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初乳の給与法

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初乳の給与法
初乳の給与法
飼養管理技術の中でも最も重要で、健康な子牛を育成するためには欠くことのできない「初
乳の給与法」について最近の知見を交え解説します。
○給与適期
従来、初乳は生後早期に子牛へ給与するほど移行抗体が多く免疫能が高まるとされていま
した。
しかし、最近の研究では出生直後の子牛の第四胃内には羊水が存在し、初乳の強制投与は
羊水との混合、希釈により抗体の吸収率が減少して免疫力が低下することが明らかとなって
います。子牛は第四胃内の羊水が腸管へ移送され内容が無くなると同時に哺乳欲を示すこと
から、最適な初乳給与のタイミングは子牛が起立し乳首を探す仕草を始めた時であり、新生
子の行動をよく観察することが重要です。
また、生後約6時間は必要な抗体が十分移行することが証明されていますから、深夜に出
生した哺乳欲を示さない子牛は、あわてず初乳給与を翌朝まで延ばしましょう。通常、健康
に出生した黒毛和種(黒毛)は約1時間で起立し(写真1)2時間以内に哺乳を、ホルスタ
イン種(ホル)は約2時間で起立し4時間以内に哺乳を開始しますから、この範囲で初乳を
摂取できれば問題ありません。
写真1
但し、難産により衰弱した子牛や体重が小さな虚弱子牛は要注意です。以前はこうした子
牛も、生後、早期に哺乳瓶やチューブを用いて強制的に投与することが推奨されていました。
これらの子牛は健常に生まれた個体と比べ胃腸の運動が弱く、第四胃から腸管への羊水の移
送が遅くれがちで、全身の筋肉の発達も未熟であり、抗体吸収の低下や、初乳と滞留する羊
水によって膨張した第四胃に肺が圧迫され呼吸困難に陥り、最悪の場合死に至る危険性もあ
ります。こうした子牛は哺乳欲が発現するまで待つか、生後6時間は経過を観察した後の給
与を検討しましょう。
○給与量
従来、生後24時間以内に体重の8~10%の給与が推奨されていましたが、最近の子牛
は初回の哺乳で体重の約10%(黒毛:約3㍑、ホル:約4㍑、これ以上哺乳する子牛も沢山
います)の摂取が可能です。
黒毛では増体系種雄牛産子が主流となり生時体重が大きくなったのも一因でしょうが、以
前から言われる一日分の給与量は現在、一回分の給与量でしかなく、移行抗体をできるだけ
多く付与すると同時に新生子期の急激な成長を支える栄養源として不足することのないよう、
子牛が満足する量を与えることが重要です。特に抗体吸収率の高い生後24時間は決して制
限すべきではありません。良質の初乳で子牛が自力哺乳するのであれば、黒毛、ホルを問わ
ず一回に4~5㍑(写真2)
飲ませても下痢などの問題はなく、逆に哺乳量を制限する農場ほど新生子期の下痢に悩ま
される傾向にあります。生後24~36時間以内に黒毛は体重の25%以上、ホルは20%
以上の給与を心がけましょう。
写真2
○凍結初乳、初乳製剤の利用
凍結初乳や初乳製剤は初乳の代わりに積極的に給与すべきではなく、子牛が母牛初乳を十
分摂取できなかった場合に限って補助的に用いるべきです。それは以下の理由が挙げられま
す。
①
母牛の乾乳期、妊娠末期の飼養管理が適切であれば最低限必要な量と質の初乳は母牛
から得られる。
②
黒毛和種(黒毛)の初乳はホルスタイン種(ホル)に比べの抗体含量が二倍以上高く、
新生子牛の血中抗体価もホルの二倍以上必要であり、生時体重が小さく摂取量の少な
い黒毛子牛には基本的に黒毛の初乳を摂取させなければならない(凍結初乳、初乳製
剤とも原料は主にホルの初乳)
③
血縁関係のある母子間(人工授精産子は有、受精卵移植産子は無)では初乳中の細胞
が子牛のリンパ節へ移行し子牛の免疫活性(細胞性免疫)を高める。
また、凍結初乳は牛白血病ウイルス、ヨーネ菌および乳房炎起因菌(乳用牛の新規乳房炎
症発生率は分娩後10日以内が最も高い)などに汚染されている可能性があり、これら病原
微生物検査の実施、あるいは加温殺菌して給与する農場は極稀ですし、初乳製剤は高価で細
胞性免疫の活性を期待できません。これらの使用は子牛に哺乳欲があるのに母牛が分娩後6
時間を経過後も興奮して授乳を拒否する、慢性乳房炎、無乳症、母牛の死亡および初産牛あ
るいは老齢牛産子で疾病発生率が極端に高いなどの場合に限るべきでしょう。母牛の新鮮な
初乳に勝る初乳はありません。(写真3)
写真3
○リッキング(母牛が子牛を舐める動作)
分娩直後に母牛が示す行動で、強いマッサージ効果(写真4)により子牛の呼吸、排便、
血液循環など諸臓器の活動を促進し初乳吸収率を高めます。スタンチョンで分娩させる農場
ではリッキングを省略することが多いのですが、哺乳期の疾病予防の観点から子牛を飼槽に
移動させ短時間でも実施すべきです。
また、リッキングは子牛に付着した唾液が細菌の増殖を抑制する効果があると同時に、母
牛の消化器運動を促進し分娩後の疾病予防効果を期待できるとの報告もあります。
写真4
3)母子分離
ホルは生後3~6時間以内に母子分離しないと子牛の下痢発生率が高まることが知られて
います。母牛が満足するまでリッキングさせてから子牛をハッチへ移動させれば、ほぼその
範囲の時間に収まるでしょう。人工哺乳を実施する黒毛は最低72時間、母牛と同居させ初
乳を十分摂取させましょう。これより早いと以下の問題が起こります。
① 抗体を十分に受け取れない。
② 分離ストレスによる食欲不振、下痢の発症。
③ 母牛からの第一胃内微生物の移行が少なくその発達が遅延する。
また、この日齢であれば人工哺乳用を拒否する子牛もほとんどなく、労力的な負担も少な
いでしょう。
4)移行抗体の確認
初乳を十分飲んでいるか、抗体が移行しているか不安な場合は、獣医師に依頼し生後24
~48 時間で血液検査(血清総タンパク、γGTP)を行い確認しましょう。摂取不足が判
明した場合は母牛からの輸血が有効です。
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