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2012年11月

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2012年11月
bicoid NOTE
NOVEMBER 2012
Nobuyuki OKAHISA
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121101:0105
雨が降り止まない
僕くらい多忙な人間となると「気象現象」という言葉を聞
くたびにしばしば出鱈目な故事成語をあてはめてみたりする
わけだけど、そのためか、このところふと気がついたら雨粒
に打たれていることが多い。心の問題としてではなく、純粋
にひとつの気象現象として。肝心なときに傘が無い男の当然
の帰結として。
こんな風に、残業まみれで疲弊した相手が何を言おうとし
ているのかさっぱり見当もつかない時は、まず自分が何を聞
こうとしているのかを心に尋ねてみると良い。心の中にその
形を描けてこそ、物事の成り立ちが見えてくるのだから(−
『気象現象』)。
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121101:2335
退屈の正体
わ、びっくりした」と言われた人がどれくらいびっくりする
かを、今後は丁寧に考えて欲しいと切に願う。
幼稚園の帰り道、息子が「うちは女の人ばかりだから弟が
欲しいんだけど」とわがままを言うので、奥様が「ゆうちゃ
ん(犬)がいるからいいでしょ」と答えると「ゆうちゃんは
湊より年上でしょ。中身おじいちゃんでしょ」と冷静に指摘
かなり切羽詰まった現場で、午前九時から午後八時までひ
たすらキーボードを叩き続ける日々。やるべき事が定まって
があったそうだ。洞察は正しいけれど、それなら兄として男
側にカウントしようとは思わないのか。
いるときは、時間が流れるのがずいぶん早く感じる。
つまり、日々の生活が退屈で仕方ないように思える人は、
目標や指針を定めていないからであろう事を看破したわけだ
けど、だとしたら「ついに退屈の正体を見破った」と退屈な
文章を書く行為のどこに救いを求められるだろう。
帰宅して明かりも点けずに夕飯を食べていると、和室で寝
ていた奥様が音も無く起き上がって「うわ、びっくりした」
と言った。こうした具合に、自身の頭に思い描いた言葉をそ
のまま丁寧に声に出せる人は、暗闇でとつぜん背後から「う
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尋ねられて、「一日中、文字を打ったり消したりしてます」
121103:0100
最後のとき
と真面目に回答しているうちに夜はふけていく。
聞くところによると、亡くなられたお祖父さんは、ほんの
二、三日前にいま同席している親族の方々と温泉旅行を楽し
んだところだった。そして昨夜から今朝にかけての時間帯の
どこかで、自宅の浴場で亡くなった。人生最後の入浴はどち
近頃は勤務中にiPhoneを手に取る頻度が如実に下がるくら
い仕事に集中しているけれど、今日はたまたま昼食の時間を
確認しようと手に取った瞬間にメールが届いた。差出人は奥
様で、彼女の祖父が亡くなったという連絡だった。
らの湯だったのだろう。
お祖父さんとの間柄がほとんどわからない親族の方々と言
葉を交わしながら、僕は「人生最後の」が明確に記憶される
生き方を想像してみる。もしかしたら僕は既に人生最後の卓
球を終えているかもしれない。人生最後のカラオケを歌い終
えているかもしれない。そして人生最後の文章を書きはじめ
僕はほとんどまったくと言って良いくらい縁のない間柄な
ているかもしれない。
ので、一日の仕事を最後までやり終えてから吹田へ向かうこ
とにした。およそ二十一時くらいに公益社に
り着くと、夜
遊び気分ではしゃいでいる子供たちが出迎えてくれた。気持
ちはとてもよくわかる。
はじめてお会いする親族の方々に「……パソコンでどんな
お仕事してはるの」と興味本位に(もしくは社交辞令的に)
奥様の両親は泊まるというけれど、孫の間柄でそこまです
る事もないと言われ、僕は現場に着いてから二時間もしない
うちに家族に促されて席を立った。外に出ると辺りにはもう
立派に冬の風が吹いていて、その冷たさは驚くほど寂しさに
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似た感情を呼び起こした。そういえば冬に生まれた僕は、冬
に死んでいくイメージしか持ち合わせていない。
バイパスの街灯を数えるのに飽きて、助手席で日中に届い
たメールを確認していると、シグマから八千円でレンズの修
理が完了したと連絡があった。人の手は場合によってはなに
かを生き返らせることができるのだ。
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121104:0111
蘇ったいくつかの物事
単焦点レンズに慣れてしまった今となっては、ピントを掴
むタイミングやシャッター速度に気を使うだろうけれど、そ
れでも使いたいと思えるだけの熱量が、ここには詰まってい
るように思える。
以前、村上君から、シグマのアフターサービスがいかに素
晴らしいか(丁寧なやり取りで問題を追求し、直接は関係の
ない外装部分まで新品になって返って来たらしい)を聞い
て、半信半疑でレンズを修理に出してみたのだけど、僕の届
けた六年以上も前のレンズもたった八千円で見たところ新品
になって返って来た。実にすばらしい。こういう事される
と、漢字で書けないくせに無条件に贔屓にしたくなります
ね。
嬉しさのあまり最望遠にして室内を連写していたら、ピア
ノの足下に、ずっと前に無くしたと思っていたギターのピッ
クが顔をのぞかせているのを発見した。
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121104:0957
それぞれ溶けていく
の音楽に心躍るのは必然なのかもしれないけれど、彼が亡く
なったわずか四日後にこんな事があったと知る。温度が落ち
着いてからであれ、知ることができて良かった。
当時の僕の日記を読み返してみると、「ゲレンデが溶ける
ほど退屈」と書いてあった。もはや人としてどうかと思う。
土曜日の夕方。西宮を訪れたついでに、先日話題にあがっ
た研進館を探してみたら、とっくに移転していたようで最高
の立地、最高の設備になっているらしい。そういえばそんな
を耳にしたような。「最高の立地」ということはすなわ
ち、講義をさぼってカフェに寄るには不便になったというこ
と。
『FAB FOX』を何度か繰り返して聞く。曲が終わる直前にも
う一度先頭に戻してしまうせいで、再生回数がぜんぜんカウ
ントアップされない。久しぶりだ。
学生時代にユニコーンをリピート再生していた僕みたいな
人は、奥田民生をきっかけに音楽の道を志した志村正彦さん
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121104:2036
時に世界は猫の額のように
仕方がない。世の中の仕組みがわからない。とくに男子の恋
愛観とこの冬の愛されカラーがわからない。
と、唐突にan・an読者的な装いで話を運ぶことに微塵もた
めらいはないわけだけど、このマンネリ化しつつある「話の
最後でせっかくの流れを台無しにするいつもの手口」をもっ
て、訪れて下さる方々への感謝の言葉としたい。ありがとう
ございます。
先日、「サイト管理者であるからには、アクセス数くらい
確認せねば」と管理画面を開いたときに驚いたことがもうひ
とつ。数ヶ月前にリンクを消して、普通には
り着けないは
ずの猫の話に、コンスタントに月間100前後のアクセスがあ
る。なんということ。
すこし思い出してみると、あの文章は数週間前にもっと短
いものを書いてから、後日談を付け足すべきかなという思い
があって書き始めたものだった。ところが、キーボードを叩
き始めてみると、前にも後ろにも削るわけにはいかない物語
があるように感じられたので、一万二千文字を超える分量に
なったのだった。
元々、リンクを消したことに深い意図があるわけでもなく
(ページ構成を整理するつもりで一時的にリンクを消したの
だけど、その頃から2014年ブラジルW杯予選突破を目標とし
たハードワークで時間が取れなくなった)、むしろせっかく
書いた長めの文章なのだから暇つぶしにであれ読んで頂ける
ことは大変嬉しいのだけど、検索エンジンから飛んでくるよ
うな特徴的な単語が使われているわけでもないし、不思議で
ひさしぶりに読み返してみて付け加えられる部分があると
したら、文中で序盤に登場する「佐野君」とやらは、Podcast
で僕があげている「ノサ」の事であり、同じ会話から編集で
消した(いわゆる『ピーを入れた』)多くの部分に、猫の拾
い主の中田さんが登場している。この世界は狭いがゆえに広
い。
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121108:0016
東京炎上
とか言いながら、それらの初登場ミュージシャンとは関係
なく、帰りの電車では
で今もっともホットな東京炎上をリ
ピート再生していた。一曲に惜しげ無く詰め込まれたアイデ
アの数々に、何度聞き返してもそわそわしてしまう。
今月はこれまでに比べて幾分忙しいので、せめてもの慰め
で割と高いコーヒー豆を買った。
四、五年前からずっと酸味の強いキリマンジャロが好きだ
ったけれど、近頃は割とはっきりと苦みの強いものも飲みた
くなる。とはいえ、後輩とたびたび訪れた丸福珈琲店は、僕
は口に合わずあんまり感銘を受けなかった。その苦みと濃さ
で有名なのだけど。
iTunesでSONY系列のミュージシャンの楽曲が買えるよう
になったという記事を読んだ。今更ではあっても、確かにラ
インナップに厚みが出て喜ばしい。
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121109:0014
夜空と天花粉
幼い頃、祖母に首もとにふられた天花粉の匂いもとても好
きだった。当時は何の役に立つ粉なのかさっぱりわからなか
ったけれど、僕にとってはその匂いを思い出す事にこそ意味
があるのかもしれない。星がなんのために夜空に浮かんでい
るのかよりも、それらを見上げることにこそ意味があるのと
同じように。
必要に迫られてAccessを触っているのだけど、そのいつま
でも馴染まない触り心地に、人道的観点から見てとれる配慮
の欠如というか、ある種の禍々しささえも感じはじめてい
る。
どこまでが処方された薬のおかげかわからないけれど、今
年の秋はあまり咳が出ない。時折、錠剤を飲み込むのに失敗
するキュートな僕だけど、一応毎晩欠かさず続けているの
だ。
毎晩の事といえばもうひとつ、寒い時期に頬に薄く塗るニ
ベアクリームの匂いが好きで、この季節の洗面台の鏡には夜
な夜な幸せそうな顔をした僕の顔が写っている。
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121111:0141
コーヒーアクセス
た面倒な質問は行われない)、僕はひとりでその奇妙な違和
感を楽しんでいた。
注文した二杯分のポットが卓に置かれるのを合図に、たっ
ぷり二時間コンピュータの画面を睨みながら、早めのものと
遅れがちなもの計四通のメールを書き、Accessのウインドウ
を開いては叩き落として帰宅。
僕の知っているマイクロソフト製品なんてたかが知れてい
正午前から一人で伊丹と塚口の大型ショッピングモールを
散策し、帰宅して夕方まで宿題。
るけれど、Accessが一番苦手かもしれない。どのような操作
においても、Windows XPの「使用していないアイコンがデス
クトップにあります」と同じくらい苛々する。
夕食のあとにふと思い立って、Macを抱えてHIRO COFFEE
を訪れることにした。中山寺に住み始めた頃からほぼ欠かす
事なく月に二回ほど訪れているのに、この店では豆を買うば
かりで席に着いたことがなかったのだ。
帰り道、何年か越しの目標に手を伸ばして、ようやく(よ
うやく)大橋トリオのファーストアルバムを聞いた。世界は
温かな光に彩られていて、Accessさえも幸福の象徴となり得
ると思った。思ったと見せかけて、やはり直後にAccessのウ
当たり前だけれど、応対してくれたのは見知った店員さん
インドウだけは叩き落とす。
だった。念のため連れ合いの人数を聞かれるのも初めての事
で(『……秋が深まり冬の足音が忍び寄るこの季節、貴方の
中にはほかに何人の貴方が存在すると感じますか』、といっ
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121111:1015
毎週土曜は妖怪の日
の強い枠に果敢に立ち向かったのが聖闘士星矢だったと記憶
している。
とは言っても、沙織お嬢さんのドレスのスカートが地球を
包み込むほど広がる、わりとどうでもいい光景しか覚えてい
ないんだけど。
昨晩は日付が変わって三時間ほどしたところで就寝。自治
会の一斉清掃作業があるというので午前九時前に目を覚まし
たけれど、予想していなかった雨で予定が流れた。奥様は長
女の靴を買うため二人で出かけてしまったので、家で残った
二名の子供たちと犬とともにAccessの悪口を言っている。
日曜日の朝、『まんが日本昔ばなし』を再放送しているの
かと思ったら、『日本の昔ばなし』という別の番組で、スタ
ッフの繋がりもないと記述がある。
土曜日の夕方というと、ゲゲゲの鬼太郎、悪魔くん、日本
昔ばなし、あたりがごちゃ混ぜに並んでていて、その妖怪色
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121115:0020
告白
かように声に出さずとも歌う技術を持ちながら、なんの価
値もない告白をこうして声に出してしまうジレンマを抱えた
僕よ、明日はどこへ向かえばいい。
人は誰しも他人に言えない秘密を抱えて生きているとい
う。
圧倒的な眠気に負けて、今宵、僕のそれをひとつだけ告白
するならば、翌日が燃えるゴミの日で、なおかつまだ自室の
ゴミをまとめて玄関まで持って下りていないとき、タスクを
忘れないためにシブがき隊の「スシ食いねェ! 」のメロディを
思い描きながら「ゴミ出しねェ!」と心の中で歌っている場
合がある。
場合があるというか、声には出さずともだいたい十中八九
歌っている。玄関にゴミ袋を持っておりるまで断続的に歌っ
ている。
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121119:0043
この先に引かれる線
について
てみるならば、むしろかなり密度の濃い物語が我々の含まれ
る客席側にこそ紡ぎだされていたと言える。
二時間を経て建物を出ると、ここへ来たときとまったく同
じ調子の雨足が、不自然なほど無愛想に我々を出迎えてくれ
た。
数日過ぎてしまったけれど、日曜日は次女の誕生日祝いを
土曜日は、とある上層部からの依頼で、マリンバの演奏と
朗読を組み合わせた不思議なコンサートを訪れた。
三十四歳の男性が訪れるには幾分キュートすぎるプログラ
ムではあったのだけど、そこにはマリンバという単語からは
想像もつかない広がりのある世界が紡ぎだされていて、二時
間のプログラムを二時間と感じさせないほどの大変心地良す
ぎる時間が過ごせた。
演奏中、ふと隣を見れば、僕とおなじ理屈でここを訪れた
村上君が座っている時点で相当の違和感があり、そしてま
た、数時間さかのぼって午前の部では、我々とまったくおな
じ理屈でここに杉尾さんが腰を下ろしていたのだと振り返っ
するため奥様の実家へ。誰も食べたがらないので僕ひとりで
目一杯カニを食べた。「カニカニどこカニ?」と名言を発す
る必要性は特に感じなかったので、終始無言。
時間を持て余した子供たちが台所で絵を描くのを見ている
と、いつの間にか長女の画力が幾分変な方向に成長してい
る。手元に図鑑を開いて、そこに収められた写真を確認しな
がらお気に入りの動物たちをスケッチしているようなのだけ
ど、バランスを無視して想像で補いすぎる幼稚さが減じて、
全体の中で特に躍動感を生む大事な線を、きちんと把握しな
がら描いているように見える。
人は誰しも通過儀礼として一度は水彩鉛筆に憧れるものだ
けど、彼女はこの先、その手に握ったなんの変哲もない色鉛
筆で、どういった線を引いていくのだろう。
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121119:2335
地図や音楽の話
こうなってくると、久しぶりにiPhoneの残り容量が気にな
ってくるのだけど、容量というキーワードでもうひとつ気に
なるのが日本でのiTunes Matchの開始時期。
デバイスに音楽ファイルを置かなくてよくなるのだとした
ら単純に20GB近くも余裕が出てくるのだけど、将来iPhone 5
なり5Sなりに機種変更した暁にはLTEの7GB制限を意識する
必要が出てくるわけだから、あまりMatchしてられないかも
しれない。
iOS 6になって確かに生活に影響の出ている地図問題だけ
ど、震災時の例の対応以来、すっかりファンになった人も多
いであろう本日のMapFan+のリリースはとても心強い。少し
触ってみただけでも、MapFan for iPhoneに比べフリーワード
検索がしやすくなったし、操作系もさらに洗練されたし、音
「これじゃまるで、モバイル系ブログじゃないすか」と感想
を持たれんがために、たまにこういうテカテカしたiPhone周
辺情報ばかり並べて悦に入る僕。
声ナビはOS標準の反抗期の帰国子女っぽくないし、オフライ
ン地図としてダウンロードしてしまえば相変わらずサラサラ
と動く。大変よろしい。無料版でも十分に使い勝手が良く
て、アプリ内課金に抵抗のある人でもありがたみを感じられ
るバランス感覚からは、自然と好印象を受ける。
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121121:0106
食事風景としてのキス
劇中に流れる音楽はタイトルを知らない曲であってもどれ
も違和感なくハマっていたし、青白い薄明かりの下で主人公
と直子がキスするシーンなんかは、なんかむしゃむしゃと互
いの肉を食べ合っているような身体性のある描写で、思いの
ほか良かった。全体に目をやれば(そして細部を洗い直せ
ば)欠点や文句はいくらでもあるけれど、僕がそこに抱くの
はそもそも「映画としての欠点」ではないようにも思える
し。
演奏者の名前も経歴も知らないくせに、わりと激しい雨の
中をマリンバのコンサートに訪れて二時間座席に着くことは
それほど(それほど)抵抗なくできるのに、同じくらいの時
間で観終わるはずの『ノルウェイの森』は結局途中で再生を
やめてしまっている。「……あの映画の感想をそっと胸に秘め
そのうちまた続きを観るかもしれないから、あんまり断定
的なことは書かないでおこう。繰り返しになるけれど、むし
ゃむしゃとキスするシーンは結構良かった。
て公言しない辺り、彼ってば大人の男性なんだな」と見せか
けておいて、まさかの途中放棄。互いに無得点、無失点のま
ま原因不明のコールドゲーム。
今日という日ならば案外容易に、おそらく一番わかりやす
い自身の姿勢の表明として「私はこの映画が嫌いです」と大
島優子さんの声真似で見解を述べるやり方が選択できるけれ
ど、僕はべつに嫌いになったわけでもない。
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Nobuyuki OKAHISA
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