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J-REIT View ∼リーマン・ショックによる J-REIT市場
ARES SPECIAL J-REIT View ∼リーマン・ショックによる J-REIT市場環境の激変と今後の展望∼ 社団法人不動産証券化協会 調査部 上席研究員 澤田 考士 1. 初の価格下落局面に入り成熟途上 が数多く示されており、それが一因となっ にあったJ-REIT市場を襲ったリーマ てJ-REIT価格が上昇したとしても不思議で ン・ショック はない状況にあった。だが、図表1に示す とおり、東証REIT指数は、公表が開始され (1)オーバーパフォームから転じて、 た2003年3月末から3年以上なだらかな上昇 2007年6月以降、調整過程に入ったJ- を続け、2006年後半以降は一層顕著に上昇 REIT市場 した。当時のJ-REIT価格の上昇がファンダ 2001年9月にスタートしたJ-REIT市場は、 2007年5月をピークに価格下落局面に転じ メンタルズの改善のみで説明できるか否か は意見が分かれるかもしれない。だが、長 た。図表1に示すとおり、J-REIT価格がピ ークを迎える以前の2006年後半において、 図表1 日本の株価指数とJ-REIT価格指数の推移(配当込みベース) 3500 不動産株式指数や東証REIT指数は東証市場 第一部に上場している全ての日本企業(内 3000 2500 2000 であるTOPIXや新興株式市場である東証マ ザーズに上場している全ての銘柄が対象と する東証マザーズ指数を大幅にオーバーパ フォームしていた。当時、日本の不動産市 場のファンダメンタルズの改善を示す指標 1500 1000 500 0 2003年3月 5月 7月 9月 11月 2004年1月 3月 5月 7月 9月 11月 2005年1月 3月 5月 7月 9月 11月 2006年1月 3月 5月 7月 9月 11月 2007年1月 3月 5月 7月 9月 11月 2008年1月 3月 5月 7月 9月 11月 2009年1月 3月 5月 7月 国普通株式全銘柄)を対象とした株式指数 TOPIX(配当込み) TOPIX配当込み不動産業株価指数 東証REIT指数(配当込み) 東証マザーズ指数(配当込み) Bloomberg提供データよりARES作成 ARES September-October 2009 3 ARES SPECIAL く継続した大幅な価格上昇は永続するわけ である。そしてJ-REIT価格の動向を振り返 ではなく、やがて終焉するはずである。実 ると、少なくとも2008年9月のリーマン・シ 際には、米国のサブプライムローン問題の ョック以前におけるJ-REIT価格の下落は、 顕在化によって、外国人投資家のJ-REITへ 適正水準への調整の過程で生じた側面があ の投資態度が、図表2に示すように大幅な買 ったように思われる。 い越しから大幅な売り越しに急に転じたこ とをきっかけとして、J-REIT価格は下落局 面に転じた。だが、もし仮にこのような問 (2)成熟過程にあったJ-REIT市場を襲っ たリーマン・ショック 題がなかったとしても、J-REIT価格はいず れ下落局面に転じていた可能性が高い。 2007年半ば以降のREIT価格の下落は、図 表3に示すとおり、日本のみならず世界的 J-REITの価格下落局面においては、投資 に共通の傾向であった。この時期には、金 パフォーマンスは悪化し、投資家は損失を 融環境の変化をきっかけとして、REIT市場 被る。また、J-REITにとっては、資金調達 は世界的な調整過程に入ったといえる。こ コストが上昇し、資産取得が行いにくい状 れは、J-REITが経験したはじめての本格的 況となる。よって、J-REIT価格の下落は、 な価格調整であった。一方、市場の歴史が 投資家、J-REIT運営者の双方にとって歓迎 長い米国REITは、過去にいくつもの価格調 されないことが多い。しかし一方で、市場 整を経験してきた。そのため、米国REITは の調整機能を通じ、価格が適正な水準へと 過去のデータの蓄積が十分にあり、REIT価 調整される過程で価格が下落するのであれ 格がどの程度まで下がると割安であるか、 ば、そのようなJ-REITの価格下落には歓迎 それぞれの投資家が判断を下しやすい環境 すべき面もある。結果として適正な価格形 にあった。リーマン・ショック以前の米国 成が実現すれば、効率的な資源配分が実現 REITの価格変動を見ると、ある程度下落す するなど、社会的なメリットが大きいから ると比較的早い時期に反発しながら推移し 図表2 J-REIT投資部門別売買状況(東京証券取引所) 図表3 日本、米国、欧州のREIT価格(配当無しインデックス)推移 (2007年6月末=100と基準化) 2007年6月∼2008年12月 (千円) 150,000,000 110 100,000,000 100 90 50,000,000 80 70 0 60 -50,000,000 50 40 -100,000,000 銀行 投資信託 事業法人 国内個人 外国法人・個人 4 ARES September-October 2009 米国REIT FTSE/NAREIT. index 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 12月 11月 10月 09月 08月 07月 日本REIT 東証REIT指数(配当無し) 2008年01月 生保・損保 東京証券取引所提供データよりARES作成(一部の投資部門に関するデータを抜粋) 20 2007年06月 2003年04月 06月 08月 10月 12月 2004年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2005年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2006年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2007年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2008年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2009年02月 04月 06月 30 欧州REIT Euronext IFIF REIT Price Index ARES SPECIAL ている。これは、米国において、投資家が 投資家が様子見の状況であったものと推察 過去の経験を踏まえながら適正価格を冷静 される。このような状況下においては、J- に判断し、割安と判断した段階で買い入れ REIT価格の調整が円滑に機能せず、J-REIT るような市場環境が整っていたからであろ 価格が一時的に下がりすぎる可能性はある。 うと推察される。 しかし、少なくともリーマン・ショック以 一方、J-REITは価格下落局面に転じて以 前においては、ある程度価格が下落した時 降、リーマン・ショックまでの間、あまり 点で、J-REIT価格はやがて価格上昇局面に 反発せず下落し続けた。もちろん、下落局 転じてゆくことが多くの市場関係者に期待 面に入る前の2006年後半にJ-REIT価格は大 されていたように思われる。 きく上昇した反動から、大きな調整が必要 2007年6月以降初めて本格的な価格調整局 とされ、なかなか価格が反発しなかった面 面を迎えたJ-REITは、まさに、様々な経済 もあろう。だが、J-REITには、①保有資産 環境を経験しながら、投資家の間に相場観 の大半が実態のはっきりした不動産である、 が形成されてゆく過程にあった。そのよう ②開発事業などのリスク・期待リターンの な状況下、2008年9月のリーマン・ショック 高い事業が行われることはない、③概して は、世界的な金融市場を大きく混乱させ、J- 負債比率が低い、といった特性があり、将 REIT市場に多大な影響を与えた。これは、 来キャッシュフローの不確実性はそれほど まさに想定外の事態であり、その結果、成 高くはない。また当時は、日本の不動産市 熟途上にあったJ-REITを巡る環境は激変す 場のファンダメンタルズは依然として堅調 ることになったのである。 に推移していた。したがって比較的早期に 割安と判断する投資家が現れ、価格が大き 2. リーマン・ショックがJ-REIT市場 く反発する局面があってもよさそうであっ に与えたインパクト たようにも思える。しかし実際には、JREITへの買い圧力がなかなか高まらない状 況にあった。 (1)下落傾向にあったJ-REIT価格の更な る急落と初のJ-REIT破綻 J-REIT価格の下落が続く中、価格の下げ 2008年9月15日の米国証券大手のリーマ 止まりに対する期待感が高まっていたのは ン・ブラザーズの破綻によって、金融市場 確かであろう。しかしながらJ-REIT市場の は、100年に1度の危機ともいわれる世界的 歴史はまだ長くはなく、価格局面を迎える な大混乱に陥った。J-REIT市場もこの大混 こと自体初めてのことであった。そのため 乱の影響を強く受け、2008年10月上旬には、 過去の情報の蓄積がなく、どの程度の下落 既に下落傾向に転じていた東証REIT指数 が妥当なのか、その判断が難しく、多くの (配当無し)が一層急激に下落して、2008年 ARES September-October 2009 5 ARES SPECIAL 10月6日に公表以来、初めて終値ベースで 1000ポイントを下回ることとなった。更に、 (2)J-REIT銘柄間のリターン特性の差異 拡大 2008年10月9日にニューシティ・レジデンス リーマン・ショックは、また、J-REIT各 投資法人がJ-REITとして初めて民事再生法 銘柄のリターン特性に格差を生じさせた。 の適用を申請したことで、市場に激震が走 図表5、図表6、図表7はそれぞれ、2008 り、破綻翌日の10月10日には、東証REIT指 年8月、9月、10月におけるJ-REIT各銘柄の 数の日次収益率は過去最悪の約−12%にも 達した。J-REITは保有資産の大半を不動産 が占め、かつ保守的な財務戦略を採る安定 図表5 2008年8月J-REIT各銘柄のリターン・リスク (ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年8月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年8月における日次キャピタルリターンの標準偏差 2.0% 的な商品であり、J-REITの破綻自体全く想 定されていなかった。そのため、ニューシ ティ・レジデンス投資法人の破綻は、市場 1.0% 0.0% 0.0% -1.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% -2.0% -3.0% -4.0% に大きな衝撃を与えたのであった。 -5.0% この時期には、J-REIT価格は、図表4に -6.0% 示すとおり、日本の株価、米国の株価推移 -8.0% と大きく連動して推移した。J-REIT価格が、 このように株価と高い連動性を示しながら 下落したことは、J-REIT価格の下落が、金 融市場の世界的な混乱の影響を受けた現象 であり、J-REITの保有資産等のファンダメ -7.0% 図表6 2008年9月J-REIT各銘柄のリターン・リスク (ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年9月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年9月における日次キャピタル収益率の標準偏差 2.0% 1.0% 0.0% 0.0% -1.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% -2.0% ンタルズ悪化による現象ではない可能性を -3.0% 示唆しているといえよう。 -5.0% -4.0% -6.0% -7.0% -8.0% 図表4 リーマンブラザーズ破綻前後の米国株価と東証REIT指数の推移 (左縦軸は、TOPIX及び東証REIT指数の水準を、右縦軸はNYダウの水準をそれぞれ示す。) 1300 13000 1200 12000 1100 11000 1000 10000 900 9000 800 8000 700 7000 6000 2008年9月2日 2008年9月4日 2008年9月6日 2008年9月8日 2008年9月10日 2008年9月12日 2008年9月14日 2008年9月16日 2008年9月18日 2008年9月20日 2008年9月22日 2008年9月24日 2008年9月26日 2008年9月28日 2008年9月30日 2008年10月2日 2008年10月4日 2008年10月6日 2008年10月8日 2008年10月10日 2008年10月12日 2008年10月14日 2008年10月16日 2008年10月18日 2008年10月20日 2008年10月22日 2008年10月24日 2008年10月26日 2008年10月28日 2008年10月30日 2008年11月1日 2008年11月3日 2008年11月5日 600 東証REIT指数 TOPIX NYダウ 東京証券取引所提供データよりARES作成(一部の投資部門に関するデータを抜粋) 6 ARES September-October 2009 図表7 2008年10月J-REIT各銘柄のリターン・リスク (ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年10月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年10月における日次キャピタルリターンの標準偏差 2.0% 1.0% 0.0% 0.0% -1.0% -2.0% -3.0% -4.0% -5.0% -6.0% -7.0% -8.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% ARES SPECIAL 日次リターンの月間平均値と標準偏差(リ 3. リターン特性の差と信用リスク スク)の水準のプロットを示している。 2008年8月と9月を比較すると、9月の方がリ ターンの平均値及び標準偏差が若干高いよ うに見える。しかし、2008年8月から9月に (1)上場J-REIT銘柄数とリターン差異の 推移 かけて生じたこの差異は、J-REIT銘柄の格 既に述べたとおり、リーマン・ショック 付け引き下げや不動産流動化事業で業績を の影響で、2008年10月におけるJ-REIT銘柄 伸ばしてきたアーバンコーポレーション等 間のリターン差異は極めて大きなものとな の大規模破綻、などのネガティブなニュー った。だが、銘柄間のリターンの差異は、 スや、J-REIT運用会社あるいはそのスポン それ以前の期間においても概ね上昇傾向に サーへの新たな資本参加参画、などのポジ あった。図表8は、J-REITの月次キャピタ ティブなニュースのJ-REIT双方に反応した ルリターンの銘柄間最大値、銘柄間最小値、 価格調整の結果であり、市場に大きな構造 および銘柄間最大値と銘柄間最小値の差の 変化が生じた差異であるとはいえない。こ 推移を、上場J-REIT銘柄数の推移と合わせ れに対し、2008年10月においては、各銘柄 て示している。J-REITの上場銘柄は市場創 のリスク・リターンは、それ以前の2008年 設以来、時期によってペースに差はあるも 8月、9月と比べ大きく異なる状況となった。 のの、2007年11月まで増加してきた。特に、 2008年10月には、J-REIT価格が、国内外の 2005年度には銘柄数が16から32へと倍増す 株式と強く連動して大きく下落した事情を るなど、上場ラッシュの様相を呈していた。 反映し、それ以前の期間と比較して、全銘 従来は銘柄の増加とともにJ-REITの多様化 柄に渡ってリターンが低下し、ボラティリ が進展し、その結果、リターンの格差が若 ティ上昇する傾向が見られた。このような 干ながらも拡大傾向にあったことがわかる。 傾向に加え、リターンの低下の度合いに、 それ以前と比較して銘柄間に大きな差異が 図表8 上場J-REITの銘柄数と銘柄間月次キャピタルリターン格差 1.50 50 見られた点が、2008年10月に観察された極 45 1.00 40 めて顕著な特徴であったといえる。このよ うなJ-REIT銘柄間のリスク・リターン特性 35 0.50 30 25 0.00 20 -0.50 15 の差異を大きく拡大させたこともまたリー 10 -1.00 マン・ショックがJ-REIT市場に与えた大き な影響だったわけである。 0 2001年10月 2002年1月 2002年4月 2002年7月 2002年10月 2003年1月 2003年4月 2003年7月 2003年10月 2004年1月 2004年4月 2004年7月 2004年10月 2005年1月 2005年4月 2005年7月 2005年10月 2006年1月 2006年4月 2006年7月 2006年10月 2007年1月 2007年4月 2007年7月 2007年10月 2008年1月 2008年4月 2008年7月 2008年10月 2009年1月 2009年4月 5 上場J-REIT銘柄数 -1.50 キャピタルリターンの銘柄間最大値−銘柄間最小値 月次キャピタルリターンの銘柄間最大値 月次キャピタルリターンの銘柄間最小値 Bloomberg提供データ及びその他公表データよりARES作成 ARES September-October 2009 7 ARES SPECIAL 図表9 J-REITの新規上場の取りやめ・延期の事例 年月日 2007年12月 3日 2007年12月11日 2007年12月26日 2008年 1月25日 2008年 2月 5日 2008年 6月10日 事例 米保険大手AIG系のジェイリート投資法人、東京証券取引所への上場取りやめを発表。 エイブル系のエイブルリート投資法人、東京証券取引所への上場取りやめを発表。 長谷工コーポレーションが、明豊エンタープライズなどと東京証券取引所への上場準備を進めていたエコロジー・リート投資法人の解散を発表。 トーセイが、 トーセイ・リート投資法人の解散を発表。 日本レップが上場準備を進めていたジェイ・レップ・ロジスティクス投資法人の解散を発表。 大和ハウス工業が大和ハウスリート投資法人の新投資口の発行と投資口の売り出し中止を発表。 Bloomberg提供データよりARES作成 だがその後、図表9に示すとおりJ-REITの 新規上場の計画が相次いで中止・延期とな (2)J-REIT銘柄間で二極化したパフォー マンス動向 り、破綻したニューシティ・レジデンス投 ただし、2008年10月において日次リター 資法人が上場廃止となったことから、上場 ンの平均値が相対的に高かったJ-REIT銘柄 J-REITの銘柄数は伸び悩んだ。しかし、そ 群と、日次リターンの平均値が相対的に低 のような状況にあってもJ-REIT銘柄間のリ かったJ-REIT銘柄群の間には、2008年10月 ターン格差は拡大を続け、リーマン・ショ の一期間において、一方の銘柄群が他方の ックによってその格差は一層拡大したので 銘柄群をリターンの点で凌駕した、という ある。 単純な現象以上の差異が観察される。例え この時期には、上場J-REITの銘柄数が伸 ば、①2008年10月の日次リターン月間平均 び悩んでいるとはいえ、既に40銘柄以上の 値の上位10銘柄からなる単純平均ポートフ 上場J-REITが存在していた。よって、当然 ォリオ(以下、「ポートフォリオA」とい ながら、J-REIT各銘柄間に運用方針・運用 う。)、②2008年10月の日次リターン月間平 ノウハウの違いが見られたはずである、そ 均値の下位10銘柄(2008年10月に破綻した のため、銘柄数が伸び悩む状況下にあって ニューシティ・レジデンス投資法人を除く) もJ-REITが様々な経済局面を経験する中、 からなる単純平均ポートフォリオ(以下、 銘柄間の差異が、リターンの差となって表 「ポートフォリオB」という。 ) 、の2つのポ れたものと考えられる。そして、リーマ ートフォリオを構築し、両ポートフォリオ ン・ショックの影響は極めて大きかったこ の日次リターンの動向を見ると、両ポート とから、2008年10月には、その影響を受け、 フォリオの日次リターン20営業日平均値の 銘柄間のリターンの差異が大きく拡大した ローリングデータは、図表10のとおり推移 ものと思われる。 しており、両者動向には大きな差が認めら れる。2008年10月の日次リターン月間平均 値の高い10銘柄からポートフォリオA、 2008年10月の日次リターン月間平均値の低 8 ARES September-October 2009 ARES SPECIAL 図表10 2008年10月の日次リターン月間平均値上位10銘柄の 単純平均ポートフォリオリターン平均値と下位10銘柄の 単純平均ポートフォリオリターン平均値(20営業日ベース) (ただし、破綻した、ニューシティ・レジデンス投資法人を除く) 図表11 TOPIXリターンとの相関係数 (ポートフォリオA、ポートフォリオB、20営業日ベース) 1.0 0.8 0.04 0.03 0.6 0.02 0.01 -0.4 -0.06 -0.07 7月 6月 5月 4月 3月 2月 12月 11月 9月 8月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 2009年1月 -0.05 10月 -0.2 -0.04 12月 0.0 2008年1月 0.2 2007年11月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 12月 11月 9月 10月 8月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 12月 2009年1月 -0.03 2008年1月 -0.02 11月 -0.01 0.4 2007年10月 0.00 相関係数20営業日ベース (ポートフォリオA vs. TOPIX) ポートフォリオA(2008年10月の日次リターン月間平均値上位10銘柄の単純平均ポートフォリオ) ポートフォリオB(2008年10月の日次リターン月間平均値下位10銘柄単純平均ポートフォリオ) 相関係数20営業日ベース (ポートフォリオB vs. TOPIX) Bloomberg提供データよりARES作成 Bloomberg提供データよりARES作成 い10銘柄からポートフォリオBを構築した わけであるから、リーマン・ショック直後 きる。 このように、リーマン・ショック以降、 の時期でポートフォリオAがポートフォリ 異なるリスク・リターン特性を示す2つの オBを日次リターンの20営業日平均値の点 銘柄群が出現したのである。 で大幅に上回っているのは当然の現象であ る。だが、その後の期間で、両者の関係が 4. リーマン・ショック後のJ-REIT価 逆転し、ポートフォリオBの日次リターン 格低迷の背景 平均値がポートフォリオAの日次リターン ∼リファイナンスリスクの顕在化と再 平均値を上回る時期がつづいた。ポートフ 編への障壁∼ ォリオAの日次リターン平均値の推移は比 較的安定的に推移する一方、ポートフォリ (1)リファイナンスの顕在化と価格の低迷 オBの日次リターン平均値の推移は大きく J-REIT価格の水準は、リーマン・ショッ 変動したことから、両ポートフォリオの日 クによってJ-REITの純資産と比較して著し 次リターン平均値の関係は、時期によって く低い水準にまで急落した後、すぐには回 大きく変化したのである。また、図表11は、 復せず、1口当たり純資産時価を大幅に下回 ポートフォリオAのリターンとTOPIXのリ る水準で推移した。この時期には、不動産 ターンの相関係数、ポートフォリオBのリ 賃貸市場の大幅な落ち込みは見られず、J- ターンとTOPIXのリターンの相関係数を示 REITのキャッシュフローに大きな毀損は認 している。J-REITとTOPIXとの相関の高ま められない状況にあった。リーマン・ショ りについてはしばしば指摘されてきたが、 ックとそれ以降の時期におけるJ-REIT価格 ポートフォリオBについていえば、TOPIX の低迷は、信用収縮下でJ-REITが厳しい資 との相関が相対的に低かったことを確認で 金調達環境に直面する中、J-REITのリファ ARES September-October 2009 9 ARES SPECIAL イナンスリスクに対する懸念が高まったこ た面もあろう。 とによる部分が大きいように思われる。例 さらに、このようなJ-REIT価格の大幅な えば2008年9月末の格付けと2008年10月のJ- ディスカウントの結果、J-REITは更に厳し REIT価格の上昇率についてみると、図表 い資金調達環境に直面し、その結果一層の 12、図表13が示すとおり、2008年9月末の格 デフォルトリスクへの懸念が高まる、とい 付けが低いほど2008年10月におけるJ-REIT った負のスパイラルに陥った面もあった。 価格上昇率が低く(価格下落率が高く)な 図表15は、J-REIT上場後増資額の推移およ る明瞭な関係が見られる。また、破綻した び第三者割当増資額が占める割合を示して ニューシティ・レジデンス投資法人の投資 いるが、2008年後半以降、資金調達額は大 口価格は、図表14に示すとおり、上場廃止 きく低下するとともに、第三者割当増資に までの間に大幅に下落した。このように、J- 頼らざるを得ない状況であったことを示し REITのデフォルトリスクが顕在化する中、 ている。 他のJ-REIT銘柄についても、破綻の可能性 が折り込まれ、価格がディスカウントされ 図表12 2008年9月末格付(R&I)と2008年10月の J-REIT価格上昇率(格付ノッチ別の平均値) 0.0% AA AA- A+ A A- R&I格付 格付未取得 (2008年9月) 図表14 ニューシティ・レジデンス投資法人 投資口価格の推移 (円) 800,000 最高価格 737,000円 2007年5月24日 700,000 600,000 -10.0% 民事再生申立時 71,000円 2008年10月9日 500,000 -20.0% 上場日終値 561,000円 2004年12月15日 400,000 300,000 -30.0% 上場廃止時点 14,200円 2008年11月7日 200,000 -40.0% 最低価格 6,300円 2008年10月16日 100,000 0 2004年12月 2005年2月 2005年4月 2005年6月 2005年8月 2005年10月 2005年12月 2006年2月 2006年4月 2006年6月 2006年8月 2006年10月 2006年12月 2007年2月 2007年4月 2007年6月 2007年8月 2007年10月 2007年12月 2008年2月 2008年4月 2008年6月 2008年8月 2008年10月 -50.0% -60.0% 公表データよりARES作成 Bloomberg提供データよりARES作成 図表15 J-REIT上場後増資額の推移と第三者割当増資額が占める割合 図表13 2008年9月末格付(ムーディーズ)と 2008年10月価格上昇率(格付ノッチ別の平均値) (百万円) 0.0% 100.0% 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 250,000 10.0% Aa3 A1 A2 A3 格付未取得 ムーディーズ格付 (2008年9月末) 200,000 150,000 -10.0% 100,000 -20.0% 50,000 -30.0% ∼ 2 01 001 月 年 0 20 07 1日 12月 03 月 ∼ 0 31日 年 0 20 01 1日 6月 03 月 ∼ 30日 年 01 12 20 07 日 月 04 月 ∼ 31日 0 年 0 20 01 1日 6月 04 月 ∼ 30日 1 年 0 20 07 1日 2月 05 月 ∼ 31日 年 01 06 20 01 日 月 05 月 ∼ 30日 1 年 0 20 07 1日 2月 06 月 ∼ 31日 0 年 0 20 01 1日 6月 06 月 ∼ 30日 年 01 12 20 07 日 月 07 月 ∼ 31日 0 年 0 20 01 1日 6月 07 月 ∼ 30日 1 年 0 20 07 1日 2月 08 月 ∼ 31日 0 年 0 20 01 1日 6月 08 月 ∼ 30日 1 年 0 20 07 1日 2月 09 月 ∼ 31日 年 01 06 01 日 月3 月 ∼ 0 01 12 日 日 月 ∼ 31 06 日 月 30 日 年 02 年 20 -60.0% 02 -50.0% 0 20 -40.0% 公表データよりARES作成 上場後増資額合計(百万円) 公表データよりARES作成 10 ARES September-October 2009 第三者割当増資額が占める割合 ARES SPECIAL (2)市場再編への期待の高まりと実務上の 障壁 なるのは確かである。J-REIT価格が大幅に 低迷する市場環境において、J-REITの買収 リーマン・ショック以降のJ-REIT価格の を通じた規模の拡大は、資産拡大を目指す ように、上場エクイティ商品の価格が、純 J-REITにとって有望な戦略の一つになり得 資産価値を下回る現象は、金融危機下にお る。M&Aによる有利な条件での資産規模の いてはもちろん、それ以外の場合もしばし 拡大は、投資家にも歓迎されるばかりか、 ば起こりうる。このような場合、特に一時 市場活性化を通じた市場全体に対するポジ 的なショックによって上場エクイティ商品 ティブな影響を期待されるはずである。 の価格が大幅に下落する局面においては、 ところが、J-REITのM&Aについては、 短期的な価格調整が働き、価格は適正水準 法律上認められてはいるものの、制度上い に回復傾向がある。だが、株式については、 くつもの実務上の課題に直面せざるを得ず、 非効率な経営が改善される見込みがない場 その実現が困難な状況にあった。そのため 合や、市場や制度等に短期的には解決し得 J-REIT市場の再編は、図表16に示すような ない構造上の問題がある場合には、価格が J-REITのスポンサー(J-REITの運用会社の 低迷し続ける可能性がある。このような場 株主)の変更にとどまった。格付機関が発 合、M&Aによって企業価値を高めようとす 行するJ-REITの格付けレポートの一部では、 る圧力が次第に高まる。そして、M&Aの実 J-REITがスポンサーから独立した存在であ 現によって、株価が回復するシナリオが想 ること認める一方で、 「スポンサーがJ-REIT 定されるのである。 の運営に密接に関連している実態を根拠に、 リーマン・ショック後のJ-REITは、まさ スポンサーの破綻がJ-REITの運営、特に資 に過度の信用収縮下にあり、投資口価格が 金調達に影響を及ぼす可能性がある」 、との 1口当たり純資産を大幅に下回る水準で長ら 見方が示されている。このような見方がJ- く推移した。そのため株式と同様、J-REIT REITの格付けに強く反映されているとすれ についてもM&Aによる市場再編への期待が ば、スポンサーが交代することによって、J- 高まっていった。J-REITはパッシブな不動 REITに対する評価が高まる可能性を期待で 産投資を目的とした特殊な会社であって、 きる面があるのは確かである。だがスポン 株式会社と異なり、J-REITには事業性があ サーの変更は、M&Aによる本格的な市場再 まりない。よって、J-REITのM&Aを株式 編と比較すれば軽微な調整であり、市場の のM&Aと同列に論じることができない面は 本格的な再編はうまく進展しているとはい 当然あろうが、J-REIT価格が下落するにつ えない状況にあった。 れ、より少ない資金でJ-REITを買収し、JREITの保有資産を手に入れることが可能と ARES September-October 2009 11 ARES SPECIAL 図表16 J-REITのスポンサー(運用会社の主要株主)の主な変更事例 時点 運用会社名称(新名称) 変更前メインスポンサー 変更後メインスポンサー 備考 アセット・リアルテイ・マネジャーズ 2007年11月 (ラサールインベストメントアドバイザーズ) アセットマネジャーズ ラサールインベストメントマネージメント 運用会社の全株式をラサールインベストメントマネージメントに譲渡 フロンティア・リート・マネジメント 三井不動産 運用会社の全株式を三井不動産へ譲渡 2008年3月 (三井三井不動産フロンティアリートマネジメント) 日本たばこ産業 アップルリンゴHD(オークツリー)が投資法人に対してTOB、運用 会社の株式をリプラスから35%取得、リプラス破綻後、リプラスの 運用会社の株式持分を追加取得 リプラス・リート・マネジメント アップルリンゴHD 2008年10月 (ミカサ・アセット・マネジメント) リプラス (オークツリー) (アップルリンゴHD(オークツリー)の持分は90%に上昇) 大和ハウス工業がメインスポンサーのモリモト及びキャピタラン ドの運用会社の保有株式を取得。 (大和ハウス工業の運用会社の モリモトアセットマネジメント 株式持分を10.0%から73. 5%へ上昇) 2008年11月 (大和ハウス・モリモト・アセットマネジメント) モリモト 大和ハウス工業 クリード・リート・アドバイザーズ 2008年12月 (ジャパン・オフィス・アドバイザーズ) クリード いちごアセットトラスト 運用会社の全株式をいちごアセットトラストへ譲渡 運用会社の全株式を大和証券グループ本社に譲渡 ダヴィンチ・セレクト 大和證券グループは、同日付で投資法人の第三者割当増資を引き 2009年7月 (大和リアル・エステート・アセット・マネジメント) ダヴィンチ・ホールディングス 大和証券グループ本社 受ける(発行新投資口数は51,893口で、発行総額は100億円) 公表データよりARES作成 5. J-REIT低迷からの脱却に向けた政 策の実現 図表17 上場J-REITによる物件取得額の推移(単位:百万円) (1) J-REIT市場低迷が不動産市場や経済 全般に及ぼす影響と政策の必要性 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 400,000 2009年上期 (8月31日まで) 2008年下期 2008年上期 2007年下期 2007年上期 2006年下期 2006年上期 2005年下期 2005年上期 2004年下期 2004年上期 すとおり、J-REITによる不動産の取得は大 2003年下期 0 2003年上期 調達環境に直面したことから、図表17に示 2002年下期 200,000 2002年上期 する金融市場環境下、J-REITは困難な資金 600,000 ∼2001年12月 リーマン・ショックの影響によって混乱 物件取得額(取得価格ベース) 幅に減少し、実物不動産市場における不動 公表データよりARES作成 産価格の下落要因となった。結果として、 図表18に示すとおり、J-REITの保有不動産 の価格は下落した。 一般に、証券市場においてJ-REIT価格が 下落する過程では、投資家の要求利回りが 上昇することによって不動産の取得が抑制 され、実物不動産市場において不動産価格 図表18 AJPPI(ARES J-REIT Property Price Index) (キャピタル収益率ベース)の推移 以下のグラフに示すAJPPI(キャピタル収益率ベース) は、上場J-REIT(不動産投資信託)が保有する不動産 の収益率を元に算出した価格インデックスであり、 日本の不動産価格の平均的な動向を2004年5月の水準を 100として示した指標です。AJPPIの算出に用いられる不動産の収益率の算出方法は、米国で広く普及してい るNCREIF Property Indexの算出方法に準じております。米国のNCREIF Property Indexについては、 http://www.ncreif.com/ にて閲覧可能です。 140.00 130.00 120.00 110.00 100.00 不動産市場のファンダメンタルズの変化が 情報効率的な証券市場で早期に察知され、 そして、証券市場においてその変化を反映 12 ARES September-October 2009 90.00 80.00 2002.1 2002.4 2002.7 2002.10 2003.1 2003.4 2003.7 2003.10 2004.1 2004.4 2004.7 2004.10 2005.1 2005.4 2005.7 2005.10 2006.1 2006.4 2006.7 2006.10 2007.1 2007.4 2007.7 2007.10 2008.1 2008.4 2008.7 2008.10 に下げ圧力が生じる傾向にある。もし仮に、 全物件/All properties Office/オフィス Residential/住宅 Commercial/商業 (社)不動産証券化協会ホームページ www.ares.or.jp ARES SPECIAL され、J-REITの投資口価格が適正水準へと 軽減したことや、内閣府令及び監督指針の 調整されれば、その影響が不動産市場に伝 改正によって合併交付金の活用可能性につ 播し、不動産市場における適正価格が早期 いて明確化されたことなど、J-REITの に実現するメリットを期待できる。すなわ M&Aに関連する制度改正が急速に進展し ち、市場メカニズムが円滑に機能する環境 た。その結果、J-REITのM&Aにおける実 下では、J-REIT市場の価格発見機能により、 務上の障壁の多くが取り除かれ、J-REIT市 実物不動産市場における不動産の価格調整 場における市場再編の実現性は大きく高ま が円滑に進むことが期待されるのである。 った。 しかしながら、リーマン・ショック後の そして、2009年8月には、アドバンス・レ J-REIT市場は、世界的な金融危機の影響を ジデンス投資法人と日本レジデンシャル投 強く受け、証券市場において市場メカニズ 資法人が合併する旨の基本合意書が締結さ ムの円滑な働きによる自律的な価格調整が れることが公表され、J-REIT初の合併が具 短期的には実現しにくい状況下にあった。 体化した。これは、従来からアドバンス・ そのため、J-REIT価格は過度に低い水準で レジデンス投資法人のスポンサーであった 推移したことから、J-REITによる不動産の 伊藤忠商事が、2009年3月にスポンサーのパ 取得意欲は過度に抑制され、不動産価格が シィックホールディングズが破綻して新ス 適正水準を大幅に下回る水準にまで下落す ポンサー選定を行ってきた日本レジデンシ る可能性が懸念された。不動産価格の過度 ャル投資法人の新スポンサーとなった上で、 な下落は、既に、バブル経済崩壊後の1990 両投資法人を合併させる運びとなったもの 年代に日本が経験したとおり、不動産業界 である。図表19に示すとおり、J-REITには や不動産への投資家のみならず、経済全般 すでにいくつかのスポンサー破綻事例があ に深刻な悪影響を与えかねない。J-REIT市 る。J-REITスポンサーが破綻した場合、新 場や不動産市場のみならず、日本経済の更 スポンサーが選定され、新たな体制が敷か なる悪化を軽減させるためにも、J-REITの れることになるわけだが、新スポンサーの 信用リスクを解消し、市場の正常化に寄与 選定プロセスの過程においてM&Aも含めた する政策の早期実現が必要とされる状況に 再編も選択肢に含めた検討が可能となった あった。 ことで、スポンサーが破綻したJ-REITの将 来に対する不安感は相当程度解消された。 (2)政策の実現とJ-REIT市況の改善 加えて、J-REITの困難な資金調達環境の このような状況を受け、リーマン・ショ 改善につながる政策が、策定・実施された。 ック後には、平成21年度税制改正によって、 例えば、2008年度には、日本政策金融公庫 J-REITの導管性が破綻するリスクが大きく の「危機対応円滑化業務」を活用して日本 ARES September-October 2009 13 ARES SPECIAL 図表19 J-REITのスポンサー(運用会社の主要株主)の破綻事例 日付 破綻したJ-REITスポンサー (運用会社の主要株主) 証券コード J-REIT名称 2008年9月24日 リプラス 8986 リプラス・レジデンシャル投資法人 2008年11月28日 モリモト 8984 ビ・ライフ投資法人 2009年1月9日 クリード 8983 クリード・オフィス投資法人 2009年3月10日 パシフィックホールディングス 8962 日本レジデンシャル投資法人 3229 日本コマーシャル投資法人 2009年5月29日 ジョイント・コーポレーション 8973 ジョイント・リート投資法人 公表データよりARES作成 政策投資銀行を窓口に運転資金を供給する 図表20 リーマン・ショック以降の東証REIT指数(配当無し)の推移 1,300.00 枠組みの策定や、J-REITが発行する投資法 人債の適格担保(金融機関に資金を供給す る担保)への追加などの施策が実施された。 また、2009年4月10日の経済危機対策(「経 済危機対策」に関する政府・与党会議、経 済対策閣僚会議合同会議)の中で、J-REIT 1,200.00 1,100.00 1,000.00 900.00 800.00 700.00 600.00 2008年2008年 2008年 2008年 2009年 2009年2009年 2009年 2009年 2009年 2009年 2009年 2009年 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 東証RE I T指数(配当無し) を銀行等保有株式取得機構の買取対象に加 Bloomberg提供データよりARES作成 える旨、官民一体となったファンドの創設 や日本政策投資銀行等によるJ-REITへの資 金供給の充実が盛り込まれるなど、J-REIT 次リターン平均値の動向が示すとおり、こ の資金調達環境の改善に向けた政策が実 れらの制度改正や政策の議論の過程で、 現・策定された。官民一体となったファン 2008年10月の日次リターン平均値が低かっ ドの創設については、2009年6月末から「不 た銘柄群のリターンが大幅に改善した。こ 動産市場安定化ファンドの設立・運営に関 の動きは、信用リスクが懸念され、リーマ する検討委員会」が国土交通省によって4回 ン・ショックの影響を大きく受けた銘柄 にわたり開催され、構想が具体化され、9月 が、その後に制度改正や政策の議論に反応 5日にはファンドが実際に立ち上がることに して大幅な価格上昇に転じたことを示唆し なった。 ている。 このような政策の具体的進捗によって、J- また、市場全般の動きについてみると、 REITの資金繰りに対する投資家の不安感は リーマン・ショック後の東証REIT指数(配 軽減した。図表10のポートフォリオBの日 当無し)は、図表20に示すとおり、2008年 14 ARES September-October 2009 ARES SPECIAL 10月に大きく下落した後、長らく700ポイン 比べ解消されつつあるように見える。その ト台から900ポイント台の間で推移したが、 ような状況下、資産構成や仕組み上、リス 2009年度に入り回復傾向を示している。 クが相対的に低い商品であるREITが、魅力 2009年7月2日、同指数は2008年10月3日以来 を取り戻しているのかもしれない。もしそ 終値ベースで初めて1000ポイントを上回り、 うであれば、リーマン・ショックによる混 それ以降1000ポイント前後で推移している。 乱から脱し、REITが世界的に本来の商品性 このように、J-REIT市況に全般的な改善の を取り戻す新たなステージに入るシナリオ 兆しが見られるのが2009年度前半の状況で が実現することも想定されよう。 ある。 しかしながら、日本ではJ-REITのM&A について、制度改正等によって実務上の障 6. 今後の展望 壁は大幅に解消され、J-REITの初のM&A 案件が具体化したものの、その実現はこれ 最近のREIT価格の上昇は、図表21に示す からである。また、破綻したニューシテ とおり、日本のみならず各国共通の現象で ィ・レジデンス投資法人の処理の過程で、 ある。世界各国は、リーマン・ショックに 米ローンスターを支援先とする再建計画が 端を発する深刻な金融経済危機から一刻も 債権者集会で否決されるとともに、大和ハ 早く脱却すべく、財政・金融政策をはじめ ウス工業をスポンサーとするビ・ライフ投 とする広範な政策を積極的に打ち出してき 資法人との合併に向け再度、民事再生手続 た。その甲斐があってか、まだ将来の不確 きを申請する方向にある。今後、M&Aによ 実性は高い状況にはあるものの、金融市場 るニューシティ・レジデンス投資法人の再 の混乱による短期的な影響の懸念は以前と 生が実現する可能性が高まっているが、ま だ不確定な部分がある。市場を通じたJREITの資金調達については、図表15のとお 図表21 日本、米国、欧州のREIT価格(配当無しインデックス)推移 (2009年3月末=100と基準化) り低迷しているのが実情である。日本にお いては、M&Aによる市場再編やREITの資 180 日本REIT 米国REIT 欧州REIT 160 金調達環境の改善が、海外ほど具体的な形 140 で進展していないものの、制度改正や政策 120 の実現や進捗によって将来への期待感が高 100 まったことを反映して、J-REIT価格の上昇 80 60 2008年 12月 2009年 1月 2009年 2月 2009年 3月 日本REIT:東証REIT指数(配当無し) 米国REIT:FTSE/NAREIT inde 欧州REIT:Euronext IFIF REIT Price Indexx 2009年 4月 2009年 5月 2009年 6月 2009年 7月 Bloomberg提供データよりARES作成 が実現しているというのが最近の状況だと いえる。 一方、海外ではREITのM&Aの実務上の ARES September-October 2009 15 ARES SPECIAL 障壁が元々存在せず、市況の変化に合わせ 能性もある。そうなれば、厳しい市場環境 てREIT市場の再編が行われてきた。また、 下、投資家の利益を如何に確保できるかが 最近では、米国等のREITによる市場からの 問われることになり、J-REIT各銘柄の不動 資金調達は活発化しており、REITの資金調 産運用の巧拙への関心が、今以上に高まる 達環境の改善が目に見える形で明らかにな ように思われる。 っている。 米国等のREIT価格は、資金調達環境の改 善や市場再編が具体的に進展している状況 を踏まえ、2009年3月以降大きく上昇してい る。これに対しJ-REIT価格は、一時800ポ イントを下回る水準にまで下落した東証 REIT指数が、1000ポイント程度にまで大幅 に回復しているが、欧米REITと比較する と、2009年3月以降のJ-REIT価格の上昇は、 図表15に示すとおり低調である。今後、日 本においても、欧米と同様にJ-REITの資金 調達環境の改善やJ-REITの市場再編が具体 的に進展すれば、それらはJ-REIT価格の大 きな上昇要因になることが期待される。 とはいえ、既に賃料下落や空室率の上昇 といった不動産市場のファンダメンタルズ 悪化を示す統計が公表されるようになって おり、REITのキャッシュフロー上昇要因が 見込まれる状況にはない点には注意を要す る。キャッシュフロー上昇要因が見込まれ る状況にはないにも関らず、資金調達環境 の改善や市場再編の進展への期待によって J-REIT価格が上昇している、というのが最 近の状況である。よって、中長期視点に立 てば、市場が正常化されるにつれ、景気後 退局面において悪化した不動産市場のファ ンダメンタルズの影響がより注目される可 16 ARES September-October 2009