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不動産証券化を共に推進する情報誌
THE ASSOCIATION FOR REAL ESTATE SECURITIZATION ◆会員一覧(社名五十音順)◆ 株式会社アイ・エヌ情報センター 株式会社あおぞら銀行 青山リアルティー・アドバイザーズ 株式会社 朝日監査法人 アセット・マネージャーズ株式会社 株式会社アドパーク アットホーム株式会社 穴吹興産株式会社 アンダーソン・毛利法律事務所 飯野海運株式会社 株式会社生駒データサービスシステム 株式会社井智 伊藤忠都市開発株式会社 株式会社インターリスク総研 牛島総合法律事務所 AIGグローバル・リアルエステイト・ インベストメント・ジャパン・コーポレーション 株式会社緒方不動産鑑定事務所 沖信・石原・清法律事務所 オリックス・アセットマネジメント 株式会社 株式会社価値総合研究所 関電産業株式会社 株式会社協同エージェンシー グローバル・アライアンス・リアルティ 株式会社 宏陽ホーム株式会社 株式会社財団評価研究所 株式会社さくら綜合事務所 三幸エステート株式会社 株式会社三友システムアプレイザル シティグループ・プライベートバンク ジャパンリアルエステイトアセット マネジメント株式会社 ジャパン・リート・アドバイザーズ 株式会社 新光証券株式会社 新日本アーンストアンドヤング税理士法人 新日本監査法人 株式会社住信基礎研究所 株式会社住友生命総合研究所 ARESに出向し4カ月が経ちました。実物不動産、しかも住宅関係しか知らな かった私にとっては、新しい情報や言葉の雨・嵐のなかで、正直なところアレ ルギー症状に陥りました。とりあえず新参者の特権と勝手に決め込んで、誰彼 構わず聞きまくり、関連図書も理解不十分のまま読み飛ばし、ようやく落ち着 いてきました。初心者の目で「オープンでわかりやすい」 をモットーにこれか らも取り組んでいきますので、ARESの応援よろしくお願いいたします。 (綿貫) (平成15年7月16日現在) 会報「ARES」第4号 平成15年7月30日発行 編集発行 社団法人不動産証券化協会 〒107-0052 東京都港区赤坂 1-9-20 第16興和ビル南館4階 TEL:03-3505-8001 FAX:03-3505-8007 URL:http://www.ares.or.jp エイリス 社 団 法 人 不 動 産 証 券 化 協 会 July-Aug 03・ Vol. 4 t us 編 集 後 記 賛助会員(全80社) 税理士法人平川会計パートナーズ 株式会社全国不動産鑑定士ネットワーク 株式会社総研 株式会社総合不動産鑑定コンサルタント 株式会社だいこう証券ビジネス 大和不動産鑑定株式会社 株式会社ダヴィンチ・アドバイザーズ 株式会社谷澤総合鑑定所 株式会社地域経済研究所 中央青山監査法人 株式会社中央不動産鑑定所 株式会社千代田ビルマネジメント 東急リアル・エステート・インベストメント・ マネジメント株式会社 東急リロケーション株式会社 株式会社東京リアルティ・インベストメント・ マネジメント 東誠不動産株式会社 株式会社都市開発不動産鑑定所 長島・大野・常松法律事務所 株式会社ニッセイ基礎研究所 財団法人日本開発構想研究所 株式会社日本格付研究所 株式会社日本クリエイト 日本総合ファンド株式会社 日本ビルファンドマネジメント株式会社 財団法人日本不動産研究所 株式会社日本プロパティ・ソリューションズ パウロニア司法・調査士法人 ―相馬司法事務所― 株式会社ヒューネット 不動産鑑定士評価システム協同組合 プライスウォーターハウス・クーパース 税理士法人中央青山 プライスウォーターハウス・クーパース・ フィナンシャル・アドバイザリー・サービス 株式会社 プレミア・リート・アドバイザーズ株式会社 マークス株式会社 三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社 三宅坂総合法律事務所 株式会社ミヤビエステックス 有限会社三輪不動産研究所 株式会社明和住販流通センター メリルリンチ日本証券株式会社 森藤税務会計事務所 株式会社モルガン・スタンレー・ プロパティーズ・ジャパン 株式会社ユーマック 株式会社立地評価研究所 レンド・リース・ジャパン債権回収 株式会社 Vol.4 2003 July-August 株式会社アーバンコーポレイション 伊藤忠商事株式会社 株式会社大林組 オリックス株式会社 鹿島建設株式会社 近鉄不動産株式会社 株式会社クリード 株式会社ケン・コーポレーション 興和不動産株式会社 株式会社ゴールドクレスト 株式会社ザイマックス 株式会社サンケイビル 清水建設株式会社 株式会社ジョイント・コーポレーション 株式会社新生銀行 株式会社新日鉄都市開発 住友商事株式会社 住友信託銀行株式会社 住友不動産株式会社 住友不動産販売株式会社 西武不動産販売株式会社 大成建設株式会社 ダイビル株式会社 大和証券SMBC株式会社 中央三井信託銀行株式会社 東急不動産株式会社 東急リバブル株式会社 東京建物株式会社 東京美装興業株式会社 株式会社東京三菱銀行 東洋不動産株式会社 藤和不動産株式会社 日興シティグループ証券会社 日本ジーエムエーシー・インベストメント・ アドバイザーズ株式会社 日本土地建物株式会社 野村證券株式会社 野村不動産株式会社 パーク24株式会社 株式会社長谷工コーポレーション 阪急電鉄株式会社 阪急不動産株式会社 株式会社フジタ 平和不動産株式会社 丸紅不動産株式会社 みずほ証券株式会社 株式会社三井住友銀行 三井不動産株式会社 三井不動産販売株式会社 三菱地所株式会社 三菱地所投資顧問株式会社 三菱商事株式会社 三菱信託銀行株式会社 森トラスト株式会社 森ビル株式会社 株式会社モリモト 安田不動産株式会社 山万株式会社 有楽土地株式会社 UFJ信託銀行株式会社 株式会社リクルートコスモス 20 正会員(全60社) 不動産証券化を共に推進する情報誌 「パワーをもらう」「パワ ーをいただく」というフレ ーズをよく耳にする。巨樹 に手を当ててそういわれる と、いかにも巨樹のパワー が手をつたわって身体に入 ってくるように思われる。 東洋的宇宙感覚とでもいう のであろうか。少なくとも 近代西洋風の自然観ではな いし、合理的に説明のつく ことではない。けれども、 あるとき気づいたことがあ る。私がときどき空想のな かで奈良・東大寺の大仏殿 におまいりするのも、それ に近いことかもしれないの だと。夢のなかの東大寺、 夢のなかの大仏まいり。こ れはいったいなんだ。特段に信仰心の強いわけでもない私が、ときどき大仏殿を眼 前に思い浮かべているのはなぜか。その言葉にしにくい気分をあれこれ分析してみ ると、どうやら私は大仏さまと大仏殿という建造物から「パワーをいただく」ため にそうしているようだ。そう思ってみると、なるほど私は気分の落ち込んでいると きに、空想の大仏殿まいりをしている。そこに安置されている盧舎那仏の功徳につ いては仏教者にゆずるとして、私にとって大事なことは大仏殿という建造物の発し ているパワーであり功徳である。別の言い方をすれば、宗教的建造物の持っている 独特の力というもので、その力は異教徒にも及ぶということだ。近代日本の留学生 たちがヨーロッパの大聖堂に驚ろき、お雇い外国人たちが奈良や京都の仏閣に驚ろ いたのもそのパワーだったはずである。私がときどき空想の大仏殿まいりをして、 あの堂宇のただなかに身を置き、その柱の太さに感嘆し、それをさすり、これを創 建した人々の気概の大きさを想像しているとき、私はあきらかに彼らによって励ま されている。まずは巨樹を探し、それを切り出し、ここに立ち上げる光景を想像す るだけで、私はもう感動を禁じえなくなるのである。棟梁と関係者の脳裡にはすで に燦然と輝く大仏殿が浮かんでいる。だが、落慶法養までの道のりは遠く、その遠 (井尻 千男:拓殖大学教授) さがわれわれを激励しているのである。 東大寺大仏殿(日本/奈良) 提供●世界文化フォト 2003・July-August Vol. 4 SPECIAL 3 ●ARES SYMPOSIUM 2003 ●第1回 通常総会・懇親会を開催 55 「J-REIT:投資家から信頼を勝ち取る 創意工夫と戦略」 NEWS ■講演 J-REIT市場の健全な発展に向けて 三沢 真氏(国土交通省 総合政策局長/現・国土 交通審議官) 日米豪の不動産投資信託 沖野 登史彦氏(UBS証券会社 株式調査部 シニア アナリスト) 5 9 ボストンプロパティーズ社の成長戦略 Mortimer B. Zuckerman氏(Chairman of Boston Properties,Inc) 17 オーストラリアLPT:発展の要因 Victor P Hoog Antink氏 ( Westfield Holdings Limited 資産運用ディレクター) 23 パネリスト 大村 敬一(早稲田大学商学部 教授) 小林 憲司(新日本アーンストアンドヤング株式 会社 取締役) 深尾 光洋(慶應義塾大学商学部 教授/日本経 済研究センター 主任研究員) 山内 正教(グローバル・アライアンス・リアル ティ株式会社 代表取締役社長) 60 ●「平成16年度 制度改善要望」の概要 62 ●会員の自主行動基準策定 80 ●オーストラリアLPTの情報開示について (調査報告)前編 国土交通省総合政策局不動産業課不動産投資市場 整備室 86 ●追悼 93 山 昌一先生 ●平成15年度 組織図および委員一覧 31 ■特別講演 ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析 大橋 和彦氏(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 助教授) ■パネルディスカッション 日本経済の現状と不動産市場の行方 コーディネーター 沖野 登史彦氏(UBS証券会社 株式調査部 シニアアナリスト) ●平成16年度「不動産証券化に関する税制改正要望」 について 40 101 REPORT ●開発型証券化のマクロ経済的意味 矢口 和宏氏(東北文化学園大学 総合政策学部) 66 ●分譲マンション開発型証券化案件の格付けについて 辻野 美穂子氏((株)日本格付研究所ストラクチャー ド・ファイナンス部 アナリスト) 70 ●J-REITは株なのか、それとも投信なのか 井出 保夫氏(井出不動産金融研究所 不動産金融 アナリスト) 74 ●J-REITがMSCIに採用されたことについて 78 ●教育プログラムへのマイルストーン 第1回 82 INFORMATION 104 表紙文 井尻 千男●いじり・かずお 拓殖大学教授/日本文化研究所所長/元日本経済新聞編集局文化部編集委員 1938年山梨県生まれ。立教大学卒業後、日本経済新聞社入社。編集委員として文化論を中心に広く社会論評を手 がける。97年 4 月より拓殖大学教授。『消費文化の幻想』『劇的なる精神 福田恆存』『言葉を玩んで国を喪う』 『自画像としての都市』 『保守を忘れた自民政治』など著書多数。 瑠璃色(るりいろ/ラピスラズリー) 瑠璃(るり)は天然ウルトラマリンの原鉱石であるラピスラズリ(lapislazuli) を言い、古来より七宝のひとつとして珍重された。その色から来た色名である。 2 ARES SPECIAL ARES SYMPOSIUM 2003 J-REIT:投資家から信頼を勝ち取る 創意工夫と戦略 昨年10月、経済財政諮問会議において改革加速のための総合対応策が取りまとめら れ、J-REITの普及は重要な政策課題として位置付けられた。また、上場2周年を迎え、 J-REIT市場は今後のさらなる飛躍が期待されている。 社団法人不動産証券化協会としては初めてとなる今回のシンポジウムでは、「JREIT:投資家から信頼を勝ち取る創意工夫と戦略」と題し、J-REITがさらなる普及と 発展を遂げるために不可欠な、投資家からの信頼を勝ち取るための戦略について、さま ざまな立場の専門家の皆様に講演していただいた。 日 時 平成15年6月10日(火) 午後1時∼午後5時30分 場 所 経団連ホール 主 催 社団法人 不動産証券化協会 後 援 金融庁、国土交通省、東京証券取引 所、投資信託協会、日本証券アナリ スト協会、日本証券業協会、日本フ ァイナンシャル・プランナーズ協 会、不動産協会 (五十音順) July-August. 2003 3 PROGRAM プログラム PROGRAM プログラム ■開会挨拶 岩沙 弘道(社団法人不動産証券化協会 理事長) ■講 演 1. 「J-REIT市場の健全な発展に向けて」 三沢 真氏(国土交通省 総合政策局長) 2. 「日米豪の不動産投資信託」 沖野 登史彦氏(UBS証券会社 株式調査 部シニアアナリスト) 3. 「ボストンプロパティーズ社の成長戦略」 (ビデオスピーチ) M.Zuckerman 氏 (Chairman of Boston Properties,Inc.) 4. 「オーストラリアLPT:発展の要因」 (ビデオスピーチ) Victor P Hoog Antink (Director Funds Management,Westfield Holdings Limited) ■特別講演 「ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析」 大橋 和彦氏(一橋大学大学院 国際企業 戦略研究科 助教授) ■パネルディスカッション 「日本経済の現状と不動産市場の行方」 コーディネーター 沖野 登史彦氏(UBS証券会社 株式調査 部シニアアナリスト) パネリスト (五十音順) 大村 敬一氏(早稲田大学商学部 教授) 小林 憲司氏(新日本アーンストアンドヤング 株式会社 取締役) 深尾 光洋氏(慶應義塾大学商学部 教授) 山内 正教氏(グローバル・アライアンス・リア ルティ株式会社 代表取締役社長) 開会あいさつ 社団法人不動産証券化協会 理事長 本シンポジウムは、不動産シンジケーション 係各位のご尽力によ 協議会の時代から数えますと第11回を数えま りまして着実に成長 す。とくに今年は、昨年10月に政府が決定い を遂げてまいりました。しかしながら、その規 たしました改革加速のための総合対応策、その 模はまだオーストラリアLPT市場の 7 分の 1 で なかに設けられておりますJ-REIT普及促進キャ あり、アメリカのREIT市場と比較いたします ンペーンの一環として企画されているものでご と、わずか30分の 1 以下にすぎません。わが ざいます。金融庁、国土交通省、東京証券取引 国国民総生産の規模が、オーストラリアの約 所、投資信託協会、日本証券アナリスト協会、 10倍、アメリカの約 2 分の 1 であることを考 日本証券業協会、日本ファイナンシャル・プラ えますと、今後、J-REIT市場の規模をできるだ ンナーズ協会、不動産協会にはご後援をいただ け早期に拡大・発展させることが望まれます。 いております。 このような位置付けのなかで本シンポジウム 経済と金融が地球規模でボーダレス化してい くなかで、法税制の仕組みや市場ルールなど、 を開催できますのも、本日お集まりの関係各位 J-REIT市場を支えるインフラストラクチャーも のご指導ご支援の賜であり、心から御礼申し上 またグローバルなものにならなければなりませ げたいと存じます。 ん。J-REITを国際的に評価されるものにするた おかげさまでこの秋に上場 2 周年を迎えるJREIT市場は、法税制の整備を含めまして、関 4 岩沙 弘道 めにも、関係各方面のいっそうのご理解とご支 援をお願い申し上げたいと思います。 講 演 J-REIT市場の健全な発展に向けて 国土交通省 総合政策局長 (現在・国土交通審議官) 三沢 真 氏 みさわ・まこと●1970年東京大学法学部卒業後、建設省入省。86年建設省 大臣官房人事課企画官、87年国土庁長官官房総務課広報室長、89年建設省 大臣官房地方厚生課長、90年自治省税務局市町村税課長、92年住宅・都市 整備公団企画調整部長、94年建設省都市局都市総務課長、99年建設省大臣 官房審議官、2001年国土交通省住宅局長を経て、02年総合政策局長。 REITを中心的に取り上げられまして、小泉 J-REITに熱心な扇大臣 経済財政諮問会議でも力説 総理をはじめとする諮問会議のメンバーの 本日、このシンポジウムの場でお時間を フレ状況下で1,400兆円といわれるお金が行 頂戴し、「J-REIT市場の健全な発展に向け き場所を失っており、そういうお金を実物 て」と題してお話しさせていただけること 投資に向けていくための手段として、J- をたいへん喜んでおります。私ども行政を REITは非常に重要であるということを強く 担当する立場から、J-REITについてどのよ 主張したわけです。その結果として、ご承 うな評価をし、政策的な意義付けをしてい 知のとおり昨年10月30日に、改革加速のた るか、また今後の課題といった点について めの総合対応策が取りまとめられましたが、 ご説明をさせていただきます。 このなかにJ-REITが重要な柱として位置付 国土交通省は、昨年秋からJ-REITを重要 な政策課題であると位置付け、関係方面に さまざまな働きかけをしてきております。 前で、熱心に説明をいたしました。今のデ けられ、このことが年末の税制改正につな がったと考えております。 扇大臣は、たとえば主婦が買い物の帰り とくに扇国土交通大臣は非常に熱心で、政 にJ-REITを買えるような、そういう投資環 策面でのいろいろな進展があったわけです 境を整えるようにしないといけない。また、 が、これは扇大臣のイニシアティブに負う その配当でハンドバッグのひとつくらいも ところが非常に大きいと思っております。 買えるように持っていくことが、これから 昨年10月、経済財政諮問会議での今後の 経済活性化方策の議論の際に、国土交通省 の施策メニューのなかで、扇大臣はこのJ- のJ-REITの発展のために必要ではないかと いうことを再三申しております。 これは、非常に大事なポイントかと思い July-August. 2003 5 ます。1,400兆円の個人金融資産を市場に呼 証券市場で紙が動くだけではなく、結果と び込もうという時に、どちらかというと従 して実際の不動産が買われ、不動産の流動 来の不動産証券化商品は、機関投資家や投 化が促進される。それによってさらにまた 資にかなり慣れている個人富裕層、いわば 不動産投資の活性化につながっていくとい プロに近い方々を中心にして設計されてい うことです。実物経済、実物投資に非常に る商品が多かったのではないでしょうか。 関わりが深いということが、第一点として これに対してJ-REITは、市場が整備され 申し上げられると思います。 たことで株と同様に取り引きができ、1 口 二点目は投資の多様化、すなわち今の証 当たりの値段も一般の個人投資家が買える 券市場のなかで、投資の厚みをもたらす商 ような値段です。これがまさにJ-REIT商品 品としての役割を担っているのではないか の特徴であり、この点に着目してさらに普 ということです。現状で利回りは 4 %から 及を図っていかなければいけないというこ 6 %程度で、比較的堅調に配当利回りが確 とです。 保されているという状況であり、価格面で もおおむね堅調に推移しているといえると 不動産の流動化、投資の多様化、 開発事業の促進に寄与 思います。そういう状況を踏まえると、や このようなことを前提に、今後のJ-REIT 魅力ある投資対象になっているのではない の意義付けを整理してみます。 でしょうか。ミドルリスク・ミドルリター 一つは不動産の流動化という点で大事な ンの新しい金融商品として、投資家サイド 意味を持っていると考えます。一昨年の 9 の需要に応えるものになりつつあり、これ 月から約 2 年経ちまして、6 つの投資法人で からさらに発展していくだろうと考えます。 約113万口、約6,000億円の証券が流通してい 株式との比較で申しますと、個人投資家 るのが現状です。一昨年の 9 月10日に上場 が株を買うといっても、会社の経営を本当 市場がスタートしましたが、その翌日に に目に見える形で分析するのは難しいわけ 9.11テロが起き、直後は市場の混乱が見ら ですが、不動産の場合は、現実に見えるも れましたが、現状においてまずは順調に発 のから上がってくる収益が配当として還元 展しているのではないでしょうか。 されていきますので、ある程度対象も限定 この投資法人で取得された不動産は、昨 年度末で約9,000億円に達しており、まさに され、還元される利益の見通しも比較的つ きやすいということがいえると思います。 投資法人が不動産の強力な買い手として登 とくにJ-REITは、個々の不動産について 場し、活躍しているという状況といえるか の情報開示が相当なされており、投資判断 と思います。昨年末には、投資法人の取得不 もしやすいのではないでしょうか。また、 動産は約7,000億円だったのが、それから半 このようなJ-REITの情報公開が、不動産市 年も経たない年度末には、さらに2,000億円 場全体の情報の公開性、透明性を高めるき もの不動産が買い増しされているわけです。 っかけとなり、不動産市場全体の構造改革 要するにJ-REITの意義というのは、単に 6 はりこの商品は、多くの人にとって新しい につながっていくのではないかと期待をし J-REIT市場の健全な発展に向けて 講 演 ているわけです。 当然、J-REITは投資商品ですので、絶対 に儲かることを保証するものではありませ んが、情報公開を進めて、また各REITの運 知名度アップのための 普及・啓発活動が重要 では、今後、どのような課題があるでし 用会社で適切な運用を進めていただければ、 ょうか。これについても、昨年10月の経済 個人投資家からの信頼をますます勝ち得る 財政諮問会議のなかで、扇国土交通大臣か ような商品になっていくだろうと思います。 ら、市場が拡大していくためには三つの課 三点目は、開発事業の促進につながる可 能性のある商品であろうということです。 現在のところは、純粋に開発型証券化とし 題があるというご指摘がありました。 まず、やはり相当にJ-REITの普及・啓発 の必要があるということです。 てのJ-REITはまだありませんが、不動産市 二点目は、先ほどの情報公開とも関係し 場全体を見ますと、物件の完成後、J-REIT ますが、個人の方が安心して投資できるよ に売却するということを前提にして開発が うな情報が少ないという問題です。J-REIT 行われる案件も少しずつ出てきています。 のインデックスのようなものをもっと整備 開発型証券化というのは、今までは難し する必要があるのではないでしょうか。 いといわれてきましたが、昨今の状況を見 三点目は配当課税の問題です。その商品に ますと、SPCを活用して開発型の証券化が 投資したくなるような魅力ある税の形にす 図られるという実例が増えてきているよう るための税制改正が必要だということです。 です。政策サイドで申し上げても、昨年度 以上の三点について、その後の進捗を申 の補正予算のなかで都市再生ファンドの創 し上げます。まず、一点目のJ-REITの普 設が認められ、都市再生のプロジェクトに 及・啓発ですが、社団法人不動産証券化協 対してファンドが一定の支援を行っていく 会が昨年12月に設立許可されたことにより、 というスキームもできあがっております。 協会が今後の普及・啓発のために重要な役 現在、私どもは実務で使えるような開発 割を果たすと考えております。前身の不動 型証券化のマニュアルの作成について、不 産シンジケーション協議会にも、さまざま 動産証券化協会とともに検討を進めており な形で不動産の証券化に取り組んでいただ ます。これについてもできるだけ早くアウ きましたが、不動産証券化についての制度 トプットを出したいと考えております。 設計や業界内部の自主ルールといった、供 将来的にJ-REITの規模が拡大すれば、リ 給サイドの取り組みが中心であったかと思 スク管理という観点から、そのなかで開発 います。もちろんそれらも大事なことです 型の商品もうまく飲み込むことも可能では が、社団法人不動産証券化協会となり、ま ないかと考えています。その点については、 た不動産会社に加えて銀行、証券会社とい 岩沙理事長も同様に認識されているようで う複数の業界の方々にメンバーに加わって すので、J-REITの発展形の一つとして、開 いただいたことで、これからは供給サイド 発型は当然予想されるものと考え、準備を だけではなく、投資家サイドにも積極的に 進めていく必要があると思います。 働きかけていただくことが重要なポイント July-August. 2003 7 です。 すでに不動産証券化協会では、今年の 6 知名度が徐々に高まってきたとはいいなが 月までをJ-REIT普及促進キャンペーン期間 らも、やはりまだ低く、一般の主婦の方が と位置付け、各種キャンペーンを展開して J-REITといってすぐわかるかというと、そ おられます。本日のシンポジウムもその一 ういう状況にはなっていません。知名度・ 環であり、これからもその役割に期待する 理解度の向上については、さらなる取り組 ところが非常に大きいと考えております。 みが必要と考えております。 二点目の情報関係ですが、J-REITのイン 本日のシンポジウムが「投資家から信頼 デックスについては、J-REITを他の金融資 を勝ち取る創意工夫と戦略」というテーマ 産と商品比較できることが重要です。この のもとに開催されることで、この後のご講 点についてはご承知のとおり、今年 4 月よ 演ではいろいろな事例を聞かせていただけ り東京証券取引所から東証REIT指数が公表 ます。また、一橋大学の大橋先生には「J- されることになりました。これもまた非常 REITの商品特性分析」に関する研究成果も に大きな進展だと思っております。 ご発表いただけるということでございます。 さらに不動産証券化協会でも、4 月からJ- パネルディスカッションでは、各界の権威 REITに関する情報について一覧性のあるサ の方々に高い見地に立ったご議論をしてい イトである「J-REIT View」を立ち上げてい ただけるということですので、これは今後 ます。投資家の参考になる情報を有効に市 のJ-REITの発展にとって参考になる有意義 場に提供することに、ますますご尽力をお なお話がいただけるのではないかと期待を 願いしたいと考えております。 しております。 三点目の課税の関係ですが、これもご承 最後になりますが、私どももJ-REITの普 知のとおり、前の制度では、確定申告不要 及・啓発に積極的に取り組んでいきたいと 額が、1銘柄10万円(年間)が上限になって 考えております。一例を申し上げますと、 おりました。仮に、1 口50万円程度で利回 政府広報の中心である内閣府の政府広報室 り 5 %程度としますと、4 口以上買うと確定 に国政モニター制度というのがあります。 申告が必要となり、それでは積極的に投資 その国政モニターで、J-REITの認知度であ しようという環境になりません。そこで昨 るとか、投資判断のためにどういう情報が 年の税制改正のなかで申告不要限度額を撤 必要か等々についてアンケート調査を進め 廃し、かつ税率についても軽減することに ることにしておりまして、そういう結果も なりました。これについても不動産証券化 活用しながら、私どももいろいろと検討し 協会をはじめ関係者の皆様方のご尽力のも てまいりたいと考えております。 とに実現をしたわけでございます。 8 とくに、普及・啓発の面で申しますと、 J-REITの発展は、一重にここにいらっし そういう意味では、昨年の10月以降、非 ゃる関係者の方々の今後のご尽力にかかっ 常に大きな進展が多々あったわけです。こ ているといっても過言ではありません。皆様 ういった成果を踏まえて、さらなる努力が 方の今後のさらなるご尽力をお願い申し上 必要であると考えております。 げまして、私のお話とさせていただきます。 日米豪の不動産投資信託 講 演 ― 個人投資家税制とディスクロージャーの視点から ― UBS証券会社 株式調査部 シニアアナリスト 沖野 登史彦 氏 おきの・としひこ●東京大学経済学部卒業。経営コンサルタント会社勤 務、不動産会社勤務を経て、1993年スミス・ニュース・コート証券会 社入社、証券アナリストとして勤務。その後、ドレスナー・クラインオ ート・ベンソン証券会社、シュローダー証券会社を経て、98年10月 UBS証券会社入社。 るシェアという切り口で見ると、オースト 日米豪のREIT市場規模とそれぞれの特徴 ラリアで 8 %、アメリカは1.2%、日本は 0.2%です。アメリカではREITはすでに40年 以上の歴史を持っており、2001年には代表 まず、図表 1 をご覧下さい。日本のREIT 的な株価インデックスのS&P500にも含まれ 市場の規模は現在まだ約6,000億円に過ぎま ました。オーストラリアでも現在 3 番目に せん。これに対してアメリカは20兆円、オ 大きいLPTであるGeneral Property Trust ーストラリアのLPT市場は4兆2,000億円で、 (GPT)の前身のFirst National Buildings 世界のREIT市場ではやはりアメリカとオー Trustは1959年に創立されており、相当長い ストラリアの市場規模が非常に大きいこと 歴史を持っています。 がわかります。REIT市場の株式市場におけ REITは株式であり、日々証券取引所でト 図表1 日米豪のREITの市場規模 プレミア 5% 日本プライム リアルテイ13% 日本ビル ファンド 31% (5月30日時点)出所 : データストリーム、 ブルームバーグ、NAREIT Equity Office Equity Residential Properties 6% Properties 4% Simon Property Group 4% Others 62% WESTFIELD TRUST 14% WESTFIELD AMERICA 13% オリックス 不動産 11% 日本リテール ファンド 16% ジャパンリアル エステイト24% J-REIT:6銘柄 時価総額 5,953億円 Others 86% 米国REIT:171銘柄 時価総額 US$1,682億 = 20兆663億円 GENERAL PR.TST. 11% 豪州LPT:30銘柄 時価総額 AU$544億 = US$355億 = 4兆2,395億円 July-August. 2003 9 レードされます。とはいえREITは個人投資 のLPT市場では混合型が非常に多く、また 家を中心にインカムゲインを目的に取り引 商業施設が多いのが特徴です。 きされる傾向が強いので、回転売買される ものではなく、したがって出来高はどこの国 でも比較的低い。そのなかでも日本のREIT はボリュームが低いといわれてきました。 しかし最近J-REITの出来高は増えてきて ■日米豪のREITの法的根拠と規制体系 日本は投信法によって規制されており、 REIT商品は投資信託と規定されています。 一方、アメリカのREITは税法(Internal おります。参考までに申しますと、REIT市 Revenue Code)によって規定されています。 場の拡大は最近の世界の流れでありまして、 オーストラリアの場合は会社法を一部改正 シンガポール、韓国、フランスでREITをつ したManaged Investments Actによって規 くる動きが出ています。経済が成熟化して 定されています。またいずれの国にも証券 いくなかで、個人資産が蓄積される。それ 取引所による規制がありますが、とくに東 に対して運用対象が多様化していくのは世 京証券取引所ではJ-REITに固有の規制があ の流れで、今後もREIT型の商品が各国で出 ります。アメリカの証券取引所ではREIT固 てくると思われます。 有の規制はなく、SECのルールによって規 制されています。オーストラリアの証券取 ■日米豪のREITの不動産タイプ別構成比 次に、図表 2 をご覧下さい。J-REITの現 状はオフィスが半分以上を占めており、商 引所ではLPTに関する特別規定があります。 このように各国の異なった法体系、規制体 系でREITは運用されています。 業施設は15%程度、残りが混合型となって います。これに対してアメリカのREITは、 ■運用面での比較 混合型が少なくなっています。アメリカの 日本のREITの運用は比較的オーストラリ 国民性とか投資環境を反映していると思い アと似ているといえます。アメリカは日本 ますが、特定の資産タイプに専門化した やオーストラリアのREITと比べて異なる部 REITが多いのが特徴です。オーストラリア 分が多く、いちばん大きな違いとして内部 2003年5月末時点 出所:UBS, NAREIT 注:構成比は時価総額ベースで算出している 図表2 日米豪のREITの不動産タイプ別構成比 米国REIT J-REIT 豪州LPT Health Specialty Mortgage Industrial 8.2% care 3.3% 7.0% Industrial/ 4.8% Office Storage 27.9% Office 3.2% 18.5% Hotels 3.8% 混合型 (Diversified) 28.9% Diversified 7.6% Retail 25.0% 商業施設 (Retail) 15.6% 10 オフィス (Office) 55.5% Residential 17.4% Retail 39.7% Hotel 0.5% Diversified 33.1% 日米豪の不動産投資信託 運用をあげることができます。すなわちア 配当金のうち利益を超過して配当す メリカのREITは、経営陣やスタッフを自分 る部分、つまり減価償却相当部分に対 で抱えて運用しております。ご存知のよう する課税です。この部分をオーストラ に1986年まではアメリカも外部運用でした リアやアメリカでは配当しており、そ が、税法の改正により内部運用が可能にな の分の課税は一般的な賃貸収入からの ったわけです。またアメリカのREITには、 利益に対する課税とは違う扱いになり UPREITによる譲渡益課税の繰り延べの仕 ます。 組みがあります。 講 演 ④不動産の賃貸以外の事業からの利益に 対する課税 ■主要指数への採用と鑑定評価 アメリカのREITは、2001年に代表的な株 価指数であるS&P500に含まれることになり 仲介事業やプロパティマネジメント 業務から出てくる収益からの配当に対 する課税です。 ました。オーストラリアのLPTは1978年以 降代表的な株価指数であるAll Ordinariesに ■不動産の賃貸収入からの利益に対する課税 含まれており、S&P/ASX100にも含まれて 日本の場合には、03年度の税制改正によ います。J-REITはまだ日本の代表的な株価 り10%の源泉分離課税になりました。税率 指数であるTOPIXには含まれておりませ は従来の20%から下がりました。不動産の ん。一方、鑑定評価については、オースト 賃貸収入からの利益を配当する限りにおい ラリアと日本の場合、鑑定評価による再評 ては、J-REITの個人投資家に対する課税は 価が義務付けられていますが、アメリカの これで完結することになります。アメリカ 場合、不動産の再評価の開示は求められな のREITの場合、個人投資家は申告をしたう いし一般的でもないという特徴があります。 えで所得税がかかります。最近の配当課税 については、最高税率38.6%から15%に引き 日米豪のREITの個人投資家に対する 税制の比較 下げる軽減措置が導入されましたが、原則 としてREITには適用されません。REITの 場合、原則として減税後の所得税の最高税 率の35.0%です。ただしREITが、賃貸収入 税制を比較する場合、大きく分けて 2 つ ではなく他の事業から得られる収入を配当 の視点が必要だと思います。一つは配当金 する場合には、15%の軽減税率が適用され に対する課税、それからもう一つは投資口 ます。オーストラリアの所得税は最高税率 の譲渡益に対する課税です。まず配当金に 48.5%です。 関してはいくつかのパートに分かれます。 ①不動産の賃貸収入からの利益に対する 課税 ■不動産の売却益に対する課税 J-REITは10%の源泉分離課税になります。 ②不動産の売却益に対する課税 アメリカはキャピタルゲイン課税は、従来 ③出資の戻しに対する課税 20%だったものが、最近の減税により15% July-August. 2003 11 に引き下げられました。オーストラリアで 外の事業は、REITの子会社(TRS=Tax- は最高税率は48.5%です。 able REIT Subsidiary)が行います。この TRSの利益には、いったん法人課税が課せ ■出資の戻しに対する課税 一般的にアメリカのREITは減価償却を配 られます。課せられたうえで、親会社の REITに対して配当金として支払われます。 当しています。減価償却に相当する部分の REITが投資家に支払う配当金のうち、TRS 配当は、投資家のREITの取得原価から差し からの配当に相当する部分は軽減税率の 引かれます。その結果、投資家がREITを売 15%が適用されます。J-REITの場合は、J- 却した時の株価が、この減価償却分=出資 REIT自体が従業員を雇用して他の事業をす の戻し分を差し引いたネットの取得原価を ることはできないのですが、PM事業などを 上回っていれば、キャピタルゲイン課税が 行う企業の株式を保有することで間接的に かかります。ただしキャピタルゲイン課税 携わることが理論的には可能です。その利 は最高税率15%で、不動産の賃貸収入から 益を配当した場合は、今の制度では10%の の配当に対する税率より低くなります。 源泉分離課税ということになります。最後 一方、オーストラリアのLPTは会計上減 にオーストラリアですが、そのような利益 価償却をいたしませんが、減価償却相当分 は発生しません。つまりLPTが賃貸以外の を出資の戻し分として扱ってキャピタルゲ 事業に携わった場合は通常の法人課税が課 イン課税をするやり方は、アメリカと同じ せられるので、不動産賃貸以外の事業を行 です。日本の場合は二段階になっており、 うLPTは基本的には存在しないのです。 みなし配当と認められる場合は10%の源泉 分離課税でよいのですが、みなし配当以外 の出資の戻し部分につきましては、10%の ■株式の譲渡益に対する課税 J-REITの場合は税率10%の申告分離課税、 申告分離課税が適用されます。すなわち制 アメリカでは最高税率15%のキャピタルゲ 度上は減価償却の一部を配当してもよいの イン課税で、豪州では最高税率48.5%の半 ですが、税法上申告分離課税が適用される 分、すなわち24.25%の最高税率のキャピタ ため、投資家は確定申告をしなければなら ルゲイン課税がされます。 ない。それでは個人に対して商品性が失わ れる。よってJ-REITは現在のところは利益 の配当しかしないということになっていま 日米豪のREITの情報開示の比較 す。アメリカやオーストラリアと比較した場 合、減価償却費の配分をめぐる税制につい ては、今後議論をする必要がありそうです。 図表 3 をご覧下さい。 「情報開示義務」は、 それぞれの国の根拠法によって基準が設け ■不動産の賃貸以外の事業からの利益に対 12 られています。ただし現実には各国のREIT する課税 は規制を上回る自主的な情報開示をやって アメリカのREITの場合、不動産の賃貸以 おり、情報開示の量と質で他のREITと差別 日米豪の不動産投資信託 講 演 図表3 規制によって定められた情報開示義務 J-REIT 米国REIT 豪州LPT 情報開示については他の上場会社と同様、 情報開示については他の上場会社と同様、 情報開示については他の上場会社と同様、 財務諸表の開示など、証券取引法に定められ 財務諸表の開示など、US Securities Actな オーストラリア証券取引所の上場規則によっ た開示義務を負う。その他に、投資法人(J- らびにUS Securities Exchange Actに定 て、財務諸表のほか、株価に影響のあると思 REIT)に特有の開示義務が「投資信託及び投 め ら れ た 開 示 義 務 を 負 う 。ま た U S われる重要情報を開示する義務が課せられて 資法人に関する法律」、 「特定有価証券の内容 SecuritiesActは、証券を発行する際の おり、LPT特有の開示規定はない。ただし 等の開示に関する内閣府令」ならびに投資信 REIT特有の開示項目として以下のような項 LPTの設立時に、資産運用会社はASIC(Aus- 託協会の「不動産投資信託及び不動産投資法 目を定めている (抜粋): tralian Securities & Investment Com- 人に関する規則」によって定められている。な ●主な不動産の場所・特徴 mission)に対して、常時どのような情報を公 かでもJ-REITにとって特徴的な項目として以 下のような規定がある (抜粋): 表するかを届け出なければならない。LPTの ●今後の改築・改修・開発計画 ●最近5年間の入居率主要な賃貸借契約条項 ●決算期末(6カ月毎)の物件毎のテナント総 ●最近5年間の平均的な賃料単価 数、稼働率、賃料収入、鑑定評価額などの時価 ●賃貸契約の終了期限一覧表 設立以降は、この届出の内容に従って情報の 公開を行わなければならず、届出の内容を変 更するには投資主の承諾が必要とされる。 ●総賃貸面積の10%以上を使用するテナン トの年間賃料、賃貸面積、契約満了日、等 出所:UBS 化を図る傾向もあります。したがって規則 一方、アメリカとオーストラリアではテ に書いてあるような情報開示しかREITがや ナントに関する情報が充実していますが、 っていないというわけではありません。情 日本の場合は比較的少ないのが対照的です。 報開示の伝達に用いる主な情報媒体に各国 また、アメリカとオーストラリアでは、上 の大きな違いはないのですが、アメリカの 場後の予想財務諸表が出ていますが、日本 REITは10Q(四半期決算)と、10K(年度決 の場合、それがないので上場後どういうよ 算)を行います。アメリカではアナリスト うなB/S、P/Lになるのかが読みにくくな 説明会は一般的に電話コンファレンスで行 ります。また、アメリカのREITでは、主要 います。オーストラリアのLPTの場合、い テナントからの賃料収入を開示していたり、 ちばんの特徴はリリースの多さです。何か 実額は書いていないが全体の賃貸収入に占 大きな取り引きがあったり契約が発生した める比率が書いてある例があります。また、 場合、そのような情報を実にこまめに開示 今後契約が満了する賃貸スペースの面積と します。定期的に 1 カ月に 1 回というよう 賃料を年度別に開示している例(アメリカ なスタイルではありませんが、それをはる の場合は5年、10年、15年程度の長期の契約 かに上回るペースでタイムリーディスクロー が多いので、どの時点でどれくらいのボリ ジャーが行われているのが大きな特徴です。 ュームの賃貸面積の契約が終了するかがわ かる)や、終了する賃貸契約の本数を年毎 ■REITのIPO時の主な情報開示 に開示している例もあります。 図表 4 をご覧下さい。新規上場時の情報 一方、オーストラリアのLPTには、ショ 開示ですが、丸印がついている項目は、そ ッピングセンターなどの資産を保有する商 の国の多くのREITが開示している項目を示 業REITが多いという特徴があります。商業 しています。日本とオーストラリアでは資 REITの場合には、テナントである店舗の売 産の鑑定評価の情報が充実していますが、 り上げで賃料収入が左右されることになり アメリカでは一般的ではありません。 ます。そこで年間の店舗の売り上げを開示 July-August. 2003 13 図表4 REITのIPO時の主な開示情報 ■日本と豪州では資産の鑑定評価に関する情報が充実しているが、 図表5 資産取得時の開示情報 (エクティ・ファイナンスを伴わない場合) 米国では一般的に開示はない ■米国と豪州ではテナントに関する情報が充実している点が日本と は対照的 ■米国・豪州での開示情報は、エクティ・ファイナンスによる資産取 得と比べて少ない ■米国と豪州では上場後の予想財務諸表が開示されるが、日本で ■日本では取得資産からの収益情報が充実している はそれがない J-REIT 米国REIT 豪州LPT J-REIT 米国REIT 豪州LPT 財務諸表 ○ ○ ○ 取得資産の築年数 ○ ○ ○ 地域別の賃貸面積 ○ ○ ○ 取得資産の設備/グレード ○ ○ ○ 用途別の賃貸面積 ○ ○ ○ 取得資産の主要テナント ○ ○ ○ 物件毎の築年数 ○ ○ ○ 取得資産のNOI利回り ○ × ○ 物件毎の取得価格 ○ ○ ○ ○ ○ × 主要テナントの使用面積 ○ ○ ○ 取得資産の直近の稼働率・想定 稼働率 地域別の賃料収入 ○ ○ ○ 取得資産のテナントとの賃貸借 契約の概要 ○ ○ × 物件毎の稼働率 ○ ○ ○ 取得資産からの想定収益 ○ × × 物件毎の賃料収入 ○ ○ ○ 地震によるPML ○ × × 主要テナントからの契約満了日 ○ ○ ○ 取得資産の鑑定評価額 ○ × × 物件毎の鑑定評価額 ○ × ○ ○ × × 鑑定評価算出に適用された キャップレート 鑑定評価の前提: キャップレート ○ × ○ 鑑定評価の前提: 割引率 ○ × × 鑑定評価算出に適用された 割引率 ○ × ○ 鑑定評価の前提: タ−ミナルキャップ ○ × × 鑑定評価算出に適用された タ−ミナルキャップレート ○ × ○ 店舗売上(商業施設の場合) × ○ ○ 第三者による市場レポート × × ○ 主要テナントの賃料収入 × ○ × 年度別の満了契約面積 × ○ ○ 年度別の満了契約賃料収入 × ○ ○ IPO後の予想バランスシート × ○ ○ IPO後の予想損益計算書 × ○ ○ IPO後の予想配当金 × ○ ○ 注:これらの開示情報の多くは、規制によって定められているものもあるが、多 くは各々のREITの判断により開示しているものである。表の中で○がつい ている項目はわれわれが複数のREITで実際に確認したものであるが、必ず しもその国の全てのREITが開示していることを保証するものではない 出所:UBS 注:これらの開示情報の多くは、規制によって定められているものもあるが、多 くは各々のREITの判断により開示しているものである。表の中で○がつい ている項目はわれわれが複数のREITで実際に確認したものであるが、必ず しもその国の全てのREITが開示していることを保証するものではない 出所:UBS 場合、エクイティファイナンスを伴う場合 には詳しく情報開示をしますが、エクイテ ィファイナンスを伴わずに資産を取得する 場合の情報量はかなり少ない。日本の場合 は、エクイティファイナンスを伴わない場 し、店舗の売り上げに占める家賃の比率も 合も資産を取得する場合の情報量は比較的 開示してある。その他、取得不動産の鑑定 充実しています。 評価額の算定根拠を、ターミナルイールド、 また、オーストラリアのやり方で面白い ディスカウントレート(割引率)を示すこと のは、当該資産を取得する時の意義とリス により開示しています。 クの両方を具体的に明記する点です。どう いう理由でその資産を買ったかを具体的に ■REITの資産取得時の情報開示 図表 5 をご覧下さい。エクイティファイ 14 述べるわけです。一方で、その資産を取得 することによるリスク、もしくは否定的な ナンスを伴わずにREITが資産を取得する場 見方も開示しています。日本のJ-REITは、 合、内部資金やデットで資金調達すること 目論見書にはリスクが書いてありますが、 になります。アメリカとオーストラリアの その内容は相当抽象的なことが多い。オー 日米豪の不動産投資信託 ストラリアの場合には、個別の不動産にま つわるリスクが具体的に書いてある例があ るということです。 講 演 図表6 REITの決算期末時の主な開示情報 ■米国と豪州ではテナントの支払う賃料に関する情報が比較的充 実している ■豪州は次期の収益予想を開示しない。米国は予想レンジのみを 開示。日本では詳細な予想損益計算書を開示しているJ-REITも ■REITの決算期末時の情報開示 ある J-REIT 米国REIT 豪州LPT ポートフォリオ全体の稼働率 ○ ○ ○ 個別不動産毎の期末稼働率 ○ ○ ○ 個別不動産毎の期中平均稼働率 ○ × × 個別不動産毎の予想稼働率 ○ × × 主要テナントの賃貸面積 ○ × ○ × ○ ○ 図 6 をご覧下さい。アメリカとオースト ラリアでは、テナントの賃料に関する情報 が充実していることがわかります。ただし オーストラリアの場合、そのファンドの次 期の収益予想を開示しないし、アメリカの テナントの売上高 (商業施設やホテルの場合) 場合には予想レンジで開示しています。他 主要テナントからの賃料収入 × ○ × 個別不動産毎の賃料収入 ○ × ○ 年度毎の契約満了面積ならび 賃料単価 × ○ ○ 賃料改訂情報(満了した契約の 平均賃料、新規の契約の平均賃料) × ○ × 個別不動産毎の当期末鑑定 評価額 ○ × ○ 次期予想の損益計算書 ○ × × 次期予想のバランスシート ○ × × 負債の詳細 ○ ○ ○ 次期予想の配当金 ○ 予想レンジを公表 × 方、日本の場合は次期のEPSもしくは一口 あたり配当を開示しており、この点ではJREITの方が進んでいます。 アメリカでは、 テナントに関する情報は非常に多く、たと えばトップ25のテナントがそれぞれどのく らいの賃料を払っているか、といった情報 を開示しています。これはテナントとの合 意がないと必ずしも簡単にできることでは 注:これらの開示情報の多くは、規制によって定められているものもあるが、多 くは各々のREITの判断により開示しているものである。表の中で○がつい ている項目はわれわれが複数のREITで実際に確認したものであるが、必ず しもその国の全てのREITが開示していることを保証するものではない 出所:UBS ありませんが、そういうことを行なってい る実例があります。また不動産ポートフォ トラリアのそれぞれのREITを比較したうえ リオの地域別の賃料収入、賃料単価も開示 で、簡単なまとめを申し上げます。まず個 しています。テナントごとの賃料の開示が 人投資家税制では、今後課題になるのは よいかどうかという議論はありましょうが、 「出資の戻し分」、いわゆる利益を上回る部 不動産ポートフォリオ全体で見て、地域別 分の配当に対する課税方法を見直すことが、 や不動産のタイプ別に賃料収入や単価を開 一つの論点となります。 示していくことは、今後J-REITもサイズが 次に情報開示の考え方です。日本では、 大きくなってくれば、ディスクロージャー 情報開示=ディスクロージャーはやればや の方法として工夫することが重要になるで るほど何となく良いという考え方がありま しょう。 すが、欧米では必ずしもそうではない。デ ィスクロージャーというのは、いわばリス クの移転です。運用会社=マネージャーに J-REITの今後の課題 情報が集中するのは当然であるが、その一 部が投資家にディスクローズされることで、 リスクが投資家に移転するわけです。それ 以上のように、日本、アメリカ、オース は一種のマネージャーの免責になるわけで July-August. 2003 15 す。一方、日本では投資家責任という考え プロフェッショナルなファンドマネジャー 方が確立されているとは考えにくい。ディ やアナリストがREITを分析しているわけで スクローズしようがしまいが、結局、結果 す。結局こういうプロフェッショナルに対 責任は負わされる。どうせ免責されないな して情報開示をきちんとしないと、間接的 ら、ディスクローズしない方がよいという に個人からも信頼されないという事情があ 考え方も当然成り立ちます。 ります。 しかし、長い目で見ると、必ずしもそう J-REITのディスクロージャーは、アメリ いうわけではないともいえます。確かに個 カやオーストラリアに較べて、よいところ 人の場合、いろいろな情報を開示されても も多いと思いますが、テナントに関する情 わからないことも多い。そこで、アメリカ 報などは、もう少し充実してもよいのでは とオーストラリアでは、個人が直接REITに ないかと思います。マネージャーの側から 投資もしますが、REITに特化したミューチ 見れば、テナントのことをディスクローズ ュアルファンドがかなりポピュラーになっ すると、そのテナントとのビジネスリレー ているという事情があります。オーストラ ションを壊してしまうリスクが大きいと考 リアのREITの場合、全体の約50%が個人投 えがちです。そのリスクはもちろん無視で 資家で占められていますが、そのうち35% きませんが、一方で投資家から信頼を失う が直接投資している個人投資家、残りの リスクも考えて、今後ともディスクロージ 15%がLPTに特化したミューチュアルファ ャーの質と量を充実させていくことが大事 ンドを通じて投資している個人投資家で だと思います。 す。そういうミューチュアルファンドは、 16 講 演 ボストンプロパティーズ社の成長戦略 Chairman of Boston Properties,Inc. Mortimer B. Zuckerman 氏 モーティマー B. ザッカーマン●U.S. News & World Report 会長兼編集長、 New York Daily News 発行者、ボストン・プロパティーズ・インク 創設者 兼会長。マギル大学およびマギル大学ロースクール、ウォートン大学経営学部 大学院、ハーバード大学ロースクール卒業。3つの名誉学位を取得。 J.P.モルガン国内諮問委員会、外交問題委員会、アスペン研究所、ワシント ン中近東研究所、国際戦略研究協会でメンバーを務める。また、スローン・ケ タリング記念がんセンターおよびニューヨーク大学理事、主要アメリカ・ユダ ヤ人機構理事長会議議長を務める。ハーバード大学設計学部大学院の都市・地 域計画助教授、エール大学の都市・地域計画講師も務めた。 に集中しています。すなわち、大ボストン都 「参入障壁のある市場」に 集中する理由 市圏、ニューヨーク、ワシントン、サンフラ ンシスコ、ニュージャージー州プリンスト ンなどです。その理由は、これら市場すべて 私の名前はモーティマー・ザッカーマン に新規供給に対する参入障壁があり、新た です。ボストン・プロパティーズというアメ な供給をもたらすのが難しいからです。こ リカでも有数の不動産投資信託の創立者で れは、投資利益率を最大化するためには非 現在、会長を務めております。ボストン・プ 常に重要です。新たな供給に対して参入障 ロパティーズの延床面積は現在、4,000万フ 壁があると、需要の急増あるいは増加があ ィート以上ですが、ほぼ全部がオフィス用 る場合、新たな供給を受けやすい市場と比 スペースです。その多くは、商業中心地区に べ、はるかに価格の上昇幅が大きいのです。 集中していますが、その一部、およそ25%は、 新たな供給を受けやすい市場で起こること アメリカ各地域の主要都市の郊外に位置し は、需要が増えると、新たな供給が大量に発 ています。たとえばワシントン郊外のバー 生するのです。これはとくに郊外型市場の ジニア州レストンなどです。 多くに当てはまりますが、都市型市場の一 私たちの不動産のすべては限られた地域 部にもいえることです。サンフランシスコ July-August. 2003 17 やワシントン、ニューヨーク、ボストン、ケ 調になり、2∼3年は市場が低迷します。現 ンブリッジでは、新たな供給をもたらすこ 在は低迷段階です。 とはたいへん難しいので、需要が急増する 私たちが守ってきたこと、私たちの戦略 と価格が大幅に上昇します。これが、私たち にも影響していることは、私たちがA級の物 がこれら市場に集中する理由の一つであり 件に集中しており、米国のなかでも最良の ます。 物件を開発し、買収してきたことです。な もう一つの理由は、不動産市場は地域市 ぜか? これら物件は市場が上向いている 場であり、地域事業であると考えるからで 時は好調になり、市場が下向いている時は す。どの道が最良か、どの曲がり角が最良か、 さらに好調になることを、私たちが知って 道のどちら側が最良か理解しなければなら いるからです。たとえば私たちの現在のポ ないのですが、私たちは、不動産開発や不動 ートフォリオでは、総合的な空室率は 5 ∼ 産買収のあらゆる側面に対処できるような 6 %で推移しています。しかし、国全体では、 地域市場の知識を持つ完全な経営陣を持っ 空室率は12%に達します。市況が良くても ているのです。 悪くても、A級の建物はB級の建物よりも稼 働率が良いため、私たちの稼働率は一般市 不動産の低迷期にも好調なA級物件 場よりはるかに高いのです。例えていえば、 五番街とパーク・アベニューの住宅用不動 産は、市況が良くても悪くても好調なので 18 次のポイントですが、私たちは単に不動 す。同様に、都市部で最良の立地条件を持つ 産買収の能力だけでなく、不動産開発の能 A級の不動産は常に、市況が良くても悪くて 力を持つ非常に優れたグループなのです。 も好調です。とても単純な理由です。 開発投資の利益率は、買収投資の利益率よ 私たちはこの理由から、パーク・アベニュ りはるかに高いため ― このことはとても ーからパーク・アベニュー399番地全ブロッ 重要です ― 、市場が強含んでおり、開発に クを取得しました。ここにはシティコープ 多額の資金を投入することができれば、非 の本社があります。私たちは、ニューヨー 常に高い利益を得るのです。当社が、競合他 クのシティグループ・センターも所有して 社に比べ、最も成功しているわけではない います。レキシントン599番地とパーク・ア としても、有数の成功している企業である ベニュー280番地も保有しており、タイム といえるのは、このような経営技術の結集 ズ・スクエアには、アーンスト&ヤングの本 によるのです。 社ビルがあります。また現在ではタイム 指摘したいことがもう一つあります。米 ズ・スクエアで別のビルを建設中です。 ボ 国の不動産市場の性質ですが、私がこの仕 ストンではプルデンシャル・センターを、ケ 事を始めて以来 ― 今も続いており、約50年 ンブリッジではケンブリッジ・センターを、 間にわたりますが ―、およそ10年ごとに 2 サンフランシスコではエンバーカデロ・セ ∼ 3 年は市場が低迷するという循環型の市 ンターを保有しています。その他資産は、主 場なのです。10年のうち 6 ∼ 7 年は市場が好 要都市の物件ほどではありませんが、それ ボストンプロパティーズ社の成長戦略 ぞれのマーケットでは同様に著名である質、 今日の若者は新しい技術環境を反映した教 建築、設計などに優れた不動産を保有して 育と視野を持つため、アメリカの企業にと います。 って若者を魅力ある存在にしています。そ 講 演 して、問題はこの人材がどこに行くか、企業 買収の焦点は都市部の 商業中心地区 がどこでこの人材を魅了することができる か、ということです。マルクス理論では、金 融資本こそがあらゆる人を金融資本の持ち 今日の事務所市場は、典型的な循環の下 主に追随させる偉大な資産でしたが、現代 降局面にあります。私たちが設立した企業 では、これは知的資本、つまり教育になって は上場企業として、あるいは非上場企業と いるのです。最もうまく行く企業は、最も有 してこの局面を利用するという方法があり 能な経営陣、とくに新しい技術を理解する ます。つまり、私たちは財務面の強固な土台 経営グループを持っている企業となるでし を元に、資金調達をいつも精選して行うこ ょう。 とができるのです。現在は、恐らく過去40年 人々の結婚が遅くなっていますが、人生 来最低の長期レートになっているため、多 の遅い段階で結婚すると人生の遅い段階で くの資金調達を行っています。今週末まで 子供をもうけることになります。このため、 に調達を終える予定で、過去 4 カ月で15億 独身の人々も若い夫婦も、明確な理由によ 米ドルの長期資金を調達しました。私たち り都市部に住むことを好みます。つまり、彼 がすでに完了したプロジェクトの多くを開 らは非常に活動的で(文化的、娯楽という 始した時点、あるいは現在保有しているプ 点で) 、都市部では彼らが望む生活を送るこ ロジェクトの多くを購入した時点よりも良 とができるからです。このため、企業にとっ いレートでの調達です。このため、賃料が下 て、採用したいタイプの人々が喜んで働き がったとしても、純利益と資金調達の利ざ に行きたいと思うような地域に立地するこ やは魅力的です。このように、私たちは不動 とが魅力的なのです。これは、主要な都市部 産ビジネスの循環サイクルのなかで将来の の商業中心地区にほぼ集中しています。小 見通しをもとに運用を行っております。 規模な都市もありますが、そうではなく、と 最終的に問題となるのは、質の高い商用オ くにサンフランシスコや、ワシントン、ニュ フィスの需要がどうなるかということです。 ーヨーク、ボストンなど主要な都市部です。 私たちは、商用オフィスの開発と、商用オフ これは、私たちがこのような市場に集中し、 ィスビルの買収だけを行ってきました。そ 買収の焦点を商業中心地区に変更したもう の需要はもちろん、雇用に左右されます。も 一つの理由です。 し雇用が増えれば、事務所スペースの需要 が拡大します。このため、雇用を拡大してい る企業を誘致できるのはどのような地域か 循環型ビジネスであることを 意識する を考えました。ここで、アメリカ人の生活の 基本的な部分が出てきます。アメリカでは、 ここに、重要な根本原理があります。私た July-August. 2003 19 ちは 6 年前の1996年に上場しましたが、そ 私たちは常に、不動産事業が循環型ビジ の理由は以下のとおりです。不動産を買収 ネスだということ、また長期ビジネスであ し開発する能力は、株主資本を大量に持つ ることを認識しています。私たちはビルを 能力、公募市場から資金調達する能力に通 建設し、長期的に管理を行い、スペースの質、 じるものがあります。私たちは上場以来 5 建設の質、ビル管理の質を維持し、魅力ある ∼ 6 年で、株式市場からさまざまな手段で ものにしています。このことが長期的に違 約40億米ドルを調達しましたが、不動産の いを生むのです。 個々の物件にファイナンスするよりむしろ、 コーポレートファイナンス、とくに社債発 行により資金を調達してきました。これに 所得の一定割合を配当として 支払う よって私たちは優位に立ち、選択すると同 20 時に資金調達できる能力、大量の株主資本 私たちは、所得のうち一定の割合を配当 を手にする能力を手に入れたと感じます。 として支払います。これら支払いは企業レ 私たちの株主資本は今日、少なくとも資産 ベル、グループレベルでは課税されず、個人 の50%を占めています。私たちが非上場企 レベルでのみ課税されます。ですから、私た 業だった時、債務部分は50%ではなく、恐ら ちは非常に高い配当利回りを達成していま く75%程度でした。今よりも株式は少なか す。私たちの現在の配当金は約2.53米ドルで ったのです。市場が景気後退時にあっても、 す。これによって 6 %を超える、とても魅力 資金繰りに対する不安を当業界に対して持 的な利益が得られるほか、この配当金は毎 たれないように、当社は資本を増強し、それ 年、その時点の株価を元に上昇してきまし を維持しているのです。10年に 2 ∼ 3 年は後 た。これは、短期国債利回りが 2 %を下回っ 退局面に入るという可能性(実際には確率 た時、5 年物国債利回りが 4 %を下回った時、 であり、不可抗力ですが)を考慮して資金調 10年もの国債利回りが 4 %を下回った時の 達やリース事業に集中してきました。私た ことを考えると、魅力的だといえます。これ ちがリース事業で守ってきたことは、常に ら国債のかなり低い金利水準に比べ、このビ 長期リースを契約してきたことです。私た ークルがキャピタルゲインを含めて非常に ちは10年間あるいはそれ以上の、どのよう 良い投資ツールになることを意味します。こ な下降局面がいつ訪れても私たちを守って のため、当社の株価は比較的堅調ですし、業 くれるであろうあらゆる物件を契約してき 界も比較的うまく行っていると思いますが、 ました。この理由から、私たちのリース期間 私たちが下降局面にあることは事実です。 の平均が業界のどのリース契約と比べても 当社の経験からは、不動産投資がアクテ 長くなっており、恐らく他のどの企業より ィブな運用の対象としてますます魅力的な も契約が満了するスペースの回転率が低く アセットクラスになってきたことが感じ取 なっています(私はすべての企業に通じて られます。1990年代の投資界においては、き いるわけではありませんが、主要企業につ わめて新しいものでありました。私は、これ いては確実に知っています) 。 は下降局面を経てきたという点で重要だと ボストンプロパティーズ社の成長戦略 思います。なぜなら、これら大規模企業の専 す、広告費を減らす、雇用を減らす、資本支 門経営者がより多くの株式ベースを持つと 出を減らすなど、すべてがコストを削減す いう基本原理を実証することによって、投 るためのものです。この結果、雇用のない経 資市場に信頼を与えるのです。これで下降 済成長となり、生産性の上昇率がGDP(国内 局面にうまく対処できるほか、上昇局面に 総生産)増加率を上回ります。今、32カ月連 も乗ることができるのです。 続で製造業の雇用が減少していますが、こ 私は、さらに多くの資金をこの分野に引 れは大恐慌以来最長となる製造業の雇用の き寄せることができると思います。1990年 減少となります。全業界の雇用も2.5年連続 代初頭以降、たとえば1990∼1994年にかけ で減少しています。雇用数は、2000年初頭以 て、不動産が非常に暴落し、企業の多くが倒 来、270万人減少しています。 産し不動産に投資することには大きな懸念 失業の性質で面白いのは、企業が中間管 がありました。私は今、この状況は、株式資 理職や技術部門、金融サービス部門を削減 本を大量に導入することによって、借入金 していることですから、これは明らかに事 の割合(融資比率)が、一般的には50%に過 務所利用への主要な影響となります。この ぎないものが、大きく低下することによっ ような部門は概して、実は私たちが本来集 て、そして専門経営者がこのような大規模 中している商業中心地区に位置するのが特 企業と共に、これら企業が位置する市場を 有です。このことは、ワシントン市場や大ワ 察する能力を持って取り組むことによって、 シントン市場など、私たちが最大の開発者 変わっていくと思います。 であり物件所有者である市場において、起 講 演 こるのです。しかし、私たちは引き続き、そ 事務所市場に影響を及ぼす 雇用の減少 こでうまくいっています。それは、物件を長 期にわたってリースしたからで、ニューヨ ークでの回転率は非常に低くなっています。 現在の経済環境において、たとえば事務 同様に、プリンストンは過剰供給がなく、う 所市場、とくに料金がどうなるかを見ると まくやり続けています。ボストンやサンフ 面白いでしょう。私は2000年末以降、アメリ ランシスコでは損害を受けたことがありま カ経済について弱気です。エコノミストの すが、その要因は、金融サービスとハイテク 多くは2001年下半期には回復すると考えて です。 いましたが、私は2003年下半期の回復も難 しいと思っています。 これに加え、私たちが経済収縮に直面し 長期的な視点で 不動産市場をとらえる ていない間、事務所スペースに大きく影響 した要因がありました。これは企業に収入 強調すべき重要な点がもう一つあります。 増や売上高増がほとんどないため、コスト 多くの市場では、賃料が横ばい、もしくは 削減によって収益性を増加させることに焦 下落しているにもかかわらず、企業の価値 点が当てられていることです。出張を減ら は一部の市場、とくにボストンやニューヨ July-August. 2003 21 ーク、ワシントンなど、主要な都市市場での が、これらの市場で、良い買収機会があれ 主要なCDD市場においては上昇していま ば、私たちは常にそれを追い求めるでしょ す。もちろん、上昇する主な理由は、金利が う。私たちは多くに競り負けてきましたが、 下がっていることです。物件価値が上昇す そのうちの数回は成功しています。たとえ ると、キャップレートは低下します。 ば昨年 9 月にはパーク・アベニュー399番 別の側面として、流動性があげられます。 これら資産の流動性は非常に高いことが立 同等の機会があれば、それに入札し続ける 証されています。私たちがパーク・アベニュ でしょう。これが、私たちが注力するとこ ー399番地を購入した時、これは170万フィ ろです。 ートで、シティコープとリーマン・ブラザー 開発面では、そのビルのほとんどににつ ズの本社がありますが、ポートフォリオ全 いて予めプレリースがされているビルを取 体の株式と債務バランスを維持するため、 得しなければならないため、非常に苦労し 私たちはワシントンとニューヨークにある ています。ワシントンで56万平方フィート 資産を売ることにしました。もちろん、これ のビルを建設したとして、プレリースが ら資産は非常に高い需要がありました。あ 81%完了していたら、積極的に事業に乗り る意味では、最良の市場では、市況が良くて 出せます。なぜなら、私たちが追加部分のリ も悪くても、これらビルの稼働率が最も高 ースをできなかったとしても、適当な利益 く、空室率が最も低いというだけでなく、転 率でコストをカバーすることができるから 換や流動化にあたりこのような市場への投 です。しかし、市場は全般的に縮小してきて 資を求めている投資家は多いため、最も流 いますから、これは特別で例外的なケース 動性の高い不動産資産なのです。このよう です。 な資金を持っている人々の多くは、不動産 開発面の制約がますます厳しさを増すな 投資が長期的な投資であることを理解して かで、買収面では以前と同様の物件を探し います。1 年目の利益が低かったとしても、 ています。とくに、競合の少ない大規模プロ 時節が良ければ、そして 5 ∼ 7 年で上昇する ジェクトでは、私たちは、独特な買収を行う とすれば、これら資産はこの意味でも最も 能力があります。私たちは不動産市場が今 高い利益率であるのです。 年は確実に反転し始め、恐らく来年には良 私は、これらのことがこの不動産市場に くなるとは思いませんが、私が申し上げた 投資資金が流入してくる理由だと信じてい ように、もし長期的な視点を持っていれば、 ます。私たちは供給が劇的に増加し得る、ヒ それは最良の投資の一つになり得ると信じ ューストンなど区分けのないテキサス州の ています。なぜなら多くの人々が思ってい 都市の物件には手を出しません。私たちが るように金融資産の利益率が1980年∼1990 複雑な取り引きを好むのは、それが競合を 年の期間よりも非常に低くなるであろうと 減らすことができるからです。これが私た 考えているからです。以上が私の現在持っ ちの不動産事業活動の中心です。 ている見解です。ありがとうございました。 今の、私独自のこれからの展望なのです 22 地を10億6,000万米ドルで取得しました。 講 演 オーストラリアLPT:発展の要因 Westfield Holdings Limited 資産運用ディレクター Victor P Hoog Antink 氏 ヴィクター P フーガァンティンク●クイーンズランド大学卒業、商業学学位取得。 ハーバード・ビジネススクール卒業、MBA取得。現在はオーストラリア不動産協会 (PCA)理事、オーストラリア不動産研究所特別研究員、オーストラリア公認会計 士協会準会員を務め、不動産と金融の分野で20年以上の経験を有する。1995年、 Westfield Holdings Limited入社、Westfield America Trust社マネージャー、 ニュージーランドのSt Lukes Group社CEOを経て現職。Westfield Holdings社 資産運用ディレクターとして、オーストラリアの二大上場不動産投資信託会社 Westfield Trust社とWestfield America Trust社を統括。両社の時価総額合計は 150億オーストラリアドル、投資家は6万人を超える。 ですが、図表 1 をご覧ください。オースト ラリアにおいては何年にもわたって、いわ 92年以降に急成長したLPT ゆるプロパティ・トラストというのが発展 してきました。とくに92年以降、めざまし い発展を見せました。92年以降においては、 今日、私がお話するのは、LPT(Listed 非上場のプロパティ・トラストが上場型に Property Trust)と呼ばれる、オーストラリ 変わり、同時に投資家保護の気運が高まっ アにおける上場不動産投資信託についてで たのです。というのは、これに先立ち、非 す。これまでの成長、実績、規模、ストラ 上場型のプロパティ・トラストの破たんな クチャー、また情報開示の方法などについ どが相次いだためです。 てお伝えします。 また、私が勤めている会社であるウエス その後、LPTは急増し、500億オーストラ リアドル(以下、ドル)規模となっています。 トフィールドについてご説明します。ウエ 海外のファンドに対しての投資も増えてい ストフィールドのこれまでの経験、そして ます。また、トラスト数は99年にかけて確 どのような形で発展してきたのかについて 実に増えましたが、その後、再編・統合な ご説明します。その後は、オーストラリア どにより減ってきています。 の不動産市場の動向をお話しします。 では最初に、LPTの成長の歴史について 次に、LPTにおける保有不動産の内訳を ご説明します。図表 2 を見ていただくと、 July-August. 2003 23 さまざまな種類の不動産を所 有していることがわかります。 最も多いのはリテール(商業 施設)で、47.7%です。うち 13%が海外のリテールです。 図表1 Growth in LPTs LPT sector market capitalization and number of trusts 60 50 40 30 50 LPT History 45 Stages of development: 1971-1992:Establishment 1993-1999: Growth 1999- : Consolidation & Internationalisation 40 35 30 25 たとえば、ウエストフィール ド・アメリカや、ニュージーラ ンドなどの物件も含まれてい ます。2 番目にオフィスが34% を占め、次いで産業用が12.5%、 20 20 15 10 10 5 0 1 9 8 5 1 9 8 6 1 9 8 7 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 Total Mkt Cap(A$BN) 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 O/S Mkt Cap(A$BN) 2 0 0 0 住宅、ホテル、駐車場などが ごくわずかとなっています。 図表2 LPT Allocation by Property Type Carparks 0.5% べてのタイプのプロパティを 所有しているわけでなく、主 2 0 0 2 2 0 0 3 0 Number of Trusts Source: UBS Warburg & JP Morgan わが社についていえば、す 2 0 0 1 Residential 2.8% Hotels 2.5% Industrial* 12.5% にリテール、オフィス、産業 用、ホテルなどを所有してい Office* 34.0% Retail* 47.7% ます。駐車場や住宅を、保有 しているファンドもあります。 他の国においては、ゴルフコ * Overseas Property: Industrial - 1.0%, Office - 2.0%, Retail - 13% ースや刑務所、高齢者用のコ ミュニティなどを含めているところもあり ジスなども海外に目を向けています。マッ ます。今後オーストラリアにおいてもそう クアリアは、商業用や産業用不動産などに したプロパティを含むことになるでしょう 特化して注目しています。こうした状況と が、まだ時間はかかると思います。 いうのが今後も続くと考えられます。 現在、オーストラリアにおいては、ファ ンドの規模が増えており、プライム・プロ パティと呼ばれるA級物件の約50%が、 LPTのすばらしい運用実績 LPTの傘下にあります。逆にいうと、投資 家が将来的に投資できる物件の数はだんだ ん減ってきているということです。 24 次に、LPTの利回りについてですが、1 そのためにLPTでは、海外物件に注目し 年、3 年にかかわらず、すばらしいリター ています。たとえばウエストフィールド・ ンを示しています。1 年の利回りは年率 アメリカは海外のリテールに注目し、レン 11.8%です。これに比べて、ダイレクト・プ ドリースは海外の商業用物件などに注目し ロパティといわれる直接投資は11.1%、債 ています。最近ではマックアリアやプロロ 券は8.3%、株式は株価が下がっているた オーストラリアLPT:発展の要因 め、−8.1%となっています。 3 年で見ると、LPTは14.7% とすばらしい実績を残してい ます。実物不動産に対する直 接投資は11.2%、債券が8.2%、 株式が1.6%です。LPTがいち ばんすばらしい実績を残して 講 演 図表3 Australian Property Returns & Volatility Annualised December 1984-December 2002 Return% 20 All ordinaries 15 Australian Retail Bonds 10 Regional Centres Australian CBD office 5 0 いるわけです。 5 図表 3 をご覧いただけれ 10 15 Source : Property Council of Australia 20 Volatility% ば、この動向というのがはっ きりわかると思います。ここでは、それぞ ティを比べてみると、ショッピングセンタ れのプロパティのリターンを、債券、オー ーは非常に低く、オール・オーディナリー ストラリアにおけるCBDオフィス、そして ズの約 3 分の 1 となっています。LPTは継 オール・オーディナリーズの利回りと比較 続的にリターンが高いうえに、投資の安全 しています。この18年間における動向を分 性も高いといえるわけです。これがLPTの 析したものですが、オーストラリアにおけ セールスポイントとなっています。 るショッピングセンターの利回りは約14%、 では、個人投資家がどのような形で投資 オール・オーディナリーズもほぼ同様の利 を行っているのか、ここでは集団投資スキ 回りとなっています。しかし、ボラティリ ームという形でご説明します。個人投資家 図表4 How to invest in Property Private Client Investors (Retail)* Superannuation Funds Master Trusts/ Wraps Property Securities Funds Syndicates Unlisted Wholesale Funds Listed Property Trusts Unlisted Direct Property Retail Funds Direct Property *excluding direct ownership by retail and wholesale investors July-August. 2003 25 から集めた資金をどのような形で集団投資 また企業における不動産部門の活動の出遅 スキームの下、運用するかということです。 れも見られます。 図表 4 をご覧いただければわかりますが、 このような形で集めた資金というものがい ちばん上の段にあります。その資金は、ス 投資の多様性と自己判断 ーパーアニュエーション・ファンド(老齢 退職者年金基金)を通じて運用することが できます。この老齢退職者年金基金は 8 ∼ 次に、ウエストフィールド・グループの 9 %、また市場の方は0.5兆ドルから1.4兆ド ストラクチャーについてご説明したいと思 ル規模で今後10年間成長すると見られてい います。図表 5 をご覧ください。ご存知の ます。 ように外部運用型のストラクチャーをとっ また、マスター・トラスト(オーストラリ ています。私は、ウエストフィールド・ト アではラスプと呼ぶ)に投資する人もいま ラストとウエストフィールド・アメリカの す。プロパティ・セキュリティ・ファンドに 統括責任者となっています。二つのトラス 投資する人たちもいます。シンジケーショ トのマネジメントに加えて、イギリスにお ン、非上場型ホールセール・ファンド、そ いても物件を所有しており、今後オースト してLPT、非上場型の直接開発投資のリテ ラリアにおいて上場するか、もしくはイギ ール・ファンドに投資することもできます。 リスやヨーロッパにおいて非上場型のプロ では、それぞれの割合はどうかというこ パティ・トラストになるということを期待 とですが、LPTは約500億ドル規模、シンジ しております。そうすることによって新た ケーションは50億ドル規模、ホールセー な投資ビークルが誕生することになります。 ル・ファンドは伝統的に機関投資家が投資 ウエストフィールド・ホールディングス する分野ですが、200億ドル規模、そして最 では、トラストのオペレーションレベルに 近出てきたCMBSと呼ばれる不動産モーゲ おいても、資産のプロパティ・マネジメン ージ担保証券は約30億ドル規模となってい トのレベルにおいても、さまざまな形でサ ます。この市場は、ここ 4 ∼ 5 年の間に非 ービスを提供しております。 常に成熟し急増してきた市場です。 最近の傾向では市場が拡大するにつれ、 26 まず、ファンド・マネジメントサービス を提供しています。付随的サービスでは、 不動産市場に特化した専門家集団というの ファイナンス、税制、事務手続き、そして が台頭してきています。不動産開発も回復 登録手続きなどです。そうしたサービスを しています。個人投資家の関心も高まって 提供して手数料収入を得ています。この手 います。非上場型のプロパティ・トラスト 数料ですが、わが社においてはトラストの に対しての関心も集まっています。非常に 実績に連動して入ってくることになってい 野心的な投資家が海外物件に投資すること ます。最近、ほかのトラストでは、パフォ も増えてきています。不動産投資商品やフ ーマンス・フィーという実績に連動した形 ァイナンステクニックも拡大していますし、 での手数料に加えて、基本的な手数料を求 オーストラリアLPT:発展の要因 講 演 図表5 Westfield Group1 Structure 2 (External) Westfield Holdings Limited INVESTMENTS (ASX : WSF) Westfield Trust (ASX : WFT) OPERATIONS Funds Management Accounting Finance Tax Secretarial Registry Westfield America Trust (ASX : WFA) Property Management 42 Properties - Australia (30) - NZ (12) Marketing Leasing 63 US Properties 7 UK Properties Development Design Construction 1 At 2 June 2003, combined group market cap A$23.7 billion, equivalent to 8th largest group on ASX. 2 Investors can invest in each listed entity in whatever proportion they desire from time to time めるところも出てきています。 こうした関係においては、アームズ・レ ファンド・マネジメントに加えて、プロ ングスルールが必要となります。これはマ パティ・マネジメント・サービスも提供して ネージャーとそれぞれのアセットの管理人 います。このサービスのなかには、マーケ との関係です。たとえば、われわれウエス ティング、リースなどが含まれています。 トフィールド・ホールディングスと、ウエ こうしたサービスは日々の物件管理に不可 ストフィールド・トラスト、そしてウエス 欠なサービスです。そのためにここでも手 トフィールド・アメリカとの間に交わされ 数料収入が発生します。これによって賃料 る契約ですが、事前に合意され署名された 収入に加えて、こうした手数料収入がある 契約に基づいています。その契約というの わけです。 は株主の承認に基づくものです。ですから また、開発努力も行っています。ショッ ピングセンターにおいては随時改築や改修 すべてが事前に合意された契約に基づいて います。 などが必要ですし、そのためには特別なテ 収入源には二つあり、一つは不動産から クニックがいります。魅力的なショッピン の収入です。図表 5 でいえば、図の左右か グセンターをつくるためにはクリエイティ らインカムリターンという形で上がってき ブな能力が必要です。そして、それを長期 ています。そして将来的にはイギリスの物 的な収入源とするためのテクニックが必要 件からの収入も期待しています。もう一つ となります。また建築契約も担当すること が、マネジメントから上がってくる手数料 があります。 収入です。 July-August. 2003 27 投資家は、たとえばオーストラリアの資 状況を示すスライドをつくったわけです。 産に基づくトラスト、海外、アメリカの資 これは財務書類として提出しているものと 産に基づくトラスト、もしくは専門家集団 は全く関係ありません。財務諸表は普通は が運営しているウエストフィールド・ホー 投資家に提供するのですが、ここでは実際 ルディングスに対して投資することもでき の小売店のフロアにおいて何が起こってい ます。その他、内部運用型がよいのか、外 るのかについてのまとめです。 部運用型がよいのか、投資家はどのような このようにプレスリリースあるいは記者 形で投資するのか、自己判断で選ぶことが 発表を行った場合には、必ずその数時間以 できます。ウエストフィールド・ホールデ 内に投資家あるいは証券アナリストを対象 ィングスは外部運用型ですが、そのなかで として電話会議を開きます。このなかで、 個人の投資家は、ステイプルド方式という 私たちが報告する内容についてお話を聞い 形で、別個に好きな割合で投資することが ていただくとともに、質問もお受けしてい でき、同時にリスクリターンを判断するこ ます。 とになります。 そしてこの電話会議のなかで、何か新し いことが出てきた場合、つまり私たちが市 場に対して発表していないようなことが実 情報開示の重要性 際にここで出てきてしまった場合には、必 ず証券取引所に対して追加の報告をして、 その情報を伝えるようにしています。 では次に、外部への情報開示についてで それに加えて、書面でのコミュニケーシ すが、私たちは投資家だけが相手ではない ョンも行っています。まず年次報告書、さ と思っています。投資家だけではなく、ア らに半期ごとのレポートをつくっており、 ナリストやメディアにも情報を伝えていき また 3 カ月ごとにはニューズレターを出し ます。それらはすべて正確に、そして手順 ています。投資家に対して、トラストが今 に則った形で行わなくてはいけないと思っ どういう状況であるかということを伝えて ています。 いくわけです。 いちばん重要なのは、たとえば企業に影 投資家の方々は分配金を受け取ることにな 響を与えること、重要だと考えられるよう ります。希望によって、銀行口座に振り込み な取り引きが起こった場合には、必ずすぐ ますし、小切手での提供もしています。わが に証券取引所に報告をするということです。 社の場合には半年に 1 回ですが、他社の場合 記者発表やプレスリリースを行うわけです には四半期に1回支払っているところもあり が、加えて年 1 回の年次報告書、あるいは ます。また、分配金の租税関係の処理につい 半期に 1 回のレビューを行っています。 ての報告をお送りしています。投資家が実際 ごく最近でいいますと、私たちは事業全 体に関しての四半期のレビューを行いまし た。その時には、ショッピングセンターの 28 にご自分で確定申告を行う際に間に合うよう に書類をお届けしているわけです。 このようにしてさまざまな種類のコミュ オーストラリアLPT:発展の要因 ニケーションの手法を持っていますが、そ ているのかということについて、ウエスト れに加えて年次会議を行っています。すべ フィールドすべての情報をつかむことがで ての投資家に年次会議に参加していただき、 きるようになります。 それぞれのトラストに関して質問や、パフ 私たちはこの情報開示が非常に大切なこ ォーマンスについての質問をその場でして とだと思っております。これは私たちだけ もらいます。 ではなく、この業界についても同様であり、 私たちは物件に関して非常に誇りを持っ 皆さんも同じようにこのような非常に最先 ており、プロの機関投資家の方々をご招待 端の方法によって投資家に対する、あるい して、物件の見学ツアーを行っています。 はその他のグループに対する情報開示を行 ブローカーのアナリスト、証券アナリスト っていかれることでしょう。 講 演 も同様です。たとえばアメリカの場合、1 週間アメリカにお連れして、そこで物件の 見学ツアーをしていただき、その際には、 物件管理の重要性 資産について、景気について、また小売業 がどうなっているのかについての発表を行 います。小売店にもプレゼンをしてもらう それでは私たちの成長の牽引力を見てみる ようにしています。さらに、他の企業の所 ことにしましょう。これはオーストラリアで 有するショッピングセンター見学にも行き もアメリカでも全く同じですし、将来的には ます。それによってさまざまな形態を見る 英国でも同じだと思っています。つまり物件 ことができます。 の管理をしっかり行うこと、クリエイティブ オーストラリアでは少し違なるやり方で に物件の取得を行うこと、さらに開発を行う す。投資家のベースがもともと国内にある ということなのですが、これはそれぞれの物 わけですから、シドニー、メルボルン、パ 件が古くなってしまわないように再活性化を ース、あるいはニュージーランドといった 行っていくということです。これらは非常に 所に 1 日単位でお連れしています。このよ 重要なポイントであり、これから先も将来に うな形で、物件がどういう状況であるのか、 わたっての収益を確保するために重要な要 モールがどうなっているかなどについての 素であると考えております。 最新情報をお伝えすることができます。 次に財務方針をご説明します。まず借入 とくに主要な投資家とは電話でも話をし 金利ですが、私たちはかなり大量の借り入 ています。個人投資家の方々にも情報ライ れを行っていますので、金利をしっかり固 ンということで情報をお伝えするようにし 定しなくてはいけないわけです。これまで ています。ウェブサイトは常に更新してお 何年にもわたり、約75%は最長10年の固定 り、まもなくリンクを拡大して、投資家の 金利で調達しています。その理由は、この 方々が自身の持ち分を見ることができるよ ことによってコストをある程度確定できる うになります。たとえば、どのくらいの持 というメリットがあります。さらにまた将 ち分があるのか、ユニット価格はどうなっ 来的なキャッシュフローについても予測を July-August. 2003 29 していくことができるようになるわけです。 いてお話をします。2002年を振り返ると、 私たちはこれまでノウハウを積み重ねて オフィスマーケットは減速しました。それ きましたが、それに加えて財務的な能力を に対して小売店舗は好調でしたし、産業用 積み重ねることで、最終的に投資家が求め は堅調な足取りをたどりました。では今後 ているものを提供していくことができま の展望はどうかといいますと、オフィスに す。不動産投資を行う人というのは、安定 ついては今年 1 年間も失速をするであろう 収入を求めているわけです。安定的な成長 と思われます。空室率も上がっていくこと のプロフィールがあり、それに加えて確実 になると思います。それに対してリテール 性がなくてはいけないということになるわ の部分は、今年も引き続き堅調です。産業 けです。 用物件も、おそらく堅調に推移することで 不動産鑑定も非常に大切なポイントです。 私たちは 3 年に 1 度すべての物件について しょう。不動産投資信託のセクター全体と しては堅調であるといえると思います。 の不動産鑑定を行っています。これはアメ 最後に、LPTについては今後も高い投資 リカのREITでは全くやっていないことです 収益を期待できるででしょう。そして不動 が、オーストラリアではさらに追加的な抑 産セクターおよびその情報に投資家も徐々 制と均衡のためのシステムと位置付けてお に慣れてきています。また、投資家がだん ります。もとになる物件の鑑定を行ってい だん参加するようになったことで、情報の くことが非常に重要であるということで、 質も上がってきます。透明性も上がります 順番にそれぞれを 3 年に 1 度カバーする形 し、報告書あるいは会計基準の順守という にしています。 部分についても状況が良くなってくるわけ 次にトラストの成績をご説明します。ウ です。さらに不動産と資本市場の統合が起 エストフィールド・トラストの場合、上場 こることによって、新たな機会を生み出し 以来20年以上経っているわけですが、リタ ています。日本も同様のことと思います。 ーンが16%以上となっています。こちらは そして最後になりますが、成功を収めよ ASXの不動産インデックス14%と比べても うと思ったならば、政治的な支援を仰ぐ必 良いですし、またオール・オーディナリー 要があると思います。私たちはその点につ ズ・インデックスの14%と比べても良い数 いても十分に理解しなくてはいけません。 字となっています。ウエストフィールド・ そして最終的に私たちが必要としているよ アメリカの場合でいいますと、1996年上場 うな結果を生み出す必要があります。 で20%程度となっています。 以上で私の発表を終わらせていただきま すが、最後にこの場をお借りして、不動産 証券化協会に対しましてこれからのご繁栄 不動産投資信託の今後の展望 を心からお祈り申し上げたいと思います。 また日本のJ-REITセクターについても、こ れから先必ずや成功を収めることと考えて それでは次に不動産セクターの現状につ 30 おります。 特別講演 ファイナンス手法を用いた REIT商品特性分析 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 助教授 大橋 和彦 氏 おおはし・かずひこ●1963年生まれ。86年一橋大学経済学部卒業。93年 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院にて経営学(ファイナ ンス)Ph.D.取得後、マギル大学・スタンフォード大学・シカゴ大学ビジネス スクール客員研究員、筑波大学・一橋大学商学部講師・助教授を経て、99年 より一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授。証券の創造(Securities Innovation)に関する理論的研究を中心に学術雑誌および専門書に論文を掲 載。著書に「証券化の知識」(日本経済新聞社)、共訳書に「資産価格の理論」 (創文社)等。日本ファイナンス学会理事。 本日はJ-REITが誕生してからこれまでの か。それは、J-REITのリターンの分析が今 リスク・リターンの基本的な特性について 後は重要だと考えるからです。ここでリタ 調査したことを報告します。本研究を進め ーンとは配当調整済み、配当込みのトータ るにあたって、さまざまな方にご助力をい ルリターンを意味します。 ただきましたので、この場を借りまして感 謝の意を表したいと思います。 投資家にとって、J-REITがどういったリ ターン特性を持っているかは、投資の決定 ここでは、まず投資対象としてのJ-REIT に非常に重要な事項となります。また経済 について、主に全体の投資機会の観点から 全体の観点からは、J-REIT市場が資源配分 リスクとリターンを評価したいと思います。 という点でその機能をきちんと果たしてい その後、よりミクロ的な視点から、投資対 るか、それをチェックすることが重要です。 象としてのJ-REITのリターン分析の報告を このような視点から、米国ではREITに関す したいと思います。最後に今後の課題につ るさまざまな先行研究が行われています。 いてお話しします。 今回は、そのようなさまざまな研究の一 部分として、平均分散投資分析からJ-REIT のリターンを評価するという作業と、他の J-REITのトータルリターン分析の重要性 資産とのリターンの関係の比較を行います。 分析にあたってはさまざまなデータの取 り方がありますが、ここでは週次のデータ なぜこのような研究をしないといけない を利用します。2001年の 9 月14日から、03 July-August. 2003 31 年の 3 月28日まで、全部で81サンプルあり 参入して、税金の制度も変わるというアナ ます。週次データの利用には利点と問題点 ウンスメントがあった。一方、他のマーケ があります。利点としては、週次は月次の ットも金利は低下し、株価は下落するとい 4 倍データ数が多いことがあります。多い う激動の時代であった。高配当利回りやマ ために分析に適切なデータの性質を保証す ーケットに対してディフェンシブである観 ることができます。他方、月次は良いデー 点から、年金、地銀という人たちがJ-REIT タ特性をまだ持ってはいません。 への購入意欲を見せ始め、投資家層も変わ しかしながら、通常、こういった投資の ってきました。いろいろな意味で状況が変 リターン分析に学術的には月次データを使 化する 1 年半でした。幸いなことに、この 4 います。最低 5 年のデータが必要で、その 月以降活況が続いており、今のところは上 ようなデータがあれば先行研究と整合的な 向いている状況です。 研究が可能になります。残念ながら、今回 図表1 J-REITとTOPIXの関係 はデータの制約からそのような分析には直 1,300 接はつながりません。これが週次データの 1,200 問題点の一つです。先行研究との整合性の 1,100 関係だけでなく、ファンダメンタルな意味 合いでも、はたしてJ-REITに投資する投資 1,000 900 家が毎週毎週のタームで投資の意思決定を 800 変えているかどうかという問題が週次デー タにはあります。 01年10月 02年01月 02年04月 02年07月 02年10月 03年01月 J-REIT×10 TOPIX このような点を踏まえ、週次データの利 J-REITインデックス(QUICKリート・イ 点と問題点を理解しつつ、今日の話を聞い ンデックス<配当込み>)をTOPIXと比較 ていただきたいと思います。 した場合に(図表 1 ) 、上場後最初の方はシ ンクロした動きであったことがわかります。 株が下がればJ-REITも下がるという動きが 投資対象としてのJ-REITの特性の把握 見られます。去年 6 月頃を境にしてずいぶ ん動きが変わってきたことが見て取れます。 他方、東証の大型、中型、小型インデッ ここで、投資機会全体として見た場合の 32 クスと較べてみると(図表 2 )、中型と大 J-REITリターンの評価を行います。J-REIT 型・小型は似たような動きをしていますが、 の一年半を振り返ってみますと、一言で言 やはり昨年 6 月を境に、全く違う動きをし えば、 「新しい商品を投資家が受け入れてい ているのが見えます。これはリターンでも く過程である」という印象を今回の分析を 同様です。2002年 6 月以前とそれ以降を分 通じて得ました。 けて見れば、J-REITと他資産のリターンの マーケット発展の過程では、まず上場が 関係はずいぶん変わってきたように見えま あり、決算が初めて出て、新しいJ-REITが す。この時、新しいJ-REIT商品が入ってき ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析 たからではないかと思われる方もいると思 資産の相関は比較的低いことがわかります。 います。確かにそれも影響していますが、 東証2部との相関が比較的高くなりますが、 実は先行 2 社について同様の絵を描いても これらは基本的に流動性が低く小型で配当 同じような傾向が見られます。その意味で、 利回りも比較的良いというタイプの株式 J-REITマーケットと他のマーケットの関係 です。 であるといえます。 図表4 J-REITインデックスとの相関(リターン) 図表2 J-REITと東証大型・中型・小型の関係 全期間 01年9月 02年7月 全期間 01年9月 02年7月 ∼02年6月 ∼03年3月 ∼02年6月 ∼03年3月 1,300 TOPIX 1,200 東証大型 0.168 0.272 0.034 バリュー 0.199 0.304 0.059 1,100 東証中型 0.171 0.289 0.036 グロース 0.143 0.248 0.016 1,000 東証小型 0.168 0.300 0.008 総合 特別講演 0.169 0.276 0.034 東証2部 0.327 0.601 0.003 日経 日経 野村BPI 900 0.171 0.217 0.123 02年 6 月までと02年 7 月以降を比較する 800 なら、株式については02年 6 月までは比較 700 01年10月 02年01月 02年04月 02年07月 02年10月 03年01月 J-REIT×10 TOPIX MIDDLE TOPIXBIG TOPIX SMALL 的高い相関を示しています。ところが02年 7 月以降にはその相関が急激に低くなって そこで、J-REITの投資対象としてのリス います。一方、債券を見ると、その相関は ク・リターンの特性を数字で眺めてみまし 前半に比べれば後半は下がっている。しか ょう(図表 3 ) 。注目したいのは標準偏差で し株式と較べるとそれほどは下がっていま 表されているリスクの部分です。全体の期 せん。全期間を通じて見て、J-REITの他の 間を通じてJ-REITインデックスのリスクを 資産との相関は低いのですが、株式と比べ 株と比較すると小さく、債券と比較すると れば債券との関係は安定していることがわ ずいぶん大きいというのがわかります。つ かります。また、02年 6 月以前と以降では、 まり、標準偏差で測ってみたリスクは株式 株式市場との相関の変化は非常に激しいと と債券の間、ミドルリターンであるとわか いえます。 以上のことから、相関関係、基本統計量 ります。 図表3 基本統計量(リターンの平均・標準偏差) 全期間 平均 標準偏差 01年9月∼02年6月 02年7月∼03年3月 平均 標準偏差 平均 標準偏差 から見られるJ-REITのリターン特性とし て、ミドル・リターンとは言い切れないが、 J-REIT インデックス 0.001 0.017 -0.001 0.020 TOPIX -0.003 0.029 -0.001 0.029 -0.005 0.028 東証大型 -0.003 0.029 -0.001 0.030 -0.006 0.028 東証中型 -0.001 0.026 0.000 0.025 -0.003 0.027 落の度合いは比較的安定していた、という ことがいえます。 0.003 0.014 東証小型 0.000 0.025 0.000 0.024 -0.001 0.027 東証2部 -0.002 0.019 0.000 0.018 -0.004 0.020 日経 バリュー 日経 グロース 野村BPI 総合 -0.004 0.032 -0.005 0.032 -0.004 0.034 -0.002 0.030 0.001 0.031 -0.006 0.028 0.0005 0.0018 0.0003 0.0014 0.0007 0.0021 ミドル・リスクではある。株式との相関は 顕著に下落した。一方、債券との相関の下 実際の分散投資の効果 より面白いのは、J-REITと他の資産との 相関関係です(図表 4 ) 。まず、J-REITと他 投資家がこのJ-REITのリターン特性をど July-August. 2003 33 のように評価してきたかを見てみましょう。 青い実線がポートフォリオフロンティア このために、ファイナンスの基本である投 で、黒い線がこれに対応するキャピタルマ 資の平均分散分析(リスクとリターンのト ーケットラインです。キャピタルマーケッ レードオフによって投資を決定する手法) トラインは、無リスク資産が存在する場合 を利用します。 の投資機会を表しています。この線が左に ポートフォリオを組む際には、他資産と 行くほど、投資機会は投資家にとって望ま の相関が低い資産は、分散投資の効果が大 しいものとなります。通常、キャピタルマ きく望ましいとされます。そこで、J-REIT ーケットラインは、ポートフォリオフロン に分散投資の効果が実際どれくらいあった ティアに接するものであるといわれていま のか見てみます。そのために東証33業種の すが、この場合は離れています。これは、 配当調整済みの週次リターンを計算し、そ この時期が、あまりに株価のリターンが低 れに基づくポートフォリオフロンティアと い異常な時期だったからです。 キャピタルマーケットラインを書いてみま 一方、東証33業種にJ-REITを加えた場合 のポートフォリオフロンティアが青の点線 した(図表 5 ) 。 図表5 ポートフォリオフロンティア になります。このグラフは東証33業種だけ (東証33業種週次、東証33業種+QUICK-J-REITインデックス) から求めたポートフォリオフロンティアよ 全期間(01年9月∼03年3月) り左上方にあり、これから「J-REITの導入 期 0.12 待 収 0.1 益 率 0.08 は投資機会を向上させた」といえます。 0.06 さて東証33業種だけから求めたキャピタ 0.04 ルマーケットラインはポートフォリオフロ 0.02 ンティアラインから離れていましたが、そ 0 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 標準偏差 前半(01年9月∼02年6月) 期 0.12 待 収 0.1 益 率 0.08 こでの最適投資は株式を全部カラ売りして、 それで得たお金を無リスク資産に投資する ものになります。しかし実際はこのような 投資はほぼ不可能です。そこで、大規模な 0.06 空売りができない場合として効果的フロン 0.04 ティアを達成するためのJ-REIT投資を考え 0.02 ると、それは基本的に買いということにな 0 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 標準偏差 後半(02年7月∼03年3月) ります。 そういう意味で、ほかの資産を合わせて 期 0.12 待 収 0.1 益 率 0.08 J-REITは魅力あるリスクリターンの関係を 0.06 おおむねフェアなリスクリターンを生み 0.04 出しているように見えたJ-REITですが、実 生み出していたといえます。 0.02 際リスクに見合ったリターンを上げている 0 -0.02 0 34 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 標準偏差 のか疑問になります。それを調べる基本的 ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析 な方法に、ジェンセンのαと呼ばれる方法 があります。基本的な資産価額決定式であ るCAPMに基づく方法です(図表 6 ) 。 図表6 Jensenのalpha(CAPMベースの評価法) r JREIT − rf = a+b(rM− rf ) +ε 無リスクレートに対する J-REITの超過リターン 無リスクレートに対する TOPIXの超過リターン 全期間 a b 決定係数 前 半 a1 b1 決定係数 後 半 a2 b2 決定係数 係数 標準偏差 0.001 0.102 0.029 0.002 0.067 0.646 1.524 ます。 さて、去年の10月 8 日に配当減税があり ました。その後、J-REITの価格は上がって いますが、価格の上昇に配当減税の効果が どの程度あったか見てみたいと思います (図表 7 )。そのために先ほどの式にダミー 変数を付け加えます。02年の10月から12月 まで 3 カ月の間だけ 1 を取るという変数で >0⇒ リスクに見合う以上のリターン a =< 0⇒ リスクに見合うリターン 0⇒ リスクに見合う以下のリターン t値 特別講演 す。変数の係数Cがもしも正だったら、こ P値 0.521 0.131 係数 標準偏差 t値 P値 -0.001 0.185 0.075 0.003 0.102 -0.269 1.812 0.788 0.077 係数 標準偏差 t値 P値 0.003 0.017 0.001 0.002 0.083 1.301 0.206 0.201 0.837 の期間、リターンが通常に較べてより多く のリターンを生んでいたということで、減 税の効果があったことになります。 図表7 J-REITリターンのTOPIXリターンへ の回帰と残差 .06 .04 .02 .00 この数式を回帰分析した時に、J-REITが リスクに見合う以上のリターンをあげるな らばαの値は正に、見合う以下のリターン しかあげられないなら負になります。リス クに見合うだけのリターンを上げていれば αの値がゼロとなります。 -.02 .06 .04 .02 .00 -.02 -.04 -.06 -.04 01年10月 02年01月 02年04月 02年07月 02年10月 03年01月 Residual Actual Fitted 全期間を通じてCの値が正であり、そのt 見方としては、おおむねt値が1.7以上、P 値は1.7より大きく、Pの値は 0.1よりずっと 値が 0.1以下であれば係数の符号は有意とな 小さくなっています。統計的に見れば、配 ります。回帰したところ、J-REITは全期間 当減税のアナウンスメントによる効果はあ を通じての有意にならず、αの値はゼロと ったということになります。後半だけの回 区別できません。したがって、J-REITはち 帰を見ても、同様に正の効果があったこと ょうどリスクに見合うリターンを生んでい がわかります。 たということになります。 前半と後半を比較すると、前半はαが負、 ところが、これを 3 月まで伸ばすと、こ の効果が消えてしまい優位ではなくなりま 後半は正になっていますが、統計的にはゼ す。ダミーを02年の10月から03年 3 月まで ロと区分できません。したがって、ここで の 6 カ月とすると、リスク以上のリターン も前半のαはゼロ、後半もαはゼロという はそれほどはなかったことになります。こ ことになります。つまり「J-REITは今のと の結果から、昨年10月以降のTOPIXを超過 ころリスクに見合うリターンを上げている するJ-REITリターンは少なくとも一時的な ようだ」申し分のない投資先であるといえ ものにとどまったといえます。 July-August. 2003 35 以上をまとめれば、投資機会全体として 図表8 超過リターンの相関 見たJ-REITは、他の資産との間の相関が低 く、そのためJ-REITの導入による投資機会 全期間(01年9月∼03年3月) J-REIT 日経 インデックス TOPIX 東証大型 東証中型 東証小型 東証2部 バリュー 日経 野村BPI グロース 総合 J-REIT 1.000 0.169 0.168 0.171 インデックス 0.168 0.327 0.199 0.143 TOPIX 0.169 1.000 0.999 0.925 0.836 0.703 0.892 0.937 -0.083 見合うリターンを上げており、今のところ 東証大型 0.168 0.999 1.000 0.909 0.815 0.686 0.886 0.942 -0.075 申し分のない投資先であったといえます。 東証中型 0.171 0.925 0.909 1.000 0.964 0.811 0.878 0.807 -0.159 東証小型 0.168 0.836 0.815 0.964 1.000 0.807 0.799 0.719 -0.168 東証2部 0.327 0.703 0.686 0.811 0.807 1.000 0.694 0.579 -0.139 の改善があった。かつ、ちょうどリスクに 投資対象としてのJ-REITのまとめ 0.171 日経 バリュー 0.199 0.892 0.886 0.878 0.799 0.694 1.000 0.728 -0.074 日経 0.143 0.937 0.942 0.807 0.719 0.579 0.728 1.000 -0.036 グロース 野村BPI 0.171 -0.083 -0.075 -0.159 -0.168 -0.139 -0.074 -0.036 1.000 総合 (01年9月∼02年6月) 次に、もう少しマイクロな視点からJ- 日経 野村BPI グロース 総合 J-REIT 1.000 インデックス 0.276 0.272 0.289 0.300 0.601 0.304 0.248 TOPIX 0.276 1.000 0.999 0.931 0.833 0.667 0.888 0.942 -0.024 まずJ-REITは株式と債券のどちらに似てい 東証大型 0.272 0.999 1.000 0.917 0.813 0.653 0.887 0.945 -0.015 るかという問題を考えます。アメリカの先 東証中型 0.289 0.931 0.917 1.000 0.961 0.757 0.836 0.837 -0.111 東証小型 0.300 0.833 0.813 0.961 1.000 0.764 0.723 0.742 -0.173 東証2部 0.601 0.667 0.653 0.757 0.764 1.000 0.617 0.553 -0.050 REITのリターンを見てみます。そのために、 行研究でもこのような問題が調べられてい ます。 結果からいえば、J-REITと他の資産のイ ンデックスのリターンとの相関は低く、株 式とは正の相関があり、債券とも正の相関 があるということになります。一方、債券 と他の株式との相関と較べるとおしなべて 0.217 日経 バリュー 0.304 0.888 0.887 0.836 0.723 0.617 1.000 0.742 0.061 日経 0.248 0.942 0.945 0.837 0.742 0.553 0.742 1.000 -0.052 グロース 野村BPI 0.217 -0.024 -0.015 -0.111 -0.173 -0.050 0.061 -0.052 1.000 総合 (02年7月∼03年3月) 日経 J-REIT インデックス TOPIX 東証大型 東証中型 東証小型 東証2部 バリュー 日経 野村BPI グロース 総合 J-REIT 1.000 インデックス 0.034 0.034 0.036 0.008 0.003 0.059 0.016 TOPIX 0.034 1.000 0.999 0.922 0.850 0.740 0.905 0.931 -0.117 0.123 東証大型 0.034 0.999 1.000 0.905 0.828 0.720 0.895 0.939 -0.109 負ですから、J-REITは株式の形態を取りつ 東証中型 0.036 0.922 0.905 1.000 0.968 0.862 0.920 0.782 -0.188 つも、債券との関係では通常の株式とは異 東証小型 0.008 0.850 0.828 0.968 1.000 0.852 0.868 0.711 -0.167 東証2部 0.003 0.740 0.720 0.862 0.852 1.000 0.776 0.602 -0.182 なる動きをすることがわかります。 このことを表で確かめてみます(図表 8 ) 。 超過リターンは無リスク資産に対する超過 リターンです。J-REITと株式との相関は正、 債券との相関も正、しかし債券と株式の相 関を見ればマイナスです。 前半、後半と分けても全く定性的な性質 は変わらず、債券と何らかの関係があるこ 日経 バリュー 0.059 0.905 0.895 0.920 0.868 0.776 1.000 0.728 -0.171 日経 0.016 0.931 0.939 0.782 0.711 0.602 0.728 1.000 -0.001 グロース 野村BPI 0.123 -0.117 -0.109 -0.188 -0.167 -0.182 -0.171 -0.001 1.000 総合 的であることが確かめられます。 さらには東証 2 部との相関です。02年 6 月までは0.6ですが、02年 7 月からは0.003と 急激に減っています。小型株との関係が時 期によって異なることがわかります。 とが示唆されます。02年 6 月までと、02年 7 ではJ-REITリターンが、株式や債券のリ 月からの相関を比較しても、J-REITと株式 ターンでどれだけ説明できるのか、アメリ との相関は非常に下がったが、債券との相 カでもサンダーズが似た研究をしておりま 関は株式の下がり方に比べて穏やかです。 すが、これをチェックしてみます(図表 9 ) 。 この意味で、J-REITと債券との関係が安定 36 日経 J-REIT インデックス TOPIX 東証大型 東証中型 東証小型 東証2部 バリュー ここでは、TOPIX、東証2部、債券の 3 ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析 特別講演 な説明力を持つ変数がなくなってきます。 図表9 株式・債券でJ-REITリターンが どれだけ説明できるか? r JREIT r TOPIX − rf = a+b(rTOPIX − rf ) +c Re s TOPIX 2+d Re sBPI+ε −r f :東証1部株式全体の変動を捉える。 全期間 (01年9月 ∼03年3月) 前 半 後 半 ります。 以上から、J-REITのリターンは債券と比 Re s TOPIX 2:東証2部をTOPIXに回帰した残差。 Re s BPI つまり独自の動きを開始していることにな 東証2部株式(小型・低流動性)特有の変動を捉える。 :野村BPI(総合)をTOPIXとResTopix2に回帰した残差。 株式の変動を排した、債券に特有の変動を捉える。 a b c d 決定係数 係数 0.001 0.102 0.372 2.175 0.16 標準偏差 0.002 0.023 0.133 1.029 t値 0.686 1.621 2.803 2.112 P値 0.495 0.109 0.006 0.038 a1 b1 c1 d1 決定係数 係数 0 0.213 0.77 3.494 0.45 標準偏差 0.002 0.081 0.173 1.678 t値 -0.401 2.625 4.443 2.082 P値 0.69 0.012 0 0.044 a2 b2 c2 d2 決定係数 係数 0.003 0.021 -0.028 0.861 0.017 標準偏差 0.002 0.085 0.178 1.162 t値 1.201 0.247 -0.158 0.741 P値 0.238 0.806 0.876 0.464 較的安定的な関係を持っているが、時期に よっては小型株とも強い動きを持ち、その なかで独自の動きを強めつつあるといえま す。この背景には投資家行動の変化、投資 家層が変化したということがあるようです。 J-REITは株式では何に似ているのか? 昨年 3 月と 5 月に、J-REIT先行2社の決算 発表がありました。それ以後、投資家の評 つの動きによってどれだけJ-REITのリター 価は変わったそうです。その理由は、最初 ンを説明できるか調べます。アミカケの部 はJ-REITがどのようなものかよくわからな 分が優位な値が出た部分です。cは小型株特 かった。本当にミドルリスク・ミドルリタ 有の影響を表し、dは債券に特有の影響を表 ーンであるのか疑義の念が大きかった。し します。これからは、東証2部の小型株およ かし決算を迎え投資家の納得を得ることが び債券にもJ-REITの動きは類似するところ でき、かつ、他の資産との違いを認識して があるといえます。 もらったということです。 ただし全体の決定係数は小さく、0.16と また長期金利が下落し、株価も下落して なります。よって、株式市場、小型株、債 いる環境下で、利回り狙いやインカム狙い 権の動きで説明できるJ-REITリターンは の地銀、年金等の購入が増加してきた。そ 16%しかなく、確かに影響を与えているの ういう意味で購買者の中身が変わってきた。 だが、関係は限定的であるといえます。J- それがJ-REITの独自の動きを増加させてき REITにはJ-REIT独自の動きがあるというこ た理由かと思われます。 とです。 では、株式ではJ-REITは何に似ているで またそれらの関係は02年 6 月を境に大き しょうか。J-REITは不動産株と似ているか く異なります。それ以前は、小型、債券の ら不動産株の動きと似ているのかと思う人 動きに加え株式市場の影響まで有意であり、 もいるかもしれませんが、実際は全く違い 決定係数も非常に大きいものでした。02年 ます。高配当利回り・安定性がJ-REITの特 6 月以前は図からもわかるように、株式市 徴ですが、これと同じ特徴を持つ株式で典 場の動きにつられてJ-REITの動きも決まっ 型的なものが電力・ガス関係です。J-REIT ています。しかし、それ以降は、他に優位 のリターンとの相関が高いという株式を探 July-August. 2003 37 すと、こういった株式がトップに出てくる のです。 いポジティブの関係を持っているのです。 図表11 J-REITと電力・ガス株式 J-REITインデックスと相関が高い株式を .06 並べると、高利回り・低β株、なかでも公 .04 益電力ガス関係がトップに躍り出るという .02 関係が見られます(図表10) 。 .00 -.02 図表10 J-REITとの相関の変化: 高配当利回り・低ベータ株式 01年9月∼02年6月 電力・ガス 医薬品 食料品 石油・石炭 -0.100 -0.094 0.037 0.113 保険 水産・農林 繊維 建設 0.360 0.277 0.079 0.083 倉庫関連 海運 パルプ・紙 0.316 0.206 0.030 TOPIX 野村BPI 0.276 0.217 -.04 01年7月∼03年3月 増加 TOPIXとの 相対比増加 減少 電力・ガス 医薬品 食料品 石油・石炭 0.189 0.046 0.163 0.125 保険 水産・農林 繊維 建設 0.145 0.086 0.036 0.012 倉庫関連 海運 パルプ・紙 0.020 -0.015 -0.024 TOPIX 野村BPI 0.034 0.123 02年08月 J-REIT 02年12月 電力・ガス 03年03月 TOPIX これは前半でも似た関係が見られました。 よって、同じデフェンシブと思っていても、 J-REITのリターンの特性は、電力・ガス株 式とリターンの特性は若干異なります。一 方、債券との連動性はTOPIXの動きに関わ 次に、J-REITの相関が02年 6 月の前後で らず変わらない。よく言われていることで どう変わったかという関係を見てみます。 すが、他に参入した投資家層である年金や 後半には、株式市場全体としての相関はか 地銀、またJ-REITと電力・ガス関係との流 なり下がりましたが、高配当利回り・低β 動性の違いを考えると、J-REITはインカム 株式のなかには、これとは逆に相関が上昇 狙いで購入されていると考えられます。最 したものが 4 つあります。 初は株と混同していたが、だんだん特性を これがJ-REITに対する考え方と思われま す。すなわち、全体の相関が下落するなか 38 -.06 理解して、インカムを考えながら購入され ているのではないかと思われるわけです。 で、高配当利回り、低βとの株価の相関が 最後にもう一つ。異時点間の波及効果を 上昇しているのは、J-REITの高配当利回り、 見てみます。こういうことを分析するのに、 景気との低相関性という特質が評価され始 VARという手法がマクロ経済学で使われる めた証拠が表れたものと解釈できます。 のですが、それを利用して検証してみます。 次の図(図表11)でさらに詳しく見てみま 一期前の変動が各々のリターンに対してど す。これは02年 6 月以降のJ-REITの週次の ういう影響を与えているかを見てみるわけ リターンと電力・ガス株式との週次のリタ です(図表12) 。 ーンとを比較したものです。TOPIXが下が そうしますと、ここでも02年 6 月を境に った時、デフェンシブならば買われるわけ 明らかな違いが出ています。まず、02年 6 です。では、上がった時はどうかなといい 月までのグラフ上の青い実線をご覧下さい。 ますと、面白いことに、TOPIXが下がった TOPIX自身に何か変動があったとすれば、 時のJ-REITと電力・ガス株との相関はネガ 1期後にJ-REITにこれだけの影響を与えま ティブ、反対にTOPIXが上がった時には強 すという意味です。1 期後にJ-REITに ファイナンス手法を用いたREIT商品特性分析 図表12 各資産のリターン変動の J-REITリターンへの波及 01年9月∼02年6月 .0 2 0 .0 1 6 .0 1 6 .0 1 2 .0 1 2 特別講演 れていました。データは待てば蓄積されま すので、データの蓄積を待ちつつ今後も研 02年7月∼03年3月 究をしていきたいと思っています。 .0 0 8 今回の研究はすべて投資家の立場から見 .0 0 8 .0 0 4 .0 0 4 た話であって、サプライサイドつまりファ .0 0 0 .0 0 0 -.0 0 4 1 2 3 J-REIT 4 5 -.0 0 4 6 1 TOPIX 2 BPI 3 4 5 6 UTILITY ンダメンタルズとJ-REITリターンの関係を 調べることができませんでした。その理由 TOPIXの変動が波及する大きさは優位にあ は、データの制約です。ファンダメンタル った。02年 6 月まではTOPIXが動いたらJ- 分析には不動産インデックス等のデータが REITのリターンも波及効果として動いてい 必要ですが、それらはいちばん細かいもの たことが確かめられます。02年 6 月までの でも月次データです。ところが今回利用で 場合、債券や電力・ガス銘柄の影響は優位 きるリターンの月次データはサンプル数が にならずに、株式市場が動くなかで株のよ 少な過ぎ、統計的に適切な性質を保証でき うに取り引きされていたと言えます。 ません。そのため、今回のデータでは、月 ところが、02年 7 月以降に投資家の理解 が進んだことで、この波及効果の出方が全 次データを利用した回帰によって統計的に 意味のある分析は行えません。 く違ってきました。TOPIXが動いたからJ- しかしながら今後は非常に重要となるで REITが動くことはあまり観察されなくな しょうし、それ以外に議論されている問題、 り、逆に債券、電力・ガス株式の波及効果 たとえば外部委託のエイジェンシーの問題、 は優位に出てきました。そういう意味でJ- スポンサー企業のレピュテーション効果の REITの特性に関する、理解のされ方が波及 問題、投資家層の変化が与えるリターンへ 効果を含めてずいぶん変わってきたと思わ の影響や、実物不動産とJ-REITの関係や個 れます。 別銘柄のリターン特性との関係、J-REITに 以上、週次データによって得られた結果 は、02年 6 月以前はJ-REITの変動は株式市 場に引きずられていたが、それ以降になっ インフレヘッジ機能があるのかという問題 も重要になります。 データの蓄積によって理解を進めていく、 て高配当利回り、景気に対する低変動性、 それによってJ-REIT市場の投資も行いやす 景気に対するデフェンシブの特性が評価さ くなりますし、理解も広まります。それが れ、その結果電力ガスとの相関が強く出て 投資家のためになりますし、市場の発展を きました。そういう意味ではJ-REITの特性 支えていくことにもなります。そういう意 に関する理解が広まってきたと考えられます。 味で基盤づくりは重要です。これからも皆 様にお力をいただければと思います。 終わりに ご清聴ありがとうございました。 今回の分析では、データが大きく制約さ July-August. 2003 39 ARES SYMPOSIUM 2003 パネルディスカッション ● コ ー デ ィ ネ ー タ ー ● パ ネ リ ス ト 沖野 登史彦(おきの・としひこ)UBS証券会社 株式調査部シニアアナリスト 東京大学経済学部卒業。経営コンサルタント会社勤務、不動産会社勤務を経て、1993年スミス・ ニュース・コート証券会社入社、証券アナリストとして勤務。その後、ドレスナー・クラインオ ート・ベンソン証券会社、シュローダー証券会社を経て、98年10月UBS証券会社入社。 大村 敬一(おおむら・けいいち)早稲田大学商学部 教授 1972年慶應義塾大学商学部卒業。81年慶應義塾大学経済学研究科博士課程修了。法政大学経済 学部助教授、マサチューセッツ工科大学スローンスクール客員研究員(日米友好基金)等を経て、 2001年内閣府官房審議官経済財政景気判断・政策分析担当に。97年より現職。ファイナンス理 論と実証分析が研究分野。具体的な研究テーマはオプション、マーケットマイクロストラクチャー、 コーポレートファイナンス理論モデルの研究とわが国市場での実証分析。著書に「株式市場のマ イクロストラクチャー」(共著、日本経済新聞社、日経経済図書文化賞受賞)、「現代ファイナン ス」(有斐閣)、「証券投資理論入門」(共著、日本経済新聞社)など多数。 小林 憲司 (こばやし・けんじ)新日本アーンストアンドヤング株式会社取締役 公認会計士/米国公認会計士 現在コーポレートファイナンス部の責任者として、企業価値・債権評価、事業フィージビリティ ースタディー、リスク分析、財務リストラクチャリングなどのアドバイザリーサービスを推進。 貸付債権売却のアドバイザリーサービスおよびM&Aにて数々の実績を残している。アドバイスし た取引の代表的なものは、大手信託銀行部門の売却、大手証券会社ノンバンクの外資系投資家へ の売却等がある。その他にも、米国にて法人、個人、パートナーシップの税務申告に携わった経 験を有する。 深尾 光洋(ふかお・みつひろ)慶應義塾大学商学部 教授 日本経済研究センター主任研究員 1974年京都大学工学部卒業後、日本銀行入行。81年ミシガン大学Ph.D.(経済学)取得後、日 本銀行金融研究局(現・金融研究所)に。83年経済企画庁調査局、85年O.E.C.D.経済統計総局 金融財政政策課エコノミスト、87年日本銀行金融研究所調査役、89年同行外国局調査役、91 年O.E.C.D.経済局 通貨金融課シニア・エコノミスト、94年日本銀行調査統計局企画調査課長、 96年同行調査統計局参事を経て、97年慶應義塾大学商学部教授に。著書に「為替レートと金融 市場」(東洋経済新報社・日経経済図書文化賞受賞)、「企業ガバナンス構造の国際比較」(日 本経済新聞社・森田泰子氏との共著)、「生保危機の真実」(東洋経済新報社・日本経済研究セ ンターとの共編著)など多数。 山内 正教(やまうち・まさのり)グローバル・アライアンス・リアルティ株式会社 代表取締役社長 1952年生まれ。東京工業大学大学院、米マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院卒業。86年 明治生命保険入社。88年よりニューヨーク事務所副所長として米国不動産投資に従事した後、9 5年に帰国、以後は国内不動産投資に従事。同社不動産投資部長を経て2002年より現職。著書 に「不動産投資理論入門」(シグマベイスキャピタル、2000年)、「考察 不動産投資として のビル事業」(住宅新報社、2002年)がある。 40 い状況です。この現象の最大の要因は「デ フレギャップ」にあります。 デフレを止められるのか? 次に図表 2 をご覧ください。実線がGDP 沖野:本日のパネルディスカッションのテ デフレーターのデフレ率です。94年にマイ ーマは「日本経済の現状と不動産市場の行 ナスになってから、最近は 2 %強で物価が 方」です。 下がり続けています。日本経済全体の稼働 まず最初に深尾先生から、今の日本経済 率にあたる指標が「GDPギャップ」ですが、 の抱える大きな問題であるデフレについて、 92年以降デフレギャップが続いています。 お話しをいただきたいと思います。 デフレギャップは人や生産設備が余ってい 深尾:ご指名ですので、日本経済の抱える る状況です。人が余ると失業率が増加し、 マクロ的な現状についてお話ししたいと思 職探しをあきらめたりする人が多くなり、 います。 賃金は下がることになります。設備の稼働 デフレの深刻さですが、図表 1 をご覧下 率が低いと商業用不動産ではテナントに入 さい。日本経済全体の物価指数であるGDP らない。ホテルには人が泊まらない。飛行 デフレーターは、ピークの1994年から約 機では席が空いている、工場では生産設備 10 %低落しています。今年の1-3月には前年 が余っているということが起こります。こ 比 3.5 %低下しており、少しならしてみても のような状況では、平均的に見ると賃金と 2.5 %前後のペースで下落が続いている厳し 物価が下がることになります。 図表1 GDPデフレーターで見た物価水準 図表2 GDPギャップとデフレ (%) (指数) 40 . 105 GDPデフレーターデフレ率 (3期移動平均後前期比年率) GDPデフレーターの 原数値 100 20 . 95 00 . 90 消費税の影響除去後の GDPデフレーター 85 -20 . GDPギャップ -40 . 80 75 1981 85 90 95 2000 -60 . 1985 90 95 2000 July-August. 2003 41 このGDPギャップの大きさは 5 ∼ 6 %程度 となっており、金額にして30兆円近いと思 下落ペースに合わせて借金を返していって、 初めて格付けが維持できることになる。 われます。デフレが進行すると、企業の売 つまり一言で言うと、 「実質金利を見ない り上げが減少していくため、不良債権問題 と収益は見えない」ということです。見か も徐々に悪化します。 けの金利だけで、内部の利益計算をしてい ある大手電機会社の方から、内部の各部 れば、自分自身の収益を見誤ることになり 門の収益管理のための金利に、どのような ます。デフレで売上単価が下がっていく状 数字を使ったらよいのかと聞かれたことが 況では、企業の信用状態は悪化し、貸し倒 あります。その会社では、社内の管理上の れで銀行の収益は赤字傾向が続きます。最 金利として、会社全体の平均借入金利を賦 近の決算発表でも、大手行では兆単位の赤 課していると話されました。たぶん1.5∼ 字というのはご存知のとおりです。これは 2 %程度の金利だと思われます。この金利 最近始まったわけでもない。 を払ったうえで、各部門の会計上の収益が 図表 3 をご覧下さい。日本の全国銀行の トントンだったとしましょう。この場合で 利益について、全銀協の発表している財務 も、売上単価が年率 4 %程度で低下してい 諸表の収益部分をわかりやすく組み替えた るため、売上金額は減少しています。この 表です。2001年の資金運用差益 (A) の 9. 8 兆 ため、会計上の収益がトントンでも、売り 円というのが、受取利息配当から支払利息 上げに対比した 借入負担は上昇 し、会社の財務 体質は脆弱にな 図表3 全国銀行の収益構造 (兆円) 年 度 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 資金運用差益(A) . 97 . 108 . 107 . 100 . 96 . 97 . 94 . 98 . 75 . 71 . 89 . 98 . 92 その他差益(B) . 21 . 33 . 37 . 36 . 31 . 25 . 30 . 31 . 25 . 26 . 22 . 25 . 28 営業経費(C) . 78 . 78 . 80 . 80 . 75 . 73 . 71 . 70 . 66 . 71 . 75 . 77 . 77 っていきます。 言い換えれば、 会計上の収益が ゼロでも、この 会社の格付けは 下がっていくこ とになります。 表面上収益ゼ ロでも会社の財 務体質が悪化す うち人件費 粗利益(D)= (A)+(B)-(C) . 40 . 63 . 64 . 56 . 52 . 49 . 53 . 59 . 33 . 26 . 35 . 45 . 43 償却額(E) . 62 . 133 . 73 . 135 . 135 . 63 . 66 . 94 . 14 . 08 . 10 . 20 . 46 業務損益(F)= (D)-(E) . -22 . -70 . -10 . -79 . -83 . -14 . -13 . -35 . 19 . 18 . 25 . 25 . -04 資産処分差益(G) . 32 . 44 . 12 . 36 . 14 . 38 . 14 . -24 . 28 . 20 . 07 . 00 . 20 最終損益(F)+(G) . 10 . -26 . 02 . -42 . -69 . 23 . 01 . -59 . 47 . 38 . 33 . 25 . 17 るのであれば、 実質赤字という ことです。この ように考えます と、売上単価の 42 . 40 . 40 . 40 . 40 . 36 . 35 . 34 . 32 . 35 . 37 . 39 . 40 . 40 総資産末残 9436 . 9276 . 9144 . 8595 . 8498 . 8450 . 8482 . 8560 . 8480 . 7597 . 7372 . 8043 . 7720 . (1) 93年以降ずっと実質赤字 (2)利鞘の改善には金利引き上げが必要 (3)金利を引き上げると、貸出先がもたない。 を引いたものです。それに その他差益3.1兆円(手数料、 債権や為替のデーリングの 儲け等)を合計しますと13 兆円の収入がある。そこか ら経費を除くと粗利益 5.9 兆円。これはほぼ業務純益 にあたります。 問題はその下の不良債権 償却額9.4兆円。粗利益と償 却額を比較していただくと 93年度以降、業務損益はず っと赤字です。銀行は10年間、毎年赤字を しかし、貸出先はデフレで売り上げが減 続けています。業務純益は何兆円も上げて っている状況では、その実現は困難です。 いるが、不良債権の処理損の方がもっと大 大企業向けの貸出金利は上げることはでき きい。実質赤字の下で巨額の繰延税金資産 ません。貸出金利を上げれば、資本市場に を計上して、見せかけの資本を維持してい 逃げてしまうからです。中小中堅企業向け るというのが実態です。 の貸出金利を1.5 ∼ 2 %引き上げて、5 兆円 りそな銀行に 2 兆円の資本注入が行われ の利益を中小企業から銀行部門へ移してや ますが、これはむしろ「補助金」と名前を付 れば銀行はやっていけるのですが、現状で けるべきです。現状では、銀行に巨額の資 はその実現は無理です。銀行部門の不良債 本注入をしても、不良債権処理による赤字 権を全部なくし、資本を注入し直して、銀 のため数年で食いつぶしてしまうのが実情 行をピカピカにしても現状の貸出金利では です。銀行部門全体に対して、年間 3 ∼ 4 やっていけない。不良債権問題の元凶であ 兆円くらいの補助金を与え続ければ現状の る「デフレ」を止めないことにはどうしよう デフレでもやっていけるでしょう。言い換 もない。 えれば、現状のデフレでは不良債権の処理 では、どうやったら「デフレ」を止められ 損が大きすぎて、業務純益ではカバーでき るか。現在の状況では、日銀が物価上昇率 ないのです。 のターゲットを設けて、TOPIX連動の上場 銀行部門が自らの足で立つためには、貸 投資信託やREITを大量に買い取ることが考 出金利を平均で 1 %上げる必要がある。利 えられる。しかし、これでもデフレは止ま ざやを拡大して 5 兆円くらい業務純益を増 らない可能性がある。一般物価が下がり続 やせば、不良債権の処理が毎年ちゃんとで ければ、日銀が一時的に株式を買い支えし きる状態になる。こうなれば不良債権処理 ても企業収益が改善しなければ株価は下が をしても利益が計上できるため、株価が上 るからです。 がって増資できることになります。 このように考えますと、最後の手段とし July-August. 2003 43 大村:今のマクロの状態ですが、実質GDP の1-3月期は 0 %成長と横ばい状態です。中 身は内需と外需が拮抗しています。これま で、日本は外需にひっぱられていました。 輸出が好調で、いろいろと言いつつも結局 はアメリカ頼みでしたが、その一方で、消 費がよく耐えてきたといえます。 しかし、イラク戦争も一つの原因ですが、 沖野 登史彦 最近は米国向け輸出が伸び悩んでいます。 世界的なデフレ傾向があって、ヨーロッパ も輸出相手として小さくなっている状況で て金融資産の残高に課税して、実質的にマ す。そのなかで、アジア向け輸出に急速に イナス金利を生み出すことが必要ではない シフトしながら、生産が持ち直している構 かと思います。 図になってきました。それによって、外需 現在の状況は、国民が不動産、株式を売 頼みで生産が持ち直す一方、国内では企業 って、現金・預金・国債を買う資産シフト が財務リストラをして利益を上げ、設備投 が行われています。国債金利が10年債で 資にギアがかかるのを待つというシナリオ 0.5%、30年債で 1 %というのは国債バブル でした。 です。若干のプラスのインフレになれば長 また、デフレについてもいつかは収まる 期金利が 4 %台になるのは当然ですから、 と考えていたわけです。だから、政府はデ そうなりますと10年国債が 4 割くらい値下 フレスパイラルを認めていなかったし、デ がります。その値下がりリスクがありなが フレスパイラルとは口が裂けてもいえなか ら、金利がわずか0.5%でも買う人がいると ったわけです。 いうのは国債バブルです。バブルがあまり しかし、最近は外需が弱くなってきてい に大きくなる前にバブルをつぶす必要があ るのに対して、今回の 3 月期決算では消費 ります。 が底堅い傾向が出ている。消費性向も上が 政府が保証するすべての金融資産にデフ っている。ただ、これは雇用者所得が下が レ率+αで課税する。これで実質的なマイ っていることが効いています。消費につい ナス金利を達成して、景気刺激を行う必要 ては、高級ブランドは売れているが、もう があると思います。 一方は売れていないという二極化が起こっ ていると思われます。デバートでもデパ地 マクロ経済の現状 下は売れているがそれ以外は売れていない。 売れる場所や商品が限定されています。 44 沖野:続いて大村先生から、現在の景気の しかし、消費の好調は、あくまで統計上 サイクルおよびマクロ経済の現状について のことに過ぎない可能性があります。基礎 おうかがいしたいと思います。 となっている「家計調査」はサンプルが少な く、きわめてあてにならないものです。 「消 費が底堅い」というのは、実感とは違うと 私は思っています。 さて、設備投資はギアチェンジがかかり、 回復の兆しだったのですが、なかなかギア がひっかからない。底は打ったが、底にく っついたまま上がらないという傾向にあり ます。生産も山を打って、ついにピークア ウトしそうな気配です。内需においては、 大村 敬一 企業も今ひとつ迷っていて、輸出がこの先 もっと上がるなら設備投資を拡大するが、 不透明なので稼働率を上げて対応している 変わる会計制度の観点から、不良債権問題 ということでしょう。 をどうみるかについてもお話しいただけれ アメリカの消費は強く、イラク戦争も短 ばと思います。 期決戦で終わったし、住宅価格もバブル気 小林:会計制度では時価会計の導入が一貫 味で消費を支えています。心配なのは50% したテーマです。 程度をアジアに依存していることで、中国 販売用不動産の時価評価および金融商品 のSARSの影響がどれくらい出ているかが 会計の導入などで、資産サイドにおける時 心配です。SARSの影響によってアジアで 価評価が定着しつつあります。残された論 1 %程度落ちることが予想され、 そうすると 点は固定資産の減損会計の導入です。これ 日本に0.4%の影響があるといわれています。 は2006年 3 月に適用の義務付けということ デフレの方では、企業物価、消費者物価 で進んでいますが、固定資産については、 とも落ち込んでいます。原油価格と医療費 バブル崩壊後の不動産の値下がりの影響が は上がっていますが、これは一時的な現象 あまりにも大きいという見方もありまして、 です。 導入を延期したらどうかという議論もあり 今までは嵐が止むまで耐えればよいとい ます。 う感じでしたが、積極的なデフレ対策をと 私見ですが、減損会計の導入について延 らないと、待っているだけではもう始まら 長すべきという意見は、あまり筋の良い話 ないという状況かと考えます。 ではないと思っています。なぜかといいま すと、減損会計導入を心配する企業はかな 変わり行く会計制度 り財務が傷んでいるわけですが、銀行など の金融機関は実態バランスシートを作成し、 沖野:次に小林さんに、別の視点からお話 常にそのような企業をウォッチしている状 をうかがいます。ここ数年で大きく変化し 況です。したがって、今さら減損会計を延 たのは会計制度です。そこで最近の会計制 期しても、金融機関の行動に変化があるわ 度変更の論点を整理していただき、さらに、 けではなく、企業サイドにおいて問題を長 July-August. 2003 45 引かせることに過ぎないということになる ためです。 やっかいな問題といえるでしょう。 金融機関の方に話を聞くと、金融庁主導 一方、負債サイドでは年金債務について の厳しい査定によって、バランスシートは 見直しが進み、年金債務の現在価値を計算 かなりきれいになったといわれています する手法でBS計上額を計算することになり が、今後銀行が黒字決算を出せるか否かは ました。これについても、それまでの引当 日本経済の分かれ道になるのではないでし 金との差額の償却については10年償却か15 ょうか。 年償却かと、体力に応じて企業の対応はま ちまちです。 こういった状況下で、負の遺産は早く出し 銀行はすでに体力を使い果たし、これ以 上赤字決算は出せない状況に追い込まれて います。ここで踏みとどまって実態経済が 切って、V字回復をねらうのが欧米流の対処 回復し、債務者の状況が改善してくれば、 方法かと思いますが、そこで問題になるの 薄日が差してくるような気がしますが、こ が債権者である金融機関の対応です。 れからもさらに銀行の貸し倒れの償却が多 ロスを出して、膿を出し切ることに対し て、はたして金融が支援できるかという時 額に発生するようですと国際社会からの信 頼も失われる気がします。 に、メインを含め銀行にはもう体力が残っ ていないということが日本における問題だ 金融商品となった不動産 と感じています。 りそな問題では、銀行の体力不足が図ら 沖野:次に、本日のパネラーのなかで唯一 ずも露呈しました。現在は銀行監査におけ 不動産業界から出席していただいている山 る繰延税金資産がクローズアップされてい 内さんにおうかがいします。バブル景気が ますが、先ほど深尾先生から説明があった 終わって10年以上が経過して、不動産市場 ように、貸付金の償却と業務純益とのバラ がどのように変化しているか、またその背 ンスこそが重要で、今の貸倒引当金が適正 景についてお話しいただけますでしょうか。 な水準に達しているか否かが、まさに問わ 山内:不況が長期化し、企業が借金を返し れているのではないでしょうか。 ていくしか格付けを維持できないというな 金融庁が昨年10月に公表した金融再生プ かで、保有不動産を売って現金化して借金 ログラムですが、DCF法の適用をはじめと を返すという動きが出てきています。これ する貸付債権の厳格査定自体は、正しい方 は、非常に大きな影響を不動産市場に与え 向だと思います。しかし、厳格査定を行う ました。多くの企業が不動産を売ったので、 ことが、借入金の返済につながって、それ オフィスビルでも中古不動産の売買マーケ がデフレ圧力を生むという流れが一方であ ットが初めてできたわけです。 り、問題を複雑化させているといえます。 46 今まで不動産投資を長くやってきた人の ミクロ的には厳格査定で資産の適正な評価 感覚では、マーケットというものは存在せ を行うことが正しいのですが、マクロ的に ず、不動産は一度開発すれば未来永劫に保 はデフレ圧力になる。これは非常に根深く 有するというのが普通でした。しかし、投 資である以上、収益還元的に評価する必要 があるため、30年という長い期間で収益分 析をしたのです。 実際、不動産が売られるようになって、 相場ができてきて、ある程度の中古の既稼 動不動産の売買マーケットができた。今ま では、不動産を自分で開発しても売る方法 がなかったが、将来売るという前提で不動 産を取得できるようになった。これは画期 山内 正教 的な変化を不動産投資に与えたと思います。 つまり、不動産が金融商品であるための条 件を満たし始めたということです。 から、出口があることを認識しなければな 金融商品であるためには、収益があって らないのです。その一方で、出口があるこ 出口があることが必要です。昔は出口とい とを安易に考えている人もあるというマイ う概念はなく収益だけだった。収益があり、 ナス面も出てきています。出口とは、不動 出口ができて金融商品としての形態を不動産 産が何年後に再売却できるかどうかという が持つことになったわけです。 ことです。個別の不動産に果たして出口が ここで、不動産に対して金融商品的な見 方と金融商品的なケアをしていかねばなら あるかどうかが、今後は重要な問題になる だろうと思います。 なくなりました。これがいわゆる「アセット マネジメント」です。その目的は収益の最大 不良債権処理はどうなったのか? 化といわれますが、金融商品の要件は収益 の大きさと安定性です。裏返せばリスクで 沖野:ところで現在の日本経済の低迷の最 すが、両方とも扱うのが「アセットマネジメ 大の要因は不良債権問題であり、不良債権 ント」です。 処理の遅れこそが景気回復を遅らせている 残念ながら、こういう感覚が染み通って という見方もあります。深尾先生、実際に いないのが現状です。今後この流れは、急 そうなのでしょうか。 速に発展していくとは思いますが、不動産 深尾:不良債権処理の遅れが景気回復を遅 鑑定評価でも不動産の価値評価でもDCFで らせているのかという問題ですが、確かに やるということになったものの、まだDCF ゾンビ企業が淘汰されず、価格競争が続い が浸透していないという懸念はあります。 てデフレが悪化しているという側面があり 鑑定をしている方に、早くDCFを飲み込ん ます。 でもらわないと、実際的には不動産投資全 企業数や過剰な設備を削減する観点から 体に良い影響を与えないのではないかと危 は、そのとおりなのですが、ダメな企業を 惧しています。 淘汰すると今度は人が余ります。そうなれ とにかく今の不動産は出口があるのです ば職を探す人が増え、賃金は低くなりデフ July-August. 2003 47 な銀行より大きな銀行ならば、必ず国有化 されて預金は全額保護されるだろうと予想 されるようになります。ペイオフによる銀 行の破綻処理が予想されなければ、銀行預 金、当座預金にしておけば安全なわけで、 こういう状況では金融危機は起きない。銀 行もあまり心配もしていないので、 「貸し剥 がし」も起きないでしょう。 深尾 光洋 仮に不良債権を全部処理し、資本を注入 して銀行をピカピカにしたとしても、新規 の貸し出しをどんどんするかというと、私 レはむしろ悪化します。要するに赤字の会 はしないと思います。その例として、シテ 社を淘汰してもデフレは止まらないという ィバンクの例がある。 ことです。 日銀がよく「金融政策のパイプが詰まっ すが、日本の小口金融も住宅金融も撤退す ているから、金融政策が効かない」といい ると言っています。現在の金利水準では利 ます。これは必ずしも正しくない。97∼98 益が出ないので、貸さないわけです。貸倒 年のクレジットクランチでは、銀行が不安 損失の確率の高いところには貸さずに利ザ 定になって、自分自身の流動性が不安で仕 ヤのあるところしか貸さないのです。 方ないため、貸し渋りでなく「貸し剥がし」 、 シティバンクは日本ではあまり貸し出し つまり貸出回収競争をやったわけです。当 をせずに、外貨に換えて外国で運用します。 時、ある都銀の貸出担当の人に聞いたこと 日本でお金を集めて、海外で貸し出すので、預 ですが、その銀行ではトップから、 「98年の 金を集めても大丈夫なわけです。 最初の 3 カ月で貸出残高を 7 %減らせ。新 仮に銀行をピカピカにしても、貸出金利 規貸し出しは全部ストップして回収できる を引き上げる方向に働いて、金融は締まる ところはどこでも回収しろ」と言われたと 方向へ進む可能性が高い。クレジットクラ いうのです。これは「貸し剥がし」ですから、 ンチを起こしてはいけないが、銀行の不良 景気は悪化するわけです。 債権問題をきれいにしてもデフレは止まる このように金融不安を取り除いて銀行を かというと、それは間違いだと考えます。 安定させないと、クレジットクランチが発 沖野:金融政策だけではダメで財政政策を 生することは事実です。しかし、現在は、 やれという話もありますが、すでに国の借 流動性預金は全額保護、定期性預金は1,000 金は大きく、どこまで財政が悪化するのか、 万円まで保護ですので、銀行の信用がなく 先が見えない状況です。一方、金融システ なっても預金はあまり逃げていきません。 ムの構造改革は進んでいるのでしょうか? 経営が悪化すると、りそな銀行でも公的 資本の注入で実質的に国有化される。りそ 48 シティバンクは不良債権問題もないので 大村先生、このあたりはいかがでしょうか。 大村:財政も深刻な問題ですが、国民が意 識していないようです。1,400兆円の多くが 国内で還流しているので、症状が出てきて いませんが、実際、国の財政問題が深刻化 すれば、当然ながら資金は海外に出ていく ことになるわけです。そうなれば大変です が、日本では家計が鈍感で、暗黙の税金を 払っているわけです。 不良債権問題については景気も一つの原 因ですが、金融システムの問題でもありま 小林 憲司 す。銀行によるファイナンスは相対型です ので追い貸しをしやすく、いったん顧客関 係を持つと貸付先と一緒に悪くなる傾向を しろ好ましいことだと思った方がよいのか 持ちます。何かあった時にその場でクール もしれません。過剰な銀行を整理する条件 に関係を絶たないで、将来に「延期オプシ が整ったと考えるべきでしょう。相対型の ョン」をかけがちです。そうすると「追い貸 間接金融に偏重した日本の金融システムを し」の傾向が出てしまうのです。 変えなければいけない時期にあります。そ 大口の貸付先の場合に、ダメージが大き ういう意味で銀行が悪いのは必然であり、 いので追い貸しが生じやすいといわれます 金融システムを改革する絶好のチャンスだ が、小口の零細企業に対してもその傾向が と思うのです。よく銀行を救済しないと、 あります。銀行は冷酷といわれますが、必 同時に中小企業もつぶれてしまうという人 ずしもそうではなくて、かなり貸し込んで がいますが、それは妄想です。 いく傾向があるのです。 今の 2 ∼ 3 兆円はひと昔前の2,000∼3,000 倒産した中小企業の過去 5 年の財務デー 億円の感覚で、ちょいと入れられるといっ タを調べてみると、債務が増え続けていっ た安易になる傾向があります。日本の(個別 て倒れたことがわかりました。銀行がだん の銀行ではなく)金融システムが危機下にあ だんと関係を整理していく過程でつぶれる ると言っているのであって、なぜ個別の金 のではなく、最後まで可能性を追求し、引 融機関を助ける必要があるのかという問題 くに引けない状況まで行ってバタッと倒れ も残ります。 るという傾向のあることがはっきりしまし 「日本の銀行を再生させるにはどうしたら た。これは相対型金融の特徴です。直接、取 よいのですか?」とマスコミに聞かれるこ 引相手の顔を見てしまうので、相手の生命 とがあるのですが、そのような時、私は 維持装置を外すことができない。 「あそこは 「再生しなくてもよいじゃないですか」と言 冷酷な銀行だ」といわれると担当者も困る。 それは長所でもありますが、欠点でもある のです。 現在、銀行経営が悪化しているのは、む うのでびっくりされます。 りそな銀行は合併前も含めれば過去 3 回 も資本注入しています。これもりそな銀行 を助けないで、被害をいかに抑えるかを考 July-August. 2003 49 えるべきです。過去の注入はすべてパーに り除き、引き当てをしっかりやっても、資 なっているのです。健全な銀行だから資金 本が足りないところには資本注入するとい 注入しますと言い、フォローアップの度に う政策です。これをやって、金融再生する 「健全」であるかどうかは確認してきたはず かといえば、それはしないと考えます。デ です。3 回も風邪をひけば健全ではないと 思う方が自然で、普通は結核か肺炎かと診 断すべきです。 金融再生のやり方として、資本的基盤を しっかりしたうえで、オーバーバンキング 金融行政は銀行に偏重し過ぎであり、銀 を是正すればよいという考え方もあります 行に期待するのはやめた方がよいと思いま が、オーバーバンキングという言葉はあま す。主要銀行を助けないと金融システムが り好きではない。単純に銀行の数を減らし 持たないとか、地方の銀行をつぶすと地方 て、首を切ればよいということではないの 経済はどうなるんだといわれますが、拓銀 です。現状を見ると、不良債権処理に人手 がつぶれても案ずるほどの影響はなかった。 が足りず、リテールの人数も店舗数も足り こういう状況下で、主要銀行は合併差益 ない。銀行にはリテールをするには不都合 を取るための合併、皮下脂肪を増やすだけ な大きな店舗が過剰にある反面、小回りの の合併をしているだけです。中身は効率性 利くコンビニのような店舗や、そこで働く が悪いのだけれども、山小屋で生き延びる 人はもっと必要です。コンピュータ投資も には太っている方がよいという論理で動い やらねばならない。しっかりしたリテール ている。しかし、それではいざ嵐が止んで をするには金も人もいるというのが現状で も役に立たない銀行になってしまう。金融 す。今ある銀行の人ではうまくいかないと 機関ありきの発想はやめた方がよい。 いうことです。銀行のやるべきことをしっ 不動産の証券化も、なぜ進まないかは証 券化市場の育成に力を入れていないからだ 50 フレを放置するなかでは無理なのです。 かり行った状態で、利益を上げられるよう にすればよいのです。 と考えます。証券市場の活性化といいなが 今、資本注入して経営改革してもうまく ら、結局はPKOをやっているような始末で いかないのは「デフレ」だからです。資本市 す。銀行再生に社会的なコストをかけすぎ 場を活性化すべきですが、銀行が不健全だ ています。証券市場に 2 ∼ 3 兆円投入して と資本市場も活性化しません。あるボンド いれば証券化も証券市場の活性化もどうに ディーラーの話では、日本の民間社債でポ かなったかもしれません。資源の配分が、 ートフォリオを組み、将来のデフォルト率 過去のものにとらわれすぎているのだと思 をカウントすると、利回りはマイナスにな います。 るといいます。それくらいひどい状況です。 沖野:もう一度、深尾先生にお聞きしたい なぜ低い金利で社債が流通するかというと、 と思います。金融再生プログラムの評価に 市場金利が低水準でも、低金利で銀行が貸 ついてはいかがでしょうか。 しているからです。 深尾:金融再生プログラム、いわゆる竹中 なぜ低い金利が可能かといえば、銀行が プランは、繰延税金資産を自己資本から取 赤字を出し続けても政府からお金が出るか らです。実質的には社会主 義下の銀行のようになって いるわけで、このような状 況では、資本市場もうまく いくわけはありません。 沖野:一部の議論で時価会 計は凍結しろという意見も あります。これについても う一度小林さんのお考えを お聞かせください。 小林:バブル崩壊以降、土 地の評価損、金融資産(主 に有価証券) で約1,500兆円の資産価値の下落 動化しているかどうか。山内さん、現場の があったといわれます。そのうちの1,000兆 お立場でいかがですか? 円程度は不動産の評価額の下落です。企業 山内:潜在的な需要がふくらんでいるとい 部門における保有土地残高を考えても、 えます。マーケットに具体的に出ているも 1990年の630兆円から2000年には480兆円ま のは、一級品ではなくて、二級品あるいは で落ちています。 三級品のものです。ただし、一級品も出始 土地だけで50兆円程度減損処理されると めているというのが実感です。 の新聞報道もあり、減損会計の導入により莫 沖野:深尾先生は『80年代後半の資産価格 大な損失が発生する可能性があるわけです。 のバブル発生と90年代の不況の原因』とい そこで、これを先送りしようという議論 うご著書で、土地価格についても分析して になるのですが、はたしてこの方策は機能 おられます。土地についてはどうお考えに するのでしょうか。もし今後不動産価格が なりますか?また、財政についてのコメン 回復すれば、不動産の含み損失という傷が トもお聞かせください。 小さくなるという可能性もありますが、デ 深尾:1991年頃、東京大学で土地価格のカ フレが続くというなかであれば、先送りし ンファレンスがあって、そこで議論した覚 てもっと傷が大きくなることになります。 えがあります。当時の学者の分析によれば、 現時点においてデフレは当分継続するとい 戦後の日本の不動産価格の上昇率は長期国 うことであれば、減損会計の導入は早くや 債金利を上回っていた。これは成長率の非 った方がよいと思います。 常に高い企業の株価をいかに評価するかと いう問題と同じです。当面は金利を上回る 不動産の流動化は進んでいるのか? 成長率が続いても、やがては普通の企業に なっていく。それを現在価値評価しなけれ 沖野:不良債権の担保になっているのは土 地です。減損会計の導入も控えて土地は流 ばいけません。 そうしますと、高度成長が終わり、70年 July-August. 2003 51 代初頭から80年まで、二度の石油危機で挫 政府のグロス債務は150%ですが、2007年に 折しましたが、また生き返って80年代央に 200%になると予想されます。財政がこれほ 石油価格は下がり、高い成長が続きました。 ど悪ければ、アルゼンチンならとっくに資 東京が国際金融市場になって、外国の証券 本逃避による大幅な円安と高金利が発生し 会社がどんどん来るんじゃないかなどとい て、財政は金利支払いで火の車になってし われました。 まうでしょう。日本の財政赤字は、インド 高い成長率が将来どれくらいの期間続く が財政破綻した時よりひどい状況に陥って か。20年続くか 2 年で終わるかで評価が大 います。しかし、日本国民の政府に対する きく違ってくるのです。当時は楽観論が支 信頼が厚いので、国民は安心して国債を買 配的で「東京は24時間動いているので地価 って、政府が保証する銀行預金や郵貯・簡 は 3 倍でもよい」といった議論もあった。 保を持っている。なぜ銀行預金が人気かと バブルが終わってみると、そんな高成長で いうと、デフレだから銀行預金やキャッシ はないということがわかった。しかし、90 ュを持つ方が、株式や不動産を持つよりも 年代の初めでも、また高地価に戻るだろう よいからです。現在はある意味では、不動 という期待はあった。しかし、マクロ政策 産や株を売って現金や預金を持つという逆 を誤って、本当のデフレになってしまった。 のバブルの状態です。 名目成長率がマイナス成長になる事態に陥 ってしまった。 52 日本の財政をしっかり分析しているエコ ノミストであれば、このままでは財政破綻 大村先生が財政は厳しい状況といわれま 状態に陥るのは目に見えている。これは民 したが、名目成長率はマイナス、プライマ 間のエコノミストだけでなく、内閣府や日 リーバランス (政府の利息の受け払いを除い 本銀行などのエコノミストのコンセンサス たバランス) が赤字で6.4%、一般政府のグロ です。それでも国民は安心して現金・預金 ス債務が150%、ネット債務は60%に達して を持ち続けている。 いる。しかも、これには政府の簿外債務は ですが、いつかはこの逆バブルは破裂し 入っていない。たとえば道路公団、本四架 ます。政府の信用が失墜して、現金・預金 橋などの政府関連機関の債務は、一般政府 から不動産や外貨、株式への逆方向の流れ の統計に含まれていない。政府が銀行預金 がいつかは発生する。しかし、これがどの を保証していますから、銀行が損失を累積 時点で発生するかを予想するのはきわめて すると、預金の保証コストも将来発生する 難しい。資本逃避は、われわれ日本の国民 と予想されますが、マクロの政府債務の統 が、資金を円から外貨にシフトし始める時 計には含まれていない。 に起こります。 プライマリーバランスの6.4%の赤字と政 政府に対する信用が失われた時に、政府 府のネット利払いの1.5%を足すとGDP比約 が市場の信頼を取り戻すためには、消費税 8 %の赤字が発生している。しかも名目成 を 3 年で 3 倍にするほどの大幅な増税をや 長率がマイナスですから、負債GDP比率は らねばならない。それができなければ、非 年率10ポイント近く増加する。現在、一般 常に危険な状態になります。ただし、仮に 財政が破綻状態になっても、日本経済が終 よく見ておられると思いますが、土地につ わりになるのでなく、その後にはロシア型 いてどのようにお考えですか。 の回復が見込めるのではないかというのが 小林:私がよく目にする物件は不良債権の 私の見方です。 担保資産などが多く、相対的に良くない不 沖野:山内さんにもう一度土地のお話をお 動産が多くなっています。そういった物件 うかがいしたいのですが、公示価格ベース を見て感じるのは、不動産については大都 では不動産価格は下がっていますが、実物 市圏と地方という二極分化が進んでいると の不動産市場の動きについてはどう見られ いうことです。 ていますか。 山内さんの扱われているのは都内のA級 山内:日本での不動産価格、地価が下がっ ビルなどの収益物件で、流動性にも問題な たという概念ですが、不動産投資を長年や い案件ですが、一方、地方の工場跡地や山 っていまして、それなりの既稼動の不動産 林などは流動性がきわめて限定的で、価格 を扱っていても、あまりその実感はありま の下落が止まらない状況です。 せん。 その理由として「高齢化」が一つのキーワ 不動産の価格はたとえ地価が下がったと ードと考えられます。北海道なら札幌、九 しても、キャッシュフローが良いものにつ 州なら博多など、若者が集まる地域ではま いては、価格面では上がっていると考えて だ物件価格が維持できているのですが、た よいのです。そのような物件への投資機会 とえばその周辺都市では、若者が大都市に が少ないことはありますが、不動産鑑定士 流出するという現象が起きています。高齢 は地価情勢を大きく反映した価格をつける 化が進行している土地の不動産価格は上が わけです。一方、私のような不動産投資家 りようがないのです。お年寄りは新しい家 がつけるとすると、ダイナミックに幅を取 をつくらないし、自分たちの住む家が不便 ってつけるのが実態です。不動産投資の鑑 になると、良い病院があり、子供達の家に 定を取る際、良い物件に対して、投資家が も近い大都市へ行きます。都心回帰という つける価値に、鑑定士さんの価値がついて 傾向は間違いなく進んでいて、地方の不動 きてくれないといったことが多発していま 産の下落傾向は顕著になっています。 す。また、それとは逆に、 「こんなものには まともな値段をつけられない」と思うもので 不動産と金融の融合 も鑑定ではそれなりの値段がつくわけです。 これから考えるに、日本の地価公示の制 沖野:それではそろそろ時間になりました 度が限界にきていると思うわけです。私た ので、大村先生より総括のお話しをうかが ちは、もう不動産投資をする時に公示価格 いたいと思います。証券化は、金融と不動 は見ずに収益の予測と安定性で価値を出し 産の融合といわれていますが、そのような ています。良いものには良い値段をつける 融合は進んでいるのでしょうか。 というようになっています。 大村:両者が融合する条件が揃っているか 沖野:小林さんは不良債権の担保不動産を と言えば、揃っていない。融合しなければ July-August. 2003 53 いけないかというと、それは当然のことで 相変わらず保守的なマインドを持っていま むしろ遅すぎると言えるでしょう。金融関 すし、日本のなかで動く要件が揃っていな 係者と不動産関係者の頭の構造にはずいぶ いのが人材の問題だと思います。 んと違いがあって、不動産関係者はキャッ シュフローから価値が生まれると考えない。 る。日本の社会人教育は社内研修です。銀 「ロットで売らないとダメ」とか「お金がな 行の研修は典型的で、各銀行とも研修で知 いと買わない」というのが常識でした。不 識だけを教えるだけでなく、業界に好都合 動産は使うものであり、しかも一生に一度 なカルチャーまで教えてしまいます。 の買い物で、最後に退職金をあてにして買 うというのが、今までの考え方でした。 日本の銀行員は能力がないのではなくて、 融通が利かない。どういうわけか銀行員は 投資の対象となるには株式と同じように 他の業態で使えない人材の典型例、いちば 市場の流動性が必要であって、それには証 ん使えない業態なのです。頭が悪いのでは 券化ということになります。今までは、家 なくて、頭が固いのです。しかし、不動産 計がいろいろなリスクを持つなかで、ポー 業界の人も頭が固い。こういう業態同志が トフォリオのなかに現物を組み込みにくか ミックスしてできるのが、たぶん「不動産 ったわけですが、今後は不動産証券化商品 証券化商品」なのです (笑) 。 を買えばよいわけです。証券化は家計のリ スクの選択肢を増やすことになります。 今は条件が揃っていないが、これができ れば日本は変わり得ると思います。若い人 しかし、わが国の家計の資産運用を見る は人生のなかでいろいろな職業を経験して と、1,400兆円の資産のなかでリスクを負担 みたいと思っているし、リスクのある仕事 するということができない状況であって、 もやってみたいと考えている。この「リス リスクに鈍感な意識は相変わらず直ってい クに挑む」という姿勢が大切で、今こそ、 ません。 官・メディア・大学の教員が新しい社会を そういうことが進まない要件のなかに つくるために一体化する必要があります。 「人材」がいないという問題があります。私 なかでも不動産証券化協会が進めている証 は 2 年間役人をしていましたが、役人には 券化教育は事業再生と同じくらい大きな役 具体的な知識がありません。役人は 1 ∼ 2 年 割だと思っています。私も協会と関わって ごとに異動しますので、知識をきちんと入 おり、協会の事業の一つとして、ぜひ成功 れないうちに持ち場を出て行くわけです。 させたいと思っています。 変なふうな専門家にならないという利点は 沖野:本日のディスカッションは、経済の ありますが、問題を先送りして、見通しの 現状と不動産市場の現状についてパネリス ないことはやらないという行動につながり トの方々の問題意識についてのお話が中心 がちです。これは役人だけではありません。 でした。今後の進むべき方向性についてい 新聞記者も知識がない。学者も深尾先生の くつかの示唆をいただけたのではないかと ようにこんなに現実に詳しい人はいない。 考えます。ありがとうございました。 象牙の塔にこもっているわけです。銀行は 54 学生は会社に入れば、そこで研修を受け 第1回 通常総会 懇親会 第1回 通常総会・懇親会を開催 通常総会 日時:平成15年5月15日(木)午後5時∼6時 場所:霞が関ビル1階「プラザホール」 社団法人不動産証券化協会は、平成15年5月15日、霞が関ビル1階「プラザホール」において 第1回通常総会を開催しました。開会に先立って事務局より、議決権総数(正会員数)60名に 対して、出席者正会員数と委任状の提出者数を合わせて56名の出席があり、正会員の過半数の 出席を得ているため、定款第25条の規定により総会が適正に成立した旨の説明がなされました。 議長は岩沙理事長が務め、以下の4件について報告と審議がなされました。 第1号議案:不動産シンジケーション協 議会の最終決算に関する件(報告) の約 4 カ月間である。この間の主な活動は、 平成14年12月 4 日に社団法人化したこと、協 第1号議案は、平成14年12月 3 日付で解散 会の権威と会員の信用保持に関して規律倫 した不動産シンジケーション協議会の最終 理に関する検討委員会の答申が出されたこ 決算と、新社団法人に寄付をした財産報告 と、法税制改正の活動として資産流動化法・ である。事務局より平成14年12月 3 日付の 投信法関係の制度改善要望や個人配当課税 財産目録について説明がなされた後、新日 などの税制改正要望が実現したこと、広報 本監査法人の監査報告書(平成15年 1 月27日 活動の一環としてホームページのリニュー 付)が示された。 アルを行ったこと、人材育成に関する研究 続いて、不動産シンジケーション協議会 の野村監事より、不動産シンジケーション協 会の活動・各種会議への参加など、である。 次に、平成14年度の収支決算について、 議会最終決算の収支計算書および証票書類 収支計算書総括表、一般会計正味財産増減 等について内容の正確、適正なことを認証 計算書、一般会計貸借対照表に基づいて説 したとの監査報告がなされた。とくに質問 明がなされた。 もなく、第 1 号議案の報告は終了した。 続いて、不動産証券化協会の野村監事よ り、不動産証券化協会平成14年度の決算の 第2号議案:平成14年度事業報告および 収支決算の承認に関する件 収支計算書および証票書類等について内容 の正確、適正なことを認証したとの監査報 事務局より、次のような説明がなされた。 社団法人不動産証券化協会の平成14年度は、 平成14年12月 4 日から平成15年 3 月31日まで 告がなされた。 その後、第 2 号議案は出席者に諮られ、 原案どおり異議なく承認された。 July-August. 2003 55 第3号議案:平成15年度事業計画および 収支予算の決定に関する件 事務局より、次のような説明がなされた。 第4号議案:役員の改選に関する件 議長より、社団法人設立当初の役員すなわ 平成15年度事業計画案は、不動産証券化市 ち現在の理事・監事の任期は平成15年 3 月 場は創設期から成長期に入りつつあるとい 31日までとなっており、本日、理事・監事全 う認識のもとに、市場を本格的な成長軌道 員を改選する必要があるが、平成14年11月 に乗せるための活動を行っていくとの基本 7 日開催の設立総会において、次期役員体制 方針で立案した。これからの 3 年間で不動 も設立総会時に決議した体制を引き継ぐ趣 産証券化市場を成長軌道にスムースに乗せ 旨の議事を行っており、その趣旨に基づい るということを中期目標として掲げており、 て平成15年 4 月23日開催の理事会で理事・監 初年度である平成15年度は、 事候補者を議決したことが説明された。 ①より厚みのある市場の構築 ②事務局体制の強化 ③関係諸団体との連携強化 この 3 点を重点目標として活動していく 方針である。 具体的には、不動産証券化諸制度の改善 続いて事務局が理事・監事候補者を読み 上げた後に、第 4 号議案は出席者に諮られ、 原案どおり異議なく承認された。 その後、総会を一時中断して、理事長、 副理事長、専務理事を選出するための臨時 理事会が開催され、その結果が事務局より 報告された。 要望活動、市場動向委員会の新設、不動産 以上で議事は終了し、最後に、平成15年 証券化税制研究会の新設、人材育成のため 4 月23日に開催した理事会で決議した「社団 の教育プログラムの検討、資産流動化の手 法人不動産証券化協会会員の自主行動基準」 引き研究会の新設、J-REIT普及促進キャン の概要について、事務局から報告がなされ、 ペーンの継続実施、国際シンポジウムの開 第 1 回通常総会は終了した。 催( 6 月10日) 、会員の自主行動基準の策定 と規律委員会の新設、事業法・SPC・REIT など証券化商品市場を概観するデータの整 備、J-REITの商品特性に関する研究会、投 資行動研究会(継続) 、開発型証券化の推進 施策に関する研究と提言、事務局体制の強 化のための活動、関係諸団体との連携強化 のための活動を行う計画である。 続いて、議案書に掲載の平成15年度予算 書総括表(案)が説明された。 その後、第 3 号議案は出席者に諮られ、 原案どおり異議なく承認された。 56 理事・監事(平成15年5月15日改選、任期は2年) ■理事長 三井不動産(株) 代表取締役社長 岩沙 弘道 ■副理事長 住友信託銀行(株) 取締役社長 高橋 温 東急不動産(株) 取締役社長 植木 正威 (株)東京三菱銀行 頭 取 三木 繁光 野村證券(株) 取締役社長 古賀 信行 三菱地所(株) 取締役社長 木 茂 ■理 事 オリックス(株) 代表取締役社長 藤木 保彦 住友不動産(株) 取締役社長 高島 準司 中央三井信託銀行(株) 取締役社長 古沢 一郎 東京建物(株) 代表取締役社長 南 敬介 日興シティグループ証券会社 CEO 小嶋 歳晴 野村不動産(株) 取締役社長 中野 淳一 みずほ証券(株) 取締役社長 大澤 佳雄 (株)三井住友銀行 頭 取 西川 善文 ■専務理事 (社)不動産証券化協会 事務局長 巻島 一郎 ■監 事 清水建設(株) 代表取締役社長 野村 哲也 大和証券SMBC(株) 代表取締役社長 清田 瞭 三菱商事(株) 代表取締役社長 佐々木 幹夫 懇親会 日時:平成15年5月15日(木) 午後6時∼8時 場所:霞が関ビル34階「ロイヤルルーム」 第1回通常総会終了後、 会場を移して懇親会を開催しました。中馬弘毅国土交通副大臣、 伊藤達也内閣府金融担当副大臣をはじめとする多数の国会議員、官庁関係者、友好団体、マ スコミ、会員など、約450名の方にご臨席いただきました。 量ともに充実してまいりました。さらにこ の 4 月からは、上場株式とともにJ-REITに 主催者あいさつ 関する個人投資家の配当、譲渡所得課税に 簡易な源泉徴収方式が導入され、当初 5 年 間の税率を10%に軽減する措置も実現し、 また、東証REIT指数も公表され始めました。 社団法人 不動産証券化協会 最近のJ-REIT投資口価格は、TOPIXと比 理事長 岩沙 弘道 較しても堅調に推移しており、機関投資家 や個人投資家のご理解や浸透も一段と進ん わが国経済は、長引く景気の低迷や株価 の下落など、デフレスパイラルの淵に立っ ています。資産デフレからの脱却のために でいます。市場の健全な発展に向けての環 境が整いつつあると思います。 しかしながら、わが国の現下の不動産証 は、金融面からの政策的取り組みと同時に、 券化市場は、全体で見ても、国民経済や不 実体としての不動産の価値創造にも取り組 動産市場の規模に照らせばまだまだ小さく、 む必要があります。収益力のある不動産を 持続的に拡大させることが必要な段階にあ 流動化し、再開発を促進し、ハード・ソフ ります。 ト両面から都市の魅力と価値を向上させ、 当協会では、中期目標として、今後 3 年 都市再生を実現していくことがきわめて重 の間に不動産証券化市場をスムースに成長 要です。また、都市再生のための投資資金 軌道に乗せるということを掲げ、種々の活 需要と、多様な運用先を求める個人金融資 動を積極的に展開していく所存です。不動 産や年金資産とを結び付けることも求めら 産証券化市場のいっそうの発展のためにも、 れています。不動産証券化の推進はこれら 固定資産税負担の適正化等、実物不動産に を達成する有力な手段であり、国民経済的 ついてのさらなる税制改正も必要であり、 意義を有する喫緊の課題であります。 こうした制度的な問題にも関係諸団体と連 現在、不動産証券化市場は、不動産特定 共同事業商品、資産流動化商品、J-REITな 携しながら、不動産証券化を推進する立場 から取り組んでまいりたいと存じます。 ど、商品ラインアップが多彩になり、質・ July-August. 2003 57 が流通し、これまでに約9,000億円の不動産が 投資法人によって取得されるなど、投資法 来賓ごあいさつ 人が強力な不動産の買い手となっています。 また、平成15年度税制改正により、この 4 月から個人投資家の配当課税につきまし て申告不要額上限が撤廃され、かつ今後 5 国土交通副大臣 中馬 弘毅氏 年間については税率が20%から10%に軽減 されたことから、個人投資家のJ-REIT購入 が促進される動きになってきております。 本日、社団法人不動産証券化協会の第 1 今後ともこのような潮流をさらに大きな 回通常総会・懇親会が盛大に開催されます ものといたしまして、不動産証券化市場を ことを心よりお慶び申しあげます。 健全に発展させていくことが必要でござい 貴協会におかれましては、平成 2 年に前 ますが、そのためには信頼性の高い、魅力 身の不動産シンジケーション協議会が設立 のある商品の供給、投資家保護、人材育成 されて以来、不動産証券化の推進に多大の など、さまざまな課題に取り組んでいく必 ご尽力をいただいており、深く敬意を表す 要があります。 る次第です。 さて、わが国の経済状況を見ますと、景 団体として貴協会が昨年末設立され、不動 気はおおむね横ばいとなっておりますが、 産証券化商品に関する普及・啓発活動に取 不透明な状況であります。政府といたしま り組まれていること、そして、本日第 1 回通 しては、内外の金融・経済情勢等を注視し 常総会が開催されましたことは非常に意義 つつ、引き続き金融・税制・歳出および規制 深いことでありまして、今後いっそうのご の4本柱の構造改革を一体的かつ整合的に実 尽力をお願い申し上げる次第でございます。 行することにより、民間需要主導の持続的 終わりに、貴協会のますますのご発展と な経済成長の実現をめざしているところで 会員各位ならびに本日ご列席の皆様方のご あります。 活躍とご健勝を心より祈念いたしまして、 このようななかで不動産証券化は、1,400 兆といわれる個人金融資産を不動産市場に 呼び込み、土地に対する実需を喚起する施 策であり、資産デフレの解消に向けた切り 札としてその意義は大きいと考えます。 とくに個人投資家が容易に購入することが できるJ-REITにつきましては、一昨年 9 月 に 2 つの投資法人が東京証券取引所に上場 されて以降、現在では 6 つの投資法人が上 場されており、113万口、約6,000億円の証券 58 こうしたなかで、金融・不動産の業際的な お祝いの言葉といたします。 第1回 通常総会・懇親会を開催 懇親会 た。大勢の投資家の方に参加をいただき順調 来賓ごあいさつ に発展してきておりますが、皆様方のさまざ まな取り組みを金融庁としても一生懸命応 援させていただき、この市場の健全な発展が 実現していくためにも、さらなるご活躍を心 内閣府 金融担当副大臣 からお願い申し上げたいと思っております。 伊藤 達也氏 本日は、記念すべき第 1 回の通常総会、 乾杯のご発声 そして懇親会が大勢の来賓がご参加される なかで開催されましたことを心からお祝い 申し上げます。 現在の経済状況はたいへん厳しいものが あります。そのなかにあって、資産デフレ 社団法人 不動産証券化協会 茂 副理事長 を解消していくことは、日本経済再生にお いて大変重要な課題であると私どもも強く 認識をしているところです。 本日、社団法人不動産証券化協会として初 めての総会を終了し、新年度事業のスタート 中馬副大臣からもお話がありましたよう を切ることができました。これもひとえにた に、現在、4 つの改革を進めているわけです だ今ご祝辞をいただきました中馬副大臣、伊 が、金融分野におきましても構造改革を進 藤副大臣はじめ、ここにご列席の皆様のご尽 め、その姿を国民の皆様方に実感していた 力・ご指導の賜でございます。改めてこの場 だけるように、金融システムの安定化、強化 をお借りして御礼申し上げたいと思います。 を力強く進めていきたいと考えております。 岩沙理事長のごあいさつにございました とりわけ証券市場の構造改革はきわめて ように、不動産証券化市場は創成期から成 重要で、貯蓄から投資への流れを促進し、 長期へと発展を遂げてきておりますが、こ そして魅力ある証券市場を形成していくた うしたなか当協会が社団法人化を果たしま めに、さまざまな努力を進めていかなけれ したのを契機に、多くの新しい会員を迎え ばいけないと考えております。 入れることができました。新旧会員力を合 具体的な施策としては、証券税制を大幅に わせて、不動産証券化市場の健全な発展の 軽減、簡素化してきたところではありますが、 ために精一杯の力を尽くしたいと、決意を これらを広く皆様方に周知していくために努 新たにしているところでございます。今後 力するとともに、個人投資家の方々に信頼が とも皆様方には倍旧のご指導ご協力をお願 得られるような市場をつくっていくために い申し上げます。 も、公認会計士法の改正や、証取法の改正を 国会にお願いしているところでございます。 J-REITが登場して 1 年半が経過いたしまし * * * * * 以後は歓談の時間となりました。和やかな 歓談が続き、有意義な懇親会となりました。 July-August. 2003 59 「平成16年度不動産証券化に関する 税制改正要望」について 不動産証券化協会では、「 税務・会計委員会 」において不動産証券化に関する税制改正要望の取り まとめを行い、上部組織である運営委員会(7月10日)、理事会(7月16日)において審議承認さ れ、 「 平成16年度不動産証券化に関する税制改正要望 」として、7月17日に関係省庁へ提出した。 来年度の税制改正要望では、土地資産デフレ対策として、商業地等の固定資産税負担の軽減、投資 法人、SPC等の投資ビークルの資産取得時における負担軽減として流通課税の軽減措置および投資法 人のSPC優先出資証券保有規制の撤廃によりJ-REITの運用資産取得における柔軟性を高める等、不 動産の流動化や有効利用を促進して不動産市場を活性化することを主眼としている。当協会としては、 税制改正要望の趣旨等を金融証券等の産業界の関係団体等にも幅広く伝えていく予定である。 要 望 項 目 Ⅰ.固定資産税等の軽減(固定資産税、都 市計画税) 商業地等にかかる固定資産税について、 資産デフレ下で過重な負担となっている土 地について負担軽減を行う。また、都市計 ※過去、資産流動化法に基づき流動化された案 件は多数にのぼっている。投資法人は、これ らの証券化が償還期を迎えリファイナンスを する際のエクイティ部分の有力な受け皿とな り得る。投資法人がこのようなSPCの証券を 画税についても同様の負担軽減を行う。 保有することができれば、多様かつ柔軟な仕 ※現下の経済低迷、資産デフレ状況から脱却 組みの構築が期待できる。また、投資家の参 するため、また不動産証券化市場にいっそう 加を得て共同開発を行う等に利用しやすいた の資金を呼び込むためにも重税感の大きい商業 め、最近、国有地の入札についても資産流動 地等の固定資産税の軽減が必要である。 化法上のSPCでも可とするケースがあり、今 Ⅱ.J-REITならびにSPCの登録免許税軽 減措置の延長および拡充 後開発型証券化ビークルとしてSPCの利用の 可能性は高い。このように今後増加が見込ま れる開発型証券化ビークルとしてのSPCにつ J-REITならびに資産流動化法上のSPC いて、投資法人がSPCの発行する優先出資証券 の不動産取得の際に設けられている登録 を50%以上保有することが認められれば、投 免許税の軽減措置を延長・拡充する。 ※現在の登録免許税の軽減措置(通常の取り引 資法人の投資対象は広がる。なお、現在、優 先出資証券の買い手は少なく、本規制の撤廃 により投資法人がこの買い手に加わることが きが税率 1 %なのに対して、06 . %の軽減税率) 可能になれば、優先出資証券の流動性が高ま は、平成16年3月31日をもって期限切れと り、不動産証券化市場の活性化にもつながる なる。 ものである。 Ⅲ.投資法人のSPC優先出資証券保有規 制の撤廃 60 る優先出資証券を除外する。 投資法人が、他の法人の株式の総数あ Ⅳ.金融機関等が投資法人やSPC等への 貸付債権をCMBS等を通じて流動化 できる措置 るいは出資金額の50%以上に相当する数 銀行等の適格機関投資家が投資法人や または金額を有していないこととする要 資産流動化法上のSPC等に対して有する 件から、資産流動化法上のSPCの発行す 貸付債権につき、CMBS等を発行するた めに当該貸付債権をCMBS発行用ビーク つき、不動産取得の際に設けられてい ル等非適格機関投資家に譲渡した場合に る不動産取得税の軽減措置を延長する おいても支払配当の損金算入を認める。 とともに適用要件の緩和を行う。適用 ※現状の規定によると、投資法人や資産流動化 要件の緩和について具体的な内容は下 法上のSPC等の資金借入は、各事業年度にお いて適格機関投資家からのものであることが 支払配当損金算入の要件とされている。本要 記のとおり。 ア)対象不動産取得後の不動産特定共同 件があるために、現在、投資法人等ではロー 事業契約締結(ただし取得後1年以内) ンに譲渡禁止特約を付けている。しかし今後、 を認める。 適格機関投資家側にCMBS化のニーズが高ま り、そのような特約を付けなければならない イ)やむを得ない事情で事業開始時に事 ことが資金調達上不利に働くことになる。ま 業参加者が一部集まらない場合には、 た金融機関が自己資本規制等の制約から、ロ 事業者のみなし出資を認める。 ーン債権の売却が不可能な投資法人等への貸 付けを抑制するおそれもある。 V.開発型証券化等にかかる促進措置 ①開発期間が長期にわたる開発型証券化 の促進措置として流通税課税軽減措置 が適用できる特例の新設 資産流動化法上のSPCの開発型証券 化スキームの開発期間が長期にわたる場 合において、建物竣工後に課税される建 物にかかる登録免許税および不動産取得 税に対し、用地取得時(借地および定期 借地においては、借地権および定期借地 権の設定時)における課税標準や税率の 軽減措置等が適用できる特例を新設。 ②開発型証券化スキームにおけるSPCへ の不動産取得税特例適用 資産流動化法上のSPCが開発により建 物を取得する場合において、新築および新 築後 6 カ月以内譲渡時の建物にかかる不 動産取得税非課税措置の特例を新設する。 ③不動産特定共同事業法匿名組合型の不動 産取得税軽減措置の延長および適用要件 の緩和 不動産特定共同事業法匿名組合型に Ⅵ.不動産証券化ビークルの安定性の確保 ①宥恕規定の導入 投資法人等が会計上の利益と税法上の 所得の乖離により支払配当損金算入要件 を満たさなくなる場合、事後の分配を認 めるという宥恕規定を導入する。 ②投資法人の支払い配当損金算入要件算定 式の改善 投資法人の支払い配当損金算入要件の 90%超の配当要件については、配当可能 額の範囲から利益超過分配金を除外する などの改善を図る。 Ⅶ.利益を超える金銭の分配時の課税方式 の改善等 投資家が分配を受ける金銭のうち、 「会 社型J-REITの利益を超える金銭(出資の 戻し) 」について、みなし譲渡にかかる譲 渡収入に対応する譲渡原価は、譲渡収入 と同額とし、譲渡損益が生じないように する。また「契約型J-REITの特別分配金」 に関する課税方法を上記と同じにして、 J-REITの利益超過分配金にかかる取り扱 いを統一する。 (事務局・笹川 寿弥) なお、投資法人の投資口にかかる配当、譲渡等に対する税制については、上場株式にかかる配当、譲 渡等に対する税制が改正される際には、同様の手当てがなされることを要望する。 July-August. 2003 61 「平成16年度 制度改善要望」の概要 不動産証券化3法の他、宅地建物取引業法や 証券取引業法関連など8項目 ● ● ● ● 要 望 項 目 ● ● ● ● ■不動産特定共同事業法関連要望 ①契約成立前の書面交付時の対面説明の緩和 ■資産流動化法関連要望 ①資産対応証券の募集取扱要件の緩和 ②特定持分信託の信託法第58条から適用除外を明確化 相談事項:資産流動化計画の記載事項及び変更手続に関する条文を明確化 ■投資信託法関連要望 ①投資法人の資金調達手段の多様化 ②特定有価証券の内容等に関する開示手段の緩和 ■証券取引法関連要望 ①届出適格機関投資家に関する要件および手続の緩和 ■宅地建物取引業法関連要望 ①取引一任代理の最低資本金基準の緩和 要望の活動経過と骨子 家の投資機会の促進を要望するものである。 不動産証券化協会では、制度委員会にお 今後は、 「2003年度日本経団連規制改革要 いて「平成16年度制度改善要望(案) 」をとり 望」や、内閣府の総合規制改革会議の「規制 まとめ、7 月10日に運営委員会、7 月16日に 改革の推進に関する第 3 次答申」に取り上 理事会において審議のうえ「平成16年度 制 げられるべく要望活動を行っていく。 度改善要望」として承認を受け、金融庁お よび国土交通省の関係部署に提出した。 ■不動産特定共同事業法関連 平成16年度の要望の骨子は、例年と同様 に事業組成上の法制度上の規制改善の他、 資金調達手段の拡大、投資家の投資環境の 緩和など、不動産証券化商品の供給や投資 62 1.契約成立前の書面交付時の対面説明の 緩和(法第24条) 不動産特定共同事業契約の成立前の書面 定目的会社の設立発起人ではないため、特 の交付時の説明義務については、別途説明 定資産の譲渡人が資産対応証券の募集をす 書面を開示することも説明と認めるよう要 る制度を利用できないことがある。特定目 望する。 的会社の取締役または使用人が、資産対応 証券の発行時において資産対応証券の募集 <理 由> 説明書面の開示のみで説明内容が理解で きることから、対面説明を煩わしいと感じ 等ができれば、事業の促進とコストの削減 につながり、よりいっそう投資家利益に資 することとなる。 ている投資家が多い。そのため、遠隔地の 投資家や投資家の属性等によっては対面説 2.特定持分信託の信託法第58条から適 明ではなく、別途説明書面の開示によって 用除外を明確化(法第31条の 2 ) 説明した方が、契約当事者双方にとってメ リットがあると考える。 資産流動化法の特定持分信託に関わる法 顧客の理解については、不明な点があっ 文において、信託法第58条の適用が除外さ た場合は補足の説明をし、内容を確認できた れることを法文上明らかにするか、あるい 旨の確認書を受けることで意思確認を行う。 は、当局の解釈を一般に対して明確化する ことを要望する。 ■資産流動化法関連 <理 由> 1.資産対応証券の募集取扱要件の緩和 (法第150条の 2 ) 特定持分信託は、その制度主旨上、当然 の要請として、信託契約は解除できないも のとすることが求められ、法文上も「委託 資産対応証券の発行時において、特定資 者または受益者が、信託期間中に解除を行 産の譲渡人(オリジネイター)が自ら資産 わないこと」という条件を付すことが求め 対応証券の募集等を行わない場合には、特 られている。ただし、信託契約書にこのよ 定目的会社の取締役または使用人が資産 うな条項を入れたとしても、信託法第58条 対応証券の募集等ができるようにしてほ の適用があるのかどうかは明らかでなく、 しい。 制度主旨が充分に活かされていない。その ため実務上は、信託法第58条の適用を避け <理 由> るために、受益者を複数にするという、制 資産対応証券は証券取引法上の有価証券 度主旨からすれば、およそ本質的でない手 であり、原則、証券業者による募集・販売 当てを求められることも多く、徒にスキー 等が義務付けられている。例外的に特定資 ムを煩雑化させている。 産の譲渡人が届出後に募集等を行う場合の み、証券取引法の適用除外となっている。 しかし、特定資産の譲渡人が必ずしも特 相談事項:資産流動化計画の記載事項及び 変更手続に関する条文を明確化 July-August. 2003 63 (法第118条の 2 第 3 項第 3 号、 機動的な資金調達手段として、現状の投資 施行規則第19条第 1 項第10号) 法人債に加え、CPの発行を可能とすること を要望する。 資産流動化計画の記載事項や変更手続に <理 由> おいて、 「その他投資者保護の観点から記載 投資法人の資金ニーズに柔軟に対応する が必要な事項」や、 「その他投資者の保護に ことができるように、資金調達手段として 反しないことが明らかな場合」と条文に記 投資法人債以外の手当てを加える。現状の 載されているが、定義が不明確であるため 投資法人債のみでの資金調達では、新規ビ 過剰な対応を要している。 ルの取得、大型の物件修繕費の調達を機動 当該条文を明確化させるか、あるいは当 該条文の一部削除を要望する。 的に行うことが難しく、CP・社債の枠を取 得しておき、いざ資金が必要になった時に、 そこから柔軟に資金を調達したい。 <理 由> 資産流動化法施行規則第19条第 1 項第10 号の「その他投資者保護の観点から記載が 2.特定有価証券の内容等に関する開示手 段の緩和 必要な事項」や、資産流動化法第118条の 2 第 3 項第 3 号の「その他投資者の保護に反し 投資法人が発行する有価証券を上場し、 ないことが明らかな場合」として要求され 特定有価証券開示府令に従い一定期間の継 る程度が不明確である。 続開示を行っている発行体については、特 このために、そもそも資産流動化計画違 定有価証券開示府令内およびガイドライン 反と指摘される可能性があり、また悪意の投 等で参照方式・発行登録制度の利用ができ 資家から記載事項や変更手続が、当該条文 るよう要望する。 に反するという指摘がある場合を想定して、 安全と確実を期すために利害関係人全員か らの同意取得といった負担を負っている。 <理 由> 参照方式については、直近の有価証券報 当該条文を明確にするか、あるいは当該 告書、その添付書類、その提出以後に提出 条文を一部削除することが、特定目的会社 される臨時報告書等を参照すべき旨を記載 の関係者の負担を軽減し、特定目的会社を し、その部分の記載が省かれることにより、 利用した証券化事業を促進することになる。 目論見書を簡素化できるものである。これ により、発行コストおよび目論見書発行期 ■投資信託法関連 間の短縮につながる。 発行登録制度については、参照方式利用 1.投資法人の資金調達手段の多様化 適格者が有価証券の発行において、最長 2 年間の発行登録下での最大発行金額・数量 投資法人の資金調達手段の多様化および 64 の提示をするものである。投資法人債募集 においては最大発行金額を前提とした予備 格付けが付与される。投資証券募集におい (宅地建物取引業法第50条の 2 の 3、同 施行規則第19条の 2 の 2 ) ては、投資家にとって最大の希薄化作用が 判明することにより信用度の理解を得やす 宅地建物取引業法の取引一任代理の認可 い。また、発行登録書の効力が発生してい 基準である最低資本金の要件を、現行の 1 れば、記載事項の範囲内で追補書類を提出 億円から緩和するよう要望する。 することにより、機動的に募集を行うこと ができる。 <理 由> 現在検討が進められている「投資信託委 ■証券取引法関連 託業者の最低資本金要件の緩和」がなされ ても、宅地建物取引業法の取引一任代理の 1.届出適格機関投資家に関する要件およ び手続の緩和(証券取引法第 2 条に規 定する定義に関する内閣府令第 4 条第 1 項第21号) 最低資本金要件は連動して緩和されるわけ ではない。 主として不動産を投資対象とした投資信 託および投資法人の投資信託委託業者は、 宅地建物取引業法の取引一任代理の認可を 「有価証券」および「投資有価証券」の合 受けた会社が条件となっているため、宅地建 計金額が100億円以上の事業会社が、金融庁 物取引業法の取引一任代理の最低資本金要 長官に対する適格機関投資家の届出を随時 件が緩和されなければ、事実上変わらない。 可能として、届出日の属する月の翌々月の そもそも、投資法人は投資家から出資金 1 日から 1 年間適格機関投資家として扱って を預かる立場であり、一方、投資信託委託 ほしい。 業者は運用する立場であり、運用できる組 織体制があるかが問題である。 <理 由> よって資本金が 1 億円以上である必要は 特定目的会社の優先出資引受者が、適格 なく、むしろ、現状、投資信託法上の事業 機関投資家の要件をすべて満たすにも関わ を行う場合、事業者にとっては最低でも 1 らず、適格機関投資家の申請期間が年 1 回 億円以上の事業コストがかかるリスクがあ しかないため、適格機関投資家の取り扱い るため、積極的に最低資本金要件を緩和す が受けられない場合がある。適格機関投資 べきである。 家の届出手続きを緩和することで、私募方 参入障壁が緩和されることで事業組成者 式を活用した不動産証券化取引市場の活性 が増え、多彩な商品提供が見込まれる。 化を促進する。 投資家にとっては、投資商品の選択肢の拡 大とサービスの向上効果が期待でき、併せ ■宅地建物取引業法関連 て、不動産証券化市場の活性化に資するこ ととなる。 1.取引一任代理の最低資本金基準の緩和 (事務局・稲葉 徳宏) July-August. 2003 65 ARES REPORT 開発型証券化の マクロ経済的意味 東北文化学園大学 総合政策学部 ■■ 1.はじめに 資産流動化型の不動産証券化とは、特定 矢口 和宏 不動産証券化は、不動産と金融の資源配分 に関わる問題であるから、一企業でなく、 の不動産が生み出す収益を裏付けにして証 広く国民経済的な視点からも検討されるべ 券を発行し、資金調達を行うスキームのこ き問題であり注1、証券化には、景気対策の とである。この一種に開発型証券化がある。 手段として有効ではないかという期待があ これは、証券化プロセスの初期段階では収 る。なかでも、開発型証券化には、未利用 益を生み出すような特定の不動産は存在せ 地の流動化、いわば「眠っている土地」を起 ず、これから実行される不動産開発の資金 き上がらせることによる都市再生への期待 調達を証券化によって行うスキームである。 がある。そのため、開発型証券化のマクロ いうなれば、不動産開発事業そのものの証 経済的な意味合いについて検討することは 券化という性格を有している。この方法を 重要であると思われる。 用いれば、単独の開発主体(デベロッパー 等)が多大なリスクを背負うことはなく、 発行される証券をとおしてリスクを広い主 体(投資家等)に分散できる。 開発型証券化に限らず、政策や制度のマ クロ経済効果を分析するには、マクロ経済 2000年に施行された資産流動化法のもと を需要サイドと供給サイドに分けて考える では、開発型証券化は以前と比較してより ことが重要である。むろん、現実のマクロ 手がけやすくなった。そのため、開発型証 経済は、需要と供給とに完全に分離される 券化の事例は増えてきており、今後も増加 ことはなく、両者の影響が混在してその姿 していくことが予想される。開発型証券化 を現している。これはあくまでも、マクロ は、未利用地の不動産開発の資金調達手段 経済を分析するための見方である。このよ として注目され、不動産流動化の促進とい うな見方をすることによって、現状のマク う期待も寄せられている。また、国有地の ロ経済政策に見られる主張の違いを理解す 開発手段としても注目されており、実際、 ることが可能になる。マクロ経済の需要 証券化条件を付けた国有地の売却は実現化 (総需要)と供給(総供給)を表したのが、 されている。 本稿では、開発型証券化に着目し、その マクロ経済的な意味合いについて論じる。 66 ■■ 2.マクロ経済における需要と供給 図 1 である。 有効なマクロ経済政策として、公共投資 の増加を強く主張する立場と構造改革や規 図1 マクロ経済における総需要曲線(AD)と総供給曲線(AS) 物価水準(P) AD1 AD2 → P* AS1 → AS2 Y* GDP(Y) 制緩和の推進を強く主張する立場がある。 証券化には、景気対策の政策手段として有 この 2 つの立場の違いは、マクロ経済の需 効なのではないかという期待がある。なか 要と供給に関係している。前者の立場は、 でも、開発型証券化は、未利用の土地、い 需要サイド、いわゆるマクロ経済の総需要 わば「眠っている土地」を起き上がらせるこ に影響を与えるような政策が有効であるこ とによる都市再生への期待が持たれている。 とを主張したものであり、積極的な景気対 以下に、開発型ではない証券化と開発型の 策を主目的とする。 ケースに分けて、それらのマクロ経済効果 図 1 では、総需要曲線の右方向へのシフ について論じる。 ト(AD1→AD2 )として表され、GDPと物価 <資産流動化型の不動産証券化のケース> 水準はともに上昇する。学説的には、ケイ 不動産証券化に期待される国民経済的な ンズ政策の流れにある。 効果として筆頭にあげられるのは、不動産 一方、構造改革や規制緩和の推進を主張 の流動化による有効利用の促進である。こ する立場は、供給サイドの調整を図るよう こで注意が必要なのは、すべての不動産が な政策が有効であることを主張したもので 流動化されるのではなく、有効利用状態に ある。供給面からマクロ経済を刺激するこ ある不動産の流動化が促進されることにあ とにより、マクロ経済の潜在能力を高め、 る。それは、有効利用がなされていない不 中・長期的に安定した経済成長を達成する 動産の収益性は低く、そのような不動産の ことがマクロ経済政策として有効であると 証券化は困難となるからである。その意味 指摘する。図 1 では、総供給曲線の右方向 では、証券化は土地の有効利用を促進する へのシフト(AS1→AS2 )として表される。 しかけを内包している。このことは、証券 化が、経済政策上、資源配分の効率化に寄 ■■ 3.開発型証券化のマクロ経済効果 開発型に限らず、資産流動化型の不動産 与するスキームであることを示している注2。 土地は限りある資源であるから、その有効 July-August. 2003 67 利用を促進することは重要である。資源が われていた、土地を担保にした借り入れに 有効に使われるからこそ、安定した経済成 よる不動産開発が難しくなっている。これ 長が達成され、ひいては、国民の厚生の増 は、企業金融での資金調達の難しさ、さら 大にもつながるのである。 にはそのことの一側面であるが、開発リス 資産流動化型の不動産証券化は、資源配 クの大部分をひとつの企業が引きうけるこ 分という景気対策と比較すればやや長期的 との難しさを表している。その点、開発型 な視点に立つ問題への寄与が大きく、マク 証券化は、資産金融としての特徴を持ち、 ロ経済的には、需要サイドよりも供給サイ 開発リスクを証券の発行をとおして広い主 ドに与える影響が強い。このことは、証券 体に分散できるので、この不況下でも不動 化が短期的な景気対策よりも、中・長期的 産開発を促進させる。このことは、証券化 な経済成長の達成に貢献する制度であるこ に景気の下支えという役割が期待できるほ とを表している。前述した図 1 で表せば、 か、今後の発展次第では、新たな需要創出 総需要曲線よりも、総供給曲線に与える影 の担い手になる可能性があることを示して 響の方が大きいということである。 いる。 このような視点からすれば、不動産証券 また、開発型証券化の主体は、基本的に 化に景気回復策としての期待を寄せるのは 民間部門である。そして、不動産開発の収 不十分であり、そもそも目的が違っている。 益性や適合性は格付け等を通じてさまざま では、開発型証券化のマクロ経済効果につ な主体に評価される。このことは、マーケ いては、どのように考えられるだろうか。 ットによる不動産開発の評価であり、従来 <開発型証券化のケース> にはあまりなかったしかけである。近年、 開発型証券化は、新たな不動産開発に対 公共投資の非効率的な配分が問題になって して実行されるわけであるから、証券化の いるが、収益性という観点からは、開発型 段階で、新たな建築物(住宅、SCなど)が 証券化にはそのような非効率性は許されな 建てられる。このことは、建設投資や住宅 い。民間部門による収益性のある開発が実 投資の増加であり、国民経済計算上では、 行されるという意味では、開発型証券化は 設備投資と住宅投資の増加に該当する。設 望ましいといえる。次節では、住宅建設と 備投資や住宅投資は、マクロ経済の総需要 国有地の売却に関し、その開発型証券化と の構成項目であり内需であるから、開発型 の関係について若干の言及を試みる。 証券化によって総需要は刺激される。厳密 には、各産業への波及効果等を考慮する必 要があるが、開発型証券化は公共投資と同 開発型証券化による住宅建設はすでに実 様の効果を持ち、短期的な景気対策として 現化されており、主に、首都圏での分譲マ も機能し得る制度である。前述した図 1 で ンション建設に利用されている。分譲マン 表せば、開発型証券化の拡大は、総需要曲 ションは持家であるが、開発型に限らず不 線を右方向にシフトさせる。 動産証券化は、賃貸住宅にも十分適用され 近年の経済状況においては、従来から行 68 ■■ 4.開発型証券化の適用 得る制度である。その場合は、毎月の家賃 収入がキャッシュフローとなって、証券の 利払いや配当の原資に充てられる。賃貸住 ■■ 5.おわりに 本稿では、資産流動化型の不動産証券化、 宅の場合は、入居者の回転が比較的頻繁で、 とくに開発型証券化のマクロ経済効果につ その時々の経済情勢によって家賃の改定が いて論じた。不動産証券化の国民経済的な しやすく、安定したキャッシュフローも得 効果は、何よりも不動産の流動化による有 られやすい。そのため、開発型証券化による 効利用の促進にある。マクロ経済的には、 賃貸住宅の建設は、今後増加するであろう。 総需要よりも、土地という資源の効率的な とくに日本では、諸外国と比較して床面 利用を意図した総供給に影響を与える仕組 積が広く質の良い借家の供給が不足してい みである。開発型の場合には、新たな建設 る。経済政策的な観点からも、質の良い借 投資や住宅投資が生まれるので、その場合 家の供給は求められている。開発型証券化 は、総需要に対してプラスの影響が生じる。 は、十分なキャッシュフローが必要となる 開発型証券化は、不動産開発の収益性や が、それは質の良い借家を建設しなければ 適合性がマーケットによって評価される。 得られないものであり、開発型証券化に期 そのため、無駄で非効率的な不動産開発は 待される分野である。 排除される。未利用地の流動化を促し、都 2000年には、証券化の条件を付けた国有 心部における有効な不動産開発を進めるう 財産(更地)の売却が行われた。政府の財政 えでは、このしかけが重要になる。開発型 赤字は、もはや国債の増発では対処できな 証券化のマクロ経済効果は、どうしても景 い状況になっている。そのため、国有財産 気と関連しがちになるが、有効な不動産開 の民間部門への売却が促進されており、こ 発を推進させることも重要である。未利用 の動きは今後も増加するであろう。また、 地(「眠っている土地」)を流動化させ、都 以前より、都心部には低度利用の国有地が 市の再生を図るうえでも、開発型証券化は 存在するといわれ、それらの「眠っている 必要不可欠といえる。 土地」の有効利用が必要だという指摘が強 かった。 やぐち・かずひろ 国有地には、利便性の高い地域に存在す るものもあり、このような場合は、開発型 証券化による開発が適している。ただ、国 有地といえども、十分なキャッシュフロー 1969(昭和44)年に東京で生誕。 株式会社ライフデザイン研究所(現第一生命経済研 究所)を経て、1999年より東北文化学園大学総合政 策学部講師となる。 専門は土地・住宅の経済政策及び高齢者福祉の経 済分析。 が見込めるような、魅力のある開発プラン が重要になることはいうまでもない。 注1 このような見解は、国土庁「不動産の証券化に関する研究会―報告書」 (2000年)で示されており、 筆者も同様の見解を持っている。 注2 矢口和宏「マクロ経済政策手段としての不動産証券化」 (ARES Vol.2/2003年)も参照されたい。 July-August. 2003 69 ARES REPORT 分譲マンション開発型証券化案件の 格付けについて 株式会社日本格付研究所 ストラクチャード・ファイナンス部 アナリスト 従来、不動産開発案件はコーポレートフ 辻野 美穂子 ェクトから得られる資金のみに依拠する ァイナンスによりその資金調達が行われて ものである。 きたが、最近は証券化スキームを用いた開 不動産開発事業にかかるリスク(完工リ 発案件も見られるようになってきた。本稿 スク、販売リスク等)は過小に評価すべき では、平成15年 3 月に日本格付研究所(JCR) ではなく、プロジェクトの選択およびスキ より格付けが公表されたアドバンス・プラ ームの組成が重要となってくる。 チナ特定目的会社案件(以下、「アドバン ス・プラチナ案件」という)を具体例として、 分譲マンション開発型証券化案件に関する ■■ 2.開発型の特徴 分譲マンション開発型証券化案件の特徴 JCRの格付けの考え方について述べていき としては、 たい。 ・クロージング時点では建物は存在してい ないこと ■■ 1.開発型証券化案件とは 従来、不動産開発はそのリスクの大部分 後の分譲販売代金が充当されること をディベロッパー(開発業者)自らが負担す ・社債発行期間中は、原則として分譲販売 る形で行われてきた。不動産開発にかかる 代金以外にはキャッシュインがないこと 資金の調達は、主としてディベロッパーの があげられる。 自己資金および銀行からのコーポレートフ 格付けに際しては ァイナンスにより行われ、銀行は借主であ ・社債に優先する債務の不存在 るディベロッパーの信用力(返済能力)を判 ・シークエンシャル・ペイ方式(先順位の元 断し、土地を担保に融資を行ってきた。 不動産開発型証券化とは、 70 ・社債の償還原資は、原則として建物完成 本が全額償還されるまで次順位の元本償 還がなされない) ①SPCが事業主体となり、従来ディベロッ ・建物が社債期間中に遅延することなく十 パーが負っていた不動産開発にかかるリ 分な品質・性能を持って完成することがほ スクの一部をスキーム参加者に分散し、 ぼ確実と見込まれ、かつ、十分な販売期間 負担してもらうものであり、 が設けられていること ②調達した資金(社債、ローン等。以下「社 を前提とし、クロージング時点において 債等」という)の返済原資は、当該プロジ まだ存在していないマンションの販売代金 総額として評価された額をベースに、格付 の調達を行うものであるから、予定建物が けと発行可能額を決定する。 建築可能であること、つまり、建築確認が 下りていることが必要となる。また、建築 ■■ 3.格付けの視点 確認が下りていることにより、建物規模等 が確定し、当該事業から得られるであろう (1)想定されるリスク 将来キャッシュフローの算定が可能となっ てくる。 <土地取得(社債発行前)> a. 土壌汚染 c. 近隣問題 近隣問題が発生した場合、工期・販売活 開発予定地に土壌汚染が認められた場合、 当該予定地にかかるプロジェクト自体が長 動・期中費用(近隣対策費)に影響を与える。 期化し、また、最悪の場合にはプロジェク 土地の取得に際しては近隣説明および近隣 トを中止せざるを得ないケースもあり得る。 対策が終了し、近隣問題にかかる影響がない さらに分譲販売に与える影響も少なからず と判断できる状況にあることが必要である。 発生する。社債等の返済原資を得るために は定められた期間内に建物を建築し、販売 d. その他 しなければならない分譲マンション開発型 開発予定地に埋蔵文化財が内在する(ま 証券化案件においては、このような土地は たはその可能性がある)場合、着工までに 対象物件としては好ましくない。SPCが開 長期間を要したり、調査費用の負担が発生 発事業地を取得するに際しては、当該土地 するリスクがある。 にかかる環境調査を実施し、仮に土壌汚染 が認められた場合には、汚染の程度や分譲 <着工∼竣工> 販売に与える影響等から汚染除去の要否や 分譲マンション開発型証券化案件は、予 証券化対象物件とすべきか否かの判断を行 定建物が完成し、販売および引き渡しが行 う必要がある。アドバンス・プラチナ案件 われることにより社債等の償還原資を調達 では、地歴調査により、白金台PJについて することが可能となるため、建物の建設に クリーニングで使用する溶剤を起因とする かかるリスク(完工リスク等)を極小化しな 土壌汚染が存在する可能性があることが報 ければならない。 告され、当該土壌汚染は前所有者であるセ ラーの負担により法令に従って適切に掘 a. 完工リスク 削・除去が行われている。 ①建設会社の信用力・施工能力 建設会社の選定に際しては、現状、第一 b. 建設にかかる許認可 に目標格付け以上の格付けを有する建設会 開発型証券化は、クロージング時点にお 社またはJVとすることを依頼しており、当 いてまだ存在していないマンションの販売 該プロジェクトにおいて格付けを付保する 代金総額(不動産価値)を裏付けとして資金 ために一定の水準の信用力があるか否か July-August. 2003 71 (建設会社の財務内容、施工実績、プロジェ されているか、不可抗力に備えてどのよう クト規模等)について案件ごとに検討を行 な措置が取られているか(エクステンダブ っている。また、当該建設会社による工事 ル債の発行等)を検証するとともに、請負 の続行が困難になった場合の建設会社の交 契約において、工事を再開する環境が整っ 代に伴う工事代金の増加に備えて、保険会 た場合には建設会社は不可抗力により損害 社による履行保証または履行保証保険を付 を受けた工事目的物を除去、修補して速や 保する等の手当てを求めるケースもある。 かに工事を再開、続行する旨規定すること アドバンス・プラチナ案件では、下関PJに を求めている。 かかる建設会社の請負債務に関し、SPCを 被保険者としてニッセイ同和損害保険株式 c. 請負代金追加発生リスク 信用悪化に伴う建設会社の交代や不可抗 会社(ダブルA格相当)の履行保証保険が付 保されている。 力等により、当初予定されていた請負代金 ②不可抗力に伴う契約解除の可能性 に追加費用が発生する場合がある。追加請 民間(旧四会)連合協定の工事請負契約約 負代金の支払順位の劣後化、不可抗力に備 款によれば、不可抗力により建設会社が施 えた保険の付保や現金準備金の積立、建設 工できず、かつ、相当の期間を定めて催告 会社の交代に伴う請負代金の追加発生に備 しても解消されない時は、建設会社は工事 えた履行保証保険の付保等を講じる必要が を中止することができ、また、不可抗力に ある。 よる工事の遅延または中止期間が一定期間 を経過した時は、建設会社は請負契約を解 d. 開発受託業者の信用悪化 除することができるとされている。一方で、 開発受託業者の信用悪化により、マンシ 分譲マンション開発型証券化案件は、マン ョン開発の業務遂行が滞るおそれがある。 ション販売代金を社債等の償還原資として バックアップディベロッパーや資産管理会 予定しており、また、後述のとおり不可抗 社の設置が求められる。 力に備えた社債の償還期限の延長が設定さ れる。したがって、工事を再開する環境が <販売> 整った段階で速やかに工事が再開、続行さ a. れることが重要であり、工事の中止期間の ①分譲マンションマーケットの販売動向 経過に伴う請負契約解除のリスクを低減さ せる措置を講ずる必要がある。 販売リスク 格付けに際しては、対象プロジェクトに 関するマーケティングレポートをセラーお よび販売代理人のみならず、独立した第三 b. 工期延長リスク 信用悪化に伴う建設会社の交代や不可抗 72 者調査機関からも取り寄せ、証券化期間中 に回収可能な販売代金総額の算定を行う。 力等により、当初予定されていた工期が大 販売代金総額の算定にあたっては、販売開 幅に遅延する場合がある。格付けに際して 始時期等も考慮する。 は、どの程度余裕を持った償還期日が設定 ②販売代理人による販売活動 対象プロジェクトの販売動向は、当該プ の負担がないため、これに対する措置とし ロジェクトの所在する地域・圏域における て財団法人住宅保証機構が提供する住宅性 販売代理人の販売力に少なからず影響を受 能保証制度を利用することにより、マンシ けると考えられ、当該地域・圏域における ョン購入者に対する瑕疵担保責任を補完し 販売代理人の販売実績や顧客基盤に関する ている。 調査・分析および販売代理人へのインタビ ューを実施する。また、販売代理手数料は、 販売代理人に対するインセンティブフィー としての機能が働く方が好ましい。 (2)販売代金総額の評価 販売代金総額の評価にあたっては、販売 代理人の販売戦略および活動方針に関して インタビューを実施するとともに、以下の b. 販売代理人の信用悪化 販売開始前または販売開始後に販売代理 人の信用悪化が発生し、マンション販売業 務が滞ったり、販売速度が低下するおそれ 項目について検討を行い、販売代金総額の 算定を行う。 ・立地:分譲マンションとして適した立地 であるか否か がある。販売代理人の信用悪化時に販売代 ・商品コンセプト:立地・建物規模に応じ 理業務を引き継ぐバックアップの設置が求 た商品コンセプトが採られている められる。バックアップサービサーについ か否か ても、販売代理人と同様に、対象プロジェ ・マーケット状況:販売単価や契約率(初 クトの所在する地域における販売実績や顧 月、竣工時)の傾向、在庫戸数の 客基盤が重要視される。また、コミングルリ 状況 スク回避の観点から、マンション購入者か ・販売代理人の販売実績:対象物件の存す らの販売代金の振込方法にも留意する必要 る地域、圏域における販売代理人 がある。 の販売実績および顧客基盤 アドバンス・プラチナ案件の特徴として c. マンション購入者に対する瑕疵担保責任 地方物件が含まれることがあげられるが、 販売活動に支障が出ないように、瑕疵担 首都圏と地方とでは販売状況(初月契約率、 保責任の負担(販売代理人、バックアップ 竣工時契約率、販売完了までに要する期間 ディベロッパー、建設会社、公的機関また 等)が異なっており、販売代金総額の算定 は民間企業等)を決めておくことが必要で にあたっては、地域ごとのマーケット状況 ある。アドバンス・プラチナ案件では、バ の調査・分析が重要となる。 ックアップサービサーによる瑕疵担保責任 <参 考> 分譲マンション開発型証券化案件にかかる日本格付研究所(JCR)の格付け事例については、JCRウェブ サイト(http://www.jcra.co.jp/)において平成14年 2 月15日付「株式会社ディーシースカーラ・ワン」およ び平成15年 3 月10日付「アドバンス・プラチナ特定目的会社」のニュースリリースをご覧ください。 July-August. 2003 73 ARES REPORT J-REITは株なのか、 それとも投信なのか ― 制度上は会社型投信だが、 実態は上場株というファジーな位置付け 井出不動産金融研究所 不動産金融アナリスト 井出 保夫 のなかの日本を対象とした株価指数で、こ ■■ 堅調な日米REIT市場 今年に入ってから、日銀の新たな金融緩 れをベンチマークにしている日本向けの投 和策の一環として、J-REITの買いオペが何 資マネーは、総額で30兆円から40兆円と推 度も取り沙汰されてきた。J-REIT相場はそ 定されている。それだけに、この 2 銘柄の の思惑もあって、株式市場全体が低調だっ MSCI入りが当時の枯渇しかけたJ-REIT市 たのにもかかわらず堅調に推移してきたが、 場に与えた影響は大きい。例年四半期ごと 一方で 4 月末には代表銘柄とされるNBF に実施している銘柄入替時には、新規採用 (日本ビルファンド)とJRE(ジャパンリア 銘柄の多くが買われる傾向が続いているが、 ルエステイト)の 2 銘柄が、MSCI JAPAN 今回は予想以上に早く時価総額の上位 2 銘 インデックスの新規構成銘柄に採用された 柄が構成銘柄に採用されたことで、J-REIT ことを受けて、相場はさらに一段高となっ 全体に対する機関投資家の注目度がいっそ た。その後は株式市場全体が反発したこと う向上するとの思惑が働いたようだ。 から、結果的にJ-REITが株式市場底入れの これを受けて、4 月はJ-REIT 6 銘柄のう 露払い役を演じたかのような展開となった。 ち 4 銘柄が上場来高値を更新し、東証REIT MSCI JAPANインデックスとは、モルガ 指数(http : //www.tse.or.jp/cash/reit/tri/ ン・スタンレー・キャピタル・インターナシ data_j.xls)の上昇率は7.9%(配当金込みで ョナル(MSCI)社が算出する、先進国指数 8.2%)となった。また、5 月にはJ-REITの 6 表1 J-REIT6銘柄の株価、予想配当利回り、時価総額 銘 柄 株価(6/20、千円) 予想配当利回り NBF 672 4.2% 1,886 JRE 647 4.4% 1,458 JRF 616 4.7% 939 OJR 517 5.5% 637 JPR 266 4.7% 770 PIC 505 5.6% 300 ※予想配当利回りは、直近の予想配当金を6/20時点の投資口価格で除したもの。 ※時価総額は発行済投資口数に6/20時点の投資口価格を乗じたもの。 74 時価総額(億円) 表2 米国株式市場とREITのパフォーマンス (単位:%) 2000年 2001年 2002年 2003年 ① DJIA ▼ 9.4 ▼ 7.0 ▼16.8 △10.0 ② S&P500 ▼ 9.1 ▼13.4 ▼23.4 △13.0 ③ NASDAQ ▼39.2 ▼21.0 ▼31.5 △23.4 ④ Russell2000 ▼ 8.1 △ 2.5 ▼21.6 △17.5 ⑤ RMS △26.8 △15.5 △ 3.6 △11.9 ※2003年のパフォーマンスは6/19時点の年換算。 ※①Dow Jones 30-Stock Industrial Average(俗にニューヨークダウと呼ばれる、世界で最も影響力が大き い株価指標。ダウジョーンズ通信社が、1928年10月から30種平均として公表を始めたもの。ニューヨーク証 券取引所に上場する各セクターを代表する30の優良銘柄を対象に算出される) ※②S&P500(ニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、ナスダックに上場している金融、公共事業等を 含む幅広い業種から選ばれた上位500の大型株で構成される。単に時価総額を基準に選ばれるのではなく、米 国株式市場を代表する主要産業のなかからリーディングカンパニーを選出するのが特徴) ※③Nasdaq Composite Index(ナスダック市場に上場するすべての株式を網羅するインデックス。ハイテク関 連株が多いことで知られ、代表銘柄にはマイクロソフトやインテル、シスコシステムズ等の有名企業がある) ※④Russell 2000(フランク・ラッセル社が毎年5月末に米国株9000社のうち時価総額上位3000社の株式をラン ク付けするが、そのうち下位の2000社でつくった株価指数がRussell 2000と呼ばれ、米国小型株の代表的な 指標とされている) ※⑤Morgan Stanley REIT Index(RMS/RMSはサンプル数107で1996年から作成された代表的なREITイン デックス。配当益を加算した総合利回りとなっている。また、当初からヘルスケアREITを対象から外してき たが、2001年からサンプルに追加) 銘柄すべてが上場来高値を更新し、NBF、 JRE両銘柄の投資口価格はともに70万円/ 口の大台に迫る勢いを見せた。 4 月 1 日から 6 月20日までの東証REIT指 ■■ 大証がMSCI先物に「待った」 市場が密かに期待しているのは、J-REIT がMSCIに採用された余勢を駆って、東証株 価指数(TOPIX)にも採用されることだ。 数の上昇率(配当含む)は約12%となり、J- もしもこれが実現すれば、一昨年米国REIT REIT 6 銘柄の時価総額は約5,990億円となっ が苦節30年で初めてS&P500に採用されたよ た。ちなみにこの間の東証株価指数、日経 うに、J-REITもエスタブリッシュメントの 平均株価はともに約13%上昇している(表 1 仲間入りを果たすことができる。少なくて 参照) 。 もREIT関係者は皆それを期待しているに違 また、米国REIT相場も株式市場全体の地 いない。 合いが好転したのを受けて、6 月19日時点 ところが、早々にこうした期待感に冷や のRMS(モルガンスタンレーREITインデッ 水を浴びせるような出来事が起こった。 クス)の年換算総合利回りは11.9%となり、 MSCI JAPANインデックスの先物を上場し 予想配当利回りは6.5%となっている。米国 ている大阪証券取引所が、J-REITを採用し はいまだにデフレ懸念を払拭しきれていな たインデックス先物取引に待ったをかけた いが、REIT相場への直接的な悪影響はまだ のである。その理由は「J-REITは株ではな 顕在化していないようだ(表 2 参照) 。 いから」という素っ気のないものだった。 July-August. 2003 75 その根拠は、証取法の証券先物取引等に関 れも買い越しに転じているし、5 月には生 する内閣府令では、株以外の金融商品を含 損保の買い越し(△23億円)に加えて、信用 む指数の先物取引を認めないと定めてある 金庫や政府系金融機関の買い越し(△24億 からだという。そもそもJ-REITは株なのか、 円)が目立ってきたのがその証拠である。 それとも投信なのかという議論は、投資家 銀行のなかでも地方銀行の積極的な姿勢が の間では今も続いているわけだが、日本で 目立ち始めたというが、彼らは従来から投 はそのポジションが曖昧なまま今日まで来 資においても横並び意識が強く、今回J- てしまったのである。まさかそれが先物取 REITに投資する際も一斉に買い出動したこ 引の停止につながるとは、MSCIサイドも予 とで、相場の急騰を招いたといわれている。 想できなかったのではないか。 ■■ 米国REITからも苦情が J-REITは実質的に上場株とほとんど同じ MSCI JAPANインデックスがJ-REIT 2 銘 金融商品である。違いといえば、J-REITが 柄を採用したことで、大証はやむなく、 「本 発行する有価証券が、投資法人という日本 年 5 月21日から株価指数先物取引の対象と 独自の会社(ペーパーカンパニー)を発行体 してのMSCI JAPANインデックスが関係法 とするエクイティ(投資口)という点だけだ。 令に適合するまでの間、先物取引を停止す 課税上も上場株とほぼ同等に取り扱われて る」ことを決め、今後は「株価指数先物取引 いるし、コーポレートガバナンスにおいて の対象としての同インデックスが関係法令 も株式会社に見劣りする面は少ない。むし に適合し、取引を再開できるようMSCI社と ろグループ企業間で株式の持ち合い等をし の協議に加えて、海外の状況等を調査の上、 ない分、J-REITの方が優れているともいえ 関係当局への要望等を行っていく」とコメ る。投資家もそれを十分に納得したうえで、 ントした。何とも後味の悪い対応である。 株式投資と同等にJ-REIT投資をしているは ずだ。 もしもJ-REITのエクイティに不利な点が 76 ところで、本場アメリカのREIT業界か らも、REITの投資商品としてのポジショ ンの曖昧さに反発の声が上がっている。 あるとすれば、銀行、生損保等の機関投資 NAREIT(全米REIT協会)は日本の投信協 家が銘柄選定をする際に、J-REITを基本的 会に対して、REITを投信ではなく通常の上 に株ではなく、 「その他の金融商品」にカテ 場株式として認めるよう要請したという。 ゴリー分けしていることくらいである。機 この背景には、主に米系投資銀行が運用に 関投資家はこうした定義を変えない限り、 悩む日本の年金基金向けに、米国REIT投資 株でも債券でもないJ-REIT投資には積極的 を売り込む動きが活発化しているという事 になれなかったわけだが、最近ではその定 情がある。日本の年金基金はREITの投資判 義を『株と同等』の扱いに変更してJ-REIT 断に際して、当然過去のパフォーマンスの をポートフォリオに組み入れ始めたところ 優劣等を加味して投資の可否を決めること もある。4 月のJ-REITの手口を見ると、個 になるが、それよりもはるかに優先される 人は売り越し(▼80億円)なのに対して、銀 のが、そもそもREITが上場株であるのか、 行(△66億円)、生損保(△12億円)はいず それともそうでない投資信託の一種なのか という制度上のカテゴリー分けである。場 REITを組み込んだインデックス先物が取り 合によってREITは初めから投資対象になら 引きできない状態になるのも考えものだが、 ないと見なされかねないケースも想定され 自主規制団体の投信協会が実態にそぐわな るのである。 い自主ルールをそのまま続けているという 米国REITは日本の投信法のような法制度 で成り立っているわけではなく、あくまで のも大きな問題ではないか。 J-REITの自主規制団体は投信協会という 税法上の基準をクリアした不動産会社が、 ことになっているが、不動産投信が事実上 法人税非課税という税法上の特典を受ける 証券投信とは違う商品である以上、いつま ことができ、それをREITと呼んでいるに過 でも投信協会の自主ルールに身を任せるの ぎない。つまり、REITは税法上の概念に過 は問題が多いのではないか。証券会社の多 ぎず、あくまでも株式会社であることに変 くは伝統的に大型の株式投信や公社債投信 わりはないのである。したがって、現在ア を優先しがちであり、新顔で複雑、かつ時 メリカの証券市場に上場している174銘柄 価総額が6,000億円そこそこしかない不動産 (NY証券取引所135、アメリカン取引所31、 投信を積極的に手がけるつもりはないとい ナスダック 8 )のREITは、SECが定めた厳 うのが本心だろう。今回NAREITから発せ しい上場基準をクリアして専門市場ではな られたクレームは、投信協会の自主ルール く一般市場に上場を果たしているのである。 の変更はもとより、投信協会に代わるJ- 米国REITの流動性がJ-REITよりも高い水準 REIT専門の業界団体の設立を促す契機にも にある理由の一つがここにある。 なるのではないか。 現行の日本の投信協会の自主ルールでは、 * * * 運用会社がJ-REITを組み入れた投信を創設 なお、本レポート脱稿後に、投信協会はJ-REIT する場合には、J-REITが上場されていても を運用対象にしたファンド・オブ・ファンズ解禁に 純資産全体の 5 %までしか組み入れること ができない。従来のルールでは、投信が他 向けて、自主ルールを改正することを 7 月18日に 正式に決定すると発表した。改正内容等について は現時点では不明であり、したがってその詳細を の投信を組み入れる場合は、投資対象は証 レポートすることはできないが、後日本稿で追加 券投資信託に限定されていたため、不動産 的なレポートを提供したいと考えている。 投信を組み入れることができなかったが、 それでも改正により 5 %まで組み入れ可能 になったばかりである。しかもJ-REITだけ でなく、自国では上場株扱いの米国REITま でもが同様に規制されてしまうのである。 J-REITは紛れもない上場市場を持つ有価証 券であり、実質的には投信よりも上場株に 近い投資商品である。これを通常の証券投 資信託に組み入れて何の問題があるのだろ うか。前述したような証取法の壁で、J- いで・やすお ●1962年東京生まれ、 85年早稲田大学商学部卒業後、秀 和、オリックス、シンクタンク等を経て不動産金融アナリ ストとして独立。1999年に井出不動産金融研究所を設立 し、主に不動産会社や金融機関向けの証券化コンサルテ ィングや実務者向けの不動産証券化スクールの運営、不 動産金融レポート発行等による情報提供を手がけている。 主な著書として、 『REITのしくみ』 『証券化のしくみ』 (以 上日本実業出版社) 『不動産金融ビジネスのしくみ』 『不 動産は金融ビジネスだ』 (以上フォレスト出版)等がある。 『井出保夫の不動産証券化スクール』を随時開校中。 http://www.hi-ho.ne.jp/idex/ July-August. 2003 77 ARES REPORT J-REITがMSCIに 採用されたことについて 平成15年5月、MSCI日本指数構成銘柄見直しにより、初めてJ-REITから日本ビルファン ド、ジャパンリアルエステイトの2社が組み入れられることとなった。証券取引法により投資 信託が先物の指数に含まれることが認められず、結果として大証に上場していたMSCI先物が 上場廃止になるなど副作用も出ている。J-REITがさらに認知を受けるには、ハードルは高い がTOPIXへの採用が期待される。 このレポートでは、指数に採用されることがどのような波及効果を持って価格形成に影響を 与えるかを論じてみた。 MSCIとは、モルガンスタンレーキャピタ ルインターナショナル社が算出する世界株 用対象とする場合には日本年金同様TOPIX をベンチマークとすることが多い) 。 式指数群であり、各国の年金資金などが用 途に応じて運用上のベンチマークとして用 いているものである。 ベンチマークには二つの用途があり、一 つにはパフォーマンス評価(運用の巧拙を 日本の例では、公的年金・私的年金とも ベンチマーク対比での運用成果で評価す に外国株式運用のベンチマークとして当指 る) 、もう一つはユニバース設定がある。ユ 数のうち「MSCI KOKUSAI」を利用してい ニバースとは、投資対象の範囲を示し、ベ る。その内容は、MSCIの世界指数より日本 ンチマークの構成要素となるすべての銘柄 および発展途上国を除いたものである(表 1 を投資対象とし、そのなかから実際の投資 参照) 。 銘柄を決定することが多い。上記の例でい MSCIの利用度が高いのが米国の年金運用 えば、TOPIXをベンチマークとする場合、 であるが、日本の年金が外国株式のベンチ 東証一部上場銘柄すべてを投資対象とし、 マ ー ク に「 日 本 を 除 く M S C I = M S C I そのなかから実際の銘柄を選択するという KOKUSAI」を用いるのと同様に、米国を除 手順となる。 く指数(MSCI ex.US)を用いる、すなわち、 78 日本株を含む外国株式の運用のベンチマー 運用には大きく分けて 2 種類がある。上 クとして用いるのである(日本株のみを運 記のように銘柄の選択をするという意味で 表1 日本年金の利用するベンチマーク ベンチマーク名 内 容 日本株 TOPIX 東証一部上場銘柄 日本債券 NRI BPI 国債、社債など 外国株式 MSCI KOKUSAI 日本を除く先進国の株式 外国債券 シティーグループ世界債券 日本を除く先進国の国債 運用担当者が意思決定を行う形態(アクテ パッシブ運用ではインデックスとの乖離 ィブ運用)と、インデックスのパフォーマ を少なくする目的で、とくに運用資金が大 ンスとの乖離をできるだけ少なくするよう きな場合には、ユニバースすべてを保有す にする運用(パッシブ運用)である。 ることがある(完全法と呼ぶ)。その場合、 アクティブ運用ではベンチマークを上回 インデックスに採用された時点、今回の場 ることを運用目標とするが、その方法は大 合だと 5 月末に、新規採用銘柄を保有しな きく分けて二つある。一つは投資対象のな いことがリスクとなる。これは株価水準に かで投資先を絞り込むことであり、もう一 関係がなく行われる判断であり、採用日前 つはベンチマークに含まれない銘柄を保有 後にはパッシブ運用(インデックス運用と する(オフインデックス投資、と呼ばれる) も呼ばれる)の買いによって株価が上昇す ことである。 る可能性が高くなるのである。 後者の場合、とくに年金などの他人資本 を運用する場合には、プルーデントマンル 米国や豪州で取り引きされるREITやプロ ールから説明責任が強く要請され、さらに パティートラストはすでにMSCIに採用され オフインデックス投資の対象となる銘柄は ており、二重課税が行われないことから不 調査などのコストが高いことからも、結果 動産セクターに対する投資には投信を優先 として運用側にオフインデックス投資をし する投資行動も見られる。今回のMSCI採用 ないインセンティブとなってしまうことが は短期的な需給に基づく株価変動にとどま 多い。つまり、アクティブ運用にとっての らず、長期的な価格形成に影響を与える可 ユニバースに入る、すなわち投資対象とな 能性がある。 ることだけでも潜在的に株式需給に影響を (事務局・羽田野 浩伸) 与える可能性が高いことを意味している。 <参 考> ●MSCI世界指数に占める日本株の比率 約7.5% ●日本指数に占めるJ-REITの比率 約0.2%(総銘柄数 314、今回採用13、削除17) ●日本指数に採用されている不動産銘柄 三井不動産、住友不動産 July-August. 2003 79 会員の自主行動基準策定 不動産証券化協会では、昨年 7 月、 「平成 を掘り下げ、投資家の視点から不動産証券 13年11月に策定した不動産シンジケーショ 化に携わる事業者に求められる「共通の行 ン協議会会員の倫理行為基準の検証とその 動基準となるもの」である。 実効性を担保する手法」を運営委員会に対 会員に対しては、第 1 回通常総会の場に して答申するため、 「規律倫理に関する検討 おいて、本基準の目的・概要等を説明し、 委員会」(委員長:高 巌麗澤大学教授)を 周知徹底の一助とした。またホームページ 設置し、審議を行ってきた。その成果とし の掲載等により、会員のみならず一般に対 て 3 月に答申がまとまり、4 月の運営委員会 しても開示し、普及・定着を図っていく。 を経て、第2回理事会において「社団法人 不 今後、実効性担保の体制としては、規律 動産証券化協会の自主行動基準」および「規 委員会およびワーキンググループが、定款 律委員会規則」の策定と「規律委員会」の設 および規律委員会規則に則り、会員の規律 置が承認された。 確保に努めることとなる。 今般策定された「自主行動基準」は、不動 産証券化のプロセスごとに内在する諸問題 80 (事務局・山口 真紀子) 社団法人不動産証券化協会の自主行動基準 不動産証券化商品市場が、不動産市場と金融・資本市場を融合した新たな資産運用 の場として有効に機能し、持続的に発展するためには、投資家の市場の健全性に対す る信頼が不可欠である。従って、事業者がその専門職能に相応しい公正かつ適切な事 業活動を行うための自主ルールを設定し、これを励行することが、投資家との間に信 頼関係を確立するうえで極めて重要である。 このため、社団法人不動産証券化協会は、不動産証券化事業の当事者である当協会 会員が、その社会的使命を自覚のうえ遵守すべき倫理・行為規範として、以下の自主 行動基準を定め、その普及・定着を図ることとした。 1.(投資家ニーズに合致した商品性の確保)会員は、投資家が積極的に市場参加でき るよう、投資家ニーズに合致した商品・サービスの提供に努める。 2.(適切な情報開示)会員は、投資家が合理的な選択と判断ができるよう、常に正確 で適切な情報の提供に努める。 3.(投資家に対する誠実な対応)会員は、投資家からの問い合わせ、クレーム等に対 して誠実に対応する。 4.(受任者としての責任)会員は、高い専門性を有する受任者として、投資家その他 との信任関係に相応しい行動に努める。 5.(法令等の遵守)会員は、関係法令ならびに協会の定める定款、規則等を遵守する。 6.(専門知識と職業倫理の徹底)会員は、不動産証券化商品市場の健全な発展に資す るため、従業者の専門知識の習得と職業倫理の徹底に努める。 規律倫理に関する検討委員会委員リスト (所属・役職は、平成15年3月現在/順不同、敬称略) 委 員 長:高 巌 (麗澤大学教授) 副委員長:田中 和明 (中央三井信託銀行(株)法務部長) 委 員:由良 玄太郎((社)日本証券アナリスト協会顧問) 田村 幸太郎(牛島総合法律事務所 弁護士) 太田 達男 ((財)公益法人協会 理事長) 杉本 茂 ((株)さくら綜合事務所 公認会計士) 吉岡 一憲 (日本証券業協会 会員本部長) 畠田 峰雄 ((社)投資信託協会 総務部長) 小野 恩 (三菱地所(株)コンプライアンス部長) July-August. 2003 81 ARES REPORT 教育プログラムへの マイルストーン 第1回 「不動産投資商品に関わる人材育成プログラム研究会報告書」より 「ARES Vol.3」で紹介したとおり、 「不動産投資商品に関わる人材育成プログラム研究会」は、 不動産証券化商品に携わる人材の育成の必要性と教育プログラムに関する提言を『不動産証券 化商品市場の健全な発展のために』と題した報告書にとりまとめた。 不動産証券化協会では、この提言を受けて不動産証券化商品に関わるプロフェッショナルを 育成するため、称号(資格)制度を含めた教育プログラムを今中期計画のなかで検討していく こととなっている。 今回は「ARES Vol.3」に続き、教育プログラム策定の出発点であり、かつベンチマークと なる「知識体系」の構築について報告書の内容を中心に紹介する。 ■■ 1.知識体系の必要性 82 プログラムではBOK(Body of Knowledge) 、 実務に関する教育プログラムの策定にお 日本およびアジア・ヨーロッパ・南米の証券 いては、まず「習得すべき専門知識」を示さ アナリスト協会が参加する国際公認投資ア なければならない。これがガイドとなる ナリスト(CIIA)のプログラムではCKB 「知識体系」である。具体的には、不動産証 (Common Knowledge Base)と呼ばれる「知 券化商品に関するプロフェッショナルとし 識体系」が構築されており、カリキュラム て最低限習得すべき知識を重複や欠落なく のベンチマークとなっている。 リストアップし体系化したものである。構 「知識体系」は不動産証券化商品のさまざ 築された「知識体系」をベースとして科目ご まな実務に携わる(携わろうとする)者が との学習時間の配分、教材、学習方法など 各々の業務内容に関わらず共通して習得す いわゆる「カリキュラム」が作られる。 「知 べき知識の体系である。これらの人材は、 識体系」は教育(学習)すべき内容であり、 さまざまな応用力や創造力が求められる不 「カリキュラム」は教育(学習の)方法であ 動産証券化商品の実務の場で、その応用・ り、この二つのコンセプトは異なるが、有 創造の土台として、さらに、専門領域を深 機的に関連する。 めかつ市場全体にも精通したプロフェッシ 「知識体系」は証券アナリストの教育プロ ョナルとなる土台として、断片的な知識で グラムにおいて永年の歴史を有する。アメ はなく、体系化された専門知識をしっかり リカ(AIMR)の証券アナリスト(CFA)の と習得しておかねばならない。一方、この ような「知識体系」によらないカリキュラム ■■ 3.知識体系の領域 は、教える(学習する)内容が不動産証券化 不動産証券化商品はファイナンスと不動 商品の実務におけるニーズを過不足なく反 産の分野が融合した商品であり、プロフェ 映しているかどうかの評価ができないため、 ッショナルとして習得すべき専門知識は多 必ずしも十分とはいえない。逆に、 「知識体 岐にわたる。研究会では、多岐にわたる専 系」に基づいたカリキュラムは、一定水準 門知識について以下のような領域(大科目) の専門知識を共有する人材の育成、ひいて 分類を試みた。別表は、知識体系の領域別、 は不動産証券化商品市場における知識の標 レベル別整理のイメージであり報告書に掲 準化、投資家の信頼につながる。したがって 載されている。各々の領域の必要性は以下 「知識体系」の構築は、カリキュラムを提供 のようにまとめられる。 していくうえで不可欠なプロセスといえる。 ①投資分析とファイナンスの基礎 ■■ 2.知識体系構築の方法 従来の不動産ビジネスでは、不動産価 ①多岐にわたる専門知識を重要性や特質に 格の上昇が続いたため証券投資の実務で 応じていくつかの領域(大科目)に分類す グローバルスタンダードとなっている投 る。各々の領域はそのまま独立した科目 資やファイナンスの理論が応用される素 になる場合といくつかの領域が一つの科 地はできにくかった。しかし、不動産証 目に統合される場合とがある。各々の領 券化商品は投資財としての認知を高めつ 域をさらに中科目、小科目というように つあり、投資のカテゴリーの一つとして 細分化する。 の地位を確立するために、投資やファイ ②各科目ごとに基礎レベルと応用レベルに 分類する。 ナンス理論、さらに前提として統計や経 済学に関する基礎的知識が不可欠である。 ③国を問わず共通する知識(Common)と日 本に独自の知識(Local)に分類する。 ②不動産の基礎 ④具体的なカリキュラムの対象とする科目 不動産証券化商品では、投資家が受け を定める。知識体系の内容を、受講者が 取る分配金は実物不動産からのキャッシ あらかじめ習得しておくべき知識、カリ ュフローを裏付けとする。証券化の対象 キュラムの対象となる知識、称号取得後 不動産のキャッシュフローとリスクを予 に引き続き習得すべき高度な知識に分類 測・分析し、投資の意志決定を行ううえ する。知識体系の基礎レベルと応用レベ で投資財としての実物不動産を多角的に ルの一部が具体的なカリキュラムの対象 分析・評価するための知識―不動産経済 となる(証券アナリストのプログラムで 学、デューデリジェンス、時価評価の知 は、知識体系全体をPre-Candidate CKB、 識を含めて―が不可欠である。 Candidate CKB、Post-Candidate CKBに 分類) 。 ③不動産ファイナンス 不動産に対するエクイティ・デットの July-August. 2003 83 表 知識体系の領域別・レベル別整理のイメージ(知識体系構築のための便宜的整理) 基礎分野 (1) 投資分析と ファイナンス の基礎 (2) 不動産の基礎 ①確実性下での資産選択と評価 (3)不動産ファイナンス ②ポートフォリオ理論 ①不動産のフェアバリュー ③アセット・プライシング ②不動産のリスク管理 ④債券投資分析 ③不動産価値最大化 ⑤株式投資分析 ④不動産エクイティ・ファイナンス ⑥デリバティブ理論 ⑤不動産デット・ファイナンス ⑦資金調達決定に関わるコーポレート・ファ ⑥CMBS イナンス ⑦REIT ⑧統計分析と統計学の基礎 ⑧RMBS ⑨経済学の基礎 ⑨不動産デリバティブス ⑩不動産収益率 ①不動産経済学(不動産市場分析、不動産の ⑪アセットミックスとしての不動産 統計と情報) ⑫不動産金融工学(不動産ファイナンスの ②不動産のデューデリジェンス より実証的分野) (不動産状況調査、環境調査、法的調査、経 (不動産リスク分析、不動産ポートフォリ 済的調査) オ分析、不動産経営戦略、不動産ファン ③不動産の評価 ドの評価、商業用不動産担保ローンと ④不動産開発・企画 CMBS等) ⑤不動産取引・流通 ⑥不動産経営・管理 (4) 法律 ①不動産法の基礎 (民法、借地借家法、土地利用と建築に関す る法規制、宅地建物取引業法) ②金融法の基礎(証券取引法、金融商品販売 法、銀行法) ③関連法(商法、信託法、株式会社法、有限 会社法、破産法他) ④不動産証券化商品の仕組みに関する法律 (投信法、資産流動化法、不動産特定共同事 業法、ケイマン法) ⑤その他関連法制 (債権譲渡特例法、サービサー法、保険業法) ⑥法的論点 (5) 会計 ①財務会計の基礎 ②財務諸表分析の基礎 ③不動産の証券化に関わる会計の基礎 (連結財務諸表、金融商品会計、リース会計、 信託の会計、匿名組合の会計) ④不動産の証券化に関わる会計原則・会計 処理 (不動産の譲渡人の会計処理、ビークルの 会計処理、投資家の会計処理、金融商品 会計におけるオフバランス化、連結の範 囲、関連分野) ⑤ビークルの財務分析とパフォーマンス予測 (SPC、投資信託・投資法人) (6) 税務 ①所得税・法人税の概要 ②不動産関連税の概要 ③ビークル段階の課税 ④投資家段階の課税 ⑤国際課税における留意点 ⑥否認の可能性 ⑦各国における課税の概要 ⑧課税の事前予測と事後的紛争の解決 ⑨事例に即した論点 (7) 職業倫理 ①投資関連法令等 ②不動産証券化商品に関わるプレイヤーの 職業倫理・行為基準 (8) 統合分野 ①不動産証券化商品の種類と市場構造 ②不動産証券化商品の仕組みと法規制 ③資産流動化型商品(CMBS)の組成の実務 ④資産運用型商品(不動産ファンド)の運 用の実務 ⑤不動産証券化における諸問題 (社)不動産証券化協会作成 84 応用分野 投資、投資後のアセット・マネジメント、 ⑦職業倫理 不動産ポートフォリオの運用、不動産を 投資家の信頼を得るためには、投資商 原資産とする証券化商品の組成や証券化 品を取り扱うプロフェッショナルとして 商品の投資分析・評価等はファイナンス の高い職業倫理―法令等の遵守にとどま と不動産の知識を融合した不動産ファイ らず、自己規律としてもつべき道徳規範、 ナンスの領域であり、 必須の知識といえる。 倫理まで含むもの―を兼ね備えることも 不可欠である。 ④法務 不動産証券化商品の組成ではビークル ⑧統合分野 に関する法律はもとより、不動産法、金融 個別の知識がどのように統合され、実 法等さまざまな法律が関係する。供給さ 務で生かされているかを理解するうえで、 れた商品を分析・評価するうえで、法的 不動産証券化商品の市場動向に関する知 仕組みを十分理解しなければならないと 識や、商品の組成・投資分析実務を事例 いう点でも、関連する法律の基礎および に即して習得する統合的な領域も必要で 実務上の論点に関する知識が必要となる。 ある。 ⑤会計 会計の知識は不動産を証券化する過程 当協会では、より詳細な知識体系の構築 に伴うオリジネーター、ビークル、投資 に着手し始めたところであるが、最も重要 家の会計処理、ファンドやSPC等のビー なことは、日々進化し続ける不動産証券化 クルの財務分析など多岐にわたる分野で 商品の実務で必要とされる知識やスキルを 必要とされる。 いかに過不足なく盛り込み、体系化するか 財務諸表は全体が連動するため、不動 である。すでに確立している理論や制度に 産を証券化関連の会計原則、会計処理は 加え、新たに出てきた理論や制度、論点、 企業会計に関する基礎的知識をベースに 実務が先行している分野についても知識体 習得すべきである。 系に盛り込むことが必要であり、そのため には第一線で商品に関わる実務家の声を十 ⑥税務 分反映させることが必須となる。さらに知 税は投資家にとり投資パフォーマンス 識の体系化という点で、教育の専門家であ を下げるコストである。投資家の究極的 る学識経験者の協力も欠かせない。知識体 な目的は税引き後キャッシュフローの割 系の構築は文字どおり、産学協同のプロジ 引現在価値の最大化である、という視点 ェクトといえる。 に立ち、原資産である不動産の取り引き、 (事務局:松井 陽子) ビークル段階、投資家段階の課税に関し て知識を習得すべきである。 July-August. 2003 85 オーストラリアLPTの 情報開示について(調査報告) 前 編 国土交通省総合政策局不動産業課不動産投資市場整備室 ために、自己保有物件でLPTを組成するよ 1.オーストラリアのLPT うになったこと等が語られるが、それに加 オーストラリアの上場不動産投資信託 (LPT:Listed Property Trust/図表 1参照) え、LPTの真摯な情報開示の取り組みによ は、時価総額が1980年代後半に、約50億ド り投資家の信頼を獲得できたことが重要な ル(約4,000億円)だったものが、90年代に急 要素として強調されている。 速な拡大が図られ、2001年度末で約430億ド わが国においては、平成15年度税制改正 ル(約3兆4,000億円)までに達している( 1 において、J-REITに対する個人配当課税の オーストラリア・ドル=79.5円で換算。以下、 簡素化・軽減等が措置されたところである 同じ。/図表 2 参照) 。 が、今後、J-REIT市場を拡大していくため このような急速な拡大の背景として、 には、J-REITに対する投資家の信頼を獲得 1993年から1995年にかけて、オフィス、シ していくことが何よりも重要であると考え ョッピング・センターといった特定の用途 る。このため、今般、(社)不動産証券化協 に特化したLPTが登場し、アセット・アロ 会と連携してオーストラリアLPTの情報開 ケーションを考える投資家の好評を得たこ 示に焦点を当てて、その仕組みや実態等に と、1996年から1998年にかけて、生命保険 ついて現地調査を行った。訪問先は、 会社等の金融機関が、財務体質を改善する ・オーストラリア証券投資委員会(ASIC) 図表1 LPTの仕組み 不 動 産 ASIC マネージャーとして 資産運用・管理 登記上のオーナー スキーム銀行口座管理 R E カスタディアン カスタディアン 契約 投資家に対し、 単独法定責任を負う 投資家 (注)カスタディアンの設置はREの自社純有形資産が50万ドル未満の場合 法準拠委員会の設置はREの外部取締役が半数に満たない場合 (出所)金城法律・会計・ビジネス・コンサルタンツ 86 ライセンス取得 法準拠プラン・定款 ・目論見書の登録 運営の監視 法準拠委員会 図表2 LPT時価総額の推移 (百万ドル) 50,000 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 ― 92年9月 93年9月 94年9月 95年9月 96年9月 97年9月 98年9月 99年9月 00年9月 01年9月 Listed Property Trust Unlisted Property Trust Property Trust 合計 (出所)オーストラリア政府・統計資料より作成 ・オーストラリア証券取引所(ASX) 図表3 LPTの情報開示制度 ・プロパティ・インベストメント・リサーチ (民間調査機関) 豪州会社法 Corporations Act 2001 ・プロパティ・カウンシル・オブ・オースト ASIC会社法 指導書 ポリシー・ステートメント(PS) プラクティス・ノート(PN) ラリア(不動産関係業界団体) ・ジェネラル・プロパティ・トラスト(LPT LPT 運用会社) ・ウエストフィールド・トラスト(LPT運用 会社) ・金城法律・会計ビジネスコンサルタンツ 上場規定 ASX上場基準 指導書 ASX Listing Rules ガイダンス・ノート(GN) である。 以下では、訪問先でのヒアリングで聴取 した生の情報も適宜折り込みつつ、オース 開示規定は、基本的にすべての会社にも当 トラリアLPTの情報開示の取り組みについ てはまるような抽象度の高いものとなって て解説を行うこととする。 いる。他方、上場会社を対象に効力を有す る規則として、オーストラリア証券取引所 2.LPTの情報開示の制度 (1)制度の仕組み (ASX)の上場規定があり、場合によっては 会社法より水準の高い情報開示を求めてい オーストラリアでは、日本の投信法のよ る。いずれにしろ、会社法、上場規定およ うにLPTを規制している個別法はなく、法 びそれぞれの指導書が一体となって、LPT 人全般を規制する会社法により規制が行わ の情報開示を規制している(図表 3 参照) 。 れている。このため、会社法における情報 LPTが他の一般の会社と同じ規定で規制 July-August. 2003 87 されることについては、オーストラリアの にあるとのことである。 行政当局はとくに奇異に感じていないよう 目論見書については、2002年 3 月にFSR である。とくに、情報開示については、事 法(Financial Service Reform Act)という法 前に一律に細かく規定するのは適当でなく、 律が施行されて、会社法の改正(第 7 章の まず、大まかな方針のもと会社から書類を 部分を追加)が行われ、すべての金融商品 出させ、投資家の観点からチェックすると を同一の基準で比較できるよう、従来の目 ともに、水準の高い書類については推奨例 論見書に代えて、PDS(Product Disclosure として開示するなど、漸進的なやり方で改 Statement)という商品説明書を作成、開示 善を図っているとのことであった。 することとなった( 2 年の移行期間あり)。 LPTは会社法、上場規定に従って、必要 ただ、LPTはもともと情報開示が進んでい な 書 類( 目 論 見 書 ま た は P D S < P r o d u c t るため、これまでの目論見書と情報開示の Disclosure Statement>、年次報告書、適時 水準において大きな差異は生じないとの関 開示書類等)を、オーストラリア証券投資 係者からのコメントが多かった。調査時点 委員会(ASIC)とオーストラリア証券取引 で入手できたのは、非上場プロパティー・ 所に提出する。オーストラリア証券投資委 トラストのPDSのみであったが、そのなか 員会は提出を受けた書類をデータベース化 の物件情報の主要な部分を示すと図表 4 の し、一般に有料で提供している(ただ、最 とおりになる。 近、各LPTでの開示に移行させているよう である) 。また、オーストラリア証券取引所 は提出を受けた書類を同日中にインターネ ット等を通じて一般に開示している。 (3)年次報告書 LPTが定期的に作成、開示しなければな らない書類として、年次報告書と半期報告 書がある。 (2)目論見書またはPDS 88 会社法では、年次報告書と半期報告書で (Product Disclosure Statement) 「財務報告(Financial Report) 」 「運営報告 日本の場合と同様に、新規の株式を発行 (Directors Report) 」を掲載することになっ する場合には、投資判断に必要な情報を掲 ている。 「財務報告」では、財務諸表やその 載した目論見書を作成し、開示しなければ 注釈、取締役の宣言(財務諸表等が法令に ならない。会社法では、目論見書の内容は 従い、真実・公正である等の宣言)が記載さ 原則として、 「投資家や投資のアドバイザー れる。また「運営報告」では、1 年間の運営 がその株式に関する権利義務を検討するに のレビューと結果、重要な変更事項の詳細 要するすべての情報」とされているが、具 のほか、年度終了後に起こり、将来重大な 体的な開示内容については規定していない。 影響を及ぼす事項の詳細、将来起こり得る このため、たとえばLPTの目論見書につい 運営上の進展と結果、配当額、配当予定だ ても、賃料、契約期間等、個別の物件にか ったが支払われなかった額、取締役名、役 かる賃貸借契約の内容まで出しているもの 員等に支払われた報酬、REに支払われた報 から、そうでないものまでバラバラな状況 酬、今年度発行された株式、年度末の資産 図表4 PDSの事例(FKP) No of Tenants 20 Occupancy Avg Tenancy Area Avg Initial Lease Term 776sqm 7.25years 100% Avg Lease Expiry % Term Remaining 6.6years 91% Key tenancies include: Occupied % of Area(sqm) NLA Lease Expiry Rent Reviews p.a. Options Sunwater 2, 90118.7% March 2009 Fixed 3.5% 1×4years Dibbs Barker Gosling 1, 88212.1% December 2011 Fixed 4%. 1×5years market in 2006 FKP Limited 1, 85312.0% September 2007 Fixed 4%. 1×6years market in 2004 Hall Chadwick Pty Ltd 1, 83411.8% October 2009 CPI min, 3% max to 2005, market in 2006, CPI min, 2% max remainder Byvan(Qld)Pty Ltd 1, 067 6.9% October 2008 Fixed 4% None 967 6.2% October 2006 Fixed 4% None October 2011 Fixed 3.5% None Tenant Napier & Blakely Pty Ltd Kings Parking Pty Ltd 91spaces n/a 1×2years (出所)FKP limited「FKP Commercial Property Trust No.1 Product Disclosure Statement」 の評価額等(半期報告書では、半年間の運 営のレビューと結果、取締役名のみ)が記 載される。 上場規定では規定で示された書式に従い、 (4)適時開示 会社法では、上場した会社は上場規定に 従い適時の情報開示を行わなければならな いとされている。上場規定の 3 - 1 条では、 同一の様式で、年次報告書、半期報告書を 「分別のある平均的な投資家が考えて株価に 作成することになっている。報告書には、 影響があるだろうという重要な情報を、上 会社の経営状態、主要株主構成、会社のガ 場した会社は、その状況が発生した時、た バナンスに関する記述等も記載される。 だちに、オーストラリア証券取引所(ASX) 以上のような会社法、上場規定等に基づ へ報告しなければならない」と規定されて き作成している年次報告書について、物件 いる。また具体的な例示として、 情報の主要な部分の実例を示すと、図表 5 ・LPTの他の銘柄の買収、他の銘柄への売 (ジェネラル・プロパティ・トラストの例)、 図表 6(ウエストフィールド・トラストの例) のとおりである。なおオーストラリアでは、 どちらかというと、ジェネラル・プロパテ ィ・トラストが情報開示面で進んだ取り組 みをしているとの評価があるようである。 却の意思 ・大きな物件の購入・売却(とくに、全資産 5 %以上の金額のもの) ・市場公開してきた利益リターン予測値の 大幅な変更 ・配当予想値・配当決定値 July-August. 2003 89 図表5 LPTの情報開示例(GPT) Key information Location: Maroochydore,QLD Canberra,ACT Wollongong,NSW Acquired: *Dec 1992 Feb 1986 Crown Central: Gateway: GPT ownership: JVIA/50%* 100% 100% Co-ownership: Australlian Prime Property Fund ― ― Gross lettable area: Retail: 69,300 sqm Office: 2,400 sqm Other(tavern): 600 sqm Total: 72,300 sqm Retail: 64,800 sqm Office: 6,300 sqm Total: 71,100 sqm Retail: 32,300 sqm Office: 3,600 sqm Other(health club): 2,600 sqm Total: 38,500 sqm Car parking spaces: 3,520 2,700 1,470 Annual sales turnover: $345.0m $374.1m $157.7m Specialties: *$8,385 Total centre: *$6,181 Specialties: Total centre: $7,997 $5,033 Specialties:* Total centre: Specialties: Total centre: 13.5% 9.7% Sales turnover(per sqm): Specialties: Total centre: *$8,841 *$6,209 *14.2% *8.9% Occupancy costs: Specialties: Total centre: Net income to GPT: $7.5m $28.1m $11.9m GPT book value: $169.6m (includes JVIA deposits) $353.3m $136.5m Valuation: **$153.5m *$335.6m $130.0m Valuation date: 30 sep 2002 31 Mar 2001 31 Mar 2001 Valuation method: *1. 10 year dcf at 10.25% using terminal cap rate of 7.5% *2. Current cap rate of 7.25% 1. 10 year dcf at 1. 10 year dcf at 11.75% 10.25% using terminal cap rate of using terminal cap 9.5% rate of 8.25% 2. Current cap rate of 9.0% 2. Current cap rate of 7.75% Occupancy: Retail: Office: Retail: Office: Number of specialty stores: 246 Tenant Distribution: % GLA(Retail) 100% 100% 13.8% *8.2% Jul 1996 Oct 1998 100% Retail: 100% Office: 225 21% 19% 98% 94% 147 % GLA(Retail) % GLA(Retail) 21% 12% 36% 19% 20% 7% 14% DEPARTMENT STORE DISCOUNT DEPT STORE SUPERMARKET CINEMAS OTHER SPECIALTY NATIONAL SPECIALTY *Sunshine Plaza only. **Value of GPT's interest in Sunshine Plaza plus Plaza Parade. ***Including Horton Parade,Plaza Parade and Maroochydore Superstone Plaza. (出所) General Property Trust「2002 Full Annual Report」 90 44% 13% 12% 6% 12% DEPARTMENT STORE DISCOUNT DEPT STORE SUPERMARKET CINEMAS OTHER SPECIALTY NATIONAL SPECIALTY *Woden Plaza only. **Including Bonner House. 38% 6% DEPARTMENT STORE SUPERMARKET NATIONAL SPECIALTY OTHER SPECIALTY Adelaide Canberra Sydney Sydney Brisbane Perth Sydney Sydney Brisbane Melbourne Wollongong Melbourne Perth Sydney Sydney Perth Sydney Adelaide Sydney Sydney Sydney Sydney Arndale(50%) Belconnen(50%) #Bondi Junction Burwood Carindale(50%)** Carousel Centrepoint Chatswood Chermside Doncaster Figtree Fountain Gate Galleria Hornsby Hurstville(50%) Innaloo Liverpool(50%) Marion(50%) Miranda(50%) Mt Druitt(50%) North Rocks Parramatta 1993/1999 1982 2000 1982 1987 1983 1996 1988 1982/1996 1996 1995/1997 1982 1993/1997 1996 1993 2001 1996 1999 1992 1994/1998/2001 1986 1987 1982 Acquisition Date 724 55.2 119.3 198.9 185.5 120.8 54.9 128.3 488.8 326.1 391.8 33.6 308.9 368.5 386.7 270.7 345.2 224.9 371.3 179.6 84.3 47.5 127.1 (出所)Westfield Trust「Westfield Trust Annual Report 2002」 Melbourne Location Airport West Westfield Shoppingtown Cost Plus Subsequent Capital Expenditure $Million 824.0 54.6 119.3 325.2 250.9 181.5 69.5 184.2 531.3 355.0 425.0 55.8 329.2 427.0 520.0 270.7 375.8 225.0 411.1 201.3 165.6 44.8 156.6 Book Value $Million 7.00% 10.50% 8.00% 7.00% 7.25% 7.25% 9.50% 7.75% 7.25% 7.50% 7.25%* 10.50% 7.50% 7.25% 7.00% 8.25% 7.50% 7.25% 7.25% 9.0%/10.5%*** 8.25% 10.00% 8.75% Cap Rate Dec.02 Jun.01 Sep.00 Jun.02 Dec.00 Dec.02 Dec.02 Jun.01 Dec.01 Dec.02 Dec.01 Jun.00 Jun.00 Dec.02 Dec.02 Oct.01 Jun.02 Jun.02 Dec.00 Dec.00 Jun.00 Dec.00 Jun.00 Latest Valuation Date 537.6 91.6 255.6 555.8 499.7 293.5 118.4 307.6 441.4 322.3 421.9 129.4 328.4 365 409.2 113.3 339.5 454.1 306.6 # 369.5 142.5 198.5 Total $Million 0.4 (1.6) (0.4) 4.3 7.0 2.3 7.3 2.9 69.8 3.7 29 7.1 4.6 11 3.5 8.2 3.5 10.3 8.8 n/a 4.9 5.2 3.3 Variance % 8,916 4,989 7,098 9,473 8,575 8,882 6,334 7,968 n/a 7,738 n/a 8,347 8,981 7,565 8,401 10,230 7,260 7,373 7,310 # 7,956 5,934 6,310 Specialty $ Per Sq M Retail Sales 5.7 (7.7) 2.5 6.5 7.5 3.4 5.7 3.4 n/a 5.3 n/a 1.5 4.3 15.5 0.4 (0.4) 7.7 12.5 9.1 n/a 3.2 6.6 5.7 Variance % 125,033 21,197 68,615 108,441 119,425 69,274 26,587 64,332 98,425 75,324 132,744 20,142 56,247 78,645 54,074 45,965 84,997 112,782 422 91 190 361 329 226 86 240 328 228 317 79 244 259 290 162 249 277 242 330∧ 75 64,578 209 104,875∧ 23,990 115 172 No.of Retailers 75,673 40,626 54,531 Lettable Area Sq M Major Retailers and Special Features Grace Bros,David Jones,Target,Kmart,Woolworths, Coles,Village 8-Cinema Complex Kmart,Coles,Flanklins Grace Bros,Kmart,Woolworths,Coles,Bi-Lo, Hoyts 8-Cinema Complex Grace Bros,David Jones,Big W,Target,Woolworths, Flanklins,Greater Union 8-Cinema Complex Myer,David Jones,Target,Kmart,Big W,Woolworths, Coles,Harris Scarfe,Greater Union 30-Cinema Megaplex, Restaurant and Leisure Precinct Grace Bros,Target,Woolworths,Coles, Greater Union 12-Cinema Complex Coles,Target,Kmart Grace Bros,Target,Kmart,Coles,Food for Less,Aldi, Greater Union 8-Cinema Complex Grace Bros,David Jones,Target,Kmart,Woolworths,Coles, Greater Union 9-Cinema Complex, Restaurant and Leisure Precinct Myer,Target,Kmart,Woolworths,Coles, Greater Union 8-Cinema Complex Target,Kmart,Big W,Coles,Safeway,Bi-Lo,Megamart, Village 10-Cinema Complex,Restaurant and Leisure Precinct Kmart,Coles,Woolworths Myer,Kmart,Coles,Safeway,Village Twin Cinema Myer,Target,Kmart,Coles,Bi-Lo,Birch Carroll & Coyle 16-Cinema Complex,Restaurant and Leisure Precinct Links to Grace Bros,Target,Coles,Food for Less, Hoyts 6-Cinema Complex,Restaurant and Leisure Precinct Offices,Links to Grace Bros & David Jones,Centrepoint Tower Myer,Kmart,Woolworths,Coles,Hoyts 14-Cinema Complex, Restaurant and Leisure Precinct,Target David Jones,Myer,Target,Big W,Woolworths Harvey Norman,Action,Birch Carroll & Coyle 8-Cinema Complex Grace Bros,Target,Kmart,Coles,Woolworths,Greater Union 12-Cinema Complex,Restaurant & Leisure Precinct Kmart,Target,Harris Scarfe,Coles,Bi-Lo,Safeway Village 8-Cinema Complex Harris Scarfe,Big W,Woolworths,Bi-Lo, Greater Union 8-Cinema Complex Grace Bros,Kmart,Coles,Woolworths,Dan Murphy's Liquor Hoyts 10-Cinema Complex Grace Bros,David Jones,Target,Woolworths,Coles, 2,000-seat Greater Union Cinema Complex,Restaurant and Leisure Precinct,Office Towers 図表6 LPTの情報開示例(WFT) July-August. 2003 91 等をあげている。ただし、以下の 3 要件 措置が取られることとなる。 のすべてに該当する場合には、オーストラ たとえば、オーストラリア証券取引所は リア証券取引所の報告義務はないことにな 毎日、新聞等をチェックしており、新聞等 っている。 に正式の開示手続を経ていないにも関わら ①通常株式投資を行う投資家であれば開示 ず、投資家の利益を損なうような適宜開示 を期待しないであろう情報 ②当該上場会社にとって極秘情報の範疇に 入る情報 ③以下のいずれか一つに該当する場合 イ)開示する行為が法律違反になるであ ろう情報 ロ)途中段階であるビジネス提案や交渉 情報 ハ)開示を正当化するには仮定の部分が 多すぎる情報 情報が掲載された場合には、当該会社へ確 認を行い、当該会社がすぐに正式の開示手 続を行うなど何らかの対応をしない時には、 上場停止の措置が取られる。 オーストラリア証券取引所によると、会 社の上場停止については、実際に、市場全 体で 1 週間に 2 、3 件は行われるとのことで ある。ただ、LPTについては近年、取引停 止を受けた例はないようである。 適宜開示情報は、会社の最寄りのオース 二)企業内部の経営に関する情報 トラリア証券取引所の事務所へファックス ホ)企業秘密に関する情報 やメール等により報告が行われる。オース 要するに、基本的には、株価に影響を及 トラリア証券取引所は報告内容に応じて、 ぼす情報はすべて開示しなければならない 当該情報をウェブサイトに掲載(図表 7 参 ことになっているが、このような義務に違 照)したり、必要な場合は記者発表を行う。 反した場合には、当該会社の上場停止等の 図表7 適時情報開示例 (出所) オーストラリア証券取引所(ASX)ホームページより。 92 追悼 平成15年 6 月19日、 山昌一先生が逝去されました。 当協会とのかかわりでは、 「日本型不動産投資ファンド研究会」座長やシンポジウムでの講演 者としての姿がすぐ目に浮かびますが、社団法人化を含め日常的に親身なご指導をいただいて きました。平成15年 3 月発行の会報 2 号に寄せられた「社団法人不動産証券化協会に期待する」 も病床から送られたものです。 「日本型不動産投資ファンド研究会」委員の方々を中心に、先生の思い出をお寄せいただき ました。 (氏名五十音順・敬称略) 山先生を偲んで 東京大学法学部 教授 岩原 紳作 なったのが、日本型不動産投資ファンド研 究会においてであった。 不動産投資ファンド研究会や審議会にお ける 山先生の御活躍で何よりも強く印象 山昌一先生にお目にかかっ 付けられたのは、先生の我が国金融システ たのは、昭和63年に大蔵省証券局で始まっ ムの改革、特に市場型金融への移行を実現 た投資信託研究会の委員としてであった。 したいという熱意であった。先生はそのた それ以来、 めに投資信託や証券化関連商品の発展に期 私が始めて 山先生とは証券取引審議会、 金融制度調査会、金融審議会の幹事・委員 待され、不動産投資ファンドの実現・発展 として、大蔵省、金融庁の審議会で御一緒 に並々ならぬ情熱を抱いておられた。先生 させて頂いたが、それ以外で最もお世話に は、そのような熱い情熱の一方で、大変冷 May-June. 2003 93 静な現状認識を持ち、抜群の実務的・政治 のいたずらっ子の様な懐かしいお顔が、い 的センス、そして法的思考能力まで持って つもの様に微笑んでおられるので、最初に おられた。法律的センスのよさは、立法の お会いした10年前の事が蘇りました。関西 審議をした際に、我々法律家が気付かなか の北摂のテニスクラブで度々お目にかかり、 ったようなポイントを指摘されて、舌を巻 先生の爽やかなテニスがとても印象深く、 く思いがしたこともある。 兄貴の様な雰囲気を感じておりました。 経済学の高い御見識のほかに、そのよう 当時、先生は独身(?)という気軽さもあり、 な実務的・政治的・法的センスが、先生の金 テニスで汗を流した後我が家により、庭で 融行政における縦横無尽の御活躍をもたら バーベキューを御一緒した事がありました。 したように思われる。先生は純粋な理論家 先生も大学時代山岳部に所属しておられ、1 であるとともに、理想を少しでも実現した 年生の時腰を痛められた由。東大と京大の いと行動する学者でもあった。しかしそれ 新入部員の訓練の違いに驚いたり、炭火を は現実の政治的制約の中で行動せざるをえ 見ながら山の思い出を語りあった事が、ご ない悩みを先生が抱き続けられることも意 逝去の報の重みと共に胸一杯に込み上げて 味したように思われる。先生と最後に親し 参りました。 く仕事をさせて頂いた金融庁の「中期ビジ テニスから 6 年後、平成11年に大蔵省の ョン」に関するスタディ・グループにおける 金融制度審議会第一部会で久し振りにお会 先生とのつっこんだ議論の過程では、先生 いしました。大蔵省の重厚さの中にあって、 のそのようなお悩みを垣間見た思いがした。 実に柔軟な暖かい雰囲気を醸し出しておら とりわけ私にとって胸を衝かれたのは、ペ れました。 イオフ解禁問題をめぐる金融審議会におけ 早速挨拶に伺うと、 「やあ、久し振りです る議論の混乱に先生が苛立ちを隠されなか なぁ!こういう所で大川さんにお会い出来 ったことであった。私にとって先生は、激 るとは・・・ワッハッハッ。」とてもゆかい 動する我が国の困難な状況の下で、現実と な再会でした。私の緊張感も吹き飛び、リ 格闘しつつ倒れられた学者であり、学者の ラックスして不動産業界の要望等を、実務 生き方につき無言の教えを示して下さった 面から十分説明出来た気がしました。 私は東急不動産の役員として、平成10年 人生の師である。 9 月SPC法施行後、猛スピードでSPCを設立 し、平成11年 3 月には我国で初めてSPC法 追悼 山先生 東急リロケーション株式会社 取締役社長 に基づいて、資産(100億)を流動化、証券 化致しました。その実務者の立場から「集 大川 陸治 団投資スキーム法制及びSPC法改正につい て」の臨時オブザーバーとして、出席させ 6月20日の朝、日経新聞の「 94 山昌一氏が て頂きました。 死去 日本版ビッグバン立案 63歳」とい その後、シンジケーション協議会の社団 う見出しにビックリして写真を見ると、あ 法人化についても、大変な御尽力を頂いた 事を、この場をお借りして厚く御礼申し上 「日本型不動産投資ファンド研究会」の事務 局だった。委員には、両先生をはじめ学官 げます。 複雑多岐な難問を、いつもいたずらっ子 民10名の碩学が95年11月から97年 6 月まで 6 の様に楽しみながら解いていく先生の大き 回にわたり、協議会の会議室で熱い議論を さに、安心しながらついていった様に思え 交わしていた。 不動産ファンドの実現には、どんなに早 ます。 先生が話しておられた市場型間接金融の くても10年はかかると思われていた時代。 構築は、緒についたばかり。一方縮小すべ 冒頭の "ビークル議論" も今では昔日の感に き従来型の間接金融には、更に公的資金の たえない。 投下がなされ、日本の金融ビッグバンは、 研究会発足と時を同じくして、"金融ビッ まだ道遠し。先生の様なスケールの大きい クバン" が橋本首相によって打ち上げられ 偉大な人をこの時期に、この若さで失った た。資産運用サイドのビックバンの実現が 日本のダメージは計り知れないと思えて、 求められていた。研究会の成果は、"資産運 非常に残念です。 用時代の「日本型不動産投資ファンド」の提 でも、先生、御苦労様でした。お疲れ様 でした。あのバーベキューの夜にお礼だと 言って頂いたテニスの帽子とウェアは、長 い間愛用させて頂きました。どうもありが 言" として公表された。 97年の拓銀、山一の倒産等を受けて、政府 は一気に不動産流動化、証券化に走り出す。 TMKや投資法人という不動産ファンドの とうございました。安らかにおやすみ下さ ビークルの創出に、 山先生は、金融審議 い。合掌。 会の要としてその実現に奔走された。関係 者にはこの報告書がバイブルのように引っ 張りだことなり、遂には報告書の在庫がな 夢の大懸橋「国民の資 産市場形成」を具現化 SATASインテグレイト 代表 佐藤 一雄 くなり、増刷した記憶がある。 山先生のコメントの一部を引用しよ う。「 (日本の証券市場が究極の市場となる ためには、 )日本での資産の過半を占める不 動産市場の改革(が必要) 。証券市場と不動 「ビークルというとちょっと判りにくいの 産市場とは、日本ではとくに車の両輪とし じゃないですかネエ」とにこやかに応じた て併存し、互いに影響を与える存在でなけ のは、 山座長。今後、ビークルを通じた ればならない。 (略)この閉塞状況の打破の 金融仲介機能が重要になるという文脈で 為には、不動産と証券の両方にまたがる新 「不動産投資ビークル論」を、田邊先生(当 しい制度の導入が不可欠である。」 (CRES 時、日本投資信託制度研究所理事長)が、 展開したときのことだ。 83号) 不動産会社もファンドを通じて国民の資 小生は、不動産シンジケーション協議会 産運用に貢献すべしという宣言書なのであ の専務理事兼事務局長で、協議会として る。「不動産」と「金融」の間には、深くて May-June. 2003 95 大きな河がある。国民の資産市場形成とい 立場の違う研究会メンバーの論客に、そ う大きな懸橋をかけるという先生の主張は、 れぞれ好き放題に言わせるだけ言わせた上 今着実に実現しつつある。 で、一方的な自論を展開する人には、とき 小生は、協議会の専務理事を退任すると に辛辣な批評を加えてたしなめ、遠慮がち 同時に、出向元の三井不動産には戻らず、 な人には温かい励ましのエールを送って発 不動産証券化のコンサル会社を起業し実践 言を促し、的確な議論整理をすすめるとい に身を投じた。99年 7 月 1 日の設立パーテ う見事な手さばきぶりに感嘆したものです。 ィーでは、先生に記念講演をお願いした。 ケンタッキーフライドチキンおじさんのよ その後も約30社の会社を会員とするわが社 うな柔和なお顔に大人の風格を漂わせてお の勉強会のコーディネーター役を、田邊先 られた座長でした。 生ともどもお引受けいただくなど、大先生 日本版ビッグバンの企画、実現に情熱を 傾けられ、日本の金融システムの国際競争力 に大変目をかけて頂いた。 山先生、我々国民に不動産ファンドと いう大きなインフラを遺していただき、有 強化のために、根本的改革をはかるべしと の強い信念をお持ちのご様子が偲ばれます。 山先生、夢の大懸橋の 当時私はシンジケーション協議会運営委 工事の進み具合を天国から見守ってくださ 員長として、出来るだけ早くJ-REIT制度を い。 (合掌) 確立する方向性を模索しておりました。バ 難うございます。 ブル崩壊後の日本の不動産をめぐる価値変 換の突破口を不動産の証券化に求める必要 追悼 山先生 三井ホーム株式会社 取締役会長 高橋 邦男 性を感じておりました。 先生は日本の金融システムの変革の中心 軸として、 「証券市場システム」を推進され ようとしておられ、日本の国富の過半を占 突然の先生の訃報に接し、驚きと無念の める不動産を証券市場システムに当然包摂 情を禁じ得ません。昨年来体調を崩されて させるべきとのお考えは、まさしく私ども いるとの風の便りを伺ってはいましたが、 「シンジケーション協議会」の方向性に光を 現下のわが国の金融経済界の大苦境打開の エースと目されていた先生の余りの早いご 先生は平成 9 年12月「日本型不動産投資 逝去は誠に口惜しく残念でならず、その思 ファンド研究会報告書」を取りまとめられ、 いは多くの識者の共通の念であろうと存じ その後の不動産証券化推進のレールを敷か ます。 れたのでした。 思い返すと、先生とのおつき合いは、旧 現下の金融経済界の惨状を見るにつけ、 不動産シンジケーション協議会「日本型不 かえすがえすも先生を喪ったことは無念の 動産投資ファンド研究会」の一年間と、そ 極みであります。 の後折に触れての出会いだけでしたが、先 生の印象は強烈なものがありました。 96 与えるものでした。 どうか日本の行く末を見守って頂きたく 存じます。本当に有難うございました。合掌 ところで、成蹊大学への奉職に先立って、 私を面接して下さったのは、 短かった不動産と 金融の出会い 明海大学不動産学部 教授 山さんの義 理の叔父上に当る故関島久雄氏(当時政治 経済学部長)である。学生運動と逮捕の履 歴を打ち明けた私に、そうした「元気」のあ 田中 一行 る若者こそ求めているのだと仰言った。恩 師である政道先生譲りの、リベラリストだ 数年前、ARESの前身であるCRESが、日 本型不動産投資ファンド研究会の座長とし った。 学会は、財政学会と金融学会、官庁で言 山さんと親しく会ったのは、そ えば、建設省(現国土交通省)と大蔵省(現 れこそ30年ぶりのことだった。私にとって 財務省)であるから、出会いはほとんどな は、 かった。しかし私は、CRESの創立後ほどな て迎えた 山さんという呼び方さえ、少し気恥 ずかしい。本当は、 山君である。東大の く、 「不動産特定共同事業」推進のための研 究会に参加した。その後、不動産の世界が 大学院で、彼は一年後輩だった。 その当時、マルクスボーイから転じた私 金融の世界に急接近を開始した時から、私 は、近代経済学への挑戦に苦労していた。 たちの再会は予定されていたと言うほかな その私に、かれは幾分先輩顔をしているよ い。上に述べたCRESの研究会の報告書は、 うに映った。といっても,これは私の僻み わが国の本格的な不動産証券誕生に突破口 だったであろう。かれは学部時代から俊英 を開いたことで知られているが、それは私 の名を馳せていたし、父君、故 にとって、座長の 山芳郎氏 はアジア国際問題評論家として令名高く、 山さんと名前を並べる 唯一の記念の場となった。 山政道氏を伯父上に戴くという 半年間滞在した英国から帰って間もない 血筋だったからである。そのような背景を 時期の訃報だった。帰国直後に、2003年問 一切持たない私は、 「転向」という一種屈折 題を派生させている東京の再開発プロジェ した学究の道を歩んでもいた。 クトが、次々に竣工するのを見て、私は慶 さらに故 所属したゼミが違うこともあって、私た びを覚える反面、次のように感じた。ここ ちの間に親しい交わりがあったわけではな には、なお何かが不足している、これは、 い。しかし、日常話を交わす機会は多く、そ 満足な東京の姿ではない。もう一度文化と の折ごとに育ちの良さを感じたものである。 伝統の問題、不動産固有の問題に立ち還り、 大学院終了後、私は成蹊大学経済学部の 真の都市再生に立ち向かわなければならな 教壇に立つ傍ら、不動産研究を志し、住宅 い。発展するわが国の不動産証券が、真の 宅地審議会の専門委員等、公的な会議の末 都市再生の「礎(いしずえ)」になってほ に連なった。一方、 しい。 山さんは大阪大学経 済学部で金融論を担当し、やがて公私の会 早すぎる別れだった。東京で育った 山 議の「顔」となり、金融政策、金融制度の分 さんが、都市再生をどのように感じていた 野で学識の発揮を求められるようになる。 か、聞きたかった。 山さん、あなたの故 May-June. 2003 97 郷東京の、本当の再生はこれからだ。どう たとえば、 「研究会報告書」の最初の発表 (平成9年 8 月)が、 「当時の不動産特定共同 か見守っていてくれ給え。 事業法等の枠組みをベースに、とりあえず 実行可能な仕組みとして、新しい不動産フ 在りし日のお姿を 偲びつつ 財務省 財務総合政策研究所 特別研究官 田邊 ァンドを組成できるように」提案している ことについて、偶々、岩原紳作先生(東京 大学)と私とが、 「その提案ですと、投資家 保護上欠くるところがあるのでは」 、と意見 を申し上げたことがございました。 山先生は、一旦報告書として発表され 突然の悲報に接し、誠に痛惜の念でいっ た後であっても、この問題を敢えて採り上 ぱいです。 「どうして、63才という若さで、 げられました。そして、極めて異例なご判 そんなに早く次の世界へ・・・・」とお尋ね 断でしたが、 「近く予定されている日本版金 すると、 「田邊さん、変化の早いドッグ・イ 融ビッグバン具体化後に実現されるであろ ヤーの時代ですから、もう80才から90才位 う、よりグローバル・スタンダードな集団 の分まで、社会に貢献しましたよ」と微笑 投資スキームとしてのファンドの在り方に んでおられるかもしれません。 ついての展望まで言及することで、この問 確に、先生が座長になられた「日本型不 動産投資ファンド研究会」の報告書も、つ 年12月)をされたという経緯がございました。 い最近(平成 9 年12月)出されたばかりです とはいえ、ある時夕食をお誘いしたプラ のに、現在はすでに、その提案が法制化さ イベートな席で、 「田邊さん、こういう審議 れたうえ、6 本もの新しい不動産ファンド 会の取り纏め役は、本来の学者の生活と両 (J-REIT)が上場されているというテンポの 立しないところがありましてねえ。大先輩 のある先生から是非にと後を托されたので、 早い時代です。 先生は、超ご多忙のところを東京・高岡 間を往復され、可成り無理もされたのでは やっていますが・・・・」とポロリと話され たことがありました。 と、思われます。と同時に、極めて先端的 そういうお気持ちの中の悩みや葛藤が出 な金融・証券関係の審議会座長を数多く勤 てくるのでしょうか、時々新聞紙上では、 めておられたので、いろいろと難しい意見 ご自身が係った政府の施策に対しても、手 が分れるのを、どう取り纏めるかに、ご心労 厳しい批判をされることがありました。特 も多かったのでは、と推測申しております。 に、 「日本版金融サービス法」導入の作業が 関係者はみな、 「 山先生は、本当に、 我々の気持ちを汲んで、全体の意見をうま く纏めて頂けるのが有り難い」と申してお 98 題を解決する」として、再度の発表(平成 9 中断された時には、大変激しい口調で叱っ ておられました。 山先生、本当にありがとうございまし られました。 「日本型不動産投資ファンド」 た。心から感謝致しつつ、ご冥福をお祈り の提案についても、同様でした。 申し上げます。 ある不動産シンジケーション協議会で『日 本型不動産投資ファンド研究会』の座長を 追悼 山先生 牛島総合法律事務所 弁護士 田村 幸太郎 務めて頂いたことが機縁である。折りしも、 日本版金融ビッグバンを控えて、日本なり の「銀行離れ」が着実に進行し始めたときで、 日本の金融における証券市場システムへの 山先生には、CRES時代の日本型不動産 重要度が高まりつつあったときであった。 投資ファンド研究会でお世話になりました。 先生は、日本版金融ビッグバンが危機回 平成 8 年11月に研究会が立ち上った時には、 避を目的とした行政主導型であることに満 おりしも橋本内閣の金融ビックバン構想が 足しておらず、民間主導による理念実現型 出た時で、 の金融改革の実現を切望していらっしゃっ 山先生は政府の審議会で多忙 を極めていたはずです。しかし、この私的 た。 「日本型不動産投資ファンド」の提言は、 な研究会にも情熱を傾け、毎回、電子手帳 従来の業界の垣根を越えた横断的で、かつ のようなものを開き、日程を調整されてい 民間主導による改革の火種として大きな期 ました。新聞社の論説員を招いての研究成 待を寄せられ、大変精力的に取り組んで頂 果の報告会で、 山先生は、各社の冷やや いた。翌98年のSPC施行、プライベートフ かな反応にもめげず、不動産ファンドの有 ァンドによる不動産投資市場とCMBS市場 意性を熱弁されました。そばにいた私は、 が急成長を遂げ、2001年の不動産投資信託 フラッシュライトばかり浴びている先生に 登場まで一気に進んだ市場の変化を振り返 申し訳ないことをしたような気がしたもの ると、提言が一連の市場変革の嚆矢となっ です。金融サービス法の取扱について不満 たことは間違いない。 を表明している先生を報道で拝見したとき 先生が提言に期待した「従来の業界の垣 も、長らく政府委員で活躍されてきた先生 根を越えた横断的で、かつ民間主導による が本当にやりたかったことは何なのか、そ 改革の火種」はその後大きく燃え上がり、 の気概を感じました。我々としても、大変 不動産シンジケーション協議会自らが、銀 重要な助言者を失った気がしますが、今は、 行、証券、不動産などさまざまの業種、業 ご冥福をお祈りするばかりです。 界が横断的に結集するために発展的に解消 し、今日の不動産証券化協会を設立させる 決定的な役割を果たした。 山昌一先生の早世を 悼む 野村不動産株式会社 取締役社長 中野 淳一 他方、先生は「不動産投資ファンドに関 連する不動産サービス業はこうした難問を、 過去にこだわらず、ひとつひとつ乗り越え て、はじめて新しい金融システムの主要な 一角を占める存在となりうるのである」と 山先生に知遇を得たのは、96年11月か 述べて、不動産市場に対しても「この不動 ら97年12月まで不動産証券化協会の前身で 産投資ファンドの創設が成功裡に終わるに May-June. 2003 99 は、乗り越えなければならない障壁が数多 て行く必要性を痛感する次第である。 く存在する。そのなかで最も決定的な壁は それにしても、63歳という年齢で鬼籍に これまでの不動産取引に根強く存在する慣 入られたことはあまりにも早世というべき 行である」と市場改革を強く求めることも である。この時期に先生を失ったことは、 忘れなかった。不動産市場の常識が不動産 不動産証券化業界にとっても日本経済にと に対するリスクプレミアムを必要以上に高 っても大きな痛手であり、残念なことでは いものにしていることをすでに看破されて あるが、今はただご冥福を祈るのみである。 いたのである。不動産業界に身をおく者と 合掌 して、不動産市場改革の遅れには内心忸怩 ※「 」内の引用文はいずれも報告書添付のディス たるものがあるが、着実な改革の歩を進め カッションペーパーから引用した。 (平成 8 年11月∼平成 9 年12月) 日本型不動産投資ファンド研究会は、当協会の前身である不動産シンジケーション 協議会が、 山昌一大阪大学大学院教授(当時)を座長に、平成 8 年11月、学・官・民 11名で発足させた研究会である。翌平成 9 年 8 月に「日本型不動産投資ファンド創設」 の提言を行った。 提言は、不動産特定共同事業法の大幅な改善により不動産投資ファンドの創設を目 指したものであったが、ちょうど金融審議会などで金融システム改革につながる審議 が行われていた時期と重なり、金融ビッグバン後の金融制度や広く投資ファンドのあ り方までを展望した内容になった。 主な提言内容は、 「不動産市場と金融資本市場を結ぶ日本型不動産投資ファンドの創 設」、 「不動産と金融という縦割りの枠を超えた官民の対応の必要性」、 「会社型の日本型 不動産投資ファンドと株式市場の創設」、 「金融商品の自由な設計と投資家保護を目的と する投資包括法である金融サービス法の創設」、 「金融商品税制と不動産税制の平準化を 図り資産運用時代に適した法税制とする必要性」などである。また、不可欠なインフラ 整備として、①ファンドの仕組み者に対する忠実義務、監視機構の導入、②ファンド 持分の流通市場の整備、③不動産投資インデックスの策定と公表、④不動産投資顧問 業および格付け機関の確立も提言した。 この成果は、その後の不動産証券化制度整備の羅針盤となり、SPC法の制定とその 改正(資産流動化法) 、改正投資信託法の制定に影響を与えた。 平成13年 3 月東京証券取引所に不動産投資信託市場が創設され、 「日本型不動産投資 ファンド創設」の提言に盛り込まれた提案が具体的な形で実現したわけであるが、 山座長がこの提言で不動産投資ファンドに期待したものは、不動産投資ファンドが新 しい金融仲介チャネルの枢要な位置を占めるところまで拡大し、国民の金融資産が都 市開発等の社会資本整備に振り向けられ、わが国経済の活性化に貢献することである。 また、 山座長以下本研究会が提示した多くの問題点は、今もって解決途上にあると いわなければならない。 関係者の責務は依然として重い。 100 平成15年度 組織図および委員一覧 第1回通常総会第3号議案が承認されたことにより、平成15年度各委員会の委員が決定した。 ■組織図 総 会 理事会 運営委員会 規律委員会 企画委員会 J-REIT商品特性研究会 (大橋研究会) 教育プログラム 政策検討委員会 規律委員会WG 開発型証券化研究会 教育プログラム 検討WG 制度委員会 J-REIT小委員会 事務局 資産流動化手引き研究会 総務部 税務・会計委員会 不動産証券化税制研究会 (岩崎研究会) 広報部 市場整備委員会 業務部 投資行動研究会 企画部 市場動向委員会 苦情相談室 広報委員会 (平成15年7月16日現在) ■ 平成15年度新委員(敬称略・順不同) ● 運営委員会 委員長 副委員長 副委員長 副委員長 副委員長 宮本 照武 渋谷 正雄 松井 久生 丹治 和男 倉 弘昌 田代 正明 山根 明穂 大井 正康 小 正春 畑中 誠 牛山 憲幸 植松 丘 小松 義秀 矢作 光明 生江 隆之 近藤 憲 中西 良和 三菱地所(株) 資産開発事業本部代表取締役専務執行役員 住友信託銀行(株) 取締役兼常務執行役員 住友不動産(株) 専務取締役ビル事業本部長 東急不動産(株) 執行役員資産活用事業本部長 日興シティグループ証券会社 投資銀行本部マネジングディレクター オリックス(株) 常務執行役員不動産ファイナンス本部長 清水建設(株) 常務執行役員投資開発本部長 大和証券SMBC(株) 常務取締役 中央三井信託銀行(株) 取締役専務執行役員 東京建物(株) 代表取締役 専務取締役 野村證券(株) 執行役 野村不動産(株) 専務取締役資産運用カンパニー長 みずほ証券(株) 常務執行役員 (株)三井住友銀行 常務取締役 三井不動産(株) 常務取締役 三菱証券(株) 常務執行取締役投資銀行本部長 三菱商事(株) 理事環境・開発プロジェクト本部長 July-August. 2003 101 ● 企画委員会 山下 鉄也 谷田部 晴雄 千田 正 西本 芳照 佐野 秀一 角谷 歩 小倉 敏 加藤 和政 大都 保幸 倉 弘昌 桜井 淳夫 前田 研一 梅田 浩樹 川村 嘉則 市村 重治 檀野 博 佐々木 伸 オリックス(株) 不動産ファイナンス本部投資企画部長 清水建設(株) 投資開発本部投資企画部長 住友信託銀行(株) 不動産業務部長 住友不動産(株) 経営企画本部企画第一部長 大和証券SMBC(株) ストラクチャード・ファイナンス部付部長 中央三井信託銀行(株) 不動産業務部長 東急不動産(株) 執行役員資産活用事業本部ファンド推進部統括部長 東京建物(株) 取締役投資事業開発部長 三菱証券(株) 金融開発部長 日興シティグループ証券会社 投資銀行本部マネジングディレクター 野村證券(株) アセットファイナンス部長 野村不動産(株) 資産運用カンパニー企画室長 みずほ証券(株) ストラクチャードファイナンスグループ不動産投資銀行部不動産投資信託室長 (株)三井住友銀行 ストラクチャードファイナンス営業部部長 三井不動産(株) 企画調査部長 三菱地所(株) 執行役員資産開発事業部長 三菱商事(株) 環境・開発プロジェクト本部不動産事業・企画ユニットマネージャー ● 制度委員会 委員長 副委員長 副委員長 檀野 博 仲田 裕一 岸 正治 槌尾 雄造 渡辺 成輝 太田 道春 長町 基志 若林 精 松崎 寛 吉田 祐康 石室 雅生 渡部 靖隆 梅田 浩樹 林 仁治 瓜生 真一 三菱地所(株) 執行役員資産開発事業部長 三井不動産(株) 不動産証券化推進部不動産証券化推進グループ主事 UFJ信託銀行(株) 不動産投資開発部営業推進部第1グループグループリーダー 興和不動産(株) 不動産事業本部法人営業部証券化推進室副室長 住友不動産(株) 経営企画本部企画第二部主査 大成建設(株) 資産マネジメント部証券化プロジェクト室長 東急不動産(株) 資産活用事業本部業務推進グループグループリーダー 東京建物(株) 投資事業開発部グループリーダー 日本土地建物(株) 資産開発運用部次長 野村不動産(株) 資産運用事業部投資マネジメント課マネジャー 阪急電鉄(株) 不動産事業本部不動産運用部調査役 平和不動産(株) 事業開発部課長 みずほ証券(株) ストラクチャードファイナンスグループ不動産投資銀行部不動産投資信託室長 三菱信託銀行(株) 不動産カストディ部長 安田不動産(株) 社長室長 ● 税務・会計委員会 委員長 副委員長 副委員長 アドバイザー アドバイザー 尾崎 昌利 木村 誠宏 田丸 雅康 宮地 典之 西村 隆至 伊藤 尚憲 高田 実 渡辺 成輝 三浦 敬司 冨田 賢次 河原 俊樹 斉藤 充 萩原 俊昭 吉田 祐康 矢嶋 悟 堀内 勉 杉本 茂 七搦 晃 三井不動産(株) 不動産証券化推進部長 野村證券(株) アセット・ファイナンス部課長 三菱地所(株) 資産開発事業部副長 (株)アーバンコーポレイション 取締役 近鉄不動産(株) 取締役企画統括室長 (株)ケン・コーポレーション 営業推進部課長 (株)サンケイビル 統括管理部部長 住友不動産(株) 経営企画本部企画第二部主査 西武不動産販売(株) 総務部次長 中央三井信託銀行(株) 不動産投資顧問部主席調査役 東急不動産(株) 資産活用事業本部ファンド推進部ファンド推進グループグループリーダー 東京建物(株) 投資事業開発部課長代理 日興シティグループ証券会社 投資銀行本部ディレクター 野村不動産(株) 資産運用事業部投資マネジメント課マネジャー 阪急不動産(株) マンション事業部部長 森ビル(株) 業務管理本部財務部財務企画グループ課長 (株)さくら綜合事務所 公認会計士 (社)不動産協会 事務局長代理 ● 市場整備委員会 委員長 副委員長 副委員長 102 千田 正 白石 孝生 加藤 和政 飛田 茂実 植田 陽二 住友信託銀行(株) 不動産業務部長 オリックス(株) 不動産ファイナンス本部投資企画部課長 東京建物(株) 取締役投資事業開発部長 住友不動産(株) 経営企画本部企画第二部課長 大和証券SMBC(株) ストラクチャード・ファイナンス部次長 木内 伸好 大鹿 智志 乙倉 庄一 鹿野 秀樹 田辺 義幸 国久 望 荒木 裕一 中元 克美 松村 徹 東急不動産(株) 資産活用事業本部ファンド事業部ファンド事業推進グループ課長 東急リバブル(株) 業務開発室主任 東洋不動産(株) 戦略開発部部長 丸紅不動産(株) 営業企画グループグループ課長 三井不動産(株) 不動産証券化推進部不動産証券化推進グループ長 三菱地所(株) 資産開発事業部副主事 三菱地所投資顧問(株) 資産運用部チーフマネージャー 三菱商事(株) 環境開発プロジェクト本部不動産事業・企画ユニット課長 (株)ニッセイ基礎研究所 不動産投資分析チーム上席主任研究員 ● 市場動向委員会 委員長 副委員長 副委員長 鹿野 太一 梅田 浩樹 堀内 勉 有吉 秀樹 高村 俊哉 志田 悦子 金子 史郎 稲葉 仁 松本 敬子 日下部 裕文 三谷 隆雄 堀内 善仁 伊澤 毅洋 加藤 和政 豊田 三夫 細田 泰造 萩原 俊昭 佐藤 明秀 木村 誠宏 本多 智裕 渡辺 晃 東 登 槇平 剛 森 知英 藤本 光弘 石原 正彦 高野 慎一 中央三井信託銀行(株) 不動産投資顧問部部長 みずほ証券(株) ストラクチャードファイナンスグループ不動産投資銀行部不動産投資信託室長 森ビル(株) 業務管理本部財務部財務企画グループ課長 (株)アーバンコーポレイション 東京支社流動化事業部部長 伊藤忠商事(株) 建設部建設第一課 (株)大林組 不動産テナント部副部長 オリックス(株) 不動産ファイナンス本部証券化商品室長 鹿島建設(株) 開発事業本部資産マネジメント事業部次長 (株)ケン・コーポレーション ケン不動産投資顧問(株) (株)新生銀行 スペシャルティファイナンス部次長 (株)新日鉄都市開発 マネージメントサポート本部経営企画部不動産ファイナンス証券化企画グループリーダー 大成建設(株) 都市開発本部資産マネジメント部証券化プロジェクト室課長代理 東急不動産(株) 資産活用事業本部業務推進グループ係長 東京建物(株) 取締役投資事業開発部長 東京美装興業(株) PM事業部部長 東洋不動産(株) 営業企画部部長 日興シティグループ証券会社 投資銀行本部ディレクター 日本土地建物(株) 常務執行役員 野村證券(株) アセット・ファイナンス部課長 阪急電鉄(株) 不動産事業本部不動産運用部調査役 (株)フジタ 都市再生推進本部企画統括部アセットコンサルティング部課長 三井不動産販売(株) アセットコンサルティング本部営業情報開発部アセットマネジメントグループ副部長 三菱地所投資顧問(株) 資産運用部チーフマネージャー 安田不動産(株) 品質保証部副長 山万(株) 取締役企画部長 UFJ信託銀行(株) 不動産投資開発部副部長 (株)リクルートコスモス エステートアプリケーション事業部賃貸企画部兼CRF推進部次長 ● 広報委員会 委員長 副委員長 小倉 敏 二木 憲一 田辺 信之 伊藤 和博 海老原 忠 本橋 武彰 石母田 一衛 加藤 和政 國兼 洋一 岩田 圭一 伊東 紀明 東急不動産(株) 執行役員資産活用事業本部ファンド推進部統括部長 藤和不動産(株) 事業戦略部部長 興和不動産(株) 総務本部企画室副室長 (株)ザイマックス 常務取締役 住友商事(株) 不動産企画開発部長付 住友不動産販売(株) 取締役社長室室長 東急不動産(株) 経営企画部広報グループリーダー 東京建物(株) 取締役投資事業開発部長 三井不動産(株) 広報部主事 三井不動産販売(株) アセットコンサルティング本部営業情報開発部長 三菱地所(株) 資産開発事業部参事 ● 規律委員会 高 巌 生江 隆之 渋谷 正雄 丹治 和男 木村 誠宏 宮本 照武 近藤 憲 太田 達夫 由良 玄太郎 巻島 一郎 麗澤大学 教授 三井不動産(株) 常務取締役 住友信託銀行(株) 取締役兼常務執行役員 東急不動産(株) 執行役員資産活用事業本部長 野村證券(株) アセット・ファイナンス部課長 三菱地所(株) 資産開発事業本部代表取締役専務執行役員 三菱証券(株) 常務執行取締役投資銀行本部長 (財)公益法人協会理事長 (社)日本証券アナリスト協会顧問 (社)不動産証券化協会専務理事 July-August. 2003 103 I N F O R M A T I O N 田中順一郎氏に勲一等瑞宝章 当協会顧問で三井不動産(株)代表取締役会長の 田中順一郎氏は、永年の不動産事業に対する多大 な功績を認められ、春の叙勲において勲一等瑞宝 章を受章されました。 謹んでお祝いを申し上げます。 田中 順一郎●たなか・じゅんいちろう 昭和4年生まれ。26年慶應義塾大学経済学部卒業、同年三 井不動産(株)入社。同62年社長、平成10年会長に就任、 現在に至る。不動産シンジケーション協議会では設立時より 9年にわたり理事長を務める。また、不動産協会特別顧問、 首都圏不動産公正取引協議会会長、不動産団体連合会会長、 東京商工会議所副会頭、日本経済団体連合会常任理事などを 務める。平成4年7月建設大臣表彰、同5年藍綬褒章受賞。 会員社入会のお知らせ(順不同・敬称略) 第2回理事会(平成15年4月23日)において、賛助会員7社の入会が承認された。これによ り5月1日現在の当協会の会員数は正会員60社、賛助会員76社、計136社となる。 <賛助会員> ■株式会社だいこう証券ビジネス 代表者:代表取締役社長 竹内 透 所在地: 大阪府大阪市中央区北浜2-4-6 ■株式会社日本プロパティ・ソリューションズ 代表者:代表取締役社長 福田 慎太郎 所在地: 東京都港区北青山1-2-3 ■伊藤忠都市開発株式会社 代表者:取締役社長 船越 洋蔵 所在地: 東京都中央区日本橋2-7-1 ■ジャパン・リート・アドバイザーズ株式会社 代表者:代表取締役社長 丸山 勉 所在地: 東京都港区虎ノ門4-1-20 ■関電産業株式会社 代表者:取締役社長 楢 正博 所在地: 大阪府大阪市北区中之島6-2-27 ■シティグループ・プライベートバンク 代表者:在日代表 北出 高一郎 所在地: 東京都千代田区丸の内 1-3-1 ■アンダーソン・毛利法律事務所 代表者:弁護士 伊藤 哲哉 所在地: 東京都港区六本木1-6-1 104 I N F O R M A T I O N 協会代表者交代(敬称略) <正会員> ■野村證券株式会社(4月1日付) 就任:取締役社長 古賀 信行 ■阪急不動産株式会社(4月24日付) 就任:取締役社長 蓑原 克彦 ■三井不動産販売株式会社(4月1日付) 就任:代表取締役社長 岩崎 芳史 退任:野村ホールディングス(株) 取締役会長 氏家 純一 退任:取締役 渡邊 伍朗 退任:代表取締役会長 清水 雄 <賛助会員> ■株式会社ヒューネット(6月27日付) 就任:代表取締役社長 保坂 光二 ■株式会社立地評価研究所(6月1日付) 就任:代表取締役 若崎 周 ■レンド・リース・ジャパン 債権回収株式会社(4月17日付) 就任:代表取締役 グレゴリー・エム・アダムズ 退任:代表取締役会長 荻坂 昌之 退任:会長 大西 靖生 退任:(前)代表取締役 ロバート・コリンズ July-August. 2003 105 I N F O R M A T I O N 理事会 ■第2回/平成15年4月23日 当日議決された審議・承認事項は下記のとおり。 1.会員の入退会について 賛助会員7社の5月1日付の入会を承認。ま た、正会員2社、賛助会員2社の3月31日 付の退会を報告。この結果、平成15年5月 1日現在の会員数は、正会員60社、賛助会 員76社、計136社となった。 2.総会提出議案について 第1回通常総会(5月15日開催)提出議案 を承認 3.ARES中期事業計画案 (平成15年度∼平成17年度)について ARES中期事業計画案(平成15年度∼平成 17年度)を承認。 4.平成15年度委員委嘱会社の決定について 平成15年度委員委嘱会社を承認。 5.会員の自主行動基準の制定と規律委員会の設 置について 3月12日に運営委員会に提出された「規律 倫理に関する検討委員会答申」に基づく「会 員の自主行動基準」の制定並びに「規律委員 会」の設置を承認。 6.諸規則の改正について 組織変更に伴う「委員会等規則」並びに「事 務処理規則」の改正を承認。また、「不動産 投資商品に関わる人材育成プログラム研究会 の成果発表」について事務局より報告した。 ■第3回(臨時理事会)/平成15年5月15日 当日議決された審議・承認事項は下記のとおり。 ・定款第13条第2項に基づく正副理事長の互選について理事長1名、副理事長5名、専務理事1名を下 記のとおり互選した(敬称略) 。 理事長: 三井不動産(株) 代表取締役社長 岩沙 弘道 副理事長: 住友信託銀行(株) 取締役社長 高橋 温 東急不動産(株) 取締役社長 植木 正威 (株)東京三菱銀行 頭 取 三木 繁光 野村證券(株) 取締役社長 古賀 信行 三菱地所(株) 取締役社長 木 茂 専務理事: (社)不動産証券化協会 事務局長 巻島 一郎 運営委員会 ■第2回/平成15年4月18日 当日議決された審議・承認事項は下記のとおり。 1.会員の入退会について 2.総会提出議案について 第1回通常総会(5月15日開催)提出議案 を承認 3.ARES中期事業計画案(平成15年度∼平成 17年度)について 106 4.平成15年度委員会組織について 平成15年度の委員会組織案を承認。 5.諸規則の改正について 6.会員の自主行動基準の制定と規律委員会の設 置について I N F O R M A T I O N 主な報告事項は以下のとおり。 1.「不動産投資商品に関わる人材育成プログラム研究会」の成果発表」について なお、下記のとおり委員の交代があった(敬称略) 。 ●東急不動産株式会社 新:丹治 和男(執行役員資産活 用事業本部長) 旧:金指 潔(東急ホーム株式 会社取締役社長) ●東京建物株式会社 新:畑中 誠(代表取締役専務 取締役投資事業開発事業部 長兼都市開発事業部長) 旧:諏訪 祐爾(顧問) ●三井不動産株式会社 新:生江 隆之(常務執行役員) 旧:横山 雄司(常務執行役員) 業務委員会 ■第2回/平成15年2月28日 当日議決された審議・承認事項は以下のとおり。 1.平成15年度事業計画の内容について 主な報告事項は以下のとおり。 1.暫定予算について 3.J-REITリーフレットの作成について 2.顧問の選任について 4.設立記念パーティーについて(結果報告) ■第3回/平成15年3月25日 当日議決された審議・承認事項は以下のとおり。 1.会員の入退会について 検討事項は以下のとおり。 1.ARES中期事業計画案(平成15年度∼平成 17年度)について 2.不動産投資商品に関わる人材育成プログ ラム研究会報告書について 3.オーストラリア出張報告 ■第4回/平成15年4月15日 当日議決された審議・承認事項は下記のとおり。 1.委員の交代に伴う正副委員長の互選について 下記の委員交代に伴い、前田委員を委員長に、小倉委員を副委員長に選出した(敬称略) 。 ●野村不動産株式会社 新:前田 研一(資産運用カン パニー企画室 マネージ ャー) 前:丸子 祐一(資産運用カン パニー企画室長兼野村不動 産投信(株)代表取締役副社 長) ●東急不動産株式会社 新:小倉 敏(執行役員資産活 用事業本部ファンド推進部 統括部長) 前:丹治 和男(執行役員資産 活用事業本部長) ●三井不動産株式会社 新:市村 重治(企画調査部長) 前:浅井 裕史(経理部長) 2.会員の入退会について 3.総会提出議案について 4.ARES中期事業計画案(平成15年度∼平成17年度)について 5.平成15年度委員会組織について 6.諸規則の改正について July-August. 2003 107 I N F O R M A T I O N 制度委員会 ■第4回/平成15年6月12日 当日の議事は以下のとおり。 1.制度要望活動に関する予定および経過について ・制度改善要望活動に関する予定として、制 度改善要望を理事会にて承認を受けた後、 各省庁、日本経団連および内閣府の規制改 革会議へ働きかけを行っていく。 ・制度改善要望活動経過として、制度改善要 望(案)を各省庁へ事前相談を行い、関係 団体とも打ち合わせを行った旨を説明。 2.平成16年度の制度改善要望(案)について 不動産特定共同事業法関連、資産流動化法関 連、投資信託法関連、証券取引法関連要望 (案)を説明し、決定した。 3.宅地建物取引業法の取引一任代理の最低資本 金要件について 宅建業法の取引一任代理の最低資本金要件に ついて、緩和要望を行うことを決定。 4.防火に関する管理権原者について中間報告 消防庁の防火管理に関する管理権原の外部委 託の検討状況を報告。 今後の活動予定としては、平成16年度の制度改 善要望に向けて、関係省庁等へ働きかけを行って いく。なお、新年度の委員長および副委員長の互 選が行われ、次のとおり決定した(敬称略) 。 委 員 長:檀野 博 (三菱地所(株)取締役資産開発事業部長) 副委員長:仲田 裕一 (三井不動産(株)不動産証券化推進部不 動産証券化推進グループ主事) 副委員長:岸 正治 (UFJ信託銀行(株)不動産投資開発部営 業推進グループリーダー) また、以下のとおり委員の異動があった(敬称略)。 新 委 員:槌尾 雄造 (興和不動産(株)不動産事業本部法人営 業部証券化推進室副室長) 退 任:内藤 宏史 (森トラスト(株)経営企画部副主事) 税務・会計委員会 ■第5回/平成15年4月15日 当日の議事は以下のとおり。 1.委員の交代および新委員長の決定(敬称略) ●西武不動産販売株式会社 新:三浦 敬司(総務部 次長) 旧:森 博明(総務部 部長) ●三井不動産株式会社 新:尾崎 昌利(不動産証券化推進部長) 旧:浅井 裕史(経理部長) 左記委員の交代に伴い委員の互選により、 新委員長を尾崎昌利氏に決定。 2.平成16年度税制改正要望について 各要望項目について、事務局にて課題等を 整理し、次回委員会にて協議することとな った。 3.減損会計に関する意見書の提出について ■第6回/平成15年5月19日 当日の議事は以下のとおり。 <平成16年度税制改正要望について> 1.スケジュールの確認 2.各要望項目の整理 宥恕規定など昨年度からの継続事項お よび流通課税軽減の期限切れに伴う延長事項 について来年度も要求していくものとし、新 規要望事項については今回の委員会で確認す べき事項として取り上げた点を整理したうえ 108 で、次回の委員会において要望の絞り込みを 行う予定。 3. 適格機関投資家の範囲の拡大(内閣府令の一 部改正) 詳細は金融庁ホームページ(http://www.fsa. go.jp/news/newsj/14/shouken/f-20030 515-1.html)を参照されたい。 I N F O R M A T I O N ■第7回/平成15年6月6日 当日の議事は以下のとおり。 1.平成16年度税制改正要望について ・固定資産税軽減に向けて、不動産の流動化お よび有効利用の促進を図るという観点から、 当協会としても関係団体と連携して取り組ん でいく。 ・その他の要望について今回の委員会で絞り込 み等を行い、一部要望の具体的な手当て等を 整理したうえで、次回の委員会において最終 要望案の取りまとめを行う予定。なお、下記 のとおり新委員の参加があった(敬称略) 。 ●株式会社アーバンコーポレイション 新委員:宮地 典之(取締役) ■第8回/平成15年6月19日 当日の議事は以下のとおり。 <平成16年度税制改正要望(案)について> 要望項目および要望理由について部分的な修正 等の協議を行い、平成16年度税制改正要望 (案)の取りまとめを行った。なお、新年度の 税務・会計委員会委員長および副委員長の互選 が行われた(敬称略) 。 委 員 長:尾崎 昌利(三井不動産(株)不動産証 券化推進部長) 副委員長:田丸 雅康(三菱地所(株)資産開発事業 部 副長) 副委員長:木村 誠宏(野村證券(株)アセット・ ファイナンス部 課長) 市場整備委員会 ■第3回/平成15年4月16日 当日の議事は以下のとおり。 1.検討事項 ・J-REIT View(不動産投資信託関連情報)に ついて ・市場整備委員会の今後の活動について 2.報告事項 ・第3回J-REIT小委員会について ・金融トラブル連絡調整協議会について ■第4回/平成15年5月14日 当日の議事は以下のとおり。 1.検討事項 市場整備委員会について 2.報告事項 ・J-REIT View(不動産投資信託関連情報) について ・金融トラブル連絡調整協議会について ・不動産証券化関連トピックス 不動産証券化税制研究会 ■第1回/平成15年5月28日 議題は次のとおり。 1.今後の進め方について テーマ協議等 2.ゲスト・スピーチ 「UPREITについて」 講師:四釜 宏吏氏(新日本監査法人金融サ ービス部 シニアマネージャー) REITとパートナーシップの融合体である UPREITについて、UPREITを日本のストラクチ ャーに置き換えようとした場合の問題点、 UPREITにおける技術的論点や留意事項および日 本の制度への示唆等について発表があり、意見交 換が行われた。 July-August. 2003 109 I N F O R M <研究会概要> 不動産証券化税制は金融税制と不動産税制の双方 に関わるとともに、オリジネーターへの課税、ビ ークルへの課税、および投資家への課税といった ように多面的に考えなければならない。さらに、 税制はその時々の必要に応じて租税特別措置を講 じてきた結果、迷路のように複雑になってしまっ ている。そこで、このように複雑で多岐にわたる <研究会委員(順不同・敬称略)> 座長:岩 政明(横浜国立大学大学院国際社会 科学研究科 教授)【租税法】 委員:佐藤 英明(神戸大学大学院法学研究科 教 授)【租税法】 :渡辺 智之(中央大学大学院国際会計研究 科 教授)【租税法】 :吉村 政穂(横浜国立大学大学院国際社会科 学研究科 専任講師)【租税法】 A T I O N 税について理解を深めるとともに、今後の当協会 の諸活動に生かしていく。学界、実務界の方々を コアメンバーとして税の基本的な考え方につい て、昨今の話題、最新情報などからテーマを選択、 解説していただき、意見交換を重ねていく。また、 ゲストとして実務界から外部講師を招き、税の実 務上の問題点などを検証していく。 :川島 いづみ(早稲田大学社会科学部 教授) 【商法・証券取引法】 :奥田 かつ枝((株)緒方不動産鑑定事務所 取締役 不動産鑑定士) 【不動産評価】 :柴 由花(横浜国立大学大学院生)【コア メンバー側事務局】 投資法人資産運用業の新規認可取得について 投資信託及び投資法人に関する法律第6条の規 定に基づく投資法人資産運用業の認可を、東急リ アル・エステート・インベストメント・マネジメ ント株式会社(平成15年6月16日付)が新たに 取得した。 ●東急リアル・エステート・インベストメント・ マネジメント株式会社 本店所在地:東京都渋谷区南平台町2番17号 設立年月日:平成13年6月27日 資 本 金:3億円 資本構成:東京急行電鉄(株):60% :東急不動産(株):40% 事務局人事 ■退職(平成15年4月20日付) ●(前)総務部 主任調査役 石川 美保子 私が旧CRESに転職したのは1996年(平成7年)、不動産の証券化は不動産特定事業が中心とい う黎明期の時期でした。その後、いわゆるSPC法や投信法の施行により、不動産証券化の手法が広 がり、J-REITが誕生するという変化に富んだ時代を、広報の仕事を通していろいろな方々と共有で きたことは、大変有意義な経験でした。 CRESには、新しい制度やビジネスモデルをつくっていこうという熱意を持った人が集まり、日々、 刺激的なやりとりが交わされ、事務局の職員も叱咤激励されながら、共に走ってきたという印象があ ります。会員会社、OBの方々だけでなく、外部のたくさんの皆様との出会いが、終生の宝物となり ました。心よりお礼申し上げます。 ARESとして新たなスタートを切った不動産証券化協会のますますのご発展を祈念しておりますと ともに、皆様の変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。 訂正:「ARES Vol.3」事務局人事の(前)業務部調査役 金子誠氏の勤務先で、「鎌田東急プラザ」としたのは「蒲田東急プラ ザ」の誤りです。お詫びして訂正いたします。 110 I N F O R M A T I O N 書 評 「アセット・ファイナンス ― 資産金融の理論と実際」 内藤 伸浩著(ダイヤモンド社/3,200円) 本書は実務家の視点か ら書かれたアセットファ イナンスについての理論 書兼実務書である。内容 は大きく3つに分かれ、 第1∼3章まではファイ ナンス理論の教科書的な 説明とそれを補強する実 例からなる。第4∼5章 では個人や企業の不動産 取引についての考え方が どのように変遷してきたかを概観、そして本書の タイトルともなっているアセットファイナンスへ と続く構成となっている。本書のクライマックス ともいえる第6∼7章では、アセットファイナン スの事例である不動産の証券化(セールスアンド リースバック、ファイナンスリース)やノンリコ ースファイナンスが議論される。 不動産業界はファイナンス理論に疎く、金融業 界は実物の世界を知らない、これは場を問わず自 嘲的に用いられる表現である。本書ではファイナ ンスの理論について初歩からの説明を心がけてい ることに加え、数学的に難解であるように思われ るセクションについては補説の形態で説明を加え ており、不動産の実務家にも十分対応可能な形態 となっている。 不動産の流動化・証券化といった表現は様々な 場面で用いられる表現であるが、それ自体は売却 あるいは借入の変形であり、それ自体が付加価値 を産む物ではない。むしろオリジネイターである 事業法人側からすれば、オフバランスや目先の金 利メリットに目がくらんで、安易にノンリコース ファイナンスに手を出すと、かえって企業信用リ スクを高めたり、資産戦略が曖昧になることも十 分想定し得るのである。不動産流動化・証券化と セットで語られるアセットファイナンスとは一体 何物で、何ができて、そして何ができないのか、 もう一度検討する問題提起の書として最適であ る。 なお、本書は全8章250ページからなる力 作であり、著者は三井不動産(株)不動産投資研究 所 主任研究員で、不動産鑑定士補。 (事務局・羽田野 浩伸) (参考文献 証券アナリストジャーナル01年1月号「不動産ノ ンリコースファイナンスと企業信用リスク」著者による論文) 第6回 実務研修会のご案内 テーマ:賃貸オフィス市況の現状と展望∼2003年問題のとらえ方② 講 師:前沢 威夫氏((株)生駒データサービスシステム 取締役主席研究員) 日 時:平成15年9月3日(水) 13:30∼15:00 会 場:中央大学駿河台記念館 370号室 お申し込みは当協会ホームページ(http://www.ares.or.jp)までお願いします。 新刊紹介 「不動産白書2003」 東京、大阪、名古屋のオフィスマーケットの中 期予測や、各都市のオフィス、物流施設マーケッ トデータなど毎年掲載している内容に加え、200 3年版では不動産投資の動向などを特集し、充実 した構成になっています。不動産プレイヤー必携 の一冊です。 発 行:(株)生駒データサービ スシステム 体 裁:A4版・240ページ 定 価:7,000円(消費税込み) お申し込み・お問い合わせは、 (株)生駒データサー ビスシステムホームページ(http://www.ikoma data.co.jp)もしくは03-5470-8941(代表) までお願いします。 July-August. 2003 111 THE ASSOCIATION FOR REAL ESTATE SECURITIZATION ◆会員一覧(社名五十音順)◆ 株式会社アイ・エヌ情報センター 株式会社あおぞら銀行 青山リアルティー・アドバイザーズ 株式会社 朝日監査法人 アセット・マネージャーズ株式会社 株式会社アドパーク アットホーム株式会社 穴吹興産株式会社 アンダーソン・毛利法律事務所 飯野海運株式会社 株式会社生駒データサービスシステム 株式会社井智 伊藤忠都市開発株式会社 株式会社インターリスク総研 牛島総合法律事務所 AIGグローバル・リアルエステイト・ インベストメント・ジャパン・コーポレーション 株式会社緒方不動産鑑定事務所 沖信・石原・清法律事務所 オリックス・アセットマネジメント 株式会社 株式会社価値総合研究所 関電産業株式会社 株式会社協同エージェンシー グローバル・アライアンス・リアルティ 株式会社 宏陽ホーム株式会社 株式会社財団評価研究所 株式会社さくら綜合事務所 三幸エステート株式会社 株式会社三友システムアプレイザル シティグループ・プライベートバンク ジャパンリアルエステイトアセット マネジメント株式会社 ジャパン・リート・アドバイザーズ 株式会社 新光証券株式会社 新日本アーンストアンドヤング税理士法人 新日本監査法人 株式会社住信基礎研究所 株式会社住友生命総合研究所 ARESに出向し4カ月が経ちました。実物不動産、しかも住宅関係しか知らな かった私にとっては、新しい情報や言葉の雨・嵐のなかで、正直なところアレ ルギー症状に陥りました。とりあえず新参者の特権と勝手に決め込んで、誰彼 構わず聞きまくり、関連図書も理解不十分のまま読み飛ばし、ようやく落ち着 いてきました。初心者の目で「オープンでわかりやすい」 をモットーにこれか らも取り組んでいきますので、ARESの応援よろしくお願いいたします。 (綿貫) (平成15年7月16日現在) 会報「ARES」第4号 平成15年7月30日発行 編集発行 社団法人不動産証券化協会 〒107-0052 東京都港区赤坂 1-9-20 第16興和ビル南館4階 TEL:03-3505-8001 FAX:03-3505-8007 URL:http://www.ares.or.jp エイリス 社 団 法 人 不 動 産 証 券 化 協 会 July-Aug 03・ Vol. 4 t us 編 集 後 記 賛助会員(全80社) 税理士法人平川会計パートナーズ 株式会社全国不動産鑑定士ネットワーク 株式会社総研 株式会社総合不動産鑑定コンサルタント 株式会社だいこう証券ビジネス 大和不動産鑑定株式会社 株式会社ダヴィンチ・アドバイザーズ 株式会社谷澤総合鑑定所 株式会社地域経済研究所 中央青山監査法人 株式会社中央不動産鑑定所 株式会社千代田ビルマネジメント 東急リアル・エステート・インベストメント・ マネジメント株式会社 東急リロケーション株式会社 株式会社東京リアルティ・インベストメント・ マネジメント 東誠不動産株式会社 株式会社都市開発不動産鑑定所 長島・大野・常松法律事務所 株式会社ニッセイ基礎研究所 財団法人日本開発構想研究所 株式会社日本格付研究所 株式会社日本クリエイト 日本総合ファンド株式会社 日本ビルファンドマネジメント株式会社 財団法人日本不動産研究所 株式会社日本プロパティ・ソリューションズ パウロニア司法・調査士法人 ―相馬司法事務所― 株式会社ヒューネット 不動産鑑定士評価システム協同組合 プライスウォーターハウス・クーパース 税理士法人中央青山 プライスウォーターハウス・クーパース・ フィナンシャル・アドバイザリー・サービス 株式会社 プレミア・リート・アドバイザーズ株式会社 マークス株式会社 三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社 三宅坂総合法律事務所 株式会社ミヤビエステックス 有限会社三輪不動産研究所 株式会社明和住販流通センター メリルリンチ日本証券株式会社 森藤税務会計事務所 株式会社モルガン・スタンレー・ プロパティーズ・ジャパン 株式会社ユーマック 株式会社立地評価研究所 レンド・リース・ジャパン債権回収 株式会社 Vol.4 2003 July-August 株式会社アーバンコーポレイション 伊藤忠商事株式会社 株式会社大林組 オリックス株式会社 鹿島建設株式会社 近鉄不動産株式会社 株式会社クリード 株式会社ケン・コーポレーション 興和不動産株式会社 株式会社ゴールドクレスト 株式会社ザイマックス 株式会社サンケイビル 清水建設株式会社 株式会社ジョイント・コーポレーション 株式会社新生銀行 株式会社新日鉄都市開発 住友商事株式会社 住友信託銀行株式会社 住友不動産株式会社 住友不動産販売株式会社 西武不動産販売株式会社 大成建設株式会社 ダイビル株式会社 大和証券SMBC株式会社 中央三井信託銀行株式会社 東急不動産株式会社 東急リバブル株式会社 東京建物株式会社 東京美装興業株式会社 株式会社東京三菱銀行 東洋不動産株式会社 藤和不動産株式会社 日興シティグループ証券会社 日本ジーエムエーシー・インベストメント・ アドバイザーズ株式会社 日本土地建物株式会社 野村證券株式会社 野村不動産株式会社 パーク24株式会社 株式会社長谷工コーポレーション 阪急電鉄株式会社 阪急不動産株式会社 株式会社フジタ 平和不動産株式会社 丸紅不動産株式会社 みずほ証券株式会社 株式会社三井住友銀行 三井不動産株式会社 三井不動産販売株式会社 三菱地所株式会社 三菱地所投資顧問株式会社 三菱商事株式会社 三菱信託銀行株式会社 森トラスト株式会社 森ビル株式会社 株式会社モリモト 安田不動産株式会社 山万株式会社 有楽土地株式会社 UFJ信託銀行株式会社 株式会社リクルートコスモス 20 正会員(全60社) 不動産証券化を共に推進する情報誌 「パワーをもらう」「パワ ーをいただく」というフレ ーズをよく耳にする。巨樹 に手を当ててそういわれる と、いかにも巨樹のパワー が手をつたわって身体に入 ってくるように思われる。 東洋的宇宙感覚とでもいう のであろうか。少なくとも 近代西洋風の自然観ではな いし、合理的に説明のつく ことではない。けれども、 あるとき気づいたことがあ る。私がときどき空想のな かで奈良・東大寺の大仏殿 におまいりするのも、それ に近いことかもしれないの だと。夢のなかの東大寺、 夢のなかの大仏まいり。こ れはいったいなんだ。特段に信仰心の強いわけでもない私が、ときどき大仏殿を眼 前に思い浮かべているのはなぜか。その言葉にしにくい気分をあれこれ分析してみ ると、どうやら私は大仏さまと大仏殿という建造物から「パワーをいただく」ため にそうしているようだ。そう思ってみると、なるほど私は気分の落ち込んでいると きに、空想の大仏殿まいりをしている。そこに安置されている盧舎那仏の功徳につ いては仏教者にゆずるとして、私にとって大事なことは大仏殿という建造物の発し ているパワーであり功徳である。別の言い方をすれば、宗教的建造物の持っている 独特の力というもので、その力は異教徒にも及ぶということだ。近代日本の留学生 たちがヨーロッパの大聖堂に驚ろき、お雇い外国人たちが奈良や京都の仏閣に驚ろ いたのもそのパワーだったはずである。私がときどき空想の大仏殿まいりをして、 あの堂宇のただなかに身を置き、その柱の太さに感嘆し、それをさすり、これを創 建した人々の気概の大きさを想像しているとき、私はあきらかに彼らによって励ま されている。まずは巨樹を探し、それを切り出し、ここに立ち上げる光景を想像す るだけで、私はもう感動を禁じえなくなるのである。棟梁と関係者の脳裡にはすで に燦然と輝く大仏殿が浮かんでいる。だが、落慶法養までの道のりは遠く、その遠 (井尻 千男:拓殖大学教授) さがわれわれを激励しているのである。 東大寺大仏殿(日本/奈良) 提供●世界文化フォト