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12月の日記 - bicoid

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12月の日記 - bicoid
bicoid NOTE
December 2012
Nobuyuki OKAHISA
i
121202:2245
紅白欠場
というわけでいつの間にか多忙を極める毎日だけど、この
年の瀬は既に土日の予定がほとんど埋まっている状態であっ
て、強がりでもなんでもなく、今年も紅白出場のお誘いがか
からなかった点はむしろ都合が良かったと言える。
なぜ数日間サイトを更新していないのかと尋ねられても、
僕の実生活が、更新どころか後退しているからです。とくに
就寝時間が。どんどんうしろにずれてる。そしてまたあいつ
の足音が聞こえる。夜明けが近づいてくる。
ただ、そうした限られた時間のなかで僕が何もしてこなか
ったわけではない。僕の実力を甘くみないでほしい。
わかりやすい例でいえば、たとえば僕は石川佳純選手のフ
ァンになったりした。これはまぁ、今日の夕方に偶然見たド
キュメンタリー番組の影響ではあるのだけど。たぶんあの
娘、おじいちゃん思いの良い娘だと思う。少なくともさっき
の番組ではそういう感じだったし。
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3
121204:0025
手つかず治虫記念館
が去ってしまったように思える。寂寥感にも似たこの想いが
いつか、春の訪れとともに懐かしさを帯びた微笑みに変わる
のだとしたら。
― 冒頭にどうでもいい文章を書いたときには、せめて最後
にしんみりと心に染みる一文を残したいと思っている。
忙しくて個人的なものごとに取り組む時間が確保できず、
色々手つかずのまま放置してしまっている。
もし仮に僕が宝塚出身の漫画家だったなら、手つかず治虫
という脱力系のペンネームでデビューし、そのインチキっぽ
い画風を持て余して熱烈な読者を確保するにも至らず、家計
が火の鳥になるんだと思う。幾度破産しても蘇る不死鳥。ま
ぁ、あくまでファンタジーを基軸に置いた仮の話なんだけ
ど。あと、神経質にディティールを補正しておくと、手塚治
虫先生はべつに宝塚出身というわけではない。
どれだけ力を尽くしてみても、我々がその善悪や真価を見
定めることのできぬまま、街からは今年、黒レギンスブーム
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121205:2331
ロケ
昨日、仕事を終えて建物の玄関をまたぎ、内側からロック
がかかった音を認識した瞬間、いまにも心に羽が生えて、一
息に大地を蹴ればきっとこのままどこまでも翔んでいけるよ
うな身の軽さを覚えた。つまりコートを羽織るのを忘れてい
ることに気がついた。定期も財布も
の中だから特に困りは
しないのだけど、実際問題として羽の有無に関係なく寒い。
仕方がないのでそのまま帰宅したけれど、翌朝、最寄り駅
のホームでは、僕を中心として奇妙に憐れみを覚える風景が
あった。まぁ、そうはいっても「……あれ? もしかして実写
板? ……いまさら『マッチ売りの少女』が映画化される
の?」と怪しまれる程度に、小刻みに震えていただけなんだ
けど。
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121209:1534
彼女の主張
頭までかぶった布団のなかで目を開けたまま、結局僕は何
を求めているのか、という事をじっと考えていると、夜明け
が近づいていた。電線に並んだ雀たちは、一日のはじまりと
朝焼けに染まる東の空の美しさに心動かされて鳴くのではな
く、眠りを妨げられることに抗議しているだけなのかもしれ
ない。
昨夜、夕食の席で娘が紙芝居を見せてくれた。昼前から描
き始めてようやく下絵が完成し、これから色を塗るらしい。
完全な盗作ではあるけれど、自分が好きなものをはっきりと
主張できる姿は微笑ましい。
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121212:0015
からい眠さの是非
もしも今、この疲弊しきった僕の目の前に美輪明宏さんが
立ち、ゆっくりと言葉を選ぶようにして「私は人の悩みを食
べて、涙を飲んで生きてるの」とおっしゃったとしても、
「そうですか」としか言えない。
中学生の頃よく聞いた曲に、「涙ってどのくらい出るもの
かと試してた十二月」ではじまる詩があるのだけど、さなが
ら昨今の僕は、睡眠ってどのくらい削れるものかと試してる
十二月。片仮名でネテナインデスと表記すれば一気にポルト
ガル人っぽくなるけれど、ネテナインデスよりネテルンデス
の方が実直でさっぱりした印象がありますよね。
最近、睡魔と戦うためにあえなく刺激の強いミンティアを
口に放り込むのだけど、それって単に「眠さ」が「からい眠
さ」に変わるだけ、って事に気づいた。睡眠保存の法則って
いうか、ラプラスの睡魔っていうか。
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121221:0209
古今混濁夜話
むかしむかしある所に、とても睡眠時間の短いプログラマ
と、とても更新頻度の低いウェブサイトがあったそうな。あ
とめちゃくちゃ内容の薄い昔話もあったそうな。「そうな」
って書けばなんでも昔話に聞こえそうな気がするそうな。
様態の助動詞と伝聞の助動詞が、出口のない文脈と入り口
のない意識を混濁させて、僕はしばしの眠りに落ちていく。
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121223:0315
投函
あまり使わない
のポケットに数枚、まだ投函していない
2012年の年賀状があることを発見した。
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121225:0056
暴力とサンタ
が発見したのだ。その拳を握りしめたなら、満面の笑みで
Wii Uを買ってきたサンタさんを力一杯殴るといい。
クリスマスイブなので午前九時からまばたきを停止し、二
十三時半に帰宅。
同じ作業場で、中国人の男女に作業を進めるための手ほど
きをする事になったのだけど、男の方は日本へ来て六年、他
方は四年と言うわりに、ずいぶん日本語の読み書きが堪能で
驚いた。きっと僕が宇治拾遺物語を読むほうが三億倍くらい
遅いだろうと予想。
子供たちが欲しがっているクリスマスプレゼントのうち、
ひとつ用意する事ができなかった。茜が布団に入る直前に、
枕元に隠したサンタクロースへの手紙に「サンタさんへ、
『ヘアコレラブリボン』がほしいです」と書いてるのを奥様
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bicoid NOTE
December 2012
©Nobuyuki OKAHISA
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