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クラウドファンディングを起業への架け橋に!

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クラウドファンディングを起業への架け橋に!
2013 年度
番外編③
公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2013 年 7 月 1 日公表
クラウドファンディングを起業への架け橋に!
~ワンコインから始まる経済活性化~
2013年度研究生クラウドファンディング班
1
<要旨>
低迷する日本経済を活性化するには、開業率の引き上げが必要とよく言われる。しかし、
起業する際の最大の障壁として資金調達問題(「死の谷」問題)が立ちはだかっているのが現
実だ。
最近では、新規事業に対する新たな資金供給手段として、インターネット上で事業者と資
金の出し手(個人)を直接つなぐ「クラウドファンディング」が注目されている。クラウド
ファンディングの最大のメリットは、事業の社会的貢献度や共感を判断基準とする個人が資
金の出し手となることで、自己資金や金融機関による融資だけでは実現しなかった事業にも、
実現の可能性が生まれるところにある。
すでに普及が進んでいる米英では、行政機関による資金調達手段としての活用や、エクイ
ティ型クラウドファンディングの利用およびそのための法整備などが進められている。わが
国においても、起業のための資金調達手段の多様化という観点から、クラウドファンディン
グをより一層普及させることが望ましい。そのためには、認知度や利便性の向上に向けた取
り組みを、官民挙げて推進していく必要がある。
【 はじめに ~テーマ選択の問題意識~ 】
2013 年 6 月 14 日、アベノミクス第 3 の矢である成長戦略の最終案「日本再興戦略」が閣
議決定された。そのなかで早期に取り組む必要がある施策の一つとして、民間の力を最大限
に引き出すための産業の新陳代謝とベンチャーの加速が謳われ、具体的な目標として開・廃
業率 10%台への引き上げが掲げられた 2。本稿では最近注目度が高まっている新たな資金調
達手段であるクラウドファンディングに着目し、開業率低迷の原因である資金調達問題の打
開策として有効か、その可能性を探ってみたい。
【 開業率低迷とその要因 】⇒プレゼン資料 1~5 頁

起業活動と経済水準
最初に、起業と経済成長の関係について考えてみよう。グローバル・アントレプレナーシ
ップ・モニター(GEM)の調査によると、起業活動の水準は国の発展段階に大きく依存し
1
西村敏(日本政策金融公庫国民生活事業本部)、北松円香(日本経済新聞社)、登地孝行(三井住友信託銀行)。
愛宕伸康(主任研究員)が監修。
2
開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率 10%台(現状約 5%)を目指す。中小企業白
書(2013 年版)によると、90 年代以降、全国規模で廃業率が開業率を上回る状態が続いている。
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経済百葉箱 番外編 2013.7.1
ている。すなわち、発展途上国では起業活動が非常に活発で、経済の発展とともに起業活動
は低下していく一方、先進国では起業活動が活発な国ほど一人当たりGDPの水準が高い。
現在、日本はU字型カーブのボトム近辺に位置しており、今後のさらなる成長のためには起
業活動の活発化が不可欠であることを示唆している。

起業の効果と起業時の障害
起業が経済に与える具体的な効果としては、
「雇用創出」と「イノベーション」が指摘され
る。すなわち、開業事業所の雇用創出効果は存続事業所よりも大きく、また、起業に際して
新しい技術や生産方式、商品やサービスなどのイノベーションが生まれている。
しかし、起業時における資金調達が大きな障壁となり、開業率を低下させているのが実態
だ。事業アイデアを実現するために自己資金では足りない場合、配偶者や親、親類といった
身内からの援助が考えられるが、それにも限界がある。制度金融などによる金融機関からの
調達も、成長性や持続性に関する起業ならではの高いリスクのため難しいケースが多い。ベ
ンチャーキャピタルやエンジェルなどの支援体制もあるが、リーマンショック以降、調達額
が減少している。このように、資金調達が壁となって優れた事業アイデアが埋没してしまう
問題を、「死の谷」問題と呼ぶ。
最近、起業に際して資金が必要なベンチャー企業や非営利団体などと、個人の資金を直接
結ぶ新しい資金調達方法として、クラウドファンディングが世界的な注目を浴びている。こ
のクラウドファンディングという仕組みを通じて、社会的貢献度や共感といった信用リスク
とは別の価値基準で供給される個人の小口資金が活用できれば、
「死の谷」問題の打開策とな
る可能性は十分あり得る。以下では、クラウドファンディングの現状について、具体的な事
例を紹介しながら整理する。
【 事業家と資金を結ぶクラウドファンディング 】⇒プレゼン資料 6~12 頁

昨年は調達 100 万件超、既存の調達手段を補完
クラウドファンディングを通じた資金調達はここ数年、米欧を中心に急速に増えており、
2012年における世界全体の調達額は前年比81%増、27億ドルに達している。件数ベースでも
すでに年間100万件を超え、金融機関による融資など既存の調達手段を補完する存在となりつ
つある 3。
このような急成長の背景には、資金決済を巡るインターネット技術の進歩がある。それに
よって個人を中心とした潜在的な小口資金の掘り起こしにつながっている。クラウドファン
ディングを通じて調達された資金は、途上国援助などの非営利事業や映画、ゲーム、音楽な
どの制作費、店舗の開設費、製品・商品開発費など幅広い分野で活用されている。一例を挙
げると、米短編映画”Inocente”は制作費の一部にあたる5万2,500ドルを、米国の代表的な
プラットフォーム Kickstarter で調達。同映画はその後、アカデミー賞短編ドキュメンタリ
ー賞を受賞している。
プロジェクト当たりの調達額は数十万円程度の小規模案件が中心だが、一部には多額の資
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Massolution, 2013CF The Crowdfunding Industry Report
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経済百葉箱 番外編 2013.7.1
金を集める事例も出てきている。例えば、スマートフォンに接続可能な腕時計を開発してい
る米ベンチャー企業Pebble Technology社では、昨年、ベンチャーキャピタルから資金が得ら
れなかったため、Kickstarterによる調達を画策 4。時計の予約購入という形で10万ドルを募
ったところ、目標金額の100倍に当たる1,026万ドルが調達できた。

ネットの特性を生かして共感を醸成する仕組み
クラウドファンディングは多くの情報を一度に更新したり、双方向でやり取りできるイン
ターネットの特性を生かした仕組みである。資金の受け手はプラットフォームに自分のプロ
ジェクトの概要、つまり資金の用途や資金提供に対する見返り、調達したい金額、資金提供
の形態(寄付、物品購入、融資、エクイティ)などを掲載し、期限を決めて資金を募る。資
金提供の最低額はプロジェクトによって違うが、少額のケースでは一口100円程度からに設定
するプロジェクトもある。
資金の出し手はプラットフォームに掲載されたプロジェクト情報を閲覧する。不明な点に
ついては質問を書き込んで随時確認することもできるため、プロジェクトの内容や趣旨を納
得のうえ資金提供できる仕組みとなっている。資金提供は、クレジットカードなどプラット
フォーム指定の手段で行われる。その後、資金の出し手に対して、感謝の気持ちを伝えるカ
ード、資金を使って生産された物品、配当などの見返りが贈られる。プラットフォームは、
ベンチャー企業による運営が一般的で、調達資金の一部を手数料として徴収する。
なお、資金の調達側と供給側が面識のないままネット上でやり取りするため、詐欺や実行
性の低いプロジェクトに資金が集まってしまうといったリスクもゼロではない。ただし、ク
ラウドファンディングにはこうしたリスクを抑える仕組みも備わっている。第一のポイント
はプラットフォームによる事前審査である。反社会的な内容ではないか、資金用途がはっき
りしているかなど、プラットフォームごとに審査基準を設けてプロジェクト情報を掲載する
前に審査している。万が一、犯罪行為などがあれば、ウェブサイトの評判低下に直結するた
め、厳格な審査が期待できる。
また、プラットフォームのプロジェクトページ上では、閲覧者からの質問への回答やプロ
ジェクトの進捗状況などの情報も更新される。これによりプロジェクトの運営がインターネ
ット上で多くの人の監視下に置かれることになるため、実行性の観点からも厳格な進捗管理
が期待できる 5。
なお、資金を募集したものの目標額に達しなかった場合、そのプロジェクトには資金が支
払われず、出し手に返還される”all-or-nothing”と呼ばれる仕組みを取るプラットフォー
ムが多い。この仕組みを通じて、多くの個人から共感が得られない(評価されない)プロジ
ェクトは排除されることになる。
 資金難のプロジェクトにもチャンス、マーケティング効果も
クラウドファンディングの最大の特徴は、資金の出し手である個人が、特定のプロジェク
4
Bloomberg 2012 年 4 月 17 日 Rejected by VCs, Pebble Watch Raises $3.8M on Kickstarter など各種報道。
http://go.bloomberg.com/tech-deals/2012-04-17-rejected-by-vcs-pebble-watch-raises-3-8m-on-kickstarter/
5 Wisdom of the Crowd と呼ばれる。
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トに対して、資金を提供するかどうかを直接判断する点にある。しかも、その判断基準は完
全に個人に任されており、リスクや収益性よりはむしろ、プロジェクトの趣旨や内容に如何
に共感できるかがポイントになる。したがって、リスクの高さや収益性の低さが理由となっ
て金融機関などから資金調達できなかったプロジェクトにも、実現するチャンスが与えられ
ることになる。
資金の出し手である個人がリスクに寛容になるのは、提供する資金が小口であるという点
も大きい。資金の出し手にとっては各自の資産額に応じて無理なく支援・投資ができるうえ、
損失が出たとしても痛手は小さくて済む。クラウドファンディングを通じる出資は、未公開
企業への投資であり、リスクが高くなるのが普通であるため、出資を少額に抑えることはリ
スク管理の観点から重要な意味を持つと考えられる。
クラウドファンディングには、資金調達面以外にも副次的なメリットがある。ウェブで情
報を開示し、支持を募るため、マーケティングにも資するという点だ。例えば、映画の制作
費に対し寄付をする個人の数は、公開時の集客の目安になる。
「自分が支援をした映画だ」と
いう思い入れから、さらに映画のファンになってくれるという効果も期待できる。
もっとも、小口の資金を積み上げて目標調達額を達成するというやり方は、資金を集める
側にとって非常に手間のかかるのも事実だ。友人や知人に支援を呼びかけたり、プラットフ
ォーム上で寄せられる質問に答えたりと、多くの出資者の支持を取り付けるためにはそれら
に丁寧に対応する必要がある。また、不特定多数の閲覧者に対して情報開示を行うという点
は、経営戦略や技術を公開したくない企業にとってはデメリットになる。

消費者向けや社会的意義があるプロジェクトが成功しやすい
以上のように、
「インターネットの活用」
、
「個人の小口資金」
、
「共感による資金提供」とい
ったクラウドファンディングの特徴は、ウェブ上で個人の理解を得られやすい魅力的なプロ
ジェクトにとって有利に働く。実際、資金調達に成功した案件を見ると、消費者向けにこだ
わりの商品を生産する目的であるとか、社会的意義があるということをわかりやすく強調し
たプロジェクトが目立つ。
ただ、小口資金を積み上げて目標調達額を確保する手法であるため、小規模プロジェクト
向きであることは間違いない。エクイティの形態で資金を募る場合は、寄付や購入より規模
が大きくなる傾向があるが、それでもプロジェクト当たり 5 万ドルから 10 万ドルの調達とい
う例がもっとも多い 6。
【 海外の制度と普及状況 】⇒プレゼン資料 13~15 頁
クラウドファンディング市場の 95%以上を占める北米と欧州では 7、日本に比べて環境整備
が進み、利用範囲も拡大している。そこで、特にクラウドファンディングの普及が進んでい
る米国と英国を取り上げ、普及した背景を考察する。
6
7
Massolution, Crowdfunding Industry Report (May 2012)
Massolution, 2013CF The Crowdfunding Industry Report
http://www.jcer.or.jp/
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日本経済研究センター
経済百葉箱 番外編 2013.7.1
 米国では
2000 年初めに音楽のためのクラウドファンディングプラットフォームが立ち上がり、寄付
文化が浸透していることも手伝って、市場の拡大が進んだ。2012 年 4 月には新規事業活性化
のためのJOBS法においてエクイティ型クラウドファンディングが法制化された 8。
民間事業だけでなく地方公共団体の資金調達でも、クラウドファンディングが活用され始
めている。これまでにボストン、タンパ、フィラデルフィア、ユージーン等が、公共プロジ
ェクトの資金調達に成功している。
また行政による市民のプロジェクト支援も盛んである。ニューヨーク市議会はプラットフ
ォームの Kickstarter と提携して、ニューヨーク市内の低所得地域を対象とするプロジェク
トの紹介ページを特設している。
 英国では
2001 年に NPO を支援する寄付型プラットフォームが立ち上がった。2011 年にはエクイティ
型プラットフォームも誕生している。
2013 年 2 月には、金融サービス機構がエクイティ型クラウドファンディング・プラットフ
ォームを、financial service firmとして認定。同認定を受けると、プラットフォームが仮
に倒産した場合でも、1 人につき 5 万ポンドまでの補償が受けられる 9。現在、エクイティ型
クラウドファンディングからベンチャーキャピタルに引けを取らない金額が資金調達されて
いる 10。
このように、米国・英国のクラウドファンディングの利用状況を見ると、それぞれに日本
にはない特徴があることが分かる。具体的には、米国では「行政の資金調達としての利用」、
英国では「エクイティ型クラウドファンディングの利用とそのための法整備」である。以下
では、この 2 点を踏まえて日本の普及に向けた施策を提言したい。
【 提言 】プレゼン資料 16~19 貢
①認知度向上のための行政機関の利用
クラウドファンディングはインターネットを前提とした新しい資金調達の方法であるため、
事業家や投資家の認知度は低いのが現状である。日本でも米国のように行政体が積極的に活
用することで、クラウドファンディングの認知度や信用度を高めることが期待できる。
現在、日本では行政体が資金調達の主体となった例はないが、夕張市は市民等から自主的
プロジェクト推進の相談に対してクラウドファンディング事業者を紹介している。また情報
発信への応援として、夕張市ホームページへのプロジェクトページのバナー掲載や夕張市公
8
「Jumpstart Our Business Startup Act(通称 JOBS 法)
」クラウドファンディング関連部分は未施行。
金融サービス補償制度(Financial Services Compensation Scheme)による補償
10
プレゼン資料 15 貢参照
9
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日本経済研究センター
経済百葉箱 番外編 2013.7.1
式ツイッターによるツイートも実施している。このようなプロジェクト支援でも利用者の拡
大を図ることができる。実際、夕張市が支援した平和運動公園整備プロジェクトは 114 人か
ら約 150 万円を集めることに成功している。
②利便性向上のための法整備
現在、日本では、寄付型、購入型の取扱いが中心であり、エクイティ型での資本調達はさ
れていない 。一方、米欧ではエクイティ型プラットフォームの規制緩和や、投資家保護ルー
ルの制定により、クラウドファンディングが一層普及している。
日本と米欧では、投資に対する姿勢や株式市場における投資家の厚みが異なるため、全く
同様の制度を日本に導入しても有効ではないかもしれない。しかし、資金供給源の多様化は
共通の課題である。事業家が資金調達の手段として積極的に活用でき、投資家の利便性の向
上につながるような法整備を早急に進めることが望まれる。
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