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7 八丈富士牧野放牧牛血液生化学データの季節変動

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7 八丈富士牧野放牧牛血液生化学データの季節変動
7 八丈富士牧野放牧牛血液生化学データの季節変動
〇山本健晴 南波ともみ
要 約
八丈島内にある八丈富士牧野は、黒毛和種繁殖雌牛が通年放牧飼育されている。当該牧場飼養牛の基
準値作成と栄養状態動向調査のため血液生化学データ計測を実施した。対象牛は経産牛 20 頭で、5月、
8月、11 月及び2月に採血し、検査項目は総タンパク(TP)
、アルブミン(Alb)
、血糖(Glu)
、GOT、
γ -GTP、総コレステロール(T-cho)
、無機リン(IP)
、カルシウム(Ca)
、マグネシウム(Mg)
、尿素
窒素(BUN)及び遊離脂肪酸(NEFA)とした。結果は年間を通し、低 T-cho、高 GOT、高γ-GTP、
高 NEFA の傾向が見られた。また IP と BUN は、2月はその他の時期と比較して有意に低値であった。
これらから当該牛群は、年間を通したエネルギー不足傾向と、冬季の蛋白質・澱粉質不足が疑われた。
当該牧場は冬季に放牧場内青草の摂食量が低下するため購入乾草を給与しているが、飼料計算の結果、
給与量不足が疑われ、また、過去4年間において冬季の繁殖成績が悪かった。今後、牧野管理者と相談
し実現可能な方法での飼料給与改善を行いながら引き続きデータの収集を行う。同時に、収集した血液
生化学データを当該牧場の基準値として事故発生時の対応に活かしていく。
八丈支所管内にある八丈富士牧野は、
所有主体、
いずれも 13 時 30 分より開始し、当所にてベノ
管理主体ともに八丈町である通年放牧形式の牧場
ジェクトⅡ真空採血管オートセップ血清分離剤凝
である。当該牧場は平成 14 年度から黒毛和種の
固促進フィルム入(TERUMO)により採血日に
導入を開始し、平成 20 年度から八丈町民に対し
血清を分離、翌日東京都家畜保健衛生所本所(立
て和牛貸付事業を行っている。人工授精業務や日
川市)へ空輸し、各血液生化学項目の測定を行っ
常的な診療は八丈町役場職員である獣医師が行っ
た。検査項目は、総タンパク(TP)
、アルブミン
ており、
東京都家畜保健衛生所八丈支所
(当所)
は、
(Alb)
、血糖(Glu)
、GOT、γ-GTP、総コレス
指導機関として衛生指導、繁殖指導及び病性鑑定
テロール(T-cho)
、無機リン(IP)
、カルシウム
事業等を行っている。今回当所は、当該牛群の生
(Ca)
、マグネシウム(Mg)
、尿素窒素(BUN)
産性向上と病性鑑定時のより正確な診断を目的と
及び遊離脂肪酸(NEFA)の 11 項目とした。測
して、季節ごとに血液生化学データを測定し栄養
定機器は NEFA については血液生化学自動分析
状態の推移を観察した。
装置(TBA-25FR,東芝メディカルシステムズ㈱,
栃木)を、それ以外の項目については富士ドライ
材料及び方法
ケム 7000V
(富士フイルム㈱,
神奈川)
を使用した。
、平
採血年月日は、平成 26 年 11 月3日(秋)
統計処理として血液生化学検査値の検定及び牛
成 27 年2月 24 日(冬)
、
平成 27 年5月 14 日(春)
体重値の検定に分散分析を行った。
及び平成 27 年8月 20 日(夏)の計4回。検査対
成 績
象牛は、検査期間を通して八丈富士牧野で放牧さ
れていた黒毛和種の経産牛 20 頭とした。採血は
各血液生化学検査測定値を図1-1及び図1-
平成27年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2017)
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図1-1 血液生化学検査測定値
平成27年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2017)
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※平成 26 年 12 月、平成 27 年 3 月及び 9 月は悪天候の影響
で体重測定を実施していない
図2 牛群平均体重の推移
表1 当該牛群の1頭当り飼料要求量
CP と TDN をもとにした飼料設計
・繁殖牛体重 500 ㎏(放牧牛の場合×1.3)
維持飼料: 乾燥 7.8 ㎏ + 配合飼料 0.4 ㎏
妊娠期:
乾燥 7.8 ㎏ + 配合飼料 2.6 ㎏
授乳期(5 ㎏の場合):乾燥 8.7 ㎏ + 配合飼料 3.4 ㎏
**: 他の測定日の値と比較して有意差あり(P < 0.01)
表2 飼料給与状況
5月~9 月
10 月 ~ 4 月
・放牧場内青草
オーチャードグラス
カーペットグラス
ノジバ
シロクローバーなど
・・・摂 食 量 不 明
・購入乾燥
チモシー
・・・2.5~ 3.0 ㎏ /頭 /日
・濃厚飼料
・濃厚飼料
・・・3.5 ㎏ /頭 /日
・・・1.5~ 2.0 ㎏ /頭 /日
**: 他の測定日の値と比較して有意差あり(P < 0.01)
高値で推移した。T-cho は、季節変動は見られな
かったが、年間を通して基準値よりやや低値で推
図1-2 血液生化学検査測定値
移した。BUN は、2月に有意に低下した。その
他の時期は教科書的な基準値内で推移した。IP
2に示した。各図中のプロットは各牛の値を示
は、2月に有意に低下した。その他の時期は基準
し、
図中の実線は教科書的な基準値の範囲を示す。
値よりやや高値で推移した。
GOT、γ-GTP 及び NEFA については実線より
なお、採血時には小型ピロプラズマ病対策とし
低値が基準値である。
てのプアオン法による薬剤散布を行い、採取血液
TP、Alb、Glu、Ca 及び Mg は、季節変動は
を用いて Ht 値の測定と血液塗沫標本による小型
見られず、また概ね教科書的な基準値内で推移し
ピロプラズマ病検査を行っているが、問題となる
た。GOT、γ-GTP 及び NEFA は、季節変動は
寄生率や症状を呈する牛は、全検査期間を通して
見られなかったが、年間を通して基準値よりやや
見られなかった。
平成27年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2017)
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3.0 ㎏と目標量の1/3~1/2であった。一方、
12
青草摂食量が不明である温暖期は濃厚飼料給与量
AI実施数
受胎数
10
が不足しているにもかかわらず、血液生化学的な
栄養不足に陥っておらず、2月において特に栄養
8
不足となっている原因として、乾草給与不足に加
6
え、この時期に特に採食できる牧野内青草量が低
4
下していることが考えられた。なお栄養要求量の
計算は、実際に当該牧場で給与している乾草と濃
2
厚飼料の栄養成分をもとに計算した。
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
図3㻌 繁殖実績累計数㻌
図3 繁殖実績累計数
平成 24 年から 26 年までの3年間の各月繁殖実
績累計数(AI 実施頭数と受胎頭数)を図3に示
した。2月、3月は3年間の累計受胎頭数が0で
また、当該牧場では悪天候などで作業困難な場
あることが判った。2月は栄養不足が示唆されて
合を除き、毎月全頭の体重測定を行っている。検
いるにもかかわらず、平均体重は寒冷期にやや低
査対象牛の平均体重を図2に示した。平均体重は
下するものの年間を通して有意差のある変動は見
寒冷期にやや低下する傾向にあるが、いずれの測
られない。このことから栄養不足時に牛は摂取し
定日も有意差はなく、年間を通して 500 ㎏前後で
た栄養の多くを維持に利用しており、結果として
推移していた。
繁殖効率低下の一因となっていることが判った。
考 察
まとめ
GOT、γ-GTP 及び NEFA の高値と T-cho の
本検査成績により、季節ごとの八丈富士牧野放
低値から、当該牛群がややエネルギー不足であ
牧牛の血液生化学データが明らかになった。得ら
る可能性が示唆されたが、TP、Alb、Glu、Ca、
れたデータは当該牧場の基準値として今後の病性
Mg、GOT、 γ-GTP、NEFA 及 び T-cho は 年 間
鑑定等に役立てていく。また今回の計測で、冬季
を通して有意な変動が見られず、当該牛群の基準
に栄養不足が生じており、繁殖効率低下の一因と
値であると推測された。
なっていることが示唆された。当該牧場を実際に
BUN、IP は2月に他の測定時と比較して有意
管理している町獣医師と牧野管理者に対して結果
に低下しており、冬季における蛋白質不足と澱粉
を報告し、冬季の栄養不足を補うために、以下の
質の不足が示唆された。この原因を明らかにする
飼料給与改善策を提案した。
ため、牧野管理者から年間の飼料給与状況を聞き
1)放牧場内青草をほとんど摂食できていないと
取り、
当該牛群の栄養要求量を計算して比較した。
思われる時期の乾草給与量増加。2)給与ロスの
牛群の飼料要求量を表1に、飼料給与状況を表2
少ない乾草給与方法の実施。具体的には、給与時
に示した。給与飼料は牧野内青草の育成状況によ
に圧縮された乾草ブロックを充分にほぐして与え
り、
5月から9月(温暖期)と 10 月から4月(寒
ること及び草架の利用。今後は牧野管理者と相談
冷期)で異なっていた。寒冷期において、当該牛
し実現可能な方法での飼料給与改善を行いながら
を繁殖雌牛として利用するためには概ね乾草8
引き続きデータを収集し、当該牧場の生産性向上
㎏、濃厚飼料3㎏の給与が必要であるが、実際給
に努めていく。
与量は、濃厚飼料は充足しているが乾草は 2.5 ~
平成27年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2017)
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