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地熱、見込めるのは原発 1 基分か

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地熱、見込めるのは原発 1 基分か
公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2013 年 1 月 24 日
地熱、見込めるのは原発 1 基分か
-普及のカギは地元への利益還元-
主任研究員
小林辰男
太陽光や風力のように天候に左右されない地熱発電は、再生可能エネルギーの切り札と
いえる。日本は隠れた地熱大国で、発電所は順調に稼働すると設備利用率 80%が可能に
なる安定したエネルギー源。しかし普及はほとんど進んでいない。潜在力を生かすための
課題を探ってみた。
1. 14 年間新設なし――資源あっても開発進まず
日本は地震が多い火山列島なので原発の立地条件としては有利とは言えないが、逆に地
熱発電の潜在力が高い地域である。環境省の調べでは、全国で 2400 万㌔㍗(kW)の地熱
資源量があり、国立公園や居住地域などの社会的制約を除外すると約 3 割の 640 万 kW が
開発可能とみられる。2400 万 kW を引き合いに「原発 20 基分」といわれるが、それは過
大評価としても、640 万 kW は原発 5-6 基分に相当する。海外との比較では、米国やイン
ドネシアに続く第 3 位の資源量になる。大幅拡大の可能を秘めている。
存在する資源量を実際にどこまで開発できるのか、各国の制度によっても異なるが、フ
ィリピンの例が参考になるだろう。図 1 と図 2 をみると、この 10 年間フィリピンの地熱
発電は停滞しているように見えるが、資源量に対して建設された地熱発電の発電容量は 3
割を超えている。
図 1 日本は地熱資源を有効活用できていない
3500
3000
(万kW)
地熱資源量(万kW)
35
(%)
地熱発電設備容量/資源量(%)
30
2500
25
2000
20
1500
15
1000
10
500
5
0
0
(出所)温泉資源の保護に関するガイドライン(環境省)、村岡(2009)世界の地熱資源などより作成
http://www.jcer.or.jp/
日本経済研究センター
原子力の代替エネルギーを考える(4)
図 2 世界の地熱発電開発の進捗状況
350
(万kW)
300
250
米国
インドネシア
200
150
日本
フィリピン
アイスランド
100
50
0
1990
1995
2000
2005
2010
(年)
(出所)温泉資源の保護に関するガイドライン(環境省)、火力原子力技術協会(2011)より作成
地熱開発業界にヒアリングしたところ、「フィリピンの開発実績は資源量を実際にどの
程度開発できるか、目安になる」と説明する。フィリピンは日本などよりも環境規制は緩
やかで、日本が今後、規制緩和や制度的な後押しなどを進めるとこの程度の開発は見込め
るようだ。環境省が開発可能としている 640 万 kW(資源量の約 3 割)は、フィリピンの
開発実績とも符合する。日本国内を地域別にみると、地熱資源は偏在しており、風力発電
と同じく北海道、東北、北陸、九州で 9 割を占めている(図 3)
。
図 3 偏在する地熱の開発可能資源
九州
中部
北海道
北陸
全国計636万kW
関東
東北
(出所)環境省「平成 22 年度・再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」
ただ開発しやすい場所は、温泉・観光地に隣接しているケースがほとんど(図 4)。地
熱開発には、地表調査に必要な掘削調査への合意、試験井などを掘って環境影響調査に入
る前の建設への合意など一つ一つ地元の了解が必要になる。地元温泉組合などとの調整な
どで開発には 10 年以上の時間がかかる。原発のような政策的な後押しもなく、そのため
1999 年に東京電力の八丈島地熱発電所が操業開始して以来、14 年間新たな開発はストッ
プしていた。現在、日本では地熱発電の容量は 54 万 kW にとどまる。
http://www.jcer.or.jp/
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日本経
経済研究センタ
ター
原子 力の代替エネルギーを考える(4)
図 4 地熱発電と
として開発が
が期待される地点
〈新エ
エネルギー・産業技術総
総合開発機構
構(NEDO)の調査地点
点など〉
(出所)
)総合資源エネ
ネルギー調査会
会基本問題委員
員会(2012 年 2 月 22 日資料
料 3-1)
(注)国
国立公園・第1種特別地域の建設可能性 は低い。2、3 種地域の規制
制緩和が検討さ
されている。
2. トップダウンでは失
失敗も―― 「地元理解
解」で円滑に
福島
島第一原発の
の過酷事故を経て太陽
陽光や風力で
では再生可能
能エネルギー
ー開発が加速
速して
いるが
が、地熱は楽
楽観できない
い。例えば福
福島の復興プ
プロジェクトとして経済
済産業省や福
福島県
の旗振
振りの下、国
国際石油開発
発帝石や出光
光興産など民
民間企業 10
0 社が磐梯 ・吾妻・安達太良
地域で
で 27 万 kW の地熱発電所
の
所を建設しよ
ようと計画しているが、難航して いる。地元の温泉
事業者
者が枯渇を懸
懸念し、強く
く反対してい
いる。「過去
去の日本の地
地熱開発で温
温泉が枯渇した明
確な例
例はない」と
と説明してい
いるが、納得
得してもらえないと関係者は話す
す
しか
かし、本当の
の反対理由は
は別ではない
いかと推察される。政府
府の関係者な
などによると「ト
http://www.jcer.or.jp/
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日本経済研究センター
原子力の代替エネルギーを考える(4)
ップダウンで進めたのがまずかった」と打ち明ける。地元の温泉は原発事故で客足が落ち、
厳しい状況だったため、総額 1000 億円の地熱開発投資で雇用を創出できるうえ、工事関
係者などに宿泊施設を利用してもらえば、温泉事業者にもプラスになると考えた。地元に
“良かれ”と思って構想を練ったが、根回しが不十分なまま打ち出されたため、地元温泉
関係者が態度を硬化させたとみている。「東京へ電気を送るためならお断り。温泉は別に
困っていない」などと強い反発を招いているという。「福島は東京の犠牲になったという
不信感が根強いことを思い知った」と同関係者は証言する。また工事関係者の宿泊も、必
ずしも歓迎されていない。「原子力代替を考える(1)1」で取り上げた福島県沖の洋上風力
開発も、地元の漁業者との調整に時間がかかっているが、地熱開発でも同様に地元との調
整という壁にぶつかっている。
同じ福島県内でも柳津・西山地熱発電所(6.5 万 kW、柳津町、東北電力と三井金属の
100%子会社・奥会津地熱が共同で運営)は近くの温泉と協調できている。昨年 11 月に同
発電所を訪問したが、1986 年の調査(操業開始は 95 年)に入る前からボトムアップで調
整を進めたため円滑に計画が進んだようだ。万が一、温泉の湯量などが減少した場合に備
え、予備の井戸を掘って寄付したほか、民家が 1km 以内にあるので、硫黄臭対策や水音が
うるさい冷却塔の騒音対策にも気を配っている。例えば操業後にかすかな硫黄臭が指摘さ
れると臭いを除去する装置を取り付けた。奥会津地熱の 21 人の社員のうち、15 人は地元
採用している。
(柳津西
山地熱発
電所は冷却塔にも防音壁を設置(左)、右は制御室)
秋田県湯沢市にある3地域の地熱発電所建設計画(小安地区など)も、比較的順調に進
んでいる。関係者は「開発がスムーズに進む地域は近隣に地熱発電所があり、メリットを
実感しているうえ、地元誘致を引っ張るリーダー的な人が存在している」と分析する。
3. 国立公園内の開発、大幅な規制緩和を
2012 年 7 月から導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度では 1kW 時当たり
27.3 円(1.5 万 kW 以上の地熱発電所のケース)で 15 年間発電した電気を電力会社が買い
取ることを義務づけており、これによって地熱開発が進むことが期待されている。また環
境省は国立公園内の 2、3 種の特別地域であっても、開発ができる優良事例を 5 カ所程度
風力の普及、産官連携と地元との共生が不可欠(2012 年 10 月 26 日)
http://www.jcer.or.jp/policy/pdf/pe(jcer20121026).pdf
1
http://www.jcer.or.jp/
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日本経済研究センター
原子力の代替エネルギーを考える(4)
指定することを検討している。
図 4 は、これまでに NEDO が発地熱資源の調査を実施した地点などを示している。この
中で実際に開発が有力視され計画が動いているところをすべて開発できても、
「2020 年代
に 50 万 kW 程度が追加的に実現するだけ」との見方が強い。また 2030 年代に原発ゼロを
目指した「革新的エネルギー・環境戦略」でも、2020 年に 100 万 kW しか見込んでいない。
このままでは、現状の 2 倍程度(原発 1 基分)になるに過ぎない。
同戦略は民主党政権下で策定されたもので、自公政権で見直されることになるが、原発
の新設が簡単ではないうえ、自公政権ですら「脱原発依存」を掲げている。例えば 2030
年まで新設原発がなく、既存原発が 40 年で廃炉になるならば、原発の電源構成に占める
割合は 15%程度に低下する。そのケースでは同戦略は、地熱を 300 万 kW 強に拡大する必
要があるとしている。300 万 kW を超える発電を実現しようとするならば、地元調整に官
民共同で当たるほか、政府が新たな地熱資源の探索調査、国立公園内の 2、3 種の特別地
域でも原則開発可能(現在は原則不可)とするような大幅な規制緩和を推進する必要があ
る。都市部に電気を送り届ける送電網の建設も政府主導で当たることが求められよう。
本稿の問い合わせは、研究本部(TEL:03-6256-7740)まで
※本稿の無断転載を禁じます。詳細は総務・事業本部までご照会ください。
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http://www.jcer.or.jp/
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