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砂漠の奇跡物語
「ドバイ危機」という言葉 が あ る。 2 0 0 8 年 9 月 に 始 ま っ た 米 国 発 の「 リ ー マ 世界は動いている 著者略歴 こまつ けいいちろう● 1954 年生まれ、東京 都出身。英国オックスフォード大学院卒(博 士号) 。商工中金、世界銀行、英国通商産業省・ 上級貿易アドバイザー、マダガスカル共和国 大統領・特別顧問他を経て、現在 Komatsu Research & Advisory(在英)代表。 コマツ・リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表 小松 啓一郎 砂漠の奇跡物語 か つ て 水・ 食 料 の ま と も な バイ・ワールド」(ドバイ政 長 国 の 政 府 系 持 株 会 社「 ド 点 と な っ た。 具 体 的 に は、 で、 国 際 市 場 史 に 残 る 転 換 ギリシャが属するユーロ通 ン パ ク ト と な り、 結 果 的 に 突」との印象から大きなイ し か し、 国 際 市 場 で は「 唐 ド」の危機も知られていた。 家 の 間 で「 ド バ イ・ ワ ー ル 上も前に既に関係者や専門 ネを呼び込むことに成功し 断 力 に よ り、 世 界 中 か ら カ 創的なアイデアと大胆な決 よく知る首長ら指導層の独 支 え た の は、 自 国 の 弱 点 を 奇跡とも言える高度成長を 基 本 イ ン フ ラ も 無 か っ た。 か月以 府100%出資)が債権者 貨市場全体への信用不安に てきたことだと言っていい。 実 際 に は、 そ の に 対 し、 債 務 返 済 延 期 の 要 繋 が っ た だ け で な く、 ア ジ 「ドバイ」の本質とは、何 用不安)が本格化したこと 請を発表したことに端を発 ア・ ア フ リ カ 諸 国 市 場 で バ も無い国にメディアという ス ト ッ ク( 集 積 ) も 無 く、 リーマン危機の最中で ラ撒き懸念の目立つ中国系 武 器 を 持 ち 込 ん で「 ド バ イ する。 日に同首 あ っ て も、 政 府 が 全 額 出 資 国 営 企 業 や、 ロ シ ア 国 有 エ は凄い」という国際的イメー 月 す る「 ド バ イ・ ワ ー ル ド 」 ネルギー企業「ガスプロム」 2009年 への信用不安はそれまで語 を呼び込むことにも成功し 注 目 を 集 め て「 カ ネ の 巡 り 」 ジ を 浸 透 さ せ、 国 際 社 会 の 資金が向かうと期待されて 同じUAEの産油国アブ 外に投資すべき対象がほと ドバイ国内にはインフラ以 たことだと言える。しかも、 泰 」 と 思 わ れ て い た。 そ れ ダ ビ と は 異 な り、 地 下 資 源 ん ど 無 い た め、 あ く ま で も ドバイのレバレッジ だ け に、 こ の 発 表 に よ っ て が非常に少ないドバイには 相乗効果で国際金融危機の シャ政府への信用不安との るアイスランド政府やギリ からのリーマン危機で深ま 不 安 に 繋 が っ た。 こ れ が 折 系機関発行の債権全体への 枠 を 越 え て 他 の 国 家・ 政 府 こ と は、「 ド バ イ 」 と い う たとの印象を市場に与えた 「突然」の信用不安が発生し い た た め「 ド バ イ 政 府 は 安 れるようになった。 等への信用不安までが囁か 11 られたことが無かった。 25 む し ろ、 同 国 市 場 に 逃 避 11 拡大となった。 シェイク・ムハンマド(Sheikh Mohammed) ドバイ首長兼UAE副大統領兼UAE首相 (中央) (ドバイにて筆者撮影、2009年3月28日) ン危機」から一年2か月余 り 後、 ド バ イ 首 長 国( ア ラ ブ首長国連邦=UAEの構 成国の一つ)に端を発して 激震を生んだ国際金融危機 の こ と で あ る。 ソ ブ リ ン 債 危 機( 各 国 政 府 発 行 の 債 券 へ の 信 用 不 安 ) や サ ブ・ ソ ブ リ ン 債 危 機( 政 府 系 の 諸 機関が発行する債券への信 ドバイ・ワールドが運営する埋め立て地 「パーム・アイランド」 (椰子の木の形を模した地形で知られる人工島) (ペルシャ湾上空にて筆者撮影、2008年11月6日) 28 2015.6 「 メ デ ィ ア 」 と「 カ ネ の 回 る」戦略であった。言わば、 す、 と い う「 無 か ら 有 を 作 それを回すことで国まで回 し て カ ネ を「 通 過 」 さ せ、 「国際流動資金のハブ」と とも言える。 という意味で歴史的な功績 度「国際舞台に登場させた」 た「 ア ラ ブ と 中 東 」 を 今 一 わたって深く落ち込んでい 帝 国 崩 壊 以 来、 数 世 紀 間 に こ れ は、 中 世 の サ ラ セ ン 予想されている。 年 平 均 4・5 % 以 上 と での実質経済成長率は 復 帰 後、 2 0 1 5 年 ま つ あ る。 成 長 軌 道 へ の 加え、 「ヒトおよびモノ す る「 カ ネ の 回 転 」 に 効果的な利用を発端と また、 「メディア」の 転」という二つの要素だけ で、 ド バ イ と い う 国 家 を こ こまで発展させてきた戦略 ド バ イ 経 済 は、 危 機 か ら 1 位 に 達 し、 ジ ュ ベ ル・ ア は乗り換え旅客数で世界第 略 の 下、 ド バ イ 国 際 空 港 で 便 を 呼 び 入 れ る こ と で、 カ 戦 略 で 喧 伝 し、 多 数 の 航 空 「中心地ドバイ」をメディア に地理的に等距離で繋がる の回転」も目指す新戦 はドバイを中心とする中東 見 事 に 急 回 復 を 見 せ た。 言 位以 ドバイ危機後も不変の 国家戦略 への資本の流れを語らずし う ま で も 無 く、 あ れ 程 の 国 リ港も取引量で世界 的 成 功 物 語 で あ る。 今 日 で て、 国 際 マ ー ケ ッ ト を 語 る 際的な信用不安の発端に 産 バ ブ ル の 崩 壊 を 受 け、 従 成 長 を 牽 引 し た 建 設・ 不 動 ドバイでは危機以前の急 てきた。 まで長期的な低迷に甘んじ 後の信用回復に失敗したま 安 や 信 用 不 安 に 陥 り、 そ の が急激または突然に政情不 実 際、 他 の 数 多 く の 新 興 国 を賭けた重要課題であった。 に対する信用回復は「国運」 な っ て し ま っ た「 ド バ イ 」 立ち上げつつある。 けて多数の新開発プランも る2020年の博覧会に向 等 で 宣 伝 効 果 を あ げ、 来 た ビル「ブージュ・カリファ」 に完成した世界一の超高層 ルーム)等に続いて危機後 ル・アラブ」 (全室スイート・ 高 級 ホ テ ル「 ブ ー ジ ュ・ ア 前 に「 7 つ 星 」 と 言 わ れ た 大 も 目 指 し、「 ド バ イ 危 機 」 続 け て い る。 観 光 客 数 の 増 内を維持して取引量拡大を いると言っていい。 む究極のハブ化を目指して 裕層から投資資金を呼び込 な 観 点 に 立 ち、 世 界 中 の 富 ことで文字通りグローバル 側まで含む大同心円を描く 描 き、 そ の 外 側 に 地 球 の 裏 の潜在成長地域に同心円を あ る。 ド バ イ を 中 心 に 近 隣 た経済振興段階に入りつつ ネ、ヒト、モノの3拍子揃っ 加 工・ 包 装 等 の 製 造 業 も 発 し た 他、 ア ル ミ 加 工 や 食 品 貿 易、 観 光 の 急 回 復 に 成 功 アフリカ大陸の東南部等々 い 中 央 ア ジ ア、 南 ア ジ ア、 豊富さで潜在的成長性の高 ま た、 地 下 資 源 や 人 口 の 前後に向けて危機当時に近 通 し で あ り、 博 覧 会 の 開 催 債務総額は再び急増する見 大幅に縮小したはずの政府 残 っ て い る。 危 機 当 時 か ら そ の 反 面、 大 き な 課 題 も 来の基幹産業であった運輸、 10 展させて主要産業に加えつ 旅客機の機体にも掲げられている 「EXPO2020」 (筆者撮影、 2013年6月18日) の独自の道は今後も続くこ て立ち上がってきたドバイ り つ つ、 そ れ を 逆 手 に と っ い。 自 国 の 弱 み と 限 界 を 知 くことになるのかもしれな のような戦略方針に行き着 ジ し て い こ う と す れ ば、 こ 創意工夫で果敢にチャレン 制下で小規模な都市国家が が、 現 行 の 国 際 資 本 主 義 体 ポールと似ている面もある バイ政府の戦略にはシンガ し て は 懸 念 の 声 も あ る。 ド というユニークな戦略に対 回し、「国」まで回していく を回し、「ヒトとモノ」をも 資 や 融 資 を 受 け て「 カ ネ 」 る。 国 際 市 場 か ら 膨 大 な 投 い規模にまで達しそうであ 厳しい自然環境との闘いが続くドバイ: 砂嵐で霞むブージュ・カリファ (中央)周辺 (筆者撮影、 2010年3月28日) とになる。 2015.6 29 ことはできない。 とされるブージュ・アル・アラブ 噴水と共にライトアップされる 「七つ星」 (筆者撮影、 2008年3月30日) ブージュ・カリファ (筆者撮影、2015年3月14日)