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郵政事業を仕分けする - 日本経済研究センター

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郵政事業を仕分けする - 日本経済研究センター
公益社団法人 日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2010年10月29日公表
<<番外編・研修リポート>>
郵政事業を仕分けする
― 高齢化社会を踏まえ、既存ネットワークを活用した行政サービス拠点として存続を ―
1
2010年度研究生
講師からの課題とその問題意識
課題:郵政事業の将来像をどう描くか
問題意識:近年において、政治エネルギーのけん引役の一つを担ってきたのは、間違いなく郵政民
営化の是非である。郵政選挙での自民党の大勝と郵政民営化に向けたスタートから僅か数年で、大
元の自民党で懐疑的見方がまず台頭、続いて郵政民営化反対を掲げた現与党が、総選挙で圧勝し、
民営化路線にストップが掛かった。国民はまたしても「熱しやすく冷めやすい」ことを証明、今で
は郵政問題が国民の強い関心事であるとも思えない。これでいいのだろうか。実は、郵政問題は眼
には見えにくいが、国民が自身の課題として考えるべき重要なテーマである。論点も多岐に亘り、
難しいテーマではあるが、若い世代がどのように捉え改革案を考えるか楽しみにしている。
▼ ポイント ▼
9
郵政改革にこそ「事業仕分け」の手法を活用し、公開かつ国民参加型で検討を
9
郵便をコア事業とし、利用者の利便性に資する事業を存続させてはどうか
9
ワンストップ・サービス提供の観点で金融事業も存続可。ただし、規模は縮小の方向が妥当
[
我々の提言]
2017年
までに
全株式
売却
政府
1/3超 保有
日本郵政
郵便局
かんぽ生命
郵便事業
ゆうちょ銀行
第三の道
全株保有
政府
1/3超 保有
日本郵政
郵便局・郵便事業
1/3超 保有
かんぽ生命
ゆうちょ銀行
[
郵政改革法案]
かんぽ生命
郵便事業
郵便局
ゆうちょ銀行
全株保有
日本郵政
かんぽ生命
全株保有
日本郵政
郵便事業
政府
1/3超 保有
ゆうちょ銀行
<現状>
政府
郵便局
[
小泉郵政民営化]
図表 1 郵政改革の概要と我々の提言
株式については
段階的に売却
◇既存郵便局ネットワークの活用
◇高齢化社会への対応
ワンストップサービス提供拠点
○郵政三事業
○行政サービス
○各種サービス
(買い物難民対策等・・・etc)
1
本稿は石原 淳、勝田 秀樹、竹村 裕一郎が執筆・分析に当たった。講師は竹内 淳一郎(短期予測
班主査)。
http://www.jcer.or.jp/
日本経済研究センター
経済百葉箱 番外編 2010.10.29
3
【 はじめに~郵政改革の経緯~ 】
案」を国会に上程した 。その概要は、下記の
とおり。
(郵政改革の経緯と現状)
明治・大正期以来の官業であった郵政事業は、
図表 3 郵政改革関連 3 法案の主な内容
2007 年 10 月 1 日に、持株会社を含む 5 社に分
・5 社体制(=1 持株会社+4 事業会社)から 3
社体制への機構改編
--- 日本郵政株式会社を存続会社として、郵便事
業および郵便局株式会社を合併(11 年 10 月初)。
割され、民営化に向けスタートした。既定路線
では、その後、①政府が持株会社に対する株式
保有比率を早期に引き下げるとともに、②持株
会社と「ゆうちょ銀行」
、
「かんぽ生命」の金融
・政府は日本郵政の議決権の 1/3 超を保有
--- 郵政民営化法と変わらず。
2 社との資本関係を最大 10 年で解消すること
を予定し、後者をもって、郵政民営化の完成形
・郵貯および簡保事業への政府関与の維持
--- 17 年 9 月末までに金融 2 社(ゆうちょ銀、か
んぽ生命)の全株式を売却するとの決定事項を
破棄。日本郵政は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命
4
の議決権の 1/3 超を引き続き保有
としていた。
図表 2 郵政民営化を巡るこれまでの経緯
時
期
05/9 月
10 月
イベント
郵政民営化関連法成立
07/10 月
日本郵政グループが発足
09/ 9 月
第 45 回衆議院選挙で政権交代
10 月
「郵政改革の基本方針」を閣議決定
12 月
株式売却凍結法成立
10/ 4 月
・郵便局での一元的サービスの実施、金融に関
するユニバーサル・サービス確保の明確化
--- 当該会社は、郵便業務、銀行業務、保険業務
を郵便局において一体的にかつ全国あまねく公
平に利用できるようにする責務を有する
第 44 回衆議院選挙で自民党大勝
・金融事業の新規業務参入に関する届出
--- 当面の間、総務大臣への届出を必要とする
5
が、政府の関与が低下した場合 、不要とする。
政府・与党、民営化を見直す郵政改
革法案を通常国会に提出
6月
同法案は審議未了で廃案
7月
ゆうパックとペリカン便が統合
・地域社会への貢献に資するサービス提供
--- 郵便局を活用して、地域住民の利便の増進に
資する業務などを届出により行うことができる
6
(資料)各種資料を基に筆者作成 。
(資料)各種資料を基に筆者作成。
なお、政府は併せて、ゆうちょ銀行の預入限
しかしながら、09 年 9 月に誕生した新政権
度額を現行の 2 倍(1000 万⇒2000 万円)、かん
(当時は、民主党・社民党・国民新党による連
ぽ生命の加入限度額についても 2 倍弱(1300
立政権)は、マニフェストに沿って、早々に郵
万円⇒2500 万円)に、それぞれ引き上げる方
政株式の売却停止を決定し、12 月には関連法
2
案(「株式売却凍結法」)を成立させた 。
3
続いて、10 年 4 月には「郵政改革関連 3 法
2
日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険
会社の株式の処分の停止等に関する法律。同法律
では、①政府に対し、日本郵政株の処分を禁止す
ること、②日本郵政株式会社に対し、郵便貯金銀
行及び郵便保険会社の株式処分を禁止すること、
などを定めている。また、政府に対しては、株式
の他に、かんぽの宿やメルパルクなど日本郵政が
公社時代から所有する不動産についても、郵政民
営化の見直し方針が決まるまで、外部への売却を
凍結することが盛り込まれている。
関連 3 法案は、①郵政改革法案、②日本郵政株
式会社法案および③郵政改革法及び日本郵政株
式会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関す
る法律案、から構成される。
4
法律では関連銀行、関連保険会社の議決権を
1/3 超保有すると規定している。
5
政府が保有する日本郵政の議決権が 1/2 以下か
つ、日本郵政が保有する金融 2 社の議決権が 1/2
以下まで低下した場合。
6
中でも、橋本賢治「郵政事業の抜本的見直しに
向けて~郵政改革関連 3 法案~」
(参議院『立法
と調査』No.305、2010 年)は、参考にした。
http://www.jcer.or.jp/
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経済百葉箱 番外編 2010.10.29
7
共有財産として既に存在しているという点、お
針を決めた 。
同法案は、6 月に通常国会が閉会となったこ
よび急速に進む高齢化という日本社会が直面
とで廃案となった。その後の 7 月の参議院選挙
する課題を常に念頭に置く必要がある、という
で、民主党は過半数の議席を失ったが、国民新
2 点である。
党との連立政権を維持し、両党は「郵政改革法
無論、結論については、賛否両論あろうが、
案」についても「速やかな成立で合意」してい
何がしかこの「問題」を多くの人が考える契機
る(これには社民党、新党日本も賛成に回る意
となれば、それだけでも十分意義あることだと
向を示している)。ただ、「ねじれ国会」では、
考えている。
政権運営上、部分連合を志向せざるを得ず、野
【 郵政再構築の視点~事業仕分け~ 】
党の反対が根強い「郵政改革法案」の取り扱い
(事業仕分けの手法)
には、なお不透明な要素が少なくない。
民主党中心の政権が発足し、1 年余りが経過
既述のとおり、05 年の郵政選挙を経て、07
年 10 月に郵政民営化がスタート。早いもので、
した。様々な評価はあろうが、「事業仕分け」
それから 3 年経過し、相応に国民生活の中で、
という手法を導入し、行政ないし独立行政法人
受け入れられている。こうした中、既存の民営
などの無駄や非効率に切り込んでいることへ
化路線は見直しの方向に向かおうとしている。
の評価は、少なくとも世論ベースでは高い。長
有形無形のコストを掛けてきたことを思えば、
く自民党政権が持続する過程で、行政には、惰
一体どうなっているのかと思わざるを得ない。
性的に続けられたり、規模拡大が自己目的化す
る部分があったことも、事実であろう。
(本稿の問題意識と狙い)
郵政グループが手掛けているないし手掛け
郵政改革は、
「郵便局」自体は身近な一方で、
ようとしている事業についても、本来的には
その「問題」が、多くの国民にとってピンとこ
「事業仕分け」が行われてしかるべきように思
ないことが、厄介な点である。そこで、我々研
う。詳細には難しいが、以下では、我々なりに
究生は、この段階で改めて郵政「問題」を平易
事業仕分けをしてみたい。仕分けに当たっては、
に整理し、そこから導き出される改革の方向性
行政刷新会議で採用された視点に沿って、判断
を論じることに意義があると考えた。換言すれ
することを基本としている。
ば、郵政問題を「政治対立」の問題として「眺
める」のではなく、いま少し一人ひとりが自身
図表 4 事業仕分けの際の視点
の問題として、考えるべきではないかと思って
いる。
9
事業目的の妥当性、財政資金投入の必要性
後述のように、我々は、自公政権時代に推し
9
事業の手段としての有効性、効率性
進められた郵政民営化には、幾つかの問題点が
9
他の事業に比べた緊要性
あると考えている。ただ、現政権の郵政改革の
9
民間での事業可能性
方向性は、その問題点をより深刻化させるので
9
国民や地公体の負担軽減の方策の有無
はないかとも懸念している。講師からは、荒削
(資料)各種資料を基に筆者作成。
りでも、批判だけでなく対案(提言)を出すよ
う求められた。そこで、本稿の後半部分では幾
つか提言している。その際、特に重視したのは、
地域に根差した郵便局ネットワークが国民の
上記視点(図表4)のうち、民間での事業可
能性については、付言しておく必要があろう。
「視点の例」として、政府の資料では、「事業
性を有するもの、民間の参入を阻害しているも
の、国が一定の関与を行うことで民間が実施可
7
政府提出法案では、同種の業務を行う事業者と
の競争条件の公平性等を勘案し、政令で定めるこ
と、と規定されている。
能なものは民間において実施できないか」(第
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7 回行政刷新会議で了承された「事業仕分けの
「ゆうちょ銀行」、
「かんぽ生命」の預入および
対象事業の選定の考え方」)と記されている。
加入限度額の引き上げ―には、違和感を覚える。
郵便事業をユニバーサルに提供するために生
(各事業の仕分け結果)
じる赤字を、金融事業の収益強化を通じた黒字
さて、日本郵政は数多くの事業を手掛けてい
で埋めるという発想は、一見正しいかもしれな
るが、その主な事業をピックアップし、上述の
い。しかしながら、①金融 2 事業が思惑通り黒
「事業仕分けの視点」を基に、整理していきた
字を出し続ける保証はないほか、②日本郵政内
い。
部でのコスト削減、効率化意欲を殺いでしまう。
(1)「郵便事業」
効率化を進めた上で、ユニバーサル業務を続け
郵便事業と言った場合、信書の集配、配達が
る限りにおいて、赤字は避けられないのであれ
コア業務として位置付けられる。信書の配達に
ば、それは別途国民が負担すればよく、金融事
ついては、日本郵政が独占的に担っており、同
業で補填するのは、好ましくない。①受益者負
時に万国郵便条約(国際法)で過疎地も含めた
担の観点で切手代を引き上げるという方策も
一律サービス(ユニバーサル業務)の提供が義
あれば、②赤字を容認し、歳出で補填するとい
務付けられている。信書に加え、時代の変遷と
うことも、論理上、あり得る。
ともに、小包や国際郵便、最近ではロジスティ
なお、国民の理解を得るに当たって、「郵政
クスといった業務まで多角化が進んでいる。こ
改革法案」でうたわれている非正規社員の正社
れら業務は、民間事業者も参入しており、競合
員化については、どう考えるか。同一労働・同
関係にある。
一賃金を国が関与する組織において、率先して
まず、信書については、国民生活において郵
行うということ自体は、正規・非正規雇用問題
便局が信書業務を担うことの定着感は大きい。
に一石を投じるものであり、亀井前担当大臣の
時代とともに、再考の余地を否定すべきではな
リーダーシップなしには、実現しなかったであ
いが、現時点で独占の問題を正面から取り上げ
ることは生産的でない。信書独占の可否とは別
ろう 。理念がそうであっても、では、教育現
場を含めた他の一般公務員における非正規問
個に、既に代替手段(インターネットや FAX
題を「黙認」することとの整理をどのように考
など)も発達している。よって、現状追認が現
えるか。また、結果として、人件費が上昇すれ
実的対応と思われる。ただ、留意すべきことは、
ば、赤字額が増えることになる。その場合、料
事業仕分けの基準の一つにある効率性の問題
金値上げという手段への理解は得られるだろ
との兼ね合いだ。
うか。難しいであろう。だからといって、金融
8
郵便事業は、かねて赤字である。赤字自体を
2 事業で補填するという発想は、やはり是認し
問題にするのであれば、方策は 2 つ考えられる。
難い。郵政改革の陰には隠れているが、この問
第一は、民間会社に事業を委ね、赤字からの脱
題も見逃せない。
却を目指すか、第二は、赤字自体を許容し、同
信書以外の業務については、利用者の利便性
時にその削減に日本郵政自体が取組むことで
が優先されるべきと考えられる。「手紙」の投
ある。第一は、「信書は歴史的に公務員(=み
函のついでに、プレゼントを小包で送ることは、
なし公務員を含む)に扱われなければ不安だ」
自然な行為でもある。「手紙」は取り扱うが、
という感覚が、仮に国民の間で強いのであれば、
小包は受け付けませんというような対応では、
選択し得ない。果たして、どうであろうか。第
利用者が不便を被る。よって、小包や国際郵便
二のように、日本郵政が継続して取り組むとし
ても、赤字削減に向けた不断の努力が必要であ
8
日本郵政のホームページによると、グループ会
社全体で正社員登用にかかる一次審査受験者は
33,279 人(郵便事業で 27,811 人)で、合格者は
13,464 人(同 11,141 人)となっている。
ろう。
こうした観点で見ると、民主党の改革方針―
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については、民業圧迫といった議論ではなく、
産・負債の総合管理)の観点からみて、現在の
引き続き事業継続可という判断をした。
ビジネスモデル(=定額郵貯で資金を集め、国
債に運用)の維持は難しいという算段があった
9
なお、ロジスティクス事業については 、個
人の利便性という観点からの整理がつきにく
10
ように思われる 。
ただ、現状を見ると、これまで国の看板の下
く、廃止が適当と考える。
で資金を集めてきた銀行や保険部門が巨大な
図表 5 郵便事業の仕分け結果
信書事業
資産規模を保有したまま、民間分野に漸次、参
入している。言わば、「クジラを池に放つよう
条件付きの独占的供給の継続
--- 単体での収益性確保か料金
引き上げ。
なもの」であり、民間金融機関の業容を圧迫す
る危険性をはらんでいる(図表 6)。また、
「郵
政改革法案」は赤字体質の郵便事業への収益補
小包、国際
郵便
信書事業の付随業務として、利
用者の利便性上、存続が妥当。
填を企図して、ただでさえ巨大な「ゆうちょ銀
ロジスティ
クス事業
「集中と選択」の観点から廃止
額の引き上げを想定している。これら金融 2
行」の預入限度額、「かんぽ生命」の加入限度
社の資金運用の 8 割以上が国債に偏っている
ことを踏まえると、郵政マネーの膨張は国債の
(2)「銀行業」、「生命保険業」
受皿化をいっそう進展させ、それでなくとも緩
ナイーブな問題であることは、間違いない。
みつつある財政規律が失われかねないとの懸
念を生じさせる(図表 7)。
貯金事業や生命保険事業の「生い立ち」は、国
民にあまねく少額貯蓄や簡易な保険機能を提
規模が大きく、国債を大量に保有していると
供するということであった。現代において、そ
いう厳然たる事実からみて、ある程度の期間を
の機能は多様な民間金融機関が担い得る。よっ
かけながら規模の縮小を図るという考えに落
て、「その役割を終えた」として、事業廃止と
ち着く。定額郵貯の満期到来の都度、再預入を
いう結論もあり得る。その場合の具体的なプロ
認めず、民間金融機関への流出を促す。あくま
セスは想像の域を超えないが、新規契約や預け
でも、郵貯は、小額の決済サービスを提供する
入れを中止し、一定の規模に縮小した段階で、
という基本理念に立ち返ることが望ましい。そ
民間に保険契約を移管したり、貯金を払い戻し
の場合、経営形態は郵政改革法で定めたように、
たりすること、になるのだろうか。ただ、その
国の一定の関与を認めても構わない。
流動性確保のためには、多額の国債を換金売り
郵便局は、地方圏を中心に根付いている。郵
することになる。現実的なプロセスでもないよ
便事業との補完性を維持することは、利用者の
うに思える。
利便性維持・向上につながる。高齢者社会の到
小泉政権が進めた郵政民営化の姿は、①民間
来を迎え、ワンストップ・サービスへのニーズ
とのイコール・フッティングの確保、②政府と
は地方圏を中心に強い。仕送りや現金書留、弔
の資本関係の排除であった。よって、民営化に
電なんでもよいが、日常生活において、郵便局
向け歩を進め、例えば、分割化といった強制的
でおカネの出し入れが出来ることが望ましい。
な規模縮小という措置を講じることはなかっ
10
た。完全な民間金融機関となれば、ALM(資
NTT や JR のような地域分割による規模縮小
を講じなかったのは何故か。分割民営化は銀行・
保険それぞれに問題点があり、銀行業では貸出ノ
ウハウがないため分割後収益をあげるのが難し
く、保険業では大数の法則が働かなくなってしま
うことが懸念されたように思われる。また、運用
を行う際の規模のメリットを失ってしまうとい
う問題も生じる。
9
日本郵政グループのディスクロージャー誌に
よると、企業からの委託を受け、当該企業に最適
な物流戦略の設計、構築から運用までを一体的に
行う 3PL(サードパーティロジスティクス)サー
ビスおよび物流改善に向けてのコンサルティン
グサービスを提供するとなっている。
http://www.jcer.or.jp/
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(3)その他事業
以上のように、民間で代替できるから廃止と
いうのではなく、国の関与を残したまま、従た
る業務として存続させるという姿を展望する。
規模の問題を解消する観点から、設立の経緯に
い得ると判断した。PFI 方式ないしは完全民営
いう路線が望ましい。これは、生い立ちという
化を図り、当該事業から撤退を図る。地域医療
面だけでなく、かつて民主党がマニフェストで
で受け手がない場合には、この限りではない。
掲げたという面からも、
「原点回帰」を意味す
人材派遣業・ミュージック業については、公
る。すなわち、民主党が 05 年に提出した旧「郵
的に行う意義に乏しく廃止とする。
政改革法案」では、「郵貯限度額は 500 万円に
縮小」、
「簡保は廃止し、民営化」との主張を行
【 郵政事業の未来像
っていた。
】
(郵便業務をコアとする行政サービス拠点)
図表 8 郵貯、簡保事業の仕分け結果
簡保事業
宿)については、コア業務である郵便事業との
補完関係が薄い。また、何れの事業も民間で行
立ち返り、預入限度額や保険金額の規模縮小と
郵貯事業
病院事業(逓信病院)・宿泊事業(かんぽの
次に、以上のような郵政事業の仕分け結果が
描く将来像について、整理を試みる。我々は、
預入限度額の引き下げを前提
に、国の一定の関与の下での事
業継続
郵便局のコア業務として、郵便業務をユニバー
サル業務として行うことを考えている。その上
で、利用者の利便性に資する付随業務は、その
保険金額の引き下げを前提に
上記と同じ
限りにおいて、収益性を確保した上で認めるべ
きと考える。そして、今後は郵便局店舗網を再
編しつつ、行政サービス・その他各種サービス
以上が我々の提言であるが、当然否定的な意
見もあるだろう。特に、
「郵便貯金」
「簡易保険」
の規模を縮小し、「郵便事業」においてユニバ
の提供インフラとして、既存ネットワークをフ
ル活用することが重要であると考えた。以下で
は既存ネットワークの利用法について探って
ーサルサービスを提供した際に、採算を確保す
いきたい。
ることは難しいとの批判が予想される。郵政改
革法案では、郵便事業の赤字に対処するため、
図表 9 は、既存ネットワーク活用の可能性を
「郵便貯金」
「簡易保険」の限度額を拡大し、
「地域密着サービスの提供継続・拡大」、
「郵政
収益性を確保し、事業を維持することが掲げら
三事業」に分けて図示したものである。
まず、
「地域密着サービスの提供継続・拡大」
れているが、公的金融の量的拡大による市場メ
カニズムへの弊害や、収益確保は国債金利が安
について考えてみたい。図表 10 は、全国の市
定していることが前提であり、国債金利の暴騰
町村長を対象に行われた「郵便局を利用した行
による損失リスクが内在していることを勘案
政サービスの業務委託に関するアンケート」結
すると、問題をさらに肥大化させるものではな
果である。「各種証明書交付」、「生活支援・訪
いだろうか。また、各種施策において、デメリ
問」といった各項目において、
「有効」
「どちら
ットがゼロとなる施策は存在せず、必ずデメリ
かといえば有効」と回答した割合は概ね 50%
ットが混在している。トータルコストを勘案す
を超えている。「どちらとも言えない」という
ることが一番重要であるにもかかわらず、その
消極的な賛成を加えると実に、約 80%に達し
前提となる各種収支シミュレーション等を可
ている。このように、地方自治体側の郵便局利
能とする、十分な情報開示がなされていないこ
用ニーズは高いように窺われる。また、証明書
とはやはり問題である。まずは、議論の前提と
交付事務等に関しては、一部において郵便局に
なる各種経営情報の開示と、各種施策の数値シ
おいて既に行われている業務であり、取扱郵便
ミュレーションの提示が必要ではないだろう
局の拡大等が望まれる。
か。
次に、行政サービス以外の地域生活インフラ
http://www.jcer.or.jp/
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経済百葉箱 番外編 2010.10.29
としての郵便局の可能性について言及する。図
程度、現実を踏まえた妥協案かもしれない。小
表 11 は、
「人口減少・高齢化の進んだ集落を対
額貯蓄・少額保険についても、国の関与を続け
象とした日常生活に関するアンケート」、
「生活
る限りにおいて、現行の 1000 万円、1300 万円
の上で困っていることに関する質問」の回答で
を上限とし、有識者で議論し、落としどころを
ある。これによると、「近くで食料や日用品を
探るべきように思う。
買えないこと」が第 3 位となっている。高齢化
図表 12 郵貯預け金、簡保保険金額の上限
社会の進展に伴い、身近な商店が消失し、自動
時期
車を持たない高齢者らが自宅近隣で生活必需
1965年
1972年
1973年
1974年
1986年
1988年
1992年
品などを買えなくなる問題(いわゆる「買い物
難民」問題)が深刻化し始めている。この買い
物難民への対応として、郵便局ネットワークの
活用が考えられるのではないだろうか。具体的
には、①郵便局へのネットスーパー端末機設置
(及び操作サポート)、②郵便配達との連携に
よる個別宅配サービス、③郵便局での生鮮食品
の取扱い等が考えられる。提供サービスについ
郵貯
100万円
↓
300万円
↓
↓
500万円
1,000万円
簡保
100万円
300万円
↓
500万円
1,300万円
↓
↓
(おわりに)
ては、地域ごとにニーズが異なるため、各地域
例えば都区部に住む現役世代で、郵便局にど
で提供サービスの取捨選択を行い進めてはど
の程度足を運ぶ機会があるであろうか。資金ニ
うか。
ーズは、民間金融機関で用が足りる。若い世代
また、高齢化社会への対応において重要な医
では、ネットバンキングやコンビニでの資金引
療・介護・福祉分野との連携については、類似
き出しにも抵抗が薄い。切手についても、そも
既存提供サービスである「ひまわりサービス」
そも手紙や葉書を書く回数が激減しているた
11
の継続と 、訪問介護等、各種サービスの拡充
が考えられる。
め、必要性が薄い。したがって、郵貯の経営形
拡充する各種提供サービスによる収益確保と、
状維持であろうが、あまり自身の問題としての
態がどうなろうと、預入限度額が増えようが現
切迫感がない
郵政三事業の費用削減により、相応の収益を確
保することが理想ではあるが、仮に赤字になった
一方で、地方圏かつ高齢者にとっては、身近
場合の費用に関しては、高齢化社会に対応する
な存在であろう。年金の振込先であるケースも
ためのワンストップ・サービス提供のためのコストと
多いほか、子や孫への贈り物、仕送りなどで利
認識することになろう。
用するケースも多いと想像される。よって、簡
(郵便業務に付随する業務としての金融 2 業)
既述のとおり、
「郵便貯金」
「簡易保険」につ
易郵便局が閉鎖になれば、局地的には不利益は
大きい。
我々は、金融 2 業の民業圧迫の程度、財政再
いては、利用者の利便性維持を根拠とし、少額
建の必要性(=株式売却収入)、都市圏と地方
貯蓄・少額保険という制度設立趣旨に原点回帰
圏の格差、高齢化社会のニーズなど多様な論点
することが望ましい。
を同時解決する案を捻り出せなかったとの思
以上の方針案は、「べき論」ではなく、ある
いが強い。「白地に絵を描く」ことが出来ない
以上、現状からの延長戦でしか解決策は生まれ
11
地方自治体、社会福祉協議会などと協力して、
過疎地域の高齢者の方を対象に、「ひまわりサー
ビス」として、外務社員による励ましの声かけ、
郵便物などの集荷サービス、小学生などからの定
期的な励ましメッセージのお届けおよび生活用
品などの注文受付・配達を行っている。
ない。積年のこの問題を、より多くの人が関心
を有し、議論に参画することの重要性を最後に
指摘しておきたい。
以
上
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日本経済研究センター
経済百葉箱 番外編 2010.10.29
<講師の評価>☆☆☆*
う。
<講師のコメント>
「公共サービスを提供する上で貯金口座は欠
かせない決済手段である。(中略)それ故、今
後は貯金・保険業務などを現状規模で凍結す
ることが望ましい。(中略)その上で、国民共
有の財産である郵便局の持つ人的にも物質的
にも良質な社会的ネットワークを地域のふれ
あいの場、住民票の交付等各種公共サービス
を提供する最前線の機関として活かしていく
べきではあるまいか。折しも、先日、体の不
自由な方に対する年金・恩給無料郵送サービ
ス構想が郵政省から発表された。これこそ、
最終的には営利を追求することを使命とする
民間では提供が難しいサービスであり、今後
郵便局が目指す方向ではないか」。
・ 本稿は、今年度 4 班の中で、最も講師への
提出が早かった。公表が遅れたのは、ひとえ
に講師の読みが外れたことにある。というの
も、選挙を控えていたこともあり、民主党が
掲げた郵政改革法の行方が見えるまで、
「寝か
せておく」ことが望ましいと考えた。もっと
も、現時点で郵政改革法の再提出の方向性は
見えていても、可決成立はなお不確かな面が
多い。いつまでも待ってはいられないため、
この段階で、基礎研修の成果を公表すること
とした。
・テーマ設定にやや失敗したというのも、偽
らざる印象である。というのも、流石に論点
が奥深く、ちょっとやそっとでは事実の把握、
論点の切り口を網羅することが難しい。メン
バーは 3 名で、他の班が 4 名であることとの
対比でもハンディキャップが大きかった。
・そうした中でも、現状整理、改革の方向性
の軸―地域に根差した郵便局ネットワークが
国民の共有財産として既に存在しているとい
う点、および急速に進む高齢化という日本社
会が直面する課題に郵便局のネットワークを
活用するという視点―を示したことは評価し
たい。詰めの甘さをお感じであれば、指導し
た当方にその責任がある。
・この問題、奥深いし「古くて新しい」と言
うのが率直な印象である。また、同時に規制
緩和や競争原理のもたらす負の側面が強調さ
れやすい風潮を憂う。かつて、固定電話料金
で数万円支払っていた領収証が先の古びた論
文とともに見つかった。携帯電話の料金と比
べれば、まさに隔世の感がある。いずれにせ
よ、郵政改革の問題は、決して人事(ひとご
と)ではない。
・郵貯、簡保の問題について、読者は歯切れ
が悪く聞こえたことであろう。ただ、筆者な
りの整理では、外交や税制改革、財政再建、
労働市場改革と他に優先すべき課題が少なく
ない。郵政問題で他の案件
が前に進まないことのデ
メリットが大きい。であれ
ば、現状維持とし、次世代
に解決を委ねるのも、政治
の知恵のような気がする
とさえ、思っている。
・筆者は、日本銀行入行 2 年目(=90 年)に
行内の懸賞論文に応募した。その際のタイト
ルが「21 世紀の郵便局」であった。運良く、
佳作に選ばれた記憶がある。押入れの奥にあ
るダンボール箱をひっくり返したところ、ワ
ープロ用紙 B5 判のエッセイが見つかった。恥
ずかしさを省みず、結論部分を転記しておこ
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日本経済研究センター
経済百葉箱 番外編 2010.10.29
図表 6 ゆうちょ銀行預金残高及びかんぽ生命資産残高の民間比較(2008 年度末)
250
(兆円)
120
(兆円)
100
200
80
150
231
100
60
106
207
177
40
117
50
46
20
57
35
17
0
ゆうちょ メガバンク地方銀行 第二地銀 信託銀行 信用金庫 信用組合
銀行
3行
64行
42行
(資料)全国銀行協会資料
30
24
22
0
かんぽ生命 日本生命 第一生命 明治安田 住友生命
生命
(資料)生命保険協会協会資料
図表 7 ゆうちょ銀行の国債保有高(左)及び資産残高の構成比(右)
180
160
(兆円)
発行済国債に占めるシェア(右目盛)
23.0%
21.8%
その他
20.0%
17.2%
14.7%
15.7%
15.0%
100
80
60
40
25.0%
20.3%
18.7%
140
120
23.0%
73
86
107
136
125
157
155
159
ゆうちょ銀行
国債保有割合 80%
(H22.3月末)
10.0%
5.0%
<参考>
20% 25% 12%
20
0
2002 2003 2004 2005
0.0%
2006 2007 2008 2009 (年度)
三菱東京UFJ
(H22.3月末)
みずほ
(H22.3月末)
三井住友
(H22.3月末)
(資料)ゆうちょ銀行ディスクロージャー資料等
(資料・注)各種銀行財務資料、いずれも連結
図表 9 今後の郵政サービスのイメージ
<地域密着型サービス
の提供継続・拡大>
買い物難民対策
買い物難民対策の拠点として活用。
行政サービス
地方公共団体との連携
強化。
証明書発行事務等の
実施・拡大。
<郵政三事業>
郵便貯金
少額貯蓄の手段として
の貯金サービス等を提
供する役割。
限度額200万円に縮小。
ネットスーパー端末の設置や個別宅
配サービスの実施。
既存郵便局
ネットワークを
地域住民への
サービス提供拠点に!
郵便事業
現状サービスの維持、郵便のユ
ニバーサルサービス提供を確約
ひまわりサービス
医療・介護・福祉分野と
の連携。
ひまわりサービスの継
続と訪問介護等への応
用。
簡易保険
医師の診断や職業上
の制約なしで加入でき
る生命保険サービスを
提供する役割。
限度額300万円に縮小。
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図表 10 郵便局を利用した行政サービスの業務委託に関するアンケート結果
有効
各種証明書交付
37.4
11.2
6.9
0%
21.6
51.2
15.8
各種申請の取次ぎ
どちらともいえない
38.8
22.6
生活支援・訪問
地域振興
どちらかといえば有効
20%
11.6
23.3
30.7
36.9
60%
10.2
80%
4.6
6.4 2.8
13.8
40.1
40%
どちらかと
いえば不要 不要
6.1
5.3
100%
(注)調査対象:全国の市町村長1,810人(H20.8時点)、回収数:1,318件
(資料)JP総合研究所・全国郵便局長会「市区町村と郵便局の連携に関するアンケート調査」より作成
図表 11 生活の上で困っていること(n=1,849 世帯)
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