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吸血鬼の世界で ID:38415

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吸血鬼の世界で ID:38415
吸血鬼の世界で
白石譲
注意事項
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
あらすじ
不運の事故に遭遇した少年は、吸血鬼の住む世界へと行く。
1 ││││││││││││││
目 次 2 ││││││││││││││
1
3 ││││││││││││││
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家に着くなり、長塚による熱血指導が開始された。
寄った。文化祭があと十日後に迫っていたが、涼介はまだセリフを覚えていなかった。
この日涼介は文化祭で発表する劇の個人練習をするため、同じクラスの長塚の家に
シティ・サイクルで行く人は少ないだろう。
やっとである。しかも、ところどころアスファルトが剥げ、陥没している。すき好んで
普段ならこの道は通らない。前述したように傾斜がきつく、道幅は車が一台通るのが
免こうむる話だ。
に飛び出して車に轢かれる。まだ女性とキスした経験もないままあの世へいくのは御
ドレールに衝突するか、道の下のみかん畑に転落する。ブレーキをかけ遅れると、県道
ルが、競輪選手の全力疾走よりも速く下っていく。カーブを曲がりきれなければ、ガー
るこの急坂では、ショッピングモールで、七千八百円で購入した安物のシティ・サイク
に傾いていた。そのほうがスピードが出過ぎないからである。最大傾斜二十度にもな
宮崎涼介は自転車に跨っていた。サドルからは腰を浮かしている。上体はやや後ろ
長い下り坂が続いている。
1
1
長塚は映画と漫画の鑑賞が趣味で、それに影響されることが多い。今回の劇も長塚の
趣向が反映されている。
タイトルは﹁桃太郎and金太郎∼ドラキュラ城の決闘∼﹂というもので、脚本はも
ちろん長塚だ。
テーマはアクション。誰もが知る有名な昔話を融合させ、オリジナル要素をこれでも
かと突っ込んだ大作││になるらしい。正直なところ、クラスメイトからの反応は芳し
くなかった。それでもほかに良い案がなかったのでそれに決まった。
涼介は中盤から登場する吸血鬼ドラキュラの役を任された。理由を訊くと、
かった。
?
ろだの、
﹁豚のような悲鳴をあげろ﹂はもっと低く迫力ある声で言えだのと、高校生には
その熱の入れようはすさまじく、練習では、やれもっと格好よくキレのある動きをし
ても登場させたかったらしい。
場する主人公の愛称だそうだ。長塚のお気に入りのキャラクターで、今回の劇にどうし
しかし旦那とはなんだ
質問すると、長塚の持っている漫画HELLSINGに登
という答えが返ってきた。確かに幼いころから外人に似ていると言われる機会が多
コート着れば、旦那っぽいじゃん﹂
﹁おまえ身長高いだろ。それに鷲鼻だし、肌も白い。帽子とサングラス、手袋つけて赤い
1
2
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厳しい演技指導を繰り返された。人前に出ることが苦手な涼介にとって、劇で重要な役
を演じることは女装より恥ずかしい。それでも、任されたからにはやりきろうと必死に
練習した。ひと通り練習が終わるころには、時計の針は午後六時を回っていた。
やっと口うるさい演出家から解放されると安心していると、帰り際にHELLSIN
G全十巻が入ったビニル袋を渡された。演出家からのありがたくない宿題だった。
あたりは夕闇が迫っていた。体に吹き付ける風は冬を思わせる寒さだ。交通手段の
乏しい田舎ではないが、三方を山に囲まれ、県庁所在地から二十キロ離れたこの町は、季
節の移り変わりが早い。近所の洋菓子店は、昨日からクリスマスケーキの予約を始めて
いる。
涼介は自転車を飛ばした。カゴの中で漫画の入ったビニル袋が風に煽られてがさが
さと鳴っている。陥没に気をつけながら道を急いだ。
U字カーブを回り、県道まで直線の下りに入った。あとはブレーキと穴に気をつけれ
ばいい。
涼介はふと空を見上げた。夕焼けが薄くなり、星は輝きを取り戻しつつある。南の空
からは上弦の月が顔を覗かせていた。
││その時、左から黒い影が飛び出してきた。空に目をやっていた涼介は一瞬反応が
遅れた。
ライトに照らし出された黒い影││それは黒猫だった。慌ててハンドルを右に切る
と、黒猫は驚き、元来た道を引き返していった。しかし、涼介を乗せた自転車はガード
レールへ向かっていた。
指を潰す勢いでブレーキを握った。しかし、道幅の狭さは、車輪の回転が停止するの
を許さなかった。
涼介の自転車はガードレールに鋭角に激突した。衝撃で涼介と自転車は空中に投げ
出され、そのまま下のみかん畑に落下していった。
落下途中、みかん畑をぼんやり眺めながら、涼介の脳裏には、十七年の人生が早送り
の映画のごとく流れていた。
父と一緒に自転車に乗る練習をしたこと。初めて遊園地に連れて行ってもらったこ
と。幼稚園の遊戯会で緊張して泣いてしまったこと。跳び箱の着地に失敗して骨折し
たこと。草野球でホームランを打ったこと。友達と一緒に女子更衣室をのぞき見した
こと。大好きだった祖母が亡くなったこと││。
楽しかった、悲しかった思い出がよみがえっては消えていった。それは、まぎれもな
く走馬灯だった。
︵俺は死ぬのかなぁ⋮⋮︶
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涼介は初めて自分が死に近づいていることを理解した。死に直面しても、不思議と恐
怖は感じなかった。ただ、人生の幕切れがこんなにも突然やってきたことに驚いた。交
通事故で亡くなる人は、みんなこういう気持ちなのだろうか⋮⋮。
視界の端には自転車も見えた。あいつは落ちてもフレームが傷つくだけで壊れはし
ないだろう││。
そうして最後には、自分をここまで育ててくれた両親の顔が浮かんだ。
発見した老夫婦はすぐに警察に通報し、それが前日行方不明の届が出ていた生徒であ
らに顔は損傷が激しく、歯は折れ、鼻はつぶれ、眼球は外に飛び出していた。
遺体は、頭がい骨が割れ、首と脊椎は曲がり、右腕からは折れた骨が突出していた。さ
に訪れると、破損した自転車と、その隣に横たわる涼介を見つけた。
宮崎涼介の遺体が発見されたのは、翌朝のことである。農園を経営する老夫婦が収穫
重いものがぶつかる鈍い音が、夕闇のみかん畑に響き渡った。
ように。そして頭から地面に叩きつけられた。
次の瞬間、涼介は真っ逆さまになってみかん畑に飛び込んだ。木と木の間に滑り込む
心のなかで詫びた。
︵父さん、母さん。ごめんなさい︶
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ると判明したのは正午すぎのことである。変わり果てた息子の姿を見た両親は、人目を
憚らず泣き崩れた。
現場に残されていた遺留品は、本人のものと思われるバッグと自転車、遺体のそばに
散乱していた漫画本だけだった。
血で赤黒く変色した漫画の表紙には、銃を持った男がこちらを見てにやりと笑ってい
た。
ちゃがちゃと操作していた。
すると、屋根の上に人が立っているのが見えた。その人は、長い筒のようなものをが
飛び疲れた涼介は、どこか木の上で休憩しようと降下体勢に入った。
郊外に住む大地主の館のようだ。すぐ脇には用水路が流れている。
眼 下 に は 森 と そ れ に 隣 接 す る 広 い 農 場 が あ っ た。農 場 の 端 に は 大 き な 建 物 も あ る。
ひとしきり曲芸を楽しむと、周りの景色を観察した。
操縦している気分だった。
左旋回。次に右旋回。ぐるりと宙返り。航空ショーのアクロバット飛行機を自分が
でもいい。今は夢を楽しもうと思った。
分がカラスになって空を飛んでいるのか分からなかった。が、これが夢である以上どう
自分の体に目をやると、黒々とした毛が生えていた。どうやらカラスらしい。なぜ自
心地よい夜風が体を包む。こんなに気持ち良い夢は初めてだ。
飛んでいた。
夢を見ていた。自由に空を舞う鳥になった夢だ。満月のぼる夜の世界を、翼を広げて
2
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︵あれはなにしてるんだ⋮⋮
鉄砲だ
︶
首をかしげた。と、屋根上の人は、その筒のようなものを持ち、涼介に向けて構えた。
?
ていった。
腹部に衝撃と激痛と熱を感じ、意識が遠のく。力の抜けた体は錐もみしながら落下し
たが、鳥となった涼介の胴体を貫通した。
銃弾はまっすぐ心臓を狙って放たれた。涼介が上体を起こしたため僅かに下へずれ
し、それより早く銃声が夜の静寂を引き裂いた。
正体に気付いた涼介は無理やり体を引き上げ、その場から離脱しようとした。しか
!
が鼻についた。
視界には覆いかぶさる木々の枝葉と小さな満月があった。青臭い芝生と土のにおい
嫌でも耳に残るその音で涼介は目を覚ました。
遠くで銃声が聞こえた。
地面に接触する寸前、涼介の意識は沈んだ。
︵ああ、落ちる││︶
2
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︵ここは⋮⋮どこだ⋮⋮︶
体が鉛のように重かった。なんとか起き上がり、立とうとするも、足に力が入らず傍
の木の幹に寄りかかった。
︵ひょっとしてこれも夢
︶
それにしては現実感がありすぎる。右手で触れている木肌も、足で踏みしめている
さっきまで涼介は鳥になって空を飛ぶ夢を見ていた。これも夢の続きなのだろうか
?
がなぜ生きている││。
思い出したとたん、激しい恐怖に襲われた。確かにあの時自分は死んだはずだ。それ
死ぬ瞬間の映像がフラッシュバックした。叩きつけられた痛みが蘇ってきた。
︵たしか俺は、長塚の家から帰る途中で││︶
が渦巻いた。
しばらくは木に体を預けて休んでいた。その間、頭のなかでは今の状況に対する疑問
︵なんでこんなところで寝てたんだろう⋮⋮︶
9
︶
?
せわしなく頭を動かし考えても答えは出なかった。とにかく一刻もはやく人のいる
︵夢でないとしたら⋮⋮何
との何よりの証拠ではないか。
雑草も、しっかりここにある。きりきりとした空腹感と激しい喉の渇きが、夢でないこ
?
場所へ行こうと思った。自分が経験しているこの不可思議な現象を誰かに話したかっ
た。
月明かりのおかげで、街灯がなくとも見通しがきいた。いや、昼間よりもよく見える
気がする。
そう思うことで納得した。
︵暗さに目がなれたのか︶
歩いていると、車の走る音が耳に届いた。公道が近くを通っているらしい。
五分もしないうちに森を抜け、舗装された道路にでた。森ではなく道路脇の小規模な
林だったようだ。
向かいには民家があった。日本ではあまり見かけない煉瓦造りの家だった。煙突も
ある。
めに美しく咲き誇っている。門の立札にはWELCOMEの文字が刻まれていた。
民家には思っていたよりも広い庭が付属しており、色とりどりの花が客人を迎えるた
一抹の不安を胸に涼介は足を進めた。
なかった。
水を飲むためだけに他人の家の戸を叩くのは気がひけるが、とにかく喉が渇いて仕方
︵助かった。とりあえず水を飲ませてもらおう︶
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ところが、近づくごとに、様子がおかしいことに気付いた。電気が消えて真っ暗なの
に物音がする。なにかを引きちぎるような音。液体の滴る音。それに混じって、低いう
めき声と笑い声が聞こえてくる。しかも生臭い。
呆気にとられて部屋を見つめていた涼介は、奥の扉に点々と続く血の足跡を発見し
そこかしこに血だまりがあり、赤い花を咲かせている。むごい有様だ。
伏せに倒れていた。
る下半身と腕が無造作に転がっている。ソファの上には、左半身がちぎれた男性がうつ
まず目に入ったのは、首のない子供の死体だった。その横には、女性のものと思われ
れ、中の本が散らばっていた。
る。部屋の中心にはカーペットがひかれ、低いテーブルが置かれている。本棚は壊さ
部屋はよくあるリビングルームだった。向かって左側にはテレビがあり、本棚があ
家の裏手に回り、窓からおそるおそる中を覗いた。
︵まさか強盗殺人の現場に遭遇したんじゃ⋮⋮︶
大量に血を流したときの臭いだ。
涼介はこの臭いを知っている。動物が生命を宿している証││血だ。それも、人間が
︵この臭いは⋮⋮︶
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た。おそらくは犯人のものに違いない。
凄惨な光景だが、あまりにも現実離れした光景は涼介から恐怖という感情を奪い去っ
てしまった。普通の人なら、叫ぶなり腰を抜かすなりしてこの場から逃げようとするだ
ろう。だが、涼介は一度﹁死﹂を経験したせいか、焦りも恐怖も感じなかった。むしろ、
犯人の正体を突き止めてやろうという好奇心を覚えた。それがどれだけ危険な行動か
承知していたが、湧き上がってくる好奇心を抑えることはできなかった。
再び正面へと戻ってきた涼介は、足音を立てぬようそろりと玄関の扉に手をかけた。
そして息をひとつ吐くと、意を決してゆっくり押し開いた。
扉を開くと、まっすぐな廊下になっている。右手に扉がふたつ、左手にひとつ、奥の
突き当りにひとつあった。奥の扉にはW.Cと書かれたボードが掛かっている。廊下
の中央には二階へ続く階段がある。
さっき覗き見していた窓は裏の右側にあった。ということは、殺人現場は左手の部屋
だ。
静かに扉を閉め、靴を脱ごうとして下駄箱がないことに気付いた。外見だけでなく、
内装も欧米式らしい。
床には木材が張られており、一歩踏み出すたびに軋んで音が鳴った。できるだけ音を
立てないよう忍び足で進み、ドアノブに手を伸ばした。
ドアがゆっくりと引かれていく。まだドアノブを握っていないのに。
││え。
﹂
ドアが完全に開かれた。にたり顔をした男と、うすら笑いを浮かべた女がそこにい
た。
?
ないことを物語っていた。
﹁あなた達が⋮⋮殺したんですか
﹁そうさ﹂
やはりこの二人が犯人らしい。
﹂
トローなカップルだが、服についた返り血と手に持った銃が、彼らがただのカップルで
女も、やはり黒いキャップを、ツバを後ろに被っていた。外見は町中をうろつくアウ
るなんてね﹂
﹁かわいそうなボク。私たちの仕事を盗み見たばっかりに、この家族と同じ運命をたど
ている。
男は黒いニット帽を被っていた。髪は白い。手にはマシンガンらしきものが握られ
﹁やあ坊ちゃん。スプラッター鑑賞は楽しめたかい
?
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﹁なぜこんなことを
﹂後ずさりながら涼介は質問した。
?
の牙だった。
口元を歪ませながら男が答えた。男の口から白い牙が覗いた。血に飢えたケダモノ
﹁それは俺たちが吸血鬼だからさ﹂
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吸血鬼││男はそう言った。にわかには信じがたい。だが、二人から漂う血の匂い
﹂
が、有無をいわさぬ説得力をもって涼介の鼻を刺激していた。
﹁いつから⋮⋮俺に気付いていたんですか
女がそう呟くと、涼介は総毛立った。心臓がぎゅっと縮まり、喉の奥からは、か細い
﹁そうね。血はさっき吸って満足したし、ぶち殺すのが一番じゃない﹂
﹁俺たちのことを知ったからには、生きて返すわけにはいかねぇよな﹂
女は壁を指で小突きながら笑った。
﹁ここにホームステイしてるチャイニーズじゃないの﹂
﹁このへんのガキじゃねえな。顔つきも白人とは違う﹂
銃口を向けながら男はドスのきいた声を出した。
小限に止めていたつもりだったが、どうやら聞こえていたようだ。
男は、手に持った銃を構えた。その銃口は涼介の眉間を正確に捉えていた。騒音は最
﹁おまえがこの家に入ってからだ﹂
廊下の壁に背中が触れた。もう退くことはできない。汗が一筋、涼介の頬を流れた。
?
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うめき声が漏れた。こいつら俺を殺す気だ
﹁あと九つね、ハガー⋮⋮﹂淫靡な声で女が囁いた。
﹁これで四家族目だ﹂
弾の交換が終わると、二人は抱擁し、口づけを交わした。
﹁殺すヤツがひとり増えただけさ﹂
﹁哀れなボウヤ。この家に足を踏み入れたのが運のつきだったわね﹂
男は銃口を下ろし、床に落ちた空薬莢を足で払いながら弾を交換しはじめた。
海に浮かんでいた。
床はみるみるうちに血の海となり、扉には血がべっとり飛び散っていた。空薬莢が血の
背に空いた風穴からおびただしい血液をまき散らし、涼介はうつ伏せに倒れこんだ。
裂音とともに涼介の体を貫いた。
が、その腕は扉にとどくことはなかった。それよりも早く、放たれた無数の銃弾が炸
涼介は腕を伸ばした。もう少しで外に││。
くる。
涼介にとって学校のグラウンドを十周するよりも長く感じた。扉がぐんぐん近づいて
壁を突き飛ばして涼介は駆け出した。玄関の扉までわずか数メートル。その距離は
!
﹁あと九つ。あと九つ殺しゃあ、あいつらに俺たちをもっともっと強くしてもらえる。
3
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そ う す り ゃ ず っ と 永 遠 に 生 き ら れ る。ジ ェ シ カ
⋮⋮﹂
ていた。
永 久 に 俺 た ち 生 き ら れ る ん だ ぜ
ひとしきり抱擁すると、二人は密着した体を離した。
﹁フフ⋮⋮今ごろ警察は必死になってるわよ﹂
ははっ、ひゃははははっ
﹂
﹂
窓の外から注ぐ月の光に照らされながら、二人はしばらくは互いの体の熱を分け合っ
!
﹁俺たちゃもう無敵のバンパイア様なんだぜ。警察なんぞに止められるもんかよ
ハガーは下劣な笑い声をあげた。
﹁ひはははは、違いねーや
!
﹁な⋮⋮に⋮⋮﹂
ジェシカの指差した方を振り返り、ハガーは驚愕した。
﹁ねぇ、ハガー⋮⋮あれ⋮⋮﹂
ると、殺したはずの涼介の指が動き、爪を木材敷きの床に突き立てていた。
その音に気付いたのはジェシカだった。床をひっかくような音に、ふと玄関に目をや
血鬼の合唱は続いた。死体が動き出すまでは。
ハガーの笑い声が、血まみれの家屋に響き亘った。ジェシカも笑っていた。二人の吸
!
!
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殺したはずの死体が、ゆっくりとした動作で起き上がった。全身から血液がしたたり
落ちている。
その傷で生きてるわけが⋮⋮﹂
その先は言えなかった。後ろから伸びてきた手に顔面を掴まれ、首を絞められた。
﹁ジェシカ、待ってく││﹂
に窓を破って逃げだそうとしていた。
なんとか体勢を立て直すと、ウサギのように走った。到着してみると、ジェシカはすで
ハガーは弾の切れた銃を投げつけ、リビングへと急いだ。途中、血で滑りかけながら
や化け物は歩きだした。
二人は、吸血鬼になって初めて悲鳴をあげた。恐慌状態の二人にむかって死体││い
真っ赤な二つの双眸がハガーとジェシカを睨んでいた。
立った死体が、ブリキ人形のような動きでこちらに首を回した。
ところが、死体はすぐに立ち上がった。動きが僅かに早くなっている。背を向けて
び倒れ伏した。念入りに、先ほどよりも多くの弾丸を浴びせた。弾切れになるまで。
ハガーは動き出した死体にむけてマシンガンを乱射した。弾雨に撃たれて、死体は再
人間ならばとっくに死んでいる。ではこいつは││。
﹁バカな
!
﹁ぐ⋮⋮げ⋮⋮﹂
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万力のような力で、ぎちぎちと握られた顔は、しだいに変形し縦長になってきた。こ
のままでは潰される││。そう確信したハガーは、渾身の力で顔を掴んでいる腕を引き
はがそうとした。しかし、吸血鬼の怪力をもってしても、どうにもならなかった。
やがてハガーの体から力が抜け、だらりと腕が空をきったと同時に、頭部はぐしゃっ
と潰れたトマトになった。胴体は主を失い、カーペットに沈んだ。
手についた血液と脳汁を化け物は舐めとった。そして残ったハガーの体にかぶりつ
き、血を吸い始めた。
ハガーを捨て、命からがら逃げだしたジェシカは、ルート17号を南下していた。恐
ろしい化け物から少しでも遠くへ逃れようと必死に走った。
逃走中のジェシカの視界に人影が写った。赤いコートを身に纏い、黒い帽子とサング
ラスをかけた、背の高い紳士が、こちらに向かって歩いてくる。どうやら夜道を散歩し
ているらしい。
姿を見られるのはまずいとジェシカは思った。警察に通報されれば、やっかいなこと
になる。
そこまで考えていると、突然、紳士が足を止めた。コートの内側に手を突っ込んで、何
の化け物が⋮⋮︶
︵とりあえず、さっさとあいつを殺して、バーミンガムに隠れよう。ぐずぐずしてるとあ
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かを取り出そうとしている。
︵なにしてんだあいつは⋮⋮︶
紳士は懐から、白い筒状の物体を取り出し、それを左腕に乗せ、ジェシカに照準を合
わせた。それは見たこともない巨大な拳銃だった。そして引き金を引いた。
腹に響くズドンという発砲音をまとわせ、対化物用に作られた13mm爆裂鉄鋼弾は
ジェシカに殺到した。
撃たれた瞬間、ジェシカは弾の当たった箇所から体が崩れる感覚を覚えた。目の前が
真っ暗になり、全身が弛緩するのが分かった。
﹂
やがて、心臓を貫かれる痛みを感じた。それが、ジェシカの最後だった。
﹁マスター。もう終わっちゃったんですか
紳士は巨大な拳銃をコートにしまった。
﹁まぬけな奴だ。自ら死地へ出向いてくるとは﹂
金髪と豊満な胸に特徴のある女性が、赤いコートを着た紳士のもとへ駆け寄る。
?
﹂
﹁婦警。おまえは殺された死体の処理をしろ。早くしないとグールに変わるぞ﹂
!
婦警と呼ばれた女性は急いで元来た道を戻っていった。そして、赤いコートの紳士は
﹁ヤッ、ヤーッ
3
20
北の方角に歩き出した。
数分後、紳士は今回の事件で最後に犠牲となった家族が住んでいた家に到着した。
た。
紳士の前には、殺害された住民の中に混じって、傷一つなく横たわる涼介の姿があっ
﹁さて、どうやらもう一体化け物がいたようだな﹂
21
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