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c 物理学 A (仲光)!2008 by Kuniaki Nakamitsu 1 1.1 微分積分の復習 微分 ・以下では t2 ,sin t, cos t のように.関数の変数に文字 t を用いる.記 号 f (t) は t を変数とするある関数を表す. ・ 時刻 t における物体の速度 v(t) を知るには,まず時刻 t における物 体の位置 x(t) を測定し,次に時刻 t + ∆t における物体の位置 x(t + ∆t) を測定し,位置の変化 x(t + ∆t) − x(t) を経過時間 ∆t で割ればよい.こ うして得られる物体の速度 v(t) = x(t + ∆t) − x(t) ∆t は,経過時間 ∆t を短くすればより正確な値となる(時間が ∆t 経過する 間に物体の速度が変化してしまうことがあるから).従って,正確な速度 v(t) というものを式で表現すれば x(t + ∆t) − x(t) ∆t→0 ∆t v(t) = lim となる.ここで記号 lim は ∆t を 0 に近付けることを表す.次に述べる ∆t→0 導関数の記号を用いれば,上式は v(t) = dx(t) dt と表せる. ・関数 f (t) の 導関数 df (t) を dt df (t) f (t + ∆t) − f (t) = lim ∆t→0 dt ∆t で定める. d t2 問.関数 t の導関数 を (1.1) を使ってを求めよ. dt 2 1 (1.1) 解.(1.1) で f (t) が t2 の場合である.f (t) = t2 なら f (t + ∆t) = (t + ∆t)2 である.従って (1.1) より d t2 = dt (t + ∆t)2 − t2 ∆t→0 ∆t 2 (t + 2t∆t + (∆t)2 ) − t2 = lim ((t + ∆t)2 を展開した) ∆t→0 ∆t 2t∆t + (∆t)2 = lim (分子を整理した) ∆t→0 ∆t = lim (2t + ∆t) (約分した) lim ∆t→0 = 2t. (∆t を 0 に近付けた) ・関数の導関数を求めることを,関数の 微分 を求める,関数を 微分する df (t) df (t) df などと言う. を簡単に f " (t) と書くこともある. ( は (t) と dt dt dt 書く方が好ましいが,ここではこのようなことにはこだわらないことに する, ) ・後で利用する微分公式は, dc = 0 (c が定数のとき), dt d tn = ntn−1 , dt d sin at = a cos at, dt d cos at = −a sin at, dt d eat = aeat , dt (1.2) (1.3) (1.4) (1.5) (1.6) および df (t) dg(t) d (f (t) + g(t)) = + , dt dt dt d (cf (t)) df (t) =c (c は定数), dt dt d (f (t)g(t)) d f (t) d g(t) = g(t) + f (t) . dt dt dt 2 (1.7) (1.8) (1.9) 注.(1.2) より定数の微分は 0 であるが,この逆も言える.つまり,微分 して 0 となる関数は定数である: df (t) = 0 ⇒ f (t) = 定数. dt 問.x = 3 cos 2t − 4t2 + 5t + 6 のとき,微分 (1.10) dx を求めよ. dt 解. dx d = (3 cos 2t − 4t2 + 5t + 6) dt dt d cos 2t d t2 dt d6 = 3 −4 +5 + ((1.7), (1.8) より) dt dt dt dt = 3 · (−2 sin 2t) − 4 · 2t + 5 · 1 + 0 ((1.5), (1.3), (1.2) より) = −6 sin 2t − 8t + 5. 問.x = t2 sin t のとき,微分 dx を求めよ. dt 解. dx d t2 sin t = dt dt d t2 d sin t = sin t + t2 ((1.9) より) dt dt = 2t sin t + t2 cos t. ((1.3), (1.4) より) x という変数を持つ関数 f (x) を変数 t で微分するとき,次の式が成り 立つ: df (x) df (x) dx = (1.11) dt dx dt 注.(1.11) は分数計算における規則 b b c = · a c a と同じ形である. 3 問.x = t2 + 1 のとき dx4 を求めよ. dt 解. dx4 dx4 dx = ((1.11) より) dt dx dt dx4 d(t2 + 1) = (x = t2 + 1 より) dx dt = 4x3 · 2t ((1.3), (1.2) より) = 4(t2 + 1)3 · 2t (x = t2 + 1 より) = 8t(t2 + 1)3 . d sin(t2 + 1) 問. を求めよ. dt 解.sin(t2 + 1) を sin x, x = t2 + 1 と2段階に分けて考えると d sin(t2 + 1) d sin x = (t2 + 1 = x より) dt dt d sin x dx = ((1.11) より) dx dt d sin x d(t2 + 1) = (x = t2 + 1 より) dx dt = cos x · 2t ((1.4), (1.3) より) = 2t cos(t2 + 1) (x = t2 + 1 より). ・記号 d2 f (t) は f (t) を2回微分したものを表す.つまり dt2 d2 f (t) d = 2 dt dt ! df (t) dt " 注.(1.12) の両辺を見比べるとわかるように, (1.12) d2 d d は の略. 2 dt dt dt 問. x = C1 cos at + C2 sin at (1.13) (C1 ,C2 は定数)と置くと,x は式 d2 x = −a2 x 2 dt 4 (1.14) を満たすことを示せ. 解.まず dx = −C1 a sin at + C2 a cos at ((1.5) と (1.4) より) dt (1.15) となる.これを更に微分すると ! " d2 x d dx = ((1.12) より) dt2 dt dt d = (−C1 a sin at + C2 a cos at) ((1.15) より) dt = −C1 a2 cos at − C2 a2 sin at ((1.4) と (1.5) より) = −a2 (C1 cos at + C2 sin at) = −a2 x ((1.13) より) となり (1.14) が成り立つことがわかる. 注.(1.14) を満たす x は (1.13) の形のもの以外には無い.つまり d2 x = −a2 x 2 dt 1.2 ⇒ x = C1 cos at + C2 sin at (C1 , C2 は定数) (1.16) 積分 ・t3 を微分すると 3t2 になるが,微分すると 3t2 になる関数は t3 だけ ではない.定数の微分は 0 であるから,t3 + C(C は定数)も微分すれば 3t2 となる.このように,微分すると 3t2 となる関数の 一般形 は t3 + C (C は任意の定数)である. ・関数 f (t) の 不定積分 # f (t)dt とは,微分すると関数 f (t) となるよう な関数の一般形のことである. 例.関数 3t2 の不定積分 # 3t2 dt とは,微分すると関数 3t2 となるよう な関数の一般形のことであるから, t3 + C (C は任意の定数)のことで # ある.つまり 3t2 dt = t3 + C (C は任意の定数). 5 問.不定積分 # sin 2tdt を求めよ. 解.微分すると sin 2t となる関数の一般形を求めればよい.これには (1.5) が利用できる. (1.5) で a = 2 ととると d cos 2t = −2 sin 2t dt 両辺に − 1 を掛けて, 2 $ % d 1 − cos 2t = sin 2t. dt 2 (1.17) 1 つまり,微分すると sin 2t となる関数のひとつは − cos 2t である.この 2 ことと定数の微分が 0 であることより,微分すると sin 2t となる関数の 1 一般形は − cos 2t + C (C は任意の定数).つまり 2 # 1 sin 2tdt = − cos 2t + C 2 (C は任意の定数). ・上の例や問の解答ように,不定積分を計算すると必ず # (C は任意の定数) f (t)dt = · · · + C (1.18) という形になる. (不定積分の「不定」とは,このように不定の定数 C が 付くことを言っている. )この任意定数 C は 積分定数 と呼ばれる. ・後に利用する不定積分の公式は, # # (c が定数のとき), cdt = ct + C tn+1 + C, n+1 # 1 sin atdt = − cos at + C, a # 1 cos atdt = sin at + C, a # 1 eat dt = eat + C, a tn dt = 6 (1.19) (1.20) (1.21) (1.22) (1.23) および # # (f (t) + g(t))dt = cf (t)dt = c # # f (t)dt + # g(t)dt, f (t)dt (c が定数のとき). (1.24) (1.25) 注.(1.19) で特に c = 0 ととると # 0dt = C. (1.26) # 問. (4 sin 2t − 3t2 + 2)dt を求めよ. 解.計算結果は (1.18) のように任意定数 C がひとつ付く形になることは 始めからわかっている.従って,計算中に上の不定積分の公式を何度か 使う場合,定数 C はいちいち書かずに略しておき,最後に C をひとつ 付ければよい.つまり次のように計算: # (4 sin 2t − 3t2 + 2)dt = 4 # sin 2tdt − 3 # 2 t dt + # 2dt ((1.24), (1.25) より) 1 1 = 4(− cos 2t) − 3( t3 ) + 2t + C 2 3 = −2 cos 2t − t3 + 2t + C . ! (1.21), (1.20), (1.19) を C を略し て使い,最後にひとつ C を付けた 問.(1.2)-(1.6) を利用して,(1.19)-(1.23) の右辺の関数の微分が左辺の積 分の中に書かれた関数となることを確かめよ. ・記号 # b a f (t)dt は,不定積分 # f (t)dt(の任意定数 C を略したもの) の t = b における値から t = a における値を引いたものを表す. # # 1 t2 dt = t3 + C の C を略したもの(つまり 3 1 1 3 t )の t = 2 における値から t = 1 における値を引いたものを表す.つ 3 まり & ' # 2 1 2 1 1 7 t2 dt = t3 = 23 − 13 = . 3 1 3 3 3 1 例. 2 t2 dt は,不定積分 7 " ここで記号 [· · ·]ba は括弧内の量 · · · の t = b における値から t = a におけ る値を引くという操作を表す. # ・ b a f (t)dt を,区間 [a, b] 上での f (t) の 定積分 と呼ぶ.上の記号 [ ]ba を用いると # b a f (t)dt = [F (t)]ba (1.27) と表せる.ここで F (t) は f (t) の不定積分の任意定数 C を略したものを 表す. df (t) df (t) ・ の不定積分とは,微分すると になる関数のことだから f (t)+ dt dt C .従って,(1.27) より # この b a df (t) dt = [f (t)]ba = f (b) − f (a). dt # df (t) dt = f (b) − f (a) dt a という結果は,微分積分学の基本定理 と呼ばれる. 注.定積分 # b a b (1.28) f (t)dt の値は,関数 f (t) のグラフと t 軸(横軸)の間に 挟まれた領域の t = a から t = b までの部分の面積を表している(グラ フが t 軸より下にあるときは面積にはマイナス符号が付く). 2 力学の基本単位 ・力学における基本的な単位は,長さの単位,質量の単位,時間の単 位. ・これらの単位によく用いられるのは m(メートル),kg(キログラム),s(セコンド = 秒), あるいは 8 cm(センチメートル),g(グラム),s (セコンド). ・力学で使用される他の単位は,長さ,質量,時間の単位を組み合わせ て表せる. 注.kg や g は重さの単位ではなく質量の単位である.重さは力の単位 (後述)を用いて表される. ・単位のついた量の加減乗除を行うとき,単位を付けたまま計算をすれ ば,計算の結果得られた量の単位がわかる. 問.100 m を 10 s(s = 秒)で走る人の平均速度 V(= 移動した距離 ) 移動にかか っ た時間 を求めよ. 解. V = 100 m 100 m m = = 10 . 10 s 10 s s ・関数の変数 t や値 f (t) が単位を持つ量であるとき,次の事が成り立つ: df (t) f (t) の単位 の単位 = . dt t の単位 (2.1) 例.時刻 t (s) における物体の位置を f (t) (m) で表すとき, df (t) f (t) の単位 m の単位 = = . dt t の単位 s 注.(2.1) は導関数の定義式 (1.1) から導かれる.実際, (1.1) の左辺 df (t) f (t + ∆t) − f (t) の単位 = (1.1) の右辺の分数 の単位 dt ∆t f (t) の単位 f (t) と同種の量 の単位 = . = t と同種の量 t の単位 9 3 3.1 直線上を運動する物体 位置 → 速度 → 加速度 ・ここでは物体が直線上を運動している場合を扱う.この直線を x 軸 と見なす.時間や時刻は t で表す.(t は time の頭文字. )直線上を運動 する物体の例として,真下に落下して行く物体や,ばねの力を受けて左 右に振動する物体などがある. ・物体の位置をその座標 x で表す.一般に物体の位置 x は時間 t と共に 変化する.つまり物体の位置 x は時間 t の関数である.例えば x = t2 は 時刻 t における物体の座標 x が t2 という値であることを意味する. ! 物体 x ! x軸 ・物体の 速度 v とは,物体の位置 x を時間 t で微分したもの.つまり v= dx dt (3.1) (v は velocity(速度)の頭文字. ) ・物体の 加速度 a とは,物体の速度 v を時間 t で微分したもの.つまり a= dv dt (3.2) (a は acceleration(加速度)の頭文字. ) 問.物体の位置 x が時間 t を用いて x = t3 と表されるとき,物体の速度 v と加速度 a を求めよ. 解. v = dx dt ((3.1) より) 10 d t3 dt = 3t2 , = (x = t3 より) dv ((3.2) より) dt d 3t2 = (上で求めた v = 3t2 より) dt = 6t. a = ・物体の位置 x の微分は速度,速度の微分は加速度だから,加速度は位 置 x を2回微分したものである. つまり加速度 a は d2 x a= 2 dt (3.3) とも表せる. 問.物体の位置 x が時間 t を用いて x = cos t と表されるとき,物体の 加速度 a を求めよ. 解. d2 x ((3.3) より) dt2! " d dx = ((1.12) より) dt dt ! " d d cos t = (x = cos t より) dt dt d = (− sin t) = − cos t. dt a = 11 3.2 速度と加速度の単位 ・物体の位置は,例えば「座標原点からマイナス 3 cm の位置」などと いうように,長さの単位を用いて表せる.つまり 位置の単位 = 長さの単位 (3.4) ・速度 v や加速度 a の単位を知るには,(2.1) を使えばよい.いま dx dx の単位 ((3.1) より v = だから) dt dt x の単位 = ((2.1) より) t の単位 v の単位 = ここで位置 x は長さの単位,t は時間の単位を持つから,上の結果は次 のように表現できる: 速度の単位 = 長さの単位 時間の単位 (3.5) 加速度 a についても同様に dv dv の単位 ((3.2) より a = だから) dt dt v の単位 = ((2.1) より). t の単位 a の単位 = つまり 加速度の単位 = 速度の単位 . 時間の単位 この右辺の分子を (3.5) を使って書き直すと 加速度の単位 = 長さの単位 2 (時間の単位) (3.6) 注.簡単に言えば,位置 → 速度 → 加速度の各ステップごとに単位が 1 1 倍される(つまり時間 t で微分をするごとに単位が 時間の単位 時間の単位 12 倍される). 問.物体の時刻 t (s)(s = 秒) における位置が x = sin 2t (cm) で表され るとき,物体の速度 v と加速度 a を求めよ. 解.速度 v と加速度 a を計算すると v = = = a = = = dx ((3.1) より) dt d sin 2t dt 2 cos 2t, dv ((3.2) より) dt d 2 cos 2t (上で求めた v = 2 cos 2t より) dt −4 sin 2t. また,この問では時刻 の単位に s,長さの単位には cm を使っているから 長さの単位 ((3.5) より) 時間の単位 cm = , s 長さの単位 加速度 a の単位 = ((3.6) より) 2 (時間の単位) cm = . s2 速度 v の単位 = 従って求める速度は v = 2 cos 2t (cm/s),加速度は a = −4 sin 2t (cm/s2 ). 3.3 加速度 → 速度 → 位置 ・直線上(x 軸)を運動する物体を考える.物体の位置の微分は物体の 速度,物体の速度の微分は物体の加速度であることは既に述べた.ここ では逆に,加速度から速度,速度から位置を求めることを考える. ・物体の加速度 a を積分すると,物体の速度 v が得られる. つまり, v= # 13 adt (3.7) 注.右辺は不定積分であるから,この式を利用して求めた速度 v には任 意定数 C が付く((1.18) 参照).この定数 C の値は,ある時刻(例えば 最初の時刻)における物体の速度がわかれば定まる(後の問参照). ・物体の速度 v を積分すると,物体の位置 x が得られる. つまり, x= # vdt (3.8) 注.右辺は不定積分であるから,この式を利用して求めた位置 x には任 意定数 C が付く.この任意定数の値は,ある時刻における物体の位置が わかれば定まる(後の問参照). 注. 「積分」の項の最初に述べたように, # f (t)dt は,微分すると中に書 かれた関数 f (t) になる関数を表す.従って,(3.7) は (3.2) の,(3.8) は (3.1) の言い換えに過ぎない. 問.物体の加速度 a が a = cos 2t で表されるとき,物体の速度 v はどの ように表されるか.ただし t = 0 のときの物体の速度を v0 とする. 解.物体の速度は v = = = # # adt ((3.7) より) cos 2tdt (a = cos 2t より) 1 sin 2t + C 2 (C は定数) ((1.22) より). 得られたこの速度 1 sin 2t + C 2 の定数 C の値を求める.問の最後の条件より,上式で t = 0 としたとき v の値は v0 にならなければならない.つまり v= v0 = 1 sin 0 + C. 2 14 これと sin 0 = 0 より C = v0 .従って求める物体の速度は v= 1 sin 2t + v0 . 2 問.物体の速度 v が v = 2t と表されるとき,物体の位置 x はどのよう に表されるか.ただし t = 1 のときの物体の位置を x0 とする. 解.物体の位置は x = = # # vdt ((3.8) より) 2tdt (v = 2t より) = t2 + C. (C は定数) ((1.20) より) 得られたこの結果 x = t2 + C の定数 C の値を求める.問の最後の条件より,上式で t = 1 としたとき x の値は x0 にならなければならない.つまり x 0 = 12 + C これより C = x0 − 1.従って求める物体の位置は x = t2 + x0 − 1. 3.4 物体の運動方程式 ・直線上(x 軸上)を運動する物体を考える.この物体に対するニュー トンの運動方程式は ma = F (3.9) ここで m は物体の質量,a は物体の加速度,F は物体の受けている力. (m は mass(質量)の頭文字,F は force(力)の頭文字 ・力 F の符号は,力 F が物体に対しどちら向きに働いているかを表す: F > 0 のとき力の向きは x 軸正方向. F < 0 のとき力の向きは x 軸負方向 (3.10) 15 ・物体の質量 m と物体の受けている力 F がわかっていれば, (3.9) から 物体の加速度 a がわかる.逆に,物体の質量 m と加速度 a がわかって いれば, (3.9) から物体の受けている力 F がわかる. ・(3.3) より,運動方程式 (3.9) は次のようにも表せる. m d2 x =F dt2 (3.11) ・(3.1) より,運動方程式 (3.9) は次のようにも表せる. m dv =F dt (3.12) ・(3.9) から力の単位がわかる.実際, F の単位 = ma の単位 ((3.9) より) = m の単位 × a の単位 = 質量の単位 × 加速度の単位 長さの単位 = 質量の単位 × (時間の単位)2 ((3.6) より). これより 力の単位 = 質量の単位 × 長さの単位 . (時間の単位)2 (3.13) ・長さ,質量,時間の単位に m(メートル),kg(キログラム),s (秒) を用いた場合,(3.13) より,力の単位 = (kg · m)/s2 .この単位 (kg · m)/s2 を ニュートン と呼び,記号 N で表す. 問.質量 10 kg の物体が加速度 5 m/s2 で運動している.この物体に働い ている力 F を求めよ. 16 解. (3.9) に m = 10 kg,a = 5 m/s2 を代入すると F = 10 kg × 5 m kg · m = 50 = 50 N. 2 s s2 ・力は足し合わせることができる.物体がいくつかの力 F1 , F2 , F3 , . . . を 受けているなら,物体の受けている正味の力(合力) F はこれらを足し 合わせた F = F1 + F2 + F3 + · · · である. 3.5 力を受けずに運動している物体 ・直線上(x 軸)を運動する物体を考える.この物体の受けている力 F が 0 の場合,物体の運動方程式 (3.9) は ma = 0. これより物体の加速度 a は a = 0. (3.14) このとき物体の速度 v は v = = # # adt ((3.7) より) 0dt ((3.14) より) = 定数 C ((1.26) より) この結果より,力を受けていない物体の速度 v は一定で変化しないこと がわかる.特に,静止した物体はそのまま静止し続ける. ・逆に,物体の速度 v が一定で変化しないときは(静止している場合も 含む),物体が受けている力 F は 0 である.実際このとき F = m dv dt ((3.12) より) = m · 0 (v は一定,つまり定数だから = 0. dv = 0) dt 問.机の上に置かれている本は,重力以外の力を受けているか. 17 解.重力以外の力も受けている.この本は静止しているから,上で述べ たことより本が受けている正味の力は 0 のはずである.従ってこの本は, 地球の重力の他に,それを打ち消すような力,つまり重力と大きさが等 しく向きが逆の力を机から受けていることになる. (この力は本が机から 受けている抗力と呼ばれる. ) 3.6 地表の近くで重力を受けながら運動している物体 ・地表の近くで重力を受けながら運動する物体を考える.いま x 軸を 次図のようにとり,物体はこの軸に沿って運動しているとする(つまり 真下に落とした物体や真上に投げ上げた物体などを考える).物体の位置 座標 x は物体の地表からの高度を表している. x " x " F = −mg ! x = 0 (地表) ・地表近くで質量 m の物体の受ける重力 F は F = −mg (3.15) と表される.g は 重力加速度 と呼ばれる正の定数. 注.(3.15) の重力 F が負の値であるのは,上図のように x 軸を上向きに とったために.重力の向きが x 軸負方向となるため((3.10) 参照). 注,天体間の重力の式は上と異なる.地表の近くなどこれに比べて小さ な範囲では,重力の式は上の簡単な式 (3.15) で近似される. 18 ・(3.9) と (3.15) より,重力を受けながら運動する物体の運動方程式は ma = −mg (3.16) つまり a = −g. (3.17) 注.方程式 (3.17) には物体の質量 m が含まれていない.従って地表の 重力の下での物体運動は物体の質量に無関係である(ガリレオの法則). 例えば,空気の抵抗が無い月面では,同じ高さから同時に落としたハン マーと鳥の羽が同時に着地する. ・(3.17) より,重力加速度 g は加速度 a と同じ単位を持つ(だから g を 重力「加速度」という).重力加速度 g の値は約 9.8 m/s2 . 問.時刻 t = 0 に高さ x0 の位置から物体を落下させた.時刻 t における 物体の位置(高度) x を求めよ.始めの時刻 t = 0 における物体の速度 は 0 とする. 解.まず物体の速度 v を求め,次にそれを使って物体の位置 x を求める. 物体の速度 v は v = = # # adt ((3.7) より) (−g)dt ((3.17) より) = −gt + C. (C は定数) ((1.19) より) 得られたこの速度 v = −gt + C の定数 C の値を求める.問の最後の条件より,上式で t = 0 としたとき v の値は 0 にならなければならない.つまり 0 = −g · 0 + C これより C = 0.従って物体の速度は v = −gt 19 (3.18) これを用いると,物体の位置 x は x = = # # vdt ((3.8) より) (−gt)dt ((3.18) より) 1 = − gt2 + C. (C は定数) ((1.20) より) 2 得られたこの結果 1 x = − gt2 + C 2 の定数 C の値を求める.問の最初に書かれている事より,上式で t = 0 としたとき位置 x の値は x0 にならなければならない.つまり. 1 x0 = − g · 0 + C 2 これより C = x0 .従って求める物体の位置は 1 x = − gt2 + x0 . 2 問.上の問で時刻 t = 0 における物体の速度を v0 としたとき,物体の時 刻 t における位置 x はどう表されるか. 解. (上の (3.18) が v = −gt + v0 になることに注意. ) 1 x = − gt2 + v0 t + x0 . 2 3.7 ばねの力を受けて振動する物体 ・下図のような,ばねの先端に取り付けられた物体を考える.x 軸をば ねに沿ってとり,ばねが自然長(伸び縮みのないときの長さ)のときの 物体の位置を座標原点 x = 0 にとる. ばねが自然長のときの物体の位置 # F = −kx %& ばね固定 $% $% $% $% $" % %$ %$ %$ %$ 0 20 %$#$ x ! x ・上図における物体の位置座標 x を物体の平衡点(x = 0)からの 変位 と呼ぶ. ・ばねの先端に取り付けられた物体がばねから受ける力 F は,物体の平 衡点からの変位を x とするとき F = −kx (3.19) と表される.k は ばね定数 と呼ばれる正の定数であり,ばねの強さを表 す. 注.ばねの力の式 (3.19) の右辺のマイナス符号は,ばねの力が常に物体 を平衡点に引き戻す向きに働くことを表している.実際,(3.19) ( (3.10) も参照)より x > 0 (物体が平衡点の右) のとき F < 0 (力の向きは x 軸負方向) x < 0 (物体が平衡点の左) のとき F > 0 (力の向きは x 軸正方向) となる.結果として,物体は平衡点を中心にして左右に振動を続ける. ・ (3.11) と (3.19) より,ばね定数 k のばねの力を受けながら運動する質 量 m の物体の運動方程式は d2 x m 2 = −kx dt (3.20) ここで x は物体の平衡点からの変位. (上式は加速度の記号 a を使って ma = −kx と表すこともできるが,上の書き方の方が応用上便利である. ) ・(1.14) の解は (1.13) の形であること,つまり d2 x = −a2 x 2 dt ⇒ x = C1 cos at + C2 sin at (3.21) (C1 ,C2 は定数)であったことを思い出す.と置くと,x は式 d2 x = −a2 x 2 dt 21 (3.22) 問.質量 m の物体が,ばね定数 k のばねにつながれている.時刻 t = 0 における物体の平衡点からの変位が x0 ,速度が v0 であるとき,時刻 t に おける物体の変位 x を求めよ. 解.この物体の変位 x は運動方程式は (3.20) を満たす.この (3.20) は d2 x k =− x 2 dt m と書き直せる.(3.21) で a = ( す x は, x = C1 cos ( k と置けばわかるように,上式を満た m k t + C2 sin m ( k t (C1 , C2 は定数) m (3.23) の形である.後はこの変位 x の式の定数 C1 , C2 の値を求めればよい.問 の条件より,上式で t = 0 としたとき x は x0 とならなければならない. つまり x0 = C1 cos 0 + C2 sin 0 これと cos 0 = 1, sin 0 = 0 より C1 = x0 . (3.24) 次に定数 C2 の値を求める.いま (3.23) から物体の速度 v を求めると v = −C1 ( k sin m ( ( k k t + C2 cos m m ( k t m (3.25) となる.実際 dx ((3.1) より) dt ( ( d k k = C1 cos t + C2 sin t dt m m v = = −C1 ( k sin m ( ( k k t + C2 cos m m ( ((3.23) より) k t ((1.4), (1.5) より) m 問の t = 0 における条件より,(3.25) で t = 0 としたとき v は v0 となら なければならない.つまり v0 = −x0 ( ( k k sin 0 + C2 cos 0 m m 22 これと sin 0 = 0, cos 0 = 1 より C2 = - m v0 . k (3.26) (3.23), (3.24), (3.26) より求める変位は x = x0 cos ( k t+ m - m v0 sin k ( k t. m (3.27) ・関数 sin t や cos t の値は t を 2π 増やすと元に戻る.つまり sin(t + 2π) = sin t, cos(t + 2π) = cos t この事を,sin t や cos t は周期 2π の関数であるという.より一般に,関 数 f (t) の値が t をある定数 T だけ増やすと元にもどるとき,つまり f (t + T ) = f (t) となるとき,T をこの関数 f (t) の 周期 という. 問.上の問で求めた物体の位置 (3.27) の周期 T を求めよ. 解.(3.27) は二つの関数 f1 (t) = sin ( k t, m f2 (t) = cos ( k t. m から成る.(3.27) の周期を求めるには,この f1 (t) と f2 (t) の周期を調べ ればよい.sin t の周期は 2π である.つまり sin(t + 2π) = sin t t はどんな値でもよいのだから,この式の文字 t を もよい.このとき上式は ( k sin t + 2π = sin m 23 ( k t. m ( k t に置き換えて m となる.左辺の括弧の中を sin ( ( k でくくると,この等式は m - $ k m t + 2π m k と書ける.左辺は f1 (t) の t を t + 2π いから,上式は % - = sin ( k t. m m に置き換えたものに他ならな k - m ) = f1 (t). k m と表せる.これは f1 (t) が周期 T = 2π を持つことを示している.上 k の議論は sin を cos に置き換えてもそのまま成り立つから, f2 (t) も同じ m 周期 T を持つ.従って (3.27) の周期は T = 2π . k f1 (t + 2π 3.8 物体の運動量とエネルギー ・直線上(x 軸)を運動する物体を考える.この物体の 運動量 p とは, 物体の質量 m と速度 v の積である.つまり p = mv (3.28) ・物体が力を受けていない場合,物体の運動量は一定で変化しない.実 際,物体の受けている力 F が 0 なら dp dv = m ((3.28) より) dt dt = F (物体の運動方程式 (3.12) より) = 0 (仮定 F = 0 より). となるから p は定数((1.10) より). ・物体の 運動エネルギー T を 1 T = mv 2 2 24 (3.29) で定める.ここで m は物体の質量,v は物体の速度. (前に記号 T を周 期を表すために使ったが,ここでは記号 T を運動エネルギーを表すため に用いる. ) ・(3.28) より v = p/m であるから,(3.29) で定めた物体の運動エネル ギー T は物体の運動量 p を用いて T = p2 2m (3.30) と表すこともできる. ・物体の受けている力を F とすると dT = Fv dt (3.31) が成り立つ.実際, dT dt = = = = = = = $ % d 1 2 mv dt 2 1 d v2 m 2 dt 1 d(vv) m 2 !dt " 1 dv dv m v+v 2 dt dt 1 dv m·2 v 2 dt dv m v dt F v ((3.12) より) ((1.9) より) 注.上の計算を (1.9) の代わりに (1.11) を使って行うと(こちらの方が 普通) dT dt $ d 1 2 = mv dt 2 1 dv 2 = m 2 dt % 25 1 dv 2 dv m ((1.11) の 文字 x を v に変えたものより) 2 dv dt 1 dv = m · 2v 2 dt dv = m v dt = F v ((3.12) より) = ・物体が力を受けていない場合,物体の運動エネルギー T は一定で変化 しない.実際,このとき dT = F v ((3.31) より) dt = 0 (物体の受けている力 F = 0 より) となるから T は定数((1.10) より). ・物体が重力 (3.15) を受けている場合は,その位置エネルギー V を V = mgx (3.32) により定める.ここで x は物体の位置の地表からの高さ.この物体のエ ネルギー E とは,その運動エネルギー (3.29) と位置エネルギー (3.32) の和のことである.つまり 1 E = mv 2 + mgx 2 ・エネルギー (3.33) は時間によらず一定値を保つ.実際, d 1 2 dE = ( mv + mgx) dt dt $2 % d 1 2 d mgx = mv + dt 2 dt dx = F v + mg ((3.31) と (3.29) より) dt = F v + mgv ((3.1) より) = Fv − Fv (物体の受けている力の式 (3.15) より) = 0. 26 (3.33) 従って E は定数((1.10) より). 問.物体を地表からの高さが x0 の位置から真上に速度 v0 で投げ上げた. この物体が着地する直前の速度 v を求めよ. 解.重力を受けながら運動する物体でのエネルギーは (3.33) で定めたよ うに 1 E = mv 2 + mgx (3.34) 2 である.ここで x, v は物体の高度と速度である.上に示したように,こ のエネルギー E の値は一定である.問の条件より,物体のはじめの高度 は x0 ,速度は v0 である.このときは 1 E = mv02 + mgx0 2 (3.35) である.物体が着地する直前は,物体の高度 x は 0 である.従ってこの ときは 1 1 E = mv 2 + mg · 0 = mv 2 (3.36) 2 2 である.ここで v は着地直前の物体の速度である.エネルギー E は時間 によらず一定なのであるから,(3.36) の右辺は (3.35) の右辺と同じ値で ある.つまり 1 2 1 2 mv = mv0 + mgx0 2 2 m 両辺を で割れば 2 v 2 = v02 + 2gx0 . これより . v = ± v02 + 2gx0 . 着地直前の物体は下方に向かって運動しているから,その速度 v は負. 従って,求める速度は . v = − v02 + 2gx0 . 問.物体を地表からの高さが x0 の位置から速度 v0 で投げ上げた.この 物体が到達する最高点の高さ x を求めよ. 27 解. (この物体のエネルギー (3.33) が一定であることと,最高点での物体 の速度は 0 になることを用いる. ) v02 x= + x0 . 2g ・物体がばねの力 (3.19) を受ている場合は,その位置のエネルギー V を 1 V = kx2 2 (3.37) により定める.この物体のエネルギー E とは,その運動エネルギー (3.29) と位置エネルギー (3.37) の和のこと.つまり 1 1 E = mv 2 + kx2 2 2 (3.38) ・エネルギー (3.38) は時間によらず一定値を保つ.実際, $ d 1 2 kx dt 2 % = = = = = 1 d x2 k 2 dt 1 d(xx) k 2 ! dt " 1 dx dx k x+x 2 dt dt 1 dx k · 2x 2 dt kxv ((3.1) より) = −F v (物体の受けている力の式 (3.19) より). これと (3.31) を用いると d 1 2 1 2 dE = ( mv + kx ) dt dt $2 2 % $ % d 1 2 d 1 2 = mv + kx dt 2 dt 2 = F v − F v = 0. 28 従って E は定数((1.10) より). $ % d 1 2 注.上の kx の計算では (1.9) を使ったが,(1.11) を使って次の dt 2 ように計算してもよい: $ d 1 2 kx dt 2 % = = = = 1 dx2 k 2 dt 1 dx2 dx k ((1.11) より) 2 dx dt 1 dx k · 2x 2 dt kxv ((3.1) より) = −F v ((3.19) より). 問.物体がばねの力を受けながら運動している.ある時刻におけるこの 物体の平衡点からの変位は x0 ,速度は v0 であった.この物体の変位 x の最大値を求めよ. 解.ばねの力を受けながら運動する物体のエネルギーは (3.38) で定めた ように 1 1 E = mv 2 + kx2 . (3.39) 2 2 である.ここで x, v は物体の変位と速度である.上に示したように,こ のエネルギー E は一定である.問の条件より,ある時刻における物体の 変位は x0 ,速度は v0 である.このときは 1 1 E = mv02 + kx20 . 2 2 (3.40) である.エネルギー E は時間によらず一定なのだから,(3.39) の値は常 に (3.40.) に等しい.つまりどの時刻でも 1 2 1 2 1 2 1 2 mv + kx = mv0 + kx0 2 2 2 2 が成り立っている.右辺は x0 と v0 によって定まっている定数だから,左 辺の x2 が最大となるのは,左辺の第1項が最小の値 0 となるときであ る.つまり上式が 1 2 1 2 1 2 kx = mv0 + kx0 . 2 2 2 29 となるときである.この式を書き直すと m x2 = v02 + x20 . k これより m 2 x=± v + x2 . k 0 - 0 m 2 m 2 2 これは物体の x 座標(変位)の最小値が − v0 + x0 ,最大値が v0 + x20 k k m 2 であることを示している.従って,変位 x の最大値は v0 + x20 . k 問.物体がばねの力を受けながら運動している.ある時刻におけるこの 物体の平衡点からの変位は x0 ,速度は v0 であった.この物体の速度の 最大値を求めよ. ( 解. v02 + k 2 x . m 0 ・エネルギーの単位を求める.エネルギーの式 (3.33) や (3.38) の運動エ 1 ネルギー mv 2 の部分に注目すると 2 1 エネルギーの単位 = 運動エネルギー mv 2 の単位 2 = 質量の単位 × (速度の単位)2 = 質量の単位 × ! 長さの単位 時間の単位 "2 ((3.5) より) 従って エネルギーの単位 = 質量の単位 × 長さの単位2 . 時間の単位2 (3.41) ・長さの単位に m(メートル),質量の単位に kg(キログラム),時間の単 位に s(秒)を用いた場合,(3.41) よりエネルギーの単位は (kg · m2 )/s2 . この単位 (kg · m2 )/s2 を ジュール と呼び,記号 J で表す.3.4 節で述べ たニュートン N を使うと,J = N · m と表せる. 3.9 力のポテンシャル ・前節では,物体の受ける力が重力の場合とばねの力の場合に対し,物 体のエネルギーを定めた.ここではより一般的な場合に対し物体のエネ 30 ルギーを定める. ・重力 F = −mg を受ながら運動する物体の位置エネルギーは,(3.32) で定めたように V = mgx である.この V は位置 x のみを変数に持ち(速度 v や時間 t を変数に 持たない),x で微分すれば dV dx d mgx dx = mg = = −F (F = −mg, より) (3.42) となる.また,ばねの力 F = −kx を受ながら運動する物体の位置のエ ネルギーは,(3.37) で定めたように 1 V = kx2 2 である.この V も位置 x のみを変数に持ち,x で微分すると dV dx d 1 2 ( kx ) dx 2 = kx = = −F (F = −kx より) (3.43) となる. ・上に述べたように,力 F が重力やばねの力の場合,V は位置 x のみ を変数に持つ関数であり (3.42), (3.43) に示したように F =− dV dx (3.44) という式を満たしている.力 F が重力やばねの力でない場合でも,力 F に対して,位置 x のみを変数に持つ関数 V で (3.44) を満たすようなも のが見つかることがある.このとき V を力 F の ポテンシャル と呼ぶ. (上の重力やばねの力の場合のように V を位置エネルギーと呼ぶことも ある. ) 31 ・一般に,力のポテンシャル V を求めると任意定数 C が付く.つまり (C は任意定数) V = ··· + C (3.45) の形となる. 例.力 F が F = sin x (3.46) と表されるとき,力 F のポテンシャル V は (C は任意定数) V = cos x + C (3.47) の形となる.実際, dV dx d(cos x + C) dx = − sin x = = −F (3.46) より) となるから V は C の値が何であっても (3.44) を満たしている. ・通常は,ポテンシャルの基準点を適当に選び(例えば x = 0),その点 でのポテンシャル V の値が 0 となるように (3.45) の定数 C の値を定め る. 問.力 (3.46) のポテンシャル V は,ポテンシャルの基準点を x = 0 に とったときどのように表されるか. 解.力 (3.46) のポテンシャル V の一般形は (3.47) に示したように V = cos x + C. 基準点 x = 0 ではこのポテンシャル V の値は 0 でなければならないか ら C = −1(cos 0 = 1 より).つまり,V は規準点を x = 0 としたとき V = cos x − 1 と表される. 32 ・物体の受けている力 F が保存力であり,従って式 (3.44) を満たすよう なポテンシャル V があるとき,物体のエネルギー E を E =T +V (3.48) で定める.ここで T は (3.29) で定めた物体の運動エネルギーである. ・(3.48) で定めたエネルギー E は時間によらず一定値を保つ.実際, dE dT dV = + dt dt dt dV = Fv + ((3.31) より) dt dV dx = Fv + ((1.11) より) dx dt = F v − F v ((3.44) と (3.1) より) = 0. 従って E は定数((1.10) より). 問.物体の受けている力 F が F = −x3 と表されるとする.この物体のエネルギー E はどのような式となるか. ただし力 F のポテンシャルの基準点を x = 0 とせよ. 解.いま 1 V = x4 + C (C は任意定数) (3.49) 4 と置く.この V は位置 x のみを変数とする関数であり,しかも $ % dV d 1 4 = x + C = x3 = −F dx dx 4 となるから (3.44) を満たす.従って V は力 F のポテンシャルである. 基準点 x = 0 ではこのポテンシャル (3.49) の値は 0 でなければならない から C = 0.従って 1 V = x4 4 33 従って (3.48) より物体のエネルギーは 1 1 E = mv 2 + x4 . 2 4 3.10 仕事 ・物体を位置 x = a から位置 x = b まで力 F を加えながらゆっくり移 動させたとする.このとき,定積分 W = # b a F dx (3.50) の値を物体にした 仕事 と呼ぶ.(W は work(仕事)の頭文字.定積分に ついては (1.27) 参照) 注.物体をゆっくりと移動させるとは,物体が外部から受けている力を 打ち消して 0 にするのに必要なだけの力 F を加えながら(つまり,釣り 合いを保ちながら),物体を移動させるということである. 問.地上にある質量 m の物体を,ゆっくりと高さ h の位置まで持ち上げ た.物体になした仕事 W を求めよ.重力加速度を g とする.また,こ の仕事 W が,持ち上げた後の物体の位置エネルギーから持ち上げる前の 物体の位置エネルギーを引いたものに等しいことを確かめよ. 解.物体は重力 −mg (3.15) を受けている.これをゆっくり持ち上げるに は,逆の力 F = mg を加えることが必要.物体の最初の位置(高度)は 0,最後の位置は h であり,また mg は定数であるから, W = = # h 0 # 0 h F dx ((3.50) より) mgdx = [mgx]h0 ((1.27) の 文字 t を x に変えたものより) = mgh − mg · 0 = mgh 従って求める仕事は W = mgh.(3.32) より,物体が高さ h の位置にあ るときその位置エネルギーは mgh.また,物体が地表にあるときその位 34 置エネルギーは mg · 0 = 0.従って,前者から後者を引いたものは mgh. これは求めた W に等しい. 問.ばね定数 k のばねに取り付けられた物体を,平衡点からゆっくりと x0 だけ変位させた.物体になした仕事 W を求めよ.また,この仕事 W が,変位させた後の物体の位置エネルギーから変位させる前の物体の位 置エネルギーを引いたものに等しいことを確かめよ. 解.物体はばねが引き戻す力 −kx (3.19) を受けている.この物体をゆっ くりと変位させるためには,逆の力 F = kx を加えることが必要.物体 の最初の位置(変位)は 0,最後の位置は x0 だから, W = = # x0 #0x0 & 0 F dx ((3.50) より) kxdx ' 1 2 x0 kx ((1.27) の 文字 t を x に変えたものより) = 2 0 1 2 1 = kx − k · 02 2 0 2 1 2 = kx . 2 0 1 従って求める仕事は W = kx20 .物体の変位が x0 のとき,(3.37) より物 2 1 2 体の位置エネルギーは kx0 .また,物体が変位が 0 であるとき,物体 2 1 の位置エネルギーは k · 02 = 0.従って,前者から後者を引いたものは 2 1 2 kx .これは求めた W に等しい. 2 0 3.11 物体の衝突 ・x 軸上を運動してい2つの硬い小球 A と B が衝突したとする.衝突 時に小球 A が小球 B から受ける力 FA と小球 B が小球 A から受ける 力 FB は,向きが逆で大きさが等しい.つまり FB = −FA . (3.51) である.これを 作用反作用の法則 と呼ぶ.衝突の前と後は小球 A も小 球 B も力を受けずに運動しているものとする. 35 ・衝突後の2つの小球の運動量の和は,衝突前の運動量の和に等しい(運 動量は (3.28) で定めた).つまり,小球 A と B の衝突前の運動量を pA , pB ,衝突後の運動量を p" A , p" B とすれば, p" A + p " B = p A + pB が成り立つ.運動量の定義 (3.28) より,上式は mA vA" + mB vB" = mA vA + mB vB (3.52) と表すこともできる.ここで mA , mB は小球 A,B の質量,vA , vB は小球 A,B の衝突前の速度,vA" , vB" は小球 A,B の衝突後の速度である. ・衝突後の2つの小球の運動エネルギーの和が,衝突前の運動エネルギー の和に等しいとき(運動エネルギーは (3.29) で定めた),つまり 1 1 1 1 2 2 mA vA" + mB vB" = mA vA 2 + mB vB 2 2 2 2 2 (3.53) が成り立つとき,この衝突を 完全弾性衝突 と呼ぶ. 注.物体の衝突によってその運動エネルギーの一部が物体内部のエネル ギーに転化する場合 (物体の温度上昇などが起る)は,衝突は完全弾性衝 突とはならない. ・(3.52) が成り立つことを示す.いま,時刻 t における小球 A, B の速度 を vA (t), vB (t) と書き,時刻 t に小球 A, B が受けている力を FA (t), FB (t) と書く.(3.12) より,小球 A と小球 B の運動方程式はそれぞれ d vA (t) = FA (t), dt である.小球 A と B の運動量の和 し,上の2つの式を用いると d (mA vA (t) + mB vB (t)) = dt = mA d vB (t) = FB (t). (3.54) dt mA vA (t) + mB vB (t) を時間 t で微分 mB d vA (t) d vB (t) + mB dt dt FA (t) + FB (t) ((3.54) より) (3.55) mA 36 を得る.ここで,どの時刻 t においても FA (t) + FB (t) = 0 (3.56) が成り立っている.実際,小球 A,B が衝突している最中は,(3.51) よ り (3.56) が成り立ち,それ以外の時刻 t では小球 A, B の受けている力 FA (t), FB (t) はどちらも 0 だから,やはり (3.56) が成り立つ .(3.55) と (3.56) より d (mA vA (t) + mB vB (t)) = 0 dt この結果は小球 A,B の運動量の和 mA vA (t) + mB vB (t) が定数であり変 化しないことを示す((1.10) より).従って衝突後の小球 A と B の運動 量の和は衝突前の和と同じである.つまり (3.52) が成り立つ. 問.静止している質量 m の小球 A に,同じ質量を持つ速度 vB の小球 B が衝突した.この衝突は完全弾性衝突であった.小球 A と小球 B の 衝突後の速度を求めよ. 解.小球 A と B の衝突後の速度をそれぞれ vA " ,vB " で表す.問の条件 より,小球 A と小球 B の質量は m であり,また衝突前の小球 A の速度 vA は 0 である.従って (3.52) より mvA" + mvB" = mvB . (3.57) が成り立ち,また (3.53) より 1 "2 1 "2 1 2 mv + mvB = mvB . 2 A 2 2 (3.58) が成り立つ.(3.57) の両辺を m で割った式より vB = vA" + vB" これを (3.58) の両辺を m/2 で割った式の右辺に代入すると 2 2 vA" + vB" = (vA" + vB" )2 この式は右辺を展開した後,整理すると vA" vB" = 0 37 (3.59) という式となる.これより vA" = 0 (3.60) vB" = 0 (3.61) と の少なくとも一方が成り立たなければならない.いま (3.60) が成り立つ としてみる.これは衝突後も小球 A が静止したままであることを意味す る.一方,(3.59) よりこの仮定 (3.60) のもとでは vB " = vB であり,小 球 B は衝突後も衝突前と同じ速度で運動していることになる.従って, 衝突後,小球 B は静止したままの小球 A を通り抜けたことになる.こ れは不可能.従って (3.60) は成り立たない.従って (3.61) の方が成り立 つことになる.つまり衝突後の小球 B の速度は 0.このとき (3.59) より vA" = vB .つまり衝突後の小球 A の速度は vB . (A と B の速度が衝突で 入れかわったことになる. ) ベクトルの復習 4 4.1 ベクトル ・ベクトル とは向きと大きさを持つ量. ・ベクトルを次図のように矢印で表す.矢印の向きはベクトルの向き,矢 " 印の長さはベクトルの大きさを表す.ベクトルに名前を付けるときは,A のように上に矢印のついた記号を用いることにする. # #" # A # $ # " ,B " の和 A "+B " とは,A " ,B " を2辺とする平行四辺形の ・ベクトル A 対角線で表される下図のようなベクトル. 38 " A % ( ) (( $ " & (( $$ B & ( " " &((( A + B $ & ( %$ &' & " & B & & &' " A " +B " は下図のように A "とB " を繋げることで 注.右端の図のベクトル A も得られる: ) (( &' ( "+B "( & A ( " &B (( & (( ( %& " A " の 定数 k 倍 k A " とは,下図のように A " の大きさを |k| 倍 ・ベクトル A し(例えば k = −2 なら | − 2| 倍,つまり2倍する),k が負のときは更 に向きを逆にしたベクトル. &' & " & A & & &' & & & kA " & & & & & & & kA " & & &* k が正のとき k が負のとき " とは −1A " のこと.従って −A "はA " と大きさが同じで向きが逆の ・−A "−B " とは A " + (−B) " のこと. ベクトル.差 A " に対し A " −A " = (A " + (−A)) " やA " の 0 倍 0A " を作図すると,大きさ ・A (長さ)が 0 のベクトルとなる.大きさが 0 のベクトルを記号 "0 で表し, 零ベクトル と呼ぶ.零ベクトル "0 を表す矢は長さが 0 であるからその向 きは重要ではない. " の大きさ,つまりベクトル A " を表す矢印の長さを,記号 ・ベクトル A " で表す.ベクトル A " の大きさを,上の矢印を取り除いた A で表すこ |A| ともある. 39 "とB " の 内積 A "·B " を ・ベクトル A "·B " = |A|| " B| " cos θ A (4.1) "とB " のなす角.つまり下図の角 により定める.ここで θ はベクトル A θ. &' " & B & & & θ " A % " とB " が直交しているときは A "·B " = 0 となる.実際,こ ・ベクトル A ◦ のとき θ = 90 だから cos θ = 0.従って (4.1) の右辺は 0 となる. " の大きさが 2,B " の大きさが 3,A " とB " のなす角が 2π のとき, 問.A 3 "·B " を求めよ. 内積 A 解. "·B " = 2 × 3 × cos 2π ((4.1) より) A 3 1 2π 1 = 6 × (− ) (cos = cos 120◦ = − より) 2 3 2 = −3. " の大きさ |A| " は,内積を用いて ・ベクトル A " = |A| . "·A " A "がA " 自身となす角は 0 であるから, と表せる.実際,A "·A " = |A|| " A| " cos 0 ((4.1) より) A " 2 (cos 0 = 1 より). = |A| これより (4.2) を得る. 40 (4.2) 4.2 ベクトルの成分 ・以下では平面上にあるベクトルを考える.この平面上に xy 座標をと る. " を,A " を表す矢を下図のように座標原点から書いたときの ・ベクトル A 矢の先端の x 座標 Ax ,y 座標 Ay を用いて, "= A ! Ax Ay " . (4.3) " の x 成分,y 成分 と呼ぶ.ベク と表す.Ax , Ay をそれぞれベクトル A トルを (4.3) のように表すことを,ベクトルの 成分表示 という. y + , + + +" + A + " Ay + + + + + , + Ax ! x ・零ベクトル "0 とは大きさが 0 のベクトルのことであった.これは "0 = ! 0 0 " (4.4) " が "0 の場合,矢印の長さは 0.従って上図右 と表せる.実際,上図で A の座標 Ax も座標 Ay も 0 となる. " は,これを表す矢を座標原点から書いたとき,そ 例.下図のベクトル A ! " −2 " の先端の x 座標が −2,y 座標が 3 となる.従って A = である. 3 41 y -. " -A 3 - " .- −2 - ! x " B " が ・ベクトル A, "= A ! Ax Ay " " = B , ! Bx By " と表されるとき, "+B " = A ! "= kA ! " Ax + Bx Ay + By kAx kAy " (4.5) (k が定数のとき) (4.6) となる.言い換えれば ! k "= 問.A ! 5 3 " Ax Ay ! " = ,B " Ax Ay ! + " ! = " 4 −1 Bx By ! " = kAx kAy ! Ax + Bx Ay + By " , " (4.8) " − 3B " を求めよ. のとき,2A 解. " − 3B " = 2 2A = = ! ! ! 5 3 10 6 −2 9 " " −3 + " ! ! 4 −1 −12 3 " " ((4.8) より) . ((4.7) より) 42 (4.7) " の先端の x 注.(4.5) は下の左のような図を書けば確かめられる.矢 A " の先端の x 座標は Bx である.矢 A " と矢 B " から平 座標は Ax ,矢 B "+B " の先端の x 座標は Ax + Bx 行四辺形の規則に従って作図した矢 A であることがわかる.また y 座標についても同様なことが確かめられる. (4.6) は下右のような図(これは k > 0 の場合の図)を書けば確かめられ " の先端の x 座標は Ax である.矢 A " からベクトルの定数倍の る.矢 A " の先端の x 座標は kAx とであることがわか 規則に従って作図した矢 k A る.また y 座標についても同様なことが確かめられる. y y " " & & 1 2 && & $$ 1 & & & 1 $ & By 1 ' $ 1 && 1" " & "$ B 1 A +B Ay & 11 0$ / // &1////" A / ! x &1/ Ay + By 0 Bx kAy Ay Ax Ax + Bx + , + + , " ++ kA + +A " + ! x + Ax kAx ・(4.5),(4.6) と (4.4) より " + "0 = A k"0 = ! つまり ! Ax + 0 Ay + 0 " k×0 k×0 = " ! = 0 0 ! " Ax Ay " , . " + "0 = A, " A k"0 = "0 (4.9) が成り立つ. " ,B " が ・ベクトル A "= A ! Ax Ay " " = B ! Bx By " " の大きさ |A| " と, A " ,B " の内積 A " ·B " は と成分で表されているとき,A 次のように表せる: " = |A| . A2x + A2y , 43 (4.10) "·B " = Ax Bx + Ay By A (4.11) と表せる.言い換えれば /! "/ / / A . x / / / = A2x + A2y , / / Ay / ! " ! " Ax Ay · Bx By . (4.12) = Ax Bx + Ay By (4.13) (4.10) と (4.11) からも (4.2) が得られる. "= 問.A ! 4 −3 " " = ,B ! 2 5 " " とA "·B " を求めよ. のとき,|A| 解. " = |A| = . √ 42 + (−3)2 ((4.10) より) 25 = 5, "·B " = 4 × 2 + (−3) × 5 ((4.11) より) A = −7. 注.(4.10) は次左図を用いて次のように確かめられる: " = ベクトル A " を表す矢印の長さ |A| ! " . 図の矢印の長さをピタゴラス 2 2 = Ax + Ay . の定理を使 っ て求めた y y " Ay By + , + + +" + A + Ax Ay ! x " &&' " & B & 0 / // & θ /// " / A &// Bx Ax ! x " とB " のなす角を θ, (4.11) は次のようにして確かめられる.上右図の A " と x 軸のなす角を θA ,B " と x 軸のなす角を θB とすると, A "·B " = |A|| " B| " cos θ A ((4.1) より) 44 " B| " cos(θB − θA ) (θ = θB − θA より) = |A|| " B|(cos " = |A|| θB cos θA + sin θB sin θA ) (cos(x − y) = cos x cos y + sin x sin y より) " B A B A x x y y " B| " = |A|| + " |A| " " |A| " |B| |B| " cos θA = Ax /|A|, " cos θB = Bx /|B|, " sin θA = Ay /|A| " より sin θB = By /|B|, ! = Ax Bx + Ay By . ・ベクトルの内積は次のように通常の数の積と似た性質を持つ: "·B " =B " ·A " A " + B) " ·C " =A "·C " +B " ·C " (A (4.14) (4.15) " · (B " + C) " =A "·B " +A "·C " A " ·B " = k(A " · B) " (k A) (4.16) (4.17) " · (k B) " = k(A " · B) " A (4.18) 問.内積が上の性質を持つことを,ベクトルの成分表示を利用して示せ. " B, " C " を 解.ベクトル A, "= A ! Ax Ay " , " = B ! Bx By " , " = C ! Cx Cy と成分で表す.このとき "·B " = Ax Bx + Ay By A ((4.11) より) = Bx Ax + By Ay " ·A " ((4.11) より) = B となり,(4.14) を得る.また "+B " = A ! Ax + Bx Ay + By 45 " , " であるから " + B) " ·C " = (Ax + Bx )Cx + (Ay + By )Cy (A ((4.11) より) = Ax Cx + Ay Cy + Bx Cx + By Cy "·C " +B " ·C " ((4.11) より) = A となり,(4.15) を得る.(4.14) と (4.15) を利用すると " · (B " + C) " = (B " + C) " ·A " ((4.14) より) A " ·A "+C " ·A " ((4.15) より) = B "·B " +A "·C " = A ((4.14) より) となり,(4.16) を得る.また "= kA ! kAx kAy " であるから, " ·B " = (kAx )Bx + (kAy )By (k A) ((4.11) より) = k(Ax By + Ay By ) " · B) " = k(A ((4.11) より) となり,(4.17) を得る.(4.14) と (4.17) を利用すると " · (k B) " = (k B) " ·A " ((4.14) より) A " · A) " ((4.17) より) = k(B " · B) " = k(A ((4.14) より) となり,(4.18) を得る. ・ベクトルの大きさは次のように数の絶対値と似た性質を持つ: " = |k||A| " |k A| " + B| " ≤ |A| " + |B| " |A ここで (4.19) 右辺の |k| は定数 k の絶対値である. 46 (4.19) (4.20) 問.(4.19) が成り立つことを,ベクトルの成分表示を利用して示せ. "を 解.ベクトル A "= A ! Ax Ay "= kA ! kAx kAy と成分で表すと " " であるから, " = |k A| . (kAx )2 + (kAy )2 ((4.10) より) . √ . = k 2 (A2x + A2y ) = k 2 A2x + A2y . √ = |k| A2x + A2y (|k| = k 2 より) " ((4.10) より). = |k|||A| 5 ベクトルの微分 ・以下では成分が変数 t の関数であるようなベクトルを考える.例え ! " cos t ば はそのようなベクトルである. sin t ・ベクトルを微分するということは,その成分を微分するということで ある.つまり, ! " A x "= A Ay のとき dAx " dA dt . = dAy dt dt 言い換えれば d dt ! Ax Ay " dAx dt = dAy . dt 47 (5.1) ベクトルを2回微分するということは,その成分を2回微分するという こにとなる.つまり 2 d dt2 "= 問.A ! t2 sin t " ! のとき, Ax Ay " d2 Ax dt2 = d2 Ay . dt2 (5.2) " d2 A を求めよ. dt2 解. " d2 A d2 = dt2 dt2 = = ! ! t2 sin t d2 t2 dt2 d sin t dt 2 − sin t " " ((5.1) より) . ・(1.10) に記したように,微分すると 0 となる関数は定数である.同様 に,微分すると零ベクトル "0 となるベクトルは,成分が定数のベクトル である.つまり " dA " のどの成分も定数 = "0 ⇒ A (5.3) dt 言い換えれば d dt ! Ax Ay " = ! 0 0 " ⇒ ! Ax Ay " = ! C1 C2 " (C1 , C2 は定数) が成り立つ.実際,上の左側の式は (5.1) より dAx ! " 0 dt = dAy 0 dt と書き直せるが,これは2つの式 dAx dAy = 0, =0 dt dt をまとめて書いたものに他ならない.これらの式から Ax = C1 , Ax = C2 (C1 , C2 は定数)を得る(((1.10) より). 48 6 6.1 平面上を運動する物体 位置,速度,加速度 ・ここでは平面上を運動する物体を考える.この平面上に下図のよう に xy 座標をとる.物体の位置の x 座標と y 座標をそれぞれ x,y で表 す. y " y 3 3 ' 物体 3 4 3 3 3 " r x ! x ・上図に示したような,座標原点から物体の位置へのベクトル "r を,物 体の 位置ベクトル,あるいは簡単に物体の 位置 という.ベクトルの成分 の定め方 (4.3) より,位置 "r は "r = ! x y " と表せる.物体の位置 "r は,物体の座標 (x, y) を縦に書いたものに他な らない. ・物体が運動していれば,物体の位置 "r は時間 t の関数となる.例えば物体 ! " cos t の座標が x = cos t,y = sin t と表されるとき,物体の位置は "r = sin t という t の関数となる. ・物体の速度 "v とは,物体の位置 "r を時間 t で微分したもの.つまり "v = d"r dt (ベクトルの微分については前節を見よ. ) ・物体の 速さ とは,物体の速度 "v の大きさ |"v | のこと. 49 (6.1) ・物体の加速度 "a とは,物体の速度 "v を時間 t で微分したもの.つまり "a = ! d"v dt (6.2) " 1 − cos t 問.物体の位置が "r = と表されるとき,物体の速度 "v と加 sin 3t 速度 "a を求めよ.また物体の速さ |"v | を求めよ. 解. "v = = = = "a = = = = d"r ((6.1) より) dt ! " d 1 − cos t dt sin 3t d (1 − cos t) dt ((5.1) より) d sin 3t dt " ! sin t , 3 cos 3t d"v ((6.2) より) dt ! " d sin t ((6.3) より) dt 3 cos 3t d sin t dt d 3 cos 3t ((5.1) より) dt ! " cos t . −9 sin 3t また,物体の速さ |v| は |v| = = . (sin t)2 + (3 cos 3t)2 . sin2 t + 9 cos2 3t. 50 ((6.3), (4.10) より) (6.3) ・物体の位置の微分は速度,速度の微分は加速度だから,加速度は物体 の位置 "r を2回微分したもの. つまり物体の加速度 "a は次のようにも表 せる: "a = 問.物体の位置が "r = ! t+1 t3 + 1 " d2"r dt2 (6.4) と表されるとき,物体の加速度 a を求 めよ. 解. d2"r ((6.4) より) dt2 ! " d2 t+1 = dt2 t3 + 1 "a = = = ! d2 (t + 1) dt2 2 3 d (t + 1) dt2 " 0 . 6t ((5.2) より) 注.物体の位置 "r,速度 "v ,加速度 "a の関係は下図のように表現できる. 矢 "v の方向と長さは,矢 "r の先端(つまり物体の位置)が進む方向と進 む速さを表す.同様に,矢 "a の方向と大きさは,矢 "v の先端が進む方向 と進む速さを示す.つまり,加速度 "a は速度 "v がどのように変化しつつ あるかを表す. y "a 87 7 " 56 5 " v 5' 物体 1 2 1 1r 1 " 1 ! x 51 6.2 運動方程式 ・平面上を運動する物体が受けている力は,下図のように平面上のベクト " で表される.物体がいくつかの力 F"1 , F"2 , F"3 , . . . を受けているなら,物 ルF " はこれらの力の和 F" = F"1 +F"2 +F"3 +· · · 体の受けている正味の力(合力)F となる. 7 8 77 7 F" '物体 ・平面上を運動する物体に対するニュートンの運動方程式は m"a = F" (6.5) " は物体の受けている力. ここで m は物体の質量,"a は物体の加速度,F ・(6.4) より,運動方程式 (6.5) は次のようにも表せる. m d2"r = F" dt2 (6.6) ここで "r は物体の位置. ・(6.1) より,運動方程式 (6.5) は次のようにも表せる. m d"v = F" dt (6.7) ここで "v は物体の速度. " を受けた物体には加速度 "a = 1 F" が生じる.この 注.(6.5) より,力 F m " と同じ方向 加速度 "a は,下図のように物体の速度 "v の矢の先端を力 F に動かそうとする.つまり,物体の速度の方向を力の方向へ向けようと する. 52 y " 1 " "a = m F 77 8 56 5 " v 8 7 77 5 7 '物体 " F ! x 6.3 力を受けずに運動する物体 ・物体が力を受けていない場合,言い換えれば,物体の受けている力 F" が F" = "0 (6.8) である場合を考える.ここで "0 は零ベクトル "0 = ! 0 0 " . " = 0(数の 0)と書くことはできない.実際,F" = 0 と書 注.(6.8) を F くと,左辺はベクトル,右辺は数であるから,決して成り立たない式と なる(複数の成分を持つベクトルが通常の数に等しくなることはない). ・物体が力を受けていない場合,(6.7) と式 (6.8) より物体の運動方程式 は次のように表せる: d "v " m = 0. dt この両辺に 1/m を掛ければ((4.9) より右辺は 1/m 倍してもやはり "0 ) d "v " = 0. dt となる.従って (5.3) より "v の各成分は定数であり,"v は時間が経過して も変わらない.つまり,力を受けていない物体の速度 "v は方向も大きさ も常に一定である. ・逆に,物体の速度 "v が方向も大きさも変えず常に一定であるときは, 物体は力を受けていない.実際,"v が一定ならその成分も一定でだから, 53 "v = ! C1 C2 " (C1 , C2 は定数)と表せる.このとき d"v F" = m ((6.7) より) dt ! " d C1 = m dt C2 d C1 dt = m d C2 ((5.1) より). dt ! " ! " 0 0 = m = = "0. 0 0 6.4 等速円運動をする物体 ・半径 r の円の周上を一定の速さで運動している質量 m の物体 A を 考える.下図のように,この円の中心を座標原点にとる. y " 半径 r の円の周 9:9 " v 9! 物体 A r sin ωt ' r '' ' 'ωt '' ! x 円の中心 r cos ωt ・ 物体 A は時刻 t = 0 に x 軸を横切ったとする.座標原点と物体を結 ぶ直線と x 軸がなす角は時間 t に比例して増大していくから,この角度 を図中のように ωt(ω は比例定数)と書いた.この比例定数 ω は物体 A の円運動の 角速度 と呼ばれる. (距離割る時間を速さと呼ぶのと同様に, 角度割る時間 = ωt/t = ω には角速度という名前がく). ・図より物体 A の x 座標は r cos ωt,y 座標は r sin ωt. 従って,物体 A の位置ベクトル "r は次のように表せる: "r = ! r cos ωt r sin ωt 54 " . (6.9) ・物体 A の速度 "v と加速度 "a は次のように表せる: "v = ! "a = ! −rω sin ωt rω cos ωt " −rω 2 cos ωt −rω 2 sin ωt , " (6.10) . (6.11) 問.(6.9) から (6.10) と (6.11) を導け. 解. d "r ((6.1) より) dt ! " d r cos ωt = ((6.9) より) dt r sin ωt d r cos ωt dt = d r sin ωt ((5.1) より) dt ! " −rω sin ωt = ((1.5), (1.4) より), rω cos ωt "v = d "v ((6.2) より) dt ! " d −rω sin ωt = (上で示した (6.10) より) dt rω cos ωt d (−rω sin ωt) dt = d rω cos ωt ((5.1) より) dt ! " 2 −rω cos ωt = ((1.4), (1.5) より). −rω 2 sin ωt "a = ・物体 A が等速円運動を続けるのは,ある力を受けているからである. " を求めると 運動方程式 (6.5) を利用して物体 A の受けている力 F F" = m"a ((6.5) より) 55 = m ! −rω 2 cos ωt −rω 2 sin ωt = −mω ! 2 ! r cos ωt r sin ωt " " ((6.11) より) ((4.8) より) " r cos ωt となる.この最後の は (6.9) に記した物体の位置ベクトル r sin ωt "r に他ならない.従って上の結果は F" = −mω 2"r (6.12) と表せる. ・物体 A の位置ベクトル "r は,物体 A の円軌道の円の中心にとった座 " 標原点から物体 A へ向かうベクトルである.物体 A の受けている力 F 2 は,(6.12) のようにこの "r を負の定数 −mω 倍したものであるから,"r " は物体 A からその円軌道の円の中心 と逆の向きを持つ.従って,力 F " を 向心力 と呼ぶ. への向きを持つ.物体 A の受けているこの力 F " | は,物体 A の円軌道 ・物体 A が受けている向心力 (6.12) の大きさ |F の半径 r を用いて |F" | = mω 2 r (6.13) と表せる. 問.(6.13) を示せ. 解. / / / / |F" | = /−mω 2"r/ ((6.12) より) = | − mω 2 ||"r| ((4.19) より) . = mω 2 (r cos ωt)2 + (r sin ωt)2 . ((6.9) と (4.12) より) = mω 2 r cos2 ωt + sin2 ωt = mω 2 r · 1 = mω 2 r. ・いま物体 A の速さを v で表す.速さ v とは速度 "v の大きさ |"v | のこと 56 であるから,(6.10) より v = |"v | = = . . (−rω sin ωt)2 + (rω cos ωt)2 ((6.10), (4.10) より) r2 ω 2 (sin2 ωt + cos2 ωt) . = rω sin2 ωt + cos2 ωt = rω · 1 = rω を得る.これより v ω= . r (6.14) 向心力の大きさを表す式 (6.13) を上式を用いて書き換えると, |F" | = m v2 r となる.これは物体 A の受けている向心力の大きさを,物体 A の速さ v を用いて表す式である. 注.(6.14) は次のようにしても得られる.物体 A は時間 t の間に円軌道 に沿って r × ωt の長さだけ動く(本 6.4 節始めの図参照).この移動し た長さ rωt を移動時間 t で割ったものが物体 A の速さ v である.つまり v= rωt = rω t これより (6.14) を得る. 6.5 運動量とエネルギー ・平面上(xy 平面上)を運動する物体を考える.物体の運動量 p "を p" = m"v (6.15) 57 により定める.ここで m は物体の質量,"v は物体の速度である.運動量 p" と速度 "v を ! " ! " px vx p" = , "v = (6.16) py vy のように成分で表せば,(6.15) は ! px py " =m ! vx vy " と表せる.これは2つの式 px = mvx , py = mvy をまとめて表したものに他ならない. ・物体が力を受けていない場合,物体の運動量 p " は一定で変化しない.実 " が "0 なら 際,物体の受けている力 F d"p d"v = m ((3.28) より) dt dt = F" (物体の運動方程式 (6.7) より) = "0 (仮定 F" = "0 より). となる.(5.3) より,上の結果は p " の成分が定数であり,従って p" は常に 一定であることを示している. ・物体の 運動エネルギー T を 1 T = mv 2 2 (v 2 = "v · "v ) (6.17) で定める.ここで m は物体の質量,"v は物体の速度であり,内積 "v · "v を 簡単に v 2 と書いた. 問.物体の質量が m であり,その速度 "v が "v = ! 2t 1 − t2 58 " と表されるとき,物体の運動エネルギー T を求めよ. 解. 1 2 mv ((6.17)) より) 2 1 = m"v · "v ((6.17) で v 2 は内積 "v · "v を表すとしたから) 2 1 = m((2t)2 + (1 − t2 )2 ) ("v · "v を (4.11) を使 っ て計算した) 2 1 1 = m(t4 + 2t2 + 1) = m(t2 + 1)2 . 2 2 T = ・(6.17) で定めた物体の運動エネルギー T を (6.15) で定めた物体の運動 量p " を用いて表せば T = p2 2m (p2 = p" · p") (6.18) となる.内積 p " · p" を簡単に p2 と書いた.(6.18) は (6.17) の v 2 を次の ように書き直すことで得られる: v 2 = "v · "v 1 1 = ( p") · ( p") ((6.15) より) m m 1 1 = ("p · ( p")) ((4.17) より) m m 1 = ("p · p") ((4.18) より) m2 1 2 = p. m2 ・速度 "v と運動量 p " を (6.16) のように成分で表したとき,(6.17) の v 2 と (6.18) の p2 は (4.11) より v 2 = "v · "v = vx2 + vy2 , p2 = p" · p" = p2x + p2y と表せる.従って (6.17) と (6.18) はそれぞれ T = 1 m(vx2 + vy2 ), 2 59 (6.19) T = 1 2 (p + p2y ) 2m x と表すこともできる. (未完)(予定:力のポテンシャル,角運動量,惑星の運行,他) 60