 A を B に変形するには, 行ベクトルの入れ替えを p−1 回行うため, 命題 3.14 の (R3′ ) により |A| = (−1)p−1 |B| n n ∑ ∑ である. 従って, (3.18) から |A| = (−1)k+p−2 apk |Apk | = (−1)k+p apk |Apk | が得られる. k=1 k=1 A の (i, j) 成分を a′ij とすれば, a′ij = aji であり, (tA)pk = t (Akp ) だから, 上の結果と定理 3.13 より t n n n ( ) ∑ ∑ ∑ |A| = tA = (−1)k+p a′pk tA pk = (−1)k+p akp t (Akp ) = (−1)k+p akp |Akp |. k=1 k=1 k=1 □ 上の結果の特別な場合として次の結果が成り立つ. 系 3.16 A を n 次正方行列とし, A の (i, j) 成分を aij , p, q を n 以下の正の整数とする. 「j ̸= q に対し apj = 0」 または「i ̸= p に対し aiq = 0」ならば |A| = (−1)p+q apq |Apq | である. 命題 3.17 A を m 次正方行列, B を m × n 行列, C を n × m 行列とするとき, 次の等式が成り立つ. A B A O E n O En C = = = = |A| O En C En B A O A 13 証明 1 ≦ j ≦ k ≦ n に対し B の第 j 列, 第 j + 1 列, . . . , 第 k 列を除いて得られる m × (n − k + j + 1) 行列を B[j, k] とし, 1 ≦ j ≦ k ≦ m に対し C の第 j 行, 第 j + 1 行, . . . , 第 k 行を除いて得られる (m − k + j + 1) × n 行 列を C(j, k) とする. 系 3.16 より以下が得られる. A B A B[n, n] A B[n − 1, n] A B[2, n] = = = ··· = = |A| O En O En−1 O En−2 O E1 A O A A O A O O = = = ··· = = |A| C En C(n, n) En−1 C(n − 1, n) En−2 C(2, n) E1 E E1 O n O En−1 O En−2 O = = = ··· = = |A| B A B[1, 1] A B[1, 2] A B[1, n − 1] A E C(1, n − 1) E 1 n C En−1 C(1, 1) En−2 C(1, 2) = |A| = ··· = = = O O A O A A A O □ 命題 3.18 A が上半三角行列または下半三角行列ならば, |A| は A の対角成分すべての積である. 証明 A の (i, j) 成分を aij とする. A が n 次上半三角行列の場合, A の第 k + 1 列, 第 k + 2 列, . . . , 第 n 列と第 k + 1 行, 第 k + 2 行, . . . , 第 n 行を除いて得られる k 次正方行列を A[k] とすれば A[k]kk = A[k − 1] である. 各 k = 2, 3, . . . , n に対し ak1 = ak2 = · · · = ak k−1 = 0 だから, 系 3.16 より |A| = ann |Ann | = ann |A[n − 1]| = an−1 n−1 ann |A[n − 1]n−1 n−1 | = an−1 n−1 ann |A[n − 2]| = · · · = akk ak+1 k+1 · · · ann |A[k]k k | = akk ak+1 k+1 · · · ann |A[k − 1]| = ak−1 k−1 akk ak+1 k+1 · · · ann |A[k − 1]k−1 k−1 | = ak−1 k−1 akk ak+1 k+1 · · · ann |A[k − 2]| = · · · = a22 a33 · · · ann |A[2]22 | = a22 a33 · · · ann |A[1]| = a11 a22 · · · ann . が得られる. A が下半三角行列の場合は, tA は a11 , a22 , . . . , ann を対角成分とする上半三角行列だから, 上の結果 と定理 3.13 から |A| = |tA| = a11 a22 · · · ann である. □ 定理 3.19 A, B をそれぞれ m 次正方行列, n 次正方行列とし, C を m × n 行列, D を n × m 行列とすれば A C A O = = |A||B| である. O B D B ( ) ( )( ) ( ) ( )( ) A C Em C A O A O A O Em O 証明 等式 = , = の両辺の行列式を考えると, O B O B O En D B O En D B A C E A O A O E m C A O m O 定理 3.11 と命題 3.17 から = = |B||A|, = = |A||B| が得ら O B O B O En D B O En D B れる. □ 補題 3.20 n 次正方行列 A の (i, j) 成分を aij とする. p, q が相異なる n 以下の正の整数ならば, 次の等式が成 り立つ. n ∑ (−1)k+p aqk |Apk | = k=1 n ∑ (−1)k+p akq |Akp | = 0 k=1 証明 A の第 p 行を A の第 q 行で置き換えた行列を A′ とし, A′ の (i, j) 成分を a′ij とすれば a′ij = a ij a qj i ̸= p i=p である. このとき, A と A の行ベクトルで, 異なるのは第 p 行だけだから, k = 1, 2, . . . , n に対して = Apk が ′ 成り立つ. また A の第 p 行と第 q 行はともに A の第 q 行に等しいため, 系 3.14 の (R3) によって |A | = 0 であ n n ∑ ∑ る. そこで A′ に対して定理 3.15 を用いれば (−1)k+p aqk |Apk | = (−1)k+p a′pk |A′pk | = |A′ | = 0 が得られる. ′ A′pk ′ k=1 k=1 t A に対して, 上の結果を用いれば (tA)pk = t (Akp ) と定理 3.13 より, 後半の等式が示される. 14 □ eで 定義 3.21 n 次正方行列 A に対して, ∆ij = (−1)i+j |Aij | とおき, ∆ji を (i, j) 成分とする n 次正方行列を A 表して, A の余因子行列と呼ぶ. e = AA e = |A|En が成り立つ. 従って |A| ̸= 0 のとき, A の逆行列 A−1 は 定理 3.22 正方行列 A に対して AA 1 e A で与えられる. |A| 証明 定理 3.15 と補題 3.20 から n n |A| ) ∑ ∑ eの (q, p) 成分 = AA aqk ∆pk = (−1)k+p aqk |Apk | = 0 k=1 k=1 n n |A| ( ) ∑ ∑ e の (p, q) 成分 = AA ∆kp akq = (−1)k+p akq |Akp | = 0 ( k=1 k=1 q=p q ̸= p q=p q ̸= p e = AA e = |A|En である. だから AA □ 定理 3.23 A を n 次正則行列, b を n 次元数ベクトルとし, 各 j = 1, 2, . . . , n に対して A の第 j 列を b で置き換 |Aj | で与えられる. えて得られる行列を Aj で表す. このとき, 連立 1 次方程式 Ax = b の解 x の第 j 成分は |A| n 1 e 1 ∑ Ab だから, b の第 i 成分を bi とすれば, x の第 j 成分は ∆ki bk であ |A| |A| k=1 る. 一方, (Aj )kj = Akj であることと, Aj の (k, j) 成分が bk であることに注意すれば, 定理 3.15 の二つ目の等式 n n ∑ ∑ |Aj | (−1)k+j bk |Akj | = ∆ki bk が得られるため, x の第 j 成分は に等しいことがわかる. □ から |Aj | = |A| k=1 k=1 証明 定理 3.22 より x = A−1 b = 3.3 行列式の特徴付け 定理 3.24 n 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 F が定義 3.2 の (D1)∼(D3) を満たせば, 任意の n 次元数 ベクトル x1 , x2 , . . . , xn に対して F (x1 , x2 , . . . , xn ) = F (e1 , e2 , . . . , en )Dn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つ. 証明 n による帰納法で主張を示す. n = 1 の場合, F は 1 次元数ベクトル空間の間の 1 次写像だから F (x) = F (1)x = F (1)D1 (x) となって, 主張は成り立つ. n − 1 のときに主張が成り立つと仮定する. n ∑ n 次元数ベクトル xj の第 i 成分を xij とする. x1 = xi1 ei であり, F , Dn は (D1), (D2) を満たすため, i=1 F (x1 , x2 , . . . , xn ) = n ∑ xi1 F (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) Dn (x1 , x2 , . . . , xn ) = i=1 n ∑ xi1 Dn (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) i=1 が成り立つ. 従って, 各 i = 1, 2, . . . , n に対して次の等式が成り立つことを示せばよい. F (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) = F (e1 , e2 , . . . , en )Dn (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) (3.19) ( ) i = 1, 2, . . . , n に対して n × (n − 1) 行列 Ji = e1 · · · ei−1 ei+1 · · · en を考え, xj の第 i 成分を除い (i) (i) て得られる n − 1 次元数ベクトルを xj で表すことにすれば xj = Ji xj + xij ei だから, 命題 3.7 を F と Dn に 対して用いれば, 以下の等式が得られる. ( ) ( ) (i) (i) (i) (i) F (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) = F ei , Ji x2 + xi2 ei , . . . , Ji x(i) (3.20) n + xin ei = F ei , Ji x2 , Ji x3 , . . . , Ji xn ( ) ( ) (i) (i) (i) (i) Dn (ei , x2 , x3 , . . . , xn ) = Dn ei , Ji x2 + xi1 ei , . . . , Ji x(i) (3.21) n + xin ei = Dn ei , Ji x2 , Ji x3 , . . . , Ji xn n − 1 個の n − 1 次元数ベクトル y 1 , y 2 , . . . , y n−1 に対して, Fi (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) = F (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ), Dn,i (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) = Dn (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ) 15 によって n − 1 個の n − 1 次元数ベクトルを変数とする関数 Fi , Dn,i を定めれば, F , Dn が (D1)∼(D3) を満た すことから Fi , Dn,i も (D1)∼(D3) を満たす. 従って, 帰納法の仮定から, 任意の y 1 , y 2 , . . . , y n−1 に対して Fi (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) = Fi (e1 , e2 , . . . , en−1 )Dn−1 (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) Dn,i (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) = Dn,i (e1 , e2 , . . . , en−1 )Dn−1 (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) e j ≦i−1 j が成り立つ. Ji ej = だから, Fi の定義から e j≧i (3.22) (3.23) j+1 Fi (e1 , e2 , . . . , en−1 ) = F (ei , Ji e1 , Ji e2 , . . . , Ji en−1 ) = F (ei , e1 , . . . , ei−1 , ei+1 , . . . , en ) であり, F (ei , e1 , . . . , ei−1 , ei+1 , . . . , en ) の ei を右隣のベクトルと順に入れ替えて, ei−1 の直後にくるようにす れば, 上式は (−1)i−1 F (e1 , . . . , ei , . . . , en ) に等しい. Dn,i についても同様に考えて, Dn は (D4) も満たすため, Dn,i (e1 , e2 , . . . , en−1 ) = (−1)i−1 Dn (e1 , . . . , ei , . . . , en ) = (−1)i−1 が成り立つ. 故に (3.22), (3.23) から F (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ) = (−1)i−1 F (e1 , e2 , . . . , en )Dn−1 (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) Dn (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ) = (−1)i−1 Dn−1 (y 1 , y 2 , . . . , y n−1 ) が得られる. 上の二つ目の等式の両辺に F (e1 , e2 , . . . , en ) をかければ, 右辺は一つ目の等式の右辺に一致するた め, 次の等式が成り立つ. F (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ) = F (e1 , e2 , . . . , en )Dn (ei , Ji y 1 , Ji y 2 , . . . , Ji y n−1 ) (i) j = 1, 2, . . . , n − 1 に対し y j = xj+1 を上式に代入すれば, (3.20) と (3.21) から, (3.19) が成り立つことがわかる.□ 上の定理から直ちに次のことがわかる. 系 3.25 n 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 F が前節の (D1)∼(D4) を満たせば, 任意の n 次元数ベクト ル x1 , x2 , . . . , xn に対して F (x1 , x2 , . . . , xn ) = Dn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つ. すなわち (D1)∼(D4) を満たす 関数 Dn はただ 1 つしかない. 定理 3.11 の別証明 n 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 F を F (x1 , x2 , . . . , xn ) = Dn (Ax1 , Ax2 , . . . , Axn ) で定めれば, Dn が (D1)∼(D3) を満たすため, F も (D1)∼(D3) を満たす. 従って定理 3.24 により, 任意の n 次 元数ベクトル x1 , x2 , . . . , xn に対して F (x1 , x2 , . . . , xn ) = F (e1 , e2 , . . . , en )Dn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つ. こ の等式の各 xj に Bej を代入すれば, F (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = F (e1 , e2 , . . . , en )Dn (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) (3.24) が得られる. F の定義と行列式の定義から F (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = Dn (ABe1 , ABe2 , . . . , ABen ) = |AB| F (e1 , e2 , . . . , en ) = Dn (Ae1 , Ae2 , . . . , Aen ) = |A| Dn (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = |B| であるため, これらを (3.24) に代入すれば結果が得られる. 定理 3.19 の別証明 m 次元数ベクトル x, n 次元数ベクトル y に対して, ( x y ) は第 i 成分が, 1 ≦ i ≦ m ならば x の第 i 成分であり, m + 1 ≦ i ≦ m + n ならば y の第 i − m 成分である m + n 次元数ベクトルを表すとする. m 個の m 次元数ベクトルを変数とする関数 F を (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) x1 x2 xm Ce1 Ce2 Cen F (x1 , x2 , . . . , xm ) = Dm+n , ,..., , , ,..., 0 0 0 Be1 Be2 Ben 16 で定めれば, Dm+n が (D1)∼(D3) を満たすため, F も (D1)∼(D3) を満たす. 従って定理 3.24 により, 任意の m 次元数ベクトル x1 , x2 , . . . , xm に対して F (x1 , x2 , . . . , xm ) = F (e1 , e2 , . . . , em )Dm (x1 , x2 , . . . , xm ) が成り立つ. この等式の各 xj に Aej を代入すれば, F (Ae1 , Ae2 , . . . , Aem ) = F (e1 , e2 , . . . , em )Dm (Ae1 , Ae2 , . . . , Aem ) (3.25) が得られる. F の定義と行列式の定義から (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) A C Ae1 Ae2 Aem Ce1 Ce2 Cen F (Ae1 , Ae2 , . . . , Aem ) = Dm+n , ,..., , , ,..., = 0 0 0 Be1 Be2 Ben O B (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) E e1 e2 em Ce1 Ce2 Cen m C F (e1 , e2 , . . . , em ) = Dm+n , ,..., , , ,..., = O B 0 0 0 Be1 Be2 Ben Dm (Ae1 , Ae2 , . . . , Aem ) = |A| であるため, これらを (3.25) に代入して次の等式を得る. E A C m = |A| O O B ( C B ) ( Em C Em i = 1, 2, . . . , m に対し, の (i, i) 成分に関して第 i 行を掃き出せば O B O 3.9 の (1) で述べたように, 行列式の値は行の掃き出しを行っても変わらないため, E m C Em O = O B O B (3.26) O B ) に変形されるが, 注意 (3.27) が成り立つ. n 個の n 次元数ベクトルを変数とする関数 G を (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) e1 e2 em 0 0 0 , ,..., , , ,..., G(y 1 , y 2 , . . . , y n ) = Dm+n 0 0 0 y1 y2 yn で定めれば, Dm+n が (D1)∼(D3) を満たすため, G も (D1)∼(D3) を満たす. 従って定理 3.24 により, 任意の n 次元数ベクトル y 1 , y 2 , . . . , y n に対して G(y 1 , y 2 , . . . , y n ) = G(e1 , e2 , . . . , en )Dn (y 1 , y 2 , . . . , y n ) が成り立つ. こ の等式の各 y j に Bej を代入すれば, G(Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = G(e1 , e2 , . . . , en )Dn (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) ( が得られる. Em O O En (3.28) ) = Em+n であることに注意すれば, G の定義と行列式の定義から, 次の等式が成り立つ. (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) E e1 e2 em 0 0 0 m O G(Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = Dm+n , ,..., , , ,..., = O B 0 0 0 Be1 Be2 Ben (( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )) E e1 e2 em 0 0 0 m O G(e1 , e2 , . . . , en ) = Dm+n , ,..., , , ,..., = =1 O En 0 0 0 e1 e2 en Dn (Be1 , Be2 , . . . , Ben ) = |B| E A m O これらを (3.28) に代入すれば = |B| が得られるため, (3.26) と (3.27) から O B O ( ) ( ) A O tA t A O A tD の転置行列は だから , 定理 3.13 と上の結果から = D B O D B O tB 17 C = |A||B| である. B t D = |tA||tB| = |A||B|. t B 3.4 順列の反転数を用いた行列式の定義 Pn を 1, 2, . . . , n の順列全体からなる集合 {[i1 , i2 , . . . , in ]| {i1 , i2 , . . . , in } = {1, 2, . . . , n}} とする. 例 3.26 P2 = {[1, 2], [2, 1]}, P3 = {[1, 2, 3], [3, 1, 2], [2, 3, 1], [2, 1, 3], [1, 3, 2], [3, 2, 1]} 定義 3.27 σ = [i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn に対し, 集合 {(s, t)| 1 ≦ s < t ≦ n, is > it } の要素の個数を σ の反転数と呼 び, T (σ) で表す. 補題 3.28 σ = [i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn に対し, 次の等式が成り立つ. ∏ it − is = (−1)T (σ) t−s 1≦s<t≦n 証明 A = {(s, t)| 1 ≦ s < t ≦ n} とおく. [i1 , i2 , . . . , in ] は 1, 2, . . . , n の順列だから, 任意の (s, t) ∈ A に対し ∏ it − is の分母に現れる t − s は k < l て ik = s, il = t を満たす k, l がただ 1 つずつ存在する. 従って 1≦s<t≦n t − s ならば分子の il − ik = t − s と約分され, k > l ならば分子の ik − il = −(t − s) と約分される. これにより, ∏ it − is の分母と分子はすべて約分されて, il < ik を満たす (k, l) ∈ A の個数だけ −1 が分子から現れる. 1≦s<t≦n t − s □ この個数は T (σ) に他ならないため, 主張が成り立つ. 定理 3.29 1 ≦ p < q ≦ n とする. σ = [i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn の ip と iq を入れ換えた順列を σ ′ とする. このとき, T (σ) − T (σ ′ ) は奇数である. 証明 σ ′ = [i′1 , i′2 , . . . , i′n ] とおくと s ̸= p, q ならば i′s = is , i′p = iq , i′q = ip だから補題 3.28 から ∏ ′ (−1)T (σ ) = 1≦s<t≦n ∏ = 1≦s<t≦n s,t̸=p,q ∏ = 1≦s<t≦n s,t̸=p,q ∏ = 1≦s<t≦n s,t̸=p,q ∏ = 1≦s<t≦n s,t̸=p,q ∏ = 1≦s<t≦n s,t̸=p,q i′t − i′s t−s i′t − i′s ∏ i′t − i′p ∏ i′t − i′q ∏ i′p − i′s ∏ i′q − i′s i′q − i′p t−s t−p t−q p−s q−s q−p p<t̸=q p̸=s<q 1≦s<p it − is ∏ it − iq ∏ it − ip ∏ iq − is ∏ ip − is ip − iq t−s t−p t−q p−s q−s q−p p<t̸=q q<t≦n p̸=s<q 1≦s<p q−1 p−1 p−1 q−1 n n it − is ∏ it − iq ∏ it − iq ∏ it − ip ∏ iq − is ∏ ip − is ∏ ip − is ip − iq t − s t=p+1 t − p t=q+1 t − p t=q+1 t − q s=1 p − s s=1 q − s s=p+1 q − s q − p q−1 ∏ (is − iq ) it − is s=p+1 t − s q−1 ∏ ∏ 1≦s<t≦n n ∏ t=q+1 (t − p) n ∏ (it − iq ) n ∏ t=q+1 n ∏ (t − p) t=q+1 t=q+1 q−1 ∏ n ∏ n ∏ (ip − it ) t=q+1 n ∏ n ∏ ∏ 1≦s<t≦n s,t̸=p,q (t − p) t=q+1 p−1 ∏ q−1 ∏ s=1 s=1 t=p+1 p−1 ∏ p−1 ∏ q−1 ∏ s=1 s=1 s=p+1 (t − q) (iq − is ) (p − s) p−1 ∏ s=1 s=1 (t − q) t=q+1 (ip − is ) (q − s) p−1 ∏ (it − iq ) t=q+1 (t − p) t=p+1 (it − ip ) p−1 ∏ (it − ip ) t=p+1 it − is t=p+1 t − s q−1 ∏ = (−1)2(q−p−1)+1 =− q<t≦n (ip − is ) (iq − is ) q−1 ∏ (ip − it ) (q − s) (is − iq ) s=p+1 p−1 ∏ p−1 ∏ q−1 ∏ s=1 s=1 s=p+1 (p − s) (q − s) (q − s) ip − iq q−p ip − iq q−p it − is ∏ it − ip ∏ it − iq ∏ ip − is ∏ iq − is iq − ip t−s t−p t−q p−s q−s q−p p<t̸=q q<t≦n 1≦s<p p̸=s<q it − is = (−1)T (σ)+1 t−s 従って, T (σ ′ ) − T (σ) − 1 は偶数だから主張が示された. 18 □ 命題 3.30 順列 σ = [i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn を 2 つずつ数字を入れ換えることにより, [1, 2, . . . , n] に並びかえたとき, それに要した数字の入れ換えの回数が τ (σ) 回であったならば, τ (σ) − T (σ) は偶数である. 証明 σ0 = σ とおき, σ の数字の入れ換えを i 回行ったものを σi とすれば, 定理 3.29 から (−1)T (σi−1 )+1 = (−1)T (σi ) である. 従って (−1)T (σi−1 ) = (−1)T (σi )+1 でもあり, k = τ (σ) とおけば T (σk ) = T ([1, 2, . . . , n]) = 0 だから (−1)T (σ) = (−1)T (σ0 ) = (−1)T (σ1 )+1 = · · · = (−1)T (σi )+i = · · · = (−1)T (σk )+k = (−1)k = (−1)τ (σ) □ である. 従って主張が成り立つ. 命題 3.31 F を交代 m 重線形写像, x1 , . . . , xm ∈ K n とする. [i1 , i2 , . . . , im ] ∈ Pm に対し, 次の等式が成り立つ. F (xi1 , xi2 , . . . , xim ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,im ]) F (x1 , x2 , . . . , xm ) 証明 2 つずつの数字の入れ換えで σ を [1, 2, . . . , m] に並び換えるのに τ ([i1 , i2 , . . . , im ]) 回の入れ換えを行った とするとき, (D3′ ) から F (xi1 , xi2 , . . . , xim ) = (−1)τ ([i1 ,i2 ,...,im ]) F (x1 , x2 , . . . , xm ) が成り立つ. 命題 3.30 から □ (−1)τ ([i1 ,i2 ,...,im ]) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,im ]) だから主張が成り立つ. 定理 3.32 F を K n のベクトルを変数とする交代 n 重線形写像とする. xj ∈ K n (j = 1, 2, . . . , m) の第 i 成分 を xij とするとき, 次の等式が成り立つ. ∑ F (x1 , x2 , . . . , xn ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n F (e1 , e2 , . . . , en ) [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn 証明 xk = n ∑ xik k eik だから, 定義 3.2 の (D1), (D2) から ik =1 ( F (x1 , x2 , . . . , xn ) = F n ∑ xi1 1 ei1 , i1 =1 = n ∑ ( xi1 1 F ei1 , i1 =1 = n ∑ xi2 2 ei2 , . . . , i2 =1 in =1 n ∑ n ∑ xi2 2 ei2 , . . . , i2 =1 ∑ ( x i1 1 x i2 2 F ) xin n ein ) xin n ein in =1 ei1 , ei2 , . . . , 1≦i1 ,i2 ≦n = n ∑ n ∑ ) xin n ein in =1 .. . ∑ xi1 1 xi2 2 · · · xin n F (ei1 , ei2 , . . . , ein ) 1≦i1 ,i2 ,...,in ≦n 仮定から i1 , i2 , . . . , in のうちに同じものがあれば F (ei1 , ei2 , . . . , ein ) = 0 だから上式の和は i1 , i2 , . . . , in を ∑ 1, 2, . . . , n の順列全体にわたって動かしてとったもの xi1 1 xi2 2 · · · xin n F (ei1 , ei2 , . . . , ein ) に等しい. [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn さらに命題 3.31 から F (ei1 , ei2 , . . . , ein ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) F (e1 , e2 , . . . , en ) だから主張する等式が得られる.□ 補題 3.33 1 ≦ p < q ≦ n に対し, Pn の部分集合 A, B を A = {[i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn | ip < iq } B = {[i1 , i2 , . . . , in ] ∈ Pn | ip > iq } で定める. γ : Pn → Pn を γ([i1 , i2 , . . . , in ]) = [i′1 , i′2 , . . . , i′n ], i′s = is (s ̸= p, q), i′p = iq , i′q = ip で定めれば, γ は 1 対 1 上への写像で, A を B の上に写す. 証明 明らかに, 任意の σ ∈ Pn に対し γ(γ(σ)) = σ だから γ は γ 自身を逆写像とする 1 対 1 上への写像である. 定義から明らかに σ ∈ A ならば γ(σ) ∈ B であり, σ ∈ B ならば γ(σ) ∈ A である. 従って, 任意の σ ∈ B に対 し, γ(γ(σ)) = σ かつ γ(σ) ∈ A が成り立つため, γ は A を B の上に写す. 19 □ 定理 3.34 n 個の K n のベクトルを変数として K に値をとる関数 Dn を ∑ Dn (x1 , x2 , . . . , xn ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn (但し xij は xj の第 i 成分) で定めれば Dn は 定義 3.2 の (D1)∼(D4) をすべて満たす. 証明 x′j の第 i 成分を x′ij とすれば上の定義式で xj を xj + x′j で置き換えれば, xij j が xij j + x′ij j で置き換わ るため ∑ Dn (x1 , . . . , xj + x′j , . . . , xn ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 · · · (xij j + x′ij j ) · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn ∑ = ∑ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 · · · xij j · · · xin n + [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 · · · x′ij j · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn = Dn (x1 , . . . , xj , . . . , xn ) + Dn (x1 , . . . , x′j , . . . , xn ) また, xj を rxj で置き換えれば, xij j が rxij j で置き換わるため ∑ Dn (x1 , . . . , rxj , . . . , xn ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 · · · rxij j · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn ∑ =r (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 · · · xij j · · · xin n = rDn (x1 , . . . , xj , . . . , xn ) [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn 従って (D1), (D2) が成り立つ. xp = xq (p < q) として補題 3.33 のように A, B を定める. [i1 , i2 , . . . , in ] ∈ B に対し γ([i1 , i2 , . . . , in ]) = ′ ′ ′ ′ ′ [i1 , i2 , . . . , i′n ] とおけば [i′1 , i′2 , . . . , i′n ] ∈ A であり, 定理 3.29 より (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) = −(−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) が成り 立つ. また is = i′s (s ̸= p, q) ip = i′q , iq = i′p であり, 仮定から xip = xiq がすべての i = 1, 2, . . . , n に対して成り 立つため ′ ′ ′ ′ ′ ′ ′ ′ ′ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n = −(−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi′1 1 · · · xi′q p · · · xi′p q · · · xi′n n = −(−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi′1 1 · · · xi′p q · · · xi′q p · · · xi′n n = −(−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi′1 1 · · · xi′p p · · · xi′q q · · · xi′n n となる. さらに補題 3.33 から [i1 , i2 , . . . , in ] が B 全体を動くとき, [i′1 , i′2 , . . . , i′n ] = γ([i1 , i2 , . . . , in ]) は A 全体を 動くため, 上の議論から ∑ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n = − ∑ ′ ′ ′ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi′1 1 xi′2 2 · · · xi′n n [i′1 ,i′2 ,...,i′n ]∈A [i1 ,i2 ,...,in ]∈B となる. 一方 Pn = A ∪ B, A ∩ B = ∅ だから ∑ Dn (x1 , . . . , xn ) = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈Pn ∑ = (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n + [i1 ,i2 ,...,in ]∈A ∑ = ∑ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi1 1 xi2 2 · · · xin n [i1 ,i2 ,...,in ]∈B T ([i1 ,i2 ,...,in ]) (−1) xi1 1 xi2 2 · · · xin n − ∑ ′ ′ ′ (−1)T ([i1 ,i2 ,...,in ]) xi′1 1 xi′2 2 · · · xi′n n [i′1 ,i′2 ,...,i′n ]∈A [i1 ,i2 ,...,in ]∈A =0 となって (D3) が成り立つ. xj = ej (1 ≦ j ≦ n) の場合, i ̸= j ならば xij = 0 だから [i1 , i2 , . . . , in ] ̸= [1, 2, . . . , n] ならば xi1 1 xi2 2 · · · xin n = 0 である. 従って, Dn (x1 , . . . , xn ) = (−1)T ([1,2,...,n]) x11 x22 · · · xnn = 1 である. 定理 3.32 と上の Dn の定義からも, 定理 3.24 が得られることに注意する. 20 □ 定義 3.35 n 次正方行列 A に対し, |A| = Dn (Ae1 , Ae2 , . . . , Aen ) とおき, これを A の行列式と呼ぶ. 例 3.36 (1) P2 = {[1, 2], [2, 1]} であり, T ([1, 2]) = 0, T ([2, 1]) = 1 だから次の等式が得られる. a 11 a12 = (−1)T ([1,2]) a11 a22 + (−1)T ([2,1]) a21 a12 = a11 a22 − a21 a12 a21 a22 (2) P3 = {[1, 2, 3], [3, 1, 2], [2, 3, 1], [2, 1, 3], [1, 3, 2], [3, 2, 1]} であり, T ([1, 2, 3]) = 0, T ([3, 1, 2]) = T ([2, 3, 1]) = 2, T ([2, 1, 3]) = T ([1, 3, 2]) = 1, T ([3, 2, 1]) = 3 だから次の等式が得られる. a11 a12 a13 a21 a22 a23 = (−1)T ([1,2,3]) a11 a22 a33 + (−1)T ([3,1,2]) a31 a12 a23 + (−1)T ([2,3,1]) a21 a32 a13 a31 a32 a33 + (−1)T ([2,1,3]) a21 a12 a33 + (−1)T ([1,3,2]) a11 a32 a23 + (−1)T ([3,2,1]) a31 a22 a13 = a11 a22 a33 + a31 a12 a23 + a21 a32 a13 + a21 a12 a33 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23 − a31 a22 a13 3.5 行列式の性質のまとめ 定理 3.37 A を n 次正方行列とするとき, 次が成り立つ. (1) A の第 k 列が 2 つの n 次元ベクトル a′k と a′′k の和 a′k + a′′k になっているとき, A の第 k 列を a′k , a′′k で置 き換えた行列をそれぞれ A′ , A′′ とすれば |A| = |A′ | + |A′′ | が成り立つ. (2) A の第 k 列が n 次元ベクトル a′k の r 倍 ra′k になっているとき, A の第 k 列を a′k で置き換えた行列を A′ とすれば |A| = r|A′ | が成り立つ. (3) A の第 k 列と第 l 列 (1 ≦ k < l ≦ n) が一致していれば, |A| = 0 である. (4) A の第 k 列と第 l 列 (1 ≦ k < l ≦ n) を入れ替えた行列を  とすれば,  = −|A| である. (5) |t A| = |A| (6) A の第 k 行が 2 つの 1 × n 行列 A′k と A′′k の和 A′k + A′′k になっているとき, A の第 k 行を A′k , A′′k で置き 換えた行列をそれぞれ A′ , A′′ とすれば |A| = |A′ | + |A′′ | が成り立つ. (7) A の第 k 行が n 次元ベクトル A′k の r 倍 rA′k になっているとき, A の第 k 行を A′k で置き換えた行列を A′ とすれば |A| = r|A′ | が成り立つ. (8) A の第 k 行と第 l 行 (1 ≦ k < l ≦ n) が一致していれば, |A| = 0 である. (9) A の第 k 行と第 l 行 (1 ≦ k < l ≦ n) を入れ替えた行列を Ǎ とすれば, Ǎ = −|A| である. 上の結果から, 次のことがわかる. 系 3.38 A を n 次正方行列とするとき, 次が成り立つ. (1) A の第 k 列に第 l 列 (ただし k ̸= l) を r 倍したものを加えて得られる行列を A′ とすれば |A′ | = |A| である. (2) A の第 k 行に第 l 行 (ただし k ̸= l) を r 倍したものを加えて得られる行列を A′′ とすれば |A′′ | = |A| である. また, 行列式の定義から次の結果が示される. 定理 3.39 A を n 次正方行列とし, A の (i, j) 成分を aij として, ai+1 j+1 を (i, j) 成分とする n − 1 次正方行列 を A11 とおく. a12 = a13 = · · · = a1n = 0 または a21 = a31 = · · · = an1 = 0 であれば |A| = a11 |A11 | である. 21 この結果は定理 3.37 の (4) と (9) を用いて次のように一般化される. 系 3.40 A を n 次正方行列とし, A の (i, j) 成分を aij として, A から A の第 k 行と第 l 列を除いて得られる n − 1 次正方行列を Akl とおく. 「j ̸= l ならば akj = 0」または「i ̸= k ならば ail = 0」 であれば |A| = (−1)k+l akl |Akl | である. さらに, 次のことが成り立つ. 定理 3.41 A, B を n 次正方行列とすれば |AB| = |A||B| である. 定理 3.42 A, B, C, D をそれぞれ m 次正方行列, n 次正方行列, m × n 行列, n × m 行列とすれば, 次の等式が A O 成り立つ. 4 C A = B D O = |A||B| B 空間の回転移動 V , W を K 上の計量ベクトル空間として, ( , )V : V × V → K, ( , )W : W × W → K をそれぞれ V , W の内 √ √ 積とする. v ∈ V , w ∈ W に対し, ∥v∥V = (v, v)V , ∥w∥W = (w, w)W とおく. 内積の性質から次のことが容易に示される. 補題 4.1 任意の x, y ∈ V , r ∈ K に対し, ∥x + y∥2V = ∥x∥2V + (x, y)V + (x, y)V + ∥y∥2V , ∥rx∥V = |r|∥x∥V . 定理 4.2 写像 f : V → W は, 任意の x, y ∈ V に対して ∥f (x) − f (y)∥W = ∥x − y∥V を満たし, さらに K = C の場合は, 条件「任意の x ∈ V に対し, f (ix)−f (0) = if (x)−if (0)」を満たすとする. このとき, f は g ∗ ◦g = idV を満たす線形写像 g : V → W と T (w) = w + f (0) で与えられる W の平行移動 T : W → W の合成写像である. 証明 g : V → W を g(x) = f (x) − f (0) によって定めれば, 任意の x, y ∈ V に対して ∥g(x) − g(y)∥W = ∥f (x) − f (y)∥W = ∥x − y∥V が成り立ち, g(0) = 0 である. 従って, 等式 ∥g(x) − g(y)∥W = ∥x − y∥V において, とくに y = 0 とすれば, 任意の x ∈ V に対して ∥g(x)∥W = ∥x∥V が成り立つ. また, ∥g(x) − g(y)∥2W = ∥x − y∥2V だから, 補題 4.1 から ∥g(x)∥2W − (g(x), g(y))W − (g(x), g(y))W + ∥g(y)∥2W = ∥x∥2V − (x, y)V − (x, y)V + ∥y∥2V である. ここで, ∥g(x)∥W = ∥x∥V , ∥g(y)∥W = ∥y∥V だから, 任意の x, y ∈ V に対して, 次の等式が成り立つ. (g(x), g(y))W + (g(x), g(y))W = (x, y)V + (x, y)V · · · (1) K = R の場合は, (1) の左辺は 2(g(x), g(y))W に, 右辺は 2(x, y)V に等しいため, 任意の x, y ∈ V に対して (g(x), g(y))W = (x, y)V である. K = C の場合は, (∗) の y に iy を代入すれば次の等式が得られる. (g(x), g(iy))W + (g(x), g(iy))W = (x, iy)V + (x, iy)V · · · (2) 仮定から「任意の x ∈ V に対して g(ix) = ig(x)」だから, (2) の左辺は (g(x), ig(y))W + (g(x), ig(y))W = −i(g(x), g(y))W + i(g(x), g(y))W に等しく, 右辺は −i(x, y)V + i(x, y)V に等しいため, (2) の両辺を i 倍すれば (g(x), g(y))W − (g(x), g(y))W = (x, y)V − (x, y)V · · · (3) が得られる. (1) と (3) を辺々加えて, 両辺を 2 で割れば, K = C の場合も任意の x, y ∈ V に対して, (g(x), g(y))W = 22 (x, y)V が成り立つことがわかる. これらの事実と補題 4.1 を用いると ∥g(x + y) − g(x) − g(y)∥2 = ∥g(x + y)∥2W + (g(x + y), −g(x) − g(y))W + (g(x + y), −g(x) − g(y))W + ∥ − g(x) − g(y)∥2W = ∥g(x + y)∥2W − (g(x + y), g(x))W − (g(x + y), g(y))W − (g(x + y), g(x))W − (g(x + y), g(y))W + ∥g(x)∥2W + (g(x), g(y))W + (g(x), g(y))W + ∥g(y)∥2W = ∥x + y∥2V − (x + y, x)V − (x + y, y)V − (x + y, x)V − (x + y, y)V + ∥x∥2V + (x, y)V + (x, y)V + ∥y∥2V = ∥x + y∥2V − (x + y, x + y)V − (x + y, x + y)V + ∥x + y∥2V = 0 ∥g(rx) − rg(x)∥2 = ∥g(rx)∥2W − (g(rx), rg(x))W − (g(rx), rg(x))W + ∥rg(x)∥2W = ∥g(rx)∥2W − r̄(g(rx), rg(x))W − r(g(rx), g(x))W + |r|2 ∥g(x)∥2W = ∥x∥2V − r̄(rx, x)V − r(rx, x)V + |r|2 ∥x∥2V ( ) = |r|2 ∥x∥2V − (x, x)V − (x, x)V + ∥x∥2V = 0 となるため, 任意の x, y ∈ V に対して, g(x + y) − g(x) − g(y) = g(rx) − rg(x) = 0 が成り立つことがわかる. 故に, g は線形写像であり, 任意の x ∈ V に対して f (x) = g(x) + f (0) = T ◦g(x) である. 任意の x, y ∈ V に対して, (x, g ∗ ◦g(y))V = (g(x), g(y))W = (x, y)V だから (x, (g ∗ ◦g − idV )(y))V = (x, (g ∗ ◦g)(y) − y)V = (x, (g ∗ ◦g)(y))V − (x, y)V = 0 である. x = (g ∗ ◦g − idV )(y) を上式に代入すれば ∥(g ∗ ◦g − idV )(y)∥2V = ((g ∗ ◦g − idV )(y), (g ∗ ◦g − idV )(y))V = 0 が任意の y ∈ V に対して成り立つことがわかる. よって, (g ∗ ◦g − idV )(y) = 0 が任意の y ∈ V に対して成り立 つため, g ∗ ◦g = idV である. □ 上の定理で, とくに V = W = Rn の場合を考えれば次の結果が得られる. 系 4.3 写像 f : Rn → Rm は, 任意の x, y ∈ Rn に対し ∥f (x) − f (y)∥ = ∥x − y∥ を満たすとする. このとき, AA = En を満たす m × n 行列 A で, 任意の x ∈ Rn に対して f (x) = Ax + f (0) となるものがある. t v を長さが 1 である R3 のベクトルとし, 原点を通って方向ベクトルが v である直線を ℓ とする. ℓ を軸とし て, v の方向を向いて θ だけ時計回りに R3 のベクトルを回転させる写像を Rv,θ : R3 → R3 とする. Rv,θ は原 点を原点に写し, 2 点間の距離を保つため, 定理 4.2 により, Rv,θ は R3 の 1 次変換である. Rv,0 は R3 の恒等写像であり, Rv,θ+2π = Rv,θ , R−v,θ = Rv,−θ が成り立つため, まず 0 < θ ≦ π の場合につい て, Rv,θ を表す行列を求める. 補題 4.4 x を位置ベクトルとする点から ℓ に下ろした垂線は (x, v)v を位置ベクトルとする点で, ℓ と交わる. 証明 x ∈ R3 を位置ベクトルとする点から ℓ に下ろした垂線と ℓ が交わる点の位置ベクトルは tv と表せて, tv − x と ℓ が垂直であることから, (tv − x, v) = 0 である. v の長さが 1 であることから, (tv − x, v) = t(v, v) − (x, v) = t − (x, v) となるため, t = (x, v) である. □ 命題 4.5 θ = π の場合, v の第 j 成分を vj とすれば, Rv,π は次の行列によって表される 1 次変換である. 2 2v1 − 1 2v1 v2 2v1 v2 2v22 − 1 2v1 v3 2v2 v3 23 2v1 v3 2v2 v3 2v32 − 1 証明 x ∈ R3 に対し, x, Rv,π (x) を位置ベクトルとする点をそれぞれ X, Y とすれば, X と Y の中点は, X から 1 ℓ に下ろした垂線と ℓ との交点だから, 補題 4.4 により (x + Rv,π (x)) = (x, v)v である. 従って x の第 j 成分を 2 xj とすれば, 2 2v1 − 1 x1 v1 Rv,π (x) = 2(x, v)v − x = 2(v1 x1 + v2 x2 + v3 x3 ) v2 − x2 = 2v1 v2 2v1 v3 v3 x3 x1 2v22 − 1 2v2 v3 x2 2v2 v3 2v32 − 1 x3 2v1 v2 2v1 v3 □ となるため, 主張が示された. 以後 0 < θ < π と仮定する. 補題 4.6 x ∈ R3 に対し, y = Rv,θ (x) とおけば, 次の (1)∼(3) が成り立つ. (1) ∥x∥ = ∥y∥ (3) x − (x, v)v と y − (y, v)v のなす角は θ である. (2) (x, v) = (y, v) 証明 (1) y は ℓ を軸として x を回転させたベクトルだから y の長さは x の長さに等しい. (2) x, y を位置ベクトルとする点をそれぞれ X, Y とし, X, Y から ℓ に下ろした垂線と ℓ が交わる点をそれぞ れ P, Q とする. y は ℓ を軸として x を回転させたベクトルだから, P と Q は一致し, 補題 4.4 から P, Q の位置 ベクトルはそれぞれ (x, v)v, (y, v)v だから (x, v)v = (y, v)v である. 従って (x, v) = (y, v) である. −→ −→ −→ (3) P を通って ℓ に垂直な平面を H とすれば, PX = x − (x, v)v と PY = QY = y − (y, v)v はともに ℓ に垂 直だから H 上のベクトルである. ℓ を軸として θ だけ回転すれば, H 上の点は, P を中心として H 上を θ だけ −→ −→ 回転するため, PX と PY のなす角は θ である. □ 上の (1), (2) の結果から (x − (x, v)v, y − (y, v)v) = (x, y) − (x, v)(v, y) − (y, v)(x, v) + (x, v)(y, v)(v, v) = (x, y) − (x, v)2 ∥x − (x, v)v∥2 = (x − (x, v)v, x − (x, v)v) = ∥x∥2 − 2(x, v)2 + (x, v)2 (v, v) = ∥x∥2 − (x, v)2 ∥y − (y, v)v∥2 = (y − (y, v)v, y − (y, v)v) = ∥y∥2 − 2(y, v)2 + (y, v)2 (v, v) = ∥x∥2 − (x, v)2 であり, (3) の結果から (x − (x, v)v, y − (y, v)v) = ∥x − (x, v)v∥∥y − (y, v)v∥ cos θ が成り立つため, ( ) (x, y) − (x, v)2 = ∥x∥2 − (x, v)2 cos θ · · · (4) が得られる. そこで, v, x, y = Rv,θ (x) の第 j 成分をそれぞれ vj , xj , yj とすれば, (1), (2) と (4) から, y1 , y2 , y3 に関する連立方程式 y12 + y22 + y32 = ∥x∥2 v1 y1 + v2 y2 + v3 y3 = (x, v) x y + x y + x y = cos θ∥x∥2 + (1 − cos θ)(x, v)2 1 1 2 2 · · · (∗) 3 3 を得る. とくに, x が R3 の基本ベクトル ek の場合には, 1 ≦ i < j ≦ 3 を {i, j, k} = {1, 2, 3} となるように定め れば (∗) は次のようになる. y 2 + yj2 + yk2 = 1 i vi yi + vj yj + vk yk = vk y = 1 − 2(1 − v 2 ) sin2 θ k k 2 この 3 つ目の方程式を 1 つ目と 2 つ目に代入して整理すれば, y 2 + y 2 = 4(1 − v 2 ) sin2 θ (1 − (1 − v 2 ) sin2 θ ) i j k k 2 2 v y + v y = 2v (1 − v 2 ) sin2 θ i i j j k k 2 24 · · · (i) · · · (ii) が得られる. vk = ±1 の場合は上式より, yi = yj = 0, yk = 1 となるため, y = ek = x である. vk ̸= ±1 の場合, √ √ ∥v∥ = 1 より vi2 + vj2 = 1 − vk2 だから, vi = 1 − vk2 cos α, vj = 1 − vk2 sin α を満たす 0 ≦ α < 2π がただ 1 つ ある. また, (i) より √ ( ) θ 2 θ 2 2 (1 − vk ) 1 − (1 − vk ) sin cos φ, yi = 2 sin 2 2 √ θ yj = 2 sin 2 (1 − vk2 ) ( ) 2 θ 2 1 − (1 − vk ) sin sin φ 2 を満たす α ≦ φ < α + 2π がある. 従って (ii) より φ に関する方程式 √ θ θ · · · (∗∗) 1 − (1 − vk2 ) sin2 cos(φ − α) = vk sin 2 2 (√ )2 ( )2 2 θ 2 を得る. ここで, 0 < θ < π だから, 1 − (1 − vk ) sin 2 − vk sin θ2 = cos2 θ2 > 0 であり, vk2 ̸= 1 だから √ 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 ̸= 0 であるため, (∗∗) の解で α ≦ φ < α + 2π を満たすものは, 次の 2 つである. vk sin θ2 vk sin θ2 , α + cos−1 √ 2 θ 2 1 − (1 − vk ) sin 2 α + 2π − cos−1 √ 2 θ 2 1 − (1 − vk ) sin 2 前者を φ1 , 後者を φ2 とおけば, α < φ1 < α + π < φ2 < 2π であり, v u u θ v sin vk sin θ2 k 2 = u t1 − √ sincos−1 √ 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 1 − (1 − vk2 ) sin2 より 2 cos θ2 =√ θ 1 − (1 − vk2 ) sin2 2 cos φ1 = vk cos α sin θ2 − sin α cos θ2 √ , 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 sin φ1 = vk sin α sin θ2 + cos α cos θ2 √ 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 cos φ2 = vk cos α sin θ2 + sin α cos θ2 √ , 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 sin φ2 = vk sin α sin θ2 − cos α cos θ2 √ 1 − (1 − vk2 ) sin2 θ2 が成り立つ. 従って y = Rv,θ (x) の成分は y = vi vk (1 − cos θ) − vj sin θ i (A) yj = vj vk (1 − cos θ) + vi sin θ y = v 2 (1 − cos θ) + cos θ k または y = vi vk (1 − cos θ) + vj sin θ i (B) yj = vj vk (1 − cos θ) − vi sin θ y = v 2 (1 − cos θ) + cos θ k k θ 2 k によって与えられる. ここで y は ℓ を軸として, v の方向を向いて θ) だけ時計回りに ek を回転させたベクトル ( で, 0 < θ < π だから [ek , y, v] は右手系になるため, Ak = ek y v とおけば |Ak | > 0 である. k = 1 ならば i = 2, j = 3, k = 2 ならば i = 1, j = 3 であり, k = 3 ならば i = 1, j = 2 だから −(1 − v 2 ) sin θ < 0 (A) の場合 1 |A1 | = v3 y2 − v2 y3 = (1 − v 2 ) sin θ > 0 (B) の場合 1 (1 − v 2 ) sin θ > 0 (A) の場合 2 |A2 | = v1 y3 − v3 y1 = −(1 − v 2 ) sin θ < 0 (B) の場合 2 −(1 − v 2 ) sin θ < 0 (A) の場合 3 |A3 | = v2 y1 − v1 y2 = (1 − v 2 ) sin θ > 0 (B) の場合 3 25 が成り立つ. 故に Rv,θ (e1 ), Rv,θ (e2 ), Rv,θ (e3 ) はそれぞれ v12 (1 − cos θ) + cos θ v1 v2 (1 − cos θ) − v3 sin θ v1 v3 (1 − cos θ) + v2 sin θ v1 v2 (1 − cos θ) + v3 sin θ , v22 (1 − cos θ) + cos θ , v2 v3 (1 − cos θ) − v1 sin θ v1 v3 (1 − cos θ) − v2 sin θ v2 v3 (1 − cos θ) + v1 sin θ v32 (1 − cos θ) + cos θ によって与えられるため, Rv,θ を表す行列は, これらを列ベクトルにもつ行列 v12 (1 − cos θ) + cos θ v1 v2 (1 − cos θ) + v3 sin θ v1 v2 (1 − cos θ) − v3 sin θ v22 (1 − cos θ) + cos θ v1 v3 (1 − cos θ) − v2 sin θ v2 v3 (1 − cos θ) + v1 sin θ v1 v3 (1 − cos θ) + v2 sin θ v2 v3 (1 − cos θ) − v1 sin θ v32 (1 − cos θ) + cos θ である. この行列を Av,θ とおけば Av,0 = E3 であり, Av,π は命題 4.5 の行列に一致し, さらに Av,θ+2π = Av,θ , Av,−θ = A−v,θ が成り立つ. π < θ < 2π の場合, Av,θ = A−v,−θ = A−v,2π−θ であり, 0 < 2π − θ < π だから Av,θ は 1 次変換 R−v,2π−θ を 表す行列である. 一方 Rv,θ = R−v,−θ = R−v,2π−θ だから, π < θ < 2π の場合も Av,θ は Rv,θ を表す行列である. 故に次の結果が示された. 定理 4.7 v を R3 の単位ベクトルとし, v の第 j 成分を vj とする. 原点を通って方向ベクトルが v である直線 を軸として, v の方向を向いて θ だけ時計回りに R3 のベクトルを回転させる写像は次の行列によって表される R3 の 1 次変換である. 2 v1 (1 − cos θ) + cos θ v1 v2 (1 − cos θ) + v3 sin θ v1 v2 (1 − cos θ) − v3 sin θ v22 (1 − cos θ) + cos θ v1 v3 (1 − cos θ) − v2 sin θ v2 v3 (1 − cos θ) + v1 sin θ v1 v3 (1 − cos θ) + v2 sin θ v2 v3 (1 − cos θ) − v1 sin θ v32 (1 − cos θ) + cos θ ˜ J, ˜ K̃ を 注意 4.8 3 次交代行列 I, 0 0 ˜ I = 0 0 0 1 0 0 0 1 0 −1 0 −1 , J˜ = 0 0 0 , K̃ = 1 0 0 0 −1 0 0 0 0 0 で定めれば, 定理 4.7 の行列は次のように表される. ( ) cos θE3 + (1 − cos θ)v t v + sin θ v1 I˜ + v2 J˜ + v3 K̃ 対角化可能な行列の作り方 5 5.1 与えられた数を固有値にもつ対角化可能な行列 K は実数全体の集合 R または複素数全体の集合 C を表すとする. K の要素を成分とする m × n 行列 A に対 し, x ∈ K n を Ax ∈ K m に対応させる線形写像を TA : K n → K m で表すことにする. まず次の結果を示す. 定理 5.1 A を K の要素を成分とする階数が l 以下の m × n 行列とするとき, K の要素を成分とする m × l 行 列 P と K の要素を成分とする l × n 行列 Q で, A = P Q かつ rank P = rank Q = rank A を満たすものが存在 する. 証明 A で表される 1 次写像 TA : K n → K m の像 Im TA は A の列ベクトルで生成されるため, A の列ベクト ル Ae1 , Ae2 , . . . , Aen から Im TA の基底 Aek1 , Aek2 , . . . , Aekr (r = rank A, 1 ≦ k1 < k2 < · · · < kr ≦ n) を 選ぶことができる. r ≦ l だから, 1 次写像 φ : Im TA → K l , g : K l → K m を φ(Aekj ) = ej (j = 1, 2, . . . , r), 26 Ae kj 1≦j≦r によって定めることができる. 各 Aej は Aek1 , Aek2 , . . . , Aekr の 1 次結合で表 r+1≦j ≦l r ∑ すことができるため, Aej = cij Aeki とおける. このとき j = 1, 2, . . . , n に対して g(ej ) = 0 i=1 g(φ(Aej )) = r ∑ cij g (φ (Aeki )) = i=1 r ∑ cij g(ei ) = i=1 r ∑ cij Aeki = Aej = TA (ej ) i=1 が成り立つため, f : K n → K l を f (x) = φ(Ax) によって定めれば, g◦f (ej ) = g(φ(Aej )) = TA (ej ) が j = 1, 2, . . . , n に対して成り立つ. 故に TA = g◦f である. そこで P を g(ej ) を第 j 列にもつ m × l 行列, Q を f (ej ) を第 j 列にもつ l × n 行列とすれば, f = TQ , g = TP であり, TA = g◦f = TP ◦TQ = TP Q だから A = P Q が成り立つ. x ∈ K n を Ax ∈ Im TA に写す写像 K n → Im TA は全射だから, その階数は dim Im TA = rank A に等しい. φ は Im TA の基底 Aek1 , Aek2 , . . . , Aekr を K l の 1 次独立なベクトル e1 , e2 , . . . , er に写すため, φ は単射である. f はこれらの写像の合成であるため, rank P = rank TP = rank f = rank A が成り立つ. また, g の定義から Im g は rank A 個の 1 次独立なベクトル Aek1 , Aek2 , . . . , Aekr で生成されるため, rank Q = rank TQ = rank g = rank A □ である. 系 5.2 A を K の要素を成分とする対角化可能な n 次正方行列とする. m を n − 1 以下の自然数とし, A の 固有方程式が λ ∈ K を n − m 重根にもつとき, K の要素を成分とする n × m 行列 P と m × n 行列 Q で, rank P = rank Q = m かつ A = λEn + P Q となるものが存在する. 証明 A が対角化可能であることから A − λEn の階数は m だから, 定理 5.1 から K の要素を成分とする n × m 行列 P と m × n 行列 Q で, rank P = rank Q = m かつ A − λEn = P Q となるものが存在する. □ n × m 行列 P と m × n 行列 Q でともに階数が m であるものが与えられたとき, λEn + P Q という形の行列 が対角化可能であるための条件は次のように与えられる. 定理 5.3 m を n − 1 以下の自然数とし, P , Q はそれぞれ K の要素を成分とする n × m 行列, m × n 行列で, rank P = rank Q = m であるとする. λ ∈ K に対し, A = λEn + P Q とおく. このとき A が対角化可能である ためには m 次正方行列 QP が正則であり, かつ対角化可能であることが必要十分である. 証明 まず rank P = m だから rank P Q ≦ m < n であるため, A − λEn = P Q は正則行列ではないため, λ は A の固有値である. 再び rank P = m より TP : K m → K n は単射であるため, λ に対する A の固有空間は Ker TQ である. 従って次元公式から λ に対する A の固有空間の次元は n − m であるため, A が対角化可能ならば λ 以 外の固有値に対する m 個の 1 次独立な A の固有ベクトル v 1 , v 2 , . . . , v m が存在する. v j は A の固有値 µj に対 する固有ベクトルであるとすれば, Av j = µj v j より P Qv j = (µj − λ)v j が成り立つため, v j は P の列ベクトル の 1 次結合である. そこで, P の第 i 列を pi として v j = m ∑ cij pi と表し, cij を第 i 成分とする K m のベクトルを cj とすれば i=1 v j = P cj が成り立つ. ここで, v 1 , v 2 , . . . , v m が 1 次独立で v j = P cj より, c1 , c2 , . . . , cm も 1 次独立であるこ とに注意する. v j = P cj を P Qv j = (µj − λ)v j に代入すれば P QP cj = P ((µj − λ)cj ) が得られるが, TP が単 射であることから, QP cj = (µj − λ)cj が成り立つ. これは µj − λ が m 次正方行列 QP の固有値で, cj が固有値 µj − λ に関する QP の固有ベクトルであることを意味し, c1 , c2 , . . . , cm は K m の基底であるから, QP が cj を 第 j 列とする m 次正方行列によって µj − λ を (j, j) 成分とする対角行列に対角化されることがわかる. さらに, µ1 , µ2 , . . . , µm はすべて λ と異なるため, µj − λ を (j, j) 成分とする対角行列は正則行列である. 従って QP も正 則行列である. 逆に, QP は正則行列で, m 次正則行列 C によって対角化されると仮定する. 対角行列 C −1 QP C を D とお き, νj を D の (j, j) 成分とする. このとき, D は正則だから, ν1 , ν2 , . . . , νm はどれも 0 ではないことに注意する. 27 rank P = m で C は正則だから rank P C = m となるため, P C の第 j 列を v j とすれば, v 1 , v 2 , . . . , v m 1 次独 立である. C −1 QP C = D の両辺に左から P C をかけると P QP C = P CD であり, この両辺の第 j 列をみると, P Qv j = νj v j が成り立つことがわかる. 従って Av j = (λ + νj )v j となるため, λ + νj は A の固有値で, v j は λ + νj に対する A の固有ベクトルである. 一方 TP は単射だから Ker TP Q = Ker (TP ◦TQ ) = Ker TQ である. 従って x ∈ K n が Ax = λx を満たすことと x ∈ Ker TQ であることは同値だから, λ は A の固有値で λ に対す る A の固有空間は Ker TQ である. rank Q = m だから, dim Ker TQ = n − m であるため, v m+1 , v m+2 , . . . , v n を Ker TQ の基底とすれば, ν1 , ν2 , . . . , νm はどれも 0 ではないため, λ + ν1 , λ + ν2 , . . . , λ + νm はどれも λ とは異 なることから A の固有ベクトルからなる v 1 , v 2 , . . . , v m , v m+1 , v m+2 , . . . , v n は 1 次独立であり, K n の基底とな □ る. 故に A は対角化可能である. 注意 5.4 QP が正則であり, かつ νj を (j, j) 成分とする対角行列に対角化可能ならば, 上の証明から A は 1 ≦ j ≦ m ならば λ + νj を (j, j) 成分とし, m + 1 ≦ j ≦ n ならば λ を (j, j) 成分とする対角行列に対角化され ることがわかる. 従って QP の固有多項式を FQP (x) とすれば, A の固有多項式は (x − λ)n−m FQP (x − λ) で与 えられることがわかる. n 次元ベクトル空間 V が部分空間 W と Z の直和であるとし, dim W = m とする. U を m 次元ベクトル空間, g を U の 1 次変換で同型写像とする. 線形写像 p : U → V , q : V → U で Im p = W , Ker q = Z かつ q◦p = g を 満たすものの対 (p, q) 全体からなる集合を Π, U から W への同型写像全体からなる集合を I とする. ι : W → V を包含写像, π : V → W を射影として, 写像 F : Γ → Π を F (φ) = (ι◦φ, g◦φ−1 ◦π) で定めることができる. 命題 5.5 F は全単射である 証明 まず ι が単射であることから, F は単射であることがわかる. (p, q) ∈ Π に対して, Im p = W だから線形 写像 φ : U → W を φ(x) = p(x) で定めることができる. dim U = dim W = m より p は単射であるため φ は 同型写像である. このとき, ι◦φ = p が成り立つことは φ の定義から明らかである. 従って g = q◦p = q◦ι◦φ だ から g◦φ−1 ◦π = q◦ι◦π である. ここで, x ∈ W ならば (q◦ι◦π)(x) = q((ι◦π)(x)) = q(x) であり, x ∈ Z ならば (q◦ι◦π)(x) = q((ι◦π)(x)) = q(0) = 0 = q(x) だから q◦ι◦π = q が成り立つ. 故に F (φ) = (p, q) だから F は全射 でもある. □ K n が部分空間 W と Z の直和であるとし, v 1 , v 2 , . . . , v m を W の基底, v m+1 , v m+2 , . . . , v n を Z の基底とす る. j = 1, 2, . . . , m に対し ej を v j に写す線形写像を ι : K m → K n とし, 1 ≦ j ≦ m ならば v j を ej に写し, m + 1 ≦ j ≦ n ならば v j を 0 に写す線形写像を π : K n → K m とする. v j を第 j とする n × m 行列を I, π(ej ) を第 j 列とする m × n 行列を J とすれば, ι = TI , π = TJ かつ JI = Em が成り立つことに注意する. m 次正則行列 R に対し, K の要素を成分とする n × m 行列 P , m × n 行列 Q で Im TP = W , Ker TQ = Z か つ QP = R を満たすものの対 (P, Q) 全体からなる集合を M , K の要素を成分とする m 次正則行列全体からな る集合を G として, 写像 T : G → M を T (X) = (IX, RX −1 J) で定める. 系 5.6 T は全単射である 命題 5.7 f を K 上のベクトル空間 V の 1 次変換とする. f の固有ベクトルからなる V の基底が存在するなら ば, 任意の λ ∈ K に対して V は Ker (f − λidV ) と Im (f − λidV ) の直和である. 従って A が K の要素を成 分とする対角化可能な n 次正方行列ならば, 任意の λ ∈ K に対して K n は Ker TA−λEn と Im TA−λEn の直和で ある. 証明 λ が f の固有値でないならば f −λidV は V の同型写像であるため, Ker (f −λidV ) = {0}, Im (f −λidV ) = V となって主張は成立する. f の固有ベクトルからなる V の基底を v 1 , v 2 , . . . , v n とし, v j は固有値 λj に対する f の固有ベクトルであるとする. λ が f の固有値であるとき, 1 ≦ j ≦ m に対して λj ̸= λ, m + 1 ≦ j ≦ n に対し n ∑ て λj = λ であると仮定してよい. このとき, x ∈ Ker (f − λidV ) ∩ Im (f − λidV ) ならば x = xj v j と表さ j=m+1 28 れ, x = (f − λidV )(y) となる y ∈ V がある. そこで y = が成り立つため, m ∑ (λj − λ)yj v j = j=1 n ∑ n ∑ j=1 yj v j と表すと x = f (y) − λy = m ∑ (λj − λ)yj v j j=1 xj v j が得られる. 従って v 1 , v 2 , . . . , v n の 1 次独立性から xm+1 = j=m+1 xm+2 = · · · = xn = 0 となるため, x = 0 である. 故に Ker (f − λidV ) ∩ Im (f − λidV ) = {0} となり, dim(Ker (f − λidV ) + Im (f − λidV )) dim Ker (f − λidV ) + dim Im (f − λidV )) である. f − λidV に対する次元 公式から, この等式の右辺は V の次元に等しくなるため, V は Ker (f − λidV ) と Im (f − λidV ) の直和である.□ 補題 5.8 f : V → W を K 上のベクトル空間の間の線形写像とする. 線形写像 j : V → Z は全射で, Ker j = Ker f を満たし, 線形写像 i : U → W は単射で Im i = Im f を満たすとき, 同型写像 φ : Z → U で i◦φ◦j = f を満たす ものがただ 1 つ存在する. 証明 j は全射だから, 任意の z ∈ Z に対し, j(x) = z を満たす x ∈ V がある. j(x) = j(y) = z ならば x − y ∈ Ker j = Ker f だから f (x) = f (y) となるため, f (x) は j(x) = z を満たす x の選び方に依存しない. 従って, 写像 ψ : Z → Im f を z ∈ Z に対し, j(x) = z を満たす x ∈ V を選んで ψ(z) = f (x) によって定める ことができる. このとき, ν : Im f → W を包含写像とすれば, ψ の定義から明らかに ν◦ψ◦j = f であり, ψ が線 形写像であることは用意に確かめられる. ψ(z) = 0 ならば, j(x) = z を満たす x ∈ V をとると, f (x) = 0 だか ら x ∈ Ker f = Ker j である. 故に z = j(x) = 0 となるため ψ は単射である. また, 任意の w ∈ Im f に対し, f (x) = w を満たす x ∈ V をとり, z = j(x) とおくと ψ(z) = f (x) = w となるため ψ は全射でもある. よって ψ は同型写像である. i は単射だから, 任意の u ∈ U を i(u) に対応させる U から Im i = Im f への写像は同型写像である. この写像 を η とすれば ν◦η = i だから i◦η −1 = ν が成り立つ. そこで φ = η −1 ◦ψ によって, 写像 φ : Z → U を定めれば φ は同型写像であり, i◦φ◦j = i◦η −1 ◦ψ◦j = ν◦ψ◦j = f である. 写像 φ′ : Z → U も i◦φ′ ◦j = f を満たすならば i◦φ′ ◦j = i◦φ◦j であり, i は単射, j は全射だから φ′ = φ が得られるため i◦φ◦j = f を満たす写像は 1 つだけで ある. □ DGLm (K) を K の要素を成分とする対角化可能な m 次正則行列全体からなる集合とする. また, λ ∈ K と K n の m 次元部分空間 W と n − m 次元部分空間 Z による直和分解 K n = W ⊕ Z が与えられたとき, λ を固有値に もち, λ に対する固有空間が Z である K の要素を成分にもつ対角化可能な n 次正方行列 A で Im TA−λEn = W であるもの全体からなる集合を DMn (K; λ, W, Z) とする. X ∈ DGLm (K) に対し, 系 5.6 の前に定めた行列 I, J を用いて, n 次正方行列 A を A = λEn + IXJ で定める と rank I = rank XJ = m かつ (XJ)I = X は正則で対角化可能だから, 定理 5.3 により A は対角化可能である. また, A − λEn = IXJ だから λ に対する A の固有空間は Ker TA−λEn = Ker (TI ◦TX ◦TJ ) = Ker TJ = Z であ り, Im TA−λEn = Im (TI ◦TX ◦TJ ) = Im TI = W が成り立つ. そこで, 写像 Φ : DGLm (K) → DMn (K; λ, W, Z) を Φ(X) = λEn + IXJ で定める. 定理 5.9 Φ は全単射である. 証明 A ∈ DMn (K; λ, W, Z) とすると Ker TA−λEn = Z = Ker TJ , Im TA−λEn = W = Im TI であり, TJ : K n → K m は全射, TI : K m → K n は単射だから, 補題 5.8 により m 次正則行列 X で TI ◦TX ◦TJ = TA−λEn , すなわ ち IXJ = A − λEn を満たすものがただ 1 つ存在する. rank I = rank XJ = m であり, A は対角化可能だから P = I, Q = XJ として定理 5.3 を用いれば X = QP ∈ DGLm (K) であることがわかる. 故に Φ(X) = A を満た す X はただ 1 つ定まるため, Φ は全単射である. □ n 次正方行列 A が対角化可能で, 相異なる K の要素 λ, µ に対し A の固有多項式が (x − λ)n−m (x − µ)m と因 数分解すると仮定する. Ker TA−λEn = Z, Im TA−λEn = W とおいて上の定理を用いると, 対角化可能な正則行列 X で A = λEn + IXJ となるものがある. このとき, 注意 5.4 から X の固有値に λ を加えたものが, λ と異なる A の固有値だから, X はただ 1 つの固有値 µ − λ をもつ対角化可能な行列である. よって X = (µ − λ)Em とな るため, A = λEn + (µ − λ)IJ である. このとき (IJ)2 = IJ であり IJ の階数は m であることに注意する. 29 逆に, 階数 m の n 次正方行列 K で, K 2 = K を満たすものが与えられたとき, W = Im TK , Z = Ker TK とお けば K n は W と Z の直和であり, I, J を系 5.6 の前に定めたものとすれば IJ = K が成り立つ. 実際, I, J の 定義に用いた K n の基底 v 1 , v 2 , . . . , v n に対し, 1 ≦ j ≦ m ならば TIJ (v j ) = TI (TJ (v j )) = TI (ej ) = v j であり, 一方 v j ∈ W = Im TK だから v j = Kxj となる x があるため, TK (v j ) = Kv j = K 2 xj = Kxj = v j である. ま た, m + 1 ≦ j ≦ n ならば v j ∈ Ker TJ = Z = Ker TK だから TIJ (v j ) = TI (TJ (v j )) = 0 = TK (v j ) が成り立つた め TIJ = TK である. そこで, 相異なる K の要素 λ, µ に対し A = λEn + (µ − λ)K によって A を定めれば, m 次スカラー行列 X = (µ − λ)IJ に対して A = λEn + IXJ が成り立つため, 定理 5.3 によって A は対角化可能であり, 注意 5.4 により, A の固有多項式は (x − λ)n−m (x − µ)m と因数分解することがわかる. 故に次の結果が示された. 定理 5.10 λ, µ を相異なる K の要素とする. K の要素を成分にもち, 固有多項式が (x − λ)n−m (x − µ)m と因数 分解する対角化可能な n 次正方行列全体の集合を DMn (K, m; λ, µ) とし, K の要素を成分にもち, 階数 m の n 次 正方行列 K で, K 2 = K を満たすもの全体の集合を I(K; n, m) として, 写像 Ψ : I(K; n, m) → DMn (K, m; λ, µ) を Ψ(K) = λEn + (µ − λ)K で定めれば Ψ は全単射である. 注意 5.11 (1) 上の定理において λ に対する λEn + (µ − λ)K の固有空間は Ker TK であることは明らかである が, µ に対する λEn + (µ − λ)K の固有空間は Im TK である. 実際 K 2 = K だから, 任意の x ∈ K n に対して (λEn + (µ − λ)K)Kx = λKx + (µ − λ)K 2 x = µKx となるため, Im TK は µ に対する λEn + (µ − λ)K の固有 空間に含まれる. 逆に µ に対する λEn + (µ − λ)K の固有ベクトル x をとると, (λEn + (µ − λ)K)x = µx より (µ − λ)Kx = (µ − λ)x となり λ ̸= µ だから x = Kx ∈ Im TK である. (2) 定理 5.1 から階数 1 の n 次正方行列 K に対して a, b ∈ K n で, K = at b となるものが存在する. このとき t ba = c とおくと K 2 = cK だから K ∈ I(K; n, 1) であるためには t ba = 1 であることが必要十分である. 逆に a, b ∈ K n に対し, c = t ba ̸= 0 の場合, K = 1c at b とおくと K ∈ I(K; n, 1) である. 補題 5.12 λ を n 次正方行列 A の固有値とする. λ に対する A の固有空間の次元が m ならば, A の固有多項式 は (x − λ)m を因数にもつ. 証明 v 1 , v 2 , . . . , v m を λ に対する A の固有空間の基底として, v 1 , v 2 , . . . , v n が K n 基底になるようにベクト n ∑ ル v m+1 , v m+2 , . . . , v n を選ぶ. v j を第 j 列とする n 次正方行列を P とし, Av j = cij v i とおいて, cij を (i, j) i=1 −1 成分とする n 次正方行列を A′ とすれば, P( AP = A)′ が成り立つ. j = 1, 2, . . . , m ならば Av j = λv j だから λEm B cjj = 1, cij = 0 (i ̸= j) となるため, A′ は という形になる. P −1 AP = A′ より A の固有多項式は O C A′ の固有多項式と一致し, A′ の固有多項式は (x − λ)E −B m ′ |xEn − A | = = |(x − λ)Em ||xEn−m − C| = (x − λ)m |xEn−m − C| O xEn−m − C となって (x − λ)m を因数にもつことがわかる. □ 命題 5.13 λ ∈ K と零ベクトルではない a, b ∈ K n に対し, A = λEn + at b とおくと次のことが成り立つ. (1) A が対角化可能であるためには t ba ̸= 0 であることが必要十分である. (2) A の固有多項式は (x − λ)n−1 (x − λ − t ba) であり, 固有値 λ に対する A の固有空間は t bx = 0 を満たす ベクトル x 全体からなる. (3) t ba ̸= 0 の場合, 固有値 λ + t ba に対する A の固有空間は a で生成される 1 次元部分空間である. 証明 P = a, Q = t b として定理 5.3 を用いれば (1) は示される. t bx = 0 を満たすベクトル x 全体からなる K n の部分空間を Z とすると, Z は Ax = λx を満たすベクトル全 体からなるため, λ は A の固有値で Z は λ に対する A の固有空間である. dim Z = n − 1 だから補題 5.12 によ 30 り A の固有多項式は (x − λ)n−1 を因数にもつ. よって A の固有多項式は (x − λ)n−1 (x − µ) (µ ∈ K) の形に因 数分解される. そこで W を µ に対する A の固有空間とする. t ba = 0 の場合, (1) によって A は対角化不可能であるが, このとき µ ̸= λ ならば Z ∩ W = {0} だから dim(Z + W ) = dim Z + dim W = dim W + n − 1 ≧ n となるため, Z + W = K n である. 従って, A は対角化可 能になって矛盾が生じるので µ = λ である. t ba ̸= 0 の場合, c = t ba, K = 1c at b とおくと, 注意 5.11 によって K ∈ I(K; n, 1) であり, A = λEn + cK だか ら定理 5.10 から A の固有多項式は (x − λ)n−1 (x − λ − c) と因数分解して, 固有値 λ + c に対する A の固有空間 は Im TK である. K の列ベクトルは a のスカラー倍だから Im TK は a で生成される 1 次元部分空間である. □ 5.2 与えられた実数を固有値にもつエルミート行列 V , W を K 上の計量ベクトル空間として, ( , )V : V × V → K, ( , )W : W × W → K をそれぞれ V , W の内 積とする. 命題 5.14 線形写像 f : V → W の随伴写像 f ∗ : W → V に関し, Ker f ∗ = (Im f )⊥ , Im f ∗ = (Ker f )⊥ が成り 立つ. 証明 一般に y ∈ V が零ベクトルであるためには, 任意の x ∈ V に対して (x, y)V = 0 であることが必要十分 であるから, w ∈ W が Ker f ∗ に属するためには, 任意の x ∈ V に対して (x, f ∗ (w))V = 0 であることが必要 十分である. (x, f ∗ (w))V = (f (x), w)W だから, 任意の x ∈ V に対して (x, f ∗ (w))V = 0 であることは 任意の y ∈ Im f に対して (y, w)W = 0 であることと同値であり, これは w ∈ (Im f )⊥ であることに他ならない. 従って Ker f ∗ = (Im f )⊥ である. Ker f ∗ = (Im f )⊥ の f を f ∗ で置き換えれば (f ∗ )∗ = f だから (Im f ∗ )⊥ = Ker f で ( )⊥ ある. この両辺の直交補空間を考えると, (Im f ∗ )⊥ = Im f ∗ より Im f ∗ = (Ker f )⊥ が得られる. □ 系 5.15 V , W を K 上の計量ベクトル空間, f : V → W を線形写像とする. (1) rank f ∗ = rank f (2) f ∗ が単射であるためには f が全射であることが必要十分であり, f ∗ が全射であるためには f が単射であ ることが必要十分である. 証明 (1) 上の結果と次元公式から, rank f ∗ = dim Im f ∗ = dim (Ker f )⊥ = dim V − dim Ker f = rank f . (2) Ker f ∗ = (Im f )⊥ より Ker f ∗ = {0} であるためには Im f = V であることが必要十分である. よって f ∗ が単射であるためには f が全射であることが必要十分である. f を f ∗ で置き換えれば, 後半の主張が示される.□ 命題 5.16 V , W を計量ベクトル空間, i : W → V を内積を保つ線形写像とすれば, i◦i∗ : V → V は Im i への直 交射影である. 証明 x ∈ V と y ∈ W に対し, (i(y), x−i◦i∗ (x))V = (i(y), x)V −(i(y), i(i∗ (x)))V = (y, i∗ (x))W −(y, i∗ (x))W = 0 だから x − i◦i∗ (x) ∈ W ⊥ である. 従って i◦i∗ は W への直交射影である. □ 計量ベクトル空間 V の 1 次変換 f が f の随伴写像 f ∗ と一致するとき, f をエルミート変換という. 命題 5.17 V , W を K 上の計量ベクトル空間, f, g : V → W を線形写像とする. エルミート変換 h : V → V で, g = f ◦h を満たすものがあれば, f と g の随伴写像 g ∗ : W → V の合成写像 f ◦g ∗ : W → W はエルミート変換 である. f が単射で, f ◦g ∗ がエルミート変換ならばエルミート変換 h : V → V で, g = f ◦h を満たすものがただ 1 つ存在する. このとき, g も単射ならば h は同型写像である. 証明 エルミート変換 h : V → V で, g = f ◦h を満たすものがあるとき, h∗ = h より (f ◦g ∗ )∗ = (g ∗ )∗ ◦f ∗ = g◦f ∗ = (f ◦h)◦f ∗ = f ◦(h∗ ◦f ∗ ) = f ◦(f ◦h)∗ = f ◦g ∗ 31 だから f ◦g ∗ : W → W はエルミート変換である. f が単射で f ◦g ∗ : W → W がエルミート変換であると仮定す れば, f ◦g ∗ = (f ◦g ∗ )∗ = (g ∗ )∗ ◦f ∗ = g◦f ∗ であり, 系 5.15 の (2) から f ∗ は全射だから Im f ⊃ Im g が成り立つ. 従って x ∈ V に対して f (y) = g(x) を満たす y ∈ V がただ 1 つ定まる. そこで, x ∈ V に対して f (y) = g(x) を 満たす y ∈ V を対応させる写像を h : V → V とすれば, h は V の 1 次変換であり, f ◦h = g が成り立つ. f が単 射であることから, このような h がただ 1 つしかないことは明らかである. このとき, f ◦h = g の両辺の随伴写像 を考えると h∗ ◦f ∗ = g ∗ だから f ◦g ∗ = g◦f ∗ に代入すれば f ◦h∗ ◦f ∗ = f ◦h◦f ∗ が得られる. f は単射で f ∗ は全 射だから h∗ = h となるため h はエルミート変換である. f ◦g ∗ = g◦f ∗ だから, g も単射ならば, 上の議論で g と f を入れ替えれば, f = g◦k を満たす 1 次変換 k が存在することがわかる. このとき, f ◦h◦k = g◦k = f = f ◦idV , g◦k◦h = f ◦h = g = g◦idV であり, f , g は単射だから h◦k = k◦h = idV が成り立つため h は同型写像である. □ 系 5.18 P , Q を n × m 行列とする. n 次エルミート行列 H で Q = P H を満たすものがあれば P Q∗ はエル ミート行列である. rank P = m であり P Q∗ がエルミート行列ならば, m 次エルミート行列 H で Q = P H を満 たすものがただ一つ存在する. このとき, rank Q = m でもあれば, H は正則行列である. λ ∈ R とし, P , Q を K の要素を成分とする n×m 行列で, rank P = rank Q = m であるとする. A = λEn +P Q∗ とおくと上の結果から A がエルミート行列であるためには, 正則なエルミート行列 H で, Q = P H を満たすもの が存在することが必要十分である. 従って λ を固有値にもち, λ に対する固有空間の次元が m である K の要素を 成分とする n 次エルミート行列 A に対して, K の要素を成分とする階数が m の n × m 行列 P と正則な m 次エ ルミート行列 H で, A = λEn + P HP ∗ となるものが存在する 命題 5.19 f を計量ベクトル空間 V のエルミート変換とする. i : W → V を, 像が Im f である内積を保つ線形 写像とすれば, 同型写像 φ : W → W で i◦φ◦i∗ = f を満たすものがただ 1 つ存在する. このとき φ はエルミート 変換である. 証明 i は内積を保つため単射である. よって系 5.15 から, i∗ は全射で, 命題 5.14 から Ker i∗ = (Im i)⊥ であ る. 一方 f はエルミート写像だから命題 5.14 と仮定から Ker f = Ker f ∗ = (Im f )⊥ = (Im i)⊥ である. 故に Ker i∗ = Ker f となるため, 補題 5.8 によって同型写像 φ : W → W で i◦φ◦i∗ = f を満たすものがただ 1 つ存在 する. f はエルミート写像だから i◦φ◦i∗ = f = f ∗ = (i◦φ◦i∗ )∗ = (i∗ )∗ ◦φ∗ ◦i∗ = i◦φ∗ ◦i∗ である. i は単射で i∗ は全射だから φ = φ∗ が得られ, φ がエルミート写像であることがわかる. □ λ ∈ R, W を K n の m 次元部分空間 (1 ≦ m ≦ n − 1) とする. K の要素を成分として λ を固有値にもち, λ に 対する固有空間が W ⊥ である n 次エルミート行列全体からなる集合を Hn (K; λ, W ) で表し, K の要素を成分と する正則な m 次エルミート行列全体からなる集合を RHm (K) で表す. v 1 , v 2 , . . . , v m を W の正規直交基底として v j を第 j とする n × m 行列を I とすれば, Im TI = W であり, TI : K m → K n は K m の標準基底を K n の正規直交系に写すため内積を保つ. 定理 5.20 写像 Φ : RHm (K) → Hn (K; λ, W ) を Φ(X) = λEn + IXI ∗ で定めれば, Φ は全単射である. 証明 任意の A ∈ Hn (K; λ, W ) に対し, TA−λEn は K n のエルミート変換であり, Ker TA−λEn = W ⊥ だから, 命 ∗ = (Ker TA−λEn )⊥ = W である. よって命題 5.17 から, エルミート写像 題 5.14 により Im TA−λEn = Im TA−λE n である同型写像 φ : K m → K m で, TI ◦φ◦TI ∗ = TA−λEn を満たすものがただ 1 つ存在する. そこで, TX = φ と なる行列 X を考えると X は IXI ∗ = A − λEn , すなわち Φ(X) = A を満たす唯一の正則なエルミート行列であ □ る. 故に Φ は全単射である. λ, µ を相異なる実数とし, K の要素を成分とし, 固有多項式が (x − λ)n−m (x − µ)m である n 次エルミート 行列全体からなる集合を Hn (K, m; λ, µ) で表す. また, K の要素を成分とし, 階数が m である m 次エルミー ト行列 K で K 2 = K を満たすもの全体からなる集合を Gm (K n ) で表す. K ∈ Gm (K n ) ならば定理 5.10 に より λEn + (µ − λ)K の固有多項式は (x − λ)n−m (x − µ)m である. また, K がエルミート行列であることと λEn + (µ − λ)K がエルミート行列であることは同値であるため, 定理 5.10 から次の結果が得られる. 32 定理 5.21 写像 Ψ : Gm (K n ) → Hn (K, m; λ, µ) を Ψ (K) = λEn + (µ − λ)K で定めれば Ψ は全単射である. 命題 5.22 I を K n の m 個のベクトルからなる正規直交系を列ベクトルとする n×m 行列とすれば II ∗ ∈ Gm (K n ) である. また, K ∈ Gm (K n ) に対し, Im TK の正規直交基底を列ベクトルとする n×m 行列を I とすれば, K = II ∗ である. 証明 II ∗ がエルミート行列であることは明らかであり, I ∗ I の (i, j) 成分は I の第 j 列と第 i 列の内積だから I ∗ I = Em である. よって (II ∗ )2 = II ∗ となり, さらに m = rank I = rank IEm = rank II ∗ I ≦ rank II ∗ ≦ rank I = m だから rank II ∗ = m である. 故に II ∗ ∈ Gm (K n ) である. Im TK = Im TI であり, TI : K m → K n は K m の標準基底を K n の正規直交系に写すため内積を保つ. TK は エルミート変換だから命題 5.19 から正則なエルミート行列 X で TI ◦TX ◦TI ∗ = TK , すなわち IXI ∗ = K を満た すものがある. IX 2 I ∗ = IXI ∗ IXI ∗ = K 2 = K = IXI ∗ だから TI ◦TX 2 ◦TI ∗ = TI ◦TX ◦TI ∗ であり, TI は単射, TI ∗ は全射だから TX 2 = TX である. 従って X 2 = X であるが, X は正則であるため, この両辺に X −1 をかけて X = Em が得られる. 故に K = II ∗ である. □ 命題 5.23 P を階数が m である K の要素を成分とする n × m 行列とすると P ∗ P は正則なエルミート行列で あり, P (P ∗ P )−1 P ∗ ∈ Gm (K n ) である. 証明 x ∈ Ker TP ∗ P ならば P x ∈ Ker TP ∗ ∩ Im TP = (Im TP )⊥ ∩ Im TP = {0} だから x ∈ Ker TP であ る. P の階数 m は P の列の数に等しいため TP は単射である. よって x = 0 となり TP ∗ P は単射である ことがわかる. 故に TP ∗ P は同型写像であるため, P ∗ P は正則である. P ∗ P がエルミート行列であること と (P (P ∗ P )−1 P ∗ )2 = P (P ∗ P )−1 P ∗ が成り立つことは明らかである. TP は単射だから, その随伴写像 TP ∗ は全射であるため, Im TP (P ∗ P )−1 P ∗ = Im (TP ◦T(P ∗ P )−1 ◦TP ∗ ) = Im (TP ◦T(P ∗ P )−1 ) = Im TP である. 従って rank P (P ∗ P )−1 P ∗ = rank P = m である. 以上から P (P ∗ P )−1 P ∗ ∈ Gm (K n ) が示された. □ 命題 5.13 から, λ ∈ R, ε = ±1 と a ∈ K n に対し, A = λEn + εaa∗ の固有多項式は (x − λ)n−1 (x − λ − ε∥a∥2 ) であり, λ に対する A の固有空間は a で生成される 1 次元部分空間の直交補空間, λ + ε∥a∥2 に対する A の固有 空間は a で生成される 1 次元部分空間である. とくに n = 3 の場合, A は次のような 3 次正方行列である. λ + ε|a1 |2 εa1 a2 εa1 a3 εa1 a2 λ + ε|a2 |2 εa2 a3 εa1 a3 εa2 a3 λ + ε|a3 |2 直交行列の作り方 6 6.1 3 次直交行列 自然数 n に対して Mn (K) (K = R または C) を K の要素を成分とする n 次正方行列全体からなる集合とし, Mn (R) の部分集合 SO(n) と A(n), Mn (C) の部分集合 U (n), SU (n), SH(n), SH0 (n) を以下のように定める. SO(n) = {X ∈ Mn (R)| tXX = X tX = En } U (n) = {X ∈ Mn (C)| X ∗ X = XX ∗ = En } A(n) = {X ∈ Mn (R)| tX = −X} SH(n) = {X ∈ Mn (C)| X ∗ = −X} SU (n) = {X ∈ Mn (C)| X ∗ X = XX ∗ = En , |X| = 1} SH0 (n) = {X ∈ Mn (C)| X ∗ = −X, tr X = 0} SO(n) を n 次回転群, U (n) を n 次ユニタリー群, SU (n) を n 次特殊ユニタリー群と呼ぶ. 命題 6.1 X ∈ A(n) ならば exp X ∈ SO(n), X ∈ SH(n) ならば exp X ∈ U (n) であり, X ∈ SH0 (n) ならば exp X ∈ SU (n) である. 33 証明 X ∈ Mn (K) が X ∗ = −X を満たせば X ∗ X = XX ∗ だから, exp(X + X ∗ ) = (exp X)(exp X ∗ ) である. 従っ て (exp X)(exp X)∗ = (exp X)(exp X ∗ ) = exp(X + X ∗ ) = exp On = En であり, 同様に (exp X)∗ (exp X) = En が得られる. また, | exp X| = etrX が成り立つため, tr X = 0 ならば | exp X| = 1 である. □ 上の結果から, 指数写像 exp から写像 exp : A(n) → SO(n), exp : SH(n) → U (n), exp : SH0 (n) → SU (n) が 定義される. 定理 6.2 exp : A(n) → SO(n), exp : SH(n) → U (n), exp : SH0 (n) → SU (n) はすべて全射である. ( ) cos t − sin t 証明 t ∈ R に対して R(t) = とおく. Y ∈ SO(n) ならば Y はユニタリー行列だから, Y の固有 sin t cos t 値はすべて絶対値が 1 の複素数であり, Y の固有多項式の係数はすべて実数だから, Y が虚数の固有値をもてば, その共役複素数も Y の固有値である. 従って Y の虚数の固有値全体を eit1 , e−it1 , eit2 , e−it2 , . . . , eitl , e−itl とする ことができる. −1 が Y の固有方程式の m 重解になっているとすれば Y の重複度も含めたすべての固有値の積 は Y の行列式の値 1 に等しいため m は偶数である. そこで m = 2k, tl+1 = tl+2 = · · · = tl+k = π とおくと, Y は実正規行列だから, n 次直交行列 P で −1 P YP = ( 0 となるものが存在する. 一方 I = 1 R(t1 ) 0 R(t2 ) .. . 0 R(tl+k ) En−2l−2k ) −1 とおくと exp(tI) = R(t) だから 0 t1 I X= 0 t2 I .. . 0 tl+k I On−2l−2k とおけば exp X = P −1 Y P となるため, Y = P (exp X)P −1 = exp(P XP −1 ) = exp(P X tP ) である. ここで, X ∈ A(n) より P X tP ∈ A(n) となるため, exp : A(n) → SO(n) が全射であることが示された. Y ∈ U (n) ならば Y の固有値は絶対値が 1 の複素数だから Y の固有値全体を eit1 , eit2 , . . . , eitn とすることが できる. Y は正規行列だから, n 次ユニタリー行列 U で it e 1 eit2 −1 U YU = .. . 0 0 となるものが存在する. そこで, X= eitn it1 0 it2 .. 0 . itn とおけば exp X = U −1 Y U となるため, Y = U (exp X)U −1 = exp(U XU −1 ) = exp(U XU ∗ ) である. ここで, X ∈ SH(n) より U XU ∗ ∈ SH(n) となるため, exp : SH(n) → U (n) が全射であることが示された. さらに 34 |Y | = eit1 eit2 · · · eitn = ei(t1 +t2 +···+tn ) だから |Y | = 1 の場合は tn = −(t1 + t2 + · · · + tn−1 ) としてよい. このと き, tr X = 0 となるため X ∈ SH0 (n) である. 故に exp : SH0 (n) → SU (n) も全射である. □ ( ) ( ) ( ) 0 −1 i 0 0 i 2 次複素正方行列 I, J, K を I = ,J= ,K= により定める. 2 次単位行列 E2 を 1 0 0 −i i 0 E で表すことにすれば, I 2 = J 2 = K 2 = −E, IJ = −JI = K, JK = −KJ = I, KI = −IK = J が成り立つた め, 2 次複素正方行列を要素とする集合 H を H = {xE + yI + zJ + wK| x, y, z, w ∈ R} によって定めれば, H は行列の加法, 実数倍, 積について閉じている. また, X = xE + yI + zJ + wK ∈ H に対 √ して, X ∗ = xE − yI − zJ − wK であり, ∥X∥ = x2 + y 2 + z 2 + w2 とおけば, XX ∗ = X ∗ X = ∥X∥E だから, H の要素はすべて正規行列で, H の零行列以外の行列はすべて正則である . ( ) ( x + zi −y + wi u u = x + zi, v = y + wi ∈ C に対し, xE + yI + zJ + wK = = y + wi x − zi v {( H= u v −v̄ ū −v̄ ū ) だから H は ) } z, w ∈ C と表せるため, 2 次特殊ユニタリー群 {( SU (2) = u v −v̄ ū ) } u, v ∈ C, |u|2 + |v|2 = 1 は H の要素 X で ∥X∥ = 1 を満たす行列全体からなる集合である. 従って, 3 次元球面 S 3 は SU (2) と同一視す ˜ J, ˜ K̃ を ることができる. SU (2) の Lie 環は, SH0 (2) = {yI + zJ + wK| y, z, w ∈ R} であり, 3 次交代行列 I, 0 ˜ I = 0 0 0 0 1 0 0 ˜ −1 , J = 0 0 1 0 −1 0 0 0 , K̃ = 1 0 0 −1 0 0 0 0 0 0 { で定めれば, 3 次回転群 SO(3) の Lie 環は A(3) = } y I˜ + z J˜ + wK̃ y, z, w ∈ R で与えられる. 次の結果は容易に確かめられる. 補題 6.3 y, z, w(∈ R に対し ρ = (1) P = ある. √1 2ρ y−wi √ ρ−z √ − ρ − zi √ yz 2 ρ y2 2 −y −w (2) Q = ρ√y2 +w2 √ zw 2 2 +w2 ρ y +w y ρ y−wi √ ρ+z y 2)+ z 2 + w2 とおく. (y, w) ̸= (0, 0) のとき, 以下が成り立つ. √ ρ + zi √ −w 2 y z ρ w ρ √ +w2 0 √ y y 2 +w2 とおけば P は P −1 (yI + zJ + wK)P = ρJ を満たすユニタリー行列で ( ) とおけば Q は Q−1 y I˜ + z J˜ + wK̃ Q = ρJ˜ を満たす直交行列である. 補題 6.4 exp : SH0 (2) → SU (2) は exp(yI + zJ + wK) = cos ρE + exp : A(3) → SO(3) は以下で与えられる. y ( ) 1 − cos ρ ( exp y I˜ + z J˜ + wK̃ = cos ρE3 + z y ρ2 w 35 z sin ρ (yI + zJ + wK) で与えられる. また, ρ ) sin ρ ( ) y I˜ + z J˜ + wK̃ w + ρ ) ( ) ( eit 0 cos t + i sin t 0 証明 exp(tJ) = = = cos tE + sin tJ だから, (y, w) ̸= (0, 0) ならば 0 e−it 0 cos t − i sin t 補題 6.3 から P −1 (exp(yI + zJ + wK))P = exp(P ∗ (yI + zJ + wK)P ) = exp(ρJ) = cos ρE + sin ρJ である. 1 P JP −1 = (yI + zJ + wK) であることは容易に確かめられるため, ρ sin ρ exp(yI + zJ + wK) = P (cos ρE + sin ρJ)P −1 = cos ρE + sin ρP JP −1 = cos ρE + (yI + zJ + wK) ρ であり, exp(wK) = cos wE + sin wK であることは容易に示されるため, y = z = 0 の場合も主張が成り立つ. 1 0 0 cos t 0 sin t ( ) Ẽ = 0 0 0 とおけば exp tJ˜ = 0 1 0 = E3 + (cos t − 1)Ẽ + sin tJ˜ だから, (y, w) ̸= (0, 0) 0 0 1 − sin t 0 cos t ( ( )) ( ( ) ) ( ) ならば Q exp y I˜ + z J˜ + wK̃ Q = exp Q−1 y I˜ + z J˜ + wK̃ Q = exp ρJ˜ = E3 + (cos ρ − 1)Ẽ + sin ρJ˜ 2 z + w2 −yz −yw ( ) 1 ˜ −1 = 1 y I˜ + z J˜ + wK̃ であることは容易に確か である. QẼQ−1 = 2 −yz y 2 + w2 −zw , QJQ ρ ρ −yw −zw y2 + z2 められるため, ( ) ( ) ˜ −1 exp y I˜ + z J˜ + wK̃ = Q E3 + (cos ρ − 1)Ẽ + sin tJ˜ Q−1 = E3 + (cos ρ − 1)QẼQ−1 + sin ρ QJQ 2 z + w2 −yz −yw ( ) cos ρ − 1 sin ρ ˜ y I + z J˜ + wK̃ = E3 + y 2 + w2 −zw + −yz 2 ρ ρ −yw −zw y2 + z2 y ) sin ρ ( ) 1 − cos ρ ( ˜ + z J˜ + wK̃ = cos ρE3 + + y I z y z w ρ2 ρ w cos z 0 sin z ( ) であり, exp z J˜ = 0 □ 1 0 だから, y = w = 0 の場合も主張が成り立つ. − sin z 0 cos z −1 X = xE + yI + zJ + wK ∈ H に対し, 3 次正方行列 P (X) を 2 x + y 2 − z 2 − w2 2(yz − xw) 2 P (X) = 2(yz + xw) x − y 2 + z 2 − w2 2(yw − xz) 2(zw + xy) y ( = (x2 − y 2 − z 2 − w2 )E3 + 2 z y z w 2(yw + xz) 2(zw − xy) x2 − y 2 − z 2 + w2 ) w + 2x(yI + zJ + wK) で定める. このとき, 次のことが確かめられる. 命題 6.5 X, Y ∈ H に対し, P (X)tP (X) = tP (X)P (X) = ∥X∥4 E3 , det P (X) = ∥X∥6 , P (XY ) = P (X)P (Y ) が成り立つ. 従って ∥X∥ = 1 ならば P (X) ∈ SO(3) である. 命題 6.5 から, p : S 3 = SU (2) → SO(3) が p(X) = P (X) で定められて, p は Lie 群の準同型写像である. 補題 6.6 L(p) : SH0 (2) → A(3) を L(p)(yI + zJ + wK) = 2y I˜ + 2z J˜ + 2wK̃ で定めれば, L(p) は Lie 環の同型 写像であり, 次の図式は可換である. L(p) SH0 (2) −−−−→ A(3) exp exp y y p SU (2) −−−−→ SO(3) 36 ˜ J] ˜ = I˜J˜ − J˜I˜ = K̃, [J, ˜ K̃] = 証明 [I, J] = IJ − JI = 2K, [J, K] = JK − KJ = 2I, [K, I] = KI − IK = 2J, [I, ˜ [K̃, I] ˜ = K̃I − I˜K̃ = J˜ より L(p)([I, J]) = L(p)(2K) = 4K = [2I, ˜ 2J] ˜ = [L(p)(I), ˜ L(p)(J)], ˜ J˜K̃ − K̃ J˜ = I, ˜ 2K̃] = [L(p)(J), ˜ L(p)(K̃)], L(p)([K, I]) = L(p)(2J) = 4J = [2K̃, 2I] ˜ = L(p)([J, K]) = L(p)(2I) = 4I = [2J, ˜ となるため, L(p) は Lie 環の準同型写像である. 明らかに L(p) は br 上のベクトル空間の間の [L(p)(K̃), L(p)(I)] 同型写像だから, L(p) は Lie 環の同型写像である. √ y, z, w ∈ R に対し, ρ = y 2 + z 2 + w2 とおけば, 補題 6.4 から ) ( sin ρ (yI + zJ + wK) p(exp(yI + zJ + wK)) = p cos ρE + ρ 2y ) sin 2ρ ( ) 2 2 sin ρ ( ˜ + 2z J˜ + 2wK̃ + = cos 2ρE3 + 2y I 2y 2z 2w 2z 4ρ2 2ρ 2w ( ) = exp 2y I˜ + 2z J˜ + 2wK̃ = exp(L(p)(yI + zJ + wK)) となるため p◦ exp = exp ◦L(p) である. □ 定理 6.7 p は位数 2 の被覆写像である. y ( 2 2 2 2 証明 x, y, z, w ∈ R に対し, p(xE + yI + zJ + wK) は対称行列 (x − y − z − w )E3 + 2 z y w ( ) ˜ ˜ 交代行列 2x y I + z J + wK̃ の和だから, p(xE + yI + zJ + wK) = p(sE + tI + uJ + vK) ならば y ( 2 2 2 2 (x − y − z − w )E3 + 2 z y w t ( 2 2 2 2 w = (s − t − u − v )E3 + 2 u t u v ) z z ) w と ) v , ( ) ( ) 2x y I˜ + z J˜ + wK̃ = 2s tI˜ + uJ˜ + v K̃ su sv st ,z= ,w= だから, 1 つ目の等式に代入すれば x x x t ( ) (x2 − s2 )(x2 + t2 + u2 + v 2 )E3 = 2(x2 − s2 ) u t u v v が成り立つ. x ̸= 0 の場合, 2 つ目の等式から y = が得られる. x ̸= ±s ならば, この左辺の行列の階数は 3 であり, 右辺の行列の階数は 1 以下となって矛盾が生じる ため x = ±s である. x = s ならば y = t, z = u, w = v であり, x = −s ならば y = −t, z = −u, w = −v である. x = 0 の場合, s ̸= 0 ならば上の 2 つ目の等式から t = u = v = 0 となるため, 1 つ目の等式から y ( ) 2 2 2 2 (s + y + z + w )E3 = 2 z y z w w が得られるが, この左辺の行列の階数は 3 であり, 右辺の行列の階数は 1 以下となって矛盾が生じるため s = 0 で ある. このとき, 1 つ目の等式の両辺の成分を比較すれば y = ±t, z = ±u, w = ±v, yz = tu, yw = tv, zw = uv が得られるため, これらから「y = t, z = u, w = v 」または「y = −t, z = −u, w = −v 」であることがわかる. 以 上から p(xE + yI + zJ + wK) = p(sE + tI + uJ + vK) ならば xE + yI + zJ + wK = ±(sE + tI + uJ + vK) が成り立つ. 補題 6.5 の図式の可換性と, L(p), exp : A(3) → SO(3) が全射であることから p も全射で, 明らかに p(xE + yI + zJ + wK) = p(−xE − yI − yJ − yK) だから, SO(3) の各要素の p の逆像の要素の個数は 2 である. 37 exp : SH0 (2) → SU (2) は零行列の近傍から E の近傍への同相写像であり, exp : A(3) → SO(3) は零行列の近 傍から E3 の近傍への同相写像である. また, L(p) : SH0 (2) → A(3) はベクトル空間の同型写像だから, 補題 6.5 の図式の可換性により, p は E の近傍から E3 の近傍への同相写像である. p は Lie 群の準同型写像だから, 局所 □ 同相写像であり, 位数が 2 で有限であることから p は被覆写像である. √ θ θ かつ y 2 + z 2 + w2 = sin を満たす 0 ≦ θ ≦ 2π 2 2 をとる. x ̸= ±1 ならば P (X) は原点を通り, ye1 + ze2 + we3 を方向ベクトルとする直線を軸とし, このベクト ルの方向を向いて θ だけ時計回りに回転する 1 次変換を表す行列である. x = ±1 ならば P (X) は 3 次単位行列 である. 命題 6.8 X = xE + yI + zJ + wK ∈ S 3 に対し, x = cos 証明 定理 4.7 を用いても主張が示されるが, 定理 4.7 を用いなくても以下のように主張が示される. ũ, ṽ, w̃ ∈ R3 を −yw ũ = −zw , y2 + z2 z ṽ = −y , 0 y w̃ = z w で定めれば, ũ, ṽ, w̃ は互いに直交し, 次の等式が成り立つ. P (X)ũ = (x2 − y 2 − z 2 − w2 )ũ + 2x(y 2 + z 2 + w2 )ṽ P (X)ṽ = −2xũ + (x2 − y 2 − z 2 − w2 )ṽ P (X)w̃ = ∥X∥2 w̃ 従って, ∥X∥ = 1 かつ (y, z) ̸= (0, 0) の場合, u = 1 1 1 ũ, v = ṽ, w = w̃ とおけば [u, v, w] は R3 の正 ∥ũ∥ ∥ṽ∥ ∥w̃∥ 規直交基底であり, 次の等式が成り立つ. √ P (X)u = (2x2 − 1)u + 2x y 2 + z 2 + w2 v = cos θu + sin θv √ P (X)v = −2x y 2 + z 2 + w2 u + (2x2 − 1)v = − sin θu + cos θv P (X)w = w 0 故に, 正規直交基底 [u, v, w] に関する P (X) が定める R3 の 1 次変換の表現行列は sin θ cos θ 0 とな 0 0 1 るため, 主張が成り立つ. ∥X∥ = 1 かつ y = z = 0 ならば w2 = 1 − x2 だから, x2 − w2 = 2x2 − 1 = cos θ cos θ − sin θ 0 sin θ w≧0 であり, 2xw = となるため, w ≧ 0 ならば P (X) = sin θ cos θ 0, w ≦ 0 ならば − sin θ w ≦ 0 0 0 1 cos θ sin θ 0 P (X) = − sin θ cos θ 0 である. 従って, この場合も主張が成り立つことがわかる. □ 0 0 cos θ − sin θ 1 次の結果は容易に確かめられる. 命題 6.9 X = xE + yI + zJ + wK ∈ H に対し, λ = x2 − y 2 − z 2 − w2 + 2ix √ y 2 + z 2 + w2 とおくと, P (X) の固有値は ∥X∥2 , λ, λ̄ であり, (y, z) ̸= (0, 0) の場合, √ √ −yw + iz y 2 + z 2 + w2 −yw − iz y 2 + z 2 + w2 √ √ x = −zw − iy y 2 + z 2 + w2 , x̄ = −zw + iy y 2 + z 2 + w2 , y2 + z2 y2 + z2 とおけば x, x̄, y がそれぞれ固有値 λ, λ̄, ∥X∥2 に対する P (X) の固有ベクトルである. 38 y y = z w S 1 = {α ∈ C| |α| = 1} とみなせば, 定理 4.7 から q (: S 2 × S 1 → SO(3) を x = ye1 + ze2 + we3 ∈ S 2 , ) 1 t α = u + vi ∈ S に対し, q(x, α) = uE3 + (1 − u)x x + v y I˜ + z J˜ + wK̃ によって定めることができる. このと き, 任意の (x, α) ∈ S 2 × S 1 に対して q(−x, ᾱ) = q(x, α), q(x, 1) = E3 が成り立つ. 6.2 4 次直交行列 ˆ J, ˆ K̂, I, ˇ J, ˇ Ǩ ∈ A(4) を I, 0 −1 1 0 Iˆ = 0 0 0 0 0 1 Iˇ = 0 0 −1 0 0 0 0 1 0 0 , −1 0 0 0 0 0 0 , 1 0 0 −1 0 0 1 , 0 0 −1 0 0 0 0 0 Jˆ = 1 0 0 −1 0 0 0 0 Jˇ = 1 0 0 0 −1 0 0 0 1 0 0 −1 , 0 0 0 K̂ = 0 1 Ǩ = 0 0 0 0 0 −1 −1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 −1 0 , 1 0 0 −1 0 0 0 ˆ J, ˆ K̂, I, ˇ J, ˇ Ǩ は R 上のベクトル空間としての A(4) の基底であり, 次の関係式が成り立つ. で定めれば, I, Iˆ2 = Jˆ2 = K̂ 2 = Iˇ2 = Jˇ2 = Ǩ 2 = −E4 , ˆ K̂ Iˆ = −IˆK̂ = J, ˆ IˇJˇ = −JˇIˇ = Ǩ, JˇǨ = −Ǩ Jˇ = I, ˇ Ǩ Iˇ = −IˇǨ = J, ˇ IˆJˆ = −JˆIˆ = K̂, JˆK̂ = −K̂ Jˆ = I, ˆ IˆJˇ = JˇI, ˆ IˆǨ = IˇK̂, JˆIˇ = IˇJ, ˆ JˆJˇ = JˇJ, ˆ JˆǨ = Ǩ J, ˆ K̂ Iˇ = IˇK̂, K̂ Jˇ = JˇK̂, K̂ Ǩ = Ǩ K̂ IˆIˇ = IˇI, √ √ y, z, w, t, u, v ∈ R に対し ρ = y 2 + z 2 + w2 , λ = t2 + u2 + v 2 とおき, a, b, c, d ∈ C 4 を次のように定める. −(zv + wu)(yt + ρλ) + (zu − wv)(yλ + tρ)i (zu − wv)(yt + ρλ) − (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) + (zv + wu)(yλ + tρ)i a= (u2 + v 2 )(yz + wρi) + (z 2 + w2 )(tu + vλi) 2 2 2 2 (u + v )(yw − zρi) + (z + w )(−tv + uλi) −(zv + wu)(yt − ρλ) + (zu − wv)(yλ − tρ)i (zu − wv)(yt − ρλ) − (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) + (zv + wu)(yλ − tρ)i b= (u2 + v 2 )(yz − wρi) + (z 2 + w2 )(tu + vλi) 2 2 2 2 (u + v )(yw + zρi) + (z + w )(−tv + uλi) (zu − wv)(yt + ρλ) + (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) + (zv + wu)(yλ + tρ)i (zv + wu)(yt + ρλ) − (zu − wv)(yλ + tρ)i c= 2 2 2 2 (u + v )(yw − zρi) + (z + w )(tv − uλi) 2 2 2 2 −(u + v )(yz + wρi) + (z + w )(tu + vλi) (zu − wv)(yt − ρλ) + (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) + (zv + wu)(yλ − tρ)i (zv + wu)(yt − ρλ) − (zu − wv)(yλ − tρ)i d= 2 2 2 2 (u + v )(yw + zρi) + (z + w )(tv − uλi) 2 2 2 2 (u + v )(−yz + wρi) + (z + w )(tu + vλi) x ∈ C n に対して, x̄ によって x の複素共役ベクトルを表すことにする. 補題 6.10 (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) の場合, 以下が成り立つ. 39 (1) 次の等式が成り立ち, dim⟨a, c⟩ = dim⟨b, d⟩ = 1 である. ∥a∥2 = 4ρλ(z 2 + w2 )(u2 + v 2 )(ρλ + yt − zu + wv), ∥b∥2 = 4ρλ(z 2 + w2 )(u2 + v 2 )(ρλ − yt + zu − wv), ∥c∥2 = 4ρλ(z 2 + w2 )(u2 + v 2 )(ρλ + yt + zu − wv), ∥d∥2 = 4ρλ(z 2 + w2 )(u2 + v 2 )(ρλ − yt − zu + wv) (2) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ の固有値は ±ρi であり, tIˇ + uJˇ + v Ǩ の固有値は ±λi である. また, これらの行列の各固 有値に対する固有空間の次元はすべて 2 である. (3) ρi, −ρi に対する y Iˆ + z Jˆ + wK̂ の固有空間をそれぞれ V+ , V− とし, λi, −λi に対する tIˇ + uJˇ + v Ǩ の 固有空間をそれぞれ W+ , W− とすれば V+ ∩ W+ , V− ∩ W− , V− ∩ W+ , V+ ∩ W− は互いに直交する C 4 の 1 次 元部分空間であり, C 4 はこれらの部分空間の直和である. さらに, 次の等式が成り立つ. V+ ∩ W+ = ⟨a, c⟩, V− ∩ W− = ⟨ā, c̄⟩ , V− ∩ W+ = ⟨b, d⟩, ⟨ ⟩ V+ ∩ W− = b̄, d̄ 証明 (1) a, c を列ベクトルとする 4 × 2 行列と b, d を列ベクトルとする 4 × 2 行列の 2 次小行列式の値はすべて 0 であるため, a, c と b, d は, ともに 1 次従属である. 従って, dim⟨a, c⟩ ≦ 1 かつ d⟩(≦ 1)である(. 成分の ) ( ydim⟨b, ) t t 計算により, a, b, c, d の長さに関する等式は確かめられる. x, y, z ∈ R3 を x = z , y = −u , z = u で w v −v 定めれば, 主張の等式と仮定から a = c = 0 は ∥x∥∥y∥ = −(x, y) かつ ∥x∥∥z∥ = −(x, z) が成り立つことと同 値である. 一方, シュワルツの不等式から ∥x∥∥y∥ = |(x, y)| かつ ∥x∥∥z∥ = |(x, z)| ならば x = ky = lz となる 0 でない実数 k, l が存在し, さらに |(x, y)| = −(x, y) かつ |(x, z)| = −(x, z) ならば k, l < 0 である. このとき, ky = lz から −ku = lu と kv = −lv が得られるが, u と v の一方は 0 でないため, −k = l となって k, l < 0 で あることと矛盾が生じる. 故に a と c は同時に零ベクトルにはならない. b = d = 0 は ∥x∥∥y∥ = (x, y) かつ ∥x∥∥z∥ = (x, z) が成り立つことと同値であることから, b と d が同時に零ベクトルにならないことが同様に示さ れる. よって, dim⟨a, c⟩ ≧ 1 かつ dim⟨b, d⟩ ≧ 1 である. (2) y Iˆ + z Jˆ + wK̂, tIˇ + uJˇ + v Ǩ の固有多項式は, それぞれ (x2 + ρ2 )2 , (x2 + λ2 )2 であることと, y Iˆ + z Jˆ + wK̂, tIˇ + u( Jˇ + v Ǩ はともに実交代行列で対角化可能であることから ) ( , 主張が成り立つ ) . ( ) ( ) ˆ ˆ ˇ ˇ ˆ ˆ (3) y I + z J + wK̂ a = ρia, tI + uJ + v Ǩ a = λia, y I + z J + wK̂ c = ρic, tIˇ + uJˇ + v Ǩ c = λic, ( ) ( ) ( ) ( ) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ b = −ρib, tIˇ + uJˇ + v Ǩ b = λib, y Iˆ + z Jˆ + wK̂ d = −ρid, tIˇ + uJˇ + v Ǩ d = λid が 成り立つことが計算により確かめられる. このことと, y Iˆ + z Jˆ + wK̂, tIˇ + uJˇ + v Ǩ がともに実行列であるこ ⟨ ⟩ とから, 包含関係 V+ ∩ W+ ⊃ ⟨a, c⟩, V− ∩ W− ⊃ ⟨ā, c̄⟩, V− ∩ W+ ⊃ ⟨b, d⟩, V+ ∩ W− ⊃ b̄, d̄ が成り立つ. y Iˆ + z Jˆ + wK̂, tIˇ + uJˇ + v Ǩ はともに正規行列だから, V+ と V− および W+ と W− は互いに直交する. 従って, V+ ∩ W+ , V− ∩ W− , V− ∩ W+ , V+ ∩ W− は互いに直交するため, これらの部分空間の和は直和になる. 一方, 上の 包含関係と (1) の結果より, V+ ∩ W+ , V− ∩ W− , V− ∩ W+ , V+ ∩ W− の次元はすべて 1 以上であるが, これらの部 分空間の次元の和は 4 以下であるため, 主張が成り立つことがわかる. 40 □ 1 1 (x + x̄), 虚部 (x − x̄) をそれぞれ xr , xi で表せば, 次の等式が成り立つ. 2 2i −(zv + wu)(yt + ρλ) (zu − wv)(yλ + tρ) (zu − wv)(yt + ρλ) − (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) (zv + wu)(yλ + tρ) ai = = 2 2 2 2 2 2 2 2 yz(u + v ) + tu(z + w ) wρ(u + v ) + vλ(z + w ) yw(u2 + v 2 ) − tv(z 2 + w2 ) −zρ(u2 + v 2 ) + uλ(z 2 + w2 ) −(zv + wu)(yt − ρλ) (zu − wv)(yλ − tρ) (zu − wv)(yt − ρλ) − (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) (zv + wu)(yλ − tρ) bi = = 2 2 2 2 2 2 2 2 yz(u + v ) + tu(z + w ) −wρ(u + v ) + vλ(z + w ) yw(u2 + v 2 ) − tv(z 2 + w2 ) zρ(u2 + v 2 ) + uλ(z 2 + w2 ) (zv + wu)(yλ + tρ) (zu − wv)(yt + ρλ) + (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) −(zu − wv)(yλ + tρ) (zv + wu)(yt + ρλ) ci = = 2 2 2 2 2 2 2 2 yw(u + v ) + tv(z + w ) −zρ(u + v ) − uλ(z + w ) −wρ(u2 + v 2 ) + vλ(z 2 + w2 ) −yz(u2 + v 2 ) + tu(z 2 + w2 ) (zu − wv)(yt − ρλ) + (z 2 + w2 )(u2 + v 2 ) (zv + wu)(yλ − tρ) (zv + wu)(yt − ρλ) di = −(zu − wv)(yλ − tρ) = 2 2 2 2 2 2 2 2 yw(u + v ) + tv(z + w ) zρ(u + v ) − uλ(z + w ) 2 2 2 2 −yz(u + v ) + tu(z + w ) wρ(u2 + v 2 ) + vλ(z 2 + w2 ) x ∈ C n に対し, x の実部 ar br cr dr 補題 6.10 から, 次の結果が得られる. 補題 6.11 (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) の場合, 以下が成り立つ. (1) 次の等式が成り立つ. ( ) ( ) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ ar = −ρai y Iˆ + z Jˆ + wK̂ ai = ρar ( ) ( ) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ br = ρbi y Iˆ + z Jˆ + wK̂ bi = −ρbr ( ) ( ) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ cr = −ρci y Iˆ + z Jˆ + wK̂ ci = ρcr ( ) ( ) y Iˆ + z Jˆ + wK̂ dr = ρdi y Iˆ + z Jˆ + wK̂ di = −ρdr ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ ar = −λai ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ br = −λbi ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ cr = −λci ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ dr = −λdi ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ ai = λar ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ bi = λbr ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ ci = λcr ( ) tIˇ + uJˇ + v Ǩ di = λdr ∥x∥ (2) x = a, b, c, d に対し, ∥xr ∥ = ∥xi ∥ = √ である. また, x が a, c のいずれかのベクトル, y が b, d のい 2 ずれかのベクトルならば, xr , xi , y r , y i のうちの相異なる 2 つのベクトルの内積は 0 である. 上の補題から, 直ちに次の結果が導かれる. b a a ̸= 0 ,q= 命題 6.12 p, q ∈ C 4 を p = c a = 0 d (√ 2 U= p ∥p∥ r b ̸= 0 b=0 によって定める. (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) と仮定して, √ 2 p ∥p∥ i √ √ ) 2 2 q q ∥q∥ r ∥q∥ i ( ) ( ) ˇ U −1 tIˇ + uJˇ + v Ǩ U = −λIˆ を満 によって 4 次正方行列 U を定めれば, U は U −1 y Iˆ + z Jˆ + wK̂ U = −ρI, たす直交行列である. 次の結果は, 成分を計算することにより確かめられる. ( ) ( ) ˆ −1 = − 1 tIˇ + uJˇ + v Ǩ , U IU ˇ −1 = − 1 y Iˆ + z Jˆ + wK̂ である. 補題 6.13 (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) ならば U IU λ ρ 41 補題 6.14 (y, z, w), (t, u, v) ̸= (0, 0, 0) のとき, 次の等式が成り立つ. ) ( ) ( ) ) sin ρ ( ˆ sin λ ( ˇ exp y Iˆ + z Jˆ + wK̂ = cos ρE4 + y I + z Jˆ + wK̂ exp tIˇ + uJˇ + v Ǩ = cos λE4 + tI + uJˇ + v Ǩ ρ λ 証明 (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) ならば命題 6.12 から ( ( )) ( ( ) ) ( ) U −1 exp y Iˆ + z Jˆ + wK̂ U = exp U −1 y Iˆ + z Jˆ + wK̂ U = exp −ρIˇ = cos ρE4 − sin ρ Iˇ ( ) ( ( )) ( ( ) ) U −1 exp tIˇ + uJˇ + v Ǩ U = exp U −1 tIˇ + uJˇ + v Ǩ U = exp −λIˆ = cos λE4 − sin λ Iˆ だから, 補題 6.13 により ( ) ( ) ˇ −1 = cos ρE4 + sin ρ y Iˆ + z Jˆ + wK̂ exp y Iˆ + z Jˆ + wK̂ = cos ρE4 − sin ρ U IU ρ ( ) ( ) ˆ −1 = cos λE4 + sin λ tIˇ + uJˇ + v Ǩ exp tIˇ + uJˇ + v Ǩ = cos λE4 − sin λ U IU λ ( ) ( ) ˆ exp tIˇ = cos tE4 + sin tIˇ だから, (z, w) = (u, v) = (0, 0) の場合も主 が得られる. exp y Iˆ = cos yE4 + sin y I, □ 張の等式は成り立つ. X = xE + yI + zJ + wK ∈ H に対して, 4 次正方行列 Q(X), R(X) を Q(X) = xE4 + y Iˆ + z Jˆ + wK̂, R(X) = xE4 + y Iˇ + z Jˇ + wǨ によって定めれば, 次のことが確かめられる. 命題 6.15 X, Y ∈ H に対し, Q(X)tQ(X) = tQ(X)Q(X) = R(X)tR(X) = tR(X)R(X) = ∥X∥2 E4 , det Q(X) = det R(X) = ∥X∥4 , Q(XY ) = Q(X)Q(Y ), R(XY ) = R(X)R(Y ), Q(X)R(Y ) = R(Y )Q(X) が成り立つ. 従って ∥X∥ = 1 ならば Q(X), R(X) ∈ SO(4) である. 命題 6.15 から, q : S 3 × S 3 = SU (2) × SU (2) → SO(4) が q(X, Y ) = Q(X)R(Y ) で定められて, q は Lie 群の 準同型写像である. 指数写像 exp : SH0 (2) ⊕ SH0 (2) → SU (2) × SU (2) を exp(X, Y ) = (exp X, exp Y ) で定める. 補題 6.16 L(q) : SH0 (2) ⊕ SH0 (2) → A(4) を L(q)(yI + zJ + wK, tI + uJ + vK) = y Iˆ+ z Jˆ+ wK̂ + tIˇ+ uJˇ+ v Ǩ で定めれば, L(q) は Lie 環の同型写像であり, 次の図式は可換である. L(q) SH0 (2) ⊕ SH0 (2) −−−−→ A(4) exp exp y y q SU (2) × SU (2) −−−−→ SO(4) 証明 L(q) が Lie 環の準同型写像であることは, 関係式 IJ = −JI = K, JK = −KJ = I, KI = −IK = J, ˆ I, ˆ ˆ ˆ ˆ ˇˇ ˇˇ ˇ ˇ ˇ ˇ ˇ ˇ I[ˆJˆ =] −Jˆ[Iˆ =]K̂, [JˆK̂ = ] −K̂ [ J = ] [K̂ I ]= −[I K̂ =] J, [I J =] −J[I = Ǩ, ] J[Ǩ = ]−Ǩ J = I, Ǩ I = −I Ǩ = J, ˆ ˇ ˆ ˇ ˆ ˆ ˇ ˆ ˇ ˆ ˇ ˇ I, I = I, J = I, Ǩ = J, I = J, J = J, Ǩ = K̂, I = K̂, J = K̂, Ǩ = 0 から確かめられる. 明ら かに L(q) は br 上のベクトル空間の間の同型写像だから, L(q) は Lie 環の同型写像である. (X, Y ) = (yI + zJ + wK, tI + uJ + vK) ∈ SH0 (2) ⊕ SH0 (2) に対し, y Iˆ + z Jˆ + wK̂ と tIˇ + uJˇ + v Ǩ は可換 だから, 補題 6.14 と補題 6.4 により ( ) ( ) ( ) exp(L(q)(X, Y )) = exp y Iˆ + z Jˆ + wK̂ + tIˇ + uJˇ + v Ǩ = exp y Iˆ + z Jˆ + wK̂ exp tIˇ + uJˇ + v Ǩ ) ( ))( ) sin λ ( ˇ sin ρ ( ˆ ˆ ˇ y I + z J + wK̂ cos λE4 + tI + uJ + v Ǩ = cos ρE4 + ρ λ ( ) ( ) sin ρ sin λ = Q cos ρE + (yI + zJ + wK) R cos λE4 + (tI + uJ + vK) ρ λ ) ( sin λ sin ρ (yI + zJ + wK), cos λE + (tI + uJ + vK) = q cos ρE + ρ λ = q(exp(yI + zJ + wK), exp(tI + uJ + vK)) = q(exp(X, Y )) 42 □ となり, 与えられた図式は可換である, 定理 6.17 q : S 3 × S 3 → SO(4) は位数 2 の被覆写像である. 証明 (X, Y ) = (xE + yI + zJ + wK, sE + tI + uJ + vK) ∈ S 3 × S 3 に対し, ( )( ) q(X, Y ) = Q(X)R(Y ) = xE4 + y Iˆ + z Jˆ + wK̂ sE4 + tIˇ + uJˇ + v Ǩ = sxE4 + ty IˆIˇ + uy IˆJˇ + vy IˆǨ + tz JˆIˇ + uz JˆJˇ + vz JˆǨ + twK̂ Iˇ + uwK̂ Jˇ + vwK̂ Ǩ + sy Iˆ + sz Jˆ + swK̂ + txIˇ + uxJˇ + vxǨ ˇ IˆJ, ˇ IˆǨ, JˆI, ˇ JˆJ, ˇ JˆǨ, K̂ I, ˇ K̂ J, ˇ K̂ Ǩ, I, ˆ J, ˆ K̂, I, ˇ J, ˇ Ǩ は実数を成分にもつ 4 次正方行列全体からなる であり, E4 , IˆI, R 上のベクトル空間 M4 (R) の基底になるため, 上式から q(xE + yI + zJ + wK, sE + tI + uJ + vK) = q(kE + lI + mJ + nK, aE + bI + cJ + dK) であるためには, x y x= z , w s t y= u , v k l z= m , n a b w= c d とおけば xt y = z t w が成り立つことが必要十分である. 4 次正方行列 xt y, z t w で表される R4 の 1 次変換をそ れぞれ S, T とすれば, y, w ̸= 0 だから Im S = ⟨x⟩, Im T = ⟨z⟩ が成り立つため, xt y = z t w ならば ⟨x⟩ = ⟨z⟩ である. x, z はともに零ベクトルではないため z = αx となる α ̸= 0 がある. また, xt y = z t w ならば, この両辺 の転置行列を考えると y t x = wt z であり, 両辺の行列が表す R4 の 1 次変換の像が一致することから, 上と同様に w = βy となる β ̸= 0 があることがわかる. 従って xt y = z t w ならば xt y = αβxt y であり, xt y は零行列ではな いため αβ = 1 である. さらに xE +yI +zJ +wK, sE +tI +uJ +vK, kE +lI +mJ +nK, aE +bI +cJ +dK ∈ S 3 より ∥x∥ = ∥y∥ = ∥z∥ = ∥w∥ = 1 だから, z = αx, w = βy より α, β = ±1 となるため α = β = ±1 である. 以上から q(X, Y ) = q(Z, W ) ならば (X, Y ) = (±Z, ±W ) (複号同順) が成り立つ. 補題 6.16 の図式の可換性と, L(q), exp : A(4) → SO(4) が全射であることから q も全射で, 明らかに q(X, Y ) = q(−X, −Y ) だから, SO(4) の 各要素の q の逆像の要素の個数は 2 である. exp : SH0 (2) ⊕ SH0 (2) → SU (2) × SU (2) は (O, O) の近傍から (E, E) の近傍への同相写像であり, exp : A(4) → SO(4) は零行列の近傍から E4 の近傍への同相写像である. また, L(q) : SH0 (2) ⊕ SH0 (2) → A(4) はベ クトル空間の同型写像だから, 補題 6.16 の図式の可換性により, q は (E, E) の近傍から E4 の近傍への同相写像 である. q は Lie 群の準同型写像だから, 局所同相写像であり, 位数が 2 で有限であることから q は被覆写像であ □ る. (X, Y ) = (xE + yI + zJ + wK, sE + tI + uJ + vK) ∈ S 3 × S 3 に対し, p, q ∈ C 4 を命題 6.12 のように定めて, (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) の場合に R4 の部分空間 V , W を V = ⟨pr , pi ⟩, W = ⟨q r , q i ⟩ で定めれば, V = ⟨ar , ai , cr , ci ⟩, W = ⟨br , bi , dr , di ⟩ であり, V , W は交代行列 y Iˆ + z Jˆ + wK̂, tIˇ + uJˇ + v Ǩ から定まる R4 の 1 次変換の 2 次元 不変部分空間である. 従って, V , W は Q(X), R(Y ) から定まる R4 の 1 次変換の 2 次元不変部分空間であり, 補 題 6.11 の (1) から次の等式が成り立つ. Q(X)pr = xpr − ρpi R(Y )pr = spr − λpi Q(X)pi = xpi + ρpr R(Y )pi = spi + λpr Q(X)q r = xpr + ρq i R(Y )q r = spr − λq i Q(X)q i = xq i − ρq r R(Y )q i = spi + λq r 従って, (z, w), (u, v) ̸= (0, 0) のとき, x = cos φ, ρ = sin φ, s = cos ψ, λ = sin ψ を満たす φ, ψ ∈ (0, π) をとれば, 命題 6.12 の直交行列 U は Q(X), R(Y ) を次のように標準化する. 43 cos φ sin φ 0 0 − sin φ cos φ 0 0 U −1 Q(X)U = 0 0 cos φ − sin φ 0 0 sin φ cos φ 6.3 cos ψ − sin ψ U −1 R(Y )U = 0 0 sin ψ cos ψ 0 0 0 0 cos ψ − sin ψ 0 0 sin ψ cos ψ 成分がすべて有理数である 3 次直交行列 S n を n 次元球面 {(x0 , x1 , . . . , xn ) ∈ Rn+1 | x20 + x21 + · · · + x2n = 1} とし, S n 上の点 (−1, 0, . . . , 0) を P とする. P を通って, p = (s0 , s1 , . . . , sn ) (s0 ̸= 0) を方向ベクトルとする直線 ℓ と S n との交点を (x0 , x1 , . . . , xn ) とすれば, x0 = ts0 −1, xi = tsi (i = 1, 2, . . . , n) を満たす実数 t がある. x20 +x21 +· · ·+x2n = 1 より, t(s20 +s21 +· · ·+s2n ) = 2s0 . 0 となるため, 従って t = s2 +s22s +···+s2 0 1 n x0 = s20 − (s21 + · · · + s2n ) , s20 + s21 + · · · + s2n xi = s20 2s0 si + + · · · + s2n s21 (i = 1, 2, . . . , n). 整数列 (m0 , m1 , . . . , mn ) で, m0 > 0 かつ m0 , m1 , . . . , mn は互いに素であるもの全体の集合を Cn で表すこと にする. S n の有理点全体の集合を S n (Q) で表し, 写像 φ : Cn → S n (Q) を ( 2 ) s0 − (s21 + · · · + s2n ) 2s0 s1 2s0 si 2s0 sn φ(s0 , s1 , . . . , sn ) = , ,..., 2 ,..., 2 s20 + s21 + · · · + s2n s20 + s21 + · · · + s2n s0 + s21 + · · · + s2n s0 + s21 + · · · + s2n で定めれば, Cn の任意の 2 つのベクトルは 1 次独立だから, φ は単射である. (x0 , x1 , . . . , xn ) ∈ S n (Q) − {P} に対 し, (k(x0 +1), kx1 , . . . , kxn ) ∈ Cn を満たす k ∈ Q はただ 1 つ存在し, φ(k(x0 +1), kx1 , . . . , kxn ) = (x0 , x1 , . . . , xn ) となるため, φ は S n (Q) − {P} の上への全射である. とくに n = 3 の場合, ( φ(s0 , s1 , s2 , s3 ) = 2s0 s1 2s0 s2 2s0 s3 s20 − s21 − s22 − s23 , 2 , 2 , 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 s0 + s1 + s2 + s3 s0 + s1 + s2 + s3 s0 + s1 + s2 + s3 s0 + s21 + s22 + s23 ) であり, x= s20 − s21 − s22 − s23 , s20 + s21 + s22 + s23 y= s20 2s0 s1 , + s21 + s22 + s23 z= s20 2s0 s2 , + s21 + s22 + s23 w= s20 2s0 s3 + s21 + s22 + s23 とおけば (s20 − s21 − s22 − s23 )2 + 4s20 s21 − 4s20 s22 − 4s20 s23 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 2 2 2 (s − s1 − s2 − s23 )2 − 4s20 s21 + 4s20 s22 − 4s20 s23 x2 − y 2 + z 2 − w2 = 0 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 (s2 − s21 − s22 − s23 )2 − 4s20 s21 − 4s20 s22 + 4s20 s23 x2 − y 2 − z 2 + w2 = 0 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 x2 + y 2 − z 2 − w2 = 8s20 s1 s2 − 4s0 s3 (s20 − s21 − s22 − s23 ) (s20 + s21 + s22 + s23 )2 8s2 s2 s3 − 4s0 s1 (s20 − s21 − s22 − s23 ) 2(zw − xy) = 0 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 8s2 s1 s3 − 4s0 s2 (s20 − s21 − s22 − s23 ) 2(yw − xz) = 0 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 4s0 s2 (s20 − s21 − s22 − s23 ) + 8s20 s1 s3 (s20 + s21 + s22 + s23 )2 4s0 s3 (s20 − s21 − s22 − s23 ) + 8s20 s1 s2 2(xw + yz) = (s20 + s21 + s22 + s23 )2 4s0 s1 (s20 − s21 − s22 − s23 ) + 8s20 s2 s3 2(xy + zw) = (s20 + s21 + s22 + s23 )2 2(yz − xw) = 2(xz + yw) = 44 だから, (s0 , s1 , s2 , s3 ) ∈ C3 に対し, φ(s0 , s1 , s2 , s3 ) を第 4 節で定義した写像 p : S 3 → SO(3) で写すことによっ て 有理数を成分とする直交行列 (s2 −s2 −s2 −s2 )2 +4s2 s2 −4s2 s2 −4s2 s2 0 1 8s20 s1 s2 −4s0 s3 (s20 −s21 −s22 −s23 ) (s20 +s21 +s22 +s23 )2 (s20 −s21 −s22 −s23 )2 −4s20 s21 +4s20 s22 −4s20 s23 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 4s0 s1 (s20 −s21 −s22 −s23 )+8s20 s2 s3 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 2 3 0 1 0 2 0 3 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 2 2 2 2 2 4s0 s3 (s0 −s1 −s2 −s3 )+8s0 s1 s2 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 8s20 s1 s3 −4s0 s2 (s20 −s21 −s22 −s23 ) (s20 +s21 +s22 +s23 )2 4s0 s2 (s20 −s21 −s22 −s23 )+8s20 s1 s3 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 8s20 s2 s3 −4s0 s1 (s20 −s21 −s22 −s23 ) (s20 +s21 +s22 +s23 )2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 (s0 −s1 −s2 −s3 ) −4s0 s1 −4s0 s2 +4s0 s3 (s20 +s21 +s22 +s23 )2 が得られる. y y e 3 e R のベクトル z で, (y, z) ̸= (0, 0) を満たすもの全体からなる集合を U とする. y = z ∈ U に対して w w −yw P (y) = −zw y2 + z2 z −y 0 y z, w D(y) = √ 1 0 (y 2 +z 2 )(y 2 +z 2 +w2 ) √ 0 0 0 1 y 2 +z 2 0 √ 0 1 y 2 +z 2 +w2 とおく. このとき P (y) の列ベクトルは互いに直交し, j = 1, 2, 3 に対し, D(y) の (j, j) 成分は P (y) の第 j 列の長さの逆数だから P (y)D(y) は直交行列であり, det P (y) = (y 2 + z 2 )(y 2 + z 2 + w2 ) > 0, det D(y) = e → SO(3) を (y 2 + z 2 )−1 (y 2 + z 2 + w2 )−1 > 0 だから P (y)D(y) の行列式は 1 である. そこで写像 ρ : U ρ(y) = P (y)D(y) によって定めれば, ρ(y) は − √ 2 2 yw2 2 2 (y +z )(y +z +w ) zw − √ ρ(y) = (y 2 +z 2 )(y 2 +z 2 +w2 ) 2 2 √ 2 y2 +z2 2 2 (y +z )(y +z +w ) √ z y 2 +z 2 −√ y y 2 +z 2 0 √ y √ z y 2 +z 2 +w2 y 2 +z 2 +w2 √ w y 2 +z 2 +w2 で与えられる 3 次直交行列である . y e ここで, U のベクトル y = z で, y, z, w, ∥y∥ がすべて有理数で, y 2 + z 2 が有理数の平方数になっている w e の部分集合を U とする. y ∈ U e に対して ∥y∥ は有理数だから 1 y ∈ U ∩ S 3 である. 従っ もの全体からなる U ∥y∥ て, r が正の実数ならば ρ(ry) = ρ(y) が成り立つことに注意すれば, ρ(U ) = ρ(U ∩ S 3 ) が成り立つことがわかる. y ( )2 ( )2 z y y = z ∈ U ∩ S 3 に対し, y 2 + z 2 = p2 を満たす正の有理数 p をとると, + = 1 だから p p w 2 s − t2 z 2st y = 2 , = 2 を満たす互いに素な整数 s, t が存在する. さらに, p2 + z 2 = y 2 + z 2 + w2 = ∥y∥2 = 1 p s + t2 p s + t2 u2 − v 2 2uv であり p > 0 だから, p = 2 ,w= 2 を満たす互いに素な整数 u, v で |u| > |v| であるものが存在す u + v2 u + v2 る. このとき, (s2 − t2 )(u2 − v 2 ) 2st(u2 − v 2 ) 2uv y= 2 , z = , w= 2 2 2 2 2 2 2 2 (s + t )(u + v ) (s + t )(u + v ) u + v2 だから −√ −√ √ yw (y 2 + z 2 )(y 2 + z2 + w2 ) zw (y 2 + z 2 )(y 2 + z 2 + w2 ) y2 + z2 (y 2 + z 2 )(y 2 + z 2 + w2 ) =− 2uv(s2 − t2 ) , (s2 + t2 )(u2 + v 2 ) =− 4stuv , (s2 + t2 )(u2 + v 2 ) = u2 − v 2 u2 + v 2 45 z 2st √ = 2 2 2 s + t2 y +z y s2 − t2 −√ =− 2 s + t2 y2 + z2 である. 以上から ρ(U ) に属する任意の行列は互いに素な整数の対 (s, t), (u, v) で, |u| > |v| を満たすものに対し, 次の形で表される直交行列である. −t ) − (s22uv(s +t2 )(u2 +v 2 ) 2 2 4stuv − (s2 +t2 )(u2 +v2 ) − ss2 −t +t2 2 u2 −v 2 u2 +v 2 7 2st s2 +t2 2 0 (s2 −t2 )(u2 −v 2 ) (s2 +t2 )(u2 +v 2 ) 2st(u2 −v 2 ) (s2 +t2 )(u2 +v 2 ) 2uv u2 +v 2 2 次曲線・2 次曲面の分類 実数係数の x, y の 2 次の多項式 ax2 + bxy + cy 2 + px + qy + r の値が 0 になるような xy 平面上の点 (x, y) 全体の集合を 2 次曲線と呼び, 実数係数の x, y, z の 2 次の多項式 ax2 + by 2 + cz 2 + dxy + eyz + f xz + px + qy + rz + s の値が 0 になるような xyz 空間上の点 (x, y, z) 全体の集合を 2 次曲面と呼ぶ. 本節では, 対称行列の対角化の応用例として, 平行移動と回転移動の合成によって, 1 次式の積に因数分解しない 2 次の多項式で定義される 2 次曲線や 2 次曲面は「標準形」と呼ばれる 2 次の多項式で定義される曲線や曲面に写 されることを示し, 2 次曲線と 2 次曲面の分類を行う. まず, 行列を用いて 2 次の多項式を表す. x1 , x2 , . . . , xn を変数とする実数係数の 2 次の多項式は, 実数 aij (1 ≦ i ≦ j ≦ n), bi (i = 1, 2, . . . , n), c を用いて n ∑ aii x2i ∑ + i=1 2aij xi xj + n ∑ 2bi xi + c i=1 1≦i<j≦n という形に表されるが, 1 ≦ j < i ≦ n を満たす i, j に対して aij = aji によって aij を定め, aij を (i, j) 成分とす る n 次対称行列を A とし, 変数 xi を第 i 成分とする n 次元ベクトルを x とすれば, t xAx = n ∑ aii x2i + i=1 ∑ 2aij xi xj 1≦i<j≦n が成り立つことは容易に確かめられる. さらに bi を第 i 成分とする Rn のベクトルを b とすれば, t bx = n ∑ bi xi i=1 だから t xAx + 2t bx + c = n ∑ i=1 ∑ aii x2i + 2aij xi xj + 1≦i<j≦n n ∑ 2bi xi + c i=1 が成り立つ. n 次元数ベクトル v に対し, Rn のベクトル x を x + v に対応させる写像を τv : Rn → Rn で表す. 命題 7.1 A を n 次実対称行列, b を n 次元実数ベクトル, c を実数とする. n 次正則行列 P と n 次元数ベクトル v に対し, τv と P で表される 1 次変換 TP の合成 TP ◦ τv により, 方程式 t xAx + 2t bx + c = 0 (7.1) を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合は, 次の方程式を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写 される. t xtP −1 AP −1 x + 2t (tP −1 (b − Av))x + t vAv − 2t bv + c = 0 とくに P が直交行列ならば, tP −1 = P だから方程式 (7.2) は以下のようになる. t xP AP −1 x + 2t (P (b − Av))x + t vAv − 2t bv + c = 0 46 (7.2) 証明 y = (TP ◦ τv )(x) = P (x + b) とおけば x = P −1 y − v であり, t y tP −1 Av = t (t y tP −1 Av) = t vAP −1 y であ ることに注意すれば t xAx + 2t bx + c = t (P −1 y − v)A(P −1 y − v) + 2t b(P −1 y − v) + c = t y tP −1 AP −1 y − 2t vAP −1 y + t vAv + 2t bP −1 y − 2t bv + c = t y tP −1 AP −1 y + 2t (tP −1 (b − Av))y + t vAv − 2t bv + c だから t xAx + 2t bx + c = 0 が成り立つことと t y tP −1 AP −1 y + 2t (tP −1 (b − Av))y + t vAv − 2t bv + c = 0 が成 □ り立つことは同値である. 従って主張が成立する. 以下で上の命題の方程式 (7.2) ができるだけ「簡単な形」になるような P と v の選び方について考える. A を n 次実対称行列として, A の固有多項式 |xEn − A| は |xEn − A| = (x − α1 )(x − α2 ) · · · (x − αn ) と因数分解して, αr+1 = αr+2 = · · · = αn = 0 (r = rank A) であるとする. W = Ker TA とおけば, rank A < n ならば W は A の固有値 0 に対する固有空間であり, rank A = n ならば W は零ベクトルだけからなる Rn の部分空間である. A は実対称行列だから, A の相異なる固有値に対する固有空 間は互いに直交するため, W の直交補空間 W ⊥ は 0 以外の A の固有値に対する固有空間の直和に一致する. ま た, j = 1, 2, . . . , r ならば αj ̸= 0 だから, αj に対する A の固有空間は TA の像に含まれるため, W ⊥ ⊂ Im TA で あり, 次元公式と Rn = W ⊕ W ⊥ より rank A = dim Rn − dim W = dim W ⊥ だから W ⊥ = Im TA が成り立つ. W ⊥ の正規直交基底 w1 , w2 , . . . , wr を, j = 1, 2, . . . , r に対して wj は αj に対する A の固有ベクトルになる ( ) ように選ぶ. b ∈ Rn が rank A b = rankA を満たすときは, wr+1 , wr+2 , . . . , wn を W の正規直交基底になる ( ) ように選び, b が rank A b = rankA + 1 を満たすときは, b ̸∈ Im TA = W ⊥ だから, b′ を b の W への正射影と 1 すると, b′ ̸= 0 となるため, W の正規直交基底 wr+1 , wr+2 , . . . , wn を, wr+1 = − ′ b′ となるように選ぶ. ∥b ∥ wj を第 j 列とする行列を R とすれば, R は A を対角化する直交行列であり, R−1 AR は (i, i) 成分が αi である対 n n r ∑ ∑ ∑ 角行列である. βi を R−1 b の第 i 成分とすれば, b = βi Rei = βi wi である. このとき b は βi Rei ∈ W ⊥ と n ∑ i=1 i=1 i=1 βi Rei ∈ W の和であることに注意する. i=r+1 r ( ) ∑ (I) rank A b = rankA の場合:仮定から b ∈ Im TA = W ⊥ だから b = βi Rei である. さらに, ARei = αi Rei i=1 であり, i = 1, 2, . . . , r に対して αi ̸= 0 だから b= r ∑ βi ARei α i=1 i が成り立つ. そこで v= r ∑ βi Rei α i=1 i r β2 ∑ i となるため, 命題 7.1 により, τv と TR−1 i=1 αi n の合成写像によって方程式 (7.1) を満たす R のベクトル x 全体からなる集合は, 方程式 とおけば R−1 (b − Av) = 0 であり, t vAv − 2t bv + c = c − α1 x21 + α2 x22 + · · · + αr x2r = r ∑ β2 i i=1 を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写される. 47 αi −c n ( ) ∑ (II) rank A b = rankA+1 の場合:R の定義から ∥b′ ∥Rer+1 = −b′ = − βi Rei である. 故に βr+1 = −∥b′ ∥ i=r+1 かつ i > r + 1 に対して βi = 0 である. さらに, ARei = αi Rei であり, i = 1, 2, . . . , r に対して αi ̸= 0 だ から b= r ∑ βi ARei − ∥b′ ∥Rer+1 α i i=1 が成り立つ. そこで v= r ∑ βi Rei α i=1 i r β2 ∑ i となるため, 命題 7.1 により, τv i=1 αi n の合成写像によって方程式 (7.1) を満たす R のベクトル x 全体からなる集合は, 方程式 とおけば R−1 (b − Av) = ∥b′ ∥er+1 であり, t vAv − 2t bv + c = c − と TR−1 α1 x21 + α2 x22 + · · · + αr x2r − ∥b′ ∥xr+1 + c − r ∑ β2 i i=1 を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写される. この集合を 動すれば, 方程式 xr+1 = αi 1 ∥b′ ∥ =0 ) r β2 ∑ i − c er+1 だけ平行移 i=1 αi ( α2 2 αr α1 2 x + x + · · · + ′ x2r ∥b′ ∥ 1 ∥b′ ∥ 2 ∥b ∥ を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写される. 以上の考察をまとめて, 次の結果を得る. 定理 7.2 n 次実対称行列 A, b ∈ Rn , c ∈ R に対し, 方程式 t xAx + 2t bx + c = 0 · · · (∗) を考える. rank A = r とし, A の固有多項式は |xEn − A| = (x − α1 )(x − α2 ) · · · (x − αn ) と因数分解して αr+1 = αr+2 = · · · = αn = 0 であるとする. このとき直交行列 R で次の条件を満たすものが存 r β ∑ i 在する. ここで, βi を R−1 b の第 i 成分とし, v = Rei とおく. α i=1 i ( ) (I) rank A b = rankA の場合:直交行列 R を, 各 j = 1, 2, . . . , n に対し, 第 j 列が αj に対する固有ベクトル になるように選べば, x ∈ Rn を x + v に写す平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成によって, 方程 式 (∗) を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合は, 方程式 α1 x21 + α2 x22 + · · · + αr x2r = r ∑ β2 i i=1 αi −c を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写される. ( ) (II) rank A b = rankA + 1 の場合:0 に対する A の固有空間への b の正射影を b′ とする. 直交行列 R を, 1 各 j = 1, 2, . . . , n に対し, 第 j 列が αj に対する固有ベクトルになり, 第 r + 1 列には − ′ b′ を選べば, ∥b ( r 2 ∥ ) ∑ βi 1 − c er+1 に写 x ∈ Rn を x + v に写す平行移動, R−1 で表される 1 次変換と x ∈ R を x + ′ ∥b ∥ i=1 αi n す平行移動の合成によって, 方程式 (∗) を満たす R のベクトル x 全体からなる集合は, 方程式 xr+1 = α1 2 α2 2 αr 2 x ′ x1 + ′ x2 + · · · + ∥b ∥ ∥b ∥ ∥b′ ∥ r を満たす Rn のベクトル x 全体からなる集合に写される. 48 注意 7.3 rankA = n の場合, A は正則行列で, 上の定理の v は Av = b を満たすため, t bA−1 b である. 7.1 n β2 ∑ i = −t vAv + 2t bv = i=1 αi 2 次曲線の分類 A を零行列でない 2 次実対称行列, b を 2 次元実数ベクトル, c を実数とするとき, 方程式 t xAx + 2t bx + c = 0 (7.3) で表される 2 次曲線を C とする. tr A ≦ 0 ならば (7.6) の両辺を −1 倍することによって, tr A ≧ 0 であると仮定 しても一般性は失われない. 2 次直交行列 R を定理 7.2 のように選び, ( ) ( ) α1 0 β1 −1 −1 R AR = , R b= 0 α2 β2 とする. (I) rank A = 2 の場合:α1 , α2 のどれも 0 ではなく, R の列を入れ替えることによって α1 ≧ α2 と仮定してよい. β2 β2 d = 1 + 2 − c とおくと, 定理 7.2 により S は平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成によって, 方程式 α1 α2 α1 x2 + α2 y 2 = d (7.4) を満たす xy 平面の点 (x, y) 全体からなる 2 次曲線に写される. このとき, α1 + α2 = tr(R−1 AR) = tr A ≧ 0 だか ら, 以下の場合が考えられる. (I–1) α1 ≧ α2 > 0 (|A| > 0) の場合: √ √ d d (i) d > 0 ならば l = ,m= とおけば方程式 (7.4) は α1 α2 y2 x2 + 2 =1 2 l m となる. このとき, 曲面 C は楕円である. (ii) d = 0 ならば方程式 (7.4) を満たす x, y は x = y = 0 に限るため, C は 1 点からなる集合である. (iii) d < 0 ならば方程式 (7.4) を満たす実数 x, y は存在しないため C は空集合である. (I–2) α1 > 0 > α2 (|A| < 0) の場合: √ √ d d (i) d > 0 ならば l = ,m= とおけば方程式 (7.4) は α1 α2 y2 x2 − =1 l2 m2 となる. このとき, 曲線 C は双曲線である. (√ )(√ ) √ √ (ii) d = 0 ならば 方程式 (7.4) の左辺は α1 x − α2 y α1 x + α2 y と因数分解するため, 方程式 (7.4) は原点で交わる 2 つの直線を表す. 従って C は交わる 2 つの直線である. √ √ d d とおけば方程式 (7.7) は (iii) d < 0 ならば l = − , m = α1 α2 x2 y2 − 2 = −1 2 l m π となるが, この方程式で表される双曲線を, 原点を中心に だけ回転すれば, 上の (i) で与えた形の方程式で 2 表される双曲線になる. 49 (II) rank A = 1 の場合:rank R−1 AR = rank A = 1 かつ α1 + α2 = tr(R−1 AR) = tr A ≧ 0 だから R の列を入れ 替えることによって α1 > 0, α2 = 0 と仮定してよい. ( ) (II–1) rank A b = 2 の場合:定理 7.2 により C は平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成によって, 方程式 y = α1 x2 を満たす xy 平面の点 (x, y) 全体からなる 2 次曲線に写される. このとき, 曲面 C は放物線である. ( ) β2 (II–2) rank A b = 1 の場合:d = 1 − c とおくと, 定理 7.2 により C は平行移動と R−1 で表される 1 次変換 α1 の合成によって, 方程式 α1 x2 = d (7.5) を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写される. (√ √ )(√ √ ) (i) d > 0 ならば方程式 (7.5) は α1 x − d α1 x + d = 0 となるため, 方程式 (7.5) は平行な 2 つの 直線を表す. 従って C は平行な 2 つの直線である. (ii) d = 0 ならば方程式 (7.5) を満たす x は x = 0 に限るため, 方程式 (7.5) は y 軸を表す. 従って C は 1 つの平面である. (iii) d < 0 ならば方程式 (7.5) を満たす実数 x は存在しないため C は空集合である. 以上の考察をまとめて, 次の結果を得る. 定理 7.4 A を tr A ≧ 0 である対称行列, R を A を対角化する直交行列とする. 方程式 t xAx + 2t bx + c = 0 で 表される 2 次曲線 C は以下のように分類される. x2 y 2 + 2 =1 lt2 −1 m t −1 の形の方程式で表される楕円に写される. bA b = c ならば, C は 1 点からなる集合であり, bA b < c ならば, C は空集合である. |A| > 0 の場合:t bA−1 b > c ならば, 平行移動と原点を中心とする回転移動を行うことによって, C は |A| < 0 の場合:t bA−1 b ̸= c ならば, 平行移動と原点を中心とする回転移動を行うことによって, C は の形の方程式で表される双曲線に写され, t bA−1 b = c ならば, C は交わる 2 直線である. x2 y 2 − =1 l2 m2 ( ) |A| = 0 かつ rank A b = 2 の場合: 平行移動と原点を中心とする回転移動を行うことによって, C は 方程式 y = mx2 で表される放物線に写される. ( ) β2 |A| = 0 かつ rank A b = 1 の場合:α1 を A の正の固有値, β1 を R−1 b の x 成分とする. c < 1 ならば C α1 β12 β12 ならば C は 1 本の直線であり, c > ならば C は空集合である. は平行な 2 直線, c = α1 α1 定義 7.5 以下の 3 つの形の方程式を, 2 次曲線の方程式の標準形という. (1) 7.2 x2 y2 + 2 =1 2 l m (2) x2 y2 − 2 =1 2 l m (3) y = mx2 2 次曲面の分類 A を零行列でない 3 次実対称行列, b を 3 次元実数ベクトル, c を実数とするとき, 方程式 t xAx + 2t bx + c = 0 50 (7.6) で表される 2 次曲面を S とする. tr A ≦ 0 ならば (7.6) の両辺を −1 倍することによって, tr A ≧ 0 であると仮定 しても一般性は失われない. 3 次直交行列 R を定理 7.2 のように選び, α1 0 0 β1 R−1 AR = 0 α2 0 , R−1 b = β2 0 0 α3 β3 とする. (I) rank A = 3 の場合:α1 , α2 , α3 のどれも 0 ではなく, R の列を入れ替えることによって α1 ≧ α2 ≧ α3 と仮定 β2 β2 β2 してよい. d = 1 + 2 + 3 − c とおくと, 定理 7.2 により S は平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成に α1 α2 α3 よって, 方程式 α1 x2 + α2 y 2 + α3 z 2 = d (7.7) を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写される. このとき, α1 +α2 +α3 = tr(R−1 AR) = tr A ≧ 0 だから, 以下の場合が考えられる. (I–1) α1 ≧ α2 ≧ α3 > 0 の場合: √ √ √ d d d (i) d > 0 ならば l = ,m= ,n= とおけば方程式 (7.7) は α1 α2 α3 x2 y2 z2 + + =1 l2 m2 n2 となる. このとき, 曲面 S は楕円面と呼ばれる. (ii) d = 0 ならば方程式 (7.7) を満たす x, y, z は x = y = z = 0 に限るため, S は 1 点からなる集合である. (iii) d < 0 ならば方程式 (7.7) を満たす実数 x, y, z は存在しないため S は空集合である. (I–2) α1 ≧ α2 > 0 > α3 の場合: √ √ √ d d d (i) d > 0 ならば l = ,m= ,n= − とおけば方程式 (7.7) は α1 α2 α3 x2 y2 z2 + 2 − 2 =1 2 l m n となる. このとき, 曲面 S は一葉双曲面と呼ばれる. √ √ α3 α3 (ii) d = 0 ならば l = ,m= とおけば方程式 (7.7) は α1 α2 x2 y2 + = z2 l2 m2 となる. この方程式で表される曲面の xy 平面に平行な平面での切り口は楕円であり, z 軸を含む平面での切 り口は原点で交わる 2 本の直線であるため, 曲面 S は楕円錐面と呼ばれる. √ √ √ d d d とおけば方程式 (7.7) は (iii) d < 0 ならば l = − , m = − , n = α1 α2 α3 x2 y2 z2 + 2 − 2 = −1 2 l m n となる. このとき, 曲面 S は二葉双曲面と呼ばれる. (I–3) α1 > 0 > α2 ≧ α3 > 0 の場合: π だけ回転すれば α3 x2 + α2 y 2 + α1 z 2 = d で表さ 2 れる曲面に写される. この方程式の両辺に −1 をかければ (−α3 )x2 + (−α2 )y 2 + (−α1 )z 2 = −d となり, −α3 ≧ −α2 > 0 > −α1 だから, この場合の (7.7) で表される曲面の分類は (I–2) の場合に帰着される. この場合は (7.7) で表される曲面を, y 軸を軸にして 51 楕円面 一葉双曲面 楕円錐面 二葉双曲面 図 1: rank A = 3 の場合 (II) rank A = 2 の場合:rank R−1 AR = rank A = 2 だから R の列を入れ替えることによって α1 ≧ α2 , α3 = 0 ( ) と仮定してよい. 定理 7.2 により, S は平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成によって, rank A b = 3 なら ば, β3 Re3 が A の固有値 0 に対する固有空間への b の正射影だから, 方程式 z= α1 2 α2 2 x + y |β3 | |β3 | (7.8) ( ) β2 β2 を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写され, rank A b = 2 ならば, d = 1 + 2 − c とおく α1 α2 と, 方程式 α1 x2 + α2 y 2 = d (7.9) を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写される. このとき, α1 + α2 = tr(R−1 AR) = tr A ≧ 0 だから, 以下の場合が考えられる. (II–1) α1 ≧ α2 > 0 の場合: 52 ( ) (II–1.1) rank A b = 3 の場合:l = √ |β3 | ,m= α1 √ |β3 | とおけば方程式 (7.8) は α2 z= y2 x2 + l2 m2 となる. このとき, 曲面 S は楕円放物面と呼ばれる. ( ) (II–1.2) rank A b = 2 の場合: √ √ d d (i) d > 0 ならば l = ,m= とおけば方程式 (7.9) は α1 α2 x2 y2 + 2 =1 2 l m となる. このとき, 曲面 S は楕円柱面と呼ばれる. (ii) d = 0 ならば方程式 (7.9) を満たす x, y は x = y = 0 に限るため, 方程式 (7.9) は z 軸を表す. 従って S は直線である. (iii) d < 0 ならば方程式 (7.9) を満たす実数 x, y は存在しないため S は空集合である. (II–2) α1 > 0 > α2 の場合: ( ) (II–2.1) rank A b = 3 の場合:l = √ |β3 | ,m= α1 √ − |β3 | とおけば方程式 (7.8) は α2 z= x2 y2 − l2 m2 となる. このとき, 曲面 S は双曲放物面と呼ばれる. ( ) (II–2.2) rank A b = 2 の場合: √ √ d d (i) d > 0 ならば l = ,m= − とおけば方程式 (7.9) は α1 α2 y2 x2 − 2 =1 2 l m となる. このとき, 曲面 S は双曲柱面と呼ばれる. )(√ ) (√ √ √ α1 x − −α2 y α1 x + −α2 y と因数分解するため, 方程式 (ii) d = 0 ならば方程式 (7.9) の左辺は (7.9) は z 軸を交線とする 2 つの平面を表す. 従って S は交わる 2 つの平面である. √ √ d d (iii) d < 0 ならば l = − , m = とおけば方程式 (7.9) は α1 α2 y2 x2 + =1 l2 m2 π となるが, この方程式で表される曲面を, z 軸を軸にして だけ回転すれば, 上の (i) で与えた形の方程式で 2 表される双曲柱面になる. − (III) rank A = 1 の場合:rank R−1 AR = rank A = 1 だから R の列を入れ替えることによって α1 > 0, α2 = α3 = 0 と仮定してよい. ( ) (III–1) rank A b = 2 の場合:定理 7.2 により S は平行移動と R−1 で表される 1 次変換の合成によって, 方程式 y = α1 x2 を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写される. このとき, 曲面 S は放物柱面と呼ばれる. 53 楕円放物面 楕円柱面 双曲放物面 双曲柱面 図 2: rank A = 2 の場合 ( ) β2 (III–2) rank A b = 1 の場合:d = 1 − c とおくと, 定理 7.2 により S は平行移動と R−1 で表される 1 次変換 α1 の合成によって, 方程式 α1 x2 = d (7.10) を満たす xyz 空間の点 (x, y, z) 全体からなる 2 次曲面に写される. (√ √ )(√ √ ) (i) d > 0 ならば方程式 (7.10) は α1 x − d α1 x + d = 0 となるため, 方程式 (7.10) は yz 平面に 平行な 2 つの平面を表す. 従って S は平行な 2 つの平面である. (ii) d = 0 ならば方程式 (7.10) を満たす x は x = 0 に限るため, 方程式 (7.10) は yz 平面を表す. 従って S は 1 つの平面である. (iii) d < 0 ならば方程式 (7.10) を満たす実数 x は存在しないため S は空集合である. 定義 7.6 α1 , α2 , α3 , d を実数とするとき, 次の形の x, y, z の方程式を 2 次曲面の方程式の標準形という. ただ し, (2), (3) では α1 と α2 は 0 でないとする. (1) α1 x2 + α2 y 2 + α3 z 2 = d, 8 (2) z = α1 x2 + α2 y 2 , (3) y = α1 x2 2 次形式 n 次元列ベクトル x に対し, t x を x を n × 1 行列とみなしたときの転置行列とする. 54 放物柱面 図 3: rank A = 1 の場合 定義 8.1 A を実数を成分にもつ n 次対称行列とする. x ∈ Rn に対し t xAx を対応させる関数 QA : Rn → R を A を係数行列とする (実)2 次形式という. x ∈ Rn の第 j 成分を xj とし, A の (i, j)-成分を aij とすれば, aji = aij より QA (x) = t xAx = n ∑ i,j=1 aij xi xj = n ∑ i=1 ∑ aii x2i + 2aij xi xj · · · (∗) 1≦i<j≦n である. 従って QA は x1 , x2 , . . . , xn の「2 次関数」であるといえる. このとき, 以下の命題が明らかに成り立つ. 命題 8.2 r ∈ R, x ∈ Rn に対し, QA (rx) = r2 QA (x). 命題 8.3 A が零行列でないならば 2 次形式 QA : Rn → R に関して以下のいずれか 1 つだけが成り立つ. 1) x ̸= 0 ならば QA (x) > 0 である. 2) x ̸= 0 ならば QA (x) < 0 である. 3) すべての x ∈ Rn に対し, QA (x) ≧ 0 であり, QA (a) = 0 となる a ̸= 0 がある. 4) すべての x ∈ Rn に対し, QA (x) ≦ 0 であり, QA (a) = 0 となる a ̸= 0 がある. 5) QA (a) > 0 となる a ∈ Rn と QA (b) < 0 となる b ∈ Rn がある. 定義 8.4 実対称行列 A が上の命題の 1) を満たすとき, A を正値対称行列といい, 2) を満たすとき, A を負値対 称行列という. また, 5) を満たすとき A は不定符号であるという. 命題 8.5 A, B を n 次実対称行列とする. QA = QB : Rn → R (すなわち, すべての x ∈ Rn に対して QA (x) = QB (x)) ならば A = B である. 証明 A = (aij ), B = (bij ) とし, ej ∈ Rn の基本ベクトルとすれば, QA (ei ) = t ei Aei = aii , QA (ei + ej ) = t (ei + ej )A(ei + ej ) = t ei Aei + t ei Aej + t ej Aei + t ej Aej = aii + aij + aji + ajj = aii + 2aij + ajj であり, 同様に QB (ei ) = bii , QB (ei + ej ) = bii + 2bij + bjj を得る. 仮定からすべての 1 ≦ i, j ≦ n に対して QA (ei ) = QB (ei ) QA (ei + ej ) = QB (ei + ej ) だから aii = bii , aii + 2aij + ajj = bii + 2bij + bjj が成り立つ. これらの式から □ aij = bij が得られる. 55 命題 8.6 A を n 次対称行列, P を n 次正方行列とするとき, 任意の y ∈ Rn に対して QA (P y) = Qt P AP (y) が 成り立つ. □ 証明 QA (P y) = t (P y)A(P y) = t y(t P AP )y = Qt P AP (y). −1 Rij (1 ≦ i, j ≦ n) を n 次単位行列 En の第 i 行と第 j 行を入れ替えて得られる行列とすると Rij = t Rij = Rij であり, 次の結果は容易に示される. 補題 8.7 A を n 次正方行列とするとき, Rij A は A の第 i 行と第 j 行を入れ替えて得られる行列, ARij は A の第 i 列と第 j 列を入れ替えて得られる行列である. 従って Rij ARij の対角成分は A の対角成分の i 番目と j 番目を入れ替えたものである. 2 次形式 QA は「平方完成」できる. すなわち, 次の定理が成り立つ. 定理 8.8 A を n 次実対称行列とするとき, 正則行列 P で P −1 x の第 j 成分を yj とすれば, 2 2 − · · · − yp+q QA (x) = y12 + · · · + yp2 − yp+1 (0 ≦ p ≦ n, 0 ≦ q ≦ n − p) という形になるものが存在する. 証明 まず, 正則行列 T で T −1 x の第 j 成分を yj とすれば, QA (x) = c1 y12 + · · · + cn yn2 の形になるものがある ことを n による帰納法で示す. A = O ならば主張は明らかだから, A ̸= O と仮定する. A の (i, j)-成分を aij と する. まず n = 1 のときは主張は明らかであり, A が n − 1 次対称行列のときに主張が成り立つと仮定する. (1) akk ̸= 0 となる k がある場合; −1 u = Rkn x とおいて, u の第 j 成分を uj とすれば, (8.6) から QA (x) = QA (Rkn u) = Qt Rkn ARkn (u) である. t Rkn ARkn = Rkn ARkn = (bij ) とすれば, (8.7) から bnn = akk ̸= 0 であり, t Rkn ARkn は対称行列であることに 注意する. そこで bin = bni を用いて, 以下のように un に関して平方完成する. QA (x) = n ∑ Qt Rkn ARkn (u) = bij ui uj = i,j=1 = ( n−1 ∑ bij ui uj + bnn i,j=1 un + n−1 ∑ i=1 従って P1 = .. 0 0 1 ··· b1n bnn bn−1 n bnn )2 v の第 i 成分を vi とすれば P1 は正則行列であり, vi = ui (i < n), vn = un + −1 v = P1 Rkn x であり, (i) から QA (x) = = Qt Rkn ARkn (P1−1 v) = n−1 ∑ i,j=1 を得る. さらに bij − bin bjn bnn bin bnn ) n−1 ∑ i=1 QA (Rkn P1−1 v) 2bin ui un i=1 0 .. . (P1 の (n, i)-成分 (i = 1, 2, . . . , n − 1) は 0 1 . n−1 ∑ (n−1 )2 ∑ bin − bnn ui b i=1 nn )2 n−1 ∑ bin un + ui · · · (i) b i=1 nn bin ui bnn ( ( ) bin bjn = bij − ui uj + bnn bnn i,j=1 1 bij ui uj + bnn u2n + i,j=1 n−1 ∑ n−1 ∑ ( bin bjn bij − bnn とおき, v = P1 u とおいて bin bnn ui が成り立つ. このとき ) vi vj + bnn vn2 を (i, j)-成分にもつ n − 1 次対称行列を B として, C = ( B 0 0 bnn t ) · · · (ii) とおき, v ′ ∈ Rn−1 −1 を v から第 n 成分を除いたベクトルとすれば v = P1 Rkn x ならば (ii) から以下の等式が得られる. QA (x) = QC (v) = QB (v ′ ) + bnn vn2 56 · · · (iii) −1 ′ ′ B に帰納法の仮定を用いると, n − 1 次正則行列 T1 で v ′ ∈ Rn−1(に対し ) w = T1 v の第 i 成分を wi とすれば T 0 2 QB (v ′ ) = c1 w12 + · · · + cn−1 wn−1 いう形になるものがある. T2 = t 01 1 , とおくと T2 も正則である. w = T2−1 v とおいて, v ′ , w′ ∈ Rn−1 をそれぞれ v, vw から第 n 成分を除いたベクトルとすれば w′ = T1−1 v ′ , wn = vn と −1 2 (iii) から w = T2−1 P1 Rkn x ならば QA (x) = c1 w12 + · · · + cn−1 wn−1 + bnn wn2 である. ゆえに A が n 次対称行列 の場合も主張が成り立つ. (2) a11 = · · · = ann = 0 の場合; A ̸= O だから akl が 0 でないような k, l がある. xk = uk + ul , xl = uk − ul , xi = ui (i ̸= k, l), すなわち P3 を 第 i 行が i = k なら t ek + t el , i = l なら t ek − t el , i ̸= k, l なら t ei であるような n 次正則行列として u = P3−1 x とおけば, QA (x) = QA (P3 u) = 2akl u2k + · · · となり, u2k の係数は 0 でないため, Qt P3 AP3 (u) = QA (P3 u) は上の (1) の場合に帰着する. 正則行列 T で y = T −1 x の第 j 成分を yj とすれば, QA (x) = QA (T y) = c1 y12 + · · · + cn yn2 の形になるもの を選ぶ. y の成分の順序を入れ替えることにより, c1 , . . . , cp > 0, cp+1 , . . . , cp+q < 0, cp+q+1 = · · · = cn = 0 の形 にする. すなわち Rij の形をした行列の積で表される行列 R で z = R−1 y とおけば, 2 2 QA (x) = QA (T Rz) = c′1 z12 + · · · + c′p zp2 + c′p+1 zp+1 + · · · + c′p+q zp+q (c′1 , . . . , c′p > 0, c′p+1 , . . . , c′p+q < 0) となるものがある. 最後に, D を対角行列で i 番目の対角成分が 1 ≦ i ≦ p なら p + q + 1 ≦ i ≦ n なら 1 で与えられるものとして w = D −1 √1 ′ , ci p + 1 ≦ i ≦ p + q なら √1 ′ , −ci z とおけば 2 2 QA (x) = QA (T RDw) = w12 + · · · + wp2 − wp+1 − · · · − wp+q □ となる. n 次対角行列 Ep 0 −Eq 0 を D p,q で表すことにする. O 系 8.9 実数を成分にもつ n 次対称行列 A に対し, 正則行列 P で, t P AP = Dp,q という形になるものがある. 証明 2 次形式 QA に対し, 正則行列 P で (8.8) の条件を満たすものをとれば, (8.6) から任意の y ∈ Rn に対し, 2 2 − · · · − yp+q = QDp,q (y) が成り立つため (8.5) から t P AP = Dp,q Qt P AP (y) = QA (P y) = y12 + · · · + yp2 − yp+1 である. □ 命題 8.10 零でない実対称行列 A に対し, 正則行列 P で t P AP = Dp,q という形になるものをとる. (1) A が正値対称行列 ⇔ p = n かつ q = 0. (2) A が負値対称行列 ⇔ p = 0 かつ q = n. (3) A が (8.3) の 3) を満たす ⇔ p < n かつ q = 0. (4) A が (8.3) の 4) を満たす ⇔ p = 0 かつ q < n. (5) A が不定符号 ⇔ p > 0 かつ q > 0. 2 2 証明 任意の y ∈ Rn に対し, QA (P y) = y12 + · · · + yp2 − yp+1 − · · · − yp+q であり P は正則行列だから y が Rn 全体を動けば P y も Rn 全体を動く. 従って p = n かつ q = 0 ならば A は正値対称行列, p = 0 かつ q = n なら ば A は負値対称行列, p < n かつ q = 0 ならば A は (8.3) の 3) を満たし, p = 0 かつ q < n ならば A は (8.3) の 4) を満たし, p > 0 かつ q > 0 ならば A は不定符号である. 補題 8.11 A = (aij ) を m×n として M = √ ∑ □ a2ij とおくと, 任意の x ∈ Rn に対して ∥Ax∥ ≦ M ∥x∥ 1≦i≦m,1≦j≦n が成り立つ. 57 ( 証明 x の第 i 成分を xi とし, A の第 i 行を ai とすると, シュワルツの不等式から ( ∥t ai ∥2 ∥x∥2 = n ∑ j=1 ) a2ij ∥x∥2 . 従って ∥Ax∥2 = m ∑ ( i=1 n ∑ )2 aij xi ≦ j=1 m ∑ ( i=1 n ∑ j=1 ) a2ij n ∑ )2 aij xi = (t ai , x)2 ≦ j=1 ∥x∥2 = M 2 ∥x∥2 . □ 補題 8.12 A が正値対称行列ならば正の実数 µ で,「∥x∥ = 1 ならば QA (x) ≧ µ」を満たすものがある. また A が負値対称行列ならば負の実数 ν で,「∥x∥ = 1 ならば QA (x) ≦ ν 」を満たすものがある. 証明 A が正値対称行列ならば (8.9), (8.10) から正則行列 P で t P AP = En となるものがとれる. P = (pij ), ( )−1 n ∑ 1 µ = , y = P −1 x とおくと, ∥x∥ = 1 のとき (8.11) を用いると 1 = ∥P y∥ ≦ √ ∥y∥ だから p2ij µ i,j=1 QA (P y) = QEn (y) = ∥y∥2 ≧ µ. 後半も同様. □ 行列の積の交換可能性について 9 A ∈ Mn (K) に対して, Mn (K) の 1 次変換 LA を LA (X) = AX − XA で定める. また, n 次正則行列 P に 対して, Mn (K) の 1 次変換 IP を IP (X) = P −1 XP で定める. このとき, IP −1 は IP の逆写像であるため, IP は同型写像である. また, X ∈ Mn (K) に対し, LIP (A) (IP (X)) = (P −1 AP )(P −1 XP ) − (P −1 XP )(P −1 AP ) = P −1 (AX − XA)P = IP (LA (X)) だから, 次の命題が成り立つ. 命題 9.1 A ∈ Mn (K) と n 次正則行列 P に対し, LIP (A) ◦IP = IP ◦LA が成り立つ. 従って, dim Ker LA = dim Ker LIP (A) である. n 次正方行列 A はジョルダン細胞 Ji = ai Eni + εi Nni (i = 1, 2, . . . , k, n1 + n2 + · · · + nk = n, εi = 0, 1) を用 いて A= 0 J1 J2 .. 0 . Jk と表され, J1 , J2 , . . . , Jk の並び順が以下のようになっているとする. 相異なるスカラー α1 , α2 , . . . , αs に対し, {a1 , a2 , . . . , ak } = {α1 , α2 , . . . , αs } とし, 単調に増加する整数列 0 = i0 < i1 < · · · < is = k で αl = at (il−1 + 1 ≦ t ≦ il ) となるものがあるとする. このとき Jil−1 +1 Jil−1 +2 Al = .. . 0 0 Jil とおけば, εt = 0 となる il−1 + 1 ≦ t ≦ il は il のみで, il−1 + 1 ≦ t ≦ il − 1 ならば εt = 1 とする. Al の固有値は αl のみで, A1 A= ( ) 0 A2 .. 0 . As である. X = xij とし, ν1 = 0, νt = n1 + n2 + · · · + nt−1 (t = 2, 3, . . . , k) とおき, xνp +i νq +j (i = 1, 2, . . . , np , j = 1, 2, . . . , nq ) を (i, j) 成分とする np × nq 行列を Xpq とする. このとき, 58 J1 X11 − X11 J1 .. . AX − XA = Jp Xp1 − Xp1 J1 .. . Jk Xk1 − Xk1 J1 ··· ··· ··· J1 X1q − X1q Jq .. . Jp Xpq − Xpq Jq .. . Jk Xkq − Xkq Jq ··· ··· ··· J1 X1k − X1k Jk .. . Jp Xpk − Xpk Jk .. . Jk Xkk − Xkk Jk ap ̸= aq ならば Xpq = O, ap = aq , εp = εq = 0 ならば Xpq は任意, とおくとき n 次正方行列 X が AX = XA を満たせば, X は次のような形の行列であることを示せ. X1 X2 (ただし, Xi は ni 次正方行列) X= .. . 0 0 10 Xk スターリング数とベルヌーイ数 定義 10.1 自然数 n に対し, x の n 次多項式 x(x + 1)(x + 2) · · · (x + n − 1) の x の係数を k [ ] n k で表し, 第 1 種 スターリング数という. [ ] [ ] [ ] [ ] n n n n の定義から k > n ならば = 0 であり, = 0 および = 1 が成り立つことはただちにわかる. k k 0 n [ ] n 1 ≦ k < n のとき, は n − 1 個の整数 1, 2, . . . , n − 1 のうちから相異なる n − k 個の整数を選んで掛けあわせ k て得られる数全体の和だから, 0 以上の整数であり, 次の等式が成り立つ. [ ] n = (n − 1)! 1 [ ] n 1 = 1 + 2 + · · · + (n − 1) = n(n − 1) 2 n−1 [ ] n 1 1 n(n − 1)(n − 2)(3n − 1) = ((1 + 2 + · · · + (n − 1))2 − (12 + 22 + · · · + (n − 1)2 )) = 2 24 n−2 定義 10.2 x の n 次多項式 x(x − 1)(x − 2) · · · (x − n + 1) を (x)n で表すことにし, 実数 t を (t)n に対応させる 関数を階乗関数という. 実数を係数とする n 次以下の定数項が 0 である多項式全体からなる n 次元ベクトル空間を Pn0 (R) で表せば [x, x2 , . . . , xn ] と [(x)1 , (x)2 , . . . , (x)n ] はともに Pn0 (R) の基底であり, 前者の基底から後者の基底への変換行列を [ ] n Qn とおく. の定義から k [ ] n [ ] n ∑ ∑ n n k (x)n = (−1)n (−x)(−x + 1)(−x + 2) · · · (−x + n − 1) = (−1)n (−x)k = (−1)n−k x k k k=1 k=1 k n−k だから, (x)n の x の係数は (−1) [ ] n j−i [ ] n である. 従って, Qn の (i, j) 成分は (−1) であり, とくに Qn は k k 対角成分がすべて 1 である n 次上半三角行列であり, Qn の逆行列も対角成分がすべて 1 である上半三角行列で ある. 59 −1 0 2 n Qn の逆行列 Q−1 n の (i, j) 成分を sij とおけば, Qn は Pn (R) の基底 [(x)1 , (x)2 , . . . , (x)n ] から [x, x , . . . , x ] への基底の変換行列だから, 次の等式が成り立つ. xj = j ∑ sij (x)i (10.1) i=1 命題 10.3 2 以上の整数 i, j に対して以下の等式が成り立つ. [ ] [ ] [ ] j j−1 j−1 (1) = + (j − 1) (2) s1j = 1, sij = si−1 j−1 + isi j−1 i i−1 i [ ] j 証明 (1) の定義から i ) (j−1[ ∑ j − 1] xi (x + j − 1) xi = x(x + 1)(x + 2) · · · (x + j − 2)(x + j − 1) = i i i=1 ] [ ] ] ] [ j−1 j [ j−1 [ j−1 ∑ ∑ ∑ j−1 i j−1 i ∑ j−1 i j − 1 i+1 x x + (j − 1) x = x + (j − 1) = i i−1 i i i=1 i=2 i=1 i=1 ( ]) [ ] ] [ [ ] j−1 [ ∑ j−1 j j−1 j−1 j−1 x xi + x+ + (j − 1) = (j − 1) j−1 i 1 i−1 i=2 j [ ] ∑ j i=1 [ ] j [ ] j−1 [ ] j−1 = + (j − 1) が得られる. i i−1 i (2) 等式 (10.1) と x(x)i = (x − i + i)(x)i = (x)i+1 + i(x)i から (j−1 ) j−1 j j−1 ∑ ∑ ∑ ∑ j j−1 sij (x)i = x = x·x =x sij−1 (x)i = sij−1 x(x)i = sij−1 ((x)i+1 + i(x)i ) i だから x の係数を比較すれば i=1 i=1 = j−1 ∑ sij−1 (x)i+1 + i=1 = s1j−1 (x)1 + j−1 ∑ i=1 sij−1 i(x)i = i=1 j ∑ i=1 si−1j−1 (x)i + i=2 j−1 ∑ isij−1 (x)i i=1 j−1 ∑ (si−1j−1 + isij−1 )(x)i + sj−1j−1 (x)j i=2 だから, (x)i の係数を比較すれば s1j = s1j−1 (j ≧ 2), sij = si−1 j−1 + isi j−1 (i, j ≧ 2) が得られる. 前者の等式 から s1j = s1j−1 = s1j−2 = · · · = s11 = 1 である. 定義 10.4 自然数 n, k (k ≦ n) に対し, 相異なる n 個のものを k 個の空でないグループに分ける場合の数を □ { } n k { } n で表し, 第 2 種スターリング数という. より正確には, は, n 個の要素からなる集合 X の空でない k 個の部 k 分集合の集合 {X1 , X2 , . . . , Xk } で, 条件「i ̸= j ならば Xi ∩ Xj = ∅.」と「X = X1 ∪ X2 ∪ · · · ∪ Xk 」を満たす もの全体からなる集合の要素の個数である. { } { } n n 上の定義からただちに = = 1 であることがわかる. 1 n 命題 10.5 2 以上の整数 n, k (k ≦ n) に対して { } n k { = } n−1 k−1 +k { } n−1 k が成り立つ. 証明 集合 {1, 2, . . . , n} に対し, {1, 2, . . . , n} の空でない k 個の部分集合の集合 {X1 , X2 , . . . , Xk } で, 条件「i ̸= j ならば Xi ∩ Xj = ∅.」と「X = X1 ∪ X2 ∪ · · · ∪ Xk 」を満たすもの全体からなる集合を Ωn,k とおく. このとき { } n Ωn,k の要素の個数は であることに注意する. k 60 Ωn,k の部分集合 A, B を A = {M ∈ Ωn,k | {n} ∈ M }, B = {M ∈ Ωn,k | {n} ̸∈ M } で定めれば, Ωn,k = A ∪ B かつ A ∩ B = ∅ となるため, Ωn,k の要素の個数は A の要素の個数と B の要素の個数の和である. M ∈ A に対して M − {{n}} ∈ Ωn−1,k を対応させる写像を η : A → Ωn−1,k−1 とすれば, N ∈ Ωn−1,k−1 を { } n−1 N ∪ {{n}} ∈ A に対応させる写像は η の逆写像だから, η は全単射であり, A の要素の個数は である. k−1 さらに, i = 1, 2, . . . , k とし, M ∈ B を M = {X1 , X2 , . . . , Xk } (ただし min X1 < min X2 < · · · < min Xk ) と 表したとき, n ∈ Xi となる M 全体からなる B の部分集合を Bi で表し, 上のような M を {X1 , X2 , . . . , Xi−1 , Xi − {n}, Xi+1 , . . . , Xk } に対応させる写像を µi : Bi → Ωn−1,k で表す. N ∈ Ωn−1,k を N = {Y1 , Y2 , . . . , Yk } (ただし min Y1 < min Y2 < · · · < min Yk ) と表したとき, N を {Y1 , Y2 , . . . , Yi−1 , Yi ∪{n}, Yi+1 , . . . , Yk } に対応させる写像 { } n−1 は µi の逆写像だから, µi は全単射である. 従って, 各 Bi の要素の個数は であり, B = B1 ∪ B2 ∪ · · · ∪ Bk k { } n−1 かつ「i ̸= j ならば Bi ∩ Xj = ∅」だから B の要素の個数は k である. k { } { } { } n−1 n n−1 に一致する. □ +k 以上から Ωn,k の要素の個数 は k−1 k k { } n 定理 10.6 自然数 n, k (k ≦ n) に対し, skn = が成り立つ. k { } 1 証明 n による数学的帰納法で主張を示す. n = 1 の場合は s11 = 1 = だから, 主張は明らかに成り立つ. 1 { } m−1 n = m − 1 (m ≧ 2) のとき, sk m−1 = が k = 1, 2, . . . , m − 1 に対して成り立つと仮定する. k = 1 の場 k { } m 合は, 命題 10.3 の (2) の 1 つ目の等式から s1m = 1 = であり, 2 ≦ k ≦ m − 1 の場合は命題 10.3 の (2) の 1 { } { } { } m−1 m−1 m 2 つ目の等式と帰納法の仮定および命題 10.5 から, skm = sk−1 m−1 + ksk m−1 = +k = k−1 k k { } m が成り立つ. k = m の場合は smm = 1 = である. 故に n = m の場合も主張が成り立つ. □ m { } ( ) k n (−1)k ∑ i k 命題 10.7 第 2 種スターリング数は 2 項係数を用いて = (−1) in と表される. k! i=0 i k ( ) { } { } k n 1 (−1)k ∑ k n (−1)i i とおけば, xn,0 = 0 = (n ≧ 1), x1,1 = 1 = が成り立つことはただ k! i=0 i 0 1 ちにわかる. 2 以上の整数 n と正の整数 k に対し, xn,k が漸化式 xn,k = xn−1,k−1 + kxn−1,k を満たすことを示す. ( ) ( ) k−1 k (−1)k−1 ∑ k − 1 n−1 (−1)k ∑ k n−1 xn−1,k−1 + kxn−1,k = (−1)i i + (−1)i i (k − 1)! i=0 (k − 1)! i=0 i i ( ) (( ) ( )) k−1 k−1 (−1)k−1 ∑ k − 1 n−1 (−1)k ∑ k−1 k−1 k n−1 = (−1)i i + (−1)i + in−1 + (k − 1)! i=0 (k − 1)! i=0 (k − 1)! i i−1 i ( ) k−1 k − 1 n−1 k n−1 (−1)k ∑ i + = (−1)i (k − 1)! i=0 i−1 (k − 1)! ( ) k−1 (−1)k ∑ k k − 1 n kn i + = (−1)i k! i=0 i i−1 k! ( ) k (−1)k ∑ k n = (−1)i i = xn,k k! i=0 i 証明 xn,k = 61 一方, 命題 10.5 から { } n k であることが示される. 第 1 種スターリング数 = { } n−1 k−1 +k { } n−1 k が成り立つため, 定理 10.6 の証明と同様にして, xn,k = { } n k □ [ ] n k は以下のような意味をもつ. 命題 10.8 Sn を n 次対称群とし, 自然数 k に対して, Sn (k) を互いに共通の文字の無い k 個の巡回置換の積に表 [ ] n される Sn の要素全体からなる集合とすれば, Sn (k) の要素の個数は である. k 証明 Sn (k) の要素の個数を σn (k) で表し, 2 以上の整数 k, n (k ≦ n) に対し, σn (k) = σn−1 (k−1)+(n−1)σn−1 (k) が成り立つことを n による数学的帰納法で示す. S2 (1) は 1 と 2 の互換のみからなる集合で, S2 (2), S1 (1) は恒等写 像のみからなる集合だから, σ2 (2) = σ1 (1) = 1 であり, S1 (2) は空集合だから σ1 (2) = 0 である. 従って n = 2 の場 合は主張が成り立つ. n = m − 1 のとき, k = 2, 3, . . . , m − 1 に対して σm−1 (k) = σm−2 (k − 1) + (m − 2)σm−2 (k) が成り立つと仮定する. g ∈ Sm−1 (k − 1) に対し, i ∈ {1, 2, . . . , m − 1} を g(i) に対応させ, m を m に対応させる Sm の要素を ḡ で表せば, ḡ は Sm (k) の要素である. そこで写像 φ : Sm−1 (k − 1) → Sm (k) を φ(g) = ḡ で定義す れば, φ は単射であり, φ の像は Sm (k) の要素で, m を m 自身に写す Sm (k) の要素全体からなる集合である. 各 l = 1, 2, . . . , m − 1 と g ∈ Sm−1 (k) に対して, ḡl ∈ Sm を次のように定める. g を s 回合成した写像を g s で表すと き, l, g(l), g 2 (l), . . . , g r−1 (l) は相異なり, g r (l) = l (1 ≦ r ≦ m − 1) ならば ḡl (m) = l, ḡl (g r−1 (l)) = m, ḡl (i) = g(i) (i ̸= n, g r−1 (l)) とする. このとき, ḡl は Sm (k) の要素であり, φ の像には含まれない. 写像 ψl : Sm−1 (k) → Sm (k) を ψl (g) = ḡl で定義すれば, ψl は単射で, l ̸= l′ ならば ψl と ψl′ の像は共通部分をもたない. さらに, h ∈ Sm (k) に 対し, h(m) ̸= m ならば h は ψh(m) の像に含まれるため, Sm (k) は φ, ψ1 , ψ2 , . . . , ψm−1 の像の合併である. φ の像 は σm−1 (k − 1) 個の要素をもち, ψl の像は σm−1 (k) 個の要素をもつため, σm (k) = σm−1 (k − 1) + (m − 1)σm−1 (k) が成り立つことがわかる. [ ] [ ] n 1 が成り立つことを示す. n = 1 の場合は σn (1) = 1 = だか k 1 [ ] m−1 ら, 主張は明らかに成り立つ. n = m − 1 (m ≧ 2) のとき, k = 1, 2, . . . , m − 1 に対して σm−1 (k) = k が成り立つと仮定する. Sm (1) は Sm の位数 m の巡回置換全体からなる集合だから, その要素の個数 σm (1) は [ ] m (m − 1)! であり, これは に等しい. m, k ≧ 2 ならば命題 10.3 の (1) と帰納法の仮定および, 上で示したこと 1 [ ] [ ] [ ] m m−1 m−1 から = + (m − 1) = σm−1 (k − 1) + (m − 1)σm−1 (k) = σm (k) が得られる. □ k k−1 k 次に n による数学的帰納法で σn (k) = 命題 10.9 数列 (1)k , (2)k , (3)k , . . . , (n)k の和は階乗関数を用いて n ∑ m=1 (m)k = (n + 1)k+1 で表される. k+1 証明 階乗関数に関して等式 (x + 1)k+1 − (x)k+1 = (x + 1)x(x − 1) · · · (x − k + 1) − x(x − 1)(x − 2) · · · (x − k) = (k + 1)x(x − 1)(x − 2) · · · (x − k + 1) = (k + 1)(x)k が成り立ち, k ≧ 1 ならば (1)k+1 = 0 であることに注意すれば n ∑ (m)k = m=1 = n ∑ 1 ((m + 1)k+1 − (m)k+1 ) k+1 m=1 (n + 1)k+1 1 ((2)k+1 − (1)k+1 + (3)k+1 − (2)k+1 + · · · + (n + 1)k+1 − (n)k+1 ) = . k+1 k+1 □ 62 k k k k 命題 10.10 数列 1 , 2 , 3 , . . . , n の和は第 2 種スターリング数 ように表される. n ∑ mk = m=1 k ∑ i=1 { } k i (i = 1, 2, . . . , k) と階乗関数を用いて, 次の { } k 1 (n + 1)i+1 i+1 i 証明 等式 (10.1) と命題 10.9 および定理 10.6 より ) ({ } n { } n ∑ k { } k k ∑ ∑ ∑ k k k ∑ 1 (n + 1)i+1 . m = sik (m)i = (m)i = (m)i = i+1 i i i m=1 m=1 m=1 i=1 m=1 i=1 i=1 i=1 n ∑ n ∑ k ∑ k □ 命題 10.11 数列 1k , 2k , 3k , . . . , (n − 1)k の和は第 1 種スターリング数と第 2 種スターリング数を用いれば, n の 多項式として次のように表される. ] { } { }[ k k k i i−j+1 k ∑ ∑ ∑ i + 1 k (−1) i! (−1) nj + 1 nk+1 mk = n+ i+1 i i+1 k+1 i j m=1 i=1 j=2 i=j−1 n−1 ∑ 証明 (x)i+1 = i+1 ∑ [ (−1) i−j+1 j=1 n−1 ∑ m=1 ] [ ] i+1 ∑ i+1 j i−j+1 i + 1 x より (n)i+1 = (−1) nj だから, 命題 10.10 から j j j=1 [ ] { } { }∑ i+1 k ∑ i+1 j k k 1 1 (−1)i−j+1 n (n)i+1 = i+1 i i + 1 i j=1 j i=1 i=1 { }[ ] k+1 k i−j+1 k ∑ ∑ i + 1 (−1) nj = i + 1 i j j=1 i=max{1,j−1} { } { }[ ] k k k i−j+1 k ∑ ∑ ∑ i + 1 (−1)i i! k (−1) nj + 1 nk+1 . = n+ i+1 i i+1 k+1 i j i=1 j=2 i=j−1 mk = k ∑ □ Q10 , Q−1 10 は以下のような行列である. Q10 1 −1 0 0 0 0 = 0 0 0 0 0 1 0 2 −6 −3 11 1 −6 24 −120 −50 274 35 −225 0 0 0 0 0 0 1 0 0 −10 1 0 85 −15 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 720 −5040 40320 −362880 −1764 13068 −109584 1026576 1624 −13132 118124 −1172700 −735 6769 −67284 723680 175 −1960 22449 −269325 −21 322 −4536 63273 1 −28 546 −9450 0 1 −36 870 0 0 1 −45 0 0 0 1 63 Q−1 10 1 1 1 1 1 1 1 0 0 3 1 0 7 6 1 15 25 10 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 = 0 0 0 0 1 1 1 31 63 90 301 65 350 127 966 1701 255 3025 7770 1 0 15 1 140 21 1050 266 6951 2646 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 28 1 0 462 36 1 0 0 0 0 0 0 1 511 9330 34105 42525 22827 5880 750 45 1 Q−1 10 の各成分が上のように与えられることから, 次の公式が得られる. n ∑ m2 = 2 ∑ 1 si2 (n + 1)(i+1) = n(n + 1)(2n + 1) i + 1 6 i=1 m3 = 3 ∑ si3 1 (n + 1)(i+1) = n2 (n + 1)2 i + 1 4 i=1 m4 = 4 ∑ 1 si4 (n + 1)(i+1) = n(n + 1)(2n + 1)(3n2 + 3n − 1) i + 1 30 i=1 m5 = 5 ∑ 1 2 si5 (n + 1)(i+1) = n (n + 1)2 (2n2 + 2n − 1) i + 1 12 i=1 m6 = 6 ∑ si6 1 (n + 1)(i+1) = n(n + 1)(2n + 1)(3n4 + 6n3 − 3n + 1) i + 1 42 i=1 m7 = 7 ∑ 1 2 si7 (n + 1)(i+1) = n (n + 1)2 (3n4 + 6n3 − n2 − 4n + 2) i + 1 24 i=1 m8 = 8 ∑ si8 1 (n + 1)(i+1) = n(n + 1)(2n + 1)(5n6 + 15n5 + 5n4 − 15n3 − n2 + 9n − 3) i + 1 90 i=1 m9 = 9 ∑ 1 2 si9 (n + 1)(i+1) = n (n + 1)2 (n2 + n − 1)(2n4 + 4n3 − n2 − 3n + 3) i + 1 20 i=1 m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 n ∑ m=1 m10 = 10 ∑ si10 1 (n + 1)(i+1) = n(n + 1)(2n + 1)(n2 + n − 1)(3n6 + 9n5 + 2n4 − 11n3 + 3n2 + 10n − 5) i + 1 66 i=1 x で定義する. このとき γ は常に正の値をとることに注 exn− 1 ∞ x ∞ ∑ ∑ 1 ex − 1 xn 意する. ex の 0 におけるテイラー展開は ex = 1 + だから, x ̸= 0 ならば = = 1+ γ(x) x n=1 n! n=1 (n + 1)! ∞ ∑ xn であり, x に γ(x) の逆数を対応させる関数は 1 + と 0 においてテイラー展開される. 関数 δ : R → R n=1 (n + 1)! を δ(x) = ex − 2x − 1 で定めれば, δ ′ (x) = ex − 2 だから δ は (−∞, log 2] で単調に減少し, [log 2, ∞) で単調に増 ( ( ) ) 3 32 33 3 3 + −4 = > 0 だから α ∈ 1, 32 加する. また, δ(0) = 0, δ(1) = e − 3 < 0, δ 23 = e 2 − 4 > 1 + + 2 3 2 2!·2 3!·2 16 で, δ(α) = 0 を満たすものがただ 1 つ存在して, x ∈ (0, α) ならば δ(x) < 0, x ∈ (α, ∞) ならば δ(x) > 0 である. ex − 1 − x ex − 1 − x 故に x ∈ (0, α) ならば < 1 が成り立つ. また, x < 0 ならば < 1 がつねに成り立つため, x −x 関数 γ : R → R を γ(0) = 1, x ̸= 0 ならば γ(x) = 64 ∞ ∑ xn ex − 1 − x |x| < α ならば < 1 が成り立つ. 従って |x| < α ならば = |x| n=1 (n + 1)! (∞ )m ∞ ∑ ∑ xn 1 m γ(x) = =1+ (−1) ∞ ∑ (n + 1)! xn m=1 n=1 1+ (n+1)! n=1 が成り立つ. 一般に, 級数 ∞ ∑ an xn が絶対収束するとき, 等式 n=0 ( ∞ ∑ )m n an x ∑ m! ai00 ai11 ai22 · · · xi1 +2i2 +··· i !i !i ! · · · 0 1 2 i0 +i1 +i2 +···=m ∞ ∑ ∑ m! = am ai00 ai11 ai22 · · · xn 0 + i !i !i ! · · · 0 1 2 n=1 i +i +i +···+i =m = n=0 0 1 2 n i1 +2i2 +···+nin =n ( が成り立つため, ∞ ∑ n=1 n x (n + 1)! )m = ∞ ∑ n=1 ∑ i1 +i2 +···+in =m i1 !(2!) i1 +2i2 +···+nin =n m! xn が得られる. 従って γ の 0 に i 2 !(3!) 2 · · · i1 i おけるテイラー展開 γ(x) = 1 + ∞ ∑ m=1 (−1)m ∞ ∑ n=1 ) (−1)s=1 is ! ∞ ∑ ∑ m! n n s=1 x x = 1 + n ∏ i1 !(2!)i1 i2 !(3!)i2 · · · is n n=1 ∑ i !((s + 1)!) s si =n ∑ i1 +i2 +···+in =m i1 +2i2 +···+nin =n n ∑ s s=1 ( is n ∑ s=1 が得られ, この収束半径は α ≈ 1.256431209 である. 定義 10.12 γ の 0 におけるテイラー展開の xn の係数の n! 倍をベルヌーイ数と呼び, Bn で表す. 上の計算から B0 = 1, Bn = n! ∑ i1 +2i2 +···+nin (−1)i1 +i2 +···+in (i1 + i2 + · · · + in )! である. i !i ! · · · in !(2!)i1 (3!)i2 · · · ((n + 1)!)in =n 1 2 ( ) ∑ n+1 1 n−1 Bk を満たし, 正の整数 n に対し, B2n+1 = 0 が成り立つ. 命題 10.13 Bn は漸化式 Bn = − n + 1 k=0 k 証明 γ(x) = ∞ B ∞ ∑ ∑ 1 xn n n x と = の積が, つねに値が 1 である定数値関数であり, γ(x) n=0 (n + 1)! n=0 n! ( (∞ )( ∞ ) ) ∞ n−1 ∑ Bn ∑ xn ∑ Bn ∑ Bk n = B0 + xn x + n! (n + 1)! n! k!(n − k + 1)! n=0 n=0 n=1 k=0 ( ) n−1 ∑ ∑ Bk 1 n−1 n+1 だから, n ≧ 1 ならば Bn = −n! =− Bk が得られる. n + 1 k=0 k k=0 k!(n − k + 1)! x x x x ex + 1 x e 2 + e− 2 x x x x x + = · x = · x + は であり, x, tanh はともに奇関数だから, x x = x − x e −1 2 2 e −1 2 e2 − e 2 2 tanh 2 2 e −1 2 ∞ B ∑ 1 x x 1 n n + = B0 + x の右辺の x の奇数次の項の係数 偶関数である. 一方, B1 = − B0 = − だから, x 2 2 e −1 2 n=2 n! は 0 である. □ 1 1 + 3B1 1 1 + 5B1 + 10B2 + 10B3 1 上の命題から, B1 = − , B2 = − = , B3 = 0, B4 = − =− がわかる. 2 3 6 5 30 ( ) n−1 ∑ 2n B2i B2(n−i) が成り立つ. 命題 10.14 2 以上の整数 n に対して (2n + 1)B2n = − 2i i=1 65 ∞ B ∑ x x 2n 2n + = x が成り立つが, この左辺を Γ (x) とおけば, −1 2 n=0 (2n)! ∞ B ∑ x2 ex x2 2n 2n Γ (x) − xΓ ′ (x) = x = Γ (x)2 − が成り立つが, Γ (x) = x を代入すれば, 2 (e − 1) 4 n=0 (2n)! 証明 命題 10.13 の証明と結果から, 等式 ex ∞ ∞ ∞ ∑ ∑ B2n 2n ∑ B2n (2n − 1)B2n 2n x − x2n = 1 − x (2n)! (2n − 1)! (2n)! n=1 n=1 n=1 ( n ) (∞ )2 ∞ 2 2 ∑ ∑ B2i B2(n−i) ∑ B2n x x x2 Γ (x)2 − = x2n − = x2n − 4 (2n)! 4 (2i)!(2(n − i))! 4 n=0 n=0 i=0 Γ (x) − xΓ ′ (x) = 1 + より, x2n の係数を比較すれば n ≧ 2 の場合 − ( ) n−1 ∑ 2n (2n + 1)B2n = − B2i B2(n−i) を得る. 2i i=1 n ∑ B2i B2(n−i) (2n − 1)B2n = が得られる. この等式より, (2n)! i=0 (2i)!(2(n − i))! □ 命題 10.15 正の整数 n に対し, (−1)n−1 B2n > 0 である. 1 > 0 だから n = 1 のとき, 主張は成り立つ. m < n に対し 6 > 0 であると仮定すれば, 命題 10.15 から n−1 ∑ (2n) (2n + 1)(−1)n−1 B2n = ((−1)i−1 B2i )((−1)n−i−1 B2(n−i) ) > 0 2i i=1 証明 n による数学的帰納法で主張を示す. B2 = (−1)m−1 B2m □ だから (−1)n−1 B2n > 0 である. 命題 10.16 実数係数の多項式全体からなる R 上のベクトル空間を P (R) で表し, 写像 Φ : P (R) → P (R) を ∫ x+1 Φ(f (x)) = f (t)dt x で定義すれば, Φ は同型写像である. ( ) n 1 1 ∑ n + 1 n−i ((x + 1)n+1 − xn+1 ) = x だか n+1 n + 1 i=0 i + 1 ら, n 次以下の多項式全体からなる P (R) の部分空間を Pn (R) で表せば, Φ は Pn (R) を Pn (R) に写す. そこで, Φn : Pn (R) → Pn (R) を Φ の定義域を Pn (R) に制限して得られる写像とすれば, Pn (R) の基底 [1, x, . . . , xn ] に 関する Φn の表現行列は対角成分がすべて 1 である上半三角行列だから正則行列である. 従って Φn は同型写像 証明 積分の性質から Φ は 1 次写像であり, Φ(xn ) = である. f (x) ∈ Ker Φ ならば, f (x) ∈ Pn (R) となる n をとれば, Φn (f (x)) = Φ(f (x)) = 0 で, Φn は単射だから f (x) = 0 である. よって Φ も単射である. 任意の f (x) ∈ P (R) に対し, f (x) ∈ Pn (R) となる n をとれば, Φn は 全射だから g(x) ∈ Pn (R) で Φ(g(x)) = Φn (g(x)) = f (x) を満たすものが存在する. 故に Φ は全射でもあるため, □ Φ は同型写像である. 定義 10.17 Φ の逆写像 Φ−1 による xn の像をベルヌーイ多項式といい, Bn (x) で表す. tx 命題 10.18 x を定数と見なして実数 t を に対応させる関数の 0 におけるテイラー展開の tn の係数は ( γ(t)e ) n ∑ Bn (x) n i である. さらに Bn (x) = Bn−i x が成り立つ. n! i i=0 ∫ x+1 ∞ ∑ γ(t)(et − 1) γ(t)(et(x+1) − etx ) γ(t)etx (et − 1) xn n st tx 証明 = 1 だから γ(t)e ds = = =e = t である. t t t n! x n=0 ( ( (∞ )( ∞ ) ) ( ) ) ∞ n ∞ n ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ Bn n ∑ (tx)n Bn−i xi n n i tn 一方, γ(t)etx = t = t = Bn−i x が成り立つた n!) i n! n=0 i=0 (n − i)! i! n=0 i=0 n=0 n=0 n! ( n n ∞ ∑ ∑ n i t め, cn (x) = Bn−i x によって cn (x) ∈ Pn (R) を定めれば, γ(t)etx = cn (x) だから n! i n=0 i=0 (∫ ) ∫ ∫ x+1 ∞ ∞ ∞ x+1 ∑ x+1 ∑ ∑ Φ(cn (x)) tn tn cn (s) ds = γ(t)est ds = cn (s) ds = tn n! n! n! x x x n=0 n=0 66 n=0 n −1 n が得られる. この等式と, 最初に得た等式から ( ) Φ(cn (x)) = x が得られるため, cn (x) = Φ (x ) = Bn (x) が得ら n ∑ n i Bn−i x も得られる. □ れ, cn (x) の定義から Bn (x) = i i=0 命題 10.19 等式 Bn (x + 1) − Bn (x) = nxn−1 , d Bn (x) = nBn−1 (x) が成り立つ. dx 証明 ベルヌーイ多項式の定義から ∞ ∞ ∞ ∑ ∑ Bn (x + 1) − Bn (x) n xn n+1 ∑ xn−1 n tet(x+1) tetx t = γ(t)et(x+1) − γ(t)etx = t − t = tetx = t = t n! e −1 e −1 n! (n − 1)! n=0 n=0 n=1 が成り立ち, この両端の辺の tn の係数を比較すれば 1 つ目の等式が得られる. ) ( ∞ B (x) ∞ ∑ ∑ t2 etx tetx 1 d n n = t の両辺を x で微分すれば , B (x) = 1 だから = B (x) tn であり, こ 0 n et − 1 n=0 n! et − 1 n=1 n! dx ∞ B (x) ∞ B ∑ ∑ n n−1 (x) n の右辺は t tn = t に等しいため, tn の係数を比較すれば 2 つ目の等式が得られる. □ n! (n − 1)! n=0 n=1 定理 10.20 数列 1k , 2k , 3k , . . . , (n − 1)k の和はベルヌーイ数を用いれば, n の多項式として次のように表される. ( ) k+1 1 ∑ k+1 i m = Bk+1−i n k + 1 i=1 i m=1 n−1 ∑ k 証明 命題 10.19 の 1 つ目の等式において n を k + 1 で置き換え, x = 0, 1, 2, . . . , n − 1 を代入して辺々加えれば, (k + 1) n−1 ∑ m=1 mk = n−1 ∑ (Bk+1 (m + 1) − Bk+1 (m)) = Bk+1 (n) − Bk+1 (0) = m=0 k+1 ∑ i=1 ( Bk+1−i ) k+1 i n i □ が得られるため, 各辺を k + 1 で割れば結果が得られる. 命題 10.11 と定理 10.20 の ni の係数を比較すれば, 次の関係式が得られる. { } k (−1)i i! k ∑ と表される. また, i = 2, 3, . . . , k 定理 10.21 ベルヌーイ数は第 2 種スターリング数を用いて Bk = i i=1 i + 1 に対して次の関係式が成り立つ. ( ) { }[ ] k ∑ k+1 (−1)i−j+1 k j + 1 1 Bk+1−i = k+1 i j+1 j i j=i−1 上の定理と命題 10.7 から次の結果が得られる. ( ) (−1)j i n 定理 10.22 正の整数 n に対し, ベルヌーイ数は二項係数を用いて Bn = j と表される. j 1≦j≦i≦n i + 1 ∑ 67