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日本技術を支える産業集積と活性化
特集・特集・京浜臨海部再編整備・I海上産業都市のビジョン④ ◎産業集積と活性化戦略 ①日本技術を支える産業集積と活性化 は、ソニー、シャープ、セイコー、キャノン れら商品の研究開発、試作、生産等をしたの し得る産業の集まりである。日本においてそ 品︵注2︶﹂の研究開発、試作、生産等を創出 のは、そのための機器を専門に製造する工場、 森谷が大量生産する機器を問題にしている から出発していると喝破されている。 量生産する機器であるため、生産技術の向上 拠点的母工場としての取組み 急速な円高に伴う海外生産への移行による すなわち量産工場が次のような立地因子を有 化︱拠点的母工場としての取組み︱ ①︱日本技術を支える産業集積と活性 ②︱京浜臨海部の現況データ 1︱はじめに 2︱日本技術を支える産業集積とは 支える産業集積﹂ 3︱技術構造論的にみた﹁日本技術を からみた京浜地域の役割 4︱日本の地方産業集積およびアジア の京浜地域の近影 5︱日本技術を支える産業集積として 臨海部の再生 6︱日本経済現状打破の鍵となる京浜 臨海部の再整備の方向 7︱日本技術を支える産業集積−京浜 ●22 調査季報135号・1998.9 出典:㈱開発計画研究所「昌原総合機械工業吉建設基本計画」大韓民国建設部1972 ■柏木孝之 ﹁日本産業の空洞化﹂が議論の俎上にあった 等の国際的な大企業であり、それらの具体的 1一はじめに 一九九四年頃から筆者は、日本産業は空洞化 量産工場は、生産工程が確立されれば、量 しているからである。 国際的に競争優位な﹁多様で豊富な商品﹂ 産効果すなわち﹁規模の経済性﹂が発揮され、 な商品化を支えた中堅・中小企業群である。 言い続けてきている︵注1︶。現在のアジア経 として、森谷正規︵注3︶は、一九五〇年代の より安いコストでの生産を指向するため、用 しないし、国際的な競争優位を維持し得ると 済の危機、日本の金融問題に伴う不況が続い 地費や建設費等イニシャルコストや労働費等 ころへと立地指向する。このため、技術開発 ソニーのテープレコーダー、トランジスター され、量産工程が確立されるまでは、京浜地 ラジオ、六〇年代のシャープの電子式卓上計 ら八〇年代の家庭用VTR、自動焦点カメラ、 区や阪神地区の研究開発、技術開発、試作を ているが、この考え方を変えるつもりはない。 ビデオカメラ、CDなどの家電製品、インク 有する〝母工場〟で生産され、量産の生産工 ランニングコストの安い立地因子を備えたと ジェットプリンター、レーザープリンター、 程が確立されると、地方へと移転立地する︵と 算機、セイコーの電子ウオッチ、七〇年代か カラー複写機、液晶ディスプレイなどを挙げ 茨城大学名誉教授の殿木義三が約三十年前に 優位な技術を担保している産業集積が厳然と 存在するからである。 ている。これらの製品は、日本企業が独占的 その背景は、日本産業には、国際的に競争 国際的に競争優位な技術を有する産業集積 に世界市場に向けて供給しているものの、大 2一日本技術を支える産業集積とは とは、国際的に競争優位な﹁多様で豊富な商 図―1 地域機械工業の技術基盤形成 のイメージ 殿木、また近年において森谷が指摘しよう ていく。 ル、マレーシア、中国へと立地指向が変化し に安いところを指向し続けるから、シンガポー コストの安い東アジアへと立地指向する。徐々 費等イニシャルコストや労働費等ランニング 意欲がある労働力を確保でき、用地費や建設 レス社会になると、海外の中で生産に対して 鋭意分析している︵注4︶。︶当然、ボーダー また、殿木は、このような技術構造の中で、 ラミッド的に表した︵図︱1︶。 造を類型化する。それを花岡が、技術構造ピ デンサー等汎用部品を中間技術とする技術構 電らん、ベアリング、ピストンリング、コン 技術に分け、分けにくい電気絶縁材料、電線・ 除去加工、表面・熱処理、溶接等基礎的汎用 スコープ等特殊機能部品を特殊技術、鋳鍛造、 殿木は、技術を当時のレーザー、ファイバー くの高感度な大企業の研究開発、技術開発部 浜の中堅・中小企業の集積に支えられ、数多 な基礎的汎用技術を有する大田区、川崎、横 など多くの大企業とともに育成してきた多様 試作、さらに製品化は、東芝や日産、リコー などの革新的な技術の研究開発、技術開発、 ンター、カラー複写機、レーザープリンター デオカメラやキャノンのインクジェットプリ ンジスターラジオ、家庭用VTR、CD、ビ 前述したソニーのテープレコーダー、トラ 業集積﹂は、多様な基礎的汎用技術を有し、 基礎的汎用技術さえ十分に備わっていれば、 多様な革新的な技術を高感度に研究開発、技 としているのは、量産化されるまでの試行錯 用技術さえあれば、A製品、B製品、C製品 術開発、試作を可能にする産業集積である。 門に切磋琢磨されたからである。これこそが にも対応可能な生産技術構造になるという考 これを図式化すると、日本技術を支える産業 日本技術を支えてきた産業集積の典型である。 格化する開発に成功する︵注5︶ような研究開 え方を一九八七年にモデル的に図式化してい 集積のモデルは下図︵図︱4︶のごとく表さ 様々な特殊技術を有する製品でも、技術開発 発、技術開発、試作をする工場及び付設研究 る︵図︱2︶。 れる︵注9︶。ここにα、β、γは革新的技術 誤、例えば、アメリカのアンペックスが開発 所の重要性である。 いまひとつ殿木︵注8︶には、一九六六年に の種類であり、もっと多様である。そしてそ 技術構造論的にみた﹁日本技術を支える産 このような工場及び付設研究所の多くの立 機械工業の立地行動を説明する際、生産形態 れを支える多様な基礎的汎用技術があれば、 に基づいて製品化が可能であるという。その 地、そしてこれらの研究開発、技術開発、試 と技術の成熟度により、地方に移転分散する 国際的に競争優位な﹁多様で豊富な商品﹂の 説を受けて、筆者︵注7︶は、多様な基礎的汎 作、さらには量産工程の製作までも支える中 類型と地方に移転分散しにくい類型に分けて 研究開発、試作、生産が可能になる。 高価であったが、日本企業が小型化し、低価 堅・中小企業の多くの立地が﹁日本技術を支 いるモデル︵図︱3︶がある。注目すべきは、 した放送局用のVTRは非常に大型で極めて える産業集積﹂であるということができる。 地方に移転分散しにくい〝革新的な技術で、 寡産型の生産形態すなわち少量生産〟という 殿木の理論を花岡英雄︵現、文化企画代表取 産業集積を技術構造的に把握したものに、 に追跡してみる。 な特徴を有しているかについて、技術構造的 ﹁日本技術を支える産業集積﹂がどのよう を有し、かつ多様に革新的な技術を研究開発、 できない。このため、多様な基礎的汎用技術 トで、時機を逸することなく行い得ることが 地するところにないと、継続的にかつ低コス ほど多くないため、そのような機能の多く立 開発、試作する機会は、企業にとってもそれ 大都市圏の工場等︵大学も含め︶の新規増設立 差の是正を目指し、首都圏整備法等において 産業立地政策は、大都市の過密解消・所得格 業立地政策を抜きに語ることができない。 日本における地方産業集積については、産 技術構造論的にみた﹁日本技術を 支える産業集積﹂ 締役︶が一九七一年に三角形モデル化︵注6︶ 技術開発、試作することが可能な母工場や研 地を制限する一方、拠点開発による工業集積 類型である。革新的な技術を研究開発、技術 したものがある。これは一般に経済学者が使っ 究所が多い大都市に立地指向するのである。 日本の地方産業集積およびアジア からみた京浜地域の役割 ている技術の三角形モデルの源泉である。 一 特集・京浜臨海部再編整備・Ⅰ海上産業都市のビジョン④産業集積と活性化戦略 23● 4 図―2 基礎的汎用技術の応用 図―3 日本技術を支える産業集積モデル 図―4 3 めようとした︵表︱1︶。 術を支える産業集積﹂の形成を強力に推し進 を矢継ぎ早に実施、地方においての﹁日本技 配置政策、テクノポリス政策、頭脳立地構想 の形成を目途とした新産・工特政策、工業再 な﹁産業集積﹂が形成し得たかというと、は 産業立地政策は、前述した国際的に競争優位 右記のように国策レベルで推進されてきた と重複を含め、二十六地区である。 また頭脳立地法の指定もテクノポリスの指定 積には、程遠いというのが実感ではある︵注 ことができる。それでも、京浜地域の産業集 業集積に新たな起動を惹起させているという テクノポリス政策等産業立地政策が地域の産 というように地方における産業集積形成を誘 創業の支援をしようとしている。 ③ 企業家の創出や大企業からのスピンオフ に繋げようとしている。 ことにより、企業相互の技術交流・移転活動 ② 大学、民間企業、研究所とリンクさせる ようとしている。 頭脳部門︵研究開発、技術開発等︶を誘致し ① 工場生産部門のみを誘致するのではなく、 地に工場を誘致するだけでなく、 チコア、頭脳立地法となると、従来の工業団 制定された。このようなテクノポリス、リサー 支援する産業の集積を促進することを目的に 頭脳立地法は、先端技術産業の立地に関して、 ち︶づくりを企図したものである。その後の 集約化も相まって、高度技術集積と都市︵ま 材等先端技術産業の急成長、情報化等の知識 メカトロニクス、バイオテクノロジー、新素 カーが三社輩出された浜松地域には、創業す 十一世紀に向かい世界的なオートバイメー しかしながら悲観材料ばかりではない。二 そう簡単にはいかなかった。 や頭脳立地もシリコンバレーを模範としたが、 である。日本の産業立地政策のテクノポリス 構築し得たシリコンバレーは注目されるわけ 優位な産業集積がスタンフォード大学を核に 市市場に近接していないのに、国際的な競争 くらいの難問なのである。だからこそ、大都 る。これは専門分野の自己逃避でなく、その を構築できなかったことは、明白な事実であ 京浜地域を超えるもしくは匹敵する産業集積 以来、約三十年有余の強力な産業立地政策も、 た。一九六〇年代の拠点開発による工業集積 技術を支える産業集積﹂を構築しきれなかっ 量不足を自己批判せざるを得ないが、﹁日本 ノポリス、頭脳立地計画に携わりながら、力 を専門とする研究者として、いくつかのテク 役割を担っていく必要があると考える。 先進国の一角として世界経済を牽引していく 京浜地域には、世界的な競争優位を維持し、 国を筆頭とするアジアの現状をみるにつけ、 このような日本の地方産業集積の現状、韓 る可能性を秘めている。 ンバレー的な産業集積の形成が急速に進展す 進していることから、大学を核とするシリコ タンフォード大学的な大学の育成を強力に推 りそうである。しかし、頭脳集団すなわちス 構造的に基礎的汎用技術の充実に時間がかか 億円強買い込んでいることからみても、技術 の一九九六年に日本から金属加工機械を一千 先陣を走っている韓国でさえ、金融危機以前 それを輸出している技術構造ゆえと思われる。 入し、一部の部品を加工し、製品を組み立て、 で挫折したからでなく、主要な機能部品を輸 猛追された東アジアの困難性は、金融危機 11)。 近年におけるテクノポリス政策は、IC・ なはだ疑問である。地域計画や地域技術振興 致型重視から内発型重視へと転換させてい 日本技術を支える産業集積として の京浜地域の近影 た。全国で二十六地区が指定を受けている。 画の方式として初めて組み込んだものであっ り、地域の自主性、内発性重視を地域開発計 となった新しいまちづくりを目指すものであ 方の拠点都市地域を対象に産・学・住が一体 言うように、先端技術産業の育成に適した地 特にテクノポリス構想は、笹生仁︵注10︶の る。 部品や加工を外注し始めてきている。これは 機器の外資系企業が地元の中堅・中小企業に な企業が立地してきており、半導体製造関連 近年になり半導体製造装置関連機器の世界的 け販売しようとしている。また、熊本では、 機構が世界的に優位な研究を行い、世界に向 では、ライフサポートテクノロジー研究開発 る若い経営者が次々と出始めているし、山形 な商品﹂を創出してきたことの研究が多くさ 連関構造が国際的に競争優位な﹁多様で豊富 ロセスを支える中堅・中小企業の生産・技術 場とそれらの試作・生産そして量産化へのプ 対象に研究開発・技術開発機能を有する母工 京浜地域の産業集積については、大田区を 5 表―1 産業立地政策の変遷 1998.9●24 調査季報135号・ 研究に参画している。一九九五年以降の再調 回同様の機関で行われ力。筆者は両回の調査 その後、一九九五年に再度、調査研究が前 いることを示してくれたのである。 大都市住民との共有空間で生産し、生活して ことは、高く評価できる。大都市工業として、 積極的に取り組み、再整備を具体的に進めた 工業といいながら、基本構想を企業ぐるみで を具現化している。消費者に近い消費財型の のようなレストラン、見せる工場など再整備 となり企業ぐるみで積極的に取り組み、現在 ︵現キリンビール︶常務取締役工場長が中心 会副委員長でもあった片岡純一郎騏麟麦酒 このような再整備の目標を当時、策定委員 築する﹂とした。 たな活力ある生産空間︵産業ゾーン︶に再構 標は、﹁二十一世紀の市民社会と調和した新 たっては企業実態調査を実施し、再整備の目 整備基本構想を策定した。基本構想策定に当 年から二年間かけて、京浜工業地帯臨海部再 は、︵株︶開発計画研究所とともに、一九八三 このような中で横浜市と横浜商工会議所で 関、立地・操業環境などの研究が少なかった。 ス機能付設への転換等機能変化や生産技術連 から研究開発機能への重点のシフト、オフィ ついては、企業実態調査を踏まえた工場生産 れてきている。ところが臨海部の産業集積に している。倉庫業は、輸入品の取り扱いであ ④ 数多く立地している倉庫業が大きく変化 発機能を集約化しようとしている。 グ企業のため、やや異なるが、本社と研究開 が典型である。千代田化工もエンジニアリン たものを付設しようとしている。日本ビクター クセンター化した流通加工基地へと転換させ へと移行させ、移輸入を中心にしたロジスティッ ら移転している。また生産機能を地方や海外 ③ 研究開発機能に加え、本社機能を東京か に展開したキリンビールなどが典型である。 うとしている昧の素、そしてレストラン部門 町全体での大消費地型食品加工へと展開しよ 包装系の加工食品分野に活用し、臨海部大黒 パイロットプラントの設置、余剰用地を混合 社に移管し、油の精製、包装、流通加工機能、 へと転換した昭和産業、搾油を千葉の関連会 填工場、ギフトセットの生産保管、配送機能 鹿島・神戸に移管させた後、ギフト向けの充 なりつつある。小麦の製粉工場、製油工場を スティックセンター化した食料品加工工場に 加工やパッケージをする流通加工およびロジ ② 東京圏の大消費地への近接性を活かし、 は拠点的な母工場の典型である。 事業所:タービンについては創業地である︶ ヶ谷化学、日東化学、ニチアス、︵東芝京浜 鶴見曹達、日産自動車、キリンビール、保土 積であることを再認識したいものである。 つグローバル的にも貴重な財産である産業集 術再構築﹂の突破口が期待でき、日本の、か 工場や倉庫業に﹁日本経済再生﹂や﹁日本技 ジスティックセンター等情報武装化している 先鋭化している大企業の拠点的な母工場、ロ て京浜臨海部にある研究開発、試作・生産を 能に力強さがない現在、これらの変化によっ 東京大田区、川崎市の大企業の研究開発機 一部の工場を除く︶。 ようとしているのである。︵遊休地化された 産業集積が、時代の変化の中で様変わりをし 変化がみられる。日本の中でこれだけ稿密な うとしている工場や倉庫業等多様な機能へと ティックセンター化、業務ビルヘと転換しよ 場や倉庫業、本社機能の移転、工場のロジス 情報武装化して市場対応を迅速にしている工 研究開発、試作・生産を先鋭化している工場、 右記のように、京浜臨海部の産業集積は、 ている。 から効率よい経営ができず、移転意向を示し 事情、例えば混雑や待機トラックの渋滞など ⑤ 物流センターとして立地した企業は道路 倉庫が典型例である。 ろうとする方向に分かれる。安田倉庫、三井 日本経済現状打破の鍵となる京浜 臨海部の再生 なっている。とくに創業地工場である旭硝子、 誤しうる大企業にとっての拠点的な母工場に ①長年の技術・技術者蓄積により、試行錯 左記のような特徴がみられた。 にもかかわらず、京浜地域臨海部の企業は、 査研究においても、バブル経済崩壊後、円高 利用状況に対応して業務ビル等への転換を図 スティックセンター化する方向と周辺の土地 庫業は、このような状況の中、輸入品のロジ 産、物流し、倉庫に在庫することがない。倉 が取れないためか、ジヤストインタイムで生 る。輸出品は倉庫業を活用するほど付加価値 地域の工業について見直され始める。そして う産業空洞化の危機などから、特に大都市 り、バブル経済の崩壊、急速に進む円高に伴 日本の産業立地政策は、一九九〇年代に入 一 特集・京浜臨海部再編整備・Ⅰ海上産業都市のビジョン④産業集積と活性化戦略 25● 6 には、次のような再整備が必要となる。 ① 研究開発機能を有した大企業の拠点的な りつつある。 し始め、安易な土地利用転換に歯止めがかか 営的には負担増になるだけという認識が浸透 リゾートに大量に転換したとしても、都市経 なされている。工業が水辺を生かした住宅、 する研究開発機能、オフィスなどの見直しも 都市経営からみても、工業そして工業に関連 ままで過小に評価されてきたきらいがある。 都市経営とくに税収面的にみても、工業はい 得る工業への転換が期待されつつある。また、 的な競争優位な工業の再生、新分野を創出し るため、スクラップアンドビルドされ、国際 国際的に競争優位な大企業が多く立地してい 京浜臨海部等大都市臨海工業地域は、特に 緩和に踏み切っている。 発型企業の新設などについて工場等制限法の 認めることや大学、大学院の新増設、研究開 の見直しを行い、スクラップアンドビルドを を鑑みて、国土庁、通産省等は産業立地政策 得る活力を失いかけている。このような状況 争優位を失いつつ、かつ新たな分野を起こし により、新増設ができず、次第に国際的な競 であり、源泉であったが、制限三法等の規制 大都市工業は、地方への工業再配置の苗床 営からも大都市工業が見直されつつある。 まず、長年の技術・技術者蓄積により、国 備上の課題を提案する。 本技術を支える産業集積﹂になるための再整 十一世紀においても国際的に競争優位な﹁日 右記のような産業集積の特性を生かし、二 できる。 の充実により、さらに進展するということが 社機能やロジスティックセンターは情報装備 アジアの通貨不安に左右されることなく、本 している。このような傾向は、日本の不況や 工基地やロジスティックセンター化しようと と移行させ、製品の輸入を中心にした流通加 ら移転させる企業は生産機能を地方や海外へ ③ 研究開発機能に加え、本社機能を東京か く立地している。 ター化しようとする食料品工業、倉庫業が多 化をする流通加工およびロジスティックセン し、海外生産へと移行した製品のパッケージ ② 東京圏という大消費地への近接性を活か 点的な母工場が多く立地している。 錯誤しうる研究開発機能を有する大企業の拠 に競争優位な新分野開拓や新製品開発を試行 ① 長年の技術・技術者蓄積により、国際的 約できよう。 の活力の源泉と言えるものは、次の三点に集 京浜臨海部の産業集積の特徴であり、将来 期待できる。そのため研究開発型団地や経営 大学院生、教員、研究者が出てくる可能性も どからスピンオフして研究開発型企業化する 部における高まりは、大学、研究所、企業な ② このような世界的な研究開発の京浜臨海 機能の充実が図られるであろう。 える産業集積﹂がさらに活性化し、研究開発 野への取り組みを指向させ、﹁日本技術を支 浜にある大企業の拠点的な母工場に新たな分 るであろうし、世界的な研究開発こそが、京 とは、世界的な都市間競争の切り札になり得 の活性化すなわち世界的な研究者を集めるこ 自の研究費をつけるべきであろう。研究開発 らず、世界の研究者の注目に値するような独 する大企業の拠点的な母工場の研究者のみな ける重要な研究テーマに、京浜臨海部に立地 予定である。そこで横浜市は二十一世紀にお し、隣接して横浜市立大学大学院が建設する れる。横浜には、理化学研究所の立地が決定 体例としては超LSI研究組合などが挙げら の能力が十二分に発揮できるようになる。具 者間の競争はさらに激化し、各企業の研究者 ば大学の研究者と共同研究ができれば、研究 有の各企業の研究者が他の企業や機関、例え 分に生かしていないからである。そこで、現 出させない︶が研究者の研究開発能力を十二 れは企業というバリアー︵企業ニーズの枠を 日本技術を支える産業集積︱京浜 臨海部の再整備の方向 このような動向を踏まえると、京浜臨海部の 際的に優位な新分野開拓や新製品開発を試行 相談等にも対応可能なベンチャーキャピタル ●26 調査季報135号・1998.9 現在アジアの通貨危機、超低金利政策も功を 奏さない不況、それに伴う円安、さらに株、 土地価格の下落などの経済環境の悪化にも後 再生は、日本経済にとっても、日本技術にとっ 錯誤しうる研究開発機能を有する大企業の拠 の立地を促進させる機能を建設していく必要 が、これらの能力を生かしきれていない。そ 母工場は、多くの優秀な研究者を抱えている ても、大都市の経営にとっても現状打破の鍵 点的な母工場等のさらなる活性化を図るため 押しされ、既存のストックを活かした経済運 になっていると言える。 7 オフ的な研究開発型企業の創業等を支援する 研究、大学院生、教員、企業研究者のスピン まりや理化学研究所、横浜市立大学大学院の ③ 大企業の拠点的な母工場の研究開発の高 と考えられる。 の競争を生み出し、さらなる活性化に繋がる がある。それが京浜臨海部に新たな研究開発 をタイムリーに迅速に流通する必要に迫られ ズの多様化に伴い、消費者が必要とするもの ダウンの要請、豊かさを背景とする消費ニー 業の地方分散、国際分業の進展によるコスト であった。しかし、国際的に競争優位な製造 ① わが国の流通業は、国際的に劣位な産業 である。 図るため、次の五点を踏まえた再整備が必要 ︵注1︶柏木孝之﹁産業空洞化過程における 引用・参考文献 ︿文理情報短期大学教授﹀ ターへのアクセス環境の整備も重要である。 バス便など、オフィスやロジスティックセン ⑤ 歩行者優先道路やトイレ等の整備、また 要となろう。 ⑤ 東京ガスが﹁ガスの科学館﹂をつくり、企 である。 住まい得る住宅・都市施設などの整備も重要 ④ 国際的な人材が働き続けられる研究環境、 タハウス等を整備していく必要がある。 極的に誘致を図るような団地やインキュベー インダストリーについても京浜臨海部でも積 図り、充実させていく必要がある。サポート のサポートインダストリーの立地・再整備を 費者ニーズ、市場情報を有した流通産業がこ 授が十年近く前に指摘していた。すなわち消 の時代などと今井賢一スタンフォード大学教 ﹁プロダクトアウト﹂から﹁マーケットイン﹂ につれ、主導産業になってくる。このことを ② 流通は、消費者ニーズが多様化してくる で組織化し、研究開発していくべきである。 ター、機器メーカー、マーケティング各社等 における食料品、倉庫業界、またコンピュー なロジスティクスを、先取り的に京浜臨海部 ている。このようなシステム、すなわち広義 工業基地建設基本計画﹂大韓民国建設部 ︵注6︶︵株︶開発計画研究所﹁昌原総合機械 観﹂によるところが大きい ︵注5︶︵注2︶に同じ。特に﹁文明の技術史 う﹂実業之日本社1998.8 社1995.2、﹁この新技術新市場が日本を救 書1998.6、﹁技術空洞化論﹂東洋経済新報 ︵注3︶森谷正規﹁文明の技術史観﹂中公新 ︵注2︶﹁通商白書平成十年﹂から引用 農村工業導入の課題﹂農工情報1995.12 専門・特化した技術を有する基礎的汎用技術 業の研究所の立地を促進しようとしている。 のような製品をつくれと日本や東アジアへと ︵注7︶︵株︶開発計画研究所﹁北の技術ネッ 1972 関する研究﹂茨城大学工学部紀要1965 ︵注4︶殿木義三﹁機械工業の立地的性格に メリカUSスチールやRCA等巨大独占企業 森谷正規が指摘しているように、﹁戦後のア 指令を出す時代は遠くない。このような意味 forIndustrial Agg wl io tm heration は、国際競争で劣勢を強いられると、優秀な 育成を図るべきである。 CompetitiT vh ee F ni ef sI t sC h "AT& International トワーク基本計画調査報告書﹂1986 ③ 大黒ふ頭に入る四十フィートコンテナが ︵注8︶︵注4︶に同じ れるような努力をしていくことは重要であ 直接移動しうる道路網整備や羽田空港の国際 から流通業の市場情報取得そして生産指令等 る。すなわち小中学生や市民、研究者等幅広 航空・貨物化なども活性化の重要なポイント ︵注10︶笹生仁﹁工業の変革と立地﹂大明堂 情報ネットワークの構築が重要であるため、 い人達にとって﹁魅力的な企業﹂であること であり、積極的に検討し、整備が促進するよ (注11)N.Maruyama,T ". A MK oa ds eh liwagi 1991 人間があっさりと辞めていく。そして優秀な は、優秀な人材を確保することになるからで うな具体策を考える必要がある。 (注9)N.Maruyama,T." KA ap sl ha in wagi ある。京浜臨海部の各企業も是非努力を続け ④ 本社機能、オフィスやロジスティックセ 積極的に支援し、京浜臨海部へと機能の誘致・ てほしいものである。 of Indust Ar gi ga ll omera an tdI it os n 的な競争優位を持ち続けるような企業でいら また、食料品工業や倉庫業の流通加工化、 ンターヘの就業者に対するレストラン、コン ApplicaI tC iP oR1 n9 "97.8 新人が入ってこない﹂ことのないような国際 ロジスティックセンター化していく傾向そし ビニ等豊かさを提供する都市施設の充実も重 ICPR AsiM aeeti 1n 9g 98.7 て本社機能やオフィスに対しても、活性化を 一特集・京浜臨海部再編整備・Ⅰ海上産業都市のビジョン④産業集積と活性化戦略 27●