...

2012年、国内銀行が行うべきアクション

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

2012年、国内銀行が行うべきアクション
2012年、国内銀行が行うべきアクション
~“顧客のニーズを満たす”という基本に立ち返る
昨年同様、2012 年も世界経 済の回復に関する明るい見通しはなさそう
だ。欧州に端を発した金融危機の影響は世界中に波及しており、様々な
悪影響を及ぼしている。こういった状況の中、国内銀行が取るべきアク
ションはなんなのだろうか。
今 後 の キ ーワードとなってくる の が「 顧 客 回 帰」であ る。商 品 主体 の
営業スタイルから、
『顧客の満足度を高める』という基本に立ち返ること
が、銀行業が成長する話しのポイントの一つとなろう。そして、具体的な
作 業として、①「アナリティクス」、②「 CRM(Customer Relationship
Management)の充実」、③「人材育成」、④「リスク管理・対応」の 4つが
挙げられる。
市岡 修
1988年 (株)住友銀行
(現(株)三井住友銀行)
入行
2001年アクセンチュア(株)入社
アクセンチュアは、各社の状況とシチュエーションを明確に把握し、これ
らに注 力することで、ピーク時から相当下 落している各社の ROE(株主
資本利益率)を向上させることができると考えている。
金融サービス本部
エグゼクティブ・パートナー
銀行グループ統括
先進国とアジア新興国マーケット
の現状把握
うのない生産性・競争力格差」に対す
るタイ王国、香港と並ぶアジアの国際
る抜本的な解決策は皆無であるとい
金融センターであるシンガポー ル、
金融機関を取り巻く環境がさらに厳し
う現実は、すでに市場のコンセンサス
世界最大のイスラム教国であるイン
くなると予測される2012 年、銀行をは
になりつつある。
ドネシアなどなど。これらの国々は相
じめとする金融機関は一体
“どこに向
けて”
“
、何をすべき”
なのであろうか。
今後の課題と展望を確認するために、
まずはグローバルなマーケットの現状
米国経済に関しても、上記のような
外的要因に加え、雇用状況の悪化、
不動産市場の低迷、
またバランスシー
対的にみて、世界金融危機の影響が
限定的であり、かつ、今後の経済成長
の伸びしろがある地域といえよう。
い。2013 年まで異例のゼロ金利政策
グローバルかローカルか
リテールかホールセールか
2012 年 のグロー バ ルなマーケット
は、2011年同様、かなり厳しくなると
を継続せざるを得ないなどの事実も、
上記の経済状況を加味すれば、海外
今後の成長率の低さを象徴している
への進出を検討している企業はやは
言わざるを得ない。最も大きな懸念材
といえる。
り「積極的にアジア新興国でのマー
を把握していきたい。
料は欧州の債務危機問題だ。ギリシャ
の国家ぐるみの粉飾決算からすでに
2 年が経過したが、当初、ギリシャ単体
の事象として語られていたこの問題
は、今や「単一通貨ユーロのシステム
矛盾」への追及にまで発展しており、
ドイツやフランスなどEU 主要国家の
ト調整の持続など内的な弱材料が多
日本も当然、国際的な金融危機の影
響下にある。また、国内経済に関して
も、2011年3月に発生した震災の影響
や、歴史的な円高水準による輸出の
減速など、今後の景気の悪化が懸念
されている。
経済にまで大きな影響を及ぼしてい
消 去 法 的に残るのがアジア新 興 国
る。EU 首脳陣などにより、一時的な解
だ。GDP 成長率 10% 前後を維持する
決策が検討・実施されているようだが、
中国、若い人口動態に強みのあるベト
ギリシャと他国との間にある
「埋まりよ
ナム、自動車生産の一大集積地であ
3
ケット開拓を模索する」ものと考えら
れる。ただ、全ての銀行に対してこの
アクションが適切とはいえない。現実
的に海外進出のタイミングではない
もしくは体力的に進出が困難な銀行
は、国内マーケットにとどまり、新たな
可能性を模索すべきだともいえる。
次なる問題は、開拓の矛先を「法人」
に向けるか、あるいは「個人」に向ける
かというものである。弊社としては、
国
図表1 アナリティクスのタイプ
ビジネスインテリジェンスは大きく2領域に分かれ、最近特に分析/アナリティクス領域への注目が高まっている
競争上の優位性
最適化
どうすれば最もよい結果となるか?
予測/推定
今後何が起こりそうか?
予測モデル
予測に寄与しているものは何か?
統計的解析
なぜこれが起きたのか?
アラート
どんな対策が必要か?
クエリー/ドリルダウン
問題の原因は何か?
アドホックレポート
何回、どれぐらい、どこで?
定型レポート
何が起きたのか?
分析/
アナリティクス
情報アクセス/
レポーティング
インテリジェンスの洗練度合い
こうしたBIによる意思決定強化に見据えた、情報管理・活用基盤の整備を検討することが重要と考える
© 2012 Accenture  All rights reserved.
内においては構造的にあるいはマー
だろうか。注力すべきは①「アナリティ
2. CRM
ケットでのポジショニングとして、資金
クス」、②「 CRM」、③「 人 材 育 成 」、
利鞘を取りづらい法人取引よりもむし
④「リスク管理・対応」の4つである。
②のCRMとは、
「Customer
ろ、小口ではあるが収益機会の可能
性が広がるリテール営業に注力すべ
きだと言いたい。また、海外において
も、従来、活発には取り組まれてはい
ないリテール取引に業務を拡大する
1. アナリティクス
アナリティクスとは、データを分析、
活用する技術のことである。統計的解
析により商品や顧客のプロファイリン
必要が出てくると予想している。
グまたセグメンテーションを行 い 、
弊社の調査でも、多くのグローバルな
に従い、効果測定を繰り返すことで、
銀行が「2012 年以降、
リテールバンキ
予測モデルを作成する。そのモデル
経験や勘に基づいた非合理的な判断
ングを営業の主体にしていく」という
がそぎ落とされていく。結果として、
結論を出しており、
さらに言えば、
プロ
損 益 発 生リスクが回 避され、収 益 、
ダクトプッシュ主導の営業をやめ、
「顧
利益を最大化するポートフォリオが
客とのリレーション」を高めることが、
構築されていくのである
(図表1)
。
リテール営業のポイントになるととら
えられている。この世界の流れを邦銀
が無視する理由はどこにも見当たら
業種問わず多くの企業において、
この
情報分析ができていない企業は意外
ない。
に多い。管理プロセスが未整備であっ
「顧客とのリレーション」を高める
4つのポイント
テム群がバラバラで、分析の対象とな
では、
「 顧客とのリレーション」を実現
するには、具体的に何をすればいいの
たり、
商品、
部門、
ユーザ別の情報シス
る大規模なデータに対応できていない
というシチュエーションも散見される。
Relation-
ship Management 」の 略 称だが、
つまりは①のような情報分析を活か
し、顧客を塊でなく
『単体』で見据え、
「もっとも効率的かつ効果的な営業・
キャンペーン、
またコスト最適化を実
現するためには何をすべきか」を具体
的に考え、実行することを指す。前述
の 弊 社 事 例においても、セグメント
した顧客に対し、数段階に分けたアク
ションをきめ細やかにとり、また迅速
なフォローアップを行った結果、売上
を増加することに成功している。
3. 人材育成
③の「人材育成」も不可欠だ。国内は
もとより、アジア新興国における銀行
業に関する弊社調査でも、
リテール部
門に関して「アジアでは、自立的な顧
客が増加している」
という結論が出て
いる。こういった顧客は、銀行の営業
担当者に対し、有益な知識やアドバイ
スはもちろんのこと
「人間同士の触れ
4
図表2 ROEの回復 (リテール銀行/商業銀行:先進国市場)
26%1
戦略的
コスト削減
-5%
効果的な
顧客管理
-6%
3%
-2%
ハイパフォー 比率
マンス企業
引き上げ
レバレッジ
解消
資金調達
コスト増
1%
効率的な
リスク管理
1%+
非有機的
成長 ⁄ 売却
1-5%
15+%
5%
-6%
ROEにおける 自己資本
価格設定
最適化
手数料
収入減
4%
-3%
不良債権
処理
引当金増
ポスト
金融危機に
おける
基本ケース
ポスト金融
危機の
戦略的
オプション
Source: Accenture Research: 1) Non-cumulative
© 2012 Accenture  All rights reserved.
合い」や「きめ細やかな対応」を求め
もう一つの側面は、大震災のような
これまで 述 べ てきた 業 務 展 開 する
ている。今後、際立ったカスタマー・
アクシデントに対する対 応を指す。
地域の明確化とその実行、
および顧客
エクスペリエンスを創 出するため、
今回の東日本大震災時でも、
リスク
リレーション強化は2012年の各銀行の
専門知識はもとより、
こういったことに
対応の甘さは多くの銀行で指摘され
重要なアジェンダであることは間違い
対応できる人材育成の重要性がまし
たことであった。これまでの「リスク対
ない。今後の成長を実現し、競争力を
ていくだろう。
応」は、
≪想定したリスク≫が発生した
築くお手伝いができれば幸いである。
4. リスク管理・対応
ここでいうリスク対 応は二つ ある。
一つは、新たな規制などに対して迅速
に対応する能力のことだ。例えばバー
ゼルⅢ施行時、
「どのように対処してい
くべきか」迅速に判断し、対応する能
力のことだ。特に現在は、前述のよう
な経済状況であるため、政府による金
融機関への介入が増えることが予想
されている。つまり金融規制が強化さ
時の対処に関する記述が多かった。
しかし、今 後さらに必 要になるのは
≪想定外のリスク≫が発生した際の
状況把握や適正な判断などである。
今後は、
このようなリスク対応を全社
レベルの業務責任とみなし、厳密に精
査していかなければ、熾烈な競争で勝
ち抜いていくことは困難であるといえ
よう。
弊社がハイパフォーマンスと判断した
れることになり、事前の準備が非常に
銀行のROEは、
2007年時点で平均26%
重要になってくるのである。
程度であった。しかし金融危機後は
それが約4%に大きく落ち込んでいる。
ただ弊社としては、
上記のようなことを
正しく実行に移すことにより、少なくと
もROEを15%超まで回復させることが
可能だと結論づけている
(図表2)
。
5
Fly UP