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Ⅲ 卸売業者(水産物)
Ⅲ 卸売業者(水産物) - 28 - 水産物卸売業者 B1 ※会社概要 ・市場種類:中央卸売市場−関東地域 ・水産物卸売業者 ・売上:約 140 億円 ∼共同でマグロの低温セリ売場を導入し、品質管理向上と顧客流出防止∼ 1 取組の概要 (1)取組の内容 ○卸売場内にマグロの低温セリ売場を自費で設置 (2)低温セリ売場の概要 ○建設費は約 6000 万円(卸 2 社で折半負担) ○室内広さ:長さ 30m ×奥行き 13.5m ×高さ 3.8m(405 ㎡。約 122 坪) ○マグロ約 300 本を収納可能 ○マグロの取扱量(年間平均) ・冷凍:150 本程度/日 ・生鮮: 20 本程度/日 ○床面は卸売場より 20cm 嵩上げ ○搬入口 2 ヶ所(卸2社で 1 ヶ所ずつ使用)、搬出口 4 ヶ所(同 2 ヶ所ずつ使用) ・搬入はトラック荷台と低温セリ売場をマグロシュート(滑り台のような道具) でつないで連続的な荷卸しが可能 ・搬出は出口の外にマグロ搬出台がせり出して設置してあるのでトロ4台での 同時搬出が可能 (3)安全・安心配慮 ○温度管理:10 ℃設定 ・20 時頃に空調オン、翌日 06 時頃(搬出終了時)に空調オフ ・マグロは 02:30 頃から搬入を始め、冷凍マグロは 03:00 頃に、生鮮マグロは 04:30 頃迄に搬入完了。 ・早く着いたトラックは(早いトラックは 24:00 頃到着)搬入時間まで待機す ることになるが、冷凍トラックなので問題はない。 - 29 - ○安全管理 ・『マグロ低温セリ場衛生管理マニュアル』を作成して厳守 ・床及び腰壁は抗菌樹脂塗装 ・入場は足洗槽(水道水に塩素剤投入)を経由 ・オゾンガスで室内殺菌(10 ∼ 17:00 の間、15 分おきに天井から自動噴霧) ・床・壁は水洗い後、オゾン水で洗い流す ・室内の床に傾斜をつけて汚水溜まりを防止 ○スノコ利用 ・床にマグロ置台を固定設置するのではなく、アルミ製のスノコを使用し移動 させることができるようにして室内をマグロの量に応じて柔軟に使えるよう にし、また、床に固定設置されたマグロ置き台につまづくことがないように した。 ・スノコは 2,000 × 700mm でマグロ 5 本を置くことができる。 (4)搬入・搬出スケジュール 2 00:00 早いトラックが到着 02:30 低温卸売場へ搬入開始 04:00 下づけ(仲卸業者の下見)開始 04:30 低温卸売場への搬入完了 05:30 セリ開始 06:10 頃 セリ終了−搬出 取組の目的 ○既存顧客の流出の防止 ・当市場の水産物取扱量は対平成 14 年比で平成 17 年には 16 ポイント減少した。 ・導入の目的は、品質管理の向上を図ることにより新規顧客を獲得し、既存顧客の 他ルートへのこれ以上の流出を防ぐことにある。 3 取組の経緯 ○今回設置したマグロの低温セリ売場に併設している特殊品(高級品)用の低温売場 は 5 年ほど前に開設者によって設置された。同施設は「床高が常温卸売場と同じ」 「オ ゾン殺菌装置無し」などで今回導入施設よりはかなりスペックが劣るものであるが 建設費は 1 億円超であった。 ○今回の施設の導入にあたり、開設者に予算の余裕はなく、国の補助金等を受けての 建設となると、いわゆる公共施設基準等をクリアーしなくてはならず、その際には - 30 - 建設費は 1 億円を超えてしまうことが予想され、また、いつ導入できるかも不明で あり、そして永久的に使用料を支払うことになる。 ○自力設置であればトータルで建設コストはかなり落とすことができ、また一定の期 間で償却が可能となることから、最終的に卸売業者自身が費用を負担して導入する ことにした。 ○取扱量等が異なることから他の卸との協議は必要であったが、いずれも導入の必要 性は認識していたことから共同での導入に合意することができた。 ○導入にあたっては他の卸売市場を見学し、情報の提供を受け、また、主たる利用者 である仲卸業者の意見をよく聞いて最終的にスペックを決定した。 ○本市場の低温売場の導入はむしろ後発ではあるが、それだけに先行導入市場の設備 の欠点(固定設置のマグロ置台によってスペース利用が非効率化、トラックから搬 入しにくい 等)を排除し、長所を取り入れた使い勝手の良い設備にすることがで きたと考えている。 - 31 - 水産物卸売業者 B2 ※会社概要 ・市場種類:中央卸売市場−関東地域 ・水産物卸売業者 ・売上:約 1,300 億円 ∼低価格魚に付加価値をつけて販売し、差額を生産サイドに還元∼ 1 取組の概要 (1)取組の内容 ○大衆魚に様々な工夫で付加価値をつけ「お宝ブランド」としてシリーズ販売 ○取組は平成 15 年より ○商標登録済み (2)取り組みにあたっての基本理念 ○基本理念は生産サイドの発展にある。例えば北海道の場合、生産者である漁師の 平均年齢は 63 才、漁船乗組員の多くは外国人、そして多くは赤字経営となって いる。 ○そのような状況では後継者は出ないし、また、若い者が新規に漁師になることも ないので、いずれは生産者がいなくなってしまうおそれがある。 ○中間流通業は生産サイドがあってはじめて成り立っており、川上が枯れてしまっ ては全てが枯れてしまう。 ○そのような状況を改善し、生産サイドに元気になってもらうことを基本理念とし て「お宝ブランド」シリーズを考案した。 ○担当者としては今までは売った買ったの世界しか知らなかったが、この取組を担 当するようになって社会貢献を意識するようになった。 (3)「お宝ブランド」の概要 ○今まで@¥500 ∼ 600/kg の安値でしか取引されていなかったものに工夫して付加 価値をつけ、少しでも高く売れるようにして、高く売れた分を生産サイドに還元 する。 ○とは言え超高値を目標としているわけではなく、 @¥1,500/kg 程度を上限として いる。 ○基本的には 、「煮魚 」「焼魚」でしか食べられなかったものを「生」で食べられ - 32 - るようにするケースが多い。昔からの食文化として、西の地域では生食が主流だ が、北の地域では煮魚・焼魚にして食べることが多いので、「お宝ブランド」シ リーズも北の魚が多くなっている。 ○「お宝ブランド」の具体例は以下。 (北海道のナメタガレイ) ・ピーク時には @¥15,000/kg の卸売価格をつけていたが(仙台ではとくに正 月にナメタガレイを食べる習慣があることから @¥30,000/kg で売れたこと もある)、豊漁で@¥1,000 ∼ 1,200/kg 程度にまで下落した。 ・北海道からの輸送で鮮度が落ちることから煮魚・焼魚としての消費しかな かったので、現地で活〆して空輸して「刺身」として食べられるようにし て@¥1,500 ∼ 1,800/kg にまで卸値を上げることができた。 ・空輸コストが@¥200 ∼ 300/kg 程度かかるが、そのコスト増があっても卸値 は@¥300/kg ほど上昇し、その上昇分を生産サイドに還元することができた。 (アオダイ) ・アオダイは淡泊で特徴がないが、アボガドソースで食べることを提案して ヒットさせることができた。 ○ジワジワ販売が伸びる品目の方が結局、安定して売上が伸びていく。 ○最初にパッと火がついたものはすぐに火が消えてしまうケースが多いのでかえっ て注意が必要である。 (4)「お宝ブランド」の選定 ○何もかも「お宝ブランド」にしてしまってはブランド価値はなくなるので、「お 宝ブランド」委員会(卸・仲卸業者・需要者から年齢・地域が分散して幅広い意 見が吸い上げられるように委員を設定)を設置して、「お宝ブランド」として恥 ずかしくない品目を選定している。「お宝ブランド」委員会では調理方法も検討 して需要者にアピールするようにしている。 (5)「お宝ブランド」シリーズの品目数 ○現在、「お宝ブランド」シリーズは 37 品目あるが、加えて 7 品目が具体化過程に あり、近々 44 品目になる。 ○但し、品目を多く揃えようとすると深海魚まで扱うことになりかねないので、最 終的な品目数として 100 品目程度を想定している。 (6)「お宝ブランド」事業のコスト ○「お宝ブランド」は生産サイドと卸売業者の魚に対する思いと工夫だけで作り上 げているブランドであり、コストはかかっていない。今まで掛かった金と言えば、 商標登録に掛かった 30 万円と宣伝チラシのパッチ代の 10 万円程度である。 - 33 - (7)販売先 ○販売先は業務需要(外食産業等)・専門店が 80%程度を占めている。 ○量販店は大量・均一品質販売で「お宝ブランド」シリーズはあまりなじまないが、 いずれは先方から声がかかってくるものと考えている。 2 取組の効果 ○もともと利益を考えてのことではないが、37 品目になった現在でも、消滅した品目 はなく、生産の継続性に貢献できていると考える。 ○また、本シリーズで当社のイメージも上昇しており、他の魚類販売で相乗効果が出 ており、また、産地における当社のイメージアップにも貢献していると思う。 3 取組にあたっての障害 ○生産サイドは常に積極的に協力してくれているので、とくに障害は感じていない。 - 34 - 水産物卸売業者 B3 ※会社概要 ・市場種類:中央卸売市場−関西地域 ・水産物卸売業者 ・売上:約 2,000 億円 ∼市場外に本格的加工施設を建設して鮮魚の需要拡大∼ 1 取組の概要 (1)取組の内容 ○市場外に加工施設を設置し、鮮魚を一括して衛生的な加工を実施(卸売業者の子 会社が実施主体であったが、現在は共に持株会社傘下の同一グループ内企業とな っている) (2)加工施設の概要 ○延床面積:2,245 ㎡ ○建設費:約 7 億円(施設建設:約 5 億円、機械設備:約 2 億円) ○加工処理能力 ・サーモンを三枚に下ろして真空パック:500 本/日 ・ブリを三枚に下ろして真空パック :300 本/日 ○安全・安心確保 ・魚の品温 10 ℃以下を目安として、加工室温は 15 ℃、製品置場は 5 ℃設定 ・原料受入時に当社の専門検査官が 365 日 2 人体制で検査を行っており、その 検査結果は記録している。 ・ HACCP 認定を取得するつもりだが、現在まだ作業工程が確立していないの で、作業工程を整理・改善し、安定した後に取得する予定である。 (3)業務の概要 ○顧客はグループ会社の卸売業者、その他一般需要者であるが、現在はグループ内 卸売業者の占める割合が高い。 ○鮮魚加工であることから取引形態は受注生産が基本であり、卸売業者からの発注 を受け、産地から鮮魚(主として養殖魚)を買い取り、加工して販売する。 - 35 - ○現在の主要品目は以下 ①ノルウェーサーモンのフィレ加工 ・もともと貿易業務での輸入品目であり、今は加工して販売することが可 能になった。 ・原体は空輸で週に 4 回届き、加工後、真空包装で 4 日間保つ。 ②ハーブ仕立てブリのフィレ加工 ・ 16:00 に養殖場で活け締めしたものが 17:00 に届き、その後、加工して 24:00 に発注市場に納入。 ・ブリは真空包装で製造後 7 日保つ。 ③チリ産トラウトのフィレ加工 ○稼働時間:03:00 ∼ 23:00 ○作業員の手配 ・派遣会社と契約して現在、最多時で 25 名程度が作業に従事している。 ・同人数で現在の処理量の 2 ∼ 3 倍は処理できると思っている。 ○業務スケジュール ・「12:00 受注」→「15:00 加工開始」→「20:00 出荷」→「22:30 市場到着」 ・量販店の場合、1週間程度の長期発注スケジュールがもらえるので助かる。 2 取組の背景 以下を背景に卸売業者が単独で市場外に加工施設を設置することになった。 ①需要者サイドが鮮魚加工を敬遠 ・需要者サイド(量販店、外食産業等)がゴミ発生量を削減するために、また、ス ペースを売場として有効活用するために鮮魚加工を嫌がるようになり、鮮魚が丸 のままでは売れにくくなったため、中間流通業としても加工機能を持つ必要があ った。 ②市場内での非効率・非衛生加工 ・市場内では仲卸業者が既に加工業務は行っていたが、各店舗内で個別的に小規模 で行っていることから衛生面・効率面で問題があり、顧客ニーズにより高度に対 応していくことが課題であった。 ③市場内共同加工施設が実現せず ・当初は、市場内の関連業者が協力して市場内に共同加工施設を新規に建設するつ もりであったが「必要とする加工機能が仲卸業者ごとに異なり、新規施設の機能 を統一できない」「仲卸業者に資金的余裕が無い」等について意見がまとまらず 実現できなかった。 - 36 - 3 今後の課題 (1)稼働率の向上 ○サーモンは定番化して安定した柱になりつつあるが、現在、稼働率は 30%程度 であり、2 年目には 100%稼働を目指している。 ○関西では弾力のある食感が好まれることから、ブリについては消費地加工で高鮮 度・高価格を狙っていたが、当初の計画通りには販売できていない。消費地加工 は地加工に比べて鮮度・食感等は間違いなく高品質化しているが、産地で加工し て消費地へ直送することと比べると物流コストが割高になってしまい、採算も予 定通りにはいっていない。 (2)アイテム数の拡大 ○販売品目を増やして、その中から採算の取れる柱となるアイテムを育てていかな くてはならない。 ○原材料の仕入についても、産地直接仕入のみではなく、今後は優秀な産地・品目 を抱えている他市場からの仕入も増やしていきたいと思っている。 (3)顧客の確保 ○顧客の確保へ向けて、グループ内の卸売業者に安定顧客となってもらうべく努力 している。 (4)加工企業としての機能向上 ○利益の確保が当面の重要課題であることはもちろんであるが、もともと企業グル ープとしての加工機能を強化するという戦略的位置づけで取り組んだ事業であ り、グループの重要な機能を担う企業として業務レベルをあらゆる面で向上させ ていかなければならない。 4 その他 ○取組主体は以前は水産物卸売業者の子会社であったが、卸売業者グループ全体の持株 会社が設立された現在では、両者とも持株会社の傘下企業となっている。 ○取組主体は設立時(平成 7 年)は貿易と物流を主要業務としていたが、その後、物流 業務はグループ内の他社に移管し、平成 17 年に水産物加工を始め、現在は貿易と水 産物加工を主要業務としている。 - 37 -