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第2章 :スケッチを立体化する 前回は目で見るものはすべて「構成」の
第2章 :スケッチを立体化する 前回は目で見るものはすべて「構成」の 結果であることを学んだ。 今回は構成のもっとも簡単な例として 「立体に見える線画」について考えよう。 一番簡単な例:これは何に見えるか ? 答:立方体 「この線画が立方体に見える」という事実には いろいろ変なことがあるはずである。 どんな変なことがあるだろうか ? 考えてみよう。 → 解答例は次ページ おかしな点 1 : 2 次元の線画なのに平面には見えない。 おかしな点 2 : 本当はこんな風には見えない。 遠い辺が短いはず。 おかしい点 3 : A 、 B はどっちが手前 ? A B おかしな点 2 :について 机の上のティッシュの 箱の写真。手前と 奥の辺の長さは ? どう見ても同じ長さ には見えないだろうが、 これは同じ長さ。 目で見たときも箱の上面は台形でなく平行四辺形 として再構成されている。鉛筆で実際に肉眼で長さ を比べてみるとかなり違うので驚く。 だからこそ、線画も平行四辺形でいい。 目には「台形」が見えているのに VI は 「平行四辺形」を再構成してしまう。 → 遠近法の発見が遅れた理由。 下のアニメの一シーンでおかしいところは ? 良く見ると左の アニメの一シーン の本は形がおかしい。 台形ではなく平行 四辺形に近い。大体、 床の線と平行に なってない。 こんな風に現実と 違っていても VI が 「構成」しているので 気付かない。 同じアングルの実写はちゃんと台形になっている つまるところ「現実そのまま」の CG が 現実のように見えるかどうかはわからない。 本は「台形」ではなく「平行四辺形」で 描いた方が本らしく見えるのかもしれない。 要するに VI の「構築」に対して現実に 近い3次元が構築できるような2次元刺激を 与えればいい。 おかしな点 3 : 2 通りの見え方 ネッカーキューブ: A が前になったり B が前になったりする。 → なぜ ? A B 実際はこれ以外にも 無限の可能性あり。 辺が一本だけ前後に動いていて 離れているかも知れない。 直線は、奥行方向に波打っているかも 知れない。その中からむりやりたった 2 つの 可能性を選ぶのだから「不定」なのも 無理は無い。 じゃあ、こういう線画はいつも 3次元に見えるのか ? → 問 答: NO 。 下の図の両端は 2次元の絵にしか 見えないだろう。 なぜ、 3 次元に見えたり、 2 次元に見えたりするのか ? → 答は次ページ 答:網膜像はいずれにせよ2次元である。 つまり、2次元から 3 次元を構成するのは 本質的な作業である。 このために視覚法則がある。視覚は視覚法則を 満たすように構成される。以下に、ひとつ、重要な 視覚法則を説明しよう。 安定性の法則:図が安定的な見え方をする 視覚世界のみを構築する。 ( 英語では generic viewpoint assumption と いうらしい ) 例: 問:これは3次元の 物体を描いた線画である。 どの様な 3 次元物体が 想像されるか ? → 答は次ページ 答: V 字形の物体 問:他には ? 答:箸。先端が交わらない、 お互いに離れた2本の線分 なぜ、そうは見えないのか ? 答:箸だったら V 字に見えるのはまれだから。 安定性の法則の例: 3 次元だとしたら 何に見える ? 答:棒 他のどんな物体もこういう風にみえることは 滅多に無いので安定性の法則から視覚としては 構築されない。 安定性の法則の例: 3 次元だとしたら 何に見える ? 答:点 線分を真横からみたものだとは思えない。 安定性の法則からの派生法則 法則1:図中の直線は常に、三次元空間内に おいても直線であると解釈される。 法則2:図中で 2 直線の先端が接している 場合には常に三次元空間においても 接していると解釈される。 法則 1 、 2 を使うと、両端の線画が 「立方体」に見えない理由を どう説明できるだろうか ? → 次週までの宿題。 レポートとして提出せよ。 左端の線画はちょっとすらせば立体に見える。 反論: 対称性が くずれたからじゃないの ? 対称な図形は2次元に 見えるのでは ? 確認1: 対称なままで法則 1 が当て はまらないように変型。 対称だが 立体に見えるだろう。 よって、対称が くずれたから 3 次元に見えた わけではない。 確認2: 対称性は壊れているが法則1が成り立つ。 左は立体、右は平面に見える。よって やはり、対称性ではなく安定性の法則が決めている。 悪魔の三角形再び。 なぜ、一部を隠すと矛盾が解消するのか ? → 問 答: 法則2をあてはめなくてよくなるから。 この図形が「立体」に見える理由を安定性の 法則から説明できるかどうか考えよ。 → これもレポート。 次回提出。 レポート問題 1番 2番 3番 安定性の法則を使って面白いことを 考えて線画にしろ この講義科目は「4年次の選択必修科目」では ありません。間違えないように。 「数値計算特論」「量子情報通信 1 ・ 2 」も 選択必修科目ではありません。 このことにいままで気付かずに、履修の仕方を 誤ってしまった人は、以下の対応をしてください。 1.後期科目を履修したい場合 → 事務に申しでる 2.前期科目を履修したい場合 → 担当教員に許可を得ると同時に、 事務に申しでる。 以上。 ◯VI が用いる他の法則 安定性の法則から派生した法則1が壊れる例 何に見える ? 4 本の細長いビル 問:法則 1 をどう 破っているか ? 問:他にどう見える ? 答え: 4 本の太いビル VI は法則を破ることを嫌う。 で、破らないで済む、他の解を 捜そうとする。 ( 破らないで済む例は 結局見つからないが ) この図が 細長いビルに見えたり、太いビルに 見えたりして不安定なのは そのせいだろう。 安定性の法則を破る他の例: 問:何に見える ? 問:安定性の法則を どう破っているか ? 安定性の法則は以下の様な法則を含んでいる。 法則 3 : 図中に、一直線上に並んでいる複数の直線が ある場合には常に、三次元空間内においても 一直線上に並んでいる直線であると解釈される。 問:安定性の法則はなぜこれを要請するか ? なぜなら、そうでなければ、複数の直線が 一直線上に並ぶことはまれなはずであり、 安定性の法則に反するから。 問:安定性の法則が壊れる理由を考えよ。 重力が理由では ? → 法則 1 を優先させると、小さい箱は宙に浮く。 問:これが本当かどうかを確かめるには ? やっぱりくっついている。 重力は関係無し。 近接の法則が働いているのでは ? 4 つの◯はどの奥行に あるように見えるか ? 「立方体」の見え方 とどう関係するか ? 法則 4 :図中の近接した要素は、三次元空間 内においても近接していると解釈される。 ここに注目すると 小さい箱は大きい箱の 内部に。 ここに注目すると 小さい箱は大きい箱の 上に。 注目する場所で位置関係は変わる。 近接の法則同士にも競合がある。 近接の法則は安定性の法則を拒否する。 → 解釈に際して各法則の間に矛盾点が生じる 場合の判断の仮定=手がかりの統合 / 感覚融合 絵画の構図のよしあし、とは結局、 手がかりの統合に頼らずとも 3 次元が構築できるような配置に 過ぎないのでは ? ← いい構図 悪い構図 → ◯ 曲線を含む図形 これは何に見えるか ? また、なぜ、そう見えるかを安定性の 法則で考えてみよ。 法則5: 図中の滑らかな曲線は常に、三次元空間内に おいても滑らかな曲線であると解釈される。 問:安定性の法則からこうなる理由を考えよ。 赤丸の部分の線分の交わりに前後関係が あるのはなぜか ? 問:前後関係がみえることは今までの法則の どれとどのように矛盾しているか ? 問:新たなるどのような法則が必要なのか ? 新たなる法則:投影の法則 「三次元の物体がどのように平面上に投影 されるかの法則」 → この法則を使うと、ドーナツの内側 の接触部分に「前後関係」が 発生することを理解することが出来る。 投影の法則は『大法則』。 安定性の法則から、いくつもの小法則が派生 したように、投影の法則からはいくつかの小法則が 派生する。 投影の法則から派生する小法則の例: 線遠近法:ルネッサンス期に発見。 ダビィンチが多用。 自然遠近法:ギリシャで発見。 自然遠近法: 月食が起きる理由 ( 月は小さいのに大きな 太陽をなぜ隠せるか ?) 線遠近法: 自然遠近法を平面で表現する方法。 線遠近法が無い場合に ( プロの ) 画家が 描く ( いた ) 絵 問:この絵は何がおかしい ? 答えの例: ・床の格子縞が平行。 ・柱の右の男がキリストでは なくて柱をむち打っている 様にみえる。 なぜ、こうなるのか ? 線遠近法を知らないので、真中の床を描けない。 そこで、ごまかすために柱をおいたが、 今度は、キリストとむち打つ男の前後関係が 狂った。 投影の法則から派生する小法則の例: 表面がなめらかな物体のシルエットの解釈 シルエットとは ? 3 次元の物体を平面に投影したときの縁 縁とは何か ? 視線と法線が直交するような物体表面上の 点の集合。 法線の集合 法線 縁 目 法則6: 可能な部分では図中の曲線を三次元の 縁だと解釈する。 実線:目に見える縁 破線:目に見えない縁 法線を明示的に描いてみると交わった部分が 「くっついている」とは思い難いことがわかる。 一般に 3 次元を 2 次元に埋めこむとT字ができる ( ホイットニーの定理:数学、僕は解りません ) 法則7: 可能な部分ではすべて、図中の T 字型を、そこに全縁中の隠された 部分があると解釈する。 つまり、T字型の横棒が縦棒を 隠していると解釈する。 極端な例: 左図の内側に 「曲面」を 感じるのは 僕だけ ? 法則 5 、 6 、 7 を使うとなぜ「ドーナツ型」 が見えるかを理解できる。 問:法則 5 、 6 、 7 を使ってなぜ、これが ドーナツ型に見えるかを説明しろ。 平面から3次元を構成する他のルール 問:この絵から3次元を構成できるのはなぜか ? この答えを理解するためには「曲率」というものを 理解しなくてはいけない。 問:曲率を知っているか ? 曲線上の一点を考える。 この点での接線に 接する円を描く。 円の半径を r とする。 曲線のこの点での 曲率は 1/r である。 r 問:平面の曲率とは ? 例:円柱の側面の曲率とは何か ? 答え:曲率は 2 つある。 底面に平行な成分と 側面に平行な成分 r r=∞ 問:球面の場合は ? 答え: 2 つの大円の半径の逆数 r r 曲面の曲率の一般論 1. 任意の接線を描く 2. 曲率を計算 3. 全ての接線について 曲率を計算 4. 曲率が最大と最小の 接線をもとめる。 5. それぞれの接線を 「主方向」、対応する 曲率を「主曲率」という。 注:主方向は必ず直交 している。 曲率による曲面の分類 ( 赤が表、中心での曲率 ) 凸形 主曲率が ともに正 凹形 主曲率が ともに負 鞍形 主曲率が 正と負 いままでの法則で 「曲線は曲面の縁だと思う ( 法則6 ) 」 ことになっている。 すると凹型の縁は見えないので 凹型の曲線があればそれは 鞍型の縁だと思うしか無い。 法則8:凸型の境界上の各点は、 三次元においても凸型の縁上の点だと解釈される 法則 9 :凹型の境界上の各点は、 三次元においても鞍型の縁上の点だと解釈される ドーナツ型の場合: + + + + - + + + + + + + + -+ + + + は凸面、−は鞍型と思うと殆ど選択の余地無し 更に 法則 10 :できるだけなめらかな 三次元の曲面を形成する というのもあった方がいい。 + + + + - + + + + + + + + -+ + + 点線は鞍型と凸型が接続するところ。 ここを「滑らかに繋ぐ」という要請から 「膨らみ」が見えることになる。 この線画が膨らんで見えにくいのは 法則 8 、 9 、 10 の対象外だから。