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蛋白質核酸酵素:細胞内現象からみた大脳皮質形成のメカニズム

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蛋白質核酸酵素:細胞内現象からみた大脳皮質形成のメカニズム
細胞 内現象か らみた大 脳 皮質形成 の
メカニズム
“in
vivo細 胞 生 物 学”に よ る神 経 発 生 研 究 の展 開
In vivo cell
biology
reveals
the several
aspects
of cerebral
cortical
development
川内健史
大脳 皮質 を構成 す る神 経細 胞 は,脳 室 の近 くで最 終分 裂 を終 えたのち軟 膜 側へ と移動 し,決 め られ た場所 に配 置
される.神 経細胞 の移動 が異常 になる と,滑 脳症 な どて んかんや精 神遅 滞を ともな う重篤 な大脳 奇形 をひき起 こす
ことが知 られてお り,近 年,こ の移 動 が統合失 調症 や失読症 な ど高 次脳 機能疾 患 とも関連の ある ことが示唆 されて
いる.ま た,神 経 細胞 は移動 過程 にお いて,神 経極 性 の獲得 や軸 索の 伸長 など を行 な う ことによ り “
成熟 ”す るこ
Database Center for Life Science Online Service
とも明 らか とな って いる.本 稿 では,こ の神経 細胞の移 動,お よび,そ の過程 で起 こる複雑 な形態 変化 を制御 する
分子経 路 を紹 介す る.
Key words
●神経 細胞 の移動
●形態 変化
●細 胞 骨格
●大 脳 皮質
●in vivo細 胞 生物 学
る分 子 機構 につ い て,近 年 の報 告 を 中心 に 紹 介 した い.な
は じめ に
お,大 脳 皮 質 形 成 に異 常 を きたす ヒ トの疾 患 や 変 異 マ ウ ス
哺 乳 類 の大 脳 皮 質 は形 態 的 ・機 能 的 に 異 な る6層 構 造 を
につ い て の歴 史 的 な背 景 につ い て は,誌 面 の 関 係 上,十
分
示 し,各 層 を構 成 す る神 経 細 胞 が 脳 の さ ま ざ まな領 域 へ 軸
に紹 介 し きれ ない点 もあ る.ま た,本 稿 は,未 成 熟 神経 細
索 を伸 ば して 神 経 ネ ッ トワ ー ク を形 成 す る こ と に よ り,高
胞 の移 動 過 程 を順 に 追 い なが ら,と くに,そ の形 態 変 化 の
次 機 能 を発 揮 して い る.こ の よ うな 複 雑 な 脳 組 織 は,発 生
制 御 機構 を概 説 して い る た め,個
過 程 にお い て,神 経 管 の神 経上 皮 細 胞 に 由来 す る神 経 前 駆
vitroの 結 果 な ど)に つ い て は 省 略 して い る 部 分 もあ る.こ
細 胞 か ら産 生 され た神 経 細 胞 が 適 切 に移 動 し,正 し く配 置
れ らの 点 につ いて は,ほ か の総 説 を参 照 され た い12).
々 の 蛋 白 質 の 機 能(in
され る こ とに よ って 形 成 され る.大 脳 皮 質 を構 成 す る興 奮
性 の グル タ ミン酸 作 動性 神 経 細 胞 は背 側 の 脳 室 帯 で誕 生 し,
Ⅰ 大脳皮質形成の概論
脳 の 表 層 へ むか っ て放 射 状 に移 動 す る.こ れ に対 して,抑
制性 のGABA作
動 性 神 経 細 胞 は腹 側 の 大脳 基 底 核 原 基 で誕
大 脳 皮 質 形 成 の も っ と も 初 期(マ
ウ ス で は,胎
生10∼11
生 し,接 線 方 向 の 移 動 に よ り大 脳 皮 質 へ 到 達 す る(図1).
日 目)に 産 生 さ れ る 神 経 細 胞 は,脳
本 稿 で は,前 者 の 興 奮性 の グル タ ミ ン酸 作 動 性 神 経 細 胞 に
レ ー トを 形 成 す る(図2).プ
焦 点 をあ て,と
胞 か ら構 成 され,そ
の 由 来 もい くつ か の 領 域 に ま た が っ て い
る1).そ
室 帯 の 放 射 状 グ リ ア(神 経 前 駆 細 胞*1)
くに,神 経 細 胞 の移 動 と形 態 変 化 を制 御 す
の の ち,脳
室 帯 の表 層 側 に プ リプ
リ プ レー トは 多 種 類 の 神 経 細
か ら産 み だ さ れ た 未 成 熟 神 経 細 胞*2が
Takeshi
Kawauchi
だ に 侵 入 し,成
プ リ プ レ ー トの あ い
体 で は 灰 白 質 と な る 皮 質 板 を 形 成 す る.未
慶應義塾大学医学部 解剖学教室
E-mail : [email protected]
成 熟 神 経 細 胞 に よ っ て 分 割 さ れ た プ リ プ レ ー トの,表
URL : http://web.sc.itc.keio.ac.jp/anatomy/kawauchi/
index _ j.html
Reelinを
は 辺 縁 帯,深
層 側 は サ ブ プ レ ー ト と よ ば れ,辺
分 泌 す るCajal-Retzius細
状 グ リ ア は 分 裂(自 己 複 製)を
縁 帯 は
胞 を 含 む(後 述).放
く り返 す と と も に,お
蛋白質 核酸 酵素•@ Vol.53
層側
No.15
(2008)
射
もに非
1957
図1大
脳 皮 質 形 成 にお け る神 経 細 胞 の
移動 経路
(a)マ ウスの胎仔脳の模式 図.中 心の大きな領
域(断面 図を入れてある)が大脳.
(b)発 生期の大脳の断面図.興 奮性のグルタミ
ン酸作動性神経細胞は背側の脳室帯で誕生 し放
射状方向へ移動するが(青色の矢印),抑 制性の
GABA作 動性神経細胞は大脳基底核原基で誕生
し接線方 向に移動 して大脳皮質 に入る(赤 色の
矢印).
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対 称 分 裂 に よ って 未 成 熟 神 経 細 胞 を,も
し くは,脳 室 帯 を
質 患 者 で は 神 経 細 胞 は脳 室 帯 を 出 た の ち に 中 間帯(成 体 で
出 た の ち に再 び 分 裂 を行 ない未 成 熟神 経 細 胞 に な る中 間的
は,白 質 とな る)で 移 動 を停 止 して い る(図3f).い
な前 駆 細 胞(basal
症 例 に お いて も,異 所 性 の神 経 細 胞 に くわ え,正 常 に移 動
progenitor,も
し くは,intermediate
ずれの
progenitorな ど とよば れ るが,統 一 した名 称 は まだ ない)を
して6層 構 造 を形 成 す る神 経 細 胞 も存 在 す る.こ れ は,脳
産生 す る.最 終 分 裂 を終 え た未 成 熟 神 経 細 胞 の多 くは,脳
室 周 囲異 所 性 灰 白質 と皮 質 下 帯 状 異 所 性 灰 白質 が と もにX
室帯 を出 る と,ま ず 中 間帯 の深 部(脳 室 下 帯)で 多 極 性 細 胞
染 色 体 連 鎖 性 の 疾 患 で あ る こ とか ら,ラ ンダム なX染 色 体
とな り,そ の の ち,軟 膜 側へ 伸 びた1本 の先 導 突 起(と,軸
の不 活 性 化 の 結 果 と して,変 異 遺 伝 子 のみ が 発 現 して い る
索)の み を もつ ロ コモー シ ョン細 胞 へ と形 態 変化 し,中 間帯
神 経 細 胞 の 移 動 だ けが 障 害 され て い る ため と考 え られ て い
を 出 て皮 質 板 内 を移 動 す る(図2).こ
る.ま た,リ
の際,未
成熟神経細
ー ラ ーマ ウ ス にお い て は,プ
リプ レー トが 分
胞 はす で に移 動 を終 了 した早 生 まれの 神 経 細 胞 を追 い越 し,
割 せ ず,そ
辺縁 帯 の直 下(皮 質 板 の もっ と も表 層)ま で 移 動 す る.そ の
転 した “outside-in”
様 式 とな っ て い る(図3b).
結 果,早 生 まれ の神 経 細 胞 は深 層 に,遅 生 まれ の細 胞 は浅
の 下 に形 成 され た皮 質板 の 層構 造 も大 まか に逆
1993年,Reinerら
が,滑 脳 症 の 原 因遺 伝 子 の ひ とつ と
層 に と配 置 され,誕 生 時期 に依 存 的 な “inside-out”様 式 の
してLis1を 同定 した こ とを皮 切 りに,大 脳 奇 形 が ひ き起 こ
層構 造 が形 成 され る(図2).
さ れ る変 異 マ ウ ス や ヒ ト疾 患 の 原 因 遺 伝 子 の い くつ か が 明
自然 突 然 変 異 マ ウ スで あ る リー ラー マ ウス や ヒ トの脳 室
周 囲 異 所 性 灰 白質(periventricular
heterotopia ; PVH),
皮 質 下帯 状 異所 性 灰 白 質(subcortical band
SBH),あ
らに2000年 代 に入 り,簡 便 に個 体 へ の 遺
伝 子 導 入 が で きる子 宮 内 エ レク トロポ レー シ ョン法 や組 織
heterotopia ;
るい は,滑 脳 症 の患 者 の脳 にお いて はinside-out
様 式 の 層 構 造 が 乱 れ る こ とが 知 られ て い るが(図3),興
らか にな った.さ
味
培 養 した 大 脳 皮 質 ス ラ イ スの タ イム ラプ ス観 察 な どの新 し
い技 術,こ
れ ら を用 い た個 体 レベ ル での 分 子 細 胞 生 物 学 的
な解 析(本 稿 で は,in
vivo細 胞 生 物 学 と よぶ)な どが発 展
深 い こ とに,そ れ ぞれ の 表 現 型 は必 ず しも一 致 しな い.脳
した こ と に よ り,移 動 神 経 細 胞 の経 時 的 な形 態 変 化 の 詳細
室 周 囲 異 所性 灰 白質 患 者 にお い て は 一群 の成 熟 した神 経 細
な観 察 が 可 能 とな り,そ れ ら を制 御 す る 蛋 白質 が 明 らか と
胞 が脳 室 帯 に観 察 され る こ とか ら(図3e),神
な りつ つ あ る.こ こか らは,神 経 細 胞 移 動 の各 段 階 を制 御
の 開 始 が で きない と考 え られ るが,皮
*1神
経前 駆細 胞 と放 射 状 グ リア:元
来,脳
経 細 胞 は移 動
質下帯状異所性灰 白
す る分 子 機 構 につ い て概 説 す る.
室帯 で エ レベ ー ター運 動 を行 な い なが ら分 裂 して い る細 胞 が 神 経 前 駆 細 胞 で,そ
れ とは別 に,脳 室 帯 に細 胞体 が あ
るが 軟 膜 側 へ 長 い 突起 を 伸 ば し未 成 熟 神 経 細 胞 に 移 動 の 足 場 を提 供 して い る放 射 状 グ リア とい う細 胞 が 存 在 す る と考 え られ て い た.し
*2未
か し,2001年,
Kriegsteinら,宮
田 卓 樹 ら,玉 巻伸 章 らの,そ れ ぞ れの グル ー プが 別個 に,放 射 状 グ リア こ そが 神 経 前 駆 細 胞 で あ る こ とを報 告 した.
成熟神 経 細 胞 と移 動 神経 細胞:放 射 状 グ リア も し くは放 射 状 グ リア に 由 来す る中 間的 な前 駆 細 胞 か ら産生 され た 細 胞 は,神 経細 胞 へ 分 化 す る運 命 が 決 定
さ れて お り,分 化 マー カー(Hu蛋
白質 や βⅢチ ュ ー ブ リ ンな ど)も 発 現 して い る.し
細 胞 ”と よばれ る こ とが あ る.ま た,こ
か し,ま だ 軸 索 や樹 状 突 起 は 形 成 してい ない こ とか ら,“ 未成 熟 神 経
の細 胞 は “軟 膜 側 へ 移 動 す る”こ とが 特 徴 で あ る こ とか ら,移 動 神 経 細 胞 とよ ばれ る こ と も多 い.本 稿 で は,特
移 動 段 階 の細 胞 をさす と きに は,“ 多極 性 細 胞 ”,“ロ コモ ー シ ョン細 胞 ”な どの 言葉 を用 い,細
1958 蛋 白質 核酸 酵素•@
Vol.53
No.15
(2008)
胞 全 体 を さす 場 合 は “未 成 熟 神 経 細 胞 ”とよぶ.
定の
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図2未
成 熟 神経 細 胞 の 移 動 様 式
大脳皮質の発生過程における未成熟神経細胞の移動形態の模式図.発 生期をとお して,脳 室帯の神経前駆細胞は細胞周期 によって核の位置を変えるエ レベーター
運動を起 こしている(とくに,図 の左側の水色の細胞).脳 形成初期(図の左側)において,脳 室帯で誕生 した未成 熟神経細胞(黄 色)はプリプ レー トを分割 し,皮
質板を形成する.そ ののちに誕生 した未成 熟神経細胞(緑 色)は,す でに移動 を終了 した神経細胞(黄 色)を追い越 し,皮 質板のもっとも表層側 に配置される,未
成熟神経細胞の移動様式 として,細 胞体 トランスロケーション(黄色),多 極性移動(青色),ロ コモーシ ョン移動(青色),タ ーミナル トランスロケーション(青色)
が知られており,移 動 を終了 した神経細胞は,先 導突起を分岐させて樹状突起へと成熟する(青色).Cdk5の
活性化蛋白質p35の ノックア ウ トマウスにおいて,
脳形成初期(胎 生12日 目)に産生された神経細胞は正常に移動 しプリプレー トを分割するが,そ ののち(胎生12.5日 目)に誕生 した神経細胞はサブプレー トをこえ
て移動することはできない.細 胞体 トランスロケーションが脳形成の初期に しか起こらないとい う観察結 果があることか ら,細 胞体 トランスロケー ションはCdk5
非依存的に起 こるという説 もあるが,プ リプレー トを分割する神経細胞 は多極性であるという報告もあり,発 生時期依存的な移動神経細胞の形態変化 については
依然として未解明な点が多いのが現状である.
な い,G1期
Ⅱ エレベーター運動と脳室帯からの脱出
に脳 室 面 か ら 表 層 へ と核 が 移 動 し,S期(DNA
合 成 期)の 核 は 脳 室 帯 の も っ と も 表 層(ベ ー サ ル 側*3)に
る(図2).こ
放 射 状 グ リア は 辺 縁 帯 まで 長 い突 起 を伸 ば して い る が,
あ
の よ う な 細 胞 周 期 に あ わ せ た 核 の 移 動 は,エ
レベ ー タ ー 運 動(interkinetic
nuclear
movement
; INM)
そ の 細 胞 体 は脳 室 帯 に存 在 してい る.放 射 状 グ リア の核 は
と よ ば れ て い る.滑
細 胞 周 期 に相 関 して脳 室 帯 の な か で位 置 を変 え て お り,M
細 胞 の 移 動 に 必 須 で あ るLis1遺
期(分 裂 期)に は もっ と も脳 室 面(ア ピカル側*3)で 分 裂 を行
エ レベ ー タ ー 運 動 が 異 常 と な り放 射 状 グ リ ア の 核 が ア ピ カ
*3発
生期 の脳 の極 性:上 皮 細 胞 にお い て,基
底 膜 に接 着 してい る 方 をベ ーサ ル(basal)側,体
皮 細 胞 が体 の内 側 へ むか っ て陥 入 して 管 状 に な っ た もの で あ るた め,神
る.そ
こで,脳
室帯 の なか での 極 性 を議論 す る場 合 は,M期
そ がベ ー サ ル側,脳
cal dendrite)と
脳 症 の 原 因 遺 伝 子 の ひ とつ で あ り神 経
の 外 にむ い て い る方 を ア ピ カル(apical)側
経 管 の 内 側(管 腔 側,つ
ま り,脳 室 側)は ア ピ カ ル側,表
の細 胞 が存 在 してい る脳 室 面 をア ピ カル 側 とよぶ.し
の表 層 が ア ピ カル側 の よ うに思 え る.実 際,興
伝 子 の ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り,
奮性 の神 経 細 胞 の 樹 状 突 起 は,表
と よぶ.神 経 管 は上
層 の 方 がベ ー サ ル側 であ
か し,完 成 された 脳 をみ る と,脳 室 側 こ
層 に む か って 伸 び た突 起 を ア ピカ ル側 樹 状 突 起(api
よぶ.発 生 期 の どの段 階 で “ア ピカ ル”と “ベ ーサ ル”が 逆 転 す る のか は 定 か で はな いが,極
性 の 指 標 とな る中 心 体 と核 の位 置 関 係 か ら考 え
る と,た しか に放 射 状 グ リアの 中 心 体 は核 よ りも脳 室 側 に あ り,多 極性 細 胞 か ら ロ コモー シ ョ ン細 胞 へ 変換 した時 点 で 中心 体 は核 よ りも表 層 側 へ 位 置す る
よ うに なる.多
極性 細 胞 の生 理 的 な意 味 は わか って い ない が,多
極性 細 胞 へ の形 態 変 化 は 極性 を180度 変 換 させ る ため に必 要 な段 階 なの か も しれ な い.
蛋白質 核酸 酵素•@
Vol.53
No.15
(2008)
1959
ル側 へ 降 りな く な る こ と が,2005年
2007年,Tsaiら
は,中
結 合 蛋 白 質TACCの
心 体 に 局 在 す るCep120お
た,
よび そ の
ノ ッ ク ダ ウ ン に よ りエ レベ ー タ ー 運 動
が 阻 害 さ れ る こ と を 示 し た.中
局 在 し,エ
に 報 告 さ れ た3).ま
心 体 は脳 室 面 に近 い位 置 に
レベ ー タ ー 運 動 が 行 な わ れ て い る あ い だ 大 き く
位 置 を 変 え る こ と は な い.神
よ び,ダ
シグ ナ ル と神 経 細 胞 の移 動 開 始 の 関 連 につ い て は不 明 で あ
る.脳 室 帯 で 産 生 され た 未 成 熟 神 経 細 胞(も し くは,中 間
的 な 前 駆 細 胞)は,分
裂 後 に放 射 状 グ リアが もつ 長 い突 起
を受 け継 ぐ場 合 が あ る が,放 射 状 グ リアの 長 い 突 起 は ね じ
ー ター蛋 白 質 ダ
れ に よ る張 力 を もっ てお り,突 起 を受 け継 い だ細 胞 は そ の
イ ニ ン と相 互 作 用 す る こ とが 知 ら れ て い る こ と か ら,中
体 と微 小 管(お
殖 とな ん らか の 関 係 が あ る可 能 性 を示 唆 して い るが,Ca2+
中心
経 細 胞 に お い て,Lis1は
体 や 中 心 体 か ら伸 び る 微 小 管 に 局 在 し,モ
過 的 なCa2+伝 播 が ひ き起 こ され,そ れ が放 射 状 グ リアの増
イ ニ ン に よ る モ ー タ ー 活 性)が
心
エ レ
ベ ー タ ー 運 動 に な ん らか の 役 割 を は た し て い る も の と考 え ら
張 力 を使 っ て脳 室 帯 か ら脱 出 す る こ とが,宮
田 卓樹 らに よ
っ て示 され て い る5).神 経 細 胞 の 移 動 開始 の機構 に は この
よう な物 理 的 な力 も関係 して い る と考 え られ る.
れ る.
1998年,脳
室 帯 に 異 所 性 の 灰 白 質 が み られ る 脳 室 周 囲 異
Ⅲ 神経前駆細胞から多極性細胞へ
所 性 灰 白 質 の 原 因 遺 伝 子 の ひ と つ が ア ク チ ン結 合 蛋 白 質
Database Center for Life Science Online Service
Filamin
Aを
れ,Filamin
コ ー ドす る こ と が,Walshら
Aが
に よっ て報 告 さ
神 経 前 駆 細 胞 は最 終 分 裂 を終 え る と分 化 マ ー カー を発現
未 成熟 神 経 細 胞 の 移 動 開 始 に関 与 して い
して 未 成 熟 神 経 細 胞 とな り,軟 膜 側 へ の移 動 を開 始 す る.
る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た.さ
ら に,佐
藤 真 らは,脳
異 的 に 発 現 して い るFILIPがCa2+依
存 的 にFilamin
解 を 誘 導 し て い る こ と,FILIPの
室 帯 に特
Aの
分
過 剰 発 現 は神 経 細 胞 の移
動 を 抑 制 す る こ と を示 した4).こ れ らの 結 果 よ り,Filamin
A
脳 室 帯 を出 た神 経 細 胞 の うち少 な くと も一 部(と くに,脳 形
成 初期 に多 い とい う報 告 が あ る)は,放
射 状 グ リアか ら受 け
継 いだ 長 い突 起 を維 持 しなが ら,そ れ を縮 め る よ うに して細
胞体 をひ きあ げ る “細 胞 体 トラ ンス ロ ケー シ ョ ン”とい う様
の 蛋 白 質 量 が 神 経 細 胞 の 移 動 開 始 の ス イ ッチ と な っ て い る
式 で軟 膜 側へ と移 動 す る こ とが 知 られ てい るが6),残 りの 大
も の と考 え られ る.FilaminA蛋
部 分 の 神 経 細 胞 は脳 室 帯 を出 たの ち,受 け継 い だ 長 い 突 起
あ る と考 え られ て い るCa2+刺
ら は,脳
図3大
白質 量 の 制御 経 路 の 上 流 に
激 に つ い て,2004年,Kriegstein
室 帯 の 放 射 状 グ リ ア に お い て 細 胞 外ATPに
を退 縮 す る か,そ
よ り一
もそ も突 起 を受 け継 が ず,中
で 多 極性 細 胞 とな る7)(図2).多
間 帯 の深 部
極 性 細 胞 は 高 頻 度 で 突起
脳 皮 質 形 成 の 異 常 を と も な う疾 患 の 表 現 型
正 常 マ ウ ス,お よ び,変 異 マ ウス と ヒ ト大 脳 奇 形 患 者 の大 脳 皮 質 の 層構 造 を模 式 的 に 示 した.
(a)正 常 マ ウス の大 脳 皮 質.早
生 ま れの 細 胞(黄 色)が 深 層 に,遅 生 ま れの 細 胞(青 色)が 浅 層 に配 置 さ れるinside-out様
(b)リ ー ラー マ ウス の大 脳 皮 質.プ
(c)Cdk5ノ
リプ レー トが 分 割 せず,皮
ックア ウ トマ ウ スの 大脳 皮 質.プ
質 板 の層 構 造 が大 ま か に逆 転 したoutside-in様
リプ レー トは分 割 す る が,皮 質 板 の 層 構 造 が大 まか に逆 転 す る.
(d)代 表 的 な 滑 脳 症(Lis1ヘ
テ ロ変 異 も しく は男 性(XY)に
は健 常 人 と 変 わ らな いが,Ⅱ
∼ Ⅵ 層(発 生 期 の 皮 質 板 に 相 当)が 形 成 さ れる 場 所 に お いて,本
層),そ
お けるdoublecortin変
の 下 に 突 起 が豊 富 な線 維 層(異 所性 の 白質)が 位 置 し(Ⅲ'層),そ
(e)脳 室 周 囲 異 所 性 灰 白質 患 者 の 大 脳 皮質.移
蛋 白 質 核 酸 酵 素•@ Vol.53
No.15
異)患 者 の 大 脳 皮 質.大
ま か に4層 構 造 を示 し,Ⅰ 層(発 生 期 の辺 縁 帯 に 相 当)
来 は お も に深 層 に 配 置 され る 神 経 細 胞 が表 層 で 薄 い 層 を形 成 し(Ⅱ'
の ほか の大 部 分 の 神 経 細 胞 は線 維 層 の 下 に と どま って い る(Ⅵ'層).
動 を停 止 した神 経 細 胞 が 脳 室 帯 に とど ま り,異 所 性 の灰 白 質 を形 成 す る.
(f)皮 質 下 帯 状 異 所 性 灰 白 質 患 者の 大 脳 皮 質.移
1960 式 の 層構 造 を とる.
式 とな る.
動 を停 止 した神 経細 胞 が白 質(中 間 帯)に とど ま り,異 所 性 の灰 白質 を形 成 す る.
(2008)
を伸 縮 させ,そ
の突 起 に は線 維 状 ア クチ ンが 豊 富 に含 まれ
初 代 培 養 神 経 細 胞 に お い てp27kip1を
る こ とか ら8),多 極 性 細 胞 の形 態 形 成 にお いて は ア クチ ンの
ア ク チ ン 結 合 蛋 白 質Cofilinの3番
再 編 成 が 重 要 な役 割 を は た して い る もの と考 え られ る.
化 レベ ル が 上 昇 す る.こ
2006年,筆
者 らは,サ
イク リ ン依 存 性 キ ナ ー ゼ(CDK)
阻害 蛋 白 質 の ひ とつ であ るp27kip1が,多
極 性 細 胞 の形 態 お
胞 周 期 の進 行 に必 須 で あ るCDKの
目 の セ リ ン 残 基 の リ ン酸
の リ ン 酸 化 に よ りCofilinの
ア クチ
ン結 合 活 性 が 負 に 制 御 さ れ る こ とか ら,p27kiPlはCofilinの
よび ロ コモ ー シ ョン細 胞 の 移 動 を制 御 して い る こ とを報 告
した.p27kip1は,細
ノ ッ ク ダ ウ ン す る と,
活
活 性 化 を 介 し て ア ク チ ン 細 胞 骨 格 の 再 編 成 を 促 進 し,多
極 性 細 胞 の 形 態 形 成 を 制 御 して い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た8)
(図4).さ
ら に,筆
者 らの 報 告 の 半 年 後,Guillemotら
性 を 阻害 し,ほ か の 多 くの細 胞 と同 様 に,神 経 前 駆 細 胞 に
っ て,p27kip1
お い て もG1期 の長 さや細 胞 周 期 か らの 脱 出 を制 御 して い る
クスー
ル ー プー
ヘ リ ッ ク ス 型 の 転 写 因 子Neurogenin2を
こ とが知 られ て いた.し か し,最 終 分 裂 を終 え てG0期
化 し,神
に入
によ
が 神 経 細 胞 の 運 命 決 定 に 必 須 な塩 基 性 ヘ リ ッ
安定
経 分 化 を促 進 して い る こ と が 報 告 さ れ た9).こ
った 未 成熟 神 経 細 胞 にお いてp27kiplを ノ ッ クダ ウ ンす る と,
らの 結 果 を 総 合 す る と,p27kip1は
多 極 性 細 胞 の 突起 内 の線 維 状 ア クチ ンの 量 が 減 少 し,突 起
経 細 胞 へ 変 換 す る た め に 必 要 な3つ
の形 態 も細 くな り細 胞 体 が 丸 くな る こ とが わか った.ま た,
胞 周 期 か らの 脱 出,神
れ
神経前駆細胞が未成熟神
の 過 程,す
極 性 の形 態 変 化
Database Center for Life Science Online Service
経 細 胞 へ の 分 化,多
な わ ち,細
図4未
成 熟 神 経 細 胞 の 形 態 変 化 を 制 御 す る分 子 経 路
未成熟神経細胞の形態変化 を制御することが知 られている分子経路.脳 室帯(も しくは,脳 室下帯)で誕生 した未成熟神経細胞 は,多 極性細胞,ロ コモー ション
細胞と複雑な形態変化 をともないながら軟膜側へと移動 し,最 終 的にターミナル トランスロケーシ ョンを行ないなが ら皮質板のも っとも表層に到達する.ロ コモ
ーシ ョン移動にかかわる蛋 白質 を直接的に同定することは困難であるが,こ こでは,ロ コモーション移動 にかかわる蛋白質と して,中 心体や核の動態 に関与する
ことが示されているFAKやLis1な どをあげた.ま た,cdk5お よびJNKに ついては,ス ライス培養系に阻害剤を くわえる実験よ り,ロ コモーション移動の段階に
関与することがより直接的に示されている16,18).
蛋白質 核酸 酵素•@ Vol.53
No.15
(2008)
1961
と軟 膜 側 へ の 移 動,の
示 唆 さ れ,p27kip1は
す べ て の 過 程 を 制 御 して い る こ とが
未 成 熟 神 経 細 胞 の 産 生 と移 動 の 開 始 に
お い て 中 心 的 な役 割 を は た して い る も の と 考 え ら れ る(図4).
そ れ で は,p27kip1は
どの よ うな上 流 蛋 白質 に よっ て制 御
さ れ て い る の で あ ろ う か?現
時 点 で そ の 答 え は すべ て 明
ら か と な っ て い る わ け で は な い が,筆
者 ら は,少
分 化 後 の 神 経 細 胞 に お い て,Cdk5がp27kip1の
な くとも
上流蛋 白質
p27kip1を 過 剰 発 現 さ せ た 場 合,も
し く は,p27kip1の
機 能 を
抑 制 させ た 場 合 と よ く一 致 す る こ とか ら,ARXはp27kip1と
同 一 の 経 路 で 機 能 して い る 可 能 性 が 高 い もの と 考 え られ る.
ま た,筆
者 ら は,低
分 子 量G蛋
白 質Rac1が
多極性細 胞の
形 態 形 成 に 関 与 し て い る と い う デ ー タ を 得 て お り,Rac1を
介 し た ア ク チ ン細 胞 骨 格 の 再 編 成 が 多 極 性 細 胞 の 突 起 の 動
態 を 制 御 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ る(図4).
と して は た ら く こ と を 明 らか に して い る8)(図4).Cdk5は
細 胞 周 期 の 進 行 を 促 進 す る 一 般 的 なCDKと
は 異 な り,最
Ⅳ 多極性細胞からロコモーシ ョン細胞へ
終 分 裂 後 の 神 経 細 胞 で 強 く活 性 化 し て い る 非 典 型 的CDK
で あ る.Cdk5はp27kip1の10番
し,こ
目 の セ リ ン残 基 を リ ン酸 化
多極 性 細 胞 が ロ コモ ー シ ョン細 胞 へ と変換 す る過 程 には,
の リ ン酸 化 に よ りp27kip1は プ ロ テ ア ソ ー ム 依 存 的 な
多 くの細 胞 内 現 象 を と もな う.ま ず,多 極 性 細 胞 は軟 膜 側
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蛋 白 質 分 解 か らの が れ て 安 定 化 す る.Cdk5-p27kip1経
路 は,
(表層)へ の極 性 を獲 得 し,多 方 向 に伸 ば して い た突 起 を退
ナー
縮 させ て1本 の先 導 突 起 を形 成 す る.先 導 突起 は 多極 性 の
活
突 起 の う ち軟 膜 側 へ 伸 び た1本 の 突 起 か ら形 成 さ れ る とい
低 分 子 量G蛋
白 質RhoAお
ゼ(ROCKと
も よ ば れ る)の 活 性 抑 制 を 介 してCofilinの
性 を上 昇 さ せ て い る.ま
よ び そ の 下 流 蛋 白 質Rhoキ
た,p27kip1の
場 合 と 同 様 に,Cdk5
う観 察 もあ るが,形 成 され た先 導 突 起 の形 態 は太 くて長 く,
の 機 能 を抑 制 す る こ と に よ り多 極 性 細 胞 の 突 起 が ほ と ん ど
質 的 に も線 維 状 ア クチ ンが 豊 富 で あ った 多 極性 突 起 とは異
な く な り細 胞 体 が 丸 く な る こ とが わ か っ て い る.
な り微 小 管 が 豊 富 で あ る.ま た,ロ
性 の阻害
ほ とん ど移 動 しな い多 極 性 細 胞 と は異 な り,放 射 状 グ リア
終 分 裂 を終 え た神 経細 胞 にお い て
の 突起 にそ っ て速 い速 度 で 表 層へ と移動 し,こ の 移 動 過 程
従 来 か ら 知 ら れ て い たp27kip1の
で あ る こ と か ら,最
p27kip1はGO期
コモ ー シ ョン細 胞 は,
を 維 持 す る,す
機 能 はCDK活
な わ ち,神
経 細 胞 が 再 び細
にお い て後 方(脳 室 側)へ 軸 索 を伸 長 させ る(図2).つ
ま り,
胞 周 期 に 入 り分 裂 す る こ と を抑 制 して い る こ とが 予 想 さ れ
多 極 性 細 胞 か らロ コモ ー シ ョ ン細 胞 へ の変 換 は,先 導 突 起
る.p27kip1単
の形 成 や 放 射 状 グ リア との接 着 な ど長 距 離 移 動 の た め の し
独 の ノ ッ ク ダ ウ ン お よ び ノ ッ ク ア ウ ト細 胞 は
分 裂 細 胞 の マ ー カ ー が 陰 性 で あ っ た が,p27kip1と
CDK阻
害 蛋 白 質p19INK4dと
ほかの
の ダ ブ ル ノ ッ ク ア ウ トマ ウ ス に
お い て は 皮 質 板 に い くつ か の 分 裂 細 胞 が 観 察 さ れ て い る10).
ま た,Cdk5ノ
ッ ク ア ウ トマ ウ ス に お い て,わ
ず か で はあ る
くみ の獲 得 に くわ え,神 経 極性 の 形 成 や 軸 索 伸 長 な ど神 経
細 胞 が 成熟 す る ため の 重 要 な1段 階 で もあ る.
神 経 細 胞 の極 性 形 成 は1本 の 軸 索 を選 択 す る た め に必 須
な段 階 で あ る.神 経 細 胞 の極 性 形 成 の 分 子 機構 に つ い て は
が 皮 質 板 に て 分 裂 す る細 胞 が 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て い
海 馬 の 初 代培 養 神 経 細 胞 を 用 い た研 究 が 進 ん で お り,2001
る が11),こ
年,貝
の 現 象 がCdk5-p27kiP1経
は わ か っ て い な い.CDK阻
路 に よる ものか ど うか
害 蛋 白 質 の あ い だ の 相 補 性 は神
経 細 胞 の 移 動 に お い て も観 察 され て お り,p27kip1ノ
ウ ン細 胞 に お い てp57kip2の
ックダ
淵 弘 三 らに よ って 報 告 され たCRMP2を
て,Cdc42やRac1な
aPKC複
どの低 分 子 量G蛋
は じめ と し
白 質 やPar3-Par6-
合 体 な ど,上 皮 細 胞 の 極 性 にか か わ る 蛋 白 質 複 合
発 現 が 上 昇 して お り,p57kip2を
体 を含 め た 多 くの 制 御 蛋 白 質 お よび そ の経 路 が 明 らか に さ
ノ ッ ク ダ ウ ンす る と 神 経 細 胞 移 動 が 抑 制 さ れ る こ とが,後
れ てい る14).前 述 の とお り,in vivoにお いて神 経 極 性 の形
藤 由 季 子 ら に よ り報 告 さ れ て い る12).
成 はほ か の 多 くの 現 象(先 導 突 起 の形 成,移 動 速 度 の 変 化
多 極 性 細 胞 の 形 態 を 制 御 す る 蛋 白 質 はCdk5とp27kiP1以
な ど)と 同 時 に起 こ るた め,こ の現 象 だ け にかか わ る蛋 白質
外 に は ほ と ん ど報 告 が な か っ た が,2008年,Parnavelasら
を同 定 す る こ とは 困 難 で あ り,そ の 機構 に関 す る報 告 も少
に よ っ て,X染
な い.LKB1と
つ で あ るARX遺
色 体 連 鎖 性 の精 神 遅 滞 の原 因 遺伝 子 の ひ と
伝 子 を ノ ッ ク ダ ウ ン す る と,移
が 多 極 性 に な ら な い こ とが 報 告 さ れ た13).さ
動 神経 細 胞
ら に,ARXを
そ の下 流 の 制 御 蛋 白質 で あ るSADキ
ナ ーゼ
は,初 代 培 養 神 経 細 胞 に お い て神 経 極 性 の形 成 に関 与 し,
さ らに,こ れ らを ノ ックア ウ トも しくは ノ ック ダウ ン した細
過 剰 発 現 させ る と神 経 前 駆 細 胞 の 細 胞 周 期 が 長 くな る こ と,
胞 はin vivoに お い て軸索 を形 成 で きない こ とが,Sanesら,
ARXノ
Polleuxら,Pooら
ッ ク ダ ウ ン細 胞 は 多 極 性 に は な れ な い が 先 導 突 起 を
形 成 で き る こ と,も
1962 示 さ れ た.こ
蛋 白質 核 酸 酵 素•@ Vol.53
れ らの 表 現 型 は そ れ ぞ れ,
No.15
(2008)
に よって,別 個 に報 告 され てい る.こ れ ら
の論 文 の な か で,LKB1は
神 経 細 胞 の移 動 に は影 響 をあ た
え ない とい う結 果 が 示 され て い るが,2007年,真
に よ り,in vivoに お い てLKB1を
田佳 門 ら
ノ ック ダウ ン した 神 経 細
胞 は 移動 も異 常 にな る こ とが 報 告 され て い る.ま た,い
く
に よ り,
子 宮 内 エ レ ク トロ ポ レー シ ョ ン 法 を 用 い てDCXを
ウ ンす る と,移
ノ ック ダ
動 を 阻 害 され た神 経 細 胞 が 中 間帯 に異 所 性
つ か の微 小 管 関連 蛋 白 質 の 上 流 の 制 御 蛋 白 質 と して はた ら
の 皮 質 下 帯 状 異 所 性 灰 白 質 様 の 集 塊 を 形 成 し,さ
く と と もに,神 経 細 胞 の 極性 形 成 に関 与 す るParフ ァ ミリ
ー で もあ るMARK2/Par1が
,キ ナー ゼ 活 性 に非 依 存 的 に
動 を 停 止 した 未 成 熟 神 経 細 胞 の 多 くは 先 導 突 起 を 形 成 で き
ず に 多 極 性 の 形 態 を 示 す こ とが 報 告 さ れ た20).こ
れ らの 報
多 極性 細 胞 か らロ コモ ー シ ョ ン細 胞 へ の変 換 を制 御 して い
告 を 考 え あ わ せ る と,JNKはMAPIBやDCXな
ど 多 くの
る こ と,そ の の ち の神 経 細 胞 の 移 動 にはMARK2/Par1の
微 小 管 関 連 蛋 白 質 を リ ン酸 化 す る こ と に よ り微 小 管 の 安 定
キ ナ ー ゼ 活 性 が 必 要 で あ る こ と が 報 告 さ れ て お り15),
性 と ダ イ ナ ミク ス と を 調 節 し,先
MARK2/Par1が
細 胞 の 移 動 を制 御 し て い る もの と 考 え られ る.DCXノ
ロ コモ ー シ ョ ン細 胞 へ の 変 換 と神 経 細 胞
ら に,移
導 突 起 の 形 態 お よび 神 経
ック
の 移 動 の そ れ ぞ れ の現 象 を 分子 的 に 分 離 す る手 が か りの ひ
ア ウ トマ ウ ス に お い て 大 脳 皮 質 の 層 構 造 に 大 き な 異 常 は 認
とつ に なる か も しれ な い.
め られ て い な い が,こ
先 導 突 起 の形 成 に 関与 す る こ とが 示 され た は じめ て の 蛋
白 質 はJNK(c-Jun
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で あ る)を ひ き 起 こす(図3).2003年,LoTurcoら
MAPキ
N-terminal
kinase)で
あ る.JNKは
ナ ー ゼ フ ァ ミ リー の ひ とつ で,核 へ の シ グナ ル伝 達
れ は,ほ
と 近 い 機 能 を も つLis1な
か のDCXフ
ァ ミ リ ー やDCX
どが相 補 的 に は た ら くこ とに よ り
表 現 型 が か く さ れ た た め と考 え ら れ る.
DCXはJNKだ
け で は な くCdk5に
よ っ て も リ ン酸 化 さ
や細 胞 死 に 関与 してい る と考 え られ て いた が,Jacobsonら
れ,Cdk5に
は ケ ラ トサ イ トや上 皮 細 胞 由来 の培 養 細 胞 を用 い て,ま た,
が 低 下 す る21).さ
筆 者 らは 発 生 期 大 脳 皮 質 の 未 成 熟 神 経 細 胞 を用 いて,そ れ
起 の 形 成 が 阻 害 さ れ,多
ぞ れ 別 個 に,JNKが
へ の 変 換 も 抑 制 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て い る8,22).し か し,
細 胞 移 動 に も関 与 す る こ と を報 告 し
た16,17).さ らに筆 者 らは,JNKの
機 能 を抑 制 した未 成 熟 神
JNKに
よ り リ ン酸 化 さ れ たDCXは
よ るDCXの
ら に,Cdk5の
機 能 を抑 制 す る と 先 導 突
極性 細 胞 か ら ロ コモ ー シ ョン細 胞
リ ン 酸 化 は 突 起 の 先 端 近 くで 起 こ っ て
経 細 胞 は先 導 突 起 の形 態 が 異 常 に な る こ と も示 した.初 代
い る の に 対 し て,Cdk5に
培 養 神 経 細 胞 に お いてJNKは
で 起 こ っ て い る こ と か ら19,21,Cdk5に
化 して お り,JNKの
核 よ りも神 経 突起 で 強 く活 性
機 能 が抑 制 され る と微 小 管 の 形 態 異 常
微小管への結合能
よ るDCXの
リ ン酸 化 は 核 の 近 傍
よ るDCXの
リ ン酸
化 が 先 導 突 起 の 形 成 に 関 与 し て い る か ど う か は わ か ら な い.
が ひ き起 こ さ れ る16).一 般 に,神 経 細 胞 の 突 起 の 先 端 にお
ま た,先
い て安 定 化 されて い る微 小 管 は少 な く,微 小管 の ダ イナ ミク
極 性 細 胞 の 形 態 変 化 に は 関 与 す る が,先
導 突 起 の形 成 に は
スは高 い状 態 に なって い る.MAP1Bは
か か わ っ て い な い と考 え ら れ て い る8).し
か し,こ
微 小 管 と結 合 して そ
の安 定 化 を促 進 す るが,リ ン酸 化 され たMAP1Bは
微小管 と
述 の と お り,Cdk5の
別 の 基 質 で あ るp27kiP1は
多
れ らの基
質 に くわ え て,Cdk5はLis1結
合 蛋 白 質 で あ るNdel1(以
は,Nudelと
よ ば れ て い た)な
ど も リ ン酸 化 す る こ と が 知 ら
の リ ン酸 化 レベ ルが低 下 し,微 小管 が 過 剰 に安 定 化 され る.
れ て お り,さ
ら に,Lis1の
さ らに,MAP1Bの
か ら ロ コ モ ー シ ョ ン細 胞 へ の 変 換 が 阻 害 さ れ る こ とか ら3),
の 結 合 能 を失 う.JNKの
機 能 が 抑 制 され る と このMAP1B
過 剰 発現 に よ り微 小 管 を過 剰 に安 定 化
させ た 未 成 熟 神 経 細 胞 は軟 膜 側 へ の 移 動 が 抑 制 され て い
DCXやp27kip1で
る こ とか ら,こ の よ うな微 小 管 の安 定性 の 制 御 は神 経 細 胞
がCdk5依
の 移 動 に重 要 な役 割 を はた して い る もの と考 え られ る16,18)
高 い と考 え ら れ る(図4).
Lis1遺
(図4).
そ の の ち2004年,Reinerら
関連 蛋 白質 で あ るDCXを
(図4),さ
DCXフ
に よ り,JNKは
別の微小管
リ ン酸 化 す る こ とが報 告 され19)
らに彼女 らは,JNKがDCXだ
け で はな くほか の
ァ ミリーの い くつ か と も結 合 す る こ とを明 らか に し
た.DCXはX染
色 体 上 のdoublecortin遺
伝 子 に コー ドさ
れ る蛋 白 質 で,こ の遺 伝 子 の変 異 は男性(XY)で
女性(XX)に
は滑 脳 症,
お け る ヘ テ ロ変 異 は皮 質 下帯 状 異 所 性 灰 白 質
(double cortex症 候 群 と も よば れ,こ れ が遺 伝 子 名 の 由 来
前
ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り多 極 性 細 胞
は な くLis1(も
し く は,そ
の ほ か の 基 質)
存 的 な 先 導 突 起 の 形 成 に 関 与 して い る 可 能 性 が
伝 子 とdoublecortin遺
の 原 因 遺 伝 子 で あ る.滑
伝 子 は ど ち ら も ヒ ト滑 脳 症
脳 症 は 脳 回(脳 の し わ)が 減 る も し
く は ほ ぼ消 失 し,大 脳 皮 質 が 厚 くな りそ の 層 構 造 も乱 れ る と
い う症 状 を 示 し,脳 室 の 拡 大 を と も な う こ と も多 い1).代
的 な 滑 脳 症 の 大 脳 皮 質 は 大 ま か に4層
そ れ 以 外 に,お
構 造 を 示 す が(図3),
お ま か に2層 構 造 も し くは3層
例 も知 られ て い る.Lis1遺
構 造 を と る症
伝 子 やdoublecortin遺
異 し た 患 者 の 脳 は ほ と ん ど が 代 表 的 な4層
る こ と か ら,Lis1とDCXは
表
伝子が変
構 造 に分 類 され
機 能 的 に 近 い と考 え ら れ る.実
蛋白質 核酸 酵素•@ Vol.53
No.15
(2008)
1963
際 に,Lis1ヘ
DCXの
テ ロ変 異 に よる神 経 細 胞 の 移 動 速 度 の低 下 は
過 剰 発 現 に よ り相 補 さ れ て正 常 に戻 る こ とが,in
vitroの 実 験 系 に よ り示 され て い る23).Lis1とDCXは
どち
こ とが 示 唆 され て い る.た だ し,2003年
に田 畑 秀 典 と仲 嶋
一 範 に よ り多 極性 細 胞 の 存 在 が 再 発 見 され る 以前 は ,未 成
熟 神 経 細 胞 の 移 動 様 式 は,1972年
にRakicに
よ り報 告 され
ら も微 小 管 の 制 御 にか か わ る蛋 白 質 で あ る こ とか ら,少 な
た ロ コモー シ ョン移 動 のみ で あ る とい う説 が 広 く信 じられて
くとも4層 構 造 型 の滑 脳 症 は,Lis1とDCXに
よる協 調 的 な
い た た め,上 記 の 報 告 には 神 経 細 胞 の 移 動 に関 与 す る蛋 白
微 小 管 の 動 態 制 御 が 破 綻 す る こ とに よ り,多 極 性 細 胞 か ら
質 をす べ て ロ コモー シ ョン移 動 にか か わる もの と解 釈 して し
ロ コモ ー シ ョ ン細 胞 へ の変 換 が異 常 に な る こ とが主 要 な 原
まって い た こ とに よる誤解 も含 まれ てい る.ロ コモ ー シ ョン
因 で あ る可 能性 が 考 え られ る.滑 脳 症 にお け る微 小 管 の 重
移 動 の 段 階 で は じめ て活 性 化 す る プ ロ モ ー ター は知 られ て
要性 は,ヒ
ト滑 脳 症 に お い て微 小 管 の構 成 蛋 白 質 αチ ュー
い ない こ とか ら,コ ンデ ィシ ョナ ル ノ ックア ウ ト法 や子 宮 内
ブ リ ンの 神 経 特 異 的 な サ ブ タ イプ で あ る α3チ ュ ー ブ リ ン
エ レ ク トロ ポ レー シ ョン法 に よ る一 過 的 な機 能抑 制 を用 い
(マ ウスで は,α1チ
た と して も,そ れ以 前 に起 こ る複 雑 な形 態 変化 や極 性 形 成
ュー ブ リンに相 当)に 点 変 異 が 発 見 され
た こ とに よ り,よ り直 接 的 に示 され て い る24).
な どの 異 常 に よ る2次 的 な影 響 を排 除 して,ロ
コモ ー シ ョ
ン移 動 に直 接 に関 与 す る蛋 白質 を 同定 す る こ と は困 難 で あ
Database Center for Life Science Online Service
Ⅴ
る.こ
ロコモー シ ョン移 動
こで は,多 極 性 細 胞 には み られ な い,ロ
コモ ー シ ョ
ン細 胞 に特 徴 的 な形 態 変化 や核(細 胞 体)の 移 動 に 関与 す る
先 導 突 起 を獲 得 した 未 成 熟 神 経 細 胞(す で に神 経 極 性 を
獲 得 し軸 索 を伸 ば しは じめて い るが,先 導 突 起 が 樹 状 突 起
へ と成熟 して お らず シナ プ ス形 成 も行 な って い ない ため ,こ
こで は “未 成 熟 ”と よぶ)は,移
動 速 度 の速 い ロ コモ ー シ ョ
こ とが報 告 され て い る もの を 中心 に,ロ
コモ ー シ ョン移 動
に かか わ る可 能性 が 高 い蛋 白 質 につ いて 述べ る.
ロ コモ ー シ ョ ン細 胞 は 放 射 状 グ リアの 突 起 にそ って 移 動
し,ま ず 先 導 突 起 を伸 ば し,そ のの ち に細 胞 体(核)が 追 い
ン様 式 の 移動 形 態 を と りなが ら,皮 質 板 の もっ とも表 層(辺
か け る よ うに動 く,と い う跳 躍 移 動 を行 な う.こ の点 で は,
縁 帯 の直 下)ま での 長 い距 離 を移 動 す る(図2).ノ
糸状 仮足 や葉 状 仮 足 を伸 ば して基 質 との接 着(接 着 斑)を 形
ック アウ
トマ ウ スや 子 宮 内 エ レ ク トロ ポ レー シ ョ ン法 を用 い た機 能
成 し,さ
抑 制 実 験 な どに よ り,多 くの蛋 白 質 が こ の過 程 に 関 与 す る
られ る移 動 様 式 と似 て い る.線 維 芽 細 胞 の糸 状 仮 足,葉
図5ロ
らに核 が 前 へ 移 動 す る とい う線 維 芽 細 胞 な どで み
状
コ モ ー シ ョン細 胞 の 形 態 変 化
(a)ロ コモ ー シ ョン 細胞 の形 態 変 化.脳
込 む ため の ふ く らみ(swelling)を
形 成 にお いて も っ とも 長 い距 離 を移 動 す る ロ コモ ー シ ョン細 胞 は,ま ず,先
形 成 し,そ のの ち,swellingに
核 が入 り込 む.核
(b)ロ コモ ー シ ョン細 胞 の 模 式 図.水
導 突 起 を伸 ば し ,そ の突 起 の 基 部 に核 が入 り
入 る と考 え られ て いる .
は細 長 くな り,く び れな が らswellingに
色 の線 は微 小 管,ピ ン ク色 の 線 は線 維 状 ア ク チン,灰 色 の楕 円 は核 ,オ レンジ 色 の多 角 形 は 中 心 体 を示 す.先 導 突 起 のな か
には微 小 管 が豊 富 で あ り,中 心 体 よ り後 方 へ 核 を取 り囲 む よ う に伸 び る微 小 管 も観 察 さ れ てい る .ま た,核 の う しろ側 には ア クチ ン とミ オ シ ンが 多 く含 まれ ,こ
の ア クチ ン とミ オ シン の張 力 に よ って 核 が押 し上 げ られ る とい う報 告 も あ る.
1964 蛋 白 質 核 酸 酵 素•@
Vol.53
No.15
(2008)
仮 足,接
着 斑 の 形 成 に は,そ
れ ぞ れ,Rhoフ
白 質 のCdc42,Rac1,RhoAが
る が,発
と か ら27),中
ァ ミ リ ーG蛋
必 要 で あ る と考 え ら れ て い
生 期 大 脳 皮 質 の 未 成 熟 神 経 細 胞 に お い て も,
Cdc42お
よ びRac1の
機能 抑 制 に よ り(ロ コモ ー シ ョ ン移 動
の 段 階 か ど うか は わ か ら な い が),神
経細胞の移動が阻害 さ
れ る こ と が 報 告 さ れ て い る16,25).し か し,Sunの
お よ びPolleuxの
グ ル ー プ は,そ
グル ー プ
れ ぞ れ 別 個 に,RhoAの
機
ン と 相 互 作 用 す る.さ
し くは,ダ
れ る が8),さ
の の ちの 軟 膜 側 へ の移 動 が 障 害 さ
ら にRhoAの
現 型 が レ ス キ ュ ー さ れ,神
も 報 告 さ れ て い る9).よ
中 心 体 と 核 と の 距 離 が 長 く な る こ と,こ
た,ダ
イ ニ ン は 先 導 突 起 のswellingに
イ ニ ン も し く はLis1を
強 く局 在
ノ ッ ク ダ ウ ンす る と核 だ け で
な く 中 心 体 の 動 き も 阻 害 さ れ る26).Lis1は
ダ イニ ンの 活性
び,DCX)は
っ て,未
成 熟 神 経 細 胞 は 少 な くと
と つ は,い
う ま で も な く先
の 先 導 突 起 は 微 小 管 を 豊 富 に 含 む こ とか
コモ ー シ ョン移 動 には 微 小 管 が 重 要 な役 割 を は た し
体 お よ び 核 の 動 き を 制 御 し て い る も の と考 え ら れ る.
移 動 神 経 細 胞 に お い て,核
Tsaiら
732番
は 細 長 く形 態 変 化 を 起 こ しな
入 る こ とが 観 察 さ れ て い る が,2003年,
に よ り,Cdk5がFAK(focal
adhesion
目 の セ リ ン残 基 を リ ン酸 化 す る こ と,こ
に 変 異 を 導 入 し たFAKを
長 く な る こ と が で き な く な る こ と,が
Valleeら,Metinら
動 中 の 神 経 細 胞 の先 導 突 起
Cdk5はFAKだ
ま り,細
胞 体 の 直 上)に 形 成 さ れ る こ と が 見 い だ
され た,特
徴 的 な ふ く ら み(swellingも
し く はdilationと
ば れ る)が あ げ られ る(図5a).swellingに
よ
は 中心 体 お よび
そ こ か ら伸 び る 微 小 管 が 多 く 含 ま れ て い る こ とが 観 察 さ れ
た か も核 が 入 りや す い よ う に 微 小 管 が 先 導 突 起
の 根 元 を 押 し 広 げ て い る よ う に も み え る.し
か し,核
な か に す ん な り と 入 る わ け で は な く,細
び て 押 し込 ま れ る よ う に 入 る.こ
し て 形 成 さ れ て い る の か,核
のswellingが
は
長 く伸
どの よ う に
が ダ イナ ミ ッ クな形 態 変 化 を
起 こ す の は ど の よ う な 機 構 に よ る の か,と
い っ た 問 題 は,
の セ リ ン残 基
と核 を 取 り囲 む 微 小 管 の 形 態 が 異 常 と な り移 動 中 に 核 が 細
目 と し て,McConnellら,
の 基 部(つ
kinase)の
初 代 培 養 神 経 細 胞 に 発 現 させ る
て い る も の と 考 え ら れ る.2つ
に よ り,移
よ
ダ イ ニ ンの モ ー タ ー 活 性 の 制 御 を 介 し て 中 心
が らswellingに
コ モ ー シ ョ ン細 胞 に は 特 異 的
な 構 造 が い くつ か み ら れ る.ひ
swellingの
報 告 され て
経 細 胞 の 移 動 が 正 常 に戻 る こ と
形 態 的 な 面 に お い て も,ロ
て お り,あ
の 表 現 型 はDCXの
を制 御 して い る こ と が 報 告 され て い る こ とか ら,Lis1(お
も 部 分 的 に は 線 維 芽 細 胞 と は 異 な る特 徴 的 な 移 動 メ カ ニ ズ
ら,ロ
テ ロ 変 異 神 経 細 胞,も
機 能 抑 制 を 行 な う こ と に よ り表
ム を も っ て い る も の と考 え られ る.
導 突 起 で あ る.こ
ら に,Lis1ヘ
過 剰 発 現 に よ っ て レ ス キ ュ ー さ れ う る こ と,が
し,ダ
導 突起
小管のマ
イ ニ ン の 機 能 抑 制 を 行 な っ た 神 経 細 胞 に お い て,
い る.ま
ノ ッ ク ダ ウ ン し た 細 胞 は,先
中 心 体 に 強 く局 在 し,微
イ ナ ス端 方 向へ の運 動 を担 うモ ー ター蛋 白 質 で あ る ダ イ ニ
い る23).ま
は 形 成 で き る も の の,そ
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と考 え ら れ る).Lis1は
能 抑 制 に よ り逆 に 神 経 細 胞 移 動 が 速 く な る こ と を 報 告 し て
た,p27kip1を
心 体 はつ ね に核 の前 に存 在 す るわ け で は ない
Ndel1も
明 ら か に さ れ た28).
け で な くDCXやLis1結
合蛋 白質であ る
リ ン酸 化 す る(図4).Ndel1はLis1の
局 在 に 必 要 で あ る こ とか ら,Cdk5は
中心 体 へ の
神 経 細 胞 の移 動 にお け
る核 移 動 や微 小 管 制 御 にお い て 中 心 的 な役 割 を はた して い
る もの と 考 え ら れ る.
こ の よ う に,神
経 細 胞 の 移 動 にお け る核 移 動 に は微 小 管
の 適 切 な 制 御 が 重 要 で あ る と考 え ら れ る.ま
McConnellら
は,移
た,2005年,
動 神 経 細 胞 の 核 の 後 方 に は リン酸 化 さ
れ た ミオ シ ン軽 鎖 が 多 く 局 在 し,ミ
オ シ ン Ⅱの活 性 を阻 害
す るブ レ ビス タチ ンを移 動 神 経 細 胞 に添 加 す る こ と に よ り
核 移 動 が で き な く な る こ と を 報 告 し て お り,進
行 方 向 へ核
ロ コ モ ー シ ョ ン細 胞 に 特 異 的 な 移 動 メ カ ニ ズ ム を 理 解 す る
を押 し上 げ る た め に は ア ク チ ン と ミオ シ ン に よ る収 縮 力 も重
た め 重 要 な 点 で あ る が,現
要 で あ る と 考 え ら れ る(図5b).
時 点 で は ほ とん どわ か っ て い な
い.
ロ コモ ー シ ョ ン細 胞 にお け る核 の 移 動 に は,微 小 管 形 成
中心 で あ る中 心 体 が重 要 な 役 割 をは た して い る もの と考 え
られ て い る.中 心 体 は,基
本 的 に は核 の 前(つ ま り,進 行
方 向)に 存 在 し(図5b),核
に さ きだ って前 方へ と移 動 す る
(ただ し,2007年,Valleeら
に よ り,中 心 体 と核 の動 きは
Ⅵ ター ミナル トランスロケーションと
神経細胞移動の 終了
ロ コモ ー シ ョン様式 で 長 い距 離 を移 動 した 未 成 熟 神 経 細
胞 は,先
導 突 起 の先 端 が 辺 縁 帯 に到 達 す る と,そ の の ち,
それ ぞ れ別 個 に制 御 され て い る可 能性 が示 唆 され て お り26),
突 起 を縮 め る よ うに細 胞 体 だ け を移 動 させ る.こ の移 動 様
同 じ く2007年,見
学 美 根 子 らに よ り,移 動 中の 小 脳 顆粒 細
式 は,先 述 の細 胞 体 トラ ンス ロ ケー シ ョン と非 常 に よ く似
胞 に お い て核 が 中心 体 を追 い抜 く現 象 が 観 察 され て い る こ
た移 動 様 式 で あ る こ とか ら,と くに この 神 経 細 胞 移 動 の 最
蛋白質 核酸 酵素•@ Vol.53
No.15
(2008)
1965
終 段 階 の 移 動 様 式 は “タ ー ミ ナ ル トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン ”と
ノ ッ クア ウ トマ ウ ス にお い て,少 数 の神 経 細 胞 が 移 動 を終
よ ば れ て い る6)(図2).タ
了 で きず に 辺 縁 帯 に侵 入 す る場 合 が あ る こ とが 観 察 され て
ー ミ ナ ル トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン に
お け る核 移 動 の メ カ ニ ズ ム が ロ コ モ ー シ ョ ン 移 動 に お け る そ
い る.ま
れ と ど の く ら い 共 有 さ れ て い る の か は わ か っ て い な い が,
に そ の分 解 を も促 進 す る こ とが 知 られ てい るが,Dab1の
2006年,Walshら
解 に 関与 す るCullin5の 機 能 抑 制 に よ り,や は り一 部 の移 動
に よ り,Reelinシ
質 で あ るDab1を
グナ ル経 路 の 主 要 蛋 白
リ ン酸 化 を亢 進 す る とと も
分
神 経 細 胞 が辺 縁 帯 に侵 入 す る こ とが 報 告 され て い る30)(た
ノ ッ ク ダ ウ ン し た 未 成 熟 神 経 細 胞 は,ロ
コ モ ー シ ョ ン移 動 は正 常 に 行 な え る が ター ミ ナ ル トラ ン ス ロ
だ し,こ の表 現 型 がCullin5に よるDab1の
ケ ー シ ョ ン だ け が 異 常 と な り,細
る か どうか につ いて,確 定 的 なデ ー タは ない).こ れ らの報
(対 照 と比 較 して,約40μm下
明 ら か に さ れ た29).ま
胞 体 が 辺 縁 帯 の 少 し下 側
側)で 移 動 を停 止 す る こ と が
た,2004年,Tsaiら
告 よ り,Reelinシ
制 御 を介 してい
グナ ル は移 動 神 経 細 胞 が 辺 縁 帯 に侵 入 す
る こ とを 防 ぐは た ら きを もつ 可 能性 が 示 唆 され るが,こ れ
に よ り,Dab1
は 神 経 細 胞 が 放 射 状 グ リ ア の 突 起 か ら離 脱 す る た め に 必 要
まで に報 告 され てい るReelinの 機 能 は 多岐 にわ た って お り,
で あ る こ とが 報 告 さ れ た た め,Dab1は
どの 機 能 が 本 来 の(2次 的 で は な い)Reelinの
神 経 細 胞 移 動 の最 終
か を明 らか にす るた め に は,さ
局 面 で 機 能 す る こ と が 示 唆 さ れ た.
Reelin遺
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た,ReelinはDab1の
伝 子 は50年
以 上 ま え に 発 見 され た 脳 の 層 構 造 が
異 常 と な る 自 然 突 然 変 異 マ ウ ス,リ
伝 子 と して ク ロ ー ニ ン グ さ れ,そ
もに 辺 縁 帯 のCajal-Retzius細
蛋 白 質 で あ る.分
VLDLRと
ー ラー マ ウス の 原 因 遺
の 遺 伝 子 産 物Reelinは
胞 か ら分 泌 さ れ る 細 胞 外 分 泌
泌 さ れ たReelinは
結 合 し,細
受 容 体ApoER2お
よび
胞 内 ア ダ プ ター 蛋 白 質Dab1の
チロシ
ン リ ン酸 化 を ひ き起 こ す(図4).ま
お よ び,ApoER2とVLDLRの
で は,ど
お
た,Dabl変
異 マ ウ ス,
ダ ブ ル ノ ッ ク ア ウ トマ ウ ス
ち ら も プ リ プ レ ー トは 分 割 せ ず そ の 下 に 皮 質 板 を
はた ら きなの
らな るReelin下 流 の 分 子 経
路 の 同 定 とそ れ らの 機 能 解 析 が必 要 で あ る もの と考 え られ
る.移 動 の 終 了 に関 与 す る可 能 性 のあ る蛋 白 質 はReelin以
外 に も知 られ てお り,2004年,Antonら
SPARK-like1に
は,細 胞 外 蛋 白質
対 す る抗 体 の添 加 に よ り神 経 細 胞 が 移 動 を
終 了 で きな くな る こ とを報 告 して い る.
お わ りに
大 脳 皮 質形 成 の研 究 は,古
くか ら解 剖 学 的 な手 法 を用 い
た 解 析 が お もに行 な われ て お り,多 くの知 見 が得 られ て い
構 成 す る 神 経 細 胞 が 配 置 さ れ る と い う,リ
ー ラ ーマ ウ ス と
る.ま た,変 異 マ ウ スや ヒ ト疾 患 の遺 伝 学 的 な解 析 に よ り,
非 常 に よ く似 た 表 現 型 を 示 し た.Reelinお
よ びDablの
大 脳 皮 質形 成 にか か わ る蛋 白質 のい くつ か が 明 らか に な っ
損 は こ の よ う な 劇 的 な 表 現 型 を ひ き起 こ す が,子
欠
宮 内エ レ
た.当 時,筆
者 は,神 経 細 胞 移 動 が 異 常 とな る疾 患 に お い
ク トロ ポ レー シ ョ ン法 を 用 い て プ リ プ レ ー トが 分 割 した の ち
て,異 所 性 に移 動 を停 止 した神 経 細 胞 の存 在 す る場 所 が 疾
の 未 成 熟 神 経 細 胞 に お い てDab1の
ノ ッ クダ ウ ンを行 な うと
患 の 種 類 に よ って 異 な る 点 に興 味 を もち,神 経 細 胞 移 動 は
ター ミナ ル ト ラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン の み が 異 常 と な る こ と か
い くつ か の段 階 に分 類 され る複 雑 な過 程 を経 る もの と考 え
ら,Reelinシ
た.し か し,遺 伝 学 的 な手 法 のみ で はそ れ ぞ れの 過 程 を制
グ ナ ル は プ リ プ レ ー トの 分 割 お よ び ター ミナ
ル トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ンの 両 方 を 制 御 し,こ
か(も
し くは,両
方)がinside-out様
の うちどちら
御 す る分 子 経 路 を広 く解 析 す る こ とは 困 難 で あ る と考 え,
式 の 層 構 造 形 成 に重 要
簡 便 に個 体 へ の遺 伝 子 導 入 を行 な える子 宮 内 エ レ ク トロポ
な 役 割 を は た して い る と示 唆 さ れ た.Dab1の
して,極
下 流 蛋 白質 と
性 形 成 な ど を 制 御 し て い るPI3キ
ナ ー ゼ,ア
ン細 胞 骨 格 の 制 御 に 関 与 す るN-WASP,癌
クチ
遺 伝 子 に コー ド
レー シ ョ ン法 を確 立 し,細 胞 生 物 学 的 な視 点 か ら個 体 レベ
ル で の解 析(in
vivo細 胞 生 物 学)を は じめた.近 年,子
宮
内 エ レク トロポ レー シ ョン法 や 最 新 の イ メー ジ ン グ技 術 が
さ れ る 蛋 白 質 と し て 単 離 さ れ た ア ダ プ タ ー 蛋 白 質Crkや,
広 く浸 透 す る につ れ,同 様 の “in vivo細 胞 生 物 学 ”的 な研
そ の 下 流 で 活 性 化 す る 低 分 子 量G蛋
どが 知 ら
究 も広 が りをみせ て い る.こ の よ う な研 究 の流 れが 従 来 の
グ ナ ル が 細 胞 骨 格 系 を制 御 し て い る
解 剖 学 的 ・遺 伝 学 的 な 研 究 や 生 化 学 的 な 手 法 を用 い たin
れ て お り1,2),Reelinシ
白 質Rap1な
流 蛋 白 質 の うち ど
vitroの 解 析 と融 合 す る こ とに よって,本 稿 で 紹 介 した とお
れ が ター ミナ ル トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン に 関 与 す る の か に つ い
り,未 成 熟 神 経 細 胞 の複 雑 な形 態 変 化 の 詳細 や そ れ らを制
て は ま っ た く わ か っ て い な い.
御 す る 分 子 機 構 の一 端 が 明 らか に され,い
可 能 性 も考 え ら れ る が,こ
ま た,Reelinが
れ らDab1下
神 経 細 胞 移 動 の 終 了 シ グ ナ ル と して は た ら
く と い う説 も あ る.2007年,Frotscherら
1966 蛋 白質 核 酸 酵素•@ Vol.53
No.15
に よ り,VLDLR
(2008)
くつ か の脳 奇 形
は 未 成 熟 神 経 細 胞 の形 態 変 化 の異 常 が 原 因 の ひ とつ で あ る
可 能性 も示 唆 され た.さ
らに最 近,統 合 失 調症 や失 読 症 な
どの 高次 脳 機 能疾 患 の 原 因候 補 遺 伝 子 の一 部 が 神 経 細 胞 移
動 に関 与 す る こ と も報 告 され,大 脳 皮 質 形 成 の 分 子 機 構 の
研 究 は基 礎 的 な興 味 だ け で な く医 学 的 な面 か ら もそ の重 要
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ま ざ ま な観 点 か らの研 究 が さ らな る進 展 をみせ,大
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脳皮 質
形 成 お よび そ れが 破 綻 す る こ とに よ りひ き起 こ さ れ る精 神
20) Bai, J. et al.: Nature Neurosci., 6, 1277-1283 (2003)
神 経 疾 患 の メ カニ ズ ム の全 体 像 が いつ の 日か理 解 され る こ
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文
1)
2)川
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川内 健 史
略歴:2004年
京 都 大学 大学 院 医学研 究 科博 士 課程 修 了,同 研
究員 お よび助 手 を経 て,2007年
よ り慶應 義塾 大 学医 学 部 講師.
研 究 テ ーマ:細 胞 生物 学 的 な視点 か らみ た分 子 神経 発 生学.
抱負:ま ず は任 期 制 の世界 で生 き抜 くこ と.
蛋 白質 核酸 酵素•@
Vol.53
No.15
(2008)
1967
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