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スポーツパフォーマンス系 平成17年度の研究内容とその成果 最近

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スポーツパフォーマンス系 平成17年度の研究内容とその成果 最近
スポーツパフォーマンス系
たけ
氏 名
くら
ひろ
あき
竹 倉 宏 明(教授)
専門分野
主な研究テーマ
筋細胞における興奮収縮連関の機能発現様式に関する分
子・細胞生物学的研究
平成17年度の研究内容とその成果
ロール値40mg/dL未満)②高血圧(最高血
最近、
「メタボリックシンドローム」とい
圧130mmHg以 上、ま た は 最 低 血 圧
う言葉をとても良く耳にします。新聞・雑
85mmHg以上) ③高血糖(空腹時血糖値
誌やテレビでもメタボリックシンドローム
110mg/dL)の3項目のうち2つ以上に当
についての特集が、連日のように取り上げ
てはまる場合にメタボリックシンドローム
られています。メタボリックシンドローム
該当者と判定します。
という名前の病気があるように思われがち
メタボリックシンドロームの予防や改善
ですが、実際にはそのような名前の病気が
には、日常生活における食事や運動が大切
ある訳ではありません。心筋梗塞や脳梗塞
であることが良く知られています。私たち
などの危険性を高める様々な基準を示し、
は、メタボリックシンドロームのモデル動
その中のいくつかを同時に超えた人たちを
物(高血圧ラット、糖尿病ラット・マウス)
「メタボリックシンドローム」の該当者と
の心臓を調べている時に非常に興味深い発
呼んでいます。これに該当する人たちは、
見をしました。高血圧ラットの心臓は非常
身体の状態がこのまま続いて歳を重ねる
に肥大していました。心臓にとても大きな
と、将来的に心筋梗塞や脳梗塞になる可能
負担がかかっているために、心臓が極端に
性が高い人たちということになります。
肥大したと考えられます。さらに、これら
2005年4月に日本人にあったメタボリッ
の動物の心臓をつくる筋肉(心筋といいま
クシンドロームの基準が公表されました。
す)の一部には特別なダメージが発生して
この基準では、内臓脂肪の過剰蓄積(内臓
いることが、電子顕微鏡による詳しい観察
脂肪面積1
00平方cm以上)の目安として、
の結果、明らかになりました。心臓は、電
ウ エ ス ト 周 囲 径 が 男 性 で8
5cm、女 性 で
気(私たちが日頃使っている電気の1000分
90cm以上を「要注意」としています。そ
の1ほどのわずかな電気です)によって収
の中で①血清脂質異常(トリグリセライド
縮し、絶え間なく血液を全身に送り出すポ
値150mg/dL以 上、ま た はHDLコ レ ス テ
ンプの役目をしています。この心筋の電気
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の通り道の一部にダメージが観察されまし
ため、日常生活における積極的な運動の実
た。メタボリックシンドロームに該当する
施についても、高血糖や高脂血症などの予
人々は、内臓脂肪が蓄積して、全身の様々
防・改善や血圧の低下を主な目的としたプ
な働きが上手く行われなくなった結果、血
ログラムが作成されてきました。しかし、
液中の脂肪やブドウ糖の量が極端に増えた
私たちがメタボリックシンドロームのモデ
り、血圧が高くなっています。血液中の脂
ル動物で発見した「心筋細胞のダメージ」
肪やブドウ糖の量が増える仕組みや、血圧
が、人の心臓においても同じように発症し
が高くなる仕組みについては、昔から良く
ているとすれば、今まで行われてきた運動
研究されて来ました。しかし、メタボリッ
プログラムでは、さらに心臓のダメージが
クシンドロームのモデル動物の心筋の一部
大きくなり、運動中の突然死を引き起こす
にダメージが発生しているという発見は、
可能性も考えられます。今まで普通に行わ
世界初の発見です。心筋の細胞を電子顕微
れてきた運動を、そのまま継続することが
鏡で観察しなければ発見できないような小
危険となる可能性も考えられるのです。メ
さなダメージですが、このダメージは、心
タボリックシンドロームに該当者する人々
臓全体の働きを阻害して不整脈を引き起こ
の心臓の働きを考えた、安全で効果的な新
し、心臓の動きをストップさせてしまう引
しい運動処方プログラムの開発が必要とな
き金になるかもしれません。
ります。私たちは、メタボリックシンド
すでに説明したように、メタボリックシ
ロームのモデル動物を使って、実際に運動
ンドロームの予防や改善には日常生活にお
を行わせた場合の心臓の働きを更に詳しく
ける運動がとても有効です。しかし、メタ
研究しながら、新しい運動プログラムの開
ボリックシンドロームのモデル動物の心筋
発を行うことを考えています。
にダメージが発生していることが明らかに
なったので、運動のプログラムも単純に内
臓脂肪の量を減らし、血液中の脂肪やブド
ウ糖の量を減らすことだけを目的としたプ
ログラムでは不十分です。心臓の働きにも
十分な注意を払った運動プログラムの開発
が必要になります。
正常ラット(A)と糖尿病ラット
(B)の心筋細胞に観
察されたCalcium Release Units(CRUs)の電子顕
微 鏡 写 真。正 常 ラ ッ ト 心 筋 細 胞 のCRUsで は T 管
(*)の周囲を筋小胞体が完全に取り囲んでいる。
糖尿病ラット心筋細胞のCRUsはT管(*)が肥大し、
筋小胞体(矢印)がT管の周囲を完全に取り囲んでい
ない不完全なCRUsが数多く観察された。
これからの研究の展望
メタボリックシンドロームは、動脈硬化
に基づく心筋梗塞や脳梗塞の危険性を極端
に高めることは疑いのない事実です。その
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