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発生遺伝学講義ノート
http://www.tuat.ac.jp/~flylab/DevGenetics/DevGen1.htm
これは東京農工大学農学部応用生物科学科の2年生向けに開講されている分子生物学2の
後半部分(辻村担当)の発生遺伝学の講義ノートです。学生の皆さんが、このノートを効果的に
勉強に生かされることを期待します。
2012年 11 月 辻村秀信 [email protected]
教科書
「昆虫 超能力の秘密」
西田育巧 編
共立出版
1章、2章、5章
「Developmental Biology 9th ed.」by Scott F. Gilbert, Sinauer Association Inc.
「Principles of Development 4th ed.」by Levis Wolpert, Oxford Univ. Press
「発生生物学キ-ノート」
by R.M.Twyman
ショウジョウバエの章
ショウジョウバエの章
八杉他訳 ショウジョバエの章
参考書
「細胞の分子生物学
第 4 版」発生の章
ブルース・アルバート他著 ショウジョウバエの章
「遺伝子 第8版」発生の章 ベンジャミン・レビン著 ショウジョウバエの章
「ホメオボックス・ストーリー」ワルター・ゲーリング著
東大出版会
この講義ノートのテキストの印刷の仕方
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成績
試験 35(30+12)点、 出席 7点、 レポート 8点
レポート 書式と長さ
ワープロ 縦 40行 横 45文字 2ページ(約3600文字)
テーマ はじめに 本論 おわりに 参考文献 の順に書く。表紙不要。
テーマ 「細胞死に関係するヒトの病気のしくみ」 〆切 1月14日(木)
目次
11 月30日
第0章 ショウジョウバエの分子遺伝学
11月30日
第1章 バランサー染色体
12月7日
第2章 P因子を利用した遺伝子組換え系
12月8日(土)
第3章 胚発生の分子遺伝学
12月8日(土)
第4章 母性効果遺伝子と体軸の決定
12月14日 休講 分子生物学会(福岡)
12月21日 1限目
第5章 ギャップ遺伝子、ペアルール遺伝子
1月11日
第6章 セグメントポラリティー遺伝子
1月18日
休講 センター試験準備
1月25日
第7章 ホメオティック遺伝子
2月1日
試験
2月1日 (補講)背腹軸方向のパターン形成
第0章 ショウジョウバエハエの分子遺伝学
第1節 モデル生物におけるゲノムプロジェクト
モデル生物(細菌) 大腸菌
(植物) シロイヌナズナ
(菌類) 酵母
(動物) 線虫、ショウジョウバエ、(ゼブラフィッシュ)、マウス
染色体のDNAの全塩基配列の決定とゲノムライブラリー。
全mRNAの配列の決定と cDNA ライプラリー。
現在、ポストゲノムプロジェクトが進行中。
プロテオミックス
機能ゲノム
全てのタンパク質の立体構造と分子機能の解明。
すべての遺伝子の生物機能の解明。
突然変異系統と遺伝子強制発現系統のライブラリー。
比較ゲノム
生物進化や生物種の特徴が生じるしくみを解析。
多様な生物種のゲノムを比較解析。発現調節の解析。
第2節 ゲノムは生物間で高度に保存されている
ゲノムプロジェクトと遺伝子研究により明らかになったこと。
1.異なる生物間で遺伝子数に大きな差がない。
ヒトの遺伝子総数とハエの遺伝子総数はあまり変わらない。
ヒトの遺伝子 22000 個、 ハエの遺伝子 14000 個
2.異なる生物間で、広範な遺伝子の相同性がある。(分子機能の保存)
ヒトの遺伝子とハエの遺伝子は相同なものが多数ある。
ヒトの疾患遺伝子289個の内177個がハエで見つかる。61%
がん遺伝子67個の内46個がハエで見つかる。68%
3.遺伝子カスケードが保存されている。(細胞機能の保存)
遺伝子発現機構、代謝経路、細胞分裂、細胞運動、シグナル伝達系、
細胞死カスケードなど。
タンパク質間、タンパク質と核酸間、タンパク質と他物質間の相互作用。
4.高度生物機能が保存されている。(多細胞体機能の保存)
がん、発生、免疫、神経機能、老化など
―――>ほとんどの生物機能について遺伝子の研究はモデル生物で行える。
モデル生物の研究と他の生物の研究は相互補完的に進む
モデル生物の研究<――――――>ヒト、他の生物の研究
前衛的・実験的・解析的研究
生物多様性、応用的課題
第3節 ショウジョウバエは遺伝子の機能研究のためのモデル生物である
ショウジョウバエ
生活史と特徴
1.ゲノムプロジェクトが完了している。
2.遺伝学的方法による遺伝子機能解析が容易である。
バランサー染色体がある。突然変異維持のための特別な染色体。
動物では、ショウジョウバエと線虫のみが全ゲノムスクリーニングができる。
3.過去の研究から突然変異と遺伝子組換えハエの系統が多量に準備されている。
2万を超える系統がある。多様な変異系統、遺伝子の異所発現、キメラ解析
第1章 バランサー染色体
第1節 バランサー染色体
突然変異系統の作製と維持、様々な遺伝子型のハエの作製と維持に使われる
特殊な染色体
次の3つを備える。。
1.染色体全域にわたる逆位
2.優性マーカー
3.劣性致死
任意の染色体をそのまま変化させずに継代、殖やすことができる。
1)染色体全域にわたる逆位
正常染色体とヘテロになると、遺伝的組換え(交叉)が抑制される。
マラーが発見
X線 突然変異誘発
染色体異常が起こる。
――>変異染色体をそのまま継代して保存できる。
2)優性マーカー バランサー染色体を持つ個体を見分けられる。
ホモ個体区別が容易――>表現型の解析
Bar(棒眼) 第1染色体 FM
Curly(曲翅) 第2染色体 CyO
Stubble(単剛毛)または Serrate(切れ翅) 第3染色体 TM
*Prickly (Pr) 剛毛が短く先端がねじれている ホモ致死
3)劣性致死
致死、あるいは、弱い変異を選択なしで保存できる。これがなければ、
毎世代表現型あるいは遺伝子型で選択しなければならない。
(用途)突然変異系統の作製と維持、特定遺伝子型染色体の保存、ホモ個体の
作製。現在のところ他の生物では開発されていない。
第2節 突然変異の分離方法
変異誘発処理を雄に行い、バランサー染色体を持つ雌と掛け合わせ、これが生む子から
突然変異系統を多数分離する。この中から研究の目的にあう表現型を持つ系統を
スクリーニングして、遺伝子研究を行う。全ゲノムスクリーニングという。現在のところ
ハエと線虫でのみ可能。
*突然変異の誘発法
突然変異の3つの要因による
物理的要因 放射線によるDNAの損傷
紫外線 チミンダイマーによる塩基置換の発生
X線
DNA の切断と再結合 染色体異常を引き起こす
欠失、逆位、転座
遺伝子機能喪失、調節領域の変更による異常発現
化学的要因 変異原物質による
EMS(エチルメタンスルフォネート)、ホルムアルデヒドなど
塩基置換、欠失
生物的要因 トランスポゾン、ウイルス
挿入変異による遺伝子機能喪失、挿入により持ち込まれた調節領域による
異常発現
転移時の隣接配列の欠失
第3節 相補性検定と飽和突然変異作製
相補性検定 遺伝学的に同じ遺伝子か否かを決める方法
2つの変異遺伝子をヘテロに持つ(トランスヘテロ接合体)個体を作製し、
その表現型をそれぞれのホモのものと比較する。ホモのものと同じ
表現型なら同じ遺伝子と考える。
この方法で定義される遺伝子の単位を、相補性単位という。
飽和突然変異作製 相補性試験により別の遺伝子と見なされた遺伝子数の増加を
プロットし、遺伝子数が飽和した時点でスクリーニングを終了するという方法。
問題の現象に関係するすべての遺伝子をゲノム中から探し出すために用いる。
第2章 P因子を利用した遺伝子組換え系
第1節 P因子 DNA転移因子
全体約3kbp
逆向き反復配列 31bp
転移酵素の遺伝子
ハイブリッド・ディスジェネシスの原因因子として発見された。
P系統(雄)とM系統(雌)のF1で動く
不妊や突然変異を起こす。生殖系列に特異的な異常
第2節 遺伝子組換えベクターへの利用
ベクターと転移酵素に分けることができる。ベクターに他の遺伝子をのせ、転移
酵素遺伝子とともに卵に注射――>遺伝子導入できる。
様々なエンハンサー・プロモータ hsp70 熱誘導,
elav 神経,
actin 全細胞,
Mhc 筋肉,
ey 眼原基
ベクター系統と転移酵素系統を掛け合わせて、P因子ベクターを異なる染色体、
あるいは染色体の異なる位置に動かすことができる。
第3節 P因子挿入突然変異の作製
挿入変異系統の作製 ゲノム上の様々な位置にP因子を挿入した系統を作製する。
特定の生命活動に関係する変異系統をスクリーニングする。
P因子挿入位置の遺伝子をクローニングする。インバースPCR法。
第4節 エンハンサートラップ法
遺伝子導入時の位置効果からヒントを得た。弱い中立的プロモータにレポ
ータ遺伝子(lacZ, GFP など)をつないで遺伝子導入すると、挿入位置近くの
エンハンサーの影響で、レポータ遺伝子が発現する。このレポータ遺伝子の
発現パターンはエンハンサーが本来発現調節している遺伝子の発現パターンに
一致する。この方法で様々なエンハンサーの発現調節をレポータ遺伝子の発現で
見ることをエンハンサートラップという。
①これを利用して、発現パターンで遺伝子をスクリーニングすることができる。
多数の系統を作製し、この中から特定の場所で発現する系統を選抜する。
P因子挿入位置の近くにある遺伝子をクローニングする。インバース PCR 法による。
②遺伝子発現のレポータとしても利用できる。
第5節 GAL4/UAS システム
酵母の転写因子 GAL4 とエンハンサー調節領域 UAS を用いる。GAL4 が
UAS 配列に結合し UAS の下流の遺伝子発現を駆動する。
GAL4 を様々なエンハンサーとともに遺伝子導入する(GAL4 系統)。また、
UAS の下流に様々な遺伝子を結合して、遺伝子導入する(UAS 系統)。この
2つを掛け合わせると GAL4 の発現部位で UAS に結合した遺伝子が発現する。
遺伝子の強制発現により致死となる個体でも研究できる。
GAL4 系統と UAS 系統の組み合わせで、様々な生物機能に関して、多数の
遺伝子機能の研究が可能となる。
第6節 ショウジョウバエに固有の機能ゲノムプロジェクト (遺伝子機能研究の道具)
1)染色体領域全域にわたる欠失系統キットの作成
相補性試験で突然変異の位置を定めることができる。
特定機能をもつ遺伝子位置の検索。
2)すべての遺伝子について挿入突然変異系統の作製
挿入位置が明らかにされている。1万数千系統。
3)すべての細胞・組織特異的 GAL4 エンハンサー系統の作成
GAL4 を染色体の様々な位置に挿入した系統を作成し、特定のパターンで遺伝子
発現させることのできる系統を大量に作った。 数千系統。
体のどの細胞、組織、器官だけでも遺伝子発現させることができる。
4)すべての遺伝子の UAS 系統
UAS 配列を染色体の様々な位置に挿入した系統を作成し、すべての遺伝子について
GAL4 を用いた遺伝子の異所発現を可能とする。1万系統以上。
5)すべての遺伝子のノックダウン系統
UAS の下流に遺伝子の逆向き繰り返し配列をつないだ系統。RNAi 効果で遺伝子の
ノックダウンができる。特定の細胞、組織、器官でのみ遺伝子機能を無くす。
1万系統以上。
第3章 胚発生の分子遺伝学
1995年 ノーベル賞 胚発生の遺伝的なしくみ
ニュースライン・フォルハート、エーリック・ビシャウス、エドワード・ルイス
第1節 昆虫の発生の概略
幼虫の形態
幼虫と成虫
図
前後軸、背腹軸、内部形態(表皮、神経系、筋肉、消化管 など)
発生の概略
受精、核分裂、細胞化(胚盤葉期)、原腸陥入、胚帯伸長、胚帯短縮と背閉鎖
どのようにして、Drosophila の幼虫の体形が形成されるのか。
遺伝学的研究方法
①多数の突然変異系統の作製
②問題の現象に関係する変異系統のスクリーニング
③遺伝子の解析 遺伝子の構造、発現、機能 (分子生物学)
第2節 突然変異系統の作製
体軸をつくる遺伝子
母性効果遺伝子
母性効果遺伝子と接合体遺伝子
決定因子、母により合成され卵に置かれる mRNA とタ
ンパク質で胚の初期発生を調節する(母性遺伝する)。これらをつくる遺伝子は
母で働く。
存在を示唆する根拠 前方に穴をあけて細胞質を捨てる―>頭胸が
欠ける
突然変異のスクリーニング法 ホモ雌の生む卵の発生を調べる。
接合体遺伝子 胚の核から受精後転写される遺伝子 母性効果遺伝子の調節
を受ける
突然変異のスクリーニング法 ホモ個体の発生を調べる。
第3節 胚発生で前後軸方向のパターン形成に働く遺伝子のカスケード
前後軸方向の胚のパターン
頭、胸部3個、腹節8個。各節は、特徴的クチクラパターンと内部構造。
両端 acron(口)、telson(尾、肛門)
これまでの実験により広い領域が胚盤胞期の細胞化の終了頃に決まることが
分かっている。
母性効果遺伝子(maternal genes) 3種類の遺伝子がある
前方構造形成遺伝子
後方構造形成遺伝子
両端構造形成遺伝子
接合体遺伝子(Zygotic genes)
4種類の遺伝子がある
gap genes
大きい領域を決める
pair-rule genes
7つに区切り、2体節毎のパターンを決める
segment polarity genes
Selector genes
14 体節に切断 体節内のパターンを決める
体節の特徴 頭、胸、腹
胚発生の仮説
母性効果遺伝子から接合体遺伝子を通じてハエの基本構造が形成される
突然変異は世界中の研究者に配布され多くの研究者がこの研究に取り組んだ。
第4章 母性効果遺伝子と体軸の決定
第1節 前方構造形成遺伝子
変異胚では、 頭部と胸部の減少、欠失
bicoid, exuperantia , swallow bicoid
bicoid が特に重要。
①bicoid mRNA とタンパク質の局在
mRNA は未受精卵の前方端に存在する。
*mRNA の局在の検出法 in situ ハイブリダイゼーション
タンパク質は、受精後翻訳されて、拡散により前後方向の濃度勾配を
つくる。30 分が半減期。
*タンパク質の局在の検出法 蛍光抗体染色
②生物機能の解析
bicoid-胚 頭胸部欠損。telson を前端に持つ。 図
変異胚の前方へ、mRNA の注射で bicoid 胚が回復。
変異胚の中央部へ、mRNA を注射すると、注射部に頭部、その両側に胸部。
野生型の後端に大量の mRNA を注射
双頭胚となる。
――>bicoid タンパク質の濃度勾配が前方構造のパターンをつくる。
高濃度 頭部、低濃度 胸部
③mRNA の局在のしくみ
細胞骨格にくっつく。
卵の前後方向に走る微小管に結合する。bicoid mRNA の 3'UTR(非翻訳領域)が重要。
exuperantia, swallow によりダイニンタンパク質を介して微小管の-端につく。
微小管は卵の後端は+、胚の前端は-となっている。
他の mRNA に 3'UTR をくっつけると前方に局在化する。bicoid mRNA からこれを
取り除くと全体に分布する。
exuperantia, swallow は bicoid mRNA の局在に働くので、これらの変異胚では
bicoid タンパク質の濃度勾配ができない。
④bicoid タンパク質 転写因子・翻訳抑制因子
a.bicoid タンパクは、hunchback(hb) 遺伝子の転写を前方で活性化し、
hb の前後方向の勾配をつくる。
hb は母性の mRNA が全体に分布。これに上乗せして、接合体 mRNA の転写が
bicoid により活性化される。hb は前方構造をつくる転写因子。hb を母性、接合体
ともに欠くと頭胸部のない胚となる。
―――>bicoid は前方において前方構造形成遺伝子の活性化に働く。
(例) button head, empty spiracles, orthodenticle
b.bicoid タンパクは caudal mRNA の翻訳を抑制する。
母性 caudal mRNA は胚全体に均一に分布。
bicoid による抑制によりタンパク質は、後方から前方への勾配をつくる。
caudal mRNA の 3'UTR に bicoid が結合することにより起こる。
caudal タンパクは転写因子で尾部構造をつくる遺伝子を活性化する。
caudal-胚は腹部のない胚となる。
――>bicoid は、前方において caudal による尾部構造遺伝子発現を抑制する
第2節 後方構造形成遺伝子
変異胚では、 腹部構造の欠失 nanos, caudal, oskar, staufen, pumillio,
vasa, valois, tudor
nanos と caudal が特に重要
①nanos mRNA とタンパク質の局在
mRNA 後端に局在する。受精後翻訳されて、タンパク質の勾配をつくる。
②nanos-胚
腹部構造の欠失で、短い胚となる。
③nanos mRNA の局在のしくみ
卵表層細胞質骨格の微小管に結合する。nanos mRNA の
3'UTR に staufen, oskar タンパクとキネシン1タンパク質を介して、
ミクロチュービルの+端に結合する。
④nanos タンパク質の働き
nanos タンパク質は、母性 hunchback の mRNA の翻訳を抑制する。母性の hb
mRNA は胚全体に均一に分布。後方での母性 hunchbackmRNA の翻訳を抑制し、
hb タンパク質の勾配を急に。
――>後方において hb による前方形成遺伝子発現を抑制する
nanos タンパクは、pumillio タンパク質を介して hunchback mRNA に結合して hb mRNA の
ポリ A の分解を促進し、hb の翻訳を抑制する。
hb の翻訳抑制認識部位が 3'UTR にある。他のものと取り替えて調べる実験で分かった。
caudal については、前に述べた。転写因子をコードする。
母性 caudal mRNA は、胚全体に均一に分布。
caudal-胚は腹部のない胚となる。
bicoid による抑制によりタンパク質は、後方から前方への勾配をつくる。
caudal mRNA の 3'UTR に bicoid が結合することによりこの抑制は起こる。
caudal タンパクは転写因子で尾部構造をつくる遺伝子を活性化する。
第3節 両端構造形成遺伝子
変異胚では、両端(acron と telson)の構造の欠失と体節部の拡大。
torso, torso-like, trunk, fs(1)Nosral, fs(1)polehole
前端の acron と頭部の境界、後端の telson と腹部の境界は同じ遺伝子により調節
される。
torso が特に重要
①torso mRNA は全体に分布。受精後翻訳される。リセプタータンパクは卵細胞膜全
体に分布する。リセプターチロシンキナーゼ。
②torso-胚 acron と telson の欠けた胚となる。
torso の常時活性型の突然変異は前半は acron に、後半は telson となり体節部がない。
③リガンドは前端と後端にのみ局在。――>両端でのみリセプターは活性化される。
follicle cells (ろ胞細胞) 卵殻をつくる細胞層。
受精前、リガンドは、卵黄膜中に固定されていて、受精後、卵黄膜の間隙に放出され
torso レセプターに結合できるのではないか。
④torso-like がリガンドらしい
根拠:1.torso-like は前極と後極のろ胞細胞で発現する
2.torso-like は torso と同じ表現型
3.torso-like の異所発現で torso が別のところで活性化される。
⑤RAS/MAPK シグナル伝達系
リセプターチロシンキナーゼの活性化で細胞内の他のタンパク質をリン酸化し、
他の遺伝子発現を活性化または不活化する。
torso(RTK) --> Ras --> Raf(MAPKKK) --> MAPKK --> MAPK --> 転写因子
転写抑制因子の Groucho を抑制する。Groucho は huckebein, tailless を抑制して
いるので、抑制を解除された huckebein, tailless が両端部で発現する。これが末
端をつくる。
前後(acron と telson)の違いは、bicoid の有無による。
第4節 (まとめ) 受精後、卵黄核分裂期に転写因子の勾配が生じる
前後勾配
bicoid, hunchback
後前勾配
caudal
両端
huckebein, tailless
第5章 ギャップ遺伝子、ペアルール遺伝子
母性効果遺伝子の濃度勾配にもとづき、接合体遺伝子により胚の体節への分割が
徐々に進む。大きく分割、小さく分割、各体節に分割。
転写因子のカスケード
gap 遺伝子―>pair-rule 遺伝子―>segment polarity 遺伝子
遺伝子の働く時期
卵黄内核分裂期
多核性胚盤葉期
細胞性胚盤葉期
第1節 ギャップ遺伝子
①gap 遺伝子の定義
突然変異で胚の前後軸方向の大きな部分が欠ける。
最初に発現する接合体遺伝子。卵黄内核分裂期から多核性胚盤葉期まで発現。
幅広いバンドで発現。胚を大きな領域にくぎる。
すべて転写因子
hunchback(hb), orthodenticle(otd), empty spiracles(ems),
button head(btd), giant(gt), Kruppel(Kr), knirps(kni), tailless(tll), huchebein(hkb)
②hunchback, tailless, huchebein 以外の gap 遺伝子が前後にずれて発現し
胚を前後軸にいくつかの領域に分割する。特異的発現領域
頭部
gt(giant),
otd(orthodenticle), ems(embty spiracles), btd(button head)
胸部
Kr(Kruppel)
腹部前 kni(knirps)
腹部後 gt(giant)
gap 遺伝子のタンパク質は拡散する。まだ、多核性胚盤葉期。半減期の短い
タンパク質。前後の両方へ勾配をつくる。
③発現調節は、hunchback と bicoid、tailless などのタンパク質の異なる濃度に反応する
調節領域による。
(例)Kruppel 遺伝子
開始と活性化:bicoid タンパク質と低濃度の hunchback タンパク質
精密な分布は抑制による:前方は高濃度の hunchback, giant、
後方は knirps と tailless による。
lacZ を用いた実験 Kr の調節領域に lacZ をつないで調べる。
*調節領域の解析の仕方
bicoid がない時、母性 hunchback だけでは、kruppel は前方まで発現。
調節領域には、hb に対する高親和性領域と低親和性領域がある。
高親和性領域は低濃度、高濃度のどちらでも結合。活性化
低親和性領域は高濃度の時のみ結合。抑制
(例)knirps 前方境界は高濃度の hb による抑制で決まる。
後方境界は tailless による抑制で決まる。
④前後軸は、多核状態の胚では異なる転写因子の重複や、勾配により、いくつか
の部域に分割されていく。
bicoid 濃度勾配―>hunchback 濃度勾配―>gaiant, kruppel,knirps, giant
第2節 ペアルール遺伝子
①pair-rule 遺伝子の定義
突然変異では体節の数が半減し、7個となる。多核性胚盤葉期から細胞性胚盤葉期まで、
7本のバンドで発現。体節部を7つの繰り返しパターンにくぎる。
すべて転写因子
後期発現
突然変異
初期発現
even-skipped(eve), runt, hairy
fushi tarazu(ftz), odd-paired, odd-skipped, sloppy-paired, paired
2体節に1個ずつ欠ける。体節数が半数、7個になる。
even-skipped 偶数番目の体節を欠く。fushi tarazu 奇数番目の体節を欠く。
②発現パターン
多核の時から始まり、細胞化が進む時まで発現している。各しまは2-3細胞
の幅。eve の発現は、将来の体節から半分だけずれる。他のものは、少しずつ
ずれる。
③発現の調節 7本のしまの発現領域は、母性効果遺伝子と gap 遺伝子により調
節される。
(例)even-skipped
lacZ を調節領域につないで解析
全体のパターンは、12kb の領域により決まる。
各しまは独立して、発現調節される。
第2のしまの調節領域
約500bp bicoid, hunchback, kruppel, giant によ り調節される。
発現促進 bicoid と hunchback
発現抑制 kruppel と giant たぶん、knirps も
調節領域には活性化因子と抑制因子が結合する部位が多数ある。
*転写因子の結合部位は foot print 法により決定する。
bicoid, hunchback, giant, kruppel
各しまは固有の調節領域により調節される。各調節領域は、異なる種類と濃度の
母性効果遺伝子、gap 遺伝子の組合せに反応して発現を調節する。
④ペアルール遺伝子は発現調節の違いにより2種類に分類される。
初期発現のペアルール遺伝子
eve, hairy, runt
母性効果遺伝子と gap 遺伝子により発現調節される。
後期発現のペアルール遺伝子
ftz など。
eve, hairy, runt による発現調節をうける。
gap 遺伝子による直接の発現調節はうけない。
第6章 セグメントポラリティー遺伝子
第1節 segment polarity 遺伝子の定義
突然変異で体節の数は変わらず、14個。しかし、各体節内パターンが乱れる。
鏡像複製、または、重複が起こる。細胞性胚盤葉期に14本のしまで発現。
(突然変異) 幼虫の体節パターンが乱れ、鏡像複製または重複。体節の数は不変。
腹側のクチクラパターン 歯列(体節前半)、なし(体節後半)
wingless- 腹全体が歯列でおおわれる。後半では、逆転極性。
=前方が鏡像複製 後方パターンはない
14個の体節をつくり、さらに、各体節の前後パターンをつくるのにはたらく。
転写因子
engrailed(en)
hh シグナル伝達系
hedgehog(hh), pattched(patch), smoothen(smo),
cubitus interruptus-dominant(ci-D)
ww シグナル伝達系
wingless(wg), disheveled(dsh), armadilo(arm)
第2節 engrailed 遺伝子
転写因子。発現は一生を通じて続く。細胞化の時に発現開始。細胞性胞胚では、
各体節(4細胞幅)の最後の1細胞列に発現。その後の胚発生、幼虫、成虫では
各体節の後半部に発現する。
発現は、ペアルール遺伝子により調節される。eve、ftz、paired により活性化され、
odd-skipped, runt, sloppy-paired により抑制される。その結果、eve と ftz の発現
領域の前端の細胞で発現する。結果として14本のバンドで発現。
eve- 変異では、en は奇数番目のバンドを欠く。
体節は、(奇数番目の後半と)偶数番目の前半を欠く。
ftz- 変異では、en は偶数番目のバンドを欠く。
体節は、(偶数番目の後半と)奇数番目の前半を欠く。
en は、後方区画を決める。
各体節は前半と後半に2区画に分割される。engrailed は後半で発現。
engrailed 変異では、クローンは前半、後半に限定されない。区画境界はなくなる。
後半が前方のパターンに似る。en の強制発現で前方が後方の性質を持つ。
同一区画では細胞は同じ遺伝的調節を受けることがある。(例)ホメオティック遺伝子。
*区画の概念の歴史
conpartments (区画) 細胞系譜の境界。これを超えて1つの細胞の子孫は広が
らない。
モザイクハエの実験 翅 x線により体細胞の組み換えを起こす。できたクローンを
調べる。初期のマークは多くの組織の様々な領域に広がる。
後期のマークは限定された領域のみ。――>区画の境界
細胞表面の性質を変えて、前方と混合しなくなる。
成虫盤は2つの擬体節の境界で発生する。胚発生で、各体節は2つの区画に分
割され、この区画は成虫盤が形成される時から引き継がれる。
*パラセグメント(擬体節)
原腸形成後にできる一時的な節 14個。eve 遺伝子と ftz 遺伝子の発現の周期的
パターンにより境界が決まる。
結果として、eve は、奇数擬体節で発現、ftz は偶数擬体節で発現。
擬体節は、体節と半分ずれている。各体節は後半の擬体節と1つ後方の
擬体節の前半からできる。
頭部は前方部の擬体節が融合するから体節はない。
擬体節
体節
1―――――――――――――――――― 14
c1p-- c3 T1--T3 A1----------------------A9a
第3節 他のセグメントポラリティー遺伝子
2つの働き 1.en 発現細胞とその前の細胞の擬体節境界を固定化する。
2.境界を境に、体節の前後パターン形成を行う。
発現位置は、ペアルール遺伝子により調節される。14 本のバンド。異なる位置。
(例)hedgehog(hh)は、en と同じ細胞。
wingless(wg)は、en の1つ前の細胞。
その他、patch, Dsh, Armadillo, smo, Ci
働き
1.en 発現細胞とその前の細胞の擬体節境界を固定化する。
en 細胞は、wg シグナル伝達系をもつ。->en,hh の発現促進。
en の1つ前の細胞は、hh シグナル伝達系をもつ。->wg の発現促進。
この結果、ペアルール遺伝子の発現が消えても en, wg, hh の発現が維持さ
れ、発生中に擬体節境界が固定され、維持される。
*様々なシグナル伝達系
2.体節内の前後パターンをつくる。
hh の濃度勾配 前方に高く、後方に低い
wg の濃度勾配 後方に高く、前方に低い
この勾配が、クチクラパターンをつくる。
幼虫の背のパターン 1 en, hh と一致 1列の太い歯列
2 平滑 1列
3 2列 太い突起
4 数列 細い突起 最後 wg 発現細胞
hs-hh による hh の強制発現
より前方の形に分化 3-->2,
wg 発現細胞と hh 発現細胞は反応しない。
第4節 body plan の形成は昆虫により異なるメカニズムを用いる
長胚子型 Drosophila すべての体節が同時に発生する。body plan 形成が多核細
胞中に起こる。
単胚子型 Tribdium
胚盤葉は前方体節だけを形成し、後方体節は胚盤葉形成と
原腸陥入の後、形成される。大部分の体節は細胞性胚盤葉から追加される。
成熟した胚帯は、同様に発生する。phylotypic stage
違い 長胚子型 多核時に body plan ができる。
短胚子型 多細胞で、body plan ができる。
共通のメカニズムはどこか?
同じ遺伝子が2つの生物で働いている。kruppel, hairy
even-skipped は体節形成で同じ働きをしない。
バッタでは、成長中の胚帯の後端部で発現する。また、神経形成に働く。
第7章 ホメオテック遺伝子
第1節 ホメオティック遺伝子の概略
①ホメオティック遺伝子の定義
突然変異はホメオテック変異を起こす。多くの場合、前の体節の特徴を持つ。
---->体節の特異性をつくる。
homeotic selector genes とも呼ばれる。
2つの遺伝子複合体を形成して染色体上に集まって存在する
Antennapedia Complex(ANTPC) (84A)
bithorax complex(BXC) (89E)
lab, pb, Dfd, Scr, Antp
Ubx, abd-A, Abd-B
両方あわせて HOM genes と呼ばれる。
②分子は、すべては、ホメオボックスを持つ転写因子をコードする。
③発現部位は、前後軸方向の一定の部位。突然変異で影響を受ける位置に一致。
この遺伝子発現パターンは継続的に維持される。
遺伝子の発現位置は gap 遺伝子、pair-rule 遺伝子により決まる。
BXC の遺伝子は体の後方体節で発現する。
Ultrabithorax, abdominal-A, Abdominal-B の3個の遺伝子がある。
Ubx ps5(中胸後半)以後のすべての体節で発現 後胸-腹1で強い
abd A ps7(A1 の後半)以後すべての体節で発現
Abd B ps10(A4 の後半)以後すべて
A2 で強い
A8 で強い
各遺伝子はそれぞれの体節で発現量が違い、組合せで各体節の特徴が決まる
らしい。
ANTPC はより前方の体節で発現する。
5個のホメオティック遺伝子よりなる。ps5 以前を調節する。
Deformed(Dfd)
ps 0,1,2 で発現
Sex combs reduced(Scr)
Antennapedia(Antp)
小顎
ps2,3,4 に発現
ps 4,5 に発現
前胸
中胸
第2節 重要な特徴
①遺伝子群として集まって存在し、広い調節領域、共通の調節領域をもつ。
BXC の相補性単位は、12個あるが、3つの遺伝子(転写単位)よりなる。
相補性単位 abx, bx, bxd, pbx, Ubx
転写単位 Ubx
iab2,3,4,5
abd A
iab5,6,7,8
Abd B
相補性単位は異なるエンハンサーに対応している。
体節毎に異なるエンハンサーがある場合がある。
体節内の区画毎に異なるエンハンサーがある場合がある。
同一のエンハンサーが2つの異なる遺伝子を調節する場合がある。
ホメオテック遺伝子の種類と発現量の違いや、2つ以上のホメオテック遺伝子の
作用により体節の特徴が決まる。
②ホメオテック遺伝子間の相互作用
BXC の遺伝学による解析
1)Complex 全体の欠失 T3-A8 は、T2 と同じになる。すべての体節で Antp
が発現。――>T2 は default 状態で、bithorax Complex がこれを多様化
する。
これに1個ずつ遺伝子を入れるとその機能が分かる。
2)+Ubx
T3 と A1 が回復。A2 以後 A8 まで、A1 となる。Ubx が強く発現。
3)+Ubx+abd-A
A2-A4 が回復。A5 から A8 まで、A4 となる。abd-A が強く発現。
4)+abd-A+Abd-B
A2-A8 が回復。T3 から A1 まで、T2 となる。Antp が強く発現。
ここから、Ubx は T3 と A1 に必要で、T3 以後に発現し、Antp を抑制する。
abd-A は、A2 から A4 に必要で、A2 以後に発現し、Antp, Ubx を抑制する。
Abd-B は、A5 から A8 に必要で、A5 以後に発現し Antp, Ubx, abd-A を抑制する。
ホメオテック遺伝子は前後方向にずれて発現し、体節に異なる特徴を与える。
より後方のホメオテック遺伝子は前のものの発現を抑制する。->後方優性
より前方のものを強制発現した場合にも効果がないので、翻訳レベル以下でも
後方優性があるらしい。
③並行関係則
発現は染色体上の順序と一致している。
1.すべての HOM 遺伝子は、同じ方向に転写される。Dfd は例外。
2.HOM 遺伝子の染色体上の順序は、発生中の前後軸方向に発現する位置に
一致
3'側のものから前方に発現する。
3.HOM 遺伝子の染色体上の順序は、発現時期の順序に一致
3'側のものから早く発現する。
第4節 ホメオテック遺伝子の発現パターンの維持にはたらく遺伝子
gap genes と pair-rule genes のタンパク質は、4hで消える。この後の遺伝子
発現の調節に働く遺伝子。
polycomb グループの遺伝子
それまでに off のホメオティック遺伝子の抑制に働く
変異では、すべての HOM 遺伝子が全ての体節で発現するようになる。
trithorax グループの遺伝子
それまでに on のホメオティック遺伝子の発現維持に働く
変異では、すべての HOM 遺伝子発現が、全ての体節で消失する。
第5節 脊椎動物のホメオテック遺伝子群
Hox 遺伝子群
Hox 遺伝子複合体として存在する。 染色体上での配列もよく保存されていた。
脊椎動物 1カ所にかたまってある
Hoxa1, Hoxa2, Hoxa3, Hoxa4 ・・・・・・・・・
4組 Hoxa, Hoxb, Hoxc, Hoxd
これらの遺伝子は胚発生中に動物の前後軸に沿って異なるレベルで発現する。
並行関係則成り立つ。
―――>ホメオテック遺伝子は、遺伝子群として保存されており、内部の規則性
が維持されている。
ナメクジウオでは、1組のみ存在する。やはり、クラスターを形成している。
脊椎動物への進化の過程で、2度、染色体重複をした。
Hox 遺伝子の進化は、カンブリア紀(6 億年前)に海の中で、遺伝子重複により
形成されたのではないか。これが、動物の体制の基本型となった。
位置の解釈の変化と特異化が脊椎動物と節足動物の body plan の精密化をつくった?
多細胞生物 15億年前に出現 6億年前から化石がある。現存には35の
動物門があり、カンブリア紀の終わりまでに現れた。これらは、固有の body plan を持
つ。これ以後新 body plan は現れず。各門の中での精密化と変更が主な変化となった。
魚―>哺乳類
Drosophila の Abd-B に関係する遺伝子が脊椎動物では多数ある。――>これらの
遺伝子は昆虫と脊椎動物が分かれてから重複したのかもしれない。
第6節 ホメオティック遺伝子と生物進化
Hox 遺伝子が動物の前後軸に沿って発現する。
Hox 遺伝子は胚の位置情報の値をきめる。具体的形ではなく。
変化のための2つの方法
Hox 遺伝子の下流の遺伝子が進化での変化の主な源となった。
Hox 遺伝子の発現パターンが変化した。
(例) 脊椎動物 前後軸 背骨の数と形 首、胸、腹、仙骨、尾
各領域の骨の数は動物によって異なる。哺乳類の7個の頸骨、鳥類の13
-15個。Hox 遺伝子の発現領域が、骨の数と平行して移動する。Hoxc6
はマウスでもニワトリでも、首と胸部の境界にある。ガチョウ、カエルで
も同じ。それぞれ首の骨の数は違う。
昆虫の付属肢
化石 各体節の脚をもつ。他は、胸部だけに持つ。腹部の脚を持つ体節数の違い。
鱗翅目昆虫と双翅目昆虫 現存する昆虫の Hox 発現パターンはすべて共通
Drosophila
Bxc-C の産物が腹部での Distal-less の発現を抑制する。脚形成能
力は腹部にもあるが、抑制されているだけ。
鱗翅類 Ubx と Abd B が腹部の腹側で発現しなくなる。そして、distalless がここで
発現する。腹部での脚のあるなしが、Hox 遺伝子の発現により決まる。
―>Hox 遺伝子の発現パターンの変化は進化で鍵を握る。また、Hox 遺伝子発現
は付属肢の性質を決める。
第8章 背腹軸方向のパターンの形成
第1節 胚の背腹軸
4つの領域
中胚葉
原腸陥入
筋肉、脂肪体
神経外胚葉
腹側表皮と神経系
背側外胚葉
背側表皮
羊膜
**内胚葉は前後の両端にある。
パターンを異常にする突然変異の分離。母性効果遺伝子と接合体遺伝子。
第2節 母性効果遺伝子
①2つのタイプの表現型
1.背側化変異 腹の構造ができない。
dorsal, nudel, tube, pipe, snake, easter, Toll-, spatzle, pelle,
gastrulation defective
2.腹側化変異 背の構造ができない。
cactus, gurken, torpedo, Toll(優性)
②dorsal 遺伝子
dorsal-胚は、腹側のない胚となる。――>腹側形成に働く。
母性の mRNA が均一に存在。受精後タンパク質合成が始まる。
タンパク質は、転写因子。腹側では、細胞核内に入る。多核性胞胚期。
背側では、細胞質にとどまる。
他の遺伝子のすべての突然変異で、表現型が dorsal タンパク質の分布と一致。
これが核内に入れば、その位置が腹側となる。入らなければ、背側となる。
――>dorsal 遺伝子は腹側形成の中心的遺伝子で、他のものはその核内への
移行に関与する。
dorsal タンパク質は、腹側から背側への濃度勾配をつくって核内に移行する。
――>背腹パターンの原因
③Toll 遺伝子
Toll-胚は、強い背側化胚となる。この時、dorsal タンパク質は細胞質に分布。
この胚に野生型の細胞質を注射
注射位置に腹側をつくる。
――>腹側の位置は Toll に関係している。
Toll は、母性の膜タンパク質。胚全体に分布する。レセプター。
Toll の優性の変異(常時活性化型)は、腹側化胚をつくる。
――>卵細胞の外からのシグナルで、Toll が活性化し、そのシグナルが
dorsal を核内に移行させる。
④spatzle タンパク質
Toll のリガンド
卵により分泌される。
これが、腹側でだけ分解され、Toll のリガンドとなる。
リガンド形成のカスケード
ろ胞細胞では、腹側でだけ pipe が発現。他の遺伝子は卵母細胞で発現。
これが、卵母細胞から分泌される nudel を活性化。
この後、セリンプロテアーゼの活性化のカスケード
nudel-->gastrulation defective --> snake --> easter-->spatzle
切断された spatzle が Toll のリガンドとして働く。
⑤Toll シグナル伝達のカスケード
Toll の活性化により、pelle の活性化 tube は pelle を膜に結合する。
pelle は、cactus をリン酸化
――>cactus が分解される。
dorsal が cactus から離れ、自由になり、核内に移行する。
dorsal により腹側形成遺伝子が活性化される。
**Toll シグナル伝達系は、昆虫の免疫のシグナル伝達でも使われる。これは、
哺乳類Bリンパ球のシグナル伝達系と相同のカスケード。
マクロファージがつくるリンパ球活性化因子 interleukinI(spatzle に相同)に
反応して、Bリンパ球を活性化する。NF-kB(dorsal と相同)は I-kB
(cactus と相同)と結合する。I-kB は NF-kB が核にはいるのを抑制する。シ
グナルによりかい離すると核へ移行する。Toll は interleukinI リセプター、
pell は IL-1-associated プロティンキナーゼ。
第3節 接合体遺伝子
twist, snail, rhomboid(rho), short-gastrulation(sog), letahl of scute(l'sc),
decapentaplegic(dpp), tolloid, zerknult
①dorsal 遺伝子
核内 dorsal タンパク質の勾配から接合体の遺伝子発現が調節され、よりパタ
ーンが精巧にされる。
dorsal タンパク質の核内での濃度の勾配。腹側は濃い。背側はほとんどない。
2つの働き
腹側で特異的遺伝子の活性化。
背側で活性化される遺伝子の抑制。
dorsal 濃度が高い領域 腹側
高濃度 dorsal で twist, snail が活性化。
twist 中胚葉遺伝子の活性化にはたらく
snail 非中胚葉遺伝子(rhomboid,l'sc)の抑制にはたらく
この2つの活性化は原腸陥入と中胚葉形成に必要
dorsal が低レベル
神経外胚葉
低濃度 dorsal によって、rhomboid, sog, l'sc が活性化。
この3つの遺伝子は、腹側では、snail により抑制される。
sog
dpp の阻害。腹側表皮形成。
l'sc
神経NB形成
rhomboid
dorsal タンパク質のないところ。背側
zerknullt
最も背側。羊膜への分化に関与。
decapentaplegic(dpp)
tolloid
背側での背腹軸形成の鍵の遺伝子
sog の分解。背側表皮形成。
こららの遺伝子は dorsal によって抑制される。
dorsal が発現調節している証拠
1)母性の背腹遺伝子の突然変異で背側化胚、腹側化胚ができる時、
背側化胚では dorsal タンパク質が核中にない。この時、dpp 遺伝子
が全域で発現、twist, snail が発現せず。
腹側化胚では dorsal タンパク質が全域で核中にある。この時、dpp
は全く発現せず。twist, snail が全域で発現する。
2)twist, snail, dpp 遺伝子はその調節領域に dorsal タンパク質の結合
領域を持つ。dorsal は特定濃度で遺伝子を発現、または、抑制する。
腹側に発現する遺伝子は、低親和性の結合部位。濃度の高い dorsal
に反応する。
より背側に発現する遺伝子は、高親和性の結合部位。濃度の低い
dorsal に反応する。
②decapentaplegic(dpp)遺伝子
dpp タンパク質は背側外胚葉のパターン形成に形態形成因子として働く。
dpp 分泌タンパク質 TGF-b シグナル伝達系
①dpp 欠失では、腹側表皮が全体に広がる。
②dpp-胚に様々な濃度の dppmRNA を注射する
高濃度
外胚葉が羊膜となる。
中濃度
外胚葉が背側表皮となる。
低濃度
外胚葉が腹部表皮となる。
dpp の勾配は、腹側で発現する short-gastrulation(sog)の拡散による。
sog は dpp に結合し、dpp のシグナル伝達を阻害する。
sog-胚では、背側表皮が腹側表皮部まで広がる。
tolloid sog を分解し背側における sog の勾配を急にする。
tolloid-胚は背側表皮が狭くなる。
――>クチクラの背腹パターンは dpp シグナル伝達の強さによる。
第4節 昆虫と脊椎動物間の背腹軸形成の相同性
腹側中胚葉からの BMP4 シグナル
背側中胚葉からの Noggin, Chordin, Follistatin―――BMP4 の阻害分子
外胚葉における神経誘導 BMP4 が抑制されたところに神経形成 背側
となる。
昆虫は、脊椎動物に対し、背側軸が逆転している。
分子生物学 2 練習問題
2010 年 11月
A10 行程度(約400字)で説明せよ。この中から 5 題
1.バランサー染色体とは何か。また、それはハエの分子遺伝学研究でどのように用いられているか。
2.P因子とは何か。また、それはハエの分子遺伝学研究でどのように用いられるか。3.GAL4/UAS シス
テムとは何か。それはどのように遺伝子研究に用いられるか。
4.前方構造形成遺伝子とは何か。その定義、種類、代表的な遺伝子の機能をのべよ。
5.後方構造形成遺伝子は何か。その定義、種類、代表的な遺伝子の機能をのべよ。
6.末端構造形成遺伝子とは何か。その定義、種類、代表的な遺伝子の機能をのべよ。
7.ギャップ遺伝子とは何か。その定義、種類、機能、発現調節を述べよ。
8.ペアルール遺伝子とは何か。その定義、種類、機能、発現調節を述べよ。
9.セグメントポラリティー遺伝子とは何か。その定義、種類、機能、発現調節を述べよ。
10.ホメオティック遺伝子とは何か。その定義、種類、機能、発現調節を述べよ。
11.ホメオティック遺伝子により腹部の各体節の特異性が決定されるしくみを述べよ。
12.wg シグナル伝達系とは何か。その定義、しくみ、ジョウジョウバエ発生における働きを述べよ。
13.hh シグナル伝達系とは何か。その定義、しくみ、ジョウジョウバエ発生における働きを述べよ。
14.Ras/MAPK シグナル伝達系とは何か。その定義、しくみ、ジョウジョウバエ発生における働きを述べ
よ。
15.dpp(TGF-β)シグナル伝達系とは何か。その定義、しくみ、ジョウジョウバエ発生における働きを述
べよ。
16.Toll シグナル伝達系とは何か。その定義、しくみ、ジョウジョウバエ発生における働きを述べよ。
17.背腹軸形成にはたらく母性効果遺伝子の種類と代表的な遺伝子の働きを説明せよ。
18.背腹軸方向の分化に働く接合体遺伝子の種類と代表的な遺伝子の働きを説明せよ。
B.次の遺伝子を説明せよ。(約 120 字) この中から3題
相補性検定
(試験)、飽和突然変異作成、母性効果遺伝子、接合体遺伝子、熱誘導プロモータ
(hs promoter)、
体細胞組換え、コンパートメント(区画)、bicoid, hunchback(hb), nanos, caudal, torso, kruppel, knirps, giant,
even-skipped(eve), fushi tarazu(ftz), hedgehog(hh), wingless(wg), engrailed(en), Antp, Ubx, abd A, Abd B, Toll,
dorsal, decapentaplegic(dpp), twist, snail, short gastrulation ,ホメオボックス、HOM(ホメオティック)遺伝
子群、並行関係則、後方優性
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