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蛋白質核酸酵素:神経栄養因子BDNFの機能変調と精神疾患の関係

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蛋白質核酸酵素:神経栄養因子BDNFの機能変調と精神疾患の関係
S h
o
t
r
R e
i e
v
w
神経 栄養因子BDNFの
精神疾患の関係
Brain-derived
neurotrophic
factor
機 能変調 と
and psychiatric
diseases
小 島正己
神 経成 長因子NGFの
発見 以来,神 経 成長 因子 を含 めた神経栄 養 因子の研 究 は進展 が続 いている.第2の
神経 成 長
因子 と して発 見された脳 由来神 経栄養 因子BDNFは,成
熟脳で発 現が高 く,そ の受 容体 も脳 に広 く分布 して いるこ
とか ら,シ ナプス機能 の調節 因子 と しての研究 が進展 している.ポ ス トゲ ノムと してのBDNF研 究 は,脳 精 神疾 患
の発症 要 因と して のBDNFの
機 能異 常や,脳 の個 性 の理解 につ なが るBDNFの
る.ま だ10年 も経 たない21世 紀で あるが,今 世紀 のBDNF研
一塩 基多 型の研 究へ と発展 して い
究の新 展開 を紹介 しなが ら,脳 に存在す る成長 因子
Database Center for Life Science Online Service
の役割 を考えた い.
●脳 由来神 経 栄養 因 子 ●分 泌 ●精神 疾 患 ●一塩 基多 型 ●脳
Key words
21世 紀 のBDNF研
は じめ に
題 に も取 り組 んで い る.そ の ひ とつ が,BDNFの
神 経 栄 養 因 子 は 神 経 細 胞 の 分 化,成
液 性 因 子 群 で あ り,内
分 泌,傍
分 泌,自
本 稿 で は,脳
と精 神 疾 患発 症 との 関係 で あ る.精 神 疾 患 研 究 は,本 来 の
己 分 泌 に よっ てそ
臨 床 薬 理,分 子 遺伝 学,画 像/病 理 学 な どに,"分 子"を 核
と した分 子 医学 が加 わ った 統 合 的 脳 研 究 とな り,神 経 栄 養
由 来 神 経 栄 養 因 子(brain-derived rotrophic factor ; BDNF)と
疾 患 の 関 係 に つ い て,最
近 の 論 文 を 中 心 に 紹 介 す る.
TrkBは
ら,神
代 にBardeら
代 は じめ に そ のcDNAが
発 見 さ れ た が,こ
受 容 体 型 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ で あ っ た.こ
の
一塩基
多 型 に よ る脳 機 能変 化 と不 安 行 動,(3)神 経 栄 養 因 子 と統 合
関 係,を
中心 に解 説 す る.
I
うつ病 に対する
BDNFの
神経機能保護作用
精 神 疾 患 や 精 神 的 ス トレス に伴 う神 経 栄 養 因子 の量 的 変
の 関連 分 子 の遺 伝 子 改 変 マ ウ
動 や そ の機 能 変 調 を示 す 論 文 が増 え てお り,神 経 栄 養 因子
生 理 的 役 割 は 分 子 レベ ル で 解 明
が 精 神 疾 患 治療 の バ イ オマ ー カー や 創 薬 ター ゲ ッ トとな る
加 速 し,BDNFとTrkB,そ
さ れ て き た(図1).BDNFは
成 熟 脳 で 発 現 が 高 い た め,シ
ナ プ ス 機 能 調 節 の 研 究 が 進 み,神
け る 役 割 も 明 らか に な っ た.こ
つ い て は,総
うつ 病 との 関 係,(2)BDNFの
の ころ か
経 栄 養 因子 が 担 う生 理 作 用 の シ グナ ル伝 達 の研 究 は
ス の 作 製 に よ っ てBDNFの
稿 で は,(1)BDNFと
が単離 し
ク ロ ー ニ ン グ され て か
容 体TrkBが
因子 の機 能 変 調 は その発 症 要 因 と して注 目 され て い る.本
失 調 症 感 受性 遺 伝 子DISC1の
growth factor ; NGF)に
続 く神 経 栄 養 因 子 と し て,1980年
ら数 年 後 に は,BDNF受
neu-
よ ば れ る神 経 栄 養 因 子 と精 神
神 経 成 長 因 子(nerve た.1990年
機能変調
存 維 持 を促 す
熟,生
の 生 理 作 用 を行 な う.
BDNFは
究 はポ ス トゲ ノ ム を意識 した新 しい 課
経 回 路 の 形 成 や発 達 に お
れ ら のBDNF研
究 の進 展 に
可 能 性 が 期 待 され る.
た とえば,BDNFの
抗 うつ作 用 が 見 い だ され て い る.こ
こで は,DumanとMonteggiaの
総 説4)を 中心 に,最 近 ま
で の知 見 を紹 介 す る.う つ 病 は生 涯 有 病 率 が10∼20%と
説1-3)が くわ し い.
非 常 に高 い精 神疾 患 で あ るが,BDNFの
抗 うつ作 用 は1997
年 にSiuciakら が報 告 してい る5).つ ま り,う つ病 モ デ ル動
Masami Kojima
物(強 制 水 泳 と学 習 性 無 力)の 脳 室 にBDNFを
産 業 技 術 総 合 研 究 所 セ ル エ ン ジ ニ ア リン グ研 究 部 門
そ の行 動 異 常 が改 善 され た.BDNFの
投与す る と
抗 うつ作 用 は,拘 束
E-mail:[email protected]
ス トレスが 海 馬 のBDNFを
900
蛋白質 核酸 酵素
Vol.52 No.8 (2007)
減 少 させ る こ とや,抗
うつ薬 の
S h o r t R
慢 性 投 与 に よ り海 馬BDNFの
発 現 が 上 昇 す る とい っ た結 果
か ら も支 持 され る6).こ れ らの知 見 は,動 物 モ デ ル を用 い
作 用 は,従
た もの で あ っ た.し か し,う つ 病 患 者 や 抗 うつ 薬 の処 方 後
え ば,ト
に死 亡 した患 者 の 死 後脳 の研 究 もBDNFの
持 す る7).ま た,BDNFは
や,抗
来 のBDNF刺
v
ま り,BDNFの
i e w
抗 うつ
激 と は異 な る シ グ ナ ル 伝 達(た
と
ラ ン ス 活 性 化)を 行 な う こ と が 予 想 され る.
抗 うつ 作 用 を支
血 中 に含 まれ る こ とが 知 られ て
い たが,う つ 病 患 者 の 血 中BDNF濃
II 社 会 的ス トレス とBDNFの
関係
度 が 下 が って い る こ と
うつ 薬 の 処 方 が症 状 の改 善 と と もに血 中BDNF濃
度
うつ病 やそ れ に関連 す る精 神 疾 患 の研 究 の多 くが 海 馬 や
を上 昇 させ るこ と も明 らか に な ってい る8).IGF-1やVEGF
前 頭 前 皮 質 の機 能 と構 造 の変 化 に注 目 し,治 療 の多 くが 既
の よ うに末 梢 神 経 か ら脳 に移 行 す る成 長 因 子 もあ る が,血
存 の セ ロ トニ ンや ノル ア ドレナ リ ンの 機 能 改 善 薬 に よって
中BDNFの
い る こ とは,こ れ らの疾 患 に 関係 す る神 経 回路 の 発 見 と新
精 神 疾 患 バ イオ マ ー カー と して の期 待 を考 える
と,脳 中BDNFと
BDNFの
血 中BDNFと
の 関連 は興 味深 い4).
抗 うつ 作 用 の発 現 メ カ ニ ズム は何 か?驚
き こ とに,抗
薬 開発 の機 会 を減 ら してい る.
くべ
Nestlerら は,脳 の 報 酬 系 を 司 る腹 側 被 蓋 野 か ら側 坐 核
うつ 薬 の慢 性 的投 与 が成 体 マ ウス の 海 馬 で の
の ドー パ ミン経 路 に注 目 した うつ 病 研 究 を展 開 して い る.
神 経 新 生(neurogenesis)を
Database Center for Life Science Online Service
位 で あ る こ と を示 した12)(図1).つ
e
促 進 し9),そ の 阻害 実 験 は抗 う
つ薬 の効 果 を遮 蔽 す る10).し か し,BDNFの
マ ウス とBDNF受
そ の理 由 は,う つ 病 や情 動 障 害 に は喜 び や快 楽 の 欠 如 の よ
ノ ック ア ウ ト
うな無 快 感 症 や性 欲 減 退 とい っ た報 酬 系 の機 能 低 下 が 伴 う
容 体 の ドミナ ン ドネ ガテ ィブ型 の発 現 マ
か らで あ る13).最 近,こ の グ ルー プ は,社 会 的 交 流 の 意 欲
ウ スの 実 験 は,BDNFの
抗 うつ作 用 は神 経 新 生 の促 進 作 用
を減 少 させ る"社 会 的敗 北 パ ラ ダイ ム"の 実 験 系 を用 い て,
で は な く新 生 ニ ュ ー ロ ンの 生 存 保 護 作 用 で あ る こ とを示 し
社 会 的 ス トレス とBDNFの
て い る11).し たが って,神 経 新 生 を指標 に した抗 うつ薬 の
スが 巨 大 な マ ウス と10日 間接 触 を続 け る とい う嫌 な体験 を
効 果 とBDNFの
す る と,そ のあ と も,ほ か の マ ウス に対 す る社 交性 の低 下
抗 うつ 的効 果 は異 な るメ カニ ズ ム に よる可
能 性 が考 え られ る.BDNFの
抗 うつ 効 果 の メ カニ ズ ム研 究
は まだ 少 ない が,Saarelainenら
が 前 頭 前 皮 質 のBDNF受
は,抗 うつ 薬投 与(30分)
容体TrkBとCREBを
が,こ の と きリ ン酸 化 され たTrkBの
活性 化 す る
チ ロシ ン残 基 は,Shc
と結 合 す る部 位 で は な く,ホ ス ホ リパ ーゼCγ1と の結 合 部
関 係 を報告 してい る.実 験 マ ウ
(回避 行 動)を 続 ける よ う にな る14)(図2).こ
の よ うな 回避
行 動 は一 時 的 な気 分 不 安 に よ る もの なの か?慢
分 障 害 に よ るの か?不
性 的 な気
安 緩 解 薬 ベ ン ゾ ジア ゼ ピ ンは効 か
な いが 抗 うつ 薬 イ ミプ ラ ミ ンが 効 いた こ とか ら,こ の 障 害
は うつ様 の 慢性 的気 分 障 害 と考 え られ た.こ の気 分 障 害 を
図1
BDNFに
BDNFの 作 用を発揮 するためのTrkB受
体 とその下 流のシグナル伝達
容
高親和性 に結合する受容体 型チロシンキナーゼ
TrkBに 力口えて,BDNFに
低 親 和 性 に結 合 するp75受
容 体3)
が存 在 す る が ここ で は省 略 して いる.抗
うつ薬 は大 脳 皮 質
にお い て ホス ホ リパ ー ゼCγ1(PLCγ1)を
介 す る シ グナ ル
を強 化 す る.
IP3:イ ノ シ トール1,4,5-ト リス リン酸,DAG:ジ
リセ ロール.PKC:プ
ロ テイ ンキ ナー ゼC,PI3K:ホ
ァチ ジル イ ノシ トー ル3-キ ナ ーゼ,YP:リ
ア シル グ
スフ
ン酸 化 さ れた チ
ロシ ン残 基.
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.52 No.8 (2007)
901
III BDNFの
一塩基多型による
脳機能修飾
脳 が 働 くし くみ につ い て は,脳 の 各 領 域 で発 現 す る分 子
種 の 違 い や 各 領 域 での 活 動 の 違 い な どに よ り説 明 され て き
た.し か し,一 人 一 人 の脳 の違 い,た
とえ ば,脳 の個 性 や
疾 患 リス クの 個 人 差 の 分 子 メ カニ ズ ム の解 明 は ま だ進 ん で
い な い.こ の よ うな個 人差 の発 現 に は,脳 の お か れ た環 境
とわ れ わ れ の遺 伝 子 との相 互 作 用 が重 要 で あ る こ とは 間違
い な い.わ れ われ の ゲ ノ ム上 に は脳 の 個 性 を生 み 出す 可 能
性 を秘 め た情 報 が含 まれ る.そ の ひ とつ が 一 塩 基 多 型(single nucleotide polymorphism Database Center for Life Science Online Service
存 在 す る と推 定 され るSNPす
む ず か しい が,各SNPの
; SNP)で
あ る.数 百 万 も
べ て を同 時 に扱 うこ と は まだ
分 子機 能 と脳 機 能 の関 係 を理解 す
る こ とは現 状 の手 法 で も可 能 だ と考 え られ る.
1.BDNFの
一 塩基 多 型
筆 者 らは,BDNFのSNPに
る.ゲ
注 目 し,こ
ノ ム デ ー タ ベ ー ス はBDNFの
ミ ノ 酸 残 基 を 置 換 す るSNPを6つ
の研 究 を進 め てい
コー デ ィ ング領 域 にア
提 示 し て お り,SNPの
子 解 析 モ デ ル と し て 期 待 さ れ て い る15).BDNFは
図2
社会 的ス トレスを受けたマウスの社交性 の喪失
(proBDNF)と
(a)大 型 マ ウス と連 日 接触 す る とい う社 会 的 ス トレス を受 け たマ ウス は著 しく
社 交 性を失 う.
(b)こ の 経験 を した マ ウス(defeat)は,接
触 ゾー ン にほ かの マ ウ ス(aggres-
sor)を お くと右 下 の 赤 の行 動 軌 跡 の よ うに 回 避 行 動 を と るが,経
験 を して い
して 合 成 さ れ,プ
プ ロ テ ア ー ゼ(Furin,メ
BDNF(matureBDNF)に
分
前駆 体
ロ セ シ ン グ 部 位 を認 識 す る
タ ロ プ ロ テ ア ー ゼ な ど)に よ り成 熟
変 換 さ れ る が,BDNFのSNPは
す べ て プ ロ ドメ イ ン(図3a)に
位 置 す る.成
熟BDNFの
配
な い 対照 マ ウス は左 下 の黒 の 軌 跡 の よ うに ほか のマ ウス との 接 触 を とる.
[文献25,26よ
列 中 にSNPが
り許 可 を得 て 転載]
な い こ とは,わ
要 で あ る こ と を 思 わ せ る.ま
ン-3(NT-3)に
分子 レベ ル で理解 す るためDNAア
想 外 の結 果 と なっ た.つ
レイ解析 を行 な う と,予
ま り,こ の よ うな精 神 的 シ ョッ ク
こ と は,成
はBDNFの
れ わ れ の 脳 機 能 にBDNFが
た,NGFや
で は,BDNFの
を機 能 修 飾 す る も の と予 想 さ れ る.
るの で,腹 側 被 蓋 野 のBDNFを
生細 胞 と して知 られ
ウ イル ス で局 所 的 に ノ ック
ア ウ トす る と,ほ か のマ ウス に 対 す る社 交 性 の低 下 は緩 和
した.つ
ま り,本 来,報 酬系 と して機 能 す る腹 側 被 蓋 野 か
ら側 坐 核 の ドーパ ミン経 路 は,BDNFシ
グ ナ ル を強化 す る
2.BDNFのSNPが
対 し て,発
はSNPが
可 能 性 を推 測 さ せ る.し
被 蓋 野 ドーパ ミン神 経 細 胞 はBDNF産
存 在 し な い.こ
熟 脳 で お も に 作 用 す るBDNFに
を受 けた マ ウ スの 腹 側 被 蓋 野 か ら側 坐 核 の ドーパ ミ ン経 路
発 現 レベ ルが 上 昇 してい た の で あ る.腹 側
ニ ュ ー ロ トロ フ ィ
よ う なSNPが
に 作 用 の 中 心 の あ るNGF,NT-3で
重
の
達期
致 死 的 に働 く
た が っ て,BDNFのSNPは
成熟脳
エ ピ ソ ー ド記 憶 を 修 飾 す る
細 胞 メカニ ズム
筆 者 ら は,66番
Val66Met変
目 のValをMetに
置 換 す るSNP(図3a,
異)の 研 究 を行 な っ て き た16).わ
ず か1ア
ミノ
とい う ま った く逆 の反 応 を起 こす こ とで うつ 状 態 を維 持 し
酸 残 基 の違 い を生 化 学 的 に解 析 す る こ と は困 難 で あ った た
てい る よ うで あ る.
め,Valを
コ ー ドす るBDNFの
を コ ー ドす るBDNFの
遺 伝 子(Va1-BDNF)とMet
遺 伝 子(Met-BDNF)にGFPの
子 を つ な い で 培 養 海 馬 神 経 細 胞 に 導 入 した.BDNF-GFPの
902
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.52 No.8 (2007)
遺伝
S h
蛍 光 を 追 跡 し た と き,Val-BDNFに
比 べMet-BDNFは
顆 粒 へ の 移 行 の 時 間 的 効 率 が 悪 い こ と(図3b,c),そ
と し て,BDNFの
分泌
の結果
神 経 活 動 依 存 的分 泌 が低 下 す るこ とが 見
い だ さ れ た(図3d).
グ ル ー プ は,BDNFの
と を み つ け た.641人
の ボ ラ ン テ ィ ア に お い て,Metア
の 出 現 頻 度 は 約30%で
査(Wechsler Memory あ っ た.最
Scale-Revised ; WMS-R)に
の 物 語 を 覚 え た の ち,第1話
ス トを 行 な っ た(言 語 性 対 連 合II).そ
よる
レ メ ン トか
を聴 い て 第2話
い 出 す テ ス トを 行 な い(言 語 性 対 連 合I),30分
の 結 果,Valア
レル の あ い だ に 差 が 認 め ら れ,Met/Met型
を思
後 に想起 テ
レル
はとく
4b).つ
v i e w
e
じテ ス トに つ い て のimmediか し,文
字
後 に復 唱 す る カ リフ ォル ニ ア言 語 学
味 記 憶,ワ
ど に はVal66Met変
ーキ ング メモ リー
異 は 影 響 し な か っ た(図
ま り,Val66Met変
異 は前 頭 前 野 が お も に 使 わ れ る
記 憶 に は 関 係 な い が,海
馬 が 関 与 す る エ ピ ソ ー ド記 憶 に特
異 的 に 影 響 す る こ とが 示 唆 さ れ た.
Val66Met変
Leeの
異 がBDNFの
細 胞 内 輸 送 に 影 響 す る こ と は,
グ ル ー プ17)お よ びAlberchの
い る.Val66Met変
グ ル ー プ18)も 報 告 して
異 とハ ンチ ン ト ン病 発 症 の 関 係 を 細 胞
レ ベ ル で 理 解 す る た め,Alberchと
ム は,そ
筆 者 らの 共 同 研 究 チ ー
の 細 胞 モ デ ル を 開 発 し た18).ポ
リグル タ ミンが 付
加 し た ハ ン チ ンチ ン蛋 白 質 とMet-BDNFの
共発 現 が細 胞 機
Database Center for Life Science Online Service
とMetア
レル
初 は ウエ クス ラー 記憶 検
言 語 性 エ ピ ソ ー ド記 憶 の 試 験 を行 な っ た.50エ
ら な る2つ
列 を 即 時 あ る い は20分
(WCST)な
異 の ア レル の 違 い が ヒ トの 記 憶 力 に 影 響 す る こ
t R
ate recall値 に も や は り有 意 差 が 認 め られ た.し
習 テ ス ト(CVLT),意
共 同 研 究 者 のWeinbergerの
Val66Met変
に 低 い 値 を示 し た(図4a).同
r
o
Val66Met変
図3
異 とBDNF分
泌機 能との関係
(a)BDNF-GFP融
Val66Metの
合 蛋 白 質 の 構 造.
位 置 を赤 矢 印 で示 した.
(b)Val-BDNFを
発 現 した細 胞 体 で は分
泌 顆 粒 ク ラス ター が多 い が,Met-BDNF
を発 現 した 細 胞で は少 な い.グ ラ フ は定
量 化 した もの.
(c)Val-BDNFは
分 泌 小 胞 のマ ー カ ーで
あるsecretegranin II(SecII)と よ く共
局 在 する が,Met-BDNFは
共局在が弱
い.
(d)Val66Met変
の 影 響.構
異 のBDNF分
泌機能へ
成 的 分 泌(刺 激 な し2時 間)
は,ほ とん ど変 わ らな い.し か し,活 動
依 存 的分 泌(50mM KCl刺 激30分
間,
そ れ ぞ れ左 側 は 対照)に つ い て は,ValBDNFよ
りMet-BDNFが
[文 献16よ
蛋白質 核酸 酵素
Vol.52 有意 に低 い.
り許可 を 得 て転 載]
No.8 (2007)
903
図4
Val66MetのSNPと
エ ピ ソ ー ド記 憶 の 関 係16)
(a)各 ア レル にお け るエ ピソー ド記 憶 の ス コア を グラ フ化 した.%は
Database Center for Life Science Online Service
(b)ボ ラ ンテ ィア に よる コ ホー 卜解 析.意
味 記 憶,ワ
各 ア レル の 出現 頻 度.
ーキ ン グ メモ リー な ど にVal66Met変
異 は影 響 しな い.
リグ ル タ ミ ン付 加 ハ ンチ
研 究 や 脳 機 能 画 像 解 析 の研 究 か ら,統 合 失 調 症 の 原 因 が神
ンチ ン蛋 白 質 はVal-BDNFの
正 常 分 泌 機 能 だ け に影 響 して
経 細 胞 の発 達 障 害 にあ る とす る仮 説 が い ま懸 命 に検 証 され
いた.し か し,今 後,SNPの
細 胞 機 能 を よ り詳 細 に解 析 す
てい る.こ こで は,こ の仮 説 を分 子 レベ ル で 実体 化 した最
能 変 性 を起 こす と期 待 したが,ポ
る ため に は,こ の よ う な細 胞 モ デ ル が 有 用 で あ る と考 え ら
れ る.
近 の成 果 を紹 介 す る22,23).
名 古 屋 大 学 の 貝 淵 弘 三 の グ ル ー プは,統 合 失 調 症 の 有 力
Leeの グル ー プ は,最 近,Val66Met変
異 モ デ ルマ ウス を
な 感 受 性 遺 伝 子(そ の 変 異 が 発 症 率 に 影 響 す る 遺 伝 子)
報 告 した19).こ の マ ウス 由 来 の培 養 大 脳 皮 質 神 経 細 胞 は,
Disrupted-in Schizopherenia-1(DISC1)の
や は り神 経 活 動 依 存 的 なBDNFの
る蛋 白 質 を解 析 した.ス
分 泌 能 が低 下 し,ヒ
トの
産物 に 結合 す
コ ッ トラ ン ドの精 神 疾 患 多 発 家系
ニ ュー ロイ メ ー ジ ングの 結 果20)に 一 致 して 海 馬 体積 が 減 少
の遺 伝 学 的 解 析 か ら発 見 され たDISC1遺
した.SNPの
に よ って 精 神 疾 患 を高 頻 度 に発 症 させ る.つ
モ デ ル動 物 は ヒ トの表 現 型 を予 見 で きる と期
待 され る.Val66Met変
異 マ ウス の研 究 か ら,(1)海 馬 神 経
蛋 白 質(854ア
伝 子 は,そ の 転 座
ま り,DISC1
ミノ酸 残 基)の うちC末 端 の257ア
ミノ酸 残
細 胞 の樹 状 突 起 の 複雑 度 が 減 少 して い る こ と,(2)オ ー プ ン
基 の欠 落 が発 症 に関 与 す る と予 想 され るが,DISC1自
フ ィー ル ドや 十 字 迷 路 を用 い た 行 動 試 験 か ら著 し く不 安 が
亢進 して い る こ と,(3)抗 うつ 剤 の 長 期 投 与 に よ り不 安 が 緩
分 子 機 能 は まだ 十 分 に理 解 され て い ない.そ こで,酵 母 ツ
ーハ イ ブ リ ッ ドス ク リー ニ ン グや 質量 分 析 を用 い たDISC1
和 され る こ と,な どが見 いだ され た.Val66Met変
結 合 蛋 白質 の探 索 が 世 界 的 に進 め られ て い るが,こ
らす 活 動 依 存 的 なBDNF分
異 が もた
泌 の低 下 が こ れ らの表 現 型 に ど
の よう に関係 す る のか は興 味 深 い問 題 で あ る.
ム は,DISC1が
IV 神経栄養因子 と統合失調症感受性遺伝
子DISC1の
関係
養 海 馬 神 経 細 胞 にsiRNAや
合 蛋 白 質 を導 入 す る細 胞生 物 学 と分子 生物 学 を巧 み
に組 み合 わせ た実 験 は,(1)DISC1が
伸 長 に重 要 なNUDEL複
神 経 細 胞 の移 動 や軸 索
合 体(NUDEL-LIS1-14-3-3ε)と
合 す る こ と,(2)DISC1はNUDEL複
統 合 失 調 症 は10代 後 半 か ら20代 を中 心 に発 症 す る精 神
のチ ー
神 経 栄 養 因子 依 存 的 な軸索 成 長 に重 要 な分
子 で あ る こ とを発 見 した.培
GFP融
身の
結
合 体 を軸 索 先 端 に輸 送
す るた め に微 小 管 レー ル 上 の モ ー ター蛋 白 質 キ ネ シ ン-1と
疾 患 で あ り,激 しい幻 覚 や妄 想 とい った 陽 性 症 状 と感 情 の
結 合 す る こ と,を 示 した.さ
平 板 化 や 思 考 内 容 の 貧 困 化 な どの陰 性 症 状 を呈 す る.統 合
と生 化 学 的 な研 究 か ら,(1)神 経 栄 養 因 子 に よる軸 索 伸 長 の
失 調 症 の神 経 病 理 学研 究,画 像/病 理研 究,臨
シグ ナ ル伝 達 を介 す るGrb2がDISC1に
床薬理学 な
どの研 究 は着 実 にそ の 成 果 をあ げつ つ あ るが,そ
の発 症 メ
カニ ズ ム は まだ解 明 に至 っ て い ない21).し か し,死 後 脳 の
904
蛋白質 核酸 酵素
Vol.52 No.8 (2007)
(2)軸索 先 端 で のGrb2の
にDISC1が
らに研 究 チー ム は,質 量 分 析
局 在 とNT-3依
直 接 結 合 す る こ と,
存 的 なErkの 活 性 化
関 与 す る こ と,(3)DISC1のsiRNAの
添加 によ
S h
ってNT-3依
存 的 な軸 索 伸 長 が 抑 制 され る こ と,を 明 らか
に した.神 経 栄養 因子 は神 経 回路 の構築 と機 能 の 発 達 に重
要 な成 長 因 子 で あ るた め,こ の発 見 は統 合 失 調 症 の新 規 治
o
r
t R e v i
e
7) Chen, B. et al.: Biol.Psychiatry, 50, 260-265 (2001)
8) Karege, F. et al: Psychol. Res., 109, 143-148 (2002)
9) Malberg, J., Duman, R. S.: Neuropsychopharmacology, 28, 15621571(2003)
療 薬 の 開発 の重 要 な糸 口 と期 待 で きる.
10) Santarelli, L. et al.: Science, 301, 805-809 (2003)
11) Sairanen, M. et al.: J. Neurosci., 25, 1089-1094(2005)
12) Saarelainen, T. et al.: J. Neurosci., 23, 349-357 (2003)
お わ りに
精 神 疾 患 は,ス
トレス が大 きい こ の現 代 社 会 にお い て発
症 リス ク の高 い難 病 に もか か わ らず,そ の 治療 法 は十 分 と
(2006)
14) Berton, 0. et al.: Science, 311, 864-868 (2006)
は い え ない.本 稿 で は,BDNFと
15)小
い う脳 の一 成 長 因 子 の機
能 変 調 が精 神 疾 患 発 症 の 要 因 に な りう る こ と を解 説 した.
この よ うな新 展 開 は にわ か な もの で は な く,神 経 栄 養 因子
研 究 の 長 い歴 史 が培 っ た もの で あ る.し か し,重 要 で あ り
な が ら も解 決 され ず に 残 る 問 題 も存 在 す る.た
BDNFの
Database Center for Life Science Online Service
13) Nestler, E. J., Carlezon, W. A. Jr.: Biol. Psychiatry, 59, 1151-1159
と え ば,
分 泌 メ カニ ズ ム は この分 子 の神 経 回路 にお け る役
島 正 己 ・原 と も子 ・小 清 水 久 嗣:神 経 研 究 の 進 歩,48,799-807
(2004)
16) Egan, M. F. et al.: Cell, 112, 257-269 (2003)
17) Chen, Z. Y. et al.: J. Neurosci., 24, 4401-4411 (2004)
18) del Toro, D. et al: J. Neurosci., 26, 12748-12757(2006)
19) Chen, Z. Y. et al.: Science, 314, 140-143 (2006)
20) Pezawas, L. et al: J. Neurosci., 24, 10099-10102(2004)
割 を知 る うえ で重 要 で あ る が,未 解 決 の ま まで あ る.一 塩
21) Ross, C. A. et al.: Neuron, 52, 139-153 (2006)
基多 型 に よるBDNFの
22) Taya, S. et al.:J. Neurosci., 27, 15-26 (2007)
トにお け るBDNFの
分 泌 機 能 へ の影 響16-18)や,脂 質 ラフ
局 在24,27)の可 能性 は,そ の解 決 に糸 口
を与 え る.長 年,研 究 され て い る成 長 因 子 だ け にす べ てが
解 決 され た と思 われ が ち で あ るが,one millionも のquestionsが まだ残 って い る.
文
23) Shinoda, T. et al: J. Neurosci., 27, 4-14 (2007)
24) Suzuki, S. et al: J. Cell Biol., 167, 1205-1215 (2004)
25) Holden, C.: Science, 311, 759 (2006)
26) Tsankova, N. M. et al.: Nature Neurosci., 9, 519-525 (2006)
27) Suzuki, S. et al : J. Neurosci., in press
献
1) Poo, M. M.: Nature Rev. Neurosci., 2, 24-32 (2001)
小 島正 己
2) Bibel, M., Barde, Y. A.: Genes Dev., 14, 2919-2937 (2000)
略 歴:1995年 3) Reichardt, L. F.: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci., 361,
同年 三菱 化学 生命 科 学研 究 所 特 別 研 究員,1996年 科 学技 術振
興 事 業 団 さきが け研 究21 専任 研 究 員,2000年 通商 産 業省 工業
1545-1564(2006)
大 阪 大学 大 学 院理 学研 究科 修 了,博 士(理 学),
4) Duman, R. S., Monteggia, L. M.: Biol. Psychiatry, 59, 1116-1127
技 術 院大 阪工業 技術 研 究所(現 産 業 技術 総 合研 究所)研 究 員 を経
て,産 業技術 総 合 研究 所 セ ル エン ジニ ア リング研 究部 門 主任 研
(2006)
5) Siuciak, J. A., Lewis, D. R., Wiegand, S. J., Lindsay, R. M.:
究 員.
Pharmacol. Biochem. Behay., 56, 131-137 (1997)
研 究 テーマ:神 経 栄養 因子 に よる脳 機 能調 節 と一 塩基 多型 に よる
脳 機能 調節 の研 究.
6) Castren, E.: Curr. Opin. Pharmacol., 4, 58-64 (2004)
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.52 No.8 (2007)
905
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