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GPSを用いた異状行動判別システムの研究
卒 業 研 究 報 告 題 目 GPS を用いた異常行動判別システムの研究 指 導 教 員 高村 禎二 報 告 者 学籍番号:1030169 氏名:池田 幸佑 平成 16 年 2 月 9 日 高知工科大学 電子・光システム工学科 1 目次 1章 1.1 1.2 1.3 序論 ..................................................... 研究の目的................................................ 行動判断の現状の問題点.................................... 本論文の構成.............................................. 4 4 4 5 2章 GPS................................................... 6 2.1 はじめに.................................................. 6 2.2 位置の測定方法............................................ 6 2.2.1 三角測量による位置の割り出し............................ 7 2.2.2 高さの求め方............................................ 9 2.3 GPSにおける問題点..................................... 10 2.3.1 測地系における「ずれ」................................. 10 2.3.2 解決方法............................................... 11 2.3.3 座標変換手順........................................... 11 3章 GPS計測の種類........................................ 3.1 はじめに................................................. 3.2 単独測位................................................. 3.2.1 単独測位の原理......................................... 3.2.2 単独測位の利点......................................... 3.3 時刻同期としてのGPS................................... 3.4 単独測位のまとめ......................................... 3.5 相対測位................................................. 3.5.1 DGPS(Differential GPS)........................... 3.5.2 DGPSの原理......................................... 3.5.3 DGPSにおける補正情報の扱い方 ....................... 3.5.4 DGPSの実際......................................... 15 15 15 15 17 17 18 18 18 19 20 21 4章 カシミール3D.......................................... 23 4.1 はじめに................................................. 23 4.2 カシミール3Dの持つ特性................................. 23 2 4.3 データの管理・編集....................................... 25 5章 5.1 5.2 5.3 5.4 異常行動判別システムの構築.............................. 本研究の内容............................................. テスト方法............................................... テストの結果と考察....................................... 行動の比較............................................... 27 27 28 29 31 6章 まとめ.................................................. 参考文献...................................................... 謝辞.......................................................... 付録.......................................................... 33 34 35 36 3 1章 1.1 序論 研究の目的 私たちの生活の中で、GPS(Global Positioning System)の情報は簡単に入手で きるようになってきた。GPSと聞いて、すぐに思いつくのは、やはり車につけるカー ナビゲーションシステムや、携帯電話などであろう。これらに付いている機能といえば、 位置の測定、目的地までのナビゲーションシステム、電話番号や名前による住所の割り 出しと様々である。これはGPSにより位置情報を求めることができるからである。こ れにより、この点の情報を使うことで、様々なことができると考えられる。 本研究では、ハンディGPSレシーバ(付録 1-2)を用いて人が移動した点と軌跡の データを取り、そのデータを使い行動が正常か異常かを判断するシステムを提案する。 そのため、まず任意に決めた道(軌跡)を、ハンディGPSレシーバを持ち通ることで、 その軌跡のログを取る。ここで挙げるログとは、点の集合体であり、そのひとつひとつ の点は「緯度、経度、高さ、時間」等の情報をもっている。これを始点と終点との距離 もしくは角度等を調べ、その誤差を求める事で、その行動(ここでは任意の道を通るこ と)の正常・異常を調べる方法を提案する。 1.2 行動判断の現状の問題点 現在、異常行動の判別などはGPS携帯電話のサービスによる位置情報の提供が用い られている。例えば、企業規模で社員にGPS携帯を持たせ、社員の現在位置を確認し サボり等ができないようにする使われ方をされている。しかし、このサービスには、利 用した時の点の位置情報しか提供してもらえないという問題点があるのである。極端な 例として、携帯電話をどこかに置いて持ち主がサボったりしたら、情報を取得する利用 者は、それを判断できないのである。 本研究で用いているハンディGPSレシーバでは点情報を断続的に取得できるので 軌跡を残すことができ、携帯電話の時のように置いていくと、位置情報は動いてないこ とが判断できる。 4 1.3 本論文の構成 本論文は、6章から構成されている。1章では、本研究の目的、行動判断の現状の問 題点について述べる。2、3章は、GPSの性質や原理について述べる。4章では、今 回のGPSの位置情報を利用できる3次元地図ソフトについての説明を述べている。5 章は、本研究の内容とテスト、その結果について述べている。6章では、本研究のまと めを行っている。 5 2章 2.1 GPS はじめに GPSの正式な名称は、Global Positioning System(汎地球測位システム)の略 称である。GPSは、地球の周回軌道を回る 24 個のGPS衛星から発信される情報を 利用して、受信者とGPSの衛星の位置関係を測定し、現在地の緯度・経度を計算する システムである。これにより、GPSは位置を知るための一種の測定器になる[1]。 下図 2-1 は、http://www.shamen-net.com/word/keyword_1.html、GPS衛星から引用 である。 図 2-1:GPS衛星の配置 2.2 位置の測定方法 GPSは、GPS衛星からの電波の伝達時間を測って衛星までの距離を求め、複数の 衛星との距離と衛星の座標から、三角測量の原理を用いて測位する。 衛星までの距離(R)=光の速度(C)×到達時間(t) 6 しかし、電波は、光と同じで1秒間に30万 km も進むため、わずか2万km上空の 衛星からの到達時間を正確に測るために、GPSでは次のような手段を用いている。G PS衛星とユーザーのGPS受信機で同じ周期、波形の「コード(信号)」を発生する ようになっている。この信号はGPS衛星の方では常に出されていて、GPS受信機が GPS衛星からの「コード」を受信すると、GPS受信機側では、そのコードをどのく らい前に発生させたかがわかるので、到達までにどのくらいかかったのかを測定するこ とができる。 図 2-2:GPSのコードの同期(GPSマニアックスより引用) 2.2.1 三角測量による位置の割り出し GPS衛星からGPS受信機までの距離を知ることができたが、そこから位置を求める には、GPS衛星から送られてくる電波の中の、先の「コード」のほかに、「航法メッセー ジ」というものを利用している。この「航法メッセージ」には、宇宙空間でGPS衛星が どのような航路をとって飛んでいるという情報が含まれており、GPS受信機は、この「航 路メッセージ」を解読して衛星がいる位置を計算することができるようになる。 7 これでGPS衛星までの「距離」と、「位置」という情報が手に入った。この2つの 情報があれば、GPS受信機の位置も知ることができる。 その位置の求め方を2次元に例え説明する。二つの衛星からの電波を受信し、それぞ れの衛星の位置と、衛星までの距離Rがわかっていれば、受信機があるのは、その衛星 から半径Rに存在するため衛星から半径Rの円を描くことができる。そこで二つの衛星 を中心とした円の交点が、受信機の位置となる。 この場合に交点は2つできるが、GPSの場合は地球上と宇宙側にできるので前者を選 べばよい。この測定方法は、三角測量と呼ばれる方法を用いている。 図 2-3:三角測量を用いた測定(GPSマニアックスより引用) これは3次元でも同じことが言える。受信する衛星の数が3個あれば、円が球に変わる だけであって、同じように3次元空間上の位置を知ることができる。 8 2.2.2 高さの求め方 普段、我々が自分の現在位置を表現する場合、たいていは住所や最寄りの目標物を目 印にして指し示すことになる。それに対して地図やGPSの世界では、緯度、経度、そ して高さという尺度を基準としている。ここで挙げられている高さとは、一般に高さの 基準とされている標高とは一致しない。なぜなら、地球は回転楕円体として表現されて おり、標高という高さの基準となる水準面は、この楕円体の表面とは一致しないからで ある。これはジオイド面(付録 2-1①)の問題で、このジオイド面の凹凸は世界的に見 ると 150m にも及ぶ高低差がある。 図 2-4:地表面とジオイド面、地球楕円体との関係(GPSマニアックスより引用) 図2-4は、この地表面とジオイド面、楕円体との関係を表す模式図である。この中 で楕円体高hというのが、GPS受信機から出てくる高さである。すなわちGPSから 出てくる高さにはジオイド面の凹凸という補正は含まれていない。 このジオイド面の問題は地域によって度合いが変わり、日本ではジオイド高が大きい ところで50m程度もある。このジオイド問題に対応するため、その地域にできるだけ 合うような準拠楕円体と座標系が選ばれており、これを測地系と呼んでいる。世界には 数多くの側地系が存在し、市販されているGPS受信機でも複数の測地系を選択できる ようになっているのが一般的である。日本では、2002年の3月までは東京測地系 (Tokyo Datum)と呼ばれるものが採用されていた。この東京測地系は明治 9 時代に設定されていたもので、東京麻布の経度原点での天文観測から決定された座標系 である。しかし、これらの測地成果は主に天文測量によって得られたため、重力異常や 地形の影響、地殻変動で「ゆがみ」が生じており、世界測地系と大きなずれを生じる原 因となっていた。これらのゆがみは、GPSの発達によって広い地域を精密に測量でき るようになったため、問題視されるようになっていった。 それにより、VLBI(付録 2-1②)観測結果と GPS の全国の観測網を利用して得ら れた成果(測地成果2000)を基に、2002年4月に世界側地系への以降が行われ ました。この新しい測地系は世界測地系、新日本測地系、日本測地系2000とも呼ば れている。ちなみにこの新しい測地系は、WGS-84とほぼ同じであるが準拠楕円体 がGRS80、座標系はITRF94を採用している。 2.3 GPSにおける問題点 GPSは、取り巻く環境(衛星の配置状況、使う場所)や、使う方法などによって結 果が大きく変わってくる。ここでは、使う方法(測地系、規格等)で起こりうる問題点 を取り上げている。 2.3.1 測地系における「ずれ」 測地系はGPSにおいて公式のひとつみたいなもので、不適当な測地系を選んでしま ったら、原点(GPS受信機の場所)に「ずれ」が生じてしまっている。これの例とし て、表2-1は、WGS−84測地系と、世界測地系と、東京測地系の違いである。原 点の平行移動量が東京測地系だけ非常に大きく違っている事がわかる。このため、実際 に使う緯度経度の値でも測地系の違いによる差はかなり大きく、東京郊外で緯度経度と も約11秒の差になる。これは、距離に直すと約400mの違いになってしまう [5]。 10 表 2-1:測地系の比較 2.3.2 解決方法 測地系が地図とGPSの出力とで合っているかの確認をし、合っていなければ「ずれ」 の生じない手持ちのGPS受信機で測地系の選択をすれば解決できる。もし、東京測地 系もしくはWGS−84の選択ができない場合には、WGS−84測地系から東京測地 系(または逆)に座標変換をしなければならない。この方法は、国土地理院で公開され ている変換プログラム「TRNS96」の手順と同じものである。この変換手順は2. 3.3節で述べている。 2.3.3 座標変換手順 ① WGS−84の緯度Φ、経度λ、楕円体高さ h の測地(極)座標を図2-5に示す(X, Y,Z)3次元直交座標に変換する。ここで変換に用いるパラメータはWGS-84系 の値を使う。 11 図 2-5:測地座標と3次元直交座標との関係 式1 X ( N + h ) cos φ・cos λ Y = ( N + h ) cos φ・sin λ Z N 1 − e 2 + h sin φ { ( N= e= ) } a (1 − e ・sin φ ) 2 2 (2f -f ) 2 ここに、 12 a:WGS−84の楕円体の長半径 f:WGS−84の楕円体の偏心率 ②表2-1に示した測地系の原点のずれ(平行移動量:⊿X,⊿Y,⊿Z)を、(X,Y,Z) に加えて(Xʹ,Yʹ,Zʹ)を求める。ここで求められた(Xʹ,Yʹ,Zʹ)は東京測地系に 基づく値となる。厳密には、平行移動量以外に、各座標軸回りの回転角による補正も 考慮する必要があるが、ほとんどの座標間での回転角は微少量であるので、平行移動 のみを考慮すれば実用上問題は無い。 式2 X ′ X ⊿X Y ′ = Y + ⊿Y Z ′ Z ⊿Z ③直交座標値の(Xʹ,Yʹ,Zʹ)を、東京測地系のパラメータを用いて、緯度Φʹ、経度 λʹ、高さ hʹ に座標変換する。 式3 φ i′ = tan −1 Z′ P ′ − e′ ⋅ N i′−1 ⋅ cos φ i′−1 ( 2 ) 収束するまで繰り返し計算 φ 0′ = tan −1 Z′ P′ 収束条件 φ i′ − φ i′−1 ≤ 10 −12 (rad ) λ ′ = tan −1 Y′ X′ 13 h′ = P′ = N′ = e′ = P′ − N′ cos φ ′ (X ′ 2 + Y ′2 (1 − e′ ) a′ 2 ⋅ sin 2 φ ′ ) (2f′ -f′ ) 2 ここに、 aʹ:東京測地系の楕円体の長半径 fʹ:東京測地系の楕円体の偏心率 以上 14 3章 3.1 GPS計測の種類 はじめに GPS計測の方法は、観測手法や解析方法等により数多くの方法があるが、大別する と単独測位と相対測位に分類される。また相対測位には、DGPS(ディファレンシャ ルGPS)と干渉測位に分類できる [2]。 3.2 単独測位 単独測位はGPSの利用法として、もっとも基本的かつ馴染みの深いもので、1 台の GPS受信機だけで自分の位置を測位する方法である。 3.2.1 単独測位の原理 単独測位の原理は、GPS受信機が衛星からの電波を受信して、その伝搬時間に電波 の速度を掛ければ衛星までの距離はわかる。この距離は時計の誤差も含んでいるので、 擬似距離と呼ばれている。さらに航法メッセージのエフェメリスからの衛星座標をGP S受信機で計算する。これを4つの衛星に対して同時に観測できれば、自分のいる位置 (緯度、経度、高さ)を求められる。 この時、知りたい未知数が、緯度、経度、高さと3つに対して、4つの衛星が必要な のは、GPS受信機自体の時計の誤差(ずれ)も未知数として扱うからである。なお、 未知数のうちの1つ(高さ)がわかっているならば、3つの衛星でも解を求めることが 可能である。これが 2 次元測位である。図3-1は、この関係を模式的に表したもので あり、 (X,Y,Z)の 3 次元直行座標で表している[5]。 15 図 3-1:単独測位の原理(GPSマニアックスより引用) この図から、観測点(Xo,Yo,Zo)とそれぞれのデータとの関係はピタゴラスの定理 を用いて次式で表される。 ( Xi − Xo) 2 + (Yi − Yo) 2 + ( Zi − Zo) 2 = Ri + c ⋅ ∆T 式中の記号の意味は以下の通りである。 (Xi,Yi,Zi) :受信できた i 番目の衛星の座標値 c : 電波(光)の伝搬速度 Ti : i 番目の衛星から受信機までの電波の到達時間 Ri : i 番目の衛星から受信機までの距離 ΔT : 受信機の時計の誤差 16 この式が各衛星ごとに成り立っており、未知数(Xo,Yo,Zo,⊿T)の 4 個を4つの 衛星のデータで解くことになる。ただし、この 4 元連立 2 次方程式は直接解くことがで きず、繰り返し計算によって求めることが一般的である。通常は、解の初期値として、 前回観測された最後の値を用いている。 このため、前回に観測した場所と今回観測している場所があまりにも離れている場合 (1,000Km 以上)なかなか測位できないことがある。このような場合、GPS 受信機 によっては、自分のいる大体の位置(初期値:緯度経度や都市名など)を入力できるよ うになっている機種もある。また、その値を入力すると測位にかなりの時間短縮が可能 になる。 3.2.2 単独測位の利点 最近では4つ以上の衛星を使って測位できるGPS受信機も使用されてきている。よ くGPSの性能表示に「12チャンネルパラレル」などと表記されている機種がある。 これは、衛星からの電波を最大同時に12チャンネル受信できるということである。 より多くの衛星から電波を同時に受信できるメリットは以下のとおりである。 ・平行して航法メッセージを受信し、それを解読し、まとめることで、 初期化にかかる時間を短縮することができる。 ・4つ以上の衛星から測位演算を行うことにより、順位にかかる誤差 要因を打ち消しあい、結果として測位の精度を向上することとなる。 3.3 時刻同期としてのGPS GPS衛星には正確な電波の伝搬時間を計測するために、現在利用できる時計の中で もっとも高精度な原子時計が搭載されている。GPS受信機でも単独測位をすることで、 GPS受信機の時計の誤差がわかり、GPS衛星に搭載されている原子時計に近い精度 17 の時刻を得ることができる。いい換えれば、GPS受信機は超高精度の時計として利用 できるのである。 時計としての精度は、100ns(ナノ秒:1ナノ秒=10億分の1秒)と、我々が 普段使っている時計とは比べものにならないほどの超高精度だ。ただし、これはGPS 受信機内部での話であり、この高精度を活用するには、位置を表示、出力する機能とは 別に、「1PPS」と呼ばれる、1秒に 1 回、時刻に同期して正確なパルスを出力でき るGPS受信機が必要である。この1PPS出力のないハンドヘルドタイプのGPS受 信機では、表示される時間が1秒程度遅れる機種もあり、日常生活に使う時計としては 十分な精度ではあるが、天文観測など正確な時刻同期が必要な場合には、あらかじめこ のずれを確認しておく必要がでてくる。 3.4 単独測位のまとめ 単独測位の基本的な原理はGPSのサービス開始以来変わっていないが、GPS受信 機の方は多チャンネル化、受信感度の向上測位演算のアルゴリズム改良などによって、 より速く、より正確に測位できるようになってきている。特に、測位できるまでの時間 がかなり短くなったのは、最近のGPS受信機の大きな特徴となっている。 3.5 相対測位 複数の受信機で 4 個以上のGPS衛星を同時に観測して受信機間の相対的な位置関 係を計測する方法で、単独測位より高精度である。 相対測位には、複数の受信機で単独測位を行ってそれぞれの位置情報から相対位置を 求めるDGPSと、複数の受信機と衛星との距離の差(行路差)を搬送波の位相により 求め、受信機間の相対位置を決定する干渉測位がある[2]。 3.5.1 DGPS(Differential GPS) 単独測位の精度は 10∼20m 程度である。通常ではこの程度の精度でも問題になること は、ほとんどないはずである。しかし、人のナビゲーションや機械の制御、さらに信頼 18 性の向上といった面から、さらに精度を必要とする場面もある。 そこでさらなる GPS 測位の精度、信頼性を向上させる技術として考え出されたのが、 DGPS(Differential GPS)である。この DGPS は、トランスロケーションや、差動 GPSという呼び方をされることもある[2]。 3.5.2 DGPSの原理 DGPSの単独測位との一番の違いは、GPSマニアックスより引用している図32のように2台のGPS受信機を使って同時に測位する点にある。1台の受信機を、座 標のわかっている観測点におく(これを基準局とする)。そうするとGPSから出力さ れる座標と、本来わかっている座標との誤差がわかる。この誤差の情報をもう1台のG PS受信機(こちらを移動局とする)に送って、測位結果から誤差を差し引くことで移 動局のより正確な位置を知ることができるのである。この場合精度は数m∼10m程度 にまで改善される。 DGPSで精度が向上するのは共通の誤差を相殺できるためである。相殺される誤差 はSA、GPS衛星の軌道情報の誤差、電離層の影響である。 誤差をうまく相殺するには、誤差を相殺する前提である「基地局・移動局共通の誤差」 となるように、以下の点に注意しなければならない[5]。 ・同時に観測すること ・基準局、移動局で同じGPS衛星を使用すること ・軌道情報は同じものであること(情報更新時に混乱する可能性があるため) このほかの留意点として、DGPSを行う場合、基準点、移動局の距離が離れすぎて いると、電離層の状態や衛星の配置など、観測条件に差が出てきて、共通の誤差となら ず精度が低下することがある。このため、基準局と移動局とは近いほど精度が高いのが 一般的である。 19 3.5.3 DGPSにおける補正情報の扱い方 DGPSには、補正情報の扱い方により次の2つの方法がある。 ① 補正情報を基準局の緯度、経度、高さ、もしくは3次元直交座標値との差とする方 法 ② 補正情報を各衛星ごとに擬似距離の誤差とする方法 ①、②の方法には、次の様な長所と短所がある。 ① による方法 <長所> ・ 単独測位用の受信機をそのまま用いることができる 20 ・ 転送する補正情報は少なくて済む <短所> ・ 基準局と移動局で測位に使用している衛星が異なると精度が低下する ② による方法 <長所> ・ 基準局と移動局とは同じ衛星を利用して測位計算ができる <短所> ・ 基準局は受信しているすべての衛星の擬似距離、もしくは擬似距離の誤差を 出力する機能が必要となる ・ 観測ができている衛星が多いと転送する補正情報が増加する ・ 移動局は擬似距離補正ができる機能が必要 ①の方法は簡便ではあるが、離れた2地点でいつも同じ衛星を使うというのが困難な ため、現在ではほとんど利用されていない。アメリカなどで一般に用いられているのは ②の方法である。この方法で問題となるのは、基準局側の受信機である。擬似距離誤差 を出力できる受信機はまだまだ価格が高く一般に利用できるものではない。ところが、 この補正情報だけを何らかの方法でユーザーが利用できるならば、ユーザーは補正情報 を入力できるGPS受信機1台があればよいことになる。 アメリカでは、この補正情報について標準化が以前より進められており、「RTCM SC-104(RTCM:Radio or Maritime Technical Commission f services)」委員会で、DGPSに必要なデータ使 用が定められている。 3.5.4 DGPSの実際 先ほどのDGPSにおける補正情報の扱い方のところで述べたRTCM SC-10 4のデータ仕様は、DGPSを実際に行う上で現在では事実上の世界標準となっている。 RTCM SC-104のメッセージは 1 語 30 ビットからなるバイナリデータである。 メッセージの内容はメッセージタイプとして区別されていて、以下に主なものを示して いる。 21 数字はタイプNo.を意味し以下は、そのナンバーのタイトルであり括弧内はその意味 を示してある。このメッセージ内容は RTCM RECOMMENDED STANDARDS FOR DIFFERENTIAL NAVSTAR GPSSERVICE VER.2.1 TABLE4-2,JAN 3 1994 より引用してある。 1・ DGPS補正量(擬似距離誤差とその時間変化率) 2・ デルタDGPS補正量(軌道情報の更新情報の補正) 3・ 基準局パラメーター(基準局のWGS−84座標) 9・ DGPS補正量の一部(タイプ1と同じで使用する衛星のみ) 16・ 特別メッセージ(90文字までのアスキーデータ) この規格はデータ形式を決めているだけで、その伝送方法には触れられてない。一般 的にはRS-232Cなどでシリアルデータとして伝送されることが多い。この場合、 最低50bps程度の転送速度があれば補正データの転送はできる。実際にはこれより 速い100bpsから9600bps程度で送られていることが多い。 22 4章 4.1 カシミール3D はじめに カシミール3Dは、GPSで集めたデータをより有効的に使う事ができるように考え られた3次元の地図ソフトである[4]。 4.2 カシミール3Dの持つ特性 カシミール3Dの持つ特性として以下のようなことが挙げられる。 ・ 日本全国の地図なら表示できる。 ・ GPSレシーバから位置情報をダウンロードする事により、その点としての 緯度、経度、高さ等のデータを管理、編集することができる。 ・ 位置情報の点を結び合わせて行くことで、軌跡を描くことが可能である。ま た、それを地図上に表示することもできる。 このように電子地図とGPS受信機のデータを組み合わせることで色々な応用がで きる。本研究でも、これらのカシミール3Dの特性を利用していく。 また、これらの地図表示、軌跡表示等は、図4-1,2のようになる。 23 図 4.1:カシミールでの地図表示 図 4.2 軌跡表示 図 4.1 と図 4.2 は共にカシミールでの地図表示だが、図 4.2 は軌跡データを足したものであ る。色のついた部分が軌跡となるが、線の色が異なるのはひとつひとつのデータを個別に 管理・編集することができるようにソフトが作られているからである。 24 カシミール3Dを利用する際、使用するデータは大きく分けて3種類ある。 ・ ウェイポイント(図 4-3) ・ ルート(図 4-4) ・ トラック(図 4-5) ウェイポイントは場所を表すデータである。これは地図上には表示されない場所(個人 的に地図上に残しておきたい場所)を点で表せるデータで、それぞれに名称を付け保存し ておくことができる。 ルートは、ウェイポイントをコース移動していくコース上に並べたものである。このル ートデータを使ったナビゲーションが、現在のカーナビゲーションシステム等に使われて いる。 トラック(軌跡)は、実際に移動した軌跡を記録したものである。 下図4−3.4.5 は参考文献[4]のGPSで使うデータの種類より引用 図 4-3:ウェイポイント 4.3 図 4-4:ルート 図 4-5:トラック データの管理・編集 ハンディGPSレシーバに記録したトラックやウェイポイントは、パソコンとハンデ ィGPSレシーバとをRS−232Cで繋ぐことにより、データのやり取りが可能にな る。 25 図 4.3 緯度、経度、高さ、時間等のデータ このように、パソコン上に緯度、経度、高さ、時間が取り出すことができる。このデ ータを計算することにより、点と点との距離を求めることができる。また、カシミール 3Dを用いたのは視覚的にもそのルート(道順)を確認することができるようにするた めでもある。さらに、点の情報は編集も可能なので補正する際にも役立てることができ る。 26 5章 5.1 異常行動判別システムの構築 本研究の内容 GPSでは、衛星を使って位置情報、時間、軌跡をデータとして取得することができ る。本研究では、このデータを使って、人や物の行動を情報化することにより、行動を 判別するシステムの研究を目的とした。 この行動判別システムは、GPSレシーバにより時間、軌跡、距離等のデータを取り、 これをパソコン上のカシミール3Dに取り込む。この取り込んだデータから行動を情報 化(時間、距離、速度)する。日常生活(決まった時間から、決まった場所へといった パターン化している部分での行動範囲内)での行動で、データ(距離、時間、速度等) をまとめていくことで「ずれ」を見出し、この「ずれ」の部分を分析していくことで行 動の異常、正常を判別していくシステムである。 GPS パソコン ・ 時間 (カシミール) ・ 軌跡 ・ 距離 RS-232C を用い データの転送 カシミール 正常と判断 データの保存・ 編集 行動の情報化 異常と判断 図 5-1:行動判別までの流れ 27 5.2 テスト方法 ここでは本実験のテスト方法について説明する。 行動を判別する為、出発点と到着点が同じ行動のパターンを 2 つ用意し(図 5-2,3) 、 時間、距離、速度を比較することで同じ行動と言える範囲にあたるかを調べる。青い部 分が比較に使う行動の軌跡である。また、行動Aを日常生活の行動とし、行動Bが異常 行動かどうかの判断を行った。 図 5-2:行動Aの軌跡(青・北) 図 5-3:行動Bの軌跡(青・南) 28 ここでのテストは以下の点に気をつける。GPSレシーバで計測する際、始点と終点 が同じに場所で無ければならない。なぜなら、2 つの行動を同じ行動と仮定し比較して いくため、始点、終点が違えば同じ行動とは呼べない為である。 以下は、使用する情報の求め方である。 ① 距離の求め方は、軌跡の情報の中にある一定間隔から点情報を抜き出し、その 2 点間の距離を緯度経度により距離を求める。この求め方は付録 1-1 に載せてある C言語を用いて導きだす[3]。 ② 時間については、始点から終点までの計測にかかった時間とする。また止まって いる時間帯(駐車等)は、その間の時間を計測の時間に入れないことで解決する。 ③ 5.3 速度は上記の①、②より求めた時間と距離により求める。 テストの結果と考察 行動A ルート 行動B ① 8.5km 距離 10.4km ② 21min 時間 45min ③ 23.22km/h 速度 13.86km/h 図 5-4:計測結果(1) テストの結果は図5-4のようになった。①∼③の番号は、5.2節で挙げている情報 の求め方と対応している。 この①∼③のテストの結果で、GPSレシーバの誤差による影響が出るのは①の距離 テストである。この①の結果がGPSレシーバの誤差で発生するものではないことを証 29 明する必要があり、これを「誤差による距離の差は最大どのくらい出るのか」という事 を求め証明していく。 まず本研究で使用しているハンディGPSレシーバの誤差が最大15mまであった のを確認しているため、この誤差の最大値を15mと仮定する。また、この15mの誤 差が出ているときの計測距離をXkmと置くと以下の式を立てることができる。 始点、終点を中心とする半径15mの円が誤差の範囲内となる。ここで誤差が最大に なるのは中心点を挟んでの二点であるため、誤差は±15mとなり実際の始点、終点が 距離0mの位置になるため、始点、終点での誤差は、 15m − (− 15m ) = 30m また始点、終点の双方が30m誤差となるので、誤差による距離の求める式は、 XKm + 30m − ( XKm − 30m ) = 60m となる。2つの距離を比較するため±60mとなり、誤差は最大で120mとなる。 ①のテストでの行動Aと行動Bの差は1.9kmとなるので、これは誤差による差でない ことがいえる。 この行動Aと行動Bの差は距離が1.9km、時間で24分、速度は9.36km/h であっ た。距離については先ほど述べたように、誤差によるものではない。この距離の差で考え られるのは工事等での回り道などにあたると推測できる。また、買い物などによる回り道 は時間で確認できる。(止まっていた時間を確認することにより)しかし、距離が伸びてい るので時間も増えているのは当然である。そこで速度の差を出した。これらのことから行 動Aと行動Bでは、日常生活では起こりえない程の「ずれ」が生じている。その結果、行 動Bは異常行動だと判断できた。 30 5.4 行動の比較 行動Cを日常行動とし行動Dを比較する行動とし、5.2 節で述べたように比較を行っ た。 図 5-6:行動Cの軌跡(オレンジ・北) 図 5-7:行動Dの軌跡(オレンジ・南) 31 その結果、行動C、Dの結果は図 5-8 のようになった。 行動C ルート 行動D ① 10.2km 距離 9.3km ② 24min 時間 21min ③ 25.5km/h 速度 26.57km/h 図 5-8:計測結果(2) これらの結果を使い比較を行った。まず、距離についてだがCとDでの差は 0.9km となった。この結果もGPSレシーバの誤差によって生じた差ではないことがわかる。 時間では 3 分の差が出たが、これは距離が違うため、比較に用いても判断材料とはみな しにくい。そこで速度を求めた結果、時速 1.07km/hの差で会った。これだけの差は 日常行動での交通量などで変わってくる速度となりうると考えられたので、CとDでは 「ずれ」が生じていないと考えられる。よって、行動Dは正常行動だと判断できる。 32 6章 まとめ 異常行動判別システムの研究にハンディGPSレシーバを用い情報を集めることで、 行動の情報化を実現した。また、日常行動との比較により異常・正常行動の判断を実現 できた。世界測地系、WGS-84、東京測地系のように測地系は地域により正しい選択 をしなければならなかった。この正しい測地系選びと、地域の地図があれば、今回のシ ステムの研究は日本以外でも活用できると思われる。 また、本研究はGPSで取得した位置情報は、RS-232Cでパソコンに取り入れ た。これにより、行動の正常・異常判断はハンディGPSレシーバが手元に戻ってきて 推測していくといった体制である。この部分は、改良の余地があり様々な通信手段を取 り入れていくことで、リアルタイムな情報を取ることも可能になる。また、この情報を 利用することで、異常・正常の判断する材料も増やすことができ、この判断の精度を高 めていくことができると思う。 33 参考文献 [1] shamen-net.com:相対測位,GPS衛星,計測の種類について,(2004/02/09). http://www.shamen-net.com/word/keyword_1.html [2] 海上保安庁:DGPSについて,(2004/02/09). http://www.kaiho.mlit.go.jp/syoukai/soshiki/toudai/dgps/ [3] 久保田 隆成:2地点間の距離,(2004/02/09). http://village.infoweb.ne.jp/ kubota01/program1.htm [4] 杉本 智彦:カシミール3D GPS応用編,実業之日本社出版, (2002). [5] 清水 隆夫,丹波 誠,津守 美弘,後田 敏,納 パソコン/PDAユーザーのためのGPS (株)毎日コミュニケーションズ, (2003). 34 浩史: MANIAXX, 謝辞 本研究を進めるにあたり、日夜遅くまで御指導いただきました高知工科大学工学部電 子・光システム工学科、高村禎二助教授には深く感謝いたします。また、常日頃から多 くの助言、御指導のほどをもらい学習できてきたことを高知工科大学工学部電子・光シ ステム工学科の教授・助教授の皆様にも深く感謝しています。 また、高村研究室の同僚の皆様と、励ましあってきたことにより今の自分があります。 感謝しております。ありがとうございました。 35 付録 1-1 二点間の距離の求め方 #include <stdio.h> #include <math.h> #define PI 3.141592653589793238462 /* 円周率 */ int main(void) { double f1,f2; /* 2地点の緯度(°) */ double fr1,fr2; /* 2地点の緯度(rad) */ double g1,g2; /* 2地点の経度(東経基準)(°) */ double gr1,gr2; /* 2地点の経度(東経基準)(rad) */ double h1,h2; /* 標高(m) */ double a=6378136.0; /* 赤道半径(m) */ double e2=0.006694470; /* 地球の離心率の自乗 */ double x1,y1,z1,x2,y2,z2; /* 2地点の直交座標値(m) */ double r; /* 2地点間の直距離(m) */ double s; /* 2地点間の地表面距離(m) */ double w; /* 2地点間の半射程角(°) (中心角の1/2) */ double wr; /* 2地点間の半射程角(rad) */ double rad; /* 度→ラジアン変換係数 */ double N1,N2; /* 緯度補正した地球の半径(m) */ 36 rad=PI/180.0; h1=h2=0.0; /* ここでは、標高を無視 */ printf("第1地点の緯度、経度(°,西経は負符号)を入力して下さい。--->"); scanf("%lf %lf",&f1,&g1); if(g1<0) g1=360.0+g1; fr1=f1*rad; gr1=g1*rad; printf("第2地点の緯度、経度(°,西経は負符号)を入力して下さい。--->"); scanf("%lf %lf",&f2,&g2); if(g2<0) g2=360.0+g2; fr2=f2*rad; gr2=g2*rad; N1=a/(sqrt(1.0-e2*sin(fr1)*sin(fr1))); x1=(N1+h1)*cos(fr1)*cos(gr1); y1=(N1+h1)*cos(fr1)*sin(gr1); z1=(N1*(1.0-e2)+h1)*sin(fr1); N2=a/(sqrt(1.0-e2*sin(fr2)*sin(fr2))); x2=(N2+h2)*cos(fr2)*cos(gr2); y2=(N2+h2)*cos(fr2)*sin(gr2); z2=(N2*(1.0-e2)+h2)*sin(fr2); 37 r=sqrt((x1-x2)*(x1-x2)+(y1-y2)*(y1-y2)+(z1-z2)*(z1-z2)); /* 直距離 */ wr=asin(r/2/a); /* 半射程角(rad) */ w=wr/rad; /* 半射程角(°) */ s=a*2*wr; /* 地表面距離 */ putchar('¥n'); printf("第1地点の緯度:%lf 経度:%lf¥n",f1,g1); printf("第2地点の緯度:%lf 経度:%lf¥n",f2,g2); printf("直 距 離 :%9.3lf km¥n",r/1000); printf("地表面距離 :%9.3lf km¥n",s/1000); printf("半 射 程 角:%8.4lf °¥n",w); getchar(); getchar(); return 0; } 38 1-2 使用したハンディGPSレシーバのカタログ 39 2-1 用語説明 ①ジオイドとは、地球の7割を占める海の表面を延長し、地球を包み込んだ形を想定し たものであり、この形が地球の平均的な形と想定したものである。 ②VLBIとは、数十億光年の彼方から届く準星の電波を、2ヶ所以上のアンテナで同 時に受信し、その到達時刻の差を精密に計測する技術である。数千kmから1万km離 れた2点間の距離を、わずか数mmの誤差で測量できる。 40