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2 - 日本経済研究センター

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2 - 日本経済研究センター
日 本 経 済 研 究 セ ンタ ー
Japan Center for Economic Research
http://www.jcer.or.jp
Table of Contents
2013/2
欧州発金融危機のアジアへの影響と対策を検証
2013/2
ケインズ主義財政政策の盛衰
2013/2
ユーロ圏における財政問題
2013/2
「債務上限引き上げ」と「金貨発行」提案
2013/2
空気は変わった。問題は次の手だ
2013/2
“成長戦略”の要件
2013/2
海士町を行く(下)―「人が人を呼ぶ」好循環が...
2013/2
利他性と経済学
2013/2
日本のイノベーション・システムの何が問題か
2013/2
“ジャパン・リスク”へ世界の目
2013/2
日銀はインフレ目標を達成できるか
2013/2
1000億ドルのエコ・ビジネスの機会を逃がす...
2013/2
3Dプリンターの可能性 2013/2
インドを巡る誤解と過大・過小評価
2013/2
2013年の欧州政治・危機対応・市場動向―長...
2013/2
【2050年への構想】「経済一流国の地位を堅...
2013/2
<新春特別セミナー>「2013年の日本経済 ...
2013/2
2月−3月のセミナー(東京・大阪)
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本記事は日本経済研究センターの会報ページを印刷したものです。無断複製、無断転載を禁じます。
2013年02月号
財政政策と公的債務―12月発行AEPRから
欧州発金融危機のアジアへの影響と対策を検証
ギリシャに端を発し、他の欧州諸国へと広がってきた欧州の財政危機は、ユーロ圏のみな
らず、日本や中国、ASEANなどアジアにも大きな影響を及ぼしている。欧州や日中AS
EANはどのような政策対応を目指しているのか。そして不況期の対応策としてかつて隆盛
を極めたケインズ主義的財政政策は、この危機において、どのように位置づけられているの
か。
このほど発行された「Asian Economic Policy Review (
AEPR)」第7巻第2号(通算14号)では、“Fiscal Policy and Sovereign Debt”(財政政策と公的債務)と題し、欧州発の財政危機が欧州、
日中ASEANにどのような影響を与え、それに対してどのような対策がとられているのか
について、ケインズ主義的財政対策の視点も交えながら論じている。
今特集はその中から、米カリフォルニア大学バークレー校のアラン・アウアーバッハ教授
の論文「ケインズ主義財政政策の盛衰」と、元スペイン経済長官で現在はIESEビジネス
スクール教授のホセ・マニュエル・カンパ氏の論文「ユーロ圏における財政問題」の抄訳を
掲載する。前者は不況への対応策としてのケインズ主義的な財政政策を巡る最近の動きや議
論をカバーしたもので、後者はユーロ圏が抱える財政問題を巡って現在採られている対策と
その課題について分析している。
本号ではこのほかに、「財政の慎重さと成長の持続性:中国の公的債務の分析」「日本に
おける非ケインズ主義効果の推計」「世界金融危機とASEAN:タイとインドネシアにお
ける財政政策対応」などを含め、全部で5本の論文を掲載している。
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2013年02月号
【【AEPR第7巻2号掲載論文抄訳】
『The Fall and Rise of Keynesian Fiscal Po
licy』
(ケインズ主義財政政策の盛衰)
アラン・アウアーバッハ・カリフォルニア大学バークレー校教授
最近の大不況に襲われた多くの国と同様に、米国も当初は積極的な財政政策をとっていた。
財政政策による介入の広がりは景気後退の深刻さを反映していたし、積極的な財政政策が効
果を持つということに対して、少なくとも一時的には楽観論が存在していた。しかし、安定
化の手法として財政政策の効果が依然議論される一方で、米国を含めた多くの国々の焦点は
財政刺激策から、財政バランスへと移り始めた。そして、財政的を「収縮」させることは、
ある状態下では経済活動を刺激するという物議を醸すような見方が浮上しており、これは伝
統的なケインズ主義の考え方と相容れないものである。
積極宛財政政策の効果を巡る議論
本論文は積極的財政政策の効果に関する証拠と最近の考え方の展開を概観するが、その際、
昨今の大不況の主要な特徴である超低金利のような経済条件によって、政策乗数が如何に異
なるか、といった点についても議論する。
裁量的な財政政策は、数十年前の全盛期から比較的最近まで、相当に懐疑の目で見られて
いた。しかし、積極的財政政策への反対論は大不況の到来で、限界を露呈してしまった。大
不況によって産出が激減するとともに、自動安定化機能に伴って巨大な財政赤字が生じてお
り、さらに短期金利がゼロに近づくにつれて金融政策の選択肢が狭まってくるという、過去
数十年間で日本だけが直面してきた問題も起きている。しかし、少なくとも米国では、より
ポジティブな財政介入を重視する見方が大不況の前から根付いている。政府の決定ルールの
変化に関する推計に基づいて、本稿では、米国の財政政策に関する積極性は10年前から、
すなわち今回の大不況の前から既に浸透していることを示す。
財政政策の乗数効果を推計するための3つのモデル
財政政策の乗数効果を推計する数多の先行研究では、長所と短所が異なる3つのモデルが
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2013年02月号
使われてきた。すなわち、大型のマクロ経済モデル、構造VARモデル(SVARs)とそ
の他の簡単な時系列アプローチ、そして動学的確率的一般均衡(Dynamic Stoc
hastic General Equilibrium, DSGE)モデルである。こ
のうち、大型のマクロ経済モデルでは乗数効果の推計値が最も大きくなるのに対し、DSG
Eモデルは政策介入の効果や政策環境に関する推計を行うのに有益である。時系列データの
集約に基づく構造型VARモデルは、政府支出についての乗数の推計値の範囲を算出するも
ので、最近の研究では0.8−1.5という乗数の範囲が示唆されている。
ただ、景気循環の期間において異なる財政政策効果を認める最近の分析では、景気後退期
における大きな乗数と、景気拡大期における小さな乗数――それも本稿が示唆するよりも小
さいのだが――が見い出されている。こうした発見は、反循環的な財政政策が潜在的に効率
性を持っているという見方に対する支援材料となる。同時に、景気後退期であっても、財政
政策の有効性は、先進国が現在直面している債務の増加のために損なわれているかもしれな
い。
米国が刺激策として制定した米国再敀・再投資法の効果
この大不況において米国で採られた最大の刺激策の1つは、米国再生・再投資法(ARR
A:American Recovery and Reinvestment Act of 2009)である。政策対象がどの程度しっかり絞り込まれているのか、あるいは結
果として得られる政策乗数の大きさがどの程度か、については議論の余地がある。ある者は、
この政策は米国の経済成長にあまり効果はないと主張しており、実際、景気回復局面におい
ても成長は極めて小さな水準にとどまっている。一方で、米国再生・再投資法の州別の効果
の分析では、よりポジティブな効果が示唆されている。
−−−
◆英文政策提言誌「Asian Economic Policy Review(AEP
R)」第7巻第2号(12年12月発行)
"Fiscal Policy and Sovereign Debt"(財政政策と公
的債務)
http://www.jcer.or.jp/academic_journal/aepr/index.html
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2013年02月号
財政政策と公的債務―12月発行AEPRから
ケインズ主義財政政策の盛衰
アラン・アウアーバッハ・カリフォルニア大学バークレー校教授
【【AEPR第7巻2号掲載論文抄訳】
『The Fall and Rise of Keynesian Fiscal Po
licy』
(ケインズ主義財政政策の盛衰)
アラン・アウアーバッハ・カリフォルニア大学バークレー校教授
最近の大不況に襲われた多くの国と同様に、米国も当初は積極的な財政政策をとっていた。
財政政策による介入の広がりは景気後退の深刻さを反映していたし、積極的な財政政策が効
果を持つということに対して、少なくとも一時的には楽観論が存在していた。しかし、安定
化の手法として財政政策の効果が依然議論される一方で、米国を含めた多くの国々の焦点は
財政刺激策から、財政バランスへと移り始めた。そして、財政的を「収縮」させることは、
ある状態下では経済活動を刺激するという物議を醸すような見方が浮上しており、これは伝
統的なケインズ主義の考え方と相容れないものである。
積極宛財政政策の効果を巡る議論
本論文は積極的財政政策の効果に関する証拠と最近の考え方の展開を概観するが、その際、
昨今の大不況の主要な特徴である超低金利のような経済条件によって、政策乗数が如何に異
なるか、といった点についても議論する。
裁量的な財政政策は、数十年前の全盛期から比較的最近まで、相当に懐疑の目で見られて
いた。しかし、積極的財政政策への反対論は大不況の到来で、限界を露呈してしまった。大
不況によって産出が激減するとともに、自動安定化機能に伴って巨大な財政赤字が生じてお
り、さらに短期金利がゼロに近づくにつれて金融政策の選択肢が狭まってくるという、過去
数十年間で日本だけが直面してきた問題も起きている。しかし、少なくとも米国では、より
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ポジティブな財政介入を重視する見方が大不況の前から根付いている。政府の決定ルールの
変化に関する推計に基づいて、本稿では、米国の財政政策に関する積極性は10年前から、
すなわち今回の大不況の前から既に浸透していることを示す。
財政政策の乗数効果を推計するための3つのモデル
財政政策の乗数効果を推計する数多の先行研究では、長所と短所が異なる3つのモデルが
使われてきた。すなわち、大型のマクロ経済モデル、構造VARモデル(SVARs)とそ
の他の簡単な時系列アプローチ、そして動学的確率的一般均衡(Dynamic Stoc
hastic General Equilibrium, DSGE)モデルである。こ
のうち、大型のマクロ経済モデルでは乗数効果の推計値が最も大きくなるのに対し、DSG
Eモデルは政策介入の効果や政策環境に関する推計を行うのに有益である。時系列データの
集約に基づく構造型VARモデルは、政府支出についての乗数の推計値の範囲を算出するも
ので、最近の研究では0.8−1.5という乗数の範囲が示唆されている。
ただ、景気循環の期間において異なる財政政策効果を認める最近の分析では、景気後退期
における大きな乗数と、景気拡大期における小さな乗数――それも本稿が示唆するよりも小
さいのだが――が見い出されている。こうした発見は、反循環的な財政政策が潜在的に効率
性を持っているという見方に対する支援材料となる。同時に、景気後退期であっても、財政
政策の有効性は、先進国が現在直面している債務の増加のために損なわれているかもしれな
い。
米国が刺激策として制定した米国再敀・再投資法の効果
この大不況において米国で採られた最大の刺激策の1つは、米国再生・再投資法(ARR
A:American Recovery and Reinvestment Act of 2009)である。政策対象がどの程度しっかり絞り込まれているのか、あるいは結
果として得られる政策乗数の大きさがどの程度か、については議論の余地がある。ある者は、
この政策は米国の経済成長にあまり効果はないと主張しており、実際、景気回復局面におい
ても成長は極めて小さな水準にとどまっている。一方で、米国再生・再投資法の州別の効果
の分析では、よりポジティブな効果が示唆されている。
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2013年02月号
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◆英文政策提言誌「Asian Economic Policy Review(AEP
R)」第7巻第2号(12年12月発行)
"Fiscal Policy and Sovereign Debt"(財政政策と公
的債務)
http://www.jcer.or.jp/academic_journal/aepr/index.html
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財政政策と公的債務―12月発行AEPRから
ユーロ圏における財政問題
ホセ・マニュエル・カンパ・IESEビジネススクール(スペイン)教授、元スペイン経済長官
【AEPR第7巻2号掲載論文抄訳】
『Fiscal Challenges in the Euro Zone』
(ユーロ圏における財政問題)
ホセ・マニュエル・カンパ・IESEビジネススクール(スペイン)教授、元スペイン経済
長官
欧州は深刻な問題に直面してきた。すなわち、その財政が持続可能なのかどうかが金融市
場から問われてきたのである。これらの問題により、ユーロ・プロジェクトの実行可能性は
疑問視されてきた。経済危機の顕在化により、すべての先進国で財政の先行きに対する潜在
的な脆弱性が高まった。
高まる財政の脆弱性
しかしながら、危機によってもたらされたユーロ圏諸国の債務負担増は、非ユーロ圏の先
進国に比べて際立ったものではなかった。2007年から11年までの間に、債務の国内総
生産(GDP)比は英国では36.8%増、日本では45.5%増、米国では37.7%増
を記録したが、ユーロ圏のオリジナルメンバーである12カ国では22.4%増にとどまっ
たのである。さらにユーロ圏諸国は経済危機の後、他の多くの先進国より積極的な手法で財
政問題に取り組んだ。にもかかわらず財政の脆弱性は、一段と高くなっている。
ユーロ圏特有の3つの問題
ユーロ圏には、①圏内で債務負担が偏在している②短期的には、その債務負担をファイナ
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ンスする能力に疑問符が付いている③将来的に、債務負担を軽減できるだけの経済成長が実
現するかどうか懸念される――という3つの特有の問題がある。このためユーロ圏全体にお
いても、個々のメンバー国においても、債務負担全体を持続可能な形で解析することが難し
い。
ユーロ圏がとった手法の方向性と有効性
本論文は、ユーロ圏がこれらの問題に対して、説得力のある答えを提供すべく奮闘してき
たことを明らかにする。さらに欧州がこれらの問題に対し、長期的に実行可能という観点か
ら制度変更や改革に取り組んできたことを示す。ユーロ圏が用いた手法は、方向性としては
正しいものだった。
しかし、それらの手法や筋道による自己主張によって、ユーロ圏で政治行動の有効性が不
足していることが浮き彫りになった。欧州連合(EU)の統治の複雑さも増幅された。ユー
ロ圏では、個々の国も重要な手段を用いて問題解決を目指した。これらの手法は、財政の脆
弱性に対処するためだけに用いられたのではない。蓄積されたマクロ経済的な不均衡やユー
ロ圏内の特定の国々によって迫られた競争的な問題に対処するためにも用いられたのである。
ユーロ圏に残された2つの課題
にもかかわらず、これらの手法はユーロ圏の統合を深化させるというより、むしろ単一市
場内における金融統合のレベルを著しく低下させた。金融市場はばらばらのままとなり、特
定の国では銀行システムの脆弱性とその主権者の間の危険なループが次々に悪化した。
ユーロ圏では、以下の2つの領域において、投資家に強い自信を提供するという大きな問
題が残っている。圏域では、財政の信用性を中期的に回復させる道筋を見い出すために各国
が助け合うことが約束されている。これに基づき、第1に、必要なマクロ経済的な政策調整
によって、ユーロ圏の成長を回復させることが求められる。第2に、ユーロ圏内におけるマ
クロ経済的な逸脱を抑制することが求められる。
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◆英文政策提言誌「Asian Economic Policy Review(AEP
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2013年02月号
R)」第7巻第2号(12年12月発行)
"Fiscal Policy and Sovereign Debt"(財政政策と公
的債務)
http://www.jcer.or.jp/academic_journal/aepr/index.html
プレゼンするカンパ教授
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岩田一政の万理一空
「債務上限引き上げ」と「金貨発行」提
案
「財登の崖」から「債務上限引き上げ問題」へ
米国の「財政の崖」については、2012年末に民主党と共和党の間で富裕層に対する減
税の廃止と給与税減税の廃止について合意がなされた。この結果、1750億ドル程度の増
収が見込まれることになった。この合意形成によって、個人消費はマイナスの影響を受ける
ものの、「財政の崖」は、経済にとって打撃の少ない「財政の坂」になったとも言える。
しかし、2023年までに4兆ドル累積赤字を減少させる予定になっているにもかかわら
ず、これまで決定された赤字削減幅は2.5兆ドル程度に過ぎない。仮に政府歳出の一律強
制削減によって1.2兆ドルが削減されても、なお3000億ドルの削減が求められる。政
府歳出の一律強制削減は、3月1日にその発動期限がくることになっている。
他方、債務上限については、すでに昨年末に16.4兆ドルの上限に接近し、財務省は、
連邦政府職員年金基金から2000億ドルの資金を融通することによって、政府が歳出の支
払い不能に陥る事態を何とか回避した。しかし、その措置は、時間稼ぎに過ぎない。1月2
3日に共和党は3カ月間、5月19日まで債務上限を引き上げるという法案を可決した。こ
の法案では4月15日までに予算決議案を可決することになっており、可決されるまで議員
給与は凍結されることになる。
債務上限引き上げ問題
そもそも連邦債務の上限は、第一次大戦期の1917年に、米国政府が戦時国債を発行す
る際に設定されたものである。議会は、市民の経済安全保障を維持するために、連邦政府の
債務上限を「第二次自由国債法」で定めることにした。議会による財政政策の監督権限と情
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報公開を進める機会を与える効果があると期待されたのである。
しかし、実際には、議会の野党が債務上限引き上げを、政府の政策に対する反対姿勢を誇
示し、政治的な駆け引きに利用する手段になりがちであった。議会と政府の間のチェック・
アンド・バランスに寄与するよう機能しているとはとても言えない。これまで、米国議会は、
1962年以来74回上限引き上げを実施してきた。
日本において「特例公債法」が、野党による政治の駆け引きに利用されるのと類似した役
割を米国では債務上限引き上げ問題が果たしてきた。
債務上限引き上げが実行されないと、政府はデフォルトし、社会保障給付や政府職員の給
料支払いが行なわれず、政府サービスはストップする。米国政府がデフォルトすれば、米国
の景気回復が頓挫するばかりでなく、世界経済の成長率を1%引き下げる程の大きなマイナ
ス効果があるとの試算もある。
衍貨鋳造提案
この状況の下で、政府には、1997年の法律により財務長官には記念金貨を発行するこ
とが認められているので、財務省が1兆ドルの印字が刻まれた金貨鋳造を行い、それを連邦
準備制度の財務省預金勘定に振り込むことによって、政府の歳出を可能にすればよいという
奇策が共和党の議員から提起され、経済学者の間でも議論の俎上に上った。
連邦準備制度は、受け取った金貨1兆ドルの範囲内で紙幣を印刷し、政府支出をファイナ
ンスすることになる。ポイントは、連邦政府は借入れを増やすことなく、歳出を実行するこ
とが可能になることにある。債務上限の引き上げがなされれば、金貨を再び溶かして元に戻
せばよいというのである。ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授は「どんなにおか
しな提案であったとしても、債務上限引き上げ問題を打開するために、大統領は、金貨鋳造
を実施すべきだ」と論じている。
この提案は、政府が、中央銀行の保有する通貨発行益を一定期間にわたり一部借用するも
のと解釈できる。政府の保有する資産(金)を担保に中央銀行に紙幣増刷を迫るものだから
である。
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通貨発行益とは
例えば、日本銀行が1万円札を印刷するためにかかる直接的な経費は17円であり、1万
円と17円の差は通貨発行益と呼ばれる。印刷経費を無視することにすれば、通貨発行益の
大きさは、基礎貨幣の増分で測ることができる。もう一つの通貨発行益の定義は、中央銀行
が基礎貨幣を発行することから得られる資産の収益によって定義される。この定義による通
貨発行益は、「中央銀行収入」とも呼ばれることがある。
かつて、共和党のロン・ポール議員は、連邦準備制度が「大規模な債券買取りプログラム」
によって蓄積した米国債を燃やしてしまえば、政府債務は大幅に削減できると提案したこと
がある。この提案を実施すれば、連邦準備制度は、国債保有による利子収入(通貨発行益の
一部)を失うことになり、債務が資産を大幅に上回る債務超過の金融機関となる。ロン・ポ
ール議員は、かねてより金本位制度への復帰論者として知られており、連邦準備制度の廃止
を唱えている。ロン・ポール提案は、事実上、「中央銀行制度の死」を意味していよう。
登府紙幣の発行と造幣益の配分
2003年4月に開催された関税・外国為替等審議会主催によるセミナーで、スティグリ
ッツ・コロンビア大学教授は、日本政府は政府紙幣発行によって歳出をファイナンスし、雇
用拡大を図るべきだと論じたことがある。この提案は、中央銀行による通貨発行益を政府に
直接移すことを意味している。
現実には、中央銀行によって発行される紙幣と政府紙幣のいずれが正貨であるかを巡って
混乱が生じ、通貨の信頼性が失われることになる。アルゼンチンでは、経済危機による税収
不足とカレンシー・ボード制度(恒久的なドル・ペッグ制度)を支える外貨準備の不足から、
2000年以降、中央政府と地方政府が擬似通貨(連邦債、州債)を発行するようになった。
国際通貨基金(IMF)は、擬似通貨の廃止と財政赤字削減がなければ融資に応じられない
と主張した。
日本も中央銀行制度の確立前には、各種の政府紙幣が発行されたが、インフレ高騰を抑制
することができなかった。日本銀行が発足してからも、政府紙幣が発行されたことがあった
が、最終的には日本銀行に回収され、日本銀行券に置き換えられた。
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以上の事例を考慮すると、市場は、1兆ドルの金貨鋳造提案について、財政規律の緩んだ
政府による中央銀行の通貨発行益を利用するインフレ促進策であると解釈することになろう。
幸いなことに、米財務省は、2013年1月中旬に「財務省ならびに連邦準備制度は、債
務上限引き上げを回避するための金貨鋳造を行なうことができるとか、行なうべきであると
は考えていない」との声明を出した。実際に金貨鋳造提案が実行された場合には、米国の株
式、債券に対して悪影響が及ぶに止まらず、基軸通貨であるドルの信認も傷つけることにな
ったであろう。
(日本経済研究センター 理事長)
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2013年02月号
新井淳一の先を読む
空気は変わった。問題は次の手だ
「人々は安心していれば出かけて買い物をする。不安だと買い物を控えて売る。経済史はこ
うした安心の拡大とそれに続く撤退のサイクルであふれている」
(アニマル・スピリット J・A・アカロフ/R・J・シラー 東洋経済新報社)
経済動向を左右する「空気」というものを考えてみたい。人々の気持ちであり、先行きへ
の期待と安心である。株価や為替相場に反映されるが株価や為替そのものではない。「空気」
が良くならないと経済は向上しないが、「空気」だけでは力不足。加えて「空気」とは移り
気なものだということを、いま私は強調したい。
安倍政権の誕生で円高修正と株価の上昇が進んでいる。年末年始のパーテイでも参加者の
笑顔が増えていた。株に関する本が書店で売れ出し、証券会社の顧客向けセミナーはどこも
満席の状態だ。積極的な金融緩和と2%の物価上昇目標を設定するという新政権の分かりや
すい方針が巷で評価されているということである。
「空気」が変わったのだろう。いや正確に言えば、変わりつつあるということか。変わる
ききっかけをつかむ機運が出てきた、と言ってもよい。変わったと断言したくない慎重論者
でも、長い不況とその原因となった円高相場の修正に愁眉を開いたはずである。
しかし、いささか冷たい言い方で恐縮だが、変わったのは「空気」だけなのである。実体
経済という点では日本は引き続き冷え切った局面が続いている。年末商戦の盛り上がりはな
かったし、企業の売り上げも伸びていない。世界の製造業の景況を示す購買担当者景気指数
(PMI)は昨年12月に米国と中国の持ち直しで節目の50を7カ月振りに上回る回復と
なった。ところが、日本は45と3カ月連続低下で3年8カ月振りの低水準。不振が際立っ
ている。
問題はこの「空気」の変化の持つ意味である。冷え切っている日本経済が先行き暖かくな
る前兆ならうれしいが、本当にそうなるかということだ。消費者が買い物に出る「安心」。
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2013年02月号
企業が設備と雇用を増やす「安心」。アカロフさんらに指摘されるまでもなく、実体経済の
変化の前兆ならば、現在の「空気」の中にこうした「安心」が含まれていないといけない。
ところがいまの「空気」はどう見てもそこまで暖かくはなっていない。
経済の理屈で言えば、円高修正と株高が進んだとしても、それが現実の投資や消費に反映
されるまでには、早くても半年はかかる。その間、せっかく良くなった「空気」を冷やさな
い政策工夫が必要なのである。移り気な「空気」を暖かく保つためにも金融の超緩和に続く
次の一手が新政権にとって、決定的な意味を持つということだろう。
大型補正予算による公共事業が「空気」の冷却を防ぐという見方がある。緊急対策では、
道路やトンネルの老朽化対策を柱に5.2兆円の公共事業を付けた。12年度の当初予算と
ほぼ同額を年度末まで3カ月を切るいまの時点で追加したのだから、安倍政権がいかに公共
事業に期待を寄せているかが分かる。しかし、公共事業はいまでも人手不足などで事業の消
化難が実情。ワクが増えたからといって、それがすぐ実需になるわけはない。公共事業だけ
では「空気」対策にはならないのである。
「株のトレーダー間で、上げ100日、下げ3日という言葉がある。株価変化の非対称は人
々がネガテイブな情報により強く反応するからだ」
(容疑者ケインズ 小島寛之 プレジデント社)
ではせっかく変わろうとしている「空気」をしぼまさないですむ方策はないのか。小手先
では難しいが、ないわけではない。それは安倍政権自体がどんな日本を作りたいか、その青
写真を早急に国民に提示し、喧々諤々、議論を盛り上げることだ。内政では社会保障改革。
外交では沖縄問題と環太平洋経済連携協定(TPP)。日本の命運を決める課題を国民と一
緒に議論し、骨太の方向を示唆する。その結果、新政権は難問に背を向けない真摯な政権で
あるという評価ができる。移り気な「空気」も淀まないですむ。
ともあれ、政治をめぐる「空気」とは摩訶不思議なものだ。新政権の能力を見定めたわけ
でないのに、何かやってくれるという期待も出ている。従前の民主党政権とも違うし、安倍
さんご自身を含めた自民党の末期政権とも違うというのだ。大多数のひとはお手並み拝見と
半信半疑だろうが、一部の意見であっても「空気」に変化が出たなら、新政権はそれに乗っ
たほうがよい。「空気」活用術である。
「安心」や「空気」といったものは株価と同じように基本的には「上げ100日、下げ3
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2013年02月号
日」の世界のものであろう。良いニュースにはそれほど反応しないが、悪いニュースには激
烈に反応する。海外に目を向けると、この先米国の「財政の崖」の処理、イタリア首相選挙
のいかんによるユーロ不安、尖閣をめぐる中国の攻勢など難題がある。対応を一歩誤るだけ
で、暖かい空気はすぐに冷えてしまう。仮にこの難題海外編を無難にこなしたとしても、内
政の諸課題が残る。失われた20年、湿った空気を入れ替えるには途方もない努力が必要な
のだ。
円安・株高で企業収益の見通しは大幅改善のところも出てきた。13年3月期決算も株高
・円安がなかったら当初見通しより悪化しただろうが、結果として、当初通りとか若干の上
向き修正が出てくるはずだ。輸出採算もよくなる。株高が高額消費や土地需要の増加につな
がることだって可能性がある。しかし、残念なことにこれらのうれしいニュースは基本的に
「空気」の改善の範疇なのである。円高に戻るだけで株安となり、収益改善は絵に描いたも
ちとなる。
円相場の歴史を見ると、長期間に及ぶ円高の後は、比較的長い円安局面が続く。今回の2
007年以降の円高局面が仮に昨年10月末の1ドル=77円の高値で終わったとすれば、
円高期間は52カ月。過去の平均(34カ月)を大幅に上回る。今後、ロングランの円安の
可能性だってあるということだ。それを実現して実体経済の上昇を確かなものにするには、
この3カ月、次の一手なのである。安倍首相、せっかく暖かくなった「空気」を大事にして
ほしい。
(日本経済研究センター研究顧問)
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2013年02月号
竹中平蔵のポリシー・スクール
“成長戦略”の要件
内閣が変わる度に、新たな政策が打ち出される。そのこと自体は自然なことだろう。しか
し、“成長戦略”なるものが次々に新しく展開され、かつ成果も不明なままに変遷してきた
のは残念だ。2012年12月に発足した安倍内閣には、経済復活への大きな期待がかかっ
ている。なかでも、いわゆる3本の矢の一つである成長戦略に、あらためて注目が集まる。
筆者自身も、産業競争力会議のメンバーとなったが、ここであらためて成長戦略なるものを
考えてみたい。
成長に打ち出の小槌はない
どの国でも、またどの時代にも、いかにして経済を発展させ国民の生活を豊かにするかが
課題になる。しかし国によって、うまく行く場合といかな場合がある。そして同じ国でも、
うまくいく時代とそうでない時代がある。経済をよくするために、特別な秘策、打ち出の小
槌は存在しない。敢えて言えば、企業の競争力を高める唯一の方法は、「競争すること」で
あろう。現実に日本の産業をみても、世界の競争に晒されてきた産業・企業は必至の努力に
よって生産性向上と競争力を高め、保護されてきた産業はますます競争力が弱くなるという
一般的な傾向が見てとれる。
もちろん競争以外にも、重要なポイントはある。例えば、いわゆる6重苦と言われる要因
(高い為替レート、高い法人税、自由貿易の遅れ、厳しい労働規制と環境規制、電力不足(
高価格))は、企業のマクロ環境として重要だ。過去5−6年を振り返ると、ピーク時には
円は米国ドルに対して4割上昇し、韓国ウォンに対して5割上昇した。日本の電機機械メー
カーがサムソンと価格面で対等の競争をするためには、5年でコストを半減しなければなら
ないことになる。要するにこうした「マクロ環境」の問題は、個別企業の努力ではカバーし
ようのないものである。これらは、経済成長の促進のための戦略的インフラ整備とともに、
政府が行うべき重要な施策と言える。
18
2013年02月号
さてその上で、経済を成長させる基本方策は何なのか。各国、および各時代の成長促進戦
略を見ると、大きく二つの流れがあるように見える。第一は、企業部門にできる限り多くの
自由を与え、活発な創意工夫に期待するというものだ。これは主として先進工業国に見られ
るもので、健全な民間部門の存在を前提としている。これに対し第二の考え方は、民間部門
を誘導するような積極的な政府の関与を行おうとするものだ。主として健全な民間部門が充
分に育成されていない新興国に多く見られる。言うまでもなく、今の日本に主として求めら
れるのは、第一の要素だろう。
世界銀行から公表された、企業の「規制環境」に関する興味深いランキングがある。これ
によると、日本は2000年時点で世界の40位にあったが、2000年代前半に改革を進
めたことによって、2006年には28位となった。もっともこの時点でも世界の中では十
分高いとは言えない。しかしこれに対し「行き過ぎた規制緩和」という批判がメディアなど
で展開される。その結果、2011年の日本のランキングは、47位にまで後退した。近隣
アジア諸国と比べても日本の順位は、シンガポール(世界1位)や香港(2位)はもとより、
台湾(34位)や韓国(45位)よりも低くなっている。同様のランキングはウォールスト
リート・ジャーナルとヘリテッジ財団からも公表されている。これによると日本は、規制環
境でマレーシアにも後れを取っている。
国家資本主義とどう向き合うか
成長戦略を本気で議論するなら、規制改革はその最も重要なファクターとなる。これに対
し一部には、政府の積極的な関与を求める声がある。政策においては、徹底した現実主義(
リアリズム)が必要であり、規制改革を基本としながらも政府が何らかの関与をすることが
有効な場合がある。とくに、マクロ環境を規定する広義のインフラ整備については、政府の
役割は決して小さくない。この点で最近は、明示的な目標を定めて政府の関与を行う「ター
ゲッティング」政策が議論されることも少なくない。
結論から言うと、こうした政策に関しては“良いターゲッティング”と“悪いターゲッテ
ィング”がある、と言えそうだ。
最近の日本における良いターゲッティングの好例は、2000年に開かれたIT戦略会議
が定めた「5年以内に日本のインターネット・インフラを世界一に」というものだろう。そ
のためにNTTのネットワークを解放し、一方でITリテラシーを高めるための教育を進め
19
2013年02月号
たことは海外からも評価され、EUが日本のケースを研究したと言われている。しかし一方
で、特定の産業を保護・育成するような狭いターゲッティングは、決してよい結果を招いて
いない。典型は、国内ICチップ産業を守ろうとしてエルピーダ・メモリを救済したことだ。
結果的にこれらは失敗し、280億円もの国民負担をもたらした。産業や企業に焦点を絞っ
たターゲッティングは、政府がチャンピオン・インダストリーを見抜けないなかで、失敗す
るケースが多いと考えられる。
これとの関連で、もう一点難しい問題がある。それは、いま世界的なレベルで「国家資本
主義」(State Capitalism)を警戒する議論が活発化していることだ。米
国の気鋭の政治学者イアン・ブレマーはその著書「自由市場の終焉:国家資本主義の未来」
のなかで、中国やロシアのように国家管理の色彩が強い資本主義との戦いを、「新しい冷戦
構造の始まり」と捉えている。現実に米国のTPP(環太平洋経済連携協定)戦略も、国家
資本主義を封じ込める戦略の一環と考えることができる。さらにクリントン国務長官は、昨
年11月、7つの省庁に呼びかけて、国家資本主義に関するスタディ・グループを立ち上げ
たと伝えられている。
最近では、積極的な金融政策によって円が下落していることに対しても、海外では国家戦
略による円安誘導のように批判する向きがある。こうしたなかで今回、新しい成長戦略にお
いて国家がどう関与するかに関しては、国際関係という別の次元での配慮も、あらたに必要
になっている。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年02月号
小峰隆夫の地域から見る日本経済
海士町を行く(下)―「人が人を呼ぶ」
好循環がカギ
「境涯経歴の全く異なるものゝ中に、手本の無いことも始めから知れて居る。何が我々のお
のづからであつたかといふことは、やはり辛苦して是から捜し出すの外は無いやうである。」
(柳田国男『家を持つといふこと』より)
引き続き島根県隠岐の海士町(あまちょう)について考えることにする。
これまで、海士町が地域興しに成功した要因を考察してきた。復習してみると、これまで
指摘してきたことは、①山内町長をはじめとする関係者のリーダーシップ、②市町村合併に
加わらず、退路を断ったことによる追い詰められた切迫感、③CASをはじめとする最新技
術の導入、④Iターン者をはじめとする「よそ者」の力、⑤若くして地元を離れる人を減ら
すための高校の維持・活性化といったことであった。
なぜ成功例は広がらないのか
海士町は地域振興の成功事例として有名であり年間千人以上の見学者が訪れる。町長をは
じめとして、関係者は全国各地の講演に招かれることも多いようだ。私も今回調査に行く2
∼3年ほど前に、ある会合で海士町の課長さんの話を聞いたことがある。
しかし不思議なことに、「海士町の例に倣って、私のところも成功しました」という話は
あまり聞かない。もちろんあるのだろうが私は知らない。私が知らないということは、それ
ほど成功例は多くないということだろう。
その理由としては、次のようなことが考えられる。
第1に、そもそもそんなに簡単に成功例を真似できるわけがないとも言える。例えば、日
本から毎年かなりの政治家、学者、ジャーナリストが北欧の福祉制度やオランダの労働市場
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2013年02月号
を調査しに行ったりしているが、それによって日本の福祉制度が再構築されたり、同一労働
同一賃金が実現したかというと、そんなことは起きていない。
私も役人時代に何度もこうした現地調査に行ったことがあるが、いくら勉強してきても、
国の基本政策を変えるということにはならない。これは、調査した人本人がそれほど大きな
権限も影響力も持っていないからである。
そもそもどんな分野でも、成功例を真似してうまくいくということが極めてまれなことだと
考えた方がいいのかもしれない。
第2に、これも当然だが、個々の地域によって事情が異なる。見学者の中には「これは海
士町のようなところだからできることで、私のところでは無理ですね」という人も多いとい
う。
確かに、海士町の例は、離島で海の幸に恵まれた地域の話だから、山の中の過疎地でその
まま真似することは不可能である。また、海士町のような町長の強いリーダーシップがその
まま当てはまるような地域はあまり多くないであろう。
結局は人の問題か
私はつまるところ、人の問題ではないかと考えている。うまく行っている地域に共通して
いるのは、どこかに「やる気のある人」が存在し、その人が中心で活動していることだ。そ
のやる気のある人は、ある場合は自治体の首長であり、ある場合は外国人であり、ある場合
は民間人だったりするということであろう。
「人」は必須だから、まずは「人」がいなければ話にならない。この「人」は、最初は一
人かもしれないが、成功した地域の例では「人が人を呼ぶ」という好循環があるようだ。
海士町の例で言うと、最初は山内町長が一人でがんばっていたのだが、やがて町役場の職
員の人たちもこれについてきた。そして、地元ブランドが育ち始め、Iターン者が増えてく
る。さらに地元の高校を維持しようとする動きが現われ、島外から高校生がやってくるまで
になる。これが「人が人を呼ぶ」好循環である。
こうした人が活躍するようになる要因としては、郷土愛や「島」が持つロマンのようなも
22
2013年02月号
のもあるだろう。海士町の場合は、当初の山内町長の活動を支えたものは郷土愛だったであ
ろう。また、海士町では一橋大学の学生が小中学校を訪れて出前授業を行っていたのだが、
その中から島の魅力に引かれた大学生が、実際に島に移住してくるという例が出ている。こ
れは島のロマンに引かれたのかもしれない。
しかし、郷土愛やロマンだけでは持続的な地域の成長にはつながらない。人が集まり、定
着するインセンティブがないと、「人が人を呼ぶ」好循環は持続的なものにはならない。そ
のインセンティブの最たるものがやはり経済性だ。要するに、安定した雇用と生活を維持す
るだけの所得が持続的に生み出される必要がある。
海士町の場合は、岩ガキ、塩などの海産物を中心に独自の海士ブランドを消費地の市場に
浸透させることに成功し、かなりの所得を生むまでになった。
核となる「人」の活動が「人が人を呼ぶ」という好循環を生み、その過程で所得と雇用の
場が生み出されていった。これが海士町の地域活性化のプロセスであり、その一つひとつの
組み合わせは、試行錯誤の末に出来上がって行ったものである。こうした海士町の経験を学
ぶことは重要なことである。しかし、他の地域の経験を真似すれば地域興しが成功するとい
うほど地域問題は簡単ではないことも事実だ。成功事例の経験に学びつつも、最後はやはり
辛苦して自ら成長への道を捜していくしかないのであろう。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年02月号
大竹文雄の経済脳を鍛える
利他性と経済学
財政破綻の危機感がなくなった?
衆議院選挙の政策論議を見ていても、日本の財政についての危機感はあまり感じられない。
実のところ、消費税の増税が決まって、日本の財政問題は解決すると思っている人が多いの
ではないだろうか。むしろ、増税しなくても、景気さえ回復すれば、やっていけるのではな
いか、と思っている人が多いように思える。そういう国民の声を反映してか、衆議院選挙に
おいても、消費税増税をやめて景気対策を重視すべきだという議論もなされた。しかし、実
際のところ、日本の公的債務は莫大なものになっていて、消費税が10%に増税されたとこ
ろで、公的債務を解消するには程遠いことはあまり認識されていない。
日本の政府債務の対GDP比率は214%もある。公的債務の対GDP比率が拡大しない
ためには、少なくとも、国債の償還や利払い以外の政府支出額(政策的経費)が税収額より
も小さくなっている必要がある。この税収額と政策的経費の差がプライマリーバランスと呼
ばれるものだ。金利と経済成長率が等しければ、プライマリーバランスがゼロの場合で、公
的債務の対GDP比率は一定になる。ところが、2011年のプライマリーバランスの対G
DP比は約7%の赤字である。政府の予測によれば、2016年度でも2.8%の赤字が残
るとされている。つまり、今後も日本の政府債務の対GDP比率は上昇を続けていくという
ことだ。
低い国債金利
債務危機に陥ったギリシャでも公的債務の対GDP比は約170%、イタリアは約120
%である。日本はそれよりも高い債務比率にあるのだ。ところが、私たち日本人は、財政状
況が悪化していることを実感することはない。だからこそ、日本人は国債を安心して買って
いる。私たち一人一人が国債を買っているという実感がなくても、日本の金融機関は資金の
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2013年02月号
運用先として大量に国債を購入しているのである。金融機関に国債購入意欲があるために、
国債金利は1%よりも低い水準で推移している(文末図1参照)。つまり、1%以下という
低い金利であっても日本の国債はほぼ確実に償還してもらえるという確信があるから、日本
の金融機関が購入するのである。そのような日本の金融機関に安心してお金を預けているの
が、私たち日本人である。日本の財政は破綻しないことを私たちが確信しているからこそ、
国は低金利で国債が発行できるのである。
低金利だから安心なのか?
では、低金利で国債が発行できているということは、財政が破綻しないということの証拠
になるのだろうか。「財政が破綻しないと人々が信じているから低金利で国債が発行される」
ということと、「低金利で国債が人々に購入されているから財政が破綻しない」ということ
とは違う。人々の財政破綻の可能性に対する予想が正しく、国債金利が低ければ、財政破綻
の可能性が低いということになるが、現時点での人々の予想が正しくても、新たな情報が入
って来ればその予想が変わることも多い。
図2(文末参照)に、ユーロ圏の国の中で財政危機が伝えられる国について、最近の国債
金利の推移を示した。
この図でわかることは、ギリシャの財政赤字に関する統計が真実でなかったことが発覚し
た2009年10月以前は、どの国の国債金利も5%程度であったということだ。財政危機
が発覚してから国債の金利は上昇しはじめ、2012年3月2日は、37.1%という水準
にまで上昇した。イタリアについては、財政状況に大きな変化がなかったにも関わらず、2
011年11月には7.26%まで国債金利が上昇した。同じような財政赤字の水準であっ
たとしても、将来の国債の償還可能性について疑問が発生すれば、国債の金利はその時点で
上昇を始める。国債の金利の上昇というのは、国債の市場価値の下落を意味する。
財政破綻が生じた国について膨大な歴史的データを集めて分析したラインハートとロゴフ
の『国家は破綻する』という本によれば、財政破綻をインフレによって解消した国では、財
政破綻によるインフレの発生が始まるのは、実際に財政が破綻する1年半ほど前からにすぎ
ないとされている。
25
2013年02月号
国債金利の動きや、インフレと財政破綻の分析からわかることは、現在インフレがなく、
国債金利が低いからと言って、5年先、10年先に財政が破綻する可能性がないとは言えな
いということだ。
現在の日本の国債金利が低いのは、次のいずれかの理由からだろう。
第一に、国際的にみると日本の租税負担率が低いので、まだまだ増税の余地があると信じ
られている。第二に、将来財政支出の削減が行われると信じられている。第三に、経済成長
がおこり、現在と同じ税率であっても税収そのものが増えると信じられている。おそらく、
第一と第二の理由が大きなものだと考えられる。このような期待に基づいているわけなので、
その期待が裏切られる情報が入れば、国債の金利は上昇する可能性が高い。
しばしば、日本はギリシャと違って、国債を保有しているのが日本人なので、ギリシャの
ような財政破綻は生じないと言われる。しかし、現在国債を保有している日本人が、日本政
府の国債償還力に疑いを持ち始めれば、国債以外の資産をもつことになる。国債を売却して、
外国の株式や国債を持ち始めれば、日本の国債の金利が高騰して、価格が下落することは同
じである。
資産価格というのは、将来の収益の予測から成り立っているので、その予測が明日になっ
て変わってしまえば、明日の資産価格は大きく変化する。国債もまったく同じである。将来
の日本の財政状況が改善しそうにないという予想が、明日から広まれば、その時になって財
政破綻がリアリティをもって感じられるようになる。しかし、それでは大きな経済危機を防
ぐには遅すぎるのではないだろうか。
損失回避と財政破綻
客観的にみれば、日本の財政は、人々がいつ財政破綻の可能性を信じ始めて、破綻状態に
陥ってもおかしくない状態にある。それにも関わらず、私たちは、債務返済にまじめに取り
組もうとしないのはどうしてだろうか。これは、行動経済学で知られている損失回避で説明
できるように思う。損失回避とは、損失による価値の減少を、利得による価値の上昇よりも、
人々は非常に大きく感じることを言う。
そのため、人々は次のような行動をとってしまう。少しの損失を確実に被る選択肢と、現
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2013年02月号
状を維持できる可能性もあるけれど大きな損失を被る可能性もあるという選択肢に直面した
人を考えよう。多くの人は、確実に損失を被るという選択肢を避けて、現状を維持できる可
能性があるギャンブルに賭けてしまうのだ。
具体的には、次のような選択課題だ。2万円をもらった人が、
「そのまま、2万円を手に入れることができるか、それとも2万円を返却するのかを決める
半々の確率のくじを引いてください。でも、1万円払ってもらえれば、そのくじを引かなく
ていいですよ。」と言われた場合である。
最初から考えると、1万円払っても手元に1万円残るので、十分に得なはずだ。しかし、
多くの人々は、2万円を一旦手にしたら、それを失いたくなくなってしまうので、現状を維
持できる可能性を狙って、ギャンブルをしてしまう。現在の日本もそれに近いのではないだ
ろうか。一旦に手に入れた低い税率の暮らしを守るために、将来の経済成長というギャンブ
ルをしようとしているように見える。
こうした損失回避行動は、生物学的にも説明がつくように思う。損失局面で、現状を維持
できる可能性に賭けないで、確実に損失を被る方を全員が選ぶ生物がいたとしたら、その種
は環境の変化によって全員が滅亡する可能性がある。しかし、現場維持の可能性があるギャ
ンブルを選んでいたとすれば、大きな損失を被って生存できない個体もいれば、ギャンブル
に成功して生存できる個体もいる。そうすれば、損失回避の選択をした種は、生物としては、
生存し続けることが可能である。
財政破綻についても、このような危機に直面した場合に、損失回避の特性によって、将来
の経済成長を信じて低税率、高歳出を続けるというギャンブルをすれば、それで成功する国
もあれば、失敗して滅亡する国もある。人類としては生き残りに成功する。確かに、生物と
して人間をみれば、それでいいのかもしれないが、そういう覚悟が私たちにできているのだ
ろうか。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年02月号
齋藤潤の経済バーズアイ
日本のイノベーション・システムの何が
問題か
【イノベーション・システムとは】
イノベーションにとって、企業や大学での研究開発が重要であることは言うまでもありま
せん。しかし、研究開発は資金や人材がなければできないので、それらがどのように供給さ
れるかによっても影響を受けます。また、そうした資金や人材が与えられても、それを効率
的に利用するインセンティブがなければ、成果が十分にあがることを期待することはできま
せん。
このように考えてくると、結局、イノベーションは、それに直接的に関わる主体だけでなく、
その他の主体との関係、あるいはそうした様々な主体を取り巻く制度・政策のあり方などか
らなる、一つの大きなシステムによって決まってくることが分かります。サセックス大学科
学技術政策研究所を創設した故クリストファー・フリーマン教授にならって、以下ではこれ
を「イノベーションの国民的システム」、あるいはより簡単にイノベーション・システムと
呼ぶことにします。
【日本のイノベーション・システムに関する1990年代までの
評価】
このイノベーション・システムにおいて、日本は、長いこと他国に比べて優位性を持って
いると見られていました。戦後の短期間において、多くの分野でみられた技術面での遅れを
急速にとり戻し、いくつかの重要な分野では逆にフロントランナーに躍り出たという事実が
その根拠になっています。そうした驚異的なパフォーマンスを可能にした日本のイノベーシ
ョン・システムと特徴として、フリーマン教授は、1987年の著書(Technolog
y Policy and Economic Performance)の中で、次のよ
うなことを挙げています。
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2013年02月号
第1は、通産省に代表される当時の政府が、中長期的な産業構造のビジョンを提示し、そ
れに向けて様々な政策を動員したことです。第2は、企業が、輸入された技術を吸収し、そ
れに生産現場で改善を加えるとともに、そうした知識を企業内で共有し、蓄積していったこ
とです。第3は、質の高い技術者を教育制度が供給し続けるとともに、企業内でも包括的な
訓練が施されたことです。そして第4は、研究開発のような長期的視点での資源配分を可能
にするような、企業グループ間での管理された競争が行われたことです。
以上の指摘が示していることは、イノベーション・システムが、政府の産業政策に加え、
企業組織や人事制度、あるいは産業組織のあり方と密接に関連しており、当時の日本ではそ
れらがイノベーションに適合したものとして機能したということです。
【日本のイノベーション・システムの2000年代以降の評価】
こうした日本のイノベーション・システムの評価は、1980年代までの日本経済の好調
なマクロ・パフォーマンスと表裏一体の関係にあったと思われます。それを表すかのように、
1990年代以降になって日本経済が長期的な停滞傾向を示すようになると、評価には変化
がみられるようになります。ここでは、対照的な二つの見方を紹介しておきましょう。
一つは、日本のイノベーション・システムは行き詰まりを見せており、その改革が必要だと
いう評価です。例えば、後藤晃教授(現在政策研究大学院大学)は、2000年の著書(『
イノベーションと日本経済』)の中で、日本のイノベーション・システムは、自動車製造や
製鉄のように経験の蓄積が重要であった分野が中心であった時期には有効に機能した。しか
し、「技術開発の技術」が変化し、情報通信やバイオテクノロジーが中心になり、科学的な
原理の探求が基礎になったり、コンピューターでの解析やシミュレーションが重要になった
りしてくると、それとは適合しなくなってしまうと指摘しています。もはや暗黙知の蓄積を
目的にして企業内で研究開発を行うことが適当ではなくなり、例えばR&D型のベンチャー
にように、外部に研究開発に特化した効率的な組織を作った方が好ましいことになるとの見
方です。
もう一つは、日本のイノベーション・システムに問題はない、問題はイノベーションの成果
を利用しないことにあるという評価です。アダム・ポーゼン氏(現在、ピーターソン国際経
済学研究所所長)は、2002年の論文(“Japan”in Steil, Victo
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2013年02月号
r, and Nelson (eds.) Technological Innova
tion & Economic Performance)の中で、1990年代にはい
ってからの日本のイノベーション・システムへのインプット(研究開発投資額、研究者数等)
や、日本のイノベーション・システムからのアウトプット(論文数、特許件数等)を調べて、
そのトレンドが大きな変化を見せていないことを示しています。その上で、日本のイノベー
ションの何が問題かというと、イノベーション・システムが機能しなくなったということで
はなく、そこで生み出されたイノベーションを、他の産業分野で利用しようとしないことだ
と指摘しています。特にポーゼン氏が問題視するのは、日本は、非製造業分野における産業
保護的な規制や不効率な金融制度が存在するために、イノベーションを利用しようとするイ
ンセンティブが削がれていると思われる点です。
【現在のイノベーション・システムの課題】
これまで紹介してきた著書、論文は、いずれも1990年代までの日本経済をもとに論じて
いました。2000年代以降の動向を踏まえた場合、どのようなことがいえるのか。ここで
は、いくつかのデータに見ながら、その点を考えてみたいと思います。
第1に、確かに、日本のイノベーション・システムのインプットとアウトプットをみると、
マクロ的なトレンドに大きな変化は見られません。例えば、インプットの代表として、研究
開発費総額の推移をみると、多少増加ペースが緩やかになったようにも見えますし、リーマ
ン・ショック後の落ち込みには大きいものがありますが、2000年代以降に大きな変化が
表れているわけではありません(第1図文末参照)。
また、アウトプットの代表として、米国特許商標庁への特許出願状況をみても、件数は増加
傾向を続けており、ここにも大きな変化は見られません(第2図)。
しかし、第2に、競争相手国との相対関係をみると、そこには大きな変化があることが分か
ります。第1図では、中国や韓国が2000年代に入って研究開発費を増加させており、特
に中国は日本を上回るに至っていることが分かります(なお、GDP比では韓国が日本を抜
いています)。第2図でも、中国や韓国は、まだ水準は低いものの、増加ペースが急になっ
ています。
また、第3に、分野別にみても、大きな内容の違いが浮き彫りになってきます。第3図は、
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2013年02月号
米国特許商標庁への登録特許の分野別の動向を各国比較したものです。特許件数には、ホー
ム・バイアスがあるので、米国のシェアが大きいのは当然ですが、ここで注目したいのは、
分野別のバランスです。これをみると、日本は、ナノテクノロジーや情報通信技術に比べて、
バイオテクノロジーが極めて少ないことが分かります。これに対して、米国の場合には、極
めてバランスが取れています。これは、日本のイノベーション・システムがバイオに適合し
ていないことを示唆しているように思えます。
【イノベーション・システムの改革の方仦性】
以上が示唆していることは、日本のイノベーション・システムは、最近になってそのマク
ロ・パフォーマンスが特に悪化しているわけではないが、それだからといって問題がないわ
けではないということです。
グローバルな競争関係にある中国や韓国に急速に追い上げられており、インプットを増加さ
せたり、研究開発の効率性を高めたりすることが求められています。また、分野別にみると、
先端分野であるバイオでは米国に水をあけられている姿が浮き彫りになります。これは、イ
ンプットと、期待されるアウトプットの間にミスマッチがあることを示しており、先端分野
での研究開発能力の強化が求められていると考えられます。
こうした要請に応えるためには、イノベーションのプロセスだけに止まらない、広範な分野
の見直しを伴うことが必要になります。経験の蓄積を重視した雇用システムや企業組織、銀
行貸出が中心でベンチャーなどへのリスクマネーの供給が乏しい金融システムの見直しなど
が迫られています。
イノベーションを活発化するためには、イノベーション・プロセスを日本経済のその他の部
分から切り離し、単にインプットだけを増やせばいいというような発想にとらわれてはなら
ないように思います。イノベーションもその他とシステム的につながっていることを前提に、
日本型経済システムを全体として見直す中で、イノベーション・システムの新しいあり方を
考えるアプローチをとるべきではないでしょうか。
(日本経済研究センター研究顧問)
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2013年02月号
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2013年02月号
小島明のGlobal Watch
“ジャパン・リスク”へ世界の目
日本の2013年は再登場した自民党・安倍晋三政権による「緊急経済対策」で始まった。
「縮小均衡の再分配から、成長による富の創造への大胆な転換」を旗印として、国費10.
3兆円を投入し20.2兆円の事業規模を盛り込んだ大型補正予算(2012年度)を閣議
決定した。これとワンセットで日銀によるさらなる金融緩和政策が動き出す。これにより、
2013年度の経済成長率がかさ上げされることは確実だが、問題は短期的、循環的な景気
回復だけでなく、バブル景気崩壊後の1990年代以降下がり続けてきた中長期の成長トレ
ンド(潜在成長率)そのものを押し上げられるかどうかである。それには安倍首相が言う「
3本の矢」のうち「成長戦略」が決定的に重要であり、各国は目先の需要追加・刺激策より
も、新政権が構造改革にどこまで本気で取り組むかに注目している。
「世界10旦リスク」の第5位に日本
「Gゼロ」論で知られるイアン・ブレマー氏主宰のシンクタンク、ユーラシア・グループ
が新年早々に発表した「2013年の世界10大リスク」の5番目に「日本リスク」が挙げ
られた。そこではJIBs、つまり日本、イスラエルと英国の3国が地政学的な状況が大変
化し続ける世界における「構造的な負け組」として分類され、この3カ国は①米国との特別
な関係が以前のような重要性を持たなくなった②周辺地域での地政学的な動きに対して建設
的な役割を果たさず、見守っているだけである③国内的な制約(政治、社会、歴史その他の
要因)がある、の3点で共通しており、それゆえに世界の秩序が変遷するなかで起きている
諸課題効果的に対処することが特に難しくなっているという。
*ユーラシア・グループ「2013年の世界10大リスク」
http://www.eurasiagroup.net/pages/top−ris
iks−2013
そこではまた「中国にとって日本の重要性は低下している。日本からの投資資金や技術に
依存しなくても、韓国および台湾から資本も同じ技術も手に入れられる状況になっているた
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2013年02月号
め、中国は(日本に対して)いっそう挑発的になりうる。2013年には危険な政治的紛争
(conflict)が発生する可能性があり、これこそが最も重要で危険な地政学的紛争
となりうる。それを回避する能力を日本はほとんど持ち合わせていない」とも指摘されてい
る。
2005年にも中国で反日デモの嵐が吹き荒れた。きっかけは小泉純一郎首相による靖国
神社参拝だった。しかし日中関係は当時よりはるかに深刻な状況にある。中国経済が高成長
を続け、現在の同国の国内総生産(GDP)は当時の2倍を超え、日本のそれを抜き去って
世界第2位の経済大国となった。2008年には北京オリンピックを成功させ、同じ年に発
生したリーマン・ショックによる世界的な経済・金融危機に際しても中国は早急に大規模な
経済対策を講じ、世界のどの国よりも早く危機を克服した。またこの危機に際して中国が新
たな主要国グループであるG20の不可欠なメンバーとなり、しかもグローバルな政策調整
の舞台としてG20がG7にとって代わった。GDPの伸び以上に増え続ける中国の国防費
は当然、2005年当時の2倍を超え、人民解放軍が自信を強め、外交問題における新たな
アクターになろうとしている。
一方、日本の経済は停滞を続け、デフレからいまだに抜け出せないでいる。対外経済政策
においても自由貿易協定(FTA)戦略で日本はむしろ周回遅れとなり、中国や韓国の後塵
を拝している状況にある。中国が「米国が主導する中国封じ込め政策」だとして警戒する環
太平洋経済連携協定(TPP)についても日本は交渉のテーブルにつくかどうかも未だに決
められないでいる。中国の指導部の間には「中国はかつて日本の技術、資本に依存したが、
いまでは日本が中国に依存する状況に転換した」という認識も強まっているという。
そんな状況のなかで民主党による前政権が尖閣諸島問題で外交上の大失策を行ってしまっ
た。日本リスクが「世界10大リスク」の5番目に位置づけられたのは、こうした一連の出
来事と地政学的な潮流変化が背景にあるためである。
脱“CRICサイクル”が試される
バブル景気が崩壊してからすでに20年を超える。その間の日本経済の問題は歯止めがか
からない潜在成長率の低下傾向、持続的なデフレ、世界でもダントツの政府債務のさらなる
拡大、少子高齢化のいっそうの進行による生産年齢人口の急速な減少、高齢人口(従属人口)
比率の著しい上昇といった多くの、しかもどれもが重大な構造的問題である。単なる需要不
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2013年02月号
足による循環的な景気の問題ではない。しかし、1990年代以降に実施された政策はほと
んどが一時しのぎの要刺激政策であり、痛みを伴うような構造改革はほとんど行われて来な
かった。構造改革は既得権の再分配を伴うからかならずどこかに痛みが生じる。しかし、必
要な改革をしなければ、それによる将来の痛みが目先の痛み以上となり、かつ持続的な痛み
となる。
エコノミストのロバート・フェルドマン氏が以前から“CRICサイクル”論を唱えてい
る。CRICの最初のCは危機(Crisis)で、それを受けて対応(Response)
をする、しばらくして状況が改善する(Improve)、すると安心し(Complac
ency)、痛みを伴う改革を断行することを忘れるか、先送りしてしまうかして、経済の
体質が危機以前と変わらないまま再び最初のC、つまり危機が生まれる。この繰り返しをバ
ブル景気崩壊後に何度も繰り返し、日本経済の基礎体力といえる潜在成長能力(潜在成長率)
が低下を続けて今日に至り、政府の債務ばかりが膨らむ結果となったというのがCRICサ
イクル論である。残念ながら、その通りだったと言うほかない。
「緊急」とか「包括」とか、あるいは「総合」といった枕詞を冠した対策が1990年代
以降10余回にわたって打ち出された。今度も「緊急」という枕詞付きの対策である。これ
までに発表された対策は基本的にはフェルドマン氏のいう「対応」の域を出ない。政府は本
格的な構造政策、成長戦略を6月ごろを目処にまとめるといっているが、構造政策であれ、
成長戦略であれ、過去10余年に何度も議論されてきたことである。やるべきことはとっく
に示されている。問題は、議論だけで実行されなかったことにある。
また、自民党政権が公明党との連立で再び生まれたが、成長戦略は十分時間のあった野党
時代にしっかり練り上げておくべきだった。政権に復帰してから検討するのではなく、政権
復帰と同時に実行に移すべき筋合いのものだった。
また1990年代に痛みを伴う改革を断行していたなら、いまごろ日本経済が新しい成長
軌道に乗っているはずである。改革の痛みがしきりと議論されてきたが、現在の痛みは改革
を先送りしてきたことが原因で生まれている構造的な痛みであり、いっそう深刻な痛みだと
も言える。
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2013年02月号
OECDの2060旧予測における日本
経済協力開発機構(OECD)が2012年11月に発表した長期予測(OECD Ec
onomic Policy Papers, No.3,” Looking to 2
060: Long−Term Global Growth Prospects”)に
おける日本の姿はショッキングである。
予測の対象はOECD加盟の34カ国とOECDメンバー以外のG20諸国に属する8カ
国。2005年購買力平価(PPP)ベースの予測である。それによるとこれら各国のGD
P全体に占める各国のGDP比率は、次のように予測されている(文末表1参照)。
英エコノミスト誌による『2050年の世界』(“MEGACHANGE: The W
orld in 2050”,2012)の長期予測も同様の方向を示している(表2)。
こちらの予測対象はOECD予測より広く、世界全体で、PPPベース。
どちらの長期見通しでも、日本の存在が顕著に縮小する。エコノミスト報告の第1章が人
口の予測と分析にあてられていることが示唆するように、長期予測で日本の比重が大きく減
る一因は日本の少子高齢化と人口減少、とりわけ生産年齢人口の急速な減少である。少子高
齢化については、2010年の中国の国勢調査により同国の出生率が予想以上に低下してい
る実態が明らかになりつつある。入手した最新情報によると、中国の出生率は1.18と日
本以上に低下したようである。そうだとすると、中国の高齢化ペースも生産年齢人口の減少
もこれまでの一般的な予想から大きく乖離するわけであり、経済成長率の下方屈折(減速)
も一般の予想を超えるものとなる。中国の経済成長率が相対的に高いことは変わらないが、
米国とのGDP逆転はそう簡単ではないことを示唆する。
しかし、高齢化、人口減少で日本が世界先頭を走っていることには変わりない。少子化が
大問題だというのに政治が動かない。ある経済人は、民主党政権の3年4カ月足らずの間に
少子化問題担当大臣が10人以上生まれたことが象徴するように政治のレベルでの人口問題
への問題意識は完全に欠如していると慨嘆している。
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2013年02月号
「決められない」経営
「決められない政治」が問題視されており、その通りだと思う。しかし「決められない」
のは政治だけではない。企業の経営も同様である。
財務省の法人企業統計によると、企業の内部留保は2012年9月末時点で273兆円に
達し、10年前より5割も増えている。これが意味することも、かなり深刻である。なぜな
ら、この内部留保の急増が新しい商品、市場の開拓、付加価値の創出によるよりも、主とし
て人件費を圧縮して利益を出し、生まれた利益を研究開発など積極的な投資に使わない消極
経営の実態を露呈するものだからである。人件費圧縮のために低賃金の非正規雇用の比率を
高めて、社会問題も生んでいる。人件費圧縮は消費需要の源泉である家計所得を縮小させる
わけで企業がみずから市場を縮小させていることになる。これでは需要の面からもデフレは
止まらない。
さらに企業が新しいビジネスモデルを構築せずに人件費削減だけでグローバルな競争に対
応しようとしても、それはグローバルな価格破壊の競争に巻き込まれるだけである。商品の
企画、設計から組み立て、その後の販売、アフターサービスなどの段階ごとの付加価値につ
いていわゆる“スマイルカーブ”がある。企画やアフターサービスの付加価値が高く、新興
経済が大挙して参入している組み立て工程は価格大競争の世界であり付加価値が最も低い。
日本企業の多くは、他国が作れない非価格競争力を持った新技術・新商品の創出をせず、規
格大量生産型の、この大競争部門でもがいている。
第2次安倍政権の成長戦略も企業のビジネスモデルの再構築、新技術・商品・市場の創造
をもたらすものでなければ、グローバルな価格破壊の世界から日本は抜け出すことができず、
デフレから脱却できない。
エコカー減税のような措置も過剰生産の調整、あるいは将来の需要の先食いの効果しかな
い。必要なのは、新しい技術・商品の創造のための経営イノベーションである。
(日本経済研究センター参与)
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2013年02月号
深尾光洋の金融経済を読み解く
日銀はインフレ目標を達成できるか
過去の物価動向と目標絧
政府と日銀は1月22日に、インフレ率の目標を消費者物価の前年比で2%とし、これを
できるだけ早期に実現することを目指すとの共同声明を公表した。この達成可能性を判断す
るために、バブル期を含む1985年以降のコア消費者物価(生鮮食品を除く総合)とコア
コア消費者物価(食品とエネルギーを除く総合)と目標値の関係を見てみよう。コア消費者
物価は天候などで大きな影響を受ける生鮮食品を除いた指数であり、コアコア消費者物価は、
為替相場や原油価格に大きな影響を受ける商品を除いた指数である。
下の図(文末図1参照)からわかるように、この2つの指数が共に2%を超えたのはバブ
ル末期の景気過熱期に消費税の引き上げが行われた1989年半ば以降の3年間だけである。
またそれ以降では、原油や食料品の国際商品価格が高騰した2008年に、コア消費者物価
が一時的に2%を超えた時期だけである。このため2%のインフレを達成するというハード
ルは、日銀にとって極めて高いといえる。
需給ギャップからみた達成可能性
国際商品市況の影響を除いたインフレ率は、主に国内における財・サービスや労働力に対
する需給によって決まってくる。慶応大学深尾研究室で行った実証分析によれば、コアコア
消費者物価の動向は主に日本経済全体の資本と労働のマクロ的な稼働率で決まっている。マ
クロ稼働率を推計するために、資本と労働を目一杯活用して生産できるGDPが、次の図に
青い破線で示した「最大生産可能GDP」である。実際のGDP(黒い実線)がこの水準に
近づいたのは、バブル景気のピーク時だけである。またコアコア消費者物価上昇率で測って
1%のインフレを達成するのに必要なGDPが、赤い破線で示した「目標インフレ率1%の
GDP」である。バブル崩壊後の日本経済の実際のGDP(黒い実線)が、赤い破線に達し
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2013年02月号
たのは三洋証券、山一証券、拓銀が連鎖破綻する直前の1997の景気の山と、2007−
08年の世界金融危機直前の時期だけである。今回発表された2%目標を達成するためには、
赤い破線をさらに10兆円程度上回るGDP水準を達成する必要があるが、この図(文末図
2参照)から見ても2−3年でGDPをそこまで持ち上げることは絶望的であることが理解
できるだろう。
政府が行うべきこと
まずコアコア消費者物価上昇率を1%に引き上げるためには、今後2%程度の成長を3年
間続けることで、上の図の赤い破線の水準までGDPを引き上げ、さらに数年間は、0.5
%以上の成長を続ける必要がある。そのために必要なことは、日銀がこれ以上量的緩和をす
ることではなく、消費税や炭素税などの間接税を計画的かつ段階的に引き上げていくことで
駆け込み需要を継続的に発生させると同時に、税収の一部を企業の省エネ投資や家屋の断熱
工事の補助金に極力効果的に使うことで投資需要を喚起し、景気の持続的な回復と財政再建
を着実に進めることである。
(日本経済研究センター参与)
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2013年02月号
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2013年02月号
小林光のエコ買いな?
1000億ドルのエコ・ビジネスの機会
を逃がすな―環境支援資金、国際ルール
作りを主導しよう
額界中で「強靭賈」が課題に――途丮国ではすでに被害
東日本大震災の結果、北米プレートに乗る本州・東北地方は、東方向に移動し、海面に比
べて沈下した。見掛け上、大震災前に比べると潮位が1m程度高くなったのと同じである。
これは地球温暖化が進んだ結果起こる可能性が高い海面上昇を先取り的に私たちに見せてい
る。この事態に適応するため、市街地の用途を高潮予想に応じて区分して整備するなど、新
しい発想、つまり自然征服型でなく自然順応型のまちづくりが始まっている。
この地震によって大規模集中的なエネルギー供給システムの脆弱さも思い知らされた。こ
のため電力の送配電網を運営する会社と発電会社の分離、送配電網の容量を上げたり冗長性
を確保したりすることが進められている。独立した送配電会社間の連携線の強化などにも乗
り出すことになった。温暖化対策あるいはエネルギー安全保障のためにも有用な分散立地の
再生可能エネルギー開発・活用に対し、良い影響を与えるものである。
日本は20年以上にも及ぶデフレ不況から脱却するとの目的も併せ持たせて、1月上旬に
決めた2012年度補正予算では事業費ベースで5.5兆円という規模で、国土の強靭化へ
の取り組みが始められようとしている。
世界に目を転じると、自然災害の件数、被害者数、被害額は趨勢的に増加している。「平
成22年版防災白書」によれば、1970年代と比較して最近の10年間では、世界の自然
災害件数や被害者数が3倍になっているという。日本にとっては、タイの工業団地を襲った
洪水が記憶に新しい。背景には温暖化を通じて時間当たりの降雨量が増えるなど、地球環境
の悪化に伴う災害自体のおそれの高まりに加え、人口の増加や都市集中によって被害を受け
る側の脆弱性も高まっていることがある。温暖化の加速や一層の人口増を考えると、途上国
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2013年02月号
における国土の強靭化や被害地域の再生、回復が大きな課題となってこよう。
大変残念なことだが、地球は壊れ始め、人類にとっては住みにくさが増しつつある。
美しい星と成長の両立へ――額界規模の新資金メカニズムの検討
が始動
アリジェリアで起きたイスラム過激派のテロリストによる製油所襲撃・人質事件は、世界
に大きな衝撃を与えた。直接には思想対立が原因ではあるが、開発の利益が庶民にまで均霑
(きんてん)されていない歪みがテロの温床となっている面も否めない。
1992年にブラジル・リオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミットの20周年を記念
して、昨年リオで開かれた「リオ+20」の会議では、「Future We Want(
我々の求める未来)」という文書をまとめた。この20年間の世界の努力と成果を、総体と
して評価し、今後の課題を示したものである。この文書は、持続可能な開発というスローガ
ンの意義や求心力は評価するが、経済面では環境を守りながら成長ということでは余り成果
が見られず、全体としては不均等な進歩であるとしている(同文書のパラ19)。開発は相
変わらず環境を壊して得る利益を求めて行われ、環境を手入れすることで得られる利益をモ
ーターとした経済発展は、現実化していない。そうした反省の下で持続可能な開発を、もう
一度本腰を入れて立て直す動きが国際的には進んでいる。
一つの図にしてみれば、下図(文末参照)のとおりである。
2000年時点で決められた「ミレニアム開発目標(MDGs、環境保全だけでなく、貧
困の撲滅や初等教育の完全普及など途上国の持続可能な開発を掲げた国連の目標)」は、ほ
とんど達成されないままに期限切れを迎える。しかし国連は「ポスト・MDGs」を定める
「持続可能な開発目標(SDGs)」の検討開始を決定、その実現を後押しするため新たな
資金メカニズムの検討も進める、との方針も決めた。
さらに、地球温暖化は想定よりも速く進んでいるので、2020年の全世界が参加する温
暖化対策の新たな枠組みの発効と併行して、例えば、①被害が起きてきた国や地域への特別
の支援を行うこと(図中、ロス&ダメージとある部分)、②途上国が温暖化対策を実施する
際に支援を行う基金(緑の気候基金)を醸成し、運用すること、③途上国における森林保全
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2013年02月号
への支援を行うこと(図中、REDD+と書かれている部分)、④さらに先進国全体として
は官民合わせて合計1000億ドル(10兆円弱)規模の温暖化対策資金を毎年途上国に移
転して使うこと――などが気候変動枠組条約(温暖化防止条約)の下で既に合意されている。
国内の強靭化と世界の強靭化とで、少なく見ても年々10数兆円の資金が使われることに
なる。「美しい星」を守りながら成長機会を見いだすため、大規模な環境ビジネスの需要が、
新たに生まれることがはっきりしているのである。
環境ビジネスに底力――官民でチャンスを直視しよう
日本国内を見ると、省エネでも、再生エネルギー利用でも、欧米に後れを取ってしまった
感は否めない。それでも日本のエコ技術には底力が残っている。
一例を挙げよう。再生エネルギーのエース格の風力発電についてである。
東大で洋上浮体風力発電に精力的に取り組んでいる石原孟教授にお話を聞く機会があった。
石原教授の2008年のデータでは、風力発電機の発電機本体の世界市場シェアでは日本は
35%を占め、主軸受けに至っては50%であるという。このため風力発電に関して、年間
売上約3000億円、雇用規模約5000人の商売が既に国内に生まれているとのことであ
った。これから洋上風力が盛んになると、(洋上風力は修理が困難であるため)壊れにくい
日本の風車がますます有利になる、との御託宣もいただいた。
このような日本の技術上の競争力を維持・向上するためにも、「過酷な外洋的な海洋環境
での浮体風力発電技術への挑戦は必要だ」ということである。事実、福島沖で、2MW、そ
して7MW級の浮体式風力発電に世界で初めてチャレンジすることを決めたら、欧州も米国
も、さっそく追従し、外洋浮体発電に挑戦を始めることを決めたとのことである。
東北の復興が、そして、日本経済の再生が、世界のグリーンな経済発展につながっている。
こうした手応え感の中で、我々は、もっと知恵を出して、例えば、先ほどの温暖化対策への
毎年1000億ドル規模の国際的な官民資金の途上国への移転策などのシステム作りを日本
発で提案・構築する必要がある。
環境への喰わず嫌い、偏見は、日本の命取りになる。
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2013年02月号
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年02月号
西岡幸一の産業脈診
3Dプリンターの可能性 年始恒例、1月8∼11日に米ラスベガスで開かれたCES(米コンシューマー・エレク
トロニクスショー)の今年の話題はテレビでは4K×2K。スマートテレビというもう一つ
の焦点も見えたが、技術の見せ所という意味では、日韓などの有力メーカーが現在のHDT
V(高精細度テレビ)の解像度を水平、垂直それぞれを倍にした大型の超高精細度テレビを
披露した。
土壇場に追い込まれている日本勢としてはこれで反撃の流れを作り上げたいところだ。し
かし、ポケットにはスマホ、カバンにはタブレット、机上にはパソコンと、テレビの代用を
果たす機器の普及で、四六時中どこでもテレビを見ることができる。そんな環境下で、超高
精細の大型テレビが家電の王様という発想が有効かどうか疑問がある。何よりも放送局側の
体制も映像ソフトも超高精細の4Kに対応するものはほとんどない。モノづくり側の事情だ
けで先走りしては、付加価値をつける比較優位のはずの技術を開発費も回収できないまま、
ありきたりの技術に劣化させてしまう。
3Dテレビはどこへいった
ところで、ほんの1、2年前までCESなどで躍起になって開発競争していたのは3Dテ
レビだった。「圧倒的な臨場感、迫力」などと強調していたが、さっぱり商戦は盛り上がら
なかった。ハードの進化に伴うソフトが伴っていないのが主な要因であり、メーカーにとっ
て特段の付加価値を生むこともなく、なし崩し的に標準装備化の方向に進んでいる。低価格
競争に巻き込まれまいとするなら、需要家にとっての使用価値を十分踏まえたメーカー側の
機能価値や品質価値の開発でないといけない。
電子情報産業の世界市場を見れば最大の需要商品はスマホを含む携帯電話。電子情報技術
産業協会(JEITA)の予測によれば2013年で約21兆円。薄型テレビの市場規模は
その半分で約10兆円である。しかも日系企業のシェアはこの2年間で約10%ポイントも
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2013年02月号
低下し30%強でしかない。ちなみに携帯電話に電子情報産業の主導権を奪われたパソコン
は20兆円弱である。テレビのハードに血道を上げるのは失地挽回の意味はあっても大きく
開いている業界のフェアウェーを力強く進んでいるわけではない。
3Dプリンターに注目
今や3Dといえば旬の話題はテレビではなく、プリンターだ。米国のIT関連雑誌「ワイ
ヤード」編集長のC.アンダーソンの最近の著作『メイカーズ』などが契機になっているが、
個人レベルでも手が届く価格の製品が出回り始め、今後のモノづくりの展開を考えるうえで
興味深い。
3Dプリンターは印刷機ではない。通常の机上のプリンターが文字や図表を打ち出すよう
に、コンピューターから送られてきた設計情報に従って具体的なモノを打ち出す。ディスプ
レー装置で様々な角度からの3次元形状を見ることはできるが、3Dプリンターは、CAD
情報を実際の形にして見せる。プリンターのノズルから、素材になるポリエチレンなどのプ
ラスチック材料や金属粉末材料を吹きだして薄い層を形成、それを何層も積み上げて目的の
形状にする。
例えばプラスチックのリンゴを打ち出すとすれば、紙のような薄さにリンゴを輪切りした
状態を想定すればよい。その一番下の輪切り片を素材で塗りつぶすように描き、その上に同
じように次の輪切り層を重ねて描き、これを何層も積み重ねて完成させる。
引き算のモノづくり
この3Dプリンターの意義は大きくいってふたつ。第1に設計したモノや機能の試作にか
かる時間が圧倒的に早くなること。金型を起こす手間が省けることや設計修正が容易である
からだ。市場へ送り出す時間の競争に明け暮れている研究・開発陣には試作革命を引き起こ
す可能性を持つ朗報だ。極端にいえば、思いついたデザインをすぐに目で確かめ、手触りで
確かめることができる。技術者やデザイナーの発想を刺激するだろう。
第2にモノづくりの基本コンセプトの転換だ。つまりこれまでのモノづくりは基本的に切
削加工に見られるように、材料の塊から不要な部分をそぎ落とす形で目的の形状を完成させ
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2013年02月号
る。不要な部分イコール無駄と考えられやすく、その最小化や回収再利用がひとつのポイン
トでもあるが、要は「引き算のモノづくり」だ。ものによっては最終的に材料の半分以下し
か使用されないということもしばしばであり、材料の製造に要したエネルギーなども勘案す
ると、見かけ以上に大きな無駄をはらんでいる。
3Dプリンターはこれに対して「足し算のモノづくり」だ。目的の形状完成に必要な量だ
け、ノズルから材料が提供されるので基本的に無駄がない。省エネ・省資源・省コストの観
点からは貴重だ。
むろんCNCなど現在の超精密な加工技術はミクロンレベルの精度に達しているのと比べ
ると、3Dプリンターはまだ100倍、1000倍も精度が粗く、いわばおもちゃのレベル
だ。これから格段の技術進歩、精度の向上を遂げるのは間違いないにしても時間はかかる。
またこの装置で量産を始めるとなるとおよそ効率的ではない。
しかし、半世紀余り前にNC工作機械が登場したときも最初はおもちゃ同様だった。複雑
な形状はできず、精度もとても人間の手にかなわないと長く言われてきた。それが、加工速
度や技能、精度のすべてで匠の技を超えるまでに進化した。
3Dプリンターも、現在の形のままではないにしても、利用できる素材の種類、積層の精
度、スピードなどの点で加速的に開発がすすめられるに違いない。価格の低下が急ピッチで
進む。利用者にとって製品と機能の幅が広がりモノづくりの強力な武器になる公算はある。
政府依存からの脱却
何よりも資本と人材・技術を保有した企業それも大企業がモノづくりの中心という固定観
念が揺らぐかもしれない。安価なプリンターが出回るようになれば、個人がデスクトップで
印刷しているのと同じようにデスクトップ・マニュファクチャリングに乗り出すことも可能
だ。
自らのデザインやアイデアを試作して確かめ、完成品にする。量産にはまだ突破すべき壁
があるだろうが、個人が独自の工房を持てる時代の到来は想像するだけでも刺激的だ。まず
日曜工作などの趣味から始まり、雨後の筍のように無数の起業家が生まれるかもしれない。
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個人が自立してモノづくりに乗り出す。少なくとも政府の公共事業やサービスに依存し、
経済を維持しようとする流れとは全く違う経済が生まれる。過度の期待は慎みたいが、そん
な可能性をうかがわせる。3Dは3Dでも、3Dテレビよりも3Dプリンターの潜在起爆力
にこそ注目したい。
(日本経済研究センター研究顧問)
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山田剛のINSIDE INDIA
インドを巡る誤解と過大・過小評価
1949年、インド初代首相ネールは敗戦に打ちひしがれた日本国民を激励するため上野
動物園にアジアゾウの「インディラ」を贈り、日本への厚い友情を示した。しかし、その後
は2000年に森喜朗首相、2005年に小泉純一郎首相(いずれも当時)が訪印し、日印
外交史に新たなページを刻むまでは、両国関係は決して緊密と言えるものではなかった。2
000年代後半以降の日本企業進出ラッシュや、「BRICS」ブームに乗ったインドへの
関心の高まりもあって、インドに関する情報は徐々に広く行き渡るようになってきたが、そ
の一方で今なお「カースト差別」や「貧困」などを巡るストーリーが独り歩きし、日本人に
インドへの少なからぬ誤解や先入観を与えているのもまた事実だ。カーストや貧困、社会正
義といった問題は、インド人自身でさえいまだ明確な回答を見つけられていない重大なテー
マなので、「決めつけ」や「偏見」を排除してなるべく客観的に考察・検証してみたい。
【1】カースト制度はインドの経済発展を阻害する屖弊である
「バラモン(ブラーミン)」「クシャトリア」「バイシャ」「シュードラ」の四姓や、そ
の下のいわゆる「不可触民」の存在などで知られるカースト制度は、紀元前1100年代前
後にインドに侵入した欧州系アーリア人が、その支配を正当化するためにヒンドゥー教徒の
基礎となる聖典とともに導入した、というのが有力な説となっている(図表1)。その長い
歴史ゆえに、制度としてのカーストは現代インドにおいても市民生活に深く浸透しており、
独立の父マハトマ・ガンディーでさえこれを廃止することはできなかった。
※図表1「カースト制度の概念図」は会員限定PDFをご覧ください。
http://www.jcer.or.jp/column/yamada/index445.html
しかし、われわれ外国人がインドにおいてカーストを強く意識させられる場面はそれほど
多くない。大都市やビジネス界、高等教育機関などではカーストはほとんど顕在化していな
いし、外資系企業の工場では従業員採用や昇進をカーストによって差別することはまずない。
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保守的な農村部で有形無形の差別が残っていたり、高齢者が孫の縁談の際に相手の出自を理
由に反対する、ということはよく見聞きするが、外国ビジネスに携わるようなインテリのほ
とんどは、少なくとも自分から「差別」的な行動や発言をしたりすることはない。
むしろ問題なのは、このカーストがしばしば政治の材料にされることだ。インド政府は国
立大学の入学試験や公務員の採用に際し、被差別カースト民の「留保枠」を設定(全国規模
の国立大学の場合は、指定カースト・指定部族=いわゆる「不可触民」=と、その他後進カ
ースト=OBC=に合計49.5%)している。最近では、被差別カースト民を主な支持基
盤とする北部ウッタルプラデシュ州の地域政党・大衆社会党(BSP)などが、公務員の昇
進に際しても被差別カーストへの留保枠を導入するよう要求している。これは、昨年12月
に実施したマルチブランド小売市場(スーパーなど大型小売店事業)への外資導入を巡る国
会決議で与党に協力した見返りとしての要求といわれている。BSP党首のマヤワティ氏は、
2007年の同州議会選で上位カーストの候補者を多数擁立したいわゆる「虹の連合」で勝
利し(2012年の州議会選では敗北し、下野)、カーストと政治の新たな関係を築いたと
評価されていただけに、時代が逆行した感は否めない。
インドの後進性や異質性の象徴として語られることが多いカースト制度だが、インド人に
とっては生活や社会規範の一部として浸透し、現代社会とも適度に折り合いをつけている、
と言うことができる。決して消え去ることはないが、その影響は世代交代によってだんだん
薄まっていくのは間違いない。警戒すべきは、カーストを利用して国民の分断を煽る一部の
政治家なのである。
【2】農村には貧困があふれている
地主や資本家に収奪される農民――といった切り口のレポートはさすがにほぼ見かけなく
なったが、農業セクターに対する技術や情報、資金の提供は相変わらず不十分で、干ばつや
病虫害で作物が全滅し悲観のあまり自ら命を絶つ農民もいる。農村部には総人口の約68%、
約8億人が暮らしているが、村々の半数近くにはいまだに電気がなく、農民の約半分は銀行
口座を持っていないなど、その後進性を示すデータには事欠かない。
だが、その一方で、コメや麦などの穀物には政府買い入れ制度があり、肥料や食料には手
厚く補助金が注がれている。農業所得は非課税とされているうえ、大票田である農民を意識
した政治家は選挙前になると「農民向けの電気代を無料に」などの人気取り公約を乱発する。
51
2013年02月号
こうした一方、絶対数は少ないものの、農業労働者を多数雇ういわゆる「地主」もいるし、
大手食品会社との契約栽培で果実やポテトなどを生産し、「富裕農家」に躍進する農民も出
現し始めた。農業セクターが抱える問題の本質は、絶対的な貧困や失政ではなく、資本や情
報の偏在なのである。
そもそも、温暖な気候に恵まれたインドでは、飢餓に直結するような深刻な貧困にあえぐ
人はさほど多くない。政治や宗教、そしてインド国内100万近い団体があるといわれるN
GO(非政府組織)など、さまざまな貧困救済セーフティーネットがあり、かつてのアフリ
カのような絶望的な状況ではない。
【3】登治家や官僚はことごとく腐敗している
2010年以降だけでも、英連邦競技大会(コモンウエルス・ゲームズ=CWG2010)
やクリケットのプロリーグ、そして携帯電話のライセンス入札などを巡り、政治家や官僚ら
による大規模な汚職疑惑が相次ぎ浮上し、インドは瞬く間に「汚職天国」のレッテルを貼ら
れた感がある。こうした中、社会運動家のアンナ・ハザレ氏が、断食というマハトマ・ガン
ディー譲りの戦術で政府に汚職防止法(ジャン・ロークパル法)の制定を迫り、反汚職運動
は一気に一大ムーブメントとなった。だが、昨年秋、ハザレ氏と行動を共にしてきたアルビ
ンド・ケジリワル氏は、新党「庶民党」を立ち上げ、今年のデリー市議会選(都議会選に相
当)や14年春の総選挙で全選挙区に候補者を擁立する考えを表明。これに反対したハザレ
氏と決別した。その後もハザレ氏はケジリワル氏を厳しく批判し、「庶民党には私の名前や
写真を使わせない」と述べるなど、運動は内紛の様相を呈している。
それはさておき、果たして本当にインドには汚職が多いのか、という問題は、国のGDP
や利権の規模、人口などを勘案して、日米中韓ASEANとインドを適正に比較・分析しな
ければならないのだが、個人的な印象では巨大な行政機構とそこにぶら下がっている人数、
監視制度の弱さなどから考えても、インドの汚職や腐敗の規模は「許容範囲内」に収まって
いるといえないだろうか。
インド人エコノミストの中には「大勢に影響のない末端の小さな汚職はわざと見逃してい
る」という人も。本当に大事なポストには清廉かつ有能な官僚を配置しているのだという。
本当だとすれば、行政に遅滞や非効率はあるものの、これが中南米やアフリカのような混乱
に陥っていない理由だろう。
52
2013年02月号
【4】スポーツが弱い
インドのスポーツと言えば一も二もクリケット。あとはフィールドホッケーや伝統格闘技
ぐらいだ。諸説あるが、カースト制度の影響で他人との身体接触を忌避する人が多いこと、
余暇や趣味としてのスポーツが定着していなかったことなどから、インドは12億を超える
人口規模を持ちながらスポーツ弱小国の地位に甘んじてきた。五輪で獲得したメダル数は北
京大会まで過去110年間でわずか20個、しかもこのうち11個はかつてのお家芸だった
フィールドホッケーで取ったものだ(図表2)。
※図表2「2004年アテネ五輪以降のインド人メダリスト一覧」は会員限定PDFをご覧
ください。
http://www.jcer.or.jp/column/yamada/index445.html
ところが、2008年の北京五輪では射撃で個人種目初の金メダルを獲得するなどメダル
は計3個となった。2010年に自国開催した英連邦競技大会や同年の広州アジア大会など
でもインド選手が大活躍。そして12年のロンドン五輪では金メダルこそなかったが、銀2
銅4という過去最高・計6個のメダルを母国に持ち帰った。国際大会で活躍したスター選手
は大手企業のテレビCMに相次いで起用され、国民の間にもようやくクリケット以外のスポ
ーツに対する関心が高まりはじめた。印政府もスポーツ関連予算を増額し、スタジアムなど
の整備・改善や外国人コーチの招聘など、さまざまなテコ入れに取り組んだ効果が早くも出
た格好だ。これまで全く有望選手が育っていなかったウインタースポーツでも、ソチ五輪出
場を目指すインライン・スケート出身の若手選手が元金メダリストの指導を受けるため渡米
するなど、新たな動きもみられる。
女子バドミントン・シングルスで銅メダルを獲得したサイナ・ネワル(22)は、インド
日清食品「トップラーメン」のCMに登場、レスリング66キロ級決勝で日本の米満達弘と
対戦して敗れ、銀メダルを獲得したスシル・クマール(29)は北京大会の銅に続く自身2
個目のメダル。エイチャーのトラクターやタイヤメーカー・ラルソンのブランド・アンバサ
ダー(広告キャラクター)に起用されて、知名度も急上昇している。経済成長による所得増
は間違いなくスポーツ人口のすそ野拡大につながるだろうし、国の威信や体面を気にするイ
ンド政府も、そろそろ本気でスポーツ振興に取り組み始める兆しが見てきた。2度目の東京
五輪(?)では、これまでとはまったく違ったインド選手団が見られるかもしれない。
53
2013年02月号
【5】社会正義が守られていない
昨年12月にニューデリーで起きたレイプ殺人事件は、残念だが「氷山の一角」と言わざ
るを得ない。認知・届出件数と発生件数に相当なギャップがあると思われるため、単純に「
インドでレイプ事件が急増している」とは言えないが、概してセクシャル・ハラスメントの
ハードルが低い中東・南アジアにあって、インドは特に男尊女卑の傾向が強い。農村や被差
別カーストの女性が被害者となり、泣き寝入りするケースも含めれば、相当数の性犯罪が発
生しているのは間違いないだろう。
ことほど左様に、インドでは理不尽な人権侵害や犯罪被害に遭う人が多く、官僚や警察の
不正や怠慢でそのうち相当数がもみ消されてきた。しかし、近年はNGOやテレビメディア
のおかげでこうした不法行為が相次ぎ暴かれるようになった。死亡交通事故を起こして逃げ
回る有力者の師弟や、犯罪被害者から金を脅し取ろうとした警察官などが、ニュース専門局
の隠しカメラ取材などで行為の一切を放映され、しばしば大きな問題提起となっている。近
年は地方都市や農村でもテレビやラジオ、そして印刷メディアが着実に普及しており、情報
の浸透とともに声なき弱者もモノを言うようになってきているのは間違いない。
【6】イノベーションが育たない
国内産業を保護するため、自動車など完成品の輸入を禁止し、部品にも高率の関税をかけ
る、という産業政策をとってきたインドでは、技術も資本ももたらされず競争もないという
状況が続いてきた。作れば売れる市場では、「安かろう悪かろう」というよりも品質を比べ
る対象もないまま、消費者はお仕着せの商品を買わされていた。
インテルが2008年に発表した上位サーバー向けマイクロプロセッサCPU「Xeon
(ジーオン)7400」シリーズは、インド・バンガロールの同社技術者らによって設計・
開発された「インド産」だ。また、年間10万台ペースと当初見込みの3分の1程度に販売
台数が伸び悩んでいるとはいえ、専用工場の建設や「1本ワイパー」「エアコンもオーディ
オも省略」といったコストカットとゼロベースからの設計で世に出たタタ自動車の超低価格
車「ナノ」も、インド式イノベーションが導き出した答えの一つであるといえるだろう。
54
2013年02月号
最近では、地場大手のアポロ・タイヤがオランダに研究開発(R&D)センターを開設、
仏ロレアルやスイス・ネスレ、中国・華為技術集団などが、昨年以降相次いでインド向け商
品開発のための拠点を設立、あるいは計画を発表している(図表3)。ホンダ(二輪)、デ
ンソー、富士フイルム、武田薬品工業、パナソニックなどの日本企業も、同様にR&Dセン
ターの設立や印企業との共同研究などに乗り出している。今後はインド発の技術開発や商品
企画が相次いで実現するだろう。
※図表3「外資系企業による最近のインドでの研究・開発活動」は会員限定PDFをご覧く
ださい。
http://www.jcer.or.jp/column/yamada/index445.html
【7】インド人はみんな数字に強い
5∼6年ほど前、日本では「インド式計算術」といった書籍が大量に出版された。テレビ
の特集では、インドの小学生のクラス全員が2ケタ×2ケタの掛け算を暗唱している光景が
放映されたこともあり、インド人は数字に強いというイメージができた。確かにインド人は
「ゼロを発見した民族」と言われ、数学的な才能を発揮する人も多い。初代首相ネールの肝
いりで創設されたインド工科大学(IIT)は今も、技術系大学の最高峰として君臨し、各
界に優秀な人材を送り出している。
だが、「小学生の掛け算」だが、これはいわゆる有名私立校など大都市にあるごく一部の
学校に限ってのこと。農村部の公立学校などでは教員の質や教室・教材の不足が深刻。イン
ド国内のNGO連合組織の調査によると、小中学校の約95%が義務教育法に定めた上水道
・トイレの基準を満たしておらず、パソコンがあるのはわずか20%、60%の学校には電
気が来ていない、という状況だ。
そして、商店の店員は結構な確率で計算を間違え、おつりを多く寄越すことすらある。こ
れも、「IITに落ちたらMIT(マサチューセッツ工科大)に行く」「バンガロールの道
路はIT企業の就業時間に合わせて1日3回渋滞する」と同様の都市伝説、と言っていいだ
ろう。
(日本経済研究センター主任研究員)
55
2013年02月号
林秀毅の欧州債務危機リポート
2013年の欧州政治・危機対応・市場
動向
―長期金利とユーロへの示唆
2013年の年明けを迎え、欧州は一旦危機から浮上したかにみえる。一方、今後1年の
スケジュールを展望した時には、どのようなリスクがあるだろうか。以下、ユーロ圏におけ
る主要国の政治情勢と危機対応の要点と、これらの点が欧州金融市場に与える影響を検討し
たい。
政治動向ーイタリア・ドイツの選挙
政治面ではまず、2月24日に予定されるイタリアの総選挙が注目される。財政・労働を
中心とした構造改革を進めてきたモンティ首相は、昨年12月21日、辞任を発表した。同
氏は本来、大学教授であり、国会議員ではない閣僚で構成される暫定政権は当初から今年4
月までの予定だったが、前倒しされることになった。
元々同氏が2012年11月に首相に就任した背景としては、財政を中心に山積する国内
経済について、同氏に片付けてもらい、その後政治の実権を握りたいという既存の政治家の
思惑があった。今回の選挙前倒しの直接のきっかけとしては、モンティ政権を支えた少数政
党が同氏への支持を取り止めたことにより、当初の予定が早まったにすぎない面がある。さ
らにこれまでモンティ首相を支持してきた最大勢力である中道左派・民主党のベルサーニ党
首は、国内改革の継続とEUとの協調継続を訴えている。これに対しモンティ首相は、新た
に政治勢力を結集し政権の継続を目指す一方、他の首相の下で閣僚となる意志はないとして
妥協の余地を示していない。
以上のように考えると、中道左派の民主党が勝利し、モンティ氏は交代するが、新政権は
当面、改革路線の継続を掲げる、という展開となる可能性が最も高いと思われる。この場合、
短期的な波乱要因となるリスクは低い一方、モンティ氏が閣外から新政権と協力関係を維持
56
2013年02月号
するか、中道左派が政権に就いても労働組合などと妥協し国際的な信認を失わないか、とい
う点などが問題になるだろう。
次に、今年秋、9月下旬に始まるドイツ連邦議会選挙が焦点となる。連立相手の自由民主
党(FDP)の人気低下、野党の社会民主党(SPD)と「緑の党」の動向などが、メルケ
ル現政権にとっての懸念材料とされている。しかし、第一にメルケル首相と最大野党SPD
のシュタインブリック氏との人気度に大きな差があること、第二に現政権が財政緊縮策を取
っても、他の欧州諸国のように政権の支持低下にはつながらない国民性に加え、第三に少数
政党の乱立を防ぐため一定の得票率以下に終わった政党は議席を得られない仕組みになって
いる。そのため、メルケル首相の三選が阻止されるリスクは非常に低いのではないか。この
場合、国民に不人気であるため選挙前には取りにくいEUレベルの救済の仕組み作りへの協
力について、選挙後にはより積極的になる展開が想定される。この点は、欧州の危機管理と
いう観点からはプラス材料といえるのではないか。
危機対応スキームとスペイン・ギリシャの救済
次に欧州危機の救済スキームについては、昨年9月の欧州中央銀行(ECB)による無制
限の国債買い入れプログラム(OMT)が効果的であったことから、緊急対応に一つの区切
りが付いた。現状、この枠が設定されていること自体が予防的な効果を生んでいると考えら
れる。
その後、昨年12月のEU首脳会議までの議論で今後に向けた前向きな制度設計の方向性
が決定された。この概要については、前月の本レポートで述べたが、今年1年を展望し、特
に下記の二点をポイントと考えるべきだろう。
まず「銀行同盟」の内、ECBによる単一の銀行監督(SSM)の実現は、2013年初
めまでに必要な法的枠組みが決定されることを前提として、今年3月末までに欧州安定メカ
ニズム(ESM)が銀行に対する直接の資金注入が可能となる。これにより、各国の財政バ
ランスに影響を与えずに、銀行に公的資金を注入することが可能になる。この点が個別国に
与える影響として、第一にスペインについては昨年以来、銀行への直接資金注入を可能にE
Uへの救済申請をいつ行うかということが焦点になっていた。但し、欧州危機への懸念がや
や落ち着いてきた現状では、ラホイ現政権の人気が高まらないかぎり、今後も緊縮政策への
連想が働く救済申請は先送りにされやすいだろう。
57
2013年02月号
第二に、ギリシャについても例年通り春に大量の国債償還が想定されている。この点に対
する懸念についても、銀行への悪影響が和らぐという予防的な効果が生じることもあるだろ
う。
他方、単一の銀行監督については、今年1年をかけECBによる検討・実施が進められ、
遅くとも2014年1月からフル稼働する大枠が示されることになっている。ECBが中心
的な役割を果たす点は市場にとってプラスだが、ECBと各国監督機関との機能分担などの
検討及び1年間という検討期間の長さが、年後半にかけては、不透明要因として意識される
可能性があるだろう。
ユーロと欧州長期金利への影響
以上のような今年1年間に予想されるイベントに対し、市場はどう反応するだろうか。ま
ずユーロについては、昨年末から年明けユーロドルは1.33ドル台、ユーロ円は116円
台まで上昇した。上に述べた政治面と救済スキームを巡る見通しを前提にすると、当初今年
春に向けては欧州銀行への資金注入が可能になることなどを受け楽観論が継続し、ユーロド
ルで見れば1.35ドル程度まで緩やかな上昇が続く可能性が高いと思われる。これは仮に
ドル円を90円と仮定すれば、ユーロ円でいえば約121円という水準に相当する。
しかしその後、年央から夏にかけてはドイツの政治情勢や銀行監督をめぐる不透明感が高
まり、一旦調整しやすい展開となるだろう。しかし今秋以降、ドイツの選挙結果により、メ
ルケル政権の基盤が固いことが確認され、選挙後のEUレベルの救済の枠組みを構築するこ
とへの期待感が高まれば、中期的なユーロの上昇期待感が対ユーロ・対円双方で高まること
になるだろう。
一方、ドイツ10年国債利回りに代表されるユーロ圏の長期金利もまた現在上昇している。
これは、世界的な株式と金利上昇に連動した動きである。欧州危機に対する懸念が落ち着き、
リスク回避のため流入していた資金が還流していることにもよると思われる。
しかし、ユーロ圏の危機対応はようやくの入り口に立ったばかりであり、現在の楽観論は
期待先行という面も強い。
58
2013年02月号
ユーロ圏の年内の成長回復が未だ見通せない現状では、金利の上昇余地は限定的に留まら
ざるを得ないだろう。
(日本経済研究センター 特任研究員)
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2013 年 2 月号
研究リポート(サマリー)
【2050 年への構想】
克服すべき課題と解決の道
「経済一流国の地位を堅持せよ―女性の活用を軸に人材大国へ」
2013 年 1 月 11 日発表
日本経済は「失われた 20 年」とも言われる停滞から抜け出せずにいる。かつて日本は「政治は二流
でも経済は一流」と言われた。このままでは、経済も二流以下に沈んでいく。その先にあるのは穏やか
な衰退ではない。昨年 12 月の当センター「第 39 回中期経済予測 」は、超高齢化や世界最悪の政府債
務の先には経済破綻があり得ることを示した。
直面する様々な課題を克服するには、健全な経済成長が必要だ。グローバル化が加速する時代には、
国際的な政治経済の枠組みをどのように作るかも重要になる。そこで発言権を確保するためにも、一定
の経済力を保つ必要がある。欧米先進国が達成しつつある1人当たり国民総所得(GNI)5 万ドルを
目標に、「経済一流国」の地位を堅持すべきだ。
経済成長の基礎になるのは、持続的なイノベーションと、それを生み出す人材だ。日本は諸外国と比
べても教育に十分な資源を振り向けているとはいえない。技術の種はあっても、それを実際のビジネス
として結実する力が弱い。大学発ベンチャーの促進を含めた大学改革が1つの突破口になるのではない
か。TPP(環太平洋経済連携協定)への参加といった経済統合の推進も、内外の企業・産業が切磋琢
磨する機会を増やし、経済をより筋肉質にするはずだ。雇用慣行や税制などの要因で潜在力が生かし切
れていない女性は「隠れた資産」だ。その活用は避けて通れず、子育てと仕事の両立を可能にする雇用
制度改革が不可欠だ。女性活用を軸に人材大国を目指す必要がある。
こうした活力発揮の前提になるのが制度の安定性だ。その意味で、人口減にはなんとしても歯止めを
かける必要がある。今のままでは税・社会保障などの制度が成り立たない。人口を1億人程度で安定さ
せる「国家目標」の策定を訴えたい。財政の健全化も達成しなければならない課題だ。将来の増税や歳
出削減を明示した改革プランを約束すれば、経済成長と親和的な政策を採用しやすくなり、財政か景気
かの二者択一を乗り越えられる。着実な成長があれば雇用機会が増え、自己実現の選択肢も広がる。人
材や働き方の改革を軸に、そんな明るい未来を拓いていく必要がある。
60
2013 年 2 月号
図 1 欧州や北米に抜かれ足踏み
10
(万ドル)
1人当たりGNI
9
8
2011年
7
1995年
5万ドル
6
5
4
3
2
3.97万㌦
1
1ドル=95円とした場合の日本の2011年
英国
アイルランド
フランス
シンガポール
ドイツ
日本
カナダ
ベルギー
フィンランド
オーストリア
米国
オーストラリア
オランダ
スウェーデン
デンマーク
スイス
ルクセンブルク
ノルウェー
0
(出所)世界銀行 World Development Indicators、規模の小さい一部の国を除く
詳細は http://www.jcer.or.jp/policy/concept2050.html をご参照ください。
61
2013 年 2 月号
セミナーリポート
<新春特別セミナー>
「2013 年の日本経済 再生への展望」
岩田一政・日本経済研究センター理事長
13 年度、経済対策・円安で 2%成長も
―長期的な「経済一流国の維持」、課題山積
<要旨>
① 世界経済の減速によって 2012 年 4 月以降日本は、景気後退局面に入った。しかし 12 年 11 月を底に回
復基調に入り、13 年度は緊急経済対策や円安の効果もあり、2%成長になるだろう。米国はシェールガ
ス・オイル革命で製造業が復活し、本格的な景気回復の可能性があり日本にとって明るい材料だ。日本
自身も復興の促進とデフレ克服に取り組み、回復を確かなものとすべきだ。懸念は欧州の政府債務危機
と中国が「中所得のワナ」に陥り成長率が大きく低下することだ。
② 日本の長期的課題は「経済一流国」の地位を維持することだ。一人当たり国民総所得(GNI)で 5 万ド
ルを目標とし、実現策としては、女性の労働参加促進、人材育成や情報技術(IT)のフル活用、開国に
よる労働生産性向上、人口規模の維持政策が重要となる。さらに経済成長と財政健全化の両立も課題だ。
両立には、将来の増税・歳出削減を前提にした財政運営が重要だ。税・社会保障制度の一体改革や短期
的な景気対策もそうした観点で進めるべきである。
③ 今後も起こることが予想できる世界的な国家債務危機、金融危機に備えた国際的な仕組みが必要だ。国
際通貨基金(IMF)を危機の陥った国への「最後の貸し手」として強化することを日本が提案するべきだ。
また日本は政府・日本銀行が一体となった基金を設立し、世界の金融危機時に過度な円高に振れないよ
うに外債購入できる体制を整備する必要がある。
詳細は http://www.jcer.or.jp/seminar/sokuho/index.html#20130109 をご参照ください。
<関連資料>
政策提言リポート(2013 年 1 月 11 日公表)
「経済一流国の地位を堅持せよ―女性の活用を軸に人材大国へ」
62
2013 年 2 月号
最近掲載のセミナーリポート
開催日
タ イ ト ル
講 師
1 月 10 日
世界経済のシナリオ、日本経済の課題
「調整局面は長期化するリスク
―経済システムの再構築急げ」
齋藤 潤・日本経済研究センター研
究顧問、慶應義塾大学大学院商学研
究科特任教授
1月9 日
<新春セミナー>
2013 年の日本経済 再生への展望
「13 年度、経済対策・円安で 2%成長
―長期的な『経済一流国の維持』、課題山
積」
岩田一政・日本経済研究センター理
事長
12 月19 日
《緊急セミナー》
次期政権に期待される経済政策
「消費増税の『約束』守れ―『古き自民党』
から脱却を」
小峰隆夫・日本経済研究センター研
究顧問
齋藤潤・日本経済研究センター研究
顧問
(司会)猿山純夫・日本経済研究セン
ター研究本部長
11 月28 日
ユーロ危機とアジア経済
「アジア域内金融協力の推進を
―広範な金融安全網が必要」
崔雲奎・韓国銀行経済研究院長
詳細は
掲載項目
( 聴くゼミ:音声)http://www.jcer.or.jp/seminar/kikusemi/index.html
(読むゼミ:抄録)http://www.jcer.or.jp/seminar/sokuho/index.html
63
ピッ
ピックアップセミナー
大阪
3月6日 12:30 ∼ 14:00
東京
3月8日 12:00 ∼ 13:30
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:帝国ホテル大阪(大阪市北区天満橋1−8−50)
*定員になり次第締め切ります
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
日経センター・大阪昼食会
会員会社・部長昼食会
事業化の視点から見た
iPSテクノロジー
変貌する東アジアと
日本外交の課題
村山 昇作・iPSアカデミアジャパン社長
中西 寛・京都大学大学院法学研究科教授
公益社団法人
日本経済研究センター
〒100-8066 東京都千代田区大手町1−3−7 日本経済新聞社東京本社ビル11階
総務本部
総 務 ・ 広 報 グ ル ー プ
経 理 グ ル ー プ
03(6256)7710
03(6256)7708
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事業グループ(セミナー)
03(6256)7718
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研究本部
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研 究 開 発 グ ル ー プ
国際・アジア研究グループ
中
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グ ロ ー バ ル 研 究 室
ライブラリー
(茅場町支所) 〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町2−6−1 日経茅場町別館2階 03(3639)
2825
大阪支所 〒540-8588 大阪府大阪市中央区大手前1−1−1 日本経済新聞社大阪本社8階 06(6946)
4257
03
(6256)7730
03
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03
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03
(6256)7744
03
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参加ご希望の皆様へ
会場の席数に限りがございますので、当センターホームページ(http://www.jcer.or.jp/)または裏面のFAX申込書
で事前お申し込みをお願いします。
セミナーの追加や日時の変更の場合もありますので、当センターホームページでご確認ください。
■会費
■場所
■入場
会員無料、一般は1回8,000円
東京:日本経済新聞社東京本社(東京都千代田区大手町1 3 7)
日経茅場町カンファレンスルーム(東京都中央区日本橋茅場町2 6 1)
大阪:日本経済新聞社大阪本社8階・日 経 セ ン タ ー 会 議 室(大阪府大阪市中央区大手前1 1 1)
(地図はホームページをご覧ください)
先着順(セミナー開始の30分前より受付を始めます)
■お問い合わせ(電話) 東京:
(03)6256−7720/大阪:
(06)6946−4257
東京
2月5日 14:00 ∼ 15:30
東京
2月7日 14:00 ∼ 16:00
*会員・一般無料、定員200名(先着順、定員になり次第締め切り)
*日英同時通訳付き
*会場:日経東京本社ビル6階・カンファレンスルーム
*会場:日経東京本社ビル6階・カンファレンスルーム
グローバル経済の展望と日本の課題
GSR研究会特別セミナー
2013年と、その先のグローバル経済を展望するうえで、
新興国における
グローバル企業の社会的責任
カギとなる要素は何でしょうか。新興国経済の減速、長引
企業が社会から期待されている役割とは何でしょうか。
く欧州危機、米国発のシェールガス革命、そして、日中韓
そして、歴史的、文化的な背景の異なる新興国に企業が進
の相次ぐ指導者交代……。こうした注目点を解説しながら、
出した場合には、どう違ってくるのでしょうか。日本経済
日本の針路を考えます。
研究センターでは、グローバルな視野から企業の社会的責
竹中 平蔵・日本経済研究センター研究顧問
任を考える研究会(GSR研究会)の活動を続けてきました。
この国際セミナーでは、日本を代表するグローバル企業の
ひとつ、第一三共のトップとアジアの新興国から招いた講
師が議論します。
大阪 2月6日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
庄田 隆・第一三共代表取締役会長
ニーブズ・コンフェサー・アジアマネジメント大学(フィリピン)教授
ラジブ・クマール・前インド商工会議所連盟事務局長
モデレーター)近藤 まり・同志社大学大学院ビジネス研究科教授
新体制下の中国経済と今後の日米中関係
東京
尖閣問題で再び表面化した日中外交摩擦は、東アジア経
済の協調発展を阻害し、世界経済にも悪影響を及ぼすこと
が懸念されています。中国経済および日米中関係に詳しい
2月22日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
大阪
2月25日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
瀬口氏が、中国経済の先行きと習近平政権の課題、米国の
アジア政策、日本の対中・対米戦略など、経済と政治の両
面から日米中関係を論じます。
瀬口 清之・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1982年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。米国ランド研究
所フェロー、北京事務所長、国際局企画役などを経て、2009年
から現職。10年アジアブリッジ(株)設立
日経センター短期経済予測説明会
予測期間:2013年1−3月期∼2015年1−3月期
愛宕 伸康・日本経済研究センター短期経済予測主査
東京
2月8日 13:30 ∼ 15:00
東京
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
大阪
2月15日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
≪日経センター「アジア研究」報告≫
ASEAN経済と企業戦略
2月27日 12:00 ∼ 13:30
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
会員会社・部長昼食会
新オバマ政権の対外経済政策と
日米関係
ASEAN経済が企業の注目を集めています。中間所得層
の勃興に伴う消費市場の拡大、2015年の経済共同体構築に
向けた域内の貿易・投資の自由化、さらに開国に舵を切っ
たミャンマーなどの今後の発展にも関心が寄せられていま
す。本セミナーではASEAN経済の現状、経済共同体の概
要・見通し、さらにASEAN域内における企業動向などを
解説します。
2012年米国大統領選挙においてオバマ大統領が再選され
ました。米国発金融危機後に構築されてきた新たなグロー
バルガバナンスの中で、第二次オバマ政権の安全保障戦略
や、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめとする対外
経済政策は、どのように展開されようとしているのか。さ
らには、今後の日米関係にどのような影響を与え得るのか。
知日派で知られ、米日経済協議会会長・日米財界人会議米
側議長を務めるレイク氏が論じます。
浦田秀次郎・日本経済研究センター特任研究員、早稲田大学大学院
チャールズ・レイク・アメリカンファミリー生命保険会社
アジア太平洋研究科教授(東京会場のみ)
石川 幸一・亜細亜大学アジア研究所教授(東京会場のみ)
可部繁三郎・日本経済研究センター主任研究員(東京会場のみ)
牛山 隆一・日本経済研究センター主任研究員
東京
2月13日 13:30 ∼ 15:00
日本における代表者・会長
1990年ジョージ・ワシントン大学法科大学院博士号取得。米
国通商代表部日本部長、次席通商代表付法律顧問などを歴任。
99年アメリカンファミリー生命保険会社入社。日本における代
表者・社長、副会長などを経て、2008年から現職
東京
3月8日 12:00 ∼ 13:30
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
中国経済の行方
―中速成長への意図的な舵取り
会員会社・部長昼食会
30年近く続いた10%台の高度成長が終わり、中国は新た
な局面に入ってきました。習近平新体制は、潜在成長率が
低下する中で、持続可能な経済成長への発展モデルの転換
と、所得格差の是正といった様々な課題を抱えています。
若手中国人アナリストが、今後の中国経済の行方を展望し
ます。
歴史問題や領土問題をめぐる対立が激化し、北朝鮮が挑
発を繰り返すなど、東アジア情勢は緊迫の度合を強めてい
ます。アメリカの覇権の後退や中国の台頭などの構造的変
化の中で、中韓の新指導者や二期目のオバマ政権とどのよ
うに向きあうべきか。日本の中長期的な戦略について、気
鋭の国際政治学者が論じます。
李 雪連・丸紅経済研究所シニアアナリスト
中西 寛・京都大学大学院法学研究科教授
2001年外交学院卒、NEC-AS入社。05年早稲田大学アジア太
平洋研究科修士課程修了、丸紅入社。11年から現職
1987年京都大学大学院法学研究科修士課程修了、京都大学法
学部助教授、文部省在外研究員を経て、2002年から現職
大阪
3月6日 12:30 ∼ 14:00
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:帝国ホテル大阪(大阪市北区天満橋1−8−50)
*定員になり次第締め切ります
変貌する東アジアと日本外交の課題
東京
3月8日 15:30 ∼ 17:00
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
≪日経センター設立50周年記念研究 第1弾≫
事業化の視点から見たiPSテクノロジー
為替安定と危機への備えを
―成長につながる国際金融の枠組み
ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が開発したiPS細胞
は、再生医療・創薬などの分野で応用が期待されています。
実用化にあたっては幅広い技術が必要で、中小企業も含め
たバイオ関連以外の企業にも参入のチャンスが存在します。
iPS関連産業の現状と可能性、新産業育成のための知的財
産の生かし方などについて、村山氏がお話しします。
活力と希望に富む日本とするために何をすべきか。日経
センターでは、この1年「2050年への構想」と題した設立
50周年記念研究に取り組みます。その第1弾として、成長
につながる国際金融の枠組みを考えます。現制度の脆弱性
を点検した上、過度の円高を是正し、危機に備える枠組み
と「均衡レート」に拠る為替安定化策等を提言します。
村山 昇作・iPSアカデミアジャパン社長
岩田 一政・日本経済研究センター理事長
日経センター・大阪昼食会
1972年同志社大学経済学部卒、日本銀行入行。ニューヨーク
事務所エコノミスト、高松支店長、調査統計局長などを経て、
2002年帝國製薬社長、11年から現職
増島 雄樹・日本経済研究センター副主任研究員
服部 哲也・日本経済研究センター特任研究員
3月11日 14:00 ∼ 16:00
東京
東京
3月13日 14:00 ∼ 15:30
*会員・一般無料、定員200名(先着順、定員になり次第締め切り)
*会場:日経東京本社ビル6階・カンファレンスルーム
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
≪日経センター金融研究説明会≫
≪希望と成長による地域創造研究会
−「地域から考える成長戦略」研究分科会報告≫
地域振興、
主役は地域、
成否のカギは人材
―海外・国内の成功事例に学ぶ
Ⅰ.激戦アジアで勝ち抜く条件は
Ⅱ.社会貢献マネーの可能性を探る
成長機会を求めて金融機関のアジア進出が続いています。
激戦市場で勝ち抜くための条件は何か、優勝劣敗が生まれ
国は地方を活性化させるための条件整備に徹し、地域資
源を生かした戦略を地方自身が考えていくことが必要です。
る背景を考えます。あわせて、教育・環境・起業など社会
に貢献するビジネスを支援するソーシャル・ファイナンス
で、収益をあげる可能性を探ります。
「北欧に見る強い農林水産業」
「ドイツ中規模企業群の付加
価値競争力」
「都市のコンパクト化促進と人的資本向上」
増島 雄樹・日本経済研究センター副主任研究員
などをテーマに、地域振興策を提案し、それを担う人材の
大阪
重要性を論じます。
3月15日 15:00 ∼ 17:00
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
基調講演
小峰 隆夫・日本経済研究センター研究顧問
(地域創造研究会主査、法政大学大学院教授)
パネルディスカッション
≪日経センター研究説明会≫
第1部 金融研究説明会
Ⅰ.激戦アジアで勝ち抜く条件は
Ⅱ.社会貢献マネーの可能性を探る
第2部 設立50周年記念研究 第1弾
岡本 義行・法政大学大学院教授
(地域創造研究会副主査)
為替安定と危機への備えを
―成長につながる国際金融の枠組み
樋口 一清・信州大学大学院教授
(地域創造研究会副主査)
日経センターでまとめる研究報告について、大阪支所で
中川 雅之・日本大学経済学部教授
(地域創造研究会副主査)
は2部構成で説明会を開催します。
※内容は、東京説明会3月8日、3月13日の案内をご参照
小峰 隆夫・日本経済研究センター研究顧問
ください。
増島 雄樹・日本経済研究センター副主任研究員(第1部)
服部 哲也・日本経済研究センター特任研究員(第2部)
会場案内図
●東京・大手町
●大阪
〒100 8066 東京都千代田区大手町1−3−7
〒540 8588 大阪府大阪市中央区大手前1−1−1
日経東京本社ビル
都心環状線
気象庁
4番出口
消防庁
日経東京本社ビル
JA 経団連
ビル 会館
日本政策
投資銀行
KDDI
N
読売新聞社
土佐堀通
1
大手町駅
大手町ビル
至谷町四丁目
京阪東口
交差点
上町筋
皇居
千代田線・大手町駅
三井生命
京阪電車
OMMビル
大阪歯科
大学病院
C2b出口
三井物産
大川
天満橋駅
谷町線 天満橋駅
谷町筋
竹橋駅
国税局
至南森町・東梅田
テレビ
大阪
寝屋川
ドーン
センター
日経大阪本社8階
地下鉄 東西線・千代田線・丸ノ内線・半蔵門線・
地下鉄谷町線、京阪電車天満橋駅下車徒歩5分
三田線大手町駅(C2b出口直結)
、
1番出口より東へ京阪東口交差点南東側
東西線竹橋駅(4番出口)
至京橋
外堀通り
至淀屋橋・中之島
丸の内線
三田線
日本経済新聞社大阪本社8階
参加者募集
2013年度 経済動向研究会
直近のマクロ経済動向・金融情勢を解説するセミナー「経済動向研究会」の参加者を募集します。
2013年度は下記の2グループを各々2カ月に1回、年間6回開催します。メンバーシップ制です。皆
様のご参加をお待ちしております。
◆鎌田グループ 講師:鎌田康一郎・日本銀行調査統計局経済調査課長
経済や物価の現状および当面の展望について、金融情勢も含めて解説します。年2回の「経済・物価
情勢の展望(展望レポート)
」の解説も行います。
■開 催 日:5月から開始。原則、偶数月に開催予定。ただし展望レポート公表月は公表後に開催。開催日は
約1カ月前にメールでお知らせします。
■開催時間:12:00−13:30(昼食付き)
【かまだ こういちろう】1965年生まれ。89年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。94年米国ブラウン大学経済学部大
学院留学。調査統計局調査役、企画局企画役、金融機構局金融システム調査課長を経て、
2012年5月から現職。
◆増島グループ 講師:増島 稔・内閣府参事官(経済財政分析―総括担当)
政府のまとめた「月例経済報告」を中心に最新の景気動向の解説、主要な経済問題の分析・評価を
行います。
■開 催 日:5月から開始。原則、奇数月に開催予定。開催日は約1カ月前にメールでお知らせします。
■開催時間:12:00−13:30(昼食付き)
【ますじま みのる】1964年生まれ。86年東京大学経済学部卒、経済企画庁(現内閣府)入庁。90年米国ノースウェス
タン大学大学院留学。国民生活局調査室長、経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部参事官、
計量分析室参事官などを経て、2012年1月から現職。
■会 場:日本経済新聞東京本社ビル6階 セミナールーム2(東京都千代田区大手町1−3−7)
■受講料:1グループ年間6回
【鎌田グループ】年間31,500円(会員)
、63,000円(非会員)(昼食代含む)
【増島グループ】年間31,500円(会員)
、63,000円(非会員)(昼食代含む)
※年度途中から参加される場合は、事業グループまでお問い合わせください。
■お申し込み方法:下記の申込書に郵便番号・住所・会社名・所属・氏名・TEL・FAX・E-mailを明記の上、
FAX(03−6256−7925)にてお申し込みください。ホームページ(http://www.jcer.or.jp/)からもお申し
込みいただけます。
■問い合わせ先:事業グループ TEL:03−6256−7720/FAX:03−6256−7925
日本経済研究センター事業グループ行き FAX申込書(03−6256−7925)
【お申し込み】 鎌田グループ / 増島グループ *ご希望のグループに○をしてください。
会社名
氏名 (会員・非会員)
所属・役職 住所 〒 TEL
FAX
E-mail
※会員の皆様の個人情報は上記研究会に関する確認のほか、日本経済研究センターの事業のご案内のみに使用します。
03(6256)7925
大阪のセミナーは… 06(6947)5414
東京のセミナーは…
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2013 年2•3月の催し
TOKYO
月
ホームページまたはFAXでお申し込みください。
ホームページ
http://www.jcer.or.jp/
FAX ご希望のセミナーに○をしていただき、必要事項を
ご記入のうえ、このページをお送りください。
*詳細はホームページをご参照ください。*■は会員限定セミナーです。 ご希望のセミナーに○をしてください。
日
曜日
5
火
14:00∼15:30 グローバル経済の展望と日本の課題
7
木
GSR研究会特別セミナー
14:00∼16:00 新興国におけるグローバル企業の社会的責任
2 8
金
13:30∼15:00
水
13:30∼15:00 中国経済の行方―中速成長への意図的な舵取り
金
14:00∼15:30 日経センター短期経済予測説明会
27
水
12:00∼13:30
8
金
12:00∼13:30
8
金
≪日経センター設立50周年記念研究 第1弾≫
15:30∼17:00 為替安定と危機への備えを―成長につながる国際金融の枠組み
11
月
13
水
竹中平蔵
≪日経センター「アジア研究」報告≫
ASEAN経済と企業戦略
石川幸一 氏・浦田秀次郎・可部繁三郎・牛山隆一
李 雪連 氏
愛宕伸康
会員会社・部長昼食会
新オバマ政権の対外経済政策と日米関係
チャールズ・レイク 氏
会員会社・部長昼食会
変貌する東アジアと日本外交の課題
中西 寛 氏
≪希望と成長による地域創造研究会−「地域から考える成長戦略」研究分科会報告≫
14:00∼16:00 地域振興、主役は地域、成否のカギは人材―海外・国内の成功事例に学ぶ
岡本義行 氏・樋口一清 氏・中川雅之 氏・小峰隆夫
≪日経センター金融研究説明会≫
14:00∼15:30 Ⅰ.激戦アジアで勝ち抜く条件は
Ⅱ.社会貢献マネーの可能性を探る
増島雄樹
*詳細はホームページをご参照ください。*■は会員限定セミナーです。 ご希望のセミナーに○をしてください。
日
曜日
6
水
14:00∼15:30 新体制下の中国経済と今後の日米中関係
2 15
金
14:00∼15:30
25
月
14:00∼15:30 日経センター短期経済予測説明会
6
水
12:30∼14:00
3
参加希望
岩田一政・増島雄樹・服部哲也
OSAKA
月
セミナー名
庄田 隆 氏・ニーブズ・コンフェサー 氏・ラジブ・クマール 氏・近藤まり 氏
13
22
3
開催時間
開催時間
セミナー名
参加希望
瀬口清之 氏
≪日経センター「アジア研究」報告≫
ASEAN経済と企業戦略
牛山隆一
愛宕伸康
日経センター・大阪昼食会
事業化の視点から見たiPSテクノロジー
村山昇作 氏
≪日経センター研究説明会≫
第1部 金融研究説明会
15
金
15:00∼17:00
Ⅰ.激戦アジアで勝ち抜く条件は
Ⅱ.社会貢献マネーの可能性を探る
第2部 設立50周年記念研究 第1弾
為替安定と危機への備えを―成長につながる国際金融の枠組み
増島雄樹・服部哲也
2 •3月のセミナー参加申込
会 社 名
所属・役職
氏 名
TEL
*皆様の個人情報は上記セミナーに関する確認のほか、
日経センターの事業のみに使用いたします。
Mail
FAX
公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
http://www.jcer.or.jp
役 員
2010年(平成22年)4月1日(公益社団法人としての登記日) 事業
設立
開始 1963年12月23日
内外の財政、金融、経済、産業、経営等の諸問題に関する調
目的
査、研究を行い、あわせて会員相互の研修を図り、日本経済
の発展に寄与することを目的としています。
代表理事
会長
杉田 亮毅
代表理事
理事長
岩田 一政
理事
新井 淳一
槍田 松瑩
大田 弘子
喜多 恒雄
小峰 隆夫
長谷川 閑史
御手洗 冨士夫
吉川 洋
監事
田村 達也
本田 敬吉
上記の目的に沿って、主に次のような事業を展開しています。
事業
1
内外の財政、金融、経済、産業、経営等の諸問題に関する調査、研究
2
経済予測・分析・研修
3
セミナー・討論会・研究会等の開催
4
ライブラリー・情報サービス
5
研究奨励金の交付
普通会員、アカデミー会員(自治体、大学)、特別会員、名誉
会員
研究顧問
新井
大竹
小林
小峰
齋藤
竹中
西岡
名誉顧問
金森 久雄
香西 泰
会員で構成してい ます。
会費、寄付金などで運営しています。
運営
日本経済研究センター 直通電話番号
総務本部
研究本部
03(6256)7710
役員秘書 03(6256)7700
経理グループ 03(6256)7708
総務・広報グループ
事業本部
事 務 局
予測・研修グループ 03(6256)7730
研究開発グループ 03(6256)7740
国際・アジア研究グループ 03(6256)7750
茅場町支所
会員グループ 03(6256)7718
事業グループ 03(6256)7720
ライブラリー
淳一
文雄
光
隆夫
潤
平蔵
幸一
03(3639)2825
大阪支所 06(6946)4257
グローバル研究室 03(6256)7732
事務局長
金子 豊
事務局長補佐
兼総務本部長
石塚 慎司
事務局長補佐
兼事業本部長
村井 浩紀
研究本部長
猿山 純夫
大阪支所長
府川 浩
茅場町支所長
長坂 秀子
会報編集長
石塚 慎司
所在地
東京・大手町
茅場町支所 (ライブラリー) 大阪支所
〒100-8066
〒103-0025
〒540-8588
東京都千代田区大手町1-3-7
日本経済新聞社11階
東京都中央区日本橋茅場町2-6-1
日経茅場町別館2階
大阪府大阪市中央区大手前1-1-1
日本経済新聞社8階
JCER
検索する
www.jcer.or.jp
日本経済研究センターでは、経済予測
T E L: 03(6256)7710
FAX: 03(6256)7924
T E L: 03(3639)2825
FAX: 03(3639)2879
T E L: 06(6946)4257
FAX: 06(6947)5414
や研究レポート、会報などの情報を
ホームページで公開しています。
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