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貨物船博祐丸漁船金比羅丸衝突事件(簡易)

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貨物船博祐丸漁船金比羅丸衝突事件(簡易)
公益財団法⼈
海難審判・船舶事故調査協会
平成 20 年神審第 25 号
貨物船博祐丸漁船金比羅丸衝突事件(簡易)
言 渡 年 月 日 平成 20 年 6 月 10 日
審
判
副
理
庁
受
神戸地方海難審判庁(加藤昌平)
事 官
審
職
鎌倉保男
人
A
名
博祐丸一等航海士
海 技 免 許
受
審
職
五級海技士(航海)
(履歴限定)
人
B
名
金比羅丸船長
操 縦 免 許
損
害
小型船舶操縦士
博祐丸・・・・左舷中央部外板に擦過傷
金比羅丸・・・船首部外板に割損等
原
因
博祐丸・・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)
不遵守(一因)
裁 決
主
文
本件衝突は,博祐丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している金比羅丸の進路を避けなか
ったことによって発生したが,金比羅丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避ける
ための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
裁決理由の要旨
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 19 年 12 月 12 日 06 時 15 分
和歌山県日ノ御埼北西方沖合
(北緯 33 度 56.0 分 東経 134 度 58.7 分)
2
船舶の要目
船
種 船
名
貨物船博祐丸
漁船金比羅丸
総
ト ン
数
499 トン
4.8 トン
長
75.00 メートル
全
登
録
長
機 関 の 種 類
出
力
漁船法馬力数
3
12.16 メートル
ディーゼル機関
ディーゼル機関
1,323 キロワット
80 キロワット
事実の経過
博祐丸は,平成 8 年 3 月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,平成 11 年 7 月五級海技士(航
海)(履歴限定)免許を取得したA受審人ほか 4 人が乗り組み, 鋼材 1,618 トンを積載し, 船
- 1 -
首 3.6 メートル船尾 4.8 メートルの喫水をもって,平成 19 年 12 月 12 日 00 時 10 分岡山県水
島港を発航し,鳴門海峡を経由して千葉県千葉港に向かった。
ところで,博祐丸は,主として,水島港から名古屋及び京浜地区に向けての鋼材輸送に従事
しており,操舵室内には,ジャイロコンパス,レーダー 2 台,GPSプロッター,舵輪,自動
操舵装置及び主機遠隔操縦装置等を備え,甲板上には,操舵室から死角を生じる構造物はなか
った。そして,船体操縦性能表によると,全速力前進で右舵 35 度をとったとき,旋回径は,
右 221 メートル,左 207 メートルで,全速力前進から全速力後進にかけたとき,発令から船体
停止までの所要時間は 2 分 10 秒,進出距離は 507 メートルであった。
04 時 00 分A受審人は,当直を交替して単独で船橋当直に当たり,航行中の動力船の灯火を
表示して紀伊水道を南東進し,06 時 00 分紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)
から 312 度(真方位,以下同じ。)7.9 海里の地点で,針路を 140 度に定め,機関を全速力前進
にかけて 11.5 ノットの速力(対地速力,以下同じ。)としたとき,3 海里レンジでオフセンタ
ーとしたレーダー画面上,船首方 3 海里付近に数十隻の船の映像を認めたので,前方を目視し
たところ,右方に移動する漁船群の灯火を視認し,その後,前路を沖合に向けて右方に航過す
る同漁船群を見ながら自動操舵により進行した。
06 時 12 分わずか過ぎA受審人は,日ノ御埼灯台から 308 度 5.6 海里の地点に達したとき,
左
舷船首 5 度 1,000 メートルのところに,トロールにより漁ろうに従事中の金比羅丸が掲げる,
白,緑 2 灯及び垂直に連携した緑,白 2 灯を視認し,その後,同船が衝突のおそれがある態勢
で接近したが,既に,他の漁船が全て船首を右方に航過していったので,金比羅丸も右方に航
過するものと思い,右方の漁船群を見ていて,同船に対する動静監視を行わず,このことに気
付かないまま,同一針路,速力で続航した。
こうして,A受審人は,大きく迂回するなど漁ろうに従事する金比羅丸の進路を避けること
なく進行し,06 時 15 分少し前,左舷船首至近に接近した金比羅丸を認めて衝突の危険を感じ,
手動操舵に切り替え,右舵一杯,機関中立としたものの,効なく,06 時 15 分日ノ御埼灯台か
ら 307 度 5.1 海里の地点において,原針路,原速力のまま,博祐丸の左舷中央部に,
金比羅丸の
船首部が,後方から 73 度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力 2 の北風が吹き,視界は良好であった。
また,金比羅丸は,平成 13 年 3 月に進水したFRP製漁船で,昭和 59 年 3 月小型船舶操縦
士免許を取得したB受審人ほか同人の息子 1 人が乗り組み,底びき網漁の目的で, 船首 0.20
メートル船尾 1.25 メートルの喫水をもって, 同日 03 時 10 分和歌山県箕島漁港を発し,
同漁港
南西方の漁場に向かった。
ところで,金比羅丸は,船体ほぼ中央部に操舵室を設け,同室内に,レーダー,GPSプロ
ッター,魚群探知機,舵輪,自動操舵装置及び主機遠隔操縦装置を備え,後部甲板にも主機遠
隔操縦装置及び遠隔操舵装置を備えていたが,海上衝突予防法により装備することを定められ
た汽笛の設備はなかった。そして,その操業は,先端に網の巻き上げ金具(以下「巻き上げ金
具」という。)を取り付けた長さ 60 メートルの袖網及び袋網に,長さ 30 メートルの引き索及
び開口板を取り付けた漁具を,曳網索で引くもので,揚網する際には,後部甲板で操船しなが
ら,同甲板に備えた曳網索用リールを操作し,網が海面に近づいたところで,巻き上げ金具を
同リールに付け替えたのち,網巻き上げ用やぐらで網を巻き上げるものであった。
B受審人は,03 時 30 分漁場に到着し,航行中の動力船の灯火に加え,トロールにより漁ろ
うに従事することを示す連携した緑,白 2 灯を表示して操業を始め,04 時 50 分曳網索を 350
メートル延出し, 針路を 213 度に定め,2.5 ノットの速力として自動操舵により 2 度目の曳網
- 2 -
を開始し,06 時 07 分日ノ御埼灯台から 309 度 5.1 海里の地点で,揚網を行うために,
遠隔操舵
に切り替えて速力を 1.0 ノットに減速し,レーダー画面を確認しないまま操舵室から後部甲板
に移動して周囲を見回したところ,沖合の漁場に向かう漁船群の他に支障となる船を視認しな
かったので,同一針路のまま,息子とともに揚網作業を開始した。
06 時 12 分わずか過ぎB受審人は,右舷船尾 78 度 1,000 メートルのところに,博祐丸の白,
白,
紅 3 灯を視認することができる状況で,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,
揚網開始時に支障となる船を視認しなかったことから,接近する他船はいないものと思い,揚
網作業に集中して見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うこ
となく,博祐丸が更に間近に接近しても,停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとら
ないまま揚網作業を続け,06 時 15 分わずか前巻き上げ金具を曳網索用リールに付け替えよう
としていたとき,船首至近に博祐丸を視認したものの,どうすることもできず,前示のとおり
衝突した。
その結果,博祐丸は,左舷中央部外板に擦過傷を,金比羅丸は,船首部外板に割損等を生じ,
漁具を流出した。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,和歌山県日ノ御埼北西方沖合において,南東進中の博祐丸が,動静監視不
十分で,トロールにより漁ろうに従事している金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生
したが,金比羅丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとら
なかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,和歌山県日ノ御埼北西方沖合において,南東進中,左舷船首に,金比羅丸
の掲げるトロールにより漁ろうに従事することを示す連携した緑,白 2 灯を視認した場合,衝突
のおそれの有無を判断できるよう,
動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
しかしながら,
同人は,同じころ前方に視認した他の漁船が全て,既に船首を右方に航過していったので,金比
羅丸も右方に航過するものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と
衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,大きく迂回するなど同船の進路を避けるこ
となく進行して衝突を招き,博祐丸の左舷中央部外板に擦過傷を,金比羅丸の船首部外板に割損
等を生じ,漁具を流出させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項
第 3 号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,日ノ御埼北西方沖合において,漁ろうに従事する場合,接近する他船を見
落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人
は,揚網を開始するときに周囲を見回して,付近に支障となる船を視認しなかったので,揚網中
に他船が接近することはないものと思い,揚網作業に集中して見張りを十分に行わなかった職務
上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する博祐丸に気付かず,警告信号を行うことな
く,停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き,前示の損傷等
を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項
第 3 号を適用して同人を戒告する。
- 3 -
参 考 図
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