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KUNJ-Sakura に関する技術的解説 1.はじめに 2.シミュレーションの概要
K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa KUNJ-Sakura に関する技術的解説 1.はじめに 交通シミュレーションについては,各種の交通インパクトに対する影響を定量的に予測する手段と して,また,交通行動や車両挙動を分析する研究のツールとして,一般的となりつつある. 当社においても,10 年ほど前より自社開発によるミクロシミュレーションモデルを用い,主に平面 道路における渋滞対策の効果・影響予測等の業務に適用してきた.しかし,近年における ITS の活用 などの交通施策の多様化,計算機ハードの発達による検討対象の広域化等に対し,拡張性に限界があ ることから,新たなモデルに対する要求が発生した. そこで,平成 10 年度より,京都大学大学院工学研究科の飯田研究室とともに“動的交通流シミュレ ーション研究会”を実施し,既存モデルの調査,研究者側・実務者側からそれぞれ見たときの使用ニ ーズおよび要求機能の洗い出し,モデルの概要・細部の検討など,交通シミュレーションモデルに関 する調査・研究を進めてきた.その成果として生まれたものが,KUNJ-Sakura である. 2.シミュレーションの概要 2.1.シミュレーションシステムに求めたもの シミュレーションの使用目的は多種多様であり,目的に応じて適切にモデルを使い分けることが望 ましい.例えば,局所的な道路構造の改変に伴う影響を調べるなど,特定区間について詳細な検討を 行う場合には,詳細な車両挙動を記述するモデルが望まれるが,大規模ネットワークに適用する場合 にはモデルのシンプルさや計算の高速性が,個人の生活及び交通行動に着目した場合には選択行動に 関する深い分析が可能であることが求められるであろう. 研究会における将来目標は,カスタマイズ性の高いプラットフォームを提供し,モデルをユニット 化して必要に応じて組み替えられるシステムの構築にある. 今回紹介するモデルは,その端緒として開発した,詳細な車両挙動を記述するミクロモデルである. 配分等の他の予測手法との棲み分け,既存のシミュレーション適用状況から,十数 km 程度の区域に おける数十カ所以内の交差点数を持つネットワークに対し,詳細な検討を行えることが,現状では最 も業務ニーズに合致していると考えてのことである. 2.2.モデル・システムの概要 ・個々の車両挙動を詳細に表現するミクロシミュレーションモデルである. ・車両挙動表現には追従モデルを用いる. ・個々の車両の OD(及び経由地)や利用経路を明示的に表現する.また,車両は車種,大きさ,攻 撃性等の属性をそれぞれ持つ. ・可変のスキャンインターバル(0.5 秒以下)を持つタイムスキャニング方式をとる. ・開発ツールとして Delphi を用いている. (1/6) K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa ユーザーインターフェイス 入力データ ・メイン画面 道路ネットワークデータ ・パネル,バンドル,信号など 入力データ編集ツール ・ネットワークエディタ ・パラメータ編集ツール OD 交通量データ 出力データ 車両発生ツール グラフィック表示ツール ・集計値 ・ミクロな結果 発生車両データ(1 台ごと) その他(設定条件など) コアモデル ネットワーク ・シミュレーション進行管理 ・構成要素となるオブジェクトの管理 車両オブジェクト ・個別の属性を持つ車両・障害物 道路構成要素オブジェクト ・車両が移動する場としてのパネル・バンドル ・経路ネットワークを構成するリンク・ノード ・車両の経路選択・車線選択・挙動 決定を制御するモデル ・道路要素属性の相互参照・道路状況の提供により,車両 の行動選択・挙動決定のための情報を与える仕組み. 図-1 システムイメージ 3.道路構成要素について 3.1.パネル 道路構成要素の最小単位であり,車線を均質(属 性が同一)な区間で分割したものである.車両はパ ネルそれぞれの内部座標系において位置を認識し ながら走行する. また,パネルは幅員や曲線半径(楕円による記述 パネル が可能),規制速度,車線変更の可否,特定車両の 優先の有無,合流における優先度等の属性を持つ. 3.2.バンドル 図-2 パネルの例 バンドルは,同一方向に走行する車線の群であり, パネルを束ねる役割を果たす.車両はバンドルを通じて前後左右のパネルを把握する. バンドルには,交差点(あるいはランプ)間を結ぶ道路区間を指す道路バンドルと,交差点・ラン プを形成する接続バンドルがある. 左折 直進 道路バンドル 図-3 右折 図-4 道路バンドルの例 (2/6) 接続バンドルの例 K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa 3.3.リンクとノード 経路探索ネットワークを構成するリンク・ノード リンク ノード に関しては,以下のようにバンドルを対応させて考 える. ・ノード=道路バンドル ・リンク=接続バンドル 図-5 ノード・リンクの考え方 これにより,交差点等における右左折等の進行方 向による走行速度の違いを,経路選択に反映させることができるようにしている. 車両の発生・駐停車・消滅はノード(道路バンドル)上で行われる.車両の発生・消滅パターンと しては以下のものがある. (発生) ・道路バンドル上流端における発生. ・道路バンドル内指定パネルにおける発生:予め設定した車両発生可能パネル中で,最大ギャップ位 置を検索し,停止状態で発生する. (駐停車・消滅) ・道路バンドル下流端における消滅. ・道路バンドル内指定パネルにおける停止:予め設定した停止パネル中で一旦停止した後,駐車状態 に移るか消滅する.駐車状態の車両は障害物として取り扱われる. 3.4.その他 a)信号 信号に関しては,車線(パネル)毎に設定することで,方向別表示を再現可能としている.また, 時間帯別現示や感知式現示(パネル上の車両の速度および密度により判断)についても考慮している. b)横断歩道 横断歩道の信号は,車線の信号と連動して運用される.各横断歩道毎に影響係数を設定し, (横断歩 道の青・青点滅時間)×(影響係数)の間,車両の横断を認めない様にすることで,横断歩行者によ る右左折車への影響を反映している. 4.車両行動・挙動モデルについて 4.1.経路選択モデル 各車両は,目的地(あるいは次の経由地)までのルートを,リンクのリストの形でそれぞれ保有し ている.このルートを得る方法として,現在のところ以下の手段を用意している. ・距離最短ルートを選択. ・規制速度に基づく時間距離最短ルートを選択. ・先に走行した車両の走行実績(リンク所要時間)に基づく最短ルートを選択. ・リンク所要時間を用いて Dial 法によりリンク選択確率を算定し,乱数を発生して確率的にルート選 択を行う. 4.2.車線選択モデル 並行する車線が複数ある場合には,車線選択を行う.なお,車線が分岐する箇所(分流パネル)に おいても同様の考え方で進行方向を決定する.選択は,車線の効用をもとに式(1)のロジットモデル により選択確率を算定し,乱数を発生して行う. (3/6) K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa P( A) = exp(V ( A) ) ∑ exp(V (a)) (1) a ここで,a:並行する車線,A:着目する車線,P:車線選択確率,V:車線の効用である.車線の効 用を決定する要素としては,以下に示す a∼f がある.なお,各効用値は何らかのペナルティであり基 本的に負の値をとるものである. a)選択行動の慣性 前回の選択と異なる選択肢に関しては,負の効用を加算する.例えば,前回に直進を選択した場合 には左右への車線変更の選択確率が低くなる. b)着目車線への移動 着目車線へ到達するための車線変更回数に応じて着目車線の効用が低下する.また,車線変更禁止 箇所での車線変更や,優先レーンが設定されている場合における非優先車両に対しても,負の効用を 加算する. c)予定経路進行適性 予定経路(下流リンク)に従って走行するために適した車線であるかを判断する.着目車線を走行 した際に車線変更をしなければ予定経路から外れる場合,必要な車線変更回数が多いほど,車線変更 可能区間が短いほど,効用が低くなる.また,滞留により車線変更が困難となる状況についても考慮 する.これらを式で示したものが式(2)である. vBab = − α ⋅ N ab β γ TLab − C ab (2) ,Nab:地点 a か ここで,vBab:地点 b に向かう場合の地点 a における効用(地点 b への行き易さ) ら地点 b へ行くために必要な車線変更回数,TLab:地点 ab 間の想定所要時間,Cab:車線変更の禁止 や滞留の影響を反映する定数成分, α ,β ,γ :パラメータである. 式(2)の計算はパネル上下断面にて行う.特定の予定経路に従って走行する場合の効用については, 式(3)を用い,経由地点(パネル上下断面)毎にログサム変数を求めることにより得る. R vBab = vBab + µ ⋅ VBbR (3-1) R VBaR = ln ∑ exp(vBab ) (3-2) b R :予定経路 R を持つ車両が地点 b を経由して通行する場合の地点 a における効用, ここで, vBab R VBa :予定経路 R を持つ車両の地点 a における予定経路進行適性効用, µ :パラメータである. なお, Σ は同一断面で並行するすべての車線について加算することを意味している. b 各車両は,予定ルート中の任意の地点において VB xR の初期値(地点 x の下流にさらに予定経路に含 まれるパネルがある場合は 0,そうでない場合は − ∞ )を設定し,上流に向かって遡りながら順次式(3) を適用して,自分が現在いる地点(及びその並行位置)における効用 VBaR を算定する. d)前車との速度差 前車の速度と自車の希望速度との速度差に応じて次式(4)により負の効用を与える.なお,赤信号 がある場合は停止車両があるものとして取り扱う. 1 β VS = −α ⋅ s 0 − s 1 − (4) 1 + δ ⋅ exp(−γ ⋅ d ) ここで,VS:速度差に基づく効用,s0:希望速度,s:前車の速度,d:前車との車間距離,α ,β , γ ,δ :パラメータである.式(4)では,d についてロジスティックカーブ型の関数となっている. e)障害物の存在 前方に障害物がある場合にも,式(2)と同様の式により負の効用を与える.ただし,障害物が形成 (4/6) K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa する車線の隙間幅が大きさに応じて影響を軽減させる.車線内に余裕を持って通行できる隙間幅が残 されていれば効用値は 0 である. f)合流車の存在 合流車両との前後の相対距離に応じて負の効用を加算する.前方に複数の合流パネルがある場合は, その各々において合流車両を検索する. 4.3.挙動決定モデル 進行先パネル 車線変更方向 最大・標準加速度 最大・標準減速度 挙動決定のフローを図-6 に示す. a)希望速度 希望速度の決定 規制速度 曲線半径 停止制約位置の抽出 信号・一時停止線 横断歩道 交差(優先車) 交差(先詰まり) 停止する.判定減速度は赤信号時・黄信号時 横移動目標の決定 左右横移動制約位置 それぞれに対し,車両の攻撃性を加味して設 周辺車両 周辺障害物 障害物停止制約位置 現在パネル及び前方パネルの規制速度,曲 線半径を元に,各車両の攻撃性を加味して決 定する. b)信号による停止制約 信号停止判定減速度で停止可能であれば 定する. c)交差パネルの存在による停止制約 非優先側の車両は,交差車両の進入ギャッ 合流待ち停止制約位置 追従対象(車間・速度) 進路変更先追従対象 譲歩追従対象 ・前方・後方 ・変更元車線 ・変更先車線 ・合流先 (優先・非優先) ・分流先 プが, 自車が交差位置を通過するために十分 でないと判断した場合,交差位置の手前で停 追従対象の履歴 止する.また,前方の停止車両等により交差 停止制約位置 位置を通過することができない場合にも,交 左右移動量の算定 加速度の算定 差位置の手前あるいは信号停止線位置で停 図-6 止する.なお,交差点右折待ちの停止は,こ 挙動決定のフロー のメカニズムにより反映させている. d)周辺車両・障害物の認識と対処 車両は,各種の見え方をする周辺の車両・障害物に対し,追従・譲歩追従・回避等の対応を行う. 以下の例に示すように,対処方法は,両者の位置関係・速度・幅員,車線の幅員等によって様々であ る. 〔例 1〕自車の進路に重なる形で前車が存在する場合⇒追従する. 〔例 2〕自車の進路前方に流入を希望する車両がいる場合⇒譲歩追従するかどうかを判定する. 〔例 3〕側方車両が形成するギャップが小さく,進入できな い場合⇒横方向移動が制約される. 余裕幅 〔例 4〕側方に車両がおり,その後方に進入したいが,何ら かの制約により進入できない場合⇒進入可能なギャップ 図-7 横移動制約の例 図-8 横方向回避の例 が確保されるまで,側方車両に追従するかどうかを判定する. 〔例 5〕前方に障害物がある場合⇒横方向に回避する. 〔例 6〕自車の前方進路上にいる,あるいは流入しようと している車両がいるが,車線内で回避可能な場合⇒横方 向に回避する. (5/6) K N U K NJJJ---S UN KU Saakkuurraa e)加速度の決定 追従対象車両がある場合,追従式により加速度を決定する.追従式は越モデルをベースに, “追従対 象車両との速度差” “車間距離と希望車間距離との差”“自車の速度と希望速度との差”の 3 つの要素 を反映するものとして設定した. a n +1 (t ) = α [x n (t − ∆1 ) − Ln − x n+1 (t − ∆1 )] l + [v n (t − ∆1 ) − v n +1 (t − ∆1 )] β (5) [x n (t − ∆ 2 ) − Ln − x n +1 (t − ∆ 2 )] m ⋅[x n (t − ∆ 2 ) − Ln − x n +1 (t − ∆ 2 ) − Sd n +1 {v n +1 (t − ∆ 2 )}] + λ ⋅ [vd n +1 − v n +1 (t − ∆ 3 )] ⋅ δ ここで,a:加速度,x:位置,v:速 度,L:車両の長さ,vd:希望速度,t: (m) 250 時刻, ∆ 1 ∼ ∆ 3 :それぞれ速度差・車間 200 距離・希望速度に対する反応遅れ時間, 150 α , β ,λ ,l,m:パラメータである. 100 添え字は車両の順番をあらわしており, n が先行車,n+1 が後続車である.Sd は希望車間距離であり,速度の関数によ り与える.δ は自車の速度が希望速度に 50 0 0 10 20 30 40 50 60 (s) -50 対し所与の割合を上回っていれば 1,そ -100 うでなければ 0 である. -150 (設定条件)初期状態では,先頭車の後方 100mに 2 台目の車両が おり,以降 3∼8 台目が 7m ピッチで並んでいる.先頭車は初期 走行させた場合の走行軌跡の例である. において停止状態となっており,25 秒目から一定の加速度 2m/s で加速し,一定速度で走行した後,減速度−6m/s で減速して停 f)割り込みの可否判定 止する.後続の車両は停止状態から開始して先行車に追従する. 図-9 は,この追従式を用いて車両を 隣接車線等を走行する車両の前後に 割り込み進入しようとする車両は,以下 図-9 追従式による車両軌跡の例 の条件が満たされていれば進入が可能であると判断する. ・進入先の前車がある想定減速度で減速したとしても,標準減速度で減速すれば衝突しない場合. ・自分がある想定減速度で減速したとしても,進入先の後車が標準減速度(他車の標準減速度は不明 であるが,自車と同じであると想定する)で減速すれば衝突しない場合. ※想定減速度が大きければ,進入するために必要な車間距離は相対的に大きくなる.すなわち攻撃性 が低いドライバーほど想定減速度を大きくとる傾向があるものとする. 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