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Fate/InterlaceStory ―剣製の魔術師― ID:51074
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生に至っては言うまでもないだろう。 -6- ? そんな事を考えながら、士郎は霞んでいく瞳を再び閉じる。 ﹁何時しか私も貴方のいる世界へ向かいます。だから士郎、貴方はも う休みなさい﹂ それを肯定と受け取ったのか笑みを浮かべ、数百年にも渡り戦い抜 いた衛宮士郎は、暗くなっていく意識のなかで世界に別れを告げた。 ︱Interlude︱ 月明かりが照らす森林の中、鍛練の一貫として小太刀を振るいなが ら彼︱︱高町士郎は深く溜め息を吐いた。 自分の半身ともいえる得物を手にしてからもう数十年が経ってい るのだろうか。彼は淡々と振るいながらも自身の腕が徐々に鈍りを 見せ始めていることに気づいていたのだ。 現在でさえ、今の自身は全盛期の頃と比べれば一回りほど劣ってい る事が確認できるからだ。 ﹁︱︱どれだけ鍛えようが⋮⋮老いには抗えないってことだね﹂ 老いというにはまだ若すぎる年齢であろうが、身体能力が低下の兆 しを見せる程までには年をとっていることに変わりはない。 だがこのままいけば美由紀はともかく、恭也が自身を追い抜く日も そう遠くはない。 ︱︱恐らくは一族が継承してきた体術が原因と言えるかもしれな い。 そもそも士郎達が継承している流派は、世間一般には知られていな -7- い裏側によるもの。 日々の鍛練の成果があってこそその武術が大幅に扱える域にまで 達してはいるが、あれは人の身には負荷が掛かりすぎる代物なのだろ う。 ﹂ 現に士郎の身体にはもう淀みのような違和感が感じられてきてい る程だ。 ﹁︱︱そろそろ引退して若い世代に任せろ⋮⋮って事かな 寂しさにもにた苦笑が彼から漏れるが、それに反して後悔はしてい ないようにも見える。 ︱︱これで良い、と。 彼の頭に浮かぶは妻である桃子の悲しげな顔と、娘であるなのはの 寂しげな表情。 二人にこのような顔をさせてしまった原因は紛れもなくこの流派 によるものだった。 ある事がきっかけで士郎は重傷を負って病院に運ばれたことがあ る。 桃子や恭也達は顔を蒼白にさせながらも父の看病をし、その間︱︱ まだ幼いなのはを家に一人残してしまった。 退院して帰宅してからというもの、出会った娘の表情がどんなに寂 しげであったことか今でも想像に難くない。 ﹁︱︱問題は私が引退してから、どんな事態が起きるかということだ けど⋮⋮﹂ そこまで口にした士郎はやれやれと首を横に振り、その先を続ける 事はしなかった。 ︱︱ 何 を 馬 鹿 な 心 配 を し て る ん だ 私 は。こ れ か ら 何 が 起 こ る か ⋮⋮そんなものは魔法使いでも分かる筈もないことなのに︱︱そん な自嘲の笑みを浮かべて。 -8- ? これ以上はどう鍛えようが身体に負荷がかかるだけだと悟り、一先 ずは家に帰ろうと小太刀を鞘に納めたその時︱︱森自体を震動させ るほどの爆音と共に、閃光が一辺を白く染め上げた。 その事態に士郎は驚きながらも冷静を取り戻し再び小太刀を抜き 放つ。 ﹂ というよりいつの間に ︱︱ が、光が収まり視界を取り戻すと同時にそれを放り投げてい た。 ﹁⋮⋮ 何 で こ ん な 所 に 人 が 倒 れ て い る ん だ ⋮⋮いや、そんなことを暢気に考えてる場合じゃない 動揺から立ち直ると直ぐ様、その少年を抱き上げる。 見れば恭也と同じくらいの歳かそれより一つか二つほど下のくら い。髪は赤銅色で反射具合では銀色のようにも見えるが、問題はそん なことではなく彼の状態だ。 全身至る所に刺し傷や切り傷が見られ、こうしている今もそこから 血液が流れ続けている。 ﹂ 呼吸も浅く、こうして生きていること自体が不可思議に思える程の 致命傷だった。 ﹁︱︱何が起こってるかさっぱりだけど手当てをしないと⋮⋮ すと、自分に出せる限りのスピードで山道を駆け下りていった。 士郎は腕に抱えている少年を落とさないようにしっかりと抱え直 状態になったときの桃子の顔が脳裏に浮かんだからだ だが、それを理解した上で助けようとするのは︱︱彼がこのような 状況からしてこの少年は確実に裏の世界に関わっている。 た。 普通ならこの判断は間違いなくおかしい事は士郎にも分かってい ! -9- ! ? ︱Interlude︱ ﹂ 頬にひんやりとした感触が伝わり、薄く瞳を開ける。目には入るは 自分の知らない天井。 ﹁︱︱ここは⋮⋮どこだ 凄い傷だったからここで治療させてもらってたん 帰ったのか慌てた様子で部屋を出て夫と思えるような男性を連れて その女性は自身を見つめる士郎に気付き呆然としていたが、我に そこで止める。 するとその途中で栗色の髪をした女性が視界に入り、視界の動きも しい部屋を見渡す。 未だに朧気な意識の中で、首だけを動かし自分の寝かされているら ? に流れていく光景⋮⋮それは鮮血によって紅く染まった砂丘の赤い 丘。 至る所に数多の刀剣が突き刺さっていて、そしてその中心に血を流 ﹂ しながら立っているのは自分の︱︱。 ﹂ ﹁︱︱生きて⋮⋮いるのか ﹁え ? 見れば先ほどの女性が濡れた手拭いを手に、こちらを不安そうな瞳 - 10 - 来た。 ﹁具合はどうだい だけど︱︱﹂ ︱︱傷 ? 彼から聞いた言葉に朧気だった意識が覚醒する。奔流のように脳 ? 消え入りそうな呟きに、側から困惑したような声が聞こえた。 ? で見つめている。 その瞳の下に明確に隈がうつっていることからつきっきりで看病 してくれていたのだと悟った士郎は後悔した。 ⋮⋮そうか、ありが ︱︱そこまでしてくれた人に今の言葉は失礼極まりない。 ﹁︱︱いや、何でもない。もしや貴方が手当てを とう。お陰で助けられた﹂ 礼を言おうと上半身を起こそうとするが、全身を走る痛みに顔を歪 める。それにかなりの倦怠感に包まれているようだ。 先ほど生きていることに疑問を抱いたような言葉を口にしたが、そ れは士郎が自殺願望者だから⋮⋮というわけではない。 治癒能力が極めて高い士郎だが、あの状態から生き延びたことに純 ⋮⋮まだ傷は癒えきってないのだから安静にしないと﹂ 粋に驚いていたのだ。 ﹁ダメよ をするなど失礼極まりないだろう か見えない。 ﹂ の息子がいるらしい。初見では結婚してまだ間もない妻のようにし かされたのは高町士郎の隣にいる女性︱︱桃子には二人の娘と一人 それから三人はそれぞれ軽い自己紹介を済ませた。その中でも驚 しく微笑んだ。 そんな士郎を見て二人はしばらく唖然としていたが、立ち直ると優 拾ってくれて、本当に⋮ありがとう﹂ ﹁改めて礼を言わせてくれ。俺の名は衛宮士郎⋮⋮失う筈だった命を 合って頭を下げる。 痛む身体に叱咤をかけ、表情に出さずに立ち上がると二人に向かい ? - 11 - ? ﹁大丈夫だ。こう見えても頑丈な方なのでな。︱︱それに寝たまま礼 ! ﹁︱︱年齢不相応な人ね。雰囲気もそうだけど私達よりも年長者に感 じてしまうわ。まあそれはともかくどうして士郎⋮⋮夫と重なって 夫が言うには何もないところから急に現れたって ややこしいからシロくんでいくわね。それでシロくんはどうして怪 我をしていたの 話なんだけど﹂ その呼び方に違和感を感じた士郎は、その問いに一瞬悩むそぶりを 見せたが、意を決したように真剣な表情をすると話を切り出した。 ﹁⋮⋮ああ。その事なんだが、その前に一つだけ言っておかないとい けないことがある。これから話すことはそれを前提としての事だか らな﹂ 今までの中でも一層際立って見える真剣味を帯びた彼の雰囲気に 二人は気を引き締める。 何かを思い出すように、そして何かを覚悟したかのように閉じてい た瞳を開ける。 ﹁俺は魔術師︱︱いや⋮⋮裏の世界に身を置いてきた魔術使いなんだ ︱︱︱︱﹂ - 12 - ? ⋮⋮それってオカルト的な分野でよく出てくる魔法使いの 第二話 ﹂ ﹁魔術師 事 の持つ雰囲気︱︱そう、 まるで遠い過去を懐かしむように言葉を紡 その話は到底現代では起こりそうにもない夢物語のようだが、士郎 らくして暗い表情で桃子がため息を吐いた。 彼の話を聞きしばらく呆然とした様子を見せていた二人だが、しば ﹁︱︱まるでお伽噺のような話ね⋮⋮﹂ 結末までの経緯を︱︱。 目指して世界を駆け巡った終末が裏切りによる死という報われない れた異郷の地。白銀の世界での最愛の人との出会い。そして理想を 杯戦争が起こる街、それが冬木市。その勝利者となった士郎が飛ばさ 衛宮士郎が理想に向かって一歩でも近づくまたとない転機︱︱聖 が、思いの外、当時の事を鮮明に映し出すことができた。 数百年も前の事もあり、上手く思い出せるかという懸念があった る。 瞳をつむり、今となっては遥か過去となる記憶の跡を手繰り始め ︱︱そう確信めいたものを感じていた。 問題は無いだろう しながらもおどけた口調でそう答えた。 この二人ならば話しても 何か思うところがあったのだろうか。士郎は懐かしむように、苦笑 くれて構わない﹂ ﹁︱︱厳密に言えば違うのだが⋮⋮いや、そうだな。そう受け取って ? ぎだす彼を見ると冗談を言っているのでは無いと理解できたからだ。 - 13 - ? ﹂ ﹁死んだ⋮⋮君はそう言ったね。だけど君はこうして生きている。そ れはどういう事だい 彼は嘘をついていない⋮それは分かっている。 分かっているの だが話に矛盾が生じていることに高町士郎は疑問を抱いた。 ﹁︱︱ い や、致 命 傷 を 負 っ た 上 に 追 っ 手 つ き と い っ た 絶 望 的 な 状 況 ﹂ だったからな。︱︱もう死んだも同然だったさ。だから何故生きて いるのかは俺にも分からない。⋮⋮所でその娘は ﹁ん ︱︱ああ、ちょうどいい。なのは、こっちにおいで﹂ から扉の隙間からこちらを覗いている娘の方に視線を向ける。 てもらえないだろう。この事については話す必要がないため、先ほど き延びただけかもしれない。こればかりは偶然が良すぎるので信じ もしかしたら彼女達に助けられたのかもしれないし、単に運良く生 する。 身のよく知る人たちが周りに立っているのを士郎は見たような気が ではなかった。尽きかけた命の灯火︱︱それが掻き消える直前に、自 肩をすくめながら士郎は苦笑をもらす。 心当たりが無いわけ ? 郎 の 呼 び 掛 け に ぱ ぁ っ と 顔 を 輝 か せ る と こ ち ら に 走 り よ っ て き た。 ﹂ 髪は母譲りの栗色で、活発そうな元気な女の子のようだ。 だが、 彼女からはどこか⋮⋮ 私の名前は高町なのは。よろしくね ﹁ほらなのは。自己紹介しなさい﹂ ﹁うん ! - 14 - ? おそらく入るタイミングが見つからなかったのだろうか。父の士 ? 元気に自分の事を紹介する彼女、だがその瞳の奥にあるものを感じ ! た士郎は理解した。 だから⋮⋮だから返事のかわりに手を伸ばし、 彼女の頭を撫で始 める。 突然の士郎の行動になのはは戸惑うが ﹁︱︱無理に抱え込もうとするな﹂ その一言でびくりと背筋を震わせた。 ﹁何 に 悩 ん で い る の か は 知 ら な い が、一 人 で 抱 え 込 も う と す る に は ⋮⋮君はまだ若すぎる﹂ それだけを話し手を離す。 彼女を見てるとどうしても昔の自分を思い出してしまうため、何も 言わずにはいられなかった。 ﹁すまない。⋮⋮そろそろ限界みたいだ﹂ 視界が暗転しはじめ、踏ん張りが効かなくなった身体を壁に預け、 地に腰を下ろす。 この身は死徒。復元呪詛を保有する吸血鬼ではあるが、解析してみ た所、今の俺は十代後半辺りにまで肉体が逆行している。 意図的に 肉体年齢を操作する事も出来なくはないが、恐らくは世界の修正によ るもの︱︱による予期せぬ若返りに復元呪詛が対処しきれてないの だろう。 肝心なことはこれからどのようにして生きていくのか︱︱その事 について思考を巡らせようとしたが中止した。 未だ肉体、精神双方を伴う倦怠感によりまともな考えが思い浮かば ないためだ。 ﹁怪我が治るまではここにいなさい。君にはまだ、色々と聞きたいこ - 15 - とがあるからね﹂ ﹁すまないな。そうさせてもらうとしよう﹂ 最後に一言礼を言うと、士郎は再び眠りのなかにおちいった。 ︱︱:︱︱:︱︱:︱︱:︱︱ 旧い夢を見た。 満月の夜道での白い義姉との出会い。殺し合い、 そして共闘。 そして聖杯戦争が終わり、日常生活を共にし、そして 暫しの別れ。 そして次に会ったのは、彼女が死ぬ前だった。 ︱Interlude out︱ ﹁︱︱さて、これまでの状況からするにここは異世界⋮いや、並行世界 であることに間違いは無いだろうが⋮﹂ 人気の無い森の中、士郎は視力を強化してそこから見える街並みを 一望していた。 街の作りや和風の殊が混じった独特の雰囲気は彼のよく知る日本 で間違いはない。 - 16 - ︱︱だがその中に見える海鳴市なんて場所は記憶の何処を探して も存在していなく、⋮⋮何よりもこの冬木市に匹敵するほどの霊脈の 地を魔術師が手をつけた形跡がないことじたいが別世界であること を証明している。 早朝静かに目を覚ますと、誰にも察せられることなく彼は高町家を 出たのだ。あの時、自分の素性を明かしたのはなにも二人を信用して いたからだけではない。 ︱︱自身が裏の人間であり、厄介事を巻き込む存在であることを明 確に認識させ、深くは関わらないほうが良いといった彼なりの配慮 だ。 ﹁⋮まずは俺のいた世界の魔術が、ここでは機能するのかだが﹂ オ ン かんしょう・ば く や 瞳を瞑り、表向きの思考を中断し自己へと埋没すると全身の魔術回 トレース 路に魔力を通していく。 ﹁︱︱︱︱投影・開始﹂ 投影するは黒と白の対なる陰陽剣︱︱ 干 将 莫耶。 士郎の剣製の中でも最も馴染みのある刀剣であり、まるで初めから 知っていたかのように投影するまでのタイムラグが無いに等しい宝 具でもある。 試しに投影して分かったのだが、この世界による魔力消費量は前と 比べると大幅に減少している。 精度に関してもオリジナルの宝具と比べて何の遜色もない完成度 で、これなら以前よりも幅広い戦略面が期待できる。 ﹁万が一の戦闘時に関しては十分すぎるくらいだな。︱︱後は生活面 だが⋮⋮まあ、何とかなるか﹂ 一先ず仕事先を探して、その給料が入るまでの野営暮らし。 - 17 - 暫しの間不便な生活をしなければならないだろうが、そんな事など 士郎は数えきれないくらいに経験してきた。 手慣れた動きで周囲にある枝葉や岩を集めると、風雨を凌ぐ擬似テ ントを作り上げていく。 そして中で横になると、 天そらに朧気に浮かぶ満月を見ながら士 郎は嘆息した。 ﹁︱︱本当に君は来れるのか⋮⋮アルト﹂ ⋮⋮その表情は、先日のあの栗毛の女の子の孤独そうなそれと非常 に酷似していた。 - 18 -