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年 金 通 信

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年 金 通 信
制度
■確定給付
■厚年基金
■適格年金
□確定拠出
■退職金
□その他
内容
■年金財政
□事務サポート
□法改正
■PBO
□その他
平成 22 年 11 月 25 日
第一生命
年 金 通 信
「数理室だより」54 号
企業年金数理室
年金用語解説・・・イールドカーブによる負債評価
ルドカーブは通常、期間の増加に伴って上昇する
1.はじめに
昨今の会計基準の国際化の流れを受け、現在、
日本の退職給付会計についても改訂が検討され
ことになります。
但し、将来金利が(上記リスクを相殺するほど)
ています。そうした検討内容を記載した各種雑誌
著しく下がることが見込まれる場合には右肩下
や書籍等を見てみると会計処理から退職給付債
がりのカーブ(逆イールド)となることもありま
務の評価方法に至るまで、検討が行われている変
す。実際、1989 年から 1991 年の日本にかけても
更内容が解説されていますが、その中にしばしば
逆イールドとなる現象が見られました。
「イールドカーブによる評価」という言葉が登場
利回り
逆イールド
しています。
今回は、「イールドカーブによる評価」の意味
すること、および退職給付会計実務にあたえる影
響を解説します。
償還期限
2.イールドカーブとは?
イールドカーブは英語で「yield curve」と記
載し、直訳すると「利回り曲線」となりますが、
具体的には償還期間に応じた金利のカーブを指
します。
利回り
また、長期金利と短期金利の関係をみるときの
一つの考え方として「長期金利とは将来の短期金
利の予測値である」という「純粋期待仮説」があ
り、景気低迷で将来にわたり金融緩和が行われる
と予測されるときは長短金利差が縮小(フラット
イールドカーブ
化)されます。
利回り
フラット化
償還期限
一般的に長期の方が短期に比べて、将来の経済
環境の変化によるリスクを負う必要があること
から金利は高くなる傾向があり、したがってイー
- 1 -
償還期限
一方、景気回復が行われ、市場が日銀の緩和姿
勢が長続きしないと判断すると長短金利差は拡
大(スティープ化)されます。
利回り
10万円
15万円
1年後
2年後
現在
スティープ化
2%で割引く
3%で割引く
評価額=10 万÷1.02+15 万÷1.032
償還期限
=23.9 万円
3.イールドカーブによる負債評価とは?
4.退職給付会計における議論
さて、以上のようなイールドカーブの基本的な
今年の3月に企業会計基準委員会(ASBJ)
内容を踏まえた上で、イールドカーブ評価につい
より「退職給付に関する会計基準(案)」および
て解説します。
同適用指針(案)が示され、その中で退職給付債
イールドカーブ評価とは負債を時価評価する
場合のひとつの方法で以下のように計算されま
務の計算における割引率の設定の考え方が以下
のとおり示されました。
す。
従来の基準
① 将来支払いが発生すると想定される金額と
支払い時期を見積もる。
変更案の基準(※)
・退職給付の見込み支 ・ 原則、給付見込期
払日までの平均期間
間ごとに設定さ
② 支払い時期ごとに対応する金利を用いて①
(実務上は平均残存勤
れた複数のもの
で見積もった金額を現在価値に直し合計す
務期間)に応じた債券
を使用。
る。
の利回り。
これは将来発生するキャッシュフローの現時
点における評価額は実際の発生時期までに利息
を稼ぐことができるため、金額そのもので評価す
(※)現時点では案であり、今後の委員会の審議によって
は中身が変更となることもありますので予めご留意願い
ます。
るのではなく、発生までの期間に対応する利回り
で現時点まで割引いた金額で評価するという考
え方に基づくものです。
すなわち、従来は単純に平均的な支払時期(平
均的な退職時期)に応じた国債等の利回りをもと
また、割引に用いるイールドカーブはスポット
レートのカーブを用いることになります。
に1つの割引率を決定し退職給付債務の計算を
行っていたものを、給付の支払い時期ごとに対応
以下、具体的な例を用いて見てみましょう。
(例)以下の場合の負債評価額を計算する。
・1年後に 10 万円、2年後に 15 万円を支払う
ものとする。
する割引率で現価計算(イールドカーブ評価)を
行う必要が発生します。
これは支払時期や金額が異なる支払いから構
成される債務を適切に割引計算するという考え
・期間1年に対するスポットレートを 2%、期
間 2 年に対するスポットレートを 3%とする。
この場合、イールドカーブによる負債評価額は
次のとおり計算されます。
方や国際的な会計基準における考え方と整合性
を図ることを目的としたものです。
但し、イールドカーブ評価することは、以下の
ような課題があり、毎年の決算において実務上、
耐えうるか検討が必要となります。
- 2 -
5.イールドカーブ評価する場合の課題
具体的にどのような方法によって「退職給付の
イールドカーブ評価する場合の課題は主に次
の2つがあげられます。
金額も反映した」平均的な支払期間を1つ定める
のかは、今後、検討が行われていくと考えられま
① 給付見込み期間は通常、1年後、2年
すが、1つの方法として2つの異なる割引率で退
後、・・・というように1年毎に想定して
職給付債務を計算し、当該退職給付債務の変動割
おく必要があるが、市場の債券の償還期間
合から平均的な支払期間を計算する方法が考え
は必ずしも1年毎に存在していない。
られます。
② 年金は長期にわたる制度であり、例えば 60
実際には表計算ソフト等を用いて簡単な関数
歳支給開始の 15 年確定年金の場合、
現在、
を使って計算しますが、大まかにいうと割引率を
20 歳の人が最後の給付を受け取るのは 55
1%動かした場合の退職給付債務の変動割合に
年後となる。また、終身年金であれば更に
近くなります。(例えば、割引率を1%動かした
長期の期間に対応する利回りが必要とな
とき、退職給付債務が 10%変動するのであれば
るが、実際に市場に出ているのは 40 年が
10 年程度となります。)
最高となっている。
さて、以上のような方法で加重平均割引率を用
したがって、実際にイールドカーブ評価をする
いて退職給付債務を計算するのと、実際にイール
場合には、
ドカーブで精緻に計算する方法とでは、どの程度、
・ 市場に出回っている債券の償還期間と対応す
結果に違いがあるのでしょうか。
る利回りをもとに間が抜けている期間につい
ても補間を行う。
制度内容や従業員構成、イールドカーブの形状
にもよるため一概には言えませんが、筆者の計算
・ 市場に出回っている債券の最長期間以後の期
によると一般的な制度内容であれば、現在の金利
間についてもなんらかの方法で利回りを設定
環境下では概ね2%~5%程度に納まると見ら
する。
れます。
といった対応が必要となります。
また、従来、1つの割引率で計算していたのを
今回は、イールドカーブ評価について退職給付
支払い期間ごとに割引率を分けて計算すること
債務計算に与える影響を中心に説明させていた
自体、計算の負荷が増加することになります。
だきました。この数理室だよりを参考にご理解し
ていただければ幸いです。
6.実務負荷増加への対応
イールドカーブを用いて退職給付債務を計算
することはこれまで述べてきたとおり、実務面で
の負荷が増大することになります。こうした実務
「第一生命の年金通信のバックナンバー」
上の課題も踏まえ、「退職給付に関する会計基準
http://www.dai-ichi-life.co.jp/legal/welfar
の適用指針(案)」では「給付見込期間および給
e/nenkin_tsushin/index.html
付見込期間ごとの退職給付の金額を反映した単
一の加重平均割引率を使用することもできる」と
されています。
以上
(企業年金数理室 三森 健太郎)
これは、一言でいうと「退職給付の金額も反映
した」平均的な支払期間を1つ定め、当該、平均
期間に対応する年限の利回り1つ(加重平均割引
率)で退職給付債務を計算するというものです。
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