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モーターボート セグンド号浸水事件

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モーターボート セグンド号浸水事件
平成 18 年神審第 93 号
モーターボート セグンド号浸水事件
言 渡 年 月 日
平成 18 年 12 月 7 日
審
判
庁
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,工藤民雄,濱本
理
事
官
黒田敏幸
受
審
人
A
名
セグンド号船長
操 縦 免 許
小型船舶操縦士
職
損
害
宏)
船体外板に多数の擦過傷,船外機を濡損
船長が発作性心房細動,低体温症,同乗者が低体温症
原
因
波浪の高まった海域への進入を中止しなかったこと
主
文
本件浸水は,波浪の高まった海域への進入を中止しなかったことによって発生したものであ
る。
受審人Aを戒告する。
理
由
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 18 年 4 月 29 日 11 時 17 分
京都府栗田湾
(北緯 35 度 33.5 分
2
(1)
船舶の要目等
要
目
船
種
名
モーターボート セグンド号
長
2.17 メートル
機 関 の 種 類
電気点火機関
登
船
録
出
(2)
東経 135 度 16.4 分)
力
3 キロワット
設備及び性能等
セグンド号(以下「セ号」という。)は,出力 1.5 キロワット未満の機関を搭載する場合
には,小型船舶安全規則に定める船舶検査の受検を要さない,ミニボートと呼称される無
甲板のFRP製モーターボートで,船首部に各辺 45 センチメートル(以下「センチ」とい
う。)高さ 30 センチの,後部に幅 30 センチ高さ 40 センチで両舷にわたって設けられた空気
室を備え,浮力及び安定性を増すために,舷側にサイドフロートと称する幅 20 センチで長
さ 150 センチのほぼ箱形の浮体を取り付けていた。
そして,同号は,日ごろ出力 3 キロワットの船外機を取り付けて使用されていたことか
ら,平成 17 年 12 月に第 1 回定期検査を受検して最大搭載人員 2 人の指定を受けており,後
部の空気室上部に備えたいすに座った姿勢で船尾端に装備した船外機のグリップハンドル
を操作することができ,本件時,乾舷は約 0.3 メートルとなっていた。
3
事実の経過
セ号は,A受審人が 1 人で乗り組み,知人 1 人を同乗させ,いずれも救命胴衣を着用し,釣
りの目的で,船首尾とも 0.2 メートルの喫水をもって,平成 18 年 4 月 29 日 07 時 30 分京都府栗
田漁港を発し,同港東北東方約 3,500 メートルにある無双ケ鼻をかわって同鼻北西方 500 メート
ルばかりの釣場に向かった。
ところで,栗田漁港は,同港から北東ないし東方に延びる長さ約 4 キロメートルの砂浜,石
浜及び岩場からなる陸岸と,同港から南東に延びる長さ約 4 キロメートルのほとんど砂浜から
なる陸岸とに囲まれた栗田湾の湾奥に位置し,北東側に延びる陸岸の先端にある無双ケ鼻は岩
壁をなし,同鼻北側には,砂浜,石浜及び岩場からなる陸岸が北西方向に延び,同鼻から北西
方 3 キロメートルのところに島陰漁港があった。
08 時 00 分ごろA受審人は,釣場に到着したのち,投錨して釣りを行っていたところ,10 時 50
分ごろ,同釣場付近では風がなく波も静かであったものの,栗田湾内では風が強まり,波が高
くなっているとの話を他船から聞いたので,無双ケ鼻付近まで移動し,発航時には無風状態だ
った同湾内で,南風が強まり波高が 1 メートルを超えているのを認め,同釣場に戻った。
A受審人は,前示釣場に戻って投錨していたところ,11 時 05 分,近くにいた全長 3.3 メート
ルで両舷に大型のチューブ型エアフロートを装備したミニボートが発進し,その後,無双ケ鼻
沖合を南下して栗田湾の方に向かうのを認め,11 時 10 分京都府宮津市にある標高 180 メートル
の無双山山頂(以下「無双山山頂」という。)から 085 度(真方位,以下同じ。)960 メートルの
地点を発進し,毎時 10 キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)として,無双ケ鼻沖合
に向けて陸岸沿いに進行した。
11 時 13 分半A受審人は,無双山山頂から 098 度 1,370 メートルの地点に達し,栗田湾内を見
ることをできるようになったとき,付近では波がやや高くなっており,同湾内では白波が立ち,
依然として波高が 1 メートルを超えているのを認め,そのまま続航して同湾内に進入すると,
乾舷の小さいセ号では,大波を受けて浸水するおそれがあったが,先行したミニボート同様,
セ号も舷側にサイドフロートを装備しているので,栗田湾内を航行して栗田漁港に戻ることが
できると判断し,波浪の高まった同湾内への進入を中止することなく,陸岸沿いに進行した。
A受審人は,無双ケ鼻を航過した後,さらに波浪が高まって船体動揺が大きくなり,波しぶ
きを受けるようになったので,11 時 14 分無双山山頂から 102 度 1,390 メートルの地点で,速力
を毎時 5 キロメートルに減じて続航中,11 時 17 分わずか前ほぼ西に向いていたとき,波浪が打
ち込んで船内に滞留し始めたことから危険を感じ,付近の海岸に向けようとしたところ,11 時
17 分無双山山頂から 109 度 1,250 メートルの地点において,船首に大波を受けて船尾が没水し,
船外機が停止するとともに,一瞬のうちに船内に浸水して水船状態となった。
当時,天候は晴で風力 5 の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
その後,漂流中に左舷正横から大波を受けて転覆し,付近の海岸に漂着していたところ,A
受審人は,携帯電話による同人からの救助要請を受けた海上保安庁の巡視艇により,同乗者と
ともに救助された。
その結果,船体外板に多数の擦過傷を生じ,船外機を濡損したが,のち修理され,A受審人
が発作性心房細動及び低体温症を,同乗者が低体温症を負うに至った。
(本件発生に至る事由)
1
乾舷が小さかったこと
2
栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超えていたこと
3
サイドフロートを装備しているので,栗田湾内を航行して栗田漁港に帰港できると判断し,
同湾内への進入を中止しなかったこと
(原因の考察)
A受審人が,無双ケ鼻沖合に達し,栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超えているの
を認めた際,セ号の乾舷が小さく,波浪の打ち込みを受けやすいことを考慮して同湾内への進
入を中止し,波の静かな無双ケ鼻北方で待機し,付近の砂浜あるいは島陰漁港に接岸していれ
ば,大波を受けて浸水することはなく,その後,転覆,漂流して低体温症等を負うに至らなか
ったものと認められる。
したがって,A受審人が無双ケ鼻沖合に達し,栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超
えているのを認めた際,サイドフロートを装備しているので,栗田湾内を航行して栗田漁港に
帰港できると判断し,同湾内への進入を中止しなかったことは,本件発生の原因となる。
乾舷が小さかったこと及び栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超えていたことは,操
船者が,自船の船型及び気象,海象の状況に応じて航行の可否の判断を求められるものであり,
本件時,無双ケ鼻北方では波が静かで,安全な海域及び接岸地等があって,それらの地点に接
岸することができたから,本件発生の原因とならない。
なお,本件では,連絡手段としての携帯電話を保有し,救命胴衣を着用していたことから,
浸水して転覆後,無事に救助されたものであり,これらの装備は,いずれも小型船舶安全規則
に定める法定備品であるが,同法の適用を受けないミニボートにおいても,生命及び身体の安
全を確保できる手段として,救命胴衣を着用し,連絡手段として防水パックに入れた携帯電話
を保有しておくことが望ましい。
(海難の原因)
本件浸水は,栗田漁港に向けて帰港中,栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超えてい
るのを認めた際,同湾内への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,栗田漁港に向けて帰港中,栗田湾内で波浪が高まり,波高 1 メートルを超えてい
るのを認めた場合,自船はミニボートで乾舷が小さく,大波を受けて浸水するおそれがあった
から,同湾内への進入を中止すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,近くにいた全
長 3.3 メートルで両舷に大型のチューブ型エアフロートを装備したミニボートが発進したのち,
無双ケ鼻沖合を南下して栗田湾の方に向かうのを認め,自船も舷側にサイドフロートを装備し
ているので,栗田湾内を航行して栗田漁港に戻ることができると判断し,同湾内への進入を中
止しなかった職務上の過失により,高まった波浪により船体動揺が大きくなって続航中,船首
に大波を受けて船尾が没水し,船外機が停止するとともに,一瞬のうちに船内に浸水して水船
状態となり,その後,漂流中に大波を受けて転覆し,付近の海岸に漂着して船体外板に多数の
擦過傷を生じ,船外機を濡損し,自身が発作性心房細動及び低体温症を,同乗者が低体温症を
負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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