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JREIオフィス投資インデックス
Business Trend 長期の不動産投融資における リスク管理指標としての 「JREIオフィス投資インデックス」の 作成・公表の取り組み 山下 誠之 一般財団法人日本不動産研究所 特定事業部 副部長 高橋 晃 一般財団法人日本不動産研究所 特定事業部 主席専門役 1. これまでの不動産投資イ ンデックスの開発・整備 の取り組み 仲介大手のケン・コーポレーションと のインデックスは現に存在する建物 共同で東京における高級賃貸マン の実際の運用データに基づくもので ションに係るインデックスを作成・公 はなく、想定建物における査定デー 注2 表した 。現在、多くの市場関係者 タを基礎としたものであった。今で に利用されている 「 不動産投資家調 こそ、J-REIT による開示情報等の 査 」は、もともとは不動産投資イン 不動産の運用情報を目にすることが 担保不動産の流動化によって不 デックスの作成に不可欠となる不動 珍しくなくなったが、当時は投資用 良債権問題を解決することが日本経 産評価 ( 収益還元法による価格評 不動産のオーナーでさえ、正確な運 済の重要課題であった1990 年代後 価)において適用すべき利回りを設 用情報を一元的に把握していたわ 半 、不動産の流動化に必要な情報 定するための参考とするために始め けではなく、ましてやテナントとの契 インフラとして不動産投資インデック たものである。 約賃料や収支情報が外部に開示さ (1)J-REIT 誕生以前 弊所のほかにも、住友生命総合研 れることは皆無に等しかった。その 活発化した 。例えば、弊所におい 究所、住友信託銀行と住信基礎研 ような実情のなかでは、実際の運用 ては、複数の生損保及び不動産会 究所、三菱信託銀行と生駒データ データに基づくインデックスを継続 社の協力のもと実際の不動産運用 サービス、みずほアセット信託銀行 的に作成することは現実的には不 データに基づくオフィスを対象とした と都市未来総合研究所などがオフィ 可能といえた注 3。 インデックスの開発に取り組んでい スを対象とした不動産投資インデッ 当時の不動産投資インデックス たほか、外国人向け高級賃貸住宅 クスを作成・公表していたが、これら は、調査対象となる地点を設定し、 スの開発・整備に向けた取り組みが 注1 注1 担保不動産を流動化するためには収益性に基づく価格付けが不可欠であったが、当時は不動産の利回りに関して市場関係者のなかで共通する物差しがな かったため、収益性に関する判断をするための情報インフラとして不動産投資インデックスが必要と考えられていた。 注2 このインデックスは、その後、アットホームと不動産経済研究所の 2 社が加わった住宅インデックスフォーラムが作成主体となって「住宅マーケットイン デックス」として継続的に作成・公表されている(なお、不動産経済研究所は現在は作成主体から離脱している)。 July-August 2012 69 Business Trend その地点においてオフィスビルを想 デックスが作成されるようになった。 まで投資リスク管理のために当該指 定のうえ、そのオフィスビルの賃料 例えば、IPD ジャパンの 「 J リート資 標を利用していた機関投資家や金 や維持管理費等の収支を査定してイ 産インデックス」、不動産経済研究所 融機関は、代替指標を選定あるい ンカムゲインを算出していた。キャ 「 ファンドレビュー」誌 ( 作成主体は は開発せざるを得ない状況となっ ピタルゲインについては、当該地点 REIT 評価研究会)の J-REIT ベン た。実際に運用されている不動産 の土地価格を公示価格等で求め、 チマーク等である。06 年には、不動 の収益率の動きをみるうえでは運用 これに想定したオフィスビルの建築 産証券化協会でも同様のタイプのイ データに基づいて作成されたイン 費を加算して資産価格を査定のう ンデックスである 「 ARES J-REIT デックスの方が 査定ベースのイン え、期首と期末の資産価格をもとに Property Index」の作成・公表が始 デックスよりも有用であることは言う 計算していた。市場賃料に関する一 まった。 までもないが、まとまったサンプル 般的なデータ、公的評価における土 J-REIT による開示情報を利用し の J-REIT の運用データが継続的に 地価格、建築費データは過去に遡及 た運用データに基づく不動産投資イ 利用できるようになって10 年足らず して入手することが可能であったの ンデックスの登場は、本格的なイン であり、長期の投資リスク管理のた で、この作成方法を採用することで デックスの代替物とでもいうべき査 めのデータ分析においては十分なト 株や債券等と比較するために必要 定データに基づくインデックスの有 ラックレコードを確保するのが難し な不動産の収益率の時系列情報を 用性や存在価値を大きく減退させ、 い。 長期にわたって整備することできた 住生総研インデックスは 2005 年に、 のである。 住友信託銀行不動産投資インデック 成に携わってきた関係各位のこれま ス ( STIX )は 2007年にデータの更 での取り組みを無駄にしないために 新が停止されるという事態に至っ も、MU-CBex の基本的枠組みを た。そして昨年12月に、この種のイ 継承した指標を作成、その成果の わが国における不動産の運用情報 ンデックスのなかで最後まで作成・ 一部 ( 東京都心 5区及び大阪市の各 のオープン化は急速に進展した。そ 公表を継続していた MUTB-CBRE 種収益率)を公表することとしたの れまでも SPC を利用した不動産証 不 動 産 投 資 イン デ ックス ( MU- である。この指標が先般公表した 券化商品の普及で機関投資家等の Cbex、旧 MTB-IKOMA 不動産投 JREI オフィス投 資インデックス 一部の市場関係者のなかでは運用 資インデックス)も2011年以降の 情 報 が 蓄 積されつ つあった が 、 データ更新は行わず、廃止されるこ J-REIT の運用情報はインターネット ととなったのである。 (2)J-REIT 誕生以降 2001年の J-REIT の誕生により、 報量も飛躍的に増加した。 このような状況を受けて、J-REIT 2. JREI オフィス投 資イン デックスの開発経緯とそ の概要 JOIX は MU-CBex の基 本的枠 組みを前提としているものの、調査 でいるほか、NOI を算定する際の基 礎となる賃料を不動産鑑定評価の 手法で査定するなどの独自の工夫も 取り入れている。これらの工夫は、 による開示情報を利用した実際の 運用データに基づく不動産投資イン ( JOIX ) である注 4。 対象地点はオフィス適地に絞り込ん 等を通じて開示され 、J-REIT 市場 の拡大と開示情報の蓄積によって情 そこで弊所では、インデックス作 MU-CBex の廃止によって、それ 調査地点をオフィス適地に絞り込む 注3 生損保や不動産会社の協力のもとでの弊所における不動産投資インデックスの開発への取り組みは、協力会社による不動産運用データの継続的提供や収益 還元法による不動産評価の作業等の負担が非常に大きかったことなどから残念ながら試験的な段階で終わった。 注4 JREI オフィス投資インデックス(JOIX)の公表資料は弊所のホームページに掲載されているので参照されたい(http://www.reinet.or.jp/)。 70 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.08 長期の不動産投融資におけるリスク管理指標としての 「JREI オフィス投資インデックス」の作成・公表の取り組み ことによって機関投資家等のイン 鑑定評価のノウハウや全国ネットの で、調査精度の向上を図るためのも デックス利用者の投資基準との適合 事業所網で収集した賃貸事例等の のである。 を図るとともに、弊所の専門である 不動産情報を最大限に活用すること 3.JOIX と MU-CBex との 比較 〔JREIオフィス投資インデックス(JOIX)の概要 〕 ○調査対象地域 全国 13都市 81ゾーン(MU-CBexと同様のゾーニング ) 下 の 図 は JOIXとMU-CBex の ○作成する指標 各期末における総合収益率 、インカム収益率及びキャピタル収益率 ○作成頻度 2002 年から2011年までの総合収益 率を比較したグラフである。両イン デックスは東京都心 5区と大阪市に 半期(6月末及び 12月末 ) ○調査対象の設定 各ゾーンに設定された地価公示地点からオフィスビル適地を選定し 、当該 地点上に最有効使用のオフィスビルを設定 。 おいて概ね同様の動きを示してお り、相応の相関性が認められる。た だし、JOIXは収益性の高いオフィス ○計算方法 総合収益率 、インカム収益率及びキャピタル収益率は次式で算定 。なお 、 適地に調査地点を絞り込んでいるた 東京都心 5 区と大阪市の数値は 、それぞれの区域に属する全調査対象の めインカム収益率が MU-CBexより 平均値 。 も高い水準となる傾向がある。ま 総合収益率=インカム収益率+キャピタル収益率 た、キャピタル収益率についても、 インカム収益率=純収益÷期首の資産価格 キャピタル収益率= (期末の資産価格-期首の資産価格) ÷期首の資産価格 調査地点を資産価値の高いオフィス 調査対象の純収益は 、周辺事例を参考に不動産鑑定評価の手法で査定し 適地に絞り込んだために、リーマン た賃料に基づく収入と想定建物の規模等に応じて見積もった支出によって 計算 。また 、調査対象の資産価格は 、土地については調査地点の公示価格 (6月末時点は公示価格を時点修正した推定価格 ) 、建物については査定し た再調達原価(建築費 )を合算 。 ○指標の遡及 2011年 12月末時点のインデックス作成時において 、年次ベースで 2002 年まで遡及して指標を整備 。 ショック前に資産価格の上昇幅が大 きくなり、リーマンショック後に反落 した影響で収益率の振幅がやや激 しくなっている。ちなみに、JOIXと MU-CBex の総合収益率の平均と 標準偏差をみると、東京都心 5区で 図 MU-CBex との対比グラフ 東京都心5区 (総合収益率) (%) 20 15 JREI Office Index MU-CBex 大阪市 (総合収益率) (%) 20 15 10 10 5 5 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 0 -5 -5 -10 -10 JREI Office Index MU-CBex 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 July-August 2012 71 Business Trend 72 は JOIXが 平 均 5.40%・標 準 偏 差 最後に、わが国では不動産投資イ 同でファンドレベルのインデックスを 9.02%、MU-Cbex が平均 4.06%・標 ンデックスといえば実物不動産レベ 作成し 、英国においても IPD が年 準偏差8.33%、大阪市では JOIX が ルのインデックスを指すのが通常で 金 総 合コン サル ティング会 社 の 平均 3.90%・標準偏差7.38%、MU- あるが、欧米ではファンドレベルの Mercerと同種のインデックスを公表 CBex が平均2.79%・標準偏差7.42% インデックスの整備が進んでいる。 している。わが国においても、不動 となっている。 機関投資家による不動産運用が実 産証券化協会が企業年金の運用先 なお、弊所としては、利用者サイ 物不動産への投資ではなくファンド となっている私募不動産ファンドに ドにおいて JOIX を MU-CBex と合 を通じた投資が主流となっているこ ついて、ファンドレベルのインデック 理的な方法で接続することで、長期 とがこのような動きの背景にある。 スの作成・公表に取り組んでいるとこ の収益率データを今後も継続的に 例えば、米国では NCREIF が年金 ろであるが、この取り組みを契機と 利用してもらいたいと考えている。 基金による不動産運用コンサルティ してファンドレベルの情報インフラ ング会社の Townsend Group と共 の整備が進むことを期待したい。 やました まさゆき たかはし あきら 日本不動産研究所入所後、不動産投資インデッ クスの調査研究、不動産証券化に係る評価業 務 の 開 発 な ど に 従 事。 そ の 後 2002 年 か ら 2006 年まで証券化プロジェクト室長として不 動産証券化関連の評価業務を統括。2007 年よ り 2 年間財務省に出向(理財局と財務総合政策 研究所を兼任) 、現在、ファイナンスや国際関 連等の新規業務の開発等を担当。 日本不動産研究所入所後、不動産証券化に係る オフィスビル等の鑑定評価や共同ビル開発事業 に係るコンサルティング業務に従事。現在、不 動産市況やオフィス賃料の動向に関する調査研 究、オフィス賃料データベースを利用したコン サルティング業務の開発等を担当。 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.08