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蒸気タービン翼の高性能化技術

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蒸気タービン翼の高性能化技術
このため,流体も最新のCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流
蒸気タービン翼の高性能化技術
体力学)を駆使して解析を行います。そ
3 ノード
4 ノード
⒜ グループアキシャル1次モード
の一例として,翼外周部での流れの状
態を3次元的に解きマッハ数分布で表
わした結果を図 4 に示します。急激な
300 t の遠心力に耐える翼
衝撃波やはく離がなく,流れがスムー
ズであることがわかります。このような
蒸気タービン翼は,固定されている静翼と回転する動
6 ノード
翼があり,それらが一対となって機能することで所定の
きな遠心力が掛かるとともに,翼が長くなるほど複雑な
図 1.52 in 翼を装着した回転試験ロータ ̶ 蒸気タービンにとっ
て重要な最終段動翼は,前の2 段落を含む3 段落を実サイズで製
作し,実際に回転させて最終検証を行います。
マッハ数
(相対値)
1.2
振動形態を持つため,設計や開発に多大な労力が必要に
なります。このため,タービンの最後方にありもっとも
項 目
長い翼である最終段動翼の設計・開発能力は,タービン
回転数
メーカーの技術力のバロメータとさえ言われています。
翼長
東芝は,開発実績に裏打ちされたデータベース,最新
の解析技術,及び試験設備をすべて駆使して蒸気タービ
ン翼の開発を行っています。
最外径
最外径での周速
̶ この翼は,
図 2.52 in 翼(単体)
将来の主力機種となるAP1000 TM 用
として最新の流体設計や構造解析
を駆使して開発されたものです。
動翼はこの湿り度がもっとも高くなりま
0.6
1,800 rpm
約1,320 mm
す。湿り蒸気は,蒸気の中に水滴が混
0.4
在し,極めて流体の抵抗が大きい状態
約5 m
0.2
約 480 m/s
重量(1本当たり)
約 56 kg
遠心力(1本当たり)
約 300 t
本数(1段当たり)
約100 本
湿り蒸気に対する配慮
蒸気内で運転されており,特に最終段
0.8
諸 元
翼型を積み重ねていきます。
原子力タービンは多くの段落が湿り
1.0
表 1.52 in 翼の主要諸元
解析を通した性能予測から翼型(翼の
形)の設計を行い,半径方向に最適な
図 3.翼の振動モード ̶ 翼長が長いため複雑な振動形態となることから,単一の翼としてではなく,す
べての翼が接続された状態での振動モードを把握する必要があります。
電気出力や性能を達成できる極めて重要な部品です。典
型的な高速回転機械である蒸気タービンでは,動翼に大
7 ノード
⒝ グループアキシャル2次モード
です。高速で回転している翼に水滴が
0
図 4.流体解析結果 ̶ 翼型の決定には最新の CFDを駆使した解析が不可欠であり,高マッハ数の流
れ場を考慮した流体解析が行われます。
衝突することによって,性能低下やエ
ロージョン(水滴による侵食)が起きる
可能性があります。この現象に対処する
おり,このデータベースの豊富さが当社
ため,翼に溝を切り遠心力で水滴を吹
⑵について,身近なギターの調律を
の技術力を支えています。こうして設計
き飛ばしたり,フレーム ハードニング
の 遠 心力は 約300 tです。AP1000TM
例にすると,弦の張力を調整すること
した翼は,最終的には実寸大の翼を製
(火炎焼入れ)によって最終段動翼自体
くするには,流出する蒸気の速度を小
の最終段動翼としては600本以上使う
で音の高さ(固有振動数)を調整してい
作し,図1のような回転試 験ロータを
まで使い切って高い効率で電気出力に
さくすることが有効です。より長い翼に
ことから,その総遠心力は187,000 t
るように,蒸気タービン翼でも回転に
使って回転状態での振動数や遠心応力
変換するための機械です。原子炉やボ
すると,蒸気が通過できる面積が大き
にも達します。
よる遠心力が加わることで同様に固有
を確認することになります。
イラから蒸気を受け取る際の圧力は大
くなって蒸気の流速が小さくなるため,
の蒸気のエネルギー(主に運動エネル
に達します。最大外径での周速度は約
ギー)は発電には使うことができませ
480 m/sとなることから,翼1本当たり
蒸気タービンは,原子炉やボイラで
ん。この運動エネルギーの損失を小さ
生じた熱エネルギーをできる限り最後
最終段動翼の役割りと問題点
66
気 圧の70∼300 倍に達しますが,逆
効率の高い蒸気タービンが設計できます。
に,蒸気タービンから蒸気を排出する
しかし最 終 段 動 翼を長くすれ ば,
を考慮した設計が必要
振動数が変化します。
振動への配慮と構造上の特徴
近年,コンピュータによるシミュレー
の硬さを増したりしています。
今後の展望
代表的な蒸気タービン翼である最終
流体設計
段動翼の開発では,従来の実績に裏打
最終段動翼では,過大な遠心力に耐
ション技術が発達し,開発の初期段階
最終段動翼の開発でもう一つ重要な
ちされたデータベース,最新の解析技
部分の圧力は大気圧の1/20 程度にな
翼には当然大きな遠心力が加わるこ
えることはもちろんのこと,その開発に
で固有振動数を高い精度で予測できる
ポイントが流体設計です。流体面での
術,及び試験設備のすべてが不可欠に
ります。この過程で蒸気の体積は,入
とになります。東芝が米国向け原子炉
あたり更に難しいのは振動特性を把握
ようになりました。翼の基本的な振動
最終段動翼の特徴は,次のとおりです。
なっています。今後も当社は,これらす
口から出口に到達するまでに大きく膨
AP1000TM 用に開発した大型の52イ
することです。複雑な振動形態をもた
形態(振動モード)の一例を図 3 に示し
⑴ 翼の外周の周速が非常に速く,
べてを兼ね備えたメーカーとして,高性
張してエネルギーを放出します。この大
ンチ(in)翼をその2 段落前の翼ととも
らす主な原因を次に挙げます。
ます。この翼の場合,すべての翼が連結
高マッハ数(音速との比)の流れ場
能で信頼性の高い製品を提供していき
きな体 積 変化に対処するため,蒸 気
に組み立てた回転試験ロータを図 1に
されている(全周一群)ため,単一の翼
になっている
ます。
タービン翼の長さには20 mm 程度から
示します。ロータに装着する前の単体の
1,300 mm 程度までのものがあります。
翼を図 2 に,主要諸元を表 1に示しま
最終段動翼は,その名の示すとおり
⑴ 長翼であるため多くの振動モー
としての振動モードだけでなく,すべて
⑵ 翼長が長いため,翼根元部と外
⑵ 過大な遠心力が掛かるため,回
の翼が連結された状態での振動モード
周部では流れの状態が非常に異な
す。52 in 翼は,今後 60 Hz 地 域の当
転上昇に伴い固有振動数が変化
を考える必要があります。これらのシ
り,3次元性が強い
蒸気タービンの最後方に位置するもっ
社主力機種のAP1000TM に適用し,回
⑶ 隣の翼やロータとの間に締結部
ミュレーションで使用するデータベース
⑶ 負荷により流れの状態が変化し
とも長い翼であり,この翼を通過した後
転数は1,800 rpm,最大外径は約5 m
が存在するため,トライボロジー
は既存の翼の特性データで構築されて
やすく,逆流する可能性さえある
東芝レビュー Vol.65 No.12(2010)
蒸気タービン翼の高性能化技術
ドが存在
野本 秀雄
電力システム社
首席技監
67
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