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空の英雄が感動した日本のおもてなし

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空の英雄が感動した日本のおもてなし
作家
元国際線乗務員
黒木安馬
【プロフィール】高校時に米国留学後、早稲田大学を経てJAL国際線客室乗務員として30年勤務。世
界初の「カラオケ・フライト」や「1万メートル上空・北島三郎機上コンサート」
などを実現させる。千葉の自
宅は1300坪の山林を開墾してプール、
テニスコート、
コンサートホール等を手作りする。現在、㈱日本成
功学会社長として自己啓発や社員教育で講演中。著書に『ファーストクラスの心配り』、
『あなたの人格
以上は売れない!』(プレジデント社)、
『 成「幸」学』(講談社)、
『 出過ぎる杭は打ちにくい!(
』サンマーク出
版)
『
、 面白くなくちゃ人生じゃない!』(ロングセラーズ)、
『小説・球磨川』(上下巻・ワニブックス)
などがある。
E-mail:[email protected] URL:http://www.3percent-club.com
21世紀だ!
人生・農業リセット再出発 163
空の英雄が感動した日本のおもてなし
「翼 これは、大西洋を単独無着陸でニューヨ
の中を飛行機に近づいてくる小舟がある。老人と少
ークからパリまで初飛行に成功した米国の英雄・リ
屋まで引き返すと、芋と魚の煮物など食べ物を持っ
ンドバーグの言葉である。プロペラ一つの単発機、
て戻ってきた。食べろというしぐさで、ニコニコし
全長8.4m1人乗り「The Spirit of St. Louis」号。
ている。リンドバーグ夫妻はこの小さなできごとに
よ、あれがパリの灯だ!」
年が乗っているが、言葉は通じない。小舟は岸の小
芥川龍之介が自殺、大正天皇の葬式があった1927
心から感動した。名前もわからない老人と少年の笑
年。日本でそんなできごとがあった年の5月20日に
顔、ささやかなごちそう。日本で受けた各地の歓迎
離陸。
飛行距離は5,810km、飛行時間は33時間29分
のなかでも、あのときこそが最高の歓待だったと数
30秒。自転車屋のライト兄弟が初飛行36mに成功し
ページにわたって記述している。その後、夜明けを
たのが1903年だから、飛行機誕生から24年後の世
待って湖上から飛び立って日本最初の寄港地である
界記録である。我が国では、日露戦争3年後の1907
根室にようやく着陸したが誰もいない。役人が飛ん
年12月に私の故郷、熊本県人吉出身の日野熊蔵が初
できて言うに、
「朝早すぎて誰もいないから時間をず
飛行を東京の代々木公園で成功させている。
らしてもう一度着陸してくれ」と。呆れた夫妻は、
リンドバーグの父親は国会議員で、母は化学教師。
海上に飛行機を浮かべて待機し、指定の時間になる
本人は曲芸飛行でアメリカ軍航空隊ではトップの成
と大げさに爆音を轟かせて旋回してみせ、黒山の人
績だったとはいえ、大西洋の海上を34時間近く一睡
だかりに囲まれた滑走路に降り立って世紀の瞬間を
もしないで操縦桿を握りっぱなしの単独飛行! 睡
見せた。
魔と疲労で墜落するだろうに、英雄の気力と体力は
さすがに英雄はパワフルだったのだろう、奥さん
尋常ではない。自動車だったら停車して数分の休憩
との間に6人も子供を設けている。片や“英雄色々
も可能だが、まだ自動操縦装置があるはずもないか
好む”のか、ドイツで帽子屋を営んでいる女性ヘス
ら高度と進路計から片時も目を離さずに、1分すら
ハイマーとの間に3人もの子供をつくり、彼は死ま
目を閉じることもなしで、ヨーロッパ大陸まで一直
で関係を続けていた。
線に飛行するのは神業に近い。
あまり知られていないが、姉が心臓弁膜症だった
リンドバーグは4年後の1931年に奥さんと2人乗
ことから、彼は世界初の人工心臓の開発も手がけた
りの水上飛行機「シリウス号」で、北太平洋航路調
人物なのである。太平洋戦争では、日本兵の捕虜が
査のため、ニューヨークを離陸し、アラスカ経由で
各戦地で数千人単位なのに、米軍収容所に残ってい
中国へ向かう途中に日本へ寄港した。妻のアン・モ
るのは100人足らずしかいないことに気づき、投降
ローは『North to the Orient・翼よ北に』に書いた。
した日本兵はその場で虐殺されてしまっている現実
アリューシャン列島、カムチャッカ半島と抜けて北
を告発している。だが、戦勝国主導の東京裁判では
海道へ向かったが、悪天候で視界不良と無線機故障。
すべて無視されて末梢された。
湖面を必死に探して不時着水。根室の手前だとはわ
かるが、国後なのか択捉なのか不明。すると、モヤ
英雄とは、正義の心も、直情も強くあってこそな
のであろう。
農業経営者 2014 年 9 月号
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