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Title イギリスにおけるコミュニティー教育の一考 察 : EPAの
Title Author(s) Citation Issue Date URL <研究論文>イギリスにおけるコミュニティー教育の一考 察 : EPAのリバプール・プロジェクトの検討を中心に 二宮, 衆一 教育方法の探究 (2002), 5: 74-82 2002-03-31 https://doi.org/10.14989/190258 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 【研 究 論 文 】 イ ギ リス に お け る コ ミュ ニ テ ィー 教 育 の 一 考 察 EPAの リバ プ ー ル ・ プ ロ ジ ェ ク トの 検 討 を 中 心 に 二 宮 衆 一 一 は じめ に 戦 後 初 期 の イ ギ リ ス で は 、 満5歳 に な る と 子 ど も 達 は 幼 児 学 校(infantschoo1)に 歳 で 初 等 学 校(juniorschoo1)に 入 学 し 、7 進 学 し た 。 そ して 、11歳 に な る と 試 験 を 受 け 、 そ の 成 績 順 に グ ラ マ ー ・ス ク ー ル 、 テ ク ニ カ ル ・ス ク ー ル 、 モ ダ ン ・ス ク ー ル の3っ 学 し て い っ た 。 す な わ ち 、 戦 後 初 期 の 教 育 シ ス テ ム の 下 で は 、11歳 の タイ プ の 中等 学 校 へ 進 を 転 機 に 子 ど も達 は 、 別 々 の 進 路 を歩 く こと を余 儀 な くさ れ たわ け で あ る。 も ち ろ ん 、 戦 前 に も初 等 教 育 段 階 か ら 中 等 教 育 段 階 へ の 進 学 の 際 に は 、 テ ス トが 設 け ら れ て い た が 、 当 時 は グ ラ マ ー ・ス ク ー ル に 入 学 す る 者 の み に そ う した 試 験 が 課 さ れ て お り、 戦 後 の よ う に ほ と ん ど 全 て の 子 ど も達 を 巻 き 込 む よ う な も の で は な か っ た 。3つ の タ イ プの 中 等 学 校 と そ の 振 り分 け の 際 に 課 さ れ た 通 称 イ レ ブ ン ・プ ラ ス 試 験 こ そ が 、 戦 後 初 期 の イ ギ リ ス の 教 育 を 根 本 に お い て 規 定 す る 要 因 で あ っ た 。 通 常 、 イ レ ブ ン ・プ ラ ス 試 験 は 、 知 能 検 査 に 加 え 国 語 、 算 数 、 内 申 書 、 面 接 か らな っ て い た 。 そ の た め 、 テ ス トの 準 備 に拘 束 さ れ た 初 等 学 校 で は 様 々 な 実 践 を 自 由 に試 み る ことが 困 難 と な り、 ま た国 語 と算 数 の 成 績 に基 づ い た ス ト リー ミ ングや バ ンデ ィ ング と い っ た 能 力 別 学 級 編 成 の 弊 害 が 指 摘 さ れ て い たfl)。 しか し、 イ ギ リ ス で は 、 戦 後 初 期 か ら、 こ の イ レ ブ ン ・ プ ラ ス試 験 と 中 等 教 育 の 分 離 制 度 を 廃 止 し、 総 合 制 中 等 学 校 へ と 再 編 す る こ と を 求 め る コ ン プ リヘ ン シ ブ 運 動 が 進 め ら れ て き た(2)。 そ して 、 運 動 の 進 展 の 結 果 、1965年 に は 教 育 科 学 省 が 「通 達10/65(中 等 教 育 の 再 編 成 に つ い て)」 を 発 布 し、 全 国 の 地 方 教 育 当 局 に対 し て 、 総 合 制 中 等 学 校 へ の 再 編 を 要 請 す る に ま で 至 る。 当 然 、 こ の 通 達 に よ っ て イ ギ リ ス 教 育 を取 り 巻 く状 況 が 、 一 変 す る か と思 わ れ た の だ が 、 改 革 は 遅 々 と して 進 ま な か っ た 。 例 え ば 、 改 革 当 初 は 、 多 く の 論 者 が 指 摘 す る よ う に 「一 つ の 学 校 の 下 で の 、 分 化 し た カ リ キ ュ ラ ム の 提 供 」 と い う 状 況 が 一 般 的 で あ っ た 。 サ イ モ ン(B.Simon)と (C.Benn)の 調 査 に よ れ ば 、1968年 の 時 点 で70.5%、1970年 の 時 点 で も58.5%の べ ン 総 合制 中等 学 校 が 、 ス ト リー ミ ン グ や バ ン デ ィ ン グ、 セ ッ テ ィ ン グ と い っ た 何 ら か の 能 力 別 編 成 学 級 を と っ て い た(3)。 改 革 の 目玉 で あ っ た 中 等 教 育 が 、 こ う し た 状 況 で あ っ た た め 、 初 等 教 育 で も状 況 は 大 き く は 変 一74一 わ らな か った。 そ う した状 況 の中 、1967年 に 「プ ラ ウ デ ン報 告 」 が 発 布 され た。 それ は、 能 力別 学 級 編 成 や イ レブ ン ・プ ラス試 験 を批 判 す る と同 時 に、 当時 徐 々 に浸 透 しっ っ あ った 児 童 中心 的 な イ ン フォ ー マ ル な教 育 実 践 を推 奨 す る こ と に よ って 、 戦 後 初 期 の名 残 を 残 す 当 時 の 教 育 状況 を 打 開 す る策 を初 等 教 育 の 側 か ら提 案 す る もの で あ っ た。 本 稿 で は、 こ の 「プ ラ ウ デ ン報 告 」 の中 で 提 案 され た 児 童 中 心 的 な イ ンフ ォ ーマ ル な 教 育実 践 に よ る改 革 案 を 考 察 す る こ と を 目的 とす る。 報 告 は、 イ レブ ン ・プ ラ ス試験 と初 等学 校 にお け る 能 力 別 学 級 編 成 の 廃 止 、 学 習 の個 別 化 に対 応 す るた め の 補 助 教 員(teacher'saids)、 就 学 前教 育 の 拡 充 、 学 校 と家 庭 の 密 接 な 連 絡 と協 力 体 制 の 構 築 、 教 育 優 先 地 域(EducationalPriority Area、 以 下EPAと 省 略)の 設 定 な ど197項 目の 勧 告 を 行 って い る。 こ こで は、 そ の全 て を考 察 す る こ と はで きな いた め 、 そ こで 示 され た初 等 学 校 改 革 案 を 概 略 す る と共 に、EPAと して 指 定 さ れ た リバ プ ール で 計 画 され た コ ミュ ニ テ ィ ー ・ス ク ール を そ の 具 体 像 と して検 討 した い。 1.プ ラ ウ デ ン報 告 の 方 向 性 とEducationalPriorityArea プ ラ ウデ ン報告 は、 本 文 と調 査 資 料 の2巻 か らな る大 著 で あ る。 こ こで は、 本稿 の 目的 に従 い、 初 等 学 校 に 関 わ る提 案 とEPAの 設 定 に 関 わ る記 述 を 中心 に取 りあ げ る こ とにす る。 報 告 の 第15章 は、 初 等 教 育 段 階 の 目 的 とそ の設 定 の た あ の ア プ ロー チ を記 した提 案 か らな る。 そ して、 そ の 中 で も 「理 想 とす る初 等 学 校 の教 育 」 と題 す る項 目 で は、 主 に次 の よ うな2っ の こ とが 提 起 さ れ て い る(4)。一 っ め は、 「学 校 は、 子 ど もが将 来 の大 人 と して で は な く、 何 よ り も ま ず 子 ど も と して生 きる こ とを学 ぶ共 同社 会 で あ る」 とい う記 述 に示 さ れ る よ うに、 子 ど も期 を 大 人 の た あ の準 備 段 階 と理 解 す るの で は な く、 子 ど もと して生 きる こと、 す な わ ち子 ど も期 の独 自 性 が 強 調 さ れ て い る。 次 い で、 そ う した子 ど も期 の特 徴 と して経 験 や活 動 、 遊 戯 の重 要 性 が あ げ られ て い る。 「学 校 は… …、 子 ど も 自身 に よ る発 見 や 自分 自身 の経 験 や創 造 的 な活 動 を重 視 す る。 学 校 は、 ま た知 識 は個 々 のバ ラバ ラな もの に分 割 され る もので は な い こと、 学 習 と遊 び は相対 立 す る もの で は な く、 相 互 に補 い合 う もので あ る」 と報 告 書 は主 張 す る。 イ ギ リスで は、 こ う した子 ど も期 の尊 重 と子 ど もの 経 験 や 遊 びを 重 視 す る傾 向 を児 童 中心 的 な イ ンフ ォ ー マ ル な教 育 と呼 ぶ わ けで あ るが 、 カ リキ ュ ラ ム の考 察 を 行 って い る報 告書 の第16章 に 目を や る と、 そ う した 傾 向 が よ り鮮 明 に浮 か び上 が って くる(5)。 そ こ で は、 ま ず20世 紀 の イ ギ リス にお け る カ リキ ュ ラ ム の変 遷 が 概 観 され た後 に、1931年 の 「ハ ドー報告 」 の 一節 が取 りあ げ られ て い る。 「初 等 学 校 の カ リキ ュ ラム は、 習 得 さ れ る べ き知 識 や貯 え られ る べ き諸 事 実 に よ っ て よ り は、 む しろ児童 の生 きた 活 動 と経験 に よ って組 織 され るべ きで あ る」。 プ ラ ウ デ ン報告 は、 この 一 節 を継 承 し、子 ど もの遊 び と経験 の意 義 を 強調 す る。 遊 び は 「幼 年 期 の子 ど も達 の学 習 の主 要 な手 段」 で あ り、 「子 ど も達 は遊 び を通 して因 果 の 法 則 を 知 り、 識 別 力、 判 断 力、 想 像 力 あ るい は物 事 を 分 析 ・総 合 す る能 力 を 次第 に 身 にっ けて い くの で あ る」。 「遊 一75一 び の中 に こそ、 カ リキSラ ム の 中 で提 供 さ れ、 やが て彼 らが学 習 して い か な け れ ば な らな い諸 教 科 の 萌芽 が あ るの だ」 と。 さ らに経 験 の意 義 にっ いて は、 次 の よ うに述 べ る。 「子 ど も達 は、 道 徳 的 な考 え を発 達 さ せ る前 に、 まず 様 々 な人 間 行 動 にっ いて の多 様 な経 験 をす る こ とが 必 要 で あ る。 子 ど もの経 験 と理 解 を越 え た言 語 的 表 現 は、 彼 らの学 習 に と って 大 き な障 害 と な る もの で あ る。 … …従 って、 子 ど も達 の生 活 経 験 か ら遊 離 した 知 識 や 経 験 にっ い て の教 育 は、 そ の 目的 を十 分 に達 成 す る こ とが で き な い」。 そ して 、 最 後 に子 ど もの 経 験 や 遊 び の 重 視 に対 応 す る形 で、 カ リキ ュ ラ ム編 成 にっ いて の 提 案 が行 われ る(6)。「初 等 学 校 の 教 育 内 容 は、 子 ど もの 具 体 的 な 日常 生 活 の 経 験 に即 して 組 織 さ れ 、 彼 らの遊 び や 自発 的 な学 習 活 動 を 中 心 に 展 開 され る こ とが 必要 な の で あ る。 従 って 、 この 様 な 子 ど も達 の 活 動 を そ れ ぞ れ の教 科 に厳 密 に細 分 す る こ とは、 彼 らの活 き活 き と した思 考 や興 味 を 妨 げ る こ とに な り、 か っ 問題 解 決 に あ た って必 要 とな る相 互 に関 連 し合 う諸要 素 に つ い て の認 識 か ら子 ど も達 を 遠 ざ け て しま う こ とに な る。 この こと か ら、 我 々 は初 等 学 校 の カ リキ ュ ラム の教 科 へ の分割 は、 非常 に 大 ま か な もの で あ る べ きだ と考 え る」。 この よ うに プ ラウ デ ン報 告 は、 イ レブ ン ・プ ラス試 験 と能 力 別 学 級 編 成 の廃 止 を訴 え る の み な らず 、子 ど もの経 験 や遊 び を重 視 し、 そ れ に基 づ くカ リキ ュ ラム の編 成 と教 育 実 践 を積 極 的 に提 起 す る こ とで 、初 等 教 育 が 向か うべ き方 向性 を実 践 レベ ル にお い て 明確 に提 起 した とい え る。 さ らに、報 告 は こ う した 改革 の方 針 を提 案 す る の み な らず 、 最 も教 育 が貧 困 で困 難 な地 域 を対 象 に した プ ロ ジ ェク トを組 み、 自 らの方 針 を 実 践 して い る。 これ がEPAの EPAに 関 わ る 「勧 告8」 設 定 で あ る。 は、 そ の 目的 を 次 の よ う に示 して い る。 「子 ど もが 家 庭 条 件 に よ っ て 非 常 に 不 利 を 蒙 って い る 地 域 の 学 校 に 対 し、 国 家 的 政 策 と して 『積 極 的 差 別(positive discrimination)』 を採 用 す る こ とで あ る。 こ の措 置 は、 これ らの 恵 ま れ な い地 域 の 学 校 を 国 内 の最 上 級 の学 校 と同 じ レベ ル に 引 き上 げ る もの で な けれ ば な らな い。 こ の た め、 これ らの 学 校 に 対 す る経 費 配 分 を 増 加 す る こ とが必 要 とな る」。 こ の勧 告 に示 さ れ る よ うに、EPA計 画 は教育 が 貧 困 で困 難 な地 域 に財 源 を 投 下 す る こ と に よ り、 教 育 改 善 を 図 る もの で あ っ た。 しか しなが ら、 そ の プ ロ ジ ェ ク トの 報 告 書 を見 て み る と、 そ の 活 動 は学 校 施設 の改 善 に始 ま り、 カ リキ ュ ラ ム開 発 、 家 庭 との連 絡網 の構 築、 教 師教 育 の 改善 、 通 知 表 や 学 校 通 信 の 開 発 に 至 る ま で の多 岐 に渡 って い る。 そ して 、 こ う した 多 岐 に渡 るEPAプ ロ ジ ェ ク トは、 プ ラ ウ デ ン報 告 の 「勧 告19」 が示 す よ うに 「コ ミュ ニ テ ィー ・ス クー ル」 の建 設 と して 包 括 的 に提 起 さ れ て い る。1 968年 か ら72年 にか け て の第 一 期 プ ロ ジ ェ ク トに は、 リバ プ ー ル、 ロ ン ドン、 バー ミンガ ム、 ウェ ス ト ・ラ イ デ ィ ン グ、 ス コ ッ トラ ン ドか ら5っ の地 域 が指 定 さ れ た。 本 稿 で は、 リバ プー ル で の プ ロジ ェ ク トの報 告 書 を も とに、 プ ラ ウデ ン報告 で提 案 され た 改革 案 の 実 像 を カ リキ ュ ラ ム開 発 に焦 点 を あて 探 る と共 に、 プ ロ ジ ェ ク トの成 果 に よ って 見 え て きた新 た な課 題 を 指摘 した い。 -76一 2.リ バ プ ー ル ・プ ロ ジ ェ ク ト プ ラ ウデ ン報 告 に依 れ ば、 ① 職 業 構 成 、 ② 家 族 規 模 、 ③ 無 料 で学 校 給 食 を受 けて い る子 ど もの 数 お よ び政 府 か ら生 活 援 助 を受 け て い る家 族 数 な ど、 ④ 過 密 住 宅 地 と同居 家 族 数 、 ⑤ 児 童 の学 校 へ の出 席 日数 、 ⑥ 遅 進 児 や 心 身 障 害 者 数 、 ⑦ 親 の い な い子 ど もの数 、 ⑧ 英 語 の話 せ な い子 ど もの 数 と い った基 準 に もとづ きEPA地 域 の選 択 が 行 わ れ た。 リバ プ ー ルの イ ンナ ー シ テ ィー は、 第 一 期 のEPA地 域 と して指 定 さ れた 地 区 で あ る。 リバ プー ル は、 一 昔 前 まで は イギ リス を代 表 す る港 町 で あ っ たが 、 交 通 網 の発 達 と共 に 中 産 階級 は郊 外 へ と移 住 して い き、 財 力 の な い労 働 者 が 残 され た 、 いわ ゆ る都 市 の 空 洞 化現 象 の 起 きた典 型 的 都市 で あ る。 指 定 され た地 域 の人 口 は、26,500世 帯 の90,000人 。 この 内12,000人 の 子 ど もが 就 学 前 、 16,250人 が 学 齢 児 に あ た っ て い た。 い くっ か のEPAの 選 択 基 準 項 目 と対 応 させ な が ら、 この 地 域 の状 況 を示 す と次 の よ うに な る 。 ① 専 門 職 や 中間 管 理 職 に就 く成 人 は人 口 の4%で 口 の53%に あ り、 半 熟 練 あ るい は非 熟 練 労 働 に就 く者 は人 のぼ る。 ③ プ ロ ジ ェ ク トが開 始 され る前 年 の1967年 の統 計 に よ れ ば、 この年 は1600件 以 上 の 破 産 申告 が あ り、500人 以 上 の 債 務 者 が で て お り、 さ らに失 業 率 は30%に お よ ん で い た。 ④ この 地 域 で は、 ほぼ 半 数 近 くが 共 同 賃 貸 住 宅 に住 ん で お り、 一 部 屋 に2人 以 上 住 ん で い る割 合 は一 割 を 上 回 って い た。 ⑤1967年 か ら1968年 まで の一 年 間 の初 等 学 校 で の 欠 席 率 は13.3%と 過 度 に は大 き くな い。 ⑦ あ る学 校 で は242人 の生 徒 の 内52人 が破 綻 した結 婚 の犠 牲 者 で あ り、11人 の 子 ど もが 親 と離 別 して い る と い う報 告 が な され て い る。 この よ うに 、 リバ プー ル ・プ ロ ジ ェ ク トは、EPAの 提 案 に沿 っ た 「恵 まれ な い 地 域 」 を対 象 に して始 め られ た。 プ ロ ジ ェ ク トの 報 告 に依 れ ば 、 まず は じめ に 行 わ れ た の は、 校長 との 昼 食 会 や教 師 同士 の連 絡 網 づ く りな ど地域 内 の学 校 との ネ ッ トワー クづ くりで あ った。 そ の際、 プ ロ ジェ ク ト関 係 者 達 が、 教 育 関 係 者 達 に示 した3つ の柱 が、 家 庭 と学 校 の 関係 づ く り、 カ リキ ュ ラム の 開 発 、 学 校 と コ ミュ ニ テ ィー の 関係 構 築 で あ る。 まず 、 家 庭 と学 校 の関 係 づ く りで は、 親 の学 校 運 営 ・行 事 へ の参 加 が 目指 さ れ た。 も と もと、 この 地 域 の親 達 は、 半 熟 練 工 や非 熟 練 工 が多 い点 か ら も想 像 で き る よ うに、 あ ま り良 い学 校 経 験 を して きて い な い。 事 実 、 プ ロ ジ ェ ク トの報 告 の 中 に も、 親 達 が学 校 に きて 、 教 師 や 校 長 の前 に 出 る と途 端 に卑 屈 にな る と い う指 摘 が な され て い る。 プ ロ ジ ェ ク トは、 こ う した親 達 を学 校 に引 き込 む た め に様 々 な 試 み を 行 って い る。 代 表 的 な もの と して は、 学 校 内 に レス トラ ンを設 け親 達 に コ ー ヒーを 振 る舞 う 「朝 の コ ー ヒー ・タ イ ム」、 料 理 作 りや裁 縫 な ど の 授 業 へ の 参 加 、 「Back Home」 や 「Solly」と い った学 校 か ら家 庭 へ の 出 版物 の 提 供 な どが あ る。 そ の 結 果 、 あ る学 校 で は75%の 親 達 が 自分 達 の子 ど も は他 の どの学 校 に も負 けな い教 育 を 受 けて い る と感 じて お り、65 %が 自分 達 が受 け た教 育 よ り も良 い教 育 を子 ど も達 が受 け て い る と感 じて い る と ア ン ケー トに答 えて い る。 -77一 次 に 学 校 と コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 関 係 構 築 に 目 を や る と、 そ こ で は学 校 が コ ミ ュ ニ テ ィ ー に 開 か れ て い き、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 発 展 に 貢 献 す る こ と が 目 指 さ れ た 。 こ の 目 的 自 体 は 、EPAに 共 通 す る コ ミュニ テ ィー ・ス クー ル全 体 の課 題 で あ った た め、 そ の た め の特 定 の活 動 が な され た わ けで は な か っ た が 、 い く っ か の 活 動 が 結 果 と し て コ ミュ ニ テ ィ ー の 発 展 に 直 接 結 び つ い た 例 が 報 告 さ れ て い る。 例 え ば 、 学 校 施 設 の 改 善 と美 術 の 授 業 を 上 手 く組 み 合 わ せ た 壁 画 作 り は 、 こ の 地 区 の 海 岸 風 景 を 見 事 に 描 き あ げ る こ と で 、 一 っ の 観 光 ス ポ ッ トに な っ た 。 こ の こ と は 子 ど も達 に 自 ら の 作 品 へ の 自 信 と 誇 り を 与 え 、 地 域 の 自 然 環 境 へ と 目 を や る こ と に も一 役 買 う こ と に な る 。 こ の 活 動 に 示 さ れ る よ う に 、 子 ど も達 に と って 身 近 な 生 活 経 験 と 結 び っ い た 活 動 を 組 織 す る こ と が 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー と の 関 係 で は 重 要 視 さ れ た わ け で あ る が 、 こ れ を 意 識 的 に 教 育 実 践 と して 取 り 込 も う と し た の が 、 「コ ミ ュ ニ テ ィ ー 志 向 の カ リ キ ュ ラ ム(communityoriented curriculum)」 の 開 発 で あ る。 こ の カ リ キ ュ ラ ム は 、 地 域 の 様 々 な 社 会 問 題 を 媒 介 と す る こ と で 、 子 ど も 達 が 自 らの 社 会 的 環 境 を 認 識 し、 そ れ を 改 善 す る批 判 的 関 心 と 行 動 力 を 育 て る こ と を 目 的 と して い た 。 そ の た め 、 そ こ で は 、 教 科 学 習 で は な くテ ー マ 学 習 が 、 学 問 の 系 統 性 よ り も む し ろ 地 域 で の 子 ど もの 生 活 経験 が重 視 され た。 っ ま り、 子 ど も の 生 活 経 験 と education)」 「社 会 的 教 育(social を中 心 に据 え た カ リキ ュ ラ ム の開 発 が 目指 され た わ けで あ る。 そ こで、 以 下 で は、 な ぜ 子 ど も の 生 活 経 験 と 社 会 的 教 育 が 重 視 さ れ た の か を 考 察 す る と共 に 、 プ ロ ジ ェ ク トで 実 際 に 行 わ れ た 実 践 を 簡 単 に で は あ る が 紹 介 す る こ と に す る。 3.コ ミ ュ ニ テ ィ ー・ 志 向 の カ リキ ュ ラ ム 「一 般 的 に コ ミュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル は 、 教 師 、 子 ど も、 親 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 中 心 と し て 『コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ カ リキ ュ ラ ム』 を 備 え る べ き で あ る 」 の 。 こ の 言 葉 に示 さ れ る よ うに 、 「コ ミュ ニ テ ィ ー 志 向 の カ リ キ ュ ラ ム 」 は 、 リバ プ ー ル ・プ ロ ジ ェ ク トの 中 心 的 課 題 で あ っ た 。 先 に 紹 介 した よ う に、 開 発 の力 点 は子 ど もの生 活 経 験 と社 会 的 教 育 を 中 心 に した カ リキ ュ ラ ム を編 成 す る こ と に あ っ た が 、 ま ず は 、 プ ロ ジ ェ ク トが 従 来 の カ リ キ ュ ラ ム を ど の よ う に 捉 え て い た の か か ら 検 討 して み よ う。 従 来 の カ リ キ ュ ラ ム は 「今 日 、 時 代 遅 れ の も の で あ り、 日常 生 活 か ら 隔 た っ て お り 」、 「コ ミa ニ テ ィ ー と 子 ど も 双 方 の ニ ー ズ に 応 え て い な い 」 と批 判 さ れ る(8)。 例 え ば 、 地 理 で 扱 わ れ る エ ス キ モ ー の 生 活 は 次 の よ う に 批 判 さ れ て い る 。 「そ れ ら は 子 ど も の 経 験 か ら 隔 た っ て い る だ け で な く、 エ ス キ モ ー 人 の 多 く は 、 今 や 氷 の 家 や 鯨 の 脂 と い っ た 生 活 か ら は 離 れ て お り、 普 通 の ア メ リ カ 人 の 生 活 を お く っ て い る」 と(9)。 ま た 、 テ ー プ ・ レ コ ー ダ ー や テ レ ビ の 普 及 と 共 に 浸 透 し っ つ あ る フ ラ ン ス 語 な ど の 外 国 語 教 育 も 次 の よ う に 非 難 さ れ る 。 現 在 、 外 国 語 が カ リキ ュ ラ ム に 含 ま れ る こ と は良 い こ と と思 わ れ て い る が 、 フ ラ ン ス で バ カ ン ス を 楽 し む よ う な 人 々 が ほ と ん ど 存 在 し な い こ の 地 域 で 、 母 国 語 教 育 を な い が し ろ に し な が ら、 フ ラ ン ス 語 を 教 え る こ と は 喜 劇 で 一78一 あ る。 っ ま り、 高 等 教 育 へ の 進 学 を 考 え て い る 者 に と っ て は 、 エ ス キ モ ー の 生 活 や フ ラ ン ス 語 の 知 識 は 必 要 で あ ろ う が 、EPAに 指 定 さ れ た よ うな貧 しい地 域 に と って 、 ま ず 必 要 な こ と は、 身 の 回 り の 生 活 問 題 を 解 決 で き る 基 本 的 な 力 な の で あ る。 で は 、 プ ロ ジ ェ ク トの 中 で 考 え られ て い た 基 本 的 な 力 と は 何 だ っ た の か 。 これ こ そ が 、 社 会 的 教 育 に よ っ て 酒 養 す る こ と が 目 指 さ れ た 社 会 的 能 力 で あ る。 プ ロ ジ ェ ク トは 述 べ る 。 「代 替 案 は、 大 多 数 の 子 ど も に 社 会 的 教 育 を 提 供 す る こ と で あ る 。 子 ど も 達 が 自 ら に と っ て 快 適 で あ り 、 賛 成 で き る 方 法 に よ って 生 活 を 変 革 した り 改 善 し た り す る 事 を 学 ぶ 中 で 、 彼 らの 世 界 を 抑 圧 して い る現 実 の 吟 味 を 行 え る 社 会 的 能 力 を 与 え る こ と が 社 会 的 教 育 で あ る。 社 会 環 境 の 綿 密 な 調 査 を 通 じて 、 子 ど も 達 は よ り は っ き り と 自 ら の ニ ー ズ を 理 解 す る 準 備 が で き る だ ろ う。 そ して 、 そ の 観 点 か ら、 彼 ら は ニ ー ズ を 満 た す 方 法 や 手 段 を 発 見 す る よ う に な る か も しれ な い の で あ る」(1D)。 社 会 的 教 育 と は、 地 域 の 様 々 な 社 会 問 題 を 媒 介 と す る こ と で 、 子 ど も達 が 自 ら の 社 会 的 環 境 を 認 識 し、 そ れ を 改 善 す る 批 判 的 関 心 と行 動 力 を 育 て る こ と を 目 的 と し て い た こ とが 伺 わ れ る 。 自 ら の 置 か れ て い る状 況 を 正 し く理 解 し、 自 己 の ニ ー ズ を 明 確 に 表 現 で き、 そ れ を 満 た す 公 共 的 働 き か け を 要 求 す る 力 こ そ が 、EPAの 子 ど も達 に 必 要 な 基 本 的 な 能 力 と し て 求 め ら れ た の で あ る 。 こ う し た 社 会 的 教 育 を 中 心 に し た カ リキ ュ ラ ム 開 発 が 進 め られ た 背 景 に は 、 次 の よ う な 地 域 理 解 が 存 在 し た こ と も見 逃 せ な い 。 プ ラ ウ デ ン報 告 は 、 そ の 目 的 と し てEPA地 域 の教 育 水 準 向 上 を 唱 っ て い た こ と は 、 先 に 述 べ た と お りで あ る 。 問 題 は 、 こ の 水 準 向 上 の 尺 度 で あ る 。 報 告 を 読 む 限 り、 そ れ は中 途 退 学 者 を 減 少 させ る と同 時 に高 等 教 育 進 学 者 を増 加 させ る こ とを 含 ん で い た こ と は 明 らか で あ る。 こ の 点 に お い て 、 報 告 はEPAの 実 状 を し っか り と認 識 して い な か っ た と 同 時 に 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル の 役 割 に つ い て も 十 分 に 明 確 で な か っ た と 考 え ら れ る。 リバ プ ー ル ・ プ ロ ジ ェ ク ト は、 こ の 点 に 関 わ っ て 次 の よ う な 主 張 を 行 っ て い る 。 「さ び 付 い た き し む 機 械 と化 し て い るEPA教 育 を 円滑 に す る こ とに よ って 、 高 等 教 育 の た め に よ り多 くの 中 途 退 学 者 が 在 学 し っ づ け る と い う プ ラ ウ デ ン報 告 の 可 能 性 が 実 現 さ れ る か も し れ な い 。 しか しな が ら、 そ れ は 最 も良 い 場 合 で も、 わ ず か に 人 数 を 減 ら さ れ た 大 多 数 の 人 々 を 生 涯 に 渡 る 剥 奪 と い う 苦 し さ に 直 面 さ せ 続 け る だ ろ う」(11)。続 け て 、 プ ロ ジ ェ ク トは 語 る。1991年 口 は 、73,000人 程 度 に な る と予 測 さ れ る。 現 在EPAの に は この 地 域 の人 学 校 に通 っ て い る子 ど も達 の 多 くが 、 そ の 頃 に は 成 人 に 達 して お り 、 何 らか の 職 業 に 就 い て い る だ ろ う。 しか し、73000人 が 主 と して マ ネ ー ジ ャ ー や 教 師 な ど の 専 門 職 に な る と い う こ と は 考 え に く い 。 彼 らの ほ と ん ど は 、 彼 ら の 親 達 と 同 様 に 半 熟 練 工 や 非 熟 練 的 職 業 に 就 く こ と に な る だ ろ う 。 っ ま り 、EPAで は、 誰 もが 賞 に あ ず か れ る 「不 思 議 の 国 の ア リ ス 」 は 現 実 化 しな い の で あ る。 こ こ に 、 プ ロ ジ ェ ク トの 確 か な 現 実 認 識 と そ こ か ら 芽 生 え る コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 見 い だ せ る。 っ ま り、 リバ プ ー ル ・プ ロ ジ ェ ク ト は 、 社 会 的 剥 奪 が 集 中 し た 地 域 一79一 を 対 象 とす る こ と で イ ギ リ ス 社 会 を 貫 く メ リ トク ラ シ ー の 原 理 を 認 識 し、 そ れ に 対 抗 す る 戦 略 と し て コ ミュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル を 位 置 づ け た の で あ る 。 そ の た め 、 そ こ で 求 め られ た 社 会 的 教 育 と は 、 この 地 域 と は 対 照 的 な 郊 外 地 域 の 文 化 、 あ る い は テ レ ビや ラ ヂ オ が もた らす 大 衆 文 化 で は な く、 社 会 的 剥 奪 が 集 中 して い る こ の コ ミ ュ ニ テ ィ ー 固 有 の 文 化 で あ り 、 地 域 環 境 の 学 習 で あ っ た 。 「教 師 が 都 市 の 子 ど も達 を 表 面 的 に 磨 く こ と を 試 み た 現 実 逃 避 で は な く、 子 ど も 自 身 の 道 理 の 中 で 都 市 で の 彼 ら の 経 験 や 可 能 性 を コ ッ コ ッ と 開 発 す る 試 み 」aa>こ そ が 、 「コ ミ ュ ニ テ ィ ー 志 向 の カ リキ ュ ラ ム」 と し て 要 求 さ れ た の で あ る。 自 ら の 居 住 地 で あ る コ ミ ュ ニ テ ィ ー を よ り 住 み 易 い 地 域 へ と 変 革 し て い く こ と こ そ が コ ミ3ニ テ ィ ー の 発 展 で あ り、 そ う した 変 革 に 参 加 で き る 力 を 養 う こ と が コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル の 最 大 の 役 割 で あ っ た 。 で は、 実 際 に 行 わ れ た 実 践 は 、 ど の よ う な も の で あ っ た の か 、 こ こ で 簡 単 に で は あ る が 紹 介 し て お こ う。 コ ミュ ニ テ ィ ー 志 向 の カ リ キ ュ ラ ム の 代 表 的 実 践 と し て 、 ス ー パ ー マ ー ケ ッ トの 例 が あ る('3)。こ れ は 、 当 初 子 ど も の 生 活 経 験 と 算 数 ・社 会 的 教 育 を 結 び っ け る 実 践 と し て 行 わ れ た が 、 実 践 が 進 む に つ れ 多 く の 教 科 と 関 係 す る 総 合 的 な 学 習 と な った 例 で あ る。 イ ギ リス の 大 手 ス ー パ ー マ ー ケ ッ ト会 社 テ ス コ と 地 域 の い くっ か の 小 売 店 の 協 力 を 得 て 、 実 施 さ れ た こ の 実 践 は 、 本 物 の ス ー パ ー マ ー ケ ッ トの 運 営 を 子 ど も達 が 手 伝 う と い う リ ア リ テ ィ に 富 む 試 み で あ っ た 。 市 場 調 査 、 仕 入 れ に 始 ま り、 レ ジ 打 ち 、 売 り 上 げ の 集 計 と い っ た 実 際 の 労 働 を 経 験 す る 中 で 、 子 ど も 達 の 基 礎 的 な 算 数 能 力 を 発 達 さ せ る と 同 時 に 、 商 品 流 通 の 仕 組 み や 小 売 り業 が 地 域 で 果 た す 役 割 な ど を 学 習 し、 自 分 達 が 住 む 地 域 の 実 状 を 理 解 して い っ た 。 さ ら に は 、 店 舗 の 運 営 の 中 で 浮 上 し て き た 万 引 き や 喫 煙 と い っ た 問 題 が 道 徳 教 育 に 結 び っ き 、 売 り 上 げ を 伸 ば す た め の広 告 デ ザ イ ン、 商 品 の デ ィ ス プ レ イ 、 福 引 き な ど の イ ベ ン ト企 画 が 芸 術 や 工 作 教 育 へ と 発 展 して い っ た。 っ ま り 、 ス ー パ ー マ ー ケ ッ トは 、 売 り 上 げ の 集 計 や 市 場 調 査 、 広 告 デ ザ イ ン と い っ た 具 体 的 な 学 習 経 験 の 場 を 子 ど も達 に 提 供 す る こ と で 、 そ れ ぞ れ の 教 科 概 念 や 思 考 方 法 を 具 体 的 活 動 を 通 じ て学 ぶ 機 会 を与 え た。 また 、数 学 や 社会 科 、 芸 術 、 道 徳 と い っ た様 々な 教 科 の認 識 を 具 体 的 に統 合 す る 「ハ ブ 」 の 役 割 を 果 た す こ と で 、 リ ア リテ ィ に 富 む 総 合 的 な 地 域 社 会 の 認 識 と 自 己 認 識 を 育 む もの と な っ た の で あ る。 お わ りに コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ ス ク ー ル 自 体 は 、 イ ギ リ ス で は ヘ ン リ ー ・ モ リ ス(H.Morris)の (villagecollege)」 以 降 、 草 の 根 的 に 進 め られ て き た 教 育 運 動 で あ っ た 。 残 念 な が らEPAは 政 不 足 の た め 初 期 の5年 で 打 ち 切 ら れ た も の の 、 コ ミ3ニ が 進 ん で い っ た。 リバ プ ー ル で は、3年 い る 。 ま た 、EPAの 「村 大 学 後 もROSLAプ 、 財 テ ィー ・ス ク ール は これ を 契機 に 普 及 の 予 定 を 消 化 し た 後 も プ ロ ジ ェ ク トの 成 果 は 継 承 さ れ て ロ ジ ェ ク トや ノ ッ テ ィ ン ガ ム 、 ケ ン ブ リ ッヂ な ど 多 く の 地 域 で 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ス ク ー ル の 実 践 が 行 わ れ 、 そ の 成 果 が 報 告 と し て ま と め ら れ て い る。 :1 本 稿 で は 、 後 年 の そ う し た プ ロ ジ ェ ク トの 先 駆 け に あ た る リバ プ ー ル ・プ ロ ジ ェ ク トを 概 観 し て き た 。 プ ロ ジ ェ ク トは 、 コ ミュ ニ テ ィ ー を 住 み 易 い 地 域 へ と 変 革 して い く社 会 的 能 力 を 子 ど も 達 に 身 に つ け さ せ る こ と を 目 指 し た 。 そ して 、 そ の た め の 戦 略 と して 、 そ の 地 域 に お け る 子 ど も の 生 活 経 験 を 重 視 し、 社 会 的 教 育 を 中 心 に した カ リ キ ュ ラ ム 開 発 を 行 っ て い っ た 。 先 述 し た よ う に 、 そ こ で は 、 工 場 作 業 員 か ら銀 行 員 へ と い っ た よ う な 労 働 者 階 級 か ら中 産 階 級 へ の 上 昇 と い う メ リ ト ク ラ シ ー の 原 理 に 沿 う 生 活 改 善 は 目 指 さ れ ず 、 自 らの 生 活 基 盤 で あ る コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 創 り か え を 通 して 生 活 を 改 善 して い く と い う展 望 が 持 た れ て い た 。 こ こ に は 、 明 ら か に1970年 代 か ら始 め ら れ 、 そ の 後 ナ シ ョ ナ ル ・カ リキ ュ ラ ム や ア セ ス メ ン ト に よ っ て 提 案 さ れ る教 育 改 革 構 想 と は異 な る 展 望 が 存 在 す る。 例 え ば 、 ケ リー(A.V.Kelly)は 、 1988年 の 改 革 の 背 後 に あ る 原 理 を 、 教 育 と は 何 の 役 に 立 っ の か と い う観 点 か ら子 ど も期 を 大 人 へ の 準 備 と考 え る 「道 具 主 義 」、 教 育 を 工 場 経 営 に 例 え 競 争 を 至 上 原 理 と して 導 入 す る 「商 業 主 義 」、 機 会 均 等 の み の 平 等 を 強 調 す る能 力 主 義 に 基 づ く 「エ リー ト主 義 」 と 指 摘 し て い る(IM1)。コ ミ ュ ニ テ ィ ー 教 育 は 、 コ ミュ ニ テ ィ ー の 一 員 と し て 成 長 す る こ と を 願 い な が ら も子 ど も の 生 活 経 験 を 重 視 し、 子 ど も期 の 独 自 の 価 値 を 認 め る点 に お い て 、 他 人 と の 競 争 で は な く コ ミュ ニ テ ィ ー の 一 員 と し て 協 力 し な が ら地 域 の 発 展 を 担 う点 に お い て 、 そ し て 、 メ リ ト ク ラ シ ー に 乗 っ取 っ た 個 人 の 立 身 出 世 を 目 指 さ な い と い う点 に お い て 、1988年 の もの とは異 な る教 育 改 革 の提 案 を行 って い る 。 こ こ に 、 コ ミュ ニ テ ィ ー 教 育 の 大 き な 意 義 が あ っ た と 考 え られ る の で あ る 。 本 稿 で は 、 こ う し た コ ミュ ニ テ ィ ー 教 育 の 構 想 を 概 観 す る と 共 に 、 そ の 核 と な る で あ ろ う 「コ ミ ュ ニ テ ィ ー 志 向 の カ リ キ ュ ラ ム 」 を 紹 介 し た 。 リバ プ ー ル ・プ ロ ジ ェ ク トが 「社 会 環 境 の オ ー プ ン ・エ ン ドな 調 査 は 、 単 に 地 域 の 環 境 に 目 を 向 け る と い う こ と で は な い 」 ㈲ と い う時 、 そ こ に は 地 域 固 有 の 問 題 を 媒 介 に し な が ら メ リ トク ラ シ ー の 原 理 を 克 服 す る と い う 意 識 が 隠 さ れ て い た。 そ うす る と問 題 は、 地 域 に お け る子 ど もの 生 活 経 験 を重 視 す る と い う際 、 ど の よ う な社 会 環 境 や 地 域 の 問 題 を 問 題 と して 取 り 出 し実 践 を 展 開 して い た の か に あ る。 今 後 の 課 題 と して は 、 教 科 書 や ワ ー ク ブ ッ ク な ど の 実 践 資 料 か ら、 具 体 的 に 何 が 問 題 と して 扱 わ れ た の か を 検 討 す る こ と で 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー教 育 の 実 態 を よ り 明 ら か に して い き た い。 注 (1)当 時 の 能 力 別 学 級 編 成 の 状 況 に っ い て は 、JacksQn,B.(1968),Stre¢ming:AnEducation System,inMiniature,Routledge&KeganPaul,Londonを (2)初 著 参照。 期 の最 も明確 な主 張 と して は トー ニ ー の 「全 て の者 に 中等 教 育 を」 が あ げ られ るだ ろ う。 トー ニ ー 成 田克 矢 訳 「す べ て の者 に 中等 教育 を」 明治 図書 、1971年 。 ( 3 ) Simon,B., and Benn,C.(1972), ( 4 ) DES (1967), Children ( 5 ) Ibid., Half Way There, and Their Primary School, pp.194-196. — 81 — Penguin Books, p.219. HMSO, pp.186-187. ( 6 ) Ibid., p.198. ( 7 ) Midwinter,E.(1972), ( 8 ) Ibid., p.15. ( 9 ) Ibid., p.14 (10) Ibid., p.19. (11) Ibid., p.18. (12) Ibid., p.19. (13) Ibid., pp.91-92. (14) Kelly,A.V.(1990), (15) Midwinter,E., Priority Education, The National op,cit., Penguin Curriculum-A Books, critical p.63. review, Paul Chapman, pp.45-53. p.19. (博 士 後 期 課 程) 一82一