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「~た」と「~ます」の混在について
放送用語委員会(札幌) 「~た」と「~ます」の混在について 第 1342 回放 送 用語 委員会 が 2011年1 月21日に 札幌放送局で開かれた。委員は,明海大学教授の 「不服」とあるが,事実誤認なのか量刑が不当な のか,理由を示してほしい。 井上史雄氏と,日本大学の荻野綱男氏。参加局は, また,原稿は「複数の女性を乱暴した…」とあり, 札幌,函館,旭川,帯広,釧路,北見,室蘭の 7 局。 スーパーは「 “複数の女性に乱暴”…」となっている。 ◎長い文章は短く 多数の入所者から虐待を疑わせる不自然な傷などが見 つかっていたにもかかわらず,適切な対策をとっていない などとして,道東の浜中町の特別養護老人ホームが,道 から改善を求める勧告を受けていたことがわかりました。 長いリード文で,聞いていてわかりづらい。タイト ルスーパーは「虐待の疑いで特養老人ホームに勧告」 となっているのだから,例えば「虐待」か 「対策をとっ ていなかったこと」かのどちらかに絞り込んだり,2 段見出しにしたりして,聞きやすくなるよう工夫して ほしい。 この「に」と「を」はどちらも正しい使い方だが,現 代語では徐々に「に」から「を」に変わっていく傾向 がある。話しことばに近い「原稿」では「を」,また 書きことばとなる 「スーパー」では「に」となっていて, 結果的にこうした状況を反映している。 ◎発言に常体と敬体が混在することについて NHK の取材に対し,特別養護老人ホームの○○理 事長は, 「虐待があるという報告はあったが,施設内 で対処し改善されていると思っていた。現在改善策を 検討しています」と話しています。 発言内容の中に常体( 「~た」など)と,敬体( 「~ 道によりますと,ことし 7 月から 9 月にかけて,6 回 にわたって立ち入り検査を行った結果,この数年間に, 多数の入所者から虐待を疑わせる不自然な傷やあざが 見つかり,管理者に報告されていたにもかかわらず,原 因の究明や再発防止策の検討が,適切に行われていな かったということです。 まず,長い文なので,文を分けてほしい。こうい ます」など)が混在している。このような混在は,統 一性がないと感じられるかもしれないが,例えば話 者のへりくだった姿勢を表現するために部分的に敬 体にするケースはときどき見受けられる。 この点について,井上委員からは「『ここからここ までが話した内容だ』ということを耳で聞いてわか りやすくするために,かっこ内を常体にしている, う文は,書いているときは「正しく書いた」という思 という側面がある」という意見が出された。荻野委 いを持つだろうが,ひとたび読まれると,聞く側に 員からは「発言内容の最後だけを敬体にする,とい は長くてわからない。また,時系列が前後するので, う用法は存在するのではないかと考える。気にはな なるべく時系列順にしたほうがわかりやすい。 らない」という意見が出された。発言内容の中で 「常 ◎長い修飾節は避ける 複数の女性を乱暴した罪などに問われ,先月の裁判 員裁判で無期懲役の判決を受けた裁判所の元職員の 男が,判決を不服として控訴しました。 「男」にかかる修飾文が長く,聞く側に負担を与え る。特に,途中に「問われ」などと動詞が出てくると, 体」と「敬体」が混在することは許容の範囲ではな いかという見方が示された。 ◎論理の飛躍のないように 営業所長には目立った外傷はないことから,警察は 病死とみて死因を調べています。 目立った外傷がないから病死である,というのは, 文章の構造が複雑化し,記憶できなくなっていく。 因果関係として論理の飛躍があるのではないか。 「外 なんらかの形で避けてほしい。 傷はなく…」 「外傷はないことなどから」などとしてほしい。 102 APRIL 2011 ◎外来語には「言いかえ」や「言い添え」を 地元の素材を生かそうというパティシエたちの取り組 みを取材しました…(中略)…焼き上がったのは抹茶… ではなく,地元農家が育てたほうれんそうのスフレで す…(中略)…まず,2 種類のトマトを混ぜ合わせて, ピューレにします… 同じリポート内に「パティシエ」 「スフレ」 「ピューレ」 など,菓子作りに関する外来語・専門的なことばが 幾つか出てくる。言いかえたり,一度言い添え(例 えば「…という菓子職人,パティシエたちの…」 )を したりして,外来語をわかりやすくする工夫をしてほ しい。 ◎「ブランド」ということばについて このスフレ,味は全部で 6 種類。ことしの 2 月に立 ち上げられた新しいブランドから発売されました。 「ブランド」ということばは「有名な銘柄や商標」 ◎ことばに含まれる微妙な意味に注意を 先月,ティリオさんのもとを,1 人の男性が訪ねました。 「もと」を使うと,両者に上下関係があるという ニュアンスが出てしまう。この場合は,ティリオさん のほうが偉い,というように聞こえてしまう。注意を して使ってほしい ◎「3 つ星」ということばに注意 きょうは,洞爺湖町にあるフランスの 3 つ星レストラ ンの支店で腕をふるう,フランス人シェフの男性です。 この表現だと,3 つ星なのは,フランスのレストラ ンの本店だけなのか,洞爺湖のレストランも含まれ るのか,わからない。洞爺湖の支店が 3 つ星でない とすれば, 「フランスの3 つ星レストランの洞爺湖町 にある支店」などとする必要があるだろう。 また,ホテルなどには「5 つ星」が最高という基準 の意味合いがある。ここでいう『共通の新しい商品 もあるので, 「3 つ星」について「最高級の3 つ星」と の名称』に「ブランド」ということばが果たしてふさ いうような言い添えがあってもよいのではないか。 わしいかどうか。 また,「ブランドから発売」という表現は, 「ブラ ンドで」とすべきではないか。 「統一ブランドから発 【考査より】 「3 つ星」ということばは宣伝にもつな がるので,多用すべきではない。せいぜい1 回使う 程度にしてほしい。 売」というような表現もないわけではないが,ここ (参考:2009 年 7月13日放送総局「新たな用語統 では「同じ名前で」というような説明をしたほうがよ 一・ギネス世界記録(集) 」の中で,ミシュランガイド かっただろう。 の扱いについて, 「…ミシュランの格付けには賛否両 ◎「~で」は「断定」か「原因・理由」か …土に含まれる水分が凍り,膨張。「凍土現象」と 呼ばれる現象で上への圧力が生じ,管には周囲に比 べ,不均一に上下の圧力が加わり,破断したとしてい ます。 「~で」は, ▼断定の助動詞の「だ」の連用形の場合と 論があり,ライバル誌も存在し,普遍的な選定でも ない(すべての店を対象としていない)ことから,慎 重に客観的な放送を心がけるべきである。また,番 組で,特定の店舗を「3 つ星レストラン」などと紹介 することは,宣伝広告につながるおそれがある」とし ている) 。 また,男性を説明する修飾節の中に,動詞が 2 回 ( 「~にある」 「~をふるう」 )出てくるが,文の中心とな ▼原因や理由を表す格助詞の場合がある。 る「男性です」以外に,2 つの動詞が出てくることで, 聞いていると,しばしばこれがどちらなのかわから 文章が複雑になっている。なるべく複雑になるのを なくなることがある。書いている側はあいまいだと 避ける努力をしてほしい。 は思わずに使うが,聞く側にはあいまいにとらえられ てしまうことがある。 ▼断定なら「~であり(であって) 」 ▼原因・理由なら「~により(によって) 」 , などとすると,よりはっきりする。 井上裕之(いのうえ ひろゆき) 第 1342 回放送用語委員会(札幌) 【開催日】平成 23 年 1 月 21 日(金) 【出席者】井上史雄 氏,荻野綱男 氏 阪中信之 札幌副局長 佐野謙三 放送文化研究所副所長 ほか APRIL 2011 103