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テムズのほとり - 不動産証券化協会
E S S A Y ロンドン私見聞録 曽我 道正 テムズの ほとり 農林中央金庫ロンドン支店 支店長 ( ARES マスター M1003876 ) そが みちまさ 1986 年農林中央金庫入庫。 その後、資金証券部門、経 理部門、融資部門などの業 務に従事。2008 年から 3 年 間 は 農 中 信 託 銀 行( 株 ) へ出向し不動産証券化業務 にも関与。2011 年 7 月よ り農林中央金庫ロンドン支 店に赴任中。 112 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.14 爽 やかなそよ風が心地よく、 ムズ川を船が行き交う様、そして川 青い空の中に羊のような 向こうのシティの街並みが一望でき 雲が群れをなして浮かび るため、人気のスポットです。シティ …。ちょうど一年前の本稿はこのよ では建設中の高層ビルが幾つもなら うな書き出しで始めました。例年で んでいますが、携帯電話の形を模し あれば、まさにこのような季節が訪 たデザインのもの、チーズおろし金 れている時期ですが、去年は夏至の の形を模したデザインのものなど、 ころでも肌寒く、夏の情景を思い浮 ユニークなデザインの高層ビルが姿 かべながら羨むような心情で書き を現しつつあり、これらを眺めるの 綴ったのを憶えています。今年は幸 も一興です。また、タワーブリッジは いにも去年よりはマシなようで、夏ら 120 年ほど前に完成した大きな跳ね しい日々も増えてきました。こんな日 橋で、今でも運が良ければ ( 橋を渡 はテムズのほとりでは川面を渡る風 りたい車にとっては運が悪ければ) が爽やかで、サウスバンク ( テムズ川 真ん中から橋が跳ね上がって開閉す 南岸)界隈は、夏を満喫するための る様を、ゆったりと眺めることができ 人々で賑わっています。このあたり ます。川の北側はロンドン中枢部と も以前は倉庫や火力発電所等が立 して機能しているのに対し、南岸は ち並ぶ地域でしたが、今では川辺の このように、古い建物の有効活用や プロムナードも整備され 、国会議事 再開発によって姿を変え、人々が楽 堂 ( ビッグベン) 斜め向かいの南岸に しめるような地域として生まれ変 は大観覧車が設置されています。少 わっています。 し下流には以前は火力発電所として ところで、テムズ川ではタワーブ 使われていた赤レンガ造りの壮大な リッジのあたりまで比較的大型の船 建物が今ではモダンアートの美術館 が溯ってくるため、ここから下流には として使われています。もう少し下っ テムズを跨ぐ橋はロンドン市内では て、タワーブリッジのたもと、南岸に 皆無です ( それより下流に高速道路 立ち並ぶ赤レンガ造りの建物群は、 の大連絡橋が 1本あるくらいでしょ 以前は倉庫として使われていました うか) 。川を渡る手段としては、川 が、今では中を改造して、レストラ 底をくぐるトンネルが幾つか掘られ ン、ショップ、住居として使われてい ているほか 、昨年のロンドンオリン ます。川べりのレストランの屋外席か ピックを機にロープウェーが川を跨 らは、タワーブリッジはもちろん、テ ぐように設置され 、観光スポットに なりつつあります。さらには前号で ますが、ここでも 触れたロンドンシティ空港 付近に パブは大人気で は、何とフェリーボートが運航されて す。パブで供され いて川の両岸を5 分程度で結んでい る食事と言えば、 ロンドンオリンピック時にはタワーブリッジにも五輪マークが飾られた。 橋の向こうに見えるのがバトラーワーフ。 ます。このように、ロンドンはテムズ 「フィッシュ・アン 川を上手く利用して市民や観光客を ド・チップス」を思 引き寄せることに成功しているよう い浮か べる方が です。急峻な国土を流れてくる日本 多 いと思います の河川と違ってテムズ川は氾濫する が、それに勝ると ことが無さそうに思われますが、逆 も劣らない人気を に平坦なるが故に潮の干満の影響 誇 る の が「 ソ ー を強く受け、下流からの洪水で大き セージ・アンド・ な被害を受けた歴史があったようで マッシュ」で す。 す。河口から50 キロも遡った位置 これは、マッシュ にあるロンドンでさえ平時の干満差 ポテトの上に、焼 が 5 ~ 6メートル程度はあるとのこ いた英国流ソーセージ2 本を乗せ 上、本シリーズ「ロンドン私見聞録 」 と。ハリケーン並みの低気圧が襲い て、上からグレービーソースをぶっ掛 も残念ながらここまで。本稿が皆様 高潮の影響で 20 世紀半ばには大被 けたもの。当地では日本のご飯に当 に届くころには私も日本に帰任して、 害を蒙ったとのことで、これを機に るのがジャガイモですので、これは また違った切り口から不動産という 先述のロープウェーやフェリーのあ まさに英国版の豚丼といったところ ものを見つめていることと思います。 る辺りに、巨大な水門「 テムズバリ でしょうか。これに英国ビール「 ビ これまで我慢強く拙文にお付き合い ア」が 30 年ほど前に築かれました。 ター」があれば私などは満足です。 いただいた読者・関係者の方々、あり 水門は平時には川底に潜っているの しかしながら、日本人の場合、 「ビー がとうございました。皆様への厚い で比較的大型の船も支障なく航行 ルにソーセージ」と言えばドイツとい 感謝の思いを胸に、日本に帰任いた できる仕組みになっているようです。 う方が多いように感じます。英国の します。帰国しても常温のビターを 完成以来、100 回以上稼動している ビールとソーセージもなかなかのも 飲める店を探してみましょうか。い らしく、このおかげでロンドンは高 のだと思うのですが、私の周囲の日 や、日本の夏と言えば、やっぱりキン 潮の影響による洪水からは守られて 本人の間では少数派のようです。こ キンに冷えた生ビール。郷に入れば いるようです。 のあたりについても、もう少し触れ 郷に従うことにしましょう。 南岸に完成した欧州一の高層ビル展望台から北岸のシティを臨む。 さて、さきほどのタワーブリッジの ておきたかったのですが、紙面の都 たもと、バトラーワーフではみな思い 合上ここまで。次回以降に譲りたい 思いに夏の爽やかな風を楽しんでい と思うのですが、私の転勤の都合 (本文内容は筆者の個人的見解に よるものです) July-August 2013 113